以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、各図面において、同一のまたは対応する構成については同一のまたは対応する符号を付して説明を省略する。
図1は、一実施形態によるニッケル含有水酸化物の製造方法のフローチャートである。図1に示すように、ニッケル含有水酸化物の製造方法は、中和晶析によりニッケル含有水酸化物の粒子を得るものであって、ニッケル含有水酸化物からなる核を生成させる核生成工程S11と、核を成長させる粒子成長工程S12とを有する。以下、各工程について説明するが、その前に、得られるニッケル含有水酸化物について説明する。
<ニッケル含有水酸化物>
ニッケル含有水酸化物は、リチウムイオン二次電池の正極活物質の前駆体として用いられるものである。ニッケル含有水酸化物は、例えば、(1)ニッケル(Ni)とコバルト(Co)とアルミニウム(Al)とを、物質量比(mol比)がNi:Co:Al=1−x−y:x:y(ただし、0≦x≦0.3、0.005≦y≦0.15)となるように含むニッケル複合水酸化物であるか、または(2)ニッケル(Ni)とコバルト(Co)とマンガン(Mn)とM(Mは、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、およびWから選択される1種以上の添加元素)とを、物質量比(mol比)がNi:Co:Mn:M=x:y:z:t(ただし、x+y+z+t=1、0.1≦x≦0.7、0.1≦y≦0.5、0.1≦z≦0.8、0≦t≦0.02)となるように含むニッケルコバルトマンガン複合水酸化物である。
一実施形態によるニッケル含有水酸化物に含まれる水酸化物イオンの量は、通常、化学量論比を持つが、本実施形態に影響のない程度で過剰でもよいし、欠損していてもよい。また、本実施形態に影響のない程度で水酸化物イオンの一部は、アニオン(例えば、炭酸イオンや硫酸イオンなど)に置き換わっていてもよい。
なお、一実施形態によるニッケル含有水酸化物は、X線回折(XRD)測定によって、ニッケル含有水酸化物の単相(または、主成分がニッケル含有水酸化物)であればよい。
ニッケル含有水酸化物は、ニッケルを含有し、好ましくはニッケル以外の金属をさらに含有する。ニッケル以外の金属をさらに含有する水酸化物を、ニッケル複合水酸化物と呼ぶ。ニッケル複合水酸化物の金属の組成比(例えば、Ni:Co:Mn:M)は、得られる正極活物質においても維持されるので、正極活物質に要求される金属の組成比と一致するように調整される。
<ニッケル含有水酸化物の製造方法>
ニッケル含有水酸化物の製造方法は、上述の如く、核生成工程S11と、粒子成長工程S12とを有する。本実施形態では、バッチ式の撹拌槽を用いて、撹拌槽内の水溶液のpH値などを制御することで、核生成工程S11と、粒子成長工程S12とを分けて実施する。
核生成工程S11では、核の生成が核の成長(粒子成長)よりも優先して起こり、生成した核はほとんど成長しない。一方、粒子成長工程S12では、粒子成長が核生成よりも優先して起こり、新しい核はほとんど生成されない。核生成工程S11と粒子成長工程S12とを分けて実施することで、粒度分布の範囲が狭く均質な核が形成でき、その後に、核を均質に成長させることができる。
以下、核生成工程S11および粒子成長工程S12について説明する。核生成工程S11における撹拌槽内の水溶液と、粒子成長工程S12における撹拌槽内の水溶液とでは、pH値の範囲が異なるが、アンモニウムイオン濃度の範囲や温度の範囲は実質的に同じであってよい。
なお、本実施形態では、バッチ式の撹拌槽を用いるが、連続式の撹拌槽を用いてもよい。後者の場合、核生成工程S11と粒子成長工程S12とは、同時に実施される。この場合、撹拌槽内の水溶液のpH値の範囲は当然に同じになり、例えば、12.0の近傍に設定されてよい。
(核生成工程)
まず、原料液を調製する。原料液は、少なくともニッケル塩を含み、好ましくはニッケル塩以外の金属塩をさらに含有する。金属塩としては、硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩などが用いられる。より具体的には、例えば、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸マンガン、硫酸コバルト、硫酸アルミニウム、硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸クロム、クロム酸カリウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、シュウ酸ニオブ、モリブデン酸アンモニウム、硫酸ハフニウム、タンタル酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム、またはタングステン酸アンモニウムなどが用いられる。
原料液の金属の組成比(例えば、Ni:Co:Mn:M)は、得られるニッケル複合水酸化物においても維持されるので、ニッケル複合水酸化物に要求される組成比と一致するように調整される。
また、撹拌槽内に、錯化剤、中和剤、および水を供給して混合した水溶液を溜める。混合した水溶液を、以下、「反応前水溶液」と呼ぶ。
錯化剤は、撹拌槽内の水溶液中でニッケルイオンなどの金属イオンと結合して錯体を形成できるものであればよい。錯化剤としては、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液が用いられる。アンモニウムイオン供給体は、撹拌槽内の水溶液中でニッケルアンミン錯体([Ni(NH3)6]2+)を形成するものが用いられる。アンモニウムイオン供給体としては、例えば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、またはフッ化アンモニウムなどが使用できる。なお、本実施形態では、錯化剤として、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液が用いられるが、エチレンジアミン四酢酸、ニトリト三酢酸、ウラシル二酢酸、またはグリシンなどが用いられてもよい。これらのうち、取り扱いの容易性などの点から、錯化剤としては、アンモニアを含む水溶液(アンモニア水)を用いることが好ましい。
中和剤は、金属塩または金属塩から生成される錯体と反応して金属水酸化物を生成するものであればよい。また、中和剤は、水溶液のpHを調整するpH調整剤としても用いられる。中和剤としては、アルカリ水溶液を含むものが用いられる。アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物を含むものが用いられる。アルカリ金属水酸化物は、固体として供給してもよいが、水溶液として供給することが好ましい。
反応前水溶液のpH値は、液温25℃基準で、12.0〜14.0、好ましくは12.3〜13.5の範囲内に調節しておく。また、反応前水溶液中のアンモニウムイオン濃度は、好ましくは3〜25g/L、より好ましくは5〜20g/L、さらに好ましくは5〜15g/Lの範囲内に調節しておく。さらに、反応前水溶液の温度は、好ましくは20〜60℃、より好ましくは35〜60℃の範囲内に調節しておく。なお、反応前水溶液のpH値、アンモニウムイオン濃度、および温度は、それぞれ、公知のpH計、イオンメータ、および温度計などにより測定できる。
反応前水溶液のpH値、アンモニウムイオン濃度、および温度などの調節後、反応前水溶液を撹拌しながら原料液を撹拌槽内に供給する。これにより、撹拌槽内には、反応前水溶液と原料液とが混合した反応水溶液が形成される。反応水溶液では、原料液と錯化剤および中和剤とを反応させると、中和晶析によってニッケル含有水酸化物が生成される。この結果、ニッケル含有水酸化物からなる微細な核が生成され、核生成工程S11が開始される。
核生成工程S11では、以下の2通りの経路で、ニッケル含有水酸化物が生成される。1つ目の経路では、原料液に含まれるニッケル塩を含む金属塩が中和剤であるアルカリ水溶液と反応して、ニッケル含有水酸化物が生成される。例えば、原料液に含まれるニッケルイオンが水酸化ナトリウムの水酸基と下記式(1)のように反応して、ニッケル水酸化物が生成される。2つ目の経路では、まず、原料液に含まれるニッケル塩のニッケルなどのイオンや金属塩の金属イオンが錯化剤のアンモニアなどと結合して、錯体を形成する。その後、錯体が中和剤であるアルカリ水溶液と反応して、ニッケル含有水酸化物が生成される。例えば、原料液に含まれるニッケルイオンが反応水溶液中のアンモニアと下記式(2−1)のように反応して、ニッケルアンミン錯体([Ni(NH3)6]2+)が形成される。その後、ニッケルアンミン錯体が水酸化ナトリウムの水酸基と下記式(2−2)のように反応して、ニッケル水酸化物が生成される。
Ni2++2OH-→Ni(OH)2 ・・・(1)
Ni2++6NH3→[Ni(NH3)6]2+ ・・・(2−1)
[Ni(NH3)6]2++2OH-→Ni(OH)2+6NH3 ・・・(2−2)
反応水溶液のpH値、アンモニウムイオン濃度、および温度は、反応前水溶液のpH値、アンモニウムイオン濃度、および温度と同じ範囲内に維持されるように調整する。
核生成工程S11において、反応水溶液のpH値が12.0以上であれば、核生成が粒子成長よりも支配的になる。核生成工程S11において、反応水溶液のpH値が14.0以下であれば、核が微細化し過ぎることを防止でき、反応水溶液のゲル化を防止できる。核生成工程S11において、反応水溶液のpH値の変動幅(最大値と最小値の幅)は、好ましくは0.4以下である。
核生成工程S11において、反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度が3g/L以上であると、金属イオンの溶解度を一定に保持でき、形状および粒径が整った核が生成しやすい。核生成工程S11において、反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度が25g/L以下であると、析出せずに液中に残る金属イオンが減り、生産効率が向上する。核生成工程S11において、反応水溶液のアンモニウムイオン濃度の変動幅(最大値と最小値の幅)は、好ましくは5g/L以下である。
核生成工程S11において、反応水溶液の温度が20℃以上であれば、ニッケル含有水酸化物の溶解度が大きいため、核発生が緩やかに生じ、核発生の制御が容易である。反応水溶液の温度が60℃以下であれば、錯化剤に含まれるアンモニアの揮発が抑制できるため、錯化剤の使用量が削減でき、製造コストが低減できる。
