図1は、実施形態の切削装置1の概略構成を示す。図1に示す切削装置1は、被削材6に対して切削工具11の刃先11aを接触させて旋削加工する切削装置である。切削装置1は、NC工作機械であってよい。図1に示す切削装置1は、円筒状の被削材6を旋削して圧延用ロールを加工するロール旋盤であるが、旋削以外の他の種類の切削装置であってよく、たとえばエンドミルなどの回転工具を使用する切削装置であってもよい。
切削装置1はベッド5上に、被削材6を回転可能に支持する主軸台2および心押し台3と、切削工具11を支持する刃物台4とを備える。回転機構8は主軸台2の内部に設けられて、被削材6が取り付けられた主軸2aを回転させる。送り機構7はベッド5上に設けられて、被削材6に対して切削工具11を相対的に移動させる。この切削装置1では、送り機構7が刃物台4をX軸、Y軸、Z軸方向に移動させることで、被削材6に対して切削工具11を相対的に移動させる。
図1においてX軸方向は、水平方向であって且つ被削材6の軸方向に直交する切込み方向、Y軸方向は鉛直方向である切削方向、Z軸方向は、被削材6の軸方向に平行な送り方向である。なお図1において、X軸、Y軸、Z軸の正負は切削工具11側から見た方向を示しているが、切削工具11と被削材6との間で正負の方向は相対的なものであるため、本明細書では特に各軸の正負方向を厳密には定義せず、正負方向に言及する場合には各図に示した方向に従う。
制御部20は、回転機構8による主軸2aの回転を制御する回転制御部21と、主軸2aの回転中に送り機構7により切削工具11を被削材6に接触させて切削工具11による加工を行わせる移動制御部22と、被削材6と切削工具11との相対的な位置関係を導出する位置関係導出部23を備える。移動制御部22は、切削工具11の移動を刃先11aの座標を基準に制御してよい。回転機構8および送り機構7は、それぞれ駆動モータなどの駆動部を有して構成され、回転制御部21および移動制御部22は、それぞれ駆動部への供給電力を調整して、回転機構8および送り機構7のそれぞれの挙動を制御する。
実施形態の切削装置1では被削材6が主軸2aに取り付けられて、回転機構8により回転させられるが、別の例では、回転工具である切削工具が主軸2aに取り付けられて、回転機構8により回転させられてもよい。また送り機構7は、被削材6に対して切削工具11を相対的に移動させればよく、切削工具11または被削材6の少なくとも一方を移動させる機構を有していればよい。
また送り機構7は、X軸、Y軸、Z軸の並進方向の送り機能に限らず、A軸、B軸、C軸の回転方向の送り機能を有してよい。実施形態の送り機構7は、切削加工の際に必要な移動方向の送り機能だけでなく、切削加工の際に利用されない移動方向の送り機能を有することが好ましい。つまり送り機構7は、切削加工の際に利用する方向の送り機能に加えて、切削加工には必要とされない(いわば冗長な)移動方向の送り機能を有して構成される。冗長な方向の送り機能は、後述する前加工面に対して切削工具11を相対移動させる際に利用されてよい。
工具交換時など、切削工具11が新たに切削装置1に取り付けられたとき、移動制御部22が高い移動精度(加工精度)を出すためには、原点設定が適切に実施されて、刃先11aの正確な座標値が特定される必要がある。実施形態では原点設定を行う際に、移動制御部22が刃先11aを動かして対象物(たとえば前加工された被削材6)に接触させ、接触したタイミングを特定して、そのときの移動制御部22の制御情報から、接触位置を特定する。このため切削装置1は、刃先11aが対象物に接触したことを検知する接触センサを有してよい。接触センサは、たとえば接触時の振動を検知する振動センサや、刃先が対象物に接触したときの導通を検出するセンサであってよい。
なお実施形態の切削装置1は、刃先11aが対象物に接触したときに変化する切削装置1の内部情報の履歴を分析して、刃先11aと対象物との接触を検知する機能を搭載してもよい。内部情報として、回転機構8および/または送り機構7に含まれる駆動モータに関する検出値を利用することで、新たな部品を追加せずに済む。切削装置1がこの機能を搭載した場合、接触を検知するためのセンサは不要となるが、接触検知精度を高める目的で接触センサが設けられてもよい。
図2は、接触検知手法に関する実験の概要を示す。この実験は、内部情報を利用した接触検知手法を検証するために実施したものであり、原点設定は実施済みであることを前提とする。ワークWは、H3250 C4641BE(ネーバル黄銅)で径70mmの丸棒を使用した。実験中、回転制御部21は、ワークWが取り付けられた主軸を回転速度120rpmで回転する。移動制御部22は、送り速度0.2mm/revで切削工具11を接近させて切り込み深さ0.1mmまで切削した後、同じ送り速度で引き離す。図3は、刃先11aがワークWに接触して切り込んだ状態を示す。
図4は、実験中の送り軸に関する内部情報の時間変化を示す。移動制御部22は、時間t2で切削工具11の送りを開始し、一定の送り速度0.2mm/revで切削工具11を切り込み方向に送って深さ0.1mmまで切削する(時間t3)。その後、移動制御部22は、送り速度0.2mm/revで切削工具11を引き離す。
図5は、実験中の主軸回転軸に関する内部情報の時間変化を示す。回転制御部21は、時間t1で主軸の回転を開始する。回転速度は、120rpmである。
図6は、刃先の切り込み量の時間変化を示す。切り込み量は、図4に示す送り軸の内部情報から計算される。
図7は、切削力の主分力の外部センサによる検出値の変化を示す。この実験で使用した切削装置は、切削力を検出するための外部センサを搭載しており、図7には、外部センサが検出した切削力の時間変化が示される。
図8は、トルク出力の検出値の変化を示す。トルク検出値は、切削装置が搭載する推定機能を利用して算出されている。トルク値はモータ電流値に比例し、切削装置は、主軸の駆動モータのモータ電流を取得して、トルク出力を算出する。
図7に示す主分力の波形と、図8に示すトルク値の波形は、ほぼ一致している。そこでトルク出力(モータ電流)を分析することで、ワークWと切削工具11との接触を検知できることが分かる。
図9は、主分力の検出値を信号処理してノイズを除去した主分力変化を示す。
図10は、トルク検出値を信号処理してノイズを除去したトルク変化を示す。ノイズ除去することで、トルク検出値の時系列データの信頼性を高めることができる。
以下、制御部20が、信号処理したトルク検出値の時系列データから、切削工具11とワークWの接触を判断する手法を示す。なお制御部20は、信号処理前のトルク検出値の時系列データを用いて接触を判断することも可能である。実施形態の位置関係導出部23は、回転機構8および/または送り機構7に含まれる駆動モータに関する検出値の時系列データから、接触位置を特定する機能をもつ。
移動制御部22による切削工具11の送り終了後、位置関係導出部23は、図10に示すトルク推定値の時系列データを取得して、接触前に取得された検出値の第1時系列データと、接触後に取得された検出値の第2時系列データを特定する。このとき位置関係導出部23は、接触のタイミングを把握していないため、以下の基準により第1時系列データと第2時系列データを特定する。
図5に示すように回転制御部21は、時間t1から主軸の回転を開始し、図4に示すように移動制御部22は、時間t2から切削工具11の送りを開始している。したがって、時間t1からt2の間は、主軸が回転中であり、且つ切削工具11が確実に未接触の状態にある。そこで位置関係導出部23は、時間t1からt2の間に算出されたトルク検出値の時系列データを、接触前の第1時系列データとして特定する。なお切削工具11の送り開始後、つまり時間t2より後であっても、接触前であることが確実な時間帯であれば、当該時間帯に取得されたトルク検出値が第1時系列データに含まれてもよい。
位置関係導出部23は、特定した第1時系列データの平均値M1および標準偏差σ1を算出する。この実験では、
M1=0.1045
σ1=0.0043
と算出される。
図10において、ラインL1は、接触前のトルク平均値M1を、ラインL2は、平均値M1+2σ1を、ラインL3は、M1-2σ1を示す。
次に位置関係導出部23は、接触後に取得されたトルク検出値の第2時系列データを特定する。位置関係導出部23は、所定の閾値を超えたトルク検出値の時系列データを、第2時系列データとして特定してよい。位置関係導出部23は、第1時系列データにもとづいて、所定の閾値を設定してよい。たとえば位置関係導出部23は、所定の閾値を(M1+3σ1)として設定し、この閾値を超えたトルク検出値の連続した時系列データを、第2時系列データとして特定する。なお第2時系列データを特定する際、所定割合(たとえば2%)以下で閾値未満のトルク検出値が含まれている時間帯については、実質的に閾値を超えた時間帯であるとして、第2時系列データに含めてもよい。位置関係導出部23は、時間t3から遡って、トルク検出値が(M1+3σ1)以下となる時間までの間のトルク検出値を、第2時系列データとして特定する。
位置関係導出部23は、第2時系列データを回帰分析して求めた回帰式と、第1時系列データの平均値とから、刃先11aがワークWに接触したタイミングを算出する。回帰分析の手法は適切なものが利用されればよいが、たとえば位置関係導出部23は、最小二乗法により第2時系列データの回帰式および標準偏差σ
2を導出し、当該回帰式とトルク平均値M1との交点を求める。この実験では、
σ
2=0.0031
と算出される。X軸は時間、Y軸はトルク出力である。なお回帰式は、2次以上の近似曲線で表現されてもよい。図10において、ラインL4は1次近似直線である回帰式を、ラインL2、L3は回帰式をY軸方向にそれぞれ2σ
2、-2σ
2だけずらしたラインを示す。
