[本発明の実施形態の説明]
最初に、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。本発明の一実施形態の量子カスケード半導体レーザは、第1方向において互いに対向する主面及び裏面、並びに第1方向と直交する第2方向と交差する基板端面を有する半導体基板と、第1方向において主面とは反対側に設けられる表面、基板端面を含む平面内に含まれる積層端面、積層端面から第2方向に沿って延びるコア層、及びコア層上に設けられるクラッド層を有し、主面上に設けられる半導体積層と、表面上に設けられる第1電極と、裏面上に設けられる第2電極と、積層端面上及び基板端面上に設けられ、第1電極上にわたって延びる第1絶縁膜と、第1絶縁膜を介して積層端面上及び基板端面上に設けられ、第1電極上にわたって延びる金属膜と、第1絶縁膜及び金属膜を介して基板端面上に設けられ、第2電極上にわたって延びており、金属膜の一部又は全部を覆う第2絶縁膜と、を備える。
上述した量子カスケード半導体レーザでは、例えば半田を介して第2電極が電子部品上に搭載され、第1電極と第2電極との間に電圧(例えば10V以上の高電圧)が印加されることにより、レーザ光が発振する。ここで、もし仮に、金属膜に半田が接触すると、第2電極に印加された電圧が半田を介して金属膜に印加され、第1電極上の金属膜と第1電極との間に第1絶縁膜を介して当該電圧が印加される。金属膜と第1電極との間の第1絶縁膜は薄く形成され易いので、このような電圧が第1絶縁膜に印加されると、その電圧によって第1絶縁膜が破壊されるおそれがある。しかし、上述した量子カスケード半導体レーザでは、第2絶縁膜が、金属膜を介して積層端面上に設けられ、第2電極上にわたって設けられる。加えて、第2絶縁膜が金属膜を覆っているので、金属膜と上記の半田との間には第2絶縁膜が介在する。これにより、金属膜と上記の半田との接触を抑えることができる。すなわち、金属膜と、第2電極及び上記の半田とを互いに電気的に絶縁することができる。従って、上述した量子カスケード半導体レーザによれば、第1電極上の金属膜と第1電極との間に第1絶縁膜を介して当該電圧が印加されることを抑えることができ、当該電圧による第1絶縁膜の破壊を抑えることができる。その結果、その第1絶縁膜の破壊に起因する端面破壊等による、上述した量子カスケード半導体レーザの素子特性の劣化を抑えることができる。
また、上述した量子カスケード半導体レーザでは、第2絶縁膜は、積層端面上に延びるか、或いは、積層端面上に延びており且つ第1電極上にわたって延びてもよい。これにより、第1絶縁膜及び金属膜の機械的強度を高めることができる。
また、上述した量子カスケード半導体レーザでは、表面は、第1領域、及び、第2方向において積層端面と第1領域との間に位置する第2領域を含み、第2領域上に設けられる第1電極の厚さは、第1領域上に設けられる第1電極の厚さよりも薄くてもよい。このように劈開面となる積層端面及び基板端面の近傍の第1電極の厚さを薄くすることによって、積層端面及び基板端面において容易に劈開することができる。その結果、量子カスケード半導体レーザを作製する際の歩留りを高めることができる。また、第1領域上に設けられる第1電極の厚さよりも第2領域上に設けられる第1電極の厚さの方が薄いので、第1領域上に設けられる第1電極の電気抵抗よりも第2領域上に設けられる第1電極の電気抵抗の方が大きくなる。これにより、積層端面及び基板端面の近傍を流れるリーク電流を低減することができる。その結果、上述した量子カスケード半導体レーザの素子特性を向上させる(例えば閾値電流を低減する)ことができる。また、上述した量子カスケード半導体レーザでは、第1電極は、第1領域上のみに設けられてもよい。このように第1電極が、劈開面となる積層端面及び基板端面の近傍には設けられないようにすることにより、上記の効果をより顕著に奏することができる。
また、上述した量子カスケード半導体レーザでは、裏面は、第3領域、及び、第2方向において基板端面と第3領域との間に位置する第4領域を含み、第4領域上に設けられる第2電極の厚さは、第3領域上に設けられる第2電極の厚さよりも薄くてもよい。このように劈開面となる積層端面及び基板端面の近傍の第2電極の厚さを薄くすることによって、積層端面及び基板端面において容易に劈開することができる。その結果、上述した量子カスケード半導体レーザを作製する際の歩留りを高めることができる。また、第3領域の第2電極の厚さよりも第4領域の第2電極の厚さの方が薄いので、第3領域の第2電極の電気抵抗よりも第4領域の第2電極の電気抵抗の方が大きくなる。これにより、積層端面及び基板端面の近傍を流れるリーク電流を低減することができる。その結果、上述した量子カスケード半導体レーザの素子特性を向上させる(例えば閾値電流を低減する)ことができる。また、上述した量子カスケード半導体レーザでは、第2電極は、第3領域上のみに設けられてもよい。このように第2電極が、劈開面となる積層端面及び基板端面の近傍には設けられないようにすることにより、上記の効果をより顕著に奏することができる。
また、上述した量子カスケード半導体レーザは、第1方向において第1電極と第1絶縁膜との間に設けられる第3絶縁膜を更に備えてもよい。このように第1電極と金属膜との間に第1絶縁膜に加えて第3絶縁膜が設けられることにより、その間の絶縁領域(すなわち第1絶縁膜と第3絶縁膜とから成る領域)を十分に確保することができる。すなわち、第1電極と金属膜との間の絶縁耐性を高めることができる。これにより、仮に、レーザ光の発振の為の電圧(例えば10V以上の高電圧)が、第1電極と金属膜との間に印加された場合であっても、当該電圧による絶縁膜の破壊を抑えることができる。すなわち、その絶縁膜の破壊に起因する端面破壊等による、上述した量子カスケード半導体レーザの素子特性の劣化をより確実に抑えることができる。
また、上述した量子カスケード半導体レーザでは、第3絶縁膜は、SiO2、SiON、SiN、アルミナ、BCB樹脂、及びポリイミド樹脂のうち少なくとも一つを含んでもよい。これらは、積層端面及び基板端面の保護膜として優れた耐久性や絶縁性を有する。また、これらは、例えばスパッタ、CVD、又はスピンコートといった一般的な誘電体膜成膜方法を用いて積層端面上、及び基板端面上に容易に成膜される。すなわち、上述した量子カスケード半導体レーザの作製工程に第3絶縁膜の成膜工程を容易に導入することができる。
また、上述した量子カスケード半導体レーザは、第4絶縁膜を更に備え、第1絶縁膜及び金属膜は、第2電極上にわたって延びており、第4絶縁膜は、第1方向において第2電極と第1絶縁膜との間に設けられてもよい。このように第2電極と金属膜との間に第1絶縁膜に加えて第4絶縁膜が設けられることにより、その間の絶縁領域(すなわち第1絶縁膜と第4絶縁膜とから成る領域)を十分に確保することができる。すなわち、第2電極と金属膜との間の絶縁耐性を高めることができる。これにより、仮に、レーザ発振の為の電圧(例えば10V以上の高電圧)が、第2電極と金属膜との間に印加された場合であっても、当該電圧による絶縁膜の破壊を抑えることができる。すなわち、その絶縁膜の破壊に起因する端面破壊等による、上述した量子カスケード半導体レーザの素子特性の劣化をより確実に抑えることができる。
また、上述した量子カスケード半導体レーザでは、第4絶縁膜は、SiO2、SiON、SiN、アルミナ、BCB樹脂、及びポリイミド樹脂のうち少なくとも一つを含んでもよい。これらは、積層端面及び基板端面の保護膜として優れた耐久性や絶縁性を有する。また、これらは、例えばスパッタ、CVD、又はスピンコートといった一般的な誘電体膜成膜方法を用いて積層端面上、及び基板端面上に容易に成膜される。すなわち、上述した量子カスケード半導体レーザの作製工程に第4絶縁膜の成膜工程を容易に導入することができる。
また、上述した量子カスケード半導体レーザでは、金属膜は、第2電極上には設けられていなくてもよい。これにより、金属膜と第2電極とをより確実に互いに電気的に絶縁することができる。その結果、第1電極上の金属膜と第1電極との間に第1絶縁膜を介してレーザ発振の為の電圧が印加されることを更に抑えることができる。すなわち、当該電圧による第1絶縁膜の破壊を更に抑えることができる。これにより、その第1絶縁膜の破壊に起因する端面破壊等による、上述した量子カスケード半導体レーザの素子特性の劣化を更に抑えることができる。また、上述した量子カスケード半導体レーザでは、第1絶縁膜は、第2電極上には設けられていなくてもよい。このように金属膜に加えて第1絶縁膜が第2電極上に設けられていない場合であっても、上記と同様の効果を奏することができる。
また、上述した量子カスケード半導体レーザでは、第1絶縁膜及び第2絶縁膜の少なくとも一方は、SiO2、SiON、SiN、アルミナ、BCB樹脂、又はポリイミド樹脂のうち少なくとも一つを含んでもよい。これらは、積層端面及び基板端面の保護膜として優れた耐久性や絶縁性を有する。また、これらは、例えばスパッタ、CVD、又はスピンコートといった一般的な誘電体膜成膜方法を用いて積層端面上、及び基板端面上に容易に成膜される。すなわち、上述した量子カスケード半導体レーザの作製工程にこれらの絶縁膜の成膜工程を容易に導入することができる。
また、上述した量子カスケード半導体レーザでは、金属膜は、Auを含んでもよい。これにより、積層端面及び基板端面において、金属膜を、例えば90%を超える高反射率を有する反射膜として有効に機能させることができる。
また、上述した量子カスケード半導体レーザでは、クラッド層は、InP層でもよい。InPは、中赤外域の発振光に対して透明(光吸収を示さない)であるので、クラッド層の材料として好適である。また、InPは2元混晶でありInP基板に格子整合するので、InP層をInP基板上に良好に結晶成長させることができる。また、InPの熱伝導性は良好である為、クラッド層を介してコア層からの熱を良好に放出できる。これにより、上述した量子カスケード半導体レーザの温度特性を高めることができる。
また、上述した量子カスケード半導体レーザでは、コア層は、発光領域である複数の活性層と、活性層にキャリアを注入するための複数の注入層とを含み、活性層及び注入層が、第1方向に沿って交互に配列されていてもよい。このように活性層間に注入層を設けることにより、隣り合う活性層に電子が連続的にスムーズに受け渡されて、活性層内の伝導帯において電子がサブバンド間を遷移することによる発光を効率良く生じさせることができる。その結果、上述した量子カスケード半導体レーザの発振特性を高めることができる。
また、上述した量子カスケード半導体レーザでは、活性層及び注入層は、GaInAs/AlInAsの超格子列を含んでもよい。この超格子列は、中赤外域の波長(例えば3〜20μm)に相当する、活性層内の伝導帯における電子のサブバンド間の遷移を提供できる。従って、中赤外域の波長の光を発振可能な量子カスケード半導体レーザのコア層の材料として好適である。
また、上述した量子カスケード半導体レーザでは、半導体基板は、InP基板でもよい。中赤外域の量子カスケード半導体レーザを構成する半導体積層は、InPに近い格子定数を有する。従って、半導体基板をInP基板とすることにより、半導体基板上において半導体積層を良好な結晶品質にて成長させることができる。また、InPは中赤外域の光に対して透明であるので、InP基板をコア層に対するクラッド層として機能させることができる。
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態の量子カスケード半導体レーザの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
(実施形態)
図1は、一実施形態の量子カスケード半導体レーザ(QCL)1が実装された状態を示す斜視図である。なお、図1には、理解の容易の為、XYZ直交座標系が示されている。QCL1は、シングルモードの光を発振する分布帰還(DFB)型の素子であり、例えば3μm〜20μmの中赤外域での発振が可能である。図1に示されるように、QCL1は、キャリア2上に実装されたサブマウント3上に半田4を介して実装されている。具体的には、QCL1は、エピアップ形態(エピタキシャル成長した側が上面になるように配置する形態)にて、サブマウント3上に半田4を用いてダイボンド実装される。QCL1の後述する下部電極は、サブマウント3及び半田4を介してキャリア2と電気的に接続される。また、QCL1の後述する上部電極上には、QCL1に給電する為のワイヤ5の一端が接続されている。ワイヤ5の他端は、図示しないボンディングパッドに接続される。QCL1の上部電極は、ワイヤ5を介して、ボンディングパッドと電気的に接続される。キャリア2及びボンディングパッドは、図示しない外部電源と電気的に接続される。そして、外部電源から所定の電圧をQCL1の上部電極及び下部電極に印加することにより、QCL1がターンオンしてQCL1の内部に電流が流れ、QCL1がレーザ発振する。
なお、キャリア2のX方向及びY方向の長さW1,L1はそれぞれ、例えば4mm〜8mmであり、キャリア2のZ方向の厚さH1は、例えば1mm〜8mmである。サブマウント3のX方向及びY方向の長さW2,L2はそれぞれ、例えば1mm〜4mm、2mm〜4mmであり、サブマウント3のZ方向の厚さH2は、例えば0.1mm〜0.5mmである。また、サブマウント3には、例えばAIN又はCuW等が用いられ、キャリア2には、例えばCu又はCuWが用いられる。また、半田4には、例えばAuSn、In又は銀ペースト等が用いられ、ワイヤ5には、例えばAu線等が用いられる。
図2は、図1のQCL1の斜視図である。図3は、図1のIII−III線に沿ったYZ断面図である。図2及び図3に示されるように、QCL1は、半導体素子部10と、絶縁膜71(第1絶縁膜)と、金属膜72と、絶縁膜75(第2絶縁膜)とを備える。半導体素子部10は、埋め込みヘテロストラクチャー(BH)の電流狭窄構造を有する。半導体素子部10は、共振方向(Y方向)を長手方向とする直方体状を呈している。なお、半導体素子部10のY方向の長さL3は、例えば1mm〜3mmであり、半導体素子部10のX方向の長さW3は、例えば400μm〜800μmであり、半導体素子部10のZ方向の長さ(厚さ)H3は、例えば100μm〜200μmである。半導体素子部10は、Y方向において互いに対向する後端面10a及び前端面10bを有する。また、半導体素子部10は、半導体基板20、半導体積層30、2つの電流ブロック部40、上部電極(第1電極)50、及び下部電極(第2電極)60を有する。
半導体基板20は、図3に示されるように、半田4を介してサブマウント3上に搭載されている。半導体基板20は、例えばn型のInP基板である。半導体基板20は、上部電極50及び下部電極60に電圧を印加して半導体積層30に電流を供給する為に、導電性を有する。なお、QCL1では、キャリアとしては電子が用いられるので、半導体基板20の導電型は、通常n型である。半導体基板20はコア層33に対する下部クラッド層として機能する。なお、半導体基板20は、下部クラッド層として機能しなくてもよく、その場合には、半導体基板20とコア層33との間に下部クラッド層が設けられる。半導体基板20は、主面20a、裏面20b、及び基板端面20cを含む。主面20aと裏面20bとは、厚さ方向(第1方向であるZ方向)において互いに対向している。裏面20bは、主面20aに対して、半導体基板20のZ方向におけるサブマウント3側に配置される。なお、一例では、主面20aと裏面20bとのZ方向における距離(すなわち、半導体基板20のZ方向の厚さ)は、100nmである。基板端面20cは、Y方向(第2方向)と交差しており、主面20aと裏面20bとを繋いでいる。基板端面20cは、後端面10aに含まれる。
半導体積層30は、半導体基板20の主面20a上に設けられる。半導体積層30は、Z方向と交差する上面(表面)30a、及びY方向と交差する積層端面30bを含む。上面30aは、Z方向において主面20aとは反対側に設けられる。積層端面30bは、基板端面20cを含む平面内に含まれる。すなわち、積層端面30bは、基板端面20cを含む後端面10aに含まれる。また、半導体積層30は、メサ形状を呈している。すなわち、半導体積層30は、X方向における所定幅WMを有すると共にY方向に沿って延びるストライプ形状を呈しており、QCL1のX方向における中央部分に位置している。半導体積層30は、Y方向において互いに対向する両端面、並びにX方向において互いに対向する両側面を含む。半導体積層30の両端面は、QCL1のレーザ共振器を構成する為のミラーとなっている。両端面のうち一方の端面は、積層端面30bに含まれる。半導体積層30は、半導体基板20上に順に積層される、バッファ層32、コア層33、回折格子層34、上部クラッド層35、及びコンタクト層36を含む。
バッファ層32及び上部クラッド層35は、例えばn型のInP層である。バッファ層32は、半導体基板20と共に、コア層33に対する下部クラッド層として機能する。上部クラッド層35は、回折格子層34を介してコア層33上に設けられている。なお、バッファ層32は、半導体積層30に設けられていなくてもよい。この場合、コア層33が半導体基板20の主面20a上に設けられる。コア層33は、積層端面30bからY方向に沿って延びている。コア層33は、複数の単位構造を有する。複数の単位構造は、積層方向(Z方向)に並んで配置されており、隣り合う単位構造同士が互いに接している。単位構造の数は、例えば数十である。各単位構造は、量子井戸層(数nm厚)とバリア層(数nm厚)とがZ方向に沿って交互に積層された超格子列を構成する。量子井戸層には、GaInAs又はGaInAsPが用いられることが多く、バリア層には、AlInAsが用いられることが多い。また、各単位構造は、一つの活性層と、一つの注入層とから成る。活性層は、発光領域である。注入層は、活性層にキャリアを注入する為に設けられる。一例では、活性層及び注入層は、Z方向に沿って互いに積層され、GaInAs/AlInAsの超格子列を構成する。
ここで、QCL1の発光原理を簡単に説明する。QCL1では、キャリアとしては電子のみが利用され、活性層内の伝導帯において電子がサブバンド間を遷移することにより発光が生じる。その発光により生じた光がQCL1のレーザ共振器内にて増幅されることにより、QCL1は、中赤外域でのレーザ光を発振する。具体的には、QCL1では、活性層内の伝導帯において次に述べる3準位レーザ動作を実現する。まず、注入層から活性層の上位準位へトンネリングにより電子が注入される。この電子は、活性層の上位準位から下位準位に遷移する。このとき、この遷移に応じて、遷移エネルギー(上位準位と下位準位とのサブバンド間のエネルギー差)に相当する波長の光が放出される。下位準位に遷移した電子は、LOフォノン散乱により、短い緩和時間でもって基底準位に非発光遷移する。なお、上記のような電子の振る舞いは、LOフォノン散乱を共鳴的に生じさせる為に下位準位と基底準位とのエネルギー差がLOフォノンのエネルギーとなるように設計されていることに起因する。このように電子が短い緩和時間でもって基底準位に非発光遷移することにより、活性層において上位準位と下位準位との間に反転分布が実現される。基底準位に緩和した電子は、所定の電界によって次段の注入層の上位準位へ移動する。以降、同様の動作を例えば数十周期にわたって繰り返すことにより、QCL1のレーザ発振に必要な利得が得られる。ここで、量子井戸層及びバリア層の材料組成、及びこれらの層の膜厚を適切に選択し、上位準位と下位準位とのエネルギー差を適宜調節することにより、例えば3μm〜20μmの中赤外域での発振が可能なQCL1が実現される。
回折格子層34には、図3に示されるように、Y方向に沿って凹部と凸部とが周期Λで交互に繰り返し配列される凹凸パターンから成る回折格子34aが形成されている。なお、回折格子34aは、凸部となる回折格子層34上にレジストを周期Λの間隔でパターニングしたのち、凹部となる回折格子層34の一部をZ方向において周期的にエッチングすることによって形成される。周期Λは適宜設定されるものであり、この周期Λに対応するブラッグ波長の光のみが、回折格子にて選択的に反射されて、レーザ共振器内にて増幅される。これにより、QCL1は、このブラッグ波長のみでのシングルモードのレーザ光を発振する。回折格子層34の性能は、レーザ共振器内において前進する導波光と後進する導波光との結合の大きさを示す結合係数で表される。QCL1がシングルモードのレーザ光を良好に発振する為には、大きな結合係数が得られる回折格子34aを用いることが望ましい。従って、回折格子層34の材料としては、大きな結合係数を実現する為に有利な高屈折率の半導体が用いられる。一例では、回折格子層34には、例えばアンドープ又はn型のGaInAs等が用いられる。
コンタクト層36は、上部電極50との間で良好なオーミックコンタクトを実現する。コンタクト層36は、その良好なオーミックコンタクトの実現の為に、バンドギャップが小さく且つ半導体基板20に格子整合することが可能な材料を含むことが望ましい。コンタクト層36は、例えばn型のGaInAsである。なお、上部クラッド層35と上部電極50との間で良好なオーミックコンタクトが実現できる場合には、半導体積層30にコンタクト層36が設けられていなくてもよい。
図2に示す2つの電流ブロック部40は、半導体積層30に電流(キャリア)を狭窄するための電流狭窄層として機能する。2つの電流ブロック部40は、半導体積層30の両側面をそれぞれ埋め込んでいる。換言すれば、2つの電流ブロック部40は、半導体基板20の主面20a上において、半導体積層30の両側面上にそれぞれ配置されている。各電流ブロック部40には、アンドープ又は半絶縁性の半導体が用いられる。これらの半導体は、キャリアである電子に対して電気抵抗が高いので、電流ブロック部40の材料として好適である。半導体の半絶縁性は、例えばFe、Ti、Cr、及びCoといった遷移金属をIII−V化合物半導体に添加(ドープ)して、電子をトラップする深い準位を禁制帯中に形成することによって実現される。上記の遷移金属が添加されたIII−V化合物半導体は、電子に対して例えば105Ωcm以上の十分に高い電気抵抗特性を有する。上記の遷移金属としてはFeが好適である。なお、アンドープの半導体が電子に対して十分に高い電気抵抗性を有する場合には、アンドープの半導体を電流ブロック部40に適用してもよい。アンドープ又は半絶縁性のIII−V化合物半導体としては、例えばInP、GaInAs、AlInAs、GaInAsP、及びAlGaInAs等が挙げられる。これらの半導体は、半導体基板20と格子整合し、例えば分子線エピタキシー(MBE)及び有機金属気相成長法(OMVPE)等の一般的な成長方法を用いて成長される。
上部電極50及び下部電極60は、コア層33に電流を供給する為に設けられる。上部電極50及び下部電極60には、例えばTi/Au、Ti/Pt/Au、又はAu/Geが用いられる。上部電極50は、例えばカソード電極である。上部電極50は、半導体積層30の上面30a上(具体的にはコンタクト層36上)及び電流ブロック部40上に設けられる。下部電極60は、例えばアノード電極である。下部電極60は、半導体基板20の裏面20bと半田4との間に設けられる。下部電極60は、上部電極50に対してプラスの電位にある。
なお、コア層33と半導体基板20との間、及び、コア層33と上部クラッド層35との間に、光閉じ込め層が設けられてもよい。光閉じ込め層のバンドギャップは、半導体基板20及び上部クラッド層35のバンドギャップよりも小さく、コア層33のバンドギャップよりも大きい。これにより、バッファ層32から注入された電子は、光閉じ込め層によって阻止されること無く、コア層33へ効率よく注入される。上記のようなバンドギャップの大小関係が満たされる場合、光閉じ込め層の屈折率は、半導体基板20及び上部クラッド層35よりも大きく、コア層33の屈折率よりも小さい。従って、半導体基板20及び上部クラッド層35は、コア層33において発生した光を、コア層33及び光閉じ込め層に閉じ込めるように働き、その結果、コア層33への光の閉じ込めが強められる。光閉じ込め層は、コア層33への導波光の閉じ込めを強化するために、半導体基板20及び上部クラッド層35よりも高い屈折率を有しており且つ半導体基板20に格子整合することが可能な材料からなることが望ましい。光閉じ込め層には、例えばアンドープ又はn型のGaInAsが用いられる。
絶縁膜71は、半導体素子部10のY方向における後端面10a側に設けられている。具体的には、絶縁膜71は、積層端面30b及び基板端面20c上に設けられ、上部電極50上及び下部電極60上にわたって延びている。より詳細には、絶縁膜71は、積層端面30b及び基板端面20cを全て覆うと共に、上部電極50の後端面10a側の端部、及び下部電極60の後端面10a側の端部を全て覆う。後端面10a上の絶縁膜71のY方向の厚さは、上部電極50上の絶縁膜71のZ方向の厚さ、及び下部電極60上の絶縁膜71のZ方向の厚さよりも大きい。一例では、後端面10a上の絶縁膜71のY方向の厚さは、100nm〜200nmであり、上部電極50上及び下部電極60上の絶縁膜71のZ方向の厚さは、20nm〜30nmである。絶縁膜71は、例えばSiO2、SiON、SiN、Al2O3(アルミナ)、BCB樹脂、ポリイミド樹脂のうち少なくとも一つを含む誘電体膜である。
金属膜72は、絶縁膜71を介して積層端面30b及び基板端面20c上に設けられ、上部電極50上及び下部電極60上にわたって延びている。具体的には、金属膜72は、積層端面30b及び基板端面20cを全て覆うと共に、上部電極50の後端面10a側の端部、及び下部電極60の後端面10a側の端部を覆う。なお、上部電極50上の金属膜72の縁は、上部電極50上の絶縁膜71の縁に対して、Y方向における後端面10a側に設けられており、上部電極50に直接接触していない。また、下部電極60上の金属膜72の縁は、下部電極60上の絶縁膜71の縁に対して、Y方向における後端面10a側に設けられており、下部電極60に直接接触していない。金属膜72は、例えばAuを含み、例えば90%を超える高反射率を有する。
絶縁膜75は、金属膜72の一部を覆う。具体的には、絶縁膜75は、絶縁膜71及び金属膜72を介して基板端面20c上に設けられ、下部電極60上にわたって延びており、絶縁膜71及び金属膜72の一部を覆っている。当該一部は、絶縁膜71及び金属膜72における、基板端面20cのZ方向における裏面側に位置する部分上、及び下部電極60上に設けられる部分である。下部電極60上の絶縁膜75の縁は、下部電極60上の絶縁膜71の縁及び金属膜72の縁に対して、Y方向における前端面10b側に延びており、下部電極60と直接接触している。このように、絶縁膜75が絶縁膜71及び金属膜72を覆っているので、金属膜72は半田4と直接接触していない。下部電極60上且つ金属膜72上の絶縁膜75のZ方向の厚さは、例えば100〜300nmであり、より好ましくは、例えば150〜300nmである。絶縁膜75は、絶縁膜71と同じ材料から構成される誘電体膜であってもよく、絶縁膜71とは異なる材料から成る誘電体膜であってもよい。絶縁膜75は、例えばSiO2、SiON、SiN、アルミナ、BCB樹脂、ポリイミド樹脂のうち少なくとも一つを含む誘電体膜である。
以上の構成を備えるQCL1の作製方法の一例について、以下に説明する。図4(a)〜図4(c)、図5(a)〜図5(c)、図6、図7(a)及び図7(b)、並びに図8(a)及び図8(b)は、図1のQCL1の作製工程を示す図である。なお、図4(a)〜図4(c)並びに図6は、図1のIII−III線に沿ったYZ断面に対応する断面を示しており、図5(a)〜図5(c)は、XZ断面を示している。まず、半導体基板20となるウェハを準備する。そして、1回目の結晶成長工程にて、例えばMBE及びOMVPE等の成長方法を用いて、ウェハの主面上に、バッファ層32、コア層33、及び回折格子層34をこの順に結晶成長させる。その後、回折格子層34上にレジスト80を塗布する。続いて、図4(a)に示されるように、通常のフォトリソグラフィ技術によって回折格子34aのためのパターンをレジスト80に形成する。このとき、Y方向におけるレジスト80のパターンの幅をΛとする。続いて、回折格子層34に対してZ方向においてエッチングを行うことにより、図4(b)に示されるように、回折格子34aのための周期構造が回折格子層34上に形成される。
次に、2回目の結晶成長工程にて、図4(c)に示されるように、回折格子層34上に上部クラッド層35、及びコンタクト層36をこの順に結晶成長させる。次に、図5(a)に示されるように、通常のフォトリソグラフィ技術によって半導体積層30となる領域にマスク81を形成する。なお、半導体積層30となる領域とは、X方向における所定幅WMを有しており、QCL1のX方向における中央においてY方向に延在する領域である。なお、マスク81には、例えば絶縁膜71の材料と同じ材料が用いられる。すなわち、マスク81には、SiN、SiON、アルミナ、及びSiO2のうち少なくとも1つを含む誘電体材料が用いられる。
その後、このマスク81を用いて、コンタクト層36、上部クラッド層35、回折格子層34、コア層33、バッファ層32、及び半導体基板20に対してZ方向においてエッチングすることによって、図5(b)に示されるように、メサ状の半導体積層30が形成される。なお、半導体積層30のエッチングとしては、ドライエッチング又はウェットエッチングを適用することができるが、ドライエッチングを適用することが好ましい。その理由は、半導体積層30の所定幅WMは、QCL1の素子特性に大きく影響するので、垂直エッチング性に優れるドライエッチングによれば、所定幅WMを精度良く加工することができるからである。ドライエッチングとして、例えば反応性イオンエッチング(RIE)を使用できる。反応性イオンエッチングでは、プラズマ状のエッチングガスが用いられる。
次に、3回目の結晶成長工程にて、半導体積層30上にマスク81を残した状態にて、例えばFeを添加したInP等の半絶縁性の半導体層を成長する。このとき、図5(c)に示されるように、マスク81の上には結晶成長がされず、半導体積層30の両側面上の2つの領域(すなわち、図5(b)においてエッチングにより除去された部分に対応する2つの領域)をそれぞれ埋め込むように当該半導体層が成長される。このようにして、2つの電流ブロック部40が形成される。次に、マスク81を除去した後、図6に示されるように、半導体積層30の上面30a上に上部電極50を形成する。その後、研磨等によりウェハの厚さを劈開可能な厚さ(例えば100〜200μm)まで薄くした後、図6に示されるように、下部電極60を半導体基板20の裏面20b上に形成する。
以上の工程を経ると、図7(a)に示されるように、ウェハ全面において、複数のQCL1の半導体素子部10がX方向及びY方向にて整列した状態にて形成される。なお、図7(a)には、複数の半導体素子部10を個々に分割する際における各半導体素子部10間の境界線B1,B2が示されている。境界線B1は、X方向に沿っており、境界線B2は、Y方向に沿っている。そして、境界線B1にて複数の半導体素子部10を劈開することによって、境界線B1に沿ってウェハに亀裂を生じさせる。これにより、ウェハが境界線B1に沿って分割され、図7(b)に示されるようなチップバー85が形成される。チップバー85は、X方向に沿って配列される複数の半導体素子部10から成る。チップバー85は、X方向においてQCL1の後端面10aを含む端面85aを有する。
続いて、絶縁膜71及び金属膜72を端面85a上に成膜する工程について説明する。まず、図8(a)に示されるように、チップバー85の所望の領域に絶縁膜71を成膜する為に、2枚の保護板90を用意する。所望の領域とは、チップバー85の端面85aを含む一部の領域である。保護板90は、X方向を長手方向とする長方形薄板状を呈している。図8(a)に示されるように、1枚の保護板90を用いて、チップバー85の当該一部の領域を除く他の領域に含まれる上部電極50を全て覆う。そして、もう1枚の保護板90を用いて、チップバー85の当該他の領域に含まれる下部電極60を全て覆う。次に、端面85a上に絶縁膜71を成膜する。具体的には、例えばCVDやスパッタを用いて、絶縁膜71の構成原子を、端面85aと対向する側から端面85a上に堆積させる。端面85aと対向する側とは、端面85aの法線方向において端面85aと対向する位置を指す。このとき、絶縁膜71は、上部電極50上及び下部電極60上への回り込みにより、上部電極50上及び下部電極60上にも成膜される。このようにして、絶縁膜71がチップバー85の当該一部の領域に形成される。
続けて、金属膜72を端面85a上に成膜する。具体的には、例えば電子ビーム蒸着を用いて、金属膜72の構成原子を端面85aと対向する側から端面85a上に堆積させる。このとき、金属膜72は、上部電極50上及び下部電極60上への回り込みにより、上部電極50上及び下部電極60上の絶縁膜71上にも成膜される。このようにして、金属膜72がチップバー85の当該一部の領域に形成される。なお、金属膜72を成膜するときに用いる保護板90のY方向の長さは、絶縁膜71を成膜するときに用いる保護板90のY方向の長さよりも長い。これにより、上部電極50上の絶縁膜71の縁が、上部電極50上の金属膜72の縁に対して、Y方向における端面85aとは反対側に位置するので、金属膜72が上部電極50に直接接触することによる短絡の発生を防止することができる。
続いて、絶縁膜75を端面85a上に成膜する工程について説明する。まず、図8(b)に示されるように、下部電極60を保護板90により覆うと共に、上部電極50を覆っていた保護板90に代えて保護板91により上部電極50を覆う。保護板91のL字状に屈曲した部分は、端面85aにおける、絶縁膜75の縁が形成される位置に対してZ方向における上部電極50側に位置する部分を全て覆う。そして、保護板91の屈曲した部分を除く部分は、上部電極50を全て覆う。次に、端面85a上に絶縁膜75を成膜する。具体的には、例えばCVDやスパッタを用いて、絶縁膜75の構成原子を端面85aと対向する側から端面85a上に堆積させる。このとき、絶縁膜75は、下部電極60上への回り込みにより、下部電極60上の金属膜72上にも成膜される。このようにして、絶縁膜75が形成される。
最後に、Y方向に沿った境界線B2(図7(b)参照)に沿ってチップバー85を劈開することによって、境界線B2に沿ってウェハに亀裂を生じさせる。これにより、チップバー85が境界線B2に沿って個々に分割される。最終的に、図1に示したようなQCL1が形成される。
以上に説明した、本実施形態のQCL1によって得られる効果を、従来技術の課題と共に説明する。QCLは、例えば環境ガス分析、医療診断、及び産業加工といった今後高い成長が期待される技術分野において使用可能な光源として有望視されている。QCLは、中赤外域(例えば波長3μm〜30μm)のレーザ発振光を生成することが可能である。QCLは、小型化及び低コスト化を実現する光源として期待されおり、現在盛んに開発されている。特に、中赤外域で有望なガスセンシング分野においては、特定ガスの吸収線のみを検知する必要があることから、中赤外域における単一モード動作が可能なDFB型のQCLの開発が主流となっている。このようなQCLでは、原理上、LOフォノン散乱等に起因する非発光再結合が顕著に生じる為、QCLのレーザ発振に必要な閾値電流が数百mA〜数Aと増大し、これに伴い、QCLの消費電力も増大する。このような閾値電流の増大は、QCLの実用化を阻む一因である。そこで、このような閾値電流の増大を抑えるために、QCLのレーザ共振器を構成する端面に金属膜を設けることが考えられる。
ここで、金属膜が当該端面上に設けられたQCLの構造を比較例として説明する。図9は、比較例としてのQCL100の斜視図である。図10は、図9のX−X線に沿った断面図である。なお、各図には、理解の容易の為、XYZ直交座標系が示されている。また、このQCL100は、実際には例えばサブマウント上に半田4を介して実装されるので、図10には、QCL100の下に半田4が付着した状態が示されている。このQCL100の電流狭窄構造は、本実施形態のQCL1の構造と同様の埋め込みヘテロストラクチャーである。QCL100は、図9に示されるように、半導体素子部10と、絶縁膜71と、金属膜72とを備える。
QCL100と本実施形態のQCL1との相違点は、QCL100が絶縁膜75を備えていない点である。このQCL100を、半田4を介してサブマウント上に実装すると、下部電極60上の金属膜72が、半田4に接触する。このように金属膜72が半田4に接触した状態で、QCL100のレーザ発振の為に上部電極50と下部電極60との間に電圧(例えば10V以上の高電圧)が印加されると、下部電極60に印加された電圧が、半田4を介して金属膜72に印加される。その結果、上部電極50上の金属膜72と上部電極50との間に、絶縁膜71を介して当該電圧が印加される。
しかしながら、上部電極50上の絶縁膜71の厚さT2は、上述したように、後端面10a上の絶縁膜71の厚さT1よりも極めて薄くなり易いので、このような極めて薄い絶縁膜71を介して上部電極50上の金属膜72と上部電極50との間に例えば10V以上の高電圧が印加されると、その間の絶縁膜71が破壊されるおそれがある。その結果、絶縁膜71の破壊された部分を経由して後端面10a付近に大電流(いわゆる突入電流)が流れ、例えば端面破壊等の故障がQCL100に生じるおそれがある。なお、上部電極50上の絶縁膜71の厚さを厚くしようとすると、これに伴い、後端面10a上の絶縁膜71の厚さを更に厚く(例えば数倍程度)する必要がある。この場合、絶縁膜71を後端面10a上に成膜する時間が増大(例えば数倍程度)するので、QCL100の生産性が低下する。加えて、このような極めて厚い絶縁膜71が後端面10a上に成膜されると、その絶縁膜71に発生する応力が増大することによる後端面10aの劣化や、絶縁膜71の亀裂、絶縁膜71の後端面10aからの剥離等が生じるおそれがある。
これに対し、本実施形態のQCL1では、図3に示されるように、絶縁膜75が、金属膜72を介して基板端面20c上に設けられ、下部電極60上にわたって設けられる。加えて、絶縁膜75が、下部電極60上の金属膜72を全て覆っているので、金属膜72と半田4との間には絶縁膜75が介在する。これにより、金属膜72と半田4との接触を抑えることができる。すなわち、金属膜72と、下部電極60及び半田4とを互いに電気的に絶縁することができる。従って、上述したQCL1によれば、上部電極50上の金属膜72と上部電極50との間に絶縁膜71を介して当該電圧が印加されることを抑えることができ、当該電圧による絶縁膜71の破壊を抑えることができる。その結果、その絶縁膜71の破壊に起因する端面破壊等による、QCL1の素子特性の劣化を抑えることができる。なお、金属膜72が、QCL1のレーザ共振器内の導波光の大半が分布する積層端面30b上を少なくとも全て覆うことにより、金属膜72を、導波光を反射する高反射膜として好適に機能させることができる。これにより、QCL1の素子特性を改善する(例えば閾値電流の低減)ことができる。
また、本実施形態のように、絶縁膜71及び絶縁膜75の少なくとも一方は、SiO2、SiON、SiN、アルミナ、BCB樹脂、及びポリイミド樹脂のうち少なくとも一つを含んでもよい。これらは、優れた耐久性や絶縁性を有する。また、これらは、例えばスパッタ、CVD、又はスピンコートといった一般的な誘電体膜成膜方法を用いて容易に成膜される。すなわち、上述したQCL1の作製工程に絶縁膜71,75の成膜工程を容易に導入することができる。
また、本実施形態のように、金属膜72は、Auを含んでもよい。これにより、後端面10aにおいて、金属膜72を、例えば90%を超える反射率を有する高反射膜として有効に機能させることができる。
また、本実施形態のように、上部クラッド層35は、InP層でもよい。InPは、中赤外域の発振光に対して透明(光吸収を示さない)であるので、上部クラッド層35の材料として好適である。また、InPは2元混晶でありInPの半導体基板20に格子整合するので、InP層をInP基板上に良好に結晶成長させることができる。また、InPの熱伝導性は良好である為、上部クラッド層35を介してコア層33からの熱を良好に放出できる。これにより、QCL1の温度特性を高めることができる。
また、本実施形態のように、コア層33は、発光領域である複数の活性層と、活性層にキャリアを注入するための複数の注入層とを含み、活性層及び注入層が、Z方向に沿って交互に配列されていてもよい。このように活性層間に注入層を設けることにより、電子が隣り合う活性層に連続的にスムーズに受け渡されて、活性層内の伝導帯において電子がサブバンド間を遷移することによる発光が効率良く生じさせることができる。その結果、QCL1の発振特性を高めることができる。
また、本実施形態のように、活性層及び注入層は、それぞれGaInAs/AlInAsの超格子列を含んでもよい。この超格子列は、中赤外域の波長(例えば3〜20μm)に相当する、活性層内の伝導帯における電子のサブバンド間の遷移を提供できる。従って、中赤外域の波長の光を発振可能なQCL1のコア層33の材料として好適である。
また、本実施形態のように、半導体基板20は、InP基板でもよい。QCL1を構成する半導体積層30は、InPに近い格子定数を有する。従って、半導体基板20をInP基板とすることにより、半導体基板20上において半導体積層30を良好な結晶品質にて成長させることができる。また、InPは、中赤外域の光に対して透明であるので、InP基板をコア層33に対する下部クラッド層として機能させることができる。
(第1変形例)
図11は、上記実施形態の第1変形例によるQCL1Aの断面図である。なお、図11では、QCL1Aの半導体積層30を含むYZ断面を示している。また、QCL1Aは、実際には、上記実施形態のようにサブマウント3上に半田4を介して実装されるので、図11には、QCL1Aの下に半田4が付着した状態が示されている。本変形例と上記実施形態との相違点は、絶縁膜が設けられる範囲である。すなわち、本変形例による絶縁膜75Aは、上記実施形態の絶縁膜75の構成に加えて、基板端面20c上から積層端面30b上に延びている。具体的には、絶縁膜75Aは、絶縁膜71及び金属膜72を介して積層端面30b及び基板端面20cを全て覆っている。積層端面30b上の絶縁膜75AのY方向の厚さは、例えば100〜300nmである。このように絶縁膜75Aが積層端面30b上及び基板端面20c上に設けられることにより、絶縁膜71及び金属膜72の機械的強度を高めることができる。また、このように絶縁膜75Aが設けられた場合であっても、上記実施形態と同様に、金属膜72を高反射膜として有効に機能させることができる。
続いて、本変形例によるQCL1Aの作製方法の一例について、以下に説明する。本変形例によるQCL1Aの作製方法は、金属膜72を端面85a上に成膜する工程(図8(a)参照)までは上記実施形態と同じである。従って、以下では、その工程までの説明については省略し、端面85a上に絶縁膜75Aを成膜する工程以降の工程について説明する。図12は、図11のQCL1Aの作製工程を示す図である。まず、X方向を長手方向とする長方形薄板状を呈する保護板92を新たに用意する。保護板92のY方向の長さは、保護板90のY方向の長さよりも長くなっており、上部電極50を全て覆うことができる長さである。そして、図12に示されるように、下部電極60を保護板90により覆うと共に、上部電極50を覆っていた保護板90に代えて保護板92により上部電極50を全て覆う。このとき、保護板92は、上部電極50上の絶縁膜71及び金属膜72も全て覆う。
次に、端面85a上に絶縁膜75Aを成膜する。具体的には、例えばCVDやスパッタを用いて、絶縁膜75Aの構成原子を端面85aと対向する側から端面85a上に堆積させる。このとき、絶縁膜75Aは、端面85a上の全体にわたって成膜されると共に、下部電極60上への回り込みによって下部電極60上にも成膜される。なお、上部電極50上は保護板92に覆われているので、絶縁膜75Aは、上部電極50上には成膜されない。このようにして、端面85a上に絶縁膜75Aが形成される。その後の工程は、上記実施形態と同じであるので、説明を省略する。
図13は、本変形例の別の例によるQCL1Bの断面図である。図13では、QCL1Bの半導体積層30を含むYZ断面を示している。QCL1Bは、実際には、上記実施形態のようにサブマウント3上に半田4を介して実装されるので、図13には、QCL1Bの下に半田4が付着した状態が示されている。図13に示されるように、絶縁膜75Bは、上記実施形態の絶縁膜75の構成に加えて、積層端面30b上に延びており且つ上部電極50上にわたって延びている。すなわち、絶縁膜75Bは、絶縁膜71及び金属膜72を全て覆っている。絶縁膜75Bの縁は、上部電極50上の絶縁膜71及び金属膜72の縁に対して、Y方向における前端面10b側に延びており、上部電極50と直接接触している。
このように絶縁膜75Bが積層端面30b上及び上部電極50上に設けられることにより、上記の効果をより顕著に奏することができる。すなわち、本変形例によるQCL1Bによれば、絶縁膜71及び金属膜72の機械的強度を更に高めることができる。なお、QCL1Bの作製方法は、金属膜72を端面85a上に成膜する工程(図8(a)参照)までは上記実施形態と同じである。その工程の後、QCL1Bの作製方法では、上部電極50及び下部電極60を覆っていた保護板90に代えて、保護板90よりもY方向の長さが僅かに短い保護板により、上部電極50及び下部電極60を覆う。その後、端面85a上に絶縁膜75Bを成膜する。このとき、絶縁膜75Bは、上部電極50及び下部電極60上への回り込みにより、上部電極50及び下部電極60上の金属膜72上にも成膜される。このようにして、絶縁膜75Bが形成される。
(第2変形例)
図14は、上記実施形態の第2変形例によるQCL1Cの断面図である。なお、図14では、QCL1Cの半導体積層30を含むYZ断面を示している。本変形例と上記実施形態との相違点は、上部電極及び下部電極の厚さである。すなわち、本変形例の上部電極50A及び下部電極60Aの一部が薄くなっている。図14に示されるように、上面30aは、領域30c(第1領域)、及び、Y方向において積層端面30bと領域30cとの間に位置する領域30d(第2領域)を含む。領域30c及び領域30dは、Y方向に沿って配列されている。領域30cは、上面30aの領域30dを除く領域であり、前端面10bに繋がっている。領域30dは、上面30aのY方向における一端部に設けられる領域であり、後端面10aに繋がっている。上部電極50Aは、領域30c上及び領域30d上に設けられる。領域30d上に設けられる上部電極50Aの厚さは、領域30c上に設けられる上部電極50Aの厚さよりも薄い。
また、裏面20bは、領域20f(第3領域)、及び、Y方向において基板端面20cと領域30cとの間に位置する領域20g(第4領域)を含む。領域20f及び領域20gは、Y方向に沿って配列されている。領域20fは、裏面20bの領域20gを除く領域であり、前端面10bに繋がっている。領域20gは、裏面20bのY方向における一端部に設けられる領域であり、後端面10aに繋がっている。下部電極60Aは、領域20f上及び領域20g上に設けられる。領域20g上に設けられる下部電極60Aの厚さは、領域20f上に設けられる下部電極60Aの厚さよりも薄い。
領域30c上に設けられる上部電極50AのZ方向の厚さ、及び領域20f上に設けられる下部電極60AのZ方向の厚さは、QCL1Cの放熱性の低下を抑制する為に、例えば5μm〜10μmの厚さに設定される。これに対して、領域30d上に設けられる上部電極50AのZ方向の厚さ、及び領域20g上に設けられる下部電極60AのZ方向の厚さは、例えば0.5〜1μmである。また、領域30d上に設けられる上部電極50AのY方向の長さ(すなわち領域30dのY方向の長さ)、及び、領域20g上に設けられる下部電極60AのY方向の長さ(すなわち領域20gのY方向の長さ)は、例えば10〜100μmである。
絶縁膜71、絶縁膜75、及び金属膜72は、領域20g上から領域20f上にわたって延びる。絶縁膜71及び金属膜72は、更に、領域30d上から領域30c上にわたって延びる。絶縁膜71には、領域30c上に設けられる上部電極50Aと、領域30d上に設けられる上部電極50Aとの間の境界付近に段差部71aが形成されている。また、絶縁膜71には、領域20f上に設けられる下部電極60Aと、領域20g上に設けられる下部電極60Aとの間の境界付近に段差部71bが形成されている。一例では、段差部71a及び段差部71bは、Y方向と直交する。
このように劈開面となる後端面10a(すなわち積層端面30b及び基板端面20c)の近傍の上部電極50A及び下部電極60Aの厚さを薄くすることによって、後端面10aにおいて容易に劈開することができる。その結果、QCL1Cを作製する際の歩留りを高めることができる。また、領域30c上に設けられる上部電極50Aの厚さよりも、領域30d上に設けられる上部電極50Aの厚さの方が薄いので、領域30c上に設けられる上部電極50Aの電気抵抗よりも、領域30d上に設けられる上部電極50Aの電気抵抗の方が大きくなる。また、領域20f上に設けられる下部電極60Aの厚さよりも、領域20g上に設けられる下部電極60Aの厚さの方が薄いので、領域20f上に設けられる下部電極60Aの電気抵抗よりも、領域20g上に設けられる下部電極60Aの電気抵抗の方が大きくなる。これにより、後端面10aの近傍を流れるリーク電流を低減することができる。その結果、QCL1Cの素子特性を向上させる(例えば閾値電流を低減する)ことができる。また、このように領域30d上に設けられる上部電極50Aの厚さ、及び領域20g上に設けられる下部電極60Aの厚さを薄くした場合であっても、上記実施形態の効果と同様の効果を好適に奏することができる。
続いて、本変形例によるQCL1Cの作製方法の一例について、以下に説明する。本変形例によるQCL1Cの作製方法は、2つの電流ブロック部40を形成する3回目の結晶成長工程(図5(c)参照)までは上記実施形態と同じである。従って、その工程までの説明については省略し、半導体積層30上に上部電極50Aを形成する工程以降の工程について説明する。図15(a)〜図15(c)は、図14のQCL1Cの作製工程を示す図である。なお、図15(a)〜図15(c)は、QCL1Cの半導体積層30を含むYZ断面を示している。まず、図15(a)に示されるように、半導体積層30の上面30aの全面上に、上部電極50Aとなる金属膜51を薄く形成する。その後、領域30d上に設けられる金属膜51を覆うようにレジスト86をパターニングする。
次に、図15(b)に示されるように、薄く形成された金属膜51上に、更に金属膜51を形成する。このとき、レジスト86上には金属膜51は形成されないので、領域30c上に設けられる金属膜51上にのみ更に金属膜51が形成される。その結果、領域30d上に設けられる金属膜51の厚さが、領域30c上に設けられる金属膜51の厚さよりも小さくなる。このようにして、上部電極50Aが上面30a上に形成される。次に、図15(c)に示されるように、レジスト86を除去する。続いて、上部電極50Aを形成する工程と同じようにして、半導体基板20の裏面20b上に下部電極60Aを形成する。その後の工程は、上記実施形態と同じであるので、説明を省略する。
ここで、端面85aと対向する側から端面85a上に金属膜72を成膜する際に、金属膜72を構成する金属粒子が段差部71aにて跳ね返されるので、金属膜72が、領域30c上に設けられる上部電極50A上に回り込み難くなる。これにより、金属膜72が、領域30c上に設けられる上部電極50A上に成膜され難くなるので、金属膜72と上部電極50Aとの電気的な絶縁をより確実にすることができる。また、このとき、金属膜72を構成する金属粒子が段差部71bにも跳ね返されるので、金属膜72が、領域20f上に設けられる下部電極60A上に回り込み難くなる。これにより、金属膜72が、領域20f上に設けられる下部電極60A上に成膜され難くなるので、金属膜72と下部電極60Aとの電気的な絶縁をより確実にすることができる。すなわち、本変形例のQCL1Cによれば、後端面10a近傍の絶縁性を高めることができ、後端面10a近傍の絶縁膜71の破壊を抑えることができる。
なお、本変形例では、領域30d上に設けられる上部電極50A、及び領域20g上に設けられる下部電極60Aの両方の厚さが、領域30c上に設けられる上部電極50A、及び領域20f上に設けられる下部電極60Aの厚さよりもそれぞれ薄い場合を例示したが、領域30d上に設けられる上部電極50Aのみが、領域30c上に設けられる上部電極50Aよりも薄くてもよく、領域20g上に設けられる下部電極60Aのみが、領域20f上に設けられる下部電極60Aよりも薄くてもよい。このような場合であっても、上記の効果を好適に奏することができる。
図16は、本変形例の別の例によるQCL1Dの断面図である。図16に示されるように、上部電極50Aが、領域30c上のみに設けられており、下部電極60Aが、領域20f上のみに設けられてもよい。すなわち、上部電極50Aは、領域30d上には設けられておらず、下部電極60Aは、領域20g上には設けられていない。絶縁膜71、絶縁膜75、及び金属膜72は、領域20g上から領域20f上にわたって延びる。絶縁膜71及び金属膜72は、更に、領域30d上から領域30c上にわたって延びる。
このように上部電極50A及び下部電極60Aが、後端面10aの近傍に設けられないようにすることにより、上記の効果をより顕著に奏することができる。すなわち、このQCL1Dによれば、後端面10aにおいて更に容易に劈開することができる。その結果、QCL1Dを作製する際の歩留りを更に高めることができる。また、上部電極50A及び下部電極60Aが、後端面10aの近傍には設けられていないので、後端面10aの近傍の電気抵抗をより大きくすることができる。これにより、後端面10aの近傍を流れるリーク電流を更に低減することができる。その結果、QCL1Dの素子特性を更に向上させる(例えば閾値電流を低減する)ことができる。
なお、QCL1Dを作製する際には、上記実施形態の2つの電流ブロック部40を形成する3回目の結晶成長工程(図5(c)参照)の後、以下の工程を経る。図17(a)〜図17(c)は、図16のQCL1Dの作製工程を示す図である。なお、図17(a)〜図17(c)では、QCL1Dの半導体積層30を含むYZ断面を示している。まず、図17(a)に示されるように、領域30dを覆うようにレジスト87をパターニングする。次に、図17(b)に示されるように、蒸着等により領域30c上及びレジスト87上に上部電極50Aとなる金属膜52を形成する。次に、図17(c)に示されるように、レジスト87をリフトオフにより除去する。これにより、レジスト87と、レジスト87上に形成された金属膜52とが同時に除去される。このようにして、上部電極50Aが上面30a上に形成される。
続いて、上部電極50Aを形成する工程と同じようにして、半導体基板20の裏面20b上に下部電極60Aを形成する。このようにして、本変形例によるQCL1Dの半導体素子部10Aが完成する。その後の工程は、上記実施形態と同じであるので、説明を省略する。なお、QCL1Dでは、上部電極50A及び下部電極60Aの両方が、領域30c上及び領域20f上にのみそれぞれ設けられている場合を例示したが、上部電極50Aが領域30c上のみに設けられる構成、下部電極60Aが領域20f上のみに設けられる構成のうちいずれか一方のみを採用してもよい。このような場合であっても、上記の効果を好適に奏することができる。
(第3変形例)
図18は、上記実施形態の第3変形例によるQCL1Eの断面図である。なお、図18では、QCL1Eの半導体積層30を含むYZ断面を示している。本変形例と上記実施形態との相違点は、金属膜が設けられる範囲である。すなわち、本変形例による金属膜72Aは、図18に示されるように、下部電極60上には設けられておらず、後端面10a上及び上部電極50上のみに設けられている。このように金属膜72Aが下部電極60上に設けられないことにより、金属膜72Aと下部電極60とをより確実に互いに電気的に絶縁することができる。その結果、上部電極50上の金属膜72Aと上部電極50との間に、絶縁膜71を介してレーザ発振の為の電圧が印加されることを更に抑えることができる。すなわち、当該電圧による絶縁膜71の破壊を更に抑えることができる。これにより、その絶縁膜71の破壊に起因する端面破壊等によるQCL1Eの素子特性の劣化を更に抑えることができる。
続いて、本変形例によるQCL1Eの作製方法の一例について、以下に説明する。本変形例によるQCL1Eの作製方法は、絶縁膜71を端面85a上に成膜する工程(図8(a)参照)までは上記実施形態と同じである。従って、以下では、その工程までの説明については省略し、端面85a上に金属膜72Aを成膜する工程以降の工程について説明する。まず、上記の第1変形例にて用いた保護板92を用意する。上部電極50を保護板90により覆うと共に、下部電極60を覆っていた保護板90に代えて保護板92により下部電極60を全て覆う。このとき、保護板92は、下部電極60上の絶縁膜71も覆う。
次に、端面85a上に金属膜72Aを成膜する。具体的には、例えば電子ビーム蒸着を用いて、金属膜72Aの構成原子を端面85aと対向する側から端面85a上に堆積させる。このとき、金属膜72Aは、上部電極50上への回り込みにより、上部電極50上にも成膜される。なお、下部電極60は、保護板92により覆われているので、金属膜72Aは、下部電極60上には成膜されない。このようにして、金属膜72Aが形成される。その後の工程は、上記実施形態と同じであるので、説明を省略する。
なお、上記のQCL1Eの作製方法では、保護板92を使用して金属膜72Aを形成したが、保護板92を使用せずに金属膜72Aを形成することもできる。この場合、端面85a上に絶縁膜71を成膜する工程の後、続けて金属膜72Aを端面85a上に成膜する。このとき、金属膜72Aの構成原子を、端面85aと対向する側よりも高い位置から端面85a上に堆積させる。すなわち、当該構成原子を端面85aのY方向に沿った法線方向に対して斜め上方から端面85a上の絶縁膜71上に堆積させる。これにより、金属膜72Aは、下部電極60上へ回り込まないので、下部電極60上に成膜されない。