核生成工程S11では、反応水溶液のpH値、アンモニウムイオン濃度、および温度が上記範囲内に維持されるように、撹拌槽内に、原料液の他に、錯化剤、および中和剤を供給する。これにより、反応水溶液中で、核の生成が継続される。そして、所定の量の核が生成されると、核生成工程S11を終了する。所定量の核が生成したか否かは、金属塩の供給量によって推定できる。
(粒子成長工程)
核生成工程S11の終了後、粒子成長工程S12の開始前に、撹拌槽内の反応水溶液のpH値を、液温25℃基準で、10.5〜12.0、好ましくは11.0〜12.0、かつ、核生成工程S11におけるpH値よりも低く調整する。このpH値の調整は、撹拌槽内への中和剤の供給を停止すること、金属塩の金属を水素と置換した無機酸(例えば、硫酸塩の場合、硫酸)を撹拌槽内へ供給することなどで調整できる。
反応水溶液のpH値、アンモニウムイオン濃度、および温度などの調節後、反応水溶液を撹拌しながら原料液を撹拌槽内に供給する。これにより、中和晶析によって粒子成長が始まり、粒子成長工程S12が開始される。なお、本実施形態では、核生成工程S11と粒子成長工程S12とを、同一の撹拌槽で行うが、異なる撹拌槽で行ってもよい。
粒子成長工程S12において、反応水溶液のpH値が12.0以下であってかつ核生成工程S11におけるpH値よりも低ければ、新たな核はほとんど生成せず、核生成よりも粒子成長の方が優先して生じる。
なお、pH値が12.0の場合は、核生成と粒子成長の境界条件であるため、反応水溶液中に存在する核の有無により、優先順位が変わる。例えば、核生成工程S11のpH値を12.0より高くして多量に核生成させた後、粒子成長工程S12でpH値を12.0とすると、反応水溶液中に多量の核が存在するため、粒子成長が優先する。一方、反応水溶液中に核が存在しない状態、すなわち、核生成工程S11においてpH値を12.0とした場合、成長する核が存在しないため、核生成が優先する。その後、粒子成長工程S12においてpH値を12.0より小さくすれば、生成した核が成長する。核生成と粒子成長を明確に分離するためには、粒子成長工程のpH値を核生成工程のpH値より0.5以上低くすることが好ましく、1.0以上低くすることがより好ましい。
また、粒子成長工程S12において、反応水溶液のpH値が10.5以上であれば、アンモ二アによる溶解度が低いため、ニッケル水酸化物が生成されずに液中に残る金属イオンが減り、生産効率が向上する。
粒子成長工程S12では、反応水溶液のpH値、アンモニウムイオン濃度、および温度が上記範囲内に維持されるように、撹拌槽内に、原料液の他に、錯化剤、または中和剤を供給する。これにより、反応水溶液中で、粒子成長が継続される。
粒子成長工程S12は、撹拌槽内の雰囲気を切り換えることで前半と後半とに分けることができる。粒子成長工程S12の前半の雰囲気は、核生成工程S11と同様に、酸化性雰囲気とされる。酸化性雰囲気の酸素濃度は、1容量%以上、好ましくは2容量%以上、より好ましくは10容量%以上である。酸化性雰囲気は、制御が容易な大気雰囲気(酸素濃度:21容量%)であってよい。酸化性雰囲気の酸素濃度の上限は、特に限定されるものではないが、30容量%以下である。一方、粒子成長工程S12の後半の雰囲気は、非酸化性雰囲気とされる。非酸化性雰囲気の酸素濃度は、1容量%未満、好ましくは0.5容量%以下、より好ましくは0.3容量%以下である。非酸化性雰囲気の酸素濃度は、酸素ガスまたは大気と、不活性ガスとを混合することにより制御する。
図2は、一実施形態による粒子成長工程S12の前半で形成される凝集体を模式化した断面図である。図3は、一実施形態による粒子成長工程S12の後半で形成される外殻を模式化した断面図である。
粒子成長工程S12の前半では、核が成長することで種晶粒子2が形成され、種晶粒子2がある程度大きくなると、種晶粒子2同士が衝突するようになり、複数の種晶粒子2からなる凝集体4が形成される。一方、粒子成長工程S12の後半では、凝集体4の周りに緻密な外殻6が形成される。その結果、凝集体4と外殻6とで構成される、ニッケル含有水酸化物の粒子が得られる。
なお、ニッケル含有水酸化物の粒子の構造は、図3に示す構造に限定されない。例えば、核生成工程S11と粒子成長工程S12とが同時に実施される場合、中和晶析の完了時に得られる粒子の構造は、図3に示す構造とは別の構造である。その構造は、例えば、種晶粒子2に相当するものと外殻6に相当するものとが混じり合い、容易にその境界が分からない一様な構造となる。
ニッケル含有水酸化物の粒子が所定の粒径まで成長した時点で、粒子成長工程S12を終了させる。その粒径は、核生成工程S11と粒子成長工程S12のそれぞれにおける金属塩の供給量から推測できる。
なお、核生成工程S11の終了後、粒子成長工程S12の途中で、原料液などの供給を停止すると共に反応水溶液の撹拌を停止して、ニッケル含有水酸化物の粒子を沈降させた後、上澄み液を排出してもよい。これにより、中和晶析によって減少した反応水溶液中の金属イオン濃度を高めることができる。
図4は、一実施形態によるニッケル含有水酸化物の製造方法に用いられる化学反応装置を示す上面図である。図5は、図4のI−I線に沿った化学反応装置の断面図である。図4および図5に示すように、化学反応装置10は、撹拌槽20と、撹拌翼30と、撹拌軸40と、バッフル50とを有する。撹拌槽20は、円柱状の内部空間に反応水溶液を収容する。撹拌翼30は、撹拌槽20内の反応水溶液を撹拌させる。撹拌翼30は、撹拌軸40の下端に取付けられる。モータなどが撹拌軸40を回転させることで、撹拌翼30が回転される。撹拌槽20の中心線、撹拌翼30の中心線、および撹拌軸40の中心線は、一致してよく、鉛直とされてよい。バッフル50は、邪魔板とも呼ばれる。バッフル50は、撹拌槽20の内周面から突き出しており、回転流を邪魔することで上昇流や下降流を生じさせ、反応水溶液の撹拌効率を向上させる。
また、化学反応装置10は、原料液供給管60と、中和剤供給管62と、錯化剤供給管64とを有する。原料液供給管60は、添加口61から撹拌槽20内に原料液を供給する。中和剤供給管62は、添加口63から撹拌槽20内に中和剤を供給する。錯化剤供給管64は、撹拌槽20内に錯化剤を供給する。
本発明者は、様々な構造の化学反応装置で、普遍的に、中和晶析の完了時に得られるニッケル含有水酸化物の粒子の品質を向上できる条件を検討した。その結果、核生成工程S11および粒子成長工程S12において、原料液供給管60の添加口61から原料液が反応水溶液中に添加されると、金属塩と中和剤および錯化剤とが反応してニッケル含有水酸化物が生成され、添加口61付近に高過飽和領域12(図6および図7参照)が形成されることに着目した。
核生成工程S11において、添加口61付近に形成される高過飽和領域12(図6参照)の体積が大きいと、反応水溶液の単位体積当たりにおいて生成される核の数が増大する。その結果、粒子成長工程S12において、反応水溶液の単位体積当たりに生じる種晶粒子2や凝集体4の数が増大するため、凝集体4の回りに形成される外殻6の厚さが薄くなり、ニッケル含有水酸化物の粒子の外表面に大きな凹凸が発生する。また、粒子成長工程S12において、添加口61付近に形成される高過飽和領域12(図7参照)の体積が大きいと、核生成工程S11で生成した核に供給される金属塩が多くなり、核の粒子成長の速度が大きくなる。その結果、析出する外殻6の結晶の成長方位が変化し易いため、外殻6内に空隙が発生するなど疎な結晶からなる外殻6が生じやすい。これにより、ニッケル含有水酸化物の粒子には、密度の異なる複数の層からなる年輪状の構造が生じ易い。
そこで、核生成工程S11および粒子成長工程S12において、反応水溶液に占める、原料液供給管60の添加口61から反応水溶液の中に形成される高過飽和領域12(図6および図7参照)の体積割合を調整することで、品質の良いニッケル含有水酸化物の粒子を製造できることを見出した。
核生成工程S11と粒子成長工程S12のそれぞれの場合において、原料液供給管60の添加口61付近に形成される高過飽和領域12(図6および図7参照)について説明する。本実施形態では、核生成工程S11において、添加口61付近に形成される高過飽和領域12を、「第1高過飽和領域12A」という。粒子成長工程S12において、添加口61付近に形成される高過飽和領域12を、「第2高過飽和領域12B」という。以下、第1高過飽和領域12Aおよび第2高過飽和領域12Bをまとめて、単に、高過飽和領域12という場合がある。
まず、核生成工程S11において、原料液供給管60の添加口61付近に形成される第1高過飽和領域12A(図6参照)について説明する。図6は、核生成工程S11において反応水溶液中の添加口61付近に形成される第1高過飽和領域12Aの一例を示す図である。図6中、矢印方向は、原料液供給管60の添加口61付近における反応水溶液の流れの方向を表す。
核生成工程S11において、原料液が添加口61から撹拌槽20内の反応水溶液中に添加されると、添加口61付近で原料液中の金属塩が中和剤および錯化剤と中和反応して、ニッケル含有水酸化物を生成する。これにより、図6に示すように、添加口61から反応水溶液の中に、ニッケル含有水酸化物のモル濃度が高い第1高過飽和領域12Aが形成される。核は、主に第1高過飽和領域12Aにおいて生成される。第1高過飽和領域12Aにおいて生成された核は、反応水溶液全体に分散する。核生成工程S11において、反応水溶液に占める第1高過飽和領域12Aの体積が大きいと、反応水溶液中には、より多くの核が生成し易くなる。
第1高過飽和領域12Aは、反応水溶液中に溶けているニッケル含有水酸化物のモル濃度が5.0mol/m3以上である領域を意味する。第1高過飽和領域12Aでは、ニッケル含有水酸化物のモル濃度が溶解度よりも十分に高いので、ニッケル含有水酸化物からなる核の生成が有意な速さで生じる。なお、第1高過飽和領域の濃度の下限値が、後述する第2高過飽和領域の濃度の下限値よりも高い理由は、核生成が生じる下限濃度は粒子成長が生じる下限濃度よりも高いためである。
ここで、溶解度とは、水100gに溶けるニッケル含有水酸化物の限界量(g/100g−H2O)を意味する。水酸化ニッケル(Ni(OH)2)の溶解度は、例えば、10-7(g/100g−H2O)である。このように、ニッケル含有水酸化物の溶解度は、ゼロに近いので、第1高過飽和領域12Aのモル濃度の下限値5.0mol/m3に比べ無視できるほど小さい。
核生成工程S11における、反応水溶液に占める第1高過飽和領域の体積割合(以下、第1体積割合と呼ぶ)は、0.100%未満であることが好ましい。第1体積割合が0.100%未満であれば、中和晶析の完了時に得られるニッケル含有水酸化物の粒子の外表面の凸凹の発生を抑制できる。この理由は、下記のように推定される。
