本発明者らは、上記従来技術の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、従来のように、ナノファイバー分散液を得る工程と、ナノファイバー分散液と樹脂とを混合する工程とを含む2段工程、特に量産時の2段工程では、ナノファイバーの樹脂中への均一分散性、およびナノファイバーによる樹脂補強が不十分になる場合が生じることが判明した。もちろん、ナノファイバー、樹脂、及び水系溶媒を一段で混合しても、ナノファイバーの樹脂中への均一分散が得られないことは、従来から周知である。
このような現状に鑑み、さらに研究を重ねた結果、本発明者らは、ナノファイバー、水溶性又は水分散性の合成樹脂、水溶性分散剤、水系溶媒などを一段で混合する際に、機械的解繊処理を行ないつつ混合することにより、予想外にも、ナノファイバーが合成樹脂中にほぼ均一に分散し、品質の揃ったナノファイバー複合体が安定的に得られることを見出した。このようなナノファイバー複合体が得られる理由は現状では十分明らかではないが、ナノファイバー及び合成樹脂の共存下で機械的解繊処理を行うことにより、合成樹脂が均一分散を得るための、いわゆるメディアとして機能している可能性がある。
すなわち、本発明では、従来の二段工程で得られるのと同等又はそれ以上の、ナノファイバーと水溶性又は水分散性を有する合成樹脂とがほぼ均一に分散したナノファイバー複合体を単一の工程で製造することができる。さらに本発明では、機械的特性、耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性、耐傷つき性、吸水性、保水性、ガスバリア性、自己修復性などの特性の優れたナノファイバー複合体の成形品を工業ベースで効率よく量産できる。また、本発明の製造方法によれば、複数のナノファイバー同士の絡まり合いがより一層ほぐされ、非常に小さな繊維径、たとえば4〜10nm程度の繊維径を有するナノファイバーを含むナノファイバー複合体が得られる。繊維径の非常に小さなナノファイバーを含むことが、ナノファイバー複合体の上記の諸特性を向上させる一因になるものと推測される。
なお、機械的解繊処理は、通常セルロースなどの原料をナノファイバーに粉砕又は細径化する際に用いられる手法であり、ナノファイバー分散液と樹脂とを混合する際に用いられる手法ではない。
本発明のナノファイバー複合体の製造方法(以下「本発明の製造方法」と略記することがある)は、機械的解繊処理下に、ナノファイバー、水溶性又は水分散性を有する合成樹脂、水溶性分散剤、その他の添加剤、水系溶媒などを一段で混合するものである。一段での混合とは、より具体的には、これらの成分を一つの混合容器内に同時に投入して混合することである。同時に投入とは、無撹拌下又は撹拌下にこれらの成分を、間をおかず連続して順々に投入する場合をも含む。ここで、混合容器は機械的解繊処理を実施できる装置などであってもよい。各成分の詳細は、次のとおりである。
本明細書において、ナノファイバーとは、その長さに関係なく、繊維径がナノオーダーである繊維状物質を言う。本発明で用いるナノファイバーは、繊維径がナノオーダーであれば特に限定されないが、好ましくは1〜500nmの繊維状物質であり、より好ましくは繊維径100nm以下で、アスペクト比(繊維長/繊維径)が100以下の繊維状物質である。
ナノファイバーの材質は特に限定されないが、例えば、合成樹脂、天然高分子化合物、炭素材料などが挙げられる。合成樹脂からなるナノファイバーは、例えば、溶融紡糸、超延伸、電界紡糸、メルトブローなどにより作製できる。天然高分子化合物からなるナノファイバーは、例えば、天然高分子化合物を含む原料に機械的解繊処理を施したり、該原料を酸化触媒で処理したりすることにより作製できる。炭素材料からなるナノファイバー(カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブなど)は、例えば、気相成長、アーク放電などにより作製できる。
上記したナノファイバーのうち、本発明の製造方法では、天然高分子化合物からなるナノファイバーを好適に使用でき、後述する架橋性樹脂が有する架橋性基と架橋し得る官能基を表面に有するという観点などから、セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル、キトサンナノファイバーなどをより好適に使用できる。
本発明の製造方法で使用するセルロースナノファイバーは、例えば、植物由来のパルプ(セルロースの集合体)を、酸化触媒を用いた化学的解繊又は強力なせん断力による機械的解繊により、繊維径3〜100nmのナノファイバーに解きほぐしたものである。なお、セルロース等のセルロースナノファイバーの原料は、例えば、一のセルロースナノファイバー内にて表面の複数の水酸基が水素結合を形成することにより、また、一のセルロースナノファイバー表面の水酸基と他のセルロースナノファイバー表面の水酸基とが水素結合を形成することにより、凝集体を含んでいることがある。このような凝集体は、後述する機械的解繊処理等により、容易に解きほぐすことがてきる。
セルロースナノファイバーの中でも、化学処理(化学的解繊とは異なる)を施さず、その分子鎖中及び/又は分子鎖末端のセルロース由来の水酸基が疎水変性されていない又は水酸基以外の官能基でブロックされていない未変性セルロースナノファイバーを好ましく使用できる。未変性セルロースナノファイバーは、繊維径がナノオーダーと非常に小さいことから、これを低濃度で水に分散させた場合、水中に未変性セルロースナノファイバーが分散していることは肉眼では認められず、透明な分散液となる。また、未変性セルロースナノファイバーを高濃度で水に分散させると、不透明な分散液となる。ここで、分散液は、エマルジョン、スラリー、ゲル、ペーストなどの種々の形態を含む。
本発明では、未変性セルロースナノファイバーは、得られるナノファイバー複合体における未変性セルロースナノファイバーの分散性などの観点から、水分散液の形態で用いることが好ましい。水分散液における未変性セルロースナノファイバーの含有量は特に限定されないが、好ましくは水分散液全量の0.001〜 10重量%であり、より好ましくは水分散液全量の0.1〜5重量%である。
未変性セルロースナノファイバーの繊維径、繊維長及びアスペクト比は特に限定されないが、繊維径が好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは60nm以下、特に好ましくは3〜40nmであり、繊維長が好ましくは10〜1000μm、より好ましくは100〜500μmであり、アスペクト比(繊維長/繊維径)が1000〜15000、好ましくは2000〜10000程度である。ここでの繊維径及び繊維長は、電子顕微鏡観察により任意の個数(例えば20本)の未変性セルロースナノファイバーの繊維径及び繊維長を測定し、得られた測定値の算術平均値として求められる。このように、未変性セルロースナノファイバーの繊維径及び繊維長は、電子顕微鏡を用いた観察により得ることができる。
なお、伸びきり鎖結晶からなる未変性セルロースナノファイバーの弾性率、強度はそれぞれ140GPaおよび3GPaに達し、代表的な高強度繊維、アラミド繊維に等しく、ガラス繊維よりも高弾性である。しかも、線熱膨張係数は1.0×10−7/℃と石英ガラスに匹敵する小ささである。
未変性セルロースナノファイバーの製造に使用するセルロースは、好ましくは水分散体として用いられる。セルロースの形状は、例えば、繊維状、粒状などの任意の形状である。セルロースとしては、リグニンやヘミセルロースを除去したミクロフィブリル化セルロースが好ましい。また、市販のセルロースを使用してもよい。メディアレス分散機でミクロフィブリル化セルロースを処理すると、ミクロフィブリル化セルロースが繊維の長さを保ったまま繊維表面に存在する水酸基に由来する水素結合がほどけて細くなるが、処理条件を変えることで、繊維の切断もしくは分子量を低下させることも可能である。
