図1および図2に本発明のシート状空気電池の一例を模式的に示している。図1はシート状空気電池の平面図であり、図2は図1のI-I線断面図である。
図2に示すように、シート状空気電池1においては、正極20、セパレータ40および負極30と、電解質(図示しない)とが、シート状外装体60内に収容されている。なお、図1における点線は、シート状外装体60内に収容された正極20の大きさ(端子部を除く、幅の広い本体部の大きさ)を表している。
シート状外装体60の図中上辺からは、正極20の端子部20bおよび負極30の外部端子30bが突出している。これらの端子部20b、30bは、シート状空気電池と適用機器とを電気的に接続するための外部端子として使用される。
シート状外装体60は、正極20が配置された側の片面に、正極に空気を取り込むための空気孔61が複数設けられており、正極20のシート状外装体60側には、空気孔61からの電解質の漏出を防止するための撥水膜50が配置されている。
図3に、シート状空気電池に係る正極を模試的に表す平面図を示している。正極20は、多孔性導電基材を有しており、前記多孔性導電基材は、本体部20aと、シート状外装体の外部に少なくとも一部が露出する端子部20bとを有している。すなわち、1枚の多孔性導電基材のうちの一部が端子部20bを構成し、その他の主要部が本体部20aを構成している。
正極20の集電体として機能する本体部20aと、外部への導通を担う端子部20bとを共通する一体の部材(多孔性導電基材)で構成することにより、例えば、外部端子用のリード体(タブ)などの溶接の必要がなくなることから、その生産性を高めることができ、ひいては、シート状空気電池の生産性を向上させることができる。
なお、多孔性導電基材のうち、端子部20bを構成する部分は、圧縮により無孔化されていてもよい。
前記多孔性導電基材は、ニッケル、ステンレスなどの網や発泡体、パンチング基材、エキスパンド基材など金属製の部材で構成することもできるが、カーボン製の部材とすることにより、本体部20aを構成する多孔性導電基材が触媒としても機能するので、本体部20aの多孔性導電基材に別途触媒を担持する必要がなくなり、シート状空気電池の生産性をより一層向上させることができる。
前記多孔性導電基材をカーボン製の部材とする場合、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルトなどの、繊維状カーボンで構成された多孔性カーボンシートを好ましく用いることができる。これらのシートは、単層構造であってもよく、カーボンペーパー同士、カーボンクロス同士、カーボンフェルト同士が積層された多層構造であってもよく、カーボンペーパー、カーボンクロスおよびカーボンフェルトのうちの2種以上が積層された多層構造であってもよい。
前記シートを構成する繊維状カーボンの繊維径は、触媒機能や導電性を考慮すると、通常、2~30μmとすることが好ましい。
繊維状カーボンで構成された前記シートの厚みは、0.5mm以下であることが好ましい。シート状空気電池は、薄型の形態とされることが多いが、正極を構成する前記シートが厚すぎると、正極全体の厚みも増加し、薄型の電池を形成し難くなる場合がある。繊維状カーボンで構成された前記シートの厚みの下限値は、取扱い性や入手の容易さ、正極での十分な電池反応や集電機能の確保などを考慮すると、通常、0.05mmである。
繊維状カーボンで構成された前記シートの空孔率は、良好な透気性と十分な強度とを確保する観点から、50%以上95%以下であることが好ましい。
繊維状カーボンで構成された前記シートには、市販品の中から前記の物性値を満たすものを選択して使用すればよい。
繊維状カーボンで構成された前記シートを多孔性カーボンシートとして正極を形成する場合には、これらのシートを所望の形状に打ち抜くなどするだけで正極を製造できるため、正極の生産性がより向上する。
一方、繊維状カーボンで構成された前記シートの本体部を構成する部分に、別途触媒を担持させることも可能である。すなわち、前記本体部を構成する多孔性導電基材の表面または内部に、通常空気電池の触媒として使用される材料を担持することにより、正極の生産性はやや劣ることになるものの、本体部の触媒機能が向上するため、より高い電池特性を確保することができる。
なお、前記多孔性導電基材を金属製の部材で構成する場合は、白金などの貴金属で構成する場合を除き、前記の多孔性カーボンシートに比べて触媒機能が劣るため、多孔性導電基材のうち本体部を構成する部分には、別途触媒を担持させることが望ましい。
多孔性導電基材の本体部に担持させる触媒としては、通常空気電池の触媒として使用されているものを用いることができ、例えば、銀、白金族金属またはその合金、遷移金属、Pt/IrO2などの白金/金属酸化物、La1-xCaxCoO3などのペロブスカイト酸化物、WCなどの炭化物、Mn4Nなどの窒化物、二酸化マンガンやMn3O4などのマンガン酸化物、カーボン〔黒鉛、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなど)、木炭、活性炭など〕などが挙げられ、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
また、カーボン触媒を用いる場合、正極の反応性をより高める観点からは、カーボンの比表面積は、200m2/g以上であることが好ましく、300m2/g以上であることがより好ましく、500m2/g以上であることが更に好ましい。本明細書でいうカーボンの比表面積は、JIS K 6217に準じた、BET法によって求められる値であり、例えば、窒素吸着法による比表面積測定装置(Mountech社製「Macsorb HM modele-1201」)を用いて測定することができる。なお、カーボンの比表面積の上限値は、通常、2000m2/g程度である。