第1体積割合が0.100%未満であれば、反応水溶液の単位体積当たりの核の発生数が少ない。そのため、粒子成長工程S12の前半において、反応水溶液の単位体積当たりの種晶粒子2の数も少なく、複数の種晶粒子2からなる凝集体4の数も少ない。その結果、粒子成長工程S12の後半において、凝集体4の周りに形成される外殻6の厚さが厚くなる。
外殻6の厚さが厚くなるのは、外殻6の成長の起点となる凝集体4の数が多い場合と、少ない場合とで、個々の凝集体4に対する外殻6を形成するニッケル含有水酸化物の供給割合が異なるためである。凝集体4の数が少ない場合、凝集体4の数が多い場合に比べて、個々の凝集体4に対する外殻6を形成するニッケル含有水酸化物の供給割合が高い。そのため、凝集体4の数が少ない場合、個々の凝集体4の外殻6を厚くすることができる。
よって、第1体積割合を0.100%未満とすることにより、核の発生数を抑えることができるので、凝集体4の外表面の凸凹を厚い外殻6で被覆できる。その結果、最終的に得られるニッケル含有水酸化物の粒子の外表面の凸凹を低減できる。
中和晶析の完了時に得られるニッケル含有水酸化物の粒子の外表面の凸凹を低減する観点からは、第1体積割合は小さいほど好ましい。第1体積割合は、好ましくは0.070%以下、より好ましくは0.050%以下、さらに好ましくは0.030%以下である。但し、第1体積割合は、好ましくは0.004%以上である。これは、第1体積割合は、後述するように、添加口61付近の反応水溶液の流速uおよび乱流拡散係数Kに依存し、反応水溶液の流速uおよび乱流拡散係数Kは撹拌軸40を回転させるモータの容量などの制約を受けるためである。
核生成工程S11では、一つの添加口61から原料液を反応水溶液中に吐出して、第1高過飽和領域12Aの数は1つとしているが、複数の添加口61から原料液を分けて反応水溶液中に吐出して、第1高過飽和領域12Aの数を複数としてもよい。これにより、効率的に第1体積割合を小さくできる。なお、第1高過飽和領域12Aの数が複数である場合、第1高過飽和領域12Aの体積とは、複数の領域の合計の体積を意味する。このとき、複数の添加口61から吐出される複数の第1高過飽和領域12Aが重ならないように、複数の添加口61の間隔が設定されることが好ましい。
次に、粒子成長工程S12において、原料液供給管60の添加口61付近に形成される第2高過飽和領域12B(図7参照)について説明する。図7は、粒子成長工程S12において反応水溶液中の添加口61付近に形成される第2高過飽和領域12Bの一例を示す図である。図7中、矢印方向は、原料液供給管60の添加口61付近における反応水溶液の流れの方向を表す。
粒子成長工程S12において、原料液供給管60の添加口61から原料液を撹拌槽20内の反応水溶液に添加すると、添加口61付近で、金属塩が中和剤および錯化剤と反応してニッケル含有水酸化物を生成する。これにより、図7に示すように、第2高過飽和領域12Bが形成される。ニッケル含有水酸化物の核は、反応水溶液が撹拌されているため、反応水溶液全体に分散しており、主に第2高過飽和領域12Bを通過する際に成長する。粒子成長工程S12において、反応水溶液に占める第2高過飽和領域12Bが大きいと、ニッケル含有水酸化物の粒子には年輪状の構造が発生し易くなる。
第2高過飽和領域12Bとは、反応水溶液中に溶けているニッケル含有水酸化物のモル濃度が1.7mol/m3以上である領域を意味する。第2高過飽和領域12Bでは、ニッケル含有水酸化物のモル濃度が溶解度よりも十分に高いので、粒子成長が有意な速さで生じる。なお、上述の通り、ニッケル含有水酸化物の溶解度は、ゼロに近いので、第2高過飽和領域12Bのモル濃度の下限値1.7mol/m3に比べ無視できるほど小さい。
粒子成長工程S12における、反応水溶液に占める第2高過飽和領域12B(図7参照)の体積割合(以下、第2体積割合と呼ぶ)は、0.624%未満であることが好ましい。第2体積割合が0.624%未満であれば、最終的に得られる、ニッケル含有水酸化物の粒子の内部の密度を略均一にすることができる。この理由は、下記のように推定される。
第2体積割合が0.624%未満であれば、核の粒子成長を緩やかに生じさせることができるため、結晶成長方位の変化やその変化に伴う空隙の発生などを抑制できると推定される。そのため、ニッケル含有水酸化物の粒子には、密度の異なる複数の層からなる年輪状の構造が発生することを抑制できる。
なお、この効果は、核生成工程S11と粒子成長工程S12とが同時に行われる場合にも得られる。この場合、反応水溶液中で、核の生成と、生成した核の成長とが同時に起こって、ニッケル含有水酸化物の粒子が生成される。
中和晶析の完了時に得られる、ニッケル含有水酸化物の粒子に年輪状の構造が発生することを抑制する観点からは、第2体積割合は小さいほど好ましい。第2体積割合は、好ましくは0.600%以下、より好ましくは0.500%以下、さらに好ましくは0.400%以下である。但し、上記体積割合は、好ましくは0.004%以上である。これは、上記体積割合は、後述するように、添加口61付近の反応水溶液の流速uおよび乱流拡散係数Kに依存し、反応水溶液の流速uおよび乱流拡散係数Kは撹拌軸40を回転させるモータの容量などの制約を受けるためである。
粒子成長工程S12では、一つの添加口61から原料液を反応水溶液中に吐出して、第2高過飽和領域12Bの数は1つとしているが、複数の添加口61から原料液を分けて反応水溶液中に吐出して、第2高過飽和領域12Bの数を複数としてもよい。これにより、効率的に第2体積割合を小さくできる。なお、第2高過飽和領域12Bの数が複数である場合、第2高過飽和領域12Bの体積とは、複数の領域の合計の体積を意味する。このとき、複数の添加口61から吐出される複数の第2高過飽和領域12Bが重ならないように複数の添加口61の間隔が設定されることが好ましい。
高過飽和領域12は、図6および図7に示すように、原料液供給管60の添加口61から反応水溶液の中に設けられる。添加口61は反応水溶液の流れ場に設置されているため、高過飽和領域12の体積などは流れ場の影響を受ける。流れ場は、撹拌翼30の回転数の他、撹拌翼30のタイプや翼径、撹拌槽20の容積などにより変化する。撹拌槽20内の反応水溶液の流れ場に影響を与える条件を、撹拌条件という。
ところで、反応水溶液は、撹拌槽20内で撹拌翼30によって撹拌されているが、撹拌条件が同一であっても、反応水溶液の場所によって、反応水溶液の流れ場が異なる。反応水溶液に占める高過飽和領域12(図6および図7参照)の体積割合は、反応水溶液の流れ場による影響を受けるため、上記体積割合は、原料液の添加口61付近の反応水溶液の流れ場により変動する。本発明者は、反応水溶液の流れ場のパラメータとして、反応水溶液の流れの速さ(流速)u(単位:m/s)および乱流拡散係数K(単位:m2/s)に注目した。そして、中和剤が添加される領域の、反応水溶液の流速uと乱流拡散係数Kとの積uKが、上記体積割合に影響を与えることに着目した。uKの値が小さい領域に原料液を添加すると、上記体積割合は大きくなる。核生成工程S11において上記体積割合が大きくなると、中和晶析の完了時に得られるニッケル含有水酸化物の粒子の外表面に大きな凸凹が生じやすい。粒子成長工程S12において上記体積割合が大きくなると、ニッケル含有水酸化物の粒子に年輪状の構造が発生し易くなる。
そこで、核生成工程S11および粒子成長工程S12において、uKの値が大きな領域に添加口61を配置して、原料液を添加口61から反応水溶液に添加することにより、添加口61付近に形成される高過飽和領域12(図6および図7参照)の体積割合を小さくできることを見出した。
反応水溶液のuKの値の大きさと高過飽和領域12(図6および図7参照)の大きさとの関係について説明する。反応水溶液のuKの値、および高過飽和領域12(図6および図7参照)の体積は、後述するように、シミュレーションを実施することにより求めることができる。
反応水溶液の所定の位置に添加口61を設けた場合の、添加口61付近のuKの値と、高過飽和領域12の体積V1および体積V2との関係を表1〜表3に示す。表1は、反応水溶液の乱流拡散係数Kが同じであって流速uが異なる条件となる場合の、添加口61付近のuKの値と、高過飽和領域12(図6および図7参照)の体積V1および体積V2との関係を示す。表2は、反応水溶液の流速uが同じであって乱流拡散係数Kが異なる条件となる場合の、添加口61付近のuKの値と、高過飽和領域12(図6および図7参照)の体積V1および体積V2との関係を示す。表3は、反応水溶液の流速uおよび乱流拡散係数Kが異なるが、uKの値が同じ値になる条件となる場合の、添加口61付近のuKと、高過飽和領域12(図6および図7参照)の体積V1および体積V2との関係を示す。表1〜表3中、例1〜例10は、撹拌槽20内の反応水溶液の所定の流れ場の位置である。例1の反応水溶液の流速u、乱流拡散係数K、uK、並びに高過飽和領域12(図6および図7参照)の体積V1および体積V2は、それぞれ、流速u0、乱流拡散係数K0、u0K0、並びに高過飽和領域12(図6および図7参照)の体積V10および体積V20として、基準値(1.0)とする。例2〜例10の反応水溶液の流速u、乱流拡散係数K、uK、並びに高過飽和領域12(図6および図7参照)の体積V1および体積V2は、それぞれ、流速u0、乱流拡散係数K0、u0K0、並びに体積V10および体積V20で規格化して表す。
表1〜表3から明らかなように、原料液の添加口61付近の領域のuKの値が大きいほど、添加口61付近の高過飽和領域12(図6および図7参照)の体積V1、V2が小さくなる傾向が見られる。原料液の添加口61付近の領域のuKの値が同じ時は、添加口61付近の高過飽和領域12(図6および図7参照)の体積V1、V2も殆ど同じ値になる傾向が見られる。より詳細には、高過飽和領域12(図6および図7参照)の体積V1および体積V2は、添加口61付近の領域のuKに、誤差±10%の範囲内で反比例する。なお、この傾向は、反応水溶液の流速uまたは乱流拡散係数Kを変更しても同様に見られる。
本実施形態では、添加口61を、反応水溶液のuKの値が反応水溶液のuKの最大値uKmaxに対して所定値以上となる領域に設け、原料液は、添加口61より、反応水溶液のuKの値が反応水溶液のuKの最大値uKmaxに対して所定値以上となる領域に添加する。これにより、撹拌動力を高めなくても、添加口61付近に形成される高過飽和領域12(図6および図7参照)の体積V1および体積V2の体積割合を小さくできる。
所定値は、核生成工程S11では、30%であり、粒子成長工程S12では、30%である。原料液供給管60の添加口61は、撹拌槽20がバッチ式の場合、核生成工程S11と粒子成長工程S12とで、反応水溶液のuKの値が所定値以上となる領域内に位置するように、変えてもよい。
