本発明の実施形態において、前記自動変速機は、前記流体式伝動装置を介して入力された前記動力源からの動力を前記駆動輪へ伝達する。前記動力源は、例えば燃料の燃焼によって動力を発生するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等のエンジン、及び/又は、電動機等である。
また、前記ロックアップクラッチは、例えばフロントカバーに押し付けられるクラッチピストンに作用する油圧が変化させられて作動状態が切り替えられる摩擦クラッチ、又は、多板式の摩擦クラッチなどである。
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、動力源としてのエンジン12と、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16とを備えている。動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材としてのケース18内に配設されたトルクコンバータ20及び自動変速機22、自動変速機22の出力回転部材である変速機出力軸24に連結されたプロペラシャフト26、そのプロペラシャフト26に連結されたディファレンシャルギヤ28、そのディファレンシャルギヤ28に連結された1対のドライブシャフト30等を備えている。動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、トルクコンバータ20、自動変速機22、プロペラシャフト26、ディファレンシャルギヤ28、及びドライブシャフト30等を順次介して駆動輪14へ伝達される。前記動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同義である。
エンジン12は、後述する電子制御装置60によって車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等のエンジン制御装置32が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
トルクコンバータ20は、エンジン12と自動変速機22との間の動力伝達経路に配設されており、ポンプ翼車20pとタービン翼車20tとを備えた流体式伝動装置である。ポンプ翼車20pは、トルクコンバータ20の入力回転部材であり、エンジン12のクランク軸34に連結されている。タービン翼車20tは、トルクコンバータ20の出力回転部材であり、自動変速機22の入力回転部材である変速機入力軸36に連結されている。変速機入力軸36は、タービン軸でもある。又、トルクコンバータ20は、ポンプ翼車20pとタービン翼車20tとを連結する直結クラッチとしての公知のロックアップクラッチ20cを備えている。又、動力伝達装置16は、ポンプ翼車20pに連結された機械式のオイルポンプ38を備えている。オイルポンプ38は、エンジン12によって回転駆動されることにより、自動変速機22の変速制御に用いたり、ロックアップクラッチ20cの作動状態の切替制御に用いたり、動力伝達装置16の各部に潤滑油を供給したりする為の作動油を吐出する。すなわち、オイルポンプ38によって汲み上げられた作動油は、車両10に備えられた油圧制御回路40の元圧として供給される。
ロックアップクラッチ20cは、油圧制御回路40から油圧が供給されることにより摩擦係合させられる油圧式の摩擦クラッチである。本実施例では、油圧制御回路40からロックアップクラッチ20cへ供給される油圧をLU油圧と称する。ロックアップクラッチ20cは、後述する電子制御装置60によってLU油圧が制御されることにより作動状態が切り替えられる。ロックアップクラッチ20cの作動状態としては、ロックアップクラッチ20cが解放されるロックアップ解放状態すなわちロックアップオフ、ロックアップクラッチ20cが滑りを伴ってスリップ作動されるスリップ状態、及びロックアップクラッチ20cが係合されるロックアップ状態すなわちロックアップオンがある。ロックアップクラッチ20cがロックアップオフとされることにより、トルクコンバータ20はトルク増幅作用が得られる。又、ロックアップクラッチ20cがロックアップオンとされることにより、ポンプ翼車20p及びタービン翼車20tが一体回転させられてエンジン12の動力が自動変速機22側へ直接的に伝達される。又、ロックアップクラッチ20cにおけるスリップ量Ns(=エンジン回転速度Ne-タービン回転速度Nt;スリップ回転速度、差回転速度とも称す)が目標スリップ量Nstとなるようにロックアップクラッチ20cがスリップ状態とされることにより、車両10の駆動時には、エンジン回転速度Neの吹き上がりが抑制されたり、こもり音等のノイズが抑制される一方で、車両10の被駆動時には、目標スリップ量Nstでエンジン12のクランク軸34が変速機入力軸36に対して追従回転させられて、例えばフューエルカット領域が拡大される。
自動変速機22は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成する有段変速機である。自動変速機22は、例えば複数組の遊星歯車装置と、クラッチ、ブレーキ等の複数の油圧式の摩擦係合装置CBとを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。摩擦係合装置CBは、各々、油圧制御回路40内のソレノイドバルブ等から出力される調圧された各係合油圧によりトルク容量が変化させられることで、係合状態や解放状態などの作動状態が切り替えられる。自動変速機22は、摩擦係合装置CBのうちの所定の係合装置の係合によって、変速比γ(=入力回転速度Ni/出力回転速度No)が異なる複数のギヤ段のうちの何れかのギヤ段が形成される。自動変速機22は、後述する電子制御装置60によって摩擦係合装置CBの作動状態が制御されることで、形成されるギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のギヤ段の各々が選択的に形成される。
又、車両10は、ロックアップクラッチ20c、自動変速機22などの制御に関連する車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置60を備えている。よって、図1は、電子制御装置60の入出力系統を示す図であり、又、電子制御装置60による制御機能の要部を説明する図である。電子制御装置60は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置60は、必要に応じてエンジン制御用、油圧制御用等に分けて構成される。
電子制御装置60には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ50、入力回転速度センサ52、出力回転速度センサ54、アクセル開度センサ56、スロットル弁開度センサ58など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne、変速機入力軸36の回転速度である入力回転速度Ni(=タービン回転速度Nt)、車速Vに対応する変速機出力軸24の回転速度である出力回転速度No、運転者の加速操作の大きさを表す運転者の加速操作量としてのアクセル開度PAP、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度TAPなど)が、それぞれ供給される。
運転者の加速操作の大きさを表す運転者の加速操作量は、例えばアクセルペダルなどのアクセル操作部材の操作量であるアクセル操作量であって、車両10に対する運転者の出力要求量である。運転者の出力要求量としては、アクセル開度PAPの他に、スロットル弁開度TAPなどを用いることもできる。出力回転速度Noは、自動変速機22の出力側の回転速度に対応している。自動変速機22の出力側の回転速度としては、車速V、駆動輪14を含む車輪の回転速度、プロペラシャフトの回転速度などを用いることもできる。
電子制御装置60からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置32、油圧制御回路40など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、摩擦係合装置CBの作動状態を制御する為の油圧制御指令信号Sat、ロックアップクラッチ20cの作動状態を制御する為の油圧制御指令信号Sluなど)が、それぞれ出力される。油圧制御指令信号Satは、例えば摩擦係合装置CBの各々の油圧アクチュエータへ供給される各係合油圧を調圧する各ソレノイドバルブ等を駆動する為の指令信号である。この油圧制御指令信号Satは、自動変速機22の変速を制御する為の油圧制御指令信号でもある。又、油圧制御指令信号Sluは、例えばLU油圧を調圧するソレノイドバルブ等を駆動する為の指令信号である。
電子制御装置60は、車両10における各種制御の為の制御機能を実現する為に、目標駆動力算出手段すなわち目標駆動力算出部62、ドライバ要求ギヤ段算出手段すなわちドライバ要求ギヤ段算出部64、ドライバ運転補佐手段すなわちドライバ運転補佐部66、状態判定手段すなわち状態判定部68、エンジン制御手段すなわちエンジン制御部70、変速制御手段すなわち変速制御部72、変速制限手段すなわち変速制限部74、及びロックアップクラッチ制御手段すなわちロックアップクラッチ制御部76を備えている。
図2は、電子制御装置60の制御作動の要部すなわち自動変速機22の変速が制限されてもドライバビリティの悪化を抑制する為の制御作動を説明するブロック図である。このブロック図の説明では、後述するように、自動変速機22のギヤ段の切替判断やロックアップクラッチ20cの作動状態の切替判断などにおいて、運転者の出力要求量としてアクセル開度PAPに応じたスロットル弁開度TAPを用いるが、アクセル開度PAPに置換え可能であることは言うまでもない。又、このブロック図では、同じ制御作動を便宜上別々に記載したブロックがあるが、それらのブロックには同じ符号を付してある。
図2において、目標駆動力算出部62の機能に対応するブロック(以下、ブロックを省略する)B10において、アクセル開度PAPがドライバ要求エンジントルクTedemdrに変換される。具体的には、目標駆動力算出部62は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である例えばスロットル弁開度マップにアクセル開度PAPを適用することで、ドライバ要求スロットル弁開度TAPdemdrを算出する。つまり、目標駆動力算出部62は、前記スロットル弁開度マップを用いてアクセル開度PAPをドライバ要求スロットル弁開度TAPdemdrに変換する。このスロットル弁開度マップは、例えばアクセル開度PAPに応じたスロットル弁開度TAPが一意に定められる関係であって、アクセル開度PAPが高い程、スロットル弁開度TAPが高くされるように定められている。目標駆動力算出部62は、例えば予め定められたエンジントルクマップにドライバ要求スロットル弁開度TAPdemdrとエンジン回転速度Neとを適用することで、ドライバ要求エンジントルクTedemdrを算出する。このエンジントルクマップは、エンジントルクTeとエンジン回転速度Neとスロットル弁開度TAPとの予め定められた関係である。
ドライバ要求ギヤ段算出部64の機能に対応するB20において、自動変速機22に対するドライバ要求ギヤ段Gdemdrが算出される。具体的には、ドライバ要求ギヤ段算出部64は、例えば図3に示すような予め定められたPA変速線図にアクセル開度PAPから変換されたドライバ要求スロットル弁開度TAPdemdrと出力回転速度Noとを適用することで、自動変速機22の制御すべきギヤ段を判断し、その判断したギヤ段をドライバ要求ギヤ段Gdemdrとする。このように、ドライバ要求ギヤ段算出部64は、スロットル弁開度TAPと出力回転速度Noとに基づいてドライバ要求ギヤ段Gdemdrを算出する。図3のPA変速線図は、例えば出力回転速度No及びスロットル弁開度TAPを変数とする二次元座標上に、自動変速機22の変速が判断される為の変速線を有する予め定められた関係としての変速マップであり、自動変速機22が第1速ギヤ段-第6速ギヤ段の前進6速のギヤ段を有する場合の一例である。このPA変速線図において、実線はアップシフトが判断される為のアップシフト線であり、破線はダウンシフトが判断される為のダウンシフト線である。
目標駆動力算出部62の機能に対応するB30において、ドライバ要求スロットル弁開度TAPdemdrに応じた要求駆動力Fdemであるドライバ要求駆動力Fdemdr(=ドライバ要求F)の一つとして、目標駆動力Aが算出される。具体的には、目標駆動力算出部62は、ドライバ要求エンジントルクTedemdrを目標駆動力Aに変換する。目標駆動力算出部62は、例えば次式(1)にドライバ要求エンジントルクTedemdrと自動変速機22の実際のギヤ段である現在ギヤ段Grealにおける変速比γrealとを適用することで目標駆動力Aを算出する。次式(1)において、tはトルクコンバータ20のトルク比(=タービントルクTt/ポンプトルクTp)であり、γは自動変速機22の変速比であり、iはディファレンシャルギヤ28等の減速比であり、rwは駆動輪14のタイヤ有効半径である。このように、目標駆動力算出部62は、スロットル弁開度TAPと現在ギヤ段Grealとに基づいて目標駆動力Aを算出する。尚、トルク比tは、トルクコンバータ20の速度比e(=タービン回転速度Nt/ポンプ回転速度Np(=エンジン回転速度Ne))の関数であり、速度比eとトルク比tとの予め定められた関係に実際の速度比eを適用することで算出される。
Fdemdr=Tedemdr×t×γ×i÷rw …(1)
目標駆動力算出部62の機能に対応するB40において、ドライバ要求駆動力Fdemdrの一つとして、目標駆動力Bが算出される。具体的には、目標駆動力算出部62は、ドライバ要求エンジントルクTedemdrを目標駆動力Bに変換する。目標駆動力算出部62は、例えば前記式(1)にドライバ要求エンジントルクTedemdrとドライバ要求ギヤ段Gdemdrにおける変速比γdemdrとを適用することで目標駆動力Bを算出する。このように、目標駆動力算出部62は、スロットル弁開度TAPとドライバ要求ギヤ段Gdemdrとに基づいて第1目標駆動力としての目標駆動力Bを算出する。
ドライバ運転補佐部66の機能に対応するB50において、ドライバ要求スロットル弁開度TAPdemdrに基づかない要求駆動力Fdemすなわちドライバ要求駆動力Fdemdrとは別の要求駆動力Fdemである他システム目標駆動力が算出される。他システム目標駆動力は、例えば運転者の運転を支援する自動車速制御に用いられる他システム要求駆動力Fdemvである。具体的には、ドライバ運転補佐部66は、運転者により設定された目標車速Vtgtに基づいて車速Vを制御する他システム目標駆動力を算出する。上記自動車速制御は、例えば運転者により設定された目標車速Vtgtへ車速Vを追従させるように駆動力Fを制御する公知のクルーズコントロールである。又、上記自動車速制御は、例えば車速Vが運転者により設定された目標車速Vtgtを超えないように駆動力Fを制御する、すなわち駆動力Fに上限ガードがかかる自動車速制限制御としての公知の可変スピードリミッタ(=ASL(Adjustable Speed Limiter))である。
目標駆動力算出部62の機能に対応するB60において、目標駆動力A及び他システム目標駆動力のうちの何れか一方が調停後駆動力Amedに設定される。具体的には、目標駆動力算出部62は、目標駆動力A及び他システム目標駆動力のうちで、何れの目標駆動力を優先させるかを、予め定められた駆動力調停手順に従って選択し、この選択した目標駆動力を調停後駆動力Amedに設定する。上記駆動力調停手順では、例えば他システム目標駆動力がクルーズコントロールによる他システム目標駆動力である場合は、最大値を選択する所謂マックスセレクトにより調停後駆動力Amedが設定される。又、上記駆動力調停手順では、例えば他システム目標駆動力がASLのようにクルーズコントロール以外による他システム目標駆動力である場合は、最小値を選択する所謂ミニマムセレクトにより調停後駆動力Amedが設定される。
目標駆動力算出部62の機能に対応するB70において、目標駆動力B及び他システム目標駆動力のうちの何れか一方が調停後駆動力Bmedに設定される。具体的には、目標駆動力算出部62は、目標駆動力B及び他システム目標駆動力のうちで、何れの目標駆動力を優先させるかを、予め定められた駆動力調停手順に従って選択し、この選択した目標駆動力を調停後駆動力Bmedに設定する。上記駆動力調停手順では、例えば他システム目標駆動力がクルーズコントロールによる他システム目標駆動力である場合は、マックスセレクトにより調停後駆動力Bmedが設定され、他システム目標駆動力がクルーズコントロール以外による他システム目標駆動力である場合は、ミニマムセレクトにより調停後駆動力Bmedが設定される。
前記B70は、状態判定部68の機能にも対応している。このB70において、目標駆動力B及び他システム目標駆動力のうちの何れが調停後駆動力Bmedに設定されたのかという調停結果を示す調停状態信号Bsmが出力される。具体的には、状態判定部68は、調停後駆動力Bmedが目標駆動力Bであるか否かを判定する。状態判定部68は、調停後駆動力Bmedが目標駆動力Bであると判定した場合には、目標駆動力Bが調停後駆動力Bmedに設定されたことすなわち調停結果が目標駆動力Bであることを示す調停状態信号Bsmを出力する。一方で、状態判定部68は、調停後駆動力Bmedが目標駆動力Bでないと判定した場合には、他システム目標駆動力が調停後駆動力Bmedに設定されたことすなわち調停結果が他システム目標駆動力であることを示す調停状態信号Bsmを出力する。
エンジン制御部70の機能に対応するB80において、調停後駆動力Amedが目標エンジントルクTetgtに変換される。具体的には、エンジン制御部70は、例えば次式(2)に調停後駆動力Amedと現在ギヤ段Grealにおける変速比γrealとを適用することで調停後駆動力Amedを実現する為の目標エンジントルクTetgtを算出する。次式(2)において、rw、i、tは、前記式(1)と同じである。
Tetgt=(Amed×rw)÷(γreal×i×t) …(2)
エンジン制御部70の機能に対応するB90において、エンジントルクTeが目標エンジントルクTetgtとされるようにエンジン12が制御される。具体的には、エンジン制御部70は、目標エンジントルクTetgtが得られるスロットル弁開度TAP、燃料噴射量、及び点火時期等にてエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置32へ出力してエンジントルクTeを制御する。
変速制御部72の機能に対応するB100において、自動変速機22に対する変速制御用要求ギヤ段Gdemshが算出される。具体的には、変速制御部72は、例えば前述した図3のPA変速線図と、図4に示すような予め定められたF変速線図とのうちの何れかの変速線図を選択すると共に、選択した変速線図を用いて変速制御用要求ギヤ段Gdemshを算出する。変速制御部72は、調停状態信号Bsmにおいて調停結果が目標駆動力Bである場合には、変速制御用要求ギヤ段Gdemshの算出に用いる変速線図として前記PA変速線図を選択すると共に、そのPA変速線図にドライバ要求スロットル弁開度TAPdemdrと出力回転速度Noとを適用することで、自動変速機22の制御すべきギヤ段を判断し、その判断したギヤ段を変速制御用要求ギヤ段Gdemshとする。一方で、変速制御部72は、調停状態信号Bsmにおいて調停結果が他システム目標駆動力である場合には、変速制御用要求ギヤ段Gdemshの算出に用いる変速線図として前記F変速線図を選択すると共に、そのF変速線図に調停後駆動力Bmedとなる他システム目標駆動力と出力回転速度Noとを適用することで、自動変速機22の制御すべきギヤ段を判断し、その判断したギヤ段を変速制御用要求ギヤ段Gdemshとする。図4のF変速線図は、例えば図3のPA変速線図における変数の一つであるスロットル弁開度TAPを要求駆動力Fdemに置き換えて、PA変速線図を変換したものである。図4のF変速線図では、自動変速機22の第4速ギヤ段と第5速ギヤ段との間におけるアップシフト線とダウンシフト線とが例示されており、その他の変速線の記載は省略されている。
変速制限部74の機能に対応するB110において、変速制御用要求ギヤ段Gdemshへの自動変速機22の変速を制限する変速禁止ギヤ段に基づいて自動変速機22の変速を制御する変速指令としての油圧制御指令信号Satにおける目標ギヤ段Gtgtが算出される。
変速制御部72の機能に対応するB120において、現在ギヤ段Grealが目標ギヤ段Gtgtとされるように自動変速機22が制御される。具体的には、変速制御部72は、現在ギヤ段Grealを目標ギヤ段Gtgtとするように摩擦係合装置CBの作動状態を制御する為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路40へ出力して自動変速機22を制御する。
ロックアップクラッチ制御部76の機能に対応するB130において、ロックアップクラッチ20cの制御すべき作動状態が判断されて、その判断された作動状態がLU指示として出力される。
ロックアップクラッチ制御部76の機能に対応するB140において、ロックアップクラッチ20cの作動状態がLU指示における作動状態とされるようにロックアップクラッチ20cが制御される。具体的には、ロックアップクラッチ制御部76は、LU指示における作動状態が実現されるLU油圧をロックアップクラッチ20cへ供給する為の油圧制御指令信号Sluを油圧制御回路40へ出力してロックアップクラッチ20cを制御する。
ところで、図2のブロック図に対応する本実施例の比較例である図11のブロック図に示すように、図2のB110に対応するB110bや図2のB130に対応するB130bでは、調停後駆動力Bmedを用いて制御が行われる。B110bにおいて変速制限が為されているときには、ドライバ要求ギヤ段Gdemdrと変速制限後の目標ギヤ段Gtgtとが異なる為、目標ギヤ段Gtgtが反映される現在ギヤ段Grealに基づく目標駆動力Aと、目標ギヤ段Gtgtが反映されないドライバ要求ギヤ段Gdemdrに基づく目標駆動力Bとが不一致となる。その為、目標駆動力Aに基づく目標エンジントルクTetgtとなるように制御される車両10の実状態の駆動力と、目標駆動力Bとが不一致となる。そうすると、目標駆動力Bに基づく調停後駆動力Bmedを用いた、B110bにおける変速制限やB130bにおけるロックアップクラッチ20cの作動状態の切替判断が、車両10の実状態の駆動力に応じて実行されるタイミングとは異なるタイミングで実行されてしまう可能性がある為、自動変速機22の変速を制限する変速制限制御やロックアップクラッチ20cを制御するロックアップクラッチが車両10の実状態の駆動力に応じて意図通りに作動させられず、ドライバビリティが悪化する可能性がある。
そこで、本実施例では、自動変速機22の変速が制限されてもドライバビリティの悪化を抑制する為の制御作動が実行される。
図2に戻り、目標駆動力算出部62の機能に対応するB150において、ドライバ要求駆動力Fdemdrの一つとして、目標駆動力Cが算出される。具体的には、目標駆動力算出部62は、ドライバ要求エンジントルクTedemdrを目標駆動力Cに変換する。目標駆動力算出部62は、例えば前記式(1)にドライバ要求エンジントルクTedemdrと目標ギヤ段Gtgtにおける変速比γtgtとを適用することで目標駆動力Cを算出する。このように、目標駆動力算出部62は、スロットル弁開度TAPと目標ギヤ段Gtgtとに基づいて第2目標駆動力としての目標駆動力Cを算出する。
目標駆動力算出部62の機能に対応するB160において、目標駆動力C及び他システム目標駆動力のうちの何れか一方が調停後駆動力Cmedに設定される。具体的には、目標駆動力算出部62は、目標駆動力C及び他システム目標駆動力のうちで、何れの目標駆動力を優先させるかを、予め定められた駆動力調停手順に従って選択し、この選択した目標駆動力を調停後駆動力Cmedに設定する。上記駆動力調停手順では、例えば他システム目標駆動力がクルーズコントロールによる他システム目標駆動力である場合は、マックスセレクトにより調停後駆動力Cmedが設定され、他システム目標駆動力がクルーズコントロール以外による他システム目標駆動力である場合は、ミニマムセレクトにより調停後駆動力Cmedが設定される。
前記B60は、状態判定部68の機能にも対応している。このB60において、目標駆動力A及び他システム目標駆動力のうちの何れが調停後駆動力Amedに設定されたのかという調停結果を示す調停状態信号Asmが出力される。具体的には、状態判定部68は、調停後駆動力Amedが目標駆動力Aであるか否かを判定する。状態判定部68は、調停後駆動力Amedが目標駆動力Aであると判定した場合には、目標駆動力Aが調停後駆動力Amedに設定されたことすなわち調停結果が目標駆動力Aであることを示す調停状態信号Asmを出力する。一方で、状態判定部68は、調停後駆動力Amedが目標駆動力Aでないと判定した場合には、他システム目標駆動力が調停後駆動力Amedに設定されたことすなわち調停結果が他システム目標駆動力であることを示す調停状態信号Asmを出力する。
前記B110において、調停後駆動力Cmedが用いられて目標ギヤ段Gtgtが算出される。具体的には、変速制限部74は、例えば図5に示すような予め定められた変速禁止領域線図に調停後駆動力Cmedと出力回転速度Noとを適用することで、自動変速機22の変速を禁止すべき変速禁止ギヤ段を算出し、変速制御用要求ギヤ段Gdemshに対して変速禁止ギヤ段を適用して目標ギヤ段Gtgtを算出する。図5の変速禁止領域線図は、例えば図4のF変速線図において自動変速機22の変速を禁止する領域を定めたものである。図5の変速禁止領域線図では、図4と同様に、自動変速機22の第4速ギヤ段と第5速ギヤ段との間における変速線が例示されている。図5において、二点鎖線aよりも低車速側の領域で示す「NV_NG領域」は、例えばエンジン回転速度Neが低くなることによるこもり音や振動などを考慮してハイ側の第5速ギヤ段が禁止される領域である。その為、破線に示す5→4ダウンシフト線よりも高車速側且つ二点鎖線aよりも低車速側にある領域で5→4ダウンシフトが実施されるように、斜線部Aのダウンシフト実施領域が拡大されている。二点鎖線aに対してヒステリシス領域が確保された一点鎖線bのアップシフト許可判定値よりも高車速側の領域で4→5アップシフトが許可される。その為、実線に示す4→5アップシフト線よりも高車速側であるが、一点鎖線bよりも低車速側にある領域で4→5アップシフトが禁止されるように、斜線部Bのアップシフト実施領域が縮小されている。
前記B130において、調停後駆動力Cmedが用いられてLU指示が出力される。具体的には、ロックアップクラッチ制御部76は、例えば図6に示すような予め定められたPA-LU線図と、図7に示すような予め定められたF-LU線図とのうちの何れかのLU線図を選択すると共に、選択したLU線図を用いてロックアップクラッチ20cの制御すべき作動状態を判断する。ロックアップクラッチ制御部76は、調停状態信号Asmにおいて調停結果が目標駆動力Aである場合には、ロックアップクラッチ20cの制御すべき作動状態を判断するときに用いるLU線図として前記PA-LU線図を選択すると共に、そのPA-LU線図にドライバ要求スロットル弁開度TAPdemdrと出力回転速度Noとを適用することで、ロックアップクラッチ20cの制御すべき作動状態を判断して、その判断した作動状態をLU指示として出力する。一方で、ロックアップクラッチ制御部76は、調停状態信号Asmにおいて調停結果が他システム目標駆動力である場合には、ロックアップクラッチ20cの制御すべき作動状態を判断するときに用いるLU線図として前記F-LU線図を選択すると共に、そのF-LU線図に調停後駆動力Cmedと出力回転速度Noとを適用することで、ロックアップクラッチ20cの制御すべき作動状態を判断して、その判断した作動状態をLU指示として出力する。
