以下、本発明の一実施形態について、図面に基づいて説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
図1は、本実施形態の中性子シンチレーター1の断面模式図である。また、図2は、中性子シンチレーター1の縦断面模式図である。なお、図2においては、中性子シンチレーター1を含む中性子検出器2の概略構造を合わせて示す。
中性子シンチレーター1は、樹脂組成部30と、樹脂組成部30に内包された波長変換ファイバ20と、樹脂組成部30の外周を囲む反射材35と、を構成要素とする。また、樹脂組成部30は、リチウム6及びホウ素10から選ばれる少なくとも1種の中性子捕獲同位体を含有する無機蛍光体粒子31と、樹脂部32とを構成要素とする。
図2に示す中性子検出器2は、中性子シンチレーター1と、中性子シンチレーター1の波長変換ファイバ20と接続された光検出器3と、光検出器3と接続された判定部4と、を具備する。中性子検出器2は、中性子が無機蛍光体粒子31に入射することで生じた光を、波長変換ファイバ20に入射させ、さらに光検出器3で検出することにより、中性子の存在を判定する。
本明細書において、「内包」とは、波長変換ファイバ20の体軸方向に添うファイバ表面が360°樹脂組成部30に覆われている状態を示す。それに対し、ファイバの端面は、その両端又は片端が樹脂組成部30から突き出している。シンチレーション光を取り出すため、ファイバの少なくとも一端は樹脂組成部30外に出ている必要があるが、残る一端は樹脂組成部30中に存在していてもよいし、樹脂組成部30から突き出していてもよい。
<樹脂部>
樹脂部32は、無機蛍光体粒子31の周囲に設けられ、複数の無機蛍光体粒子31同士の間に介在している。すなわち、樹脂組成部30において、無機蛍光体粒子31は、樹脂部32内に分散している。上述したように、本実施形態の無機蛍光体粒子31は、一般に用いられる無機蛍光体に比較してサイズが小さい。したがって、単一の無機蛍光体粒子31では中性子検出効率に乏しいため、複数の無機蛍光体粒子31を樹脂部32中に分散せしめることによって、中性子検出効率を高めることができる。
樹脂部32は、無機蛍光体粒子31から発せられた蛍光を波長変換ファイバ20へ効率よく導くために透明樹脂であることが好ましい。具体的には、前記無機蛍光体粒子31の発光波長における該樹脂の内部透過率が80%/cm以上であることが好ましく、90%/cm以上であることが特に好ましい。かかる樹脂を具体的に例示すれば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等があげられる。ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルトルエン、及びポリビニルアルコール等があげられる。また屈折率や強度等を調整する目的で、複数の樹脂を混合して用いてもよい。また、前記透明樹脂の中でも、無機蛍光体粒子31の発光波長における屈折率が、無機蛍光体粒子31の屈折率に近い透明樹脂を用いることが好ましい。具体的には無機蛍光体粒子31の屈折率に対する透明樹脂の屈折率の比が、0.95〜1.05であることが好ましく、0.98〜1.02であることが最も好ましい。透明樹脂の屈折率の比をかかる範囲とすることによって、無機蛍光体粒子31と樹脂との界面における光の散乱を抑制することができ、前記樹脂組成部30の透明性を高めることができる。なお当該屈折率は、本実施形態の中性子シンチレーター1を用いる温度域での屈折率である。例えば、本実施形態の中性子シンチレーター1を100℃で用いる場合、上記屈折率比は100℃で求める必要がある。
<無機蛍光体粒子>
無機蛍光体粒子31は、リチウム6及びホウ素10から選ばれる少なくとも1種の中性子捕獲同位体を含有する。無機蛍光体粒子31においては、リチウム6またはホウ素10と中性子nとの中性子捕獲反応によって、それぞれα線とトリチウムまたはα線とリチウム7(以下、二次粒子ともいう)が生じ、当該二次粒子によって、無機蛍光体粒子31に4.8MeVまたは2.3MeVのエネルギーが付与される。当該エネルギーを付与されることによって、無機蛍光体粒子31が励起され、蛍光を発する。
無機蛍光体粒子31を用いた中性子シンチレーター1は、リチウム6及びホウ素10による中性子捕獲反応の効率が高いため、中性子検出効率に優れており、また、中性子捕獲反応の後に無機蛍光体粒子31に付与されるエネルギーが高いため、中性子nを検出した際に発せられる蛍光の強度に優れる。
本実施形態において、無機蛍光体粒子31は、中性子捕獲同位体を含有し且つ蛍光を発する無機物からなる粒子であって、無機物自体が一つの化学物質として把握されるものである。従って、中性子捕獲同位体を含有する非蛍光性粒子と、中性子捕獲同位体を含有しない蛍光体粒子を混合してなる混合物粒子は含まない。より具体的には、例えば中性子捕獲同位体を含有する非蛍光性のLiFと、中性子捕獲同位体を含有しない蛍光体であるZnS:Agを混合したような混合物粒子を含まないことが好ましい。かかる混合物粒子においては、中性子捕獲同位体を含有する粒子で生じた二次粒子のエネルギーが、蛍光を発する粒子に到達する前に一部失われる。このとき失われるエネルギーは、二次粒子の発生点から蛍光を発する粒子に到達するまでの飛程によってまちまちであるため、結果として蛍光を発する粒子の蛍光強度が大きくばらつく。したがって、所望のn/γ弁別能が得られないため、かかる混合物粒子は本実施形態において採用されないことが好ましい。
本実施形態において、無機蛍光体粒子31中のリチウム6及びホウ素10の含有量(以下、中性子捕獲同位体含有量ともいう)は、それぞれ1atom/nm3及び0.3atom/nm3以上とすることが好ましく、それぞれ6atom/nm3及び2atom/nm3以上とすることが特に好ましい。なお、上記中性子捕獲同位体含有量とは無機蛍光体粒子31の1nm3あたりに含まれる中性子捕獲同位体の個数をいう。中性子捕獲同位体含有量を上記範囲とすることによって、入射した中性子nが中性子捕獲反応を起こす確率が高まり、中性子検出効率が向上する。
かかる中性子捕獲同位体含有量は、無機蛍光体粒子31の化学組成を選択し、また、無機蛍光体粒子31の原料として用いるフッ化リチウム(LiF)あるいは酸化ホウ素(B2O3)等におけるリチウム6およびホウ素10の同位体比率を調整することによって適宜調整できる。ここで、同位体比率とは、全リチウム元素に対するリチウム6同位体の元素比率及び全ホウ素元素に対するホウ素10同位体の元素比率であって、天然のリチウム及びホウ素ではそれぞれ約7.6%および約19.9%である。
一方、中性子捕獲同位体含有量の上限は特に制限されないが、可能な限り高い方が望ましい。
なお、無機蛍光体粒子31中のリチウム6の含有量(CLi,P)及びホウ素10の含有量(CB,P)は、あらかじめ無機蛍光体粒子31の密度、無機蛍光体粒子31中のリチウム及びホウ素の質量分率、及び原料中のリチウム6及びホウ素10の同位体比率を求め、それぞれ以下の式(1)及び式(2)に代入することによって求めることができる。
CLi,P=ρ×WLi×RLi/(700−RLi)×A×10−23 (1)
CB,P=ρ×WB×RB/(1100−RB)×A×10−23 (2)
(式中、CLi,P及びCB,Pはそれぞれ無機蛍光体粒子31中のリチウム6の含有量及びホウ素10の含有量、ρは中性子シンチレーターの密度[g/cm3]、WLi及びWBはそれぞれ無機蛍光体粒子31中のリチウム及びホウ素の質量分率[質量%]、RLi及びRBはそれぞれ原料におけるリチウム6およびホウ素10の同位体比率[%]、Aはアボガドロ数[6.02×1023]を示す)
