(第1実施形態)
以下、本発明に係る燃料噴射弁の異常判定装置(以下、単に異常判定装置という)を具体化した各実施形態を図面に基づいて説明する。以下に説明する異常判定装置は、車両用のエンジン(内燃機関)に搭載されたものであり、当該エンジンには、複数の気筒#1〜#4について高圧燃料を噴射して圧縮自着火燃焼させるディーゼルエンジンを想定している。
図1は、上記エンジンの各気筒#1〜#4に搭載された複数の燃料噴射弁10、各々の燃料噴射弁10に搭載された燃圧センサ20、及び異常判定装置であるECU30等を備えた燃料噴射システム100を示す模式図である。燃料噴射システム100は、車両用のエンジンに搭載されている。
燃料噴射システム100は、コモンレール式の燃料噴射システムであり、燃料タンク40内の燃料が、燃料ポンプ41により汲み上げられてコモンレール42に圧送されて高圧状態で貯留され、コモンレール42のオリフィス42aから燃料配管42bを介して各気筒#1〜#4の燃料噴射弁10に分配供給される。複数の燃料噴射弁10は、予め設定された順番で燃料の噴射を順次行う。なお、燃料ポンプ41にはプランジャポンプが用いられているため、プランジャの往復動に同期して燃料は圧送される。
燃料噴射弁10は、以下に説明するボデー11、ニードル形状の弁体12及びアクチュエータ13等を備えて構成されている。ボデー11は、内部に高圧通路11aを形成するとともに、燃料を噴射する噴孔11bを形成する。弁体12は、ボデー11内に収容されて噴孔11bを開閉する。
ボデー11内には弁体12に背圧を付与する背圧室11cが形成されており、高圧通路11a及び低圧通路11dは背圧室11cと接続されている。高圧通路11a及び低圧通路11dと背圧室11cとの連通状態は制御弁14により切り替えられており、電磁コイルやピエゾ素子等のアクチュエータ13に通電して制御弁14を図1の下方に押し下げ駆動させると、背圧室11cは低圧通路11dと連通して背圧室11c内の燃料圧力Pは低下する。その結果、弁体12に付与される背圧力が低下して弁体12はリフトアップ(開弁駆動)する。これにより、弁体12のシート面12aがボデー11のシート面11eから離座して、噴孔11bからエンジンに燃料が噴射される。
一方、アクチュエータ13への通電をオフして制御弁14を図1の上方に駆動させると、背圧室11cは高圧通路11aと連通して背圧室11c内の燃料圧力Pは上昇する。その結果、弁体12に付与される背圧力が上昇して弁体12はリフトダウン(閉弁駆動)する。これにより、弁体12のシート面12aがボデー11のシート面11eに着座して、噴孔11bからの燃料噴射が停止される。
したがって、ECU30がアクチュエータ13への通電を制御することで、弁体12の開閉駆動が制御される。これにより、コモンレール42から高圧通路11aに供給された高圧燃料は、弁体12の開閉駆動に応じて噴孔11bから噴射される。
燃圧センサ20は、各々の燃料噴射弁10に搭載されており、燃料噴射弁10に供給される燃料の圧力を検出する。燃圧センサ20は、以下に説明するステム21(起歪体)及び燃圧センサ素子22を備える。ステム21はボデー11に取り付けられており、ステム21に形成されたダイヤフラム部21aが、高圧通路11aを流通する高圧燃料の圧力を受けて弾性変形する。燃圧センサ素子22はダイヤフラム部21aに取り付けられており、ダイヤフラム部21aで生じた弾性変形量に応じて圧力検出信号をECU30に出力する。
ECU30は、アクセルペダルの操作量やエンジン負荷、エンジン回転速度等に基づき要求噴射状態として、例えば要求噴射量Qkや噴射時間TQを算出する。噴射時間TQは、噴射パルスとして出力される駆動信号Sm(図2(a)参照)のオン時間(すなわち通電時間)の長さを示す時間である。例えば、ECU30は、エンジン負荷及びエンジン回転速度に対応する最適噴射状態が記憶された噴射状態マップを記憶している。ECU30は、現状のエンジン負荷及びエンジン回転速度に基づき、噴射状態マップを参照して要求噴射状態を算出する。ECU30は、算出した要求噴射状態に対応する要求噴射量Qkを実現する駆動信号Smを生成し、燃料噴射弁10に出力することで燃料噴射弁10の駆動を制御する。
