本発明の水性顔料分散体は、C.I.ピグメントグリーン36を含む顔料、及び、芳香族環式構造または複素環式構造を有する酸価70~140mgKOH/gのラジカル重合体を含有する水性顔料分散体であって、前記ラジカル重合体が有する酸基の一部または全部は塩基性化合物によって中和されており、前記顔料に対する前記ラジカル重合体の質量比率が0.25~0.6の範囲であることを特徴とする。前記水性顔料分散体を使用することによって、優れた分散性および保存安定性を備え、かつ、普通紙に印刷した場合に発色性に優れた印刷物の製造に使用可能なインクを得ることができる。なお、本発明でいう、水性顔料分散体は、顔料が水等の溶媒に分散した状態のものを指す。前記水性顔料分散体は、水性顔料インクを製造する際に使用する材料、または、水性顔料インクそのものを指す場合がある。
本発明の水性顔料分散体に使用する顔料としては、前記C.I.ピグメントグリーン36を必須成分とし、必要に応じてその他の顔料と組合せたものを使用することができる。
前記C.I.ピグメントグリーン36は、他の顔料と比較して比重が大きいため、単に、従来知られた顔料分散樹脂と組合せるのみでは、水中に安定して分散できず、粗大粒子や沈降物を生じさせる場合がある。
本発明では、従来知られた多くのラジカル重合体のなかから後述する特定のラジカル重合体を選択し、前記C.I.ピグメントグリーン36を含む顔料と組合せ使用し、かつ、前記顔料に対する前記ラジカル重合体の質量比率を0.25~0.6の範囲に調整することによって、非常に優れた分散性および長期間の保存安定性等を発現できる。また、前記水性顔料分散体を用いたインクジェット記録用インクであれば、普通紙に印刷した際に前記インクに含まれる溶剤や水分が普通紙の内部に浸透する一方で、顔料同士が急速に凝集するため、発色性に優れた印刷物を得ることができる。
前記顔料に対する前記ラジカル重合体の質量比率は、0.25を超え0.6以下の範囲であることが好ましく、0.25~0.45の範囲で含まれることが、水性顔料分散体の高粘度化を抑制し、インクジェット記録法に適した低粘度を維持するうえでより好ましい。
また、前記C.I.ピグメントグリーン36を含む顔料は、前記水性顔料分散体の全量に対して、10~20質量%の範囲で含まれることが好ましく、12~18質量%の範囲で含まれることが、インクの製造効率を向上でき、かつ、インク設計の自由度を高めるうえでより好ましい。
前記C.I.ピグメントグリーン36としては、その一次粒子径が150nm以下であるものを使用することが好ましく、10~100nmであるものを使用することがより好ましく、10~70nmであるものを使用することが最も好ましい。なお、上記一次粒子径の測定は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して測定した粒子径の値を採用することができる。
前記顔料としては、前記C.I.ピグメントグリーン36のほかに、必要に応じてその他の顔料を組合せ使用することができる。
前記その他の顔料としては、例えばC.I.ピグメントグリーン7、8、10、17、18、50、58、76;C.I.ピグメントブルー1,2,3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:5、15:6、22、60、63;C.I.ピグメントイエロー1、2、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、155、174、180、185を使用することができる。
前記顔料としては、前記顔料の全量に対し前記C.I.ピグメントグリーン36を60~99質量%の範囲で含むものを使用することが好ましく、80~99質量%の範囲で含むものを使用することがより好ましい。
本発明の水性顔料分散体で使用するラジカル重合体としては、芳香族環式構造または複素環式構造を有する酸価70~140mgKOH/gのうち、前記ラジカル重合体が有する酸基の一部または全部は塩基性化合物によって中和されたもの(中和物)を使用する。
前記ラジカル重合体としては、前記C.I.ピグメントグリーン36を含む顔料の分散樹脂としてはたらくものを使用することができる。これにより、長期間にわたりより一層優れた分散安定性を備え、かつ、普通紙に対する優れた発色性を備えた水性顔料分散体を得ることができる。
前記芳香族環式構造または複素環式構造としては、後述する芳香族環式構造を有する単量体または複素環式構造を有する単量体を使用することによって前記ラジカル重合体に導入される環構造が挙げられる。
前記芳香族環式構造または複素環式構造は、前記ラジカル重合体の疎水性を高め、顔料への吸着性を高めることができ、芳香族環式構造を使用することが好ましい。
前記芳香族環式構造としては、ベンゼン環構造を使用することが好ましく、スチレン由来の環構造であることがより好ましい。
前記ラジカル重合体としては、酸価70~140mgKOH/gのものを使用する。前記酸価は、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等の酸基に由来する酸価である。
前記酸価は、70以上140mgKOH/g未満の範囲であることが好ましく、70~120mgKOH/gの範囲であることが好ましく、90~120mgKOH/gの範囲であることが、分散性および保存安定性をより一層向上でき、かつ、普通紙へ印刷した際の発色性をより一層向上させることができるためより好ましい。
なお、上記酸価は、日本工業規格「K0070:1992. 化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」に従って測定された数値であり、ラジカル重合体1gを完全に中和するのに必要な水酸化カリウムの量(mg)である。ただし、溶剤はジエチルエーテルの代わりにTHF(テトラヒドロフラン)を用い、中和滴定法を用いた。