図10において、○マークのポイントは、ラインL1とラインL4の交点である。したがって、
により、刃先11aがワークWに接触したことが推定されるタイミングp
2が算出される。
なお信頼区間を95%(2σ)として最大誤差を推定すると、△マークのポイントは、ラインL3とラインL5の交点、□マークのポイントは、ラインL2とラインL4の交点である。したがって、
により最大時間誤差を含む接触タイミングp
1、p
3が算出される。この結果、実験による接触位置の最大誤差e
pは、0.019mmと求まる。
このように位置関係導出部23は、駆動モータに関する検出値の時系列データから、接触したタイミングを算出する。単純に検出量が所定の閾値を超えたタイミングを接触タイミングと判定する場合と比較すると、本手法では、検出量の履歴から導出される回帰式を用いるため、検出量が閾値に到達する前の正確な接触タイミングを求めることができる。
本手法では、切削工具11またはワークWを、回転または逆回転させながら接近させて微小な切削またはバニシング(押しならし)を行うため、ワークWの表面に微小な切削痕または圧痕を残す。そのため本手法を最終仕上げ加工後に適用することは望ましくないが、その前の段階で本手法を適用し、その後、最終仕上げ加工を行うのであれば、本手法の適用時に微小な切削痕/圧痕が残ることに問題はない。
連続旋削の場合、図10に示すように、刃先11aがゆっくりと切り込むに従ってゆっくりと増大する検出値が取得される。他方、ミリングのように断続切削の場合には、回転させながら接触させることで、切削力またはバニシング力が断続的に生じる。そのように断続的な力に対応する回転主軸モータの電流値を測定する際には、その各回転周期や各切れ刃通過周期にわたって測定した値の平均値や最大値を検出値とした時系列データを採用してよい。以上のように本手法では、ある程度ワークWを加工してしまうことによって、接触領域を大きくして分解能を向上でき、また回転工具の場合にも回転位置を特定する必要がなく、実用的な接触検知を実現できる。
実施形態の切削装置1は、切削工具11とワークWの接触後の駆動モータに関する検出値の履歴を取得して、接触前の検出値にまでさかのぼって分析することで、切削工具11とワークWの接触タイミングを正確に導出し、接触位置を定めることができる。上記実験では、切削装置に搭載された機能により推定されたトルク出力値を駆動モータに関する検出値として利用したが、トルク推定機能を有しない切削装置においては、主軸回転モータの電流検出値や、送り軸回転モータの電流検出値の時系列データ、またはエンコーダによる検出値の時系列データ等を用いて、接触検知を行ってよい。
このように制御部20は、送り機構7を制御して切削工具11を相対移動させて、刃先11aが被削材6などの接触対象物に接触したときの座標値を取得する機能を有する。なお切削装置1は接触センサを備え、制御部20は、接触センサからのセンシングデータから接触を検知して、接触したときの座標値を取得してもよい。以下、接触検知機能を有することを前提に、切削装置1において、切削工具11と対象物との相対的な位置関係を定める手法を説明する。なお実施例1において被削材6の回転中心は、主軸2aの回転中心と同義である。
<実施例1>
図11は、切削工具と被削材回転中心との相対的な位置関係を定める手法を説明するための図である。以下では、被削材6の回転軸中心A(x,y)を算出する手法を説明する。この例で被削材6は、一度旋削加工された状態にある。なお被削材6は、鋭利な工具切れ刃の欠損防止の観点から主軸2aにより回転されていることが好ましいが、回転されていなくてもよい。
まず移動制御部22は、工具刃先を下方から上方(Y軸正方向)にゆっくりと動かして、P1点で旋削加工済の被削材6に接触させる。なおP1点のX軸方向の座標x1は事前設定されており、Y軸方向の座標が変数となる。接触検知は、位置関係導出部23により、上述した手法によって行われてよいが、接触センサのセンシングデータを用いて行われてもよい。なお上記した接触検知手法によれば、位置関係導出部23は、接触後の検出値変化から回帰直線を生成して、事後的に接触位置を特定する。そのため移動制御部22が、工具刃先をP1点で接触させた瞬間には、まだ位置関係導出部23は、接触位置を特定できておらず、移動制御部22は、P1点で実際には接触しているが、P1点よりも僅かばかり上方に工具刃先を動かす必要がある(その分の切削は行われる)。
位置関係導出部23が回帰直線を用いて接触したタイミングを導出すると、移動制御部22は、接触したタイミングの座標、つまりP1点座標(x1,y1)を位置関係導出部23に提供する。なお移動制御部22は、厳密には切削工具11の刃先11aの座標を管理しているのではなく、切削工具11の座標を管理しているが、刃先座標と切削工具座標とは一対一の関係にあるため、以下、刃先座標をもとに説明を行う。
なお上記したように、被削材6は、既に旋削加工済のものが用いられる。これは、被削材6の回転軸、つまり主軸2aの回転軸を中心とする同径の円の周上で、P1点と、後述するP2点座標、P3点座標とを検出するためである。そのため位置関係導出部23は、旋削加工された被削材6に、工具刃先をP1点で接触させているが、前加工として行った旋削加工時のX軸およびY軸の座標値を、P1点とすることも可能である。
続いて移動制御部22は、工具刃先を、下方(図11におけるY軸負方向)に十分な距離だけ下げ、X軸正方向に既知の距離dだけ進める。その後、移動制御部22は、工具刃先を上方(Y軸正方向)にゆっくりと動かして、P2点で被削材6に接触させる。位置関係導出部23が接触を検知して、接触タイミングを導出すると、移動制御部22は、接触したタイミングの座標、つまりP2点座標(x2,y2)を位置関係導出部23に提供する。
続いて移動制御部22は、工具刃先を、下方(Y軸負方向)に十分な距離だけ下げ、X軸正方向に既知の距離dだけ進める。なお進める距離は、既知の距離であればよく、P1点座標とP2点座標の間のX軸方向距離(d)と異なっていても構わない。その後、移動制御部22は、工具刃先を上方(Y軸正方向)にゆっくりと動かして、P3点で被削材6に接触させる。位置関係導出部23が接触を検知して、接触タイミングを導出すると、移動制御部22は、接触したタイミングの座標、つまりP3点座標(x3,y3)を位置関係導出部23に提供する。なお主軸2aを回転させながら接触検知を行う場合には、接触時に僅かに切削が行われて半径が減少するため、P1点、P2点およびP3点のそれぞれの接触検知は、異なるZ軸方向位置で行われることが望ましい。
位置関係導出部23は、旋削加工の際の切削工具11の回転角度位置とは異なる少なくとも2つの位置で切削工具11が接触したときの座標値をもとに、切削工具11と被削材6の回転中心との相対的な位置関係を定める。たとえば前加工として行った旋削加工時のX軸およびY軸の座標値をP1点としているとき、位置関係導出部23は、P1点とそれぞれ異なる回転角度位置となるP2点、P3点の座標値をもとに、切削工具11と被削材6の回転中心との相対的な位置関係を定める。なお実施例1において位置関係導出部23は、3つのそれぞれ回転角度位置の異なる接触点、つまりP1点、P2点、P3点の座標値をもとに、切削工具11と被削材6の回転中心との相対的な位置関係を定める。位置関係導出部23は、3つの点を通る円が一つに定まることを利用して、被削材6の回転中心であるA点の座標(x,y)と半径Rを算出する。
図12(a)、(b)は、A点座標の導出手法を示す。図12(a)に示されるように、ラインL1とラインL2の交点を算出することで、座標Aを求めることができる。ラインL1、L2は、以下の(式5)、(式6)により、それぞれ表現される。
(式5)、(式6)から、(式7)が導出される。
ここで、
x
1-x
2=-d
x
2-x
3=-d
であり、
P
2点座標(x
2,y
2)を(0,0)と定義すると、
と、A点のx座標が導出される。
また図12(b)に示すラインL3は、以下の(式9)により表現される。
(式9)に、(式8)で求めたxを代入すると、
と、A点のy座標が導出される。
なお、被削材6の回転半径は、以下のように求められる。
位置関係導出部23は、このようにして、P2点座標(x2,y2)を(0,0)としたときのA点座標を導出する。これにより位置関係導出部23は、3つの接触位置の座標値をもとに、切削工具11と被削材6の回転中心との相対的な位置関係を定める。
以下、A点座標および半径Rの算出精度を考察する。図10に関して、接触検知における接触位置検出誤差epを算出したが、以下では、この検出誤差epが、A点座標および半径Rの精度に及ぼす影響について検証する。
x座標の誤差をe
x、y座標の誤差をe
y、半径Rの誤差をe
Rとする。
つまり、
として誤差を考える。
このように誤差を考えた場合、(式8)で表現されたA点のx座標値、(式10)で表現されたA点のy座標値、(式11)で表現された半径Rは、以下のように表現される。
誤差e
xを求めると、
ここで、
と近似できることから、誤差e
xは、
と導出される。
同様に、誤差e
yを求めると、
ここで、
と近似できることから、誤差e
yは、
と導出される。
このようにx座標の誤差ex、y座標の誤差ey、半径Rの誤差eRは、いずれも接触位置検出誤差epで表現でき、接触位置検出誤差epを小さくすることで、加工精度を高められることが確認された。
実施例1で説明したように、切削工具11と被削材6の回転中心(主軸中心)との相対位置を特定できると、円筒面の加工に際して正確な直径に仕上げることが可能となり、端面の加工に際しては工具刃先の芯高が狂わないためにいわゆるへそが残ることがなく、球面や非球面加工に対しても高い加工精度を実現できる。
<実施例2>