また、図2に示すように、ECU30は、燃圧センサ20の検出値に基づき、燃料圧力Pの変化を圧力波形Pwとして検出し、噴射に伴い生じた燃料の圧力降下量に基づき燃料の噴射率波形Qwを算出する。圧力降下量は、所定の要求燃料圧力Ptgからの圧力の降下量を意味する。ECU30は、算出した噴射率波形Qwから実噴射量Qrを算出する。
ところで、燃料噴射弁10では、噴孔11bのデポジットの堆積等により、要求噴射量Qkと実噴射量Qrとに差分(ずれ)ΔQが生じることがあり、その差分ΔQを補正するために、噴射時間TQの補正値である噴射補正時間ΔTQが算出される。この場合、要求噴射量Qkに基づいて算出された噴射時間TQが噴射補正時間ΔTQにより補正され、補正後の噴射時間TQに基づいて駆動信号Smが設定される。そして、算出された噴射補正時間ΔTQが所定の第1閾値Le1よりも大きくなった場合には、対応する燃料噴射弁10に異常があると判定され、この燃料噴射弁10を交換する旨が判定される。本実施形態において、噴射補正時間ΔTQが「相関値」及び「噴射ずれ量」に相当する。
噴射補正時間ΔTQはエンジンの運転期間に対応して単調増加すると考えられる。そのため、エンジンに設けられた複数の燃料噴射弁10の1つに異常があると判定された場合には、他の燃料噴射弁10の噴射補正時間ΔTQも第1閾値Le1近くまで増加していることが想定される。この場合に、異常があると判定された燃料噴射弁10のみが交換されると、近い将来、他の燃料噴射弁10を交換する必要が生じ、燃料噴射弁10の交換が高頻度となるおそれがある。
他方で、噴射補正時間ΔTQの増加には燃料噴射弁10ごとに個体差があるため、複数の燃料噴射弁10の1つに異常があると判定された場合であっても、他の燃料噴射弁10の噴射補正時間ΔTQが第1閾値Le1近くまで増加していないことがある。この場合に、全ての燃料噴射弁10が交換されると、燃料噴射弁10が無駄に交換される。
本実施形態のECU30は、上記問題を解決するために異常判定処理を実施する。異常判定処理は、複数の燃料噴射弁10のいずれかについて交換する旨が判定された場合に、その燃料噴射弁10以外の燃料噴射弁10について、噴射補正時間ΔTQが、第1閾値Le1よりも小さい第2閾値Le2よりも大きければ、当該燃料噴射弁10を交換する旨を判定し、噴射補正時間ΔTQが、第2閾値Le2よりも小さければ、当該燃料噴射弁10を交換しない旨を判定する処理である。これにより、燃料噴射弁10の交換の要否を適切に判定することができる。
異常判定処理は、異常検出処理と、交換判定処理とを含む。以下では、異常検出処理、交換判定処理の順に説明する。
まず、異常検出処理について説明する。異常検出処理は、交換判定処理のトリガーとなる燃料噴射弁10の異常を検出する処理である。異常検出処理は、ECU30により、エンジンの駆動中に繰り返し実施される。
図3は、異常検出処理の手順を示すフローチャートである。異常検出処理を開始すると、まずステップS10において、エンジンが運転中であるかを判定する。エンジンを搭載された車両のIGスイッチがオンされている場合に、エンジンが運転中であると判定する。ステップS10で否定判定すると、異常検出処理を終了する。
ステップS10で肯定判定すると、ステップS12で、燃料噴射弁10ごとに、各燃料噴射弁10の燃料圧力Pが所定の要求燃料圧力Ptgで安定状態であるかを判定する。所定の要求燃料圧力Ptgは、要求噴射状態に対応する燃料圧力Pであり、安定状態とは、一定の期間に亘って、燃料圧力Pが要求燃料圧力Ptgを中心とする所定範囲内にあることを意味する。複数の燃料噴射弁10のいずれかについて安定状態でないと判定された場合に否定判定する。ステップS12で否定判定すると、異常検出処理を終了する。
