以下、この発明の一実施形態を図面と共に説明する。
<システム構成>
図1は磁気探査システム1のシステム構成の一例を示すブロック図である。磁気探査システム1は、地中に存在する不発弾やその他の磁性物体(探査対象物)を探査(検出)するためのシステムである。不発弾とは、たとえば爆発していない砲弾、爆弾、地雷または手りゅう弾などである。また、磁性物体であってもH型鋼や矢板など探査対象物とはならない非探査対象物もある。磁性物体のうち、どのようなものを探査対象物とし、非探査対象物とするかについては、探査の目的に合わせて適宜設定される。
図1に示すように、磁気探査システム1は、複数の測定部5と、記録装置(記録器)4とを有している。複数の測定部5のそれぞれは、磁気センサ2および増幅部3を有している。すなわち、磁気探査システム1は、複数の磁気センサ2と、複数の増幅部3を有している。各測定部5において、磁気センサ2と、増幅部3とは、コネクタケーブル6を介して接続される。また、各測定部5の増幅部3は、記録装置4と無線通信可能に接続される。なお、磁気探査システム1に含まれる測定部5の数(磁気センサ2および増幅部3の数)は、図1では3つであるが、特に限定される必要は無く、2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。
図2は磁気センサ2の構成の一例を示す説明図である。図2に示すように、磁気センサ2は、全体として略棒状をなし、移動可能なセンサである。たとえば、磁気センサ2は、人間が持ち運び可能な可搬型のセンサである。
磁気センサ2は、筒状本体50およびセンサ部51を有し、筒状本体50にセンサ部51が挿入されて構成されている。筒状本体50の先端部(一方端部)には先端キャップ52が取り付けられ、筒状本体50の基端部(他方端部)にはコネクタキャップ53が取り付けられている。また、先端キャップ52には、ゴム製の環状リングであるOリング54が取り付けられている。なお、コネクタキャップ53には増幅部3と接続するためのコネクタケーブル6が取り付けられる。また、筒状本体50の直径や長さは、センサ部51(磁気センサ2)の大きさに応じて異なる。
センサ部51は、第1コイル55および第2コイル56を有する。第2コイル56は、第1コイル55の軸線方向に離間して配置される。本実施形態では、第1コイル55および第2コイル56は、同一軸(磁気センサ2の軸線)上に配置されている。
第1コイル55は、パーマロイ製の第1芯材57に挿通された第1中空部材58に巻かれている。なお、第1コイル55は、所定の線材を使用して整列巻きで巻き数を40,000ターンとした。ただし、第1コイル55の巻き数は40,000ターンに限定されるものではなく、例えば、60,000ターンであっても良い。
また、第2コイル56は、パーマロイ製の第2芯材59に挿通された第2中空部材60に巻かれている。なお、第2コイル56は、第1コイル55と同じ線材を使用して整列巻きで巻き数を40,000ターンとした。ただし、第2コイル56の巻き数は40,000ターンに限定されるものではなく、例えば、60,000ターンであっても良い。ただし、第1コイル55の巻き数と第2コイル56の巻き数とは、同じ数となる。
なお、第1コイル55と第2コイル56の組合せは、抵抗値が同じ値のコイルを取り出し、取り出したコイルに一定電流正弦波を流した状態で波形を収集し、その波形の振幅が同じコイルを1組とした。詳述すると、第1コイル55および第2コイル56は、いずれも同一素材で同一太さの導線が、いずれも同一半径で同一長さ(コイル長)にコイル状に巻かれている。ただし、第1コイル55と第2コイル56とは、コイルの巻き方向が互いに逆方向(逆向き)となっている。したがって、第1コイル55と第2コイル56とは、抵抗値および一定電流正弦波を流した場合の波形が対称形状となる。
第1芯材57の一端(先端キャップ52側の端部)は第1パーマロイ止め61Aに取り付けられ、第1芯材57の他端(コネクタキャップ53側の端部)は第2パーマロイ止め61Bに取り付けられている。また、第1パーマロイ止め61Aおよび第2パーマロイ止め61Bには、ゴム製の環状リングであるOリング62が取り付けられている。ここで、第1パーマロイ止め61Aは、筒状本体50の内径と略同一の外径を有しており、先端キャップ52に隣接して配置されている。また、第2パーマロイ止め61Bも、筒状本体50の内径と略同一の外径を有している。
さらに、第1芯材57に挿通され、第1パーマロイ止め61Aと第1コイル55の両者に隣接した状態で第1カラー材63が配置されている。また、第1芯材57に挿通され、第1コイル55と第2パーマロイ止め61Bの両者に隣接した状態で第2カラー材64が配置されている。
第2芯材59の一端(先端キャップ52側の端部)は第3パーマロイ止め61Cに取り付けられ、第2芯材59の他端(コネクタキャップ53側の端部)は第4パーマロイ止め61Dに取り付けられている。また、第3パーマロイ止め61Cおよび第4パーマロイ止め61Dには、ゴム製の環状リングであるOリング62が取り付けられている。
ここで、第3パーマロイ止め61Cは、筒状本体50の内径と略同一の外径を有している。また、第4パーマロイ止め61Dも、筒状本体50の内径と略同一の外径を有しており、コネクタキャップ53に隣接して配置されている。
さらに、第2芯材59に挿通され、第3パーマロイ止め61Cと第2コイル56の両者に隣接した状態で第3カラー材65が配置されている。また、第2芯材59に挿通され、第2コイル56と第4パーマロイ止め61Dの両者に隣接した状態で第4カラー材66が配置されている。また、第2パーマロイ止め61Bと第3パーマロイ止め61Cとは、アルミニウム製のパイプ67で接続されている。
このように構成した磁気センサ2では、第1コイル55および第2コイル56に磁性物体(探査対象物)が所定距離以内に近づくと、コイル内の磁束密度が増加し、コイルには磁束密度の増加を妨げる向きに磁束を発生するような誘導起電力が発生する。一方、第1コイル55および第2コイル56と探査対象物との距離が近い状態から、第1コイル55および第2コイル56から探査対象物が遠ざかると、コイル内の磁束密度が減少し、コイルには磁束密度を増加させる向きに誘導起電力が発生する。なお、誘導起電力は、単位時間あたりの磁束密度の変化量に応じて増減するので、磁気センサ2の移動速度が大きくなると、誘導起電力が大きくなり、磁気センサ2の移動速度が小さくなると、誘導起電力が小さくなる。また、誘導起電力は、探査対象物が持つ磁界の強さ(磁束密度)によって増減し、探査対象物が持つ磁束密度は、距離の3乗に反比例する。