実施例2で位置関係導出部23は、切削工具11と被削材6を取り付ける部品に設けられた基準面との接触を検知して、部品基準面に対する切削工具11の相対的な位置を特定してもよい。部品の例としては、たとえば被削材6を支持する主軸2aであってよく、切削工具11を主軸2aの端面や周面に設けられた基準面に接触させることで、位置関係導出部23は、切削工具11と主軸2aとの接触位置を特定し、これによって切削工具11と、被削材6の取付面や回転中心などとの相対的な位置関係を導出してもよい。
図13は、基準面を説明するための図である。基準面には、ワークWの取付面や回転中心などとの相対的な位置関係が既知である面が設定される。この例では、ワークWを中心軸線回りに回転させて旋削加工を行う切削装置において、ワークWを固定する主軸2bの端面を基準面1とし、主軸2bの周面を基準面2と設定する。つまり基準面1は主軸回転軸に垂直な平面、基準面2は主軸回転中心を中心とする円筒面である。位置関係導出部23は、ワークWの取付面や回転中心などとの相対的な位置関係が既知である基準面における接触位置の座標値をもとに、切削工具とワークWの取付面や回転中心などとの相対的な位置関係を定める。
上記したように位置関係導出部23は、切削工具11と、部品である主軸2bとの接触を検知して、その接触位置を特定できる。
ここで位置関係導出部23は、基準面1に対して工具刃先の接触検知を行うことで、ワークWの長さ方向(図の左右方向)の工具刃先原点(ワークWの取付面すなわちワークWの左端の面に対する工具刃先の相対位置)を正確に知ることができる。これによりワークWの端面(図の右端の面)を加工する際に、ワークWの長さ(左右方向の長さ)を正確に仕上げることができる。
また位置関係導出部23は、基準面2に対して、実施例1と同様にY軸位置が異なる3点(直径が既知であれば2点でよい)で工具刃先の接触検知を行うことで、ワークWの半径方向の工具刃先原点(ワークWの回転中心に対する工具刃先の相対位置)を正確に知ることができる。これによりワークWの円筒面を加工する際に、ワークWの直径を正確に仕上げることができる。
基準面は、ワークWの一部に設定されてもよい。たとえば図13において、基準面1がワークWの一部である場合、その面からワークWの右端面までの長さを正確に仕上げることができる。なお図13では旋削加工の例を示しているが、平削り加工であれば、基準面(正確な平面)上の3点で接触検知すればその平面を特定できるため、基準面に平行な面を、正確な高さで仕上げることができる。また、基準面が正確にZ軸に垂直な平面であれば、1点で接触検知するだけで底面(基準面と接触しているワークWの面)と平行な面を正確な高さで仕上げることができる。
以下の実施例3~13では、主として実施例1で説明した3点接触検知を応用した技術について説明する。これから説明に使用する図面において、A軸はX軸を中心とした回転軸、B軸はY軸を中心とした回転軸、C軸はZ軸を中心とした回転軸を意味する。また本明細書および図面では、キャレット(ハット)付き記号に関し、たとえば記号が“y”である場合に、表記の都合上、
と表現していることに留意されたい。
つまり、記号yの上にキャレット(ハット)を付したものと、同じ記号yの横にキャレットを付したものとは、同一の変数を示す。実施例でキャレット付きの記号は、求めるべき変数であることを意味する。なおキャレットを上に付した記号は数式中で使用され、キャレットを横に付した記号は文章中で使用される。また異なる実施例の図面で重複して用いられている記号は、それぞれの実施例の理解のために利用されることに留意されたい。
<実施例3>
実施例1で、制御部20は、旋削加工後の、換言すると前加工された被削材6上の3点の座標値をもとに、切削工具11と被削材6の回転中心との相対的な位置関係を特定している。実施例3では、制御部20は、刃先の原点設定用に高精度に加工された既知形状をもつ物体を利用して、切削工具11と既知形状をもつ物体との相対的な位置関係を定めて、切削工具11の刃先に関する情報を特定する。以下、切削工具11の刃先に関する情報を特定するために用いる物体を「基準ブロック」と呼ぶ。制御部20は、基準ブロックに切削工具11の刃先を接触させることで刃先位置を同定するため、その前提として、少なくとも接触しにいく基準ブロックの形状を把握している。
図14は、切削工具11をC軸回転可能に取り付けた切削装置1の一例を示す。図14(a)はX軸方向から見た切削装置1の様子を、図14(b)はZ軸方向から見た切削装置1の様子を示す。切削工具11は支持装置42により支持され、支持装置42は、C軸回転可能となるように取付軸41に固定される。
B軸テーブル43に、既知形状をもつ物体である基準ブロック40が配置される。実施例3では、切削工具11の刃先位置を特定するために、制御部20が、刃先を基準ブロック40に少なくとも3回接触させ、その接触点の位置座標を用いて、切削工具11の取付位置に関する情報を特定する。実施例3では、送り機構7がB軸テーブル43を移動させる機能を有し、移動制御部22はB軸テーブル43を移動させて、切削工具11の刃先11aと、基準ブロック40の既知形状部分とを複数点で接触させる。基準ブロック40は、刃先11aの接触により傷つきにくいように、高硬度な材料で形成される。実施例3では、刃先11aのノーズ半径、刃先丸みの中心座標、刃先形状の誤差が未知であり、これらの情報を特定する手法を説明する。以下、刃先11aの先端が一定の曲率(ノーズ半径)を有するものとし、刃先丸みの中心を「工具中心」と呼ぶこともある。
図14(a)に示すYZ平面において、ノーズ半径R^およびYZ平面における工具中心(z^,y^)を求める。
図15は、刃先11aと基準ブロック40の既知形状部分とが1点で接触した様子を示す。上記したように刃先11aは一定の曲率を有し、ノーズ半径R^の円弧面をもつ。なおノーズ半径R^は未知である。一方で基準ブロック40は、形状が既知である部分で刃先11aと接触する。実施例3で形状が既知であるとは、位置関係導出部23が、刃先11aが接触する可能性のある箇所の形状を認識していることを意味する。
基準ブロック40は、少なくとも刃先11aと接触する箇所で既知の形状を有していればよく、刃先11aと接触する可能性のない箇所の形状を位置関係導出部23が認識している必要はない。図15に示す例で基準ブロック40は、「+」で示す位置を中心とした半径Rwを有する円弧面を有しており、位置関係導出部23は、刃先11aの原点設定を行う際に、刃先11aが当該円弧面と接触することを認識している。別の言い方をすれば、原点設定時、移動制御部22が、刃先11aを基準ブロック40の既知形状である円弧面に接触させるように、送り機構7を制御してB軸テーブル43を移動させる。当該円弧面の形状データは、図示しないメモリに記録されていてよい。
移動制御部22は、B軸テーブル43を切削工具11の刃先11aに向けて下方から上方(Y軸正方向)にゆっくりと動かす。図15では、○で示す接触点で、刃先11aと基準ブロック40とが接触している。位置関係導出部23は、このときの基準ブロック40における円弧の回転中心位置「+」の座標を(0,0)と定義する。
その後、移動制御部22は、基準ブロック40を、最初の接触位置を基準として、Z軸方向に+ΔZ、-ΔZだけ動かした位置で、刃先11aに接触させる。このいずれの場合でも、刃先11aが接触する基準ブロック40の位置は、半径Rwの円弧面上である。具体的に移動制御部22は、図15に示す状態から、基準ブロック40をY軸負方向に十分な距離だけ下げてから、ΔZだけZ軸負方向に動かし、その位置からY軸正方向にゆっくりと動かして、基準ブロック40の円弧面を刃先11aに接触させる。このときの接触点は、図中、△で示される。続いて移動制御部22は、基準ブロック40をY軸負方向に十分な距離だけ下げてから、2ΔZだけZ軸正方向に動かし、その位置からY軸正方向にゆっくりと動かして、基準ブロック40の円弧面を刃先11aに接触させる。このときの接触点は、図中、□で示される。なお2回目の移動に際しては、Y軸負方向の移動を省略してもよい。
このように移動制御部22は、切削工具11の刃先11aと基準ブロック40の既知形状部分とを、少なくとも3点で接触させ、接触位置の座標値を位置関係導出部23に提供する。位置関係導出部23は、それぞれの接触位置での座標値をもとに、切削工具11の取付位置に関する情報を特定する。
図16は、刃先11aと基準ブロック40の位置関係を示す。図15において、□で示す接触点で接触した場合、既知円弧中心の座標は(ΔZ,h2)となる。h2は、移動制御部22による検出値である。また図15において△で示す接触点で接触した場合、既知円弧中心の座標は(-ΔZ,-h1)となる。h1も、移動制御部22による検出値である。
図16に示すように、1回目に接触したときの基準ブロック40における円弧面の半径中心を(0,0)とし、工具中心を(z^,y^)としたとき、
連立すると、
上記式より得られたz^、y^を用いて、R^を求める。
以上のように、位置関係導出部23は、3つの位置で接触したときの座標値をもとに、切削工具11の取付位置に関する情報を特定する。具体的に位置関係導出部23は、取付位置に関する情報として、刃先のノーズ半径Rおよび工具中心座標(z,y)を求める。
なお、既知の円弧形状を有する基準ブロック40に対して、上記の3つの接触位置以外の円弧上の点に少なくとも1点以上で接触すれば、上記によって求められたノーズ半径Rおよび工具中心座標(z,y)を用いて予測される接触位置からのずれが、工具刃先の上記ノーズ半径Rの円弧からのずれ(誤差)として求められる。