核生成工程S11の場合、添加口61は、好ましくはuKの値がuKの最大値uKmaxに対して35%以上となる領域、より好ましくはuKの値がuKの最大値uKmaxに対して40%以上となる領域、さらに好ましくはuKの値がuKの最大値uKmaxに対して50%以上となる領域に設け、原料液を添加する。これにより、反応水溶液に占める第1高過飽和領域12A(図6参照)の体積V1の体積割合をより小さくできる。
粒子成長工程S12の場合、添加口61は、好ましくはuKの値がuKの最大値uKmaxに対して35%以上となる領域、より好ましくはuKの値がuKの最大値uKmaxに対して40%以上となる領域、さらに好ましくはuKの値がuKの最大値uKmaxに対して50%以上となる領域に設け、原料液を添加する。これにより、反応水溶液に占める第2高過飽和領域12B(図7参照)の体積V2の体積割合をより小さくできる。
uKの値がuKの最大値uKmaxに対して所定値以上となる領域は、撹拌槽20内を循環している反応水溶液の水流の方向によって異なる。撹拌槽20内の反応水溶液が撹拌翼30の回転により撹拌されることで、図8に示すように、撹拌軸40に沿って反応水溶液の上面から撹拌翼30側に向かって下降流が生じ、バッフル50に沿って撹拌槽20の底部から反応水溶液の上面側に向かって上昇流が生じるとする。
この場合の反応水溶液のuKの分布の一例を図9に示す。図9中、uK比とは、uKの最大値uKmaxに対するuKの値をいう。撹拌槽20内の反応水溶液のuKの分布は、シミュレーションにより求められる。このシミュレーションでは、撹拌槽20の容積は2L、撹拌翼30のタイプはディスクタービン翼、撹拌翼30の羽根の枚数は6枚、撹拌翼30の翼径は80mm、撹拌翼30と撹拌槽20の底部との間の上下方向距離は5mm、撹拌翼30の回転数は850rpmとする。
この場合には、uKの値がuKの最大値uKmaxに対して所定値以上となる領域は、例えば、図9に示すように、撹拌翼30の上側や下側の近傍、または撹拌翼30よりも径方向外側などに形成される。そのため、添加口61は、下降流の中であって、撹拌翼30よりも上側の近傍に配置されることが好ましい。これにより、添加口61から添加された中和剤を効率良く反応水溶液中に撹拌させることができるため、添加口61付近に形成される高過飽和領域12(図6および図7参照)の体積V1、V2の体積割合を小さくすることができる。
撹拌槽20内のuKの値は、場所により異なり、撹拌翼30の上側や下側の近傍、または撹拌翼30よりも径方向外側などにおいて特に大きくなる傾向にある。また、撹拌翼30のタイプや翼径、撹拌槽20の容積などの撹拌条件を変更しても、撹拌槽20内の反応水溶液のuKの分布には、同様の傾向が見られる。
このように、核生成工程S11および粒子成長工程S12において、反応水溶液のuKの値がuKの最大値uKmaxに対して所定値以上となる領域に設けた添加口61から原料液を反応水溶液中に添加する。これにより、反応水溶液の撹拌動力を高めることなく、ニッケル含有水酸化物の粒子の外表面の凸凹を低減できると共に、ニッケル含有水酸化物に密度の異なる複数の層からなる年輪状の構造が発生することを抑制できる。よって、反応水溶液を撹拌させるために要する撹拌動力の増大を抑えつつ、品質の良いニッケル含有水酸化物の粒子を製造することができる。
なお、この効果は、核生成工程S11と粒子成長工程S12とが同時に行われる場合にも得られる。核生成工程S11と粒子成長工程S12とが同時に行われる場合、反応水溶液中で、核の生成と、生成した核の成長とが同時に起こって、ニッケル含有水酸化物の粒子が生成される。この場合でも、反応水溶液のuKの値が反応水溶液中のuKの最大値uKmaxに対して所定値以上の領域に設けた添加口61から原料液を添加すれば、撹拌動力の増大を抑えつつ、品質の良いニッケル含有水酸化物の粒子を製造することができる。
撹拌槽20内のuK、および高過飽和領域12の体積は、汎用の流体解析ソフトを用いたシミュレーションによって求めることができる。
以下、連続式の撹拌槽内で、硫酸ニッケルと水酸化ナトリウムとを反応させて、水酸化ニッケルを製造する場合の定常状態の流体解析について主に説明する。流体解析ソフトとしては、ANSYS社製のANSYS CFX Ver15.0(商品名)を用いる。解析条件などを以下に示す。
<座標系>
・流体解析を行う領域(以下、「解析領域」とも呼ぶ。)のうち、撹拌軸や撹拌翼の周りは、撹拌軸や撹拌翼と共に回転する回転座標系で扱う。回転座標系で扱う領域は、円柱状であって、その中心線を撹拌軸や撹拌翼の中心線に重ね、その直径を撹拌翼の翼径の115%に設定し、上下方向の範囲を撹拌槽の内底面から液面までとする。
・解析領域のうち、その他の領域は、静止座標系で扱う。
・回転座標系と静止座標系とは、流体解析ソフトのインターフェース機能を使用して接続する。インターフェース機能としては、オプションの「Frozen Rotor」を用いる。
<乱流モデル>
・撹拌槽内の流れは、層流ではなく、乱流である。その乱流モデルとしては、SST(Shear Stress Transport)モデルを用いる。
<化学反応>
・撹拌槽内で生じる化学反応の式を下記に示す。
NiSO4+2NaOH→Ni(OH)2+Na2SO4
実現象の化学反応のうち着目するのは、上記式(2−2)に示した、ニッケルアンミン錯体とアルカリ水溶液の水酸化物イオン(OH-)との反応により、水酸化ニッケルを生成する反応である。一方、シミュレーションモデルでは、ニッケルアンミン錯体と単体のニッケルイオンとを区別せず、ニッケルイオンとしては同一であるとして扱う。すなわち、ニッケルアンミン錯体として存在するニッケルイオンと同じ濃度の単体のニッケルイオンが撹拌槽内に分散しているものとみなして、単体のニッケルイオンが上記式(1)に基づいてアルカリ水溶液の水酸化物イオン(OH-)と反応して、水酸化ニッケルが生成するものとして扱う。
実際の晶析撹拌槽において化学反応を進行させるためには、まず乱流混合によって、ニッケルイオンとアルカリ水溶液の水酸化物イオン(OH-)とを接触させることが必要である。この乱流混合に依存するイオンの輸送速度は、その次の反応素過程として起こる、ニッケルイオンと水酸化物イオンの衝突合体による化学反応速度に比べて十分に遅いと考えられる。そのため、実際の化学反応速度は、ニッケルイオンと水酸化物イオンとの乱流混合が律速になっていると見做せる。この乱流混合速度は、単体のニッケルイオンとニッケルアンミン錯体のニッケルイオンとでは、ほとんど同一であるとみなせる。そのため、シミュレーションモデルでは、ニッケルアンミン錯体と水酸化物イオンとの反応速度は、単体のニッケルイオンと水酸化物イオンとの反応速度と同一であるとみなして、ニッケルアンミン錯体と単体のニッケルイオンとを区別せず、すべて上記式(1)に基づいて、水酸化ニッケルが生成するものとして取り扱う。
・流体解析では、以下の5成分が含まれる単相多成分の流体を扱う。
1)反応成分A:NiSO4
2)反応成分B:NaOH
3)生成成分C:Ni(OH)2
4)生成成分D:Na2SO4
5)水
・化学反応の速度の大きさは、渦消散モデルにより計算する。渦消散モデルは、乱流分散によって反応成分Aと反応成分Bとが分子レベルまで混合すると、上記化学反応が生じると仮定した反応モデルである。渦消散モデルの設定は、流体解析ソフトのデフォルトの設定のままとする。
<各成分の質量分率の計算方法>
・解析領域内の任意の位置および任意の時点で、上記5成分の合計の質量分率は、1である。そこで、上記5成分のうち水を除く4成分のそれぞれの質量分率は、CFXによって輸送方程式を解いて求める値とし、水の質量分率は、1から、上記4成分の合計の質量分率を引いて得られる値とする。
<境界条件>
・壁境界(流体の出入りのない境界)
撹拌槽や撹拌軸、撹拌翼、バッフルなどの固体との境界では、滑り無しとする。一方、外気との境界(液面)では、滑り有りとする。なお、液面は、撹拌によって変形しないものとし、高さが一定の平面とする。
・流入境界(流体が入ってくる境界)
撹拌槽内の流体中に、反応成分Aを含む水溶液(以下、「水溶液A」と呼ぶ。)が流入する流入境界と、反応成分Bを含む水溶液(以下、「水溶液B」と呼ぶ。)が流入する流入境界とを別々に設ける。水溶液Aの流入流量や水溶液Aに占める反応成分Aの割合、および水溶液Bの流入流量や水溶液Bに占める反応成分Bの割合は、一定とする。水溶液Bの流入流量は、撹拌槽内の水溶液のpH値が所定値(例えば、12.0)に維持されるように、設定する。
・流出境界(流体が出ていく境界)
撹拌槽の内周面の一部に、撹拌槽内の流体が出ていく流出境界を設ける。流出する液体は、生成成分CおよびD、未反応の反応成分AおよびB、並びに水を含むものである。その流出量は、解析領域と系外との圧力差がゼロになるように設定する。なお、オーバーフロー型の連続式の場合、液面が流出境界である。
<熱条件>
・撹拌槽内の流体の温度は、25℃で一定とする。化学反応による熱の生成、流入境界や流出境界での熱の出入りは、無いものと仮定する。
<初期条件>
・撹拌槽内の流体は、初期状態において、均質なものとし、上記5成分のうち反応成分Bと水の2成分のみを含むものとする。具体的には、撹拌槽内の流体のうち、反応成分Aの初期質量分率や生成成分Cの初期質量分率、生成成分Dの初期質量分率はゼロ、反応成分Bの初期質量分率は撹拌槽内の水溶液の反応成分Bの濃度が上記所定値になるように設定する。
なお、生成成分Cの初期質量分率や生成成分Dの初期質量分率は、ここではゼロに設定するが、定常解を求めるための反復計算の回数(つまり、計算時間)を減らすため、定常状態において到達すると予測される、解析領域全体での平均値に設定してもよい。解析領域全体での平均値は、水溶液Aの流入流量や水溶液Aに占める反応成分Aの割合、水溶液Bの流入流量や水溶液Bに占める反応成分Bの割合、化学反応式で表される量的関係などを基に算出できる。
<収束判定>
・定常解を求めるための反復計算は、解析領域内の任意の位置で、流れの流速成分(m/s)および圧力(Pa)、並びに上記4成分の質量分率の、それぞれの二乗平均平方根の残差が、10-4以下となるまで行う。
<uKの計算方法>
uKは、反応水溶液の流速uと乱流拡散係数Kとの積である。uおよびKは、撹拌槽の流れ場のシミュレーションを実施することで求められる。
<高過飽和領域の体積の計算方法>
・高過飽和領域とは、撹拌槽内の水溶液中に溶けている生成成分Cの濃度が所定値以上の領域である。上記所定値は、上述の通り、核生成工程では5.0mol/m3、粒子成長工程では1.7mol/m3とする。高過飽和領域は、水溶液Aの流入境界の周囲に形成される。
