本発明の方法の代表例を図1に示す。図1は、本発明の固相法の実施形態を示している。しかしながら、これは、本発明の範囲を限定することを意図するものでは一切なく、下記説明から、他の各種変更が当業者には明らかであり、これらの変更は、添付の特許請求の範囲で規定される通り、本発明に包含されることが意図される。
図1は、スパイタグ(SpyTag)/スパイキャッチャー(SpyCatcher)およびスヌープタグ(SnoopTag)/スヌープキャッチャー(Snoop Catcher)という名称の2対のペプチドリンカーを示し、ここで、各対、すなわち各「タグ」および「キャッチャー」は、特異的かつ自発的に反応してイソペプチド結合を形成し、それによって「タグ」ペプチドを「キャッチャー」ペプチドに結合する。この場合、各対は互いに直交しているが、これは互いに反応しないという意味であり、すなわち、スパイタグおよびスパイキャッチャーは、スヌープキャッチャーまたはスヌープタグのいずれとも、反応してイソペプチド結合を形成することはできない。以下でより詳細に説明するように、いくつかの実施形態において、「タグ」をペプチドタグと見なしてもよく、「キャッチャー」ペプチドを結合パートナータンパク質と見なしてもよい。
このように、ステップ1においては、第1のタンパク質であるMBPx(マルトース結合タンパク質の改変体であり、以下で説明する)が提供され、ここでは、本タンパク質は、例えば、単一の読み枠におけるMBPxポリペプチドおよびスパイキャッチャーペプチドリンカーをコードする核酸分子の組み替え発現によって改変され、ペプチドリンカーであるスパイキャッチャー(すなわち、第1のペプチドリンカー対の第1の構成要素)を組み込んでいる。本代表例においては、伸長した融合タンパク質を固相(アミロース樹脂)に固定することができる精製用タグまたは固定用タグとして、MBPxタンパク質を用いている。しかしながら、これが本発明に必須の特徴ではないことは、下記議論から明らかであろう。例えば、本方法は、不均一系(すなわち固相)であってもよいし、均一系(すなわち溶液中)であってもよい。不均一系の場合は、適切な精製用/固定用タグが用いられればよく、すなわち、タグがタンパク質タグまたはペプチドタグであることは必須ではない。
ステップ2においては、第1のタンパク質(MBPx−スパイキャッチャー)を、2つのペプチドリンカーを組み込むように改変された第2のタンパク質(A)と接触させる。一方のペプチドリンカーは、第1のリンカー対の第2の構成要素(スパイタグ)であり、その第1の構成要素(スパイキャッチャー)は、第1のタンパク質のドメインを形成している。もう一方のペプチドリンカーは、第2のペプチドリンカー対の第1の構成要素(スヌープタグ)である。上述したように、第2のリンカー対は、第1のリンカー対とは反応しない。したがって、第1のタンパク質と第2のタンパク質とを接触させると、第1のリンカー対が(例えば自発的に)反応して、スパイキャッチャーペプチドリンカーとスパイタグペプチドリンカーとの間に特異的なイソペプチド結合を形成し、それによって、第1のタンパク質(MBPx−スパイキャッチャー)と第2のタンパク質(スパイタグ−A−スヌープタグ)を結合して融合タンパク質を形成する。
ステップ3においては、融合タンパク質(MBPx−スパイキャッチャー−スパイタグ−A−スヌープタグ)を、スヌープキャッチャーおよびスパイキャッチャーという2つのペプチドリンカーを含むさらなるタンパク質と接触させる。このように、一方のペプチドリンカー(スヌープキャッチャー)は、第2のペプチドリンカー対の第2の構成要素であり、もう一方のペプチドリンカー(スパイキャッチャー)は、第1のペプチドリンカー対に由来するものである。これらのペプチドリンカーは、例えばペプチドスペーサーなどのスペーサーを介して結合されていてもよいし、最終的な融合タンパク質に組み込まれるタンパク質を介して結合されていてもよい。融合タンパク質(MBPx−スパイキャッチャー−スパイタグ−A−スヌープタグ)を、さらなるタンパク質(スヌープキャッチャー−スパイキャッチャー)と接触させると、第2のリンカー対が(例えば自発的に)反応してイソペプチド結合を形成し、それによって、融合タンパク質を伸長させる。別の見方をすると、スヌープキャッチャー−スパイキャッチャータンパク質の追加、すなわち融合タンパク質への反応基(反応性ペプチドリンカー)の追加は、さらなる伸長のための融合タンパク質の機能化または活性化と見なされ得る。