前記ラジカル重合体としては、それが水中に溶解または分散する際に、前記酸基の一部または全部が、後述する塩基性化合物によって中和されたもの(中和物)を使用する。これにより、分散性および保存安定性をより一層向上させることができる。
前記ラジカル重合体としては、各種単量体をラジカル重合することによって得られた重合体を使用することができる。
前記単量体としては、前記ラジカル重合体に芳香族環式構造を導入する場合であれば芳香族環式構造を有する単量体を使用することができ、複素環式構造を導入する場合であれば複素環式構造を有する単量体を使用することができる。
前記芳香族環式構造を有する単量体としては、例えばスチレン、p-tert-ブチルジメチルシロキシスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-tert-ブトキシスチレン、m-tert-ブトキシスチレン、p-tert-(1-エトキシメチル)スチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、p-フロロスチレン、α-メチルスチレン、p-メチル-α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等を使用することができる。
前記複素環式構造を有する単量体としては、例えば2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン等のビニルピリジン系単量体を使用することができる。
前記ラジカル重合体として芳香族環式構造及び複素環式構造の両方を有するものを使用する場合、前記単量体として、芳香族環式構造を有する単量体及び複素環式構造を有する単量体を組合せ使用することができる。
本発明の水性顔料分散体としては、芳香族環式構造を有するラジカル重合体を使用することが好ましいことから、前記単量体としても芳香族環式構造を有する単量体を使用することが好ましく、スチレン、α-メチルスチレン、tert-ブチルスチレンを使用することがより好ましい。
前記芳香族環式構造を有する単量体及び複素環式構造を有する単量体は、顔料への吸着性をより一層高めるうえで、前記単量体の全量に対して合計60~95質量%の範囲で使用することが好ましい。
前記芳香族環式構造を有する単量体及び複素環式構造を有する単量体を合計60質量%以上使用して得られるラジカル重合体は、C.I.ピグメントグリーン36をはじめとする顔料を被覆しやすいため、得られる水性顔料分散体の分散性および保存安定性をより一層向上させることができる。
また、前記水性顔料分散体を用いて得られるインクジェット記録用インクは、普通紙への印刷特性に優れ、画像記録濃度が高くなる傾向があり、耐水特性も良好となる傾向がある。
前記芳香族環式構造を有する単量体及び複素環式構造を有する単量体を95質量%以下使用して得られるラジカル重合体は、ラジカル重合体で被覆されたC.I.ピグメントグリーン36の水性媒体に対する分散性を良好に維持することができ、水性顔料分散体における顔料の分散性や分散安定性を向上させることができる。
前記芳香族環式構造を有する単量体及び複素環式構造を有する単量体の使用量の合計が、前記単量体の全量に対して60~95質量%であるラジカル重合体は、非常に疎水性の高い重合体である。疎水性の高いラジカル重合体は、水中での顔料表面との親和性が高くなる。これにより、顔料に吸着する前記ラジカル重合体の量は増し、顔料に吸着しない余剰の前記ラジカル重合体の量は減ると推定される。
前記ラジカル重合体としては、前記した特定範囲の酸価を有するラジカル重合体を製造するうえで、前記単量体として酸基を有する単量体を使用することができる。
前記酸基を有する単量体としては、例えばカルボキシル基、スルホン酸基またはリン酸基等のアニオン性基を有する単量体を使用することができる。
前記アニオン性基を有する単量体としては、入手しやすく、カルボキシル基を有する単量体を使用することが、より一層優れた顔料分散安定性を備えた水性顔料分散体を得るうえで好ましく、アクリル酸またはメタクリル酸またはマレイン酸を使用することがより好ましい。
前記酸基を有する単量体は、前記ラジカル重合体の製造に使用する単量体の全量に対して5~40質量%の範囲で使用することが、前記した所定範囲の酸価を有するラジカル重合体を得るうえで好ましい。
また、前記ラジカル重合体の製造に使用可能な単量体としては、前記したもの以外に、必要に応じてその他の単量体を使用することができる。
前記その他の単量体としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルブチル(メタ)アクリレート、1,3-ジメチルブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-メチルブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、3-エトキシプロピル(メタ)アクリレート、3-エトキシブチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチル-α-(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリセリン(メタ)アクリレート、ビスフェノールA(メタ)アクリレート、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、酢酸ビニル等を単独または2種以上組合せ使用することができる。なお、上記「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートまたはメタクリレートを指す。
