(実施の形態)
以下、本発明の電磁波フィルタおよび空間電磁界制御システムの実施の形態を説明する。実施の形態にかかる電磁波フィルタは、無線通信のルータやアクセスポイント(AP)からなる送信器のアンテナが出射する電波の出射方向上に設けられ、特定の通信エリアに電波を閉じ込める。電磁波フィルタは、通信エリア内ではほぼ一定な電波強度(電界)とし、通信エリア外では急激に電波強度(電界)が弱くなるように電磁波を制御することで、電波を通信エリア内に閉じ込める。
また、実施の形態にかかる空間電磁界制御システムは、上記の電磁波フィルタと、無線電波を送信する送信機と、特定の通信エリア内に位置したときに送信機が送信する電波を受信する受信機とを含む。例えば、送信機は、上記のルータやアクセスポイント(AP)であり、受信機は、特定の通信エリアに移動自在なユーザが保持する端末(スマートフォン、携帯型パーソナルコンピュータ(PC)等)である。
図1は、実施の形態にかかる電磁波フィルタを示す図である。図1(a)は一部側断面図、図1(b)は部分正面図である。図1(a)に示すように、電磁波フィルタ100は、金属板等の導電体を折り曲げることで、略波状に形成されている。導電体は、例えば、銅、アルミニウム、鉄等の金属板や、高周波基板(例えば、ガラスエポキシ等の誘電体基材(例えば、厚さ1mm))の片面または両面に設けた銅等の金属層(例えば厚さ18ミクロン)の部分を指す。
図1(a)の例では、角度θが30度であり、この場合、折り曲げられた折曲面101は、隣接する折曲面101との間で略三角形のうち2辺による逆V字形を形成し、電磁波フィルタ100は、逆V字形がX軸方向に連続して略波状に形成されている。
図1(b)には折曲面101の部分図を示す。この折曲面101には、電磁波の入射方向と直交する方向に沿って所定の幅Wおよび長さLを有するスロット102が開口形成されている。スロット102の幅Wは、電波を透過させる微小な幅(例えば2mm)程度である。スロット102の長さLは、例えば、電波(電磁波)の波長λに対し、L=λa/2の関係を有する。このスロット102は、図1(a)に示す折曲面101の奥行方向Zに所定間隔を有して複数形成されている。
図1の例では、隣接する折曲面101のいずれにもスロット102を設けるダブルスロットを説明したが、これに限らず、隣接する折曲面101の一方にのみスロット102を設けてもよい(シングルスロット)。例えば、特定の通信エリア内の形状や、通信エリア内で所望する無線電波の強度分布に応じて、ダブルスロットとシングルスロットを適宜選択できる。
また、上記の説明では、電磁波フィルタ100は、折曲面101が逆V字形であると説明したが、詳細は後述するように、最適な角度θを有して、逆V字形とV字形とを交互に組み合わせて配置した波型の形状となっている。
電磁波フィルタ100の一方の入射面100a(図下部の正面側)にはルータやAPが配置され、これらルータやAPの送信機のアンテナから放射された電波(電磁波)が入射面100aに入射される。
次に、図1〜図3を用いて、電磁波フィルタ100への電磁波の入射角度別の透過および反射の特性の概要を説明する。図1には、電磁波フィルタ100に対する電磁波の入射角度が0°、すなわち電磁波フィルタ100に対し正面方向から電磁波が入射する場合を示している。
図1の正面方向からの電磁波の入射時、電磁波フィルタ100に対して、正面方向の電磁波の波長λa/2に対して、スロット102はLsinθで傾いた状態で位置することとなり、Lsinθが小さくなる。これにより、電磁波フィルタ100は、入射面100aに対し正面方向から電磁波が入射したとき、電磁波を反射(ref.)させる割合が大きくなり、これにより透過(pass)させる割合が小さくなり、入力される電磁波のパワーを多く減衰させる。
例えば、図1に示す入射角度0°(X軸に対し90°)において、入射面100aに入力される電磁波のパワーPin=100(100%)であるとする。この場合、反射パワーPref.=100×0.8=80(80%)となり、透過パワーPpass=100×0.2=20(20%)となる。
図2は、実施の形態にかかる電磁波フィルタに対する電磁波の入射角度が斜めの場合を示す図である。図2には、X軸に対し電磁波の入射角度がθ(30°)、すなわち電磁波の波長λa/2に対し、電磁波フィルタ100のスロット102の長さLがほぼ同じ大きさで斜め方向から電磁波が入射する場合を示している。
図2の斜め方向からの電磁波の入射時、電磁波フィルタ100に対して、斜め方向の電磁波の波長λa/2に対して、スロット102のLがほぼ同じ大きさで位置することとなる。この場合、電磁波を反射(ref.)させる割合が小さくなり、これにより透過(pass)させる割合が大きくなり、入力される電磁波のパワーを多く通過させる。
