以下、添付図面に従って本開示の技術に係る実施形態の一例について説明する。
先ず、以下の説明で使用される文言について説明する。
CPUとは、“Central Processing Unit”の略称を指す。RAMとは、“Random Access Memory”の略称を指す。ROMとは、“Read Only Memory”の略称を指す。ASICとは、“Application Specific Integrated Circuit”の略称を指す。FPGAとは、“Field-Programmable Gate Array”の略称を指す。PLDとは、“Programmable Logic Device”の略称を指す。SSDとは、“Solid State Drive”の略称を指す。USBとは、“Universal Serial Bus”の略称を指す。A/Dとは、“Analog/Digital”の略称を指す。FIRとは、“Finite Impulse Response”の略称を指す。IIRとは、“Infinite Impulse Reaponse”の略称を指す。SNRとは、“Signal-to-Noise-Ratio”の略称を指す。SoCとは、“System-on-a-chip”の略称を指す。
[第1実施形態]
一例として図1に示すように、磁気テープ読取装置10は、磁気テープカートリッジ12、搬送装置14、読取ヘッド16、及び制御装置18を備えている。
磁気テープ読取装置10は、磁気テープカートリッジ12から磁気テープMTを引き出し、引き出した磁気テープMTから読取ヘッド16を用いてデータをリニアスキャン方式で読み取る装置である。なお、本開示の技術に係る第1実施形態において、データの読み取りとは、換言すると、データの再生を指す。以下の説明では、読取ヘッド16によって読み取られたデータを「再生信号」とも称する。
上記磁気テープMTは、一般的に、非磁性支持体上に強磁性粉末および任意に一種類以上の添加剤を含む磁性層を形成することによって作製される。磁性層には無配向、長手配向、垂直配向を適用することができる。磁性層等について、詳細に説明する。
<磁性層>
(強磁性粉末)
磁性層は、強磁性粉末を含む。磁性層に含まれる強磁性粉末としては、各種磁気テープMTの磁性層において用いられる強磁性粉末として公知の強磁性粉末を一種または二種以上組み合わせて使用することができる。強磁性粉末として平均粒子サイズの小さいものを使用することは記録密度向上の観点から好ましい。この点から、強磁性粉末の平均粒子サイズは50nm以下であることが好ましく、45nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることが更に好ましく、35nm以下であることが一層好ましく、30nm以下であることがより一層好ましく、25nm以下であることが更に一層好ましく、20nm以下であることがなお一層好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、強磁性粉末の平均粒子サイズは5nm以上であることが好ましく、8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることが更に好ましく、15nm以上であることが一層好ましく、20nm以上であることがより一層好ましい。
六方晶フェライト粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、六方晶フェライト粉末を挙げることができる。六方晶フェライト粉末の詳細については、例えば、特開2011-225417号公報の段落0012~0030、特開2011-216149号公報の段落0134~0136、特開2012-204726号公報の段落0013~0030および特開2015-127985号公報の段落0029~0084を参照できる。
本開示の技術および本明細書において、「六方晶フェライト粉末」とは、X線回折分析によって、主相として六方晶フェライト型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。主相とは、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが帰属する構造をいう。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが六方晶フェライト型の結晶構造に帰属される場合、六方晶フェライト型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。X線回折分析によって単一の構造のみが検出された場合には、この検出された構造を主相とする。六方晶フェライト型の結晶構造は、構成原子として、少なくとも鉄原子、二価金属原子および酸素原子を含む。二価金属原子とは、イオンとして二価のカチオンになり得る金属原子であり、ストロンチウム原子、バリウム原子、カルシウム原子等のアルカリ土類金属原子、鉛原子等を挙げることができる。本開示の技術および本明細書において、六方晶ストロンチウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がストロンチウム原子であるものをいい、六方晶バリウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がバリウム原子であるものをいう。主な二価金属原子とは、この粉末に含まれる二価金属原子の中で、原子%基準で最も多くを占める二価金属原子をいうものとする。ただし、上記の二価金属原子には、希土類原子は包含されないものとする。本発明および本明細書における「希土類原子」は、スカンジウム原子(Sc)、イットリウム原子(Y)、およびランタノイド原子からなる群から選択される。ランタノイド原子は、ランタン原子(La)、セリウム原子(Ce)、プラセオジム原子(Pr)、ネオジム原子(Nd)、プロメチウム原子(Pm)、サマリウム原子(Sm)、ユウロピウム原子(Eu)、ガドリニウム原子(Gd)、テルビウム原子(Tb)、ジスプロシウム原子(Dy)、ホルミウム原子(Ho)、エルビウム原子(Er)、ツリウム原子(Tm)、イッテルビウム原子(Yb)、およびルテチウム原子(Lu)からなる群から選択される。
以下に、六方晶フェライト粉末の一態様である六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、更に詳細に説明する。
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800~1500nm3の範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化された六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気テープMTの作製のために好適である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800nm3以上であり、例えば850nm3以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、1400nm3以下であることがより好ましく、1300nm3以下であることが更に好ましく、1200nm3以下であることが一層好ましく、1100nm3以下であることがより一層好ましい。
「活性化体積」とは、磁化反転の単位であって、粒子の磁気的な大きさを示す指標である。本開示の技術および本明細書に記載の活性化体積および後述の異方性定数Kuは、振動試料型磁力計を用いて保磁力Hc測定部の磁場スイープ速度3分と30分とで測定し(測定温度:23℃±1℃)、以下のHcと活性化体積Vとの関係式から求められる値である。なお異方性定数Kuの単位に関して、1erg/cc=1.0×10-1J/m3である。
Hc=2Ku/Ms{1-[(kT/KuV)ln(At/0.693)]1/2}
[上記式中、Ku:異方性定数(単位:J/m3)、Ms:飽和磁化(単位:kA/m)、k:ボルツマン定数、T:絶対温度(単位:K)、V:活性化体積(単位:cm3)、A:スピン歳差周波数(単位:s-1)、t:磁界反転時間(単位:s)]
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、好ましくは1.8×105J/m3以上のKuを有することができ、より好ましくは2.0×105J/m3以上のKuを有することができる。また、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のKuは、例えば2.5×105J/m3以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含んでいてもよく、含まなくてもよい。六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、鉄原子100原子%に対して、0.5~5.0原子%の含有率(バルク含有率)で希土類原子を含むことが好ましい。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一態様では、希土類原子表層部偏在性を有することができる。本開示の技術および本明細書における「希土類原子表層部偏在性」とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により部分溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子表層部含有率」または希土類原子に関して単に「表層部含有率」と記載する。)が、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により全溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子バルク含有率」または希土類原子に関して単に「バルク含有率」と記載する。)と、土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0の比率を満たすことを意味する。後述の六方晶ストロンチウムフェライト粉末の希土類原子含有率とは、希土類原子バルク含有率と同義である。これに対し、酸を用いる部分溶解は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部を溶解するため、部分溶解により得られる溶解液中の希土類原子含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部における希土類原子含有率である。希土類原子表層部含有率が、「希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0」の比率を満たすことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。本開示の技術および本明細書における表層部とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面から内部に向かう一部領域を意味する。
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、希土類原子含有率(バルク含有率)は、鉄原子100原子%に対して0.5~5.0原子%の範囲であることが好ましい。上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることは、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することに寄与すると考えられる。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末が上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることにより、異方性定数Kuを高めることができるためと推察される。異方性定数Kuは、この値が高いほど、いわゆる熱揺らぎと呼ばれる現象の発生を抑制すること(換言すれば熱的安定性を向上させること)ができる。熱揺らぎの発生が抑制されることにより、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の粒子表層部に希土類原子が偏在することが、表層部の結晶格子内の鉄(Fe)のサイトのスピンを安定化することに寄与し、これにより異方性定数Kuが高まるのではないかと推察される。
また、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末を磁性層の強磁性粉末として用いることは、磁気ヘッドとの摺動によって磁性層表面が削れることを抑制することにも寄与すると推察される。即ち、磁気テープMTの走行耐久性の向上にも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末が寄与し得ると推察される。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面に希土類原子が偏在することが、粒子表面と磁性層に含まれる有機物質(例えば、結合剤および/または添加剤)との相互作用の向上に寄与し、その結果、磁性層の強度が向上するためではないかと推察される。
繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点および/または走行耐久性の更なる向上の観点からは、希土類原子含有率(バルク含有率)は、0.5~4.5原子%の範囲であることがより好ましく、1.0~4.5原子%の範囲であることが更に好ましく、1.5~4.5原子%の範囲であることが一層好ましい。
上記バルク含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる含有率である。なお本開示の技術および本明細書において、特記しない限り、原子について含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められるバルク含有率をいうものとする。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子として一種の希土類原子のみ含んでもよく、二種以上の希土類原子を含んでもよい。二種以上の希土類原子を含む場合の上記バルク含有率とは、二種以上の希土類原子の合計について求められる。この点は、本開示の技術および本明細書における他の成分についても同様である。即ち、特記しない限り、ある成分は、一種のみ用いてもよく、二種以上用いてもよい。二種以上用いられる場合の含有量または含有率とは、二種以上の合計についていうものとする。
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、含まれる希土類原子は、希土類原子のいずれか一種以上であればよい。繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点から好ましい希土類原子としては、ネオジム原子、サマリウム原子、イットリウム原子およびジスプロシウム原子を挙げることができ、ネオジム原子、サマリウム原子およびイットリウム原子がより好ましく、ネオジム原子が更に好ましい。
希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、偏在の程度は限定されるものではない。例えば、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は1.0超であり、1.5以上であることができる。「表層部含有率/バルク含有率」が1.0より大きいことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。また、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は、例えば、10.0以下、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下、5.0以下、または4.0以下であることができる。ただし、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、上記の「表層部含有率/バルク含有率」は、例示した上限または下限に限定されるものではない。
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の部分溶解および全溶解について、以下に説明する。粉末として存在している六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、部分溶解および全溶解する試料粉末は、同一ロットの粉末から採取する。一方、磁気テープMTの磁性層に含まれている六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、磁性層から取り出した六方晶ストロンチウムフェライト粉末の一部を部分溶解に付し、他の一部を全溶解に付す。磁性層からの六方晶ストロンチウムフェライト粉末の取り出しは、例えば、特開2015-91747号公報の段落0032に記載の方法によって行うことができる。
