以下、本発明に係る蒸気タービンの各種実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
「第一実施形態」
本発明に係る蒸気タービンの第一実施形態について、図1〜図4を参照して説明する。
第一実施形態の蒸気タービン、図1に示すように、軸線Arを中心として回転するタービンロータ10と、タービンロータ10を覆うケーシング30と、ケーシング30に固定されている複数の静翼列22と、を備えている。なお、以下では、軸線Arが延びる方向を軸線方向Da、軸線Arを中心とした周方向を単に周方向Dcとし、軸線Arに対して垂直な方向を径方向Drとする。さらに、この径方向Drで軸線Arの側を径方向内側Dri、その反対側を径方向外側Droとする。
タービンロータ10は、軸線Arを中心として軸線方向Daに延びるロータ軸11と、このロータ軸11に取り付けられている複数の動翼列12と、を有する。タービンロータ10は、軸線Arを中心として回転可能に軸受46で支持されている。複数の動翼列12は、軸線方向Daに並んでいる。各動翼列12は、いずれも、周方向Dcに並んでいる複数の動翼14で構成される。
ケーシング30は、内側ケーシング31と、外側ケーシング32とを有する。内側ケーシング31は、軸線Arを中心としてほぼ円柱状の空間を形成する。タービンロータ10の複数の動翼列12は、この円柱状の空間内に配置され、軸線方向Daに並んでいる。複数の静翼列22のそれぞれは、複数の動翼列12のうちいずれか一の動翼列12の軸線上流側Dauに配置されている。複数の静翼列22は、内側ケーシング31に固定されている。
外側ケーシング32は、内側ケーシング31の外周側を覆う円筒状の胴部39と、蒸気が流入する流入部33iと、蒸気を排気する排気部33oと、を有する。胴部39には、内側ケーシング31が固定されている。流入部33iは、蒸気を受け入れる流入管部34iと、軸線Arを中心として環状の流入スクロール流路37iが形成されている流入スクロール部36iと、を有する。流入スクロール部36iは、胴部39の軸線方向Daの一方側に固定されている。流入スクロール流路37iは、筒状の内側ケーシング31の内周側空間である円柱状の空間と連通している。流入管部34iは、蒸気の流入口35iを有している。この流入口35iは、流入スクロール流路37iと連通している。排気部33oは、蒸気を排気する排気管部34oと、軸線Arを中心として環状の排気スクロール流路37oが形成されている排気スクロール部36oと、を有する。排気スクロール部36oは、胴部39の軸線方向Daの他方側に固定されている。排気スクロール流路37oは、筒状の内側ケーシング31の内周側空間である円柱状の空間と連通している。排気管部34oは、蒸気の排気口35oを有している。この排気口35oは、排気スクロール流路37oと連通している。なお、以下では、軸線方向Daで、胴部39を基準にして流入部33iが設けられている側を軸線上流側Dauとし、胴部39を基準として排気部33oが設けられている側を軸線下流側Dadとする。
流入部33iの径方向内側Driでロータ軸11の径方向外側Droには、軸シール45が設けられている。また、排気部33oの径方向内側Driでロータ軸11の径方向外側Droにも、軸シール45が設けられている。これらの軸シール45は、外側ケーシング32から突出するロータ軸11と外側ケーシング32との間の隙間をシールする。流入部33iに設けられている軸シール45よりも軸線上流側Dauには、軸受46が設けられている。また、排気部33oに設けられている軸シール45よりも軸線下流側Dadにも、軸受46が設けられている。
一の静翼列22を構成する複数の静翼24は、図2に示すように、翼形を成して径方向Drに延びる翼体25と、この翼体25の径方向内側Driに固定されている内側シュラウド(又はハブシュラウド)27と、この内側シュラウド27の径方向内側Driに固定されている漏れ蒸気シール29と、を有する。翼体25の径方向外側Droの端は内側ケーシング31に固定されている。漏れ蒸気シール29は、静翼24の径方向内側Driとロータ軸11の径方向外側Droとの間をシールする。