図6のPA-LU線図は、例えば出力回転速度No及びスロットル弁開度TAPを変数とする二次元座標上に、ロックアップオフ領域とロックアップオン領域とを有する予め定められた関係としてのロックアップ領域線図である。このPA-LU線図において、実線はロックアップオフからロックアップオンへの切替えが判断される為のロックアップオン切替線であり、破線はロックアップオンからロックアップオフへの切替えが判断される為のロックアップオフ切替線である。図6のPA-LU線図では、自動変速機22の第4速ギヤ段-第6速ギヤ段の各々におけるロックアップオン切替線とロックアップオフ切替線とが例示されており、その他のギヤ段における切替線の記載は省略されている。図7のF-LU線図は、例えば図6のPA-LU線図における変数の一つであるスロットル弁開度TAPを要求駆動力Fdemに置き換えて、PA-LU線図を変換したものである。図7のF-LU線図では、図6のPA-LU線図と同様に、自動変速機22の第4速ギヤ段-第6速ギヤ段の各々における切替線が例示されている。
以上のように、変速制御部72は、調停後駆動力Bmedを用いてつまり調停後駆動力Bmedの基となる目標駆動力Bを用いて変速制御用要求ギヤ段Gdemshを算出する。又、変速制限部74は、調停後駆動力Cmedを用いてつまり調停後駆動力Cmedの基となる目標駆動力Cを用いて自動変速機22の変速制御用要求ギヤ段Gdemshへの変速を制限する。又、ロックアップクラッチ制御部76は、調停後駆動力Cmedを用いてつまり調停後駆動力Cmedの基となる目標駆動力Cを用いてロックアップクラッチ20cの作動状態を切り替える。
図8,図9,図10は、各々、電子制御装置60の制御作動の要部すなわち自動変速機22の変速が制限されてもドライバビリティの悪化を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば繰り返し実行される。図8のフローチャートと図9のフローチャートと図10のフローチャートとは並行して実行される。
図8において、先ず、ドライバ要求ギヤ段算出部64の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、図3に示すようなPA変速線図にてドライバ要求ギヤ段Gdemdrが算出される。次いで、目標駆動力算出部62の機能に対応するS20において、アクセル開度PAPがドライバ要求エンジントルクTedemdrに変換され、ドライバ要求駆動力Fdemdrの一つとして、ドライバ要求エンジントルクTedemdrとドライバ要求ギヤ段Gdemdrとに基づいて目標駆動力Bが算出される。次いで、目標駆動力算出部62の機能に対応するS30において、目標駆動力Bと他システム目標駆動力とが調停されて調停後駆動力Bmedが設定される。次いで、状態判定部68の機能に対応するS40において、調停後駆動力Bmedが目標駆動力Bであるか否かが判定される。上記S40の判断が肯定される場合は変速制御部72の機能に対応するS50において、図3に示すようなPA変速線図にて変速制御用要求ギヤ段Gdemshが算出される。上記S40の判断が否定される場合は変速制御部72の機能に対応するS60において、図4に示すようなF変速線図にて変速制御用要求ギヤ段Gdemshが算出される。上記S50に次いで、又は、上記S60に次いで、変速制限部74の機能に対応するS70において、後述する図9のフローチャートにおいて設定される調停後駆動力Cmedに基づいて変速禁止ギヤ段が算出される。次いで、変速制限部74の機能に対応するS80において、変速制御用要求ギヤ段Gdemshに変速禁止ギヤ段が反映されて目標ギヤ段Gtgtが算出される。次いで、変速制御部72の機能に対応するS90において、目標ギヤ段Gtgtとされるように自動変速機22が制御される。
図9において、先ず、目標駆動力算出部62の機能に対応するS110において、アクセル開度PAPがドライバ要求エンジントルクTedemdrに変換され、ドライバ要求駆動力Fdemdrの一つとして、ドライバ要求エンジントルクTedemdrと目標ギヤ段Gtgtとに基づいて目標駆動力Cが算出される。次いで、目標駆動力算出部62の機能に対応するS120において、目標駆動力Cと他システム目標駆動力とが調停されて調停後駆動力Cmedが設定される。次いで、状態判定部68の機能に対応するS130において、後述する図10のフローチャートにおいて設定される調停後駆動力Amedが後述する図10のフローチャートにおいて算出される目標駆動力Aであるか否かが判定される。上記S130の判断が肯定される場合はロックアップクラッチ制御部76の機能に対応するS140において、図6に示すようなPA-LU線図にてロックアップクラッチ20cの制御すべき作動状態が判断される。上記S130の判断が否定される場合はロックアップクラッチ制御部76の機能に対応するS150において、図7に示すようなF-LU線図にてロックアップクラッチ20cの制御すべき作動状態が判断される。上記S140に次いで、又は、上記S150に次いで、ロックアップクラッチ制御部76の機能に対応するS160において、ロックアップクラッチ20cの制御すべき作動状態の判断結果に基づいてロックアップクラッチ20cが制御される。
図10において、先ず、目標駆動力算出部62の機能に対応するS210において、アクセル開度PAPがドライバ要求エンジントルクTedemdrに変換され、ドライバ要求駆動力Fdemdrの一つとして、ドライバ要求エンジントルクTedemdrと現在ギヤ段Grealとに基づいて目標駆動力Aが算出される。次いで、目標駆動力算出部62の機能に対応するS220において、目標駆動力Aと他システム目標駆動力とが調停されて調停後駆動力Amedが設定される。次いで、エンジン制御部70の機能に対応するS230において、調停後駆動力Amedに基づいて目標エンジントルクTetgtが算出される。次いで、エンジン制御部70の機能に対応するS240において、目標エンジントルクTetgtとされるようにエンジン12が制御される。
上述のように、本実施例によれば、アクセル開度PAPとドライバ要求ギヤ段Gdemdrとに基づいて算出された目標駆動力Bを用いて変速制御用要求ギヤ段Gdemshが算出され、アクセル開度PAPと目標ギヤ段Gtgtとに基づいて算出された目標駆動力Cを用いて変速制御用要求ギヤ段Gdemshへの変速が制限され、目標駆動力Cを用いてロックアップクラッチ20cの作動状態が切り替えられるので、自動変速機22の変速制御中でなければ現在ギヤ段Grealと同じになる目標ギヤ段Gtgtに基づく目標駆動力Cは現在ギヤ段Grealにおける車両10の実状態の駆動力と同じにされ易く、ロックアップクラッチ制御や変速制限制御は車両10の実状態の駆動力に応じて実行されるタイミングで実行され易くされる。よって、自動変速機22の変速が制限されても、ドライバビリティの悪化を抑制することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、図2のブロック図において、前記B60が調停状態信号Asmを出力することに替えて、前記B160が状態判定部68の機能に対応しても良い。つまり、前記B160において、目標駆動力C及び他システム目標駆動力のうちの何れが調停後駆動力Cmedに設定されたのかという調停結果を示す調停状態信号Csmが出力される。具体的には、状態判定部68は、調停後駆動力Cmedが目標駆動力Cであるか否かを判定する。状態判定部68は、調停後駆動力Cmedが目標駆動力Cであると判定した場合には、目標駆動力Cが調停後駆動力Cmedに設定されたことすなわち調停結果が目標駆動力Cであることを示す調停状態信号Csmを出力する。一方で、状態判定部68は、調停後駆動力Cmedが目標駆動力Cでないと判定した場合には、他システム目標駆動力が調停後駆動力Cmedに設定されたことすなわち調停結果が他システム目標駆動力であることを示す調停状態信号Csmを出力する。このような場合、前記B130において、ロックアップクラッチ制御部76は、調停状態信号Csmにおいて調停結果が目標駆動力Cである場合には、ロックアップクラッチ20cの制御すべき作動状態を判断するときに用いるLU線図として前記PA-LU線図を選択する。一方で、ロックアップクラッチ制御部76は、調停状態信号Csmにおいて調停結果が他システム目標駆動力である場合には、ロックアップクラッチ20cの制御すべき作動状態を判断するときに用いるLU線図として前記F-LU線図を選択する。又、図9のフローチャートにおいて、S130では、調停後駆動力Cmedが目標駆動力Cであるか否かが判定される。このようにした場合、自動変速機22の変速制御中でなければ現在ギヤ段Grealと同じになる目標ギヤ段Gtgtに基づく目標駆動力Cは現在ギヤ段Grealに基づく目標駆動力Aと同じにされ易く、調停状態信号Asmを用いたLU線図の選択と、調停状態信号Csmを用いたLU線図の選択とは同じになり易い。よって、前述の実施例と同様の効果が得られる。
また、前述の実施例では、自動変速機22は、前進6段の各ギヤ段が形成されたが、この態様に限らない。自動変速機22は、複数のギヤ段が選択的に形成される有段変速機であれば良い。
また、前述の実施例では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ20を例示したが、この態様に限らない。例えば、トルクコンバータ20に替えて、トルク増幅作用のない流体継手(フルードカップリング)などの他の流体式伝動装置が用いられても良い。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。