上記部分溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認できる程度に溶解することをいう。例えば、部分溶解により、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子について、粒子全体を100質量%として10~20質量%の領域を溶解することができる。一方、上記全溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認されない状態まで溶解することをいう。
上記部分溶解および表層部含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。ただし、下記の試料粉末量等の溶解条件は例示であって、部分溶解および全溶解が可能な溶解条件を任意に採用できる。
試料粉末12mgおよび1mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度70℃のホットプレート上で1時間保持する。得られた溶解液を0.1μmのメンブレンフィルタでろ過する。こうして得られたろ液の元素分析を誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)分析装置によって行う。こうして、鉄原子100原子%に対する希土類原子の表層部含有率を求めることができる。元素分析により複数種の希土類原子が検出された場合には、全希土類原子の合計含有率を、表層部含有率とする。この点は、バルク含有率の測定においても、同様である。
一方、上記全溶解およびバルク含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。
試料粉末12mgおよび4mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持する。その後は上記の部分溶解および表層部含有率の測定と同様に行い、鉄原子100原子%に対するバルク含有率を求めることができる。
磁気テープMTに記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気テープMTに含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、希土類原子を含むものの希土類原子表層部偏在性を持たない六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含まない六方晶ストロンチウムフェライト粉末と比べてσsが大きく低下する傾向が見られた。これに対し、そのようなσsの大きな低下を抑制するうえでも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末は好ましいと考えられる。一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のσsは、45A・m2/kg以上であることができ、47A・m2/kg以上であることもできる。一方、σsは、ノイズ低減の観点からは、80A・m2/kg以下であることが好ましく、60A・m2/kg以下であることがより好ましい。σsは、振動試料型磁力計等の磁気特性を測定可能な公知の測定装置を用いて測定することができる。本開示の技術および本明細書において、特記しない限り、質量磁化σsは、磁場強度1194kA/m(15kOe)で測定される値とする。
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の構成原子の含有率(バルク含有率)に関して、ストロンチウム原子含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば2.0~15.0原子%の範囲であることができる。一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、この粉末に含まれる二価金属原子がストロンチウム原子のみであることができる。また他の一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、ストロンチウム原子に加えて一種以上の他の二価金属原子を含むこともできる。例えば、バリウム原子および/またはカルシウム原子を含むことができる。ストロンチウム原子以外の他の二価金属原子が含まれる場合、六方晶ストロンチウムフェライト粉末におけるバリウム原子含有率およびカルシウム原子含有率は、それぞれ、例えば、鉄原子100原子%に対して、0.05~5.0原子%の範囲であることができる。
六方晶フェライトの結晶構造としては、マグネトプランバイト型(「M型」とも呼ばれる。)、W型、Y型およびZ型が知られている。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、いずれの結晶構造を取るものであってもよい。結晶構造は、X線回折分析によって確認することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によって、単一の結晶構造または二種以上の結晶構造が検出されるものであることができる。例えば一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によってM型の結晶構造のみが検出されるものであることができる。例えば、M型の六方晶フェライトは、AFe12O19の組成式で表される。ここでAは二価金属原子を表し、六方晶ストロンチウムフェライト粉末がM型である場合、Aはストロンチウム原子(Sr)のみであるか、またはAとして複数の二価金属原子が含まれる場合には、上記の通り原子%基準で最も多くをストロンチウム原子(Sr)が占める。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の二価金属原子含有率は、通常、六方晶フェライトの結晶構造の種類により定まるものであり、特に限定されるものではない。鉄原子含有率および酸素原子含有率についても、同様である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、少なくとも、鉄原子、ストロンチウム原子および酸素原子を含み、更に希土類原子を含むこともできる。更に、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、これら原子以外の原子を含んでもよく、含まなくてもよい。一例として、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、アルミニウム原子(Al)を含むものであってもよい。アルミニウム原子の含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば0.5~10.0原子%であることができる。繰り返し再生における再生出力低下をより一層抑制する観点からは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子を含み、これら原子以外の原子の含有率が、鉄原子100原子%に対して、10.0原子%以下であることが好ましく、0~5.0原子%の範囲であることがより好ましく、0原子%であってもよい。即ち、一態様では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子以外の原子を含まなくてもよい。上記の原子%で表示される含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる各原子の含有率(単位:質量%)を、各原子の原子量を用いて原子%表示の値に換算して求められる。また、本開示の技術および本明細書において、ある原子について「含まない」とは、全溶解してICP分析装置により測定される含有率が0質量%であることをいう。ICP分析装置の検出限界は、通常、質量基準で0.01ppm(parts per million)以下である。上記の「含まない」とは、ICP分析装置の検出限界未満の量で含まれることを包含する意味で用いるものとする。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一態様では、ビスマス原子(Bi)を含まないものであることができる。
金属粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、強磁性金属粉末を挙げることもできる。強磁性金属粉末の詳細については、例えば特開2011-216149号公報の段落0137~0141および特開2005-251351号公報の段落0009~0023を参照できる。
ε-酸化鉄粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、ε-酸化鉄粉末を挙げることもできる。本開示の技術および本明細書において、「ε-酸化鉄粉末」とは、X線回折分析によって、主相としてε-酸化鉄型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークがε-酸化鉄型の結晶構造に帰属される場合、ε-酸化鉄型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。ε-酸化鉄粉末の製造方法としては、ゲーサイトから作製する方法、逆ミセル法等が知られている。上記製造方法は、いずれも公知である。また、Feの一部がGa、Co、Ti、Al、Rh等の置換原子によって置換されたε-酸化鉄粉末を製造する方法については、例えば、J. Jpn. Soc. Powder Metallurgy Vol. 61 Supplement, No. S1, pp. S280-S284、J. Mater. Chem. C, 2013, 1, pp.5200-5206等を参照できる。ただし、上記磁気テープMTの磁性層において強磁性粉末として使用可能なε-酸化鉄粉末の製造方法は、ここで挙げた方法に限定されない。
ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300~1500nm3の範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化されたε-酸化鉄粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気テープMTの作製のために好適である。ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300nm3以上であり、例えば500nm3以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、1400nm3以下であることがより好ましく、1300nm3以下であることが更に好ましく、1200nm3以下であることが一層好ましく、1100nm3以下であることがより一層好ましい。
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。ε-酸化鉄粉末は、好ましくは3.0×104J/m3以上のKuを有することができ、より好ましくは8.0×104J/m3以上のKuを有することができる。また、ε-酸化鉄粉末のKuは、例えば3.0×105J/m3以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し、好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
磁気テープMTに記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気テープMTに含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、一態様では、ε-酸化鉄粉末のσsは、8A・m2/kg以上であることができ、12A・m2/kg以上であることもできる。一方、ε-酸化鉄粉末のσsは、ノイズ低減の観点からは、40A・m2/kg以下であることが好ましく、35A・m2/kg以下であることがより好ましい。
本開示の技術および本明細書において、特記しない限り、強磁性粉末等の各種粉末の平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡を用いて、以下の方法により測定される値とする。
粉末を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントするか、ディスプレイに表示する等して、粉末を構成する粒子の写真を得る。得られた粒子の写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行う。こうして得られた500個の粒子の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H-9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて行うことができる。後述の実施例に示す平均粒子サイズは、特記しない限り、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H-9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて測定された値である。本開示の技術および本明細書において、粉末とは、複数の粒子の集合を意味する。例えば、強磁性粉末とは、複数の強磁性粒子の集合を意味する。また、複数の粒子の集合とは、集合を構成する粒子が直接接触している態様に限定されず、後述する結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している態様も包含される。粒子との語が、粉末を表すために用いられることもある。
粒子サイズ測定のために磁気テープMTから試料粉末を採取する方法としては、例えば特開2011-048878号公報の段落0015に記載の方法を採用することができる。
本開示の技術および本明細書において、特記しない限り、粉末を構成する粒子のサイズ(粒子サイズ)は、上記の粒子写真において観察される粒子の形状が、
(1)針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、
(2)板状または柱状(ただし、厚みまたは高さが板面または底面の最大長径より小さい)の場合は、その板面または底面の最大長径で表され、
(3)球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
また、粉末の平均針状比は、上記測定において粒子の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粒子の(長軸長/短軸長)の値を求め、上記500個の粒子について得た値の算術平均を指す。ここで、特記しない限り、短軸長とは、上記粒子サイズの定義で(1)の場合は、粒子を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚みまたは高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、特記しない限り、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合、平均粒子サイズは平均板径である。同定義(3)の場合、平均粒子サイズは、平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
磁性層における強磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。磁性層は、強磁性粉末を含み、結合剤を含むことができ、任意に一種以上の更なる添加剤を含むこともできる。磁性層において強磁性粉末の充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
(結合剤、硬化剤)
上記磁気テープMTは塗布型磁気テープであることができ、磁性層に結合剤を含むことができる。結合剤は、一種以上の樹脂である。結合剤としては、塗布型磁気テープの結合剤として通常使用される各種樹脂を用いることができる。例えば、結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選ばれる樹脂を単独で用いるか、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、ホモポリマーでもよく、コポリマー(共重合体)でもよい。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。以上の結合剤については、特開2010-24113号公報の段落0028~0031も参照できる。磁性層の結合剤の含有量は、強磁性粉末100.0質量部に対して、例えば1.0~30.0質量部であることができる。結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。
