まずは、本発明において対象となるポンプ装置と、そのようなポンプ装置において、潤滑剤の漏れが発生する原因を説明する。
図1Aおよび図1Bはそれぞれ、対象となるポンプ装置101の概略断面図および分解斜視図である。ポンプ装置101は、羽根車30と、ポンプ胴体32と、胴体カバー21とを備えたポンプ100と、主軸1、軸受2,3、軸受胴体4、軸受カバー5,6、および、オイルシール11,12、などを備えている。また、ポンプ胴体32は、搬送液の吸込口32-2並びに吐出口32-1を備える。ポンプ装置101は、住居や商業スペースとは区別された機械室やポンプ室、または工場設備内等に設置されることが多い。
主軸1は、一端側(図1Aおよび図1Bの右側)に羽根車30が取り付けられ、他端側である主軸端20(同左側)には、カップリングを介して、駆動機の一種である電動機(不図示)の回転軸が連結されるように構成されている。ポンプ100の運転時には、電動機に駆動されて主軸1が予め定められた方向に回転することにより、ポンプ100は、吸込口32-2から流入した搬送液を、羽根車30の回転による遠心力にて加圧して、吐出口32-1へと流出する。ポンプ装置101は、主軸1が軸受胴体4に覆われて略水平方向に延びており、間隔を隔てて配置された2つの軸受2,3によって回転可能に支持される横軸形のポンプ装置である。また、軸受2の主軸端20側に、主軸1が貫通する軸受カバー5がボルト10aによって軸受胴体4に取り付けられている。軸受3の羽根車30側において、主軸1が貫通する軸受カバー6がボルト10bによって軸受胴体4に取り付けられている。
主軸端20側の軸受2,羽根車30側の軸受3間において、主軸1は大径軸1aとなっている。軸受2の羽根車30側の鉛直面は、大径軸1aの一端部に当接される。軸受3のモータ側の鉛直面は、大径軸1aの他端部に当接される。軸受2,3の外側の面は、軸受胴体4に取り付けられた軸受カバー5,6の突起部分7によってそれぞれ両側から挟み込まれている。
軸受胴体4内の軸受2,3間には潤滑剤が貯蔵されており、ポンプ100の運転時には、必ず軸受2,3の少なくとも一部が潤滑剤に浸った状態である必要がある。ポンプ100の運転中において、軸受胴体4内の潤滑剤は、温度上昇により蒸発するので、軸受胴体4には空気抜きを目的とするキャップ14と、潤滑剤の減り具合を見るためのオイルゲージ15とが設けられている。また、プラグ16を抜くことで潤滑剤を軸受胴体4外へ排出できるようになっている。なお、本実施形態における潤滑剤としては、液状の潤滑油が用いられるが、半固状のグリースが用いられてもよい。ポンプ100の運転にて軸受2,3が高温となりグリースは液化する。
潤滑剤が主軸1の外周面を伝わって外部に漏れるのを防止するために、軸受カバー5,6にはオイルシール11,12がそれぞれ組み込まれている。また、軸受カバー6の外側において、主軸1に水切りリング13が嵌められていてもよい。さらに、軸受3の外側の鉛直面と、軸受カバー6との間には、弾性座金の一種である波座金9が介在されているとよい。この波座金9には、ボルト10bの締め付け力により圧縮応力が与えられており、主軸1には軸受3を介して電動機側への反力が作用する。
軸受胴体4の上部には釣り具17が取り付けられている。また、軸受胴体4は支持台18で支持されている。軸受胴体4は軸受2,3を覆っているが、一部に開口4aが設けられている(図1B参照)。また、軸受胴体4の羽根車30側はボルト36によって中間板37に固定される。また、中間板37は羽根車30を収納したポンプ胴体32にボルト38によって固定される。これにより、軸受胴体4とポンプ胴体32とが一体化される。軸受胴体4と中間板37との間および中間板37とポンプ胴体32との間にはガスケットが介在されてシールしている。
ポンプ胴体32の主軸1側には、主軸1が貫通する胴体カバー21が設けられる。胴体カバー21の貫通部分には軸封装置が施されている。図1には軸封装置としてグランドパッキン23を用いる例を示しているが、メカニカルシールであってもよい。軸封部は回転摩擦を生じるので、主軸1にはグランドパッキン23用の軸スリーブ25が嵌合されており、その軸スリーブ25と胴体カバー21の筒状部21aとの間には、グランドパッキン押さえ28を介して、ボルト29によってグランドパッキン23が締め付けられている。
主軸1の先端に設けられたキー19には羽根車30が嵌め込まれ、ナット31によって固定されている。羽根車30のシュラウド側Iとポンプ胴体32との間にライナーリング33が設けられ、また、バックシュラウド側Bと胴体カバー21との間にライナーリング34が設けられている。そして、羽根車30のボス部に近いところに複数個のバランスホール35が形成されている。
図2Aは、本実施形態に係るポンプ装置101の主軸1、オイルシール11および軸受2近傍の拡大断面図である。また、図2Bは、図2Aのオイルシール11近傍(図2Aの破線部)をさらに拡大した図である。図示のように、主軸1は羽根車30を所定方向(本例では、電動機側(図2Aの左側)から見て時計回り)に回転させることによって、ポンプ100は液体輸送機械として作用することが出来る。以下、図2Bに示すように、主軸1の径方向中心を含む水平面、オイルシール11、軸受カバー5、軸受2で囲まれた空間Sとする。また、主軸1の外周面、オイルシール11、軸受カバー5、軸受2、潤滑剤の油面OLで囲まれた空間には、潤滑剤が油煙(ミスト)となって充満している。
ポンプ装置101は、横軸形のポンプ装置であるため、主軸1の軸心は略水平であり潤滑剤の油面OLと略平行である。また、潤滑剤は、メンテナンスにて定期的に交換または補充され、潤滑油の油面OLは、オイルゲージ15の中心付近、具体的には、主軸1の下端より下であり且つ軸受2,3の下端より上の液位にて使用される。つまり、通常の状態では、主軸1より低い位置にある軸受2,3の一部分が潤滑油に浸った状態でポンプ100は運転される。
図2Bでは、オイルシール11として、補強環11a、シールリップ部材11b、ガータスプリング11cなどから構成されるリップシールを例示している。補強環11aは径方向断面形状がほぼ横L字形であり、この補強環11aにシールリップ部材11bが環状に被着されている。シールリップ部材11bの主軸1側は断面形状がほぼ逆三角形であり、その三角形の頂点に対応するエッジ形状の部分がリップ11dを形成している。このリップ11dは、主軸1の外周面上に圧接されたとき変形して所定の軸方向接触幅で主軸1の外周面上を摺動する。リップ11dの外周には、リップ11dを主軸1の外周面に対して圧接させるガータスプリング11cが装着されている。
ここで、このリップ11dは、主軸1の外周面上を摺動するので、リップ11dと主軸1との摺動部間には、潤滑剤が必要である。潤滑剤によって、摺動面の摩擦による発熱を抑え、オイルシール11並びに主軸1の寿命を長くすることが出来る。このリップ11dと主軸1との摺動部間の潤滑剤には、軸受胴体4内の潤滑剤が用いられる。また、ポンプ1の連続運転における軸受2,3の発熱が主軸1を介してリップ11dに伝わると、リップ11dが硬化して寿命を低下させてしまう虞があるため、軸受2,3とオイルシール11間には所定の距離が必要である。
以降、主軸1の外周面とオイルシール11との摺動部(リップ11dと主軸1の外周面上との圧接面)にて、主軸端20側と軸受2側の2つの空間に仕切り、1つ目の空間として空間Sを含むオイルシール11の軸受2側の空間を被密封流体側と称し、2つ目の空間としてポンプ装置101の外側且つオイルシール11より主軸端20側の空間を大気側と称する。
ここで、上述したようにポンプ装置101は、ポンプ室等の高温となる設置環境にて使用されたり、24時間稼働する工場設備等で用いられたりすることもある。このような環境下で、ポンプ100を連続運転すると、軸受2の回転部材と固定部材との摺動部の潤滑剤が高温となって潤滑剤の粘性が低くなり、オイルシール11にて被密封流体側から大気側へ潤滑剤の漏れ量が多くなる虞がある。また、経年劣化により主軸1の外周面における摺動面にリップ溝1bが形成されたり、ガータスプリング11cの押圧が弱くなったりして、リップ11dの主軸1への押圧が弱くなり、潤滑剤が被密封流体側から大気側へ漏れ量が多くなる。
上述したように、オイルシール11と主軸1の外周面との摺動面には潤滑剤が必要であり、且つポンプ装置101は、ポンプ室等に設置されることが多いため、潤滑剤が主軸1の表面を伝って主軸1が湿っている程度であれば許容される。しかしながら、被密封流体側から大気側へと漏れる潤滑剤の量が増加すると、潤滑剤が主軸1から垂れ落ちたり、主軸1の回転による遠心力で跳ねたりして周囲を汚してしまうおそれがある。更には、軸受胴体4内に貯蔵されている潤滑剤が減ってしまって、潤滑剤の補充や交換等のメンテナンス頻度が多くなる。そこで、図10に示す本実施形態では、オイルシール11より大気側へ漏れた潤滑剤を被密封流体側へ戻すために、図2Aおよび図2Bに示す主軸1の外周面に図3Aおよび図3Bに示すような溝1cを形成する。また、以下、上述した図1と本実施形態の図10とにおいて、同様の構成には同じ符号を付与し、説明を省略する。
図3Aは、図10に示す本実施形態における主軸1、オイルシール11および軸受2近傍の拡大断面図である。また、図3Bは、図3Aのオイルシール11近傍(図3Aの破線部)をさらに拡大した図である。図示のように、主軸1の外周面には、傾斜した溝1c(凹凸)を形成する。電動機側(主軸端20側)から見て時計回りの方向に主軸1が回転する場合、溝1cの傾斜方向は、主軸端20側から軸受2側に向かって高くなる方向に傾斜させる。なお、この溝1cは全周に渡って形成されるのが望ましいが、一部に溝1cがない部分があっても構わない。また、溝1cの凹凸は一定の間隔にて形成されることが望ましいが、不規則な間隔で凹凸が形成されても構わない。
主軸1が回転すると、大気側にある溝1cによって空気の流れが生じて大気側から被密封流体側に押し戻される。すなわち、溝1cの傾斜の方向は、主軸1が回転した際に、摺動面の潤滑剤が軸受2側に戻されるような潤滑剤の流れである第1の流れFL1を形成する方向とも言える。
さらに、ポンプ装置101は、上述したように潤滑剤の油面OLが主軸1の下端よりも低い状態にてポンプ100が運転されるため、ポンプ100の運転中に、空間Sにおいて、軸受2からの潤滑剤が軸受カバー5に飛散し、リップ11dと主軸1の外周面との摺動面の潤滑剤が存在する位置にオイルシール11を配置するとよい。本実施形態におけるオイルシール11の配置位置調整の一例としては、ボルト10aの締め付け力と突起部分7の厚さを加減して、軸受カバー5の位置を調整することによって、オイルシール11の主軸1上の配置位置を調整するとよい。また、オイルシール11の主軸1方向の位置を調整するのみではなく軸受2の軸方向の位置を調整してもよい。調整の際には、軸受2とオイルシール11間には上述した所定の距離以上とする。一例として軸受2とオイルシール11との距離は5~50mm程度である。また、1もしくは複数個のボルト10aおよび突起部分7を用いても良い。
空間Sにおいて、軸受2からの潤滑剤がオイルシール11に飛散する位置にオイルシール11を配置すると、軸受カバー5の空間S側の側面やオイルシール11を伝って、リップ11dと主軸1の外周面との摺動面に流れる潤滑剤の流れである第2の流れFL2が形成される。本実施形態では、第2の流れFL2によってオイルシール11への潤滑剤の補給しつつ、上述した溝1cによる潤滑剤の流れである第1の流れFL1によって潤滑剤の軸受胴体4へ戻す。この潤滑剤の流れFL1とFL2が繰り返されることによって、オイルシール11と主軸1の外周面との摺動を良好に保ちつつ、潤滑剤が大気側へ漏れるのを抑制できる。
