〔第1実施形態〕
以下、図1等を参照して、第1実施形態に係る地中レーダー装置について一例を説明する。図1は、本実施形態に係る地中レーダー装置100の構成について説明するためのブロック図である。また、図2(A)は、地中レーダー装置100による探査の様子について概念的に示す側面図であり、図2(B)は、図2(A)に対応する図となっており、図2(A)の動作において位置(深さ)に応じて検出される波形の様子を示すグラフである。
図2(A)に示すように、地中レーダー装置100は、送信信号S1を地表STから地中SOに向けて送信し、自ら送信した送信信号S1が地中SOに埋設された埋設物である探査対象物OBで反射され、当該反射による反射成分を受信信号S2として受け、受け取った時間(時間な長さが深さに対応する)や強度の大きさ等によって、探査対象物OBの位置(深さ)を測定する。また、ここで、地中レーダー装置100での信号受信については、例えば図2(B)のようないわゆるAスコープ波形を取得することになる。つまり、図2(B)に一例を示す受信信号S2のパターンすなわち応答波のパターンに基づいて探査結果が示される。
以下、図1等に戻って、上記のような探査を行うための地中レーダー装置100を構成する各要素について、より具体的に説明することで、地中レーダー装置100の機能や特性について説明する。
図1または図2(A)に示すように、本実施形態に係る地中レーダー装置100は、地中探査用のものであり、信号処理部10と、送信部20と、受信部30と、表示部40とを備える。
信号処理部10は、地中レーダー装置100の各種信号処理を行う主制御装置であり、送信制御部11と、送信用のチャープ信号発生部11aと、相関処理用のチャープ信号発生部11bと、増幅器12と、相関処理部15と、増幅器16と、A/D変換器17と、フィルター処理部である補償用フィルター18とを備える。
送信部20は、信号処理部10からの指令に基づいて地中に向けて、探査用の送信信号S1を送信する(あるいは発信する)ための装置であり、増幅器21と、送信アンテナ22とを備える。
受信部30は、送信部20から地中に向けて発信された送信信号S1の反射成分である応答波を含む受信信号S2を受信するための装置であり、受信アンテナ31と、増幅器32とを備える。
表示部40は、信号処理部10での各種処理を経た受信信号に基づいて、探査結果の表示を行う。
以下、信号処理部10のうち、各種信号発生の各処理を担う部分についてより具体的に説明する。
送信用のチャープ信号発生部11aは、地中に向けて送信する送信信号S1として用いるチャープ信号を発生させ、発生させたチャープ信号を送信部20へ送る。チャープ信号は、例えば50MHz~800MHzの高周波成分でかつある程度の帯域幅を有して形成されている。これにより、分解能を確保しつつ探索深度を深くできる。また、詳しくは後述するように、本実施形態のような構成とすることで、探査に際して、サイドローブの発生等を抑制できるものとなっている。
相関処理用のチャープ信号発生部11bは、地中の埋設物からの反射波を受信した受信信号を相関処理するための参照信号R1として用いるチャープ信号を発生させ、相関処理部15に送る。
信号処理部10のうち、送信制御部11は、2つのチャープ信号発生部11a,11bにタイミング制御信号を送出するタイミング制御部である。送信制御部11からのタイミング制御信号は、チャープ信号発生部11aから発生される送信用のチャープ信号(送信信号S1)に対して、チャープ信号発生部11bから発生される相関処理用のチャープ信号(参照信号R1)をナノセカンド(ns)レベルで少しずつずらしながら発生させる。なお、以上により、相関処理部15において、受信部30からの受信信号S2に対して参照信号R1で相関処理をすることができるようになっている。
上記のほか、図示の例では、チャープ信号発生部11bと相関処理部15との間に、参照信号R1を増幅するためのアンプとして、増幅器12が設けられている。
次に、信号処理部10のうち、信号の受信後の各処理を担う部分についてより具体的に説明する。
信号処理部10のうち、相関処理部15は、例えば、相関器15aと、畳み込み処理部15bとを備え、受信信号S2と参照信号R1との間での相関処理をする。すなわち、相関器15aにおいて、受信部30からの受信信号S2を入力するととともに、チャープ信号発生部11bからの参照信号R1を入力し、入力された情報に関して畳み込み処理部15bにおいて畳み込みの処理が適宜なされることで相関処理され、相関信号を生成する。ここでは、相関処理部15において、各相関処理に応じた波形(例えば図4上段参照)の相関信号が生成されるものとする。
上記のほか、図示の例では、相関処理部15の出力側に、生成された相関信号を増幅するためのアンプとして、増幅器16が設けられている。
また、A/D変換器17は、相関処理部15から出力されるアナログの相関信号を入力してA/D変換して補償用フィルター18へ送る。
補償用フィルター18は、受信部30で受信した受信信号S2を補償するためのフィルター処理を行うもの(すなわちフィルター処理部)であり、特に、補償用フィルター18は、送信部20側から受信部30側への基準伝搬経路を経た基準信号の信号特性に基づき作成されることで、1つ1つの地中レーダー装置100ごとに固有の特性、すなわち回路特性による歪みを反映したものとなっている。回路特性が歪みのある理想的でないものの場合、サイドローブは理論値よりも大きく悪化する。これに対して、本実施形態では、上記のような特徴を有する補償用フィルター18を予め作成しておき、これを探査のための実動作において用いることで、受信部30で受信した実際の受信信号S2に含まれるサイドローブやリンギングといった不要成分の除去や低減すなわち信号の補償を、迅速かつ確実に行える。なお、補償用フィルター18についての作成方法すなわち実装方法についての詳しい一例は、図6を参照して後述する。