セルロースナノクリスタルは、セルロースを構成するセルロースファイバー又はセルロースナノファイバーに、硫酸などの酸を用いる酸加水分解などの化学的処理を施すことにより得られる繊維状結晶であり、繊維径は10〜50nm程度、繊維長は100〜1000nm(好ましくは150〜500nm)程度である。セルロースナノクリスタルは、セルロースナノウィスカーとも呼ばれる。
キトサンナノファイバーは、繊維径が好ましくは1〜100nm、より好ましくは1〜50nm、さらに好ましくは3〜30nm、特に好ましくは3〜20nmであり、アスペクト比が好ましくは100以上、より好ましくは100〜10000、さらに好ましくは100〜2000である。キトサンナノファイバーは、例えば、キチン含有原料を脱蛋白質処理及び脱灰処理し、更に脱アセチル化処理した後、解繊処理を施すことにより得られる。脱蛋白処理、脱灰処理、解繊処理は、周知の方法に従って実施できる。脱蛋白質処理と脱アセチル化処理とを同時に行うこともできる。脱蛋白処理及び脱灰処理を行なった市販のキチン粉末をアルカリ処理法などで脱アセチル化処理することによっても、キトサンナノファイバーが得られる。
また、本発明の製造方法では、ナノファイバーとして、上記した各種ナノファイバー以外に、酢酸菌などの微生物が産生するセルロース系ナノファイバー(バクテリアセルロースナノファイバー)や、電界紡糸法により得られるセルロース系ナノファイバー、キチンナノファイバーなども使用できる。本発明の製造方法において、ナノファイバーは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
次に、本発明の製造方法で用いられる合成樹脂は、水溶性又は水分散性を有するものである。水溶性合成樹脂とは水系溶媒に溶解可能な合成樹脂である。水分散性合成樹脂とは、乳化剤等により水系溶媒に分散させることができる強制乳化タイプの合成樹脂、及びその主鎖骨格の側鎖及び/又は末端に親水性基を導入することにより水系溶媒に分散させることができる自己乳化タイプの合成樹脂を含む。
このような合成樹脂の具体例として、水溶性又は水分散性を有する架橋性樹脂、水溶性又は水分散性を有する自己架橋性樹脂等が挙げられる。架橋性樹脂とは、架橋性基及び架橋性構造から選ばれる少なくとも1種を有し、例えば架橋剤と反応して架橋構造を形成する合成樹脂であり、好ましくは、架橋性基及び架橋性構造から選ばれる少なくとも1種を有するとともに水溶性又は水分散性を有する合成樹脂である。ここで架橋性基としては特に限定されないが、例えば、エポキシ基、ヒドロキシ基、イソシアネート基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、エーテル基(例えばフルオロエチレンエーテル基など)、ヒドロシリル基などが挙げられる。架橋性樹脂は、架橋性基の1種又は2種以上を有することができる。これらの架橋性基は、合成樹脂の主鎖骨格に側鎖の少なくとも一部として結合してもよく、主鎖骨格の末端に結合してもよい。
また、架橋性構造としては特に限定されないが、例えば、ピロリドン構造、シロキサン構造、オキセタン構造などが挙げられる。架橋性樹脂は、架橋性構造の1種又は2種以上を有することができる。これらの架橋性構造は、合成樹脂の主鎖骨格の一部を形成していてもよく、合成樹脂の主鎖骨格の側鎖及び/又は末端に結合していてもよい。
また、架橋性樹脂は、水溶性又は水分散性を示すために、親水性基を有していてもよい、親水性基としては特に限定されないが、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン基、エーテル基などが挙げられる。親水性基は、合成樹脂の主鎖骨格に側鎖の一部として結合してもよく、また、主鎖骨格の末端に結合してもよい。これらの親水性基の中でも、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、エーテル基などを有する合成樹脂は、水分散性又は水溶性を有する架橋性樹脂となる。
本発明で使用する架橋性樹脂としては、架橋性基および/または架橋構造を有するものであれば特に限定されないが。例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリビニルポリピロリドン樹脂、メラミン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、アクリレート樹脂、ポリシロキサン樹脂、オキセタン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、フルオロエチレン・ビニルエーテル交互共重合体等が挙げられる。架橋性樹脂は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。架橋性樹脂の分子量は特に限定されるものではないが、例えば、最終的に得られるナノセルロース複合体およびその成形体の機械的特性、剛性、その他の特性の向上を図る上では、重量平均分子量として2000以上であることが好ましい。
本発明において、水溶性又は水分散性を有する合成樹脂として架橋性樹脂を用いる場合、架橋性樹脂が有する架橋性基及び/又は架橋性構造と反応可能な架橋剤を、架橋性樹脂と併用することが好ましい。架橋剤については後述する。
また、自己架橋性樹脂とは、架橋剤を用いなくても自身の分子内に架橋構造を形成し得る合成樹脂である。自己架橋性樹脂としては、水溶性又は水分散性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、ポリビニルトルエン、t−ブチルアクリレート/グリシジルアクリレート共重合体、カルボキシル基含有ビニル単量体/スルホン酸基含有ビニル単量体共重合体等が挙げられる。自己架橋性樹脂についても、架橋性樹脂と同様にして水分散性を付与することができる。また、自己架橋性樹脂と共に後述する架橋剤を用いることもできる。
本発明では、合成樹脂は好ましくは溶液又は分散液の形態で用いられる。合成樹脂が水溶性である場合、合成樹脂の溶液は、合成樹脂を水系溶媒に溶解させた溶液であることが好ましい。水系溶媒とは、水、水に溶解可能な有機溶媒、水と水に溶解可能な有機溶媒との混合溶媒等が挙げられる。また、合成樹脂が水分散性である場合、合成樹脂の分散液は、前記と同様の水系溶媒を分散媒として用いた、強制乳化型エマルジョン、自己乳化型エマルジョンなどのエマルジョン、スラリーなどであることが好ましい。強制乳化型エマルジョンは、界面活性剤やその他の乳化剤を用いて合成樹脂を水系溶媒に分散させたものである。自己乳化型エマルジョンは、合成樹脂の主鎖骨格に側鎖および/又は末端基として親水性基を導入することにより、合成樹脂を水系溶媒に分散させたものである。水系溶媒の中でも、水、水と水溶性溶媒との混合溶媒が好ましく、水がより好ましい。
ここで、水溶性溶媒としては、例えば、1価又は多価のアルコール類(一価アルコールには例えば炭素数1〜4の低級アルコールがある)、アミド類、ケトン類、ケトアルコール類、環状エーテル類、グリコール類、多価アルコールの低級アルキルエーテル類、ポリアルキレングリコール類、グリセリン、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオール類、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類,エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類および多価アルコールアラルキルエーテル類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ε−カプロラクタム等のラクタム類、1,3−ジメチルイミダゾリジノンアセトン、N−メチルー2−ピロリドン、m−ブチロラクトン、グリセリンのポリオキシアルキレン付加物、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジメチルスルホキシド、ジアセトンアルコール、ジメチルホルムアミド、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどである。水溶性溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