但し、複数の静翼列22のうち、最も軸線上流側Dauの静翼列22である最上流段静翼列22aを構成する複数の静翼24は、図1に示すように、翼体25を有するものの、内側シュラウド27及び漏れ蒸気シール29を有していない。最上流段静翼列22aを構成する複数の静翼24の翼体25の径方向内側Driには、内側ケーシング31の一部又は外側ケーシング32の一部が配置されている。この静翼24の翼体25の径方向内側Driの端は、この内側ケーシング31の一部又は外側ケーシング32の一部に固定されている。よって、蒸気は、この静翼24の径方向内側Driを流れない。
一の動翼列12を構成する複数の動翼14は、図2に示すように、翼形を成して径方向Drに延びる翼体15と、この翼体15の径方向内側Driに固定されているプラットフォーム17と、この翼体15の径方向外側Droに固定されている外側シュラウド(又はチップシュラウド)18と、を有する。プラットフォーム17は、ロータ軸11に固定されている。この外側シュラウド18と径方向Drで対向する内側ケーシング31の位置には、漏れ蒸気シール19が固定されている。この漏れ蒸気シール19は、動翼14の径方向外側Droと内側ケーシング31の径方向内側Driとの間をシールする。なお、以上で説明した漏れ蒸気シール19,29は、回転物(ロータ軸11、又は動翼14の外側シュラウド18)と静止物(静翼24の内側シュラウド27、又は内側ケーシング31)とのうち、静止物に設けられている。しかしながら、漏れ蒸気シール19,29は、静止物に設けられても、回転物と静止物との両方に設けられてもよい。
最上流段静翼列22aを除く各静翼列22を構成する複数の静翼24の内側シュラウド27と、内側ケーシング31で静翼列22と径方向Drで対向する部分の間は、軸線Arを中心として環状の空間を形成する。この環状の空間は、タービンロータ10の回転に寄与する蒸気が流れる主蒸気流路40の一部を形成する。また、一の動翼列12を構成する複数の動翼14のプラットフォーム17と外側シュラウド18との間も、軸線Arを中心として環状の空間を形成する。この環状の空間も、タービンロータ10の回転に寄与する蒸気が流れる主蒸気流路40の一部を形成する。すなわち、主蒸気流路40は、軸線Arを中心として環状を成し、軸線方向Daに長い流路である。この主蒸気流路40の外周縁は、内側ケーシング31の一部と動翼14の外側シュラウド18とにより画定される。また、この主蒸気流路40の内周縁は、静翼24の内側シュラウド27と動翼14のプラットフォーム17とにより画定される。
翼列12,22のハブ径Rh及び平均径Raについて、図2を参照して説明する。
翼列12,22のハブ径Rhとは、この翼列12,22を構成する翼体15,25の後縁16,26における径方向内側Driの端と軸線Arとの間の径方向Drの距離である。よって、動翼列12のハブ径Rhとは、この動翼列12を構成する動翼14の翼体15で、この翼体15の後縁16とこの動翼14のプラットフォーム17とが交わる位置(径方向内側Driの端)と軸線Arとの間の径方向Drの距離である。また、静翼列22のハブ径Rhとは、この静翼列22を構成する静翼24の翼体25で、この翼体25の後縁26と内側シュラウド27とが交わる位置(径方向内側Driの端)と軸線Arとの間の径方向Drの距離である。但し、最上流段静翼列22aのハブ径Rhは、この静翼列22aを構成する静翼24の翼体25で、この翼体25の後縁26と、この翼体25の径方向内側Driに存在するケーシング30の一部とが交わる位置(径方向内側Driの端)と軸線Arとの間の径方向Drの距離である。
ところで、翼体15,25の後縁16,26における径方向内側Driの端は、この翼体15,25の後縁16,26における主蒸気流路40の内周側縁と一致する。よって、翼列12,22のハブ径Rhは、この翼列12,22を構成する翼体15,25の後縁16,26における主蒸気流路40の内半径である、とも言える。