前記触媒を多孔性導電基材の表面または内部に担持させる場合には、通常、バインダなどとともに構成される組成物を多孔性導電基材に塗布し、触媒含有層を形成するなどの方法を用いればよい。
前記触媒含有層に含有させるバインダとしては、PVDF、PTFE、フッ化ビニリデンの共重合体やテトラフルオロエチレンの共重合体〔フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(PVDF-CTFE)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体(PVDF-TFE)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体(PVDF-HFP-TFE)など〕などのフッ素樹脂バインダなどが挙げられる。これらの中でも、テトラフルオロエチレンの重合体(PTFE)または共重合体が好ましく、PTFEがより好ましい。触媒含有層におけるバインダの含有量は、3~50質量%であることが好ましい。
触媒含有層は、触媒やバインダなどを水などの溶媒と混合してロールで圧延し、基材となる前記シートなどと密着させることによって形成することができる。また、触媒や必要に応じて使用するバインダなどを、水や有機溶媒に分散させて調製した触媒含有層形成用組成物(スラリー、ペーストなど)を、基材となる前記シートの表面に塗布し乾燥した後に、必要に応じてカレンダ処理などのプレス処理を施す工程を経て、触媒含有層を形成することもできる。
本体部の表面または内部に触媒を担持させた多孔性導電基材は、これを所望の形状に打ち抜くなどして、正極とすることができる。
図4に、シート状空気電池に係る負極を模試的に表す平面図を示している。負極30は、金属箔を有しており、前記金属箔は、本体部30aと、前記シート状外装体の外部に少なくとも一部が露出する端子部とを有している。すなわち、1枚の金属箔のうちの一部が端子部30bを構成し、その他の主要部が本体部30aを構成している。
負極の活物質として機能する本体部30aと、外部への導通を担う端子部30bとを共通する一体の部材(金属箔)で構成することにより、例えば、外部端子用のリード体(タブ)などの溶接の必要がなくなり、また、活物質となる金属粒子を含む負極合剤の調製工程も不要となることから、その生産性を高めることができ、ひいては、シート状空気電池の生産性を向上させることができる。
なお、負極の活物質となる本体部30aのうち、正極と対向しない面には、負極の集電性を向上させるために、カーボンペーストなどの導電塗料が塗布されていてもよく、また、負極側に配置されるシート状外装体の本体部30aと接する箇所に導電塗料が塗布されていてもよい。
負極を形成するための金属箔には、負極活物質として機能する成分を含有する箔を使用する。その具体例としては、亜鉛または亜鉛合金の箔、マグネシウムまたはマグネシウム合金の箔、アルミニウムまたはアルミニウム合金の箔などが挙げられる。これらの金属箔から形成された負極においては、亜鉛、アルミニウムまたはマグネシウムが負極活物質として作用する。
亜鉛合金箔における合金成分としては、例えば、インジウム(例えば含有量が質量基準で0.005~0.05%)、ビスマス(例えば含有量が質量基準で0.005~0.05%)、アルミニウム(例えば含有量が質量基準で0.001~0.15%)などが挙げられる。
また、マグネシウム合金箔における合金成分としては、例えば、カルシウム(例えば含有量が質量基準で1~3%)、マンガン(例えば含有量が質量基準で0.1~0.5%)、亜鉛(例えば含有量が質量基準で0.4~1%)、アルミニウム(例えば含有量が質量基準で8~10%)などが挙げられる。
更に、アルミニウム合金箔における合金成分としては、例えば、亜鉛(例えば含有量が質量基準で0.5~10%)、スズ(例えば含有量が質量基準で0.04~1.0%)、ガリウム(例えば含有量が質量基準で0.003~1.0%)、ケイ素(例えば含有量が質量基準で0.05%以下)、鉄(例えば含有量が質量基準で0.1%以下)、マグネシウム(例えば含有量が質量基準で0.1~2.0%)、マンガン(例えば含有量が質量基準で0.01~0.5%)などが挙げられる。
負極の厚み(負極を構成する金属箔の厚み)は、10~500μmであることが好ましい。
シート状空気電池の電解質には、例えば、電解質塩を含有する水溶液が使用される。電解質として使用される水溶液は、pHが、3以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、また、12未満であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、7未満であることが更に好ましい。このようなpHの水溶液を使用することで、例えば、空気電池に一般的に使用されている強アルカリである高pHのアルカリ水溶液(pH14程度)を用いる場合に比べて、シート状空気電池を廃棄時や使用時の破損などで人体に電解質が付着しても問題が生じ難く、高い安全性が確保できると共に、廃棄後の環境への負荷の低減を図ることができる。