一方、複数の燃料噴射弁10の全てについて安定状態であると判定された場合に肯定判定する。ステップS12で肯定判定すると、ステップS14で、燃料噴射弁10による燃料噴射の実施時において燃圧センサ20により検出された圧力波形Pwを取得する。
ステップS16において、燃料噴射弁10ごとに、実噴射量Qrを算出する。図2に示すように、燃圧センサ20により検出された圧力波形Pwより噴射率波形Qwを算出し、算出した噴射率波形Qwを噴射率波形Qwの変動期間に亘って積分することで実噴射量Qrを算出する。なお、噴射率波形Qwの算出は、公知の方法に従って行うことができる。本実施形態において、ステップS16の処理が「実噴射量算出部」に相当する。
ステップS18において、燃料噴射弁10ごとに、差分ΔQを算出する。続くステップS20において、燃料噴射弁10ごとに、噴射補正時間ΔTQを算出する。本実施形態において、ステップS18の処理が「ずれ量算出部」に相当する。噴射補正時間ΔTQは、例えば、前回の異常検出処理で算出された噴射補正時間ΔTQである前回噴射補正時間ΔTQpと、ステップS18で算出された差分ΔQに相当するずれ時間ΔTZとを用いて、以下のように算出することができる。
ΔTQ=(n−1)/n×ΔTQp+ΔTZ(n:自然数)・・・(式1)
なお、燃料噴射システム100では、要求噴射量Qkと実噴射量Qrとが一致するようにフィードバック制御が実施されており、ステップS20で算出された噴射補正時間ΔTQは、要求噴射量Qkと実噴射量Qrとを一致させるためのフィードバック制御の補正量として使用される。
ステップS22において、燃料噴射弁10ごとに、ステップS20で算出された噴射補正時間ΔTQを内部のEEPROM(登録商標)等に記憶する。噴射補正時間ΔTQは、噴射補正時間ΔTQが算出された噴射における要求噴射量Qk及び燃料圧力P(例えば、要求燃料圧力Ptg)に関連つけて記憶される。本実施形態において、ステップS22の処理が「記憶部」に相当する。
噴射補正時間ΔTQの記憶には、学習マップが用いられる。図4に示すように、学習マップでは、噴射補正時間ΔTQの記憶領域が、要求噴射量Qkに対応させて複数の領域に区分されているとともに、燃料圧力Pに対応させて複数の領域に区分されている。噴射補正時間ΔTQは、要求噴射量Qk及び燃料圧力Pにより定められた複数の領域ごとに記憶される。
ステップS24において、燃料噴射弁10ごとに、ステップS20で算出された噴射補正時間ΔTQが所定の第1閾値Le1よりも大きいかを判定する。所定の第1閾値Le1は、エンジンの正常運転が可能な最大の噴射時間TQmaxに基づいて定められる。複数の燃料噴射弁10の全てについて噴射補正時間ΔTQが第1閾値Le1よりも小さい場合に否定判定する。ステップS24で否定判定すると、異常検出処理を終了する。
一方、複数の燃料噴射弁10のいずれかについて、噴射補正時間ΔTQが第1閾値Le1よりも大きい場合に肯定判定する。ステップS24で肯定判定すると、ステップS26でMIL(Malfunction Indicator Lump)を点灯させ、異常検出処理を終了する。これにより、車両がユーザにより修理工場等のサービスステーションに持ち込まれ、サービスステーションにおいて交換判定処理が実施される。
図5は、交換判定処理の手順を示すフローチャートである。交換判定処理は、燃料噴射弁10の異常の発生に伴い、交換対象の燃料噴射弁10(以下、単に交換対象という)を判定する処理である。交換判定処理は、サービスステーションにおける専用の制御装置(図示せず)からの指示を受けたECU30により実施される。なお、交換判定処理は、車両を停止させ、かつ、エンジンを運転させた状態、つまり、アイドル状態において実施される。