無機蛍光体粒子31は特に制限されず、従来公知の無機蛍光体を粒子状としたものを用いることができるが、具体的なものを例示すれば、Eu:LiCaAlF6、Eu,Na:LiCaAlF6、Eu:LiSrAlF6、Ce:LiCaAlF6、Ce,Na:LiCaAlF6、Ce:LiSrAlF6、Ce:LiYF4、Tb:LiYF4、Eu:LiI、Ce:Li6Gd(BO3)3、Ce:LiCs2YCl6、Ce:LiCs2YBr6、Ce:LiCs2LaCl6、Ce:LiCs2LaBr6、Ce:LiCs2CeCl6、Ce:LiRb2LaBr6等の結晶からなる無機蛍光体粒子31、及び、Li2O−MgO−Al2O3−SiO2−Ce2O3系のガラスからなる無機蛍光体粒子31等が挙げられる。
無機蛍光体粒子31の発光する波長は、後述する樹脂部32と混合した際に透明性を得やすい点で、近紫外域〜可視光域であることが好ましく、可視光域であることが特に好ましい。
無機蛍光体粒子31に含有せしめる中性子捕獲同位体が、リチウム6のみであることが好ましい。中性子捕獲反応に寄与する中性子捕獲同位体をリチウム6のみとすることによって、常に一定のエネルギーを無機蛍光体粒子31に付与することができ、また、4.8MeVもの極めて高いエネルギーを付与することができる。したがって、蛍光の強度のバラつきが少なく、且つ特に蛍光の強度に優れた中性子シンチレーター1を得ることができる。
中性子捕獲同位体としてリチウム6のみを含有する無機蛍光体粒子31の中でも、化学式LiM1M2X6(ただし、M1はMg、Ca、Sr及びBaから選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素であり、M2はAl、Ga及びScから選ばれる少なくとも1種の金属元素であり、XはF、Cl、BrおよびIから選ばれる少なくとも1種のハロゲン元素である)で表わされ、少なくとも1種のランタノイド元素を含有するコルキライト型結晶、及び当該コルキライト型結晶であって、さらに少なくとも1種のアルカリ金属元素を含有するコルキライト型結晶が好ましい。
当該コルキライト型結晶を具体的に例示すればEu:LiCaAlF6、Eu,Na:LiCaAlF6、Eu:LiSrAlF6及びEu,Na:LiSrAlF6からなる無機蛍光体粒子31が、発光量が高く、また、潮解性が無く化学的に安定であるため最も好ましい。
本実施形態の中性子シンチレーター1において、無機蛍光体を粒子状とした無機蛍光体粒子31を用いることで、n/γ弁別能が向上する。以下、かかる無機蛍光体粒子31を用いることによって、n/γ弁別能が向上する作用機序について説明する。
一般に、γ線が中性子シンチレーター1に入射すると、中性子シンチレーター1の内部で二次電子eが生成され、二次電子が無機蛍光体を通過するときにエネルギーを付与することによって、無機蛍光体が発光する。かかる発光によって出力される波高値が、中性子nの入射による波高値と同程度に高く、両者を弁別できない場合には、γ線が中性子nとして計数され、中性子計数に誤差が生じる。特に、γ線の線量が高い場合には、γ線による誤差が増大し、顕著に問題となる。
γ線の入射によって中性子検出器から出力される波高値は、二次電子eによって付与されるエネルギーに依存するため、該エネルギーを低減することによって、γ線が中性子シンチレーター1に入射した際に出力される波高値を低減することができる。
ここで、中性子シンチレーター1にγ線が入射した場合に生じる二次電子eが、中性子シンチレーター1にエネルギーを付与しながら、中性子シンチレーター1中を移動する飛程距離は数mm程度と比較的長い。
それに対して、中性子nが中性子シンチレーター1に入射した場合には、上述したように、中性子シンチレーター1中の無機蛍光体に含まれるリチウム6及びホウ素10と中性子nとの中性子捕獲反応で生じた二次粒子が無機蛍光体にエネルギーを付与することによって、無機蛍光体が発光するが、該二次粒子の飛程距離は数μm〜数十μmと上記二次電子より短い。
本実施形態によれば、無機蛍光体を粒子状とすることにより、二次電子eを無機蛍光体粒子31から速やかに逸脱せしめ、二次電子eが無機蛍光体に付与するエネルギーを低減させることができる。中性子の入射に起因する二次粒子は飛程距離が短いため、殆どの二次粒子は、無機蛍光体粒子31内でエネルギーを消費し、略一定の波高値の光を生じる。一方で、γ線の入射に起因する二次電子eは、飛程距離が長いために無機蛍光体粒子31の外に飛び出し、無機蛍光体粒子31内で全てのエネルギーを消費することがなく、発光に伴う波高値を小さくすることができる。したがって、中性子nの入射に起因する光であることを、波高値により判定することができn/γ弁別能を高めることができる。
本実施形態において無機蛍光体粒子31の大きさは、中性子nの入射により生じる二次粒子のほぼ全てのエネルギーが無機蛍光体に付与される程度の大きさを有しつつ、なるべくγ線の入射により二次電子eは逸脱する程度の小ささであることが好ましい。
本発明者らの検討によれば、無機蛍光体粒子31の形状を、その比表面積が50cm2/cm3以上である形状とすることが好ましく、比表面積が100cm2/cm3以上である形状とすることが特に好ましい。なお、本明細書において、無機蛍光体粒子31の比表面積とは、無機蛍光体粒子31の単位体積当たりの表面積を言う。
比表面積は単位体積当たりの表面積であるから、(1)無機蛍光体粒子31の絶対的な体積が小さいほど大きくなる傾向にあり、また(2)形状が真球状である場合に最も比表面積は小さくなり、逆に無機蛍光体粒子31の比表面積が大きいほど、無機蛍光体粒子31は真球状からかけ離れた形状となる。例えばX軸、Y軸及びZ軸方向に延びる辺を有する立方体で考えた場合、X=Y=Zの正6面体の場合に最も比表面積が小さく、いずれかの軸方向の長さを短くし、その分他の軸方向の辺を長くしたものは同じ体積でも比表面積が大きくなる。
より具体的には、1辺が0.5cmの正6面体では比表面積が12cm2/cm3であるが、同0.1cmの正6面体(0.001cm3)の場合には、その比表面積は60cm2/cm3である。さらに同じ体積(0.001cm3)で厚みを0.025cmとした場合、縦横が0.2cm×0.2cmのサイズとなり、よって比表面積は100cm2/cm3となる。
換言すれば、比表面積が大きいということは少なくともいずれか1つの軸方向の長さが極めて小さい部分を有するということを示すものである。そしてこの小さい軸方向及びその軸方向に近い向きに走るγ線によって生じる二次電子eは、前述のとおり速やかに結晶から逸脱するため、二次電子eから無機蛍光体粒子31に付与されるエネルギーを低減することができるものである。
前記比表面積に基づく好適な無機蛍光体粒子31の形状は、上記の如き知見及び考察により見出されたものであり、当該比表面積を、二次電子eから無機蛍光体粒子31に付与されるエネルギーを考慮する上で、無機蛍光体粒子31が種々の粒子形態を有することを加味した形状の指標として用いることができる。そして実用上、当該比表面積を好ましくは50cm2/cm3以上、より好ましくは比表面積が100cm2/cm3以上とすることによって、特にn/γ弁別能に優れた中性子検出器を得ることができる。
なお、本実施形態において、前記比表面積の上限は、特に制限されないが、1000cm2/cm3以下とすることが好ましい。該比表面積が1000cm2/cm3を超える場合、すなわち無機蛍光体粒子31の少なくともいずれか1つの軸方向の長さが過剰に小さい場合には、前記リチウム6及びホウ素10と中性子nとの中性子捕獲反応で生じた二次粒子が、無機蛍光体粒子31にその全エネルギーを付与する前に無機蛍光体粒子31から逸脱する事象が生じるおそれがある。かかる事象においては、中性子nの入射によって無機蛍光体粒子31に与えられるエネルギーが低下するため、無機蛍光体の発光の強度が低下する。前記二次粒子の全エネルギーを確実に無機蛍光体粒子31に与え、無機蛍光体の発光の強度を高めるためには無機蛍光体粒子31の比表面積を500cm2/cm3以下とすることが特に好ましい。