例えば、図2に示す入射角度0°の場合、入射面100aに入力される電磁波のパワーPin=100のとき、反射パワーPref.=100×0.2=20となり、透過パワーPpass=100×0.8=80となる。
図3は、実施の形態にかかる電磁波フィルタに対する電磁波の入射角度がより斜めの場合を示す図である。図3の例では、X軸に対し電磁波の入射角度θが、図2よりもさらにX軸方向に傾いている場合であり(15°程度)、電磁波フィルタ100の折曲面101にあたって、スロット102部分に少ししか入射しない場合を示している。
図3のように、より斜め方向からの電磁波の入射時、電磁波フィルタ100は、入射面100aに対し斜め方向から入射する電磁波を反射(ref.)させる割合が大きくなり、これにより透過(pass)させる割合が小さくなり、入力される電磁波のパワーを多く減衰させる。
例えば、図3に示す入射角度15°の場合、入射面100aに入力される電磁波のパワーPin=100のとき、反射パワーPref.=100×0.8=80となり、透過パワーPpass=100×0.2=20となる。
図1〜図3に示すように、電磁波フィルタ100は、入射面100aに対し正面方向(X軸に対し90°)から入射される電磁波に対し反射の割合が高い。また、入射面100aに対し所定角度(例えばX軸に対しθ=30°)から入射される電磁波に対し透過の割合が高い。さらに、処置角度よりも斜めの角度(例えばX軸に対しθ=15°)から入射される電磁波に対しては反射の割合が高い。
図4(図4A,図4B)〜図6(図6A,図6B)は、実施の形態にかかる電磁波フィルタの条件別の特性例を示す図である。電磁界シミュレータを用い、送信機のアンテナに対して電磁波フィルタの角度を変えた場合の電磁波フィルタを透過した電波の電界状態を説明する。
はじめに、図4(図4A,図4B)を用いて単体のスロット102が設けられた電磁波フィルタ100(折曲面101)に対する電磁波の入射角度を変えたときの電界(E)分布を説明する。
図4A(a)に示すように、折曲面101はY軸平面上に位置し、送信機のアンテナ400は、Z軸方向に沿って27mmの長さを有するダイポールアンテナであり、Y軸方向で折曲面101の図中手前側(−30mmの位置)に位置している。折曲面101はY軸面上で縦横120mmの正方形であり、スロット102はアンテナ400の方向(偏波方向)と直交する方向に沿って27mmの開口を有している。送信機のアンテナ400から放射される電波の中心周波数f0=5GHz、入射面100aに入力される電磁波のパワーPin=1Wとした。
図4A(b)は、固定したアンテナ400に対し、電磁波フィルタ(折曲面101)をZ軸を中心にX,Y軸間で角度θを変化させた場合の電界Eを示す図表である。この電界Eは、Y軸方向で折曲面101の奥側(110mmの位置)での値である。なお、図中点線は、sinカーブの特性線である。
また、図4B(a)〜(d)は、図4A(b)に対応した電波分布であり、アンテナ400に対し、電磁波フィルタ100(折曲面101)をZ軸を中心にX,Y軸間で角度θを変化させた場合の電波分布の状態を示す図である。これらの各図には、アンテナ400と電磁波フィルタ100を含み、X軸方向に200mm、Y軸方向に160mmのエリアの電界分布を示す。
図4B(a)には、折曲面101がY軸上(X軸に対して90°)に位置しており、Z軸に沿った長さのアンテナ400の偏波方向に対して電磁波フィルタ100(スロット102)が直交した(θ=90°)状態を示す。スロット102に対して電波が真正面(θ=90°)から入射する場合、電磁波フィルタ100はスロット102を介して多くの電波を透過させる。そして、電磁波フィルタ100を透過した側(図中上部側)ではY軸に沿った範囲で透過パワーPpassが大きいことが示されている。この際、図表の最上部の位置Ya(Y=110mm)における電界は67V/mである。
図4B(b)には、折曲面101がY軸に対し60°傾いて位置した状態である。電磁波フィルタ100はスロット102を透過した左上側に透過パワーPpassの範囲が示されている。この際、図表の最上部(位置Ya)における電界は45V/mである。
図4B(c)には、折曲面101がY軸に対し30°傾いて位置した状態である。電磁波フィルタ100はスロット102を透過した左上側に透過パワーPpassの範囲が示され、図4B(b)よりも透過パワーが小さいことが示されている。この際、図表の最上部(位置Ya)における電界は10V/mである。
図4B(d)には、折曲面101がY軸に対し15°傾いて位置した状態である。電磁波フィルタ100はスロット102を透過した左側に透過パワーPpassの範囲が示され、図4B(c)よりも透過パワーが小さいことが示されている。この際、図表の最上部(位置Ya)における電界は14V/mである。