このため、磁気センサ2が移動され、探査対象物に近づいたり離れたりすることによって、探査対象物との距離の変化(磁束密度の変化)に応じた誘導起電力により流れる誘導電流が磁気センサ2(第1コイル55および第2コイル56)から増幅部3に出力される。
<増幅部3の構成>
図3は増幅部3の構成の一例を示す説明図である。図3に示すように、増幅部3は、プリアンプ31、ノイズ除去部32、信号増幅部33、およびA/D変換部34を有する。増幅部3は、プリアンプ31、ノイズ除去部32、信号増幅部33、およびA/D変換部34をすべて含む1つの増幅器として構成されていてもよい。
また、増幅部3は、第1コイル55に接続される第1増幅部3aと、第2コイル56に接続される第2増幅部3bとを有する。第1増幅部3aは、プリアンプ31a、ノイズ除去部32a、信号増幅部33a、A/D変換部34aを有する。また、第2増幅部3bは、プリアンプ31b、ノイズ除去部32b、信号増幅部33b、A/D変換部34bを有する。ただし、プリアンプ31aとプリアンプ31bは同じ構成であり、ノイズ除去部32aとノイズ除去部32bは同じ構成であり、信号増幅部33aと信号増幅部33bは同じ構成であり、A/D変換部34aとA/D変換部34bは同じ構成であるので、これらを特に区別する必要が無い場合は、それぞれ、プリアンプ31、ノイズ除去部32、信号増幅部33、A/D変換部34と呼ぶことがある。
プリアンプ31は、第1コイル55または第2コイル56において誘導起電力で生じた誘導電流を電圧(電圧値)に変換するためのプリアンプである。なお、プリアンプ31は、電圧値に変換した際に電圧値を増幅する増幅処理を行うこともある。
ノイズ除去部32は、プリアンプ31で変換された電圧値からノイズを除去するノイズ除去処理を行う。たとえば、ノイズ除去部32におけるノイズ除去処理は、プリアンプ31で変換された電圧値に含まれる探査対象物以外の環境磁界に起因するノイズを除去する為の処理である。たとえば、ノイズ除去部32は、ローパスフィルタまたはハイパスフィルタ等を有しており、これらによって環境磁界に起因するノイズが除去される。
信号増幅部33は、ノイズ除去部32でノイズ除去処理が施された電圧値を増幅する増幅処理を行う。A/D変換部34は、信号増幅部33によって増幅された入力信号を所定の周期(サンプリング周期)でデジタル信号(デジタル値)へと変換するA/D変換処理を行う。なお、サンプリング周期は、たとえば2ms〜10msの範囲内で設定され、好ましくは4ms以下である。A/D変換処理後のデジタル値に応じた出力信号(センサ値)が、記録装置4に送信される。
本実施形態では、第1コイル55で生じた誘導電流に応じた出力信号(第1個別信号)が第1増幅部3aから記録装置4に送信され、第2コイル56で生じた誘導電流に応じた出力信号(第2個別信号)が第2増幅部3bから記録装置4に送信される。すなわち、第1個別信号と第2個別信号とは、それぞれ個別に記録装置4に送信される。
<記録装置4の構成>
図1に戻って、記録装置4は、タブレットPC、デスクトップPC、ノート(ラップトップ)PCまたはスマートフォンなどの汎用のコンピュータ(端末)で構成され、増幅部3から送信される出力信号を記録するためのものである。
記録装置4は、制御部41、入力部42、表示部43、通信部44、および補助記憶部45を備える。入力部42、表示部43、通信部44、および補助記憶部45のそれぞれは、通信線を介して制御部41に接続される。
制御部41は、演算部(プロセッサ)46および主記憶部47を含み、記録装置4における各種演算および制御動作を実行する。演算部46は、CPUまたはMPUなどを含む演算処理部である。主記憶部47は、RAM(DRAM)およびROMなどを含む。RAMは、演算部46のワーク領域およびバッファ領域として用いられる。ROMは、起動プログラムや各種情報についてのデフォルト値等を記憶する。
入力部42は、記録装置4の操作者(ユーザ)の操作入力を受け付ける入力部品および入力部品と演算部46との間に介在する入力検出回路を含む。入力部品は、たとえばキーボードまたは/およびコンピュータマウスであり、入力部品がキーボードである場合には、ハードウェアの操作ボタンないし操作キー(ハードウェアキー)が含まれる。また、入力部品としては、タッチパネルが用いられても良い。タッチパネルとしては、静電容量方式、電磁誘導方式、抵抗膜方式、赤外線方式など、任意の方式のものを用いることができる。入力部品がタッチパネルである場合には、ソフトウェア的に再現された操作キー(ソフトウェアキー)が含まれる。入力検出回路は、各入力部品の操作に応じた操作信号ないし操作データを演算部46に出力する。
表示部43は、ディスプレイおよびディスプレイと演算部46との間に介在する表示制御回路を含む。ディスプレイとしては、たとえばLCD(液晶ディスプレイ)または有機ELディスプレイなどを用いることができる。表示制御回路は、GPUおよびVRAMなどを含む。演算部46の指示の下、GPUは、RAMに記憶された画像生成用のデータを用いてディスプレイに種々の画面を表示するための表示画像データをVRAMに生成し、生成した表示画像データをディスプレイに出力する。たとえば、測定部5(増幅部3)から出力される出力信号に基づく波形(出力波形)を含む記録画面等がディスプレイに出力(表示)される。なお、入力部品がタッチパネルである場合には、ディスプレイの表示面上にタッチパネルが設けられ、ディスプレイの表示面上にソフトウェアキーが表示される。
補助記憶部45は、HDD、SSD、フラッシュメモリ、EEPROMなどの他の不揮発性メモリで構成され、演算部46が記録装置4の動作を制御するための制御プログラムおよび各種データなどを記憶する。増幅部3から送信される出力信号のデータは、補助記憶部45に自動的に記憶(蓄積)される。
また、補助記憶部45は、磁気探査システム1における記録装置4の各種動作を実行するための制御プログラム48と、本システムの利用に必要となる探査用データ(記録データ)49とを記憶している。制御プログラム48および探査用データ49は、必要に応じて補助記憶部45から読み出され、主記憶部47(RAM)に記憶される(展開される)。
制御プログラム48は、増幅部3から送信される出力信号を受信(取得)するための受信プログラム(取得プログラム)、受信した出力信号から波形(出力波形)を生成する波形生成プログラム、出力波形のデータ(出力波形データ)を補助記憶部45に記憶(記録)する記憶プログラム(記録プログラム)等を含む。すなわち、記録装置4が出力波形データを記録する動作(記録動作)は、演算部46が主記憶部47(RAM)に展開された制御プログラム48を実行することによって実現される。
ただし、本実施形態では、受信プログラムは、第1増幅部3aから送信される第1個別信号と、第2増幅部3bから送信される第2個別信号とをそれぞれ個別に受信する。また、波形生成プログラムは、第1個別信号から第1個別波形を生成し、第2個別信号から第2個別波形を生成し、さらに、第1個別波形および第2個別波形を合成した合成波形(差動振幅波形)を生成する。さらにまた、記憶プログラムは、第1個別波形のデータ(第1個別波形データ)、第2個別波形のデータ(第2個別波形データ)、および合成波形のデータ(合成波形データ)を補助記憶部45に記憶する(図4参照)。すなわち、第1個別波形は、第1コイル55で生じた誘導電流から生成され、第2個別波形は、第2コイル56で生じた誘導電流から生成され、合成波形は、第1コイル55で生じた誘導電流および第2コイル56で生じた誘導電流から生成される。
なお、合成波形は、第1個別波形および第2個別波形の振幅が共にプラス側の振幅である場合または共にマイナス側の振幅である場合には増幅された波形となり、第1個別波形および第2個別波形の振幅の一方がプラス側の振幅であり、他方がマイナス側の振幅である場合には、減衰された(打ち消された)波形となる。したがって、合成波形では、環境磁界に起因するノイズによる波が第1個別波形および第2個別波形のそれぞれに生じたとしても、ノイズによる波が減衰されるので、環境磁界に起因するノイズの影響を抑制ないし防止することができる。
図4は記録装置4の補助記憶部45に記憶される探査用データ49の一例を示す説明図である。図4に示すように、探査用データ49は、出力波形データ49aを含み、出力波形データ49aは、第1個別波形データ49b、第2個別波形データ49c、および合成波形データ49dを含む。出力波形データ49aは、磁気探査が行われる毎に生成ないし記憶され、他の出力波形データ49aとは区別して記憶される。また、同じ出力波形データ49aに含まれる、第1個別波形データ49b、第2個別波形データ49c、および合成波形データ49dのそれぞれは、互いに関連付けられている。たとえば、第1個別波形データ49b、第2個別波形データ49c、および合成波形データ49dのそれぞれは、互いの時間軸を揃えた状態で出力(表示)できるように記憶されている。
なお、図1に示す増幅部3および記録装置4の構成は、単なる一例であり、これに限定される必要はない。たとえば、記録装置4は、ロール紙等の用紙に出力波形をインクで描き記録する、いわゆるペンレコーダであってもよい。また、各増幅部3と記録装置4とは、有線で接続されていてもよい。
従来の磁気探査システムにおける磁気探査方法では、磁気センサ2を水平または鉛直に移動させ、出力波形の変化から探査対象物の有無の判定を行う。しかしながら、磁性物体には大きさの違いや地中での深さの違いがあり、これらの違いから、第1コイル55と第2コイル56の間の距離に対して、探査対象物の長さ(磁気センサ2の軸線方向の長さ)が短すぎる場合あるいは探査対象物の長さが長すぎる場合には、正しい波形が出力されず、探査対象物の検出精度が低下するという問題がある。
そこで、本発明では、第1コイル55と第2コイル56の間の距離が互いに異なる複数の磁気センサ2を用意し、複数の磁気センサ2を選択的に使用することができるようにした。また、本発明では、第1個別波形データ49b、第2個別波形データ49c、および合成波形データ49dのそれぞれを関連付けて記録し、第1個別波形、第2個別波形、および合成波形のそれぞれを個別に参照または比較できるようにした。
図5は、磁気探査システム1に含まれる各磁気センサ2のコイル間距離Dを示す説明図である。図5に示すように、各磁気センサ2のそれぞれは、第1コイル55と第2コイル56との距離であるコイル間距離Dが互いに異なるように構成されている。コイル間距離Dは、第1コイル55の長手方向(軸方向)の中心位置と、第2コイル56の長手方向の中心位置との距離のことである。
各磁気センサ2のコイル間距離Dは、探査対象物の大きさに合わせて適宜設定されればよい。たとえば、探査対象物が不発弾(砲弾または爆弾)である場合には、各磁気センサ2のコイル間距離Dは、様々な弾体長の不発弾に対応できるように、0.3m〜2.0mの間で設定される。
図5に示す例では、5つの磁気センサ2a〜2eが用意されている。磁気センサ2aのコイル間距離Dは1.6mであり、磁気センサ2bのコイル間距離Dは1.0mであり、磁気センサ2cのコイル間距離Dは0.7mであり、磁気センサ2dのコイル間距離Dは0.5mであり、磁気センサ2eのコイル間距離Dは0.3mである。コイル間距離Dが1.6mの磁気センサ2aは、主に水平磁気探査方法において従来から多く用いられてきたものである。コイル間距離Dが1.0mの磁気センサ2bは、主に鉛直磁気探査方法において従来から用いられてきたものである。
<磁気探査方法例>
以下、地中に存在する探査対象物を探査する方法の一例を説明する。図6は磁気探査方法の一例である水平磁気探査方法を示す説明図である。図6に示すように、探査対象物を探査する区域(探査区域)に所定間隔(たとえば0.5m〜1m間隔)の探査側線を設定した探査測線図を作成しておく。次に、設定した探査側線に合わせて、探査区域の地面にロープ等の探査測線の目印となる物を設置する。なお、探査側線は、複数設置され、複数の探査側線のそれぞれには、各探査側線を識別するための固有の識別情報(たとえば番号等)が割り当てられる。
そして、磁気センサ2を2人の探査員がつり下げて支持した状態で探査測線に沿って歩行し、磁気センサ2を移動させる。地中に探査対象物が存在する場合には、磁気センサ2の第1コイル55または第2コイル56に誘導起電力が生じ、これに応じた出力信号が増幅部3から出力される。記録装置4が出力信号を受信すると、出力信号から生成される波形(出力波形)が表示部43のディスプレイに表示される。記録員は、表示部43のディスプレイに表示される出力波形の変化から探査対象物の有無の判定を行う。
ただし、磁気センサ2は、地上高さが所定高さ(0.05m〜0.15m、好ましくは0.1m)になるように支持され、所定の移動速度(0.8m/秒〜1.2m/秒、好ましくは1m/秒)で移動される。
以下、図7〜図10を参照して、磁気センサ2が探査対象物の近傍を通過する複数の例と、それぞれの場合の出力波形(合成波形)を説明する。なお、図7〜図10で示す例は、水平磁気探査方法を用いたものである。また、図7〜図10で示す探査対象物は、不発弾を想定しており、長手方向と短手方向とを有する筒状の磁性物体である。
<検出例1>
図7Aは、磁気センサ2が探査対象物の一方の端部(単極)近傍を通過する検出例1(単極通過の例)を示す正面視による説明図である。すなわち、立っている状態で埋没している探査対象物を図示している。図7Bは、図7Aの場合の出力波形AWを示すグラフである。
なお、図7Bに示す出力波形のグラフは、横軸が時間であり、縦軸がセンサ値(デジタル変換された電圧値、すなわち出力信号の強度)である。また、縦軸のうち、紙面上方がプラス側であり、紙面下方がマイナス側である。これらのことは、後述する図8B、図9B、図10Bに示すグラフでも同じである。
図7Aに示すように、検出例1では、磁気センサ2の移動方向(本検出例では水平方向)に対して、探査対象物の長手方向が略垂直な向きとなっている。この場合、磁気センサ2が探査対象物の近傍を通過する際に、探査対象物の長手方向の一方端部P1は磁気センサ2に接近するものの、探査対象物の長手方向の他方端部P2は磁気センサ2から離れたままとなる。このため、探査対象物の一方端部P1の磁界のみが磁気センサ2に作用し、探査対象物の他方端部P2の磁界は磁気センサ2にほぼ作用しない。したがって、図7Aのような単極通過の場合の出力波形は、探査対象物の一方端部P1(単極)による誘導起電力による波が主となる。
具体的には、最初に第1コイル55が探査対象物の一方端部P1に接近して離れることによって第1コイル55にプラスまたはマイナスの誘導起電力が発生する。その後、所定時間経過後に、第2コイル56が探査対象物の一方端部P1に接近して離れることによって第2コイル56にプラスまたはマイナスの誘導起電力が発生する。したがって、図7Bに示すように、第1個別波形と第2個別波形とを合成した出力波形(合成波形)AWとしては、第1コイル55に生じた誘導起電力に対応する一方向への波(第1の波)CA1と、第2コイル56に生じた誘導起電力に対応する一方向への波(第2の波)CA2とが表れる。
上述したように、第1コイル55と第2コイル56とはコイルの巻き方向が互いに逆方向である。このため、検出例1では、第1の波CA1と、第2の波CA2とは、振幅が同程度であって逆向きの波(プラスとマイナスが逆の波)となる。また、逆向きの波が所定の時間差で表れるため、検出例1の出力波形AWとしては正弦波に似たような波形となる。
このような出力波形AWにおいて、第1の波CA1のピークと、第2の波CA2のピークとの間の距離(ピーク間距離)PDを読み取り、分析することによって、探査対象物の有無の判定を行うことができる。たとえば、コイル間距離Dが1.0mであり、磁気センサ2の移動速度が1.0m/秒であり、第1の波CA1の振幅と第2の波CA2の振幅とが同等であり、かつ、出力波形AW上のピーク間距離PDが1.0mに相当する場合(たとえば、出力波形AWの横軸が1cm/秒であって、ピーク間距離PDが1cmである場合)には、第1コイル55および第2コイル56は同じ位置にある同じ磁束密度を有する物体、すなわち、同じ物体に反応していると推定できる。このため、第1の波CA1のピーク(または第2の波CA2のピーク)の位置(つまり、第1コイル55及び第2コイル56のうちピークが現れた方のそのピーク時の位置の真下の地中)に、1つの探査対象物が存在すると判定(推定)することができる。
以上のように、出力波形AWに正弦波に似たような波形(単極通過の場合の波形)が独立して表れた場合には、磁気センサ2の第1コイル55および第2コイル56が同一の探査対象物の一方端部(単極)に反応していると判定することができる。すなわち、磁気センサ2の移動方向に対して長手方向が略垂直な向きとなっている探査対象物が存在していると判定することができる。
<検出例2>
図8Aは、磁気センサ2が磁性物体の両方の端部(双極)近傍を通過する検出例2(双極通過の例)を示す説明図である。図8Bは、図8Aの場合の出力波形AWの一例を示すグラフである。
図8Aに示すように、検出例2では、磁気センサ2の移動方向(本検出例では水平方向)に対して、探査対象物の長手方向が平行となっている。この場合、磁気センサ2が探査対象物の近傍を通過する際に、探査対象物の長手方向の一方端部P1が磁気センサ2に接近した後に、探査対象物の長手方向の他方端部P2が磁気センサ2に接近する。このため、磁気センサ2が磁性物体の両方の端部(双極)近傍を通過する双極通過の場合には、一方端部P1の磁界および他方端部P2の磁界の両方が磁気センサ2に作用する。
ただし、第1コイル55および第2コイル56のそれぞれにおいて、探査対象物の一方端部P1による誘導起電力による波と、探査対象物の他方端部P2による誘導起電力による波との間には、一方端部P1および他方端部P2の間の距離(探査対象物の長さL)と、磁気センサ2の移動速度と、コイル間距離Dとで定まる時間差が生じる。したがって、この場合の出力波形AWは、探査対象物の一方端部P1による誘導起電力による波と、探査対象物の他方端部P2による誘導起電力による波とが所定の時間差で表れた波形となる。
具体的には、最初に第1コイル55が探査対象物の一方端部P1に接近して離れることによって第1コイル55に誘導起電力が発生し、その後、第1コイル55が探査対象物の他方端部P2に接近して離れることによって第1コイル55に誘導起電力が発生する。また、第1コイル55から遅れて、第2コイル56が探査対象物の一方端部P1に接近して離れることによって第2コイル56に誘導起電力が発生し、その後、第2コイル56が探査対象物の他方端部P2に接近して離れることによって第2コイル56に誘導起電力が発生する。
ただし、一方端部P1と他方端部P2とは、磁極が互いに逆になっている。たとえば、一方端部P1がS極であれば、他方端部P2はN極となっている。これらのことは、後述する検出例3、検出例4、検出例6、検出例7でも同じである。このため、一方端部P1に接近して生じる誘導起電力と、他方端部P2に接近して生じる誘導起電力とは、正負が逆となる。したがって、図示は省略するが、双極通過の場合、第1コイル55に生じる誘導起電力の波形(第1個別波形)と、第2コイル56に生じる誘導起電力の波形(第2個別波形)のそれぞれは、逆向きの波が所定の時間差で表れるため、正弦波に似たような波形となる。
したがって、図8Bに示すように、第1個別波形と第2個別波形とを合成した出力波形(合成波形)AWとしては、第1個別波形における一方端部P1による波(第1の波)CA1と、第1個別波形における他方端部P2による波および第2個別波形における一方端部P1による波が合成された波(第2の波)CA2と、第2個別波形における他方端部P2による波(第3の波)CA3とが表れる。
この検出例2では、磁気センサ2のコイル間距離Dと、探査対象物の長さ(一方端部P1と他方端部P2の間の距離)Lとが等しくなっている。このため、検出例2では、第1個別波形における他方端部P2による波と、第2個別波形における一方端部P1による波とは、ほぼ同時に表れる。
また、検出例2では、第1コイル55と第2コイル56とはコイルの巻き方向が互いに逆方向であることと、一方端部P1の磁極と他方端部P2の磁極とが逆の極性であることから、第1の波CA1と、第3の波CA3とは、同じ向きの波(プラスとマイナスが同一)となる。一方、第1個別波形における他方端部P2による波と、第2個別波形における一方端部P1による波とのそれぞれは、同じ向きの波となり、かつ、第1の波CA1および第3の波CA3とは、逆向きの波となる。すなわち、第2の波CA2は、同じ向きの波である、第1個別波形における他方端部P2による波と、第2個別波形における一方端部P1による波とが合成される。このため、増幅した波となり、第1の波CA1および第3の波CA3よりも振幅が大きくなる。
したがって、検出例2における出力波形AWとしては、正負が交互に逆になる3つの波CA1〜CA3が表れるM字状の波形(探査対象物の極性が反対の場合には、W字状の波形)であって、かつ、第2の波CA2の振幅が第1の波CA1の振幅および第3の波CA3の振幅よりも大きい波形となる。
以上のように、出力波形AWにM字状またはW字状の波形が表れた場合には、磁気センサ2の第1コイル55および第2コイル56が同一の探査対象物の両方の端部(双極)に反応していると判定することができる。すなわち、磁気センサ2の移動方向に対して、長手方向が略垂直な向きとなっている探査対象物が存在していると判定することができる。さらに、出力波形AWにおける第2の波CA2の振幅が第1の波CA1の振幅および第3の波CA3の振幅よりも大きいことから、第1個別波形における他方端部P2による波と、第2個別波形における一方端部P1による波とは、同時に表れていることがわかる。すなわち、探査対象物の長さLが、磁気センサ2のコイル間距離Dと等しいことがわかる。
<検出例3>
図9Aは、磁気センサ2が磁性物体の両方の端部(双極)近傍を通過する他の検出例3(双極通過の例)を示す説明図である。図9Bは、図9Aの場合の出力波形AWの一例を示すグラフである。
図9Aに示すように、検出例3では、磁気センサ2のコイル間距離Dと、探査対象物の長さLとが異なっており、探査対象物の長さLが、コイル間距離Dよりも短くなっている。たとえば、探査対象物の長さLが、コイル間距離Dの1/10〜1/2となっている。
この検出例3も双極通過の場合であるので、出力波形AWの基本的な構成は、検出例2の波形(図8Bで示した波形)に近い形となる。ただし、検出例3では、探査対象物の長さLが、コイル間距離Dよりも短いので、第1個別波形における他方端部P2による波と、第2個別波形における一方端部P1による波とに時間差が生じる。
したがって、図9Bに示すように、検出例3では、第1個別波形における一方端部P1による第1の波CA1と、第2個別波形における他方端部P2による第3の波CA3とははっきり表れるものの、第1個別波形における他方端部P2による波と、第2個別波形における一方端部P1による波とは合成時に減衰されてしまう。すなわち、第1の波CA1と、第3の波CA3との間の第2の波CA2の振幅が小さくなってしまう。少なくとも、第2の波CA2の振幅が、第1の波CA1および第3の波CA3の振幅と同じかそれ以下となる。したがって、図2Bに示すような理想的な第2の波CA2が表れなくなってしまい、第2の波CA2を認識できなくなってしまう場合もある。
さらに、第1の波CA1および第2の波CA2の前半部分に亘る波形Z1と、第2の波CA2の後半部分および第3の波CA3に亘る波形Z2とのそれぞれは、単極通過の場合の波形(単極波形)に類似している。すなわち、検出例3では、単極波形が複数表れているともいえる。
このように、出力波形AWとして、第1の波CA1と、第3の波CA3との間の第2の波CA2が理想的な波形でない場合、探査対象物が存在していること自体は分かるものの、1つの双極を通過した可能性もあり、第1の波CA1と、第3の波CA3とのそれぞれが単極通過である(2つの単極を通過した)可能性もあることになる。すなわち、探査対象物の長さLまたは個数が検出不可能(不明)である。
したがって、磁気センサ2の移動方向に対して、長手方向が略垂直な向きとなっている1つの探査対象物が存在しているにもかかわらず、磁気センサ2の移動方向に対して長手方向が略垂直な向きとなっている2つの探査対象物が存在していると誤認する可能性がある。
ここで、図9Bの出力波形AWを得た際に使用した磁気センサ2よりも、コイル間距離Dが短い磁気センサ2を使用すれば、磁気センサ2のコイル間距離Dと、探査対象物の長さLとの差を小さくすることができ、場合によっては、磁気センサ2のコイル間距離Dと、探査対象物の長さLとを一致させることができる。磁気センサ2のコイル間距離Dと、探査対象物の長さLとの差が小さくなれば、出力波形AWは、図8Bで示したような波形により近い形となる。このため、図9Bの出力波形AWを得た際に使用した磁気センサ2よりも、コイル間距離Dが短い磁気センサ2を使用することによって、長手方向が略垂直な向きとなっている1つの探査対象物が存在していることを検出することができる。すなわち、探査対象物を適切に検出することができる。
<検出例4>
図10Aは、磁気センサ2が磁性物体の両方の端部(双極)近傍を通過する他の検出例4(双極通過の例)を示す説明図である。図10Bは、図10Aの場合の出力波形AWの一例を示すグラフである。
図10Aに示すように、検出例4では、磁気センサ2のコイル間距離Dと、探査対象物の長さLとが異なっており、探査対象物の長さLが、コイル間距離Dよりも長くなっている。たとえば、探査対象物の長さLが、コイル間距離Dの1.5倍以上となっている。
この検出例4も双極通過の場合であるので、出力波形AWの基本的な構成は、検出例2の波形(図8Bで示した波形)に近い形となる。ただし、検出例4では、探査対象物の長さLが、コイル間距離Dよりも長いので、第1個別波形における他方端部P2による波と、第2個別波形における一方端部P1による波とに時間差が生じる。
したがって、図9Bに示すように、検出例4では、第1個別波形における一方端部P1による第1の波CA1と、第2個別波形における他方端部P2による第3の波CA3とははっきり表れるものの、第1個別波形における他方端部P2による波と、第2個別波形における一方端部P1による波とは合成時に減衰されてしまう。すなわち、第1の波CA1と、第3の波CA3との間の第2の波CA2の振幅が小さくなってしまう。また、第1の波CA1と、第3の波CA3との間に、わずかではあるものの、第1の波CA1および第3の波CA3と同じ向きの波(第4の波)CA4が生じる。すなわち、検出例4では、正負が交互に逆になる連続する5つの波が生じる。したがって、図2Bに示すような理想的な第2の波CA2が表れなくなってしまい、第2の波CA2を認識できなくなってしまう場合もある。さらに、検出例4においても、単極波形に類似する波形Z1および波形Z2が表れている。すなわち、検出例4では、単極波形が複数表れているともいえる。
この場合も、第1の波CA1と、第3の波CA3との間の第2の波CA2が理想的な波形でないので、探査対象物が存在していること自体は分かるものの、1つの双極を通過した可能性も、2つ以上の単極を通過した可能性もあることになる。すなわち、探査対象物の長さLまたは個数が不明である。
ここで、図10Bの出力波形AWを得た際に使用した磁気センサ2よりも、コイル間距離Dが長い磁気センサ2を使用すれば、磁気センサ2のコイル間距離Dと、探査対象物の長さLとの差を小さくすることができ、場合によっては、磁気センサ2のコイル間距離Dと、探査対象物の長さLとを一致させることができる。磁気センサ2のコイル間距離Dと、探査対象物の長さLとの差が小さくなれば、出力波形AWは、図8Bで示したような波形により近い形となる。このため、図10Bの出力波形AWを得た際に使用した磁気センサ2よりも、コイル間距離Dが長い磁気センサ2を使用することによって、探査対象物を適切に検出することができる。
図11は本発明の磁気探査処理の一例を示すフローチャート図である。以下、図11を参照して磁気探査処理の流れを説明する。まず、複数の磁気センサ2のうちの1つを選択し(ステップS1)、磁気探査を実施し(ステップS2)、磁気探査によって生成された出力波形が表示される(ステップS3)。
続いて、ステップS3で表示された出力波形から、双極通過と判定可能かどうかを判断する(ステップS4)。ここでは、正負が交互に逆になる3つの波CA1〜CA3が表れるM字状またはW字状の波形であって、かつ、第2の波CA2の振幅が第1の波CA1の振幅および第3の波CA3の振幅よりも大きい波形かどうかを判断する。
双極通過と判定可能であれば(ステップS4:YES)、双極通過を検出して(ステップS5)、磁気探査処理を終了する。すなわち、地中に略水平な向きで埋没している探査対象物を検出する。このとき、ステップS2で使用した磁気センサ2のコイル間距離Dから、探査対象物の長さLも検出する。
一方、双極通過と判定不可能であれば(ステップS4:NO)、ステップS3で表示された出力波形に単極波形が連続して複数表れているかどうかを判断する(ステップS6)。
出力波形に単極波形が連続して複数表れていない場合、すなわち、単極波形が独立して表れている場合には(ステップS6:NO)、単極通過を検出して(ステップS7)、磁気探査処理を終了する。地中に略垂直な向きで埋没している探査対象物を検出する。
一方、出力波形に単極波形が連続して複数表れている場合には(ステップS6:YES)、ステップS3で表示された出力波形に、正負が交互に逆になる連続する5つ以上の波があるかどうかを判断する(ステップS8)。なお、波とは、所定の閾値を超える振幅を有する波のことであり、ノイズによる細かい波等は含まない。
正負が交互に逆になる連続する5つ以上の波があれば(ステップS8:YES)、直前に使用した磁気センサ2よりも、コイル間距離Dが長い磁気センサ2を選択し(ステップS9)、ステップS2に戻る。一方、正負が交互に逆になる連続する5つ以上の波がなければ(ステップS8:NO)、直前に使用した磁気センサ2よりも、コイル間距離Dが短い磁気センサ2を選択し(ステップS10)、ステップS2に戻る。
以上のように、この磁気探査システム1では、複数の測定部5を、選択的に使用することができる。すなわち、磁気探査システム1では、コイル間距離Dが互いに異なる複数の磁気センサ2を、選択的に使用することができる。
したがって、検出例1〜4に示すように、磁気探査システム1の各磁気センサ2に対して、コイル間距離Dと探査対象物の大きさ(長さ)や向きによって検出される波形が異なる。そして、これを利用して、出力波形から探査対象物の個数および長さが不明である場合に、他の磁気センサ2を使用して再探査を行うことにより、探査対象物の個数および長さが明確になることがある。
以上の構成および動作により、地中に存在する磁性物体を適切に検出することができる。詳述すると、1つの磁気センサ2を用いて探査側線に沿って探査対象物を検出していき、得られた波形が検出例1〜4のどれに該当するかを確認することによって、探査対象物であることと大きさ(長さ)を検出する、あるいはコイル間距離Dの異なる他の磁気センサ2でその位置の再探査をして探査対象物であることと大きさ(長さ)を検出するといったことができ、探査対象物とその大きさ(長さ)を精度よく検出することができる。
また、磁気センサ2が第1コイル55および第2コイル56を有しているため、第1コイル55と第2コイル56の両方で探査対象物を検出して検出精度を高めることができる。また、第1コイル55と第2コイル56が軸芯方向を一致させてコイルの向きが逆方向に配置されているため、第1コイル55と第2コイル56のそれぞれで探査対象物を検出している波形を正逆反対の波形とすることができ、ノイズを除去して精度良い検出を行うことができる。
また、各磁気センサ2は、第1コイル55および第2コイル56が同じであるがコイル間距離Dが異なるだけの構成であるため、検出した波形の比較が容易であるとともに、別の磁気センサ2を使用しての再探査によって探査対象物であるか否かを適切に判定しやすく、かつ、探査対象物の大きさ(長さ)の検出が容易となる。
たとえば、従来から多く使用されてきたコイル間距離Dが1.6mの磁気センサ2aでは、弾体長が0.6m以上の探査対象物であれば、適切に検出することができたが、弾体長が0.6m未満の探査対象物については、発見しにくいという問題がある。このため、弾体長が0.6m未満の探査対象物については、コイル間距離Dが0.3m〜0.7mの磁気センサ2c〜2eを使用することによって、探査対象物を適切に検出することができる。このように、本実施形態で用意した、コイル間距離Dが0.3m〜0.7mの磁気センサ2c〜2eは、比較的小さな不発弾の探査に適しており、特に、過去の戦争で多く使用された5インチ砲弾(弾体長が0.526m)の探査に適している。
一方、弾体長が1.0m以上の探査対象物については、コイル間距離Dが1.0m〜1.6mの磁気センサ2a,2bを使用することによって、探査対象物を適切に検出することができる。
<検出例5>
図12は、磁気センサ2が磁性物体の一方の端部(単極)近傍を通過する他の例(検出例5)の各個別波形および合成波形を示すグラフである。検出例5は、単極通過の例であるので、検出例1と同様に、磁気センサ2の移動方向に対して、探査対象物の長手方向が略垂直な向きとなっている(たとえば図7A参照)。
検出例1で説明したように、単極通過の場合には、出力波形(合成波形)AWとしては正弦波に似たような波形となる。しかしながら、検出例5では、図12に示すように、単極通過の場合であっても合成波形AWが綺麗な正弦波とはなっていない。このような場合、探査対象物が存在していること自体は分かるものの、単極通過であるのか、双極通過であるのかの検出(判別)が難しくなり、探査対象物の個数または長さLを誤認する可能性がある。
ここで、本発明では、合成波形データ49dに関連付けられた第1個別波形データ49bおよび第2個別波形データ49cが記録されている。すなわち、第1個別波形データ49bが示す第1個別波形IW1と、第2個別波形データ49cが示す第2個別波形IW2とを参照することができる。
第1個別波形IW1についてみると、一方向への波(第1の波)CA1が表れており、第2個別波形IW2についてみると、一方向への波(第2の波)CA2が表れている。第1の波CA1と、第2の波CA2とは、振幅が同程度の逆向きの波であり、かつ、所定のピーク間距離PDで表れている。この場合、コイル間距離Dとピーク間距離PDが対応する場合には、単極通過であることがわかる。
このように、検出例5では、合成波形AWから探査対象物(磁性物体)の存在が検出された場合であって、探査対象物の個数が不明である場合に、第1個別波形IW1および第2個別波形IW2を参照することによって、探査対象物の個数を適切に検出することができる。
<検出例6>
図13は、磁気センサ2が磁性物体の両方の端部(双極)近傍を通過する検出例6(双極通過の例)の各個別波形および合成波形を示すグラフである。検出例6は、双極通過の例であるので、磁気センサ2の移動方向に対して、探査対象物の長手方向が平行となっている(たとえば図8A参照)。
検出例2で説明したように、双極通過の場合には、出力波形(合成波形)AWとしては正負が交互に逆になる3つの波CA1〜CA3が表れるM字状またはW字状の波形であって、かつ、第2の波CA2の振幅が第1の波CA1の振幅および第3の波CA3の振幅よりも大きい波形となる。しかしながら、検出例6では、図13に示すように、双極通過の場合の理想的な波形とはならず、多数の波が表れている。たとえば、探査対象物の長さLが、磁気センサ2のコイル間距離Dよりも短い場合に、図13に示すような波形となる。このような場合、探査対象物が存在していること自体は分かるものの、複数の単極通過であるのか、双極通過であるのかの判別が難しくなり、探査対象物の個数を誤認する可能性がある。また、双極通過であった場合の探査対象物の長さLを正確に検出することも難しく、探査対象物の長さLを誤認する可能性がある。
ここで、検出例6においても、検出例5の場合と同様に、第1個別波形データ49bが示す第1個別波形IW1と、第2個別波形データ49cが示す第2個別波形IW2とを参照することができる。第1個別波形IW1についてみると、正弦波に似たような波(第1の波CA1)が表れており、第2個別波形IW2についてみると、正弦波に似たような波(第2の波CA2)が表れている。すなわち、各個別波形をみると、正弦波に似た第1の波CA1と、正弦波に似た第2の波CA2とが、所定の時間差で表れている。これらの特徴から、双極通過であることがわかる。また、第1の波CA1のピーク間距離PDと、第2の波CA2のピーク間距離PDから、探査対象物の長さLを検出することができる。
このように、検出例6では、合成波形AWから探査対象物(磁性物体)の存在が検出された場合であって、探査対象物の長さLまたは個数が不明である場合に、第1個別波形IW1および第2個別波形IW2を参照することによって、探査対象物の長さLまたは個数を適切に検出することができる。
<検出例7>
図14Aは、磁気センサ2が2つの磁性物体の両方の端部(双極)近傍を通過する他の例(検出例7)を示す説明図である。図14Bは、図14Aの場合の各個別波形および合成波形を示すグラフである。
図14Aに示すように、検出例7では、磁気センサ2が2つの磁性物体の双極近傍を通過する。ただし、2つの磁性物体の一方は、探査対象物であり、他方は探査対象外の磁性物体(非探査対象物)である。また、探査対象物の長さL1は、コイル間距離D以下の長さであり、非探査対象物の長さL2は、コイル間距離Dよりも長い。すなわち、探査対象物の長さL1は、非探査対象物の長さL2よりも短い。また、探査対象物と非探査対象物とは、略平行に並ぶように存在しており、探査対象物は、非探査対象物の長手方向(軸方向)の中央部に並ぶ位置(非探査対象物の長手方向の範囲内に収まる位置)に存在している。
この検出例7では、磁気センサ2(第1コイル55および第2コイル56)は、非探査対象物の一方端部P3、探査対象物の一方端部P1、探査対象物の他方端部P2、非探査対象物の他方端部P4の順に通過する。この場合、図14Bに示すように、出力波形(合成波形)AWとしては大小の波が多数表れる波形となる。このような合成波形AWでは、探査対象物が存在していること自体は分かるものの、単極通過であるのか、双極通過であるのかの判別が難しいだけでなく、探査対象物の長さL1を正確に検出することも難しい。したがって、探査対象物の個数または探査対象物の長さL1を誤認する可能性がある。
一方、第1個別波形IW1についてみると、一方向への波(第1の波CA11)、正弦波に似たような波(第2の波CA12)、一方向への波(第3の波CA13)が所定の時間差で表れている。また、第2個別波形IW2についてみると、一方向への波(第1の波CA21)、正弦波に似たような波(第2の波CA22)、一方向への波(第3の波CA23)が所定の時間差で表れている。ただし、正弦波に似た第2の波CA12と、正弦波に似た第2の波CA22とが、所定のピーク間距離PDで表れている。この特徴から、第2の波CA12と第2の波CA12とは、双極通過の波形であることがわかる。したがって、長大な非探査対象物が探査対象物の近くにあったとしても、双極通過であることがわかる。また、第2の波CA12と、第2の波CA22とのピーク間距離PDから、使用した磁気センサ2のコイル間距離Dとの関係から、探査対象物の長さL1を検出することもできる。
図15は本発明の波形出力処理の一例を示すフローチャートである。以下、図15を参照して波形出力処理の流れを説明する。まず、磁気探査を実施し(ステップS21)、出力波形として合成波形を出力するかどうかを判断する(ステップS22)。すなわち、合成波形を出力するか、個別波形を出力するかを判断する。なお、合成波形を出力するか、個別波形を出力するかどうかは、予め設定されていてもよい。
合成波形を出力する場合(ステップS22:YES)、合成波形を出力して(ステップS23)、合成波形から探査対象物の個数または探査対象物の長さを判定可能かどうか判断する(ステップS24)。合成波形から探査対象物の個数または探査対象物の長さを判定可能であれば(ステップS24:YES)、波形出力処理を終了する。一方、合成波形から探査対象物の個数または探査対象物の長さを判定不可能であれば(ステップS24:NO)、個別波形を出力して(ステップS25)、波形出力処理を終了する。
また、ステップS22で個別波形を出力する場合(ステップS22:NO)、個別波形を出力して(ステップS26)、個別波形から探査対象物の個数または探査対象物の長さを判定可能かどうか判断する(ステップS27)。個別波形から探査対象物の個数または探査対象物の長さを判定可能であれば(ステップS27:YES)、波形出力処理を終了する。一方、個別波形から探査対象物の個数または探査対象物の長さを判定不可能であれば(ステップS27:NO)、合成波形を出力して(ステップS28)、波形出力処理を終了する。なお、個別波形から探査対象物の個数または探査対象物の長さを判定不可能な場合とは、たとえば、ノイズによる影響が大きい場合などがある。上述したように、合成波形はノイズの影響を受けにくいのに比べ、個別波形はノイズの影響を受けやすいからである。
この磁気探査システム1では、合成波形だけでなく、第1個別波形と、第2個別波形とを参照することができる。したがって、検出例5ないし検出例7で説明したように、合成波形を参照しただけでは探査対象物の長さまたは個数が不明である場合であっても、第1個別波形および第2個別波形を参照することによって探査対象物の長さまたは個数を適切に検出することができる。また、第1個別波形および第2個別波形を参照しただけでは探査対象物の長さまたは個数が不明である場合であっても、合成波形を参照することによって探査対象物の長さまたは個数を適切に検出することができる。
この発明の第1コイルは上記実施形態の第1コイル55に対応し、以下同様に、第2コイルは第2コイル56に対応し、磁気センサは磁気センサ2に対応し、波形生成部は波形生成プログラムおよびこれに従って動作する制御部41(演算部46)に対応し、記録部は記録装置4に対応するが、この発明は本実施形態に限られず他の様々な実施形態とすることができる。また、上述の実施形態で挙げた具体的な構成等は一例であり、実際の製品に応じて適宜変更することが可能である。たとえば、上述の実施形態では、磁気探査の方法として水平磁気探査方法を例に挙げて説明したが、本発明は、鉛直磁気探査方法にも適用することができる。
上述の実施形態では、磁気センサ2は、探査員がつり下げて支持した状態で歩行することによって移動されるようにしたが、自動走行車両、ロボットまたはドローン等によって移動されたり、ロープウェイ等の移動装置によって移動されたりしてもよい。
また、上述の実施形態では、磁気探査システム1が複数の測定部5を備えるようにしたが、磁気探査システム1が1つの測定部5を備えるようにしてもよい。すなわち、磁気探査システム1が1つの磁気センサ2を備えるようにしてもよい。
さらに、上述の実施形態では、第1個別波形データ、第2個別波形データ、および合成波形データが補助記憶部45に記憶されるようにしたが、合成波形データのみが補助記憶部45に記憶されるようにしてもよい。
さらにまた、上述の実施形態の構成に加えて、増幅部3において、探査員の歩行ノイズをリアルタイムで連続的に除去する歩行ノイズ除去処理を行うようにしてもよい。歩行ノイズ除去処理の具体的な内容につていては、例えば特許第6833096号公報に記載されているのでここでは詳しい説明を省略する。簡単に説明すると、磁気センサ2の水平方向の両端部における上下の揺れを歩行ノイズとし、A/D変換部34で変換されたデジタル値における歩行ノイズに相当する周波数帯の範囲をノイズ範囲とし、A/D変換部34で変換されたデジタル値のうち、上記ノイズ範囲を減衰させることによって、デジタル値から歩行ノイズを除去することができる。このようにして処理されたノイズ除去処理後のデジタル値に応じた出力信号が、記録装置4に送信される。このようにすれば、探査員の歩行ノイズの影響を抑制ないし防止し、磁性物体(探査対象物)の検出精度をさらに向上させることもできる。