翼列12,22の平均径Raとは、この翼列12,22を構成する翼体15,25の後縁16,26における径方向内側Driの端と径方向外側Droの端との中点Mと軸線Arとの間の径方向Drの距離である。よって、動翼列12の平均径Raとは、この動翼列12を構成する動翼14の翼体15で、この翼体15の中点Mと軸線Arとの間の径方向Drの距離である。なお、動翼14の翼体15における中点Mとは、翼体15の後縁16とこの動翼14のプラットフォーム17とが交わる位置(径方向内側Driの端)と、翼体15の後縁16とこの動翼14の外側シュラウド18とが交わる位置(径方向外側Droの端)との中点である。また、静翼列22の平均径Raとは、この静翼列22を構成する静翼24の翼体25で、この翼体25の中点Mと軸線Arとの間の径方向Drの距離である。なお、静翼24の翼体25における中点Mとは、翼体25の後縁26とこの静翼24の内側シュラウド27とが交わる位置(径方向内側Driの端)と、翼体25の後縁26と内側ケーシング31とが交わる位置(径方向外側Droの端)との中点である。但し、最上流段静翼列22aを構成する静翼24の翼体25における中点Mは、翼体25の後縁26とこの静翼24の径方向内側Driに存在するケーシング30の一部とが交わる位置(径方向内側Driの端)と、翼体25の後縁26とこの静翼24の径方向外側Droに存在する内側ケーシング31とが交わる位置(径方向外側Droの端)との中点である。
翼列12,22のチップ径Rtとは、この翼列12,22を構成する翼体15,25の後縁16,26における径方向外側Droの端と軸線Arとの間の径方向Drの距離である。
ところで、翼列12,22を構成する翼体15,25の後縁16,26における径方向外側Droの端は、この翼体15,25の後縁16,26における主蒸気流路40の外周側縁と一致する。よって、翼列12,22のチップ径Rtは、この翼列12,22を構成する翼体15,25の後縁16,26における主蒸気流路40の外半径である、とも言える。なお、前述の翼列12,22の平均径Raは、この翼列12,22のハブ径Rhとチップ径Rtの平均値である。
本実施形態では、翼列12,22のハブ径Rhが、複数の翼列12,22のうち、最も軸線上流側Dauの翼列である最上流段翼列22aから下流段側になるに連れて、次第に小さくなった後、次第に大きくなっている。このため、本実施形態では、動翼列12のハブ径Rhが、複数の動翼列12のうち、最も軸線上流側Dauの動翼列12である最上流段動翼列12aから下流段側になるに連れて、次第に小さくなった後、次第に大きくなっている。さらに、本実施形態では、静翼列22のハブ径Rhが、最上流段静翼列22aから下流段側になるに連れて、次第に小さくなった後、次第に大きくなっている。最上流段静翼列22aのハブ径Rhは、最上流段動翼列12aのハブ径Rhよりも大きい。本実施形態では、各翼列12,22のハブ径Rhのうち、最も軸線下流側Dadの動翼列12である最下流段動翼列12bのハブ径Rhが最大である。
発明者は、主蒸気流路40の形状パターンとして、互い異なる複数の形状パターンを用意し、各形状パターンに関して、計算により効率損失を求めた。その上で、発明者は、複数の形状パターンのうちから、効率損失を少なくできる形状パターンを選び出した。この結果、発明者は、主蒸気流路40の形状を定めるパラメータとなるハブ径Rhや平均径Raが、軸線方向Daの位置に変化に伴って、以上で説明したように変化することにより、効率損失を少なくできることが分かった。
発明者は、効率損失を少なくできる理由が、以下の理由であると考える。
蒸気タービンの効率損失の種類としては、翼列損失、漏れ流れ損失、風損がある。翼列損失は、翼列12,22を構成する翼体15,25の翼面での損失である。漏れ流れ損失は、主蒸気流路40から蒸気が漏れこと、及び漏れた蒸気が主蒸気流路40に戻ることにより生じる損失である。主蒸気流路40を流れている蒸気の一部は、図2に示すように、この主蒸気流路40から、静翼24の内側シュラウド27とロータ軸11との間に漏れ蒸気として流入し、その後、主蒸気流路40に戻る。また、主蒸気流路40を流れている蒸気の一部は、この主蒸気流路40から、動翼14の外側シュラウド18と内側ケーシング31との間に漏れ蒸気として流入し、その後、主蒸気流路40に戻る。漏れ流れ損失は、以上のように、漏れ蒸気が存在することによる損失である。風損は、蒸気の流れに対して相対回転する回転壁面と蒸気との間の摩擦による損失である。この風損は、主として、静翼24の内側シュラウド27とロータ軸11との間、及び、動翼14の外側シュラウド18と内側ケーシング31との間で生じる。