ステップ4においては、ステップ3で得た伸長後の融合タンパク質(MBPx−スパイキャッチャー−スパイタグ−A−スヌープタグ−スヌープキャッチャー−スパイキャッチャー)を、Aタンパク質に類似した2つのペプチドリンカーを組み込んださらなるタンパク質(B)と接触させる(スパイタグ−B−スヌープタグ)。そしてまた、イソペプチド結合が、互いに反応することができるペプチドリンカー間、すなわちスパイキャッチャーおよびスパイタグの第1の対の間に形成されて、融合タンパク質をさらに伸長させる。
所望の融合タンパク質のタンパク質ユニットがすべて結合するまで、このプロセスを繰り返し得ることは、明らかであろう。例えばマルトースを用いて、融合タンパク質を固相から容易に溶出させて、さらなる精製を行わずに用いることができる。なお、融合タンパク質の末端タンパク質は、ペプチドリンカーを1つだけ組み込むように改変される必要があり、このペプチドリンカーは、融合タンパク質の中で、最後から2番目のタンパク質ユニットなどのタンパク質中の遊離ペプチドリンカーと反応することができる。実施例で述べるように、発明者らは、10個のタンパク質ユニットを含有する融合タンパク質の合成を例示しており、この融合タンパク質について、ゲル電気泳動および質量分析によって検証を行った。
理論に拘束されることを望むものではないが、例えばスヌープタグ/スヌープキャッチャーやスパイタグ/スパイキャッチャーなどのペプチドリンカーにおけるアミノ酸残基の向きが正確であれば、求核攻撃およびペプチドリンカー間での不可逆的イソペプチド結合の形成が促進される。上記したように、これらの各対において、リジンが、アスパラギン酸またはアスパラギンのいずれかと反応する。スパイタグペプチドは、反応性アスパラギン酸を有しているため、スヌープキャッチャーの反応性アスパラギンとは反応することはできない。スヌープタグペプチドは、反応性リジンを有しているため、スパイキャッチャーの反応性リジンと反応することはできない。したがって、これらの2つのペプチドリンカー対は互いに直交しており、本発明の方法において、直交したペプチドリンカー対を用いて融合タンパク質を生成させることができたということは、明らかであろう。この場合、強固でプログラム可能な融合タンパク質を生成することができるのは、ペプチドリンカー対の直交性、つまり互いに反応しない性質のためである。特に、伸長する融合タンパク質鎖を固相に付着させた場合は、反応モジュール(すなわち、融合タンパク質に次に追加されるタンパク質)を過剰に加え、それによって反応を完了へと進めることができる。このことは、未反応の構成要素を容易に洗い流すことができるために、各ステップにおいて分離(すなわち、伸長する融合タンパク質の、未反応成分からの分離)が不要であるということを意味している。このように、一度に1ステップずつ伸長させることによって、わずかな直交的結合を利用して鎖を伸長させることが可能になる。したがって、本発明の発明者らが開発した方法は、特に融合タンパク質産物の安定性および個々の反応ステップの容易さということに関して、前述のタンパク質連結方法よりも優れている。
したがって、最も広義には、本発明は、融合タンパク質を作製するのに少なくとも2つの直交したペプチドリンカー対を用いることと見なされ得、各ペプチドリンカー対が反応して、イソペプチド結合を形成する。
