<本発明の実施の形態>
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る密封装置1の概略構成を示すための、軸線に沿う断面における断面図である。本発明に係る密封装置1は、軸線について互いに相対回転可能な外周側部材とこの外周側部材に少なくとも部分的に包囲された内周側部材との間を密封するための密封装置であり、密封装置1は、後述するように、ハブベアリング50において外輪51とハブ52との間の空間を密封するために用いられる。
以下、説明の便宜上、軸線x方向において矢印a(図1参照)方向(軸線方向において一方の側)を外側とし、軸線x方向において矢印b(図1参照)方向(軸線方向において他方の側)を内側とする。より具体的には、外側とは、密封対象空間である外輪51とハブ52との間の空間から離れる方向であり、内側とは、この密封対象空間に近づく方向である。また、軸線xに垂直な方向(以下、「径方向」ともいう。)において、軸線xから離れる方向(図1の矢印c方向)を外周側とし、軸線xに近づく方向(図1の矢印d方向)を内周側とする。
密封装置1は、図1に示すように軸線x周りに環状の補強環10と、補強環10に取り付けられている、弾性体から形成されている軸線x周りに環状の弾性体部20とを備えている。弾性体部20は、サイドリップ21と、中間リップ22と、グリースリップ(ラジアルリップ)23とを有している。サイドリップ21は、後述する使用状態において内周側部材としてのハブ52に軸線x方向において他方の側(内側)から接触するように形成された、軸線x方向において一方の側(外側)に向かって延びる環状のリップ状の部分である。中間リップ22は、使用状態においてハブ52に一方の側(内側)から接触するように形成された、サイドリップ21よりも内周側において一方の側(外側)に向かって延びる環状のリップ状の部分である。グリースリップ23は、使用状態においてハブ52に外周側から接触するように形成された、中間リップ22よりも軸線x方向において他方の側(内側)において他方の側(内側)に向かって延びる環状のリップ状の部分である。
具体的には、補強環10は、軸線xを中心又は略中心とする環状の金属製の部材であり、後述するハブベアリング50の外輪51の貫通孔57に圧入されて嵌合されるように形成されており、補強環10が外輪51に圧入されることにより、密封装置1は、外輪51に固定される。補強環10は、例えば、図1に示すように、外周側に位置する筒状の嵌合部11と、嵌合部11の内側の端部から内周側に延びる位置調整部12と、嵌合部11の外側の端部から外周側に延びる円盤状のフランジ部13とを備えている。
嵌合部11は、軸線xを中心又は略中心とする円筒状又は略円筒状の部分であり、外周側の周面である外周面11aにおいて、貫通孔57が外側において開放される外輪51の部分である外側開口部58における内周面58aに密着して嵌着されるように形成されている。位置調整部12は、サイドリップ21、中間リップ22、及びグリースリップ23が密封装置1において所望の位置に配置されるような形状となっており、嵌合部11の内側の端部から外側に戻る略円錐筒状又は略円筒状の部分である戻り部12aと、戻り部12aの外側の端部から内周側に延びる円盤状の部分である接続フランジ部12bと、接続フランジ部12bの内周側の端部から内側及び内周側に向かって斜めに延びる略円錐筒状の戻り部12cと、戻り部12cの内周側の端部から内周側に延びる円盤状の部分であるシールフランジ部12dとを有している。フランジ部13は、軸線xを中心又は略中心とする径方向に広がる中空円盤状又は略中空円盤状の部分である。補強環10は、金属板からプレス加工や鍛造によって一体の部材として形成されており、嵌合部11と位置調整部12、嵌合部11とフランジ部13とは、互いに一体的に連続しており結合している。補強環10の金属材としては、例えば、ステンレス鋼やSPCC(冷間圧延鋼)がある。
弾性体部20は、補強環10に取り付けられており、図1に示すように、補強環10を外側から覆うように補強環10と一体的に成形されている。弾性体部20は、基体部25を有しており、中間リップ22及びグリースリップ23は、基体部25の内周側の端部から夫々延びている。また、サイドリップ21は、中間リップ22よりも外周側において、中間リップ22から径方向に離間されて、基体部25から延びている。基体部25は、補強環10のフランジ部13、嵌合部11、及び位置調整部12に亘って、補強環10の外側の表面に広がっている弾性体部20の部分であり、弾性体部20は、基体部25において、補強環10に一体的に取り付けられている。
サイドリップ21は、軸線xを中心又は略中心として円環状に基体部25から外側に向かって延びており、密封装置1がハブベアリング50において所望の位置に取り付けられた後述する密封装置1の使用状態において、先端部が所定の締め代を持ってハブ52(ハブ輪55)に接触するように形成されている。サイドリップ21は、例えば、軸線x方向において外側に向かうに連れて拡径する円錐筒状の形状を有している。
中間リップ22は、軸線xを中心又は略中心として円環状に基体部25から外側に向かって延びており、密封装置1の使用状態において、先端部が所定の締め代を持ってハブ52(ハブ輪55)に接触するように形成されている。中間リップ22は、例えば、軸線x方向において外側に向かうに連れて拡径する円錐筒状の形状を有している。中間リップ22はサイドリップ21と平行に外側に向かって延びていてもよく、図1に示すように、サイドリップ21よりも軸線xに対する傾きが緩くなっていてもよい。またその逆であってもよい。
