JP7041856B2 - 医療用注射器に適用されるガスケットの製造方法 - Google Patents
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Description
プレフィルド注射器は、従来の注射器、すなわち使用直前にバイアル等他の容器から薬液を吸い上げて使用する従来の注射器とは異なり、長期間薬液が接する容器としての性能が要求される。
注射器に使用されるガスケットは、一般に架橋ゴムで作られる。架橋ゴムには架橋用の様々な成分が添加されており、このような成分またはその熱分解物は、薬液と接触することで薬液中へと移行することが知られている。そして、一部の薬液に対してこれらの移行物は、薬液の効果や安定性に悪影響を与えることも知られている。
以上のような観点から、医療用注射器においては、ゴム製ガスケットの表面を摺動性の良いフィルムでラミネートしたラミネートガスケットと呼ばれる製品が使用されることが多くなっている。ラミネートガスケットは、ゴム製ガスケットの表面を摺動性の良いフィルムで覆うことにより、架橋ゴムの成分が薬液へ移行することを防ぎ、かつ、シリコーンオイルなしでも摺動性を確保することができる。
この課題に対して、発明者らは検討を加えた結果、フィルムでラミネートされたガスケット形状を成型後に、ガスケットの円周面部に微細な溝構造を形成することによりこれらの課題を解決できると考え検討を進めてきた。
そこで、この課題に対して、発明者らはさらに検討を加えた結果、ガスケットの円周面部に溝を形成する方法ではなく、ラミネートされたフィルム上に付加的に凸部を形成することで、解決できることを見出した。
具体的には、次の通りである。
請求項1記載の発明は、医療用注射器に適用されるガスケットの製造方法であって、ガスケット成型金型を準備する工程、金型内にて、表面にフィルムがラミネートされたシリンジの内周面に接する円周面部を有するガスケットを成型する工程、金型からガスケットを取り出した後、ガスケットの前記円周面部における前記フィルムの表面の幅方向の一部に周方向に流動性の素材により高さが15μm以上55μm以下で幅が30μm以上75μm以下の凸部を、前記円周面部における当該凸部に対して前記幅方向の一方側および他方側で前記フィルムの表面が露出するように付加的に形成する工程、および形成された流動性の素材による凸部を固形化する工程、を含むことを特徴とする、医療用注射器に適用されるガスケットの製造方法である。
請求項3記載の発明は、前記ガスケットを成型する工程は、前記フィルムの内表面を、ゴムと重ね合わせる前に粗面化する工程を含むことを特徴とする、請求項2に記載のガスケットの製造方法である。
請求項5記載の発明は、前記流動性の素材は金属ペーストを含むことを特徴とする、請求項1に記載のガスケットの製造方法である。
請求項6記載の発明は、前記凸部を固形化する工程は、加熱工程を含むことを特徴とする、請求項1、4または5に記載のガスケットの製造方法である。
また、この発明によれば、封止性に優れ、長期間薬液と接しても薬液の効果や安定性に悪影響を与えない医療用注射器、特にプレフィルド注射器を得ることができる。
また、この発明において、フィルムの表面に形成する凸部は、高さ1μm~50μmで、幅が1μm~70μmであれば、より好適に液漏れを防止することができる。
図1は、この発明の一実施形態に係る医療用注射器、いわゆるプレフィルド注射器と呼ばれる注射器を分解状態で示す図である。図1において、シリンジ11およびガスケット13は、半分が断面で表わされている。
図1を参照して、プレフィルド注射器10は、円筒形状のシリンジ11と、シリンジ11と組み合わされ、シリンジ11内を往復移動し得るプランジャ12と、プランジャ12の先端に装着されるガスケット13とを含んでいる。ガスケット13は、弾性材(ゴムまたはエラストマ等)で構成された本体14と、本体14の表面にラミネートされたフィルム15とを含むいわゆるラミネートガスケットである。ガスケット13にはシリンジ11の内周面16と気密的・液密的に接する円周面部17が備えられている。
ガスケット13は、短軸の略円柱形状で、その先端面19は、たとえば軸中心部が突出する鈍角の山形形状をしている。そして後端面20から軸方向に彫り込まれた雌ねじ形状の嵌合凹部21が形成されている。プランジャ12のヘッド部18が、ガスケット13の嵌合凹部21にねじ込まれることにより、プランジャ12の先端にガスケット13が装着される。
図2は、図1に示すガスケット13だけを拡大して描いた図で、ガスケット13の半分が断面で示されている。