電解質として使用される前記水溶液に溶解させる電解質塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウムや塩化亜鉛などの塩化物;アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウムなど)、酢酸塩(酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウムなど)、硝酸塩(硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸マグネシウムなど)、硫酸塩(硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウムなど)、リン酸塩(リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウムなど)、ホウ酸塩(ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸マグネシウムなど)、クエン酸塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸マグネシウムなど)、グルタミン酸塩(グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、グルタミン酸マグネシウムなど);アルカリ金属の炭酸水素塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなど);アルカリ金属の過炭酸塩(過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウムなど);フッ化物などのハロゲンを含む化合物;多価カルボン酸;などが挙げられ、前記水溶液は、これらの電解質塩のうちの1種または2種以上を含有していればよい。
なお、前記電解質塩として、塩酸、硫酸および硝酸より選択される強酸と、アンモニアや、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなど金属元素の水酸化物に代表される弱塩基との塩が好ましく、アンモニウム塩または特定の金属元素の塩を使用することがより好ましい。具体的には、Cl-、SO4
2-、HSO4
-およびNO3
-より選択される少なくとも1種のイオンと、Alイオン、Mgイオン、Feイオンおよびアンモニウムイオンより選択される少なくとも1種のイオンとの塩であることがより好ましく、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム〔(NH4)HSO4〕、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムなどのアンモニウム塩;硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどのアルミニウム塩;硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化水酸化マグネシウム〔MgCl(OH)〕、硝酸マグネシウムなどのマグネシウム塩;硫酸鉄(II)、硫酸アンモニウム鉄(II)〔(NH4)2Fe(SO4)2〕、硫酸鉄(III)、塩化鉄(II)、硝酸鉄(II)などの鉄塩;などが例示される。
前記例示の強酸と弱塩基との塩を含有する水溶液からなる電解質は、塩化ナトリウムなどの強酸と強塩基との塩を含有する電解質などに比べて、負極活物質である金属や合金を腐食させる作用が比較的小さい。また、強酸の塩のうち、Al、MgおよびFeより選択される金属元素の塩またはアンモニウム塩を含有する電解質は、例えば塩化亜鉛水溶液などに比べて比較的高い導電率を有している。よって、強酸と弱塩基との塩として、Cl-、SO4
2-、HSO4
-およびNO3
-より選択される少なくとも1種のイオンと、Alイオン、Mgイオン、Feイオンおよびアンモニウムイオンより選択される少なくとも1種のイオンとの塩を含有する水溶液からなる電解質を用いた場合には、シート状空気電池の放電特性をより高めることができる。
ただし、Cl-イオンとFe3+イオンとの塩〔塩化鉄(III)〕については、その他のイオンの組み合わせによる塩に比べて負極活物質である金属材料を腐食させる作用が強いため、塩化鉄(III)以外の塩を用いることが好ましく、負極活物質である金属材料を腐食させる作用がより低いことから、アンモニウム塩を用いることがより好ましい。
また、前記強酸と弱塩基との塩のうち、過塩素酸塩は、加熱や衝撃により燃焼や爆発の危険を生じることから、環境負荷や廃棄時の安全性の観点からは、前記水溶液に含有させないか、または含有しても過塩素酸イオンの量がわずか(100ppm未満が好ましく、10ppm未満がより好ましい)であることが好ましい。
また、前記強酸と弱塩基との塩のうち、塩化亜鉛や硫酸銅などに代表される重金属塩(鉄の塩を除く)は、有害であるものが多いため、環境負荷や廃棄時の安全性の観点からは、前記水溶液に含有させないか、または含有しても鉄イオンを除く重金属イオンの量がわずか(100ppm未満が好ましく、10ppm未満がより好ましい)であることが好ましい。
また、電解質として使用できる前記水溶液は、沸点が150℃以上の水溶性高沸点溶媒を、水と共に溶媒として含有していることが好ましい。空気電池においては、放電を行い容量が減っていくと、それに従って電圧が低下していくが、容量が少なくなる放電後期では電圧の低下に加えてその変動が大きくなりやすい。しかしながら、前記水溶液が水溶性高沸点溶媒を含有している場合には、こうした放電後期の電圧の変動を抑えて、より良好な放電特性を有するシート状空気電池とすることができる。
また、図1および図2に示すように、空気電池は、正極に空気を導入するための空気孔を外装体に有しているが、電解質(電解液)中の水が揮発し、外装体の空気孔を通じて散逸するなどして電解質の組成変動が生じやすく、これにより放電特性が低下する虞がある。しかしながら、電解質として使用する前記水溶液が水溶性高沸点溶媒を含有している場合には、電解質からの水の揮発が抑制されるため、前記のような電解質の組成変動による放電特性の低下を抑制することができ、シート状空気電池の貯蔵特性をより高めることも可能となる。