グリースリップ23は、軸線xを中心又は略中心として円環状に基体部25から内側及び内周側に向かって延びている。グリースリップ23は、密封装置1の使用状態において、先端部が所定の締め代を持ってハブ52(ハブ輪55)に接触するように形成されている。
また、グリースリップ23は、延び方向の長さLと軸線xに沿う断面における厚さtがt/L≧0.27の関係を満たすようにその形状が設計されている。グリースリップ23の延び方向の長さである延び方向長さLは、図2に示すように、グリースリップ23の根元(基体部25との結合部)であるグリースリップ基端23cと、グリースリップ23の先端であるグリースリップ先端23dとの間の延び方向における間隔である。また、グリースリップ23の厚さである断面厚さtは、軸線xに沿う断面におけるグリースリップ23の延び方向に直交する方向の厚さである。本実施の形態においては、図2に示す、グリースリップ23のグリースリップ基端23cにおけるグリースリップ23の厚さ(断面厚さt1)が、上記t/L≧0.27の関係を満たすようにその形状が設計されている。つまり、t1/L≧0.27となるような形状をグリースリップ23は有している。グリースリップ23の断面厚さtは、グリースリップ基端23cにおける断面厚さt1が最大値となっており、グリースリップ23は、グリースリップ先端23dに向かうほどその厚さが薄くなっており、グリースリップ先端23dにおけるグリースリップの厚さ(断面厚さt2)が最小値となっている。グリースリップ23は、延び方向に一様な厚さ(断面厚さt=一定)となっていてもよく、グリースリップ先端23dに向かうほどその厚さが厚くなっていてもよい。グリースリップ23の断面形状は、他の形状であってもよい。例えば、断面において、グリースリップ23の外周面の輪郭は直線や略直線ではなく曲線であってもよく、同様に、断面において、グリースリップ23の内周側面23aの輪郭は直線や略直線ではなく曲線であってもよい。
また、弾性体部20には、外周環突起24が形成されている。外周環突起24は、サイドリップ21よりも外周側に配設された外側に突出する軸線x周りに環状の突起であり、外側の先端である外側端24aにおいてハブ52(ハブ輪55)との間に間隙を形成するように形成されている。外周環突起24は、具体的には、基体部25の外周側の端部から外側に向かって突出しており、軸線xを中心又は略中心として延びている。外周環突起24は、図1に示すように、基体部25から外側及び外周側に向かって斜めに突出している。
また、弾性体部20は、外周環突起24よりも外周側に、外周側に向かって突出する環状の部分である堰部26を有している。堰部26は、後述するように、密封装置1が外輪51に取り付けられた状態において、外輪51の軸線x方向において密封装置1に接触する部分である外側端面58bよりも外周側に突出するように形成されている。堰部26は、例えば、図1に示すように、補強環10のフランジ部13の外周側の端部を外周側において覆うように形成されている。
弾性体部20は、また、図1に示すように、補強環10のフランジ部13の内側の表面を少なくとも部分的に覆うガスケット部27を有している。ガスケット部27は、軸線x周りに環状に広がっており、堰部26の内周側の端部に続いている。
弾性体部20は、補強環10に一体的に取り付けられており、上述のサイドリップ21、中間リップ22、グリースリップ23、外周環突起24、基体部25、堰部26、及びガスケット部27は、一体の部材として形成された弾性体部20の部分であり、一体的に連続している。弾性体部20の弾性体としては、例えば、各種ゴム材がある。各種ゴム材としては、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H−NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)等の合成ゴムである。
また、サイドリップ21、中間リップ22、及びグリースリップ23は、各々の内周側の面(内周側面21a,22a,23a)に梨地部21b,22b,23bが形成されている。
具体的には、図2に示すように、サイドリップ21の内周側の面である内周側面21a(図2において点線に面する面)には、梨地処理がなされており、内周側面21aの表面には微小な凹凸が形成されて梨地部21bが形成されている。このように、サイドリップ21の内周側面21aは梨地部21bとなっている。例えば、梨地部21bの表面粗さは、7μmRz以上である。ここで、梨地処理は十点平均粗さ(Rz)で表され、JIS B0601:1994に準拠している。
同様に、図2に示すように、中間リップ22の内周側の面である内周側面22a(図2において点線に面する面)には、梨地処理がなされており、内周側面22aの表面には微小な凹凸が形成されて梨地部22bが形成されている。このように、中間リップ22の内周側面22aは梨地部22bとなっている。例えば、梨地部22bの表面粗さは、7μmRz以上である。
同様に、図2に示すように、グリースリップ23の内周側の面である内周側面23a(図2において点線に面する面)には、梨地処理がなされており、内周側面23aの表面には微小な凹凸が形成されて梨地部23bが形成されている。このように、グリースリップ23の内周側面23aは梨地部23bとなっている。例えば、梨地部23bの表面粗さは、7μmRz以上である。
また、サイドリップ21、中間リップ22、及びグリースリップ23の夫々の内周側面21a,22a,23aには、潤滑剤としてのグリースGが塗布されている。つまり、図2に示すように、内周側面21a,22a,23aには夫々点線に沿ってグリースGが塗布されていてもよい。後述する使用状態においては、密封装置1には上述のようにグリースGが塗布されて使用される。