交換判定処理を開始すると、まずステップS40において、各燃料噴射弁10の燃料圧力Pを所定の第1要求燃料圧力Ptg1に設定する。所定の第1要求燃料圧力Ptg1は、車両のアイドリング時の燃料圧力Pであり、例えば30MPaである。続くステップS42で、燃料噴射弁10ごとに、各燃料噴射弁10の燃料圧力Pが第1要求燃料圧力Ptg1で安定状態であるかを判定する。複数の燃料噴射弁10のいずれかについて安定状態でないと判定された場合に否定判定する。ステップS42で否定判定すると、ステップS44で第1異常が発生していると判定し、交換判定処理を終了する。
ここで、第1異常とは、例えば燃料配管42bの凹みや亀裂により、燃料噴射弁10の燃料圧力Pに脈動が生じたり、燃料噴射弁10の燃料圧力Pが十分に上昇しない異常である。第1異常が発生している場合には、燃料噴射弁10に異常が発生していなくても、燃料噴射弁10が正常な噴射をすることができない。この場合、第1異常の原因が除去された後に、再び異常判定処理が実施され、燃料噴射弁10の異常が判定される。
一方、複数の燃料噴射弁10の全てについて安定状態であると判定された場合に肯定判定する。ステップS42で肯定判定すると、ステップS46で、燃料噴射弁10による燃料噴射の実施時において燃圧センサ20により検出された圧力波形Pwを取得する。
ステップS48において、燃料噴射弁10ごとに、燃圧センサ20により検出された圧力波形Pwに噴射波形が含まれているかを判定する。具体的には、圧力波形Pwに、燃料噴射弁10の駆動信号Smに対応する立ち下がり波形Wd、及び、立ち上がり波形Wu(図2参照)が観測されるかを判定する。図2(c)に破線F1で示すように、複数の燃料噴射弁10のいずれかについて圧力波形Pwに噴射波形が含まれていない場合に否定判定する。ステップS48で否定判定すると、ステップS50で第2異常が発生していると判定し、交換判定処理を終了する。本実施形態において、ステップS48の処理が「波形判定部」に相当する。
ここで、第2異常とは、例えばECU30と燃料噴射弁10とを接続する信号線の断線や、燃料噴射弁10への異物の混入等の突発的な異常である。第2異常が発生している場合には、燃料噴射弁10が噴射をすることができない。この場合、第2異常の原因が除去された後に、再び異常判定処理が実施され、他の燃料噴射弁10の異常が判定される。
一方、図2(c)に実線F2で示すように、複数の燃料噴射弁10の全てについて圧力波形Pwに噴射波形が含まれている場合に肯定判定する。ステップS48で肯定判定すると、ステップS52で各燃料噴射弁10の燃料圧力Pを所定の第2要求燃料圧力Ptg2に設定する。所定の第2要求燃料圧力Ptg2は、所定の高速走行状態の燃料圧力Pであり、例えば170MPaである。なお、所定の高速走行状態は、車速が所定速度(例えば80km/h)以上となる状態を意味する。
続くステップS54〜58において、燃料噴射弁10から燃料を噴射させ、噴射に伴う圧力波形Pwに噴射波形が含まれているかを判定する。なお、ステップS54〜58の処理は、前述のステップS42、46、48の処理と略同一の処理であり、重複した説明を省略する。ステップS48、S58において、複数の燃料噴射弁10の全てについて圧力波形Pwに噴射波形が含まれていることを条件に、ステップS60に進み、燃料噴射弁10の交換の要否を判定する。
ステップS60において、燃料噴射弁10ごとに、噴射補正時間ΔTQの代表値ΔTQrを選択する。代表値ΔTQrは、学習マップにおける複数の領域に記憶されている噴射補正時間ΔTQから選択される。具体的には、領域ごとに記憶された複数の噴射補正時間ΔTQのうち、最も大きい噴射補正時間ΔTQmaxを代表値ΔTQrとして選択する。