特に、各ペプチドリンカー対のペプチドリンカーが、互いに反応してイソペプチド結合を形成する。上記したように、各ペプチドリンカーは、融合タンパク質のユニット(ドメインまたはモジュールなど)を形成するタンパク質の一部(ドメインなど)を成す。換言すると、互いに結合されるタンパク質は、ペプチドリンカーを少なくとも1つ(例えば、ペプチドリンカーを2つ、3つ、または4つ)組み込むように改変されていてもよく、融合タンパク質を作製するのに用いられる各ペプチドリンカー対は、該融合タンパク質を作製するのに用いられる少なくとも1つの他のペプチドリンカー対に対して直交している。
このように、いくつかの実施形態においては、タンパク質ユニット(ドメインまたはモジュールなど)を少なくとも2つ含有する融合タンパク質を作製するのに、ペプチドリンカーの直交した対が用いられる。例えば、図1に示す代表的な実施形態においては、タンパク質Aをタンパク質Bに連結するのに用いられるタンパク質を、リンカーユニットと見なし得、すなわち、リンカーユニット(リンカータンパク質)は、ただタンパク質Aをタンパク質Bに連結するためだけに機能している。したがって、融合タンパク質を、機能性タンパク質、すなわちリンカーとしての機能以外の機能を有するタンパク質を少なくとも2つ含有する、または含むものと見なし得る。他の実施形態においては、融合タンパク質を、タンパク質を少なくとも3つ(すなわち、その機能に関係なく)含有する、または含むものと見なし得る。
さらなる実施形態においては、融合タンパク質を、機能性タンパク質を少なくとも3つ含有する、または含むものと見なし得る。例えば、図1に示す代表的な実施形態を参照すると、タンパク質Aをタンパク質Bに連結するのに用いられるリンカータンパク質が、ペプチドリンカーに加えてタンパク質(機能性タンパク質など)を含有している場合は、融合タンパク質のタンパク質ユニット(ドメインまたはモジュール)と見なし得る。したがって、融合タンパク質を、機能性タンパク質、すなわちリンカー以外の機能を有するかまたはリンカーの機能に加えてさらに機能を有するタンパク質を少なくとも3つ含有する、または含むものと見なし得る。
別の見方をすると、本発明は、融合タンパク質を作製する(例えば、生成する、合成する、または組み立てる)方法を提供し、該方法は、
a)第1のタンパク質と第2のタンパク質とを、これらのタンパク質間にイソペプチド結合を形成することができる条件下で接触させることであって、該第1のタンパク質および該第2のタンパク質は、いずれもペプチドリンカーを含み、これらのペプチドリンカーは、(互いに)反応することによって、該第1のタンパク質を該第2のタンパク質に結合して結合タンパク質とするイソペプチド結合を形成するペプチドリンカー対である、第1のタンパク質と第2のタンパク質とを接触させることと、
b)前記(a)の結合タンパク質と第3のタンパク質とを、該第3のタンパク質と該結合タンパク質との間にイソペプチド結合を形成することができる条件下で接触させることであって、該第3のタンパク質は、(a)の結合タンパク質のさらなるペプチドリンカーと反応するペプチドリンカーを含み、これらのペプチドリンカーは、(互いに)反応することによって、該第3のタンパク質を該結合タンパク質に結合して融合タンパク質とするイソペプチド結合を形成するペプチドリンカー対である、前記(a)の結合タンパク質と第3のタンパク質とを接触させることと、を含む、方法であって、
(a)の、または(a)において用いられる該ペプチドリンカー対は、(b)の、または(b)において用いられる前記ペプチドリンカー対に対して直交している、方法である。
さらに別の見方をすると、本発明は、融合タンパク質を作製する(例えば、生成する、合成する、または組み立てる)方法を提供し、該方法は、
a)第1のペプチドリンカーを含む第1のタンパク質を提供することと、
b)該第1のタンパク質と、第2のペプチドリンカーおよび第3のペプチドリンカーを含む第2のタンパク質とを、該第1のペプチドリンカーと該第2のペプチドリンカーとの間にイソペプチド結合を形成することができる条件下で接触させ、それによって該第1のタンパク質と該第2のタンパク質とを結合することと、