グリースGは、増ちょう剤にウレア基を含むウレア系の増ちょう剤を含んでいない。若しくは、グリースGは、増ちょう剤にウレア系の増ちょう剤を少量含んでいる。グリースGが増ちょう剤にウレア系の増ちょう剤を少量含んでいる場合、グリースGの増ちょう剤におけるウレア系の増ちょう剤の割合は、後述するグリースGの効果である、ハブ52が回転した際にリード目に沿ってグリースGが掻き出されることが抑制される効果を奏することができる範囲であればよい。
グリースGとしては、上述の条件を満たす従来公知のグリースを適用することができる。グリースGとしては、基油、添加剤、増ちょう剤からなり、例えば以下のような基油、添加剤、増ちょう剤が用いられる。
基油の種類は、通常潤滑油の基油として使用されている油(鉱油系、合成油系または天然油系の潤滑油)を全て使用可能である。具体的には、鉱油系潤滑油としては、鉱油を減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を、適宜組み合わせて精製したものを用いることができる。合成油系潤滑油としては、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油等が挙げられる。天然油系潤滑油としては、牛脂、豚脂、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油等の油脂系油またはこれらの水素化物が挙げられる。これらの基油は、単独または混合物として用いることができ、所望とする基油動粘度に調整される。但し、シール部材の弾性材料として一般的なニトリルゴムとの相性を考慮すると、鉱油または炭化水素系油が好ましい。
増ちょう剤も、例えば金属成分がLiやNa等の金属石けん、金属成分がLi,Na,Ba,Ca等である複合金属石けん等の金属石けん類、ベントン、シリカゲル、ウレタン化合物等の非石けん類、アミノ酸系ゲル化剤(N−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミドやN−ラウロイル−L−グルタミン酸−α,γ−n−ジブチルアミド等)、ベンジリデンソルビトール誘導体(ジベンジリデンソルビトール、ジトリリデンソルビトール及び非対称のジアルキルベンジリデンソルビトール等)を適宜選択して使用することができる。これらの増ちょう剤は、単独または混合物として用いることができる。なお、ウレア系の増ちょう剤には、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物を用いたものがある。
グリースGには、目的に応じて添加剤を添加してもよい。例えば、アミン系、フェノール系、硫黄系、ジチオリン酸亜鉛やジチオカルバミン酸亜鉛等の酸化防止剤、スルフォン酸金属塩、エステル系、アミン系、ナフテン酸金属塩、コハク酸誘導体等の防錆剤、リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデン等の極圧剤、脂肪酸、動植物油等の油性向上剤、ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤等、従来から潤滑に使用される添加剤を単独または混合して添加することができる。尚、これら添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない範囲であれば特に制限されるものではない。
次いで、密封装置1の使用状態について説明する。図3は、ハブベアリング50に取り付けられた密封装置1の使用状態を示すための、軸線xに沿う断面におけるハブベアリング50の断面図であり、図4は、図3における密封装置1近傍の部分拡大断面図である。図3に示すように、ハブベアリング50は従来公知のハブベアリングであり、車両等に設けられ、アクスル又は懸架装置において車輪を回転自在に支持する。ハブベアリング50は、具体的には、図3に示すように、外周側部材としての軸線xを中心又は略中心とする環状の外輪51と、外輪51に対して相対回転可能であり外輪51に部分的に包囲された軸線xを中心又は略中心とする内周側部材としてのハブ52と、外輪51とハブ52との間に配設された複数のベアリングボール53とを備えている。車両等に取り付けられたハブベアリング50の使用状態において、外輪51は固定され、ハブ52が外輪51に対して相対回動可能になる。ハブ52は、具体的には、内輪54とハブ輪55とを有しており、ハブ輪55は、軸線xに沿って延びる筒状又は略円筒状の軸部55aと、車輪取付フランジ55bとを有している。車輪取付フランジ55bは、軸部55aの一端(ハブベアリング50において外側の端部)から外周側に向かって円盤状に広がる部分であり、図示しない車輪が複数本のハブボルトによって取り付けられる部分である。軸部55aと車輪取付フランジ55bとは、内側において滑らかに繋がっており、軸部55aと車輪取付フランジ55bとが内側において繋がっている部分である移行部55cは、軸線xに沿う断面において円弧状の又は弧状の滑らかな曲線を描く輪郭を有している。内輪54は、外輪51と内輪54との間の空間内にベアリングボール53を保持するために、ハブ輪55の軸部55aの内側(矢印b方向側)の端部に嵌合されている。外輪51とハブ52との間の空間内において、ベアリングボール53は保持器56によって保持されている。