ステップS62において、燃料噴射弁10ごとに、ステップS60で選択された代表値ΔTQrが第1閾値Le1よりも大きいかを判定する。複数の燃料噴射弁10の全てについて代表値ΔTQrが第1閾値Le1よりも小さい場合に否定判定する。ステップS62で否定判定すると、交換判定処理を終了する。
一方、複数の燃料噴射弁10のいずれかについて代表値ΔTQrが第1閾値Le1よりも大きい場合に肯定判定する。ステップS62で肯定判定すると、ステップS63に進み、ステップS62で代表値ΔTQrが第1閾値Le1よりも大きいと判定された燃料噴射弁10を、交換対象と判定する。つまり、代表値ΔTQrが第1閾値Le1よりも大きいことに基づいて、当該燃料噴射弁10を交換する旨を判定する。本実施形態において、ステップS62の処理が「第1判定部」に相当する。
続くステップS64において、ステップS62で代表値ΔTQrが第1閾値Le1よりも大きいと判定された燃料噴射弁10以外の燃料噴射弁(以下、非異常燃料噴射弁という)10について、ステップS60で選択された代表値ΔTQrが所定の第2閾値Le2よりも大きいかを判定する。所定の第2閾値Le2は、第1閾値Le1よりも小さい期間であって、車両が所定期間(例えば半年、又は、車両が10000km走行する期間)使用された場合に、代表値ΔTQrが第1閾値Le1よりも大きくなることが予想される期間である。
ステップS64では、非異常燃料噴射弁10ごとに、代表値ΔTQrが第2閾値Le2よりも大きいかを判定し、この判定に基づいて、非異常燃料噴射弁10ごとに、交換対象とするかを判定する(S66、S68)。具体的には、ステップS64で肯定判定すると、ステップS66で、ステップS64で代表値ΔTQrが第2閾値Le2よりも大きいと判定された非異常燃料噴射弁10を、交換対象と判定し、交換判定処理を終了する。つまり、代表値ΔTQrが、第2閾値Le2よりも大きければ、当該燃料噴射弁10を交換する旨を判定する。
一方、ステップS64で否定判定すると、ステップS68で、ステップS64で代表値ΔTQrが第2閾値Le2よりも小さいと判定された非異常燃料噴射弁10を、交換対象でない燃料噴射弁10(以下、非交換対象という)と判定し、交換判定処理を終了する。つまり、代表値ΔTQrが第2閾値Le2よりも小さければ、当該燃料噴射弁10を交換しない旨を判定する。本実施形態において、ステップS66、S68の処理が「第2判定部」に相当する。
続いて、図6に、異常判定処理の判定結果の一例を示す。図6では、(a)、(b)で示された2つの場合の判定結果が示されている。図6では、各気筒#1〜#4の燃料噴射弁10に対応する代表値ΔTQrが閾値Le1、Le2よりも大きいものが「〇」と示されており、閾値Le1、Le2よりも小さいものが「×」と示されており、判定対象でないものが「−」と示されている。また、図6では、各気筒#1〜#4の燃料噴射弁10が交換対象と判定されたものが「〇」と示されており、非交換対象と判定されたものが「×」と示されている。
図6(a)には、各気筒#1〜#4の燃料噴射弁10の噴射補正時間ΔTQの増加速度にあまり差がない場合の判定結果を示す。この場合、図7(a)に示すように、気筒#1に対応する代表値ΔTQrが第1閾値Le1よりも大きく、気筒#2〜#4に対応する代表値ΔTQrが第1閾値Le1よりもわずかに小さく、かつ、第2閾値Le2よりも大きい(図8のタイミングt参照)。
図8に示すように、噴射補正時間ΔTQは、エンジンの運転期間に対応して単調増加する。したがって、図6(a)に示す場合において、気筒#1の燃料噴射弁10のみが交換されると、図7(a)に破線で示されるように、車両が所定期間使用された場合に、気筒#2〜#4に対応する代表値ΔTQrが第1閾値Le1よりも大きくなり、気筒#2〜#4の燃料噴射弁10を交換する必要が生じる。つまり、燃料噴射弁10の交換が高頻度となる。
本実施形態によれば、図6(a)に示す場合において、気筒#1〜#4の燃料噴射弁10の全てが交換対象と判定されるので、燃料噴射弁10の交換が高頻度となることが抑制される。