水溶性高沸点溶媒の沸点の上限値は、通常、320℃である。
シート状空気電池の放電特性をより良好に維持する観点からは、水溶性高沸点溶媒は、その表面張力や比誘電率が高いことが望ましい。シート状空気電池においては、放電に際し正極(触媒含有層)が空気と触れる必要があるが、電解液中の水溶性高沸点溶媒の表面張力が低いと、正極の触媒含有層の表面のうちの、電解質で覆われて空気と触れ難くなる箇所の割合が大きくなりすぎて、放電特性が低下する虞があるが、表面張力が高い水溶性高沸点溶媒を使用することで、こうした問題を回避することができる。
また、有機溶媒は、通常、水よりも比誘電率が低いため、これを水と併用して電解質を調製すると、水のみを使用した場合よりもイオン伝導性が低下して、電池の放電特性を損なう虞があるが、比誘電率が高い水溶性高沸点溶媒を使用することで、こうした問題の発生を抑制することができる。
具体的には、水溶性高沸点溶媒の表面張力は、30mN/m以上であることが好ましい。また、水溶性高沸点溶媒の表面張力の上限値は、通常、70mN/mである。本明細書でいう水溶性高沸点溶媒の表面張力は、市販の装置(例えば、協和界面科学社製「CBVP-Z」)を使用して、Wilhelmy法によって測定される値である。
更に、水溶性高沸点溶媒の比誘電率は、30以上であることが好ましい。また、水溶性高沸点溶媒の比誘電率の上限値は、通常、65である。本明細書でいう水溶性高沸点溶媒の比誘電率は、HEWLETTPACKARD社製「プレジョンLCRメーターHP4284」などを用い測定される誘電率より求まる値である。
電解質に好適な水溶性高沸点溶媒の具体例としては、エチレングリコール(沸点197℃、表面張力48mN/m、比誘電率39)、プロピレングリコール(沸点188℃、表面張力36mN/m、比誘電率32)、グリセリン(沸点290℃、表面張力63mN/m、比誘電率43)などの多価アルコール;ポリエチレングリコール(PEG;例えば、沸点230℃、表面張力43mN/m、比誘電率35)などのポリアルキレングリコール(分子量が600以下のものが好ましい);などが挙げられる。電解質液には、これらの水溶性高沸点溶媒のうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよいが、グリセリンを使用することがより好ましい。
水溶性高沸点溶媒を使用する場合、その使用による効果を良好に確保する観点から、前記水溶液の全溶媒中の水溶性高沸点溶媒の含有量は、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましい。ただし、前記水溶液中の水溶性高沸点溶媒の量が多すぎると、前記水溶液のイオン伝導性が小さくなりすぎて、電池特性が低下する虞があることから、前記水溶液の全溶媒中の水溶性高沸点溶媒の含有量は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
前記水溶液における電解質塩の濃度は、例えば、前記水溶液の導電率を80~700mS/cm程度に調整できる濃度であればよく、通常は、5~50質量%である。
電解質として使用される前記水溶液には、その溶媒(水または水と水溶性高沸点溶媒との混合溶媒)中にインジウム化合物が溶解していることが好ましい。前記水溶液中にインジウム化合物が溶解している場合には、電池内での水素ガスの発生を良好に抑制することができる。
前記水溶液に溶解させるインジウム化合物としては、水酸化インジウム、酸化インジウム、硫酸インジウム、硫化インジウム、硝酸インジウム、臭化インジウム、塩化インジウムなどが挙げられる。
インジウム化合物の前記水溶液中の濃度は、質量基準で、0.005%以上であることが好ましく、0.01%以上であることがより好ましく、0.05%以上であることが特に好ましく、また、1%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましく、0.1%以下であることが特に好ましい。
前記水溶液には、前記の各成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて公知の各種添加剤を添加してもよい。例えば、負極に用いる金属材料の腐食(酸化)を防止するために、酸化亜鉛を添加するなどしてもよい。
また、電解質を構成する水溶液はゲル化されていてもよく、電解質塩を含有するpHが3以上12未満の水溶液と、増粘剤とを配合してなるゲル状電解質を、シート状空気電池の電解質に使用することも好ましい。この場合にも、放電後期の電圧の変動を抑えてシート状空気電池の放電特性をより高めることができ、また、ゲル状電解質からの水の揮発が抑制されるため、電解質の組成変動による放電特性の低下を抑制することができ、シート状空気電池の貯蔵特性をより高めることも可能となる。
ゲル状電解質に係る、電解質塩を含有するpHが3以上12未満の水溶液には、シート状空気電池の電解質として使用できるものとして先に例示した前記水溶液と同じものを用いることができる。
ゲル状電解質を形成するための増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース(CEC)などのセルロースの誘導体;ポリエチレングリコール(PEG)などのポリアルキレングリコール(ただし、分子量が1万以上のものが好ましい);ポリビニルピロリドン;ポリ酢酸ビニル;デンプン;グアーガム;キサンタンガム;アルギン酸ナトリウム;ヒアルロン酸;ゼラチン;などの各種合成高分子または天然高分子が挙げられる。ゲル状電解質の形成には、前記の各増粘剤のうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、PEGなどのポリアルキレングリコールは、一般に分子量(平均分子量)を明示した状態で市販されており、本明細書でいうポリアルキレングリコールの分子量は、このような製造会社の公称値を意味している。