次に位置関係導出部23は、図14(b)に示すXY平面において、C軸回転中心から刃先11a先端までの距離l^と、最初の取付角度θ^を求める計算を行う。たとえば複雑な自由曲面形状を加工する場合に、XYC軸を同時制御して行う切削送りと、Z軸方向のピックフィードとを繰り返すことがある。このようにC軸が切削送り運動に含まれる場合には、C軸回転中心から刃先11a先端までの距離l^と、最初の取付角度θ^に誤差があると加工精度が低下してしまう。そこで位置関係導出部23は、刃先11aをXY平面で動かしたときの、基準ブロック40の既知形状部分との少なくとも3点の接触座標値をもとに、切削工具11の取付位置に関する情報を特定する。
図17は、反時計回りに切削工具11を回転させて、基準ブロック40の上面(y基準面)に刃先11aを接触させたときの切削工具11の傾いた状態を模式的に示す。移動制御部22は送り機構7を制御して、切削工具11をC軸回りに回転させる。基準ブロック40の上面はY軸の垂直面に平行であり、図14(b)に示すように、基準ブロック40の上面位置は既知である。
移動制御部22は、B軸テーブル43を切削工具11の刃先11aに向けて下方から上方(Y軸正方向)にゆっくりと動かし、基準ブロック40の上面を刃先11aに接触させる。その後、移動制御部22は、基準ブロック40をY軸負方向に十分な距離だけ下げてから、切削工具11を反時計回り方向にΔC回転させ、それから基準ブロック40をY軸正方向にゆっくりと動かして、基準ブロック40の上面を刃先11aに接触させる。続いて移動制御部22は、基準ブロック40をY軸負方向に十分な距離だけ下げてから、切削工具11を反時計回り方向にさらにΔC回転させ、それから基準ブロック40をY軸正方向にゆっくりと動かして、基準ブロック40の上面を刃先11aに接触させる。これにより位置関係導出部23は、3点の接触位置におけるY軸方向の高さ(y位置)を取得する。
図18は、最初の接触位置(初期y位置)からΔC回転させたときの接触位置の高さ変化Δy1を示す。最初の接触位置を基準として、さらにΔC回転させたときの接触位置の高さ変化Δy2とする。このときΔy1、Δy2に関して、以下の式が成立する。
両式からl^を消去させるよう連立させると、
得られたθ^を用いてl^を求めると、
以上のように、位置関係導出部23は、C軸回転に関して、3つの位置で接触したときの座標値をもとに、切削工具11の初期の取付位置に関する情報を取得する。具体的に位置関係導出部23は、取付位置に関する情報として、C軸回転中心から刃先11aまでの距離lと、初期の取付角度θを導出している。このように実施例3では、基準ブロック40を用いることで、位置関係導出部23が取付位置に関する情報を高精度に特定することができる。
<実施例4>
実施例4でも、制御部20は、刃先の原点設定用に高精度に加工された既知形状をもつ物体(基準ブロック40)を利用して、切削工具11と基準ブロック40との相対的な位置関係を定めて、切削工具11の取付位置に関する情報を特定する。
図19は、切削工具11をC軸回転可能に取り付けた切削装置1の別の例を示す。図19(a)はX軸方向から見た切削装置1の様子を、図19(b)はZ軸方向から見た切削装置1の様子を示す。切削工具11は支持装置42により支持され、支持装置42は、C軸回転可能となるように取付軸41に固定される。
B軸テーブル43に、既知形状をもつ物体である基準ブロック40が配置される。実施例4においても、切削工具11の刃先位置を特定するために、制御部20が、刃先を基準ブロック40に少なくとも3回接触させ、その接触点の位置座標を用いて、切削工具11の取付位置に関する情報を特定する。実施例4も、実施例3と同じく、移動制御部22がB軸テーブル43を移動させて、切削工具11の刃先11aと、基準ブロック40の既知形状部分とを複数点で接触させる。
最初にノーズ半径R^およびXY平面における工具中心(x^,y^)を求める手法を説明する。
図20は、刃先11aと基準ブロック40の既知形状部分とが1点で接触した様子を示す。刃先11aは一定の曲率を有し、ノーズ半径R^の円弧面をもつ。ノーズ半径R^は未知である。基準ブロック40は、形状が既知である部分で刃先11aと接触する。なお形状が既知であるとは、位置関係導出部23が、刃先11aが接触する可能性のある箇所の形状を認識していることを意味する。
図20に示す例で基準ブロック40は、「+」で示す位置を中心とした半径Rwを有する円弧面を有しており、位置関係導出部23は、刃先11aの原点設定を行う際に、刃先11aが当該円弧面と接触することを認識している。別の言い方をすれば、原点設定時、移動制御部22が、刃先11aを基準ブロック40の既知形状である円弧面に接触させるように、送り機構7を制御してB軸テーブル43を移動させる。当該円弧面の形状データは、図示しないメモリに記録されていてよい。
移動制御部22は、B軸テーブル43を切削工具11の刃先11aに向けて下方から上方(Y軸正方向)にゆっくりと動かす。図20では、○で示す接触点で、刃先11aと基準ブロック40とが接触している。位置関係導出部23は、このときの基準ブロック40における円弧の回転中心位置「+」の座標を(0,0)と定義する。
その後、移動制御部22は、基準ブロック40を、最初の接触位置を基準として、X軸方向に+ΔX、-ΔXだけ動かした位置で、刃先11aに接触させる。このいずれの場合でも、刃先11aが接触する基準ブロック40の位置は、半径Rwの円弧面上である。具体的に移動制御部22は、図20に示す状態から、基準ブロック40をY軸負方向に十分な距離だけ下げてから、ΔXだけX軸負方向に動かし、その位置からY軸正方向にゆっくりと動かして、基準ブロック40の円弧面を刃先11aに接触させる。このときの接触点は、図中、△で示される。続いて移動制御部22は、基準ブロック40をY軸負方向に十分な距離だけ下げてから、2ΔXだけX軸正方向に動かし、その位置からY軸正方向にゆっくりと動かして、基準ブロック40の円弧面を刃先11aに接触させる。このときの接触点は、図中、□で示される。なお2回目の移動に際しては、Y軸負方向の移動を省略してもよい。
このように移動制御部22は、切削工具11の刃先11aが基準ブロック40の既知形状部分とを、少なくとも3点で接触させ、接触位置の座標値を位置関係導出部23に提供する。位置関係導出部23は、それぞれの接触位置での座標値をもとに、切削工具11の取付位置に関する情報を特定する。
図21は、刃先11aと基準ブロック40の位置関係を示す。図20において、□で示す接触点で接触した場合、既知円弧中心の座標は(ΔX,h2)となる。h2は、移動制御部22による検出値である。また図20において△で示す接触点で接触した場合、既知円弧中心の座標は(-ΔX,-h1)となる。h1も、移動制御部22による検出値である。
図21に示すように、1回目に接触したときの基準ブロック40における円弧面の半径中心を(0,0)とし、工具中心を(x^,y^)としたとき、
連立すると、
上記式より得られたx^、y^を用いて、R^を求める。
以上のように、位置関係導出部23は、3つの位置で接触したときの座標値をもとに、切削工具11の取付位置に関する情報を特定する。具体的に位置関係導出部23は、取付位置に関する情報として、刃先のノーズ半径Rおよび工具中心座標(x,y)を求める。
次に位置関係導出部23は、刃先11aのz座標を求める。
図22は、基準ブロック40の既知形状の部分を、切削工具11の刃先11aに接触させた状態を示す。位置関係導出部23は、このときのz座標値を取得することで、刃先の先端点を特定する。
なお移動制御部22は、基準ブロック40における既知の円弧面と刃先11aとが接触するように、基準ブロック40を動かす必要がある。たとえば基準ブロック40を動かしたときに、基準ブロック40の円弧面が刃先11aと接触する前に、切削工具11のすくい面と接触することがある。図示の例では、初期取付状態における、すくい面の角度が、Z軸に対して90度未満となる場合、基準ブロック40のZ軸方向の位置によっては、基準ブロック40の円弧面と切削工具11のすくい面とが接触して、基準ブロック40の円弧面が刃先11aと接触できないことがある。このとき移動制御部22は、刃先11aが既知円弧面の上部側で接触するように、基準ブロック40をY軸負方向にずらすことが好ましい。
このように実施例4では、基準ブロック40を用いることで、位置関係導出部23が取付位置に関する情報を高精度に特定することができる。
<実施例5>
切削工具11に取付誤差がある場合、切削加工後の被削材6は、本来予定していた形状と異なる形状をもつことになる。そのため実施例5では、実際に旋削加工した被削材6の加工面と、理想的に旋削加工された場合の被削材6の加工面(つまり設計上の加工面)との差分を利用して、工具中心の取付誤差(Δx^,Δy^、Δz^)を特定する。工具中心の取付誤差を特定できれば、特定した取付誤差を補正した切削工具11の送り経路を算出できる。実施例5において移動制御部22は、切削加工後の被削材6に対し、切削加工の際には利用しなかった移動方向の送り機構7による送り機能を利用して切削工具11を相対移動させて、切削工具11が少なくとも2つの位置で接触したときの座標値をもとに、工具刃先の取付誤差を特定する。
以下では、誤差を導出するために旋削加工した被削材6の加工面を「前加工面」ないしは「既加工面」と呼ぶこともある。なお前加工面を、最終的な仕上げ面よりも肉厚に形成しておくことで、最終仕上げ面を加工する際に、補正した送り経路で仕上げ加工を行うことが可能となる。すなわち、最終的な仕上げ加工の前の中仕上げ加工後に、その加工面を利用して取付誤差を特定しておけばよい。
制御部20は、被削材6の前加工面における少なくとも3点の座標値をもとに、切削工具11の取付誤差を求める。前加工面の切削加工時に取得した1点の座標値を利用する場合、制御部20は、切削工具11を、旋削加工の際の切削工具11の回転角度位置とは異なる位置で前加工面に接触させた少なくとも2点の座標値を取得して、切削工具11の取付誤差を求めてもよい。つまり制御部20は、切削工具11を異なるy位置で前加工面に接触させた少なくとも2点の座標値を取得して、切削工具11の取付誤差を求めてもよい。