オイルシール11は、軸受2からの潤滑剤が飛散する位置に配置されるとともに、主軸1の外周面には、ポンプ100が運転した際に、オイルシール11から大気側の主軸1の外周面に露出した潤滑剤が被密封流体側に押し戻される方向に傾斜した溝1cが設けられている。よって、オイルシール11と主軸1の外周面との摺動を良好に保ちつつ、潤滑剤が大気側へ漏れるのを抑制できる。
ここで、傾斜した溝1cは、主軸1の外周面のうちオイルシール11に対向する領域に対して大気側の方に隣接する領域の少なくとも一部に設けられている。すなわち、この溝1cは、少なくとも主軸1の外周面におけるオイルシール11との摺動面に隣接し、且つ大気側に形成されていればよい(図3Bの符号A)。これにより、主軸1が回転すると、溝1cによって空気の流れが生じて、潤滑剤の流れFL1によって大気側に漏れた潤滑剤を押し戻す効果が得られる。
また、傾斜した溝1cは、主軸1の外周面におけるオイルシール11との摺動面に設けられている。すなわち、溝1cは主軸1の外周面におけるリップ11dとの摺動面(あるいはリップ溝1b)の少なくとも一部に形成もしくは延在していてもよい(図3Bの符号B)。相対的に摺動する摺動面におけるシール部の圧力が低下して、リップ11dと主軸1との摺動面における溝1c内の潤滑剤の油膜中に泡が生じる。この泡によって、リップ11dと主軸1と摺動面を低摩擦化(「低フリクション化」ともいう。)することができる。それによりリップ11dと主軸1の外周面の摩擦や摩耗を減らすことができる。
更には、傾斜した溝1cは、主軸1の外周面の被密封流体側の少なくとも一部に設けられている。すなわち、溝1cは、主軸1の外周面のオイルシール11との摺動面に隣接し、且つ、被密封流体側の少なくとも一部に形成もしくはさらに延在していてもよい(図3Bの符号C)。そうすることで、より潤滑剤を軸受2の方へ戻すことができる。特に、溝1cを軸受2に当接するまで延伸し、大気側から押し戻された潤滑剤を軸受2の側面2-1まで到達させると、潤滑剤の油面OLは主軸1よりも低いので、大気側から押し戻された潤滑剤は、溝1cを伝って主軸1より下方に位置する軸受2の側面2-1を伝って、軸受2内へ速やかに戻すことができる。
よって、溝1cの形成並びに軸受2からの潤滑剤がオイルシール11に飛散する位置にオイルシール11を配置することで、潤滑剤が外部へ飛散して周囲を汚すのを防止したり、ポンプ装置101における潤滑剤の漏れに伴う軸受胴体4への潤滑剤の補充や交換のメンテナンス作業を軽減できる。また、経年劣化によりリップ11dの押圧が弱くなった場合でも、第1の流れFL1によって潤滑剤を被密封流体側へ戻すことでシール性を確保できるので、結果として、オイルシール11の交換寿命を長くすることができる。更には、ポンプ100が運転中は、潤滑剤の第2の流れFL2によって、リップ11dと主軸1の摺動部には、潤滑剤が供給されるため、摺動面の摩擦による発熱や摩耗を抑え、オイルシール11並びに主軸1の寿命を長くすることもできる。
また、図10に示すように羽根車30側に配置された軸受3とオイルシール12、軸受3とオイルシール12と対向する主軸1の外周面にも溝1cの形成並びに軸受3からの潤滑剤がオイルシール12に飛散する位置にオイルシール12を配置することで、オイルシール12と主軸1との摺動を良好に保ちつつ、オイルシール12からの潤滑剤の漏れを抑制することができる。
なお、主軸1における少なくともオイルシール11並びに12の摺動面を含む位置には、主軸1の摺動面の保護のために不図示の軸スリーブを用いてもよい。その場合、主軸1は、軸スリーブに嵌入されており、主軸1と軸スリーブは径方向に同心状で同回転する。よって、軸スリーブは主軸の一部とする。更には、後述する図3Cまたは図3Dのオイルシール11’または11’’を用いたポンプ装置101でも、溝1cの形成並びに軸受2または3からの潤滑剤がオイルシール11’または11’’に飛散し得る位置にオイルシール11’または11’’を配置することでオイルシール11’または11’’と主軸1との摺動を良好に保ちつつ、大気側への潤滑剤の漏れを抑制することができる。
また、図1Aでは、単段片吸込遠心ポンプを用いたポンプ装置101を例示して説明したが、任意のポンプ装置、特に潤滑剤を使用したオイルバス方式の軸受、軸受けの潤滑剤をシールするオイルシール、並びに横軸ポンプを備えた横軸形ポンプ装置に本実施形態である主軸1の外周面における溝1cならびに軸受とオイルシールの配置を適用可能である。
実施形態の一例であるポンプ装置101では、経年劣化により所定量以上の潤滑剤が大気側へ漏れるようになった図1のポンプ装置101に対して、次のようなメンテナンスを行うこともできる。すなわち、図2Aおよび図2Bにおけるオイルシール11と主軸1とを分離し、主軸1の外周面に図3Aおよび図3Bに示すような溝1cを形成した上で、元のオイルシール11あるいは新品のオイルシール11と主軸1とを取り付けることにより図10に示すポンプ装置101となる。
この際、オイルシール11は、完全に主軸1から分離する必要はない。オイルシール11を主軸1上でスライドさせることで主軸1の外周面におけるオイルシールとの摺動面から離す工程としてもよい。
図3Aは、メンテナンス後の主軸1、オイルシール11および軸受2近傍の拡大断面図である。また、図3Bは、図3Aのオイルシール11近傍(図3Aの破線部)をさらに拡大した図である。図示のように、主軸1の外周面には、傾斜した溝1c(凹凸)が形成される。電動機側から見て時計回りの方向に主軸1が回転する場合、溝1cの傾斜方向は、電動機側から軸受2側に向かって高くなる方向に傾斜している。
このような溝1cを形成することで、主軸1が回転すると、大気中にある溝1cによって空気の流れが生じることにより大気側から被密封流体側に潤滑剤が押し戻される。すなわち、溝1cの傾斜方向は、主軸1が回転した際に、大気側の潤滑剤が軸受2側に戻されるような方向とも言える。これにより、潤滑剤が漏れるのを抑制できる。
この溝1cは、少なくとも主軸1の大気側に形成されていれば、主軸1が回転すると溝1cによって空気の流れが生じることにより潤滑剤を押し戻す効果が得られる。また、溝1cは主軸1における摺動面(あるいはリップ溝1b)の少なくとも一部に形成または延在していてもよい(図3Bの符号B)。これにより、オイルシール11と主軸1との摩擦を減らすこともできる。また、溝1cは主軸1における摺動面(あるいはリップ溝1b)から軸受2側(図3Bの符号C)の少なくとも一部に形成または延在していてもよい。これにより、潤滑剤を押し戻す効果がさらに増大する。
このように、本実施形態では、軸受2から飛散した潤滑剤がオイルシール11と主軸1の外周面との摺動面に達する位置にオイルシール11と軸受2が配置される。そして、主軸1が回転することにより、そのような潤滑剤の一部が軸受2側に押し戻される。結果として、潤滑剤が漏れるのが抑えられ、かつ、オイルシール11と主軸1との摺動面には適切な量の潤滑剤が介在することとなる。
なお、このようなメンテナンスは、図1において羽根車30側に配置された軸受3とオイルシール12、軸受3とオイルシール12と対向する主軸1の外周面にも適用可能である。すなわち、オイルシール12と主軸1の外周面との摺動面を離し、オイルシール12と主軸1との摺動面より羽根車30側(軸受3の反対側)に傾斜した溝1cを形成してもよい。溝1cの傾斜方向は、主軸1が回転した際に、摺動面の潤滑剤が軸受3側に戻されるよう方向であり、軸受2側に形成する溝1cとは逆である。
さらに、オイルシールとして種々のものを適用できる。
図3Cは、図3Bとは異なるオイルシール11’を適用した場合の拡大図である。主軸1の一部として、シール用スリーブ80が設けられる。そして、オイルシール11’は、断面がL形状の樹脂製のシールリップ部材81を備え、該シールリップ部材81は、断面が略L形状の外側の結合金属環82と断面が略L形状の内側の押え金属環83とにより挟持される。シールリップ部材81の内周側に筒状リップ84が形成され、この筒状リップ84は図3Bのリップ11dに相当し、シール用スリーブ80の外周面と強く密接して被密封流体をシールする。図3Cに示すオイルシール11’を用いる場合には、主軸1の一部であるシール用スリーブ80に溝1cが形成されてもよい。
図3Dは、図3Bとはまた異なるオイルシール11’’を適用した場合の拡大図である。オイルシール11’’は筒状部92を有する。設置環境によっては、大気側よりゴミ等の異物が混入する場合がある。そこで、筒状部92によりオイルシール11’’に異物が侵入するのを阻止する。よって、大気側からの異物の混入によるオイルシール11’’のリップ部と主軸1の外周面における摺動面の摩耗を減らすことができる。
以下、メンテナンスの手順を詳細に説明する。
図4は、ポンプ装置101のメンテナンス手順を示す工程図である。なお、図4は手順の一例にすぎず、適宜各工程を入れ替えたり、省略したりしてもよい。
まず、不図示の電動機との連結を外す。(ステップS1)。また、プラグ16を外して、軸受胴体4から潤滑剤を抜く(ステップS2)。続いて、ポンプ胴体32用のボルト38を外し、中間板37、胴体カバー21および軸受胴体4をポンプ胴体32から外す(ステップS3)。これにより、図5に示す状態となる。
その後、羽根車30用のナット31を外し、羽根車30を主軸1から抜く(ステップS4)。そして、主軸1から羽根車30側のキー19を外す。これにより、図6に示す状態となる。さらに、ボルト36を外し、中間板37および胴体カバー21を軸受胴体4から外す(ステップS5)。次いで、グランドパッキン23用のボルト29を外してグランドパッキン23を外す(ステップS6)。これにより、図7に示す状態となる。
そして、水切りリング13が存在する場合は、水切りリング13を主軸1から抜き取る(ステップS7)。次いで、軸受カバー5,6用の各ボルト10a,10bを外し、軸受カバー5,6およびオイルシール11,12を軸受胴体4から外して主軸1を抜く(ステップS8)。これにより、図8に示す状態となる。このようにして、主軸1とオイルシール11,12とが分離される。主軸1を抜く際、軸受2,3の回転状態を点検し、円滑な回転ができない場合には軸受2,3を交換する。
そして、主軸1における軸受2,3の近傍に、図3Aおよび図3Bを用いて説明した溝1cを形成する(ステップS9)。これにより、図9に示す状態となる。具体的には、主軸1の外周面に傷をつけることで溝1cを形成する。なお、この溝1cは全周に渡って形成されるのが望ましいが、一部に溝1cがない部分があっても構わない。
その後、必要に応じてオイルシール11,12を新品のものとし、逆の手順によってポンプを組み立てればよい。これにより、図10に示す潤滑剤漏れが少ない新たなポンプ装置(潤滑剤漏れ抑制ポンプ装置)が製造されるとも言える。
このように、本実施形態では、主軸1の外周面に所定方向に傾斜した傷をつけて溝1cを形成するという簡易な手法により、潤滑剤が主軸1を伝って漏れるのを抑制できる。
なお、メンテナンスとして主軸1に溝1cを形成するのではなく、新品のポンプの主軸1の外周面に予め溝1cを設けておいてもよい。また、図1Aでは、単段片吸込遠心ポンプを用いたポンプ装置101を例示して説明したが、任意のポンプ装置、特に潤滑剤を使用したオイルバス方式の軸受、オイルシール、並びに横軸ポンプを備えた横軸形ポンプ装置に本実施形態を適用可能である。