また、結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一態様では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一態様では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。硬化剤は、磁性層形成工程の中で硬化反応が進行することにより、少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。この点は、他の層を形成するために用いられる組成物が硬化剤を含む場合に、この組成物を用いて形成される層についても同様である。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011-216149号公報の段落0124~0125を参照できる。磁性層形成用組成物の硬化剤の含有量は、結合剤100.0質量部に対して例えば0~80.0質量部であることができ、磁性層の強度向上の観点からは50.0~80.0質量部であることができる。
(添加剤)磁性層には、必要に応じて一種以上の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、一例として、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれる添加剤としては、非磁性粉末、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を挙げることができる。潤滑剤としては、例えば境界潤滑剤として機能し得る脂肪酸アミドを使用することができる。境界潤滑剤は、粉末(例えば強磁性粉末)の表面に吸着し強固な潤滑膜を形成することで接触摩擦を下げることのできる潤滑剤と考えられている。脂肪酸アミドとしては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘン酸、エルカ酸、エライジン酸等の各種脂肪酸のアミド、具体的にはラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド等を挙げることができる。磁性層の脂肪酸アミド含有量は、強磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0~3.0質量部であり、好ましくは0~2.0質量部であり、より好ましくは0~1.0質量部である。また、非磁性層にも脂肪酸アミドが含まれていてもよい。非磁性層の脂肪酸アミド含有量は、非磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0~3.0質量部であり、好ましくは0~1.0質量部である。分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061および0071を参照できる。分散剤を非磁性層形成用組成物に添加してもよい。非磁性層形成用組成物に添加し得る分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061を参照できる。また、磁性層に含まれ得る非磁性粉末としては、研磨剤として機能することができる非磁性粉末、磁性層表面に適度に突出する突起を形成する突起形成剤として機能することができる非磁性粉末等が挙げられる。研磨剤としては、磁性層の研磨剤として通常使用される物質であるアルミナ(Al2O3)、炭化ケイ素、ボロンカーバイド(B4C)、TiC、酸化クロム(Cr2O3)、酸化セリウム、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化鉄、ダイヤモンド等の粉末を挙げることができ、中でもα-アルミナ等のアルミナ、炭化ケイ素、およびダイヤモンドの粉末が好ましい。磁性層の研磨剤含有量は、強磁性粉末100.0質量部に対して1.0~20.0質量部であることが好ましく、3.0~15.0質量部であることがより好ましく、4.0~10.0質量部であることが更に好ましい。研磨剤の平均粒子サイズは、例えば30~300nmの範囲であり、好ましくは50~200nmの範囲である。突起形成剤としては、カーボンブラック、コロイド粒子等を挙げることができる。磁性層の突起形成剤含有量は、強磁性粉末100.0質量部に対して0.1~10.0質量部であることが好ましく、0.1~5.0質量部であることがより好ましく、0.5~5.0質量部であることが更に好ましい。コロイド粒子の平均粒子サイズは、例えば90~200nmの範囲であることが好ましく、100~150nmの範囲であることがより好ましい。カーボンブラックの平均粒子サイズは、5~200nmの範囲であることが好ましく、10~150nmの範囲であることがより好ましい。
以上説明した磁性層は、非磁性支持体表面上に直接、または非磁性層を介して間接的に、設けることができる。
<非磁性層>
次に非磁性層について説明する。上記磁気テープMTは、非磁性支持体表面上に直接磁性層を有していてもよく、非磁性支持体表面上に非磁性粉末を含む非磁性層を介して磁性層を有していてもよい。非磁性層に使用される非磁性粉末は、無機粉末でも有機粉末でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機粉末としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2011-216149号公報の段落0146~0150を参照できる。非磁性層に使用可能なカーボンブラックについては、特開2010-24113号公報の段落0040~0041も参照できる。非磁性層における非磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。
非磁性層は、非磁性粉末および結合剤を含む層であることができ、一種以上の添加剤を更に含むことができる。非磁性層の結合剤、添加剤等のその他詳細は、非磁性層に関する公知技術が適用できる。また、例えば、結合剤の種類および含有量、添加剤の種類および含有量等に関しては、磁性層に関する公知技術も適用できる。
本開示の技術および本明細書において、非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が100Oe以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が100Oe以下である層をいうものとする。1[kOe]=106/4π[A/m]である。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
一態様では、式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物は、非磁性層に含まれ得る。式1で表されるアルキルエステルアニオンのアンモニウム塩構造を有する化合物は、非磁性層に非磁性粉末100.0質量部に対して0.01質量部以上含まれることが好ましく、 0.1質量部以上含まれることがより好ましく、0.5質量部以上含まれることが更に好ましい。また、非磁性層の上記化合物の含有量は、非磁性粉末100.0質量部に対して15.0質量部以下であることが好ましく、10.0質量部以下であることがより好ましく、8.0質量部以下であることが更に好ましい。また、非磁性層を形成するために使用される非磁性層形成用組成物の上記化合物の含有量の好ましい範囲も同様である。非磁性層に含まれる上記化合物は、磁性層に移動することができ、更に磁性層表面に移動して液膜を形成することもできる。非磁性層または非磁性層形成用組成物に含まれ得る上記化合物の詳細は、先に記載した通りである。
<非磁性支持体>
次に、非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する。)について説明する。非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、およびポリアミドが好ましい。これらの支持体には、あらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、加熱処理等を行ってもよい。
<バックコート層>
上記磁気テープMTは、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有することもできる。バックコート層には、カーボンブラックおよび無機粉末のいずれか一方または両方が含有されていることが好ましい。バックコート層は、非磁性粉末および結合剤を含む層であることができ、一種以上の添加剤を更に含むことができる。バックコート層の結合剤および任意に含まれ得る各種添加剤については、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することもできる。例えば、特開2006-331625号公報の段落0018~0020および米国特許第7,029,774号明細書の第4欄65行目~第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。
<各種厚み>非磁性支持体の厚みは、例えば3.0~80.0μmであり、好ましくは3.0~20.0μm、より好ましくは3.0~10.0μm、更に好ましくは3.0~6.0μmである。
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量、ヘッドギャップ長、記録信号の帯域等に応じて最適化することができる。磁性層の厚みは、高密度記録化の観点から、好ましくは10nm~150nmであり、より好ましくは20nm~120nmであり、更に好ましくは30nm~100nmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する二層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。二層以上に分離する場合の磁性層の厚みとは、これらの層の合計厚みとする。
非磁性層の厚みは、例えば0.1~3.0μmであり、0.1~2.0μmであることが好ましく、0.1~1.5μmであることが更に好ましい。
バックコート層の厚みは、0.9μm以下であることが好ましく、0.1~0.7μmの範囲であることが更に好ましい。
磁気テープMTの各層および非磁性支持体の厚みは、公知の膜厚測定法により求めることができる。一例として、例えば、磁気テープの厚み方向の断面を、イオンビーム、ミクロトーム等の公知の手法により露出させた後、露出した断面において走査型電子顕微鏡によって断面観察を行う。断面観察において任意の1箇所において求められた厚み、または無作為に抽出した2箇所以上の複数箇所、例えば2箇所、において求められた厚みの算術平均として、各種厚みを求めることができる。または、各層の厚みは、製造条件から算出される設計厚みとして求めてもよい。
制御装置18は、磁気テープ読取装置10の全体を制御する。本開示の技術に係る第1実施形態において、制御装置18は、ASICを含むデバイスによって実現される。ここでは、ASICを含むデバイスを例示しているが、本開示の技術はこれに限定されない。例えば、制御装置18は、FPGA又はPLDを含むデバイスによって実現されるようにしてもよい。また、制御装置18は、CPU、ROM、及びRAMを含むコンピュータを含むデバイスによって実現されるようにしてもよい。また、制御装置18は、ASIC、FPGA、PLD、及びコンピュータのうちの2つ以上を組み合わせたデバイスによって実現されるようにしてもよい。
搬送装置14は、磁気テープMTを順方向及び逆方向に選択的に搬送する装置であり、送出モータ20、巻取リール22、巻取モータ24、複数のガイドローラGR、及び制御装置18を備えている。
磁気テープカートリッジ12内には、カートリッジリールCRが設けられている。カートリッジリールCRには磁気テープMTが巻き掛けられている。送出モータ20は、制御装置18の制御下で、磁気テープカートリッジ12内のカートリッジリールCRを回転駆動させる。制御装置18は、送出モータ20を制御することで、カートリッジリールCRの回転方向、回転速度、及び回転トルク等を制御する。
磁気テープMTが巻取リール22によって巻き取られる場合には、制御装置18によって、磁気テープMTを順方向に走行させるように送出モータ20を回転させる。送出モータ20の回転速度及び回転トルク等は、巻取リール22によって巻き取られる磁気テープMTの速度に応じて調整される。
巻取モータ24は、制御装置18の制御下で、巻取リール22を回転駆動させる。制御装置18は、巻取モータ24を制御することで、巻取リール22の回転方向、回転速度、及び回転トルク等を制御する。
磁気テープMTが巻取リール22によって巻き取られる場合には、制御装置18によって、磁気テープMTを順方向に走行させるように巻取モータ24を回転させる。巻取モータ24の回転速度及び回転トルク等は、巻取リール22によって巻き取られる磁気テープMTの速度に応じて調整される。
このようにして送出モータ20及び巻取モータ24の各々の回転速度及び回転トルク等が調整されることで、磁気テープMTに既定範囲内の張力が付与される。ここで、既定範囲内とは、例えば、磁気テープMTから読取ヘッド16によってデータが読取可能な張力の範囲として、コンピュータ・シミュレーション及び/又は実機による試験等により得られた張力の範囲を指す。
磁気テープMTをカートリッジリールCRに巻き戻す場合には、制御装置18によって、磁気テープMTを逆方向に走行させるように送出モータ20及び巻取モータ24を回転させる。
本開示の技術に係る第1実施形態では、送出モータ20及び巻取モータ24の回転速度及び回転トルク等が制御されることにより磁気テープMTの張力が制御されているが、本開示の技術はこれに限定されない。例えば、磁気テープMTの張力は、ダンサローラを用いて制御されてもよいし、バキュームチャンバに磁気テープMTを引き込むことによって制御されるようにしてもよい。
複数のガイドローラGRの各々は、磁気テープMTを案内するローラである。磁気テープMTの走行経路は、磁気テープカートリッジ12と巻取リール22との間の数箇所(図1に示す例では、3箇所)で磁気テープMTが張り掛けられることによって定められている。
読取ヘッド16は、上流側読取ヘッド16A及び下流側読取ヘッド16Bを備えている。上流側読取ヘッド16A及び下流側読取ヘッド16Bは、磁気テープMTの走行方向(以下、単に「走行方向」とも称する)に沿って並んで配置されている。走行方向は、磁気テープMTの順方向に相当する方向である。上流側読取ヘッド16Aは、下流側読取ヘッド16Bよりも走行方向の上流側に配置されている。換言すると、下流側読取ヘッド16Bは、上流側読取ヘッド16Aよりも走行方向の下流側に配置されている。上流側読取ヘッド16Aは、磁気テープMTからのデータの読み取りが可能な位置にホルダ28Aによって保持されている。下流側読取ヘッド16Bは、磁気テープMTからのデータの読み取りが可能な位置にホルダ28Bによって保持されている。なお、図1に示す例では、走行方向上において、1個のガイドローラGRを挟んで上流側にホルダ28Aが配置され、下流側にホルダ28Bが配置されている。
一例として図2に示すように、磁気テープMTは、トラック領域30及びサーボパターン32を備えている。サーボパターン32は、磁気テープMTに対する読取ヘッド16の位置の検出に用いられるパターンである。サーボパターン32は、磁気テープMTの幅方向(以下、単に「テープ幅方向」とも称する)の両端部に、各々第1既定角度(例えば、6度)の複数の第1斜線32Aと、各々第2既定角度(例えば、174度)の複数の第2斜線32Bとが磁気テープMTの走行方向に沿って交互に配置されたパターンである。
具体的には、例えば、図2の拡大図に示すように、第1斜線32Aとしては、5本の第1斜線32Aと4本の第1斜線32Aとが存在し、第2斜線32Bとしては、5本の第2斜線32Bと4本の第2斜線32Bとが存在する。すなわち、磁気テープMTの走行方向に沿って5本の第1斜線32A、5本の第2斜線32B、4本の第1斜線32A、及び4本の第2斜線32Bの順に配置されている。図2に示す磁気テープMT内のサーボパターン32は、説明の便宜上、簡略化されて示されている。図2に示す磁気テープMT内に図示されている第1斜線32Aは、1つのサーボパターン32内の複数本の第1斜線32Aのうち、走行方向の最下流側の第1斜線32Aである。図2に示す磁気テープMT内に図示されている第2斜線32Bは、1つのサーボパターン32内の複数本の第2斜線32Bのうち、走行方向の最下流側の第2斜線32Bである。
トラック領域30は、読取対象とされるデータが書き込まれた領域であり、磁気テープMTのテープ幅方向の中央部に形成されている。ここで言う「テープ幅方向の中央部」とは、例えば、磁気テープMTのテープ幅方向の一端部のサーボパターン32と他端部のサーボパターン32との間の領域を指す。
上流側読取ヘッド16Aは、上流側サーボ素子対36を備えている。下流側読取ヘッド16Bは、下流側サーボ素子対38を備えている。
