以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
はじめに図1を参照して、実施形態に係る位置推定システム概要について、比較例とともに説明する。
図1の(a)は、比較例に係る位置推定システム1eの概略構成を示す。比較例に係る位置推定システム1eは、発信器2と、端末20eとを含む。発信器2は、ビーコン信号等の発信信号を発信する。端末20eは、ユーザUが携帯するスマートフォン等の移動体通信端末であり、発信器2からの発信信号を受信する。端末20eは、受信した発信信号の信号強度(受信強度)から、発信器2と端末20eとの間の距離Leを推定する。この場合、発信器2を基準として、端末20eが発信器2から距離Leだけ離れた位置にあることは推定できるが、発信器2と端末20eとの間の角度は推定できない。そのため、比較例に係る位置推定システム1eでは、たとえば発信器2を基準とした二次元座標における端末20eの位置を推定することができない。
図1の(b)は、実施形態に係る位置推定システム1の概略構成を示す。実施形態に係る位置推定システム1は、生成装置10と、端末20とを含む。生成装置10は、フィールドを生成する。ここで、「フィールド」は、電磁場、超音波場等を含む意味で用いている。詳細については後に図2以降を参照して説明するが、生成装置10によって生成されるフィールドは、周期的に変動する。端末20は、周期変動を伴うフィールドを検出することによって、生成装置10と端末20との間の距離Lおよび角度αを推定することができる。距離Lおよび角度αは、生成装置10および端末20を平面視した場合に生成装置10の位置を原点とする二次元極座標における端末20の距離および角度である。このように、実施形態に係る位置推定システム1は、比較例に係る位置推定システム1eと比較して、生成装置10と端末20との間の距離Lおよび角度αの両方が推定される点において相違する。
図2は、位置推定システム1(図1)に含まれる生成装置10および端末20のブロック図の例を示す。まず、生成装置10について説明する。生成装置10は、発生要素11と、駆動部12と、タイマー13と、送信部14とを含む。
発生要素11は、上述のフィールドを発生する要素(フィールド発生要素)である。発生要素11は指向性を有している。つまり、発生要素11が静止しているときに発生するフィールドの大きさは、発生要素11から見た方向によって異なる。発生要素11の指向性は、特定の方向においてフィールドの大きさが最も大きくなるように設計されてよい。
発生要素11は、電磁場を発生させる電磁場発生源または超音波場を発生させる超音波発生源であってよい。発生要素11が電磁場発生源である場合、発生要素11として、永久磁石もしくは電磁石等の磁石が用いられてよい。磁石は、特定の方向に大きな磁場を発生させることが可能な指向性を有し得る。それ以外にも、発生要素11としてアンテナもしくはレーザが用いられてよい。アンテナおよびレーザは、特定の方向に大きな電磁場を発生させることが可能な指向性を有し得る。発生要素11が超音波発生源である場合、発生要素11として、種々の公知の超音波素子が用いられてよい。超音波素子は、特定の方向に大きな超音波場を発生させることが可能な指向性を有し得る。
駆動部12は、発生要素11を回転させる部分である。発生要素11の回転は、周期的な回転運動であってよい。ここでいう周期的な回転運動は、定められた一つの周期で回転するという等速度回転運動だけでなく、複数の異なる周期での等速度回転を含む回転運動(以下では便宜上「不等速度回転運動」という)も含む。不等速度回転運動については、後に図9等を参照して改めて説明する。以下では、とくに明示が無い限り、周期的な回転運動として、等速度回転運動を例に挙げて説明する。たとえば発生要素11がモータに取り付けられており、駆動部12は、当該モータを駆動することによって発生要素11を回転させる。駆動部12は、発生要素11の運動を制御することが可能であり、発生要素11の回転に関する情報(回転情報)を把握している。回転情報の例は、発生要素11の回転速度、回転角度等である。回転速度は、角速度、周波数、周期などで表されてよい。回転角度は、所定の方位(たとえば地図上の東西南北のいずれかの方位)を基準角度(0度)とする角度(方位角)であってよい。これにより、発生要素11の回転角度と、実際の方位とが対応づけられる。ここで、駆動部12は、後述のタイマー13によって示される時刻を参照することによって、各時刻における発生要素11の回転速度、回転角度等を把握することができる。したがって、各時刻における回転速度、回転角度等(いわば発生要素11の回転の履歴情報)を回転情報とすることもできる。そのような回転情報は、生成装置10内の記憶装置(不図示)に記憶され得る。