上述した手順にてメンテナンスを行ったポンプ装置101は、潤滑剤の漏れに伴う潤滑剤の補充や交換のメンテナンス作業を軽減できる。また、経年劣化によりリップ11dの押圧が弱くなった場合でも、第1の流れFL1によって潤滑剤を軸受胴体4へ戻すことでシール性を確保できるので、結果として、オイルシール11の交換寿命を長くすることができる。更には、ポンプ運転中は、潤滑剤の第2の流れFL2によって、リップ11dと主軸1の外周面の摺動部間には、潤滑剤が供給されるため、摺動面の摩擦による発熱や摩耗を抑え、オイルシール11並びに主軸1の寿命を長くすることもできる。なお、図1において羽根車30側に配置された軸受3とオイルシール12、軸受3とオイルシール12と対向する主軸1の外周面にも適用可能である。
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲とすべきである。
<第2の実施形態>
続いて第2の実施形態について説明する。まず従来技術の問題点について説明する。
特許文献6では、外箱(軸受カバー)の端部壁内面の少なくとも上半分に、回転軸を囲繞する油流下部が設けられている。回転軸上方から外箱の端部壁内面に沿って流下する油滴は油流下部によって回転軸を避けるように外箱の下部に流下して、貫通部と回転軸との間から油が漏出するのを防止する。具体的には、端部壁内面には回転軸を囲繞する溝が形成されているので油滴が溝内に流入して回転軸を避けるように案内されて流下する。そして、溝最下部から流出し外箱の下部に貯留される。油滴は溝に案内されて回転軸を避けるように流下するので油が回転軸とシール部材との間から漏出することを防止する。
しかしながら、回転軸の回転速度によって軸受からの油滴の飛散は異なる。昨今の省エネルギー化の要望からインバータ等の可変速手段を用いてポンプの回転速度を制御(例えば、該知の圧力一定制御や推定末端圧制御等)する場合がある。回転軸の回転速度が低速の場合、軸受から飛散する油滴の飛散距離が短くなり、油滴が外箱(軸受カバー)まで到達せずに、回転軸を円周方向に伝って貫通部と回転軸との間から油が漏出する虞があるという問題がある。また、回転機械の軸受けの潤滑剤は、液状の潤滑油だけではなく半固形状のグリース等が用いられることがあるが、特許文献6で、半固形状の潤滑剤や劣化して粘性が高い潤滑油を用いると、回転軸を囲繞する溝内で固まってしまい、油滴を流下する作用を果たさない。
特許文献7で、軸受と軸受カバーとの間は、油カバーと油切リングとが配置されており、軸受カバーの内面における軸受と対向する部位は、油逃がし溝が形成されている。そして、特許文献7には、軸受カバーと油カバーと油切リングとは、主軸が回転した際に軸受から飛散する潤滑油が油逃がし溝より外部(電動機の側)に流出するのを抑制する潤滑油流出抑制装置として機能することが開示されている。
しかしながら、この潤滑油流出抑制装置は、軸受カバーに油カバーを取り付けるため、部品点数が増えるという問題がある。また、油逃がし溝にて潤滑油をシールする機構に用いられる。回転機械の軸受けの潤滑剤は、液状の潤滑油だけではなく半固形状のグリース等が用いられることがあるが、特許文献7の潤滑油流出抑制装置は、半固形状の潤滑剤ならびに潤滑油をシールする機構としてのオイルシールが考慮されていない。
特許文献4には、回転軸に加工したポンピング部にて、静止時の漏れ防止、被密封流体を吸い込む作用、被密封流体を吐き出す作用の3つの作用を担う。また、摺動面が両方向に回転する場合にも対応しているため、ポンピング部の形状は複雑且つ加工精度が要求される。このため、メンテナンス時に潤滑剤の漏れ対策を行う場合、潤滑剤の漏れが起きたポンプが設置されている所で、このような加工を行うことは難しく、一旦、専用の加工機がある工場等に持ち帰って加工する必要があり、時間及び労力がかかるという問題があった。
更に、搬送液を加圧して圧送するポンプ装置における軸受の潤滑剤の漏れは、設置される場所、使用する環境、および、使用状況によって異なる。また、潤滑剤の漏れが許容される範囲は、ポンプの運用者によって異なる。よって、潤滑剤の漏れ対策は、出荷時やメンテナンス時に追加加工が容易な手段であることが望まれる。特に、メンテナンス時に潤滑剤の漏れ対策を行う場合、該対策は、環境温度、ポンプの回転速度、軸受の潤滑剤の種類、および、潤滑剤のシール装置等によらず作業できることが望まれる。
まずは、本発明において対象となるポンプ装置と、そのようなポンプ装置において、潤滑剤の漏れが発生する原因を説明する。
図11Aおよび図11Bはそれぞれ、対象となるポンプ装置301の概略断面図および分解斜視図である。ポンプ装置301は、羽根車230と、ポンプ胴体(ポンプケーシング)232と、胴体カバー221とを備えたポンプ300と、主軸(シャフト)201、軸受202,203、軸受胴体204、軸受カバー205,206、および、オイルシール211,212、などを備えている。また、ポンプ胴体232は、搬送液の吸込口232-2並びに吐出口232-1を備える。ここで、オイルシール211,212は、径方向内外で同心状に配置されている主軸201と軸受カバー205との間をシールするシール部材の一例である。一例として、ポンプ装置301は住居や商業スペースとは区別された機械室やポンプ室、または工場設備内等に設置されることが多い。
主軸201は、一端側(図11Aおよび図11Bの右側)に羽根車230が取り付けられ、他端側である主軸端220(同左側)に、カップリングを介して、駆動機の一種である電動機(不図示)の回転軸が連結される。ポンプ300の運転時に、電動機に駆動された主軸201は、予め定められた方向に回転する。ポンプ300は、吸込口232-2から流入した搬送液を、羽根車230の回転による遠心力にて加圧して、吐出口232-1へと流出する。ポンプ装置301は、横軸形のポンプ装置である。具体的には、主軸201は、軸受胴体204に覆われて略水平方向に延びており、間隔を隔てて配置された2つの軸受202,203によって回転可能に支持される。また、軸受202の主軸端220側に、主軸201が貫通する軸受カバー205がボルト210aによって軸受胴体(軸受ハウジング)204に取り付けられている。軸受203の羽根車230側において、主軸201が貫通する軸受カバー206は、ボルト210bによって軸受胴体204に取り付けられている。これにより、軸受カバー205は、軸受203の外輪の少なくとも一部を覆っている。また、主軸201が貫通する軸受カバー205と軸受胴体204は一体に構成されてもよい。
主軸端220側の軸受202,羽根車230側の軸受203間において、主軸201は大径軸201aとなっている。軸受202の羽根車230側の鉛直面は、大径軸201aの一端部に当接される。軸受203のモータ側の鉛直面は、大径軸201aの他端部に当接される。軸受202,203の外輪における外側の面は、軸受胴体204に取り付けられた軸受カバー205,206の突起部分207によってそれぞれ両側から挟み込まれている。これにより、軸受カバー205は一例として軸受202を支持し、軸受カバー206は軸受203を支持する。
軸受胴体204内の軸受202,203間には潤滑剤が貯蔵されており、ポンプ300の運転時には、軸受202,203の少なくとも一部が潤滑剤に浸る。ポンプ300の運転中に、軸受胴体204内の潤滑剤は、温度上昇により蒸発するので、軸受胴体204には空気抜きを目的とするキャップ214と、潤滑剤の減り具合を見るためのオイルゲージ215とが設けられている。また、プラグ216を抜くと潤滑剤を軸受胴体204外へ排出できる。なお、本実施形態における潤滑剤は、液状の潤滑油が用いられるが、半固状のグリースが用いられてもよい。ポンプ300の運転にて軸受202,203が高温となりグリースは液化する。
潤滑剤が主軸201の外周面を伝わって外部に漏れるのを防止するために、軸受カバー205,206は、オイルシール211,212が組み込まれている。また、軸受カバー206の外側の主軸201は、水切りリング213が嵌められていてもよい。さらに、軸受203の外側の鉛直面と、軸受カバー206との間に、弾性座金の一種である波座金209が介在されているとよい。この波座金209は、ボルト210bの締め付け力により圧縮応力が与えられており、主軸201は軸受203を介して電動機側への反力が作用する。
釣り具217は、軸受胴体204の上部に取り付けられる。また、軸受胴体204は、支持台218で支持される。開口204aは、軸受胴体204に設けられる(図11B参照)。また、軸受胴体204の羽根車230側は、ボルト236によって中間板237に固定され、中間板237は、羽根車230を収納したポンプ胴体232にボルト238によって固定される。これにより、軸受胴体204とポンプ胴体232とが一体化される。軸受胴体24と中間板237との間および中間板237とポンプ胴体232との間は、ガスケットが介在されてシールしている。
ポンプ胴体232の主軸201側は、主軸201が貫通する胴体カバー221を設ける。胴体カバー221の主軸201の貫通部分は、軸封装置を備える。図11には軸封装置としてグランドパッキン223を用いる例を示しているが、軸封装置は、メカニカルシールでもよい。軸封部は回転摩擦を生じるので、主軸201にはグランドパッキン223用の軸スリーブ225が嵌合されており、その軸スリーブ225と胴体カバー221の筒状部221aとの間には、グランドパッキン押さえ228を介して、ボルト229によってグランドパッキン223が締め付けられる。
羽根車230は、主軸201の先端に設けられたキー219に嵌め込まれ、ナット231によって主軸201に固定されている。ライナーリング233は、羽根車230のシュラウド側Iとポンプ胴体232との間に設けられる。また、ライナーリング234は、バックシュラウド側Bと胴体カバー221との間に設けられる。そして、複数個のバランスホール235は、羽根車230のボス部の近辺に形成されている。
図12Aは、第2の実施形態に係るポンプ装置301の主軸201、オイルシール211および軸受202近傍の拡大断面図である。また、図12Bは、図12Aのオイルシール211近傍(図12Aの破線部)をさらに拡大した図である。図示のように、羽根車230を所定方向(本例では、電動機側(図12Aの左側)から見て時計回り)に回転すると、ポンプ300は液体輸送機械として作用する。以下、図12Bに示すように、主軸201の径方向中心を含む水平面、オイルシール211、軸受カバー205、軸受202で囲まれた空間Sとする。また、主軸201の外周面、オイルシール211、軸受カバー205、軸受202、潤滑剤の油面OLで囲まれた空間には、潤滑剤が油煙(ミスト)となって充満している。
ポンプ装置301は、横軸形のポンプ装置であるため、主軸201は、略水平であり且つ潤滑剤の油面OLと略平行である。また、潤滑剤は、メンテナンスにて定期的に交換または補充され、潤滑油の油面OLは、オイルゲージ215の中心付近、具体的には、主軸201の下端より下であり且つ軸受202,203の下端より上の液位にて使用される。つまり、主軸201より低い位置にある軸受202,203の一部分が潤滑油に浸った状態でポンプ300は運転される。