また、前記ラジカル重合体としては、前記単量体のラジカル重合によって形成される構造が線状(リニア)である重合体、分岐(グラフト)した構造を有する重合体、架橋した構造を有する重合体を使用することができる。それぞれの重合体において、モノマー配列は特に限定することはなく、ランダム型やブロック型配列の重合体を使用することができる。
前記架橋構造を有する重合体は、前記単量体として架橋性官能基を有する単量体を使用することによって製造することができる。
前記架橋性官能基を有する単量体としては、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングルコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリ(オキシエチレンオキシプロピレン)グリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンのアルキレンオキシド付加物のトリ(メタ)アクリレート等の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等を使用することができる。
本発明で使用するラジカル重合体としては、前記酸基を有する単量体及び芳香族環式構造または複素環式構造を有する単量体のみを用いて得られる重合体を使用することが好ましい。
本発明で使用するラジカル重合体としては、前記したなかでも、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸系エステル-(メタ)アクリル酸重合体等の、スチレン構造単位と(メタ)アクリル酸構造単位とを有する重合体のうち、前記特定範囲の酸価を有するものを使用することが、より一層優れた分散性および保存安定性を備え、発色性に優れた印刷物を形成可能な水性顔料分散体を得るうえで好ましい。
前記スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体としては、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-アクリル酸-メタクリル酸共重合体のいずれも使用できるが、スチレン-アクリル酸-メタクリル酸共重合体を使用することが、前記単量体の共重合性が向上して、重合体の均一性が向上し、その結果、より分散性および保存安定性に優れた顔料分散体が得られるため好ましい。
前記スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体としては、その製造に使用する単量体の全量に対するスチレンとアクリル酸とメタクリル酸との合計量が80質量%以上であるものを使用することが好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上のものを使用することがさらに好ましい。
前記スチレン-アクリル酸系重合体としては、リニア重合体、グラフト重合体のどちらも使用することができる。
前記グラフト重合体としては、(メタ)アクリル酸および/またはスチレンとを含む単量体の共重合体が分岐鎖または主鎖を構成し、ポリスチレンやエポキシ、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどのアルキレンオキサイド鎖、ビスフェノール、長鎖アルキルなどの疎水性側鎖で構成するグラフト共重合体が挙げられる。スチレン-アクリル酸系重合体は、このグラフト重合体とリニア重合体の混合物であってもよい。
なお、本発明では、前記ラジカル重合の際の各単量体のラジカル重合率(反応率)は、ほぼ同一とし、各単量体の使用割合(仕込み割合)が、ラジカル重合体を構成する各単量体由来の構造単位の割合と同一であるとみなした。
前記単量体をラジカル重合法によりラジカル重合体を製造する方法としては、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の方法が挙げられる。その際、必要に応じて公知慣用の重合開始剤、連鎖移動剤(重合度調整剤)、界面活性剤及び消泡剤を使用することができる。
重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、ベンゾイルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。前記重合開始剤は、前記ラジカル重合体の製造に使用する単量体の全量に対して0.1~10質量%の範囲で使用することが好ましい。
前記方法で得られたラジカル重合体としては、その重量平均分子量が6000~40000の範囲内であるものを使用することが好ましく、6000~20000の範囲内にあることがより好ましく、6000~15000範囲内にあることが特に好ましい。
重量平均分子量が2000以上であると、水性顔料分散体の長期保存安定性が良くなる傾向にあり、顔料の凝集などによる沈降が発生しにくい傾向がある。また前記スチレン-アクリル酸系共重合体の重量平均分子量が40000以下であると、これを用いた水性顔料分散体から調製したインクジェット記録用インク組成物の粘度は極めて適正であって、インクの吐出安定性が向上する傾向にある。なお、前記重量平均分子量とはGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法で測定される値であり、標準物質として使用するポリスチレンの分子量に換算した値である。
また、前記ラジカル重合体が有する酸基の一部または全部は、前記したとおり、塩基性化合物によって中和されている。