なお前加工時に取得される座標値と、前加工面に接触させることで取得される座標値との精度が若干異なる可能性に配慮すると、制御部20は、前加工時に取得した座標値は用いずに、切削工具11を異なるy位置で前加工面に接触させた少なくとも3点の座標値を用いて、切削工具11の取付誤差を求めてもよい。
なお実施例1でも説明したように、接触点座標値を取得する際に、刃先11aの欠損防止の観点から、被削材6を回転させることがある。この場合、僅かながら接触点に溝入れが行われることになるため、次の接触点座標値を取得する際には、z位置を実質的に同一とみなせる範囲内で少しだけずらすことが好ましい。以下では、制御部20が、3点の座標値を用いて取付誤差を求める例を示すが、取付誤差の検出精度を高めるために、4点以上の座標値を用いてもよい。
図23(a)は、円筒面および半球面をもつ形状となるように被削材6を加工する様子を示す。被削材6は取付軸41に回転可能に支持されている。実施例5において、切削工具11は、取付誤差(Δx^,Δy^、Δz^)をもって切削装置1に取り付けられている。
図23(b)は、ZX平面における取付誤差(Δx^,Δz^)を示す。C2は、理想的な工具中心位置を、C1は、誤差を含んだ工具中心位置を示す。図23(c)は、XY平面における取付誤差(Δx^,Δy^)を示す。
図23(a)において、矢印で示す送り経路は、理想中心C2が通過する経路である。NC工作機械では、工具中心がC2にあることを前提として、送り経路が計算される。移動制御部22は、送り機構7によるZ軸並進方向の送り機能およびC軸回転方向の送り機能を利用して、切削工具11により被削材6を加工する。図23(a)において、点線は、工具中心がC2にあるときの理想的な加工面を示す。この旋削加工では、半径Rwの円筒面を加工することが設計値として定められている。
しかしながら、実際の工具中心が取付誤差を含んでC1にある場合、移動制御部22が、計算された送り経路にしたがって切削工具11を移動させると、実線で示す加工面が形成されることになる。
図24(a)(b)は、工具中心の取付誤差(Δx^,Δy^)を導出する手法を説明するための図である。XY平面における取付誤差(Δx^,Δy^)により、円筒面の半径はRwではなく、rw’となっている。移動制御部22は、切削加工後の被削材6に対し、切削加工の際には利用しなかった移動方向の送り機構7による送り機能を利用して切削工具11を相対移動させて、切削工具11が少なくとも2つの位置で接触したときの座標値を取得する。実施例5で、移動制御部22は、送り機構7によるX軸並進方向およびY軸並進方向の送り機能を利用して、複数の接触座標値を取得する。
前加工の際と同じ移動方向の送り機構7による送り機能を利用して切削工具11を前加工面と接触させても、理論上は加工時と同じ座標位置で接触することになる。そこで実施例5では、前加工面と切削工具11の接触によって工具中心の取付誤差を導出するために、前加工の際に利用した移動方向の送り機構7による送り機能とは異なる移動方向の送り機能を利用して、切削工具11を前加工面に接触させる。つまり前加工時に必要な移動方向の送り機能以外の送り機能を利用して、切削工具11の接触位置を導出する。上記したように移動制御部22は、前加工時にはZC軸の送り機能を利用しているが、取付誤差の推定処理に際しては、XY軸の送り機能を利用して、接触点座標を取得する。
実施例1で説明したように、位置関係導出部23は、円筒面上の3点の座標値を取得する。
図中、□は円筒面上の点を表現しており、
点1:(Rw+Δx^,Δy^)
点2:(Rw+Δx^-Δx1,-ΔY+Δy^)
点3:(Rw+Δx^-Δx2,-2ΔY+Δy^)
となる。Δx1、Δx2は、移動制御部22により検出される値である。
なお、この例で点1として示す座標値は、前加工時に取得した座標を利用しているが、移動制御部22は、3点で刃先11aを円筒面に接触させて、3点の座標値を取得してもよい。このとき刃先11aの欠損防止の観点から、被削材6を回転させる場合には、移動制御部22は、円筒面上の異なるz位置で刃先11aを接触させて、3点の接触座標値を取得することが好ましい。
位置関係導出部23は、以下の計算を行う。
以上のように、位置関係導出部23は(Δx^,Δy^)を導出できる。
Z軸方向の取付誤差Δz^は、実施例2で説明したように、たとえば取付軸41の基準面を利用して位置関係導出部23により導出されてよい。以上により、工具中心の取付誤差(Δx^,Δy^、Δz^)が特定される。このように実施例5では、前加工面と、目標とする設計加工面との差分を利用することで、工具中心の取付誤差(Δx^,Δy^、Δz^)を特定し、移動制御部22は、取付誤差を補正した送り経路を再計算できるようになる。
<実施例6>
実施例6では、刃先11aの形状崩れを測定する手法を説明する。
実施例3でも説明したように、刃先11aには、凹凸が存在していることがある。そこで以下では、刃先の形状が転写される前加工面の凸凹を測定して、加工面の凸凹から、工具刃先の形状誤差を特定する手法を示す。実施例6では、刃先の形状くずれ以外の形状誤差要因による形状誤差を推定し得る場合に、切削加工の際には利用しなかった移動方向の送り機構7による送り運動が正確であるものとして前加工面の形状を1つの刃先点を利用して測定するため、推定した前加工面上の各点の位置と、検出される位置との差分によって、工具刃先の形状誤差が特定される。 実施例6において移動制御部22は、切削加工後の被削材6に対し、切削加工の際には利用しなかった移動方向の送り機構7による送り機能を利用して切削工具11を相対移動させて、切削工具11が少なくとも2つの位置で接触したときの座標値をもとに、工具刃先の取付誤差を特定する。
図25(a)は、半球面を加工する様子を示す。移動制御部22は、送り機構7によるX軸およびZ軸並進方向の送り機能およびC軸回転方向の送り機能を利用して、切削工具11により被削材6を加工する。図25(a)には、工具中心の取付誤差がなく、理想的な送り経路で加工が行われている様子が示されている。なお工具中心の取付誤差が存在している場合は、工具刃先の形状誤差を推定する前に、実施例5で説明したように取付誤差(Δx^,Δy^、Δz^)を測定しておくことが望ましい。以下では位置関係導出部23が、半球面の理想的な前加工面の形状とのずれから、刃先の形状誤差を推定する。
図25(a)に示すように、この球面加工では、切削工具11をB軸回転させない旋削加工を行っている。図25(a)と(c)を参照して、刃先11aのA点の形状は、被削材6におけるa点の形状に転写され、刃先11aのB点の形状は、被削材6におけるb点の形状に転写され、刃先11aのC点の形状は、被削材6におけるc点の形状に転写される。このように被削材6におけるaからcに至る前加工面には、刃先11aにおけるAからCに至る形状が転写される。
このときAからCに至る形状が理想的な円弧形状を有していれば、加工される球面の断面は、理想的な円弧をもつ。しかしながら、図25(c)に示すように、刃先11aに凹凸が存在する場合、その凹凸は被削材6の加工面に転写される。
図25(b)は、被削材6の球面形状を測定する様子を示す。移動制御部22は、送り機構7によるY軸およびZ軸並進方向の送り機能を利用して、複数の接触座標値を取得する。移動制御部22は、工具中心をC軸回転中心に合わせた後、x位置を変化させず(x=0)にθnをずらしながら、刃先11aを半球面原点方向に向けて動かし、複数点で接触させる。θnのずらし量を小さくすることで、接触点を多くとることができる。位置関係導出部23は、複数の接触点の座標を取得することで、x=0における球面上の円弧の形状を特定する。位置関係導出部23は、被削材6の実際の球面形状を取得することで、推定された球面形状からのずれ量を取得でき、したがって刃先11aの崩れ形状を導出できる。図25(d)は、θnにおける球面のずれ量の検出値がΔrw,nであることを示しているが、このとき刃先11aにおける半径方向崩れはΔRn^(=-Δrw,n)(図25(c)参照)となる。このように位置関係導出部23は、刃先形状を測定できる。
実施例6によると、移動制御部22が、切削後の被削材6に対し、切削加工の際には利用しなかったY軸並進方向の送り機能を利用することで、位置関係導出部23が、理想形状であれば接触するはずの位置とのずれ量から、刃先形状のプロファイルを特定できる。位置関係導出部23が、刃先形状のプロファイルを特定することで、移動制御部22が、刃先形状のプロファイルを加味した送り経路を計算できるようになる。あるいは、他の加工誤差要因が小さいと推定される場合には、直接、実施例6で測定された形状誤差の分だけ工具移動経路を補正して最終仕上げ加工を行ってもよい。
<実施例7>
実施例5では、切削工具11に取付誤差がある場合に、工具中心の取付誤差(Δx^,Δy^、Δz^)を導出する手法を説明した。実施例7では、切削工具11に取付誤差があるだけでなく、工具の送り方向にも誤差がある場合に、これら誤差を導出する手法を説明する。
実施例7においても移動制御部22は、切削加工後の被削材6に対し、切削加工の際には利用しなかった移動方向の送り機構7による送り機能を利用して切削工具11を相対移動させて、切削工具11が少なくとも2つの位置で接触したときの座標値をもとに、工具刃先の取付誤差を特定する。