図4A(a)に示した電磁波フィルタ100のスロット102の場合、図4B(a)〜(d)に示したように、真正面(θ=90°)から電波が入射されたときには、透過率が大きい。一方、スロット102に対して一定の角度を有して電波が入射された場合には、透過率が小さくなる。
ここで、図4A(b)に示した位置Yaの電界強度Eは、Y軸に対する角度θが90°のときはE=67(V/m)であり、傾斜角度を小さくするにしたがいsinカーブに沿ってEが減少していく。角度θが30°のとき最も電界強度Eが小さく(E=10V/m)、角度θが15°のときには、再度電界強度Eが増加する(E=14V/m)。図4A(b)の特性でみると、透過波が最小で反射波が最大となる角度(θ)が30°のとき、複数スロット化時の最適値となる。
次に、図5(図5A,図5B)および図6(図6A,図6B)を用いてダブルスロットが設けられた電磁波フィルタ100(折曲面101)に対する電磁波の入射角度を変えたときの電界(E)分布を説明する。
はじめに、図5A(a)に示す電磁波フィルタ100は、金属板等を折り曲げた2つの折曲面101を有し、2つの折曲面101は、電磁波の入射方向(Y軸手前側)に凸状に突出して設けられ、各折曲面101にスロット102が形成されている。2つの折曲面101は、図1同様にY軸に対し30°ずつ傾斜している。
なお、送信機のアンテナ400は、図4Aと同様に、Z軸方向に沿って27mmの長さを有するダイポールアンテナであり、Y軸方向で折曲面101の図中手前側(−30mmの位置)に位置している。
また、2つの折曲面101はそれぞれ縦横120mmの正方形であり、スロット102はアンテナ400の方向(偏波方向)と直交する方向に沿ってそれぞれ27mmの開口を有している。送信機のアンテナ400から放射される電波の中心周波数f0=5GHz、入射面100aに入力される電磁波のパワーPin=1Wとした。
図5A(b)は、固定したアンテナ400に対し、電磁波フィルタ100をZ軸を中心にX,Y軸間で角度θを変化させた場合の電界Eを示す図表である。この電界Eは、Y軸方向で電磁波フィルタ100の奥側(110mmの位置)での値である。なお、図中点線は、sinカーブの特性線である。
また、図5B(a)〜(d)は、図5A(b)に対応した電波分布であり、アンテナ400に対し、電磁波フィルタ100をZ軸を中心にX,Y軸間で角度θを変化させた場合の電波分布の状態を示す図である。
図5B(a)には、電磁波フィルタ100がY軸上(X軸に対して90°)に位置しており、Z軸に沿った長さのアンテナ400の偏波方向に対して電磁波フィルタ100(スロット102)が直交した(θ=90°)状態を示す。スロット102に対して電波が真正面(θ=90°)から入射する場合、電磁波フィルタ100はスロット102を介して多くの電波を透過させる。そして、電磁波フィルタ100を透過した側(図中上部側)ではY軸に沿った範囲で透過パワーPpassが大きいことが示されている。
図5B(b)〜(d)は、それぞれ電磁波フィルタ100がY軸に対し60°、30°、15°傾いて位置した状態である。これらの傾きでも電磁波フィルタ100はスロット102を透過した側(図中上部側)でY軸に沿った範囲で透過パワーPpassの範囲が示されている。
この際、図表の最上部(位置Ya)における電界は、θが90°のとき70V/m、θが60°のとき60V/m、θが30°のとき35V/m、θが15°のとき25V/mである。θが小さいほどアンテナ400(ダイポールアンテナ)から見えるスロット長が短くなるため、発生電界Evが小さくなることが示されている。
次に、図6(図6A,図6B)を用いてダブルスロットが設けられた電磁波フィルタ100(折曲面101)に対する電磁波の入射角度を変えたときの電界(E)分布を説明する。
図6A(a)に示す電磁波フィルタ100は、金属板等を折り曲げた2つの折曲面101を有し、2つの折曲面101は、電磁波の入射方向(Y軸手前側)に広がる凹状に設けられ、各折曲面101にスロット102が形成されている。2つの折曲面101は、図1同様にY軸に対し30°ずつ傾斜している。
図6A(b)は、固定したアンテナ400に対し、電磁波フィルタ100をZ軸を中心にX,Y軸間で角度θを変化させた場合の電界Eを示す図表である。この電界Eは、Y軸方向で電磁波フィルタ100の奥側(110mmの位置)での値である。なお、図中点線は、sinカーブの特性線である。
また、図6B(a)〜(d)は、図6A(b)に対応した電波分布であり、アンテナ400に対し、電磁波フィルタ100をZ軸を中心にX,Y軸間で角度θを変化させた場合の電波分布の状態を示す図である。