図6(b)には、各気筒#1〜#4の燃料噴射弁10の噴射補正時間ΔTQの増加速度に差がある場合の判定結果を示す。この場合、図7(b)に示すように、気筒#1に対応する代表値ΔTQrが第1閾値Le1よりも大きく、気筒#2〜#4に対応する代表値ΔTQrが第2閾値Le2よりも小さい。
そのため、図7(b)に破線で示されるように、車両が所定期間使用された場合でも、気筒#2〜#4に対応する代表値ΔTQrが第1閾値Le1よりも大きくならない。したがって、図6(b)に示す場合において、気筒#1〜#4の燃料噴射弁10の全てが交換されると、気筒#2〜#4の燃料噴射弁10がまだ使用できるのにもかかわらず、無駄に交換されることとなる。
本実施形態によれば、図6(b)に示す場合において、気筒#1の燃料噴射弁10のみが交換対象と判定されるので、燃料噴射弁10が無駄に交換されることが抑制される。
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
本実施形態では、ある燃料噴射弁10の噴射補正時間ΔTQが第1閾値Le1よりも大きく、当該燃料噴射弁10を交換する旨が判定された場合には、非異常燃料噴射弁10の噴射補正時間ΔTQが第2閾値Le2よりも大きければ、当該非異常燃料噴射弁10を交換する旨を判定する(図6(a)参照)。これにより、噴射補正時間ΔTQが第1閾値Le1近くまで増加している燃料噴射弁10をまとめて交換することができ、燃料噴射弁10の交換頻度を抑制できる。また、非異常燃料噴射弁10の噴射補正時間ΔTQが第2閾値Le2よりも小さければ、当該非異常燃料噴射弁10を交換しない旨を判定する(図6(b)参照)。これにより、噴射補正時間ΔTQが第1閾値Le1近くまで増加していない燃料噴射弁10が、無駄に交換されることを抑制できる。これにより、燃料噴射弁10の交換の要否を適切に判定することができる。
ここで、噴射補正時間ΔTQは、要求噴射量Qk及び燃料圧力Pにより異なる。本実施形態では、噴射補正時間ΔTQが、要求噴射量Qk及び燃料圧力Pにより定められた複数の領域ごとに記憶される。そのため、要求噴射量Qk及び燃料圧力Pに対応した噴射補正時間ΔTQに基づいて、燃料噴射弁10の交換の要否を適切に判定することができる。
特に本実施形態では、複数の領域に記憶されている噴射補正時間ΔTQのうち、最も大きい噴射補正時間ΔTQを代表値ΔTQrとして選択し、この代表値ΔTQrに基づいて、燃料噴射弁10の交換の要否を判定する。そのため、最も大きい噴射補正時間ΔTQに基づいて、燃料噴射弁10の交換の要否を正確に判定することができる。
噴射補正時間ΔTQは、実噴射量Qrから算出される。そのため、異物混入等により燃料噴射弁10に開異常又は閉異常が生じている場合には、燃料噴射弁10から燃料を噴射することができないため、実噴射量Qrを算出することができず、噴射補正時間ΔTQを算出することができない。
本実施形態では、圧力波形Pwに立ち下がり波形Wnや立ち下がり波形Wd等の噴射波形が観測されると判定されたことを条件に、燃料噴射弁10の交換の要否を判定する。
要求噴射量Qkと実噴射量Qrとの差分ΔQは、噴孔11bのデポジットの堆積による噴孔11bの詰まり以外を要因として生じることも考えられる。この場合、噴孔11bの詰まり以外を要因とする場合には、燃料噴射に伴う圧力波形Pwが正しく観測されないことがあると考えられる。
この点、本実施形態では、燃料噴射弁10の交換の要否を判定する条件を、圧力波形Pwに立ち下がり波形Wnや立ち下がり波形Wd等の噴射波形が観測されると判定されたこと、とした。これにより、噴孔11bの詰まりに起因して差分ΔQが生じている状況において、燃料噴射弁10の交換の要否を正確に判定することができる。
(第2実施形態)