前記の増粘剤の中でも、電解質(電解質塩の水溶液である電解液)の増粘作用が高く、良好な性状のゲル状電解質をより容易に調製し得ることから、CMC、キサンタンガム、高分子量(分子量が10万以上で、好ましくは500万以下のもの)のPEGがより好ましい。
なお、CMCはアニオン性の高分子であり、金属イオンや塩が共存するとその影響を受けやすいため、電解質の増粘作用が小さくなる場合がある。しかしながら、CMCのエーテル化度が高い場合には、金属イオンや塩の影響を受け難く、電解質の増粘作用がより良好に発揮できるようになる。具体的には、CMCのエーテル化度は、0.9以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましい。ここでいうCMCのエーテル化度とは、無水グルコース単位1個について、何個のカルボキシメチル基がエーテル結合しているかを表す数値である。また、CMCのエーテル化度は、1.6以下であることが好ましい。
更に、CMCやCEC、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウムのように、カルボキシル基やその塩からなる官能基(-COOH、-COONaなど)を分子内に有する増粘剤を用いる場合には、ゲル化促進剤として作用する多価金属塩を電解質に配合することが好ましい。この場合には、ゲル化促進剤が増粘剤に作用することで、電解質がより良好にゲル化するため、性状の良好なゲル状電解質の形成が更に容易となる。
ゲル化促進剤として使用可能な多価金属塩としては、用いる増粘剤の種類によって異なるが、2価または3価の金属イオンの塩が好ましく、マグネシウム塩(硫酸マグネシウムなど)、カルシウム塩(硫酸カルシウム)などのアルカリ土類金属塩;硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなどのアルミニウム塩;塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)などの鉄塩;硝酸クロムなどのクロム塩;などが挙げられる。これらの中でも、アルミニウム塩や鉄塩がより好ましい。ゲル状電解質の形成には、pHが3以上12未満の水溶液を使用し、これによって電池による環境負荷の低減を図ることが望ましいが、ゲル化促進剤にアルミニウム塩や鉄塩を使用した場合には、このゲル化促進剤による環境負荷の増大を抑えることができる。
なお、電解質塩と増粘剤との組み合わせによっては、電解質塩自体がゲル化促進剤として作用してしまい、均質なゲル状電解質を形成できなくなったり、十分なイオン伝導性を有するゲル状電解質を形成できなくなったりする場合がある。そのような場合には、電解質塩として、1価の金属イオンの塩のみを用いたり、多価の金属イオンの塩と1価の金属イオンの塩とを併用したり、電解質塩を含有する水溶液と、増粘剤を含有する水溶液とを別々に調製した後、これらを混合して電解質を調製したりすることにより、前記問題の発生を防ぐことができる。また、電解質塩として、アンモニウム塩を用いることも好ましい。
電解質における増粘剤の配合量は、電解質を良好にゲル状としつつ、良好なイオン伝導性を確保する観点から、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。
更に、ゲル化促進剤である多価金属塩を電解質に配合する場合には、多価金属塩の配合量は、その作用をより良好に発揮させる観点から、質量比で増粘剤の割合を100としたときに、1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましい。また、多価金属塩の配合量を多くしても、その効果が飽和するため、電解質における多価金属塩の配合量は、質量比で増粘剤の割合を100としたときに、30以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましい。
なお、電解質塩がゲル化促進剤を兼ねる場合には、ゲル化促進剤の配合量は、前記した電解質塩の好適な濃度範囲に設定すればよい。
電解質として使用する電解質塩を含有する前記水溶液は、必要な成分(電解質塩や、必要に応じて使用される水溶性高沸点溶媒、インジウム化合物など)を水に添加し、溶解させて調製すればよい。
また、ゲル状電解質は、例えば、あらかじめ調製した電解質塩を含有するpHが3以上12未満の水溶液に、増粘剤や、その他必要に応じて使用される成分(インジウム化合物など)を溶解させることによって形成することができる。更に、水溶性高沸点溶媒を使用する場合には、例えば、水と水溶性高沸点溶媒とを混合し、この混合溶媒を用いて前記水溶液を調製し、これをゲル状電解質の形成に使用すればよい。
また、カルボキシル基やその塩からなる官能基を分子内に有する増粘剤と、ゲル化促進剤として作用する多価金属塩とをゲル状電解質に使用する場合には、電解質塩を含有するpHが3以上12未満の水溶液に更に増粘剤を溶解させたものと、ゲル化促進剤(多価金属塩)を溶解させた水溶液とを混合する方法によって、ゲル状電解質を形成することが好ましい。このような調製方法を採用した場合には、電解質塩を含有するpHが3以上12未満の水溶液に増粘剤と多価金属塩とを添加する方法よりも、ゲル状電解質をより良好に形成することができる。更に、電解質塩を含有するpHが3以上12未満の水溶液に更に増粘剤を溶解させたものと、ゲル化促進剤(多価金属塩)を溶解させた水溶液とを、それぞれ電池のシート状外装体内に注入し、このシート状外装体内で両者を混合することが、より効率的かつ良好にゲル状電解質を形成できることから、特に好ましい。