前記塩基性化合物としては、例えばカリウム、ナトリウム、リチウムなどのアルカリ金属の水酸化物;カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属などの炭酸塩;水酸化アンモニウム等の無機系塩基性化合物や、トリエタノールアミン、N,N-ジメタノールアミン、N-アミノエチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、N-N-ブチルジエタノールアミンなどのアミノアルコール類、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリンなどのモルホリン類、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、ピペラジンヘキサハイドレートなどのピペラジン等の有機系塩基性化合物を使用することができる。なかでも、前記塩基性化合物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムに代表されるアルカリ金属水酸化物を使用することが、水性顔料分散体の低粘度化に寄与し、インクジェット記録用インクの保存安定性及び吐出安定性をより一層向上させるうえで好ましく、水酸化カリウムを使用することが特に好ましい。
これらを使用した前記アニオン性基の中和率は特に限定はないが、未中和のラジカル重合体による凝集物の生成を抑えるために、一般に80~120%となる範囲で行うことが好ましい。本発明において、中和率とは、以下の式で計算された値を指す。
中和率(%)=[{塩基性化合物の質量(g)×56.11×1000}/{ラジカル重合体の酸価(mgKOH/g)×塩基性化合物の当量×ラジカル重合体の質量(g)}]×100
前記塩基性化合物は、それ顔料等と混合する際に、予め水等の溶媒に溶解または分散等させたものを使用することができる。
本発明の水性顔料分散体は、前記した顔料やラジカル重合体が水に溶解または分散したものである。
前記水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、超純水を用いることができる。また、前記水としては、紫外線照射または過酸化水素添加等によって滅菌された水を用いることが、水性顔料分散体やそれを使用したインク等を長期保存する場合に、カビまたはバクテリアの発生を防止することができるため好適である。
本発明の水性顔料分散体としては、前記したものの他に、必要に応じて水溶性有機溶剤を含有するものを使用することができる。前記水溶性有機溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、およびこれらと同族のジオールなどのジオール類;ラウリン酸プロピレングリコールなどのグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチル、ジエチレングリコールモノヘキシルの各エーテル、プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、およびトリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブなどのグリコールエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール、およびこれらと同族のアルコールなどのアルコール類;あるいは、スルホラン;γ-ブチロラクトンなどのラクトン類;2-ピロリドン、N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドンなどのラクタム類;グリセリンおよびその誘導体、ポリオキシエチレンベンジルアルコールエーテルなどは、顔料分散体製造時に使用する湿潤剤として使用することもできる。
これら水溶性有機溶剤は、1種または2種以上混合して用いることができる。中でも、高沸点、低揮発性で、高表面張力のグリコール類やジオール類等多価アルコール類は、湿潤剤として特に使用が好ましく、特にジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のグリコール類が好ましい。
本発明の水性顔料分散体の製造方法としては、C.I.ピグメントグリーン36を含む顔料と、塩基性化合物と、芳香族環式構造または複素環式構造を有する酸価70~140mgKOH/gのラジカル重合体と、必要に応じて水溶性有機溶剤等の任意成分とを、前記顔料の全量に対して前記ラジカル重合体を質量比率0.25~0.6となる範囲で含有する混練物を製造する工程、ならびに、前記混練物と水とを混合する工程を有する方法が挙げられる。
はじめに、C.I.ピグメントグリーン36を含む顔料、塩基性化合物、前記ラジカル重合体、及び、必要に応じて水溶性有機溶剤、水等の任意成分を、上記した質量比率となるように容器へ供給し混練物を製造する。前記混練物を得る工程は、特に限定されず公知の分散方法で行うことができ、例えば、ペイントシェーカー、ビーズミル、サンドミル、ボールミル等のメディアを使用するメディアミル分散法;超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ナノマイザー、アルティマイザー等を使用したメディアレス分散法;ロールミル、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、インテンシブミキサー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー等の混練分散法等が挙げられる。このうち混練分散法は、顔料を含有する高固形分濃度の混合物に混練機で強い剪断力を与えることによって顔料粒子を微細化させる方法であり、顔料濃度の高い混練物を得ることができ、且つ粗大粒子の低減に有効な方法であり好ましい。
前記混練分散法は、C.I.ピグメントグリーン36を含む顔料、塩基性化合物、前記ラジカル重合体、及び、必要に応じて水溶性有機溶剤等の任意成分の混合物を混練する。このときの混合物の仕込み順序には特に限定はなく、全量を同時に仕込んで混練を開始してもよいし、各々を少量ずつ仕込んでもよいし、例えばラジカル重合体と塩基性化合物と顔料とを仕込んだのち水溶性有機溶剤等を仕込む等といった、原料によって仕込み順を変えてもよい。各々の原料の仕込み量は前述の範囲で行うことができる。塩基性化合物を配合する際、予め水に溶解された塩基性化合物水溶液を使用する場合には、前記混合物中の水の量は、前記塩基性化合物水溶液に含まれる水の量を考慮して決定することが好ましい。