・ところで、流体解析では、上述の如く、上記5成分を単相多成分の流体として扱うため、生成成分Cの全てを液体として扱う。一方、実際には、生成成分Cの大部分は析出して固体となり、生成成分Cの残りの一部のみが液体として水溶液中に溶けている。
・そこで、高過飽和領域の体積は、上記流体解析により得た生成成分Cの濃度分布を補正することで算出する。その補正では、水溶液Aの流入境界から十分に離れた流出境界において生成成分Cの濃度が溶解度相当になるように、撹拌槽内の流体の全体において一律に生成成分Cの濃度を所定値下げる。
・なお、撹拌槽が連続式ではなくバッチ式の場合、流出境界が存在しない。この場合、濃度分布の補正では、撹拌槽内の水溶液の液面において生成成分Cの濃度が溶解度相当になるように、撹拌槽内の流体の全体において一律に生成成分Cの濃度を所定値下げればよい。なお、オーバーフロー型の連続式の場合、液面が流出境界である。
なお、実際の反応水溶液には、反応成分Aに相当する原料液および反応成分Bに相当する中和剤(アルカリ水溶液)の他に、化学成分として錯化剤(アンモニア水)が含まれるが、シミュレーションモデルでは、アンモニア水は水として取り扱う。以下にその理由を説明する。
反応成分Aから生成成分Cを生成する際、反応成分Aは反応水溶液中に存在するアンモニアと反応して反応成分Aの金属イオンの錯体を形成し、錯体が反応成分Bと反応することで、生成成分Cが生成される。アンモニアは、反応成分Aから生成成分Cを生成するに当たり、生成成分Aの金属イオンの錯体を形成するための媒体にすぎず、反応水溶液中の反応成分Aのモル数自体は変わらない。また、反応水溶液には、アンモニアが反応成分Aから反応成分Aの金属イオンの錯体が形成されるのに十分な量供給されている。そのため、反応成分Aから反応成分Aの金属イオンの錯体は安定して生成される。よって、反応成分Aをアンモニアで錯体にしても、反応成分Aから最終的に生成される生成成分Cの量は変動しない。よって、シミュレーションモデルでは、アンモニアは、反応成分Aから生成成分Cを生成する反応に関与しない水とみなしても問題ない。
なお、以下に示すニッケル複合水酸化物を得るシミュレーションモデルにおいても、反応水溶液にはアンモニア水が含まれるが、シミュレーションモデルにおけるアンモニア水の扱いは、上記と同様の理由により、水として取り扱う。
上記説明では、水酸化ニッケルを得る場合の解析条件を示したが、ニッケル複合水酸化物を得る場合の解析条件も同様に設定できる。例えば、硫酸ニッケルや硫酸マンガンと水酸化ナトリウムとを反応させてニッケルマンガン複合水酸化物を得る場合、流体解析では、以下の7成分が含まれる単相多成分の流体を扱う。
なお、シミュレーションモデルでは、反応水溶液中に生じる錯体は、錯体濃度に相当する硫酸ニッケルや硫酸マンガンのイオンが撹拌槽内に分散しているものとみなして計算する。
1)反応成分A1:NiSO4
2)反応成分A2:MnSO4
3)反応成分B:NaOH
4)生成成分C1:Ni(OH)2
5)生成成分C2:Mn(OH)2
6)生成成分D:Na2SO4
7)水
ここでは、撹拌槽内で「A1+2B→C1+D」および「A2+2B→C2+D」の2つの化学反応が生じるとし、それぞれの化学反応に対応する渦消散モデルが反応モデルとして用いられる。反応成分A1と反応成分A2とは、均一に水に溶けた状態で、同一の流入境界から供給される。つまり、反応成分A1と反応成分A2の両方を含む水溶液Aが流入境界から供給される。水溶液Aの流入境界の周囲に、高過飽和領域が形成される。高過飽和領域とは、撹拌槽内の水溶液中に溶けている生成成分のうち全ての金属水酸化物(ここでは、生成成分C1と生成成分C2)の合計のモル濃度が上記所定値以上の領域のことである。
生成成分のうち全ての金属水酸化物のモル濃度を合計する理由について、以下、説明する。先ず、上述の如く、反応成分A1と反応成分A2とは、均一に水に溶けた状態で、同一の流入境界から流入する。このとき、反応成分A1および反応成分A2は、反応成分Aの添加口付近で、反応成分Bと速やかに反応して、生成成分C1および生成成分C2を生じる。よって、生成成分C1と生成成分C2とは、生成した時点で、充分に混ざった状態で存在する。その結果、生成成分C1と生成成分C2とは、個別の水酸化物として析出するのではなく、それぞれの成分が複合した水酸化物の固溶体として析出する。
また、硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸アルミニウムを用いて、ニッケル、コバルトおよびアルミニウムを含むニッケル複合水酸化物を得る場合、流体解析では、以下の9成分が含まれる単相多成分の流体を扱う。
なお、シミュレーションモデルでは、反応水溶液中に生じる錯体は、錯体濃度に相当する硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸アルミニウムのイオンが撹拌槽内に分散しているものとみなして計算する。
1)反応成分A1:NiSO4
2)反応成分A2:CoSO4
3)反応成分A3:Al2(SO4)3
4)反応成分B:NaOH
5)生成成分C1:Ni(OH)2
6)生成成分C2:Co(OH)2
7)生成成分C3:Al(OH)3
8)生成成分D:Na2SO4
9)水
ここでは、撹拌槽内で「A1+2B→C1+D」、「A2+2B→C2+D」、および「1/2A3+3B→C3+3/2D」の3つの化学反応が生じるとし、それぞれの化学反応に対応する渦消散モデルが反応モデルとして用いられる。反応成分A1、反応成分A2および反応成分A3は、均一に水に溶けた状態で、同一の流入境界から供給される。つまり、反応成分A1、反応成分A2および反応成分A3を含む水溶液Aが流入境界から供給される。水溶液Aの流入境界の周囲に、高過飽和領域が形成される。高過飽和領域とは、撹拌槽内の水溶液中に溶けている生成成分のうち全ての金属水酸化物(ここでは、生成成分C1、生成成分C2および生成成分C3)の合計のモル濃度が上記所定値以上の領域のことである。
生成成分のうち全ての金属水酸化物のモル濃度を合計する理由について、以下、説明する。先ず、上述の如く、反応成分A1、反応成分A2および反応成分A3は、均一に水に溶けた状態で、同一の流入境界から流入する。このとき、反応成分A1、反応成分A2および反応成分A3は、反応成分Aの添加口付近で、反応成分Bと速やかに反応して、生成成分C1、生成成分C2および生成成分C3を生じる。よって、生成成分C1、生成成分C2および生成成分C3は、生成した時点で、充分に混ざった状態で存在する。その結果、生成成分C1、生成成分C2および生成成分C3は、個別の水酸化物として析出するのではなく、それぞれの成分が複合した水酸化物の固溶体として析出する。
さらに、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、および硫酸コバルトを用いてニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を得る場合、流体解析では、以下の9成分が含まれる単相多成分の流体を扱う。
なお、シミュレーションモデルでは、反応水溶液中に生じる錯体は、錯体濃度に相当する硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸コバルトのイオンが攪拌槽内に分散しているものとみなして計算する。
1)反応成分A1:NiSO4
2)反応成分A2:MnSO4
3)反応成分A3:CoSO4
4)反応成分B:NaOH
5)生成成分C1:Ni(OH)2
6)生成成分C2:Mn(OH)2
7)生成成分C3:Co(OH)2
8)生成成分D:Na2SO4
9)水
ここでは、撹拌槽内で「A1+2B→C1+D」、「A2+2B→C2+D」、および「1/2A3+3B→C3+3/2D」の3つの化学反応が生じるとし、それぞれの化学反応に対応する渦消散モデルが反応モデルとして用いられる。反応成分A1、反応成分A2および反応成分A3は、均一に水に溶けた状態で、同一の流入境界から供給される。つまり、反応成分A1、反応成分A2および反応成分A3を含む水溶液Aが流入境界から供給される。水溶液Aの流入境界の周囲に、高過飽和領域が形成される。高過飽和領域とは、撹拌槽内の水溶液中に溶けている生成成分のうち全ての金属水酸化物(ここでは、生成成分C1と生成成分C2と生成成分C3)の合計のモル濃度が上記所定値以上の領域のことである。
生成成分のうち全ての金属水酸化物のモル濃度を合計する理由については、上述のニッケル、コバルトおよびアルミニウムを含むニッケル複合水酸化物を得る場合において、生成成分のうち全ての金属水酸化物のモル濃度を合計する場合と同様であるため、説明は省略する。
水溶液Aの流入境界の数は複数でもよく、高過飽和領域の数は複数でもよい。高過飽和領域の数が複数である場合、高過飽和領域の体積とは合計の体積を意味する。
ニッケル含有水酸化物の製造方法は、核生成工程または粒子成長工程において、uKの値がuKの最大値uKmaxに対して所定値以上となる領域に添加口が設けられていることを、シミュレーションにより確認する工程を有してよい。この確認は、製造条件の変更の度に行われてよい。この製造条件の変更とは、例えば、撹拌槽の容量や形状、撹拌翼の個数、形状、寸法もしくは設置場所、撹拌翼の回転数、原料液の流量や濃度、または原料液を供給するノズルの形状、本数もしくは配置などが挙げられる。例えば、撹拌槽がバッチ式の場合、製造条件が同じ間、確認は一度行われればよく、毎回の確認は、不要である。
[実施例1]
(実施例1−1)
実施例1−1では、オーバーフロー型の連続式の撹拌槽を用い、中和晶析によって、ニッケル複合水酸化物の粒子の核を生成させる核生成工程と、粒子を成長させる粒子成長工程とを同時に行った。撹拌槽の容積は200L、撹拌翼のタイプはディスクタービン翼、撹拌翼の羽根の枚数は6枚、撹拌翼の翼径は250mm、撹拌翼と撹拌槽の内底面との間の上下方向距離は140mm、撹拌翼の回転数は280rpmとした。撹拌槽内の反応水溶液の液量は200L、反応水溶液のアンモニウムイオン濃度は12g/L、反応水溶液の温度は50℃に維持した。反応水溶液の周辺雰囲気は大気雰囲気とした。
原料液は、ニッケル複合水酸化物としてNi0.82Co0.15Al0.03(OH)2が得られるように調製した。原料液供給管の本数は1本、1本の原料液供給管からの供給量は400ml/分であった。
核生成工程および粒子成長工程の間、撹拌槽内に、原料液の他に、中和剤として水酸化ナトリウム水溶液および錯化剤としてアンモニア水を供給して、反応水溶液のアンモニウムイオン濃度などを維持した。このとき、原料液を、原料液の添加場所におけるuKが反応水溶液のuKの最大値uKmaxに対して40%となるような場所に添加した。