オイルシール211は、フェルト,合成ゴム,合成樹脂などの変形可能な材料を用い,先端を主軸201と摩擦接触させて密封作用を行う。図12Bのオイルシール211は、一例として、補強環211a、シールリップ部材211b、ガータスプリング211cなどから構成されるリップシールを例示している。補強環211aは径方向断面形状がほぼ横L字形であり、この補強環211aにシールリップ部材211bが環状に被着されている。シールリップ部材211bの主軸201側は断面形状がほぼ逆三角形であり、その三角形の頂点に対応するエッジ形状の部分がリップ211dを形成している。このリップ211dは、主軸201の外周面上に圧接されたとき変形して所定の軸方向接触幅で主軸201の外周面上を摺動する。リップ211dの外周には、リップ211dを主軸201の外周面に対して圧接させるガータスプリング211cが装着されている。
ここで、このリップ211dは、主軸201の外周面上を摺動するので、リップ211dと主軸201との摺動部間には、潤滑剤が必要である。潤滑剤によって、摺動面の摩擦による発熱を抑えることで、オイルシール211並びに主軸201の長寿命化出来る。このリップ211dと主軸201との摺動部間の潤滑剤は、軸受胴体204内の潤滑剤が用いられる。また、軸受202,203の熱が主軸201を介してリップ211dに伝わると、リップ211dは硬化して寿命を低下させるため、軸受202,203とオイルシール211間は、所定の距離が必要である。
以降、主軸201の外周面とオイルシール211との摺動部(リップ211dと主軸201の外周面上との圧接面)にて、主軸端220側の第1空間と軸受202側の第2空間の2つの空間に仕切る。第1空間は、空間Sを含むオイルシール211の軸受202側の空間であって、被密封流体側と称する。第2空間は、ポンプ装置301の外側且つオイルシール211より主軸端220側の空間であって、大気側と称する。
ここで、上述したようにポンプ装置301は、一例として、ポンプ室等の高温となる設置環境にて使用される。また、他の例では、ポンプ装置301は、24時間稼働する工場設備等で用いられる。このように外気温が高温となる環境下で、ポンプ300を連続運転すると、軸受202の回転部材と固定部材との摺動部の潤滑剤は、高温となり粘性が低くなる。そうすると、オイルシール211は、被密封流体側から大気側へと潤滑剤が漏れる量が増加する。また、主軸201の摺動面は、経年劣化にてリップ溝201bが形成されると、リップ211dの主軸201への押圧が不足して、被密封流体側から大気側へと潤滑剤が漏れる量が増加する。また、ガータスプリング211cの押圧は、経年劣化により弱くなると、リップ211dの主軸201への押圧が不足して、潤滑剤が被密封流体側から大気側へと漏れる量が多くなる。
上述したように、オイルシール211と主軸201の外周面との摺動面は、潤滑剤が必要である。且つ、ポンプ装置301は、ポンプ室等に設置されることが多い。そのため、被密封流体側から大気側へと漏れる潤滑剤が主軸201の表面を伝って主軸201が湿っている程度であれば、ポンプ装置301の運用者は許容する。しかしながら、被密封流体側から大気側へと漏れる潤滑剤が増加すると、潤滑剤は、主軸201から垂れ落ちたり、主軸201の回転による遠心力で跳ねたりして周囲を汚してしまう。更には、軸受胴体204内に貯蔵されている潤滑剤が減り、ポンプ装置301は、潤滑剤の補充や交換等のメンテナンス頻度が多くなる。そこで、図20に示す本実施形態では、オイルシール211より大気側へ漏れる潤滑剤を被密封流体側へ戻すために、図12Aおよび図12Bに示す主軸201の外周面に図13Aおよび図13Bに示すような溝201cを形成する。また、以下、上述した図11と本実施形態の図20とにおいて、同様の構成には同じ符号を付与し、説明を省略する。
図13Aは、図20に示す本実施形態における主軸201、オイルシール211および軸受202近傍の拡大断面図である。また、図13Bは、図13Aのオイルシール211近傍(図13Aの破線部)をさらに拡大した図である。図示のように、主軸201は、外周面に傾斜した溝201c(凹凸)を形成する。電動機側(主軸端220側)から見て時計回りの方向に主軸201が回転する場合、溝201cの傾斜方向は、電動機側(主軸端220側)から見て右側の側面において、主軸端220側から軸受202側に向かって高くなる方向に傾斜させる。なお、この溝201cは主軸201の全周に渡って形成されるのが望ましいが、主軸201の一部に溝201cがない部分があっても構わない。また、溝201cの凹凸は一定の間隔にて形成されることが望ましいが、不規則な間隔で凹凸が形成されても構わない。
ポンプ300の運転によって主軸201が回転すると、大気側にある溝201cによって空気の流れが生じ、潤滑剤は大気側から被密封流体側に押し戻される。すなわち、溝201cの傾斜の方向は、ポンプ300の運転によって主軸201が回転した際に、主軸201の外周面の潤滑剤が主軸端220側から軸受202側に戻る第1の流れFL1を形成する方向である。
さらに、ポンプ装置301は、主軸の静止時に、上述したように潤滑剤の油面OLは主軸201より下の液位である。オイルシール211は、ポンプ300の運転中に、空間Sにおいて、軸受202からの潤滑剤が軸受カバー205に飛散し、リップ211dと主軸201の外周面との摺動面の潤滑剤が存在する位置に配置するとよい。本実施形態におけるオイルシール211の配置位置の調整方法の一例として、オイルシール211の配置位置は、ボルト210aの締め付け力と突起部分207の厚さを加減し軸受カバー205の位置を調整する。また、オイルシール211の配置位置は、オイルシール211の主軸201方向の位置を調整するのみではなく軸受202の軸方向の位置を調整してもよい。調整の際には、軸受202とオイルシール211間には上述した所定の距離以上とする。一例として軸受202とオイルシール211との距離は5~50mm程度である。また、1もしくは複数個のボルト210aおよび突起部分207を用いても良い。
空間Sにおいて、軸受202からの潤滑剤がオイルシール211に飛散する位置にオイルシール211を配置すると、軸受カバー205の空間S側の側面やオイルシール211を伝って、リップ211dと主軸201の外周面との摺動面に流れる潤滑剤の流れである第2の流れFL2が形成される。本実施形態では、第2の流れFL2によってオイルシール211への潤滑剤の補給しつつ、上述した溝201cによる潤滑剤の流れである第1の流れFL1によって潤滑剤の軸受胴体204へ戻す。この潤滑剤の第1の流れFL1と第2の流れFL2が繰り返されることによって、オイルシール211と主軸201の外周面との摺動を良好に保ちつつ、潤滑剤が大気側へ漏れるのを抑制できる。
ポンプ装置301における、オイルシール211は、軸受202からの潤滑剤が飛散する位置に配置するとともに、主軸201の外周面は、溝201cが設けられる。そして、溝201cは、ポンプ300が運転した際に、オイルシール211から大気側の主軸201の外周面に露出した潤滑剤が被密封流体側に押し戻される方向に傾斜する。これにより、ポンプ装置301は、オイルシール211と主軸201の外周面との摺動を良好に保ちつつ、軸受202の潤滑剤が大気側へ漏れるのを抑制できる。
ここで、傾斜した溝201cは、主軸201の外周面の大気側の少なくとも一部に設けられている。すなわち、この溝201cは、少なくとも主軸201の外周面におけるオイルシール211との摺動面に隣接し、且つ大気側に形成されていればよい(図13Bの符号A)。これにより、主軸201が回転すると、主軸201の外周面は、溝201cによって空気の流れが生じて、潤滑剤の流れFL1によって大気側に漏れた潤滑剤を押し戻す効果が得られる。
また、傾斜した溝201cは、主軸201の外周面におけるオイルシール211との摺動面に設けられている。すなわち、溝201cは主軸201の外周面におけるリップ211dとの摺動面(あるいはリップ溝201b)の少なくとも一部に形成もしくは延在してもよい(図13Bの符号B)。リップ211dと主軸201との摺動面は、相対的に摺動する摺動面におけるシール部の圧力が低下して、リップ211dと主軸201との摺動面における溝201c内の潤滑剤の油膜中に泡が生じる。この泡によって、リップ211dと主軸201と摺動面を低摩擦化(「低フリクション化」ともいう。)することができる。それによりリップ211dと主軸201の外周面の摩擦や摩耗を減らすことができる。
更には、傾斜した溝201cは、主軸201の外周面の被密封流体側の少なくとも一部に設けられている。すなわち、溝201cは、主軸201の外周面のオイルシール211との摺動面に隣接し、且つ、被密封流体側の少なくとも一部に形成もしくはさらに延在していてもよい(図13Bの符号C)。そうすることで、ポンプ装置301は、より潤滑剤を軸受202の方へ戻すことができる。特に、溝201cを軸受202に当接するまで延伸し、大気側から押し戻された潤滑剤を軸受202の側面202-1まで到達させると、潤滑剤の油面OLは主軸201よりも低いので、大気側から押し戻された潤滑剤は、溝201cを伝って主軸201より下方に位置する軸受202の側面202-1を伝って、軸受202内へ速やかに戻すことができる。
よって、ポンプ装置301は、主軸201の溝201cの形成並びに軸受202からの潤滑剤がオイルシール211に飛散する位置にオイルシール211を配置することで、潤滑剤が外部へ飛散して周囲を汚すのを防止し、軸受胴体204への潤滑剤の補充や交換のメンテナンス作業を軽減できる。また、経年劣化によりリップ211dの押圧が弱くなった場合でも、大気側に漏れた潤滑剤は、第1の流れFL1によって被密封流体側へ戻される。このように、ポンプ装置301は、オイルシール211のシール性を確保できるので、結果として、ポンプ装置301は、オイルシール211の交換寿命を長くすることができる。更には、ポンプ300の運転中は、潤滑剤の第2の流れFL2によって、リップ211dと主軸201の摺動部に潤滑剤が供給される。よって、摺動面の摩擦による発熱や摩耗を抑え、オイルシール211並びに主軸201の寿命を長くすることができる。
また、図20に示すように羽根車230側に配置されたオイルシール212と対向する主軸201の外周面にも溝201cの形成し、なお且つ軸受203からの潤滑剤がオイルシール212に飛散する位置にオイルシール212を配置することで、オイルシール212と主軸201との摺動を良好に保ちつつ、オイルシール212からの潤滑剤の漏れを抑制することができる。
羽根車230側から見て反時計回りの方向に主軸201が回転する場合、このオイルシール212と対向する主軸201の外周面に形成された溝201cの傾斜方向は、羽根車230側から見て左側の側面において、羽根車230側から軸受203側に向かって高くなる方向に傾斜されている。
なお、主軸201のオイルシール211または212の摺動面は、保護のために不図示の軸スリーブを用いてもよい。主軸201は軸スリーブに嵌入されているので、主軸201と軸スリーブは、径方向に同心状で同回転する。よって、軸スリーブは主軸201の一部とする。更には、後述する図13Cのオイルシール211’を用いたポンプ装置301においても、溝201cの形成並びに軸受202または203からの潤滑剤がオイルシール211’に飛散し得る位置にオイルシール211’を配置することで、ポンプ装置301は、オイルシール211’と主軸201との摺動を良好に保ちつつ、大気側への潤滑剤の漏れを抑制することができる。また、図13Dのオイルシール211’’を用いたポンプ装置301においても、溝201cの形成並びに軸受202または203からの潤滑剤がオイルシール211’ ’に飛散し得る位置にオイルシール211’ ’を配置することで、ポンプ装置301は、オイルシール211’ ’と主軸201との摺動を良好に保ちつつ、大気側への潤滑剤の漏れを抑制することができる。