c)該結合された第1のタンパク質および第2のタンパク質と、第4のペプチドリンカーを含む第3のタンパク質とを、該第3のペプチドリンカーと該第4のペプチドリンカーがイソペプチド結合を形成することができる条件下で接触させ、それによって該第2のタンパク質と該第3のタンパク質とを結合して融合タンパク質を形成することと、を含む、方法であって、
該第1のペプチドリンカーと該第2のペプチドリンカーとが、該第3のペプチドリンカーと該第4のペプチドリンカーとからなるペプチドリンカー対に対して直交するペプチドリンカー対である、方法である。
上記の通り、いくつかの実施形態においては、第2のタンパク質は、第1のタンパク質と第3のタンパク質との間のリンカーとして機能し得る。したがって、融合タンパク質を、「機能性」タンパク質、すなわち2つのタンパク質ユニット(モジュール、ドメインなど)を結合する機能以外の機能を有するタンパク質を、2つ含むものと見なし得る。このように、いくつかの実施形態においては、第2のタンパク質を、リンカータンパク質、すなわち、ペプチドリンカーの直交した異なる対由来のペプチドリンカーを少なくとも2つと、場合によってはペプチドスペーサーなどのスペーサードメインとを含有するタンパク質と見なし得る。
このように、いくつかの実施形態においては、第2のタンパク質を、該第1のタンパク質が該第3のタンパク質に結合(連結)することができるように、第1のタンパク質を機能化または活性化するリンカータンパク質と見なし得る。同様に、融合タンパク質にさらなるタンパク質を追加する場合(すなわち、融合タンパク質を伸長させる場合)、リンカータンパク質を用いて融合タンパク質中の1つ以上のタンパク質を機能化または活性化し、該1つ以上のタンパク質が該さらなるタンパク質に結合できるようにし得る。
上述したように、直交したペプチドリンカー対を使用することによって、多くのタンパク質ユニットを含有する融合タンパク質を作製するのが容易になる。したがって、融合タンパク質と、融合タンパク質中のタンパク質のペプチドリンカーとイソペプチド結合を形成することができるペプチドリンカーを少なくとも1つ含むさらなるタンパク質とを接触させることによって、さらなるタンパク質を融合タンパク質に追加し得る(すなわち、融合タンパク質が伸長(例えば、延長、拡張)され得る)。この場合、新規タンパク質のペプチドリンカーは、融合タンパク質中で先にイソペプチド結合を形成するのに用いられたペプチドリンカー対に対して直交している。
したがって、いくつかの実施形態においては、本方法は、前記融合タンパク質を伸長させるステップをさらに含み、前記融合タンパク質に結合される前記新規タンパク質(すなわち、追加のタンパク質またはさらなるタンパク質)は、融合タンパク質中で先にイソペプチド結合を形成するのに用いられたペプチドリンカー対に対して直交するペプチドリンカー対の一部を成すペプチドリンカーを含み、前記新規タンパク質のペプチドリンカーは、前記融合タンパク質中のタンパク質のペプチドリンカーとイソペプチド結合を形成することができる、方法であり、該方法は、該新規タンパク質と該融合タンパク質とを、該新規タンパク質(特に、該新規タンパク質のペプチドリンカー)が前記融合タンパク質のペプチドリンカーとイソペプチド結合を形成することができる条件下で接触させることを含む。
このように、いくつかの実施形態においては、前記第3のタンパク質を、追加のタンパク質または新規のタンパク質などの、融合タンパク質に追加される「さらなる」タンパク質と見なし得る。したがって、融合タンパク質を伸長させることを、上記方法のステップ(c)を繰り返すことと見なし得、前記さらなるタンパク質のペプチドリンカーは、先に融合タンパク質に追加されたタンパク質を接続するのに用いられたペプチドリンカー対に対して直交するペプチドリンカー対である。
いくつかの実施形態においては、融合タンパク質に追加される前記新規タンパク質(すなわち、さらなるタンパク質または追加のタンパク質)は、少なくとも第2のペプチドリンカーを(例えば、融合タンパク質鎖をさらに伸長させるために)含む。したがって、前記第2のペプチドリンカー(および前記新規タンパク質のさらなるペプチドリンカー)は、前記融合タンパク質と前記新規タンパク質とを結合(連結)するのに用いられたペプチドリンカー対に対して直交している。
したがって、またさらなる実施形態においては、該融合タンパク質を作製する方法は、該融合タンパク質を伸長させるステップを含んでいてもよく、ここで該第3のタンパク質は、第5のペプチドリンカーを含んでおり、また、該方法は、該融合タンパク質と、第6のペプチドリンカーを含む第4のタンパク質とを、該第5のペプチドリンカーと該第6のペプチドリンカーがイソペプチド結合を形成し、それによって該第3のタンパク質と該第4のタンパク質とを結合して該融合タンパク質を伸長させる条件下で接触させるステップを含む、方法であって、該第5のペプチドリンカーと第6のペプチドリンカーとが、該第3のペプチドリンカーと第4のペプチドリンカーとからなるペプチドリンカー対に対して直交するペプチドリンカー対を形成する、方法である。
図1に示すように、直交したペプチドリンカー対を2つ用いることによって、複数のタンパク質ユニット(例えば、3つ以上のタンパク質ユニットであって、例えば4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10個またはそれ以上のタンパク質ユニットであり、例えば、12個、15個、20個またはそれ以上のタンパク質ユニットである)を含む融合タンパク質を生成することができる。したがって、いくつかの実施形態においては、前記第5のペプチドリンカーと第6のペプチドリンカーとからなる前記ペプチドリンカー対は、前記第1のペプチドリンカーと第2のペプチドリンカーとからなる前記ペプチドリンカー対と同一である。
したがって、またさらなる実施形態においては、融合タンパク質はさらに伸長されてもよく、ここで該第4のタンパク質は、第7のペプチドリンカーを含んでおり、また、該方法は、該融合タンパク質と、第8のペプチドリンカーを含む第5のタンパク質とを、該第7のペプチドリンカーと該第8のペプチドリンカーがイソペプチド結合を形成し、それによって該第4のタンパク質と該第5のタンパク質とを結合して該融合タンパク質を伸長させる条件下で接触させるステップを含む、方法であって、該第7のペプチドリンカーと第8のペプチドリンカーとが、該第5のペプチドリンカーと第6のペプチドリンカーとからなるペプチドリンカー対に対して直交するペプチドリンカー対を形成する、方法である。
いくつかの実施形態においては、前記第7のペプチドリンカーと第8のペプチドリンカーとからなる前記ペプチドリンカー対は、前記第3のペプチドリンカーと第4のペプチドリンカーとからなる前記ペプチドリンカー対と同一である。
上述のステップを繰り返すことによって、前記融合タンパク質鎖が伸長され得ることは明らかであり、例えば、前記第5のタンパク質は、第9のペプチドリンカーを含み、第6のタンパク質は、第10のペプチドリンカーを含み、該第9のペプチドリンカーと第10のペプチドリンカーとが、該第7のペプチドリンカーと第8のペプチドリンカーとからなるペプチドリンカー対に対して直交するペプチドリンカー対を形成する。いくつかの実施形態においては、前記第9のペプチドリンカーと第10のペプチドリンカーとからなる前記ペプチドリンカー対は、前記第1のペプチドリンカーと第3のペプチドリンカー、および/または該第5のペプチドリンカーと第6のペプチドリンカーとからなる前記ペプチドリンカー対と同一である。
このように、いくつかの実施形態においては、少なくとも2つの直交したペプチドリンカー対を交互に用いることによってタンパク質を結合(連結)し、融合タンパク質を形成してもよい。別の見方をすると、融合タンパク質に追加される前記新規のタンパク質またはさらなるタンパク質は、先に融合タンパク質に追加されたタンパク質を結合するのに用いられたペプチドリンカー対に対して直交するペプチドリンカー対の一部を成すペプチドリンカーを少なくとも1つ含む。