次に第2実施形態に係る燃料噴射システム100について図9を用いて説明する。第2実施形態に係る燃料噴射システム100は、第1実施形態に係る燃料噴射システム100と比べて、異常判定処理が異なる。以下では、第2実施形態の異常判定処理について説明する。
図9に示すように、第2実施形態の異常判定処理が、第1実施形態の異常判定処理と異なる点は、異常判定処理が異常検出処理と交換判定処理とに分かれておらず、1つの連続した処理である点、及び、第1異常及び第2異常を判定しない点である。なお、図9において、先の図3、5で説明した内容と同一の内容については、説明を省略する。
異常検出処理は、ECU30により、エンジンの駆動中に繰り返し実施される。異常検出処理において、ステップS26でMILが点灯させると、ステップS60に進み、燃料噴射弁10の交換の要否を判定する。MILの点灯により、車両がユーザによりサービスステーションに持ち込まれると、サービスステーションにおける専用の制御装置は、ECU30から、異常判定処理の判定結果を読み出し、交換対象を特定する。
以上説明したように、本実施形態では、車両がユーザによりサービスステーションに持ち込まれる前に、交換対象を判定することができる。これにより、燃料噴射弁10の交換の要否を早期に判定することができる。
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、次のように実施されてもよい。
実噴射量Qrが、噴射率波形Qwから算出される例を示したが、これに限られない。例えば、気筒#1〜#4ごとの燃焼に伴い生じるシリンダ容積の増減変化に伴うエンジン回転速度(瞬時回転速度)から、実噴射量Qrを算出してもよい。
噴射補正時間ΔTQが、要求噴射量Qkと実噴射量Qrとの差分ΔQに相関する噴射時間TQの補正値である例を示したが、これに限られない。噴射補正時間ΔTQは、差分ΔQそのものであってもよければ、差分ΔQに相関する燃料圧力Pの補正値であってもよい。
燃料噴射弁10ごとに、代表値ΔTQrが第1閾値Le1よりも大きいかを判定することは、各燃料噴射弁10における代表値ΔTQrのそれぞれを第1閾値Le1と比較することに限られない。例えば、燃料噴射弁10ごとに選択された複数の代表値ΔTQrから、最も大きい代表値ΔTQrを選択しておき、この最も大きい代表値ΔTQrを第1閾値Le1と比較してもよい。これにより、各燃料噴射弁10における代表値ΔTQrのそれぞれを第1閾値Le1と比較する場合に比べて、異常判定処理の処理負担を軽減することができる。
学習マップが、要求噴射量Qk及び燃料圧力Pにより定められた複数の領域に区分されている例を示したが、これに限られない。学習マップは、要求噴射量Qk及び燃料圧力Pの一方により定められた複数の領域に区分されていてもよい。
代表値ΔTQrが、要求噴射量Qk及び燃料圧力Pにより定められた複数の領域ごとに記憶された複数の噴射補正時間ΔTQのうち、最も大きい噴射補正時間ΔTQである例を示したが、これに限られない。代表値ΔTQrは、複数の領域ごとに記憶された複数の噴射補正時間ΔTQの平均値でもよければ、中間値でもよい。
また、代表値ΔTQrは、複数の領域のうちの所定の特定領域に記憶された複数の噴射補正時間ΔTQのうち、最も大きい噴射補正時間ΔTQであってもよい。所定の特定処理は、例えば高速走行状態など、車両においてユーザにより使用される頻度が高い領域である。これにより、ユーザにより高頻度に使用される特定領域の噴射補正時間ΔTQに基づいて、燃料噴射弁10の交換の要否を正確に判定することができる。
交換判定処理が、サービスステーションにおける専用の制御装置からの指示を受けたECU30により実施される例を示したが、これに限られない。例えば、交換判定処理が、サービスステーションにおける専用の制御装置により実施されてもよい。この場合、ECU30とサービスステーションにおける専用の制御装置とをあわせたものが、異常判定装置に相当する。