図26(a)は、切削工具11をZ軸方向に動かして前加工したときの様子を示す。移動制御部22は、送り機構7によるZ軸並進方向の送り機能およびC軸回転方向の送り機能を利用して、切削工具11により被削材6を加工する。この旋削加工では、Z軸に平行なラインL1に沿って切削工具11を送ったところ、実施例5で説明した工具中心の取付誤差が存在していたことと、Z軸とC軸回転中心とが平行でなかったことを理由として、目標とする円筒面に加工誤差が生じている。ラインL1について付言すると、NC工作機械では、ラインL1がZ軸に沿っており、したがってC軸回転中心と平行であることを前提として、切削工具11の送り経路を計算していたところ、Z軸とC軸回転中心とが実際には平行でなかったために、移動制御部22は、実線矢印で送り経路として示す経路で、刃先11aを移動させている。したがって、目標とは異なる形状の前加工面が作成されている。
なお、この平行度の誤差要因については、工作機械の製造時の組立誤差以外に、設置時や送り機構移動時、被削材取付時の重量分布変化による変形、加工力による変形、気温・加工熱による熱変形などが考えられる。この中で、加工力による変形を考慮する場合には、前加工時と最終仕上げ加工時で、加工力が同程度になるような加工条件を設定することが望ましい。
誤差導出処理において、移動制御部22は、送り機構7によるX軸並進方向、Y軸並進方向およびZ軸並進方向の送り機能を利用して、複数の接触座標値を取得する。移動制御部22は、z位置であるZ1、Z2のそれぞれにおいてy位置を変化させて3回ずつx方向に移動したときの刃先11aの接触座標値を導出する。3点の接触座標値を導出することで、実施例5で説明したように、理想とする工具中心位置からの位置ずれ量(Δx^1,Δy^1)、(Δx^2,Δy^2)が導出される。
位置関係導出部23は、(Δx^
1,Δy^
1,Z1)、(Δx^
2,Δy^
2,Z2)を導出することで、送り経路の軌道を算出できる。ここで任意のzにおいて、C軸回転中心に対して相対的にもつと予想される位置誤差を(Δx^,Δy^)とすると、
したがって、
となる。なお、ここでは2つのZ位置での位置ずれを線形補間したが、3つ以上のZ位置での位置ずれを測定して補間の次数を上げても良い。
このように実施例7によると、移動制御部22が、切削後の被削材6に対し、切削加工の際には利用しなかったX軸およびY軸並進方向の送り機能を利用することで、位置関係導出部23が、理想形状であれば接触するはずの位置とのずれ量から、C軸に対する切削工具11の送り方向の平行度を推定できる。実施例7では、C軸に対する切削工具11の送り方向の平行度を推定することで、位置関係導出部23は、被削材6に対する切削工具11の相対移動方向のずれを特定できる。上式で示したように任意のzにおける位置誤差が求まることで、移動制御部22は、この位置誤差を補正した送り経路を算出できるようになる。
<実施例8>
図27は、切削工具11をX軸方向およびZ軸方向に動かして球面を前加工したときの様子を示す。この旋削加工では、C軸に対してX軸が直交するべきところ、直交性が崩れていることで、球面に加工誤差が生じている。NC工作機械では、X軸を基準として、球面を加工するためのラインL2となる送り経路を計算していたところ、工具制御用のX軸と被削材6の回転軸となるC軸との直交性が崩れているために、移動制御部22は、実線矢印で送り経路として示す経路で、刃先11aを移動させている。
誤差導出処理において、移動制御部22は、刃先11aを、ある加工点P1と、C軸に対して対称となる点P2で接触させる。このときのX方向の移動距離(2ΔX)とY方向検出値(Δz)の差分から、C軸とX軸間の直交度を示すθ^が、以下の式で求められる。
このように直交度を示すθ^が求まれば、移動制御部22は、このθ^を0とする工具の送り経路を算出して補正する。
なお、この手法は、球面以外の面(平面や非球面を含む)に対しても適用可能である。
実施例8においても移動制御部22は、切削加工後の被削材6に対し、切削加工の際には利用しなかった移動方向の送り機構7による送り機能を利用して切削工具11を相対移動させて、切削工具11が少なくとも2つの位置で接触したときの座標値をもとに、工具刃先の取付誤差を特定する。
このように実施例8では、C軸に対するX軸の直交度を推定することで、位置関係導出部23は、被削材6に対する切削工具11の相対移動方向のずれ量を特定できる。
<実施例9>
実施例5では、円筒面に刃先11aを接触させたときの座標値を利用して、工具中心の取付誤差(Δx^,Δy^、Δz^)を推定した。実施例9では、前加工された球面に刃先11aを接触させたときの座標値を利用して、工具中心の取付誤差(Δx^,Δy^、Δz^)を推定する手法を説明する。前加工された球面は、たとえば図23に示す被削材6から円筒面を除外したものであってよい。移動制御部22は、送り機構7によるX軸並進方向の送り機能、Z軸並進方向の送り機能およびC軸回転方向の送り機能を利用して、切削工具11により被削材6を前加工する。
実施例9で示す手法では、同じZ位置にある3点に刃先11aを接触させるように刃先11aを移動制御する。誤差導出処理において、移動制御部22は、送り機構7によるX軸並進方向、Y軸並進方向およびZ軸並進方向の送り機能を利用して、複数の接触座標値を取得する。
図28(a)は、刃先11aがP1を加工している様子を示す。NC工作機械上の工具中心座標は既知であり、(X1,0,Z1)である。またXY平面に対する工作物中心OcとP1を結ぶ線分の角度はθ1である。刃先11aのノーズ半径をRとすると、加工点でもあるP1の座標は、
P1:(X1-Rcosθ1,0,Z1-Rsinθ1)
となる。
P1の座標が定まると、P1と同じZ位置(Z1-Rsinθ1)にあり(図28(b)参照)、Y軸負方向にP1からΔY、2ΔY変位した位置に(図28(c)参照)、接触するべきP2、P3を設定する。また、XY面内でC軸回転中心とP1を結ぶ線分とC軸回転中心とP2を結ぶ線分間の角度をαとし、C軸回転中心とP1を結ぶ線分とC軸回転中心とP3を結ぶ線分間の角度をβとする(図28(b)参照)。
図29は、XY平面に対する工作物中心Ocと接触点を結ぶ線分の角度を示す。ここでP2との線分の角度をθ2、P3との線分の角度をθ3とする。
したがって、P2に接触するための工具中心座標(C2)、P3に接触するための工具中心座標(C3)は、以下のように計算される。
C2:(X2+Rcosθ2,-ΔY,Z1-Rsinθ1+Rsinθ2)
C3:(X3+Rcosθ3,-2ΔY,Z1-Rsinθ1+Rsinθ3)
位置関係導出部23は、以下の幾何学的関係式により、X
2、X
3、α、β、θ
1、θ
2,θ
3を計算する。
各座標値の原点はOcであり、OcはC軸回転中心線上にあって、加工点の軌跡(円弧であって、XZ面に平行な平面上にある)の中心(工具取付誤差がある場合、その分、C軸回転中心線からずれている)と同じz座標値を持つ点である。
移動制御部22は、P2、P3に刃先11aを接触させる。このとき移動制御部22は、刃先11aの中心座標の(y,z)をそれぞれC2,C3の上記座標値に合わせてから、X方向に移動して刃先11aを球面に接触させる。このとき、計算値と同じx座標値で接触すれば、中心座標の取付誤差がないことが判定される。一方で、計算値と異なるNC工作機械上の工具中心のx位置で接触すると、X方向の移動量が誤差として検出される。
検出C2:(X2+Δx2+Rcosθ2,-ΔY,Z1-Rsinθ1+Rsinθ2)
検出C3:(X3+Δx3+Rcosθ3,-2ΔY,Z1-Rsinθ1+Rsinθ3)
Δx2、Δx3は、検出値である。
検出値から、P2、P3は、以下のように近似的に導出できる。
検出P2:(X2+Δx2,-ΔY,Z1-Rsinθ1)
検出P3:(X3+Δx3,-2ΔY,Z1-Rsinθ1)
なおz位置の誤差に関して言えば、工具ノーズ半径が加工面半径に対して一般に小さいこと、仮に取付誤差があっても加工点の軌跡形状(XZ面に平行な平面上にある)は取付誤差分平行移動しているだけでY方向に見た曲率は正しい(XY断面をZ方向に見た曲率が誤差を持つ)ことから、x位置に比べてz位置のずれは小さい。したがってz位置のずれは無視できる。
図30(a)は、P1、P2、P3により形成される初期円と、初期円から導出された誤差(Δx2、Δx3)を用いて形成される仮想円との関係を示す。仮想円は、P1、検出P2、検出P3を通る。(Δx’,Δy’)は、仮想円の中心である。
図30(b)は、仮想円の中心座標を原点に戻した座標系を示す。このとき工具取付誤差(Δx^,Δy^)が、下式によって推定される。
(Δx^,Δy^)=(-Δx’,-Δy’)
位置関係導出部23は、推定された工具取付誤差(Δx^,Δy^)を用いて、以下の幾何学的関係式により、X
2、X
3、α、β、θ
1(1つ目の接触点については、加工時と同じままであり、最初の接触時と変化しない。従ってX1、Z1と同様にθ1も変化はなく、必ずしも再計算しなくてよい)、θ
2,θ
3をあらためて計算する。
これにより
C2:(X2-Δx^+Rcosθ2,-ΔY,Z1-Rsinθ1+Rsinθ2)
C3:(X3-Δx^+Rcosθ3,-2ΔY,Z1-Rsinθ1+Rsinθ3)
が導き出される。
移動制御部22は、導出したC2、C3を利用して、新たなP2、P3に刃先11aを接触させる。移動制御部22は、刃先11aの中心座標の(y,z)をそれぞれC2,C3の上記座標値に合わせてから、X方向に動して刃先11aを球面に接触させる。このとき、計算値と同じ中心座標で接触すれば、中心座標の取付誤差の推定値に推定誤差がないことが判定される。この処理を繰り返し行うことで、計算値と同じとみなすことのできる中心座標で刃先11aが被削材6の球面に接触することになり、すなわち推定誤差が十分に小さくなり、正確な取付誤差を求められる。