また、図11Aは、単段片吸込遠心ポンプを用いたポンプ装置301を例示して説明した。しかし、本実施形態である主軸201の外周面における溝201cならびに軸受とオイルシールの配置は、任意のポンプ装置、特に潤滑剤を使用したオイルバス方式の軸受、軸受けの潤滑剤をシールするオイルシール、並びに横軸ポンプを備えた横軸形ポンプ装置に適用可能である。
実施形態の一例であるポンプ装置301で、メンテナンスを行う作業者は、経年劣化により所定量以上の潤滑剤が大気側へ漏れる図11のポンプ装置301に対して、次のようなメンテナンスを行うこともできる。すなわち、作業者は、図12Aおよび図12Bにおけるオイルシール211と主軸201とを分離し、主軸201の外周面に図13Aおよび図13Bに示すような溝201cを形成した上で、元のオイルシール211あるいは新品のオイルシール211と主軸201とを取り付けることにより図20に示すポンプ装置301となる。
この際、オイルシール211は、完全に主軸201から分離する必要はない。オイルシール211は、主軸201上でスライドされて主軸201との摺動面から離される工程としてもよい。
図13Aは、メンテナンス後の主軸201、オイルシール211および軸受202近傍の拡大断面図である。また、図13Bは、図13Aのオイルシール211近傍(図13Aの破線部)をさらに拡大した図である。図示のように、主軸201の外周面に、傾斜した溝201c(凹凸)は形成される。電動機側から見て時計回りの方向に主軸201が回転する場合、オイルシール211近傍の溝201cの傾斜方向は、電動機側(主軸端220側)から見て右側の側面において、電動機側から軸受202側に向かって高くなる方向に傾斜している。
このような溝201cを形成することで、主軸201が回転すると、大気中にある溝201cによって空気の流れが生じる。そして、大気側から被密封流体側に潤滑剤が押し戻される。すなわち、溝201cの傾斜方向は、主軸201が回転した際に、大気側の潤滑剤が軸受202側に戻されるような方向とも言える。これにより、潤滑剤が漏れるのを抑制できる。
この溝201cは、少なくとも主軸201の大気側に形成されていれば、主軸201が回転することで溝201cによって空気の流れが生じて潤滑剤を押し戻す効果が得られる。また、溝201cは主軸201における摺動面(あるいはリップ溝201b)の少なくとも一部に形成または延在していてもよい(図13Bの符号B)。これにより、オイルシール211と主軸201との摩擦を減らすこともできる。また、溝201cは主軸201における摺動面(あるいはリップ溝201b)から軸受202側(図13Bの符号C)の少なくとも一部に形成または延在していてもよい。これにより、潤滑剤を軸受202側へ押し戻す効果がさらに増大する。
このように、本実施形態では、軸受202から飛散した潤滑剤がオイルシール211と主軸201の外周面との摺動面に達する位置にオイルシール211と軸受202が配置される。そして、主軸201が回転することにより、そのような潤滑剤の一部が軸受202側に押し戻される。結果として、潤滑剤が漏れるのが抑えられ、かつ、オイルシール211と主軸201との摺動面には適切な量の潤滑剤が介在することとなる。
なお、このようなメンテナンスは、図11において羽根車230側に配置されたオイルシール212に対向する主軸201の外周面にも適用可能である。すなわち、作業者は、オイルシール212と主軸201の外周面との摺動面を離し、オイルシール212と主軸201との摺動面より羽根車230側(軸受203の反対側)に傾斜した溝201cを形成してもよい。オイルシール212と対向する主軸201に形成される溝201cの傾斜方向は、主軸201が回転した際に、摺動面の潤滑剤が軸受203側に戻される方向であり、軸受202側のオイルシール211と対向する主軸201に形成する溝201cとは逆である。
さらに、オイルシールは、種々のものを適用できる。
図13Cは、図13Bとは異なるオイルシール211’を適用した場合の拡大図である。シール用スリーブ280は、主軸201の一部として設けられる。そして、オイルシール211’は、断面がL形状の樹脂製のシールリップ部材281を備え、該シールリップ部材281は、断面が略L形状の外側の結合金属環282と断面が略L形状の内側の押え金属環283とにより挟持される。シールリップ部材281の内周側に筒状リップ284が形成され、この筒状リップ284は図13Bのリップ211dに相当し、シール用スリーブ280の外周面と強く密接して被密封流体をシールする。図13Cに示すオイルシール211’を用いる場合には、溝201cは、主軸201の一部であるシール用スリーブ280に形成される。
図13Dは、図13Bとはまた異なるオイルシール211’’を適用した場合の拡大図である。オイルシール211’’は筒状部292を有する。設置環境によっては、大気側よりゴミ等の異物がオイルシールと主軸201の外周面との摺動面に混入する場合がある。そこで、筒状部292は、オイルシール211’’に異物が侵入するのを阻止する。よって、オイルシール211’’は、大気側からの異物の混入によるオイルシール211’’のリップ部と主軸201の外周面における摺動面の摩耗を減らすことができる。
以下、メンテナンスの手順を詳細に説明する。
図14は、ポンプ装置301のメンテナンス手順を示す工程図である。なお、図14は手順の一例にすぎず、適宜各工程を入れ替えたり、省略したりしてもよい。図14のステップS21で、図11Aのポンプ装置301に対する本実施形態のメンテナンスを開始する。
まず、作業者は、不図示の電動機との連結を外す。(ステップS21)。また、作業者は、プラグ216を外して、軸受胴体204から潤滑剤を抜く(ステップS22)。続いて、作業者は、ポンプ胴体232用のボルト238を外し、中間板237、胴体カバー221および軸受胴体204をポンプ胴体232から外す(ステップS23)。これにより、図15に示す状態となる。
その後、作業者は、羽根車230用のナット231を外し、羽根車230を主軸201から抜く(ステップS24)。そして、作業者は、主軸201から羽根車230側のキー219を外す。これにより、図16に示す状態となる。さらに、作業者は、ボルト36を外し、中間板237および胴体カバー221を軸受胴体204から外す(ステップS25)。次いで、作業者は、グランドパッキン223用のボルト229を外してグランドパッキン223を外す(ステップS26)。これにより、図17に示す状態となる。
そして、水切りリング213が存在する場合は、作業者は、水切りリング213を主軸201から抜き取る(ステップS27)。次いで、作業者は、軸受カバー205,206用の各ボルト210a,210bを外し、軸受カバー205,206およびオイルシール211,212を軸受胴体204から外して主軸201を抜く(ステップS28)。これにより、図18に示す状態となる。このようにして、主軸201は、オイルシール211,212と分離される。作業者は、主軸201を抜く際、軸受202,203の回転状態を点検し、円滑な回転ができない場合には軸受202,203を交換する。
そして、作業者は、主軸201における軸受202,203の近傍に、図13Aおよび図13Bを用いて説明した溝201cを形成する(ステップS29)。これにより、図19に示す状態となる。具体的には、作業者は、主軸201の外周面に傷をつけることで溝201cを形成する。なお、この溝201cは全周に渡って形成されるのが望ましいが、一部に溝201cがない部分があっても構わない。
その後、作業者は、必要に応じてオイルシール211,212を新品のものとし、逆の手順によってポンプを組み立てればよい。これにより、図20に示す潤滑剤漏れが少ない新たなポンプ装置(潤滑剤漏れ抑制ポンプ装置)が製造されるとも言える。
このように、本実施形態では、メンテナンスの作業者は、主軸201の外周面に所定方向に傾斜した傷をつけて溝201cを形成するという簡易な手法により、潤滑剤が主軸201を伝って漏れるのを抑制できる。
なお、メンテナンスとして作業者が主軸201に溝201cを形成するのではなく、新品のポンプの主軸201の外周面に予め溝201cを設けておいてもよい。また、図11Aでは、単段片吸込遠心ポンプを用いたポンプ装置301を例示して説明したが、任意のポンプ装置、特に潤滑剤を使用したオイルバス方式の軸受、オイルシール、並びに横軸ポンプを備えた横軸形ポンプ装置に本実施形態を適用可能である。
上述した手順にてメンテナンスを行ったポンプ装置301は、潤滑剤の漏れに伴う潤滑剤の補充や交換のメンテナンス作業を軽減できる。また、経年劣化によりリップ211dの押圧が弱くなった場合でも、上述した手順にてメンテナンスを行ったポンプ装置301は、第1の流れFL1によって潤滑剤を軸受胴体204へ戻すことでシール性を確保できるので、結果として、オイルシール211の交換寿命を長くできる。更には、ポンプ運転中に、潤滑剤は、潤滑剤の第2の流れFL2によって、リップ211dと主軸201の外周面の摺動部間に供給される。そのため、オイルシール211と主軸201の摺動面は、摩擦による発熱や摩耗を抑えることができるので、オイルシール211並びに主軸201の寿命を長くできる。なお、図11において羽根車230側に配置された軸受203とオイルシール212、軸受203とオイルシール212と対向する主軸201の外周面にも溝201cは適用可能である。
図21、図22は、図11Aのポンプ装置と図20のポンプ装置で、潤滑剤の漏れを比較した一例を示す表である。図21の表は、継続的にポンプ300が運転されている現場で、メンテナンス作業者が時間間隔TMxで定期的に潤滑剤の漏れを確認した結果を示す。よって、図21、図22のTM0~TM9は、ポンプ装置310、311の運用開始後の期間を示し、具体的には、ポンプ装置310、311の運用開始後から時間間隔TMxのn倍(n:0~9)の期間である。なお、一般的に、ポンプ装置は、約3ヶ月から1年間毎に定期的なメンテナンスが行われる。以下、説明を簡単にするため、オイルシール211についてのみ説明するが、オイルシール212についても同様の効果が認められる。
ここで、図21、図22に潤滑剤の漏れの結果を示すポンプ装置について説明する。ポンプ装置310は、主軸201の外表面に溝201cが設けられていないポンプ装置であり、図11Aに示すポンプ装置301である。図21のポンプ装置311は、図20に示すポンプ装置301である。すなわち、ポンプ装置310は、ポンプ装置311と比べて、主軸201の外表面に溝201cが形成されていない点のみが異なっている。具体的には、メンテナンスの作業者が期間TM8以上使用したポンプ装置310に、図14のメンテナンス手順に沿ってポンプ装置310の主軸201の外表面に傾斜した溝201cを形成することでポンプ装置311とした。
また、ポンプ装置310、311のシール部材であるオイルシール211は、経年劣化でリップ11dが硬化してシール性が低下する。そのため、オイルシール211は、消耗部品である。この現場においても、新品から耐用寿命を経過するとメンテナンス作業者によって交換されている。また、潤滑剤漏れは、オイルシール211から大気側に漏れ出した潤滑剤が、主軸201の外表面から飛散した状態を示す。つまり、大気側の潤滑剤が主軸201から飛散して周囲を汚した状態を『潤滑剤漏れ』と記す。