なお、送信部20のうち、増幅器21は、送信用のチャープ信号発生部11aで発生させたチャープ信号を増幅するためのアンプであり、送信アンテナ22は、増幅器21で増幅されたチャープ信号を、送信信号S1として装置外部に向けて送信する。
また、受信部30のうち、受信アンテナ31は、外部からの各種信号を受信する。これにより、送信部20から外部へ向けて発信された送信信号S1の反射成分としてのチャープ信号も、受信信号S2の一部として取得されることで、地中レーダー装置100における埋設物の検出のための信号処理が可能となる。なお、増幅器32は、受信アンテナ31から取得された受信信号S2を増幅するためのアンプである。増幅器32を経た受信信号S2は、相関処理部15に送られる。
上記のような信号処理部10での相関処理等の結果、例えば図2(B)のようないわゆるAスコープ波形を取得することになる。ここで、既述のように、図2(B)は、図2(A)に対応している。これについて具体的に説明すると、例えば図2(B)のパターンに示される波形のうち、反射部分P1は、図2(A)の地表STでの反射に対応する成分の波形であり、複数の反射部分P2は、地中SOに埋設された複数の探査対象物OBでの反射に対応する成分の波形である。反射部分P1,P2のようなものが、信号処理部10での相関処理等により波形として抽出される。地中レーダー装置100は、送信信号に対して所定のタイミングで、反射部分P1,P2といった反射成分を受け取り、地表STでの反射成分である反射部分P1を取り除きつつ、反射部分P2を受信するまでの時間の経過を測定することで、目的とする探査対象物(埋設物)OBまでの距離すなわち探査対象物OBの深度を把握する。したがって、図2(B)に示されるような波形の抽出において、ノイズ等を取り除き、できるだけ理想的な状態で応答波に関するデータを抽出することが望まれる。
図3(A)~3(D)は、地中レーダー装置100での探査において、図2(B)に示すようなAスコープ波形を取得していきつつ、これらを可視化した画像表示の一例について概念的に説明するための図である。まず、図3(A)は、地中OSに埋設された探査対象物OBがある様子の一例を示す概念図である。すなわち、ここでは、図2(A)に示したものと同様の一例として、地表STからある程度の深度のところに球状(あるいは筒状)の探査対象物OBが埋まっているものとする。この場合において、地中レーダー装置100での探査の結果が、仮に、理想的なものとなる場合には、図3(B)及び3(C)に示すようなものとなる。すなわち、図3(B)に示す球状(あるいは筒状)の探査対象物OBに対応してこれに沿ったカーブ状の部分画像GDiが検出される。つまり、検査結果の画像としては、図3(C)のように部分画像GDiのみが検出されるものとなり、この結果から、図3(B)あるいは図3(A)に示すような位置に探査対象物OBが埋まっていることを把握できる。しかしながら、実際には、各種不要成分もあわせて検出されるため、例えば図3(D)に示すように、検出すべきカーブ状の部分画像GDiの他にも、線状あるいは層状の部分画像NZiも併せて検出されることになる。また、部分画像GDiについてもシャープな図形とならず、ぼやけた鮮明度の低いものとなる可能性もある。なお、上記のような画像表示を、表示部40において行うことが可能である。
ここで、一般に、本願の場合と同様、地中に向けて電波を発信し反射成分を受信することで探査を行う地中レーダー装置の場合、まず、地中表面における反射成分が存在し、且つ、これが大きな成分として捉えられる(図2(B)の反射部分P1)。この場合において、地中表面における反射成分に含まれるサイドローブやリンギングといった不要成分(ノイズ)が併せて検出されてしまうと、地表近くにある探査対象物たる埋設物についての反射成分が、これらの不要成分と混在した状態となってしまう。特に、地表近くにある探査対象物についての反射信号が振幅の弱いものであると、不要成分によって埋もれてしまう可能性がある。また、例えば複数の埋設物が近接している場合にも、各成分に含まれる不要成分が併せて検出されてしまうことで、抽出すべき成分の適切な分離が妨げられる可能性がある。このような場合、図3(D)に例示したような画像しか得られなくなる可能性がある。
上記のような不要成分であるサイドローブやリンギングの発生要因の1つとして、地中レーダー装置100を構成するために装置内に設けた増幅器(すなわちアンプ)や信号発生器、あるいは相関器等の各部において、固有の特性や、個体差での性能のバラツキ等の回路特性による歪みがあることが考えられる。すなわち、各箇所において、理論上の値(すなわち理想値)と実際に取得される値との間に、差異がある。さらに、受信信号と、参照信号とでは、その経路が異なるため、経路によって上記のような差異の発生具合も異なる。このため、理想的な状態での相関処理が行えるとは限らなくなる。
以上に対して、本実施形態の地中レーダー装置100では、上記のような理想と現実との間でのギャップを加味して、受信した信号を事後的に補償するフィルター処理を補償用フィルター18において行うことで、信号の送受信に際して生じる不要成分を、簡易かつ迅速に低減可能としている。
図4は、現実の場合と理論上の場合とでの信号波形についての一例の様子を概念的に説明するための図である。図中、枠で囲ったものののうち、上段(あるいは上欄)は、現実に抽出される相関信号波形WRについて一例を示すものである。なお、相関信号波形WRは、横軸を時間t、縦軸を強度(振幅)vr(t)とした値となっており、図2(B)に示すAスコープ波形は、各反射成分に対応する相関信号波形の集合体である。本実施形態では、Aスコープ波形として得られた情報について、フーリエ変換等を施すことで不要成分を除去し、各相関信号波形WRに相当するものに関して良好な状態で分離抽出を行うことを目的とする。ただし、以下では、説明を簡易にするため、相関信号波形WRを1つの単位として取り出したものに対する処理として説明する。