上流側サーボ素子対36は、上流側サーボ素子36A,36Bを備えている。上流側サーボ素子36Aは、磁気テープMTのテープ幅方向の一端部のサーボパターン32に対向する位置に配置されており、上流側サーボ素子36Bは、磁気テープMTのテープ幅方向の他端部のサーボパターン32に対向する位置に配置されている。なお、ここでは、上流側サーボ素子36A,36Bを例示しているが、上流側サーボ素子36A,36Bの何れかのみを使用しても本開示の技術は成立する。すなわち、上流側読取ヘッド16Aによるリニアスキャン方式のデータの読み取りを実現するために必要な個数のサーボ素子が上流側読取ヘッド16Aに対して用いられていればよい。
下流側サーボ素子対38は、下流側サーボ素子38A,38Bを備えている。下流側サーボ素子38Aは、上流側サーボ素子36Aよりも走行方向の下流側にて、磁気テープMTのテープ幅方向の一端部のサーボパターン32に対向する位置に配置されている。下流側サーボ素子38Bは、上流側サーボ素子36Bよりも走行方向の下流側にて、磁気テープMTのテープ幅方向の他端部のサーボパターン32に対向する位置に配置されている。なお、ここでは、下流側サーボ素子38A,38Bを例示しているが、下流側サーボ素子38A,38Bの何れかのみを使用しても本開示の技術は成立する。すなわち、下流側読取ヘッド16Bによるリニアスキャン方式のデータの読み取りを実現するために必要な個数のサーボ素子が下流側読取ヘッド16Bに対して用いられていればよい。
読取ヘッド16は、複数の読取部26を備えている。読取部26は、本開示の技術に係る「読取部」の一例である。複数の読取部26は、磁気テープ読取装置10がデフォルトの状態で、トラック領域30に対向する位置に配置されている。
ここで、磁気テープ読取装置10がデフォルトの状態とは、磁気テープMTが変形することなく、かつ、磁気テープMTと読取ヘッド16との位置関係が正しい位置関係にある状態を指す。ここで、正しい位置関係とは、例えば、トラック領域30のテープ幅方向の中心と読取ヘッド16の長手方向の中心とが一致する位置関係を指す。なお、本開示の技術に係る第1実施形態での「一致」の意味には、完全な一致の意味の他に、設計上及び製造上において許容される誤差を含む略一致の意味も含まれる。
トラック領域30は、複数のトラックを備えており、複数のトラックは、テープ幅方向に等間隔に配置されている。トラックの本数は、例えば、読取部26の個数の数倍から数十倍である。読取部26は、例えば、テープ幅方向に沿ってトラックの数本分又は数十本分毎にテープ幅方向に等間隔に配置されている。本開示の技術に係る第1実施形態では、32個の読取部26が採用されている。
すなわち、読取部26は、磁気テープMTに含まれる32個のトラックに対して各々対応する位置に配置される。換言すると、読取部26は、磁気テープMTに含まれる32個のトラックの各々の単一トラックに対して対応する位置に配置される。ここでは、トラック及び読取部26の各々の個数として32個を例示しているが、これはあくまでも一例に過ぎず、個数は32個よりも多くてもよいし、少なくてもよい。なお、本開示の技術に係る第1実施形態での「等間隔」の意味には、完全な等間隔の意味の他に、設計上及び製造上において許容される誤差を含む略等間隔の意味も含まれる。
読取部26とは、上流側読取素子26A及び下流側読取素子26Bを指す。上流側読取素子26A及び下流側読取素子26Bは、本開示の技術に係る「複数の読取素子」の一例である。上流側読取素子26Aは、上流側読取ヘッド16Aに設けられており、下流側読取素子26Bは、下流側読取ヘッド16Bに設けられている。
上流側読取ヘッド16Aの端部には、上流側移動機構40が設けられている。上流側移動機構40は、外部から付与された動力に応じて上流側読取ヘッド16Aをテープ幅方向に移動させる。具体的には、上流側移動機構40は、外部から付与された動力に応じて上流側読取ヘッド16Aをテープ幅方向の一方側と他方側とに選択的に移動させる。図2に示す例において、テープ幅方向の一方側と他方側とは、矢印A方向を指す。
下流側読取ヘッド16Bの端部には、下流側移動機構42が設けられている。下流側移動機構42は、外部から付与された動力に応じて下流側読取ヘッド16Bをテープ幅方向に移動させる。具体的には、下流側移動機構42は、外部から付与された動力に応じて下流側読取ヘッド16Bをテープ幅方向の一方側と他方側とに選択的に移動させる。図2に示す例において、テープ幅方向の一方側と他方側とは、矢印B方向を指す。
なお、上流側移動機構40及び下流側移動機構42は、本開示の技術に係る「第2移動機構」の一例である。
一例として図3に示すように、上流側読取素子26A及び下流側読取素子26Bは、トラック領域30に含まれる複数のトラック30Aのうちの読取部26が割り当てられる1つのトラック30Aに対して、走行方向に対して配置されている。トラック領域30に含まれる複数のトラック30Aのうちの読取部26が割り当てられる1つのトラック30Aは、本開示の技術に係る「単一トラック」の一例である。なお、以下では、説明の便宜上、トラック領域30に含まれる複数のトラック30Aのうち、1つの読取部26が割り当てられる1つのトラック30Aを「単一トラック30A」とも称する。
本開示の技術に係る第1実施形態では、磁気テープMTが制御装置18(図1参照)の制御下で走行している状態において、読取ヘッド16によって、単一トラック30Aのうちの磁気テープMTの走行方向の特定範囲からリニアスキャン方式でデータの読み取りが行われる。具体的には、磁気テープMTが一方向へ1回走行する間に読取ヘッド16によって、単一トラック30Aのうちの磁気テープMTの走行方向の特定範囲からリニアスキャン方式でデータの読み取りが複数回行われる。データの読み取りが複数回行われるということは、換言すると、同一の読取対象に対して異なる時間軸でデータの読み取りが行われることを意味する。本開示の技術に係る第1実施形態では、同一の読取対象に対してデータの読み取りが2回行われる。なお、「2回」は、あくまでも一例に過ぎず、データの読み取りが3回以上行われる場合であっても本開示の技術は成立する。
以下では、説明の便宜上、単一トラック30Aのうちの磁気テープMTの走行方向の特定範囲を、単に「特定範囲」と称する。なお、本開示の技術に係る第1実施形態では、「特定範囲」としては、磁気テープMTの走行方向の範囲のうち、ユーザによって指定された一部の範囲が採用されている。なお、一部の範囲が「特定範囲」であるということは、あくまでも一例に過ぎず、磁気テープMTの走行方向の全範囲が「特定範囲」とされてもよい。
磁気テープMTが制御装置18(図1参照)の制御下で走行している状態において、上流側読取素子26A及び下流側読取素子26Bの各々は、特定範囲からリニアスキャン方式でデータを読み取る。これは、読取部26という1つのデバイスが、制御装置18の制御下で、特定範囲からリニアスキャン方式で2回読み取ることを意味する。つまり、制御装置18は、上流側読取素子26A及び下流側読取素子26Bの各々に対して特定範囲からデータを読み取らせることで読取部26に対して単一トラック30Aからデータを複数回読み取らせる。
リニアスキャン方式では、読取部26の読取動作と同期して、上流側サーボ素子対36及び下流側サーボ素子対38によってサーボパターン32が読み取られる。すなわち、本開示の技術に係る第1実施形態に係るリニアスキャン方式では、読取部26、上流側サーボ素子対36、及び下流側サーボ素子対38によって磁気テープMTに対する読み取りが並行して行われる。
一例として図4に示すように、上流側読取ヘッド16A及び下流側読取ヘッド16Bの各々は制御装置18に接続されている。読取部26によって単一トラック30Aから得られた再生信号は、制御装置18に出力される。また、上流側サーボ素子対36及び下流側サーボ素子対38の各々によってサーボパターン32が読み取られて得られたアナログのサーボ信号(以下、「アナログサーボ信号」と称する)は、制御装置18に出力される。
制御装置18には、モータ44,46が接続されている。モータ44,46の一例としては、ボイスコイルモータが挙げられる。ボイスコイルモータは、磁石のエネルギーを媒体として、コイルに流れる電流に基づく電気エネルギーが運動エネルギーに変換されることによって動力を生成する。モータ44は、上流側移動機構40に接続されており、モータ46は、下流側移動機構42に接続されている。上流側移動機構40は、制御装置18の制御下で、モータ44から動力が付与されることにより、上流側読取ヘッド16Aをテープ幅方向に移動させる。下流側移動機構42は、制御装置18の制御下で、モータ46から動力が付与されることにより、下流側読取ヘッド16Bをテープ幅方向に移動させる。
なお、ここでは、モータ44,46の一例としてボイスコイルモータが挙げているが、本開示の技術はこれに限定されず、例えば、ボイスコイルモータとは異なる種類のモータであってもよい。また、モータではなく、圧電素子及び/又はソレノイドを用いてもよい。また、上流側読取ヘッド16A及び/又は下流側読取ヘッド16Bに対して付与される動力は、モータ、圧電素子、及びソレノイド等のうちの複数を組み合わせたデバイスによって生成された動力であってもよい。
一例として図5に示すように、制御装置18は、コントローラ18A、増幅器54,58、及びA/D変換器56,60を備えている。上流側サーボ素子対36は、増幅器54及びA/D変換器56を介してコントローラ18Aに接続されている。コントローラ18Aは、モータ44に接続されている。
増幅器54には、上流側サーボ素子対36からアナログサーボ信号が入力され、入力されたアナログサーボ信号を増幅し、増幅したアナログサーボ信号をA/D変換器56に出力する。A/D変換器56は、増幅器54から入力されたアナログサーボ信号をデジタル信号に変換する。A/D変換器56によって得られたデジタル信号は、サーボ信号(以下、「上流側サーボ信号」と称する)としてA/D変換器56によってコントローラ18Aに出力される。
単一トラック30A(図3参照)と上流側読取素子26A(図3参照)との位置のずれ量(以下、「上流側ずれ量」と称する)は、サーボパターン32を上流側サーボ素子対36が読み取って得た結果である上流側サーボ信号に応じて定められる。
なお、単一トラック30Aと上流側読取素子26Aとの位置のずれとは、例えば、単一トラック30Aのテープ幅方向の中心と上流側読取素子26Aのテープ幅方向の中心とのずれを指す。
コントローラ18Aは、モータ44を制御することで、上流側ずれ量に応じた動力を上流側移動機構40に付与する。上流側移動機構40は、モータ44から付与された動力に応じて上流側読取ヘッド16Aをテープ幅方向に変動させ、上流側読取ヘッド16Aの位置を正常な位置に調整する。ここで、上流側読取ヘッド16Aについての「正常な位置」とは、例えば、単一トラック30Aのテープ幅方向の中心と上流側読取素子26Aのテープ幅方向の中心とのずれが“0”になる位置を指す。
上流側ずれ量は、例えば、第1距離に対する第2距離の割合に基づいて算出される。第2距離とは、例えば、1つのサーボパターン32内において最下流側の第1斜線32A(図2及び図3参照)と最下流側の第2斜線32B(図2及び図3参照)とが上流側サーボ素子36Aによって読み取られることで得た結果から算出された距離を指す。第1距離とは、例えば、隣接するサーボターン32のうちの一方のサーボパターン32内の最下流側の第2斜線32Bと他方のサーボパターン32内の最下流側の第2斜線32Bとが上流側サーボ素子36Aによって読み取られることで得た結果から算出された距離を指す。
具体的には、例えば、次の数式(1)を用いて上流側ずれ量が算出される。数式(1)の「斜線の角度α」としては、上述の第1既定角度と第2既定角度とが適用される。第1既定角度は、第1斜線32Aのテープ幅方向に沿う直線と成す角度であり、第2既定角度は、第2斜線32Bのテープ幅方向に沿う直線と成す角度である。換言すると、第1既定角度は、第1斜線32Aがテープ幅方向に沿う直線に対して、図中の正面視時計回りの方向に成す角度であり、第2既定角度は、“180度-第1既定角度”である。
下流側サーボ素子対38は、増幅器58及びA/D変換器60を介してコントローラ18Aに接続されている。コントローラ18Aは、モータ46に接続されている。
増幅器58には、下流側サーボ素子対38からアナログサーボ信号が入力され、入力されたアナログサーボ信号を増幅し、増幅したアナログサーボ信号をA/D変換器60に出力する。A/D変換器60は、増幅器58から入力されたアナログサーボ信号をデジタル信号に変換する。A/D変換器60によって得られたデジタル信号は、サーボ信号(以下、「下流側サーボ信号」と称する)としてA/D変換器60によってコントローラ18Aに出力される。
単一トラック30A(図3参照)と下流側読取素子26B(図3参照)との位置のずれ量(以下、「下流側ずれ量」と称する)は、サーボパターン32を下流側サーボ素子対38が読み取って得た結果である下流側サーボ信号に応じて定められる。
なお、単一トラック30Aと下流側読取素子26Bとの位置のずれとは、例えば、単一トラック30Aのテープ幅方向の中心と下流側読取素子26Bのテープ幅方向の中心とのずれを指す。
コントローラ18Aは、モータ46を制御することで、下流側ずれ量に応じた動力を下流側移動機構42に付与する。下流側移動機構42は、下流側ずれ量に応じた動力を下流側読取ヘッド16B(図2~図4参照)に付与することで、下流側読取ヘッド16Bをテープ幅方向に変動させ、下流側読取ヘッド16Bの位置を正常な位置に調整する。ここで、下流側読取ヘッド16Bについての「正常な位置」とは、例えば、単一トラック30Aのテープ幅方向の中心と下流側読取素子26Bの中心とのずれが“0”になる位置を指す。
下流側ずれ量は、例えば、第3距離に対する第4距離の割合に基づいて算出される。第4距離とは、例えば、1つのサーボパターン32内において最下流側の第1斜線32A(図2及び図3参照)と最下流側の第2斜線32B(図2及び図3参照)とが下流側サーボ素子38Aによって読み取られることで得た結果から算出された距離を指す。第3距離とは、例えば、隣接するサーボターン32のうちの一方のサーボパターン32内の最下流側の第2斜線32Bと他方のサーボパターン32内の最下流側の第2斜線32Bとが下流側サーボ素子38Aによって読み取られることで得た結果から算出された距離を指す。
具体的には、下流側ずれ量も、上流側ずれ量と同様に、上述した数式(1)を用いて算出される。この場合、数式(1)において、“y^”は、下流側ずれ量であり、“d”は、サーボパターン32の走行方向のピッチ幅であり、“α”は、斜線の角度であり、“Ai”は、第4距離であり、“Bi”は、第3距離である。
一例として図6に示すように、制御装置18は、信号処理回路18Bを備えている。信号処理回路18Bは、本開示の技術の「信号処理部」の一例である。信号処理回路18Bは、単一トラック30Aから上流側読取素子26Aによって読み取られたデータであるアナログの再生信号、及び単一トラック30Aから下流側読取素子26Bによって読み取られたデータであるアナログの再生信号に対して信号処理を施す。以下では、説明の便宜上、「アナログの再生信号」を「再生信号」と称する。
信号処理回路18Bは、増幅器62,68、A/D変換器64,70、第1バッファ66、第2バッファ72、合成部74、及び復号部76を備えている。なお、バッファ66、第2バッファ72で行われる信号処理、合成部74で行われる信号処理、及び復号部76で行われる信号処理は、本開示の技術に係る「信号処理」の一例である。
上流側読取素子26Aは、増幅器62、A/D変換器64、及び第1バッファ66を介して合成部74に接続されている。下流側読取素子26Bは、増幅器68、A/D変換器70、及び第2バッファ72を介して合成部74に接続されている。コントローラ18Aも合成部74に接続されている。合成部74は、復号部76に接続されている。制御装置18の外部にはコンピュータ78が設けられており、復号部76は、コンピュータ78に接続されている。
上流側読取素子26Aは、単一トラック30Aから読み取ったデータである再生信号を増幅器62に出力する。増幅器62は、入力された再生信号を増幅し、増幅した再生信号をA/D変換器64に出力する。A/D変換器64は、入力された再生信号をデジタル信号に変換する。A/D変換器64によって得られたデジタル信号は、AD変換後上流側再生信号系列としてA/D変換器64によって第1バッファ66に出力される。AD変換後上流側再生信号系列は第1バッファ66によって一時的に保持される。
下流側読取素子28Aは、単一トラック30Aから読み取ったデータである再生信号を増幅器68に出力する。増幅器68は、入力された再生信号を増幅し、増幅した再生信号をA/D変換器70に出力する。A/D変換器70は、入力された再生信号をデジタル信号に変換する。A/D変換器70によって得られたデジタル信号は、AD変換後下流側再生信号系列としてA/D変換器70によって第2バッファ72に出力される。AD変換後下流側再生信号系列は第2バッファ72によって一時的に保持される。