ここで、主蒸気流路40の形状パターンに関する比較例及び一実施例の翼列損失、漏れ流れ損失、及び風損について、図3及び図4を参照して説明する。なお、以下の説明において、各部材等には、便宜上、上記実施形態における各部材等の符号と同じ符号を付す。図3及び図4中の横軸は、軸線方向Daの位置を示す。また、s1は最上流段静翼列22aの後縁26の軸線方向Daの位置、m1は最上流段動翼列12aの後縁16の軸線方向Daの位置を示す。s2は第二段静翼列22の後縁26の軸線方向Daの位置、m2は第二段動翼列12の後縁16の軸線方向Daの位置を示す。s(r−1)は最下流段静翼列22bより一つ軸線上流側Dauの静翼列22の後縁26の軸線方向Daの位置、m(r−1は最下流段動翼列12bより一つ上流側の動翼列12の後縁16の軸線方向Daの位置を示す。srは最下流段静翼列22bの後縁26の軸線方向Daの位置、mrは最下流段動翼列12bの後縁16の軸線方向Daの位置を示す。
蒸気タービンでは、軸線上流側Dauから軸線下流側Dadに蒸気が流れるに連れて、この蒸気の圧力が次第に低下して、この蒸気の体積が増加する。よって、一般的な蒸気タービンの主蒸気流路40の断面積は、軸線上流側Dauから軸線下流側Dadに向って単調増加する。このため、翼高さ、言い換えると、チップ径Rtとハブ径Rhとの差も、一般的に、最上流段翼列22aから最下流段翼列12bまで、下流段側に向かって単調増加する。
比較例の主蒸気流路40の形状パターンは、以上で説明した一般的な蒸気タービンにおける主蒸気流路40の形状パターンである。
具体的に、比較例の主蒸気流路40の内側半径、言い換えると、各翼列12,22のハブ径Rhcは、図3(a)に示すように、最上流段翼列22aから最下流段翼列12bまで、下流段側に向かって単調増加する。比較例の主蒸気流路40の外側半径、言い換えると、各翼列12,22のチップ径Rtcは、最上流段翼列22aから最下流段翼列12bまで、下流段側に向かって単調増加する。よって、各翼列12,22の平均径Racも、最上流段翼列22aから最下流段翼列12bまで、下流段側に向かって単調増加する。また、比較例の翼高さ、言い換えると、チップ径Rtcとハブ径Rhcとの差も、最上流段翼列22aから最下流段翼列12bまで、下流段側に向かって単調増加する。
ロータ軸11のうち、最上流段動翼列12aが取り付けられる部分は、この部分より軸線下流側Dadの部分に比べて、圧力が高く且つ温度が高い蒸気の影響を受ける。このため、ロータ軸11の強度下限値Sは、最上流段動翼列12aが取り付けられる部分に要求される値が最も大きく、軸線下流側Dadに向うに連れて次第に小さくなる。
翼列損失は、ハブ径や平均径が大きくなるほど小さくなる。このため、比較例では、図3(b)に示すように、ハブ径Rhc及び平均径Racが最も大きい最下流段動翼列12bの翼列損失が最も小さく、軸線上流側Dauの翼列12,22になるに連れて次第に翼列損失が大きくなる。
蒸気の漏れ流れは、ハブ径や平均径が大きくなるほど大きくなる。仮に、各翼列12,22と、翼列12,22の径方向Drで対向する壁面との間の径方向Drの隙間距離が一定である場合でも、ハブ径や平均径が大きくなると、隙間面積が大きくなる。このため、基本的に、複数の翼列12,22のうち、ハブ径Rhcや平均径Racの大きい最下流段翼列12bにおける蒸気の漏れ流れが最も多く、軸線上流側Dauの翼列12,22になるに連れて次第に蒸気の漏れ流れが少なくなる。
また、翼列12,22を構成する複数の翼の翼高さが高くなると、翼高さに対する隙間距離の割合が小さくなる。このため、翼列12,22を構成する複数の翼の翼高さが高くなると、この翼列12,22での合計損失(翼列損失+漏れ流れ損失+風損損)のうちで漏れ流れ損失が占める割合が小さくなる。一の翼列12,22の漏れ流れ損失は、実際の漏れ流れの量よりも、この翼列12,22を構成する翼の翼高さの影響を強く受ける。このため、比較例では、図3(c)に示すように、翼高さが最も高い最下流段翼列12bの漏れ流れ損失が最も小さく、軸線上流側Dauの翼列12,22になるに連れて次第に漏れ蒸気損失が大きくなる。
軸線上流側Dauの翼列12,22になるに連れて次第に漏れ蒸気損失が大きくなる割合は、軸線上流側Dauの翼列12,22になるに連れて次第に翼列損失が大きくなる割合よりも大きい。
前述したように、最上流段静翼列22aを構成する複数の静翼24は、径方向外側Droの端のみならず径方向内側Driの端もケーシング30に固定されている。このため、最上流段静翼列22aの漏れ流れ損失は0である。よって、漏れ流れ損失は、最上流段静翼列22aの軸線下流側Dadに隣接する最上流段動翼列12aで最大になる。
蒸気の流れに対して相対回転する回転壁面と蒸気との間の摩擦は、ハブ径や平均径が大きくなるほど大きくなる。蒸気の流れに対して相対回転する回転壁面の周方向Dcの相対速度vは、半径r×角速度ωである。このため、ハブ径や平均径が大きくなるほど、回転壁面の周方向Dcの相対速度vが大きくなる結果、蒸気の流れに対して相対回転する回転壁面と蒸気との間の摩擦が大きくなる。
また、蒸気の流れに対して相対回転する回転壁面と蒸気との間の摩擦は、翼列12,22を通過する蒸気の圧力(又は密度)が高くなるほど大きくなる。比較例では、軸線方向Daにおけるハブ径Rhcや平均径Racの変化率に比べて、軸線方向Daにおける蒸気の圧力(又は密度)の変化率の方が大きい。このため、蒸気の流れに対して相対回転する回転壁面と蒸気との間の摩擦で生じる風損は、図3(d)に示すように、蒸気の圧力が最も低い最下流段翼列12bの風損が最も小さく、軸線上流側Dauの翼列12,22になるに連れて次第に風損が大きくなる。
軸線上流側Dauの翼列12,22になるに連れて次第に風損が大きくなる割合は、軸線上流側Dauの翼列12,22になるに連れて次第に翼列損失が大きくなる割合よりも大きい。
前述したように、最上流段静翼列22aを構成する複数の静翼24は、径方向外側Droの端のみならず径方向内側Driの端もケーシング30に固定されている。このため、最上流段静翼列22aの風損は0である。よって、風損は、最上流段静翼列22aの軸線下流側Dadに隣接する最上流段動翼列12aで最大になる。
以上の結果、比較例の合計損失(翼列損失+漏れ流れ損失+風損損)は、図3(e)に示すように、最下流段翼列12bから軸線上流側Dauの翼列12,22になるに連れて次第に大きくなる。但し、最上流段静翼列22aの漏れ流れ損失及び風損が0であるため、合計損失は、最上流段静翼列22aの軸線下流側Dadに隣接する最上流段動翼列12aで最大になる。
次に、主蒸気流路40の形状パターンに関する一実施例の翼列損失、漏れ流れ損失、及び風損について、図4を参照して説明する。
図4(a)に示すように、本実施例の各翼列12,22のハブ径Rh、チップ径Rt及び平均径Raは、いずれも、最上流段翼列22aから軸線下流側Dadの翼列12,22になるに連れて、次第に小さくなった後、次第に大きくなる。
このため、本実施例では、最上流段翼列22aと最下流段翼列12bとの間の中間段のいずれかの翼列12,22のハブ径Rhが、本実施例における極小値になる。最上流段翼列22a、つまり最上流段静翼列22aのハブ径Rhは、比較例よりも本実施例の方が大きい。また、最下流段翼列12b、つまり、最下流段動翼列12bのハブ径Rhは、比較例よりも本実施例の方が小さい。本実施例の各翼列12,22のハブ径Rhは、最上流段翼列22aから軸線下流側Dadの翼列12,22になるに連れて次第に小さくなるため、最上流段翼列22aよりも軸線下流側Dadのいずれかの一の翼列で、比較例よりもハブ径Rhが小さくなる。本実施例では、この一の翼列から最下流段翼列12bまでの全ての翼列12,22のハブ径Rhが比較例よりも小さくなる。
また、本実施例では、最上流段翼列22aと最下流段翼列12bとの間の中間段のいずれかの翼列12,22のチップ径Rtが、本実施例における極小値になる。最上流段翼列22a、つまり最上流段静翼列22aのチップ径Rtは、比較例よりも本実施例の方が大きい。また、最下流段翼列12b、つまり、最下流段動翼列12bのチップ径Rtは、比較例よりも本実施例の方が小さい。本実施例の各翼列12,22のチップ径Rtは、最上流段翼列22aから軸線下流側Dadの翼列12,22になるに連れて、次第に小さくなる関係で、最上流段翼列22aよりも軸線下流側Dadのいずれかの一の翼列で、比較例よりもチップ径Rtが小さくなる。本実施例では、この一の翼列から最下流段翼列12bまでの全ての翼列12,22のチップ径Rtが比較例よりも小さくなる。
本実施例では、最上流段翼列22aと最下流段翼列12bとの間の中間段のいずれかの翼列12,22の平均径Raが、本実施例における極小値になる。最上流段翼列22a、つまり最上流段静翼列22aの平均径Raは、比較例よりも本実施例の方が大きい。また、最下流段翼列12b、つまり、最下流段動翼列12bの平均径Raは、比較例よりも本実施例の方が小さい。本実施例の各翼列12,22の平均径Raは、最上流段翼列22aから軸線下流側Dadの翼列12,22になるに連れて、次第に小さくなる関係で、最上流段翼列22aよりも軸線下流側Dadのいずれかの一の翼列で、比較例よりも平均径Raが小さくなる。本実施例では、この一の翼列から最下流段翼列12bまでの全ての翼列12,22の平均径Raが比較例よりも小さくなる。
本実施例における各翼列12,22のハブ径Rh、チップ径Rt及び平均径Raは、最上流段翼列22aから軸線下流側Dadの翼列12,22になるに連れて、次第に小さくなる小さくなる一方で、比較例における各翼列12,22のハブ径Rhc、チップ径Rtc及び平均径Racは、最上流段翼列22aから軸線下流側Dadの翼列12,22になるに連れて単調増加する。このため、前述の一の翼列は、最下流段翼列12bよりも最上流段翼列22aに近い翼列になる。よって、図4(a)に示すように、本実施例において、比較例よりもハブ径Rh等が小さい翼列12,22の数N2は、比較例よりもハブ径Rh等が大きい翼列12,22の数N1より遥に多い。
また、図4(a)に示すように、最上流段翼列22a及びこの最上流段翼列22a近傍の翼列12,22のハブ径Rh等は、本実施例の方が比較例よりも大きい。一方、本実施例でハブ径Rh等が極小値になる翼列及びこの翼列近傍の翼列のハブ径Rh等は、これらの翼列に対応する比較例の翼列のハブ径Rhc等よりも小さい。繰り返すことになるが、本実施例における各翼列12,22のハブ径Rh等は、最上流段翼列22aから軸線下流側Dadの翼列12,22になるに連れて、次第に小さくなる小さくなる一方で、比較例における各翼列12,22のハブ径Rhc等は、最上流段翼列22aから軸線下流側Dadの翼列12,22になるに連れて単調増加する。このため、本実施例でハブ径Rh等が極小値になる翼列及びこの翼列近傍の翼列のハブ径Rh等と、これらの翼列に対応する比較例の翼列のハブ径Rhc等との差の絶対値A1は、本実施例の最上流段翼列22a及びこの最上流段翼列22a近傍の翼列12,22のハブ径Rh等と、これらの翼列12,22に対応する比較例の翼列12,22のハブ径Rhc等との差の絶対値A2は、よりも大きい。
本実施例のロータ軸11の強度下限値Sは、比較例と同様、最上流段動翼列12aが取り付けられる部分に要求される値が最も大きく、軸線下流側Dadに向うに連れて次第に小さくなる。
翼列損失は、前述したように、ハブ径や平均径が大きくなるほど小さくなる。本実施例では、図4(a)及び図4(b)に示すように、前述の一の翼列よりも軸線上流側Dauの各翼列12,22が比較例よりもハブ径Rh及び平均径Raが大きいため、これらの翼列12,22での翼列損失が比較例よりも僅かに小さい。一方、本実施例では、前述の一の翼列から最下流段翼列12bまでの各翼列12,22が比較例よりもハブ径Rh及び平均径Raが小さいため、これらの翼列12,22での翼列損失が比較例よりも僅かに大きい。なお、図4(b)、図4(c)、図4(d)及び図4(e)において、太い実線が本実施例の損失を示し、細い二点鎖線が比較例の損失を示す。