タイマー13は、時刻を保持している。タイマー13の分解能は、たとえば、発生要素11の回転周期よりも十分に短い時間(たとえば数十分の一、数百分の一あるいはそれよりも短い時間)であってよい。ここで、タイマー13は、後述の端末20に含まれるタイマー23と同期している。同期の手法はとくに限定されないが、たとえば生成装置10および端末20が外部サーバ(不図示)から共通の時刻情報もしくは同期信号等を受信することによって行われてもよいし、生成装置10と端末20との間の通信を用いて行われてもよい。
送信部14は、上述の回転情報を端末20に送信する部分である。送信信号として、近距離無線信号が用いられてよい。送信信号のプロトコル、変調方式等は特に限定されないが、Bluetooth(登録商標)、Wi-Fi(登録商標)等に準拠した信号を用いることができる。発生要素11は、上述の回転情報に基づくアドバタイジング用パケットを生成し、生成したアドバタイジング用パケットを送信(発信)する。
次に、端末20について説明する。端末20は、センサ21と、受信部22と、タイマー23と、推定部24とを含む。
センサ21は、発生要素11によって発生したフィールドを検出する検出部である。センサ21は、発生要素11の回転周期よりも十分に短い時間間隔(たとえば数十分の一、数百分の一あるいはそれよりも短い時間間隔)で、フィールドの大きさを検出可能に構成される。発生要素11が磁石の場合、センサ21として、磁気センサが用いられてよい。磁気センサは、磁場の大きさを検出可能な公知の磁気センサであってよい。磁気センサは、磁場の方向も検出可能なセンサであってもよい。発生要素11がアンテナの場合、センサ21として、発生要素11からの電磁波を受信するように構成されたアンテナ装置が用いられてよい。アンテナ装置は、受信した電磁波の大きさを検出可能に構成される。発生要素11がレーザの場合、センサ21として、発生要素11からのレーザ光を受光するように構成された受光装置が用いられてよい。受光装置は、受光したレーザ光の大きさを検出可能に構成される。発生要素11が超音波素子の場合、センサ21として、発生要素11からの超音波を受音できるように構成された受音装置が用いられてよい。受音装置は、受音した超音波の大きさを検出可能に構成される。
受信部22は、生成装置10の送信部14から送信される上述の回転情報を受信する部分である。送信部14が、回転情報に基づいて生成されたアドバタイジング用パケットを送信(発信)する場合、受信部22はそのアドバタイジング用パケットを受信する。
タイマー23は、タイマー13と同期された時刻を保持している。タイマー23は、タイマー13と同様の分解能を有してよい。
推定部24は、生成装置10の位置を基準とした端末20の位置を推定するための部分である。そのために、推定部24は、センサ21が検出したフィールドと、受信部22が受信した回転情報とに基づいて、生成装置10の発生要素11と、端末20のセンサ21との間の距離および角度を推定する。発生要素11とセンサ21との間の距離および角度は、生成装置10と端末20との間の距離Lおよび角度α(図1)とほぼ同じであるから、推定部24は、推定した発生要素11とセンサ21との間の距離および角度を、生成装置10と端末20との間の距離Lおよび角度αとして推定することができる。これら距離Lおよび角度αを推定することによって、生成装置10からの距離Lおよび角度αによって定められる端末20の位置が推定されることになる。