なお、本開示の技術に係る第1実施形態において、以下では、説明の便宜上、AD変換後上流側再生信号系列及びAD変換後下流側再生信号系列を区別して説明する必要がない場合、「AD変換後再生信号系列」と称する。また、本開示の技術に係る第1実施形態において、以下では、説明の便宜上、AD変換後再生信号系列、第1位相同期処理後再生信号系列(後述)、第2位相同期処理後再生信号系列(後述)、第1波形等化処理後再生信号系列(後述)、及び第2波形等化処理後再生信号系列(後述)を区別して説明する必要がない場合、「再生信号系列」と称する。また、本開示の技術に係る第1実施形態において、以下では、説明の便宜上、第1位相同期処理後再生信号系列と、第2位相同期処理後再生信号系列とを区別して説明する必要がない場合、「位相同期処理後再生信号系列」と称する。また、本開示の技術に係る第1実施形態において、以下では、説明の便宜上、第1波形等化処理後再生信号系列と第2波形等化処理後再生信号系列とを区別して説明する必要がない場合、「波形等化処理後再生信号系列」と称する。また、本開示の技術に係る第1実施形態において、以下では、説明の便宜上、AD変換後上流側再生信号系列と、第1位相同期処理後再生信号系列と、第1波形等化処理後再生信号系列とを区別して説明する必要がない場合、「上流側再生信号系列」と称する。また、本開示の技術に係る第1実施形態において、以下では、説明の便宜上、AD変換後下流側再生信号系列と、第2位相同期処理後再生信号系列と、第2波形等化処理後再生信号系列とを区別して説明する必要がない場合、「下流側再生信号系列」と称する。
一例として図7に示すように、合成部74は、第1位相同期回路74A、第2位相同期回路74B、第1等化器74C、第2等化器74D、及び加算器74Eを備えている。合成部74では、第1等化器74C、第2等化器74D、及び加算器74Eによって2次元FIRフィルタが実現される。合成部74は、読取部26により特定範囲からデータが複数回読み取られて得られた複数の再生信号系列を合成する。本開示の技術に係る第1実施形態では、合成部74が、読取部26により特定範囲からデータが2回読み取られて得られた2つの再生信号系列、すなわち、第1波形等化処理後再生信号系列(後述)と第2波形等化再生信号系列(後述)とを合成する。
第1バッファ66は、第1位相同期回路74Aを介して第1等化器74Cに接続されている。第2バッファ72は、第2位相同期回路74Bを介して第2等化器74Dに接続されている。第1等化器74C及び第2等化器74Dの各々にはコントローラ18Aが接続されている。第1等化器74C及び第2等化器74Dの各々は加算器74Eに接続されている。
ところで、磁気テープMTの変形、磁気テープMT及び/又は読取ヘッド16等に与えられる急峻な振動、及び磁気テープMTの走行時のジッタ等に起因して、上流側再生信号系列に走行方向の位相のずれが生じる場合がある。
そこで、第1位相同期回路74Aは、第1バッファ66からAD変換後上流側再生信号系列を取得し、取得したAD変換後上流側再生信号系列に対して位相同期処理を行う。第1位相同期回路74Aでの位相同期処理とは、AD変換後上流側再生信号系列の走行方向についての位相のずれを、復号器76での復号結果に基づいて許容可能な一定誤差範囲内に収める処理を指す。
第1位相同期回路74Aには、過去の上流側再生信号系列(例えば、数ビット分だけ過去の上流側再生信号系列)の復号部76での復号結果がフィードバックされる。そして、第1位相同期回路74Aは、フィードバックされた復号結果から、過去に生じていた位相のずれを特定し、特定した位相のずれを現在に至る数ビット分の遅延を行うことで修正する。このように、第1位相同期回路74Aでは、フィードバックと遅延を行うことによる修正とが繰り返されることによって、位相のずれが、許容可能な一定誤差範囲内に維持される。
なお、ここでは、復号部76の復号結果を利用した位相同期処理が第1位相同期回路74Aによって実行される形態例を挙げているが、本開示の技術はこれに限定されない。例えば、磁気テープMT及び/又は上流側読取素子26A等に与えられる急峻な振動及び/又はジッタ等に起因して走行方向に生じる微小なずれ等によってずれる位相を、制御装置18に対して予め定められた基準クロック(以下、単に「基準クロック」と称する)の位相に同期させる処理が行われるようにしてもよい。
第1等化器74Cは、第1位相同期回路74AによってAD変換後上流側再生信号系列に対して位相同期処理が行われることで得られた第1位相同期処理後上流側再生信号系列を取得し、取得した第1位相同期処理後上流側再生信号系列に対して波形等化処理を施す。すなわち、第1等化器74Cは、第1位相同期処理後上流側再生信号系列に対して、コントローラ18Aによって導出されたタップ係数(後述)を畳み込み演算し、畳み込み演算後の上流側再生信号系列を加算器74Eに出力する。
第1等化器74Cは、1次元FIRフィルタである。FIRフィルタ自体は、正負を含む実数値の系列であり、系列の行数はタップ数と称され、実数値自体はタップ係数と称される。第1等化器74Cでの波形等化処理とは、第1位相同期回路74Aから得られた第1位相同期処理後上流側再生信号系列に対して、上記の実数値の系列、すなわち、タップ係数を畳み込み演算(積和算)する処理を指す。
ここでは、第1位相同期回路74Aでの処理後に第1等化器74Cでの処理が実行される形態例を挙げて説明しているが、本開示の技術はこれに限定されない。例えば、第1等化器74Cでの処理後に第1位相同期回路74Aでの処理が行われるようにしてもよい。この場合、第1等化器74Cが第1バッファ66からAD変換後上流側再生信号系列を取得し、取得したAD変換後上流側再生信号系列に対して波形等化処理を施し、AD変換後上流側波形等化処理を施して得た第1波形等化処理後上流側再生信号系列を第1位相同期回路74Aに出力するようにすればよい。なお、本開示の技術に係る第1実施形態では、第1等化器74CによってAD変換後上流側再生信号系列又は第1位相同期処理後上流側再生信号系列に対して波形等化処理が施されることで得られた上流側再生信号系列を、単に「第1波形等化処理後上流側再生信号系列」と称する。
ところで、上流側再生信号系列と同様に、磁気テープMTの変形、磁気テープMT及び/又は読取ヘッド16等に与えられる急峻な振動、及び磁気テープMTの走行時のジッタ等に起因して、下流側再生信号系列に走行方向の位相のずれが生じる場合がある。
そこで、第2位相同期回路74Bは、第2バッファ72からAD変換後下流側再生信号系列を取得し、取得したAD変換後下流側再生信号系列に対して位相同期処理を行う。第2位相同期回路74Bでの位相同期処理とは、AD変換後下流側再生信号系列の走行方向についての位相のずれを、復号器76での復号結果に基づいて許容可能な一定誤差範囲内に収める処理を指す。
第2位相同期回路74Bには、過去の下流側再生信号系列(例えば、数ビット分だけ過去の下流側再生信号系列)の復号部76での復号結果がフィードバックされる。そして、第2位相同期回路74Bは、フィードバックされた復号結果から、過去に生じていた位相のずれを特定し、特定した位相のずれを現在に至る数ビット分の遅延を行うことで修正する。このように、第2位相同期回路74Bでは、フィードバックと遅延を行うことによる修正とが繰り返されることによって、位相のずれが、許容可能な一定誤差範囲内に維持される。
なお、ここでは、復号部76の復号結果を利用した位相同期処理が第2位相同期回路74Bによって実行される形態例を挙げているが、本開示の技術はこれに限定されない。例えば、磁気テープMT及び/又は下流側読取素子26B等に与えられる急峻な振動及び/又はジッタ等に起因して走行方向に生じる微小なずれ等によってずれる位相を基準クロックの位相に同期させる処理が行われるようにしてもよい。
第2等化器74Dは、第2位相同期回路74BによってAD変換後下流側再生信号系列に対して位相同期処理が行われることで得られた第2位相同期処理後下流側再生信号系列を取得し、取得した第2位相同期処理後下流側再生信号系列に対して波形等化処理を施す。第2等化器74Dも、第1等化器74Cと同様に、1次元FIRフィルタである。第2等化器74Dでの波形等化処理とは、第2位相同期回路74Bから得られた第2位相同期処理後下流側再生信号系列に対して、タップ係数を畳み込み演算する処理を指す。第2等化器74Dは、第2位相同期処理後下流側再生信号系列に対して、第1位相同期処理後上流側再生信号系列と同様の方法で、タップ係数を畳み込み演算し、畳み込み演算後の下流側再生信号系列を加算器74Eに出力する。
ここでは、第2位相同期回路74Bでの処理後に第2等化器74Dでの処理が実行される形態例を挙げて説明しているが、本開示の技術はこれに限定されない。例えば、第2等化器74Dでの処理後に第2位相同期回路74Bでの処理が行われるようにしてもよい。この場合、第2等化器74Dが第2バッファ72からAD変換後下流側再生信号系列を取得し、取得したAD変換後下流側再生信号系列に対して波形等化処理を施し、波形等化処理を施して得た第2波形等化処理後下流側再生信号系列を第2位相同期回路74Bに出力するようにすればよい。なお、本開示の技術に係る第1実施形態では、第2等化器74DによってAD変換後下流側再生信号系列又は第2位相同期処理後下流側再生信号系列に対して波形等化処理が施されることで得られた下流側再生信号系列を、単に「第2波形等化処理後上流側再生信号系列」と称する。
コントローラ18Aは、対応テーブル18A1を保持している。対応テーブル18A1には、ずれ量と、第1等化器74C及び第2等化器74Dで用いられるタップ係数とが対応付けられている。ずれ量は、上流側ずれ量と下流側ずれ量とに大別される。つまり、対応テーブル18A1には、上流側ずれ量と第1等化器74Cで用いられるタップ係数とが対応付けられており、下流側ずれ量と第2等化器74Dで用いられるタップ係数とが対応付けられている。第1等化器74Cで用いられるタップ係数及び第2等化器74Dで用いられるタップ係数には互いに異なる重みが付与されている。重みは、固定値であってもよいし、磁気テープ読取装置10に対して入力デバイス(図示省略)を介してユーザ等から与えられた指示に従って変化する可変値であってもよい。第1等化器74Cで用いられるタップ係数、及び第2等化器74Dで用いられるタップ係数は、本開示の技術に係る「2次元FIRフィルタで用いられるパラメータ」の一例である。なお、以下では、説明の便宜上、上流側ずれ量と下流側ずれ量とを区別して説明する必要がない場合、単に「ずれ量」と称する。
対応テーブル18A1でのずれ量とタップ係数との組み合わせは、例えば、実機による試験及び/又はシミュレーションが実施された結果に基づいて、加算器74E(後述)によって最良の合成データが得られるずれ量とタップ係数との組み合わせとして予め得られた組み合わせである。
ここで言う「最良の合成データ」とは、例えば、信号対ノイズ比(SNR)が既定値(例えば、事前に想定される最大値として予め定められた値)以上になる合成データ、すなわち、許容される範囲内にノイズが抑えられた合成データを指す。SNRが既定値以上になる合成データの生成は、例えば、タップ係数の組み合わせの中で既定値以上のSNRが得られるタップ係数の組み合わせが算出され、算出されたタップ係数の組み合わせが採用されることによって実現される。なお、既定値以上のSNRが得られるタップ係数の組み合わせを算出する方法としては、例えば、Weiner-Hopf方程式を解くという方法が挙げられる。
また、既定値以上になるSNRが得られるタップ係数の組み合わせを決定する他の方法としては、例えば、適応型フィルタを用いて決定する方法が考えられる。この場合、教師データとリアルタイム再生信号系列との差分が誤差として定義され、定義された誤差を埋めるようにFIRのタップ係数を修正するフィードバックが適応型フィルタに対して行われる。このように適応型フィルタに対して誤差をフィードバックさせることで適応型フィルタのタップ係数が最適値に収束され、これによって得られたタップ係数が対応テーブル18A1のタップ係数として用いられる。ここで言う「最適値」とは、例えば、許容可能な誤差範囲内の値を指す。また、ここで言う「教師データ」とは、例えば、実機による試験及び/又はコンピュータ・シミュレーション等によって理想的な再生信号系列として予め定められた理想信号を指す。また、ここで言う「リアルタイム再生信号系列」とは、磁気テープ読取装置10によってリアルタイムで得られた波形等化後再生信号系列を指す。
なお、ここでは、対応テーブル18A1を例示しているが、本開示の技術はこれに限らず、対応テーブル18A1に代えて演算式を採用してもよい。ここで言う「演算式」とは、例えば、独立変数をずれ量とし、従属変数をタップ係数とした演算式を指す。
コントローラ18Aは、A/D変換器56から入力された上流側サーボ信号に基づいて上流側ずれ量を導出し、導出した上流側ずれ量に対応するタップ係数を対応テーブル18A1から取得する。すなわち、第1等化器74Cで用いられるタップ係数は、上流側ずれ量に応じて定められる。コントローラ18Aは、上流側ずれ量に対応するタップ係数を第1等化器74Cに出力する。第1等化器74Cは、コントローラ18Aから入力されたタップ係数を用いて、第1位相同期処理後再生信号系列に対して波形等化処理を施す。
コントローラ18Aは、A/D変換器60から入力された下流側サーボ信号に基づいて下流側ずれ量を導出し、導出した下流側ずれ量に対応するタップ係数を対応テーブル18A1から取得する。すなわち、第2等化器74Dで用いられるタップ係数は、下流側ずれ量に応じて定められる。コントローラ18Aは、下流側ずれ量に対応するタップ係数を第1等化器74Dに出力する。第1等化器74Dは、コントローラ18Aから入力されたタップ係数を用いて、第2位相同期処理後再生信号系列に対して波形等化処理を施す。
加算器74Eは、第1等化器74Cから入力された第1波形等化処理後再生信号系列と、第2等化器74Dから入力された第2波形等化処理後再生信号系列とを加算することで合成し、合成して得た合成データを復号部76に出力する。なお、ここでは、加算器74Eによって第1波形等化処理後再生信号系列と第2波形等化処理後再生信号系列とが単純に加算される。そのため、第1等化器74C及び第2等化器74Dの各々での1次元FIRフィルタで用いられるタップ係数は、加算器74Eによって第1波形等化処理後再生信号系列と第2波形等化処理後再生信号系列とが単純に加算されることを前提として調整されて定められている。ここでは、加算器74Eによる単純な加算を例示しているが、本開示の技術はこれに限定されず、例えば、第1波形等化処理後再生信号系列と第2波形等化処理後再生信号系列とが加算平均されてもよい。この場合も、加算器74Eによって加算平均されることを前提として第1等化器74C及び第2等化器74Dの各々での1次元FIRフィルタで用いられるタップ係数が調整されて定められるようにすればよい。
このように、合成部74では、第1波形等化処理後再生信号系列及び第2波形等化処理後再生信号系列に対して2次元FIRフィルタによる波形等化処理が行われ、波形等化処理が行われることで得られた合成データが復号部76に出力される。
復号部76は、加算器74Eから入力された合成データを復号し、復号して得た復号信号をコンピュータ78に出力する。コンピュータ78は、復号部76から入力された復号信号に対して各種処理を施す。
一例として図8に示すように、上流側読取素子26Aは、単一トラック30Aから脱落しない位置に配置されている。つまり、換言すると、上流側読取素子26Aは、単一トラック30Aの幅内に収まるように配置されている。上流側読取素子26Aの大きさは、単一トラック30Aに収まる大きさである。図8に示す例では、上流側読取素子26Aの幅(テープ幅方向の長さ)は、単一トラック30Aの幅の1/5程度である。上流側読取素子26Aの幅は、単一トラック30Aの幅の1/3から1未満であればよい。なお、下流側読取素子26Bと単一トラック30Aとの関係についても、上流側読取素子26Aと単一トラック30Aとの関係と同様のことが言える。
ところで、一例として図8に示すように、上流側サーボ素子36Aは、磁気テープMT及び/又は読取ヘッド16に対する外部から与えられる振動及び/又は磁気テープMTの変形等(以下、「環境条件」と称する)が原因で、読取経路P1が蛇行する。これに伴って、上流側読取素子26Aによる単一トラック30Aからのデータの読取経路(以下、「上流側読取素子経路」とも称する)も蛇行する。本発明者等は、単一トラック30Aの幅が1.0μmという条件下で、単一トラック30Aのテープ幅方向の中心CL1と上流側読取素子経路の平均的な位置CL2とのずれ量(トラックオフセット)Toff毎に1回読み取りのSNRと2回読み取りのSNRとを比較した。ここで言う「1回読み取りのSNR」とは、例えば、第1等化器74Cによって波形等化処理が施された第1波形等化処理後再生信号系列のSNRを指し、2回読み取りのSNRとは、例えば、加算器74Eから得られた合成データのSNRを指す。
上記のように1回読み取りのSNRと2回読み取りのSNRとの比較を行ったところ、本発明者等は、2回読み取りのSNRが1回読み取りのSNRに比べ、最大で2.5dB(デシベル)程度大きいことを確認した。また、本発明者等は、トラックオフセットの絶対値が大きい場合、すなわち、単一トラック30Aの端部において生じる急峻なSNRの低下も、1回読み取りのSNRに比べ2回読み取りのSNRの方が緩和されることも確認した。なお、本発明者等は、単一トラック30Aの幅が0.5μm等の場合であっても同様の結果が得られることも確認した。
このように、2回読み取りのSNRが1回読み取りのSNRに比べ良好になる一因としては、一例として図9に示すように、単一トラック30Aの幅方向の範囲内でデータの読取経路が上流側読取素子26Aと下流側読取素子26Bとで異なることが挙げられる。