混練分散法のメリットである強い剪断力を混合物に与えるためには、該混合物の固形分比率が高い状態で混練するほうが好ましく、より高い剪断力を該混合物に加えることができる。固形分比率としては、20~100質量%の範囲であることが好ましく、30~90質量%の範囲であることがより好ましく、40~90質量%の範囲であることが、混練中の混合物の粘度を適度に高く保つことができるため混練機によって混合物にかかる負荷を大きくでき、その結果、混合物中の顔料の十分な解砕と、顔料のラジカル重合体による被覆とをより効率的に行うことができるため特に好ましい。
混練時の温度は、前記混練物に十分な剪断力が加わるように、使用するラジカル重合体のガラス転移点等の温度特性を考慮して適宜調整することができる。例えばラジカル重合体がスチレン-アクリル酸系共重合体の場合、ガラス転移点より低く、かつ該ガラス転移点との温度差が50℃より小さい範囲で行うことが好ましい。このような温度範囲で混練を行うことにより、混練温度の上昇によるラジカル重合体の溶融に伴う混練物の粘度低下によって剪断力が不足することがない。
混練工程に用いる混練装置としては、固形分比率の高い混合物に対して高い剪断力を発生させることのできるものであればよく、前述したような公知の混練装置の中から選択して用いることが可能であるが、二本ロール等の撹拌槽を有しない開放型の混練機を用いるよりは、撹拌槽と撹拌羽根を有し撹拌槽を密閉可能な混練装置を用いることが好ましい。
このような装置としては、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサーなどが例示され、特にプラネタリーミキサーなどが好適である。本発明においては、好ましくは顔料濃度と顔料とラジカル重合体からなる固形分濃度が高い状態で混練を行うため、混合物の混練状態に依存して混練物の粘度が広い範囲で変化するが、プラネタリーミキサーは二本ロール等と比較すると、広い範囲の粘度領域で混練処理が可能であり、更に水性媒体の添加及び減圧溜去も可能であるため、混練時の粘度及び負荷剪断力の調整が容易である。
前記混合物を混練した混練物を水性媒体に分散させる工程においては、例えば撹拌槽と撹拌羽根を有し撹拌槽を密閉可能な混練装置を使用していれば、混練後続いて水性媒体を添加することが可能である。ここで使用する水性媒体は、水単独で使用する他、前記水溶性有機溶剤を併用していてもよい。
前記方法で得られた水性顔料分散体としては、固形分が10質量%~50質量%の範囲であるものを使用することが好ましく、10~20質量%のものを使用することが、インクの製造効率を向上させるうえでより好ましい。
また、前記固形分が前記範囲内であっても、水性顔料分散体の粘度が高く、取扱いに不便を感じる場合には、水性媒体で適宜希釈し、所望の粘度範囲の水性顔料分散体とすることも可能である。
具体的には、前記水性顔料分散体は、例えば前述のように撹拌槽を有する混練機で顔料混練物を製造した後、該撹拌槽に水性媒体を添加、混合し、必要に応じて撹拌して直接希釈することによって製造することもできる。また、前記水性顔料分散体は、撹拌翼を備えた別の攪拌機で固体の顔料分散体と水性媒体を混合し、必要に応じて撹拌することによって製造することもできる。
前記水性媒体は、顔料混練物に対して必要量を一括混合してもよいが、連続的または断続的に必要量を添加して混合した方が、水性媒体による希釈が効率的に行われ、より短時間で水性顔料分散体を製造することができる。
前記方法で得られた水性顔料分散体は、必要に応じて分散機で分散処理しても良い。分散機としては、ペイントシェーカー、ビーズミル、ロールミル、サンドミル、ボールミル、アトライター、バスケットミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、スパイクミル、アジテーターミル、ジュースミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、ナノマイザー、デゾルバー、ディスパー、高速インペラー分散機、ニーダー、プラネタリーミキサーなどがあげられる。
また、前記水性顔料分散体は、さらに遠心分離処理またはろ過処理を行っても良い。
以上の方法で得られた水性顔料分散体に含まれる粒子の体積平均粒子径が、50nmから300nmであることが好ましく、50nmから150nmであることが優れた分散性および保存安定性を備え、発色性に優れた印刷物を形成するうえで最も好ましい。
本発明の水性顔料分散体は、所望の濃度に希釈することによって、例えば自動車や建材用の塗料分野、オフセットインキ、グラビアインキ、フレキソインキ、シルクスクリーンインキ等の印刷インキ分野、あるいはインクジェット記録用インク分野等様々な用途に使用することができる。
本発明の水性顔料分散体を用いて、インクジェット記録用インクを製造する場合、前記水性顔料分散体に、水溶性溶媒、水、バインダーとしてアクリル系樹脂やポリウレタン系樹脂等の樹脂、乾燥抑止剤、湿潤剤、浸透剤、界面活性剤などの添加剤を混合することによって製造することができる。
前記インクジェット記録用インクを製造する際には、前記混合後に、さらに遠心分離処理またはろ過処理を行っても良い。
前記湿潤剤は、インクの乾燥防止を目的として使用することができる。湿潤剤は、インクの全量に対して、3質量%~50質量%であることが好ましい。
前記湿潤剤としては、水との混和性がありインクジェットプリンターのヘッドの目詰まり防止効果を得るうえで、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等が挙げられ、1,3-ブチルグリコールを使用することが、インクの乾燥性や吐出性能に優れるため好ましい。