反応水溶液に占める、原料液の添加場所付近のニッケル含有水酸化物のモル濃度が5.0mol/m3以上である高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、0.075%であった。なお、解析条件は、上述の解析条件と同様に設定した。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。図10に、実施例1で得られたニッケル複合水酸化物の粒子のSEM写真を示す。図10に示すように、中和晶析の完了時に得られた、ニッケル含有水酸化物の粒子の外表面は滑らかであり、凸凹はほとんど認められなかった。
(実施例1−2)
実施例1−2では、原料液を、原料液の添加場所におけるuKが反応水溶液のuKの最大値uKmaxに対して33%となるような場所に添加したこと以外は、実施例1−1と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、原料液の添加場所付近のニッケル含有水酸化物のモル濃度が5.0mol/m3以上である高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、0.091%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子のSEM像は、実施例1−1で得られたニッケル複合水酸化物と同様であり、粒子の外表面は滑らかであり、凸凹はほとんど認められなかった。
(実施例1−3)
実施例1−3では、原料液をニッケル複合水酸化物としてNi0.88Co0.09Al0.03(OH)2が得られるように調製したこと以外は、実施例1−1と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、原料液の添加場所付近のニッケル含有水酸化物のモル濃度が5.0mol/m3以上である高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、0.075%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子のSEM像は、実施例1−1で得られたニッケル複合水酸化物と同様であり、粒子の外表面は滑らかであり、凸凹はほとんど認められなかった。
(実施例1−4)
実施例1−4では、原料液を、ニッケル複合水酸化物としてNi0.34Mn0.33Co0.33(OH)2が得られるように調製したこと以外は、実施例1−1と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、原料液の添加場所付近のニッケル含有水酸化物のモル濃度が5.0mol/m3以上である高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、0.075%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子のSEM像は、実施例1−1で得られたニッケル複合水酸化物と同様であり、粒子の外表面は滑らかであり、凸凹はほとんど認められなかった。
(実施例1−5)
実施例1−5では、原料液を、ニッケル複合水酸化物としてNi0.40Mn0.30Co0.30(OH)2が得られるように調製したこと以外は、実施例1−1と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、原料液の添加場所付近のニッケル含有水酸化物のモル濃度が5.0mol/m3以上である高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、0.075%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子のSEM像は、実施例1−1で得られたニッケル複合水酸化物と同様であり、粒子の外表面は滑らかであり、凸凹はほとんど認められなかった。
(実施例1−6)
実施例1−6では、原料液を、原料液の添加場所におけるuKが反応水溶液のuKの最大値uKmaxに対して33%となるような場所に添加したこと以外は、実施例1−3と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、原料液の添加場所付近のニッケル含有水酸化物のモル濃度が5.0mol/m3以上である高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、0.091%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子のSEM像は、実施例1−1で得られたニッケル複合水酸化物と同様であり、粒子の外表面は滑らかであり、凸凹はほとんど認められなかった。
(実施例1−7)
実施例1−7では、原料液を、原料液の添加場所におけるuKが反応水溶液のuKの最大値uKmaxに対して33%となるような場所に添加したこと以外は、実施例1−4と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、原料液の添加場所付近のニッケル含有水酸化物のモル濃度が5.0mol/m3以上である高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、0.091%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子のSEM像は、実施例1−1で得られたニッケル複合水酸化物と同様であり、粒子の外表面は滑らかであり、凸凹はほとんど認められなかった。
(実施例1−8)
実施例1−8では、撹拌槽の容積は60L、撹拌翼のタイプはディスクタービン翼、撹拌翼の羽根の枚数は6枚、撹拌翼の翼径は168mm、撹拌翼と撹拌槽のない底面との間の上下方向距離は100mm撹拌翼の回転数は425rpmとした。撹拌槽内の反応水溶液の液量は60Lとした。原料液は、ニッケル複合水酸化物としてNi0.88Co0.09Al0.03(OH)2が得られるように調製した。原料液供給管の本数は1本、1本の原料液供給管からの供給量は120ml/分であった。それ以外は、実施例1−1と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、原料液の添加場所付近のニッケル含有水酸化物のモル濃度が5.0mol/m3以上である高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、0.091%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子のSEM像は、実施例1−1で得られたニッケル複合水酸化物と同様であり、粒子の外表面は滑らかであり、凸凹はほとんど認められなかった。
(実施例1−9)
実施例1−9では、原料液を、ニッケル複合水酸化物としてNi0.34Mn0.33Co0.33(OH)2が得られるように調製したこと以外は、実施例1−8と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、原料液の添加場所付近のニッケル含有水酸化物のモル濃度が5.0mol/m3以上である高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、0.091%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子のSEM像は、実施例1−1で得られたニッケル複合水酸化物と同様であり、粒子の外表面は滑らかであり、凸凹はほとんど認められなかった。
(実施例1−10)
実施例1−10では、撹拌槽の容積は60L、撹拌翼のタイプは45°ピッチドパドル翼、撹拌翼の羽根の枚数は4枚、撹拌翼の翼径は168mm、撹拌翼と撹拌槽のない底面との間の上下方向距離は100mm撹拌翼の回転数は500rpmとした。撹拌槽内の反応水溶液の液量は60Lとした。原料液は、ニッケル複合水酸化物としてNi0.88Co0.09Al0.03(OH)2が得られるように調製した。原料液供給管の本数は1本、1本の原料液供給管からの供給量は120ml/分であった。それ以外は、実施例1−1と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、原料液の添加場所付近のニッケル含有水酸化物のモル濃度が5.0mol/m3以上である高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、0.091%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子のSEM像は、実施例1−1で得られたニッケル複合水酸化物と同様であり、粒子の外表面は滑らかであり、凸凹はほとんど認められなかった。
(実施例1−11)
実施例1−11では、原料液を、ニッケル複合水酸化物としてNi0.34Mn0.33Co0.33(OH)2が得られるように調製したこと以外は、実施例1−10と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、原料液の添加場所付近のニッケル含有水酸化物のモル濃度が5.0mol/m3以上である高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、0.091%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子のSEM像は、実施例1−1で得られたニッケル複合水酸化物と同様であり、粒子の外表面は滑らかであり、凸凹はほとんど認められなかった。
(比較例1−1)
比較例1−1では、原料液の添加位置を、原料液の添加場所における、反応水溶液のuKの値が撹拌槽内の反応水溶液のuKの最大値uKmaxに対して20%となるような場所に変更したこと以外は、実施例1−1と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
反応水溶液に占める高過飽和領域の体積割合は、実施例1−1と同様にシミュレーションにより算出したところ、0.150%であった。
図11に、比較例1−1で得られたニッケル複合水酸化物の粒子をSEMで観察した結果を示す。図11に示すように、中和晶析の完了時に得られる粒子の外表面に顕著な凹凸が認められた。これは、原料液添加場所付近の核生成が抑制できなかったため、粒子が微細化し、粒の外表面に顕著な凹凸ができたと考えられる。
(比較例1−2)