外輪51は、軸線x方向に延びる貫通孔57を有しており、この貫通孔57には、ハブ52のハブ輪55の軸部55aが挿入されており、軸部55aと貫通孔57との間に軸線xに沿って延びる環状の空間が形成されている。この空間内には、上述のようにベアリングボール53が収容されて保持器56によって保持されており、また、潤滑剤が塗布又は注入されている。軸部55aと貫通孔57との間の空間が外側(矢印a方向側)において開放された開口を形成する外輪51の外側開口部58には、密封装置1が取り付けられ、軸部55aと貫通孔57との間の空間が内側(矢印b方向側)において開放された開口を形成する外輪51の内側開口部58´には、他の密封装置59が取り付けられている。密封装置1,59によって、軸部55a及び内輪54と貫通孔57との間の空間の密封が図られており、内部の潤滑剤が外部に漏れ出ることの防止が図られており、外部から異物が内部に侵入することの防止が図られている。密封装置59は、従来公知の密封装置であり、詳細な説明は省略する。また、密封装置59として、密封装置1を適用することもできる。この場合、ハブベアリング50において、外側は矢印b方向となり、内側は矢印a方向となる。密封装置1が適用されるハブベアリングの構成は、上述のハブベアリング50の構成に限られない。
図4に示すように、密封装置1は、外輪51の外側開口部58に取り付けられている。具体的には、密封装置1は、補強環10の嵌合部11が外輪51の外側開口部58内に圧入されて嵌着されることにより、外輪51に固定されている。補強環10の嵌合部11の外周面11aは、外輪51の外側開口部58の内周方向に面する内周面58aに密着しており、補強環10と外輪51との間の密閉が図られている。また、使用状態において、図4に示すように、補強環10は、そのフランジ部13が、内側に広がる弾性体部20のガスケット部27を外側開口部58の外側に面する環状の面を形成する外側端面58bに押し付けるように、外輪51に取り付けられている。これにより、外側端面58bとフランジ部13との間において、ガスケット部27は圧縮されて、外側端面58bにおいて外輪51と密封装置1と間の密閉性の向上が図られている。ガスケット部27には、図1,4に示すように、内側に向かって突出する環状の突起であるビード27aが形成されていることが好ましい。使用状態においてビード27aが外側開口部58の外側端面58bに押し付けられることにより、外側端面58bにおいて外輪51と密封装置1との間の密閉性の更なる向上を図ることができる。ガスケット部27は、ビード27aを有していなくてもよい。
また、使用状態において、弾性体部20の堰部26は、外側開口部58の外側端面58bを外周側に超えて、外側開口部58の外周方向に面する外周面58cを外周側に超えて突出している。このため、使用状態において、外輪51の外側開口部58の外周面58cを伝って、雨水、泥水及びダスト等の異物が外側に向かって移動してきたとしても、異物は堰部26の内側に向かう面である内側面26aにぶつかり、異物の更なる外側に向かう移動が遮られる。このように、外輪51の外側開口部58の外周面58cを伝って異物がサイドリップ21方向に侵入することが抑制されている。
使用状態において、サイドリップ21は、その先端部が上述の所定の締め代に対応する部分(接触幅)においてハブ輪55の表面、例えば、車輪取付フランジ55bの内側に面する面(内側面55d)にハブ輪55が摺動可能に接触している。また、中間リップ22は、その先端部が上述の所定の締め代に対応する部分(接触幅)においてハブ輪55の表面、例えば、移行部55cにハブ輪55が摺動可能に接触している。また、グリースリップ23は、その先端部が上述の所定の締め代に対応する部分(接触幅)においてハブ輪55の表面、例えば、軸部55aの外周側の面である外周面55eにハブ輪55が摺動可能に接触している。サイドリップ21及び中間リップ22によって、貫通孔57内への異物の侵入の防止が図られており、グリースリップ23によって、貫通孔57内からの潤滑剤の流出の防止が図られている。
また、使用状態において、外周環突起24の外側端24aは、軸線x方向において微小な隙間を空けてハブ輪55の車輪取付フランジ55bの内側面55dに対向しており、外周環突起24は、車輪取付フランジ55bに接触していない。外周環突起24は、外側端24aと車輪取付フランジ55bとの間に微小な空間を形成してラビリンスシールを形成するようにしてもよい。
図4に示すように、ハブ輪55の車輪取付フランジ55bの内側面55dには、外周側に段差55fが形成されていてもよい。段差55fにおいて、内側面55dの外周側の部分が内周側の部分より外側に凹んでいる。外周環突起24は、この段差55fよりも外周側において延びている。
上述のように、密封装置1がハブベアリング50に取り付けられた使用状態において、サイドリップ21は内周側面21aの所定の締め代の部分においてハブ輪55(車輪取付フランジ55b)に接触しており、中間リップ22は内周側面22aの所定の締め代の部分においてハブ輪55(車輪取付フランジ55b)に接触しており、サイドリップ21と中間リップ22とハブ輪55の車輪取付フランジ55bとは、環状の空間であるリップ間空間Sを画成している。この使用状態においてサイドリップ21と中間リップ22とハブ輪55とが囲むリップ間空間Sの軸線xに沿う断面における面積(断面積)であるリップ間空間断面積Aは3.5mm2以上となっている。つまり、サイドリップ21と中間リップ22とは、使用状態におけるリップ間空間Sの断面積であるリップ間空間断面積AがA≧3.5mm2となるように、夫々の形状が設計されている。
上述のように、密封装置1は、使用状態において、サイドリップ21が所定の締め代でハブ輪55の車輪取付フランジ55bの内側面55dに接触し、中間リップ22が所定の締め代で車輪取付フランジ55bの移行部55cに接触し、また、グリースリップ23が所定の締め代でハブ輪55の軸部55aの外周面55eに接触して、密封装置1は、外輪51とハブ52との間の空間の密封を図っている。