また水としては、水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることができる。また、紫外線照射、または過酸化水素添加などにより滅菌した水を用いることにより、長期保存におけるカビまたはバクテリアの発生を防止することができるので好適である。
また、架橋性樹脂を溶液又は分散液とした場合、架橋性樹脂の濃度は特に限定されないが、得られるナノファイバー複合体におけるナノファイバーと架橋性樹脂との均一分散性、架橋性樹脂の溶液又は分散液の取扱い性などの観点から、架橋性樹脂の溶液又は分散液全量の、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは5〜45重量%、さらに好ましくは10〜40重量%である。
本発明の製造方法で使用する分散剤は、水溶性を有する分散剤であり、好ましくはナノファイバーが表面に有する水酸基などの官能基とイオン結合可能な分散剤であり、より好ましくはナノファイバーが表面に有する水酸基などの官能基とイオン結合可能でありかつ静電反発力によりナノファイバー複合体中でのナノファイバーの分散安定性を高め得るような分散剤である。該分散剤としては、前述のように水溶性であれば特に限定されないが、陰イオン性分散剤を好ましく使用できる。陰イオン性分散剤としては、例えば、リン酸基、−COOH基、−SO3H基、これらの金属エステル基、及びイミダゾリン基から選ばれた少なくとも1種の官能基を有する化合物、アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体などが挙げられる。陰イオン性分散剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
陰イオン性分散剤の具体例としては特に限定されないが、例えば、ポリアクリル酸とその塩、ポリメタクリル酸とその塩、ポリアクリル酸共重合体とその塩、ポリイタコン酸とその塩、オレフィン由来モノマーおよび不飽和カルボン酸(塩)由来モノマーを含む共重合体(例えば特開2015−196790号公報など)、ポリマレイン酸共重合体とその塩、ポリスチレンスルホン酸とその塩、スルホン酸基結合ポリエステルなどのカルボン酸系陰イオン性分散剤、アルキルイミダゾリン系化合物(例えば特開2015−934号公報、特開2014−118521号公報など)などの複素環系陰イオン性分散剤、、酸価とアミン価とを有する陰イオン性分散剤(例えば得開2010−186124号公報など)、ピロリン酸、ポリリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、メタリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸、ホスホン酸、これらの塩などのリン酸系陰イオン分散剤、スルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、リグニンスルホン酸、これらの塩などのスルホン酸系陰イオン分散剤、オルトケイ酸、メタケイ酸、フミン酸、タンニン酸、ドデシル硫酸、これらの塩などのその他の陰イオン性分散剤などが挙げられる。これらの中でも、リン酸、ポリリン酸、リン酸塩、ポリリン酸塩、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸共重合体、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸共重合体塩などが好ましい。
また、陰イオン性分散剤として、アクリル酸やメタクリル酸と、他の単量体を共重合させた共重合体を用いることもできる。他の単量体としては、例えば、α−ヒドロキシアクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸およびそれらの塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸などの不飽和スルホン酸およびそれらの塩などが挙げられる。
上記した陰イオン性分散剤の塩を構成するカチオンとしては特に限定されないが、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属、マグネシウム、アンモニウム基などが挙げられる。水に対する溶解性の点からナトリウム、カリウム、アンモニウム基などがより好ましく、カリウムが最も好ましい。
本発明では市販の陰イオン性分散剤を用いてもよく、市販品の具体例としては、アロンA−6114(商品名、カルボン酸系分散剤、東亜合成(株)製)、アロンA−6012(商品名、スルホン酸系分散剤、東亜合成(株)製)、デモールNL(商品名、スルホン酸系分散剤、花王(株)製)、SD−10(商品名、ポリアクリル酸系分散剤、東亜合成(株)製)などが挙げられる。
また、本発明に用いられる陰イオン性分散剤として、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を用いてもよい。(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体は、本発明により得られるナノファイバー複合体中の各成分の分散安定性、特にナノファイバーの分散安定性を高め得るとともに、例えば、生体適合性を有し、本発明のナノセルロース複合体を医療用途、食品用途などに用いる場合の分散剤として好適に使用できる。ここで、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとは、メタアクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、及びアクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを包含する。これらは、常法に従って製造される。例えば、2−ブロモエチルホスホリルジクロリドと2−ヒドロキシエチルホスホリルジクロリドと2−ヒドロキシエチルメタクリレートとを反応させて2−メタクリロイルオキシエチル−2′−ブロモエチルリン酸を得、更にこれをトリメチルアミンとメタノール溶液中で反応させて得ることができる。
本発明では(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体の市販品を用いてもよく、市販品の具体例としては、例えば、リピジュアHM、リピジュアBL(いずれも商品名、ポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)、リピジュアPMB(商品名、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチルコポリマー)、リピジュアNR(商品名、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ステアリルコポリマー)などが挙げられる。これらはいずれも日油(株)製である。
本発明の製造方法で使用する架橋剤は、主に架橋性樹脂が有する架橋性基、架橋構造や、ナノセルロースがその表面に有する官能基と架橋反応を起こすものである。該架橋反応の結果、架橋性樹脂同士、ナノファイバー同士、架橋性樹脂とナノファイバーの間の少なくとも1つが架橋され、得られるナノファイバー複合体の各物性が向上する。
架橋剤としては、架橋性樹脂が有する架橋性や架橋構造、ナノセルロースが表面に有する官能基などとの反応性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、多官能性モノマー、多官能性樹脂、有機過酸化物、重合開始剤などが挙げられる。これらの架橋剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。本発明では、得られるナノファイバー複合体の好ましい特性を損なわない範囲で、架橋剤と共に、酸触媒、酸化防止剤などの安定剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、活性剤、加硫遅延剤、金属石鹸、有機シラン、有機金属化合物、不飽和結合を有する樹脂などを併用できる。
多官能性モノマーとしては、多官能アクリル系モノマー、多官能アリル系モノマー、およびこれらの混合モノマー等が挙げられる。
多官能アクリル系モノマーの具体例としては、例えば、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレートなどが挙げられる。これらの中でも、皮膚刺激性が低いという観点からは、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート(トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のトリアクリル酸エステル)を好ましく使用できる。多官能アクリル系モノマーは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
多官能アリル系モノマーとしては、例えば、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート(DA−MGIC)、ジアリルフタレート、ジアリルベンゼンホスフォネートなどが挙げられる。多官能アリル系モノマーは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる
多官能性モノマーは、必要に応じて重合開始剤と併用することができ、また、酸触媒、安定剤等を併用することができる。重合開始剤、触媒、安定剤等のナノファイバー複合体への添加時期は特に限定されないが、例えば、ナノファイバー、架橋性樹脂、分散剤、水系溶媒と同時に混合される。
多官能性モノマーの配合量は特に限定されないが、架橋性樹脂の固形分重量に対して、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%である。多官能性モノマーの配合量が0.01重量%未満の場合は、ナノファイバー複合体の機械的特性、熱的特性が顕著に向上しない傾向がある。多官能性モノマーの配合量が10重量%を上回る場合には、ナノファイバー複合体の伸びや衝撃強さなどの機械的特性に悪影響を及ぼす傾向がある。
多官能性樹脂(多官能性ポリマー)の具体例としては、例えば、エポキシ樹脂、イソシアネート樹脂、シアネート樹脂、マレイミド樹脂、アクリレート樹脂、メタクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、熱硬化性エポキシ樹脂、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂などの放射線硬化性樹脂などが好ましい。なお、多官能性樹脂としては架橋性樹脂よりも相対的に分子量の低いものである。多官能性樹脂の分子量は、重量平均分子量として1000未満のものが好ましい。多官能性樹脂は、架橋性樹脂と同様に、水酸基やカルボキシル基などの親水性基で変性された自己乳化性のもの、乳化剤により分散媒中に分散可能な強制乳化型のものが好ましい。これらの樹脂を架橋剤として用いる場合、架橋性樹脂とは樹脂種の異なるものを用いるのが好ましい。多官能性樹脂の配合量は、架橋性樹脂の固形分重量に対して好ましくは3〜20重量%、より好ましくは5〜15重量%である。
有機過酸化物は、例えば、加熱によりフリーラジカルを発生し、これにより、架橋性樹脂同士、ナノファイバー同士、架橋性樹脂とナノファイバー間の少なくとも一部を架橋する。なお、有機過酸化物は重合開始剤の範疇にも入るものであるが、本明細書では重合開始剤とは別個に記載する。有機過酸化物の具体例としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、tert−ブチルヒドロパーオキサイドなどが挙げられる。有機過酸化物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。有機過酸化物の配合量は、架橋性樹脂及びナノファイバーの合計固形分量に対して好ましくは0.0001〜10重量%、より好ましくは0.01〜5重量%、さらに好ましくは0.1〜3重量%である。
重合開始剤は、例えば、加熱又は電離放射線照射によりフリーラジカルを発生し、これにより、架橋性樹脂同士、ナノファイバー同士、架橋性樹脂とナノファイバー間の少なくとも一部を架橋する。重合開始剤の具体例としては、例えば、アゾ化合物、過硫酸塩などが挙げられる。また、重合開始剤は水溶性のものでも、疎水性のものでもよい。
重合開始剤の具体例としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)などの疎水性アゾ化合物、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]などの水溶性アゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩名とが挙げられる。重合開始剤の配合量は、架橋性樹脂及びナノファイバーの合計固形分量に対して、好ましくは0.0001〜5重量%、より好ましくは0.01〜3重量%、さらに好ましくは0.1〜1重量%程度である。
なお、本発明では架橋剤と共に、酸触媒を用いてもよい。酸触媒は、例えば、架橋性性樹脂の架橋性基および/または架橋構造と架橋剤の求核性反応基との反応を促進させるために用いられる。酸触媒の具体例としては、例えば、p−トルエンスルホン酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸等の有機酸、塩酸、硫酸、スルホン酸等の無機酸、三フッ化ホウ素、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化アルミニウムなどのルイス酸が挙げられる。酸触媒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。酸触媒の配合量は、架橋性樹脂の固形分量100重量部に対して好ましくは0.1〜8重量部である。酸触媒の配合量が0.1重量部未満では、架橋度が低くなりすぎる恐れがあり、8重量部を超えるとナノファイバー複合体中での相溶性が悪化する恐れがある。
本発明の製造方法で用いられる水系溶媒としては、前述のように、水、水溶性溶媒、水と水溶性溶媒との混合溶媒などである。水溶性溶媒としては、前述の水溶性溶媒と同じものをいずれも使用でき、水溶性溶媒としては、水、低級アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)、グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール)、グリセリン、アセトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトアミドなどが好ましい。これらの水溶性溶媒は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましい水系溶媒は、水、水と水溶性溶媒との混合溶媒などであり、特別な廃液処理設備が不要で環境汚染をしにくい水が特に好ましい。
また、本発明の製造方法では、上記各成分を一段で混合する際又は得られたナノファイバー複合体にアルカリ剤を配合し、ナノファイバー複合体のpHを弱アルカリに調整することにより、ナノファイバー複合体におけるナノファイバーの分散性をさらに向上させることができる。アルカリ剤としては特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどが挙げられる。アルカリ剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
また、本発明では、得られるナノファイバー複合体の好ましい特性を損なわない範囲で、ヒンダードフェノール、リン酸エステルや亜リン酸エステルなどの酸化防止剤、耐熱安定剤、トリアジン系化合物などの耐候性付与剤、耐候性付与剤などの安定剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉末、シリカ、タルクやマイカなどの無機層状化合物等その他の無機、有機充填材、顔料、染料などの着色剤、滑剤、揆水剤、アンチブロッキング剤、柔軟性改良材、レベリング剤、消泡剤、金属石鹸、有機シラン、有機金属化合物などを配合することができる。これらの添加剤は、上記した各成分と共に同時に一段で混合してもよく、また、得られたナノファイバー複合体に添加及び混合してもよい。
これらの添加剤の中でも、酸化防止剤が好ましい。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤などが挙げられる。これらの中でも、フェノール系酸化防止剤が特に好ましい。酸化防止剤の配合量は、ナノファイバー及び架橋性樹脂の合計固形分量又はナノファイバー、架橋性樹脂及び分散剤の合計固形分量
に対し、通常0.1〜10重量%。好ましくは0.2〜5重量%である。
本発明の製造方法は、第1工程を含み、さらに第2工程又は第3、第4工程を含んでいてもよく、さらに後述する予備混合工程を含んでいてもよい。より具体的には、本発明の一実施形態の製造方法は、第1、第2工程を含み、さらに第3工程、予備混合工程を含んでいてもよい。また、本発明の他の実施形態の製造方法は、第1、第3、第4工程を含み、さらに予備混合工程を含んでいてもよい。
本発明の製造方法によれば、ナノファイバーが架橋性樹脂中にほぼ均一に分散したナノファイバー複合体、ナノファイバー複合体の固形分からなる成形体、及びナノファイバー複合体の固形分の少なくとも一部を架橋させた架橋成形体などが得られる。なお、本発明では第1工程の前に、予備混合工程を実施してもよい。以下、予備混合工程、第1工程、第2工程、第3工程、第4工程の順により具体的に説明する。
〔予備混合工程〕
予備混合工程では、ナノファイバー、水溶性又は水分散性を有する合成樹脂、分散剤や他の添加剤、水系溶媒などを、機械的解繊処理を行うことなく単に混合し、予備混合物を得る。得られた予備混合物中でのナノファイバーの合成樹脂への分散性は十分ではない。しかし、予備混合物に第1工程で機械的解繊処理を施すことにより、得られるナノファイバー複合体中でのナノファイバーの合成樹脂中への分散性が、単に第1工程だけを実施した場合よりも一層向上する。なお、合成樹脂が架橋性樹脂である場合は、架橋性樹脂と共に架橋剤を用いることが好ましい。
〔第1工程〕
第1工程では、ナノファイバー、水溶性又は水分散性を有する合成樹脂、分散剤、水系溶媒、必要に応じてその他の添加剤などを機械的解繊処理下に一段で混合する。合成樹脂が架橋性樹脂である場合は、架橋性樹脂と共に架橋剤を併用することが好ましい。また、第1工程では、予備混合工程で得られた予備混合物に機械的解繊処理を施してもよい。本明細書において、一段での混合とは、上記した各成分を同一容器に一度に投入して混合することを意味する。第1工程では、合成樹脂は、得られるナノファイバー複合体におけるナノファイバーの分散性などの観点から、溶液又は分散液の形態で用いることが好ましく、水系溶媒溶液又は水系溶媒分散液の形態で用いることがより好ましい。また、ナノファイバー、分散剤、架橋剤、その他の添加剤は、それぞれ別個に水系溶媒に溶解又は分散させた形態で用いてもよい。
機械的解繊処理は、予備混合工程で得られた予備混合物又は第1工程で各成分を同一容器にほぼ同時に投入した混合物に対して、せん断力を付与できる装置を用いて実施される。このような装置としては、高圧ホモジナイザー、水中カウンターコリジョン、高速回転分散機、ビーズレス分散機、高速撹拌型メディアレス分散機などが挙げられる。これらのなかでも、ナノファイバーの合成樹脂中への分散性が一層向上するだけでなく、不純物の混入が少なく、純度の高いナノファイバー複合体が得られるという観点から、高速撹拌型メディアレス分散機が好ましい。
高速攪拌型メディアレス分散機とは、分散メディア(例えば、ビーズ、サンド(砂)、ボール等)を用いず、せん断力を利用して分散処理を行う分散機である。メディアレス分散機は市販品を用いることができる。該市販品としては、例えば、DR−PILOT2000、ULTRA−TURRAXシリーズ、Dispax―Reactorシリーズ(いずれも商品名、IKA社製)、T.K.ホモミクサー、T.K.パイプラインホモミクサー(いずれも商品名、プライミクス(株)製)、ハイ・シアー・ミキサー(商品名、シルバーソン社製)、マイルダー、キャビトロン(いずれも商品名、大平洋機工(株)製)、クレアミックス(商品名、エムテクニック(株)製)、ホモミキサー、パイプラインミキサー(商品名、みずほ工業(株)製)、ジェットペースタ(商品名、日本スピンドル製造(株)製)、アペックスディスパーザー ZERO(商品名、(株)広島メタル&マシナリー製)等が挙げられる。
高速攪拌型メディアレス分散機の中でも、ステータとロータとを備える型式の高速攪拌型メディアレス分散機が好ましい。この型式の具体例としては、例えば、ステータと、ステータの内部で回転するロータとを備える型式、ステータおよびロータが多段階に設置された型式などが挙げられる。上記した市販品の中では、アペックスディスパーザー ZEROがこの型式である。この型式では、ステータとロータの間には隙間がある。この隙間の寸法を「せん断部クリアランス」とする、ロータの回転下に、ステータとロータの隙間に上記各成分の混合液を通過させることにより、該混合液にせん断力を付与でき,ナノファイバー径のさらなる微細化、ナノファイバーの合成樹脂への均一分散などを図ることができる。また、上記各成分の混合液全体に均一にせん断力を付与する観点から、字容器各成分の混合液が装置内を循環するインライン循環式高速攪拌型メディアレス分散機が好ましい。
高速撹拌型メディアレス分散機を用いる場合、せん断速度、せん断部クリアランスおよびロータの回転周速、特にせん断部クリアランスおよびロータの回転周速を所定の範囲に設定することにより、ナノファイバー径のさらなる微細化や、ナノファイバーの合成樹脂へのさらなる均一分散、得られるナノファイバー複合体中でのナノファイバーの沈降防止などの優れた効果が得られることが、本発明者らの研究により判明している。
せん断速度は、900,000[1/sec]を超えることが好ましい。せん断速度が900,000[1/sec]以下である場合には、ナノファイバーの解繊、およびナノファイバーの合成樹脂への分散が共に不十分になる傾向がある。また、せん断速度は、2,000,000[1/sec]以下が好ましく、1,500,000[1/sec]以下が好ましく、1,200,000[1/sec]以下がより好ましい。
せん断部クリアランスは、せん断速度、上記各成分の混合液の粘度などに応じて適宜設定されるが、ナノファイバーの径をできるだけ小さくし、また、ナノファイバーの合成樹脂中への分散性の一層の向上を図る観点から、100μm以上が好ましく、150μm以上がより好ましく、200μm以上が更に好ましい。また、上記各成分の混合液の粘度が高くても、分散機の回転数を適正範囲に保持しつつ高分散性を確保する観点から、クリアランスは、2mm以下が好ましく、1.5mm以下がより好ましく、1.2mm以下がさらに好ましい。
ロータの回転周速は、せん断速度に応じて適宜設定されるが、ナノファイバーの径をできるだけ小さくし、また、ナノファイバーの合成樹脂中への分散性の一層の向上を図る観点から、18m/s以上が好ましく、20m/s以上がより好ましく、23m/s以上がさらに好ましい。また、最適なナノファイバー径を得る観点から、回転周速は、60m/s以下が好ましく、50m/s以下がより好ましく、45m/s以下がさらに好ましい。回転周速は、ロータの最先端部分の周速である。
予備混合工程および第1工程において、上記した各成分の配合量は特に限定されないが、例えば、配合する合成樹脂の全固形分量を100重量部に対して、ナノファイバーを好ましくは0.001〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部、水系溶媒を好ましくは100〜10000重量部、より好ましくは150〜1000重量部、分散剤を好ましくは0.01〜0.5重量部、より好ましくは0.025〜0.25重量部配合すればよい。架橋剤の配合量は前述したとおりである。
第1工程で得られるナノセルロース複合体は、水系溶媒中にナノファイバーと合成樹脂とがほぼ均一に分散し、時間を経過してもナノファイバーの沈降が非常に少ないものである。また、該複合体中には、少なくとも一部のナノファイバーの表面に分散剤がイオン結合している場合がある。ナノファイバーと分散剤とのイオン結合体は、後述する成形後および架橋処理後にも残留している場合がある。また、該複合体に含まれるナノファイバーの平均繊維径は10〜100nm程度、好ましくは10〜40nm程度、より好ましくは15〜25nm程度である。すなわち、第1工程を実施することにより、ナノファイバーの繊維径が実施前よりも実施後の方がさらに小さくなることがある。また、第1工程では一段の混合でナノファイバー複合体が得られるので、従来の二段工程に比べて、大幅な省力化(特に量産時の大幅な省力化)を達成できる。
また、第1工程で得られるナノセルロース複合体のゼータ電位は、好ましくは−20〜−50mV、より好ましくは−30〜−45mVである。ゼータ電位が−20mVよりも高い場合は、不均一分散となりナノファイバーが沈降する場合がある。一方、ゼータ電位が−50mVを下回ると、ナノファイバーが切断され、十分な架橋ネットワーク構造が形成されない場合が生じる。本発明では、製造後のナノセルロース複合体のゼータ電位を測定し、必要に応じてゼータ電位の値を調整してもよい。該ナノセルロース複合体のゼータ電位は、例えば、分散剤の配合量や種類などにより調整できる。ゼータ電池の測定方法については後述する。
〔第2工程〕
第2工程では、第1工程で得られたナノセルロース複合体に対して架橋処理を施す。ナノセルロース複合体が架橋性樹脂及び架橋剤を含んでいる場合は、架橋処理により、少なくとも一部のナノファイバー間、少なくとも一部のナノファイバーと少なくとも一部の架橋性樹脂との間、および少なくとも一部の架橋性樹脂間の1又は2以上に架橋構造が形成されたナノセルロース架橋複合体が得られる。また、ナノセルロース複合体が合成樹脂として自己架橋性樹脂を含んでいる場合には、該樹脂の分子内に架橋構造が形成され、該樹脂とナノファイバーとの間にも架橋構造が形成されることのあるナノファイバー架橋構造体が得られる。
このナノセルロース架橋複合体を後述する第3工程と同様にして成形することにより、機械的強度、耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性、耐傷つき性、吸水性、保水性、ガスバリア性、自己修復性などが一層向上した、架橋構造を含む成形品が得られる。また本発明では、水系溶媒を分散媒として用いているので、ナノファイバー複合体にそのまま架橋処理を施しても、安全性が高いという利点がある。
架橋処理の方法としては特に限定されないが、ナノファイバー複合体中に含まれる架橋剤を利用した化学的架橋法および物理的架橋法をが好ましい。
化学的架橋法の具体例としては、例えば、加熱による架橋などが挙げられる。加熱条件は、ナノファイバー複合体の成分組成、固形分濃度、架橋性樹脂および架橋剤の種類や配合量、設定される架橋度合い、得られるナノファイバー架橋複合体に設定される各物性の値などに応じて適宜選択されるが、通常は約30℃以上の温度下での長時間加熱により架橋が形成される。架橋に要する時間を短くして工程全体としての省力化を図り、また架橋後のナノセルロース複合体の各物性をさらに向上させるという観点から、加熱条件は、好ましくは30℃〜220℃の温度下で1分以上、より好ましくは100℃〜180℃の温度下で1〜40分、さらに好ましくは125℃〜140℃で1〜20分(好ましくは5〜10分)である。
物理的架橋の具体例としては、例えば、電離放射線の照射による架橋などが挙げられる。電離放射線の照射による架橋は、制御が容易であるという利点がある。電離放射線としては特に限定されないが、電子線、γ線、X線、荷電粒子線、紫外線、中性子線等が挙げられる。これらの中でも、電離放射線を発生させる装置の入手容易性、架橋反応の制御の容易性、安全性等の観点から、紫外線、γ線、電子線などが好ましい。
電離放射線の照射線量は、ナノファイバー複合体の成分組成、固形分濃度、架橋性樹脂および架橋剤の種類や配合量、設定される架橋度合い、得られるナノファイバー架橋複合体に設定される各物性の値などに応じて適宜選択できるが、好ましくは10kGy〜1000kGy、より好ましくは10〜50kGyである。照射線量が10kGy未満では、最終的に得られる成形品の架橋度が不足し、成形品の物性が低下する傾向がある。一方、照射欄量が1000kGyを超えると、成形品の着色が大きくなるとともに、架橋構造が形成される領域以外での分子鎖の切断などが増大することにより、成形品の物性が低下する傾向がある。
架橋の度合いは、架橋度として、通常20〜98%、好ましくは60〜98%である。架橋度が20%未満では、最終的に得られる成形品の剛性、耐クリープ性、耐摩耗性などの機械的強度や耐熱性のさらなる向上を得られない場合がある。また、架橋度が98%を超えると、架橋構造が形成される領域以外での分子鎖の切断などが増大することにより、成形品の物性が低下する場合がある。
架橋度は、例えば、ゲル分率(%)として求められる。本発明の製造方法により得られるナノセルロース複合体、ナノセルロース架橋複合体などの試料の適量を100℃で2時間乾燥した後秤量し、初期乾燥重量(g)を求める。次に、このものを常温下水に24時間浸漬した後、溶解残渣を定量ろ紙でろ取し、100℃で2時間乾燥した後秤量し、不溶解分重量(g)を求める。そして下記式よりゲル分率(%)を求める。
ゲル分率(%)=[(不溶解分重量)/(初期乾燥重量)]×100
〔第3工程〕
第3工程では、第1工程で得られた混合物(ナノファイバー複合体)を成形する。すなわち、第1工程で得られた混合物から水系溶媒を除去しながら成形し、又は前記混合物から前記水系溶媒を除去した固形分を成形することにより、成形品が得られる。また、前述のように、第2工程で得られたナノファイバー架橋複合体を同様にして成形してもよい。
ここで、成形方法としては、樹脂溶液又は樹脂分散液から成形品を得るための公知の方法を限定なく利用できるが、ナノファイバー複合体に含まれる架橋性樹脂の種類などに応じて成形方法を適宜選択することが好ましい。
ナノファイバー複合体又はナノファイバー架橋複合体から水系溶媒を除去しながら成形する方法としては、例えば、ナノファイバー複合体又はナノファイバー架橋複合体を用いて、各種基材表面にフィルム状成形品を形成する樹脂コーティング法が一般的である。樹脂コーティング法では、例えば、ナノファイバー複合体又はナノファイバー架橋複合体を基材表面に塗布し、加熱乾燥することにより、フィルム状成形品が得られる。ここで、塗布方法としては特に限定されず、例えば、スピンコーター法、バーコーター法、スプレーコート法、ブラシやローラーによる塗布、ディッピング法、溶液キャスト法(キャスティング法)などが挙げられる。
ナノファイバー複合体又はナノファイバー架橋複合体から水系溶媒を除去しながら成形する別法としては、プリプレグを経由して成形品を得る方法が挙げられる。すなわち、ナノファイバー複合体やナノファイバー架橋複合体を各種織物、編物、不織布、綿帆布などの含浸用基材に含浸させてプリプレグを作製し、1又は複数のプリプレグに対して、プレス成形による加熱加圧、オートクレープを用いた加熱加圧などを行なうことににより、成形品が得られる。含浸用基材の材料としては、たとえぱ、炭素繊維、ガラス繊維、植物性繊維などが挙げられる。
ナノファイバー複合体又はナノファイバー架橋複合体から水系溶媒を除去して得られる固形分の成形方法としては、例えば、平面プレス法や、マテリアルジェッティング方式、バインダージェッティング方式、光造形3Dプリンティング方式などが挙げられる。
第3工程では、成形と架橋とが同時に実施されることがある。例えば、注型や圧縮成形などの金型内でナノファイバー複合体を高温状態(120〜150℃程度)に保持する成形形態、得られた成形品を金型から取り出した後に熱風炉等でポストキュアする成形形態、基材表面にナノファイバー複合体の塗膜を形成し、これを熱風炉等でポストキュアする成形形態、ナノファイバー複合体をハイドロゲル化した固形物をそのままポストキュアする成形形態などでは、成形と化学的架橋とが同時に行なわれる。
〔第4工程〕
第4工程では、第3工程でナノセルロース複合体を用いて作製された未架橋の成形品に対して、架橋処理を行なう。架橋処理は、第2工程と同様にして実施することができる。第4工程により、含まれる各成分の少なくとも一部が架橋した成形品が得られる。
こうして得られる本発明のナノセルロース複合体、ナノセルロース架橋複合体、及びこれらの成形品は、生産ロットが変わっても安定した品質を有し、主にナノファイバーと架橋性樹脂との均一分散性等に基因して、例えば、剛性、耐クリープ性、耐摩耗性、耐衝撃性などの機械的特性、柔軟性、耐熱性耐薬品性、耐候性、自己修復性、ガスバリア性、接着性等に優れたものになりやすい。。
本発明のナノファイバー複合体は、例えば、一般機械部品向けの耐候性、耐摩耗性、耐傷つき性コーティング、車両、船舶向けのコーティング、接着剤又はキャストフィルム、光学部品用コーティングや接着剤、生体適合性の必要な分野を含む医療用、介護・福祉用部材用コーティング材、キャストフィルム、さらに小型の機械部品あるいはマテリアルジェッティング方式、バインダージェッティングもしくは光造形方式の3Dプリンタ用材料などに好適に使用することができて、生体適合性の必要な分野を含む医療用、介護・福祉用部材などに、好ましく使用することができる。
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。なお実施例中で用いた各成分、装置および繊維径、ゼータ電位の測定方法は下記のとおりである。
[合成樹脂]
ポリビニルアルコール(商品名:ポバールPVA−205、水溶性架橋性樹脂、クラレ(株)製)10重量%水溶液として用いた。以下「PVA樹脂」と呼ぶことがある。
ポリビニルブチラール(商品名:エスレックKW−1、水溶性架橋性樹脂、積水化学工業(株)製)以下{PVB樹脂」と呼ぶことがある。
ウレタン樹脂(商品名:スーパーフレックス820、自己乳化型架橋性樹脂、第一工業製薬(株)製)以下「URT樹脂」と呼ぶことがある。
[ナノファイバー]
未変性セルロースナノファイバー(商品名:BiNFi−s、(株)スギノマシン製)5重量%水分散液として用いた。以下、「未変性CNF」と呼ぶことがある。
[水溶性分散剤]
ポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(商品名:リピジュアBL、日油(株)製)
[架橋剤]
両末端イソシアネート型ポリカルボジイミド(商品名:カルボジライトVS−02、多官能性樹脂、日清紡ケミカル(株)製)40重量%水溶液として用いた。以下「カルボジライト」と呼ぶことがある。
トリアリルイソシアヌレート(多官能アリル系モノマー、日本化成(株)製、以下「TAIC」と呼ぶことがある。)
[高速撹拌型メディアレス分散機]
アペックスディスパーザーZERO(商品名、(株)広島メタ&マシナリー製)
<繊維径>
実施例および比較例で得られたナノファイバー複合体を電界放出型電子顕微鏡(FE−SEM)で観察し、電子顕微鏡写真(50000倍)を撮影した。撮影した写真上において、写真を横切る任意の位置に、20本以上のナノファイバーと交差する2本の線を引き、線と交差する全てのナノファイバーり繊維径を測定し、得られた測定値(n=20以上)の算術平均値として平均繊維径(nm)を算出した。なお、繊維径の測定値に基づいて、繊維径分布の標準偏差およびナノファイバーの最大繊維径を求めることもできる。
<ゼータ電位測定法>
実施例および比較例で得られたナノファイバー複合体1mlをディスポーザブルガラス試験管に入れ、精製水で希釈し、セルロースナノファイバー濃度を0.01重量%に調整する。次いで、30分超音波処理後、下記のゼータ電位測定に供した。使用機器および測定条件は以下のとおりである。
測定機器:ゼータ電位、粒径測定システム(大塚電子(株)製)
測定条件:ゼータ電位用 標準セルSOP
測定温度:25.0℃
ゼータ電位換算式:Smolchowskiの式
溶媒:水(溶媒の屈折率・粘度・誘電率のパラメータは、大塚電子(株)製ELSZソフトの値をそのまま適用)
システム適合性:Latex262nm標準溶液(0.001%)で規格値の範囲を超えない。
<ゲル化の有無>
酸素プラズマで親水化処理したガラス基板上に、実施例及び比較例で得られた樹脂組成物の水分散液を速度3m/sでバーコーター塗布し、自然乾燥し、100mm×200mm×厚さ5μmのコーティング膜を形成した。このコーティング膜を170℃で20分間加熱し、化学架橋を行ない、架橋コーティング膜(コーティング膜の架橋体)を得た。得られた架橋コーティング膜の水への可溶分の有無からゲル化の有無を判定した。
<ゲル分率>
架橋度としてゲル分率を求めた。実施例及び比較例で得られた樹脂組成物の水分散液を、100℃で2時間乾燥した後にその重量を秤量し、初期乾燥重量(g)を求めた。初期乾燥重量を秤量した試料を常温で24時間浸漬し後、溶解残渣を定量ろ紙でろ取し、100℃で2時間乾燥した後に秤量し、不溶解分重量(g)を求めた。ゲル分率は下記式から算出される。
ゲル分率(%)=[(不溶解分重量)/(初期乾燥重量)]×100
<鉛筆硬度>
本発明により得られた組成物を、スピンコーターで親水化処理したガラス基板上に厚さ5μm厚にコーティングした後に架橋(物理架橋、あるいは化学架橋)させたコーティング膜に対して、鉛筆硬度試験機(オールグッド(株)製)を用いて、JIS K5600に準じて測定した。
測定用鉛筆には、三菱鉛筆Hi−uni(硬さ10H〜10B)を使用した。
<耐擦傷性>
コーティング膜の表面に縦横10mmのスチールウール♯0000(日本スチールウール(株)製)を密着させ、400gの荷重下に移動距離130mm、移動速度約100mm/秒の条件で、該スチールウールをコーティング膜の長手方向に10回往復移動させた。その後、コーティング膜表面の状態を目視観察し、以下の基準に基づいて評価した。
◎:擦り傷が全くない。
○:傷の幅が非常に小さくかつ寸法が10mm以下と短い擦り傷が数本ある。
△:傷の幅は非常に小さいものの、寸法が10mmを超えるような擦り傷が10本を超えて多数存在する。
×:傷の幅が大きく、明確であり、表面には摩耗粉が散らばっている。
<分散性(CNF分散性)及び分散安定性(CNF分散安定性)>
得られた樹脂組成物の水分散液について、分散性(CNF分散性)及び分散安定性(CNF分散安定性)を目視観察により調べた。
分散性(CNF分散性)とは、作製直後の樹脂組成物の水分散液における未変性セルロースナノファイバー及び架橋性樹脂の分散性の目視評価結果であり、全体に均一に白濁し、白色の濃淡が生じていないもの(未変性セルロースナノファイバーや水溶性の架橋性樹脂の分散ムラや凝集は見られないもの)を「○」、全体に白濁しているものの、部分的にでも白色の濃淡が生じているものを「×」と評価した。
分散安定性(CNF分散安定性)とは、24時間以上静置した後の水分散液における未変性セルロースナノファイバーや架橋性樹脂の分散性の目視評価結果であり、未変性セルロースナノファイバーの沈降が生じないものを「○」、未変性セルロースナノファイバーの沈殿が僅かでも生じるものを「×」と評価した。なお、水分散液は白濁しているものの、未変性セルロースナノファイバーが沈殿すると、その部分の白色度合いが変化し、白色の濃淡として識別可能である。
(実施例1)
以下、水溶液または水分散液として用いた成分の配合量を固形分量で示すが、もちろん水を含んでいる。。
PVA樹脂20gに、架橋剤(カルボジライト)1g(PVA樹脂に対して5重量%)、未変性CNF(BiNFi−s)0.2g(PVA樹脂に対して1重量%)、および分散剤(リピジュアBL)0.01g(未変性CNFに対して5重量%)を配合し、卓上攪拌機で予備混合し、予備混合物を調製した。
得られた予備混合物500mlを高速回転型メディアレス分散機(アペックスディスパーザーZERO)により、せん断部クリアランス1mm、ロータの回転周速45m/sに設定し、10分間の解繊処理を5回行ない、本発明の複合ナノセルロース複合体を水分散体として製造した。