漏れ流れ損失は、翼高さが互いに同じ場合、ハブ径や平均径が小さい方が小さい。風損ンは、蒸気の圧力が互いに同じ場合、ハブ径や平均径が小さい方が小さい。本実施例では、図4(a)、図4(c)及び図4(d)に示すように、前述の一の翼列から最下流段翼列12bの各翼列12,22が比較例よりもハブ径Rh及び平均径Raが小さいため、これらの翼列12,22での漏れ流れ損失及び風損が比較例よりも小さい。一方、本実施例では、前述の一の翼列から最上流段翼列22aまでの各翼列12,22が比較例よりもハブ径Rh及び平均径Raが大きいため、これらの翼列12,22での漏れ流れ損失及び風損が比較例よりも大きい。但し、本実施例においても比較例においても、最上流段静翼列22aを構成する複数の静翼24は、径方向外側Droの端のみならず径方向内側Driの端もケーシング30に固定されているため、本実施例も比較例も、最上流段静翼列22aの漏れ流れ損失及び風損は0である。
前述したように、本実施例において、ハブ径Rh等が比較例より小さくて、漏れ流れ損失及び風損が比較例より小さい翼列12,22の数N2は、ハブ径Rh等が比較例より大きくて、漏れ流れ損失及び風損が比較例より大きい翼列12,22の数N1より遥に少ない。さらに、前述したように、本実施例でハブ径Rh等が極小値になる翼列及びこの翼列近傍の翼列のハブ径Rh等と、これらの翼列に対応する比較例の翼列のハブ径Rhc等との差の絶対値A1は、本実施例の最上流段翼列22a近傍の翼列のハブ径Rh等と、これらの翼列に対応する比較例の翼列のハブ径Rhc等との差の絶対値A2よりも大きい。このため、比較例と比べて本実施例の漏れ流れ損失及び風損が大きくなる程度よりも、比較例と比べて本実施例の漏れ流れ損失及び風損が小さくなる程度の方が大きい。よって、本実施例では、全翼列12,22のうち最上流段静翼列22aを除く翼列12,22での漏れ流れ損失及び風損は、比較例よりも遥に小さい。
前述したように、本実施例も比較例も、最上流段静翼列22aの漏れ流れ損失及び風損は0である。また、本実施例では、前述したように、最上流段翼列22aのハブ径Rh、チップ径Rt及び平均径Raが比較例よりも大きいため、最上流段静翼列22aの翼列損失が比較例よりも小さくなる。このため、最上流段静翼列22aの合計損失は、図4(e)に示すように、本実施例の方が比較例よりも小さくなる。
本実施例では、前述の一の翼列から最下流段翼列12bまでの各翼列12,22での翼列損失が比較例よりも僅かに大きい。しかしながら、前述したように、全翼列12,22のうち最上流段静翼列22aを除く翼列12,22での漏れ流れ損失及び風損は、本実施例の方が比較例よりも遥に小さい。このため、全翼列12,22のうち最上流段静翼列22aを除く翼列12,22での合計損失は、本実施例の方が比較例よりも小さい。
よって、全翼列12,22での合計損失は、本実施例の方が比較例よりも小さくなる。このため、主蒸気流路40の形状パターンとして、本実施例の形状パターンを採用すると、タービン効率を高めることができる。
ところで、漏れ流れ損失及び風損が0の最上流段静翼列22aの翼列損失を抑えるために、最上流段静翼列22aのみのハブ径Rh、チップ径Rt及び平均径Raを比較例よりも大きくし、漏れ流れ損失及び風損を抑えるために、最上流段静翼列22aの軸線下流側Dadに隣接する翼列12aのハブ径Rh、チップ径Rt及び平均径Raを最上流段静翼列22aに対して大幅に小さくしたとする。この場合、主蒸気流路40が最上流段静翼列22aの後縁26から急激に径方向内側Driに曲がるため、この曲り箇所で蒸気の剥離等による損失が発生する。さらに、最上流段静翼列22aの軸線下流側Dadに隣接する翼列12aのハブ径Rh等を最上流段静翼列22aに対して大幅に小さくすると、最上流段静翼列22aの軸線下流側Dadに隣接する翼列12aが存在する位置でのロータ軸11の強度が、前述の強度下限値Sを下回るおそれがある。
このため、本実施例では、翼列12,22のハブ径Rh、チップ径Rt及び平均径Racを、最上流段翼列22aから下流段側になるに連れて次第に小さくしている。
ところで、従来から、翼列損失、漏れ流れ損失、風損を抑えるための技術はある。但し、これらの技術は、翼列損失を抑えるために翼の翼面形状を変更する技術や、漏れ流れ損失や風損を抑えるために漏れシールの構造や外側シュラウド18の形状を変更する等の技術である。一方、以上で説明した一実施例のように、翼列損失、漏れ流れ損失及び風損を総合的に考察して、主蒸気流路40の形状パターンを変更する技術は、見られない。