比較例1−2では、原料液を、原料液の添加場所におけるuKが反応水溶液のuKの最大値uKmaxに対して27%となるような場所に添加したこと以外は、実施例1−1と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、原料液の添加場所付近のニッケル含有水酸化物のモル濃度が5.0mol/m3以上である高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、0.012%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子をSEM像は、比較例1−1と同様、粒子の外表面に顕著な凹凸が認められた。またニッケル複合水酸化物の粒子の粒度分布は、比較例1−1と同様なものであった。
[まとめ]
本実施例および比較例から、uKの値が反応水溶液中のuKの最大値uKmaxに対して30%以上の領域に中和剤を添加すれば、撹拌翼のタイプや翼径、撹拌槽の容積が変わっても、撹拌動力の増大を抑えながら、粒子外表面の凸凹を低減したニッケル複合水酸化物の粒子を製造できることが確認された。
[実施例2]
(実施例2−1)
実施例2−1では、オーバーフロー型の連続式の撹拌槽を用い、中和晶析によって、ニッケル複合水酸化物の粒子の核を生成させる核生成工程と、粒子を成長させる粒子成長工程とを同時に行った。撹拌槽の容積は200L、撹拌翼のタイプはディスクタービン翼、撹拌翼の羽根の枚数は6枚、撹拌翼の翼径は250mm、撹拌翼と撹拌槽の内底面との間の上下方向距離は140mm、撹拌翼の回転数は280rpmとした。撹拌槽内の反応水溶液の液量は200L、反応水溶液のpH値は11.8、反応水溶液のアンモニア濃度は12g/L、反応水溶液の温度は50℃に維持した。反応水溶液の周辺雰囲気は窒素雰囲気とした。
原料液は、ニッケル複合水酸化物としてNi0.82Co0.15Al0.03(OH)2が得られるように調製し、それぞれの金属イオン濃度の合計は2.0mol/Lとした。原料液供給管の本数は2本、各原料液供給管からの供給量は400ml/分、2本の原料液供給管からの合計の供給量は800ml/分であった。
核生成工程や粒子成長工程の間、撹拌槽内に、原料液の他に水酸化ナトリウム水溶液およびアンモニア水を供給して、反応水溶液のpH値や反応水溶液のアンモニア濃度を維持した。このとき、原料液を、原料液の添加場所におけるuKが反応水溶液のuKの最大値uKmaxに対して40%となるような場所に添加した。
反応水溶液に占める第2高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、0.468%であった。なお、解析条件は、上述の解析条件と同様に設定した。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子をSEMで観察した。図12に、実施例2−1で得られたニッケル複合水酸化物の粒子の断面の一例を示すSEM写真を示す。図12に示すように、ニッケル含有水酸化物の粒子の断面に年輪状の構造は認められなかった。なお、得られたニッケル複合水酸化物のタップ密度は1.40g/ccであった。
(実施例2−2)
実施例2−2では、原料液をニッケル複合水酸化物としてNi0.88Co0.09Al0.03(OH)2が得られるように調製したこと以外は、実施例2−1と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、第2高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、0.468%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子の断面SEM像は、実施例2−1で得られたニッケル複合水酸化物と同様であり、粒子の断面に年輪状の構造は認められなかった。
(実施例2−3)
実施例2−3では、原料液を、ニッケル複合水酸化物としてNi0.34Mn0.33Co0.33(OH)2が得られるように調製したこと以外は、実施例2−1と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、第2高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、0.468%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子の断面SEM像は、実施例2−1で得られたニッケル複合水酸化物と同様であり、粒子の断面に年輪状の構造は認められなかった。
(実施例2−4)
実施例2−4では、原料液を、ニッケル複合水酸化物としてNi0.40Mn0.30Co0.30(OH)2が得られるように調製したこと以外は、実施例2−1と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、第2高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、0.468%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子の断面SEM像は、実施例2−1で得られたニッケル複合水酸化物と同様であり、粒子の断面に年輪状の構造は認められなかった。
(実施例2−5)
実施例2−5では、原料液を、原料液の添加場所におけるuKが反応水溶液のuKの最大値uKmaxに対して33%となるような場所に添加したこと以外は、実施例2−2と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。このときの反応水溶液に占める第2高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、0.577%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子の断面SEM像は、実施例2−1で得られたニッケル複合水酸化物と同様であり、粒子の断面に年輪状の構造は認められなかった。
(実施例2−6)
実施例2−6では、原料液を、原料液の添加場所におけるuKが反応水溶液のuKの最大値uKmaxに対して33%となるような場所に添加したこと以外は、実施例2−3と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める第2高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、0.577%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子の断面SEM像は、実施例2−1で得られたニッケル複合水酸化物と同様であり、粒子の断面に年輪状の構造は認められなかった。
(実施例2−7)
実施例2−7では、撹拌槽の容積は60L、撹拌翼のタイプはディスクタービン翼、撹拌翼の羽根の枚数は6枚、撹拌翼の翼径は168mm、撹拌翼と撹拌槽のない底面との間の上下方向距離は100mm撹拌翼の回転数は425rpmとした。撹拌槽内の反応水溶液の液量は60Lとした。原料液は、ニッケル複合水酸化物としてNi0.88Co0.09Al0.03(OH)2が得られるように調製した。原料液供給管の本数は1本、1本の原料液供給管からの供給量は120ml/分であった。それ以外は、実施例2−1と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、第2高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、0.468%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子の断面SEM像は、実施例2−1で得られたニッケル複合水酸化物と同様であり、粒子の断面に年輪状の構造は認められなかった。
(実施例2−8)
実施例2−8では、原料液を、ニッケル複合水酸化物としてNi0.34Mn0.33Co0.33(OH)2が得られるように調製したこと以外は、実施例2−7と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、第2高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、0.468%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子の断面SEM像は、実施例2−1で得られたニッケル複合水酸化物と同様であり、粒子の断面に年輪状の構造は認められなかった。
(実施例2−9)
実施例2−9では、撹拌槽の容積は60L、撹拌翼のタイプは45°ピッチドパドル翼、撹拌翼の羽根の枚数は4枚、撹拌翼の翼径は168mm、撹拌翼と撹拌槽のない底面との間の上下方向距離は100mm撹拌翼の回転数は500rpmとした。撹拌槽内の反応水溶液の液量は60Lとした。原料液は、ニッケル複合水酸化物としてNi0.88Co0.09Al0.03(OH)2が得られるように調製した。原料液供給管の本数は1本、1本の原料液供給管からの供給量は120ml/分であった。それ以外は、実施例2−1と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、第2高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、0.468%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子の断面SEM像は、実施例2−1で得られたニッケル複合水酸化物と同様であり、粒子の断面に年輪状の構造は認められなかった。
(実施例2−10)
実施例2−10では、原料液を、ニッケル複合水酸化物としてNi0.34Mn0.33Co0.33(OH)2が得られるように調製したこと以外は、実施例2−9と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、第2高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、0.468%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子の断面SEM像は、実施例2−1で得られたニッケル複合水酸化物と同様であり、粒子の断面に年輪状の構造は認められなかった。
(比較例2−1)
比較例2−1では、原料液供給管の本数を1本とし、1本の原料液供給管からの供給量を800ml/分とし、原料液の添加位置を、原料液の添加場所におけるuKが反応水溶液のuKの最大値uKmaxに対して20%となるような場所に変更したこと以外は、実施例2と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