シート状空気電池のセパレータとしては、樹脂製の多孔質膜(微多孔膜、不織布など)や、セロファンフィルムに代表される半透膜などの、各種電池で一般的に採用されているセパレータが挙げられる。なお、シート状空気電池の短絡防止および負荷特性を向上させる観点からは、半透膜をセパレータに使用することが好ましい。
樹脂製の多孔質膜からなるセパレータを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体などのポリオレフィンなどが挙げられる。
樹脂製のセパレータの場合、空孔率は30~80%であることが好ましく、また、厚みは10~100μmであることが好ましい。
また、セロファンフィルムなどの半透膜をセパレータに使用する場合、半透膜のみでセパレータを構成してもよい。しかしながら、半透膜は強度が小さいため、電池組み立て時の破損などの問題が発生しやすい。よって、特定の重合体で構成されるグラフトフィルムと、半透膜とを積層した積層体でセパレータを構成することも推奨される。
グラフトフィルムを構成するグラフト重合体は、例えば、幹ポリマーであるポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)に、(メタ)アクリル酸またはその誘導体が、グラフト重合した形態を有するものである。ただし、グラフト重合体は前記の形態を有していればよく、ポリオレフィンに、(メタ)アクリル酸やその誘導体をグラフト重合させる方法により製造されたものでなくともよい。
前記グラフト重合体を構成する(メタ)アクリル酸またはその誘導体とは、下記一般式(1)によって表されるものである。なお、下記一般式(1)のうち、R1はHまたはCH3であり、R2はHまたはNH4、Na、K、Rb、Csなどの親水性置換基を意味している。
前記のグラフトフィルムやセロファンフィルムは、これらのフィルムを構成する重合体自身が、電解質を吸収してイオンを透過する機能を有するものである。
前記グラフトフィルムを構成するグラフト重合体は、下記式(2)で定義されるグラフト率が、160%以上であることが好ましい。グラフト重合体のグラフト率とグラフトフィルムの電気抵抗には相関関係があるため、グラフト率が上記のような値のグラフト重合体を用いることで、グラフトフィルムの電気抵抗が、20~120mΩ・in2の好適値となるように制御することができる。なお、グラフトフィルムの電気抵抗は交流式電圧降下法(1kHz)により得られる値である。雰囲気温度を20~25℃とし、25±1℃の40%KOH(比重:1.400±0.005)水溶液中にフィルムを浸漬し、5~15時間後に取り出して、電気抵抗を測定すればよい。
グラフト率(%)=100×(A-B)/B (2)
前記式(2)中、A:グラフト重合体の質量(g)、B:グラフト重合体中の幹ポリマーの質量(g)である。なお、前記式(2)の「B(グラフト重合体中の幹ポリマーの質量)」は、例えば、グラフト重合体を、幹ポリマーであるポリオレフィンに、(メタ)アクリル酸やその誘導体をグラフト重合させる方法で形成する場合には、このグラフト重合に用いる幹ポリマーの質量をあらかじめ測定しておけばよい。また、前記グラフト重合体において、グラフト率が100%を超える場合があるのは、グラフト重合に用いるモノマー〔(メタ)アクリル酸やその誘導体〕同士が重合して、グラフト分子が長鎖となる場合があるからである。前記式(2)で定義されるグラフト重合体のグラフト率の上限値は、400%であることが好ましい。なお、前記の「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸とを纏めて表現したものである。
セロファンフィルムのみで構成されるセパレータの場合、その厚みは、例えば、15μm以上であることが好ましく、また、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。
更に、グラフトフィルムとセロファンフィルムとの積層体で構成されるセパレータの場合、グラフトフィルムとセロファンフィルムとの合計厚みで、例えば、30μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましく、また、70μm以下であることが好ましく、60μm以下であることがより好ましい。
更に、グラフトフィルムとセロファンフィルムの積層体で構成されるセパレータの場合、グラフトフィルムの厚みは、例えば、15μm以上であることが好ましく、25μm以上であることがより好ましく、また、30μm以下であることが好ましい。
セパレータを構成するためのグラフトフィルムとセロファンフィルムとの積層体としては、例えば、株式会社ユアサメンブレンシステムから「YG9132」や「YG9122」、「YG2152」の名称で市販されているものが挙げられる。
また、セロファンフィルムや、セロファンフィルムおよびグラフトフィルムと、ビニロン-レーヨン混抄紙のような吸液層(電解質保持層)とを組み合わせてセパレータを構成してもよい。このような吸液層の厚みは20~500μmであることが好ましい。
本発明のシート状空気電池は、前記の通り、シート状外装体を有している。外装缶を有する形態では使用し難い用途への適用が可能となるほか、外装缶を有する形態のものに比べて廃棄も容易になることから、環境負荷が小さい利点をより生かすことが期待できる。