図9に示す例でも、上流側サーボ素子36Aと同様に、下流側サーボ素子36Bは、環境条件が原因で、読取経路P2が蛇行する。これに伴って、下流側読取素子26Bによる単一トラック30Aからのデータの読取経路(以下、「下流側読取素子経路」とも称する)も蛇行する。特定範囲内で、上流側読取素子26Aによるデータの読み取りが行われる場合の環境条件と下流側読取素子26Bによるデータの読み取りが行われる場合の環境条件とは異なる。そのため、上流側読取素子経路と下流側読取素子経路とが異なる。すなわち、環境条件に起因して上流側読取素子経路と下流側読取素子経路とが互いに異なる読取経路となる。
上流側読取素子経路と下流側読取素子経路とが異なるということは、上流側読取素子26A又は下流側読取素子26Bによってデータの読み取りが行われる場合に比べ、単一トラック30Aの幅方向について広い範囲でデータの読み取りが行われることを意味する。また、一般的に、単一トラック30Aの幅方向において磁性体の不均一性及び/又は表面形状の不均一性が原因となり、再生信号の品質がばらつくことが知られている。
しかし、読取部26によってデータの読み取りが行われることにより、上流側読取素子26A及び下流側読取素子26Bのうちの一方ではデータの読み取りが不十分であったとしても、他方で不足分を補うことが可能となる。
なお、上記の「再生信号の品質」は、例えば、再生信号の振幅の大きさ及び/又は再生信号に対するノイズ(例えば、高周波ノイズ)の割合等によって定められる。ここで、高品質の再生信号とは、例えば、振幅の大きさが設計上及び製造上許容された誤差範囲内であり、かつ、設計上及び製造上許容不可のノイズが重畳されていない再生信号を指す。一方、低品質の再生信号とは、例えば、振幅の大きさが設計上及び製造上許容された誤差範囲から外れており、かつ、設計上及び製造上許容不可のノイズが重畳されている再生信号を指す。ここで説明した品質の基準は、あくまでも一例に過ぎず、品質の基準は様々であることは言うまでもない。
一例として図9に示すように、上流側読取素子経路で読み取られた再生信号は、増幅され、A/D変換される。これによって得られたAD変換後上流側再生信号系列に対して位相同期処理が施される。位相同期処理が施された第1位相同期処理後再生信号系列は第1等化器74Cに出力される。第1等化器74Cでは、入力された第1位相同期処理後再生信号系列に対して1次元FIRフィルタによって波形等化処理が施される。
一方、下流側読取素子経路で読み取られた再生信号も、増幅され、A/D変換される。これによって得られたAD変換後下流側再生信号系列に対して位相同期処理が施される。位相同期処理が施された第2位相同期処理後再生信号系列は第2等化器74Dに出力される。第2等化器74Dでは、入力された第2位相同期処理後再生信号系列に対して1次元FIRフィルタによって波形等化処理が施される。
加算器74Eは、第1等化器74Cで波形等化処理が施された第1位相同期処理後再生信号系列と第2等化器74Dで波形等化処理が施された第2位相同期処理後再生信号系列とを加算することで合成データを生成する。
次に、磁気テープ読取装置10の本開示の技術に係る部分の作用について図10を参照しながら説明する。
図10には、磁気テープMTが制御装置18の制御下で走行方向に沿って走行している状態において制御装置18によって実行される磁気テープ読取処理の流れの一例が示されている。なお、以下では、上流側サーボ信号と下流側サーボ信号とを区別して説明する必要がない場合、単に「サーボ信号」と称する。また、以下では、現時点での読取ヘッド16の単一トラック30A内での位置がコントローラ18Aによってサーボ信号に基づいて特定されることを前提として説明する。また、ここでは、説明の便宜上、特定範囲が数十メートルから数百メートルの範囲であることを前提として説明する。
図10に示す磁気テープ読取処理では、先ず、ステップST10で、コントローラ18Aは、読取部26が単一トラック30Aのうちの特定範囲のスタート位置に到達したか否かを判定する。ステップST10において、読取部26が単一トラック30Aのうちの特定範囲のスタート位置に到達していない場合は、判定が否定されて、ステップST10の判定が再び行われる。ステップST10において、読取部26が単一トラック30Aのうちの特定範囲のスタート位置に到達した場合は、判定が肯定されて、磁気テープ読取処理はステップST12へ移行する。
ステップST12で、信号処理回路18Bは、上流側読取素子26A及び下流側読取素子26Bの各々から再生信号を取得し、その後、磁気テープ読取処理はステップST14へ移行する。
ステップST14で、信号処理回路18Bは、ステップST12で取得した再生信号に対してデジタル化処理を施し、その後、磁気テープ読取処理はステップST16へ移行する。本ステップST14では、上流側読取素子26Aからの再生信号に対して増幅及びA/D変換が行われることでAD変換後上流側再生信号系列が生成される。また、本ステップST14では、下流側読取素子26Bからの再生信号に対して増幅及びA/D変換が行われることでAD変換後下流側再生信号系列が生成される。
ステップST16で、第1位相同期回路74Aは、AD変換後上流側再生信号系列に対して位相同期処理を行い、第2位相同期回路74Bは、AD変換後下流側再生信号系列に対して位相同期処理を行い、その後、磁気テープ読取処理はステップST18へ移行する。AD変換後上流側再生信号系列に対して位相同期処理が行われることで第1位相同期処理後再生信号系列が得られ、AD変換後下流側再生信号系列に対して位相同期処理が行われることで第2位相同期処理再生信号系列が得られる。
ステップST18で、コントローラ18Aは、サーボ信号に基づいてずれ量を導出し、その後、磁気テープ読取処理はステップST20へ移行する。
ステップST20で、コントローラ18Aは、ステップST18で導出したずれ量に対応するタップ係数を対応テーブル18A1から導出し、その後、磁気テープ読取処理はステップST22へ移行する。すなわち、ステップST20では、上流側ずれ量に対応するタップ係数と下流側ずれ量に対応するタップ係数とが導出される。
ステップST22で、第1等化器74Cは、上流側ずれ量に対応するタップ係数をコントローラ18Aから取得する。また、ステップST22で、第2等化器74Dは、下流側ずれ量に対応するタップ係数をコントローラ18Aから取得し、その後、磁気テープ読取処理はステップST24へ移行する。
ステップST24で、第1等化器74Cは、第1位相同期処理後再生信号系列に対して、上流側ずれ量に対応するタップ係数を用いて1次元FIRフィルタによる波形等化処理を行う。また、ステップST24で、第2等化器74Dは、第2位相同期処理後再生信号系列に対して、下流側ずれ量に対応するタップ係数を用いて1次元FIRフィルタによる波形等化処理を行い、その後、磁気テープ読取処理はステップST26へ移行する。
ステップST26で、加算器74Eは、第1等化器74Cによって第1位相同期処理後再生信号系列に対して波形等化処理が施されることで得られた第1波形等化処理後再生信号系列と第2等化器74Dによって第2位相同期処理後再生信号系列に対して波形等化処理が施されることで得られた第2波形等化処理後再生信号系列とを加算することで合成データを生成する。そして、加算器74Eは、生成した合成データを復号部76に出力し、その後、磁気テープ読取処理はステップST28へ移行する。
ステップST28で、コントローラ18Aは、読取部26が単一トラック30Aのうちの特定範囲の終了位置に到達したか否かを判定する。ステップST16において、読取部26が単一トラック30Aのうちの特定範囲の終了位置に到達していない場合は、判定が否定されて、磁気テープ読取処理はステップST12へ移行する。ステップST28において、読取部26が単一トラック30Aのうちの特定範囲の終了位置に到達した場合は、判定が肯定されて、磁気テープ読取処理が終了する。
以上説明したように、磁気テープ読取装置10では、読取部26によりリニアスキャン方式でデータの読み取りが複数回行われる。そして、読取部26によりリニアスキャン方式でデータが複数回読み取られて得られた上流側再生信号系列及び下流側再生信号系列が合成部74によって合成される。
磁気テープ読取装置10によれば、読取部26によりリニアスキャン方式での読み取りが行われるので、ヘリカルスキャン方式に比べ、オフトラックの発生頻度が抑制される。そのため、磁気テープ読取装置10の合成部74によって得られた合成データは、ヘリカルスキャン方式によるデータの読み取りで得られる再生信号系列に比べ、信号対ノイズが高い。また、単一トラック30Aの特定範囲内での1回目のデータの読み取りと2回目のデータの読み取りとでは読取経路が異なるので、1回のみのデータの読み取りの場合に比べ、単一トラック30Aのテープ幅方向においてデータが幅広く読み取られる。これも、信号対ノイズ比の向上に寄与する。従って、磁気テープ読取装置10によれば、単一トラック30Aからリニアスキャン方式で1回のみの読み取りによってデータが読み取られる場合に比べ、単一トラック30Aからリニアスキャン方式で読み取られるデータの信頼性の低下を抑制することができる。
また、磁気テープ読取装置10では、複数の読取部26の各々によりリニアスキャン方式でデータの読み取りが複数回行われる。そして、読取部26毎に、リニアスキャン方式でデータが複数回読み取られて得られた上流側再生信号系列及び下流側再生信号系列が合成部74によって合成される。
磁気テープ読取装置10によれば、読取部26によりリニアスキャン方式での読み取りが行われるので、ヘリカルスキャン方式に比べ、オフトラックの発生頻度が抑制される。そのため、磁気テープ読取装置10の合成部74によって得られた合成データは、ヘリカルスキャン方式によるデータの読み取りで得られる再生信号系列に比べ、信号対ノイズが高い。また、各読取部26に各々対応する単一トラック30Aの特定範囲内での1回目のデータの読み取りと2回目のデータの読み取りとでは読取経路が異なるので、1回のみのデータの読み取りの場合に比べ、各読取部26に各々対応する単一トラック30Aのテープ幅方向においてデータが幅広く読み取られる。これも、信号対ノイズ比の向上に寄与する。従って、磁気テープ読取装置10によれば、各読取部26の各々に対応する単一トラック30Aからリニアスキャン方式で1回のみの読み取りによってデータが読み取られる場合に比べ、各読取部26の各々に対応する単一トラック30Aからリニアスキャン方式で読み取られるデータの信頼性の低下を抑制することができる。
また、磁気テープ読取装置10では、上流側読取素子経路と下流側読取素子経路とが、単一トラック30Aの特定範囲内において、磁気テープMT及び/又は読取部26に対して影響を与える環境条件に起因して互いに異なる読取経路となる。環境条件は、上流側読取素子26Aによる読み取り及び下流側読取素子26Bによる読み取りの各々で不可抗力的に変動する。環境条件が不可効力的に変動することで、上流側読取素子経路と下流側読取素子経路とが互いに異なる読取経路となる。上流側読取素子経路と下流側読取素子経路とが互いに異なる読取経路となることで、上流側読取素子経路と下流側読取素子経路との読取経路が完全一致している場合に比べ、単一トラック30Aのテープ幅方向においてデータが幅広く読み取られる。従って、上流側読取素子経路と下流側読取素子経路との読取経路が完全一致している場合に比べ、データが読み取られることで得られた再生信号系列の信号対ノイズ比を高くすることができる。
また、磁気テープ読取装置10では、上流側読取素子26A及び下流側読取素子26Bの各々に対して特定範囲からデータを読み取らせることで結果的に読取部26に対して特定範囲からデータを複数回読み取らせている。従って、単一の読取素子のみで特定範囲のデータを複数回読み取らせる場合に比べ、特定範囲のデータを短時間で複数回読み取らせることができる。
また、磁気テープ読取装置10では、信号処理回路18Bによって再生信号系列に対して信号処理が施される。従って、再生信号系列に対して信号処理が施されない場合に比べ、磁気テープ読取装置10から出力される最終的な信号の信頼性を高めることができる。
また、磁気テープ読取装置10では、AD変換後上流側再生信号系列及びAD変換後下流側再生信号系列の各々の磁気テープMTの走行方向についての位相を同期させる位相同期処理が行われる。従って、位相同期処理が行われない場合に比べ、磁気テープ読取装置10から出力される最終的な信号の信頼性を高めることができる。
また、磁気テープ読取装置10では、第1位相同期処理後再生信号系列及び第2位相同期処理後再生信号系列の各々に対して波形等化処理が施される。従って、上流側再生信号系列及び下流側再生信号系列の各々に対して波形等化処理が施されない場合に比べ、磁気テープ読取装置10から出力される最終的な信号の信頼性を高めることができる。
また、磁気テープ読取装置10では、第1位相同期処理後再生信号系列及び第2位相同期処理後再生信号系列の各々に対して2次元FIRフィルタによる波形等化処理が施される。従って、第1位相同期処理後再生信号系列又は第2位相同期処理後再生信号系列のみに対して1次元FIRフィルタによる波形等化処理が施される場合に比べ、磁気テープ読取装置10から出力される最終的な信号の信頼性を高めることができる。
また、磁気テープ読取装置10では、波形等化処理で用いられるタップ係数はずれ量に応じて定められる。従って、磁気テープ読取装置10は、タップ係数がずれ量とは関連性のないパラメータに応じて定められる場合に比べ、2次元FIRフィルタによる波形等化処理の精度を高めることができる。
また、磁気テープ読取装置10では、ずれ量は、サーボパターン32をサーボ素子対36が読み取ることで得た結果に応じて定められる。従って、磁気テープ読取装置10は、磁気テープMTにサーボパターン32が付与されていない場合に比べ、容易にずれ量を定めることができる。
また、磁気テープ読取装置10では、サーボ素子対36による読取動作に同期して読取部による読取動作が行われる。従って、磁気テープ読取装置10は、サーボパターンとデータとを同期して読み取ることができないヘリカルスキャン方式に比べ、オフトラックの発生頻度を低くすることができる。
また、磁気テープ読取装置10では、第1バッファ66及び第2バッファ72を介して合成部74により第1波形等化処理後再生信号系列と第2波形等化処理後再生信号系列とが合成される。従って、バッファを介さずに合成が行われる場合に比べ、得られる合成データの精度を高めることができる。
なお、上記第1実施形態では、図10に示すように、読取部26が特定範囲のスタート位置に到達してから特定範囲の終了位置に到達するまでの間、再生信号が取得される毎に、ステップST14~ステップST26の処理が繰り返し行われる形態例を挙げて説明したが本開示の技術はこれに限定されない。例えば、読取部26が特定範囲のスタート位置に到達してから特定範囲の終了位置に到達するまでの間にステップST12~ステップST18のまでの処理が繰り返し行われ、その後に、ステップST20以降の処理が行われるようにしてもよい。この場合、ステップST12~ステップST18のまでの処理が繰り返し行われることによって得られた上流側再生信号系列、下流側再生信号系列、上流側ずれ量、及び下流側ずれ量の各々が時系列でバッファ(図示省略)等によって保持されるようにする。そして、時系列で保持されている上流側ずれ量の各々に対応するタップ係数、及び時系列で保持されている下流側ずれ量の各々に対応するタップ係数が、対応テーブル18A1に基づいて導出されるようにすればよい。
また、本開示の技術はこれに限定されず、例えば、読取部26が特定範囲のスタート位置に到達してから特定範囲の終了位置に到達するまでの間にステップST12~ステップST20のまでの処理が繰り返し行われるようにしてもよい。この場合、ステップST12~ステップST20のまでの処理が繰り返し行われることによって得られた上流側ずれ量に対応するタップ係数、及び下流側ずれ量に対応するタップ係数の各々が時系列でバッファ(図示省略)等によって保持されるようにする。そして、時系列で保持されているタップ係数に基づいて第1位相同期処理後再生信号系列及び第2位相同期処理後再生信号系列の各々に対して波形等化処理が行われるようにすればよい。
また、上記第1実施形態では、不可抗力的に生じる環境条件の変動を利用して上流側読取素子経路と下流側読取素子経路との互いの読取経路を異ならせる形態例を挙げて説明したが、本開示の技術はこれに限定されない。例えば、上流側読取ヘッド16A及び/又は下流側読取ヘッド16Bをテープ幅方向に移動させることで上流側読取素子経路と下流側読取素子経路との互いの読取経路を異ならせるようにしてもよい。
この場合、一例として図11に示すように、コントローラ18Aの制御下で、上流側移動機構40及び/又は下流側移動機構42を作動させることで、上流側読取素子経路と下流側読取素子経路をテープ幅方向に移動させる。すなわち、上流側移動機構40及び/又は下流側移動機構42を作動させることで、上流側読取素子26Aと下流側読取素子26Bとが単一トラック30Aから脱落しない範囲内で上流側読取素子26Aと下流側読取素子26Bとのテープ幅方向の位置を変える。これにより、単一の読取素子により単一トラック30Aのデータの読み取りが行われる場合に比べ、単一トラック30Aのテープ幅方向でのデータの読み取り範囲を広げることができる。
また、上記第1実施形態では、図10に示す磁気テープ読取処理において、ステップST10からステップST28の間において、ステップST16、ステップST22、ステップST24、及びステップST26の各処理が実行される形態例を挙げて説明したが、これはあくまでも一例に過ぎず、本開示の技術はこれに限定されない。例えば、一例として図19に示すように、ステップST28の判定が肯定された場合に、ステップST16に相当するステップST30、ステップST22に相当するステップST32、ステップST24に相当するステップST34、及びステップST26に相当するステップST36の各処理が実行されるようにしてもよい。なお、図10及び図19に示す磁気テープ読取処理に含まれる各処理はあくまでも一例であり、主旨を逸脱しない範囲内において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりしてもよいことは言うまでもない。
[第2実施形態]
上記第1実施形態では、読取ヘッド16によるデータの読取対象領域がトラック領域30のみの場合について説明したが、本開示の技術に係る第2実施形態では、複数のトラック領域30がデータの読取対象領域の場合について説明する。なお、本開示の技術に係る第2実施形態では、上記第1実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。以下では、上記第1実施形態と異なる部分について説明する。
一例として図12に示すように、本開示の技術に係る第2実施形態に係る磁気テープMTは、上記第1実施形態に係る磁気テープMTに比べ、テープ幅方向に複数のトラック領域30を有する点が異なる。本開示の技術に係る第2実施形態に係る磁気テープMT(本開示の技術に係る第2実施形態では、単に「磁気テープMT」と称する)では、サーボパターン32が形成されている領域(以下、「サーボパターン領域」と称する)を介して等間隔にトラック領域30が形成されている。トラック領域30は、複数のトラックを有しているので、磁気テープMTが複数のトラック領域30を有するということは、磁気テープMTが、複数のトラックをテープ幅方向に複数組有するということを意味する。
本開示の技術に係る第2実施形態に係る磁気テープ読取装置10は、上記第1実施形態に係る磁気テープ読取装置10に比べ、上流側移動機構40に代えて上流側移動機構100を有する点が異なる。また、本開示の技術に係る第2実施形態に係る磁気テープ読取装置10(本開示の技術に係る第2実施形態では、単に「磁気テープ読取装置10」と称する)は、上記第1実施形態に係る磁気テープ読取装置10に比べ、下流側移動機構42に代えて下流側移動機構102を有する点が異なる。なお、上流側移動機構100及び下流側移動機構102は、本開示の技術に係る「第1移動機構」の一例である。
上流側移動機構100及び下流側移動機構102の各々は、磁気テープMTのテープ幅方向の一端側から他端側にかけて磁気テープMTを横断するように磁気テープMTを跨いで配置されている。
上流側移動機構100には、上流側読取ヘッド16Aが磁気テープMTのテープ幅方向の一端側から他端側にかけて移動可能に取り付けられている。また、下流側移動機構102には、下流側読取ヘッド16Bが磁気テープMTのテープ幅方向の一端側から他端側にかけて移動可能に取り付けられている。
コントローラ18Aは、モータ44を制御することで、上流側移動機構100を作動させ、上流側読取ヘッド16Aをテープ幅方向に移動させる。上流側読取ヘッド16Aの移動先は、コントローラ18Aによって指定されたトラック領域30上である。すなわち、上流側移動機構100は、複数の上流側読取素子26Aの各々がコントローラ18Aによって指定されたトラック領域30内の対応する単一トラック30A上に位置するように上流側読取ヘッド16Aをテープ幅方向に移動させる。コントローラ18Aの制御の下、磁気テープMTが走行している状態で、上流側読取ヘッド16Aに含まれる各上流側読取素子26Aは、移動先のトラック領域30内の対応する単一トラック30Aからデータを読み取る。
コントローラ18Aは、モータ46を制御することで、下流側移動機構102を作動させ、下流側読取ヘッド16Bをテープ幅方向に移動させる。下流側読取ヘッド16Bの移動先は、コントローラ18Aによって指定されたトラック領域30上である。すなわち、下流側移動機構102は、複数の下流側読取素子26Bの各々がコントローラ18Aによって指定されたトラック領域30内の対応する単一トラック30A上に位置するように下流側読取ヘッド16Bをテープ幅方向に移動させる。コントローラ18Aの制御の下、磁気テープMTが走行している状態で、下流側読取ヘッド16Bに含まれる各下流側読取素子26Bは、移動先のトラック領域30内の対応する単一トラック30Aからデータを読み取る。なお、複数のトラック領域30A間において、下流側読取ヘッド16Bは、コントローラ18Aの制御下で、上流側読取ヘッド16Aと同方向に同距離だけ移動する。すなわち、複数のトラック領域30A間において、上流側読取ヘッド16A及び下流側読取ヘッド16Bは、コントローラ18Aの制御下で、一方が他方に追従する。
次に、磁気テープ読取装置10の本開示の技術に係る部分の作用について図13を参照しながら説明する。
図13には、磁気テープMTが制御装置18の制御下で走行方向に沿って走行している状態において制御装置18によって実行される読取領域変更処理の流れの一例が示されている。
図13に示す読取領域変更処理では、先ず、ステップST50で、コントローラ18Aは、入力されたサーボ信号に基づいて、読取ヘッド16によるデータの読取領域であるトラック領域30を変更する位置(以下、「読取領域変更位置」と称する)に到達したか否かを判定する。読取領域変更位置は、コントローラ18Aによって指定された位置である。例えば、上記第1実施形態で説明した特定範囲がトラック領域30毎に走行方向において異なる位置に定められている場合、読取領域変更位置としては、例えば、1つのトラック領域30の特定範囲の終了位置が挙げられる。
ステップST50において、読取部26が読取領域変更位置に到達していない場合は、判定が否定されて、ステップST50の判定が再び行われる。ステップST50において、読取部26が読取領域変更位置に到達した場合は、判定が肯定されて、読取領域変更処理はステップST52へ移行する。
ステップST52で、コントローラ18Aは、モータ44,46を制御することで、読取ヘッド16を次の読取領域に移動させる。次の読取領域とは、コントローラ18Aによって指定されたトラック領域30である。すなわち、コントローラ18Aは、モータ44,46を制御することで、現時点で読取ヘッド16が位置しているトラック領域30とは異なり、かつ、コントローラ18Aによって指定されたトラック領域30上に読取ヘッド16を移動させる。
ステップST52の処理が実行されることで読取ヘッド16によるデータの読取領域であるトラック領域30が変更されると、上記第1実施形態で説明した磁気テープ読取処理が読取部26単位で制御装置18によって実行される。
ステップST54で、コントローラ18Aは、読取領域変更処理を終了する条(以下、「読取領域変更処理終了条件」と称する)を満足したか否かを判定する。読取領域変更処理終了条件としては、例えば、磁気テープMTの終点に達したとの条件、又は、読取領域変更処理を終了する指示が磁気テープ読取装置10に対して与えられたとの条件等が挙げられる。ステップST54において、読取領域変更処理終了条件を満足していない場合は、判定が否定されて、読取領域変更処理はステップST50へ移行する。ステップST54において、読取領域変更処理終了条件を満足した場合は、判定が肯定されて、読取領域変更処理が終了する。
以上説明したように、磁気テープ読取装置10では、コントローラ18Aが、複数のトラック領域30のうちの指定されたトラック領域30内の複数のトラックに複数の読取部26が配置されるように読取ヘッド16を移動させている。そして、読取部26の各々について上記第1実施形態で説明した磁気テープ読取処理が実行される。従って、磁気テープMTが複数のトラック領域30を有する場合であっても、各トラック領域30内の各トラックについて、上記第1実施形態と同様の効果を奏する。
なお、上記第2実施形態では、コントローラ18Aによって指定されたトラック領域30上に上流側読取ヘッド16A及び下流側読取ヘッド16Bを配置させてデータを読み取らせる形態例を挙げて説明したが、本開示の技術はこれに限定されない。例えば、磁気テープMTのテープ幅方向の全トラック領域30の各々に対して上流側読取ヘッド16A及び下流側読取ヘッド16Bを配置させて各トラック領域30のデータを上流側読取ヘッド16A及び下流側読取ヘッド16Bに読み取らせるようにしてもよい。全トラック領域30の各々に対して上流側読取ヘッド16A及び下流側読取ヘッド16Bを配置させてデータを読み取らせる場合、例えば、テープ幅方向の一端側から他端側にかけて上流側読取ヘッド16A及び下流側読取ヘッド16Bを各トラック領域30上に配置させてデータを読み取らせればよい。
[第3実施形態]
上記第2実施形態では、上流側読取素子26A及び下流側読取素子26Bによりデータの読み取りを行わせることで複数回の読み取りが実現される形態例を挙げて説明したが、本開示の技術に係る第3実施形態では、単一の読取素子で複数回の読み取りが行われる場合について説明する。なお、本開示の技術に係る第3実施形態では、上記第2実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。以下では、上記第2実施形態と異なる部分について説明する。
本開示の技術に係る第3実施形態に係る磁気テープ読取装置10は、上記第2実施形態に係る磁気テープ読取装置10に比べ、読取ヘッド16に代えて読取ヘッド160を有する点が異なる。読取ヘッド160は、読取ヘッド16に比べ、下流側読取ヘッド16Bを有しない点が異なる。また、読取ヘッド160は、上流側読取ヘッド16Aの上流側読取素子26Aに相当する読取素子26A1を有する。本開示の技術に係る第3実施形態に係る磁気テープ読取装置10では、単一トラック30Aにつき1つの読取素子26A1が割り当てられる。読取素子26A1は、本開示の技術に係る「1つの読取素子」の一例である。
読取ヘッド160は、上流側読取ヘッド16Aの上流側サーボ素子対36に相当するサーボ素子対360を有する。サーボ素子対360は、上流側サーボ素子対36の上流側サーボ素子36Aに相当するサーボ素子36A1を有し、かつ、上流側サーボ素子対36の上流側サーボ素子36Bに相当するサーボ素子36B1を有する。
本開示の技術に係る第3実施形態に係る磁気テープ読取装置10(本開示の技術に係る第3実施形態では、単に「磁気テープ読取装置10」と称する)では、コントローラ18Aが、送出モータ20及び巻取モータ24を制御することで、磁気テープMTを走行させる。磁気テープMTの走行方向は、読取走行方向と巻戻し走行方向とに大別される。読取走行方向は、磁気テープMTの順方向に相当する方向であり、巻戻し走行方向は、磁気テープMTの逆方向に相当する方向である。コントローラ18Aは、読取ヘッド160によるデータの読み取りを行う場合は読取走行方向に沿って磁気テープMTを走行させ、磁気テープMTを巻き戻す場合は巻戻し走行方向に沿って磁気テープMTを走行させる。そして、コントローラ18Aは、特定範囲内で磁気テープMTを読取走行方向に沿って2回走行させることで、読取素子26A1に対して、単一トラック30Aについての特定範囲内で2回のデータの読み取りを行わせる。
一例として図15に示すように、磁気テープ読取装置10は、制御装置300を有する。制御装置300は、図6に示す制御装置18に比べ、信号処理回路18Bに代えて信号処理回路318Bを有する点が異なる。信号処理回路318Bは、信号処理回路18Bに比べ、増幅器68、A/D変換器70、及び第2バッファ72を有しない点が異なる。また、信号処理回路318Bは、信号処理回路18Bに比べ、第1バッファ66に代えてバッファ366を有する点が異なる。更に、信号処理回路318Bは、信号処理回路18Bに比べ、合成部74に代えて合成部302を有する点が異なる。
A/D変換器64は、増幅器62から入力された再生信号をA/D変換する。A/D変換器64は、再生信号をA/D変換することで得たデジタル信号をAD変換後再生信号系列としてバッファ366に出力する。バッファ366は、A/D変換器64から入力されたAD変換後再生信号系列を一時的に保持する。
本開示の技術に係る第3実施形態において、AD変換後再生信号系列は、AD変換後第1再生信号系列とAD変換後第2再生信号系列とに大別される。AD変換後第1再生信号系列は、上記第1実施形態で説明した上AD変換後流側第1再生信号系列に相当する再生信号系列であり、AD変換後第2再生信号系列は、上記第1実施形態で説明したAD変換後下流側再生信号系列に相当する再生信号系列である。
AD変換後第1再生信号系列は、1回目のデータの読み取りで得られた再生信号系列であり、AD変換後第2再生信号系列は、2回目のデータの読み取りで得られた再生信号系列である。1回目のデータの読み取りとは、単一トラック30Aについての特定範囲内で読取ヘッド160を用いて2回のデータの読み取りを行った場合の1回目のデータの読み取りを指す。2回目のデータの読み取りとは、単一トラック30Aについての特定範囲内で読取ヘッド160を用いて2回のデータの読み取りを行った場合の2回目のデータの読み取りを指す。
一例として図16に示すように、合成部302は、図7に示す合成部74に比べ、第1位相同期回路74Aに代えて第1位相同期回路302Aを有する点、及び第2位相同期回路74Bに代えて第2位相同期回路302Bを有する点が異なる。第1位相同期回路302Aは、バッファ366からAD変換後第1再生信号系列を取得し、取得したAD変換後第1再生信号系列に対して、上記第1実施形態で説明した方法で位相同期処理を行う。第2位相同期回路302Bは、バッファ366からAD変換後第2再生信号系列を取得し、取得した第AD変換後第2再生信号系列に対して、上記第1実施形態で説明した方法で位相同期処理を行う。AD変換後第1再生信号系列に対して位相同期処理が行われることで位相同期処理後第1再生信号系列が得られ、AD変換後第2再生信号系列に対して位相同期処理が行われることで位相同期処理後第2再生信号系列が得られる。位相同期処理後第1再生信号系列は、上記第1実施形態で説明した第1位相同期処理後再生信号系列に相当し、位相処理後第2再生信号系列は、上記第1実施形態で説明した第2位相同期処理後再生信号系列に相当する。
位相同期処理後第1再生信号系列に対しては、上記第1実施形態と同様に、第1等化器74Cによって波形等化処理が行われる。位相処理後第2再生信号系列に対しては、上記第1実施形態と同様に、第2等化器74Dによって波形等化処理が行われる。位相同期処理後第1再生信号系列に対して波形等化処理が行われることで波形等化処理後第1再生信号系列が得られ、位相同期処理後第2再生信号系列に対して波形等化処理が行われることで波形等化処理後第2再生信号系列が得られる。波形等化処理後第1再生信号系列は、上記第1実施形態で説明した第1波形等化処理後再生信号系列に相当し、波形等化処理後第2再生信号系列は、上記第1実施形態で説明した第2波形等化処理後再生信号系列に相当する。
次に、磁気テープ読取装置10の本開示の技術に係る部分の作用について図17A及び図17Bを参照しながら説明する。
図17A及び図17Bには、磁気テープMTが制御装置18の制御下で読取走行方向に沿って走行している状態において制御装置18によって実行される磁気テープ読取処理の流れの一例が示されている。なお、ここでは、説明の便宜上、特定範囲は、単一トラック30Aのうちの走行方向における一部の範囲であることを前提として説明する。また、ここでは、説明の便宜上、特定範囲が数十メートルから数百メートルの範囲であることを前提として説明する。
図17Aに示す磁気テープ読取処理では、先ず、ステップST100で、コントローラ18Aは、読取部26A1が単一トラック30Aのうちの特定範囲のスタート位置に到達したか否かを判定する。ステップST100において、読取部26A1が単一トラック30Aのうちの特定範囲のスタート位置に到達していない場合は、判定が否定されて、ステップST100の判定が再び行われる。ステップST100において、読取部26A1が単一トラック30Aのうちの特定範囲のスタート位置に到達した場合は、判定が肯定されて、磁気テープ読取処理はステップST102へ移行する。
ステップST102で、信号処理回路318Bは、読取素子26A1から再生信号を取得し、その後、磁気テープ読取処理はステップST104へ移行する。
ステップST104で、信号処理回路318Bは、ステップST102で取得した再生信号に対してデジタル化処理を施し、その後、磁気テープ読取処理はステップST106へ移行する。本ステップST104では、読取素子26A1からの再生信号に対して増幅及びA/D変換が行われることでAD変換後第1再生信号系列が生成される。