図6B(a)には、電磁波フィルタ100がY軸上(X軸に対して90°)に位置しており、Z軸に沿った長さのアンテナ400の偏波方向に対して電磁波フィルタ100(スロット102)が直交した(θ=90°)状態を示す。スロット102に対して電波が真正面(θ=90°)から入射する場合、電磁波フィルタ100はスロット102を介して多くの電波を透過させる。そして、電磁波フィルタ100を透過した側(図中上部側)ではY軸に沿った範囲で透過パワーPpassが大きいことが示されている。
図6B(b)〜(d)は、それぞれ電磁波フィルタ100がY軸に対し60°、30°、15°傾いて位置した状態である。これらの傾きでも電磁波フィルタ100はスロット102を透過した側(図中上部側)でY軸に沿った範囲で透過パワーPpassの範囲が示されている。
この際、図表の最上部(位置Ya)における電界は、θが90°のとき65V/m、θが60°のとき62V/m、θが30°のとき40V/m、θが15°のとき10V/mである。θが小さいほどアンテナ400(ダイポールアンテナ)から見えるスロット長が短くなるため、電界Evが小さくなることが示されている。
ここで、図6A(b)には、電界分布Evrの特性と、上述した凸状の電磁波フィルタ100(図5A(b))の電界Evの特性を示している。この図6A(b)の特性でみると、θ=30°付近でθの変化に対する電界分布Evrと電界Evがバランスよく同じ値になる最適値が得られる。すなわち、電磁波フィルタ100は、ダブルスロットの構成の場合、図5(図5A(a))に示した凸状と、図6(図6A(a))に示した凹状とを組み合わせた形状が適している(図1相当)。
図7は、実施の形態にかかる電磁波フィルタによる通信エリアの説明図である。上述した凸状と凹状を組み合わせた電磁波フィルタ100の通信エリアと、各状態A〜C別の電波の強さ(電界)を示す。電磁波フィルタ100から所定距離離れた位置(図の上部)には、APのアンテナ400が設けられる。図中の数値は、例えば、電波の強度(例えば受信電力mw)である。
(1)電磁波フィルタ100部分における電波の透過および反射状態は、
状態A(θ=90°)では、受信電波の強度が100とすると、反射(Pref.)は100×0.8=80、透過(Ppass)は100×0.2=20となる。
状態B(θ=30°)では、状態AよりAP(アンテナ400)からの距離が大きいため、受信電波の強度が小さく70となった場合、反射(Pref.)は70×0.2=14、透過(Ppass)は70×0.8=56となる。
状態C(θ=15°)では、状態BよりAP(アンテナ400)からの距離が大きいため、受信電波の強度が小さく50となった場合、反射(Pref.)は×0.8=40、透過(Ppass)は×0.2=10となる。
(2)通信エリア700(および通信不能エリア701)における電波の強度は、
状態A’(θ=90°)では、AP(電磁波フィルタ100)からの距離減衰により強度は10となる。
状態B’(θ=30°)では、状態A’より電磁波フィルタ100からの距離が大きいため、強度は12となる。
状態C’(θ=15°)では、状態B’より電磁波フィルタ100からの距離が大きいため、強度は1となる。
図7に示すように実施の形態の電磁波フィルタ100によれば、通信エリア700では、ほぼ一定な強度(10〜12)の電波を受信できる。加えて、通信不能エリア701では、急激に強度が低下し(強度1)、通信できない状態が示されている。このように、実施の形態の電磁波フィルタ100によれば、通信エリア700内にユーザの端末(MS)710が位置しているときには、一定な電波強度で電波を受信できる。また、通信不能エリア701内にユーザの端末(MS)710が位置しているときには、受信電波の強度が急激に弱まり、受信できなくなるようにすることができる。すなわち、実施の形態の電磁波フィルタ100は、汎用のAP(アンテナ400)から放射された電波を所定の通信エリア700内でのみ一定な電波強度となるように放射(透過)できる。
図8(図8A,図8B)は、実施の形態にかかる電磁波フィルタを備えた空間電磁界制御システムの構成例を示す図である。図8Aは空間電磁界制御システム800の分解斜視図、図8Bは取り付け状態を示す図である。
図8Aに示すように、空間電磁界制御システム800は、送信機(AP)810と、上述した電磁波フィルタ100と、カバー820を含む。AP810は、アンテナ400からλ/4の縦偏波の電波を放射する。電磁波フィルタ100は、上述したように、AP810(アンテナ400)から所定距離離して配置され、カバー820内に収容される。カバー820は、電波を透過させる材質、例えば、ABS樹脂により電磁波フィルタ100とAP810を覆うボックス形状に成形される。なお、実施の形態では、AP810を送信機として説明するが、AP810は、後述する端末との間でデータを送受信し、受信機の機能も有している。