オイルシール211の耐用寿命に達すると、オイルシール211のリップ211dが硬化する等でシール作用が著しく低下する。オイルシール211の耐用寿命は、ポンプ装置の使用環境や潤滑剤等によって異なるが、一般的には2年間から5年程度である。また、図21、図22に結果を示すメンテナンスにおいて、作業者は、大気側に漏れる潤滑剤が漏れ許容量Mxを超えたら、オイルシール211の耐用寿命に達したと判断する。漏れ許容量Mxは、ポンプ装置300の設置環境や運用者によって異なるが、一般的には、メンテナンス作業者は、オイルシール211から大気側に漏れた潤滑剤が支持台218を伝って地面に付着しているか、潤滑剤の主軸201からの飛散が常時確認される等の状態の場合、漏れ許容量Mxを超えたと判断する。
図21にメンテナンス回数ごとの潤滑剤の漏れ量を示す。
1回目のメンテナンスの際、つまり、オイルシール211及び主軸201を期間TM1の間使用した場合、メンテナンス作業者は、ポンプ装置310で少量の潤滑剤漏れ(数滴の痕跡)を確認したのに対し、ポンプ装置311で潤滑剤漏れを確認できなかった。
2回目のメンテナンスの際、つまり、オイルシール211及び主軸201を期間TM2の間使用した場合、メンテナンス作業者は、ポンプ装置310で少量の潤滑剤漏れ(数10滴の痕跡)を確認したのに対し、ポンプ装置311で潤滑剤漏れを確認できなかった。
4回目のメンテナンスの際、つまり、オイルシール211及び主軸201を期間TM4の間使用した場合、メンテナンス作業者は、ポンプ装置310、311の両方に潤滑剤の漏れを確認した。これは、経年劣化でリップ211dが硬化しシール作用が低下したと考えられる。ただし、ポンプ装置310の潤滑剤漏れは漏れ許容量Mx以上に達したのに対し、ポンプ装置311は漏れ許容量Mxより少ない。そこで、メンテナンス作業者は、ポンプ装置310のオイルシール211が耐用寿命に達したと判断し交換した。また、予防保全として耐用寿命に未達のポンプ装置311もオイルシール211の交換がなされた。
5回目のメンテナンスの際、つまり、交換後のオイルシール211を期間TM1、主軸201を期間TM5の間使用した場合、メンテナンス作業者は、ポンプ装置310で少量の潤滑剤漏れ(数10滴の痕跡)を確認したのに対し、ポンプ装置311で潤滑剤漏れを確認できなかった。ここで、ポンプ装置310は、メンテナンス4回目でオイルシール211を交換後したにもかかわらず、期間TM1で少量の潤滑剤漏れを確認している。これは、ポンプ装置310の主軸201にリップ溝201bが形成された影響だと考えられる。
6回目のメンテナンスの際、つまり、交換後のオイルシール211を期間TM2、主軸201を期間TM6の間使用した場合、メンテナンス作業者は、ポンプ装置310で少量の潤滑剤漏れ(数10滴の痕跡)を確認したのに対し、ポンプ装置311で潤滑剤漏れを確認できなかった。
7回目のメンテナンスの際、つまり、交換後のオイルシール211を期間TM3、主軸201を期間TM7の間使用した場合、メンテナンス作業者は、ポンプ装置310で油漏れを確認した(少量ずつの油漏れが常時確認される)のに対し、ポンプ装置311で潤滑剤漏れが確認できなかった。
このようにポンプ装置311によれば、ポンプ装置310よりも、潤滑剤漏れを抑制することができる。
図22は、図21の表に示す結果を、経過時間における変化として示したグラフである。図22(A)は、ポンプ装置310の潤滑剤漏れの量の経過時間における変化を示し、図22(B)は、ポンプ装置311の潤滑剤漏れの量の経過時間における変化を示す。図22(A)、図22(B)ともに、横軸に経過時間、立軸に潤滑剤の漏れ量を示す。また、図22(A)、図22(B)の点線は漏れ許容量Mxを示す。
期間TM3において、ポンプ装置310は、グラフの領域R1に示すように少量の潤滑剤漏れ量があるのに対して、ポンプ装置311では、グラフの領域R2に示すように、ポンプ装置310よりも潤滑剤漏れを抑制することができる。
期間TM3経過後期間TM4経過までの期間T1において、ポンプ装置310の潤滑剤の漏れ量は増加し、更に期間TM4経過時に漏れ許容量Mxを超えているので、作業者は、期間TM4がポンプ装置310におけるオイルシール211の耐用寿命であると判断した。そのため、ポンプ装置310、311の両方とも運用開始から期間TM4経過後にオイルシール211を交換している。ここで、図22に示すように、期間T1において、ポンプ装置311は、ポンプ装置310と異なり、漏れ許容量Mx以下の潤滑剤漏れが確認され、オイルシール211は、耐用寿命に達しておらず期間TM4以降も継続して使用できる。しかしながら、作業者は、予防保全のためポンプ装置311のオイルシール211を交換した。同様にして、期間TM7経過後期間TM8経過までの期間T2において、オイルシール211の経年劣化により、ポンプ装置310、311の両方とも潤滑剤漏れがあるが、ポンプ装置310に比べてポンプ装置311の漏れ量は少ない。
期間TM4以降の期間T3においては、両方のポンプ装置310、311において、オイルシール211が主軸201に対して摺動することによって主軸201にリップ溝201bが形成されていることが確認された。
オイルシール211交換後であって期間TM4経過後期間TM7経過までの期間において、ポンプ装置310は、図22のグラフの領域R3に示すように少量の潤滑剤漏れがあるのに対して、ポンプ装置311は、図22のグラフの領域R4に示すように、ポンプ装置310よりも潤滑剤漏れを抑制することができる。このようにポンプ装置311は、主軸201にリップ溝201bが形成されたとしても、ポンプ装置310よりも潤滑剤漏れを抑制することができる。
図21、図22に示すように、オイルシール211の経年劣化によってオイルシール211が正常に作用しない期間T1、期間T2では、ポンプ装置310、311の両方において、大気側に漏れた潤滑剤の質量が増すため、主軸201の回転による遠心力によって潤滑剤が飛散してしまう。しかしながら、オイルシール211が正常に作用し漏れ量が少量の間では、ポンプ装置311の大気側に漏れた潤滑剤は、ポンプ装置310と比較して溝201cによって主軸201との接触面積が増えるので、主軸201から飛散しにくくなる。加えて、ポンプ装置311の大気側の主軸201の外周面に露出した潤滑剤は、傾斜した溝201cによる第1の流れFL1によって被密封流体側に即座に戻される。よって、ポンプ装置310と比較してポンプ装置311は、オイルシール211からの潤滑剤の漏れを抑制することができる。
更に、上述したように、ポンプ装置301は、ポンプ室等に設置されることが多いため、一般的なオイルシールにおけるリップ211dの押圧に比べて20%から80%程度の押圧とすることでオイルシール211、212の長寿命化を図る場合がある。このように、リップ211dの押圧が弱いポンプ装置においても、主軸201に傾斜した溝201cを形成すれば、大気側に漏れた潤滑剤は、第1の流れFL1によって被密封流体側へ戻され、潤滑剤の漏れを抑制できる。また、上述したポンプ装置310程度の少量の潤滑剤漏れは許容される場合が多いため、ポンプの運用者からの要望に応じて、図14に上述したメンテナンス方法にて主軸201に傾斜した溝201cを形成してもよい。
以上、第2の実施形態に係るポンプ装置301は、駆動機の一例である電動機の駆動により搬送液を加圧する羽根車230を予め定められた方向に回転する主軸201と、主軸201を回転可能に支持する軸受202と、主軸201が貫通する軸受カバー205と、軸受け202の潤滑剤が主軸201の外周面を伝わって被密封流体側から大気側に漏れるのを防止するシール部材の一例であるオイルシール211とを備える。軸受カバー205は、軸受202から飛散した潤滑剤が当該軸受カバー205をつたってオイルシール211に流れるように構成されている。更に、このポンプ装置301において、主軸201の外周面には、主軸201が回転した際に、大気側の主軸201の外周面に露出した潤滑剤が被密封流体側に押し戻される傾斜した溝201cが設けられている。
この構成により、軸受202から飛散し軸受カバー205をつたってオイルシール211に流れる潤滑剤を、主軸201の外周面の溝201cによるポンピング作用によって大気側から被密封流体側に戻し、潤滑剤漏れを抑制できる。
また、ポンプ装置301は、横軸のポンプ300を備えた横軸形のポンプ装置である。この構成により、主軸201の静止中は、オイルシール211の作用によって被密封流体をシールできる。
また、傾斜した溝201cは、主軸201の外周面の大気側の少なくとも一部に設けられている。この構成により、主軸201が回転するのに伴って、主軸201の外周面の大気側の少なくとも一部で、軸受202の方向への風ができ、この風によって潤滑油が軸受202の方向へ押される。また、ポンピング作用によって、潤滑油が軸受202の方向へ戻される。
更には、シール部材が軸受カバー205に組み込まれたオイルシール211であれば、軸受202から飛散した潤滑剤が軸受カバー205をつたってオイルシール211に供給されることで、オイルシール211と主軸201との間に潤滑剤が供給されるので、オイルシール211と主軸201との摺動を良好に保つことができる。更に、傾斜した溝201cが形成されていることで、ポンピング作用によって、オイルシール211から大気側の主軸201の外周面に露出した潤滑剤が軸受202側に押し戻されるため、潤滑剤が大気側に漏れるのを抑制できる。
<第3の実施形態>
続いて第3の実施形態について説明する。図23は、比較例に係るポンプ装置の一部の構成を示す縦断面図である。図23は、比較例に係るポンプ装置の一部の構成を示す縦断面図であり、また、図24は、図23のポンプ装置のXにおける断面図である。図23に示すポンプ装置401は、図20に示すポンプ装置301と軸受カバー405の形状が異なる。よって、図20のポンプ装置301と同等の機能の構成には同じ符号を用い、一部説明を省略する。なお、図24に示すように、軸受カバー405の主軸201側の面において、潤滑油OLの油面以下の部分を底面部405b、底面部405bと軸線を挟んで対向した面を天井面部405u、底面部405b、底面部405bと天井面部405u以外の面を側面部405aと称す。また、軸受カバー405の天井面部405uにおける軸受側の端部を軸受側端部405u1、シール部材側の端部をシール部材側端部405u2と称す。なお、図24に示す軸受カバー405の断面は略円形であるが、これに依らず、多角形でもよい。
この比較例に係るポンプ装置401における前記軸受カバー405について説明する。主軸201が貫通する軸受カバー405の軸受202と軸受カバー405の軸受202に対向する面との間の距離Ln1は、ポンプ300運転中に軸受202から潤滑剤が飛散する距離Ln0を超えている。すなわち、距離Ln1は距離Ln0より長い。および/または、図23の破線L1に示すように、軸受カバー405の天井面部405uの軸受側端部405u1からシール部材側端部405u2までの頂点を結ぶ線が略水平であると、図23もしくは図24の矢印FLn1で示すように、軸受402から天井面部405uへ飛散した潤滑剤(ここでは一例として潤滑油)の油滴Odは、軸受カバー405の内周の軸線に略垂直な平面上を伝って軸受カバー405の内面の底面部405bもしくは主軸201へ落ちる。このため、軸受カバー405を伝ってオイルシール211に供給される潤滑油が著しく減少し、更には、主軸201の表面に形成された溝201cのポンピング作用で潤滑油が軸受402側に戻されるので、主軸201の摺動面の潤滑剤が不足して、主軸201とオイルシール211の摩擦によって音が鳴ったり、リップ211dが摩耗してオイルシール211の寿命が短くなったりするという問題がある。