なお、ハブ輪55の車輪取付フランジ55bの内側面55d、移行部55c、および、外周面55eは、サイドリップ21、中間リップ22およびグリースリップ23が所定の締め代で接触する面であり、ハブ52のトルク抵抗に大きな影響を及ぼすため、その表面が切削加工、研削加工または研磨加工により鏡面状態に仕上げられている。
ここで、車輪取付フランジ55bの内側面55d、移行部55c、および、外周面55eにおける鏡面状態とは、その表面に反射して物が映る鏡のように仕上げられた状態のことをいい、この場合、JIS(日本工業規格)により規定される算術平均粗さ(Ra)が0.1μmRa以下である。ここで、鏡面状態は算術平均粗さ(Ra)で表され、JIS B0601:2001に準拠している。
すなわち、ハブ輪55においては、車輪取付フランジ55bの内側面55d、移行部55c、および、外周面55eが鏡面状態に仕上げられたことにより、従来に比してリード目の凹凸が極めて小さくなっている。
ところで、従来の密封装置において、ハブ輪にリード目が残されている場合に、サイドリップや中間リップ、グリースリップのベタ当たりが発生する理由は、サイドリップと中間リップとハブ輪とが囲む空間にリード目のポンプ効果により負圧が発生するためであると考えられている。しかしながら、車輪取付フランジ55bの内側面55d、移行部55c、および、外周面55eが鏡面状態に仕上げられてリード目が僅かに残存する程度になったので、サイドリップ21および中間リップ22とハブ輪55の車輪取付フランジ55bとが囲む空間にリード目によるポンプ効果が殆ど生じなくなり、負圧が発生しなくなるので、サイドリップ21、中間リップ22およびグリースリップ23にベタ当たりが発生することを従来に比して大幅に抑制することができる。
また、密封装置1によれば、たとえ、車輪取付フランジ55bの内側面55d、移行部55c、および、外周面55eが鏡面状態に仕上げられておらず、加工の仕上痕であるリード目が形成されている場合であっても、サイドリップ21や中間リップ22、グリースリップ23のベタ当たりが発生することを抑制することができる。これは、サイドリップ21と中間リップ22とハブ輪55とが囲むリップ間空間Sの断面積であるリップ間空間断面積Aが3.5mm2以上となっているからである。従来の密封装置において、ハブ輪にリード目が形成されている場合に、サブリップや中間リップ、グリースリップのベタ当たりが発生する理由は、サイドリップと中間リップとハブ輪とが囲む空間にリード目のポンプ効果により負圧が発生するためであると考えられている。これに対して、密封装置1においては、具体的には、使用状態におけるリップ間空間断面積Aが3.5mm2以上となるように、サイドリップ21や中間リップ22の形態が設計されている。このため、使用状態においてハブ52が回転しても、リップ間空間Sに対するリード目によるポンプ効果の影響は低くなっている。つまり、リップ間空間断面積AをA≧3.5mm2とすることにより、リップ間空間Sに対するリード目のポンプ効果の影響を低減させることができ、リード目のポンプ効果によりリップ間空間Sにリップ21〜23の接触幅を増大させるような負圧が発生することの防止を図ることができる。このため、密封装置1においては、ハブ輪55にリード目が形成されている場合であっても、サイドリップ21や中間リップ22、グリースリップ23のハブ輪55に対する摺動抵抗の増大を抑制することができる。
リップ間空間Sのリップ間空間断面積Aは大きければ大きいほどよい。リップ間空間断面積Aは大きければ大きいほど、リード目のポンプ効果の影響をより低減させることができるからである。但し、リップ間空間断面積Aの大きさの上限値は、具体的な適用対象(ハブベアリング)に対応した密封装置1の具体的な形態に応じて決めることができる。若しくは、リップ間空間断面積Aの大きさの上限値は、具体的な適用対象(ハブベアリング)に対応した密封装置1の具体的な形態に応じて決まってくる。また、密封装置1の最適なリップ間空間断面積Aの大きさは、例えば、密封装置1の具体的な態様における径方向の大きさ、例えばサイドリップ21や中間リップ22の径の大きさに基づいて設定することができる。
また、密封装置1においては、上述のようにグリースリップ23の断面厚さtと延び方向長さLとの関係がt/L≧0.27となっている。このため、グリースリップ23の剛性を適切に調整でき、グリースリップ23のベタ当たりを抑制することができ、グリースリップ23のハブ輪55に対する摺動抵抗の増大を抑制することができる。グリースリップ23の断面厚さtと延び方向長さLとの関係がt/L≧0.27となっている場合、密封装置1の使用環境を20℃から120℃に変化させた場合であっても、つまりハブベアリング50の貫通孔57内の圧力を変化させた場合であっても、グリースリップ23のベタ当たりを抑制することができる。
なお、密封装置1においては、上述したように、ハブ輪55の車輪取付フランジ55bの内側面55d、移行部55c、および、外周面55eを鏡面状態に仕上げたうえで、サイドリップ21と中間リップ22とハブ輪55とが囲むリップ間空間Sのリップ間空間断面積Aを3.5mm2以上としてもよい。この場合、密封装置1は、鏡面状態およびリップ間空間断面積Aを3.5mm2以上としたことの相乗作用により、サイドリップ21や中間リップ22、グリースリップ23のハブ輪55に対する摺動抵抗の増大を更に一段と抑制することができる。
また、密封装置1においては、サイドリップ21、中間リップ22、及びグリースリップ23は、夫々内周側面21a〜23aに梨地処理がなされており、夫々内周側面21a〜23aに梨地部21b〜23bが形成されている。そして、梨地部21b〜23bの表面粗さは、7μmRz以上となっている。このように梨地部21b〜23bの表面粗さが7μmRz以上に形成されているため、表面粗さが7μmRzよりも小さい場合に比べて、サイドリップ21、中間リップ22、及びグリースリップ23とハブ輪55のリード目との間の接触面積が減ってポンプ効果の低減を図ることができる。これにより、サイドリップ21や中間リップ22、グリースリップ23のハブ輪55に対するベタ当たりを抑制でき、サイドリップ21や中間リップ22、グリースリップ23のハブ輪55に対する摺動抵抗の増大を抑制することができる。
また、梨地部21b〜23bは、その表面粗さが大きいほど、サイドリップ21や中間リップ22、グリースリップ23のハブ輪55に対する摺動抵抗を小さくすることができる。しかしながら、梨地部21b〜23bの表面粗さが大きいほど、サイドリップ21や中間リップ22、グリースリップ23のシール性は低下する。シール性のみを考慮した場合、梨地部21b〜23bの表面粗さは、5μmRz以上20μmRz以下の値が好ましい。この場合、密封装置1は、車輪取付フランジ55bの内側面55d、移行部55c、および、外周面55eを鏡面状態に仕上げた場合、または、仕上げていない場合であっても、梨地部21b〜23bの表面粗さを7μmRz以上に形成することにより、サイドリップ21、中間リップ22、及びグリースリップ23とハブ輪55の表面との間の接触面積が減ってポンプ効果の低減を図り、サイドリップ21や中間リップ22、グリースリップ23のハブ輪55に対する摺動抵抗の増大を抑制することができる。
各リップ21〜23に塗布されるグリースGとして、ウレア系の増ちょう剤を含むグリースを使用した場合、ハブ52が回転した際にリード目に沿ってグリースGは掻き出されやすくなる。これは、ウレア系の増ちょう剤を含むグリースは、金属に付着しやすい傾向があるためであると考えられる。ハブ52の回転の際にリード目に沿ってグリースGが掻き出されると、リップ間空間Sに負圧が発生することになる。このため、ウレア系の増ちょう剤を含むグリースを使用した場合、サイドリップ21や中間リップ22、グリースリップ23のベタ当たりが発生し、サイドリップ21や中間リップ22、グリースリップ23のハブ輪55に対する摺動抵抗が増大することになる。密封装置1においては、各リップ21〜23に塗布されるグリースGとして、ウレア系の増ちょう剤を含まないグリース、または、増ちょう剤にウレア系の増ちょう剤を少量のみ含むグリースが使用されている。このため、ハブ52が回転した際にリード目に沿ってグリースGが掻き出されることが抑制され、リップ21〜23の接触幅を増大させるような負圧が発生することの防止を図ることができ、サイドリップ21や中間リップ22、グリースリップ23のハブ輪55に対する摺動抵抗の増大を抑制することができる。
また、密封装置1においては、図5に示すように、サイドリップ21と中間リップ22とハブ輪55の内側面55dとによって囲まれた第1の空間としてのリップ間空間Sの空間体積V1に対してグリースGの塗布量の割合を21%以下とする(ただし、0%は密封装置1が泥水シールとしての機能を発揮しないため除く)。
さらに、密封装置1においては、図5に示すように、中間リップ22とグリースリップ23とハブ輪55の移行部55cとによって囲まれた第2の空間としてのリップ間空間Rの空間体積V2に対してグリースGの塗布量の割合を33%以下とする(ただし、0%は密封装置1が泥水シールとしての機能を発揮しないため除く)。
ここで、リップ間空間Sの空間体積V1、および、リップ間空間Rの空間体積V2は、サイドリップ21、中間リップ22、グリースリップ23、および、ハブ輪55の各部の寸法に基づいて、所定のCADソフトウェア(例えば、ダッソー・システムズ・ソリッドワークス社の「SOLIDWORKS」(登録商標)等)により容易に求めることが可能である。
具体的には、図6に示すように、サイドリップ21のリップ高さa1、当該サイドリップ21の内周側面21aにおける先端21asの内径b1、当該サイドリップ21の基端部21kの内周側面における先端21ksの内径c1、中間リップ22のリップ高さa2、当該中間リップ22の内周側面22aにおける先端22asの内径b2、当該中間リップ22の基端部22kの内周側面における先端22ksの内径c2、グリースリップ22のリップ高さa3、当該グリースップ22の内周側面23aにおける先端23asの内径b3、当該グリースリップ23の基端部23kの内周側面における先端23ksの内径c3等を、空間体積V1、V2を求めるために必要な各種のパラメータとしてCADソフトウェアに入力すればよい。
また、ハブ輪55については、図7に示すように、外周面55eの外径d1、および、移行部55cのR寸法r1等を、空間体積V1、V2を求めるために必要な当該ハブ輪55の各種のパラメータとしてCADソフトウェアに入力すればよい。
上述のように、本発明の実施の形態に係る密封装置1によれば、ハブ輪55の表面にリード目が残されていても、各リップ21〜23のハブ輪55に対する摺動抵抗の上昇を抑制して摺動抵抗を安定させることができる。
<実施例>
次に、このような構成の密封装置1がハブベアリング50のハブ輪55に装着された際、鏡面仕上げされた内側面55d、移行部55c、および、外周面55eの表面の算術平均粗さを、例えば、0.30μmRa、0.15μmRa、0.02μmRaとした場合に、サイドリップ21、中間リップ22、および、グリースリップ23がハブ輪55と接触したときの摺動抵抗を測定した。
ハブベアリング50のハブ輪55の摺動抵抗を測定する際の測定条件は、以下に示される。
運転パターン:10rpm×10min⇒1000rpm×60min/サイクル
サイクル数:10サイクル
雰囲気温度:30℃
ベアリングの内圧力設定:53kPa封入
使用する実機軸 軸No.1: 現行のハブ輪55(リード目の方向性有り)
軸No.2: 加工条件変更+砥石変更無し
軸No.3: 加工条件変更無し+砥石変更有り(砥石の目が更に細かい)
ここで、運転パターンとは、当初、ハブ輪55を10rpmで10分間だけ回転させた後、ハブ輪55を1000rpmで60分間回転させることを1サイクルとしたパターンのことである。サイクル数とは、上述の運転パターンを連続して行うときの回数である。雰囲気温度とは、ハブベアリング50が置かれる雰囲気の周辺温度である。ベアリングの内圧力とは、ハブベアリング50の貫通孔57内にグリースを封入するときの封入圧力である。
軸No.1は、現行のハブ輪55の表面粗さが0.30μmRaでリード目の方向性が有るものである。軸No.2は、砥石を変更することは無いが加工条件を変更してハブ輪55の表面粗さを0.15μmRaとしたものであって、リード目の方向性は軸No.1とは異なるものである。軸No.3は、目の更に細かい砥石を使用するが加工条件については変更することなくハブ輪55の表面粗さを0.02μmRaとしたものであって、リード目の方向性は軸No.1と同じである。
なお、この測定条件においては、あくまで、ハブ輪55の算術平均粗さを0.30μmRa、0.15μmRa、0.02μmRaとしただけであり、上述したように、リップ間空間Sのリップ間空間断面積Aを3.5mm2以上としておらず、サイドリップ21、中間リップ22、及びグリースリップ23の内周側面21a〜23aに梨地処理が施されておらず、かつ、従来のようなウレア系の増ちょう剤を含むグリースを使用している。すなわち、従来の密封装置と比較して、測定対象の密封装置1は、軸No.1〜軸No.3のハブ輪55の算術平均粗さを0.30μmRa、0.15μmRa、0.02μmRa(鏡面仕上げ)としただけである。
このような測定条件において、軸No.1〜軸No.3について摺動抵抗を測定した結果を図8および図9に示す。図8は、軸No.1〜軸No.3のハブ輪55に対するサイクル数、および、1サイクル目のときの摺動抵抗実測値を基準としたときに2サイクル目から10サイクル目までの摺動抵抗実測値のトルク相対値、について記載した表である。図9は、図8の表を視覚化したトルク相対値の変化を示すグラフである。
ハブ輪55の算術平均粗さが0.30μmRaの軸No.1(×で示される)、ハブ輪55の算術平均粗さが0.15μmRaの軸No.2(▲で示される)について摺動抵抗を測定した結果のトルク相対値としては、1サイクル目から次第にトルク相対値が上昇することが判明した。一方、ハブ輪55の算術平均粗さが0.02μmRaの軸No.3(●で示される)について摺動抵抗を測定した結果のトルク相対値としては、1サイクル目から10サイクル目までトルク相対値が1近傍の値を示し、終始増大することなく一定で安定していることが判明した。
したがって、ハブ輪55の表面の算術平均粗さが特に0.1μmRaを超えるような場合、サイドリップ21、中間リップ22、および、グリースリップ23がハブ輪55と接触したときの摺動抵抗は増大する傾向にあると考えられる。一方、ハブ輪55の表面の算術平均粗さが0.1μm以下であれば、サイドリップ21、中間リップ22、および、グリースリップ23がハブ輪55と接触したときの摺動抵抗の上昇を抑制して安定させることができると考えられる。
次に、このような構成の密封装置1がハブベアリング50のハブ輪55に装着された際、リップ間空間Sを形成するサイドリップ21の内周側面21aに塗布されるグリースGの塗布量と、リップ間空間Rを形成する中間リップ22の内周側面22aおよびダストリップ23の内周側面23aの双方に塗布されるグリースGの塗布量とをそれぞれ変更した場合に、サイドリップ21、中間リップ22、および、グリースリップ23がハブ輪55と接触したときの摺動抵抗を測定した。
ハブベアリング50のハブ輪55の摺動抵抗を測定する際の測定条件は、以下に示される。
運転パターン:10rpm×10min⇒1000rpm×60min/サイクル
サイクル数:10サイクル
雰囲気温度:30℃
ベアリングの内圧力設定:22kPa封入
使用する実機のハブベアリング : ハブ輪の軸加工目にリード目の方向性有り
ここで、運転パターンとは、当初、ハブ輪55を10rpmで10分間だけ回転させた後、ハブ輪55を1000rpmで60分間回転させることを1サイクルとしたパターンのことである。サイクル数とは、上述の運転パターンを連続して行うときの回数である。雰囲気温度とは、ハブベアリング50が置かれる雰囲気の周辺温度である。ベアリングの内圧力とは、ハブベアリング50の貫通孔57内にグリースを封入するときの封入圧力である。ハブ輪の軸加工目にリード目の方向性有りとは、ハブ輪55の表面には加工によるリード目が残存していることを意味する。
図10に示すように、実施例1では、リップ間空間Sを形成するサイドリップ21の内周側面21aに塗布されるグリースGの塗布量を0.02g、リップ間空間Rを形成する中間リップ22の内周側面22a、ダストリップ23の内周側面23aに塗布されるグリースGの塗布量を0.03gの合計0.05gだけ塗布した場合のハブ輪55との摺動抵抗を測定した。この場合、サイドリップ21と対応したリップ間空間Sの空間体積V1に対するグリースGの塗布量0.02gの体積比は2%であり、中間リップ22およびダストリップ23と対応したリップ間空間Rの空間体積V2に対するグリースGの塗布量0.03gの体積比は6%である。
また、図10に示すように、実施例2では、リップ間空間Sを形成するサイドリップ21の内周側面21aに塗布されるグリースGの塗布量を0.15g、リップ間空間Rを形成する中間リップ22の内周側面22a、ダストリップ23の内周側面23aに塗布されるグリースGの塗布量を0.13gの合計0.28gだけ塗布した場合のハブ輪55との摺動抵抗を測定した。この場合、サイドリップ21と対応したリップ間空間Sの空間体積V1に対するグリースGの塗布量0.15gの体積比は16%であり、中間リップ22およびダストリップ23と対応したリップ間空間Rの空間体積V2に対するグリースGの塗布量0.13gの体積比は25%である。
さらに、図10に示すように、実施例3では、リップ間空間Sを形成するサイドリップ21の内周側面21aに塗布されるグリースGの塗布量を0.2g、リップ間空間Rを形成する中間リップ22の内周側面22a、ダストリップ23の内周側面23aに塗布されるグリースGの塗布量を0.13gの合計0.33gだけ塗布した場合のハブ輪55との摺動抵抗を測定した。この場合、サイドリップ21と対応したリップ間空間Sの空間体積V1に対するグリースGの塗布量0.2gの体積比は21%であり、中間リップ22およびダストリップ23と対応したリップ間空間Rの空間体積V2に対するグリースGの塗布量0.13gの体積比は25%である。
さらに、図10に示すように、実施例4では、リップ間空間Sを形成するサイドリップ21の内周側面21aに塗布されるグリースGの塗布量を0.2g、リップ間空間Rを形成する中間リップ22の内周側面22a、ダストリップ23の内周側面23aに塗布されるグリースGの塗布量を0.17gの合計0.37gだけ塗布した場合のハブ輪55との摺動抵抗を測定した。この場合、サイドリップ21と対応したリップ間空間Sの空間体積V1に対するグリースGの塗布量0.2gの体積比は21%であり、中間リップ22およびダストリップ23と対応したリップ間空間Rの空間体積V2に対するグリースGの塗布量0.17gの体積比は33%である。
一方、図11に示すように、比較例1では、リップ間空間Sを形成するサイドリップ21の内周側面21aに塗布されるグリースGの塗布量を0.22g、リップ間空間Rを形成する中間リップ22の内周側面22a、ダストリップ23の内周側面23aに塗布されるグリースGの塗布量を0.19gの合計0.41g塗布した場合のハブ輪55との摺動抵抗を測定した。この場合、サイドリップ21と対応したリップ間空間Sの空間体積V1に対するグリースGの塗布量0.22gの体積比は23%であり、中間リップ22およびダストリップ23と対応したリップ間空間Rの空間体積V2に対するグリースGの塗布量0.19gの体積比は37%である。
また、図11に示すように、比較例2では、リップ間空間Sを形成するサイドリップ21の内周側面21aに塗布されるグリースGの塗布量を0.4g、リップ間空間Rを形成する中間リップ22の内周側面22a、ダストリップ23の内周側面23aに塗布されるグリースGの塗布量を0.32gの合計0.72g塗布した場合のハブ輪55との摺動抵抗を測定した。この場合、サイドリップ21と対応したリップ間空間Sの空間体積V1に対するグリースGの塗布量0.4gの体積比は42%であり、中間リップ22およびダストリップ23と対応したリップ間空間Rの空間体積V2に対するグリースGの塗布量0.32gの体積比は63%である。
この結果、サイドリップ21、中間リップ22、および、グリースリップ23とハブ輪55との摺動抵抗のトルク相対値は、図12に示すように、実施例1乃至4においては、1サイクルから10サイクルまでの間、トルク相対値の上昇や乱れがなく、トルク相対値が1〜1.5の範囲で安定していることが判明した。一方、比較例1、2においては、トルク相対値の上昇が見受けられ、かつ、トルク相対値が1〜2.7程度の広範囲にわたって乱れていることが判明した。ここで、トルク相対値とは、1サイクル目のときの1000rpmにおける摺動抵抗実測値の平均値を基準としたときに2サイクル目から10サイクル目までの摺動抵抗実測値の相対値のことをいう。
したがって、リップ間空間Sを形成するサイドリップ21の内周側面21aに塗布されるグリースGの塗布量は、実施例1乃至4および比較例1、2に基づいて、リップ間空間Sの空間体積V1に対し体積比21%以下であればよいことが分かる。また、リップ間空間Rを形成する中間リップ22の内周側面22aおよびダストリップ23の内周側面23aに塗布されるグリースGの塗布量は、実施例1乃至4および比較例1、2に基づいて、リップ間空間Rの空間体積V2に対し体積比33パーセント以下であればよいことが分かる。
<他の実施の形態>
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に係る密封装置1に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、上記実施の形態における各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。なお、本実施の形態に係る密封装置1は、摺動抵抗の上昇を抑制する特徴については、多様な任意の組み合わせが可能である。
また、本実施の形態に係る密封装置1は、ハブベアリング50に適用されるものとしたが、本発明に係る密封装置の適用対象はこれに限られるものではなく、他の車両や汎用機械、産業機械等、本発明の奏する効果を利用し得るすべての構成に対して、本発明は適用可能である。