前記浸透剤は、記録媒体への浸透性改良や記録媒体上でのドット径調整を目的として使用することができる。
浸透剤としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、エチレングリコールヘキシルエーテルやジエチレングリコールブチルエーテル等のアルキルアルコールのエチレンオキシド付加物やプロピレングリコールプロピルエーテル等のアルキルアルコールのプロピレンオキシド付加物等が挙げられ、前記インクの全量に対して0.01質量%~10質量%の範囲で使用することが好ましい。
前記界面活性剤は、表面張力等のインク特性を調整するために使用することができる。界面活性剤としては、特に限定されるものではなく、各種のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられ、これらの中では、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩、高級アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等が挙げられ、これらの具体例として、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸塩、モノブチルフェニルフェノールモノスルホン酸塩、モノブチルビフェニルスルホン酸塩、ジブチルフェニルフェノールジスルホン酸塩などを挙げることができる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、脂肪酸アルキロールアミド、アルキルアルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマー等を挙げることができ、これらの中では、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマーが好ましい。
その他の界面活性剤として、ポリシロキサンオキシエチレン付加物のようなシリコーン系界面活性剤;パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテルのようなフッ素系界面活性剤;スピクリスポール酸、ラムノリピド、リゾレシチンのようなバイオサーファクタント等も使用することができる。
前記界面活性剤は、単独で用いることもでき、2種類以上を混合して用いることもできる。界面活性剤の使用量はインクの全質量に対し、0.001~2質量%の範囲が好ましく、0.001~1.5質量%であることがより好ましく、0.01~1質量%の範囲であることが、印刷画像のにじみ等をより効果的に防止するうえでさらに好ましい。
また、前記その他の添加剤としては、必要に応じて防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を添加することができる。
(記録媒体)
インクジェット記録用水性インクの記録媒体としては特に限定はなく、複写機で一般的に使用されている普通紙(PPC用紙)等の吸収性の記録媒体、インクの吸収層を有する記録媒体、インクの吸収性を有しない非吸水性の記録媒体、インクの吸水性の低い難吸収性の記録媒体などがありうる。
吸収性の記録媒体は、塗工などの表面加工されていない用紙を指す。例えば普通紙(PPC用紙)、上質紙、中質紙、下級紙、再生紙、等があげられる。普通紙は複写機の印刷用紙として市販されているものが挙げられ、古紙を含んでいてもよい。上質紙および中級紙および下級紙はオフセット印刷等で用いられる非塗工印刷用紙が挙げられ、具体例としては、王子製紙(株)製の「OKプリンス上質」「OKアドラニスラフ」及び日本製紙(株)製の「npi上質」「しらおい」及び紀州製紙(株)製の「紀州上質紙」及び北越製紙(株)製の「キンマリSW」及び三菱製紙(株)製の「金菱」等が挙げられる。
また吸収層を有する記録媒体の例としては、インクジェット専用紙等があげられ、この具体例としては、例えば、株式会社ピクトリコのピクトリコプロ・フォトペーパーやEPSON株式会社のプロフェッショナルフォトペーパー等が挙げられる。
インクの吸収性を有しない非吸水性の記録媒体の例には、例えば食品用の包装材料に使用されているもの等を使用することができ、公知のプラスチックフィルムが使用できる。具体例としては、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム、ナイロン等のポリアミド系フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、ポリ乳酸フィルム等が挙げられる。特にポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリアミド系フィルムが好ましく、さらにポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ナイロンが好ましい。またバリア性を付与するためのポリ塩化ビニリデン等のコーティングをした上記フィルムでもよいし、必要に応じてアルミニウム等の金属、あるいはシリカやアルミナ等の金属酸化物の蒸着層を積層したフィルムを併用してもよい。
インクの吸水性の低い難吸収性の記録媒体には、印刷本紙などのアート紙、コート紙、軽量コート紙、微塗工紙などが使用できる。これら難吸収性の記録媒体は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものであり、王子製紙(株)製の「OKエバーライトコート」及び日本製紙(株)製の「オーロラS」等の微塗工紙、王子製紙(株)製の「OKコートL」及び日本製紙(株)製の「オーロラL」等の軽量コート紙(A3)、王子製紙(株)製の「OKトップコート+」及び日本製紙(株)製の「オーロラコート」等のコート紙(A2、B2)、王子製紙(株)製の「OK金藤+」及び三菱製紙(株)製の「特菱アート」等のアート紙(A1)等が挙げられる。
実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。
<合成例1>
撹拌装置、滴下装置及び還流装置を備えた反応容器にメチルエチルケトン100質量部を仕込み、攪拌しながら反応容器内を窒素置換した。
次に反応容器を加温し、メチルエチルケトンを還流した状態で、滴下装置からスチレン85質量部、メタクリル酸15質量部及び重合触媒(和光純薬工業株式会社製/「V-59」)8質量部の混合液を2時間かけて滴下した。滴下の途中より、反応容器の温度を80℃に保った。
前記滴下終了後、同温度でさらに25時間反応を続けた。
前記反応終了後、反応容器内を放冷しメチルエチルケトンを加えることによって固形分濃度50質量%の溶液を得た。さらに、この溶液を乾燥させた後、1mm以下の粉状に粉砕してスチレン-アクリル酸共重合体(A-1)の粉体を得た。前記スチレン-アクリル酸共重合体(A-1)の酸価は92mgKOH/g、重量平均分子量は8000であった。
前記重量平均分子量は、GPC(ゲル・浸透・クロマトグラフィー)法で測定された値であり、標準物質として使用するポリスチレンの分子量に換算した値である。測定は以下の装置及び条件で行った。
GPC装置:HLC-8220GPC(東ソー株式会社製)
カラム:TSKgelguardcolumnHxL-H(ガードカラム)+TSKgelGMHxL+TSKgelGMHxL+TSKgelGMHxL+TSKgelGMHxL(東ソー株式会社製)
溶出溶媒:THF(テトラヒドロフラン)
溶出流量:1mL/min
カラム温度:40℃
<合成例2>
スチレン85質量部及びメタクリル酸15質量部の代わりに、スチレン83質量部、アクリル酸7質量部及びメタクリル酸10質量部を使用したこと以外は、合成例1と同一の方法で、重量平均分子量7800、酸価114mgKOH/gであるスチレン-アクリル酸系共重合体(A-2)の粉体を得た。
<合成例3>
スチレンの使用量を85質量部から91質量部に変更し、かつ、メタクリル酸の使用量を15質量部からアクリル酸3質量部及びメタクリル酸6質量部に変更したこと以外は、合成例1と同一の方法で、重量平均分子量8000、酸価60mgKOH/gであるスチレン-アクリル酸系共重合体(A-3)の粉体を得た。
<合成例4>
スチレン85質量部及びメタクリル酸15質量部の代わりに、スチレン77質量部、アクリル酸10質量部及びメタクリル酸13質量部を使用したこと以外は、合成例1と同一の方法で、重量平均分子量7700、酸価152mgKOH/gであるスチレン-アクリル酸系共重合体(A-4)の粉体を得た。
<実施例1>
スチレン-アクリル酸系共重合体(A-1)21質量部と、FASTOGEN GREEN 2YK(DIC(株)製)70質量部と、8Nの水酸化カリウム水溶液5.7質量部と、トリエチレングリコール18質量部とを混合することで混合物を調製した後、80℃に保温されたプラネタリーミキサー(商品名:ケミカルミキサーACM04LVTJ-B 株式会社愛工舎製作所製)に仕込み、自転回転数:80回転/分、公転回転数:25回転/分で混練を行った。
プラネタリーミキサーの電流値が最大電流値を示してから120分を経過後に、イオン交換水を4質量部ずつ投入し、イオン交換水が合計で36質量部になるまで混練を続け、混練物を得た。得られた混練物にレットダウン操作として、イオン交換水225質量部、トリエチレングリコール38質量部を投入して、顔料濃度15.5質量%の顔料分散体を得た。
<実施例2>
実施例1で使用した混合物の代わりに、スチレン-アクリル酸系共重合体(A-1)28質量部とFASTOGEN GREEN 2YK(DIC(株)製)70質量部と8Nの水酸化カリウム水溶液7.6質量部とトリエチレングリコール18質量部とを含有する混合物を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で顔料濃度15.2質量%の顔料分散体を得た。
<実施例3>
実施例1で使用した混合物の代わりに、スチレン-アクリル酸系共重合体(A-2)21質量部とFASTOGEN GREEN 2YK(DIC(株)製)70質量部と8Nの水酸化カリウム水溶液7.0質量部とトリエチレングリコール18質量部とを含有する混合物を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で顔料濃度15.5質量%の顔料分散体を得た。
<実施例4>
実施例1で使用した混合物の代わりに、スチレン-アクリル酸系共重合体(A-2)28質量部とFASTOGEN GREEN 2YK(DIC(株)製)70質量部と8Nの水酸化カリウム水溶液9.4質量部とトリエチレングリコール18質量部とを含有する混合物を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で顔料濃度15.1質量%の顔料分散体を得た。
<比較例1>
実施例1で使用した混合物の代わりに、スチレン-アクリル酸系共重合体(A-3)21質量部とFASTOGEN GREEN 2YK(DIC(株)製)70質量部と8Nの水酸化カリウム水溶液4.4質量部とトリエチレングリコール18質量部とを含有する混合物を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で顔料濃度15.5質量%の顔料分散体を得た。
<比較例2>
実施例1で使用した混合物の代わりに、スチレン-アクリル酸系共重合体(A-1)14質量部とFASTOGEN GREEN 2YK(DIC(株)製)70質量部と8Nの水酸化カリウム水溶液3.8質量部とトリエチレングリコール18質量部とを含有する混合物を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で顔料濃度15.8質量%の顔料分散体を得た。