上記のような現実に取得されるものの場合、抽出された相関信号波形WRは、不要成分を含んでサイドローブやリンギングを含んだものとなっている。この波形について既存のフーリエ変換の手法を用いることで、例えば、図示においてグラフFRとして示すように、横軸を周波数f、縦軸を強度(振幅)|Vr(f)|とした値が得られる。すなわち、相関信号について時間領域に関するものから、周波数領域による振幅・位相情報に変換したものが得られる。さらに、これに関して位相情報から群遅延を求めると、図示においてグラフGRとして示すように、横軸を周波数f、縦軸を群遅延GD(Vr(f))とした値が得られることになる。この場合、一般的に群遅延は一定にならない。
一方、図中、枠で囲ったもののうち、下段(あるいは下欄)は、理論上すなわち理想上の相関信号波形(以下、理論上の理想相関信号波形とも言う)WIについて一例を示すものである。理想上の相関信号波形WIは、地中レーダー装置100を構成する各部が理想的に動作した場合の波形である。つまり、理想上の相関信号波形は、地中レーダー装置100の設計に従って算定されるものであり、用いる発信信号(ここではチャープ信号)の特性や、採用するアンプ等の各部の規格・仕様等の各種設計値が定まれば、それらの設計上の数値に基づく計算のみで導き出せる波形である。理想上の相関信号波形WIについて、典型的には、図示に例示するように、サイドローブやリンギングを含まずメインローブのみとすることができる。なお、理想上の相関信号波形WIは、横軸を時間t、縦軸を強度(振幅)vi(t)とした値となっている。また、この場合、理想上の相関信号波形WIのフーリエ変換については、図示においてグラフFIとして示すように、横軸を周波数f、縦軸を強度(振幅)Vi(f)とした値が得られることになる。さらに、これに関して位相情報から群遅延を求めると、図示においてグラフGIとして示すように、横軸を周波数f、縦軸を群遅延GD(Vi(f))とした値が得られることになる。この場合、端的に言えば、グラフGIに示される群遅延が一定となっている。すなわち、以上のような理想的なグラフFIやグラフGIの状態では、どんな周波数においても位相が歪まないものとなっている。これを地中レーダー装置100での探査に置き換えると、周波数が異なる全ての信号について、一の埋設物に対して発信されて戻ってくるまでの時間が同じとなる。
しかしながら、図中上段に例示したように、現実には、上記のような理想的なものとはならず、グラフFRやグラフGRに示されるように、周波数によって位相に遅れ等が生じる。例えば、比較的低い周波数側については理想的な状態と大きな差異が無いものの、高い周波数側では、増幅器(アンプ)を構成するコンデンサの特性等が影響して遅れが生じる、といった事態が生じることが一例として考えられる。
以上を踏まえて、本実施形態では、上記のような理想と現実との間でのギャップを事後的に埋めるすなわち現実のデータを理想上のデータに近づけるように個々の装置において発生する特性に応じた調整を行うための補償機能を有する補償用フィルター18を設けている。
図5は、補償用フィルター18での処理内容について説明するためのブロック図である。図5に概念的に例示するように、補償用フィルター18は、相関処理部15から出力された相関信号についてフーリエ変換処理を施すフーリエ変換処理部18aと、フーリエ変換処理部18aでのフーリエ変換処理後の信号に対して、補償用フィルター18に予め格納されたフィルター係数FCを掛け合わせる演算処理部18bと、演算処理部18bで演算処理された信号について逆フーリエ変換処理を施す逆フーリエ変換処理部18cとを備える。
なお、ここでの一例では、実際の処理対象としての相関信号は、離散的なものすなわち数値化されたものとなっている。すなわち、上記態様でのフーリエ変換は、数値処理的に行う高速フーリエ変換によるものであり、演算処理部18bでの演算やその際に用いるフィルター係数FCも数値化されたものである。このため、既述のように、例えば補償用フィルター18の前段にはA/D変換器17が設けられている。
なお、フィルター係数FCは、通常のバンドパスフィルタ―のように、一定範囲の周波数成分について除去する、というような単純な構成になるとは限らず、個々の地中レーダー装置の特性に応じて、或る周波数帯域の成分については低減する一方、他の周波数帯域の成分については増幅させる、といった複雑な構成となる場合もある。フィルター係数FCでの調整により、地中レーダー装置100を構成する増幅器等に起因するサイドローブやリンギングの成分が相殺され、良好な状態で信号抽出ができる。つまり、適用するフィルター係数FCについては、個々の地中レーダー装置100に固有の特性に応じたものとなっており、適切な補償がなされる。
以下、上記のような構成の補償用フィルター18での動作について簡単にまとめる。まず、現実に受信した受信信号についてのA/D変換器17から相関信号が入力されると、これをフーリエ変換処理部18aにおいてフーリエ変換(高速フーリエ変換)する。次に、演算処理部18bにおいて、フィルター係数FCをかけ合わせる演算処理がなされ、さらに、逆フーリエ変換処理部18cにおいて逆フーリエ変換(高速逆フーリエ変換)して、時間領域についての波形に相関信号が戻される。以上により、補償用フィルター18から出力される相関信号波形は、地中レーダー装置100の内部構成に起因する不要成分が低減された良好なものとなる。つまり、探査により得られた探査Aスコープ波形から回路特性による歪みが除去され、理想的なサイドローブ特性を持つ波形で構成された探査結果としてのAスコープデータを得ることができる。