そして、図8Bに示すように、カバー820内に電磁波フィルタ100とAP810を収容した状態で、カバー820を所望する壁あるいは天井830の設置個所にボルト821を介して簡単に取り付けることができる。
この空間電磁界制御システム800は、汎用のAP810と、上述した電磁波フィルタ100をカバー820に収容して構成でき、簡単かつ低コストに製造できる。そして、所望の設置個所にカバー820を取り付けることで、AP810が放射する電波を、所定の通信エリア700内に位置する端末(MS)710との間でのみ通信することができるようになる。
図9は、実施の形態にかかる空間電磁界制御システムの送信機のハードウェア構成例を示す図である。送信機(AP)810は、汎用の各ハードウェア構成であり、CPU901、RAM902、RF−フロントエンド903、信号処理部904、操作部インタフェース(IF)905、LANポート906、電源ポート907、アンテナ400を含む。
CPU901は、ROMやRAM902等に格納された制御プログラムを実行し、AP810の全体を制御し、この際、RAM902を作業領域として使用する。RF−フロントエンド903は、信号処理部904の無線送受信にかかる制御により、データをアンテナ400を介して送受信する。操作部インタフェース(IF)905は、ユーザによる操作設定を行うためのインタフェースである。送受信するデータは、LANポート906を介して入出力される。AP810は、電源ポート907から供給される電源に基づき動作する。
図10は、実施の形態にかかる空間電磁界制御システムの端末のハードウェア構成例を示す図である。端末(MS)710は、CPU1001、RAM1002、RF−フロントエンド1003、信号処理部1004、操作部インタフェース(IF)1005を含む。さらに、センサ1006、スピーカ1007、マイク1008、カメラ1009、キーボード1010、ディスプレイ1011、パワーソース1012、アンテナ1013を含む。端末(MS)710は、例えば、スマートフォン等の汎用の各ハードウェア構成を有する。
CPU1001は、ROMやRAM1002等に格納された制御プログラムを実行し、端末(MS)710の全体を制御し、この際、RAM1002を作業領域として使用する。RF−フロントエンド1003は、信号処理部1004の無線送受信にかかる制御により、データをアンテナ1013を介して送受信する。操作部インタフェース(IF)1005は、ユーザによる操作設定を行うためのインタフェースである。
端末(MS)710は、CPU1001の制御により、センサ1006やマイク1008、カメラ1009、キーボード1010から入力されたデータを送信し、受信したデータをディスプレイ1011に表示する。端末(MS)710は、例えば、内蔵バッテリ等のパワーソース1012から供給される電源に基づき動作する。図10の例では、端末710としてスマートフォン等の構成例を説明したが、端末710としては、IoTセンサ等のセンサ、CPU、メモリ、RFID等を含む簡素なものも含む。
(空間電磁界制御システムによる通信エリアの電界分布のシミュレーション)
次に、空間電磁界制御システムによる通信エリアの電界分布を説明する。通信周波数f0=5GHz(λ=60mm)、電磁波フィルタ100に対する入力パワーを1Wとした。
図11は、実施の形態にかかるシミュレーションに用いた電磁波フィルタの構成例を示す図である。電磁波フィルタ100は、高さ(Z軸)と幅(X軸)が200mm×390mmであり、縦の長さ(Y軸)は26mmである。この電磁波フィルタ100は、ダブルスロットの構造により各折曲面101がY軸に対してそれぞれ30°ずつ傾斜した波状に形成されている。一つの折曲面101は縦幅が30mmであり、各折曲面101には、スロット102は27mm×2mmの開口幅を有して形成されている。各スロット102は、Z軸方向上で27mm間隔で複数設けられている。
図12は、実施の形態にかかる電磁波フィルタの電界分布のシミュレーション結果を示す図である。縦横が300mm×600mmの空間におけるX−Y平面上での電界分布を示しており、電磁波フィルタ100の電界分布は、矩形状に閉じ込められていることがわかる。すなわち、電磁波フィルタ100の幅であるX軸方向に広がりを有する電界分布を有し、電磁波フィルタ100の透過側の空間の境界(3辺)部分では同様に電界強度が低くなり、矩形状の空間に適応した電界分布が得られた。