図19は、本変形例の別の例によるQCL1Fの断面図である。なお、図19では、QCL1Fの半導体積層30を含むYZ断面を示している。本変形例によるQCL1Fでは、図19に示されるように、金属膜72Aに加えて絶縁膜71Aも、下部電極60上には設けられておらず、後端面10a上及び上部電極50上のみに設けられている。このように絶縁膜71Aが下部電極60上に設けられない場合であっても、上記と同様の効果を奏することができる。なお、QCL1Fを作製する際には、チップバー85を形成する工程(上記実施形態の図7(b)参照)の後、以下の工程を経る。まず、上部電極50を保護板90により覆うと共に、下部電極60を保護板92により全て覆う。このとき、保護板92は、Y方向において下部電極60に隣接する、絶縁膜71のZ方向における縁も覆う。その後、端面85a上に絶縁膜71A及び金属膜72Aを続けて成膜する。このようにして、絶縁膜71A及び金属膜72Aが形成される。その後の工程は、上記実施形態と同じであるので、説明を省略する。
(第4変形例)
図20は、上記実施形態の第4変形例によるQCL1Gの断面図である。なお、図20では、QCL1Gの半導体積層30を含むYZ断面を示している。本変形例と上記実施形態との相違点は、本変形例によるQCL1Gが、絶縁膜76(第3絶縁膜)を更に備える点である。QCL1Gでは、絶縁膜76は、Z方向において上部電極50と絶縁膜71との間に設けられており、上部電極50及び絶縁膜71に接している。また、絶縁膜76のY方向における一端は、後端面10aを含む平面内に含まれており、絶縁膜76の他端は、当該平面からY方向における前端面10b側に向かって延びている。絶縁膜76上には、上部電極50上の絶縁膜71の縁及び金属膜72の縁が位置している。すなわち、絶縁膜71及び金属膜72は、絶縁膜76の当該平面側の一部を覆っている。なお、絶縁膜76上において、金属膜72の縁は、絶縁膜71の縁に対してY方向における当該平面側に位置している。
また、絶縁膜76のZ方向の厚さは、上部電極50上の絶縁膜71のZ方向の厚さの厚さよりも厚い。絶縁膜76のZ方向の厚さは、例えば100nm以上であり、より好ましくは、例えば150nm以上である。絶縁膜76は、絶縁膜71と同じ材料から成る誘電体膜であってもよく、絶縁膜71とは異なる材料から成る誘電体膜であってもよい。絶縁膜76は、例えばSiO2、SiON、SiN、アルミナ、BCB樹脂、ポリイミド樹脂のうち少なくとも一つを含む誘電体膜である。SiN及びSiONは、上部電極50との密着性が良好な為、絶縁膜76の材料に用いられる。
このように上部電極50と金属膜72との間に絶縁膜71に加えて絶縁膜76が設けられることにより、その間の絶縁領域(すなわち絶縁膜71と絶縁膜76とから成る領域)を十分に確保することができる。すなわち、上部電極50と金属膜72との間の絶縁耐性を高めることができる。これにより、仮に、レーザ光の発振の為の電圧(例えば10V以上の高電圧)が、上部電極50と金属膜72との間に印加された場合であっても、当該電圧による絶縁膜71,76の破壊を抑えることができる。すなわち、その絶縁膜71,76の破壊に起因する端面破壊等によるQCL1Gの素子特性の劣化をより確実に抑えることができる。
続いて、本変形例によるQCL1Gの作製方法の一例について、以下に説明する。本変形例によるQCL1Gの作製方法は、3回目の結晶成長工程(上記実施形態の図5(c)参照)までは上記実施形態と同じであるので、それまでの工程の説明については省略する。図21(a)〜図21(c)は、図20のQCL1Gの作製工程を示す図である。なお、図21(a)〜図21(c)では、QCL1Gの半導体積層30を含むYZ断面を示している。QCL1Gの作製方法では、3回目の結晶成長工程の後、マスク81を除去し、図21(a)に示されるように、上面30a上に上部電極50を形成する。その後、図21(b)に示されるように、絶縁膜76となる絶縁膜77を上部電極50上に形成する。次に、上部電極50の、絶縁膜76が形成される領域上に、レジスト88をパターニングする。次に、絶縁膜77に対してZ方向においてエッチングすると、レジスト88に保護された絶縁膜77のみが、上部電極50上に残存する。その後、レジスト88を除去すると、図21(c)に示されるように、上部電極50上に絶縁膜76が形成される。その後の工程は、上記実施形態と同じであるので、説明を省略する。
(第5変形例)
図22は、第5変形例によるQCL1Hの断面図である。なお、図22では、QCL1Hの半導体積層30を含むYZ断面を示している。本変形例と上記実施形態との相違点は、本変形例によるQCL1Hが、絶縁膜78(第4絶縁膜)を更に備える点である。なお、QCL1Hは、第4変形例の絶縁膜76も備えている。QCL1Hでは、絶縁膜78は、Z方向において下部電極60と絶縁膜71との間に設けられており、下部電極60及び絶縁膜71に接している。また、絶縁膜78のY方向における一端は、後端面10aを含む平面内に含まれており、絶縁膜78の他端は、当該平面からY方向における前端面10b側に向かって延びている。絶縁膜78上には、下部電極60上の絶縁膜71の縁及び金属膜72の縁が位置している。すなわち、絶縁膜71及び金属膜72は、絶縁膜78の当該平面側の一部を覆っている。なお、絶縁膜78上において、金属膜72の縁は、絶縁膜71の縁に対してY方向における当該平面側に位置している。
また、絶縁膜78のZ方向の厚さは、下部電極60上の絶縁膜71のZ方向の厚さの厚さよりも厚い。絶縁膜78のZ方向の厚さは、例えば100nm以上であり、より好ましくは、例えば150nm以上である。絶縁膜78は、絶縁膜71と同じ材料から成る誘電体膜であってもよく、絶縁膜71とは異なる材料から成る誘電体膜であってもよい。すなわち、絶縁膜78は、例えばSiO2、SiON、SiN、アルミナ、BCB樹脂、ポリイミド樹脂のうち少なくとも一つを含む誘電体膜である。SiN及びSiONは、下部電極60との密着性が良好な為、絶縁膜78の材料に用いられる。
このように、下部電極60と金属膜72との間に、絶縁膜71に加えて絶縁膜78が設けられることにより、その間の絶縁領域(すなわち絶縁膜71と絶縁膜78とから成る領域)を十分に確保することができる。すなわち、下部電極60と金属膜72との間の絶縁耐性を高めることができる。これにより、仮に、レーザ発振の為の電圧(例えば10V以上の高電圧)が、下部電極60と金属膜72との間に印加された場合であっても、当該電圧による絶縁膜71,78の破壊を抑えることができる。すなわち、その絶縁膜71,78の破壊に起因する端面破壊等によるQCL1Hの素子特性の劣化をより確実に抑えることができる。
なお、QCL1Hを作製する際には、上部電極50上に絶縁膜76を形成する工程(図21(a)〜図21(c)参照)の後、この工程と同じようにして、下部電極60上に絶縁膜78を形成する。その後の工程は、上記実施形態と同じであるので、説明を省略する。
本発明の量子カスケード半導体レーザは、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上述した実施形態及び各変形例を、必要な目的及び効果に応じて互いに組み合わせてもよい。また、上述した実施形態及び各変形例では、絶縁膜及び金属膜が、半導体素子部のY方向における後端面側にのみ設けられていたが、絶縁膜及び金属膜は、半導体素子部の前端面側にのみ設けられてもよく、半導体素子部の前端面及び後端面の両方に設けられてもよい。また、上述した実施形態及び各変形例では、QCLは埋め込みヘテロストラクチャーを有していたが、例えば半導体積層30の両側面上に絶縁膜(例えばSiO2等の誘電体膜)を成膜したハイメサ構造等の他の任意の構造を有してもよい。また、上述した実施形態及び各変形例では、回折格子層34を有するDFB型のQCLを説明したが、これに限定されることはない。すなわち、上述した実施形態及び各変形例は、例えば回折格子層34を有さないファブリーペロー(FP)型のQCLにも同様に適用できる。このFP型のQCLは、DFB型のQCLと同様の改善を提供できる。また、上述した実施形態及び各変形例では、上部電極がカソード電極であり、下部電極がアノード電極である場合を例示したが、上部電極がアノード電極であり、下部電極がカソード電極であってもよく、この場合にも上述した実施形態及び各変形例の効果と同様の効果が得られる。