<比較例3>
実施例1で使用した混合物の代わりに、スチレン-アクリル酸系共重合体(A-2)14質量部とFASTOGEN GREEN 2YK(DIC(株)製)70質量部と8Nの水酸化カリウム水溶液4.7質量部とトリエチレングリコール18質量部とを含有する混合物を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で顔料濃度15.8質量%の顔料分散体を得た。
<比較例4>
実施例1で使用した混合物の代わりに、スチレン-アクリル酸系共重合体(A-4)21質量部とFASTOGEN GREEN 2YK(DIC(株)製)70質量部と8Nの水酸化カリウム水溶液9.4質量部とトリエチレングリコール18質量部とを含有する混合物を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で顔料濃度15.4質量%の顔料分散体を得た。
(水性顔料分散体の評価)
〔体積平均粒子径の測定方法〕
はじめに、実施例及び比較例で調製した水性顔料分散体を、イオン交換水で1000倍に希釈した。
次に、希釈後の水性顔料分散体の約4mLをセルにいれ、マイクロトラック・ベル(株)社製ナノトラック粒度分布計「UPA150」を用い、25℃環境下で、レーザー光の散乱光を検出することにより、体積平均粒子径(MV)を測定した。
前記体積平均粒子径を3回測定し、それらの平均値の上位2桁を有効数字として算出した値を、体積平均粒子径の値(単位:nm)とした。
〔粗大粒子数の測定方法〕
はじめに、実施例及び比較例で調製した水性顔料分散体を、イオン交換水で500~1000倍に希釈した。
次に、Particle Sizing Systems社製、個数カウント方式 粒度分布計(Accusizer 780 APS)を用い、前記希釈後の水性顔料分散体に含まれる直径1.0μm以上の粒子数を3回測定した。
次に、前記測定値に、それぞれ希釈濃度を乗じることによって、粗大粒子数を算出した。次に、上記方法で算出した3つの粗大粒子数の平均値を、実施例及び比較例で調製した水性顔料分散体の粗大粒子数とした。
<沈降物の有無>
実施例及び比較例で得られた水性顔料分散体80質量部を、100mLのポリプロピレン製ボトルに3日間静置し、その後上澄みをデカンテーションして、ポリプロピレン製ボトルの底の沈降物の有無を目視で判断した。評価の判断は以下の2つで示す。
無:沈降物が無い、有:沈降物が有り
〔水性顔料分散体の保存安定性の試験方法〕
実施例及び比較例で製造した直後の水性顔料分散体の体積平均粒子径を、前記〔体積平均粒子径の測定方法〕に記載した方法と同様の方法で測定した。
次に、実施例及び比較例で得た水性顔料分散体をポリプロピレン容器に密封し、60℃で1週間保存した後の体積平均粒子径を〔体積平均粒子径の測定方法〕と同様の方法で測定した。
次に、前記製造直後の水性顔料分散体の体積平均粒子径と、前記保存後の水性顔料分散体の体積平均粒子径と、変化率(%)=[(前記保存後の水性顔料分散体の体積平均粒子径-前記製造直後の水性顔料分散体の体積平均粒子径)/前記製造直後の水性顔料分散体の体積平均粒子径]×100の式に基づき、体積平均粒子径の変化率を算出した。
保存安定性の評価基準として、前記変化率が10%未満であれば良好、前記変化率が10%以上であれば不良と判断した。
比較例1、2の水性顔料分散体は分散性が悪く、沈降物が確認されたため、インクジェット記録用インクの吐出性と発色性の評価は行わなかった。
<水性顔料分散体の精製(遠心分離操作)>
実施例1~4及び比較例3~4で得られた水性顔料分散体80質量部を、バッチ式遠心分離機(国産遠心機(株)製)、25℃の温度、13400Gの遠心力、10分間の滞留時間で、遠心分離操作を行い、上澄み液をデカンテーションして、精製した水性顔料分散体を得た。
<インクジェット記録用インクの作製>
上記の遠心分離操作で得られた実施例1~4及び比較例3~4の水性顔料分散体をイオン交換水で顔料濃度12質量%に希釈することによって、水性顔料分散体の水希釈液を得た。
水性顔料分散体の水希釈液33.3質量部と、2-ピロリジノン8.0質量部と、トリエチレングリコールモノブチルエーテル8.0質量部と、グリセリン3.0質量部と、サーフィノール440(日信化学工業(株))0.5質量部と、イオン交換水47.2質量部とを混合することによって、顔料濃度4質量%のインクジェット記録用水性インクを得た。
〔インクジェット記録用インクの吐出性評価〕
上記インクジェット記録用インクをインクジェットプリンターENVY4500(HP社製)のカートリッジに充填し、前記プリンターに搭載されたクリーニングを1回実施した後、前記プリンターに搭載された「診断情報の印刷」モードを印刷した。前記「診断情報の印刷」モードの印刷物は17列×20行の格子状となっており、格子の欠けている箇所の個数を数えた。この操作を3回繰り返し、格子の欠けている箇所の平均を算出した。
吐出性の評価は、以下のように判断した。
良:格子の欠けている箇所の平均が10個未満
不良:格子の欠けている箇所の平均が10個以上
〔印刷濃度の測定方法〕
前記吐出性評価の操作の後、市販のPPC用紙(販売:大塚商会、品番:10PPCHWA4N)に、普通紙/標準の印刷モードで、100%ベタ部を有する画像を印刷し、印刷物を得た。
次に、X-Rite社製の「eXact」で前記印刷物の100%ベタ部を測色し、印刷パターンのC*(彩度)、及び、C*をL*(明度)で除した値(C*/L*)を算出した。なお、上記評価値は、値が高いほど色が濃く見える(高評価)ことを示す。
表3に吐出性と発色性の評価結果を示す。
表2および表3から明らかなように、実施例1~実施例4の水性顔料分散体は、分散粒子径、粗大粒子数ともに小さい値であった。前記水性顔料分散体を用いて得られたインクジェット記録用インクは吐出性が良好で、印刷物の発色性も良好であった。