上述したように、ポンプ300の連続運転における軸受202の発熱が主軸201を介してオイルシール211のリップ211dに伝わると、リップ211dが硬化してオイルシール211の寿命を低下させてしまう虞があるため、軸受202とオイルシール211間には所定の距離(Ln1)が必要である。そこで、第3の実施形態に係る軸受カバーは、当該軸受カバーに飛散した潤滑剤をオイルシール211に案内する構造を内周面に有する。この構成により、距離Ln1が軸受202から潤滑剤が飛散する距離Ln0より長くても潤滑剤をオイルシール211に供給することができる。以下、第3の実施形態に係る軸受カバー505について具体的に説明する。
図25は、第3の実施形態に係るポンプ装置の一部の構成を示す縦断面図である。図25に示すポンプ装置501は、図23の比較例に係るポンプ装置401と軸受カバー505の形状のみが異なる。よって、以下、図20のポンプ装置301と同等の機能の構成は同じ符号を用い、説明を省略する。なお、図24に示すように、軸受カバー505の主軸201側の面において、潤滑油OLの油面以下の部分を底面部505b、底面部505bと軸線を挟んで対向した面を天井面部505u、底面部505b、底面部505bと天井面部505u以外の面を側面部505aと称す。また、軸受カバー505の天井面部505uにおける軸受側の端部を軸受側端部505u1、シール部材側の端部をシール部材側端部505u2と称す。
第3の実施形態に係るポンプ装置501は、軸受202と主軸201が貫通する軸受カバー505の軸受202に対向する面との間の長さLm1が、軸受202から潤滑剤が飛ぶ距離Lm0を超えている。図24(a)の破線L2に示すように、ポンプ装置501において、オイルシール211に潤滑剤を案内する構造として、軸受カバー505の内周面のうちの少なくとも天井面部505uの一部を含む面は、オイルシール211に近づくにしたがって、当該主軸201に近づくように傾斜している。具体的には、軸受カバー505の内周面は、軸受側端部505u1からシール部材側端部505u2に向って、水平面である破線L1から角度θmにて傾斜しており、軸受カバー505は、軸受202側の内径に比べてオイルシール211側の内径が小さい。つまり、この構成により、軸受カバー505は、図25の矢印FLm1に示す流れ(第2の流れFL2)を形成し、溝201cは、主軸201の外周面の大気側へ漏れた潤滑剤を被密封流体側に戻す第1の流れFL1を形成する。これにより、潤滑剤がオイルシール211の内周面の傾斜をつたってオイルシール211に供給されるので、オイルシール211と主軸201の摺動面に潤滑剤が供給されるとともに、溝201cのポンピング作用によって、潤滑剤が被密封流体側に戻される。
なお、上述した角度θmは、飛散される潤滑剤の量や粘性、更には、距離Lm1による。また、距離Lm1が長いとシール部材側端部505u2に到達するまでに潤滑剤が落下しやすくなるため、距離Lm1と角度θmは比例するとよい。
<第4の実施形態>
続いて第4の実施形態について説明する。図26は、第4の実施形態に係るポンプ装置の一部の構成を示す縦断面図である。図26に示すように、第4の実施形態に係るポンプ装置601は、図23の比較例に係るポンプ装置401に比べて、デフレクタ部材640を更に備える。よって、ポンプ装置401と同等の構成は同じ符号を用い、説明を省略する。デフレクタ部材640は、軸受202とオイルシール211との間に配置され、主軸201に取り付けられている。デフレクタ部材640は、水切りつばであって、回転する主軸201に沿って流れる液体を振り切る。
この構成によれば、図26の矢印に示すように、軸受202から飛散した潤滑剤が軸受カバー405を伝ってオイルシール211まで到達できずに主軸201に落ちた場合、デフレクタ部材640が落ちた潤滑剤を再度軸受カバー405に遠心力で飛ばす。この飛ばされた潤滑剤は、軸受カバー405をつたってオイルシール211に供給される。これにより、オイルシール211と主軸201の摺動面に潤滑剤が供給される。この潤滑剤は、主軸201の表面に形成された溝201cのポンピング作用によって、軸受202側に戻される。溝201cのポンピング作用によって軸受202側に戻された潤滑剤の一部は、デフレクタ部材640によって軸受カバー405に飛ばされることで、オイルシール211と主軸201の摺動面に潤滑剤が供給される。
なお、第4の実施形態において、軸受カバー405に代えて、軸受カバー205、軸受カバー505、または、後述する軸受カバー705を用いてもよい。
<第5の実施形態>
続いて第5の実施形態について説明する。図27は、第5の実施形態に係るポンプ装置の一部の構成を示す断面図である。図28は、図27のポンプ装置における矢印Aの断面矢視図である。図27及び図28に示すように、第5の実施形態に係るポンプ装置701は、図23の比較例に係るポンプ装置401に比べて、軸受カバー705の一部を構成するガイド部材750を更に備える。よって、ポンプ装置401と同等の構成は同じ符号を用い、一部説明を省略する。
軸受カバー705は、軸受カバー本体710と、軸受202から飛散した潤滑剤をオイルシール211に案内するガイド部材750と、を有する。軸受カバー本体710は軸受カバー405と同形状である。ガイド部材750は、潤滑剤をオイルシール211に案内する構造であって、この軸受カバー705の構成により、軸受202から飛散した潤滑剤をオイルシール211に案内する第2の流れFL2を形成することができる。
図28に示すように、軸受カバー705は、軸受カバー本体710の内周面のうちの最上部を含む内周面に、主軸201の長軸方向に沿って伸びる幅Wの突起形状のガイド部材750が設けられ、また、図27に示すようにガイド部材750の主軸201に対向する面750uは、軸受け202側から主軸210の長軸方向に沿ってオイルシール211に近づくに従って主軸210に近づくように傾斜している。
この構成により、潤滑剤が、ガイド部材750の主軸201に対向する面750uの傾斜にそって流れるので、潤滑剤をオイルシール211に供給することができる。また、ポンプ装置501に比べて空間Sを広くできるので、空間S内の温度上昇を抑えることができ、オイルシール211の長寿命化につながる。
<変形例1>
続いて第5の実施形態の変形例1について説明する。図29は、第5の実施形態の変形例1に係るポンプ装置において、図27のポンプ装置における矢印Aの断面矢視図である。図30は、図29のB-B’における断面図である。
図29に示すように、軸受カバー705は、軸受カバー本体710の内周面に、軸受202側からオイルシール211まで主軸201の長軸方向に伸びる厚みHの突起形状のガイド部材750aが設けられている。図30に示すように、一対のガイド部材750aが長軸方向と平行且つ当該ガイド部材750aを含む鉛直断面(例えば図30に示すB-B’断面)において、略水平に延びるように配置されている。
この構成により、軸受202から飛び散った潤滑剤が、軸受カバー本体710の内周面の上面に付着し、その後に軸受カバー本体710の内周面を円周方向につたってガイド部材750aに落ちる(図29の第2の流れFL2)。ガイド部材750aに落ちた潤滑剤は、慣性により、このガイド部材750aをつたってオイルシール211まで移動する(図30の第2の流れFL2)。このような第2の流れFL2にて、潤滑剤をオイルシール211に供給することができる。なお、本実施形態では、ガイド部材750aは、軸受カバー本体710の内周面における軸線を通る水平面を含む位置に設けられているが、ガイド部材750aの上面が軸受カバー本体710の内周面における軸線を通る水平面より上の位置に設けられていてもよい。これにより、ガイド部材750aはガイド部材750に比べて、より多くの潤滑剤をオイルシール211に供給することができる。なお、ガイド部材750aの上面は、オイルシール211と主軸201の摺動面のうち高さが最も低い位置より上の位置に設けられていればよい。これにより、ガイド部材750aの上面を潤滑剤が流れた後に、オイルシール211と主軸201の摺動面に潤滑剤を供給することができる。
<変形例2>
続いて第5の実施形態の変形例2について説明する。図31は、第5の実施形態の変形例2に係るポンプ装置において、図27のポンプ装置における矢印Aの断面矢視図である。図32は、図31のC-C’断面図である。
図31に示すように、軸受カバー本体710の内周面に、軸受202側からオイルシール211まで主軸201の長軸方向に伸びる厚みHの突起形状のガイド部材750cが設けられている。更に図32に示すように、一対のガイド部材750cは、主軸201の長軸方向と平行且つ当該ガイド部材750cを含む鉛直断面(例えば図32に示すC-C’断面)において、軸受202側から主軸201の長軸方向に沿ってオイルシール211に近づくに従って下方に傾斜している。
この構成により、軸受202から飛び散った潤滑剤が、軸受カバー本体710の内周面の上面に付き、その後に軸受カバー本体710の内周面を円周方向につたってガイド部材750cに落ちる。ガイド部材750cに落ちた潤滑剤は、ガイド部材750cに設けられた傾斜に従って、当該ガイド部材750cをつたってオイルシール211まで移動する。このようにして、潤滑剤をオイルシール211に供給することができる。
なお、本実施形態では、図32に示す通り、ガイド部材750cは、軸受カバー本体710の内周面における軸線を通る水平面より下方に設けられているが、ガイド部材750cの下端(オイルシール211側の端部)の上面がオイルシール211より上に設けられていてもよい。これにより、ガイド部材750cはガイド部材750aに比べて、より迅速に潤滑剤をオイルシール211に供給することができる。ガイド部材750cの下端(オイルシール211側の端部)の上面が、オイルシール211と主軸201の摺動面のうち高さが最も低い位置より上の位置に設けられればよい。これにより、ガイド部材750cの上面を潤滑剤が流れた後に、オイルシール211と主軸201の摺動面に潤滑剤を供給することができる。
また、ガイド部材750a、750cは一対をなしているが、どちらか一方のみでもよいし3個以上の複数個のガイド部材を軸受カバー本体710に設けてもよい。ガイド部材750aまたは750cが複数の場合は、それぞれ異なる形状でもよい。また、ガイド部材750、ガイド部材750a、および、ガイド部材750cを組み合わせてもよい。
また、上述した第3の実施形態から第5の実施形態によれば、図14に示したメンテナンス手順を用いて従来の手順と差異なく従来技術のポンプ装置における潤滑剤漏れを抑制することができる。具体的には、一例として、図14のステップ28にて軸受カバー205を取り外した後、ステップS29にて主軸201に溝201cを形成する。その後、軸受カバー405を取り付け、以降は、通常の手順にてポンプ装置を組み立てればよい。このように、主軸201に溝201cを形成し、軸受カバー205に代えて軸受カバー405を取り付けることで、ポンプ装置の設置現場にて潤滑油漏れを抑制できる。第3の実施形態および第5の実施形態のポンプ装置の軸受202とシール部材との間に、更にデフレクタ部材640を設けてもよい。
