JP7042645B2 - 銅被覆マグネシウム線、その絶縁電線及び複合電線 - Google Patents
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Description
芯材1は、マグネシウムで構成されている。ここでの「マグネシウム」は純マグネシウムのことであり、意図的に他の元素を添加したマグネシウム合金ではないという意味で用いている。マグネシウム(純マグネシウム)とは、意図的に他の元素を添加することなく、質量でマグネシウム成分が99.0質量%以上含まれるものである。マグネシウムは、JIS H 2150(2006)の「マグネシウム地金」で規定されており、例えば、マグネシウム地金1種A(Mg:99.95質量%以上、記号:MI1A Mg、対応ISO記号:99.95A)、マグネシウム地金1種B(Mg:99.95質量%以上、記号:MI1B Mg、対応ISO記号:99.95B)、マグネシウム地金2種MI2(Mg:99.90質量%以上)、マグネシウム地金3種A(Mg:99.80質量%以上、記号:MI3A Mg、対応ISO記号:99.80A)、マグネシウム地金3種B(Mg:99.80質量%以上、記号:MI3B Mg、対応ISO記号:99.80B)を挙げることができる。
銅被覆層2は、芯材1の表面に設けられた銅又は銅合金の層である。銅又は銅合金が芯材1の表面に設けられているので、容易な伸線加工(冷間伸線加工又は熱間伸線加工、好ましく冷間伸線加工)によって得られたものとなっている。銅としては、純銅を挙げることができ、銅合金としては、銅-銀合金、銅-ニッケル合金、銅-亜鉛合金等を挙げることができる。銅-銀合金は、銀を0.5質量%程度含む銅合金であり、銅-ニッケル合金は、ニッケルを1質量%程度含む銅合金であり、銅-亜鉛合金は、亜鉛を5質量%程度含む銅合金である。銀、ニッケル、亜鉛等の含有量は特に限定されないが、前記した含有量程度の銅合金は、銅の導電率を100%としたとき、導電率が約80%~95%の範囲内であり、好ましく適用することができる。
後述する絶縁被覆層3が形成される前の伸線加工後の銅被覆マグネシウム線10の直径は、0.03mm以上、0.6mm以下の範囲内とすることができる。この範囲内の直径とすることにより、小型部品に使用されるコイル用エナメル被覆線として好ましく利用でき、主にヘッドホンやスピーカー等のボイスコイルとして有用な銅被覆マグネシウム線として好ましく用いることができる。
絶縁被覆層3は、必須の構成ではないが、図2に示すように、銅被覆層2の外周に直接又は他の層を介して設けられている。こうした絶縁被覆層3を銅被覆マグネシウム線10が備えたことで、コイル用線材として利用でき、コイル巻線を容易に行うことができる。絶縁被覆層3は、特に限定されず、従来公知のものを適用することができる。例えば、焼付け被膜、押出し被膜、テープ巻き等を挙げることができる。
化合物層4は、本発明の特徴的な構成であり、芯材1であるマグネシウムと銅被覆層2との境界に設けられており、その化合物層4のは厚さは1.5μm以下である。こうした化合物層4は、銅とマグネシウムとの化合物層であり、CuxMgyとして表すことができる。この化合物層4が化合物であることは、合金として単一物性を示すものとは異なり、それぞれの物性(物理的物性:線膨張係数、熱伝導等、機械的物性:引張強さ、伸び等)が併存していることとなる。なお、化合物層4が合金ではなく化合物であることは、X線回析法等で評価することができる。
得られた銅被覆マグネシウム線10は、上記化合物層4を芯材1と銅被覆層2との界面に有するので、その化合物層4を介した両者(マグネシウムと銅)の密着が良好で銅被覆層2の剥離や滑落がなく、その結果、線折れ等の断線が極めて起きにくくなる。