ガスケット13は、本体14と、本体14の表面にラミネートされたフィルム15とを含む。本体14は、弾性材で構成されていればよく、その素材に関しては特に限定されるものではない。たとえば、熱硬化型ゴムや、熱可塑性エラストマで構成することができる。このうち、耐熱性に優れることから、熱硬化性ゴムや、熱可塑性エラストマのうち架橋点を有する動的架橋型熱可塑性エラストマがより好ましい。これらのポリマー成分も特に限定されるものではなく、強いて言えば、成型性に優れるエチレン-プロピレン-ジエンゴムやブタジエンゴムが好ましい。また、耐ガス透過性に優れるブチルゴム、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴムも好ましい。
この実施形態に係るラミネートガスケット13の特徴は、シリンジ11の内周面16に気密的、液密的に接する円周面部17を備えており、その円周面部17の表面にラミネートされたフィルム15には、周方向に延びる凸部22が形成されていることである。
しかし、凸部22の本数としては、1本以上であればよく、ガスケット13の軸方向に所定の間隔を開けて複数本設けてもよく、特に上限を設ける必要はない。また、周方向に延びる円環状の凸部とはせず、途中で途切れた部分があってもよいが、円周面部17の少なくとも全周において、いずれか1本の凸部が存在している形態であればよい。
凸部22の作成方法としては、ガスケット13を成型後に凸部22を形成することにより、本発明の効果を得ることができる。ガスケット13の成型と同時に凸部を成型した場合、即ち金型に予め凸部に対応する構造を作り形状を転写する場合、成型された凸部構造が脱型により傷などの損傷を受けることを防ぐためである。また、ガスケット13の成型後に凸部22を形成することで、ガスケット成型時、および、脱経時に生じた傷などを、その後の凸部22の形成工程によってある程度修復できるためである。
流動性を有する素材を用いる長所としては、積層する場合に塗布などの簡便な方法が使用できるためである。積層(塗布)の方法としては公知の方法を用いれば良く、印刷法、スプレー塗布法等が挙げられる。
加熱する温度としては、基材へのダメージを少なるするように、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。あるいは基材へのダメージを少なくする方法の一つとして、積層部のみ加熱する方法が考えられる。特に限定するものではないが、例えば照射範囲を積層部のみに限定したレーザー光による加熱が挙げられる。レーザー光としては特に特定しないが、加熱効果が大きく、分解効果の小さい長波長側のレーザー光が好ましい。この場合、積層体を所望の凸形状より幅広く塗布した後、レーザー光により部分的に加熱することで所望の部位のみ固形化させ、残余の部分を洗浄によって除去することで、所望の凸形状を得てもよい。
形成する凸部22の高さHとしては、1μm以上50μm以下が好ましく、15μm以上35μm以下がより好ましい。また凸部22の幅Wとしては、1μm以上70μm以下が好ましく、10μm以上40μm以下がより好ましい。
この実施形態に係るガスケット13は、以下の製造工程により製造される。
(1)ガスケット成型金型を準備する工程、
(2)金型内にて、表面にフィルムがラミネートされたガスケットを成型する工程、
(3)金型からラミネートガスケットを取り出した後、円周面部に流動性のある素材で
周方向に延びる凸部を積層する工程、
(4)積層された凸部を固形化する工程
により製造される。
たとえば、架橋材が混合された加硫前のゴムのシート等にフィルムが重ね合わされ、成型金型により加硫成型されて、所定の形状のガスケットに加工される。
この場合において、フィルム15のゴムが重ね合わされる内表面は、予め粗面化処理されていることが好ましい。フィルム15の内表面を粗面化処理することにより、接着材等を使用することなく、加硫成型によってフィルム15とゴムとを強固に固着できるからである。この固着は、加硫されたゴムが粗面化したフィルム15の内表面に入り込んだアンカー効果によるものである。
ガスケットを金型で成型した後、凸部22を形成することにより、封止性に優れたガスケットを製造することができる。ガスケットの成型後に凸部22を形成する方法(凸部を積層する工程および積層された凸部を固形化する工程)については、先に説明した通りである。
各種フィルムと未加硫ゴムにて、ガスケット形状に加硫成形した。この時、接着処理済みのフィルムを積層しておくことで、積層したフィルムとゴムの複合体を得た。引き続き流動性を示す素材を積層し固形化した物(実施例)及び、実施しなかったもの(比較例)を得た。
実施例、比較例共に、高圧蒸気滅菌機内において121℃1時間を保持することで、洗浄工程とした。
フッ素樹脂 PTFEフィルム (サンゴバン株式会社製 CHEMFILM (登録商標) DF1200) 無着色、および着色品を使用した。
フィルムの接着処理は、特許第4908617号公報に記載の方法で実施した。接着処理はフィルムの両面に対して実施して仕様した。使用したフィルムの厚みは表1に記載した。なお、成型後のフィルム厚みは減少しており、総じて元の厚みの約3分の1に変化していた。
架橋剤は、2-ジ-n-ブチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン(三協化成株式会社製、ジスネットDB(登録商標))を用いた。
製造条件: 加硫温度180℃、加硫時間8分、処理圧力20Mpa
製品形状として、ガスケットの最大径φを6.60mmに成形した。
凸部の積層および固形化は、上記製品形状を得た後に実施した。
・フッ素樹脂ディスパージョン:ダイキン工業株式会社製、ポリフロンD210-C
・大研化学工業株式会社製、銀粒子を含む熱硬化タイプの導電性ペーストCA-6178
いずれもマイクロディスペンサー(兵神装備株式会社製)を用いて、ガスケットを周方向に回転させながら塗布した。吐出量は一定とし、ガスケットの回転速度を変更することで、実施例1~5を得た。
流動体を積層後、80℃にて1時間予備乾燥を実施した後、下記のいずれかの方法によった。
A.オーブンでの加熱: 所定の温度(200℃、もしくは130℃)に設定したオーブン内に1時間設置により実施した。
B.レーザー光による加熱: アライドレーザー株式会社製の多用途マニュアル機を用いた。発信器としてハイブリッドレーザーを用いて、波長1064nmのレーザー光を照射した。加工はスポット径10μmにて実施した。
・凸部の寸法測定
凸部を固形化後の製品をレーザーマイクロ顕微鏡(株式会社キーエンス製 VK-X100)を用いて、倍率50倍の対物レンズを用いて表面形状の測定を行った。凸部の最大高さ部分、および、幅部分を画面より選択し数値を得た。製品上の4箇所を測定し、その算術平均を表した。
・薬液の封止性
成型後の製品をシリンジに挿入後、試験液を充填し、反対側をキャップした。40℃にて1週間静置後、ビデオマイクロスコープ(ライカマイクロシステムズ株式会社製DVM5000)にて対物レンズ50倍で観察し、液漏れの有無を測定した。20個の製品を観察し、試験液がガスケットの最大径部分を越えたものは、液漏れと判定し、その個数を記載した。3以下を良好とした。試験液は水に色素(メチレンブルー シグマアルドリッチジャパン合同会社製)0.2g/L、および界面活性剤(ポリソルベート80 日油株式会社製)1.0g/L加えたものを使用し、シリンジはシクロオレフィン樹脂製の内径φ6.35mmを使用した。
ガスケットの成型後に凸部の形成を実施しなかった比較例1に比べて、実施例1~5はいずれも液漏れ本数が顕著に減少しており好ましい結果となった。
11 シリンジ
12 プランジャ
13 ガスケット
14 本体
15 フィルム
17 内周面部
22 凸部
Claims (6)
- 医療用注射器に適用されるガスケットの製造方法であって、
ガスケット成型金型を準備する工程、
金型内にて、表面にフィルムがラミネートされたシリンジの内周面に接する円周面部を有するガスケットを成型する工程、
金型からガスケットを取り出した後、ガスケットの前記円周面部における前記フィルムの表面の幅方向の一部に周方向に流動性の素材により高さが15μm以上55μm以下で幅が30μm以上75μm以下の凸部を、前記円周面部における当該凸部に対して前記幅方向の一方側および他方側で前記フィルムの表面が露出するように付加的に形成する工程、および
形成された流動性の素材による凸部を固形化する工程、
を含むことを特徴とする、医療用注射器に適用されるガスケットの製造方法。 - 前記ガスケットを成型する工程は、前記フィルムの内表面に加硫前のゴムを重ね合わせて金型内に入れ、加硫成型する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載のガスケットの製造方法。
- 前記ガスケットを成型する工程は、前記フィルムの内表面を、ゴムと重ね合わせる前に粗面化する工程を含むことを特徴とする、請求項2に記載のガスケットの製造方法。
- 前記流動性の素材はフッ素樹脂を含むことを特徴とする、請求項1に記載のガスケットの製造方法。
- 前記流動性の素材は金属ペーストを含むことを特徴とする、請求項1に記載のガスケットの製造方法。
- 前記凸部を固形化する工程は、加熱工程を含むことを特徴とする、請求項1、4または5に記載のガスケットの製造方法。
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