シート状外装体は、例えば樹脂フィルムで構成することができ、このような樹脂フィルムとしては、ナイロンフィルム(ナイロン66フィルムなど)、ポリエステルフィルム〔ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなど〕などが挙げられる。樹脂フィルムの厚みは、20~100μmであることが好ましい。
なお、シート状外装体の封止は、シート状外装体の上側の樹脂フィルムの端部と下側の樹脂フィルムの端部との熱融着によって行うことが一般的であるが、この熱融着をより容易にする目的で、前記例示の樹脂フィルムに熱融着樹脂層を積層してシート状外装体に用いてもよい。熱融着樹脂層を構成する熱融着樹脂としては、変性ポリオレフィンフィルム(変性ポリオレフィンアイオノマーフィルムなど)、ポリプロピレンおよびその共重合体などが挙げられる。熱融着樹脂層の厚みが20~100μmであることが好ましい。
また、樹脂フィルムには金属層を積層してもよい。金属層は、アルミニウムフィルム(アルミニウム箔。アルミニウム合金箔を含む。)、ステンレス鋼フィルム(ステンレス鋼箔。)などにより構成することができる。金属層の厚みが10~150μmであることが好ましい。
また、シート状外装体を構成する樹脂フィルムは、前記の熱融着樹脂層と前記の金属層とが積層された構成のフィルムであってもよい。
シート状外装体の形状は、平面視で多角形(三角形、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形)であってもよく、平面視で円形や楕円形であってもよい。なお、平面視で多角形のシート状外装体の場合、正極および負極の端子部は、図1に示すように同一辺から外部へ引き出してもよく、それぞれを異なる辺から外部へ引き出しても構わない。
また、図5に、シート状空気電池の他の例を模式的に表す平面図を示している。シート状空気電池における正極の端子部および負極の端子部は、電池が適用される機器などと電気的に接続できるように、シート状外装体から露出している箇所があればよく、図5に示すように、シート状外装体60の一部(熱融着部の一部)に孔を形成し、その孔によって正極20の端子部20bおよび負極30の端子部30bを露出させても構わない。シート状外装体の一部に孔を形成して正極および負極の端子部を露出させる形態とした場合には、シート状外装体に保護されて各端子部の破損が抑制されるため、比較的強度が小さい多孔性カーボンシートや金属箔を用いて正極や負極を形成しても、シート状空気電池の取り扱い性を高めることが可能となる。また、前記孔の代わりにシート状外装体の一部に切り欠きを設け、そこで正極20の端子部20bおよび負極30の端子部30bを露出させてもよい。
シート状空気電池には、図2に示すように、通常、正極と外装体との間に撥水膜を配するが、その撥水膜には、撥水性がある一方で空気を透過できる膜が使用される。このような撥水膜の具体例としては、PTFEなどのフッ素樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン;などの樹脂で構成された膜などが挙げられる。撥水膜の厚みは、50~250μmであることが好ましい。
また、外装体と撥水膜との間に、外装体内に取り込んだ空気を正極に供給するための空気拡散膜を配置してもよい。空気拡散膜には、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ナイロンなどの樹脂で構成された不織布を用いることができる。空気拡散膜の厚みは、100~250μmであることが好ましい。
シート状空気電池の厚み(図2中aの長さ)については特に制限はなく、シート状空気電池の用途に応じて適宜変更できる。なお、シート状空気電池は薄型にできることがその利点の一つであり、かかる観点からは、その厚みは、例えば1mm以下であることが好ましい。
また、シート状空気電池の厚みの下限値についても特に制限はないが、一定の容量を確保するために、通常は、0.2mm以上とすることが好ましい。
本発明のシート状空気電池は、例えば以下のようにして組み立てることができる。図6は、シート状空気電池の組み立て方法の一例を説明するものであり、シート状空気電池の各構成要素の配置(積層順序)を表している。
多孔性導電基材(多孔性カーボンシート)を図3に示す形状に打ち抜き、本体部と端子部とを有する正極20を作製する。同様に、金属箔(亜鉛合金箔)を図4に示す形状に打ち抜き、本体部と端子部とを有する負極30を作製する。また、セパレータ40(グラフトフィルムと半透膜との積層体)および撥水膜50(PTFE膜)は、あらかじめ所定の形状に打ち抜いておき、樹脂フィルム(アルミニウムラミネートフィルム)も所定の形状に打ち抜いて2枚のシート状外装体を作製する。
作製したシート状外装体のうち、正極側に配置される外装体60a(正極用外装体)には、正極20の本体部と対応する位置に空気孔61を形成し、更にその内面側に、ホットメルト樹脂を用いて前記撥水膜を熱溶着させる。また、負極側に配置される外装体60b(負極用外装体)には、端子部が配置された部分の熱溶着部の封止性を高めるため、前記端子部が位置する辺と平行に、ホットメルト樹脂70(変性ポリオレフィンアイオノマーフィルムなど)を取り付けておく。
次に、前記正極側に配置される外装体60aの撥水膜50の上に、前記正極20、前記セパレータ40および前記負極30を順に積層し、更に負極側に配置される外装体60bを、前記ホットメルト樹脂70が前記端子部の上に配置されるようにして重ね、2枚の外装体の周囲3辺を互いに熱溶着して袋状にし、その開口部から電解質を注入した後、前記開口部を熱溶着して封止し、シート状空気電池を作製する。