以下、図6を参照して、上記のようなフィルター処理を可能とするための補償用フィルターを有する地中レーダー装置の製造方法の一例について説明する。
図6は、図1に対応する図であり、図1に示す地中レーダー装置100を製造する過程の一段階として、特に、補償用フィルター18の作成(フィルター係数FCの算出)の様子について示すものである。ここでは、図1の場合(完成品)に比べて、送信アンテナ22及び受信アンテナ31の代わりに、これらに相当する箇所、すなわち送信部20の端部Taと受信部30の端部Tbを接続するように、特性が既知である同軸ケーブルCCを設けている。さらに、補償用フィルター18となるべき個所(図1参照)にフィルター作成処理部FPを設けている。なお、フィルター作成処理部FPは、理論上の理想相関信号波形に関するデータを有する入力部(理想相関信号波形の入力部)INに接続されている。また、
表示部40は、フィルター作成処理部FPが補償用フィルター18となった後、適宜取り付けられる。
図6に示す状態の場合、送信側の増幅器21を経た送信信号S1は、外部に送信されず、同軸ケーブルCCを経由して受信側の増幅器32へ向かい、以後、受信信号S2として取り扱われることになる。ここでは、このような経路を辿る信号を、基準信号SSとする。また、基準信号SSが通る経路(あるいは基準信号SSに関与する成分が通る経路)、すなわち、送信用のチャープ信号発生部11aで発生した基準信号SSが、増幅器21、同軸ケーブルCC、増幅器32を経て、相関処理部15においてチャープ信号発生部11bで発生させた参照信号R1と相関処理され、さらに増幅器16及びA/D変換器17を経る経路を、基準伝搬経路RPとする。この場合、基準伝搬経路RPは、地中レーダー装置100を構成する要素と同軸ケーブルCCのみを伝搬する、すなわち地表や埋設物等の特性が未知である要素を経路中に含まない既知の伝搬経路である。したがって、基準伝搬経路RPを経て生じる不要成分は、地中レーダー装置100の内部構成のみに起因するものである。言い換えると、基準伝搬経路RPを経た基準信号SSは、地中レーダー装置100の内部構成に基づく理論上の理想信号からの乖離具合を示す信号となっている。したがって、基準伝搬経路RPを経た基準信号SSをフィルター作成処理部FPにおいて計測し、さらに、フィルター作成処理部FPにおいて、基準伝搬経路RPを経た基準信号SSの信号特性と理論上の理想信号特性とを比較して、その比較結果に基づいて補償用フィルター18を作成するすなわちフィルター係数FCとなるべき各数値データを算出することで、上述したような不要成分を除去可能とするフィルターとすることができる。
基準信号SSの信号特性と理論上の理想信号特性との比較については、典型的には、理論上の理想信号特性を示す理想波形のフーリエ変換と、基準信号についての基準波形のフーリエ変換との比に基づいて作成することが考えられる。つまり、図4の下段においてグラフGIで例示するような理想波形のフーリエ変換に関する値Vi(f)と、基準信号SSについての信号波形のフーリエ変換に関する値Vr(f)とについての比、
ΔV(f)=Vi(f)/Vr(f)…(1)
で示されるような値からフィルター係数FCを定めることが考えらえる。すなわち、上式(1)を採用することで、地中レーダー装置100の受信部30において受信した受信信号S2について、理論上の理想信号からの乖離を相殺するようなフィルターとなる補償用フィルター18を作成できる。
以下、図7のフローチャートを参照して、上述した地中レーダー装置100の製造工程における一連の処理について説明する。まず、前提として、送受信間において基準伝搬経路RPを構成するように各部を接続する。すなわち、送信アンテナ22及び受信アンテナ31となるべき箇所すなわち端部Ta,Tbに同軸ケーブルCCを設ける(ステップS101)。この上で、信号処理部10は、基準信号SSを発生させ、その受信信号波形を、相関波形(相関信号波形)の状態でフィルター作成処理部FPにおいて記録する(ステップS102)。次に、信号処理部10は、フィルター作成処理部FPにおいて、記録した受信信号波形(相関信号波形)をフーリエ変換するとともに(ステップS103)、理想相関信号波形の入力部INからの理論上の理想相関信号波形に関するデータを読み出す(ステップS104)。ここでは、理想相関信号波形をフーリエ変換した状態で抽出するものとする。次に、信号処理部10は、ステップS103及びステップS104で取得した各相関信号波形のフーリエ変換を比較し、両信号における振幅及び位相についての差分を算出し(ステップS105)、その差分の情報すなわち上式(1)に相当する差分情報をフィルター係数に変換する(ステップS106)。つまり、補償フィルター係数FCを算出する。最後に、補償フィルター係数FCをフィルター作成処理部FPに記録する(ステップS107)ことで、以後、フィルター作成処理部FPが、補償用フィルター18として機能する。
