JP6926772B2 - 鋼板 - Google Patents

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Description

本発明は、鋼板および鋼板の製造方法に関する。
鋼板の用途として、例えば、船舶、高層建築物、その他の建築物、橋梁、海洋構造物、LNG貯蔵タンク、その他の大型タンク、ラインパイプ等が挙げられる。近年、建築構造物の高層化、及びコンテナ船の積載重量増大のため、溶接構造物の大型化が進められている。これに伴い、鋼板の板厚の厚肉化および高強度化が求められている。また、溶接部についても、より一層の安全性および信頼性の確保が必要とされ、溶接熱影響部(以下、「HAZ」と称する場合がある。)の靱性(以下、「溶接熱影響部の靱性」を「HAZ靱性」と称する場合がある。)の向上が課題になっている。さらに、万が一、脆性き裂が溶接継手箇所に発生した場合でも、脆性き裂を母材で停止させる性能(以下、「アレスト性」と称する場合がある。)が鋼板には求められる。
従来、高張力鋼板のHAZ靱性に対して、オーステナイト(γ)の結晶粒径、変態組織、HAZの硬さ、粗大硬質相等が大きな影響を及ぼすことが知られており、種々の対策が提案されている。このうち、HAZ靱性の向上には、HAZ組織の微細化が最も有効であり、介在物を活用する方法が数多く提案されている。
介在物を活用したHAZ組織の微細化には、例えば、結晶粒の成長を抑制するピン止め効果と、新たにフェライトを生成させる粒内変態とがある。粒内変態は、溶接時の熱影響によって粗大化したオーステナイト粒内に、介在物を核としてフェライトを生成させて組織を微細化する方法である。これまでに、TiNなどの窒化物、MnSなどの硫化物に加えて、高温でも化学的に安定な酸化物などをフェライト生成核として利用する技術が提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
特許文献1に開示されている技術は、実質的にAlを含有しない鋼板に、粒内変態の核(以下、「IGF核」と称する場合がある。)となるTiとZrとの複合酸化物を微細分散させることによって、溶接熱影響部の組織を微細化する方法を提案するものである。特許文献1に開示される方法では、IGF核として有効に働くTiとZrとの複合酸化物を生成させるために、TiとZrとを同時に添加し、かつTi、ZrおよびO量のバランスを最適化している。
特許文献2に開示されている技術は、実質的にAlを含有しない鋼板に、REM、ZrおよびTiを添加することで、REMとZrを含有する介在物によってHAZ靱性を向上させる方法を提案するものである。
特許文献3に開示されている技術は、実質的にAlを含有しない鋼板に、Tiを主成分とする酸化物とTiN、MnS及びBNの複合析出物を分散させる方法を提案するものである。これは、Ti酸化物による粒内変態に加え、Bによって粒界からのフェライトの生成を抑制し、HAZ靱性を向上させるものである。
特許文献4に開示されている技術は、TiNによるピン止め効果とBNによる粒内変態とによってHAZを微細化し、Bによる焼入れ性の向上を利用してHAZの軟化を抑制し、靱性を向上させる方法を提案するものである。
特開平01−159356号公報 特開2008−291347号公報 特開平03−162522号公報 特開2007−177327号公報
上記の特許文献1〜4に開示される技術について、本発明者らが検討したところ、次のような知見を得た。
特許文献1に開示される技術を検討した結果、TiとZrとの複合酸化物を生成させるために、TiとZrとを同時に添加し、かつTi量、Zr量およびO量のバランスを最適化しただけでは、HAZ靱性をさらに向上させることは不十分であることが分かった。
特許文献2に開示される技術を検討した結果、REMはAlとZrよりも強脱酸であり、ZrおよびTiの酸化物生成を阻害することが分かった。
特許文献3に開示される技術を検討した結果、Alを含有しない溶鋼中にTiを添加するだけでは、鋼板のTi酸化物の個数を確保することは困難であることが分かった。
特許文献4に開示される技術を検討した結果、大入熱溶接では、溶接金属に隣接した部位が高温に長時間晒されるため、ピン止め効果を利用したTiNが固溶消失してしまい、HAZ靱性の劣化が抑制されないことが分かった。
ところで、溶接構造物の建造費全体に占める溶接施工費用は大きく、この費用を削減するためには高能率の溶接を行うことが求められる。具体的には、溶接を大入熱で行い、溶接パス数を減らすことが有効である。しかし、大入熱の溶接を行った場合、鋼板のHAZの組織が粗大化し、靱性の劣化が避けられない。
従来、HAZ靱性の改善のために、鋼板の介在物などの分散粒子が利用されている。しかし、溶接の効率を高めるために、入熱40kJ/mmを超える大入熱溶接を行った際に、鋼板のHAZ靱性を安定して向上させることは困難であった。この原因として、例えば、酸化物等の介在物が溶鋼中で凝集し易く、鋼板に均一に分散し難いこと、及び、大入熱溶接時に高温で長時間晒されることにより介在物が変質し、粒内変態の核として作用し易いように制御することが難しいこと、などが考えられる。
上記のように、大入熱溶接時において、HAZ靱性を向上させる技術は確立されていなかったのが実情である。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、大入熱溶接を行った際のHAZにおいて優れた靱性を有し、かつ、HAZと溶接金属部以外の部分である母材において優れた機械的特性を有する鋼板の提供を課題とするものである。
本発明は、HAZの組織を微細化することができる粒内フェライト生成核として、粒内変態核となる酸化物及び固溶Bに着目して鋭意検討を行った結果、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成させた。
本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)
質量%で、
C :0.01%〜0.20%、
Si:0.02%〜0.50%、
Mn:0.30%〜2.50%、
Ti:0.003%〜0.024%、
B :0.0005%〜0.0050%、
N :0.0010%〜0.0090%、
O :0.0010%〜0.0050%、
Zr:0.0005%〜0.0100%、
Sol.Zr:0.0020%以下、
Cu:0.0%〜1.5%、
Ni:0.0%〜3.0%、
Cr:0.0%〜1.0%、
Mo:0.00%〜1.00%、
Nb:0.000%〜0.035%
V :0.00%〜0.10%
P :0.050%以下、
S :0.0080%以下、
Al:0.0050%以下、
Mg:0.0000%〜0.0005%、
Ca+REMの含有量の合計が0.0005%以下、
及び、残部として、Fe及び不純物からなり、
下記式(1)で表されるBが、0.0005%〜0.0030%であり、
下記式(3)で表される炭素当量Ceq.が、0.35%〜0.50%であり、
圧延方向に垂直な断面の板厚方向の1/4位置の電子線後方散乱回折法(EBSD)を用いた結晶方位解析において、有効結晶粒径が30μm以下であり、
板厚方向の1/4位置のミクロ組織が面積率にして、フェライト分率が20%〜70%、ベイナイト分率が30%〜75%、およびパーライト分率が0%〜5%であって、フェライト分率とベイナイト分率とパーライト分率との合計が100%であり、
下記式(4)で表されるアレスト性指標Arrが95以下であり、
酸化物中のO量、Ti量、Zr量、およびAl量の測定値から求められる、Ti、ZrおよびAlの元素による単独酸化物と仮定したときの前記Ti、前記Zr、および前記Alの各元素の酸化物の質量換算値の合計に対する、Al酸化物の質量換算値の含有割合が20%以下、および前記各元素の酸化物の質量換算値の合計に対する、Zr酸化物とTi酸化物の質量換算値の含有割合の合計が80%以上を満足する酸化物であって、円相当径が0.5μm〜10μmの個数密度が10個/mm以上の酸化物を含有する鋼板。
Figure 0006926772
(ただし、式(1)中、BasBNは式(2)で表わされる。また、Bは、鋼板に含まれる前記B元素の含有量(質量%)であり0≦B≦Bの関係を満たす。)
Figure 0006926772
(ただし、式(2)中、0≦BasBN≦Bの関係を満たし、N、Ti、O、及びAlは、鋼板に含まれる前記N、Ti、O、及びAlの各元素の含有量(質量%)であり、Insol.Zrは、酸不溶性Zrの含有量(質量%)であることを表す。)
Ceq.=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・・(3)
(ただし、式(3)中のC、Mn、Cu、Ni、Cr、MoおよびVは、鋼板に含まれる各元素の含有量(質量%)を表す。)
Arr=0.31×t+0.11×Deff(表)+1.99×Deff(t/4)
+0.032×Deff(表)×fα(表)
+0.007×Deff(t/4)×fα(t/4)・・・(4)
(ただし、式(4)中、tは板厚[mm]であり、Deff(表)は圧延方向に垂直な断面の鋼板表面から板厚方向の5mmの領域の有効結晶粒径[μm]であり、fα(表)は前記鋼板表面から板厚方向の5mmの領域のフェライト分率であり、Deff(t/4)は圧延方向に垂直な断面の鋼板表面から板厚方向の1/4の位置の有効結晶粒径[μm]であり、fα(t/4)は前記鋼板表面から板厚方向の1/4の位置の領域のフェライト分率であることを表す。)
(2)
板厚が55mm以上であり、溶接熱影響部および溶接金属部以外の部分である、母材の降伏応力が460MPa以上であり、かつアレスト靱性値Kcaが6000N/mm1.5になる温度が−10℃以下である(1)に記載の鋼板。
(3)
板厚が55mm〜80mmであり、入熱40kJ/mm〜60kJ/mmで大入熱溶接を行ったときに発生する溶接熱影響部試験温度−40℃で行うシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーが、板厚方向で、板厚の表側、板厚中心の位置(t/2)、及び板厚の裏側のすべての箇所において100J以上であり、かつ、溶接熱影響部および溶接金属部以外の部分である、母材の脆性延性遷移温度が−40℃以下である(1)又は(2)に記載の鋼板。
本実施形態によれば、大入熱溶接を行った際のHAZにおいて優れた靱性を有し、かつ、HAZと溶接金属部以外の部分である母材において優れた機械的特性を有する鋼板を提供できる。
本実施形態の鋼板を走査型電子顕微鏡により撮影した一例を表す写真である。 本実施形態の鋼板におけるアレスト性指標とアレスト靱性値Kcaが6000N/mm1.5になる温度との関係を表すグラフである。
以下、本発明の好ましい実施形態の一例について詳細に説明する。
なお、本明細書中において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
従来、Ti酸化物およびB窒化物が溶接金属およびHAZに分散した場合、粒内フェライトが生成し、その組織が微細化されることが知られている。また、従来、鋼板の旧オーステナイト粒界に偏析する固溶Bは、溶接時に粗大な粒界フェライトの生成を抑制し、HAZ靱性を改善することは知られている。
しかし、Zrは一般的に鋼板に添加される元素ではなく、Zrが添加された鋼板として、過去に行われた研究は非常に限られたものであった。これまでに、Zrを含有する酸化物(特にZrとTiとを含有する酸化物)を鋼板に分散させた場合、固溶BがHAZ靱性向上に及ぼす効果について検討されたことはない。
本発明者らは、HAZの組織を微細化することができる粒内フェライト生成核となる酸化物、固溶B、及びB窒化物に着目して鋭意検討を行った結果、主として下記の(A)酸化物の組成と個数密度、(B)固溶Zr、(C)固溶B、(D)脱酸方法、(E)Al、及び(F)ミクロ組織について、新知見を得た。
以下、これらの新知見について説明する。
(A):酸化物の組成と個数密度
本発明者らは、Zrを添加した鋼板を実際に製造し、粒内フェライトの核となる酸化物について、個々の酸化物毎に詳細に調査し、HAZ靱性の向上に及ぼす効果について調査検討を行った。
その結果、Ti酸化物、Zr酸化物、及びAl酸化物の質量換算値の合計に対して、Al酸化物の質量換算値の含有割合が20%以下(好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下)であり、かつ、Zr酸化物とTi酸化物との質量換算値の含有割合の合計が80%以上(好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上)を満足する酸化物であって、この酸化物の円相当径(円形と仮定したときの円の直径に相当するもの)が、0.5μm〜10μmである酸化物を特定の個数密度で含有すると、組織の微細化を通じてHAZ靱性を改善することが明らかとなった。
Al酸化物の質量換算値の含有割合が20%を超える場合、又はZr酸化物とTi酸化物との質量換算値の含有割合の合計が80%未満の場合、粒内フェライトの生成核とならなかった。なお、Zr酸化物とTi酸化物との質量換算値の含有割合の合計には、TiとZrとの複合酸化物も含まれる。
また、円相当径が0.5μmより小さいと、粒内フェライトの生成核(IGF核)としての機能が低下し、10.0μmより大きいと、粗大な酸化物自体が破壊の起点として作用する可能性が高まる。そして、円相当径が0.5μm〜10μmである前記の組成を有する酸化物の分散個数(個数密度)が、10個/mm以上(好ましくは20個/mm以上、より好ましくは30個/mm以上、さらに好ましくは50個/mm以上、最も好ましくは60個/mm以上)の場合には、Zrを含まない鋼板と比較して、HAZ組織の微細化によりHAZ靱性を改善することが明らかとなった。
ここで、酸化物の観察方法について説明する。
本実施形態に係る鋼板に含まれるAl、Ti、及びZrのいずれか(TiとZrとは両方を含有する場合も含む)を含有する酸化物の円相当径、個数密度、及び組成は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた解析により決定する。具体的には、鋼板の幅中央、板厚方向のt/4の位置で、板厚方向12mm×板幅方向12mm×圧延方向70mmの熱サイクル試験片を採取する。そして、試験片を1400℃で23秒間加熱保持した後、冷速1℃/secの条件で冷却した鋼板の圧延方向と垂直な方向の断面を、SEM/EDX(走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法)解析で観察し、観察視野内に認められる介在物を定量分析して測定する。SEM/EDX解析は、例えば、加速電圧15kV、電流を89μA〜91μAとし、観察面積にして25mm(5mm×5mm)以上(好ましくは、観察面積にして100mm(10mm×10mm))とする。一例として、図1に、SEMによる写真を示す。11は地鉄、12は介在物を表す。図1に示す写真のように、地鉄11(背景)に対して色調の明暗差(コントラスト)により粒状に見える介在物12について、これらの介在物毎に介在物の全体の組成を定量分析する。
分析対象とする介在物の大きさは、円相当径(直径)で0.5μm〜10μmとして、分析個数は少なくとも500個以上を分析する。
分析対象元素は、O、Ti、Zr、及びAlとし、既知の物質を用いて各元素のX線強度と元素濃度の関係をあらかじめ検量線として求めておく。そして、分析対象とする介在物から得られたX線強度と前記検量線から分析対象とする介在物に含まれる元素濃度を定量する。介在物のうち、酸化物と判断するものは、酸素のピークが明瞭に認められるものとし、その下限は測定条件、測定装置に依存する。
例えば、SEM/EDX解析を、加速電圧15kV、電流を89μA〜91μAで測定した場合について述べる。O含有量、Ti含有量、Zr含有量、及びAl含有量の質量%の合計を求めて、その合計に対して、O含有量が1.0質量%以上である場合、この介在物を酸化物とする。そして、この酸化物について、下記式(5)〜式(7)を用いて、各元素の質量%から、これらの元素による単独酸化物と仮定したときの各元素の酸化物の質量換算値を算出する。
Ti=Ti×3.003・・・(5)
ZrO=Zr×1.351・・・(6)
Al=Al×3.779・・・(7)
ただし、式(5)〜式(7)中、Ti、Zr、及びAlは、SEM/EDX解析により測定された各元素の含有量(質量%)である。なお、これらのSEM/EDX解析により測定された各元素の含有量を合計すると、100%となる。
式(5)〜式(7)から求めたTi、ZrO、及びAlの質量換算値の合計を求め、その合計に対する各元素の酸化物の割合を、酸化物に含まれる各元素の酸化物の含有割合(%)とする。
Ti、ZrO、及びAlの含有割合は、下記式(8)〜式(10)で表わされる。
Tiの含有割合(%)=Ti/(Ti+ZrO+Al)・・・(8)
ZrOの含有割合(%)=ZrO/(Ti+ZrO+Al)・・・(9)
Alの含有割合(%)=Al/(Ti+ZrO+Al)・・・(10)
(B):固溶Zr(Sol.Zr)
HAZ組織の微細化に寄与するZrを含有する酸化物の条件としては、酸化物中にZr酸化物とTi酸化物との合計が一定量以上含有する必要がある。一方、酸化物を形成せず鋼板に残存するZr(固溶Zr(固溶Zrを「Sol.Zr」と表記される)は、HAZのみならず鋼板自体の靱性を著しく劣化させるため、鋼板におけるSol.Zrを低減する必要がある。Sol.Zrが少ないほど靱性は改善する傾向にあり、HAZ靱性に優れる鋼板を得るためには、Sol.Zrは0.0020質量%以下に制限することが重要である。より一層のHAZ靱性の改善のためには0.0010質量%以下(より好ましくは0.0005質量%以下)に制限することが好ましい。ここで、Sol.Zrは酸可溶性Zrであって、電解抽出残渣分析法などで測定可能な、鋼板に固溶しているZrに相当する。なお、酸不溶性Zrは、Insol.Zr(式(2)中のInsol.Zr)であり、鋼板中のZr量は、酸可溶性Zrと酸不溶性Zrの合計量である。
(C):固溶B(B
鋼板の旧オーステナイト粒界に偏析する固溶Bは、溶接時に粗大な粒界フェライトの生成を抑制し、HAZ靱性を改善する。酸化物中にZr酸化物とTi酸化物との合計が一定量以上含有させた鋼板では、固溶Bが増加することを見出した。酸化物中にZr酸化物とTi酸化物との合計が一定量以上含有させた鋼板における固溶Bの質量%(B)は、鋼板に含まれるBの含有量からB窒化物となるBの質量%を引くことで求められる。すなわち、Bは下記式(1)で表される。この値が0.0005%以上(好ましくは0.0010%以上)のとき、固溶BによるHAZ靱性改善効果が得られる。Bが過剰になると、HAZ靱性が劣化する懸念がある。そのため、Bの上限は0.0030%以下とする。好ましくは0.0025%以下、より好ましくは0.0020%以下である。
Figure 0006926772
ただし、式(1)中のBは鋼板に含まれるBの含有量(質量%)であり、BasBNはB窒化物となるBの質量%である。また、Bは、0≦B≦Bの関係を満たす。
さらに、B<0になる場合は、B=0とし、B>Bになる場合はB=Bとする。つまり、BasBNの値が負の値となる場合には、B=Bとし、BasBNの値がBよりも大きくなる場合には、B=0とする。
鋼板ではB以外にもTiが窒化物形成元素として作用する。ただし、Tiは酸化物も形成する。したがって、BasBNを求めるためには、酸化物、窒化物を含めた介在物の生成を考慮して求める必要がある。
本実施形態に係る鋼板はAlを含有させないことが好ましい。これは、Alは、鋼板において強脱酸元素として作用するため、多量に鋼板に含有すると、ZrおよびTiの酸化物生成を阻害するからである。しかしながら、実製造においては、例えば、Alが不純物として混入する場合、及び溶鋼温度が低くなりすぎた場合にAl昇熱をせざるを得ず、鋼板にAlが含有される場合がある。
鋼板にAlが含有されることも考慮すると、酸化物と窒化物の生成工程は以下であると考えられる。酸化物は、脱酸力が強い元素から形成されるので、まず、溶鋼中において、Alよりも脱酸力が強いZrが優先的に酸化され、Zr酸化物が形成される。次に、余った酸素とAlが結合してAl酸化物が形成され、さらに余った酸素がTiと結合してTi酸化物が形成されると考えられる。そして、酸化物を生成せずに余ったTiが窒素と結合してTi窒化物を形成し、更に余った窒素がBと結合してB窒化物を生成すると考えられる。
ZrはZrO、AlはAl、TiはTi及びTiN、BはBNを形成すると考えられる。このため、B窒化物となるBの質量%(BasBN)は、これらの原子量又は分子量を基に、下記式(2)を用いて求められる。
Figure 0006926772
ただし、式(2)中のN、Ti、O、及びAlは、鋼板に含まれるN、Ti、O、及びAlの各元素の含有量(質量%)であり、Insol.Zrは、酸不溶性Zrの含有量(質量%)である。BasBNは、式(1)中のBと0≦BasBN≦Bの関係を満たす。
また、BasBN<0になる場合は、BasBN=0とし、B>Bになる場合はBasBN=Bとする。つまり、BasBNの値が負の値となる場合には、BasBN=0とし、BasBNの値が式(1)中のBよりも大きくなる場合には、BasBN=Bとする。
なお、Sol.Zrは、酸可溶性Zrであって、電解抽出残渣分析法などで測定する鋼板に固溶しているZr含有量(質量%)である。Insol.Zrは、酸不溶性Zrの含有量(質量%)であり、Zr含有量からSol.Zr含有量を引いたものである。また、0≦Insol.Zr≦Zrを満たす。
(D):脱酸方法
酸化物粒子は溶鋼を脱酸する際に生成する。これを一次酸化物と称する。さらに、鋳造、及び凝固中に溶鋼温度の低下と共にTi酸化物、Zr酸化物、およびTiとZrとを含有する酸化物を生成する。これを二次酸化物と称する。本実施形態では、一次酸化物と二次酸化物のどちらを用いてもかまわない。ただし、鋳造、及び凝固中に溶鋼温度の低下と共に生成する酸化物の方が、溶鋼温度が高温時に生成する一次酸化物よりも微細な粒子が得られるので、二次酸化物を用いることが好ましい。
さらに、このような鋳片の製造条件を詳細に検討した。
鋳片の製造過程:転炉→取鍋→二次精錬→連続鋳造の過程において、鋳片に残留する酸化物系介在物は、特に、二次精錬における脱酸開始前の溶鋼中の溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%(好ましい上限は0.0040%以下、より好ましくは0.0030%以下)に制御し、かつ脱酸元素であるTiとZrとを添加することで、酸化物の平均粒径が顕著に微細化し、酸化物の個数密度が増大することを知見した。
脱酸元素であるTiとZrとの添加順序は、Ti、Zrの順、Zr、Tiの順、又はTi、Zrの同時添加のいずれでもよい。TiとZrとを、Ti、Zrの順で、別々に添加する場合、溶鋼中の溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%(好ましい上限は0.0040%以下、より好ましくは0.0030%以下)に制御した後、Tiを添加し、該溶鋼中の溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%(好ましい上限は0.0040%以下、より好ましくは0.0030%以下、さらに好ましくは0.0020%以下)にした後、Zrを添加することが好ましい。Zr、Tiの順で添加する場合も、TiとZrを別々に添加する場合と同様の溶存酸素量に制御することが好ましい。
この工程により、最終的に鋼板中に残留する酸化物粒子は、Al酸化物の質量換算値の割合が20%以下、Zr酸化物とTi酸化物との質量換算値の割合の合計が80%以上で、これらAl酸化物、及びZr酸化物とTi酸化物との酸化物粒子の円相当径(直径)が、0.5μm〜10μmであるものの分散個数は、10個/mm以上になることを知見した。
ここで、二次精錬は、転炉精錬後に、真空精錬装置または不活性ガス中での精錬装置によって行われる工程を示す。ZrとTiとは単独金属または合金のいずれの形態で添加してもよい。
(E):Al
Alは、鋼板において強脱酸元素として作用するため、多量に鋼板に含有すると、ZrおよびTiの酸化物生成を阻害する。溶鋼中の溶存酸素量を確保し、ZrとTiとを含有する複合酸化物を鋼板に生成させるため、Alの含有量は0.0050質量%以下に制限することが重要である。
(F):ミクロ組織
本実施形態はHAZ靱性に優れることに加え、母材靱性、母材強度、およびアレスト性に優れた鋼板を対象としている。
ここで、本明細書中において母材と称する場合、母材は、HAZと溶接金属部以外の部分を示す。
母材組織は、フェライト、ベイナイトおよびパーライトの混合組織、又はフェライトおよびベイナイトの混合組織である。ところが、フェライトとベイナイトとが混在する組織において、通常の光学顕微鏡による組織観察(以下、「光顕観察」と称する場合がある。)のみでは、基本組織単位を客観的に定義し、そのサイズを測定することは非常に困難である。そこで本発明者らは、光顕観察に加えて、電子線後方散乱回折法(EBSD:Electron Back Scatter Diffraction pattern)を用いた結晶方位解析を行い、ミクロ組織を解析した。
より詳細には、鋼板表面から板厚方向の5mm部(以下、「鋼板表面5mm部」と称する場合がある。)と、鋼板表面から板厚方向の板厚1/4部(以下、「t/4部」と称する場合がある。)とから組織観察用の試料を採取し、その主圧延方向に対して垂直な方向(幅方向)の断面を鏡面研磨する。そして、t/4部の試料について、ナイタール腐食を実施し、光学顕微鏡を用いて500倍で4視野撮影し、各視野のパーライト分率を測定し、その平均値をt/4部のパーライト分率とした。
さらに、鋼板表面5mm部、及びt/4部のそれぞれの部位毎に、主圧延方向に対して垂直な方向(幅方向)の断面に対し、EBSD法により、500μm×500μmの領域を1μmピッチで測定した。隣接粒との結晶方位差が15°以上の境界を結晶粒界と定義し、結晶粒界に囲まれた領域の円相当径(直径)の加重平均を、それぞれの部位の有効結晶粒径とした。
フェライトは、先のEBSD法により測定した測定点同士が第一近接する場合のKAM(Kernel Average Misorientation)値が、1°以下である部分とした。このフェライトの面積分率を、鋼板表面5mm部、t/4部のそれぞれの部位毎に対して求めた。
t/4部のベイナイト分率は、t/4部のパーライト分率とt/4部のフェライト分率以外との残部とした。つまり、t/4部のベイナイト分率と、t/4部のパーライト分率と、t/4部のフェライト分率との合計は、面積率で100%である。
なお、加重平均は以下の方法で求めた。1つの視野にN個の結晶粒があるとし、各結晶粒の面積がA、A、A、・・・A、・・・Aがあり、各粒の円相当径(直径)がD、D、D、・・・D、・・・Dであるとする。その場合、有効結晶粒径(Deff)は下記式(11)により求められる。
Figure 0006926772
t/4部の母材靱性とミクロ組織との関係を調査した結果、t/4部の有効結晶粒径が微細化するに従って、母材の脆性延性遷移温度(以下、「vTrs」と称する場合がある。)は低温化した。有効結晶粒径が30μm以下(好ましくは20μm以下、より好ましくは25μm以下、さらに好ましくは20μm以下、最も好ましくは15μm以下)の場合に、vTrsが−40℃以下になることが明らかになった。有効結晶粒径が30μm超、及びt/4部のパーライト分率が5%超の少なくとも一方の場合には、vTrsは−40℃を超え、母材靱性を確保することが出来なかった。母材靱性を確保するために、パーライト分率は低いほうが好ましく、その分率は0%でもよい。
なお、t/4部の有効結晶粒径は、本実施形態では、1μm以上の有効結晶粒径を測定した。t/4部の有効結晶粒径は、小さければ小さいほうがよく、下限値としては、特に限定されないが、例えば、1μm以上(好ましくは5μm以上)が挙げられる。
母材強度とミクロ組織の関係を調査した結果、t/4部のフェライト分率が減少し、t/4部のベイナイト分率が増加するに伴い、t/4部の母材強度は向上した。面積%で、フェライト分率が70%以下(好ましくは65%以下、より好ましくは60%以下、さらに好ましくは55%以下、最も好ましくは50%以下)の場合に、母材の降伏応力が460MPa以上になることが明らかになった。フェライト分率が70%超では、母材強度を確保できなかった。母材の脆性延性遷移温度(vTrs)を−40℃以下とするためには、フェライト分率は、20%以上(好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上)であることが分かった。母材強度を確保するためには、ベイナイト分率は30%以上(好ましくは、35%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは45%以上)が必要であり、母材の脆性延性遷移温度(vTrs)を−40℃以下とするためには、ベイナイト分率は、75%以下(好ましくは70%以下、より好ましくは65%以下、さらに好ましくは60%以下)であることが分かった。
アレスト性とミクロ組織から計算されるアレスト性指標の関係を調査した結果を図2に示す。図2の中で、横軸は、下記式(4)によりミクロ組織と板厚により計算されるアレスト性指標Arrであり、縦軸は、アレスト靱性値Kcaが6000N/mm1.5になる温度(以下、「TKca6000」と称する場合がある。)である。図2の中で、アレスト性指標ArrとTKca6000を一次関数で近似した結果を点線で示す。図2で示すように、アレスト性指標ArrとTKca6000とは、強い相関があることが分かった。この一次近似曲線から、TKca6000を−10℃以下(例えば、−50℃〜−10℃)とするためには、Arrは95以下が必要であることが判明した。測定のバラつきを考慮すると、アレスト性指標Arrは、好ましくは88以下、より好ましくは85以下、さらに好ましくは80以下、最も好ましくは75以下である。アレスト性指標Arrの下限値は特に限定されないが、アレスト性を高めるための圧延時の圧延荷重の増加、生産性の低下等の製造負荷等を考慮すると、例えば、20以上(好ましくは40以上、より好ましくは60以上)が挙げられる。
Arr=0.31×t+0.11×Deff(表)+1.99×Deff(t/4)
+0.032×Deff(表)×fα(表)
+0.007×Deff(t/4)×fα(t/4)・・・(4)
ここで、式(4)中、Deff(表)、Deff(t/4)、fα(表)、及びfα(t/4)の表すものは、以下のとおりである。
Deff(表) :鋼板表面5mm部の有効結晶粒径(μm)
Deff(t/4) :鋼板の板厚1/4部の有効結晶粒径(μm)
fα(表) :鋼板表面5mm部のフェライト分率(%)
fα(t/4) :鋼板の板厚1/4部のフェライト分率(%)
これらの条件を満たす鋼板は、大入熱溶接継手において、HAZ組織の微細化を通じてHAZ靱性を改善させ、かつ母材の機械的特性に優れた鋼板となることが明らかになった。具体的には、母材の降伏応力が460MPa以上(例えば、460MPa〜600MPa)、かつ、TKca6000が−10℃以下(例えば、−50℃〜−10℃)の鋼板が得られる。
さらに、本実施形態の鋼板の化学組成の限定理由を述べる。
以下の説明において、各元素の説明における「%」は「質量%」を意味する。
(C:0.01%〜0.20%)
Cは、強度を確保するために必要な元素である。C量が0.01%未満では必要とする強度を確保することができない。しかし、C量が0.20%を超えると、母材、及びHAZ共に靱性を確保することが難しくなる。C量の好ましい下限は0.03%以上、より好ましくは0.05%以上である。C量の好ましい上限は0.15%以下、より好ましくは0.10%以下である。
(Si:0.02%〜0.50%)
Siは、鋼板の焼入れ性を高め、鋼板の強度上昇に寄与する。この効果を得るためには0.02%以上のSiを含有させる必要がある。好ましくはSi量を0.05%以上とする。一方で、Siは酸素との反応性も高く脱酸作用を有するため、ZrとTiを含有する複合酸化物の形成に影響を及ぼす。0.50%を超えてSiを含有させた場合、酸化物の組成が変化し、HAZ組織の微細化が達成されず、HAZ靱性の低下をもたらす。より好ましいSi量の上限は0.40%以下、更に好ましい上限は0.30%以下である。
(Mn:0.30%〜2.50%)
Mnは、鋼板の焼入れ性を高める効果があり、強度及び靱性の確保に有効な成分である。Mn量が0.30%未満では、焼入れ性の不足によって強度及び靱性が得られない。しかし、2.50%を超えてMnを含有させると、凝固時のMn偏析により中心偏析部の靱性を低下させるとともに、焼入れ性が高まりすぎて母材、HAZともに硬さの増大を招き靱性が劣化する。Mn量の好ましい下限は0.60%以上、好ましい上限は2.00%以下である。
(Ti:0.003%〜0.024%)
Tiは、Tiの単独酸化物だけでなく、Zrと共に複合酸化物を形成する。そして、特に、この複合酸化物がHAZにおける粒内フェライト生成核として機能して、HAZ組織の微細化に寄与する。この効果を得るためには、Tiを0.003%以上含有させる必要がある。一方で、Tiは窒化物を生成するが、Ti窒化物が多量に生成するとB窒化物の生成量が抑制され、本実施形態で所望する効果が得られなくなる。更に、過剰なTiはTiCを形成し、母材及びHAZの靱性を劣化させる。よって、Ti量の上限を0.024%以下とする必要がある。Ti量の好ましい下限は0.005%以上、好ましい上限は0.020%以下である。
(B:0.0005%〜0.0050%)
Bは、鋼板において窒素と結合し、ZrとTiとを含有する複合酸化物の周囲にフィルム状のB窒化物を生成する。B量を0.0005%以上にすることにより、HAZにおける粒内フェライト生成能を高め、組織の微細化を通じて靱性の改善に寄与する。また、固溶Bはオーステナイト粒界に偏析することで、粗大な粒界フェライト生成を抑制する。HAZ靱性を更に改善するために、B量は0.0010%以上が好ましい。一方、B量が過剰な場合、強度を高める効果が飽和し、母材、HAZともに靱性劣化の傾向が著しくなる。したがって、B量を0.0050%以下とする。B量の好ましい上限は0.0030%以下、より好ましくは0.0025%以下、さらに好ましくは0.0020%以下である。
(N:0.0010%〜0.0090%)
Nは、鋼板においてBと結合し、B窒化物を形成させるために必要な元素であり、このためには0.0010%以上のNを含有させる必要がある。一方、N量が過剰な場合、母材及びHAZの靱性劣化を招くため、上限を0.0090%以下とする。N量の好ましい下限は0.0020%以上、好ましい上限は0.0060%以下である。
(O:0.0010%〜0.0050%)
O(酸素)は、ZrとTiとを含有する複合酸化物の生成に不可欠な元素であり、0.0010%以上のOを含有させる必要がある。しかし、O量が過剰な場合、酸化物が過剰に生成し、鋼板の清浄性を劣化させ母材靱性及び伸び絞り等の延性に悪影響を及ぼす。このためO量の上限を0.0050%以下とする。O量の好ましい下限は0.0015%以上、好ましい上限は0.0040%以下である。
(Zr:0.0005%〜0.0100%)
Zrは酸化物の微細分散、固溶Bの増加に不可欠な元素であり、0.0005%以上含有させる必要がある。Zr酸化物、ZrとTiの複合酸化物はHAZにおける粒内フェライト生成核として機能し、HAZ組織の微細化に寄与する。この効果を得るためには、Zrを0.0005%以上にする必要がある。好ましくは0.0010%以上、さらに好ましくは0.0015%以上とする。一方、Zrが過剰な場合、鋳造時のノズル閉塞が発生する可能性があるため、上限を0.0100%以下とする。好ましい上限は0.0050%以下、より好ましくは0.0040%以下である。
(Sol.Zr:0.0020%以下)
Sol.Zrは酸可溶性Zrの意で、鋼板に固溶しているZrを表わす。Sol.Zrの含有量が増えると、HAZ靱性を著しく劣化させるため、その上限を0.0020%以下に制限する必要がある。Zrの好ましい上限は0.0010質量%以下、より好ましく上限は0.0005質量%以下である。Sol.Zrは少ないほど好ましいため下限は特に規定せず、0.0000%でもよい。Sol.Zrは、電解抽出残渣分析法によって測定することができる。電解抽出残渣分析法は、鋼板を非水溶媒中での電解によって母相を溶解させて、残渣(析出物および介在物)を孔径0.1μm〜0.2μmのフィルター抽出し、分離する方法である。分離後、溶液に含まれるZrの量がSol.Zr量である。なお、Insol.Zrは酸不溶性Zrであり、Insol.Zr量とSol.Zr量を足したものがZr量である。
本実施形態のHAZ靱性に優れ、優れた機械的特性を有する鋼板には、Feの一部に代えて、下記の各元素のうちの1種または2種以上を含有してもよい。
(Cu:0.0%〜1.5%)
Cuは、強度及び耐食性を向上させる効果を有するため、必要に応じて鋼板に含有させてもよい。Cuを含有する効果を得るためには、Cuを0.1%以上含有させることが好ましい。より好ましくはCu量を0.2%以上とする。一方、1.5%を超えてCuを含有させても、合金コスト上昇に見合った性能の改善が見られず、鋼板表面割れの原因となる場合がある。好ましくはCu量の上限を1.0%以下とし、より好ましくは0.5%以下とする。
(Ni:0.0%〜3.0%)
Niは、固溶状態において鋼のマトリックス(生地)の靱性を高める効果があるので、必要に応じて鋼板に含有させてもよい。Niを含有する効果を得るためには、Niを0.1%以上含有させることが好ましい。一方、3.0%を超えてNiを含有させても、合金コストの上昇に見合った特性の向上が得られない。好ましくはNi量の上限を2.0%以下、より好ましくは1.0%以下とする。
(Cr:0.0%〜1.0%)
Crは、耐食性を高めるとともに、焼入性を高めることで強度の向上に有用であるので、必要に応じて鋼板に含有させてもよい。Crを含有する効果を得るためには、Crを0.1%以上含有させることが好ましい。一方、1.0%を超えてCrを含有させても、耐食性を向上させる効果が飽和し、また、HAZが硬化して靱性を劣化させる場合がある。好ましくはCr量の上限を0.5%以下とする。
(Mo:0.00%〜1.00%)
Moは、母材の強度と靱性を向上させる効果があるので、必要に応じて鋼板に含有させてよい。Moを含有する効果を得るためには、Moを0.01%以上含有させることが好ましい。一方、1.00%を超えてMoを含有させると、特にHAZの硬度が高まり、靱性を劣化させる場合がある。好ましくはMo量の上限を0.50%以下、より好ましくは0.30%以下とする。
(Nb:0.000%〜0.035%)
Nbは、細粒化と炭化物析出により母材の強度及び靱性を向上させるので、必要に応じて鋼板に含有させてよい。Nbを含有する効果を得るためには、Nbを0.005%以上含有させることが好ましい。一方、0.035%を超えてNbを含有させると、効果が飽和するとともに、HAZの靱性を損なう場合がある。より好ましくはNb量の上限を0.025%以下、さらに好ましくは0.015%以下とする。
(V:0.00%〜0.10%)
Vは、主に焼戻し時の炭窒化物析出により母材の強度を向上させる効果があるので、必要に応じて鋼板に含有させてもよい。Vを含有する効果を得るためには、Vを0.01%以上含有させることが好ましい。一方、0.10%を超えてVを含有させると、効果が飽和するとともに、硬度が高まり、靱性劣化を招く場合がある。好ましくはV量の上限を0.05%以下とする。
(P:0.050%以下)
Pは、不純物として鋼板に不可避的に存在する。しかし、P量が0.050%を超えるとオーステナイト粒界に偏析して靱性を低下させるのみならず、溶接時に高温割れを招く原因となる。P量の好ましい上限は0.030%以下、より好ましくは0.010%以下である。P量は少ないほど好ましいため下限は特に規定しないが、製造コストの観点から、0.001%以上であってもよい。
(S:0.0080%以下)
Sは、不純物として鋼板に不可避的に存在するが、含有量が多すぎると中心偏析部において延伸したMnSが多量に生成するため、母材及びHAZの靱性および延性が劣化する。このためS量の上限を0.0080%以下とする。S量の好ましい上限は0.0050%以下、より好ましくは0.0040%以下、さらに好ましくは0.0030%以下である。S量は少ないほど好ましいため下限は特に規定しないが、製造コストの観点から、0.0001%以上であってもよい。
(Al:0.0050%以下)
Alは、一般的には、脱酸元素として、積極的に添加される元素である。しかし、Alは優先的に酸素と反応しやすいため、その含有量が過剰な場合には、所望するZrとTiを含有する複合酸化物の形成が不十分となり、HAZにおける有効なフェライト生成核が減少する。更に過剰なAl添加は、粗大なクラスター状のアルミナ(Al)系介在物の形成を助長するため、母材及びHAZの靱性を劣化させる。よって、Alの含有量はできる限り低減することが好ましい。許容できるAl量の上限値は0.0050%である。好ましくは0.0040%以下、さらに好ましくは0.0030%以下である。Alは少ないほど好ましいため下限値は特に規定せず、0.0000%でもよい。
(Mg:0.0000%〜0.0005%)
Mgは、優先的に酸素と反応しやすいため、その含有量が過剰な場合には、所望するZrとTiとを含有する複合酸化物の形成が不十分となる。そして、HAZにおける有効なフェライト生成核が減少し、HAZの靱性を劣化させる。よって、Mgの含有量は0.0005%以下に制限する。Mgは少ないほど好ましいため下限値は特に規定せず、0.0000%でもよい。
(Ca及びREMの合計:0.0005%以下)
Ca及びREMは、Alよりも更に優先的に酸素と反応しやすい元素である。所望するZrとTiとを含有する複合酸化物を形成させるために、Ca及びREMの含有量の合計を0.0005%以下に制限する。より好ましくはCaが0.0003%未満、かつREMが0.0003%未満で、その含有量の合計が0.0005%以下である。CaとREMは少ないほど好ましいため下限値は特に規定せず、0.0000%でもよい。
なお、Ca及びREMは鋼板において強脱酸元素として作用し、ZrおよびTiの酸化物生成を阻害するため、意図的に含有させず、可能な限り低減することが必要である。
ここで、「REM」とはSc、Y、及びランタノイドの合計17元素の総称であり、REMの含有量はREMのうちの1種または2種以上の元素の合計含有量を指す。
(炭素当量Ceq.:0.35%〜0.50%)
本実施形態に係る鋼板は、下記式(3)により求められる炭素当量Ceq.を、0.35%〜0.50%とする。
Ceq.=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・・(3)
ここで、各成分は鋼板中に含有されている各成分の質量%である。
炭素当量が0.35%未満になると、高強度鋼板に要求される強度を満足できない。炭素当量が0.50%を超えると、焼入れ性が過剰となり継手靱性を満足できない。炭素当量の下限値は、好ましくは0.37%、より好ましくは0.39%である。炭素当量の上限値は、好ましくは0.48%、より好ましくは0.46%、更に好ましくは0.44%である。
本実施形態の溶接熱影響部靱性に優れた鋼板は、上記の各元素を含有し、残部はFe及び不純物からなるものである。不純物とは、鋼板を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料その他の要因により混入する成分を意味する。
なお、実際の製造プロセスでは、添加した元素が100%溶鋼中に含まれることになるわけではないので、各元素が所望の含有量となるように、歩留まりを考慮して余分に添加すればよい。また、添加方法については特に限定されない。化学組成が上記条件を満足するように鋼板に含有できる方法であれば、どのような方法でも構わない。
鋼板の板厚としては、特に限定されないが、例えば、55mm以上であることが挙げられ、55mm〜80mmであることが挙げられる。
次に、本実施形態に係る鋼板を得るための好ましい製造方法について説明する。
本実施形態に係る鋼板を得るには、前述のように、脱酸開始前の溶存酸素量を制御することがよい。
本実施形態に係る鋼板の製造方法は、減圧雰囲気の二次精錬において、溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%に調整した溶鋼へ、TiとZrとを、Ti添加後Zrの順に添加、Zr添加後Tiの順に添加、または、TiとZrとを同時に添加、のいずれか一つの添加順序で添加した後、Ti及びZr添加後の溶鋼を鋳造して、鋳片を得る工程を有することが好ましい。
その後、得られた鋳片から本実施形態に係る鋼板を製造するプロセスとしては、制御圧延を行ってもよい。そして、制御冷却をしてもよいし、制御冷却と焼き戻しと組み合わせて行ってもよく、さらに、焼入れ・焼き戻しを組み合わせて行ってもよい。
TiとZrとを添加する順序は、Ti添加後Zrを添加する順序の場合、溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%に調整した溶鋼へTiを添加し、Ti添加後の溶鋼中の溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%に調整した後、Zrを添加することがよい。
また、TiとZrとを添加する順序が、Zr添加後Tiを添加する順序の場合、溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%に調整した溶鋼へZrを添加し、Zr添加後の溶鋼中の溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%以下に調整した後、Tiを添加することがよい。
具体的には、次のようにして得られる。
まず、前述の化学組成となるように溶鋼の化学組成を調整する。転炉精錬後に、真空精錬装置または不活性ガス中での精錬装置によって行われる減圧雰囲気下の二次精錬において、溶鋼の溶存酸素量を質量%で、0.0005%〜0.0050%の範囲に調整する。その後、TiとZrとを所定の順序で添加して溶製した後、連続鋳造等により鋳片を得る。
なお、二次精錬を行う方法は、特に限定されないが、例えば、RH(Ruhrstahl−Heraeus)による方法が挙げられる。
なお、本実施形態に係る鋼板の製造方法は、上述の製造方法に限定されない。鋼板の製造方法が上述以外の製造方法であっても、その鋼板が規定範囲内にあれば、その鋼板は、本実施形態に係る鋼板の範囲に包含されると見なされる。
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前記または後記した趣旨に適合し得る範囲で適用に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術範囲に含まれる。
表1、表2に、鋼板の化学成分を示す。ここで、Sol.Zrは酸可溶性Zrであることを表す。Sol.Zrは、電解抽出残渣分析法によって、鋼板を非水溶媒中での電解によって母相を溶解させて、残渣(析出物および介在物)を孔径0.1μmのフィルター抽出して分離し、分離後の溶液に含まれるZrの量を測定したものである。表1、表2中、Sol.Zrが「−」で表される箇所は、電解抽出残渣分析法によりSol.Zrが測定されなかったことを示す。そして、Insol.Zrは酸不溶性Zrであることを表す。Insol.Zr量は、Zr量からSol.Zr量を引き算することにより求めることができる。BasBNは、式(2)により求め、Bは式(1)により求め、Ceq.は式(3)により求めた。
Figure 0006926772
Figure 0006926772
表3、表4に、RH真空精錬設備でのTi添加1分前の溶存酸素量、Zr添加1分前の溶存酸素量、TiとZrの同時添加1分前の溶存酸素量、及びTi、Zrの添加順序を示す。また、加熱条件、圧延条件、冷却条件、および熱処理条件(テンパー温度)を示す。なお、Ti、Zr添加順序では、Ti、Zrは、Tiの次にZrを添加した場合、Zr、Tiは、Zrの次にTiを添加した場合、同時添加は、ZrとTiを同時に添加した場合を示している。
表5、表6に、板厚、有効結晶粒径、フェライト分率、パーライト分率、ベイナイト分率、及びアレスト性指標Arrを示す。また、Al酸化物の質量換算値の割合が20%以下、かつ、Zr酸化物とTi酸化物の質量換算値の割合の合計が80%以上を満足する酸化物であって、円相当径が0.5μm以上10μm以下の酸化物の個数密度を示す。さらに、母材靱性、母材強度、溶接条件(入熱)、およびHAZ靱性を示す。
Figure 0006926772
Figure 0006926772
Figure 0006926772
Figure 0006926772
鋼板の化学成分が表1、表2に示す値となるように、溶製して得られた鋼片を、表3、4に示す各条件により、下記のようにして、板厚55mm〜80mmの各鋼板を製造した。
鋼1〜鋼29が本発明例、鋼30〜鋼52が比較例である。
鋼は、400トン転炉溶製し、RH(Ruhrstahl−Heraeus)による2次精錬の真空脱ガス処理時に脱酸を行っている。Ti、Zr投入前に溶存酸素を調整し、その後、Ti、Zrを添加し脱酸を行い、連続鋳造により280mm〜360mm厚鋳片に鋳造した後、加熱圧延を経て、板厚55mm〜80mmの鋼板として製造した。その後、材質調整のため、必要に応じて熱処理を実施した。熱処理時のテンパー温度は、440℃から570℃の条件で行った。
得られた鋼板を溶接して、各試験に供した。溶接条件の入熱は、40kJ/mm〜60kJ/mmである。
有効結晶粒径、パーライト分率、フェライト分率、およびベイナイト分率は以下の手順により測定した。
まず、有効結晶粒径の測定方法について説明する。鋼板の幅中央、鋼板表面5mm部と板厚方向の1/4部から試験片を採取し、圧延方向と垂直な面を鏡面研磨し、その面をEBSD法により、500μm×500μmの領域を1μmピッチで測定した。隣接粒との結晶方位差が15°以上の境界を結晶粒界と定義し、結晶粒界に囲まれた領域の円相当径(直径)の加重平均を有効結晶粒径とした。加重平均は、前述の式(11)により求めた。
パーライト分率は、鋼板の幅中央、板厚方向の1/4部から試験片を採取し、圧延方向と垂直な面を鏡面研磨し、ナイタール腐食し、光学顕微鏡を用いて、500倍の倍率で4視野撮影し、各視野のパーライト分率を求め、その平均値をパーライト分率とした。なお、1つの視野の大きさは、200μm×200μmである。また、パーライトは、ナイタール腐食した際、塊状の黒色に見えるものとし、画像解析を行うことによって求めた。
フェライトは、先のEBSD法により測定した測定点同士が第一近接する場合のKAM(Kernel Average Misorientation)値が、1°以下である部分とし、このフェライトの面積分率を、鋼板表面5mm部、t/4部のそれぞれの部位毎に対して求めた。
ベイナイト分率は、パーライト分率とフェライト分率の残部とした。
なお、表5、表6中、鋼板表面5mm部は、表下5と記載し、板厚方向の1/4部は、t/4と記載している。
介在物調査は以下の手順により測定した。まず、鋼板の幅中央、板厚方向のt/4位置から板厚方向12mm×板幅方向12mm×圧延方向70mmの熱サイクル試験片を採取した。そして、1400℃で23秒間加熱保持した後、冷速1℃/secの条件で冷却した鋼板の圧延方向と垂直な方向の断面を研磨した。鏡面研磨ままの熱サイクル試験片の表面をJEOL製「JXA−8530F」を用いて、SEM/EDX(走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法)解析により測定した。観察条件は、加速電圧15kV、電流を89μA〜91μA、観察視野面積を90mm〜100mm、分析個数を500個以上とした。分析対象元素は、O、Ti、Zr、及びAlとした。
図1に観察結果の一例を示す。図1中、12は観察した介在物である。表7に、介在物を分析した際の対象元素毎の質量%を示す。なお、O、Ti、Zr、Alの質量%を合計すると100%となる。ここで、Oの質量%が1.0質量%以上の介在物を酸化物とした。そして、これらの元素による単独酸化物、Ti、ZrO、及びAlを仮定したときの各元素の酸化物の質量換算値を下記式(5)〜下記式(7)から算出する。
Ti=Ti×3.003・・・(5)
ZrO=Zr×1.351・・・(6)
Al=Al×3.779・・・(7)
表8に各元素の酸化物の質量換算値を示す。
Figure 0006926772
Figure 0006926772
これらの合計に対して、Al(Al酸化物)の含有割合(%)が20%以下、すなわち、ZrO(Zr酸化物)とTi(Ti酸化物)の含有割合(%)の合計が80%以上を満足する酸化物で、この酸化物の円相当径が0.5μm以上10μm以下である酸化物の個数密度を求めた。
Tiの含有割合(%)=Ti/(Ti+ZrO+Al)・・・(8)
ZrOの含有割合(%)=ZrO/(Ti+ZrO+Al)・・・(9)
Alの含有割合(%)=Al/(Ti+ZrO+Al)・・・(10)
この計算結果を、表9に示す。
Figure 0006926772
母材靱性は、JIS Z 2242(2005)に準拠し、板厚方向のt/4位置で、圧延方向に対して平行方向から2mmVノッチシャルピー試験片を採取した。試験片を0℃〜−140℃の範囲で、3回ずつ試験を実施して、脆性延性遷移温度(vTrs)を求めた。vTrsが−40℃以下のものを母材靱性に優れるとした。
母材強度は、JIS Z 2241(2011)に準拠し、板厚方向のt/4位置で、圧延方向に対して垂直方向から引張試験片を採取した。引張試験片の各2本を試験測定し、その平均値を求めた。引張試験片は、JIS Z 2241(2011)の4号試験片とした。
HAZ靱性は、NK船級 鋼船規則 M編 溶接(2015)に準拠し、溶接方向が、幅方向に対して平行になるように(圧延方向と直角な方向になるように)、2電極簡易エレクトロガスアーク溶接を行った。溶接は、開先形状の開先角度が20°、開先形状の先端部の間隔が8mmの条件で、裏当て材として、SB−60VT(日鐵住金溶接工業社製)を用いながら、溶接ワイヤとして、EG−47T(日鐵住金溶接工業社製)を用いて行った。溶接時の入熱量は、40kJ/mm〜60kJ/mmである。
そして、NK船級 鋼船規則 K編 材料(2015)に準拠し、U4号試験片を、溶接線方向に対して垂直方向から、板厚の表側から板厚中心方向6mmの位置(表下)、板厚中心の位置(t/2)、板厚の裏側から板厚中心方向6mmの位置(裏下)を中心として、それぞれ3本採取し、フュージョンライン(境界部)に2mmVノッチを加工して作成した。試験は、試験温度−40℃の条件で3回を行い、この平均値からHAZの吸収エネルギー(vE−40)を、表下、t/2、及び裏下のそれぞれの位置について求めた。表下、t/2、及び裏下のそれぞれの位置でのHAZの吸収エネルギー(vE−40)が、それぞれ100J以上のものをHAZ靱性に優れると評価した。
アレスト性評価のため、日本溶接協会規格 WES 2815(2014)「ぜい性亀裂アレストじん性試験方法」に基づいて、全厚試験片(大きさ:t(板厚)×500mm×500mm)を用いて、温度勾配型ESSO試験を行った。アレスト靱性値Kcaが6000N/mm1.5になる温度、すなわちTKca6000を求めた。そして、TKca6000が−10℃以下のものをアレスト性に優れると評価した。
表1〜表6から明らかなように、鋼1〜鋼29は優れたHAZ靱性を有している。
一方、鋼30〜鋼47は、本発明で規定される成分範囲を外れるものであるため、いずれもHAZ靱性が劣位であった。鋼46〜鋼47は規定される成分範囲内であったものの、RHによる処理時の溶存酸素量が過剰なため、酸化物が粗大化し、HAZ靱性が劣位であった。鋼48〜鋼52は規定される成分範囲内であったものの、加熱温度が高く、圧延開始温度が高く、圧下率が低く、規定範囲を外れる組織であったため、HAZ靱性が劣位であり、アレスト性も確保できなかった。
本実施形態に係る鋼板は、大入熱溶接を行った際の溶接熱影響部において優れた靱性を有し、かつ、母材において優れた機械的特性を有する鋼板である。そのため、本実施形態に係る鋼板によれば、安全性が向上するとともに、高効率な溶接が可能であり、溶接構造物の建設費用を飛躍的に低減することが可能となる。
11 地鉄、12 介在物

Claims (3)

  1. 質量%で、
    C :0.01%〜0.20%、
    Si:0.02%〜0.50%、
    Mn:0.30%〜2.50%、
    Ti:0.003%〜0.024%、
    B :0.0005%〜0.0050%、
    N :0.0010%〜0.0090%、
    O :0.0010%〜0.0050%、
    Zr:0.0005%〜0.0100%、
    Sol.Zr:0.0020%以下、
    Cu:0.0%〜1.5%、
    Ni:0.0%〜3.0%、
    Cr:0.0%〜1.0%、
    Mo:0.00%〜1.00%、
    Nb:0.000%〜0.035%
    V :0.00%〜0.10%
    P :0.050%以下、
    S :0.0080%以下、
    Al:0.0050%以下、
    Mg:0.0000%〜0.0005%、
    Ca+REMの含有量の合計が0.0005%以下、
    及び、残部として、Fe及び不純物からなり、
    下記式(1)で表されるBが、0.0005%〜0.0030%であり、
    下記式(3)で表される炭素当量Ceq.が、0.35%〜0.50%であり、
    圧延方向に垂直な断面の板厚方向の1/4位置の電子線後方散乱回折法(EBSD)を用いた結晶方位解析において、有効結晶粒径が30μm以下であり、
    板厚方向の1/4位置のミクロ組織が面積率にして、フェライト分率が20%〜70%、ベイナイト分率が30%〜75%、およびパーライト分率が0%〜5%であって、フェライト分率とベイナイト分率とパーライト分率との合計が100%であり、
    下記式(4)で表されるアレスト性指標Arrが95以下であり、
    酸化物中のO量、Ti量、Zr量、およびAl量の測定値から求められる、Ti、ZrおよびAlの元素による単独酸化物と仮定したときの前記Ti、前記Zr、および前記Alの各元素の酸化物の質量換算値の合計に対する、Al酸化物の質量換算値の含有割合が20%以下、および前記各元素の酸化物の質量換算値の合計に対する、Zr酸化物とTi酸化物の質量換算値の含有割合の合計が80%以上を満足する酸化物であって、円相当径が0.5μm〜10μmの個数密度が10個/mm以上の酸化物を含有する鋼板。
    Figure 0006926772


    (ただし、式(1)中、BasBNは式(2)で表わされる。また、Bは、鋼板に含まれる前記B元素の含有量(質量%)であり0≦B≦Bの関係を満たす。)
    Figure 0006926772


    (ただし、式(2)中、0≦BasBN≦Bの関係を満たし、N、Ti、O、及びAlは、鋼板に含まれる前記N、Ti、O、及びAlの各元素の含有量(質量%)であり、Insol.Zrは、酸不溶性Zrの含有量(質量%)であることを表す。)
    Ceq.=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・・(3)
    (ただし、式(3)中のC、Mn、Cu、Ni、Cr、MoおよびVは、鋼板に含まれる各元素の含有量(質量%)を表す。)
    Arr=0.31×t+0.11×Deff(表)+1.99×Deff(t/4)
    +0.032×Deff(表)×fα(表)
    +0.007×Deff(t/4)×fα(t/4)・・・(4)
    (ただし、式(4)中、tは板厚[mm]であり、Deff(表)は圧延方向に垂直な断面の鋼板表面から板厚方向の5mmの領域の有効結晶粒径[μm]であり、fα(表)は前記鋼板表面から板厚方向の5mmの領域のフェライト分率であり、Deff(t/4)は圧延方向に垂直な断面の鋼板表面から板厚方向の1/4の位置の有効結晶粒径[μm]であり、fα(t/4)は前記鋼板表面から板厚方向の1/4の位置の領域のフェライト分率であることを表す。)
  2. 板厚が55mm以上であり、溶接熱影響部および溶接金属部以外の部分である、母材の降伏応力が460MPa以上であり、かつアレスト靱性値Kcaが6000N/mm1.5になる温度が−10℃以下である請求項1に記載の鋼板。
  3. 板厚が55mm〜80mmであり、入熱40kJ/mm〜60kJ/mmで大入熱溶接を行ったときに発生する溶接熱影響部試験温度−40℃で行うシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーが、板厚方向で、板厚の表側、板厚中心の位置(t/2)、及び板厚の裏側のすべての箇所において100J以上であり、かつ、溶接熱影響部および溶接金属部以外の部分である、母材の脆性延性遷移温度が−40℃以下である請求項1又は2に記載の鋼板。
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