具体的に、推定部24による推定には、センサ21が検出したフィールドの大きさおよび検出時刻と、受信部22が受信した回転情報に示される少なくとも一つの時刻および当該時刻における発生要素11の回転角度とが用いられる。センサ21の検出時刻は、タイマー23によって示される時刻であり、回転情報に示される時刻(生成装置10のタイマー13によって示される時刻)と同期している。それらの情報を用いた推定部24による推定手法について、次に図3~図6を参照して説明する。
図3は、発生要素を平面視した図である。この例では、発生要素は棒状の磁石11aである。磁石11aにおいて、磁石11aの延在方向の一端側の部分がN極に相当し、他端側の部分がS極に相当する。磁石11aは、角速度ωで回転しているものとする。時刻をtとすると、磁石11aの回転角度はωtである。図3には、磁石11aの位置を原点とする平面座標(x、y)および極座標(r、θ)の二つの二次元座標系が示される。角度θは、方位角に相当し得る。平面座標(x、y)のx軸正負方向およびy軸正負方向は、たとえば地図上の各方向(東西南北等)に対応するように定められてよい。なお、図3に示される種々のパラメータは、たとえば非特許文献1で説明されているような三次元座標系において示される各パラメータのうち、Z軸方向の変化を考慮しない場合に用いるパラメータに相当し得る。図中、原点からの距離がrで、かつ、磁石11aのS極側からN極側に向かう方向に位置する点(r、ωt)において、磁石11aによって発生する磁場のr方向(同径方向)の成分がH
r´として表され、θ方向(同径方向に直交する方向)の成分がH
T´として表される。また、図中、極座標で表される任意の点(r、θ)における磁場のr方向の成分がH
rとして表され、θ方向の成分がH
Tとして表される。この場合、極座標系で表される任意の点(r、θ)における磁場の回転が、H
r=Hr´cosφ、H
T=H
T´sinφとして表される。ただし、φ=θ-ωtである。このとき、XY座標系における磁場の各成分は、以下の式(1-1)~(1-3)で表される。
この場合、磁場のノルムHは、以下の式(2)で表される。
上記の式(2)においては、θ=ωtまたはθ=ωt+πのときに、磁場のノルムHが最大値となる。つまり、磁石11aの回転角度ωtと、磁場の大きさとの間には、関連性が存在し得る。この原理を、本実施形態に係る位置推定システム1に当てはめて説明する。
図4は、磁石11aによって発生したフィールドFに、端末20が位置している様子を示す。以下では、フィールドFが磁場であるものとして説明する。磁石11aが棒状の磁石であるので、磁石11aによって発生する磁場は、磁石11aの延在方向の位置で最も大きくなる。端末20のセンサ21(図2)が検出する磁場の大きさは、長径を磁場H
rとし、短径を磁場H
Tとする楕円を角度θだけ回転させた、以下の式(3)で表される。
上記の式(3)においては、θ=ωtまたはθ=ωt+πのときにセンサ21によって検出される磁場の大きさが最大となる。なお、θ=ωt+π/2またはθ=ωt+3π/2のときに、検出される磁場の大きさは最小となる。
センサ21によって検出される磁場の大きさが最大となるタイミングは、図4に示されるように、端末20が、磁石11aの延在方向に位置している時刻である。
図5は、磁石11aの回転角度ωtと、センサ21によって検出される磁場の大きさが最大となる位置との関係を概念的に示す図である。磁石11aの回転角度ωtが変化すると、磁場の大きさが最大となる位置も移動する。この例では、磁石11aの回転方向に沿って、磁場の大きさが最大となる位置も、座標(r、θ1)、(r、θ2)、(r、θ3)の順に変化している。この場合、センサ21が同じ位置にとどまるのであれば、磁石11aが一回転する間の或るタイミングにおいて、センサ21が検出する磁場の大きさが最大となる。
たとえば、センサ21が座標(r、θ1)に位置しているのであれば、磁石11aの回転角度ωtがθ1に等しくなるタイミングにおいて、センサ21が検出する磁場の大きさが最大となる。逆に言うと、センサ21が検出する磁場の大きさが最大となる時刻における磁石11aの回転角度ωtが、磁石11aとセンサ21との間の角度θ1を示す。センサ21が(r、θ2)に位置しているのであれば、磁石11aの回転角度ωtがθ2に等しくなるタイミングにおいて、センサ21が検出する磁場の大きさが最大となる。逆に言うと、センサ21が検出する磁場の大きさが最大となる時刻における磁石11aの回転角度ωtが、磁石11aとセンサ21との間の角度θ2を示す。センサ21が座標(r、θ3)に位置しているのであれば、磁石11aの回転角度ωtがθ3に等しくなるタイミングにおいて、センサ21が検出する磁場の大きさが最大となる。逆に言うと、センサ21が検出する磁場の大きさが最大となる時刻における磁石11aの回転角度ωtが、磁石11aとセンサ21との間の角度θ3を示す。このように、センサ21が検出する磁場が最大となる時刻における磁石11aの回転角度ωtから、磁石11aとセンサ21との間の角度を推定することができる。
再び図2に戻り、先に説明したように、端末20の受信部22が受信した回転情報には、各時刻tにおける磁石11aの回転速度、回転角度等が含まれる。回転速度(たとえば角速度ω)から、磁石11aが一回転する期間(回転周期)が分かるので、推定部24は、回転周期中にセンサ21によって検出される磁場の大きさが最大となる時刻と同じ時刻(あるいは最も近い時刻)における磁石11aの回転角度を、回転情報から抽出する。推定部24は、抽出した回転角度を、磁石11aとセンサ21との間の角度として推定する。これにより、生成装置10と端末20との間の角度αも推定される。
なお、先に図3および図4を参照して説明したように、磁場の大きさ(強度)が対称な棒状の磁石11aが一回転する間に、センサ21によって検出される磁場の大きさの極大値が二つ存在し得る。二つの極大値が同じ大きさの場合には、回転周期中にセンサ21によって検出される磁場の大きさが最大となる時刻も2つ存在する。この場合、発生要素11とセンサ21との間の角度として、180度異なる二つの角度が推定されることになるので、このうちのいずれの角度が発生要素11とセンサ21との角度の推定値を示す正解値であるのかを判断する必要が生じる。これを解決する手法の例を、次に図6~図11を参照して説明する。
図6に示される例では、磁石11aの近くに壁Wが設けられる。この場合、磁石11aから壁Wの方向には端末20のセンサ21は位置し得ないので、推定された二つの角度のうち、センサ21が磁石11aから壁Wの方向に位置することを示す角度を除外し、残りの角度を正解値として採用するとよい。
図7に示される例では、発生要素11として、磁場の大きさ(強度)が非対称な磁石が用いられる。強度が被対称な磁石の例は、一方の極を構成する部分の面積の方が、他方の極を構成する部分の面積よりも小さくなるような形状を有する磁石である。一方の極の側における磁束密度が他方の極の側における磁束密度すなわち磁場が大きくなるので、両極における磁場の大きさが異なる(被対称となる)。図7に示される磁石11bでは、N極を構成する部分は、棒形状を有している。これに対し、S極を構成する部分は、N極を構成する部分から離れるにつれて広がる扇形状を有している。磁石11bは、平面視したときに全体として円形形状を有していてもよい。この場合、N極の部分およびS極の部分は磁性材料で構成され、残りの部分はたとえばプラスチック等の絶縁体Dで構成される。なお、磁石11bは、絶縁体Dを有さない構成とすることもできる。図8は、図7に示される磁石11bを等速度で回転させた場合に端末20のセンサ21が検出する磁場の大きさの例を示す。グラフの横軸は時刻を示し、縦軸は磁界強度を示す。グラフ中、磁石11bの回転周期が、周期Tとして示される。時刻t1および時刻t2において磁界強度が極大値を示すが、上述の磁石11bの非対称性により、時刻t1における極大値の方が、時刻t2における極大値よりもΔHだけ大きくなっている。このように極値の強度差を発生させることによって、磁石11bの回転周期中にセンサ21によって検出される磁場の大きさが最大となる時刻(端末20の方位角)を一意に特定することができる。
図9に示される例では、駆動部12が、磁石を対象として、不等速度回転をさせる。たとえば、磁石が一回転する間に、磁石の回転速度が2種類以上の異なる回転速度に切り替えられる。この場合、磁場の大きさが対称な磁石が用いられてよいので、図9には、先に説明した棒形状を有する磁石11aが示される。この例では、磁石11aの回転角度が0以上π未満(前半の半回転)の間、磁石11aは、比較的大きな回転速度(たとえば周波数が3Hzの短波長)で回転する。磁石11aの回転角度がπ以上2π未満(後半の半回転)の間、磁石11aは、比較的小さな回転速度(たとえば周波数が1Hzの長波長)で回転する。図10は、図9に示されるように磁石11aを不等速度回転させた場合に端末20のセンサ21が検出する磁場の大きさの例を示す。グラフの横軸は時刻を示し、縦軸は磁界強度を示す。グラフ中、磁石11bの回転周期が、周期Tとして図示される。周期Tのうち、前半の半回転は転速度が比較的大きく、波形は短波長を有する。周期Tのうち、後半の半回転は回転速度が比較的小さく、波形は長波長を有する。時刻t11および時刻t12において磁界強度が最大値(ピーク)を示すが、磁石11bの不等速度回転により、時刻t11付近の波形と、時刻t12付近の波形とが異なる。この場合、磁界強度がピークになる一方の時刻t11とその直前または直後に磁界強度がゼロになる時刻との間の時間Δt1の方が、磁界強度がピークになる他方の時刻t12とその直前または直後に磁界強度がゼロになる時刻との間の時間Δt2よりも短い。たとえば、短い方の時間Δt1に対応するピーク(つまり時刻t11)が、磁石11aのN極側およびS極側のいずれに対応するのかということをシステムにおいて予め設定しておけば、時刻t11においてセンサ21が磁石11aに対してどの方向に位置しているのかを推定できる。このように波長差を発生させることによって、端末20の方位角を一意に特定することもできる。
図11に示される例では、磁石11aが一回転するごとに回転速度が切り替えられる。この例では、磁石11aは、初めの一回転は回転速度が比較的大きく、波形の波長は短波長である。次の一回転は回転速度が比較的小さく、波形の波長は長波長である。その次の一回転は回転速度が再び大きくなり、波形の波長は短波長となる。時刻t21および時刻t23は、長波長から短波長に切り替わった直後のピークである。時刻t22は、短波長から長波長に切り替わった直後のピークである。たとえば、回転速度が短波長から長波長(あるいは長波長から短波長)に切り替わった直後のピークが、磁石11aのN極側の角度およびS極側の角度のいずれに対応するのかということをシステムにおいて予め設定しておけば、その時刻においてセンサ21が磁石11aに対してどの方向に位置しているのかを推定できる。このようにして端末20の方位角を一意に特定することもできる。なお、図11に示される例では磁石11aが一回転するごとに回転速度が切り替わるようになっているが、磁石11aが2回以上回転するごとに回転速度が切り替わるようにしてもよい。このような手法は、先に図9および図10を参照して説明したように一回転中に磁石11aの回転周期を切り替えることが困難な場合に有用である。とくに、磁石11aを高速回転させる場合には、慣性モーメントが存在する等の理由により、磁石11aの回転周期を細かく切り替えることが困難になることがあるからである。
以上の説明は、発生要素11が磁石11aである場合の発生要素11とセンサ21との間の角度を推定する手法であったが、発生要素11が、先に説明したような指向性を有するアンテナ、レーザ、超音波発生源の場合も、同様の原理により、発生要素11とセンサ21との間の角度を推定することができる。
再び図2に戻り、推定部24は、発生要素11とセンサ21との間の距離も推定する。距離の推定は、センサ21が検出したフィールドの大きさに基づいて行われる。検出したフィールドの大きさから距離を推定する手法は特に限定されない。たとえば、検出したフィールドの大きさと距離とを対応づけた関数もしくはテーブルが予め作成されており、端末20内の記憶装置(不図示)に記憶されていてよい。推定部24は、そのような関数もしくはテーブルを参照することによって、センサ21が検出したフィールドの大きさに基づいて、発生要素11とセンサ21との間の距離を推定することができる。
ここで、位置推定システム1では、発生要素11が回転している。そのため、上述の距離の推定に用いられるフィールドの大きさは、センサ21が検出した複数のフィールドの大きさに基づいて定められる値であってよい。そのような値として、たとえば、発生要素11の回転周期にわたってセンサ21が検出した複数のフィールドの大きさの平均値を用いてよい。複数の回転周期にわたる平均値を用いてもよい。
以上説明した手法を用いて、推定部24は、発生要素11とセンサ21との間の角度および距離を推定する。先に説明したように、発生要素11とセンサ21との間の角度および距離を推定することによって、生成装置10と端末20との間の距離Lおよび角度α(図1)が推定される。これにより、推定部24は、生成装置10からの距離Lおよび角度αによって定められる端末20の位置を推定することができる。たとえば、生成装置10の実際の位置(地図上の座標等)が分かっているのであれば、端末20の実際の位置も推定できるようになる。
以上では、XY平面における発生要素11の回転を利用して、推定部24が、XY平面における発生要素11とセンサ21との間の角度を推定する例について説明した。ただし、推定部24は、同じくXY平面における発生要素11の回転を利用して、XY平面と交差する平面(たとえばXZ平面)における発生要素11とセンサ21との間の角度を推定することもできる。以下では、発生要素11が磁石11aである場合について説明する。
図12に示されるXZ平面において、磁石11aの位置を原点とするセンサ21の位置が、XZ平面における極座標(r、ψ)で表される。平面座標(x、z)のz軸正方向は、たとえば鉛直上方向に対応するように定められる。つまり、先に説明した角度θ(図3等)が方位角に相当し得るのに対し、角度ψは仰角に相当し得る。図12に示される極座標(r、ψ)は、三次元極座標(r、θ、ψ)においてθ=0の条件のもとでの座標である。この三次元座標は、たとえば非特許文献1で説明されているような三次元座標と同じであってよい。図中、距離rにおける磁場のr方向の成分がHrとして表され、ψ方向の成分がHTとして表される。
図13は、磁石11aによって発生する磁場を、磁力線を用いて概念的に表す図である。図13に示されるように、角度ψが0~π/2に近づくにつれて、磁力線の接線方向とXY平面との成す角度は0~πに変化する。角度ψが増加するにつれて、磁場のXY平面方向の成分は、大きさが徐々に減少し、ある時点で0になり、その後さらに減少(逆方向に増加)していくものと予想される。
図14は、磁石11aによって発生した磁場(フィールドF)を端末20のセンサ21が検出する様子を概念的に示す図である。図14に示されるように、各地点において磁石11aによって発生した磁場ベクトルが生成する楕円がxy平面と成す角度は、角度ψに依存する(ただし距離にも依存し得る)。角度ψ=±π/2の地点では、同じ磁気ベクトルが回転するだけなので楕円が円形になると予測される。また、いずれかの角度では楕円の短径が真横を向く瞬間があると予測される。
以上を踏まえ、次のような方針に沿って、磁石11aによって発生した磁場から角度ψを推定する手法について検討する。まず、磁場の対称性から、θ=0の場合のみを考える。方位角(角度θ)の推定は先に図3~図6を参照して説明したように磁場のノルムの情報に基づいて行うことができるのに対し、仰角(角度ψ)の推定は、磁場のx軸方向成分、y軸方向成分およびz軸方向成分のそれぞれの情報を必要とする。最終的に角度ψを推定するための計算式には、HrおよびHTが含まれない(つまりセンサ21の値のみから角度ψが推定できる)ことが望ましい。なお、磁石11aの座標系と端末20の座標系とが異なる場合には座標変換が必要になるが、まずは、両座標系が一致している場合で検討する。
H
z、H
y、H
zは、以下の式(4-1)~(4-3)で表される。
上記の式(4-1)~(4-3)において、H
xとH
zにωt=0を代入し、H
yにωt=π/2を代入すると、以下の式(5-1)~(5-3)になる。
上記の式(5-1)~(5-3)からH
rおよびH
Tを消去すると、角度ψは、以下の式(6)から求めることができる。なお、式(6)において、H
x(ωt=0)はωt=0のときのH
xであり、H
y(ωt=π/2)はωt=π/2のときのH
yであり、H
z(ωt=0)はωt=0のときのH
zである。
上記の式(6)から角度ψを求める場合、まず、磁石11aが一回転する間に磁場が極大値、極小値を2回ずつ取るため、求まるcosψが二つ出てくることに留意すべきである。この問題は、たとえば先に図6を参照して説明したような、磁石11aの近くに壁Wを設けるといった手法を用いることで解決される。
次に、cosψから求まる角度ψの値も二つ(±ψ)存在することに留意すべきである。角度ψが正負いずれの値となるかは、Hzの符号から特定することができる。たとえば図15に示されるように、磁石11aのN極側ではHzの符号がψの符号に対応しており、S極側では逆の関係になっている。
なお、角度ψが±(π/2)の場合には上記の式(6)を用いることができないが、これについてはたとえば後述の式(7)を用いることによって解決される。
以上の原理を位置推定システム1に当てはめて説明すると、端末20の推定部24は、まず、発生要素11が一回転する間にセンサ21によって検出された磁場のノルムが極大値の時刻のHx,Hzおよびノルムが極小値の時刻のHyの値を取得する。この場合のセンサ21は、Hx、HyおよびHzが検出可能なセンサ(たとえば3軸センサ)である。次に、推定部24は、上記の式(6)を用いてcosψを求める、cosψから角度ψをさらに求める。このとき、推定部24は、Hzが正の場合には+ψを採用し、Hzが負の場合には-ψを採用する。このようにして、推定部24による角度ψの推定が行われる。
推定部24が、発生要素11とセンサ21との間の距離(距離r)、方位角(角度θ)の推定だけでなく、仰角(角度ψ)の推定をさらに行う場合には、発生要素11の位置を基準とした三次元座標での端末20も推定できるようになる。
ここで、θ=0の場合の三次元座標系(r、0、ψ)の位置にあるセンサ21が検出する磁場のノルムは、次の式(7)で表すことができる。
上記の式(7)においても、先に説明した式(3)の場合と同様に、ωt=π/2、3π/2のときに磁場のノルムは最小値となり、ωt=0、πのときに磁場のノルムは最大値となる。ノルムの最小値H
minおよび最大値H
maxは、以下の式(8-1)および式(8-2)で表される。
具体的に、端末20のセンサ21が検出する磁場の大きさは、以下の式(9)で表される。
上記の式(9)から、センサ21の位置(r、0、ψ)における磁場のx軸方向成分、y軸方向成分およびz軸方向成分は、x軸、z軸方向の径が下記の式(10)であり、y軸方向の径がH´
Tの楕円体が、y軸を回転軸としてψだけ回転したものとみなすことができる。
さらに、θ≠0のときは、次の式(11-1)および(11-2)のように変換を行うとよい。
上記の式(11-1)および式(11-2)を上記の式(9)に代入すると、以下の式(12)が得られる。
上記の式(12)が、センサ21の位置(r、θ、ψ)における磁場のx軸方向成分、y軸方向成分およびz軸方向成分の一般的な式である。
以上説明した位置推定システム1では、発生要素11の位置を基準とした生成装置10の位置を推定するため、端末20において、センサ21が検出したフィールドFと、受信部22が受信した発生要素11の回転に関する回転情報とに基づいて、発生要素11とセンサ21との間の距離および角度が推定される。このように発生要素11の回転運動を用いれば、たとえば一つの発生要素11を設置するだけで、その環境内において、生成装置10からの距離Lおよび角度αによって定められる端末20の位置を推定することができる。したがって、たとえばフィンガープリント方式等のように環境内に多くの発信器を設置する手法と比較して、インフラ設置コストを削減することができる。
発生要素11の回転に関する回転情報は、時刻と、発生要素11の回転角度ωtとを含み、推定部24は、センサ21が検出したフィールドFの大きさおよび検出時刻と、受信部22が受信した回転情報に含まれる時刻および回転角度ωtとに基づいて、発生要素11とセンサ21との間の距離および角度を推定してもよい。これにより、時刻と発生要素11の回転角度ωtとを回転情報として生成装置10の送信部14から端末20の受信部22に送信するだけで、端末20の位置を推定することができる。
発生要素11は、電場および磁場の少なくとも一方を発生する電磁場発生源または超音波を発生する超音波発生源であってよい。これにより、電磁場発生源または超音波発生源の回転を利用するというシンプルな手法によって、端末20の位置を推定することができる。
電磁場発生源は、磁場を発生する磁石、または、電磁波を放射するアンテナもしくはレーザであってよい。電磁場発生源が磁石の場合には、電磁場発生源自体もシンプルな構成とすることができる。また、アンテナまたはレーザを用いた場合には電磁波の反射、吸収の影響により推定距離に誤差が生じる可能性もあるが、磁石の場合にはそのような影響がないので、その分、発生要素11とセンサ21との距離の推定精度、ひいては端末20の位置の推定精度の誤差を小さくすることができる。電磁波発生源がアンテナまたはレーザの場合には、たとえばフィールド(この場合は電磁場)の周波数を所望の値に設定して装置の設計の自由度を高めることができるといったメリットがある。
発生要素11が磁石11aの場合には、発生要素11とセンサ21との間の距離(距離r)、方位角(角度θ)および仰角(角度ψ)の推定を行うことができるので、発生要素11の位置を基準とした三次元座標での端末20も推定できるようになる。
なお、上記実施形態では、生成装置10から端末20に送信される回転情報に、発生要素11の回転角度だけでなく回転速度も含まれ、端末20において推定部24が回転情報に含まれる回転速度も利用して上述の推定を行う例について説明した。ただし、回転情報は、回転速度を含んでいなくてもよい。その場合でも、たとえば、位置推定システム1において発生要素11の回転速度を既知の値に設定しておけば、端末20の推定部24は、設定された回転速度を利用して上述の推定を行うことができる。
最後に、図16を参照して、本発明の端末20のハードウェア構成の一例について説明する。端末20は、物理的には、プロセッサ20A、メモリ20B、ストレージ20C、通信モジュール20D、入力装置20E、出力装置20F、バス20Gなどを含むコンピュータ装置として構成されてもよい。端末20の機能ブロック(構成部)は、ハードウェア及び/又はソフトウェアの任意の組み合わせによって実現される。また、各機能ブロックの実現手段は特に限定されない。すなわち、各機能ブロックは、物理的及び/又は論理的に結合した1つの装置により実現されてもよいし、有線及び/又は無線で相互にリンクした物理的及び/又は論理的に分離した2つ以上の装置により実現されてもよい。
なお、以下の説明では、「装置」という文言は、回路、デバイス、ユニットなどに読み替えることができる。端末20のハードウェア構成は、図に示した各装置を1つ又は複数含むように構成されてもよいし、一部の装置を含まずに構成されてもよい。
端末20における各機能は、プロセッサ20A、メモリ20Bなどのハードウェア上に所定のソフトウェア(プログラム)を読み込ませることで、プロセッサ20Aが演算を行い、通信モジュール20Dによる通信、メモリ20B及びストレージ20Cにおけるデータの読み出し及び/又は書き込みを制御することで実現される。
以上、本実施形態について詳細に説明したが、当業者にとっては、本実施形態が本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではないということは明らかである。本実施形態は、特許請求の範囲の記載により定まる本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく修正及び変更態様として実施することができる。したがって、本明細書の記載は、例示説明を目的とするものであり、本実施形態に対して何ら制限的な意味を有するものではない。
なお、本明細書で説明した用語及び/又は本明細書の理解に必要な用語については、同一の又は類似する意味を有する用語と置き換えてもよい。
本明細書で使用する「に基づいて」という記載は、別段に明記されていない限り、「のみに基づいて」を意味しない。言い換えれば、「に基づいて」という記載は、「のみに基づいて」と「に少なくとも基づいて」の両方を意味する。
「含む(include)」、「含んでいる(including)」、およびそれらの変形が、本明細書あるいは特許請求の範囲で使用されている限り、これら用語は、用語「備える(comprising)」と同様に、包括的であることが意図される。さらに、本明細書あるいは特許請求の範囲において使用されている用語「または(or)」は、排他的論理和ではないことが意図される。
本明細書において、文脈または技術的に明らかに1つのみしか存在しない装置である場合以外は、複数の装置をも含むものとする。