<第6の実施形態>
続いて第6の実施形態について説明する。第6の実施形態に係るポンプ装置は、オイルシールからの潤滑剤の漏れを検出するための囲い部材が設けられている。図33は、第6の実施形態に係るポンプ装置の概略構成を示す模式図である。図33に示すように、第6の実施形態に係るポンプ装置801は、ポンプ800と、ポンプ800の主軸820にカップリングを介して回転軸861が連結されている電動機860と、を備える。ここでポンプ800の構成は、第2の実施形態に係るポンプ300と同様の構成であるので、その詳細な説明を省略する。更にポンプ装置801は、当該ポンプ800に連通しており且つ水槽から吸い上げられた水が通る吸込管830と、当該ポンプ830に連通しており且つ当該ポンプ800から吐き出された水が通る吐出管840とを備える。更にポンプ装置801は、囲い部材870と、ポンプ800、囲い部材870及び電動機860を支持する架台880と、を備える。
図34は、図33のD-D断面図である。図34に示すように、主軸820の長軸に略垂直な断面において、主軸820はオイルシール811に覆われており、このオイルシール811は軸受カバー805に覆われている。更に、この軸受カバー805は、間隔を設けて囲い部材870に覆われている。これにより、オイルシール811から大気側に漏れた潤滑剤が、主軸820の回転によって飛散した場合、飛散した潤滑剤は囲い部材の内面に付着する。これにより、囲い部材の内側面を観察することにより、オイルシール811の潤滑剤の漏れを点検する点検員は、オイルシール811からの飛散した潤滑剤の量を確認することができる。例えば、図21並びに図22が示す潤滑剤漏れは、囲い部材の内側面に付着した潤滑剤に等しい。
上述した実施例並びに変形例は、シール部材として、オイルシール211、212に代えて、オイルシール211’又は、オイルシール211’’にも適用できる。さらに、上述した実施例並びに変形例において、径方向内外で同心状に配置されている主軸201と軸受カバー205との間をシールするシール部材の例として、オイルシール211、212に代えて非接触シールが適用できる。
<第7の実施形態>
図35は、第7の実施形態に係るポンプ装置の一部の構成を示す断面図である。図20と同等の構成には、同じ符号を用い説明を省略する。図35に示すシール部材511bは、非接触シールの一種であるラビリンスシールである。具体的には、軸受カバー205の主軸201の貫通部、すなわち、軸受カバー205における主軸201の外周面に対向するフランジ面540にラビリンスと称されるラビリンス溝541、542を設ける。シール部材511bは、フランジ面540とラビリンス溝541、542とで構成される。かかるラビリンス溝構造によれば、軸受カバー205の側面を伝って、主軸201とのフランジ面540の隙間に入り込んだ潤滑剤は、潤滑剤の表面張力によってラビリンス溝541、542に滞留し、ラビリンス溝541、542に沿って下方に導かれる。
本実施形態では、フランジ面540と主軸201の外周面との隙間によって、主軸端220側の大気側と軸受202側の被密封流体側に仕切る。本実施形態のポンプ装置においても、主軸201に傾斜した溝201cを形成すれば、主軸201上の潤滑剤は、第1の流れFL1によって被密封流体側へ戻され、潤滑剤漏れを抑制できる。
この溝201cは、少なくとも主軸201の外周面のうちフランジ面540に対向する領域に対して大気側の方に隣接した領域に形成されていればよい(図35の符号A1の領域)。また、傾斜した溝201cは、主軸201の外周面のうちフランジ面540に対向する領域(図35の符号B1の領域)に設けられてもよい。更に、傾斜した溝201cは、主軸201の外周面のうち被密封流体側の領域(図35の符号C1の領域)の少なくとも一部に設けられてもよい。すなわち、溝201cは、主軸201の外周面のフランジ面540の対向面に隣接して大気側の少なくとも一部に形成され、さらには被密封流体側まで延在していてもよい。これにより、シール部材にオイルシールを用いた構成と同様に、潤滑剤の漏れを抑制できる。
このように、シール部材の種類に依らずに、主軸201に傾斜した溝201cを形成すれば、第2の流れFL2によってシール部材に供給された潤滑剤が大気側に漏れるのを、第1の流れFL1によって被密封流体側へ戻し、潤滑剤の漏れを抑制できる。よって、様々なポンプ装置に適用できる。
ここで、上述した実施形態及び変形例に係る主軸に形成された傾斜した溝について説明する。以下、一例として、図11Aに示すポンプ装置301をポンプ装置310、図20に示すポンプ装置301をポンプ装置311と称して説明する。
溝201cは、ポンプ300が運転し主軸201が回転した際に、大気側の主軸201の外周面に露出した潤滑剤が被密封流体側に戻されるよう傾斜する。つまり、溝201cは、ポンプ300が運転し主軸201が回転した際に、主軸201の外周面の潤滑剤が大気側から被密封流体側に戻されるよう傾斜する。具体的には、傾斜した溝201cは、電動機側から見て時計回りの方向に主軸201が回転する場合、電動機側(主軸端220側)から見て右側の側面において、大気側から被密封流体側に向かって高くなる方向に傾斜した複数の線状の凹凸である。ここで、主軸201の外周面とオイルシール212との摺動部(リップ212dと主軸201の外周面上との圧接面)において、軸受203側の空間が被密封流体側であり羽根車30側の空間が大気側である。そして、主軸201の外周面のうちシール部材に対向する領域に対して大気側の方に隣接する領域の少なくとも一部に設けられる。更に、傾斜した溝201cは、主軸201の外周面のうち大気側から被密封流体側まで延在するとよい。
溝201cの線状の凹凸は、相互に略平行な複数の直線状の凹凸であり、当該直線状の凹凸は、形成される過程で、多少湾曲したり途切れたりした線も含む。また、溝201cの複数の線状の凹凸は所定の間隔で形成され、当該所定の間隔は、一例として、10μmから500μm程度であり、等間隔でも異なる間隔が混在してもよい。
ポンプ装置311の溝201cが形成された主軸201の表面粗さは、ポンプ装置310の主軸201のオイルシール211との摺動面の表面粗さ以上であればよい。たとえば、ポンプ装置311の溝201cが形成された主軸201の表面粗さにおける最大高さ粗さRz、中心線平均粗さRaのいずれか一方は、ポンプ装置310の主軸201のオイルシール211との摺動面の同等以上が好ましい。但し、主軸201の表面粗さが大きくなると、リップ11dの摩耗が早くなる。そこで、ポンプ装置311の溝201cが形成された主軸201の最大高さ粗さRzは、0.8μmRz~200μmRzが好ましい。ポンプ装置310の溝201cが形成された主軸201の中心線平均粗さRaは、0.1μmRa~50μmRaが好ましい。
このように、溝201cは微細であり、ポンプ300の運転中、第2の流れFL2によってシール部材に流れた潤滑剤は、溝201cの複数の凹凸を覆う油面を形成する。これにより、主軸201と潤滑剤との接触面積が増え、シール部材から大気側に漏れた潤滑剤が主軸201から飛散するのを抑制できる。更に、主軸201上の潤滑剤は、溝201cのポンピング作用によって、被密封流体側に戻されて大気側に漏れるのを抑制できる。
一般的にオイルシール211が摺動する主軸201は、グラインダ等の仕上げ加工具を用い、送りをかけない(つまり、軸線方向に仕上げ加工具を動かさない)加工方法で仕上げがなされる。そして、該仕上げの加工傷である筋目方向は、軸線に対してほぼ直角であることが好ましいとされている。作業者は、加工傷が軸線に対してほぼ直角になるように仕上げされたポンプ装置310の主軸201に、上述したメンテナンス手順にて、加工傷が軸線に対して傾斜した溝201cを形成してもよい。このとき、作業者は、ポンプ装置310の主軸201と同等の仕上げ加工具を用いて、送りをかけながら(つまり、軸線方向に仕上げ加工具を動かしながら)仕上げ加工を行うとよい。
上記、表面粗さ(最大高さ粗さRz、中心線平均粗さRa)の表記はJISB0601:2001に準ずる。また、ポンプ装置310の溝201cが形成された主軸201の表面粗さは、溝201cの筋目方向と直角の断面における表面粗さを示す。
特許文献5には、軸201の表面粗さが2.5μm以上になると、静止時の漏れの原因になることが開示されている。一方、本発明の実施形態に係るポンプ装置311において、ポンプ300の停止時における潤滑剤の油面OLの高さは、オイルシール211と主軸201の摺動面より低い。また、潤滑剤がグリース場合、回転軸201の静止中、グリースは冷却されて固形となり潤滑剤の油面は存在しないので、オイルシール211と主軸201の摺動面に液化したグリースは作用しない。以下、潤滑油又は液化したグリースを被密封流体と称すると、このように、横軸のポンプ300を備えた横軸形のポンプ装置311において、第2の流れFL2を形成する運転中に比べて停止中は、被密封流体が大気側に漏れる方向に作用しない。よって、回転軸201の静止中に、横軸形のポンプ装置311は、主軸201の表面の粗さに関係なくシール部材の作用(リップ211dの押圧もしくはラビリンス溝541、542による流下)によって潤滑剤を容易にシールできる。そのため、特許文献5に記載の回転軸の溝に比べて、ポンプ装置310の溝201cは、表面粗さ並びに加工精度の許容範囲が広がる。更には、溝201cを形成するための主軸201への加工方法や仕上げ加工具の許容範囲も広がる。
また、特許文献2には、摺動面と溝201cの筋目方向との角度であるリード角θが10から30°の範囲に設定されリード角θが大き過ぎるとポンプ作用が強すぎてシールとの間のオイルが流出して保持されるオイルの量が不足するとの記載がある。上述した本発明の実施形態並びに変形例では、第2の流れFL2の作用にて軸受カバー205の空間S側の側面を伝ってオイルシール211への潤滑剤の補給ができるので、リード角θが大きすぎることによって、オイルシール211の摺動面の潤滑剤が不足することはない。例えば、10°から80°でもよい。ここで、リード角θを略45°とすれば、主軸201に仕上げ加工を行う作業者が傾斜の目標を認識しやすいため作業性が向上する。
なお、ポンプ300は、可変速手段を用いて運転してもよい。ポンプ装置311において、軸受202から飛散する潤滑剤の量と溝201cにて戻される潤滑剤の量は、双方とも回転速度に比例する。例えば、主軸201の回転速度が通常の50%に減速した時、軸受202から飛散する潤滑剤の量が減少しシール部材へ潤滑剤を供給する第2の流れFL2が減少するが、溝201cのポンピング作用も減少し第1の流れFL1も減少するので、オイルシール211における潤滑剤の不足および潤滑剤の漏れを抑制できる。よって、ポンプ装置311は、可変速運転を行う自動給水ポンプ等に用いることもできる。また、リップ溝201bなどの摩耗があった主軸201でも、主軸201の表面の大気側に溝201cを設けることにより、潤滑油がオイルシール211から大気側に漏れることを抑制できる。また、軸受カバー205とオイルシール211について説明した実施形態並びに変形例は、軸受カバー206とオイルシール212において実施してもよいし、ポンプ装置301にて説明した各実施形態並びに変形例はポンプ装置101にも適用できる。
上述した各実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲とすべきである。