以下に、本発明に係る無段変速機の制御装置の一実施形態について説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
図1は、実施形態に係る動力伝達装置100を備えた車両Veの一例を示すスケルトン図である。
図1に示すように、車両Veは、動力源としてエンジン1と動力伝達装置100とを備える。エンジン1はエンジン回転数Neに応じて所定の動力を出力する。エンジン1から出力された動力は、動力伝達装置100を構成する、トルクコンバータ2、入力軸3、前後進切替機構4、ベルト式の無段変速機であるCVT5またはギヤ機構6、出力軸7、カウンタギヤ機構8、デファレンシャルギヤ9、及び、駆動軸10を介して、駆動輪11に伝達される。CVT5の下流側には、エンジン1を駆動輪11から切り離すためのクラッチとしてクラッチC2が設けられている。クラッチC2を解放させることによって、CVT5と出力軸7との間がトルク伝達不能に遮断され、エンジン1に加えCVT5が駆動輪11から切り離される。
具体的にトルクコンバータ2は、エンジン1に連結されたポンプインペラ2a、ポンプインペラ2aに対向して配置されたタービンランナ2b、及び、ポンプインペラ2aとタービンランナ2bとの間に配置されたステータ2cを備える。トルクコンバータ2の内部は作動流体としてのオイルで満たされている。ポンプインペラ2aはエンジン1のクランクシャフト1aと一体回転する。タービンランナ2bには、入力軸3が一体回転するように連結されている。トルクコンバータ2はロックアップクラッチを備え、その係合状態ではポンプインペラ2aとタービンランナ2bとが一体回転し、その解放状態ではエンジン1から出力された動力が作動流体を介してタービンランナ2bに伝達される。なお、ステータ2cは、一方向クラッチを介してケースなどの固定部に保持されている。
また、ポンプインペラ2aには、ベルト機構などの伝動機構を介して、オイルポンプ41が連結されている。オイルポンプ41は、ポンプインペラ2aを介してクランクシャフト1aに連結され、エンジン1によって駆動される。なお、オイルポンプ41とポンプインペラ2aとが一体回転するように構成されてもよい。
入力軸3は、前後進切替機構4に連結されている。前後進切替機構4は、エンジントルクを駆動輪11へ伝達する際、駆動輪11に作用するトルクの方向を前進方向と後進方向との間で切り替える。前後進切替機構4は、差動機構からなり、図1に示す例ではダブルピニオン型の遊星歯車機構によって構成されている。その前後進切替機構4は、サンギヤ4Sと、サンギヤ4Sに対して同心円上に配置されたリングギヤ4Rと、サンギヤ4Sに噛み合っている第1ピニオンギヤ4P1と、第1ピニオンギヤ4P1及びリングギヤ4Rに噛み合っている第2ピニオンギヤ4P2と、第1ピニオンギヤ4P1及び第2ピニオンギヤ4P2を自転可能かつ公転可能に保持しているキャリヤ4Cとを備えている。サンギヤ4Sには、ギヤ機構6の駆動ギヤ61が一体回転するように連結されている。キャリヤ4Cには、入力軸3が一体回転するように連結されている。
また、サンギヤ4Sとキャリヤ4Cとを選択的に一体回転させる第1クラッチであるクラッチC1が設けられている。クラッチC1を係合させることによって、前後進切替機構4全体が一体回転する。さらに、リングギヤ4Rを選択的に回転不能に固定するブレーキB1が設けられている。クラッチC1及びブレーキB1は、油圧式である。
例えば、クラッチC1を係合させ、かつブレーキB1を解放させると、サンギヤ4Sとキャリヤ4Cとが一体回転する。すなわち、入力軸3と駆動ギヤ61とが一体回転する。また、クラッチC1を解放させ、かつブレーキB1を係合させると、サンギヤ4Sとキャリヤ4Cとが逆方向に回転する。すなわち、入力軸3と駆動ギヤ61とは逆方向に回転する。
車両Veにおいては、無段変速機であるCVT5と有段変速部であるギヤ機構6とが並列に設けられている。入力軸3と出力軸7との間の動力伝達経路として、ギヤ機構6を介する第1動力伝達経路と、CVT5を介する第2動力伝達経路とが、並列に形成されている。
CVT5は、入力軸3と入力軸回転速度Ninで一体回転するプライマリプーリ51、セカンダリシャフト54と一体回転するセカンダリプーリ52、プライマリプーリ51及びセカンダリプーリ52に形成されたV溝に巻き掛けられたベルト53を備える。入力軸3はプライマリシャフトとなる。プライマリプーリ51及びセカンダリプーリ52のV溝幅を変化させることによってベルト53の巻き掛け径が変化するので、CVT5の変速比γを連続的に変化させることができる。CVT5の変速比γは、最大変速比γmax(ギヤが最Low)から最小変速比γmin(ギヤが最High)の範囲内で連続的に変化する。
プライマリプーリ51は、入力軸3と一体化された固定シーブ51a、入力軸3上で軸線方向に移動可能な可動シーブ51b、及び、可動シーブ51bに推力を付与するプライマリ圧シリンダ51cを備える。固定シーブ51aのシーブ面と可動シーブ51bのシーブ面とが対向して、プライマリプーリ51のV溝を形成する。プライマリ圧シリンダ51cは、可動シーブ51bの背面側に配置されている。プライマリ圧シリンダ51cへ供給されるプライマリ圧Pinによって、可動シーブ51bを固定シーブ51a側へ移動させる推力が発生し、プライマリプーリ51に巻き掛けられたベルト53に対して挟持圧力を発生させる。
セカンダリプーリ52は、セカンダリシャフト54と一体化された固定シーブ52a、セカンダリシャフト54上で軸線方向に移動可能な可動シーブ52b、及び可動シーブ52bに推力を付与するセカンダリ圧シリンダ52cを備える。固定シーブ52aのシーブ面と可動シーブ52bのシーブ面とが対向して、セカンダリプーリ52のV溝を形成する。セカンダリ圧シリンダ52cは、可動シーブ52bの背面側に配置されている。セカンダリ圧シリンダ52cに供給されるセカンダリ圧Poutによって、可動シーブ52bを固定シーブ52a側へ移動させる推力が発生し、セカンダリプーリ52に巻き掛けられたベルト53に対して挟持圧力を発生させる。
第2クラッチであるクラッチC2は、セカンダリシャフト54と出力軸7との間に設けられており、出力軸7からCVT5を選択的に切り離すことができる。例えば、クラッチC2を係合させると、CVT5と出力軸7との間が動力伝達可能に接続され、セカンダリシャフト54と出力軸7とが一体回転する。一方、クラッチC2を解放させると、セカンダリシャフト54と出力軸7との間がトルク伝達不能に遮断され、エンジン1及びCVT5が駆動輪11から切り離される。
クラッチC2は油圧式である。油圧アクチュエータによってクラッチC2の係合要素同士が摩擦係合するように構成されている。そのため、クラッチC2の係合要素同士を半係合状態として摩擦係合させると、クラッチC2をスリップ状態にできる。この場合、CVT5と出力軸7との間を伝達するトルクが比較的小さくなる。
出力軸7には、出力ギヤ7aと従動ギヤ63とが一体回転するように取り付けられている。出力ギヤ7aは、減速機構であるカウンタギヤ機構8のカウンタドリブンギヤ8aと噛み合っている。カウンタギヤ機構8のカウンタドライブギヤ8bは、デファレンシャルギヤ9のリングギヤ9aと噛み合っている。デファレンシャルギヤ9には、左右の駆動軸10を介して左右の駆動輪11が連結されている。
ギヤ機構6は、前後進切替機構4のサンギヤ4Sと一体回転する駆動ギヤ61と、カウンタギヤ機構62と、出力軸7と一体回転する従動ギヤ63とを含む。ギヤ機構6は減速機構であって、ギヤ機構6の変速比(ギヤ比)は、CVT5の最大変速比γmaxよりも大きい所定値に設定されている。車両Veにおいては、発進時にエンジン1からギヤ機構6を介して駆動輪11にトルクを伝達可能に構成されている。ギヤ機構6は例えば発進ギヤとして機能する。
駆動ギヤ61は、カウンタギヤ機構62のカウンタドリブンギヤ62aと噛み合っている。カウンタギヤ機構62は、カウンタドリブンギヤ62aと、カウンタシャフト62bと、従動ギヤ63に噛み合っているカウンタドライブギヤ62cとを含む。カウンタシャフト62bには、カウンタドリブンギヤ62aが一体回転するように取り付けられている。カウンタシャフト62bは入力軸3及び出力軸7と平行に配置されている。カウンタドライブギヤ62cは、カウンタシャフト62bに対して相対回転可能に構成されている。
また、カウンタシャフト62bとカウンタドライブギヤ62cとを選択的に一体回転させる噛合式の係合装置であるドグクラッチS1が設けられている。ドグクラッチS1は、噛合式の第1係合要素64a及び第2係合要素64bと、軸線方向に移動可能なスリーブ64cとを備える。第1係合要素64aは、カウンタシャフト62bにスプライン嵌合されたハブである。第1係合要素64aとカウンタシャフト62bとは一体回転する。第2係合要素64bは、カウンタドライブギヤ62cと一体回転するように連結されている。すなわち、第2係合要素64bはカウンタシャフト62bに対して相対回転する。スリーブ64cの内周面に形成されたスプライン歯が、第1係合要素64a及び第2係合要素64bの外周面に形成されたスプライン歯と噛み合うことによって、ドグクラッチS1は係合状態となる。ドグクラッチS1を係合させることによって、駆動ギヤ61と従動ギヤ63との間がトルク伝達可能に接続される。第2係合要素64bとスリーブ64cとの噛み合いが解除されることによって、ドグクラッチS1は解放状態となる。ドグクラッチS1を解放させることによって、駆動ギヤ61と従動ギヤ63との間はトルク伝達不能に遮断される。また、ドグクラッチS1は、油圧式であり、油圧アクチュエータによってスリーブ64cが軸線方向に移動する。
このように構成される車両Veでは、電子制御装置110(図2参照)によって制御されて、クラッチC1を係合状態とし、クラッチC2を解放状態とすることにより、入力軸3の動力がギヤ機構6を介して出力軸7に伝達され、CVT5は動力伝達を行わない。この状態をギヤ走行モードと呼ぶ。一方、電子制御装置110によって制御されて、クラッチC2を係合状態とし、クラッチC1を解放状態とすることにより、入力軸3の動力がCVT5を介して出力軸7に伝達され、ギヤ機構6には動力伝達を行わない。この状態をベルト走行モードと呼ぶ。また、ギヤ走行モードからベルト走行モードへ切り替える場合には、クラッチC1を解放してクラッチC2を係合するようにクラッチを掛け替える変速制御であるクラッチトゥクラッチ制御(以下、CtoC制御という)が実行される。
図2は、エンジン1やCVT5などを制御するために車両Veに設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。図2において、車両Veには、例えばCVT5の変速制御などに関連する変速機の制御装置としての機能を有する電子制御装置110が備えられている。電子制御装置110は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両Veの各種制御を実行する。例えば、電子制御装置110は、エンジン1の出力制御やCVT5の変速制御やベルト挟圧力制御などを実行するようになっている。
電子制御装置110には、エンジン回転速度センサ120により検出されたクランクシャフト1aの回転角度(位置)ACR及びエンジン1の回転速度(エンジン回転速度)NEを表す信号、タービン回転速度センサ121により検出された入力軸3(タービン軸)の回転速度(タービン回転速度)NTを表す信号、入力軸回転速度センサ122により検出されたCVT5の入力回転速度である入力軸回転速度Ninを表す信号、出力軸回転速度センサ123により検出された車速Vに対応するCVT5の出力回転速度である出力軸回転速度Noutを表す信号、スロットルセンサ124により検出された電子スロットル弁のスロットル弁開度θTHを表す信号、アクセル開度センサ125により検出された運転者の加速要求量としてのアクセルペダルの操作量であるアクセル開度ACCを表す信号、フットブレーキスイッチ126により検出された常用ブレーキであるフットブレーキが操作された状態を示すブレーキオンBONを表す信号、レバーポジションセンサ127により検出されたシフトレバーのレバーポジション(操作位置)PSHを表す信号、セカンダリ圧センサ128により検出されたセカンダリプーリ52への供給油圧であるセカンダリ圧Poutを表す信号、油温センサ129により検出されたCVT5の油温(作動油温)を表す信号などが、それぞれ供給される。なお、電子制御装置110は、例えば、出力軸回転速度Noutと入力軸回転速度Ninとに基づいてCVT5の実変速比γ(=Nin/Nout)を逐次算出する。
また、電子制御装置110からは、エンジン1の出力制御のためのエンジン出力制御指令信号SEや、CVT5の変速に関する油圧制御のための油圧制御指令信号SCVTなどが、それぞれ出力される。具体的には、エンジン出力制御指令信号SEとして、スロットルアクチュエータ130を駆動して電子スロットル弁の開閉を制御するためのスロットル信号や、燃料噴射装置131から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号や、点火装置132によるエンジン1の点火時期を制御するための点火時期信号などが出力される。また、油圧制御指令信号SCVTとしては、プライマリ圧Pinを調圧するリニアソレノイド弁SLP(図1参照)を駆動するための指令信号や、セカンダリ圧Poutを調圧するリニアソレノイド弁SLS(図1参照)を駆動するための指令信号などが、油圧制御回路140へ出力される。
油圧制御回路140において、例えばリニアソレノイド弁SLPにより調圧されるプライマリ圧Pin及びリニアソレノイド弁SLSにより調圧されるセカンダリ圧Poutは、ベルト滑りを発生させず且つ不必要に大きくならないベルト挟圧力を、プライマリプーリ51及びセカンダリプーリ52に発生させるように制御される。また、プライマリ圧Pinとセカンダリ圧Poutとの相互関係で、プライマリプーリ51及びセカンダリプーリ52の推力比τ(=Wout/Win)が変更されることによりCVT5の変速比γが変更される。例えば、その推力比τが大きくされるほど変速比γが大きくされる(すなわちCVT5はダウンシフトされる)。
図3は、セカンダリプーリ52側にのみセカンダリ圧センサ128が備えられている場合に、必要最小限の推力で目標の変速とベルト滑り防止とを両立するための制御構造を示すブロック図である。図3において、目標変速比γ*及びCVT5の入力トルクTinが、電子制御装置110により逐次算出される。
図3のブロックB1及びブロックB2において、電子制御装置110は、例えば実変速比γとCVT5の入力トルクTinとに基づいて滑り限界推力Wlmtを算出する。具体的には、電子制御装置110は、下記(1)式及び下記(2)式からプライマリプーリ51の入力トルクとしてのCVT5の入力トルクTin、セカンダリプーリ52の入力トルクとしてのCVT5の出力トルクTout、プライマリプーリ51及びセカンダリプーリ52のシーブ角α、プライマリプーリ51側の所定のエレメント・プーリ間摩擦係数μin、セカンダリプーリ52側の所定のエレメント・プーリ間摩擦係数μout、実変速比γから一意的に算出されるプライマリプーリ51側のベルト掛かり径Rin、実変速比γから一意的に算出されるセカンダリプーリ52側のベルト掛かり径Routに基づいて、セカンダリプーリ側滑り限界推力Woutlmt及びプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmtをそれぞれ算出する。なお、Tout=γ×Tin=(Rout/Rin)×Tinとしている。
Woutlmt=(Tout×cosα)/(2×μout×Rout)
=(Tin×cosα)/(2×μout×Rin) ・・・(1)
Winlmt=(Tin×cosα)/(2×μin×Rin) ・・・(2)
図3のブロックB3及びブロックB6において、電子制御装置110は、例えばプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmtに対応するセカンダリバランス推力Woutbl、及び目標セカンダリ推力Wout*に対応するプライマリバランス推力Winblをそれぞれ算出する。
具体的には、電子制御装置110は、目標変速比γ*をパラメータとして、プライマリ側安全率SFin(=Win/Winlmt)の逆数SFin−1(=Winlmt/Win)と、プライマリプーリ51側に対応するセカンダリプーリ52側の推力を算出するときの推力比τinと、の予め実験的に求められて記憶された関係(推力比マップ)から、逐次算出される目標変速比γ*及びプライマリ側安全率の逆数SFin−1に基づいて推力比τinを算出する。
そして、電子制御装置110は、下記(3)式からプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt及び推力比τinに基づいて、セカンダリバランス推力Woutblを算出する。
Woutbl=Winlmt×τin ・・・(3)
また、電子制御装置110は、目標変速比γ*をパラメータとして、セカンダリ側安全率SFout(=Wout/Woutlmt)の逆数SFout−1(=Woutlmt/Wout)と、セカンダリプーリ52側に対応するプライマリプーリ51側の推力を算出するときの推力比τoutと、の予め実験的に求められて記憶された関係(推力比マップ)から、逐次算出される目標変速比γ*及びセカンダリ側安全率の逆数SFout−1に基づいて推力比τoutを算出する。
そして、電子制御装置110は、下記(4)式から目標セカンダリ推力Wout*及び推力比τoutに基づいて、プライマリバランス推力Winblを算出する。
Winbl=Wout*/τout ・・・(4)
なお、被駆動時には入力トルクTinや出力トルクToutが負の値となることから、各安全率の逆数SFin−1,SFout−1も被駆動時には負の値となる。また、この逆数SFin−1,SFout−1は、逐次算出されても良いが、安全率SFin,SFoutに所定値を各々設定するならばその逆数を設定しても良い。
図3のブロックB4及びブロックB7において、電子制御装置110は、例えばセカンダリプーリ52側にて目標の変速を実現する場合のセカンダリプーリ側換算の差推力ΔWとしてのセカンダリ変速差推力ΔWout、及びプライマリプーリ51側にて目標の変速を実現する場合のプライマリプーリ側換算の差推力ΔWとしてのプライマリ変速差推力ΔWinを算出する。
具体的には、電子制御装置110は、セカンダリ側目標変速速度(dXout/dNelmout)とセカンダリ変速差推力ΔWoutとの予め実験的に求められて記憶された関係(差推力マップ)から、逐次算出されるセカンダリ側目標変速速度(dXout/dNelmout)に基づいてセカンダリ変速差推力ΔWoutを算出する。また、電子制御装置110は、プライマリ側目標変速速度(dXin/dNelmin)とプライマリ変速差推力ΔWinとの予め実験的に求められて記憶された関係(差推力マップ)から、逐次算出されるプライマリ側目標変速速度(dXin/dNelmin)に基づいてプライマリ変速差推力ΔWinを算出する。
ここで、ブロックB3及びブロックB4における演算では、推力比マップや差推力マップなどの予め実験的に求められて設定された物理特性図を用いる。そのため、油圧制御回路140等の個体差によりセカンダリバランス推力Woutblやセカンダリ変速差推力ΔWoutの算出結果には、物理特性に対するばらつきが存在する。そこで、このような物理特性に対するばらつきを考慮する場合、電子制御装置110は、例えばプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmtに基づくセカンダリプーリ52側の推力(セカンダリバランス推力Woutblやセカンダリ変速差推力ΔWout)の算出に関わる物理特性に対するばらつき分に対応する所定推力である制御マージンWmgnを、セカンダリプーリ52側の推力の算出に先立って、プライマリプーリ側滑り限界推力Winlmtに加算する。したがって、上記物理特性に対するばらつきを考慮する場合、ブロックB3において電子制御装置110は、例えば上記(3)式に替えて、下記(3)’式から制御マージンWmgnが加算されたプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmt及び推力比τinに基づいて、セカンダリバランス推力Woutblを算出する。
Woutbl=(Winlmt+Wmgn)×τin ・・・(3)’
なお、制御マージンWmgnは、例えば予め実験的に求められて設定された一定値(設計値)であるが、定常状態(変速比一定状態)よりも過渡状態(変速中)の方がばらつき要因(推力比マップや差推力マップなどの物理特性図)を多く用いるので、大きい値に設定されている。また、上記算出に関わる物理特性に対するばらつき分は、例えば各リニアソレノイド弁SLP,SLSへの各制御電流に対する制御油圧のばらつき、その制御電流を出力する駆動回路のばらつき、制御油圧に対するプライマリ圧Pinやセカンダリ圧Poutのばらつきなどのプーリ圧の油圧指令値に対する実油圧のずれ分(油圧ばらつき分、油圧制御上のばらつき分)とは異なるものである。
この油圧ばらつき分は、油圧制御回路140などのハードユニットによっては比較的大きな値となるが、上記算出に関わる物理特性に対するばらつき分は、上記油圧ばらつき分と比べて極めて小さな値である。そのため、制御マージンWmgnをプライマリプーリ側滑り限界推力Winlmtに加算することは、プーリ圧の油圧指令値に対して実プーリ圧がどんなにばらついても目標のプーリ圧が得られるように、その油圧指令値に制御上のばらつき分を上乗せすることに比べ、燃費の悪化が抑制される。また、ブロックB6及びB7における演算では、目標セカンダリ推力Wout*を基にするので、ここでは演算に先立って制御マージンWmgnを目標セカンダリ推力Wout*に加算することについては実行しない。
また、電子制御装置110は、例えばプライマリプーリ51側のベルト滑りを防止するために必要なセカンダリ推力として、セカンダリバランス推力Woutblにセカンダリ変速差推力ΔWoutを加算したセカンダリプーリ側変速制御推力Woutsh(=Woutbl+ΔWout)を算出する。そして、図3のブロックB5において、電子制御装置110は、セカンダリプーリ側滑り限界推力Woutlmtとセカンダリプーリ側変速制御推力Woutshとのうちの大きい方を、目標セカンダリ推力Wout*として選択する。
また、電子制御装置110は、例えばプライマリバランス推力Winblにプライマリ変速差推力ΔWinを加算してプライマリプーリ側変速制御推力Winsh(=Winbl+ΔWin)を算出する。
また、図3のブロックB8において、電子制御装置110は、例えば下記(5)式に示すような予め求められて設定されたフィードバック制御式を用いて、実変速比γを目標変速比γ*と一致させるためのフィードバック制御量(FB制御補正量)Winfbを算出する。なお、下記(5)式において、Δγは目標変速比γ*と実変速比γとの変速比偏差(=γ*−γ)、KPは所定の比例定数、KIは所定の積分定数、KDは所定の微分定数である。
Winfb=KP×Δγ+KI×(∫Δγdt)+KD×(dΔγ/dt)・・(5)
そして、電子制御装置110は、例えばプライマリプーリ側変速制御推力Winshに対して、変速比偏差Δγに基づいたフィードバック制御により補正した値(=Winsh+Winfb)を目標プライマリ推力Win*として設定する。
このように、図3のブロックB1〜B5は、目標セカンダリ推力Wout*を設定するセカンダリ側目標推力演算部150として機能する。また、図3のブロックB6〜B8は、目標プライマリ推力Win*を設定するプライマリ側目標推力演算部152として機能する。
図3のブロックB9及びブロックB10において、電子制御装置110は、例えば目標推力を目標プーリ圧に変換する。具体的には、電子制御装置110は、目標セカンダリ推力Wout*及び目標プライマリ推力Win*を、セカンダリ圧シリンダ52c及びプライマリ圧シリンダ51cの各受圧面積に基づいて目標セカンダリ圧Pout*(=Wout*/セカンダリ圧シリンダ52cの受圧面積)及び目標プライマリ圧Pin*(=Win*/プライマリ圧シリンダ51cの受圧面積)に各々変換し、セカンダリ指示圧Pouttgt及びプライマリ指示圧Pintgtを設定する。
電子制御装置110は、例えば目標プライマリ圧Pin*及び目標セカンダリ圧Pout*が得られるように、油圧制御指令信号SCVTとしてプライマリ指示圧Pintgt及びセカンダリ指示圧Pouttgtを油圧制御回路140へ出力する。油圧制御回路140は、その油圧制御指令信号SCVTに従って、リニアソレノイド弁SLPを作動させてプライマリ圧Pinを調圧するとともに、リニアソレノイド弁SLSを作動させてセカンダリ圧Poutを調圧する。
ここで、シフトレバーの操作位置がPレンジまたはNレンジからDレンジまたはRレンジに変更されるガレージ操作が入力された場合、電子制御装置110は、ガレージ操作検出時にCVT5のセカンダリシーブ圧を、ガレージ操作により発生し得る最大トルクが入力されてもベルト滑りが発生しない所定量だけ増加させることによって、CVT5でのベルト滑りを防止する。
図4は、CtoC制御でのクラッチC2圧とセカンダリシーブ圧と油圧アップ量との関係を示したグラフである。図4に示すように、CtoC制御中において、クラッチC2の係合開始から終了までCVT5の油温に応じて一定の油圧アップ量で増加させた場合、クラッチC2圧の指示値と実圧との関係と、セカンダリシーブ圧の指示値と実圧との関係とからわかるように、セカンダリシーブ圧の応答性は、クラッチC2圧の応答性に比べて悪い。そのため、CtoC制御の際に、セカンダリシーブ圧が十分確保できる前にクラッチC2が係合してしまうと、入力トルク分のトルク容量をベルト53が持つことができず、ベルト滑りが発生してしまう。そのため、CtoC制御中は、油圧応答遅れ分を保証する油圧アップが必要となる。
図5は、実施形態に係る電子制御装置110により実行されるCtoC制御でのセカンダリシーブ油圧制御の一例を示したフローチャートである。
まず、図5に示すように、電子制御装置110は、クラッチC2の制御状態=有段変速の係合過渡であるかを判断する(ステップS1)。すなわち、電子制御装置110は、クラッチC2の制御状態が、ギヤ走行モードからベルト走行モードへ切り替える際のCtoC制御で、1速から2速への有段変速の変速中(クラッチC2の係合開始から終了までの間)であるかを判断する。
クラッチC2の制御状態=有段変速の係合過渡ではないと判断した場合(ステップS1でNo)、電子制御装置110は一連の制御を終了する。一方、クラッチC2の制御状態=有段変速の係合過渡であると判断した場合(ステップS1でYes)、電子制御装置110は、油温センサ129によってCVT5の油温が計測可能であるかを判断する(ステップS2)。油温が計測可能であると判断した場合(ステップS2でYes)、電子制御装置110は、油圧の応答性は油温に依存するため、油温によって油圧アップ量を変化させるように、計測された油温に基づいて一定量の油圧アップ量を算出し(ステップS4)、その算出した油圧アップ量だけセカンダリシーブ圧を増加させて、一連の制御を終了する。一方、油温が計測可能ではないと判断した場合(ステップS2でNo)、電子制御装置110は、油温を極低油温に設定し(ステップS3)、その極低油温に基づいた一定量の油圧アップ量を算出し(ステップS4)、その算出した油圧アップ量だけ、発生するトルク(クラッチC2の係合状態による)が入力されてもベルト滑りが発生しないセカンダリシーブ圧の基準量を増加させて、一連の制御を終了する。
このように、電子制御装置110は、CtoC制御が行われる場合、クラッチC2の係合状態に合わせて、セカンダリシーブ圧の基準量を、CVT5の油温に基づいて、油温が低いほど油量を増加させるように補正した量(油圧アップ量)だけ増加させる。これにより、CtoC制御が行われる場合は、ベルト滑りを防止するためにクラッチC2の係合状態に合わせたセカンダリシーブ油圧量が増加される。よって、ベルト滑りの防止と燃費悪化の抑制とを両立することができる。また、CtoC制御時には、CVT5の油温に基づいてセカンダリシーブ油圧量が補正されるため、クラッチC2の係合制御に対してセカンダリシーブ油圧制御が遅れ、ベルト滑りが発生してしまうのを防止することができる。
図6は、実施形態に係る電子制御装置110により実行されるCtoC制御でのセカンダリシーブ油圧制御の他例を示したフローチャートである。なお、図6に示したフローチャートにおいては、ステップS11〜S13での処理内容が、図5に示したフローチャートにおけるステップS1〜S3での処理内容と同じであるため、その説明は省略する。図7は、油圧応答モデルの一例を示した図である。なお、図7中のKは周波数フィルターであり、Tは時定数であって油温に応じて変化するものである。
図6に示したフローチャートでは、ステップS14にて、電子制御装置110が、図7に示すような油温に応じて時定数Tが変化する油圧応答モデル(一次遅れ系の遅れ補償器)を用いて油圧アップ量(遅れ補償後の目標セカンダリシーブ圧−目標セカンダリシーブ圧)を算出して、一連の制御を終了する。このように前記油圧応答モデルを用いて、油圧アップ量を算出することによって、より無駄のない油圧アップを行うことができる。