ステップST106で、コントローラ18Aは、サーボ信号に基づいてずれ量を導出し、その後、磁気テープ読取処理はステップST108へ移行する。
ステップST108で、コントローラ18Aは、ステップST106で導出したずれ量に対応するタップ係数を対応テーブル18A1から導出し、その後、磁気テープ読取処理はステップST114へ移行する。
ステップST114で、コントローラ18Aは、読取部26が単一トラック30Aのうちの特定範囲の終了位置に到達したか否かを判定する。ステップST114において、読取部26が単一トラック30Aのうちの特定範囲の終了位置に到達していない場合は、判定が否定されて、磁気テープ読取処理はステップST102へ移行する。ステップST114において、読取部26が単一トラック30Aのうちの特定範囲の終了位置に到達した場合は、判定が肯定されて、磁気テープ読取処理は図17Bに示すステップST116へ移行する。
図17Bに示すステップST116で、コントローラ18Aは、送出モータ20及び巻取モータ24を制御することで、磁気テープMTを巻戻し走行方向に沿って走行させることで磁気テープMTを巻き戻し、その後、磁気テープ読取処理はステップST118へ移行する。
ステップST118で、コントローラ18Aは、読取素子26A1が単一トラック30Aのうちの巻戻し完了位置に到達したか否かを判定する。巻戻し完了位置は、単一トラック30Aの特定範囲外のうち、特定範囲のスタート位置の手間の位置を指す。特定範囲のスタート位置の手間の位置とは、磁気テープMTを巻き戻すことによって読取素子26A1が特定範囲のスタート位置を超えた位置を指す。巻戻し完了位置は、磁気テープMTの読取走行方向に沿った走行が再開された場合に、読取素子26A1が特定範囲のスタート位置に到達する位置であればよい。
ステップST118において、読取素子26A1が単一トラック30Aのうちの巻戻し完了位置に到達していない場合は、判定が否定されて、ステップST118の判定が再び行われる。ステップST118において、読取素子26A1が単一トラック30Aのうちの巻戻し完了位置に到達した場合は、判定が肯定されて、磁気テープ読取処理はステップST120へ移行する。
ステップST120で、コントローラ18Aは、送出モータ20及び巻取モータ24を制御することで、磁気テープMTを読取走行方向に沿って走行させ、その後、磁気テープ読取処理はステップST122へ移行する。
ステップST122で、コントローラ18Aは、読取素子26A1が単一トラック30Aのうちの特定範囲のスタート位置に到達したか否かを判定する。ステップST122において、読取素子26A1が単一トラック30Aのうちの特定範囲のスタート位置に到達していない場合は、判定が否定されて、ステップST122の判定が再び行われる。ステップST122において、読取素子26A1が単一トラック30Aのうちの特定範囲のスタート位置に到達した場合は、判定が肯定されて、磁気テープ読取処理はステップST124へ移行する。
ステップST124で、信号処理回路18Bは、読取素子26A1から再生信号を取得し、その後、磁気テープ読取処理はステップST126へ移行する。
ステップST126で、信号処理回路18Bは、ステップST124で取得した再生信号に対してデジタル化処理を施し、その後、磁気テープ読取処理はステップST128へ移行する。本ステップST126では、読取素子26A1からの再生信号に対して増幅及びA/D変換が行われることでAD変換後第2再生信号系列が生成される。
ステップST128で、コントローラ18Aは、サーボ信号に基づいてずれ量を導出し、その後、磁気テープ読取処理はステップST130へ移行する。
ステップST130で、コントローラ18Aは、ステップST128で導出したずれ量に対応するタップ係数を対応テーブル18A1から導出し、その後、磁気テープ読取処理はステップST136へ移行する。
ステップST136で、コントローラ18Aは、読取部26が単一トラック30Aのうちの特定範囲の終了位置に到達したか否かを判定する。ステップST136において、読取部26が単一トラック30Aのうちの特定範囲の終了位置に到達していない場合は、判定が否定されて、磁気テープ読取処理はステップST124へ移行する。ステップST136において、読取部26が単一トラック30Aのうちの特定範囲の終了位置に到達した場合は、判定が肯定されて、磁気テープ読取処理はステップST138へ移行する。
ステップST138で、第1位相同期回路302Aは、AD変換後第1再生信号系列に対して位相同期処理を行い、第2位相同期回路302Bは、AD変換後第2再生信号系列に対して位相同期処理を行い、その後、読取テープ読取処理はステップST140へ移行する。AD変換後第1再生信号系列に対して位相同期処理が行われることによって位相同期処理後第1再生信号系列が得られ、AD変換後第2再生信号系列に対して位相同期処理が行われることによって位相同期処理後第2再生信号系列が得られる。
ステップST140で、第1等化器74Cは、ステップST108で導出されたずれ量に対応するタップ係数をコントローラ18Aから取得し、第2等化器74Dは、ステップST130で導出されたずれ量に対応するタップ係数をコントローラ18Aから取得し、その後、磁気テープ読取処理はステップST142へ移行する。
ステップST142で、第1等化器74Cは、位相同期処理後第1再生信号系列に対して、ステップST140で取得したタップ係数を用いて1次元FIRフィルタによる波形等化処理を行い、第2等化器74Dは、位相同期処理後第2再生信号系列に対して、ステップST140で取得したタップ係数を用いて1次元FIRフィルタによる波形等化処理を行い、その後、磁気テープ読取処理はステップST144へ移行する。位相同期処理後第1再生信号系列に対して波形等化処理が行われることによって波形等化処理後第1再生信号系列が得られ、位相同期処理後第2再生信号系列に対して波形等化処理が行われることによって波形等化処理後第2再生信号系列が得られる。
ステップST144で、加算器74Eは、波形等化処理後第1再生信号系列と波形等化処理後第2再生信号系列とを加算することで合成データを生成する。そして、加算器74Eは、生成した合成データを復号部76に出力し、その後、磁気テープ読取処理が終了する。
なお、上記の磁気テープ読取処理では、1つの読取素子26A1が、対応する単一トラック30Aに対してデータの読み取りを行う場合が例示されているが、本開示の技術はこれに限定されない。すなわち、読取ヘッド160には複数の読取素子26A1が設けられており、全ての読取素子26A1の各々によるデータの読み取りについても図17A及び図17Bに示す磁気テープ読取処理が適用される。
以上説明したように、磁気テープ読取装置10では、読取素子26A1に対して特定範囲からデータを2回読み取らせる制御が行われる。1回目のデータの読取経路と2回目のデータの読取経路とは、環境条件に起因して異なるので、1回のみのデータの読み取りの場合に比べ、各読取部26に各々対応する単一トラック30Aのテープ幅方向においてデータが幅広く読み取られる。従って、単一トラック30Aからリニアスキャン方式で1回のみの読み取りによってデータが読み取られる場合に比べ、単一トラック30Aからリニアスキャン方式で読み取られるデータの信頼性の低下を抑制することができる。
なお、上記第3実施形態では、2回のデータの読み取りを例示したが、本開示の技術はこれに限定されず、3回以上のデータの読み取りが行われるようにしてもよい。この場合、読取回数分の再生信号系列が生成され、加算器74Eによって合成される。
また、上記第3実施形態では、図17Aに示すように、読取部26A1が特定範囲のスタート位置に到達してから特定範囲の終了位置に到達するまでの間、再生信号が取得される毎に、ステップST104~ステップST108の処理が繰り返し行われる形態例を挙げて説明したが本開示の技術はこれに限定されない。例えば、読取部26A1が特定範囲のスタート位置に到達してから特定範囲の終了位置に到達するまでの間にステップST102~ステップST106のまでの処理が繰り返し行われ、その後に、ステップST108以降の処理が行われるようにしてもよい。この場合、ステップST102~ステップST106のまでの処理が繰り返し行われることによって得られた第1再生信号系列及びずれ量の各々が時系列でバッファ(図示省略)等によって保持されるようにする。そして、時系列で保持されているずれ量の各々に対応するタップ係数が、対応テーブル18A1に基づいて導出されるようにすればよい。
また、上記第3実施形態では、図17Bに示すように、読取部26A1が特定範囲のスタート位置に到達してから特定範囲の終了位置に到達するまでの間、再生信号が取得される毎に、ステップST126~ステップST130の処理が繰り返し行われる形態例を挙げて説明したが本開示の技術はこれに限定されない。例えば、読取部26A1が特定範囲のスタート位置に到達してから特定範囲の終了位置に到達するまでの間にステップST124~ステップST128のまでの処理が繰り返し行われ、その後に、ステップST130以降の処理が行われるようにしてもよい。この場合、ステップST124~ステップST128のまでの処理が繰り返し行われることによって得られた第2再生信号系列及びずれ量の各々が時系列でバッファ(図示省略)等によって保持されるようにする。そして、時系列で保持されているずれ量の各々に対応するタップ係数が、対応テーブル18A1に基づいて導出されるようにすればよい。
また、本開示の技術はこれに限定されず、例えば、2回目のデータの読み取りについて読取部26A1が特定範囲のスタート位置に到達してから特定範囲の終了位置に到達するよりも前に、すなわち、2回目のデータの読み取りの完了を待たずに、ステップST138以降の各ステップの処理を開始してもよい。この場合、ステップST138以降の各ステップの処理が開始されてから、特定範囲の終了位置に到達するまでに生成された再生信号系列、ずれ量、及びずれ量に対応するタップ係数が時系列で一時的にバッファ(図示省略)等によって保持されるようにする。そして、ステップST138以降の各ステップの処理に進む上で必要なだけの再生信号系列、ずれ量、及びずれ量に対応するタップ係数がデータバッファに蓄積された段階で、順次、位相同期処が行われるようにすればよい。例えば、1回目のデータの読み取りで得られた再生信号系列、ずれ量、及びずれ量に対応するタップ係数がバッファに格納されていれば(図17Aに示す処理が終了した後であれば)、2回目のデータの全ての読み取りが完了するのを待たずに(ステップST136の判定が肯定されるのを待たずに)ステップST138以降の各ステップの処理に進むことが可能である。これにより、2回目のデータの読み取りで使用されるバッファのサイズを小さくすることが可能となり、ステップST138以降の各ステップの処理が開始されるまでの遅延も小さくすることができる。
また、上記各実施形態では、2次元FIRフィルタを例示したが、本開示の技術はこれに限定されない。例えば、2次元FIRフィルタに代えて2次元IIRフィルタを適用してもよい。この場合、タップ係数に代えて、IIRフィルタで用いられる係数を用いればよい。ここで言う「係数」は、本開示の技術に係る「パラメータ」のこのように、2次元FIRフィルタに代えて2次元IIRフィルタを適用したとしても、上記各実施形態で説明した効果と同様の効果を得ることができる。
また、上記各実施形態では、制御装置18,300(以下、符号を付さずに「制御装置」と称する)としてASICを含むデバイスを例示してが、本開示の技術はこれに限定されない。例えば、制御装置は、コンピュータによるソフトウェア構成により実現されるようにしてもよい。
この場合、例えば、図18に示すように、磁気テープ読取装置10に代えて磁気テープ読取装置800を用いればよい。磁気テープ読取装置800は、磁気テープ読取装置10に比べ、制御装置に代えてコンピュータ852を含むデバイスを有する点が異なる。図18に示す例では、記憶媒体900に磁気テープ読取プログラム902及び読取領域変更プログラム904が記憶されている。磁気テープ読取プログラム902は、コンピュータ852に上述した磁気テープ読取処理を実行させるためのプログラムである。読取領域変更プログラム904は、コンピュータ852に上述した読取領域変更処理を実行させるためのプログラムである。
コンピュータ852は、CPU852A、ROM852B、及びRAM852Cを備えている。記憶媒体900に記憶されている磁気テープ読取プログラム902及び読取領域変更プログラム904は、コンピュータ852にインストールされ、CPU852Aは、磁気テープ読取プログラム902に従って、上述した磁気テープ読取処理を実行する。また、CPU852Aは、読取領域変更プログラム904に従って、上述した読取領域変更処理を実行する。
図18に示す例では、CPU852Aは、単数のCPUであるが、本開示の技術はこれに限定されず、複数のCPUを採用してもよい。なお、記憶媒体900の一例としては、SSD又はUSBメモリなどの任意の可搬型の記憶媒体が挙げられる。
また、通信網(図示省略)を介してコンピュータ852に接続される他のコンピュータ又はサーバ装置等の記憶部に磁気テープ読取プログラム902及び/又は読取領域変更プログラム904を記憶させておき、磁気テープ読取装置800の要求に応じて磁気テープ読取プログラム902及び/又は読取領域変更プログラム904がコンピュータ852にダウンロードされるようにしてもよい。この場合、ダウンロードされた磁気テープ読取プログラム902及び/又は読取領域変更プログラム904がコンピュータ852のCPU852Aによって実行される。
上記の磁気テープ読取処理及び/又は読取領域変更処理(以下、「各種処理」と称する)実行するハードウェア資源としては、次に示す各種のプロセッサを用いることができる。プロセッサとしては、例えば、上述したように、ソフトウェア、すなわち、プログラムを実行することで、各種処理を実行するハードウェア資源として機能する汎用的なプロセッサであるCPUが挙げられる。また、プロセッサとしては、例えば、FPGA、PLD、又はASICなどの特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路が挙げられる。
各種処理を実行するハードウェア資源は、これらの各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種または異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAの組み合わせ、又はCPUとFPGAとの組み合わせ)で構成されてもよい。また、各種処理を実行するハードウェア資源は1つのプロセッサであってもよい。
1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアント及びサーバなどのコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが、各種処理を実行するハードウェア資源として機能する形態がある。第2に、SoCなどに代表されるように、各種処理を実行する複数のハードウェア資源を含むシステム全体の機能を1つのICチップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、各種処理は、ハードウェア資源として、上記各種のプロセッサの1つ以上を用いて実現される。
更に、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造としては、より具体的には、半導体素子などの回路素子を組み合わせた電気回路を用いることができる。
また、上述した各種処理はあくまでも一例である。従って、主旨を逸脱しない範囲内において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりしてもよいことは言うまでもない。
以上に示した記載内容及び図示内容は、本開示の技術に係る部分についての詳細な説明であり、本開示の技術の一例に過ぎない。例えば、上記の構成、機能、作用、及び効果に関する説明は、本開示の技術に係る部分の構成、機能、作用、及び効果の一例に関する説明である。よって、本開示の技術の主旨を逸脱しない範囲内において、以上に示した記載内容及び図示内容に対して、不要な部分を削除したり、新たな要素を追加したり、置き換えたりしてもよいことは言うまでもない。また、錯綜を回避し、本開示の技術に係る部分の理解を容易にするために、以上に示した記載内容及び図示内容では、本開示の技術の実施を可能にする上で特に説明を要しない技術常識等に関する説明は省略されている。
本明細書において、「A及び/又はB」は、「A及びBのうちの少なくとも1つ」と同義である。つまり、「A及び/又はB」は、Aだけであってもよいし、Bだけであってもよいし、A及びBの組み合わせであってもよい、という意味である。また、本明細書において、3つ以上の事柄を「及び/又は」で結び付けて表現する場合も、「A及び/又はB」と同様の考え方が適用される。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願及び技術規格は、個々の文献、特許出願及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。