実施例9においても移動制御部22は、切削加工後の被削材6に対し、切削加工の際には利用しなかった移動方向の送り機構7による送り機能を利用して切削工具11を相対移動させて、切削工具11が少なくとも2つの位置で接触したときの座標値をもとに、工具刃先の取付誤差を特定する。
このように実施例9では、前加工された球面と、目標とする設計加工面との差分を繰り返し計算により収束させることで、工具中心の取付誤差(Δx^,Δy^、Δz^)を特定する。
<実施例10>
実施例5~9では、切削工具11をB軸回転させない旋削加工について説明したが、実施例10では、切削工具11をB軸回転させて、刃先11aの一点のみを使用する加工について説明する。
図31(a)は、加工時に刃先11aの一点が切削に利用される様子を示す。このような加工では、B軸中心OBに対する相対的な工具中心Cの取付位置に誤差があると加工誤差を生じる。
図31(b)は、B軸中心OBと工具中心Cとの間の距離L^と、初期の取付角度θ^を求めるための説明図である。図示されるように移動制御部22は、所定のy座標、z座標で、取付角度を+ΔB、-ΔBだけ変更して、刃先11aの接触点におけるx座標の増分Δx1、Δx2を検出し、これらを用いて次式のように計算を行う。
以上により、B軸回転中心に対する相対的な工具中心Cの取付位置である、距離L^と角度θ^が求められる。
<実施例11>
実施例11では、走査線加工による前加工面を利用して、まずC軸回転中心の誤差を同定する。実施例11においても、前加工面に対して刃先11aを複数点で接触させて、理想プロファイルとの差分を導出することで、工具中心から見た相対的なC軸回転中心位置の誤差を同定する。
図32は、走査線加工におけるXZ面内の切削送り方向とYZ面内のピック送り方向とを概念的に示す。C軸回転中心の誤差を同定するために、YZ平面内工作物形状と、XZ平面内工作物形状とを利用できる。
<YZ平面内工作物形状の利用>
図33(a)は、加工時の刃先11aの様子を示す。図33(a)で、点線は加工時の工具中心の切削運動プロファイルを、実線は前加工面プロファイルを表現する。理想的な工具中心の切削運動プロファイルおよび前加工面プロファイルは、既知である。
図33(b)は、C軸(ここでは工具側にC軸が取り付けられている)を加工時の姿勢から90度回転した後、前加工面に対して複数の点で刃先11aを接触させている様子を示す。図33(b)で、実線は接触点をつないだ接触面プロファイルを表現する。
位置関係導出部23は、接触面プロファイルと前加工面プロファイルとが最もフィットするように、C軸回転中心のY方向誤差(C軸回転後、回転前のX方向誤差)を数値解析により同定する。具体的に位置関係導出部23は、各接触位置を前加工面プロファイルにより推定した上で、実際に接触した検出位置との誤差を導出し、その誤差の総和が最小になるようにC軸回転中心座標を同定する。
<XZ平面内工作物形状の利用>
図34(a)は、加工時の刃先11aの様子を示す。図34(a)で、点線は加工時の工具中心の切削運動プロファイルを、実線は前加工面プロファイルを表現する。理想的な工具中心の切削運動プロファイルおよび前加工面プロファイルは、既知である。
図34(b)は、C軸を加工時の姿勢から90度回転した後、前加工面に対して複数の点で刃先11aを接触させている様子を示す。図34(b)で、実線は接触点をつないだ接触面プロファイルを表現する。
位置関係導出部23は、接触面プロファイルと前加工面プロファイルとが最もフィットするように、C軸回転中心のX方向誤差(C軸回転後、回転前のY方向誤差)を数値解析により同定する。具体的に位置関係導出部23は、各接触位置を前加工面プロファイルにより推定した上で、実際に接触した検出位置との誤差を導出し、その誤差の総和が最小になるようにC軸回転中心座標を同定する。
図33(b)または図34(b)に示したように、工具中心から見た相対的なC軸回転中心位置が同定される。C軸回転中心位置が同定されると、それを利用して、刃先11aの形状誤差を測定できる。
図35は、刃先形状誤差を測定する手法を示す。移動制御部22が、C軸を加工時の姿勢から90度回転させて、前加工面上で刃先11aを、同じ刃先位置が接触するように曲線に沿って複数点で接触させる。図35は、破線が示す尾根に沿って刃先のZ方向最下点で前加工面に接触する様子を表現している。位置関係導出部23は、各接触点における計算上の接触位置と検出された接触位置のずれ量から、実施例6と同様にして、刃先形状の崩れを測定する。
<実施例12>
実施例12では、等高線加工による前加工面を利用して、C軸回転中心の誤差を同定する。この場合、位置関係導出部23は、実施例9で説明したようにC軸とZ軸の位置を変えずに、XY位置を変えて接触した2点以上の座標値を利用することで、C軸回転中心と刃先11aのxy相対位置を同定できる。
また前加工時とC軸回転位置が90度異なる姿勢で、同じ刃先位置が接触する曲線上で多点接触させることで、工具刃先の形状誤差を測定できる。また実施例7で説明したように、Z位置を変えて、前加工時とC軸回転位置が90度異なる姿勢で2点以上の接触を行わせることで、C軸回転中心とZ軸の平行度(傾き)を同定できる。
<実施例13>
実施例13では、直線切れ刃を転写した加工面を利用して、工具の取付角度とB軸回転中心位置を同定する手法を説明する。
図36は、直線切れ刃である刃先11aが加工している様子を示す。以下、工具の取付角度によって決まる既加工面の微細溝の主な傾斜面の傾きφ^、B軸回転中心と刃先先端との距離であるL^、Z軸に対する傾きとなるβ^を同定する手法を説明する。傾きφ^は、-X軸から反時計回りを正とした角度であり、傾きβ^は、-Z軸からの角度とする。
図37は、同定手法を説明するための図である。移動制御部22は、任意の角度θ1で、刃先11aを前加工面とP1で接触させ、P1のz位置であるz1を検出する。移動制御部22は、同じ姿勢のまま、刃先11aを前加工面とDXずらしたP2で接触させ、P2のz位置であるz2を検出する。
これにより、dz=z2-z1とすると、
φ^=atan(dz/|DX|)
と算出される。この傾き角度が目的形状の傾き角度とずれている場合には、その差分をB軸で補正することでより正確な傾斜面を持つ微細溝加工を最終仕上げで行うことができる。
図38は、座標変換を説明するための図である。
刃先先端点とB軸回転中心の相対関係は、以下のように表現される。
切削位置でのz座標を0とするべく、φを用いて座標系を変換すると、
となる。
図39(a)(b)は、それぞれ刃先11aの姿勢を変化させて、前加工面に接触させた状態を示す。
図39(a)は、B軸をθ1回転させた状態で、傾きφに垂直な方向(Z’軸に平行)に刃先11aを動かして前加工面に接触させた状態を示す。図39(b)は、B軸をθ2回転させた状態で、傾きφに垂直な方向(Z’軸に平行)に刃先11aを動かして前加工面に接触させた状態を示す。θ1、θ2は、反時計回りの角度を正とする。このとき、z値として、それぞれz’1とz’2とが検出される。
そこで、以下の関係性が成立する。
なおx’
1+、x’
2+は、適当なずらし量であり、ずらさなくてもよい。
上記した2つの接触点におけるz’座標は、以下のように求められる。
連立して解くと、
このように実施例13によれば、直線切れ刃を転写した加工面において、刃先11aを複数点で接触させることで、B軸回転中心を導出できる。このように正確なB軸回転中心を知ることにより、例えば自由曲面上に微細溝が形成される複雑形状のように、微細溝の傾斜面の角度が変化するためにB軸を回転させて加工を行う必要がある場合に、工具刃先のxy位置がずれて加工精度が劣化する(工具刃先位置に対する相対的なB軸回転中心位置に誤差があると、B軸回転に起因して工具刃先のxy位置に誤差を生じる)ことを防ぐことができる。
以下の実施例14~18では、回転工具である切削工具11に関するずれ量の特定処理について説明する。実施例14~18において、移動制御部22は、切削加工後の被削材に対し、切削加工の際には利用しなかった移動方向の送り機構7による送り機能を利用して切削工具11を相対移動させ、位置関係導出部23は、切削工具11が少なくとも2つの位置で接触したときの座標値をもとに、切削工具11に関するずれ量を特定する。いずれの実施例でも回転工具を代表して、先端に半球状のボール部を有するボールエンドミルに関するずれ量を求めるが、ラジアスエンドミルなどの他の種類の回転工具についても、同様にずれ量を特定できる。
<実施例14>
実施例14では、ボールエンドミルの切れ刃の形状誤差を特定する手法を説明する。
図40は、被削材6の前加工面に接触させたボールエンドミルの2つの異なる姿勢A、Bを示す。2つの姿勢A、Bでは、ボール部の中心から見て異なる角度位置の刃先が前加工面に接触する。姿勢Aは、たとえば前加工面を形成時の姿勢であってもよい。実施例14では、切れ刃半径Rの崩れ以外の値は既知であることを前提とする。
図40において、ボール部の中心からB軸中心OBまでの距離L、姿勢Aにおける角度θ、姿勢Bにおける角度(θ+Δθ)、姿勢Aから姿勢Bに遷移するときのB軸中心OBの理想的な移動量ΔXrは既知である。このとき、B軸中心OBの移動量を計測し、移動量が(ΔXr+Δxer)である場合、ボール形状の崩れ量ΔRer^は、以下のように求まる。
ボール形状の崩れ量ΔRer^=移動のずれ量Δxer
以上により、2つの異なる姿勢でボールエンドミルを前加工面に接触させることで、切れ刃の崩れ形状(形状誤差)を測定できる。
<実施例15>
実施例15では、ボールエンドミルの主軸取付誤差(工具振れ量ΔR^)を特定する手法を説明する。