図13〜図15(図15A,図15B)は、実施の形態にかかる電磁波フィルタを用いた際の各種アンテナ特性を示す図である。図13(a)は入力インピーダンス特性を示す複素反射係数Γの極座標図(スミスチャート)であり、特性線Sはアンテナ400との整合性が良好であることが示されている。図13(b)は入力の反射特性(S11)を示し、横軸が周波数、縦軸が反射量であり、広帯域な周波数特性を維持できることが示されている。そして、電磁波フィルタ100を用いた構成においても、共振点f0(5GHz)がずれていないことが示されている。
図14(a)はXY面のゲイン特性であり、図14(b)は3次元(3D)のゲイン特性である。これらには、所望する放射方向(+Y軸方向)に対し、−2〜4.5dBiの良好なゲイン特性が得られることが示されている。
図15A,図15Bは、電磁波フィルタ100から所定距離上の電界値を示す図である。図15Aに示すように、電磁波フィルタ100から所定距離離れた(Y=200mm)上の電界値を図15Bに示す。図15Bの横軸は空間の横方向(X軸)の距離0mm〜600mmであり、縦軸は各距離での電界強度である。図15Bに示すように、距離100〜500mmまでの所定範囲1501(400mm)においてほぼ一定な電界強度が得られている。また、この所定範囲1501(400mm)よりも外の範囲(距離0mm〜100mmと、距離500mm〜600mm)においては電界強度が急激に低下していることが示されている。
図16は、実施の形態にかかる空間電磁界制御システムの通信エリアをスケールアップした図である。ここで、実際の計算機を用いたシミュレーションでは、メモリの制約上数mの範囲の空間の計算は不可能であり、図示の例では、スケールアップした縦横の所定範囲(1500mm×3000mm)の通信エリアの構築例を示している。
図16の例では、解析空間(300mm×600mm)を約5倍にスケールアップした場合を示す。AP810のアンテナ400と電磁波フィルタ100の間の距離を30mm、電磁波フィルタ100と通信エリア700の間の距離を1200mmとした。このスケールアップにより、電界一定な通信エリア700の範囲はX軸方向に1000mmが得られる。なお、図16の例は、通信周波数(f0)が5GHzの例であるため、例えば、f0が2.4GHzであれば図16の各数値は約2倍となり、通信エリア700の範囲はX軸方向に約2000mmとなる。
図17は、実施の形態にかかる空間電磁界制御システムの複数の通信エリアを示す図である。この図17には、図16に示すスケールアップした各通信エリアをX軸方向に複数配置した状態を示す(f0=5GHz)。このように、複数の通信エリア700(A,B,C,…)を少しの間隔を有して隣接して設けることで、各通信エリア700内だけでの通信を行うことができるようになる。図17の例では、通信エリア700(B)は、隣接する通信エリア700(A)と、通信エリア700(C)の干渉を受けることがない。
図18は、実施の形態にかかる空間電磁界制御システムの複数の通信エリアの構築例を示す図である。図18(a)は実施の形態にかかる電磁波フィルタ100を用いた通信エリアである。図18(b)は比較用の従来のダイポールアンテナによる通信エリアである。これらの図は、いずれも電界分布のシミュレーション結果であり、縦横(X,Y)の範囲は5m×20mである。
図18(a)の上半部には2つの通信エリアに対応して、2つのAP810(アンテナ400)を所定距離(10m)離して隣接配置した状態を示す。ここで、AP810(アンテナ400)をY軸方向で異なる位置に配置し、また、放射方向が対向する方向となっている。また、図18(a)の下半部には一つのAP810(アンテナ400)のみを配置した状態を示す。
この図18(a)に示すように、隣接する通信エリア700(A)、通信エリア700(B)は、それぞれX軸方向に6mの範囲を有し、通信エリア700の両端にはそれぞれ0.5mずつ(計1m)の通信不能エリア701を有する。この場合、AP810(アンテナ400)は、それぞれX軸方向に7mまで狭めることもでき、隣接する通信エリア700(A)、通信エリア700(B)間の干渉を防いで事故の通信エリア700内だけでの通信が可能となる。
これに対し、図18(b)に示す従来のダイポールアンテナ(アンテナ400)では、下半部の図に示すように、通信エリア1800の両端から通信不能エリア1801がX軸方向にそれぞれ長い距離で位置している。ここで、図18(a)に示すように、実施の形態と同様にAP810(アンテナ400)を10mの間隔で配置したとする。この場合、通信エリア1800(A)の通信不能エリア(ガードエリア)1801が他の通信エリア1800(B)に重なってしまう。同様に、通信エリア1800(B)のガードエリア1801が他の通信エリア1800(A)に重なってしまう。