なお、本発明のシート状空気電池では、負極の両側に正極を配置する構成とすることも可能であり、その場合は、2枚のシート状外装体は、どちらも正極に面することになるので、正極用外装体を2枚用意することになる。また、1枚のシート状外装体を折り返すことにより、一方の側を正極用外装体とし、もう一方の側を負極用外装体としてもよい。
本発明のシート状空気電池は、身体に装着可能なパッチ、特に、皮膚の表面に装着し、体温、脈拍、発汗量など身体の状況に関する測定を行うためのパッチなど、医療・健康用途の機器の電源として好適であり、また、従来から知られている空気電池が採用されている用途と同じ用途にも適用することができる。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
(実施例1)
<正極>
DBP吸油量495cm3/100g、比表面積1270m2/gのカーボン(ケッチェンブラックEC600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社)):30質量部と、アクリル系分散剤:15質量部と、SBR:60質量部と、水:500質量部とを混合して触媒含有層形成用組成物を作製した。
多孔性導電基材として多孔性のカーボンペーパー〔厚み:0.25mm、空孔率:75%、透気度(ガーレー):70秒/100ml〕を用い、前記触媒含有層形成用組成物を、乾燥後の塗布量が10mg/cm2となるよう前記基材の表面にストライプ塗布し、乾燥することにより、触媒含有層が形成された部分と形成されていない部分とを有する多孔性導電基材を得た。この多孔性導電基材を、触媒含有層が形成された15mm×15mmの大きさの本体部と、触媒含有層が形成されていない5mm×15mmの大きさの端子部とを有する形状に打ち抜いて、全体の厚みが0.27mmの正極(空気極)を作製した。
<負極>
添加元素としてIn:0.05%、Bi:0.04%およびAl:0.001%含有する亜鉛合金箔(厚み:0.05mm)を、15mm×15mmの大きさの本体部と、5mm×15mmの大きさの端子部とを有する形状に打ち抜いて、理論容量が約65mAhの負極を作製した。
<電解液>
電解液には、3.9mol/lの濃度の塩化アンモニウム水溶液(pH=4.3)を用いた。
<セパレータ>
セパレータには、ポリエチレン主鎖にアクリル酸をグラフト共重合させた構造を有するグラフト共重合体で構成された2枚のグラフトフィルム(1枚当たりの厚み:15μm)を、セロハンフィルム(厚み:20μm)の両側に配置したもの(全体の厚み:50μm)を用いた。
<撥水膜>
撥水膜には、厚みが200μmの多孔性のPTFE製シートを用いた。
<シート状外装体>
アルミニウム箔の外面にPETフィルムを有し、内面に熱融着樹脂層としてポリプロピレンフィルムを有する25mm×25mmの大きさのアルミラミネートフィルム(厚み:65μm)を2枚用いてシート状外装体とした。
一方の外装体には、あらかじめ直径0.5mmの空気孔9個を縦4.5mm×横4.5mmの等間隔(空気孔同士の中心間距離は5mm)で規則的に形成し、更に、その内面側となる方に、ホットメルト樹脂を用いて前記撥水膜を熱溶着しておいた。また、もう一方の外装体には、正極および負極の端子部が配置される部分に、外装体の辺と平行に、変性ポリオレフィンアイオノマーフィルムを取り付けておいた。
<電池の組み立て>
撥水膜を有するシート状外装体を下にして、その外装体の前記撥水膜の上に、前記正極、前記セパレータおよび前記負極を順に積層し、更に、もう1枚の外装体を、前記正極および前記負極の端子部の上に前記変性ポリオレフィンアイオノマーフィルムが位置するようにして重ねた。次に、2枚の外装体の周囲3辺を互いに熱溶着して袋状にし、更にその開口部から前記電解液0.1mlを注入した後、前記開口部を熱溶着して封止し、シート状空気電池を作製した。
(比較例1)
<正極>
実施例1で用いたカーボン:75質量部と、PTFE:25質量部と、水とを混合し、ロール圧延して触媒含有層形成用のシートを作製した。次に、このシートを、SUS304製で700メッシュの金属網(線径:0.1mm、厚み:0.25mm)よりなる集電体に圧着させてから乾燥し、触媒含有層の大きさが15mm×15mmとなり、一端に集電体の露出部を有する形状に打ち抜いた。さらに、前記集電体の露出部に5mm×15mmの大きさのニッケルのリード線を溶接して端子部とし、全体の厚みが0.3mmの正極(空気極)を作製した。
<負極>
添加元素としてIn:500ppm、Bi:400ppmおよびAl:10ppmを含有する亜鉛合金粒子をカルボキシメチルセルロースの水溶液に分散させて負極用のペーストを作製した。次に、一端を圧縮して導電タブを形成したニッケル製の発泡基材(集電体)の空孔内に、前記ペーストを充填して乾燥させ、軽くプレスした後に、ペーストが充填された部分(負極合剤層)が15mm×15mmの大きさとなるよう切断した。さらに、前記導電タブに5mm×15mmの大きさのニッケルのリード線を溶接して端子部とし、前記亜鉛合金粒子を80mg含有する、理論容量が約65mAhの負極を作製した。
<電池の組み立て>
前記正極と前記負極を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシート状空気電池を作製した。
実施例1および比較例1のシート状空気電池について、組み立て後に大気中で10分間放置してから、電池の開路電圧を測定した。更に、3.9kΩの放電抵抗を接続し、電池電圧が0.5Vに低下するまでの放電容量を測定した。それらの測定結果を表1に示す。
従来のシート状空気電池に比べて簡易な方法で作製することのできる本発明のシート状空気電池は、生産性に優れており、一方、表1に示しているように、従来のシート状空気電池と同様に、優れた特性を得ることができる。