本発明に係る銅被覆マグネシウム線10の製造方法は、マグネシウムからなる芯材1と、その芯材1の表面に設けられた銅又は銅合金からなる銅被覆層2とを有し、芯材1と銅被覆層2との境界には厚さ1.5μm以下の銅マグネシウム化合物層4を有する銅被覆マグネシウム線10を製造する方法である。そして、図4に示すように、マグネシウム素線1’の外周に銅又は銅合金からなる銅被覆層2’が設けられた銅被覆マグネシウム素線10’を準備する工程と、その銅被覆マグネシウム素線10’を伸線加工する伸線加工工程と、その伸線加工工程後に、芯材1であるマグネシウムと銅被覆層2との境界に厚さ1.5μm以下の銅マグネシウム化合物層4が生成する温度で熱処理する熱処理工程とを有する。
準備工程は、マグネシウム素線1’の外周に銅又は銅合金からなる銅被覆層2’が設けられた銅被覆マグネシウム素線10’を準備する工程である。マグネシウム素線1’は、図4に示すように、芯材1の説明欄で既に説明したマグネシウムからなる素線であって、鋳造されたマグネシウムが予め所定の直径(例えば、0.6~1.0mm)に加工されたマグネシウム素線1’である。このマグネシウム素線1’の直径は特に限定されず、その後に0.03mm以上、0.6mm以下の最終的な仕上がり線径に伸線加工し易いものを準備することが望ましい。一例としては、後述の実施例に示すような直径0.6mmのものを挙げることができる。
伸線加工工程は、銅被覆マグネシウム素線10’を冷間又は熱間で伸線加工して、直径が0.03mm以上、0.6mm以下の範囲内とする工程である。伸線加工は熱間でも冷間でもよいが、冷間伸線加工は熱間伸線加工のような専用設備を用いないので低コストの点では有利であり、ダイを用いた冷間伸線加工が好ましく、加工度によって複数のダイを用いて所望の線径まで細径化することができる。本発明で適用する銅被覆マグネシウム素線10’は、その表面に銅被覆層2’が設けられているので、一般的な冷間伸線加工設備を利用した冷間伸線が可能であり、その伸線速度もあまり低下させることなく行うことができる。その結果、銅被覆マグネシウム線10の細径化を生産性よく行うことができる。
熱処理工程は、上記伸線加工工程後に、芯材1であるマグネシウムと銅被覆層2との境界に厚さ1.5μm以下の銅マグネシウム化合物層4が生成する温度で熱処理する工程である。熱処理は、上記したように、加工硬化による加工歪を除去することを目的として行われる場合や、エナメル線を被覆する際の焼鈍炉の熱で熱処理される場合がある。ここでの熱処理はそのいずれであってもよく、絶縁被覆層3を設けない場合は、空気中又は不活性ガス中での熱処理炉で連続的に熱処理してもよいし、エナメル被覆する場合には、焼き付け工程の焼鈍炉で熱処理してもよい。これらの熱処理において、温度と時間とをコントロールすることにより、上記化合物層4を形成することができる。熱処理条件は特に限定されないが、熱処理温度が高い場合であっても、処理時間を短くしたフラッシュ焼鈍を行うことによって任意に調整することもできる。
本発明に係る絶縁電線10Aは、図2に示すように、上記本発明に係る銅被覆マグネシウム線の外周にエナメル被覆したものである。なお、銅被覆マグネシウム線10というときは、絶縁被覆層3も含む意味で用いている。こうした絶縁電線10Aは、小型部品に使用されるコイル用エナメル被覆線として利用でき、主にヘッドホンやスピーカー等のボイスコイルとして有用で、特に線径が太い場合に起き易い断線等の不具合を低減することができる。なお、絶縁被覆層3については既に説明したのでここではその説明を省略する。
本発明に係る複合電線20は、図5に示すように、上記本発明に係る銅被覆マグネシウム線10のリッツ線又は円形圧縮線、又は、上記本発明に係る絶縁電線のリッツ線又は円形圧縮線、である。リッツ線は図5(A)に示すとおりであり、円形圧縮線は図5(B)に示すとおりであり、従来公知の構成とすることができる。なお、図5(A)(B)の複合電線20では、絶縁被覆層3が設けられた態様を示しているが、絶縁被覆層3が設けられていない態様であってもよい。