これにより、従来技術では、一つの通信エリア1800(A)が隣接する他の通信エリア1800(B)に干渉し、一つの通信エリア1800内だけでの通信ができなくなる。この場合、各通信エリア1800毎に異なる暗号化を施す等の対策が必要となり、セキュリティを確保しなければならなくなる。
図19は、実施の形態にかかる電磁波フィルタを用いた通信エリアを説明する図である。図19を用いて、実施の形態にかかる電磁波フィルタ100を用いた通信エリアと、従来技術のアンテナによる通信エリアとを比較する。図19(a)は、実施の形態にかかる電磁波フィルタ100を用いた電界分布を示す図である。図19(b)は、従来のダイポールアンテナによる電界分布を示す図、図19(c)は、従来の平面状のパッチアンテナによる電界分布を示す図である。
図19(a)に示すように、実施の形態にかかる電磁波フィルタ100の電界分布は、矩形状に閉じ込められている。この場合、電磁波フィルタ100の幅であるX軸方向に広がりを有する電界分布を有し、電磁波フィルタ100の透過側の空間の境界(3辺)部分では同様に電界強度が低くなり、矩形状の空間に適応した電界分布が得られている。
これに対し、図19(b)に示すダイポールアンテナ400のみの電界分布では、アンテナ400から放射される電波は、放射状(略円形状)に広がる形となる。このダイポールアンテナ400のみでは、例えば、X軸上の端部(0mm,600mm)においても、所定の電界強度を有しており、矩形のエリア内に電波を閉じ込めることができない。図19(c)に示すパッチアンテナ1901についても同様に、パッチアンテナ1901から放射される電波は、放射状に広がる形となり、矩形のエリア内に電波を閉じ込めることができない。
このように、実施の形態にかかる電磁波フィルタ100を用いることで、アンテナ400から放射された電波を部屋などの矩形のエリアに閉じ込めることができる。
図20は、実施の形態にかかる電磁波フィルタの幅の大きさを変えたときの電界分布を示す図である。上述した説明では、電磁波フィルタ100の幅(X軸)を390mmとしたが、図20では電磁波フィルタ100の幅を630mmとし、空間のエリアの幅は700mmとした。電磁波フィルタ100の幅を大きくしたとき、幅(X軸)両端部での電界の強度をより急激に小さくできるようになる。したがって、電磁波フィルタ100の幅は大きい方が矩形の通信エリア内に電波をより閉じ込めることができるようになる。電磁波フィルタ100の幅(X軸)は、空間電磁界制御システム800(カバー820)の幅に相当するため、実用性の観点から適宜な幅とすることが望ましい。
図21は、実施の形態にかかる電磁波フィルタの高さを変えた状態を示す図である。上述した説明では、電磁波フィルタ100の高さ(Z軸)を26mmとした(図11参照)。図21(a)は、電磁波フィルタ100の高さ(Z軸)を140mm、図21(b)は、電磁波フィルタ100の高さ(Z軸)を90mmとした。この場合の電界分布は、いずれも上述した電界分布(図19等参照)とほぼ同様であった。このように、電磁波フィルタ100の高さ(Z軸)が大小いずれであってもXY面内の電界分布は変わらない。
図22は、実施の形態にかかる空間電磁界制御システムの適用例を示す図である。実施の形態の空間電磁界制御システム800によれば、下記1.〜3.に適用できる。
1.隣接する所望の通信エリア毎に電波的な閉空間を構築することができる。
2.所望エリア外へ不要放射を防ぎ、公共の場での傍受リスクを低減できる。
3.電磁波が懸念される空間への無線環境の提供が行える。
上記1.については、例えば、図22(a)に示すように、工場の各製造ライン(レーン)L1〜L3毎に、レーンL1〜L3上で搬送されるIoTセンサ(端末710に相当)を搭載した部品や資材の管理を行うことができる。
レーンL1〜L3毎に上述した空間電磁界制御システム800(AP810と電磁波フィルタ100を収容するカバー820)を配置する。これにより、レーンL1〜L3でそれぞれ独立した通信エリア700を構築できる。例えば、レーンL1上で搬送されるIoTセンサ(端末710に相当)は、通信エリア700に位置した際にレーンL1上のAP810と通信を行うことができる。この際、IoTセンサ(端末710に相当)は、他のレーンL2,L3のAP810の通信エリア700には位置しておらず、これら他のレーンL2,L3のAP810とは通信を行わない。レーンL1の通信エリア700内での電波は、隣接する他のレーンL2,L3の通信エリア700に漏れないため、レーンL1でのAP810とIoTセンサ(端末710に相当)との間の通信データのセキュリティを確保できる。さらに、特別な暗号化等のセキュリティ対策も不要にできる。