得られた実施例1のナノセルロース複合体は白濁液状を呈し、未変性CNFやPVA樹脂の分散ムラや凝集は目視観察では認められなかった。また、実施例1のナノセルロース複合体を24時間以上静置しても未変性CNFの沈殿は観察されず、安定した水分散体であった。また、実施例1のナノセルロース複合体のゼータ電位−40.2mVであった。ゼータ電位の絶対値が大きいことから、未変性CNFがPVA樹脂中にほぼ均一に分散していることが確認された。実施例1に含まれる未変性CNFの繊維径は20〜50nmの範囲であり、平均繊維径は18nmであった。
実施例1のナノファイバー複合体を、酸素プラズマで親水化処理したガラス基板上に、バーコーターにより、塗布速度速度3m/分で100×200mm×厚さ5μmのサイズでコーティングし、自然乾燥による脱溶媒後に、170℃で20分加熱することで化学的架橋を施し、ナノセルロース架橋複合体の成形品としてコーティング膜を作製した。このコーティング膜の水への可溶分の有無からゲル化の有無を判定し、さらにJIS K5600−5−4に基づいてコーティング膜の鉛筆硬度を測定し、下記の方法で耐耐擦傷性を調べた。結果を表1に示す。
(比較例1)
実施例1において、分散剤を加えない以外は、実施例1と同様に操作し、ナノセルロース複合体を調製し、コーティング膜の形成および架橋処理を行い、その後に同様の評価を行った。結果を表1に示す。また、得られたナノセルロース複合体のゼータ電位は−14.05mVであり、未変性CNFなどの均一分散性が不十分であることが確認された。また、得られたナノファイバー複合体を静置後しばらくすると未変性CNFなどの沈殿が始まり、12時間静置後には配合した未変性CNFの大部分が液量の1/2程度まで沈殿した。
(比較例2)
実施例1において、架橋剤を配合しない以外は、実施例1同様に操作して、未変性セルロースナノファイバー複合体の調製、コーティング膜の形成及び架橋処理を行い、その後に同様の評価を行った。結果を表1に示す。得られたナノセルロース複合体のゼータ電位は−36.8mVであった。
(比較例3)
以下、水溶液または水分散液として用いた成分の配合量を固形分量で示すが、もちろん水を含んでいる。。
変性CNF(BiNFi−s)0.25gに、分散剤(リピジュアBL)0.01gを配合し、高速回転型メディアレス分散機(アペックスディスパーザーZERO)により、せん断部クリアランス1mm、ロータの回転周速45m/sに設定し、10分間の解繊処理を5回行ない、未変性CNFの水分散液を調製した。得られた未変性CHFの水分散液、PVA樹脂20g、架橋剤(カルボジライト)1gを配合し、卓上攪拌機で300rpm、1時間混合し、二段法により白濁液状のナノセルロース複合体を調製した。
得られたナノセルロース複合体の分散性を目視にて評価した後、24時間静置した後の未変性CNFの沈降の有無を評価した。該ナノセルロース複合体は、製造直後および24時間静置後のいずれにも、未変性CNFの分散むら、凝集、沈降などは殆ど認められないものの、ゼータ電位が−39.67mVと、実施例1のゼータ電位−40.2mVよりもやや小さな数値であり、ゼータ電位から見た各成分の分散性は比較例3よりも実施例1の方がより優れたものになっていた。
また、比較例3のナノファイバー複合体を用い、実施例1と同様にしてコーティング膜を形成し、その物性を調べた。結果を表1に示す。
(実施例2および比較例4〜6)
実施例1および比較例1〜3において、架橋剤としてTAICを、日本化成(株)製)をPVA樹脂の固形分に対して5重量%添加し、かつ架橋処理を化学架橋から、紫外線を1000(mJ/cm2)照射する物理架橋に代えた以外は、それぞれ実施例1および比較例1〜4と同様に操作し、ナノファイバー複合体の調製、コーティング膜の形成および架橋処理を行い、その後に同様の評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例3、4および比較例7〜12)
実施例1および比較例1〜3において、PVA樹脂に代えてPVB樹脂の10重量%水溶液を用いる以外は、実施例1および比較例1〜3と同様に操作し、ナノファイバー複合体の調製、コーティング膜の形成および架橋処理を行い、その後に同様の評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例5、6および比較例13〜18)
実施例2および比較例4〜6において、PVA樹脂に代えてURT樹脂の10重量%水分散液を用いる以外は、実施例2および比較例4〜6と同様に操作し、ナノファイバー複合体の調製、コーティング膜の形成および架橋処理を行い、その後に同様の評価を行った。結果を表1に示す。
<実施例の効果>
以下の評価は、製造方法の異なるナノファイバー複合体からコーティング膜を形成した場合の、コーティング膜特性を比較したものであり、ナノファイバー複合体全般の特性を評価するものではない。すなわち、実施例1〜6および比較例1〜18において、ナノファイバー複合体の製造方法を一段法または二段法とした場合に、得られるナノファイバー複合体から形成されるコーティング膜の特性を比較し、さらに架橋剤の添加の有無、分散剤添加の有無、架橋の有無が、コーティング膜の物性(鉛筆硬度、耐擦傷性)に与える影響について調べた。
表1から、高速回転型ビーズレス分散機により機械的解繊処理(せん断力の付与)を行ないつつ、未変性セルロースナノファイバー、水溶性架橋性樹脂。分散剤および架橋剤を
一段で混合したナノセルロース複合体は、未変性セルロースナノファイバーの分散性は良好でかつ分散安定性が高いことがわかった。これらを架橋すると、ゲル分率が90%以上であり、十分に架橋が進んでいることが確認できた。
また、これらのナノファイバー複合体の架橋体は、いずれも鉛筆硬度が2H以上であり、また耐擦傷性は非常に優れていることが判った。(実施例1〜6)。
一方、比較例3,6,9,12,15,18では、それぞれ実施例1〜6と同一の成分組成で各成分を用い、未変性CNFと分散剤を予め高速回転型メディアレス分散機で分散させて未変性CNF分散体を調製し、これに水溶性架橋性樹脂及び架橋剤を混合するという従来の二段工程でナノファイバー複合体を得ている。ナノファイバー複合体における、各成分特に未変性CNFの分散性、分散安定性及び沈降安定性、その架橋化物のゲル分率、鉛筆硬度、耐擦傷性などに関し、実施例1〜6は比較例3,6,9,12,15,18と同等又は物性によっては同等よりも良好な値を示す、単に工程の省力化が達成されるのみではないことが確認された。
以上から、本発明の一段法により得られたナノファイバー複合体及びその成形体は、従来の二段法により得られたナノファイバー複合体及びその成形体と同等又はそれ以上の特性(ゲル分率、鉛筆硬度、耐擦傷性)を有している。
また、実施例1〜6において、分散剤を添加しない比較例1、4、7、10、13、16のナノファイバー複合体は、未変性CNFの分散性及び分散安定性が劣り、またこれらで作製したコーティング膜の鉛筆硬度及び耐擦傷性も、実施例1〜6に比べて劣ることがわかった。
さらに、実施例1〜6に架橋剤を添加しない比較例のナノセルロース複合体は、未変性CNFの分散性、分散安定性は実施例1〜6と同等であるものの、これらから作製されたコーティング膜は鉛筆硬度および耐擦傷性が劣っていた。
実施例1〜6及び比較例1〜18において、分散剤をポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(リピジュアBL)からスルホン酸系分散剤(アロンA−6012)又はカルボン酸系分散剤(アロンA―6114)に変更する以外は実施例1〜6及び比較例1〜18とそれぞれ同様に操作して、ナノファイバー複合体を調製し、セルロースナノファイバーの分散性、分散安定性ならびに、架橋処理したコーティング膜について同様の評価を行った。セルロースナノファイバー分散性、沈降安定性、ゲル化の有無、ゲル分率、鉛筆硬度、耐擦傷性は、それぞれ実施例1〜6及び比較例1〜18とほぼ同等であった。