図41は、ボールエンドミルと主軸の芯ずれ量を特定する手法を説明するための図である。図41において、実線で示すボールエンドミルは芯ずれがない場合の輪郭形状を、点線で示すボールエンドミルは芯ずれが生じている場合の輪郭形状を示す。図示されるように、ボールエンドミルが芯ずれしている場合、軸ブレすることで理想値よりも大きな外周で切削が行われる。実施例15では、工具振れ量ΔR^以外の値は既知であることを前提とする。移動制御部22は、2つの姿勢A、Bでボールエンドミルを前加工面に接触させる。
主軸とZ軸とが平行になるB軸回転位相θ
0、姿勢Aにおける角度θ、姿勢Bにおける角度(θ+Δθ)が既知であり、姿勢Aと姿勢Bとで回転Δθにより変わる振れの量がΔxと測定されたとする。このとき、
により工具の振れ量ΔR^が求められる。
<実施例16>
実施例16では、B軸中心O
Bの誤差を特定する手法を説明する。
図42は、B軸中心のずれ量を特定する手法を説明するための図である。実施例16では、ボール部の中心からB軸中心O
Bまでの距離L^、任意の姿勢における角度θ^が未知であり、それ以外の値は既知である。移動制御部22は、任意の姿勢の角度θ^でボールエンドミルを前加工面に接触させた後、既知のΔθで前後に2回変化させて、接触させる。実施例16では、移動制御部22が角度(θ^+Δθ)、角度(θ^-Δθ)で接触させ、位置関係導出部23がそのときのX軸方向の移動量Δx
1、Δx
2を測定した。このとき、以下の式でL^、θ^が求められる。
以上のように未知のL^、θ^を、3つの異なる姿勢で接触させることで導出できる。
<実施例17>
実施例17では、X軸とZ軸の直交度に関する指標θ
xz^を特定する。指標θ
xz^は、X軸とZ軸の間の直角からのずれ量である。
図43は、X軸とZ軸の間の直角からのずれ量を特定する手法を説明するための図である。ボール部の中心からB軸中心O
Bまでの距離L、姿勢Aにおける角度θ、姿勢Bにおける角度(θ+Δθ)、姿勢Aから姿勢Bに遷移するときのB軸中心O
Bの理想的な移動量ΔX
r(X軸がZ軸に直交している場合の移動量)、ボール部の切れ刃半径Rは既知である。姿勢Aから姿勢Bに遷移するときに、切れ刃が前加工面に接触するまでの実際の移動量Δx
1から、X軸とZ軸の直交度に関する指標θ
xz^が、以下のように求まる。
実施例17は、X軸とZ軸の直交度に関する指標を導出する手法を示すが、実施例7に関して説明したように、回転工具を前加工した被削材6に接触させることで、C軸に対する回転工具の送り方向の平行度を推定することも可能である。
<実施例18>
実施例18では、走査線加工による前加工面を利用して、まずC軸回転中心の誤差を同定する。実施例18においても、前加工面に対して切削工具11の切れ刃を複数点で接触させて、理想プロファイルとの差分を導出することで、工具中心から見た相対的なC軸回転中心位置の誤差を同定する。
図44は、走査線加工におけるXZ面内の切削送り方向とYZ面内のピック送り方向とを概念的に示す。C軸回転中心の誤差を同定するために、YZ平面内工作物形状と、XZ平面内工作物形状とを利用できる。
<YZ平面内工作物形状の利用>
図45(a)は、加工時の切れ刃の様子を示す。図45(a)で、点線は加工時のボール部中心の切削運動プロファイルを、実線は前加工面プロファイルを表現する。理想的なボール部中心の切削運動プロファイルおよび前加工面プロファイルは、既知である。
図45(b)は、ワークをC軸まわりに90度回転した後、前加工面に対して複数の点で刃先を接触させている様子を示す。図45(b)で、実線は接触点をつないだ接触面プロファイルを表現する。
位置関係導出部23は、接触面プロファイルと前加工面プロファイルとが最もフィットするように、C軸回転中心のY方向誤差(C軸回転後、回転前のX方向誤差)を数値解析により同定する。具体的に位置関係導出部23は、各接触位置を前加工面プロファイルにより推定した上で、実際に接触した検出位置との誤差を導出し、その誤差の総和が最小になるようにC軸回転中心座標を同定する。
<XZ平面内工作物形状の利用>
図46(a)は、加工時の切れ刃の様子を示す。図46(a)で、点線は加工時のボール部中心の切削運動プロファイルを、実線は前加工面プロファイルを表現する。理想的なボール部中心の切削運動プロファイルおよび前加工面プロファイルは、既知である。
図46(b)は、ワークをC軸まわりに90度回転した後、前加工面に対して複数の点で刃先を接触させている様子を示す。図46(b)で、実線は接触点をつないだ接触面プロファイルを表現する。
位置関係導出部23は、接触面プロファイルと前加工面プロファイルとが最もフィットするように、C軸回転中心のX方向誤差(C軸回転後、回転前のY方向誤差)を数値解析により同定する。具体的に位置関係導出部23は、各接触位置を前加工面プロファイルにより推定した上で、実際に接触した検出位置との誤差を導出し、その誤差の総和が最小になるようにC軸回転中心座標を同定する。
図45(b)または図46(b)に示したように、ボール部中心から見た相対的なC軸回転中心位置が同定される。C軸回転中心位置が同定されると、それを利用して、刃先の形状誤差を測定できる。
図47は、刃先形状誤差を測定する手法を示す。移動制御部22が、ワークをC軸まわりに90度回転させて、前加工面上で刃先を、同じ刃先位置が接触するように曲線に沿って複数点で接触させる。図47は、破線が示す尾根に沿って刃先のZ方向最下点で前加工面に接触する様子を表現している。位置関係導出部23は、各接触点における計算上の接触位置と検出された接触位置のずれ量から、実施例6と同様にして、刃先形状の崩れを測定する。
以上、本開示を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
本開示の態様の概要は、次の通りである。本開示のある態様の切削装置は、切削工具または被削材が取り付けられた主軸を回転させる回転機構と、被削材または部品に対して切削工具を相対的に移動させる送り機構と、回転機構による主軸の回転および送り機構による切削工具の相対移動を制御する制御部と、を備える。制御部は、接触センサの検知情報、または回転機構および/または送り機構に含まれる駆動モータに関する検出値の時系列データを用いて、切削工具が被削材または部品に接触したときの座標値を取得する機能を有する。制御部は、旋削加工後の被削材または被削材の回転中心との相対的な位置関係が既知である基準面に対し、旋削加工の際の切削工具の回転角度位置とは異なる少なくとも2つの位置で、切削工具が接触したときの座標値をもとに、切削工具と被削材の回転中心との相対的な位置関係を定める。この態様によると制御部が、2つ以上の接触位置の座標値をもとに切削工具と被削材の回転中心との相対的な位置関係を定めることで、位置関係を測定するための測定器等を別途搭載する必要がない。
本開示の別の態様もまた、切削装置である。この装置は、切削工具または被削材が取り付けられた主軸を回転させる回転機構と、対象物に対して切削工具を相対的に移動させる送り機構と、回転機構による主軸の回転および送り機構による切削工具の相対移動を制御する制御部と、を備える。制御部は、切削工具を既知形状をもつ物体に対して相対移動させて、切削工具の刃先が物体の既知形状部分に接触したときの座標値を、接触センサの検知情報、または回転機構および/または送り機構に含まれる駆動モータに関する検出値の時系列データを用いて取得する機能を有する。制御部は、切削工具の刃先が物体の既知形状部分の少なくとも3つの位置で接触したときの座標値をもとに、工具刃先のノーズ半径、工具刃先の中心座標、工具刃先の形状誤差の少なくとも1つを求める。この態様によると制御部が3つ以上の接触位置の座標値をもとに工具刃先に関する値を求めることができ、測定器等を別途搭載する必要がない。
本開示のさらに別の態様もまた、切削装置である。この装置は、切削工具または被削材が取り付けられた主軸を回転させる回転機構と、被削材に対して切削工具を相対的に移動させる送り機構と、回転機構による主軸の回転および送り機構による切削工具の相対移動を制御する制御部と、を備える。制御部は、接触センサの検知情報、または回転機構および/または送り機構に含まれる駆動モータに関する検出値の時系列データを用いて、切削工具が被削材に接触したときの座標値を取得する機能を有する。制御部は、切削加工後の被削材に対し、切削加工の際には利用しなかった移動方向の送り機構による送り機能を利用して切削工具を相対移動させて、切削工具が少なくとも2つの位置で接触したときの座標値をもとに、切削工具の取付誤差、工具刃先の形状誤差、被削材に対する切削工具の相対移動方向のずれの少なくとも1つを特定する。制御部は、切削加工の際には利用しなかった移動方向の送り機構による送り機能を利用することで、測定器を搭載することなく、切削工具の取付誤差、工具刃先の形状誤差、被削材に対する切削工具の相対移動方向のずれの少なくとも1つを特定できる。
本発明のさらに別の態様もまた、切削装置である。この装置は、切削工具または被削材が取り付けられた主軸を回転させる回転機構と、被削材に対して切削工具を相対的に移動させる送り機構と、回転機構および/または送り機構に含まれる駆動モータに関する検出値の時系列データから、切削工具と被削材との接触位置を特定する制御部と、を備える。制御部は、接触前に取得された検出値の第1時系列データと、接触後に取得された検出値の第2時系列データをもとに、接触位置を特定する。この態様によると、制御部が、接触前の検出値にまでさかのぼって分析することで切削工具と被削材の接触タイミングを正確に導出し、接触位置を定めることができる。
制御部は、所定の閾値を超えた検出値を含む第2時系列データを取得してもよい。制御部は、第1時系列データにもとづいて、所定の閾値を設定してもよい。制御部は、第1時系列データの平均値を用いて、所定の閾値を設定してもよい。制御部は、第2時系列データを回帰分析して求めた回帰式と、第1時系列データの平均値とから、接触位置を特定してもよい。