また、レーンへの適用例に限らず、展示場や水族館等での隣接する各ブース毎の情報提供、同一事務所内で隣接する異部門(机の島)でのセキュリティ確保にも適用できる。また、同一ビル内で隣接する異店舗でのセキュリティ確保、展示会やフェスタの混雑した入場ゲートでチェック対象者だけの読取管理、にも適用できる。
上記2.については、例えば、駅や空港の待合室、電車や航空機のシート、飲食店等の座席に適用することができる。例えば、図22(b)に示すように、電車の各シートN1〜N3毎に天井あるいは床面に、上述した空間電磁界制御システム800(AP810と電磁波フィルタ100を収容するカバー820)を配置する。これにより、シートN1〜N3でそれぞれ独立した通信エリア700を構築できる。そして、シートN1の通信エリア700内での電波は、隣接する他のシートN2,N3の通信エリア700に漏れないため、シートN1でのAP810とユーザの端末710(MS)との間の通信データのセキュリティを確保できる。さらに、特別な暗号化等のセキュリティ対策も不要にできる。
上記3.については、例えば、病院やサーバルーム等に適用できる。実施の形態によれば、所定のエリアのみ通信エリア700を構築できるため、病院内の診療用の機器や、サーバに対して不要な電磁波を与えない。すなわち、実施の形態によれば、病院やサーバルーム内においても、電波を閉じ込めた通信エリア700を構築することができる。
以上説明した実施の形態の電磁波フィルタは、アンテナの電波の出射方向上に設けられ、電界分布を制御する。この電磁波フィルタは、導電体からなり、複数の折曲面と、折曲面に開口形成されたスロットとを有し、所定の通信エリア内をほぼ一定な電界にする。また、通信エリア外で急激に電界を弱くする。これにより、電波を通信エリア内に閉じ込めることができる。
このような電磁波フィルタを汎用の無線ルータやAPと組み合わせることで、通信エリア外への電波の漏れを簡単な構成で防ぐことができ、また、セキュリティ性を向上できるようになる。例えば、異なる無線通信システムの端末やセンサが互いに干渉しないよう通信エリアを分けて配置できるようになる。この場合、異なる無線通信システム別の暗号化等の手段を不要にできる。
また、折曲面は、アンテナの電波の入射方向に対し所定の角度を有し、スロットは、アンテナの偏波方向と直交する方向に所定の長さで開口され、長さは、電波の波長のおよそ1/2としてもよい。また、折曲面の角度は、スロットを単体としたとき、透過波が最も小さく、反射波が最も大きくなる角度にしてもよい。これにより、アンテナの電波の出射方向上に位置するスロットは、電波の透過率が小さく、反射率が大きい。さらに、所定角度を有する部分の折曲面のスロットは、アンテナから斜めに入射される電波の透過率が大きく、反射率は小さい。アンテナからさらに斜めに入射される電波は透過率が小さく、反射率が大きくなる。これにより、固定位置のアンテナから出射される電波が各スロット別に異なる角度で透過あるいは反射して各スロット部分を透過後の電波の強さを制御でき、所定形状の通信エリアを構築できるようになる。
例えば、電磁波フィルタは、折曲面が電波の入射方向に対し所定の角度を有するV字形および逆V字形を交互に組み合わせて配置した略波型の形状とすることができる。例えば、折曲面の角度は30°である。また、電磁波フィルタの折曲面の角度は、通信エリア内の電界分布と電界強度に基づく所定角度にしてもよい。これにより、例えば、略矩形状の通信エリアを構築できるようになる。
また、電磁波フィルタの折曲面全体の幅は、通信エリアの大きさに応じた所定の幅とすることができる。電磁波フィルタを幅方向に大きくすることで、通信エリアに対する電波の回り込みを抑制できるようになる。
また、実施の形態の空間電磁界制御システムは、上記の電磁波フィルタと、アンテナを備えたアクセスポイントと、アクセスポイントおよび電磁波フィルタを収容するカバーで構成できる。カバーは、所定の通信エリアを構築する箇所に簡単に取り付けることができる。また、移動可能な端末は、通信エリア内に位置した状態のときのみ、アクセスポイントと通信することができる。
また、通信エリアを所定の間隔を有して複数隣接して配置することで、通信エリアに位置する端末は、この通信エリアのアクセスポイントのみと通信を行うことができる。各通信エリアは隣接する通信エリアに対して干渉しないため、通信エリアごとに異なる暗号化等の手段を不要にしてもセキュリティを維持できる。
また、複数の通信エリアは、通信エリアの両端に位置する所定の電界を有する通信不能エリアが、隣接する他の通信エリアの通信不能エリアと重ならない間隔を有して配置してもよい。これにより、できるだけ通信エリアを近接させることができる。言い換えれば、隣接するアクセスポイントの距離をできるだけ近接させることができるようになり、小さい空間においても通信エリアを区切って配置できるようになる。