マグネシウム素線1’として、マグネシウム地金1種A(Mg:99.95質量%以上)から直径0.6mmに加工されたマグネシウム線を用いた。この実施例では、マグネシウム素線1’の外周表面にめっき手段を適用して銅被覆層2’を設けた。銅被覆層2’は、ジンケート処理を経た銅めっきで形成した。具体的には、マグネシウム素線1’を脱脂、エッチング、デスマット(表面に付着した微粉末状黒色物質等の除去処理)、亜鉛置換、亜鉛剥離、亜鉛置換、ストライク銅めっき、厚付け銅めっきの順で行った。亜鉛置換(1回目と2回目)では、酸化亜鉛100g/L、水酸化ナトリウム400g/Lのジンケート浴(50℃)を用い、5分間浸漬させて厚さ0.2μmの亜鉛を析出させた。その後、亜鉛剥離剤(硝酸)で亜鉛を剥離し、再度前記と同じ亜鉛置換(2回目)を行い、その後、ストライク銅めっき(組成:シアン化銅30g/L、シアン化ナトリウム60g/L、ロッシェル塩60g/L、炭酸アルカリ30g/L)で厚さ1μmの薄付け銅めっきを行い、最後に厚さ24μmの厚付け銅めっき(組成:硫酸銅200g/L、硫酸60g/L、添加剤5ml/L)を行った。こうして直径0.65mmの銅被覆マグネシウム素線10’を作製した。このときの全断面積に対する銅被覆層2’の断面積比は15%であった。
実施例2~14及び比較例1~10についての実験を、実施例1と同様にしてそれぞれ行った。その結果を表1及び表2に示した。
1’ マグネシウム素線
2 銅被覆層
2’ 銅被覆層
3 絶縁被覆層
4 銅マグネシウム化合物層
10 銅被覆マグネシウム線
10’ 銅被覆マグネシウム素線
10A 絶縁電線
20 複合電線
Claims (8)
- マグネシウムからなる芯材と、該芯材の表面に設けられた銅又は銅合金からなる銅被覆層とを有し、前記芯材と前記銅被覆層との境界には厚さ0.03μm以上1.5μm以下の銅マグネシウム化合物層を有し、
前記銅被覆層の表面には伸線加工痕があり、直径が0.08mm超0.6mm以下の範囲内である、ことを特徴とする銅被覆マグネシウム線。 - 前記銅被覆マグネシウム線は、該銅被覆マグネシウム線を伸線加工する前に、前記化合物層が生成する温度の熱処理が行われてなるものである、請求項1に記載の銅被覆マグネシウム線。
- 前記銅被覆層の厚さが全体の断面積比で5%以上30%以下の範囲内である、請求項1又は2に記載の銅被覆マグネシウム線。
- 引張強度が200MPa以上340MPa以下の範囲内である、請求項1~3のいずれか1項に記載の銅被覆マグネシウム線。
- 伸びが3%以上15%以下の範囲内である、請求項1~4のいずれか1項に記載の銅被覆マグネシウム線。
- 請求項1~5のいずれか1項に記載の銅被覆マグネシウム線の外周にエナメル被覆したことを特徴とする絶縁電線。
- 請求項1~5のいずれか1項に記載の銅被覆マグネシウム線のリッツ線又は円形圧縮線、又は、請求項6に記載の絶縁電線のリッツ線又は円形圧縮線、であることを特徴とする複合電線。
- マグネシウムからなる芯材と、該芯材の表面に設けられた銅又は銅合金からなる銅被覆層とを有し、前記芯材と銅被覆層との境界には厚さ0.03μm以上1.5μm以下の銅マグネシウム化合物層を有する銅被覆マグネシウム線を製造する方法であって、
マグネシウム素線の外周に銅又は銅合金からなる銅被覆層が設けられた銅被覆マグネシウム素線を準備する工程と、前記銅被覆マグネシウム素線を伸線加工する伸線加工工程と、前記伸線加工工程前に前記化合物層が生成する温度で熱処理する熱処理工程とを有し、前記伸線加工工程後の前記銅被覆層の表面には伸線加工痕があり、前記伸線加工工程後の銅被覆マグネシウム線の直径が0.08mm超0.6mm以下の範囲内である、ことを特徴とする銅被覆マグネシウム線の製造方法。
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