なお上記説明では軸という用語を用いたが、X,Y及びZの空間座標位置を示すために便宜的に用いただけであり、本実施形態で用いる無機蛍光体粒子31がこれら特定の軸方向に辺を有する立方体に限定されるものでは無論ない。
また無機蛍光体粒子31が不定形の場合、上記比表面積は密度計及びBET比表面積計を用いて得られる密度及び質量基準の比表面積から容易に求めることができる。
本実施形態において、好適に用いられる無機蛍光体粒子31の形状を具体的に例示すれば、平板状、角柱状、円柱状、球状、或いは不定形の粒子形態であって、等比表面積球相当径が50〜1500μm、特に好ましくは100〜1000μmである形状が挙げられる。
本実施形態で用いる無機蛍光体粒子31の製造方法は特に限定されず、前記好適な形状の粒子よりも大きな形状を有するバルク体を粉砕及び分級して、所期の形状の粒子を得る方法、或いは、溶液を出発原料として粒子生成反応により、好適な形状の無機蛍光体粒子31を直接得る方法が挙げられる。
<樹脂組成部>
樹脂組成部30は、上述したように、樹脂部32と、樹脂部32中に分散された無機蛍光体粒子31とを有する。
図1に示すように、樹脂組成部30は、波長変換ファイバ20の外周を内包する筒状の第1領域A1と、第1領域A1より外側に位置する第2領域A2を有する。第1領域A1には、無機蛍光体粒子31が含まれておらず、第2領域A2には無機蛍光体粒子31が含まれている。
ここで、無機蛍光体粒子31を含まない第1領域A1を構成することによる効果を説明するために、樹脂組成部中に無機蛍光体粒子が均一に分散する場合の検出結果について説明する。
図3は、無機蛍光体粒子が均一に分散する樹脂組成部を有する中性子シンチレーターに、γ線および中性子nをそれぞれ照射した場合の、検出結果の一例を示すグラフである。
図3に示すように、γ線の検出結果は、点Xにおいて、中性子線がピーク値Pを示す波高値を超えて延びている。γ線に起因する光の波高値が、幅広い範囲を取る要因は、主に以下の2つが考えられる。
1つ目の要因は、γ線の入射に起因する二次電子eの飛程距離が大きく、反応の位置や二次電子eの出射方向によって、無機蛍光体粒子31内で消費するエネルギーの大きさが様々に変わることによる。
2つ目の要因は、γ線の入射に起因する発光によって出力され波長変換ファイバ20に到達する光の波高値は、発光する無機蛍光体粒子31と波長変換ファイバ20との距離に依存することによる。波長変換ファイバ20に到達する光の波高値(光子数と置き換えてもよい)は、近傍から出射された場合により大きくなる。
上述の2つの要因が重なった場合、すなわち波長変換ファイバ20の近くに位置する無機蛍光体粒子31内で二次電子eが長い距離を飛程した場合に、γ線に起因する波高値が高く計測され、点Xのようにγ線の検出結果が中性子のピーク値Pと重なって検出されると考えられる。
一方で、中性子nが無機蛍光体粒子31に入射すると、無機蛍光体粒子31に含まれるリチウム6及びホウ素10と中性子nとの中性子捕獲反応で生じた二次粒子により、無機蛍光体が励起して光L4を発する。中性子nが入射した際に発生する二次粒子(α線とトリチウムまたはα線とリチウム7)は、飛程距離が短いため、無機蛍光体粒子31内でエネルギーを消耗し無機蛍光体粒子31を発光させる。したがって、中性子nの入射に起因する無機蛍光体粒子31の発光は、強さ(波高値)がほとんど一定となる。なお、中性子nが入射した際の二次粒子についても、ごく一部については、無機蛍光体粒子31から飛び出す。したがって、実際には、一部の発光が弱くなる(図3中の領域Y)。
なお、図3は、γ線の光子数が中性子数に比較して著しく多い場合の検出結果である。燃料デブリのような放射性物質の近傍では、γ線の光子数は中性子数に対して108倍となるとも言われる。
本実施形態では、γ線に起因する光L3と、中性子線に起因する光L4とを、その波高値の違いから判定する。しかしながら、上述したように、無機蛍光体粒子31が波長変換ファイバ20の近傍に位置している場合には、γ線に起因する光L3の波高値が高く検出されて、中性子に起因する光L4と誤認される虞がある。本実施形態によれば、波長変換ファイバ20の周囲を囲む第1領域A1に、無機蛍光体粒子31を含まないことにより、γ線に起因する光L4の波高値が高く計測されることを抑制することができる。これにより、中性子に起因する光L4を、γ線に起因する光L3と区別して検出することが可能となり、n/γ弁別を向上させることができる。
なお、第1領域A1に無機蛍光体粒子31を含まないことで、図3に示す中性子の測定結果は、ピーク値Pに対して、波高値が多くなる側の裾野Zが小さくなるものの、ピーク値Pの検出頻度が低くなりにくい。このため中性子シンチレーターによれば、第1領域A1に無機蛍光体粒子31を含まないことによる、中性子の検出効率の低下を抑制しつつn/γ弁別を向上させることができる。
本実施形態において、第1領域A1には、無機蛍光体粒子31が含まれていない場合を例示した。しかしながら、第1領域A1における無機蛍光体粒子31の密度(すなわち単位体積当たりの含有量)は、第2領域A2における無機蛍光体粒子の密度より低ければ、一定の効果を得ることができる。第1領域A1と第2領域A2において、無機蛍光体粒子31の密度の差が大きいほど上述の効果を奏しやすい。したがって、上述の実施形態に示すように、第1領域A1に無機蛍光体粒子31を含まない場合に最も効果を奏しやすい。
本実施形態において、第1領域A1の横断面外形は、波長変換ファイバ20を囲む円形状である。また、第1領域A1の横断面外形は、波長変換ファイバ20の横断面外形と同心円である。しかしながら、第1領域A1の横断面外形は、これに限るものではなく、矩形形状であってもその他多角形であってもよい。
また、本実施形態において、第1領域A1と第2領域A2とは、同材料の樹脂部32を有することが好ましいが、第1領域A1を構成する材料は、必ずしも第2領域A2と同材料でなくてもよい。加えて、第1領域A1は、材料が充填されない空隙であってもよい。
本実施形態の中性子シンチレーター1の中性子検出効率は、樹脂組成部30の第2領域A2中の無機蛍光体粒子31に由来する中性子捕獲同位体の含有量(すなわち密度)に依存し、該含有量を高めることによって向上することができる。なお、かかる中性子捕獲同位体含有量は、樹脂組成部30の第2領域A2中の1nm3あたりに平均的に含まれる無機蛍光体粒子31由来の中性子捕獲同位体の個数をいい、リチウム6の含有量(CLi,C)及びホウ素10の含有量(CB,C)のそれぞれについて、前記無機蛍光体粒子31中のリチウム6の含有量(CLi,P)及びホウ素10の含有量(CB,P)、ならびに第2領域A2中の無機蛍光体粒子31の体積分率(V)を用いて、以下の式(3)及び式(4)より求めることができる。
CLi,C=CLi,P×(V/100) (3)
CB,C=CB,P×(V/100) (4)
(式中、CLi,C及びCB,Cはそれぞれ樹脂組成部30の第2領域A2中のリチウム6の含有量及びホウ素10の含有量、CLi,P及びCB,Pはそれぞれ無機蛍光体粒子31中のリチウム6の含有量及びホウ素10の含有量、Vは樹脂組成部30中の無機蛍光体粒子31の体積分率(V)[体積%]を示す)
本実施形態において樹脂組成部30(第1領域A1および第2領域A2)中の無機蛍光体粒子31の含有量は、特に限定されるものではないが、前記式から明らかなように樹脂組成部30中の無機蛍光体粒子31の体積分率を高めることによって、中性子検出効率を向上できる。したがって、樹脂組成部30中の無機蛍光体粒子31の体積分率を5体積%以上とすることが好ましく、10体積%以上とすることが特に好ましく、20体積%以上とすることが最も好ましい。樹脂組成部30全体に対する無機蛍光体粒子31の体積分率の上限は、特に制限されないが、樹脂組成部30を製造する際の粘性等を考慮すると、80体積%未満が好ましく、50体積%未満がより好ましい。
一方、本実施形態において前記樹脂組成部30は、無機蛍光体粒子31が第2領域A2において樹脂中に均一に分散しており、近接する無機蛍光体粒子31同士の間隔が広いことが望ましい。粒子同士の間隔を広くすることによって、ある無機蛍光体粒子31から逸脱した二次電子が、近接した他の無機蛍光体粒子31に入射し、該無機蛍光体粒子31にエネルギーを付与して発光の総和を増大することを防ぐことができる。
しかしながら、一般に、無機蛍光体粒子31の比重は樹脂の比重より大きいため、前記液体または粘体の樹脂と無機蛍光体粒子31を混合した際に、粒子が沈降して底部に凝集し、粒子同士の間隔を保持することが困難となる場合がある。かかる場合においては、樹脂の粘度を高めて樹脂組成部30にチキソトロピック性を付与し、粒子の沈降を抑制する方法、無機蛍光体粒子31とは異なる粒子をさらに配合し、該粒子を無機蛍光体の粒子間に充填することによって、無機蛍光体粒子31の間隔を保持する方法、または、所期の厚さよりも薄い樹脂組成部30であって、下部に粒子が沈降して凝集した層、上部に樹脂のみからなる層を有する樹脂組成部30を複数調製し、これらを積層することによって、巨視的な粒子同士の間隔を保持する方法が好適に採用できる。
当該樹脂組成部30の製造方法は特に制限されないが、以下に具体的な製造方法を例示する。
まず、波長変換ファイバ20の外周に第1領域A1を形成する。樹脂部32の素材となる未硬化の樹脂材料を用意する。さらに、この樹脂材料を型に流し込んで、略中央に波長変換ファイバ20を位置させた状態で、樹脂材料を硬化させた後、型から取り外す。これによって、波長変換ファイバ20を樹脂材料の中央に保持させるとともに波長変換ファイバ20の周囲に第1領域A1を形成する。
次いで、第1領域の外側に第2領域A2を形成する。樹脂組成部30の第2領域A2をスラリー状またはペースト状の樹脂組成部30とする場合には、まず、無機蛍光体粒子31と、液体または粘体の樹脂を混合する。かかる混合操作においては、プロペラミキサー、プラネタリーミキサー、またはバタフライミキサー等の公知の混合機を特に制限なく用いることができる。
次いで、混合操作において樹脂組成部30中に生じた気泡を脱泡することが好ましい。かかる脱泡操作においては、真空脱泡機、または遠心脱泡機等の脱泡機を特に制限なく用いることができる。かかる脱泡操作を行うことによって、気泡による光の散乱を抑制することができ、樹脂組成部30の内部透過率を高めることができる。
なお、前記混合操作及び脱泡操作において、樹脂組成部30の粘度を低下せしめ、混合及び脱泡を効率よく行う目的で、樹脂組成部30に有機溶媒を添加しても良い。
また、樹脂組成部30の第2領域A2を固体状とする場合には、以下の方法により容易に製造できる。即ち、液体または粘体の樹脂前駆体を用いて前記と同様に混合操作及び脱泡操作を行う。次いで、得られた無機蛍光体粒子31と樹脂前駆体の混合物を所望の形状の鋳型に注入し、該樹脂前駆体を硬化せしめる。硬化せしめる方法は特に制限されないが、加熱、紫外線照射、或いは触媒添加により、樹脂前駆体を重合する方法が好適である。
ここで、本実施形態の樹脂組成部30は、スラリー状またはペースト状で用いることができ、また、固体状で用いる場合にも所望の形状の鋳型によって成型できるため、任意の形状とすることが容易である。したがって、本実施形態によれば、用途に応じてロッド状、中空チューブ状、或いは大面積の中性子シンチレーター1を提供することができる。
<波長変換ファイバ>
波長変換ファイバ20は、樹脂組成部30中の無機蛍光体粒子31からの発光を光検出器3へ導くためのライトガイドとして作用する。波長変換ファイバ20の作用機構を、図2を用いて説明する。無機蛍光体粒子31から発せられた光L1は、波長変換ファイバ20に到達すると波長変換ファイバ20に吸収される。さらに波長変換ファイバ20は、もとの波長とは異なる波長で再発光して光L2を発する。光L2は、等方的に生じるが、波長変換ファイバ20の外面に対してある角度で発せられた光は、波長変換ファイバ20の内部を全反射しながら伝搬し、波長変換ファイバ20の端部へ到達する。そして、波長変換ファイバ20の端部に光検出器3を設置することにより、無機蛍光体粒子31から生じた光L2を、波長変換ファイバ20を介して収集することができる。
本実施形態における波長変換ファイバ20は、無機蛍光体粒子31の発光波長において、樹脂組成部30中の樹脂部32の屈折率に対する波長変換ファイバ20の屈折率の比が、0.95以上であるものが好ましい。無機蛍光体粒子31で生じた発光は、樹脂部32を介して波長変換ファイバ20に入射するが、ある臨界角を超える入射角で波長変換ファイバ20に入射しようとする光L1は、樹脂部32と波長変換ファイバ20との界面で全反射され、入射することができない。屈折率の比を0.95以上とすることによって、該臨界角を約70度以上とすることができ、樹脂組成部30から波長変換ファイバ20への入射の効率を高めることができる。該屈折率の比を1以上とすることによって、樹脂部32と波長変換ファイバ20の界面において光L1の全反射が起こらなくなるため、特に好ましい。さらに、該屈折率の比を1.05以上とすることによって、波長変換ファイバ20で再発光した光L2が、波長変換ファイバ20と樹脂組成部30の界面で全反射しながら波長変換ファイバ20の内部を伝搬する効率を高めることができ、最も好ましい。
波長変換ファイバ20の材質は特に制限されないが、一般にはポリスチレン、ポリメチルメタクリレート及びポリビニルトルエン等のプラスチック製の基材に、種々の吸収波長を有する有機蛍光体を含有せしめたものが市販されており、これらのナトリウムD線における屈折率(nD)は約1.5〜1.6である。したがって、樹脂組成部30に含まれる樹脂部32としては、上述した屈折率の比の要件を満たすために、これらよりも屈折率が低い低屈折率樹脂を用いることが好ましい。かかる低屈折率樹脂としては、シリコーン樹脂、フッ素化シリコーン樹脂、フェニルシリコーン樹脂及びフッ素樹脂が好適に使用でき、nDが約1.3〜1.5のものが市販されている。
また、上述したように、無機蛍光体粒子31の屈折率は、該低屈折率樹脂と同程度に低いことが好ましい。かかる無機蛍光体粒子31としては、化学式LiM1AlF6(ただし、M1はMg、Ca、Sr及びBaから選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素である)で表わされ、少なくとも1種のランタノイド元素を含有するコルキライト型結晶、及び当該コルキライト型結晶であって、さらに少なくとも1種のアルカリ金属元素を含有するコルキライト型結晶からなる粒子が好ましい。該コルキライト型結晶のnDは約1.4前後であり、前記屈折率の比の要件を満たすことが容易である。なお、ここでは便宜上ナトリウムD線における屈折率を例にとって説明したが、無機蛍光体の発光波長においても同様である。
本実施形態において、波長変換ファイバ20は樹脂組成部30中に内包されていることが好ましい。
一般に、波長変換ファイバ20によって樹脂組成部30からの発光を収集する場合には、光の収集効率に乏しいという問題がある。すなわち、(1)樹脂組成部30からの発光の一部が、波長変換ファイバ20に到達せずに消光することによる損失、(2)波長変換ファイバ20が、樹脂組成部30からの発光を吸収し再発光する際に生じる損失、(3)波長変換ファイバ20の発光が、波長変換ファイバ20の内部を伝搬せずに散逸することによる損失等が生じるため、波長変換ファイバ20の端部に設置された光検出器3に到達する光量は、無機蛍光体粒子31から発せられた光量のわずか数%にとどまることが一般的である。
このように、光検出器3に到達する光量が少ない場合には、必然的に光量のばらつきも大きくなるため、上述したように、波高値に閾値を設けて当該閾値によって中性子とγ線を弁別することが困難となり、γ線による計数誤差が顕著になる。
本実施形態においては、波長変換ファイバ20を樹脂組成部30に内包することによって、前記(1)樹脂組成部30からの発光の一部が、波長変換ファイバ20に到達せずに消光することによる損失を大幅に低減でき、光の収集効率が向上する。すなわち、波長変換ファイバ20が樹脂組成部30の外に配置される場合、樹脂組成部30内で生じた発光が、一旦樹脂組成部30から出射した後、中間相を介して再度波長変換ファイバ20に入射する必要がある。従来、かかる過程における損失を低減すべく種々検討がなされているが、いまだ改善の余地があった。これに対して、前記波長変換ファイバ20が樹脂組成部30に内包されている場合、樹脂組成部30からの発光が中間相を介することなく波長変換ファイバ20に入射するため、損失を大幅に低減できる。
また、波長変換ファイバ20を樹脂組成部30に内包せしめることによって、波長変換ファイバ20の使用量を削減することができ、また、樹脂系複合体の構造を簡略化することができる。
波長変換ファイバが樹脂組成部の外に配置される構造の場合、樹脂組成部から出射した光を効率よく波長変換ファイバに入射するためには、樹脂組成部から光が出射する面を波長変換ファイバで隙間なく覆うか、または、複雑な形状の反射材を用いて、樹脂組成部から出射した光を波長変換ファイバに集光する必要がある。
本実施形態に示すように、波長変換ファイバ20が樹脂組成部30に内包されている場合、樹脂組成部30の外周を反射材35で覆う等、従来公知の簡便な手法によって光を樹脂組成部30の内部に封じ込めるだけで、樹脂組成部30の内部で縦横に走行する光が波長変換部にいずれ到達するため、樹脂組成部30から出射した光を波長変換ファイバ20に効率よく入射することができる。光を樹脂組成部30の内部に封じ込めるためには、樹脂組成部30表面を反射材35で覆えばよく、該反射材35としては、未焼成のポリテトラフロロエチレン、或いは硫酸バリウム等の白色顔料からなるものが好適である。
本実施形態の中性子シンチレーター1においては、波長変換ファイバ20を樹脂組成部30に内包せしめる際に、波長変換ファイバ20を樹脂組成部30の外壁面に対して特定の位置に配置することを特徴の一つとする。本発明者らの検討によれば波長変換ファイバ20を樹脂組成部30の外壁面に対して特定の位置に配置し、できるだけ狭い領域の樹脂組成部30の中に波長変換ファイバ20を内包させることによってn/γ弁別が向上する。具体的には、該波長変換ファイバ20の直径(d)に対する、ファイバの中心軸と樹脂組成部30の外壁面の距離(D)の比(D/d)が1〜10の範囲となるように波長変換ファイバ20を設置する。
D/dが1〜10の範囲にあるとは、波長変換ファイバ20の中心軸から最も近い外壁面の位置が、少なくとも波長変換ファイバ20の直径の1倍以上であり、かつ最も遠い外壁面の位置が、最大でも波長変換ファイバ20の直径の10倍以下であることを意味する。D/dは好ましくは2〜5である。
なお、樹脂組成部30に複数の波長変換ファイバ20が内包される場合は、それぞれの波長変換ファイバ20がとりうるD/dについて計算し、その中の最大値と最小値を、複数本ファイバを内包する樹脂組成部30のとりうるD/dの値とする。
1≦D/d≦10 (5)
かかる指標を満たすように、できるだけ狭い領域の樹脂組成部30の中に波長変換ファイバ20を内包することによって、γ線によって生じる二次電子eが無機蛍光体粒子31中を走る距離を小さくすることができ、その結果、γ線が中性子シンチレーター1に入射した際に出力される波高値を低減することができる。
なお本実施形態において、波長変換ファイバ20の断面の形状は特に制限されない。上記波長変換ファイバ20の直径(d)は、ファイバの断面が円でない場合には、波長変換ファイバ20の等断面積円相当径を、波長変換ファイバ20の直径と見做す。
また波長変換ファイバ20の直径が大きすぎると、ファイバを伝わる光の光路長が伸び光量低下の原因となる可能性があるため、本実施形態ではファイバの直径が0.1〜5mmのものを使用するのが好適である。
本実施形態によれば、上述した効果によって、波長変換ファイバ20の使用量を削減することができるが、使用量が過度に少ない場合には、光量の損失が増大するおそれがあるため、適切な使用量とすることが好ましい。適切な使用量は、波長変換ファイバ20の体軸に垂直な断面における樹脂組成部30の断面積に対する波長変換ファイバ20の断面積の比によって規定することができる。樹脂組成部30から出射した光を効率よく樹脂組成部30に入射するためには、該断面積の比を0.0025以上とすることが好ましく、0.01以上とすることが特に好ましい。一方、波長変換ファイバ20の使用量を削減し、また、樹脂系複合体の構造を簡略化して製造コストを低減するためには、該断面積の比を1以下とすることが好ましく、0.1以下とすることが特に好ましい。
<中性子検出器>
図2に示すように、中性子シンチレーター1に光検出器3および判定部4を組み合わせることにより中性子検出器2とすることができる。
中性子の入射によって樹脂組成部30から発せられた光は、波長変換ファイバ20を介して光検出器3へ導かれる。光検出器3に到達した光は、光検出器3によって電気信号に変換され、中性子の入射が電気信号として計測されるため、中性子計数等に用いることができる。光検出器3は特に限定されず、光電子増倍管、フォトダイオード、アバランシェフォトダイオード、ガイガーモードアバランシェフォトダイオード、マイクロPMT等の従来公知の光検出器3を何ら制限なく用いることができる。
なお、波長変換ファイバ20において、光検出器3に対向する端面を光出射面とし、当該光出射面を平滑な面とすることが好ましい。かかる光出射面を有することによって、中性子シンチレーター1で生じた光を効率よく光検出器3に入射できる。
中性子シンチレーター1と光検出器3とを組み合わせる方法は特に限定されず、例えば、光検出器3の光検出面に波長変換ファイバ20の光出射面を光学グリース或いは光学セメント等で光学的に接着し、光検出器3に電源および信号読出し回路を接続して中性子検出器を製作することができる。なお、前記信号読出し回路は、一般に前置増幅器、整形増幅器、及び多重波高分析器などで構成される。
図4は、本実施形態の中性子検出器2における検出結果を模式化したグラフである。図4では、光検出器3において検出された光の波高値を横軸にとり、その検出回数(頻度)の対数を縦軸にとって示す。
光検出器3では、γ線に起因する光と中性子に起因する光とが、重なり合った状態で検出される。したがって、γ線と中性子とが混在する環境下での測定において、単に検出回数を観察するのみでは、中性子の存在を確認することが困難である。
本発明者らの検討によれば、図4に示すように、光検出器3における検出結果において、波高値に対する検出頻度の対数は、直線的な関数(一次関数LF)に近似される。
γ線に起因する光の検出結果のみに着目すると、検出頻度の対数は波高値の一次関数に収束する。γ線が入射すると二次電子eが発生する。この二次電子は、飛程距離が長いため、無機蛍光体粒子31内のみで、エネルギーを消耗し難い。このため、γ線の入射に起因する無機蛍光体粒子31の発光は、強さが一定でなく、確率論的に一次関数に収束する。
一方で、中性子が無機蛍光体粒子の中性子捕獲同位体に入射した際に発生する二次粒子(リチウム6の場合はα線とトリチウム、ホウ素10の場合はα線とリチウム7)は、飛程距離が短い。このため、二次粒子は、無機蛍光体粒子31内でエネルギーを消耗し特定の強さで無機蛍光体粒子31を発光させ、特定の波高値を示す。したがって、中性子線による光の検出結果では、無機蛍光体粒子31に含まれる中性子捕獲同位体に依存した波高値においてピークが観測される。より具体的には、中性子捕獲同位体としてリチウム6を含む場合には、4.8MeVに相当する波高値にピークが観測され、中性子捕獲同位体としてホウ素10を含む場合には、2.3MeVに相当する波高値にピークが観測される。
図4に示すように、検出頻度として対数を取ることで、γ線に起因する検出結果が一次関数LFとして判定でき、さらに中性子に起因する検出結果がピークとして検出される。したがって、中性子に起因する検出結果のピークが、一次関数LFから乖離する値Eとして観察でき、中性子の存在を判定できる。
本実施形態の判定方法によれば、中性子シンチレーター1に入射する中性子の照射量が、γ線の照射量に対して、少ない場合であっても、γ線に起因する検出結果を直線(一次関数LF)に近似することで、中性子に起因する検出結果のピークを容易に確認でき、正確な判定を下すことができる。
本実施形態において、判定部4は、上述した判定方法に基づき、中性子の存在を判定する。すなわち、判定部4は、光検出器3において検出された光の波高値に対するその検出頻度の対数を一次関数LFに近似し、近似した一次関数LFに対して4.8MeV近傍又は2.3MeV近傍の波高値の検出頻度が、乖離する場合に中性子の存在を判定する。より具体的には、4.8MeV近傍又は2.3MeV近傍の波高値において、一次関数LFから求められる検出頻度の標準偏差(σ)に対する、実測された検出頻度(E)の比(E/σ)を乖離度とし、当該乖離度を以て中性子の存在を判定する。中性子の存在の判定基準は特に制限されず、要求される判定精度に応じて決定すれば良いが、乖離度が1を超える場合に中性子の存在を判定することが好ましく、乖離度が2を超える場合に中性子の存在を判定することがより好ましく、乖離度が3を超える場合に中性子の存在を判定することが最も好ましい。なお、中性子が存在しない環境において測定値の99.7%が一次関数LFから3σ以内に収まることが確認されている。
<中性子検出器の変形例>
図5は、変形例の中性子検出器2Aを示す概略図である。
変形例の中性子検出器2Aは、複数配列された中性子シンチレーター1と、それぞれの中性子シンチレーター1の波長変換ファイバ20と接続された複数の光検出器3と、光検出器3と接続された判定部4Aと、を具備する。なお、複数配列された中性子シンチレーター1を、中性子検出ユニット8と呼ぶ。
中性子検出器2Aは、中性子線源を中心とする球の球面の法線方向に中性子シンチレーター1を複数配列することで、中性子検出効率が良く、かつn/γ弁別も良い中性子検出器を提供することができる。
また、中性子検出器2Aは、中性子検出ユニット8の中性子有感部分が、中性子線源を中心とする球に張る立体角が大きくなるように、中性子シンチレーター1を複数配列することにより、有感面積が大きい中性子検出器を提供することができる。
なお、図5に示す本変形例において、中性子検出器2Aは、中性子検出ユニット8を構成する中性子シンチレーター1それぞれに複数の光検出器3が組み合わされている。しかしながら、中性子検出ユニット8に対して1つの光検出器3を組み合わせた構成を採用してもよい。
<その他の変形例>
以下、発明を実施するための付加的態様について記述する。
上述の実施形態における中性子シンチレーター1を構成する樹脂組成部30に、無機蛍光体粒子31及び樹脂に加えて、中性子捕獲同位体を含有しない蛍光体(以下、中性子不感蛍光体ともいう)をさらに混合することも可能である。
かかる態様においては、γ線の入射によって生じた二次電子が、無機蛍光体粒子31から逸脱した後に該中性子不感蛍光体に到達してエネルギーを付与し、該中性子不感蛍光体が蛍光を発する。すなわち、γ線が入射した際には、無機蛍光体粒子31と中性子不感蛍光体の双方がエネルギーを付与され蛍光を発する。一方、中性子が入射した際には、無機蛍光体粒子31で生じた二次粒子は無機蛍光体粒子31から逸脱しないため、無機蛍光体粒子31のみが蛍光を発する。
ここで、蛍光寿命や発光波長等の蛍光特性が無機蛍光体粒子31と異なる中性子不感蛍光体を用いれば、かかる蛍光特性の差異を利用して中性子とγ線を弁別することができる。すなわち、蛍光特性の差異を識別できる機構を中性子検出器に設けておき、無機蛍光体粒子31に由来する蛍光と中性子不感蛍光体に由来する蛍光の双方が検出された場合にはγ線が入射した事象とし、無機蛍光体粒子31に由来する蛍光のみが検出された場合には中性子が入射した事象として処理することができる。かかる処理を講じることによって、n/γ弁別能に特に優れた中性子検出器を得ることができる。
蛍光特性の差異を識別できる機構を具体的に例示すれば、無機蛍光体粒子31と中性子不感蛍光体の蛍光寿命の差異を識別でき得る波形解析機構、及び、無機蛍光体粒子31と中性子不感蛍光体の発光波長を識別でき得る波長解析機構が挙げられる。
以下、前記波形解析機構について、より具体的に例示する。該波形解析機構は、前置増幅器、主増幅器、波形解析器及び時間振幅変換器により構成される。
中性子シンチレーター1と光検出器3と組み合わせてなる本実施形態の中性子検出器において、該光検出器3より出力された信号を、前置増幅器を介して主増幅器へ入力し、増幅・整形する。ここで、主増幅器で増幅・整形され、該主増幅器より出力される信号の強度は経時的に増加するが、かかる増加に要する時間(以下、立ち上がり時間ともいう)は、前記無機蛍光体粒子31あるいは中性子不感蛍光体の蛍光寿命を反映しており、蛍光寿命が短い程、立ち上がり時間が短くなる。
該立ち上がり時間を解析するため、主増幅器で増幅・整形された信号を波形解析器に入力する。波形解析器は、前記主増幅器より入力された信号を時間積分し、当該時間積分された信号強度が所定の閾値を超えた際にロジック信号を出力する。ここで、波形解析器には二段階の閾値が設けられており、第一のロジック信号と第二のロジック信号がある時間間隔を以て出力される。
次に波形解析器から出力される二つのロジック信号を時間振幅変換器(Time to amplitude converter, TAC)に入力し、波形解析器から出力される二つのロジック信号の時間差をパルス振幅に変換して出力する。該パルス振幅は、波形解析器から出力される第一のロジック信号と第二のロジック信号の時間間隔、すなわち立ち上がり時間を反映する。
前記説明から理解されるように、該時間振幅変換器から出力されるパルス振幅が小さい程、立ち上がり時間が短く、したがって前記無機蛍光体粒子31あるいは中性子不感蛍光体の蛍光寿命が短いと識別される。
以下、前記波長解析機構について、より具体的に例示する。該波長解析機構は、光学フィルタ、該光学フィルタを介して中性子シンチレーター1に接続される第二の光検出器、及び弁別回路により構成される。
本態様において、中性子シンチレーター1から放出される光の一部は前記光学フィルタを介さずに第一の光検出器に導かれ、他の一部は光学フィルタを介して第二の光検出器に導かれる。
ここで、無機蛍光体粒子31はAnmの波長で発光し、中性子不感蛍光体はAnmとは異なるBnmの波長で発光するものとする。すると、前記説明したように、γ線が入射した際には無機蛍光体粒子31と中性子不感蛍光体の双方が蛍光を発するため、中性子シンチレーター1からはAnm及びBnmの光が発せられ、中性子が入射した際には無機蛍光体粒子31のみが蛍光を発するため、Anmの光のみが発せられる。
本態様において、前記光学フィルタは、Anmの波長の光を遮り、且つBnmの波長の光を透過するフィルタである。したがって、中性子を照射した際に中性子シンチレーター1から発せられたAnmの光は、第一の光検出器には到達するが、第二の光検出器には光学フィルタによって遮られるため到達しない。一方で、γ線を照射した際にシンチレーターから発せられた光の内、Anmの光については前記中性子を照射した場合と同様であるが、Bnmの光は、第一の光検出器に到達し、また光学フィルタを透過するため第二の光検出器にも到達する。
そのため、Anmの光が第一の光検出器に入射し、該光検出器から信号が出力された際に、第二の光検出器から信号が出力されなければ中性子による事象とし、Bnmの光が第二の光検出器に入射して該光検出器から信号が出力されればγ線による事象として識別することができる。
なお、本態様において、前記のように中性子とγ線を弁別するために弁別回路が設けられる。該弁別回路は、前記第一の光検出器からの信号に同期して動作し、該光検出器からの信号が出力された際に、第二の光検出器からの信号の有無を判定する回路である。該弁別回路として具体的なものを例示すれば、反同時計数回路、ゲート回路等が挙げられる。
かかる有機蛍光体を具体的に例示すれば、2,5−Dipheniloxazole、1,4−Bis(5−phenyl−2−oxazolyl)benzene、1,4−Bis(2−methylstyryl)benzene、アントラセン、スチルベン及びナフタレン、ならびにこれらの誘導体等の有機蛍光体が挙げられる。かかる有機蛍光体は、一般に前記無機蛍光体粒子31に比較して蛍光寿命が短いため、蛍光寿命の差異を利用してn/γ弁別能を向上させるために好適に用いることができる。
当該中性子不感蛍光体の含有量は、本実施形態の効果を発揮する範囲で適宜設定できるが、樹脂に対して0.01質量%以上とすることが好ましく、0.1質量%以上とすることが特に好ましい。含有量を0.01質量%以上とすることによって、前記二次電子から付与されたエネルギーによって、該中性子不感蛍光体が効率よく励起され、該中性子不感蛍光体からの発光の強度が増加する。また、当該中性子不感蛍光体の含有量の上限は特に制限されないが、濃度消光によって該中性子不感蛍光体の発光の強度が減弱することを防ぐ目的で、樹脂に対して5質量%以下とすることが好ましく、2質量%以下とすることが特に好ましい。当該中性子不感蛍光体の含有量をかかる範囲とすることによって、該中性子不感蛍光体からの発光の強度が増加し、前記無機蛍光体粒子31との蛍光特性の差異を利用して中性子とγ線を弁別することが容易となる。
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
本実施例においては、波長変換ファイバ20の外周を内包する筒状の第1領域に無機蛍光体粒子31を含まないことによる効果について、モデル化した中性子シンチレーター1Sを仮定して確認する。
図6は、モデル化した中性子シンチレーター1Sの横断面図である。なお、このモデルでは、中性子シンチレーター1S内の光の光路について、中性子シンチレーター1Sの長手方向から見た横断面に関して説明するが、図6中の中性子シンチレーター1Sの長手方向(すなわち図6中の紙面奥行方向)の光路を加味した場合であっても、同様である。
中性子シンチレーター1Sは、波長変換ファイバ20Sと、波長変換ファイバ20Sを囲む樹脂組成部30Sと、を有する。中性子シンチレーター1Sは、一様な断面を有し棒状に形成されている。中性子シンチレーター1Sは、直径5mmの断面円形状を有する。
波長変換ファイバ20Sは、直径1mmの断面円形状を有する。樹脂組成部30Sは、樹脂部32Sと、1つの第1の無機蛍光体粒子31Saと、20個の第2の無機蛍光体粒子31Sbと、を有する。第1の無機蛍光体粒子31Saは、波長変換ファイバ20Sの表面20aに位置している。また、第2の無機蛍光体粒子31Sbは、波長変換ファイバの表面20aから距離1mmの位置に配置されている。
第1および第2の無機蛍光体粒子31Sa、31Sbは、γ線又は中性子の入射により、等方的に光を出射する。
第1の無機蛍光体粒子31Saは、波長変換ファイバ20Sの表面20aに位置する。このため、第1の無機蛍光体粒子31Saから横断面中の360°全方位に出射する光のうち、180°の光が波長変換ファイバ20Sに入射する。
一方で、第2の無機蛍光体粒子31Sbは、波長変換ファイバ20Sの半径と等しい距離だけ波長変換ファイバ20Sの表面20aから離れているため、横断面中の360°全方位に出射する光のうち、幾何学的に60°の光が波長変換ファイバ20Sに入射する。
樹脂組成部30Sの外周面30aには、乱反射材35Sが設けられている。乱反射材35Sは、第1および第2の無機蛍光体粒子31Sa、31Sbから出射され樹脂組成部30Sの外周面30aに達した光を90%の反射率で反射するものとする。また、外周面30aは、波長変換ファイバ20Sの半径の4倍の距離だけ波長変換ファイバ20Sの表面20aから離れている。したがって、乱反射材35Sで反射して180°の方向に拡散して出射される光のうち、幾何学的に22°の光が波長変換ファイバ20Sに入射する。
図6のモデルにおいて、第1および第2の無機蛍光体粒子31Sa、31Sbについて、それぞれ出射した光のうち、波長変換ファイバ20Sに入射する光の割合を計算する。
(式M1)は、第1の無機蛍光体粒子31Saから出射された光のうち、波長変換ファイバ20Sに入射する光の割合Raを算出するための式である。
同様に(式M2)は、第2の無機蛍光体粒子31Sbから出射された光のうち、波長変換ファイバ20Sに入射する光の割合Rbを算出するための式である。
(式M1)および(式M2)の右辺の第1項は、第1又は第2の無機蛍光体粒子31Sa、31Sbから出射した光のうち、直接的に波長変換ファイバ20Sに入射する光の割合を表す。
また、(式M1)および(式M2)の右辺の第2項は、第1又は第2の無機蛍光体粒子31Sa、31Sbから出射した光のうち、1回だけ乱反射材35Sで反射された後に、波長変換ファイバ20Sに入射する光の割合を表す。さらに、右辺の第3項以降は、2回、3回…と、乱反射材35Sで反射された後に、波長変換ファイバ20Sに入射する光の割合である。
(式M1)および(式M2)は、それぞれ以下の(式M3)および(式M4)に変換して計算することができる。
(式M3)から、このモデルにおいて、第1の無機蛍光体粒子31Saから出射された光のうち、波長変換ファイバ20Sに入射する光の割合Raは、0.76(すなわち76%)である。また、(式M4)から、第2の無機蛍光体粒子31Sbから出射された光のうち、波長変換ファイバ20Sに入射する光の割合Rbは、0.60(すなわち60%)である。
次に、図6のモデルにおいて、中性子Nおよびγ線が中性子シンチレーター1Sに入射した場合に、中性子およびγ線に起因して、第1および第2の無機蛍光体粒子31Sa、31Sbから出射されたm個の光子が、波長変換ファイバ20Sに入射する確率を算出する。
ここで、本モデルにおいて、中性子Nが1つの無機蛍光体粒子31Sa、31Sbに入射した際の、反応数を1×103とする。ここでの反応数とは、中性子Nが無機蛍光体粒子31Sa、31Sbに入射により生じた二次粒子による無機蛍光体の励起回数を意味する。したがって、中性子Nが1つの無機蛍光体粒子31Sa、31Sbに入射すると1×103回の励起が生じる。
また、本モデルにおいて、γ線が1つの無機蛍光体粒子31Sa、31Sbに入射した際の、反応数を1×1011とする。ここでの反応数とは、γ線が無機蛍光体粒子31Sa、31Sbに入射により生じた二次電子による無機蛍光体の励起回数を意味する。したがって、γ線が1つの無機蛍光体粒子31Sa、31Sbに入射すると1×1011回の励起が生じる。
また、本モデルにおいて、中性子の入射に起因する1回の反応あたりに、無機蛍光体粒子31Sa、32Sbから出射される光子の数は、200photon(実際には、20,000photonと言われる)であるとする。同様に、本モデルにおいて、γ線の入射に起因する1回の反応あたりに、無機蛍光体粒子31Sa、32Sbから出射される光子の数は、125photon(実際には、0〜15,000photonと言われる)であるとする。
なお、実際の中性子シンチレーターにおいては、上記のカッコ内の値であると言われているが、本モデルでは計算の簡素化のために、上記値を用いることとする。
まず中性子が無機蛍光体粒子31Sa、32Sbに入射した際に、波長変換ファイバ20Sに入射する光子の数について検討する。
第1の無機蛍光体粒子31Saに中性子が入射した際に、当該中性子の入射に起因して射出された光子が、m個だけ波長変換ファイバに入射する確率Pnaは、以下の(式M5)で表される。なお(式M5)において、Raは、上で求めたように、0.76である。
同様に、第2の無機蛍光体粒子31Sbに中性子が入射した際に、当該中性子の入射に起因して射出された光子が、m個だけ波長変換ファイバ20Sに入射する確率Pnbは、以下の(式M6)で表される。なお(式M6)において、Rbは、上で求めたように、0.60である。
また、1個の無機蛍光体粒子31Sa、31Sbにおいて、中性子Nの入射により1×103回の反応が起こる点および、第1の無機蛍光体粒子31Saは1個存在し、第2の無機蛍光体粒子31Sbが20個存在する点を加味すると、図6の中性子シンチレーターにおいて、中性子nが第1および第2の無機蛍光体粒子31Sa、31Sbに入射した際に、波長変換ファイバ20Sに入射する光子数がm個となる事象の発生回数Cnabは、以下の(式M7)で表される。
Cnab=(1×103×1×Pna)+(1×103×20×Pnb)
(式M7)
上述の(式M7)を基に、波長変換ファイバ20Sに入射する光子数mと、この事象の発生回数Cnabと、をプロットしたグラフを図7に示す。
なお、上述の(式M7)中において、右辺の第1項が第1の無機蛍光体粒子31Saからの出射される光子数に対応し、第2項が第2の無機蛍光体粒子31Sbから出射される光子数に対応する。
ここで本実施形態に示すように、波長変換ファイバ20Sの近傍に無機蛍光体粒子を含まない場合(すなわち、図1において、樹脂組成部30の第1領域A1に無機蛍光体粒子31を含まない場合)に、中性子Nが第2の無機蛍光体粒子31Sbに入射した際に、波長変換ファイバ20Sに入射する光子数がm個となる事象の発生回数Cnbは、以下の(式M8)で表される。
Cnb=(1×103×20×Pnb) (式M8)
上述の(式M8)を基に、波長変換ファイバ20Sに入射する光子数mと、この事象の発生回数Cnbと、をプロットしたグラフを図8に示す。
次いで、γ線が無機蛍光体粒子31Sa、32Sbに入射した際に、波長変換ファイバ20Sに入射する光子の数について検討する。
第1の無機蛍光体粒子31Saにγ線が入射した際に、当該γ線の入射に起因して射出された光子が、m個だけ波長変換ファイバに入射する確率Pγaは、以下の(式M9)で表される。
同様に、第2の無機蛍光体粒子31Sbにγ線が入射した際に、当該γ線の入射に起因して射出された光子が、m個だけ波長変換ファイバ20Sに入射する確率Pγbは、以下の(式M10)で表される。
また、1個の無機蛍光体粒子31Sa、31Sbにおいて、γ線の入射により1×1011回の反応が起こる点および、第1の無機蛍光体粒子31Saは1個存在し、第2の無機蛍光体粒子31Sbが20個存在する点を加味すると、図6の中性子シンチレーターにおいて、γ線の無機蛍光体粒子31Sへの入射に対して、波長変換ファイバ20Sに入射する光子数がm個となる事象の発生回数Cγabは、以下の(式M11)で表される。
Cγab=(1×1011×1×Pγa)+(1×1011×20×Pγb)
(式M11)
上述の(式M11)を基に、γ線が第1および第2の無機蛍光体粒子31Sa、31Sbに入射した際に、波長変換ファイバ20Sに入射する光子数mと、この事象の発生回数Cγabと、をプロットしたグラフを図9に示す。
また、波長変換ファイバ20Sの近傍に無機蛍光体粒子を含まない場合(すなわち、図1において、樹脂組成部30の第1領域A1に無機蛍光体粒子31を含まない場合)に、γ線が第2の無機蛍光体粒子31Sbに入射した際に、波長変換ファイバ20Sに入射する光子数がm個となる事象の発生回数Cγbは、以下の(式M12)で表される。
Cγb=(1×1011×20×Pγb) (式M12)
上述の(式M12)を基に、γ線が第2の無機蛍光体粒子31Sbに入射した際に、波長変換ファイバ20Sに入射する光子数mと、この事象の発生回数Cγbと、をプロットしたグラフを図10に示す。
図11は、本モデルにおいて、中性子Nおよびγ線が、それぞれ第1および第2の無機蛍光体粒子31Sa、31Sbに入射した際に、波長変換ファイバ20Sに入射する光子数mと、この事象の発生回数の関係を示すグラフである。すなわち図11は、図7に示すグラフと、図9に示すグラフとを重ね合わせたグラフである。
また、図13は、それぞれ第1および第2の無機蛍光体粒子31Sa、31Sbを有するモデルにおいて、中性子Nおよびγ線に起因して波長変換ファイバ20Sに入射する光子数mと、この事象の発生回数の関係の総和を示すグラフである。すなわち、図13は、図7および図9に示す発生回数を互いに足し合わせたグラフである。
なお、図11は、縦軸(発生回数)に対数を取っており、図13は、縦軸を線形としている。
図12は、本モデルの第1の無機蛍光体粒子31Saを省いた場合(波長変換ファイバ20Sの近傍に無機蛍光体粒子を含まない場合)において、中性子Nおよびγ線が、それぞれ第1および第2の無機蛍光体粒子31Sa、31Sbに入射した際に、波長変換ファイバ20Sに入射する光子数mと、この事象の発生回数の関係を示すグラフである。すなわち図12は、図8に示すグラフと、図10に示すグラフとを重ね合わせたグラフである。
また、図14は、第2の無機蛍光体粒子31Sbのみを有するモデルにおいて、中性子Nおよびγ線に起因して波長変換ファイバ20Sに入射する光子数mと、この事象の発生回数の関係の総和を示すグラフである。すなわち、図14は、図8および図10に示す発生回数を互いに足し合わせたグラフである。
なお、図12は、縦軸(発生回数)に対数を取っており、図14は、縦軸を線形としている。
図11に示すように、波長変換ファイバ20Sの近傍に無機蛍光体粒子が存在する場合(すなわち、第1の無機蛍光体粒子31Saが存在する場合)には、γ線に由来する出力結果と、中性子Nに依存する出力結果とが、大幅に重なり合っている。また、中性子Nに依存する出力結果のピークの1つが、γ線に由来する出力結果に重なっている。
図13は、波長変換ファイバ20Sの近傍に無機蛍光体粒子が存在する場合の中性子シンチレーター1Sの検出結果とみることができる。図13に示すように、波長変換ファイバ20Sの近傍に無機蛍光体粒子が存在する場合には、中性子Nに依存する出力結果のピークの1つが、γ線に由来する出力結果に重なっているため、中性子の検出結果が、γ線の存在により確認しづらくなっている。
一方で、図12に示すように、波長変換ファイバ20Sの近傍に無機蛍光体粒子が存在しない場合(すなわち、第1の無機蛍光体粒子31Saが存在しない場合)には、中性子Nに依存する検出結果のピークが、γ線に起因するグラフに埋もれていない。
図14は、波長変換ファイバ20Sの近傍に無機蛍光体粒子が存在しない場合の中性子シンチレーター1Sの検出結果とみることができる。図14に示すように、この検出結果では、中性子Nに依存する検出結果のピークが、γ線に埋もれていないために、特定の光子数(波高値に換算される)の事象発生回数を確認することができる。
すなわち、図13および図14を比較した時、波長変換ファイバ20Sの近傍に無機蛍光体粒子を配置しない場合(図14の場合)には、中性子Nに依存する検出結果のピークを認識しやすくすることができる。したがって、実際の測定において、中性子シンチレーターにより測定された測定結果において、中性子に起因するピークのみを容易に識別することが可能となる。結果として、このように、モデル化した中性子シンチレーター1Sにおいて、波長変換ファイバ20Sの近傍に、無機蛍光体粒子を配置しないことで、n/γ弁別能を高められることが確認された。