先に説明した本実施形態では、以上で説明した一実施例と同様、動翼列12のハブ径Rhが、最上流段動翼列12aから下流段側になるに連れて、次第に小さくなった後、次第に大きくなっている。このため、先に説明した実施形態では、以上で説明した一実施例と同様、全翼列12,22での合計損失が小さくなり、タービン効率を高めることができる。
「第二実施形態」
本発明に係る蒸気タービンの第二実施形態について、図5を参照して説明する。
本実施形態は、主蒸気流路40の形状パターンを特定するパラメータが、第一実施形態と異なる。しかしながら、本実施形態の蒸気タービンの各部の構成は、基本的に第一実施形態と同じである。このため、以下の説明において、各部材等の符号には、上記第一実施形態における対応部材等の符号と同じ付す。
本実施形態では、翼列12,22の平均径Raが、最上流段翼列22aから下流段側になるに連れて、次第に小さくなった後、次第に大きくなっている。このため、本実施形態では、静翼列22の平均径Raが、最上流段静翼列22aから下流段側になるに連れて、次第に小さくなった後、次第に大きくなっている。さらに、本実施形態では、動翼列12の平均径Raが、最上流段動翼列12aから下流段側になるに連れて、次第に小さくなった後、次第に大きくなっている。最上流段静翼列22aの平均径Raは、最上流段動翼列12aの平均径Raよりも大きい。本実施形態では、各翼列12,22の平均径Raのうち、最も軸線下流側Dadの動翼列12である最下流段動翼列12bの平均径Raが最大である。
また、本実施形態では、翼列12,22のハブ径Rhが、第一実施形態と同様、最上流段翼列22aから下流段側になるに連れて、次第に小さくなった後、次第に大きくなっている。具体的に、本実施形態では、静翼列22のハブ径Rhが、第一実施形態と同様、最上流段静翼列22aから下流段側になるに連れて、次第に小さくなった後、次第に大きくなっている。また、本実施形態では、動翼列12のハブ径Rhが、第一実施形態と同様、最上流段動翼列12aから下流段側になるに連れて、次第に小さくなった後、次第に大きくなっている。
また、本実施形態では、翼列12,22のチップ径Rtが、最上流段翼列22aから下流段側になるに連れて、次第に小さくなった後、次第に大きくなっている。具体的に、本実施形態では、静翼列22のチップ径Rtが、最上流段静翼列22aから下流段側になるに連れて、次第に小さくなった後、次第に大きくなっている。また、本実施形態では、動翼列12のチップ径Rtが、最上流段動翼列12aから下流段側になるに連れて、次第に小さくなった後、次第に大きくなっている。
以上のように、本実施形態では、先に説明した一実施例と同様、翼列12,22のハブ径Rh、チップ径Rt及び平均径Raのいずれもが、最上流段翼列22aから下流段側になるに連れて、次第に小さくなった後、次第に大きくなっている。このため、本実施形態でも、先に説明した一実施例と同様、全翼列12,22での合計損失が小さくなり、タービン効率を高めることができる。
本実施形態では、以上で説明したように、翼列12,22のハブ径Rhやチップ径Rtが、最上流段翼列22aから下流段側になるに連れて、次第に小さくなった後、次第に大きくなっている。しかしながら、本実施形態において、翼列12,22のハブ径Rhやチップ径Rtは、軸線方向Daの位置変化に伴う径変化が以上と異なる形態で変化してもよい。
また、本実施形態において、複数の動翼列12の各ハブ径Rhのうち、最上流段動翼列12aのハブ径Rhが最も小さくてもよい。この場合、ハブ径Rhは、最上流段動翼列12aから最下流段動翼列12bまで、下流段側に向かうに連れて次第に大きくなる。同様に、本実施形態において、複数の動翼列12の各チップ径Rtのうち、最上流段動翼列12aのチップ径Rtが最も小さくてもよい。この場合も、チップ径Rtは、最上流段動翼列12aから最下流段動翼列12bまで、下流段側に向かうに連れて次第に大きくなる。さらに、本実施形態において、複数の動翼列12の各平均径Raのうち、最上流段動翼列12aの平均径Raが最も小さくてもよい。この場合も、平均径Raは、最上流段動翼列12aから最下流段動翼列12bまで、下流段側に向かうに連れて次第に大きくなる。このような場合は、動翼列12の段数が少ない場合、例えば、段数が4〜6程度の場合に考えられる。