反応水溶液に占める第2高過飽和領域の体積割合は、実施例2−1と同様にシミュレーションにより算出したところ、0.936%であった。
図13に、比較例2−1で得られたニッケル複合水酸化物の粒子の断面の一例を示すSEM写真を示す。図13に矢印で示すように、ニッケル複合水酸化物の粒子の断面に年輪状の構造が認められた。なお、得られたニッケル複合水酸化物のタップ密度は1.24g/ccであった。
(比較例2−2)
比較例2−2では、原料液を、原料液の添加場所におけるuKが反応水溶液のuKの最大値uKmaxに対して27%となるような場所に添加したこと以外は、実施例2−1と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
反応水溶液に占める第2高過飽和領域の体積割合は、実施例2−1と同様にシミュレーションにより算出したところ、0.718%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子の断面SEM像は、比較例2−1と同様、年輪状の構造が認められた。
[まとめ]
本実施例および比較例から、uKの値が反応水溶液中のuKの最大値uKmaxに対して30%以上の領域に原料液を添加すれば、撹拌翼のタイプや翼径、撹拌槽の容積が変わっても、撹拌動力の増大を抑えながら、ニッケル複合水酸化物の粒子の断面に年輪状の構造の発生を抑制できることが確認された。これは、粒子成長が緩やかに生じたためと推定される。
[実施例3]
(実施例3−1)
実施例3−1では、オーバーフロー型の連続式の撹拌槽を用い、中和晶析によって、ニッケル複合水酸化物の粒子の核を生成させる核生成工程と、粒子を成長させる粒子成長工程とを同時に行った。撹拌槽の容積は200L、撹拌翼のタイプはディスクタービン翼、撹拌翼の羽根の枚数は6枚、撹拌翼の翼径は250mm、撹拌翼と撹拌槽の内底面との間の上下方向距離は140mm、撹拌翼の回転数は280rpmとした。撹拌槽内の反応水溶液の液量は200L、反応水溶液のpH値は11.3、反応水溶液のアンモニウムイオン濃度は12g/L、反応水溶液の温度は50℃に維持した。反応水溶液の周辺雰囲気は大気雰囲気とした。
原料液は、ニッケル複合水酸化物としてNi0.82Co0.15Al0.03(OH)2が得られるように調製した。原料液供給管の本数は1本、1本の原料液供給管からの供給量は400ml/分であった。
核生成工程や粒子成長工程の間、撹拌槽内に、原料液の他に、中和剤として水酸化ナトリウム水溶液および錯化剤としてアンモニア水を供給して、反応水溶液のpH値や反応水溶液のアンモニウムイオン濃度を維持した。このとき、原料液を、原料液の添加場所におけるuKが反応水溶液のuKの最大値uKmaxに対して40%となるような場所に添加した。
反応水溶液に占める第1高過飽和領域および第2高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、それぞれ、0.075%、0.468%であった。なお、解析条件は、上述の解析条件と同様に設定した。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子と、その粒子の断面をSEMで観察した。図10および図12に示すニッケル複合水酸化物の粒子と同様、中和晶析の完了時に得られたニッケル含有水酸化物の粒子の外表面は滑らかであり、凸凹はほとんど認められず、ニッケル含有水酸化物の粒子の断面に年輪状の構造も認められなかった。
(実施例3−2)
実施例3−2では、原料液をニッケル複合水酸化物としてNi0.88Co0.09Al0.03(OH)2が得られるように調製したこと以外は、実施例3−1と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、第1高過飽和領域および第2高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、それぞれ、0.075%、0.468%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子は実施例3−1で得られたニッケル複合水酸化物の粒子と同様、粒子の外表面は滑らかであり、凸凹はほとんど認められなかった。また、粒子の断面に年輪状の構造は認められなかった。
(実施例3−3)
実施例3−3では、原料液を、ニッケル複合水酸化物としてNi0.34Mn0.33Co0.33(OH)2が得られるように調製したこと以外は、実施例3−1と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、第1高過飽和領域および第2高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、それぞれ0.075%、0.468%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子は実施例3−1で得られたニッケル複合水酸化物の粒子と同様、粒子の外表面は滑らかであり、凸凹はほとんど認められなかった。また、粒子の断面に年輪状の構造は認められなかった。
(実施例3−4)
実施例3−4では、原料液を、ニッケル複合水酸化物としてNi0.40Mn0.30Co0.30(OH)2が得られるように調製したこと以外は、実施例3−1と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、第1高過飽和領域および第2高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、それぞれ、0.075%、0.468%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子は実施例3−1で得られたニッケル複合水酸化物の粒子と同様、粒子の外表面は滑らかであり、凸凹はほとんど認められなかった。また、粒子の断面に年輪状の構造は認められなかった。
(実施例3−5)
実施例3−5では、撹拌槽の容積は60L、撹拌翼のタイプはディスクタービン翼、撹拌翼の羽根の枚数は6枚、撹拌翼の翼径は168mm、撹拌翼と撹拌槽のない底面との間の上下方向距離は100mm撹拌翼の回転数は425rpmとした。撹拌槽内の反応水溶液の液量は60Lとした。原料液は、ニッケル複合水酸化物としてNi0.88Co0.09Al0.03(OH)2が得られるように調製した。原料液供給管の本数は1本、1本の原料液供給管からの供給量は120ml/分であった。それ以外は、実施例3−1と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、第1高過飽和領域および第2高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、それぞれ、0.075%、0.468%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子は、実施例3−1で得られたニッケル複合水酸化物の粒子と同様、粒子の外表面は滑らかであり、凸凹はほとんど認められなかった。また、粒子の断面に年輪状の構造は認められなかった。
(実施例3−6)
実施例3−6では、原料液を、ニッケル複合水酸化物としてNi0.34Mn0.33Co0.33(OH)2が得られるように調製したこと以外は、実施例3−1と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、第1高過飽和領域および第2高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、それぞれ0.075%、0.468%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子は実施例3−1で得られたニッケル複合水酸化物の粒子と同様、粒子の外表面は滑らかであり、凸凹はほとんど認められなかった。また、粒子の断面に年輪状の構造は認められなかった。
(実施例3−7)
実施例3−7では、撹拌槽の容積は60L、撹拌翼のタイプは45°ピッチドパドル翼、撹拌翼の羽根の枚数は4枚、撹拌翼の翼径は168mm、撹拌翼と撹拌槽のない底面との間の上下方向距離は100mm撹拌翼の回転数は500rpmとした。撹拌槽内の反応水溶液の液量は60Lとした。原料液は、ニッケル複合水酸化物としてNi0.88Co0.09Al0.03(OH)2が得られるように調製した。原料液供給管の本数は1本、1本の原料液供給管からの供給量は120ml/分であった。それ以外は、実施例3−1と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、第1高過飽和領域および第2高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、それぞれ、0.075%、0.468%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子は、実施例3−1で得られたニッケル複合水酸化物の粒子と同様、粒子の外表面は滑らかであり、凸凹はほとんど認められなかった。また、粒子の断面に年輪状の構造は認められなかった。
(実施例3−8)
実施例3−8では、原料液を、ニッケル複合水酸化物としてNi0.34Mn0.33Co0.33(OH)2が得られるように調製したこと以外は、実施例3−1と同様にニッケル複合水酸化物の粒子を製造した。
このときの反応水溶液に占める、第1高過飽和領域および第2高過飽和領域の体積割合は、シミュレーションにより算出したところ、それぞれ、0.075%、0.468%であった。
得られたニッケル複合水酸化物の粒子は、実施例3−1で得られたニッケル複合水酸化物の粒子と同様、粒子の外表面は滑らかであり、凸凹はほとんど認められなかった。また、粒子の断面に年輪状の構造は認められなかった。
[まとめ]
本実施例から、uKの値が反応水溶液中のuKの最大値uKmaxに対して30%以上の領域に原料液を添加すれば、撹拌翼のタイプや翼径、撹拌槽の容積が変わっても、撹拌動力の増大を抑えながら、ニッケル複合水酸化物の粒子の外表面に凸凹を低減しつつ、ニッケル複合水酸化物の粒子の断面に年輪状の構造の発生を抑制できることが確認された。
以上、ニッケル含有水酸化物の製造方法の実施形態等について説明したが、本発明は上記実施形態等に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、改良が可能である。