以上のように、本実施形態に係る地中レーダー装置100あるいはその製造方法では、送信部20側から受信部30側への既知の経路である基準伝搬経路RPを経た基準信号SSの信号特性に基づいて補償用フィルター18を作成することにより、各部が組付けられた装置に固有の特性を反映したものにできる。このような特徴を有する補償用フィルター18を予め作成しておき、これを探査のための実動作において用いることで、受信部30で受信した実際の受信信号S2に含まれるサイドローブやリンギングといった不要成分の除去や低減すなわち信号の補償を、迅速かつ確実に行える。また、この場合、上記のような不要成分の除去あるいは補償の処理を、補償用フィルター18により、受信部30での受信信号S2の取得後に行っている、すなわち事後的な処理として行っている。したがって、地中レーダー装置100の各部について高性能化を図ったり、高精度な調整を行ったりするといったことや、地中レーダー装置100の各部について製造上の制限を設けるといったことを、必ずしも要しない。このため、地中レーダー装置100を簡易な構成とすることが可能になる。また、ある程度の帯域幅を有する信号を用いたチャープ方式の地中レーダー装置では原理上、サイドローブの発生が避けがたいが、本実施形態の場合、サイドローブの発生等を十分に抑制できる。
なお、上記は、一例であり、種々の変更態様が考えられる。例えば、上記では、フーリエ変換したものに基づいて周波数領域についてのフィルター係数を定めるようにしているが、群遅延に基づいてフィルター係数を定めることも考えられる。すなわち、周波数に関して群遅延が一定となるようなフィルター係数を作成することで、上記と同様の機能を有する地中レーダー装置が製作可能である。
また、フィルター係数の算出についても、式(1)において、基準信号SSについての信号波形のフーリエ変換についての値Vr(f)を分母とする比率により定めているが、これに限らず、フーリエ変換したものについての種々の比率や差(差分)等の比較に基づいて、フィルター係数を定めることが考えられる。
〔第2実施形態〕
以下、図8及び図9を参照して、第2実施形態に係る地中レーダー装置について一例を説明する。
第1実施形態に係る地中レーダー装置100では、製造段階において事前に補償用フィルター18を作成するものとしていた。これに対し、図8に例示する本実施形態に係る地中レーダー装置200は、探査動作の都度、補償用フィルター18の作成が可能となっている点において、第1実施形態の場合と異なっている。
以下、図8を参照して、本実施形態に係る地中レーダー装置200の一例について具体的に説明する。なお、本実施形態に係る地中レーダー装置200は、第1実施形態に係る地中レーダー装置100の変形例であり、図8は、図1あるいは図6に対応する図である。したがって、同一の符号を付しているものについて、図1等の場合と同様の機能のものは、詳しい説明を省略する。
図8に示すように、地中レーダー装置200は、信号処理部210と、送信部220と、受信部230と、表示部40と、同軸ケーブルCCとを備える。
信号処理部210は、図1の信号処理部10と同様に、送信制御部11、送信用のチャープ信号発生部11a、相関処理用のチャープ信号発生部11b、増幅器12、相関処理部15、増幅器16、A/D変換器17及び補償用フィルター18を備える。
信号処理部210は、上記に加え、フィルター作成処理部FPと、理論上の理想相関信号波形に関するデータを有する入力部(理想相関信号波形の入力部)INとを備える。フィルター作成処理部FPは、理想相関信号波形の入力部INに接続されている。また、信号処理部210は、モード切替え部250を備える。モード切替え部250は、補償用フィルターを作成するフィルター作成モードと、通常の送受信動作を行う通常動作モードとを切り替えるための機構である。信号処理部210において、フィルター作成処理部FPと補償用フィルター18とは、A/D変換器17の後段に並列して配置されており、モード切替え部250は、A/D変換器17の接続先を適宜切り替える。
送信部220は、図1の送信部20と同様に、増幅器21及び送信アンテナ22を備える。さらに、送信部220は、これらに加え、増幅器21から送信アンテナ22への接続と、増幅器21から同軸ケーブルCCへの接続とを択一的に切り換え可能とする第1スイッチ部SW1を有する。
受信部230は、図1の受信部30と同様に、受信アンテナ31及び増幅器32を備える。さらに、受信部230は、これらに加え、受信アンテナ31から増幅器32への接続と、同軸ケーブルCCから増幅器32への接続とを択一的に切り換え可能とする第2スイッチ部SW2を有する。
第1スイッチ部SW1及び第2スイッチ部SW2は、モード切替え部250にそれぞれ接続されており、モード切替え部250は、第1スイッチ部SW1及び第2スイッチ部SW2を適宜切り替える。
以上のような構成において、モード切替え部250は、フィルター作成モードにおいては、A/D変換器17をフィルター作成処理部FPに接続するとともに、第1及び第2スイッチ部SW1,SW2をともに同軸ケーブルCC側に接続する。一方、モード切替え部250は、通常動作モードにおいては、A/D変換器17を補償用フィルター18に接続するとともに、第1スイッチ部SW1を送信アンテナ22に接続し、第2スイッチ部SW2を受信アンテナ31に接続する。以上により、フィルター作成モードにおいては、図6に示した状態と同等の態様とし、通常動作モードにおいては、図1に示した状態と同等の態様としている。
以下、図9のフローチャートを参照して、上述した地中レーダー装置200における一連の処理について説明する。まず、信号処理部210は、フィルター作成モードとすべく、モード切替え部250を動作させて、A/D変換器17をフィルター作成処理部FPに接続した上で、送受信間において基準伝搬経路RPを構成するように各部を接続する。すなわち、モード切替え部250において、第1及び第2スイッチ部SW1,SW2をともに同軸ケーブルCC側に接続することで、基準伝搬経路RPを構成する(ステップS201)。次に、信号処理部210は、基準信号SSを発生させ、その受信信号波形を、相関波形(相関信号波形)の状態でフィルター作成処理部FPにおいて記録する(ステップS202)。次に、信号処理部210は、フィルター作成処理部FPにおいて、記録した受信信号波形(相関信号波形)をフーリエ変換するとともに(ステップS203)、理想相関信号波形の入力部INからの理論上の理想相関信号波形に関するデータを読み出す(ステップS204)。次に、信号処理部210は、ステップS203及びステップS204で取得した各相関信号波形のフーリエ変換を比較し、両信号における振幅及び位相についての差分を算出し(ステップS205)、その差分の情報すなわち式(1)に相当する差分情報をフィルター係数に変換する(ステップS206)。つまり、補償フィルター係数を算出する。次に、信号処理部210は、フィルター作成処理部FPにおいて算出された補償フィルター係数を補償用フィルター18に記録する(ステップS207)。以上により、補償用フィルター18が、所望の補償を可能とするフィルターとして機能するようになる。つまり、通常の送受信動作を行う通常動作モードへの切替えが可能となる。したがって、ステップS207での記録を完了すると、信号処理部210は、通常動作モーとすべく、モード切替え部250を動作させて、A/D変換器17を補償用フィルター18に接続した上で、送受信間において、送信部220については、増幅器21から送信アンテナ22へ接続し、受信部230については、受信アンテナ31から増幅器32へ接続する切替の動作処理をする(ステップS208)。ステップS208での切替え処理が完了すると、信号処理部210は、送信信号S1を発信させて、通常の送受信動作を開始する、すなわち、地中レーダー装置200による本動作(探査)を行い(ステップS209)、動作終了の指令があるまで(ステップS210:No)、本動作(探査)を続ける。
以上のように、本実施形態に係る地中レーダー装置200においても、送信部20側から受信部30側への既知の経路である基準伝搬経路RPを経た基準信号SSの信号特性に基づいて補償用フィルター18を予め作成しておき、これを探査のための実動作において用いることで、受信部30で受信した実際の受信信号S2に含まれるサイドローブやリンギングといった不要成分の除去や低減すなわち信号の補償を、迅速かつ確実に行える。また、本実施形態の場合、基準伝搬経路RPを構成して基準信号を取得し、取得した基準信号に基づき補償用フィルター18を作成するフィルター作成モードと、通常の送受信動作を行う通常動作モードとを切り替えるモード切替え部250を有することで、必要に応じて、都度、補償用フィルターの作成を行うことができる。したがって、例えば外部環境による変化があり得る、といった場合のように、必要に応じて都度、補償用フィルターを作成した上で、通常の送受信を行うことが可能になる、すなわち受信部で受信した実際の受信信号の補償を行って迅速かつ的確な探査ができる。
〔第3実施形態〕
以下、図10~12を参照して、第3実施形態に係る地中レーダー装置の製造方法について一例を説明する。
第1実施形態に係る地中レーダー装置100では、補償用フィルター18の作成に際して、アンテナ22,31に相当する箇所に特性が既知である同軸ケーブルCCを設けて、送信信号S1を外部に送信させないことで、基準信号SSとしていた。これに対し、図10に例示する本実施形態に係る地中レーダー装置の製造方法は、アンテナ22,31での送受信を行う状態で、補償用フィルターの作成をする点において、第1実施形態の場合と異なっている。すなわち、本実施形態では、アンテナ22から一旦外部に送信され、アンテナ31へ戻ってくる経路を基準伝搬経路RPとしている。
以下、図10を参照して、本実施形態に係る地中レーダー装置の製造方法の一例について具体的に説明する。本実施形態に係る地中レーダー装置の製造方法は、第1実施形態に係る地中レーダー装置の製造方法の変形例であり、図10は、図6に対応する図である。したがって、同一の符号を付しているものについて、図1等の場合と同様の機能のものは、詳しい説明を省略する。また、本実施形態に係る地中レーダー装置の製造方法によって製作される地中レーダー装置は、製造過程における補償用フィルター内のデータ(データの取り方)を除いて、図1に示す地中レーダー装置100と同様の構成となるので、図示及び説明を省略する。
まず、図10に示すように、本実施形態においても、図6の場合と同様に、フィルター作成処理部FPにおいて計測を行うことで、補償用フィルターを作成する。ただし、フィルター作成処理部FPにおいて、基準信号の適正判定を行うための基準信号適正判定部JDを設けている点が異なっている。さらに、本実施形態では、図6の場合と異なり、送信アンテナ22及び受信アンテナ31を設けた状態で、送信アンテナ22からの送信信号S1の発信先、すなわち実動作における地中側に、所定距離だけ離間させた特性が既知である理想的な反射をする壁WLを設けている点が異なっている。本実施形態では、壁WLで反射された成分のみを、受信アンテナ31において受信し、基準信号SSとして取り扱うことで、フィルター作成処理部FPにおいて、補償用フィルターの作成がなされる。特に、本実施形態では、フィルター作成処理部FPにおいて、基準信号適正判定部JDにより基準信号SSについての適正判定がなされている。これにより、壁WLで反射された成分以外の成分が含まれると判断される場合には、補償用フィルターの作成処理を行わず、再度基準信号SSを受信する環境を変更するようにして、確実な補償用フィルターの作成がなされるようにしている。
第1実施形態のように、外部に送信させずに基準信号SSを送信する場合と異なり、本実施形態の場合、受信アンテナ31での受信において、意図しない成分が、基準信号SSに含まれてしまう可能性がある。これに対して、本実施形態では、上述のように、基準信号適正判定部JDにより基準信号SSについての適正判定を行うことで、かかる事態を回避している。
図11(A)~11(D)は、本実施系での地中レーダー装置の製造工程における受信信号波形の適性判断についての一例を概念的に説明するための図である。以下、図11(A)~11(D)を参照して、基準信号適正判定部JDにおける判定方法についての具体的一例を説明する。ここでは、基準信号SSについての基準波形である相関信号波形に関してサイドローブ減衰包絡線に基づいて適正判定を行っている。
まず、図11(A)に示すように、送信部20の送信アンテナ22から発信された送信信号S1について、壁WLが理想的なものであり、壁WLで反射された成分のみが基準信号SSとして受信アンテナ31において受信されると、相関処理の結果、例えば図11(B)に示すような相関信号波形CWが取得されるはずである。この場合、受信部30は、壁WLでの一回の反射成分のみについて信号を受け取ることになるので、図11(B)に示すように、相関信号波形CWに関して、メインローブが最も強い強度を示すとともにサイドローブがメインローブから離れるにしたがって徐々に小さなピークを有するものとなる。相関信号波形CWにおける端的な特徴としては、図中破線で示すように、1つのメインローブを最も高い強度としてサイドローブに沿って減衰するサイドローブ減衰包絡線AEが描けることになる。
一方、図11(A)及び11(B)に示した場合と異なり、壁WLで反射された成分のみならず、他の成分が基準信号SSに含まれる場合、その影響が相関信号波形にも表れると考えられる。例えば図11(A)に対応する図11(C)に典型的一例を示すように、もしも、壁WLの奥側に意図しない物体UOが存在するならば、その場合には、壁WLでの反射成分とは別に、物体UOの存在に起因する反射成分も検出されることになるはずである。具体的には、図11(D)に一例を示すように、相関信号波形CWに関して、壁WLでの反射成分に関するメインローブの他に、別のメインローブと考えられる強い強度を示す箇所が存在し、単純な減衰とはならないものになると考えらえる。この場合、図11(B)に示す場合と異なり、1つのメインローブを最も高い強度としてサイドローブに沿って減衰していくサイドローブ減衰包絡線AEを超えてしまう箇所XXが存在することになる。したがって、基準信号適正判定部JDとして、上記のようなサイドローブ減衰包絡線AEを描くためのアルゴリズムを適宜用意することで、基準信号SSが適正なものであるか否かを判断できる。
以下、図12のフローチャートを参照して、上述した地中レーダー装置の製造工程における一連の処理について説明する。まず、前提として、送受信間において基準伝搬経路RPを構成するように各部を接続する。すなわち、送信アンテナ22及び受信アンテナ31の先に、壁WLがある状態とすることで、理想反射環境とする(ステップS301)。この上で、信号処理部10は、基準信号SSとなるべき送信信号S1を発生させ、その受信信号波形を、相関波形(相関信号波形)の状態でフィルター作成処理部FPにおいて記録する(ステップS302)。次に、信号処理部10は、フィルター作成処理部FPの基準信号適正判定部JDにおいて、記録した相関信号波形が適切なものであるか否かを判定する(ステップS303)。ステップS303において、適切でないと判定された場合には(ステップS303:No)、再度ステップS301からの動作を繰り返す。すなわち、壁WLの設定をし直した後、相関信号波形を記録し直す。一方、ステップS303において、適切であると判定された場合には(ステップS303:Yes)、記録した受信信号波形(相関信号波形)をフーリエ変換するとともに(ステップS304)、理想相関信号波形の入力部INからの理論上の理想相関信号波形に関するデータを読み出す(ステップS305)。次に、信号処理部10は、ステップS304及びステップS305で取得した各相関信号波形のフーリエ変換を比較し、両信号における振幅及び位相についての差分を算出し(ステップS306)、その差分の情報すなわち式(1)に相当する差分情報をフィルター係数に変換する(ステップS307)。つまり、補償フィルター係数を算出する。最後に、補償フィルター係数をフィルター作成処理部FPに記録する(ステップS308)ことで、以後、フィルター作成処理部FPが、補償用フィルターとして機能する。
以上のように、本実施形態に係る地中レーダー装置の製造方法においても、送信部20側から受信部30側への既知の経路である基準伝搬経路RPを経た基準信号SSの信号特性に基づいて補償用フィルターを予め作成しておき、これを探査のための実動作において用いることで、受信部30で受信した実際の受信信号S2に含まれるサイドローブやリンギングといった不要成分の除去や低減すなわち信号の補償を、迅速かつ確実に行える。また、本実施形態の場合、補償用フィルターの作成において、基準信号適正判定部JDにより、基準信号についての基準波形である相関信号波形に関してサイドローブ減衰包絡線に基づく適正判定がなされていることで、装置に固有の特性以外の他の要因の有無、すなわち外部からの意図しない成分が基準信号に含まれているか否かを確認できる。また、この場合、送信部20の送信アンテナ22及び受信部30の受信アンテナ31を取り付けた状態で補償用フィルターの作成が可能であるので、例えば送信アンテナ22や受信アンテナ31に起因する不要成分の除去や低減が必要な場合に対処が可能となる。
なお、詳細な説明を省略するが、上記において、さらに第1実施形態等において適用した同軸ケーブルによる補償用フィルターの作成を併用する態様としてもよい。
〔第4実施形態〕
以下、図13~15を参照して、第4実施形態に係る地中レーダー装置について一例を説明する。
第1実施形態に係る地中レーダー装置100では、1つの補償用フィルターを搭載していた。これに対し、図13に例示する本実施形態に係る地中レーダー装置400は、補償用フィルター418において、複数(例示では2つ)の補償用フィルターを搭載し、フィルターの選択が可能となっている点において、第1実施形態の場合と異なっている。
以下、図13を参照して、本実施形態に係る地中レーダー装置400の一例について具体的に説明する。なお、本実施形態に係る地中レーダー装置400は、第1実施形態に係る地中レーダー装置400の変形例であり、図13は、図1に対応する図である。したがって、同一の符号を付しているものについて、図1の場合と同様の機能のものは、詳しい説明を省略する。
図13に示すように、地中レーダー装置400は、信号処理部410と、送信部20と、受信部30と、表示部40とを備える。
信号処理部410は、図1の信号処理部10と同様に、送信制御部11、送信用のチャープ信号発生部11a、相関処理用のチャープ信号発生部11b、増幅器12、相関処理部15、増幅器16及びA/D変換器17に加え、2つのフィルターを含む補償用フィルター418と、フィルター選択部FSとを備える。
信号処理部410のうち、補償用フィルター418は、互いに異なるフィルター係数を有する第1フィルター418aと、第2フィルター418bとを備える。
信号処理部410のうち、フィルター選択部FSは、地中レーダー装置400の利用者(ユーザー)からの外部入力指示に従って、補償用フィルター418を構成する2つのフィルター418a,418bのうち、一のフィルターを選択するための機構である。
以下、図14(A)及び14(B)を参照して、補償用フィルター418を構成する第1フィルター418aと第2フィルター418bとについての具体的一例を説明する。図14(A)及び14(B)は、複数の理論上の理想信号間での特性の違いについて説明するための図である。
ここで、補償用フィルターの作成に関して、作成上の拠り所となる理論上の理想信号及びその特性については、地中レーダー装置100の設計に従って定まるが、例えば、測定対象たる探査対象物の埋設状況等によっては、最も適した理想信号より具体的には理想相関信号波形が異なる可能性がある。すなわち、埋設状況に応じて異なる性質の理想相関信号波形を用意することが好ましい場合も考えられる。具体的には、より確実に検出を行うべく図14(A)に例示するように、サイドローブが無く、メインローブのみを有するような相関信号波形W1を理想相関信号波形とする場合が考えられる。一方、検出における分解能をより高めたいという場合には、図14(B)に例示するように、いくつか小さなサイドローブを有しつつメインローブがより狭い範囲となっている相関信号波形W2を理想相関信号波形とするのが望ましい場合もある。図14(A)と図14(B)とを比較すると明らかなように、相関信号波形W2における中央に位置するメインローブの幅(例えば半値幅)が、相関信号波形W1における中央に位置するメインローブの幅よりも狭くなっている。例えば、複数の探査対象物が近接して埋設されていることが予測されるような場合には、図14(B)のような形状の相関信号波形を抽出することで、分解能を高め、複数の探査対象物を区別して検出することが期待できる。本実施形態では、図14(A)及び図14(B)に代表されるような、複数の理想相関信号波形を予め用意しておき、上記各実施形態で説明した補償用フィルターの作成方法において、現実の相関信号波形を各理想相関信号波形に近づけるようなフィルター係数の算出をそれぞれ行うことで、例えば第1フィルター418aと第2フィルター418bといった複数のフィルターを補償用フィルター418に格納し、フィルター選択部FSにおいて適宜それらのうちの一を選択して適用することで、探査の態様に応じて最適な解析処理を行うようになっている。
以下、図15のフローチャートを参照して、上述した地中レーダー装置400におけるフィルターの選択処理について説明する。まず、地中レーダー装置400の利用者(ユーザー)からの外部入力指示により所望の波形特性の選択をするための選択命令がなされると(ステップS401)、これに従って、フィルター選択部FSは、第1フィルター418a及び第2フィルター418bについてのフィルター係数の情報を読み出して(ステップS402)、これらのうち、当該選択命令に対応するものを適用する(ステップS403)。以上のようにして、フィルターの選択処理がなされる。
以上のように、本実施形態に係る地中レーダー装置の製造方法においても、サイドローブやリンギングといった不要成分の除去や低減すなわち信号の補償を、迅速かつ確実に行える。また、本実施形態の場合、補償用フィルター418は、複数のフィルター418a,418bから一のフィルターを選択可能となっている。この場合、目的に応じて最適なフィルターを準備できる。
〔その他〕
この発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
まず、上記では、送信部20からの送信信号S1は、高周波成分でかつある程度の帯域幅を有するチャープ信号であるものとしているが、帯域幅については、種々の態様が考えられる。また、信号として、チャープ状のものに限らずパルス状のものを利用する態様において、本願発明を適用してもよい。
また、上記では、増幅器について、増幅器12,16,21,32の4つを配置した構成となっているが、これらの性能等については、目的等に応じて種々異なっていてもよく、また、一部が無い態様や、別の箇所に配置されるといった場合においても、本願発明の適用が可能である。さらに、増幅器以外の構成要素についても、上記の例以外の様々な配置が考えられる。
また、フーリエ変換の手法については、目的等に応じて種々のものを選択できる。また、上記とは別途に、各種フィルター処理を付加してもよい。