直交したペプチドリンカー対を2つ用いることによって、本発明を首尾よく行うことができる一方、本発明の方法および使用において、3つ以上の直交したペプチドリンカー対を利用し得ることは明らかであろう。したがって、上記の代表例に関して、いくつかの実施形態においては、第5のペプチドリンカーと第6のペプチドリンカーとからなるペプチドリンカー対は、第1のペプチドリンカーと第2のペプチドリンカーとからなるペプチドリンカー対とは違うものであり、好ましくは直交している。以下で述べるように、直交するペプチドリンカーの対を3つ以上用いることによって、例えば分岐構造のような複雑な融合タンパク質構造を作製することが可能となる。そこで、以下で詳しく述べるように、発明者らは、本発明のさらなる実施形態を形成する直交したペプチドリンカー対をいくつか開発した。
例えば、3つのタンパク質1、2、および3を含む融合タンパク質を、上述した方法にしたがって作製し得、ここで、タンパク質1はペプチドリンカーAを含み、タンパク質2はペプチドリンカーA’およびペプチドリンカーBを含み、タンパク質3はペプチドリンカーB’を含むものである。この場合、ペプチドリンカーAおよびペプチドリンカーA’(ペプチドリンカー対)が反応してイソペプチド結合を形成し、ペプチドリンカーBおよびペプチドリンカーB’(ペプチドリンカー対)が反応してイソペプチド結合を形成するものであり、ペプチドリンカー対A/A’およびペプチドリンカー対B/B’は直交している(すなわち、他方の対と反応してイソペプチド結合を形成することはない)。第3の直交したペプチドリンカー対を用いることによって、分岐構造を作製することが可能となる。例えば、タンパク質2は、第3のペプチドリンカーCを含んでいてもよく、第4のタンパク質4が、ペプチドリンカーC’を含んでいてもよく、ここで、CおよびC’(ペプチドリンカー対)が反応してイソペプチド結合を形成し、ペプチドリンカーA/A’、ペプチドリンカーB/B’、およびペプチドリンカーC/C’は直交している。CおよびC’がイソペプチド結合を形成することが可能な条件下で、融合タンパク質1−2−3をタンパク質4と接触させると、得られる融合タンパク質は、分岐する、すなわち1−2(−4)−3となる(図13A参照)。あるいは、BおよびB’がイソペプチド結合を形成することが可能な条件下で、融合タンパク質1−2−4をタンパク質3と接触させて、分岐融合タンパク質1−2(−4)−3を作製し得る。当業者であれば、直交するペプチドリンカーの対を3つ用いることによって、複雑な分岐構造を生成することができ、さらなる直交したペプチドリンカー対を用いることによって、分岐構造をさらに複雑なものにすることができるということが理解されるであろう。特に、直交したペプチドリンカー対を3つ以上用いると、非対称分岐構造を有利に生成することができる。
したがって、いくつかの実施形態においては、本発明の方法および使用において、直交したペプチドリンカー対を2つよりも多く、例えば直交したペプチドリンカー対を3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、7つ以上、8つ以上、9つ以上、または10個以上用いる。
直交したペプチドリンカー対を2つ用いることによって、分岐が形成されてもよい。例えば、5つのタンパク質1〜5を含む分岐融合タンパク質を、タンパク質のうちの1つに追加のペプチドリンカーを含むことによって作製し得、例えば、タンパク質2が、2つの直交したペプチドリンカー対の4つのペプチドリンカーを含み得る。この代表的な実施形態においては、タンパク質1は、ペプチドリンカーAを含み、タンパク質2は、ペプチドリンカーA’と3つのペプチドリンカーBとを含む。タンパク質3、タンパク質4、およびタンパク質5は、それぞれペプチドリンカーB’を含み、ここで、ペプチドリンカーAおよびペプチドリンカーA’(ペプチドリンカー対)は、反応してイソペプチド結合を形成し、ペプチドリンカーBおよびペプチドリンカーB’(ペプチドリンカー対)は、反応してイソペプチド結合を形成するものであり、ペプチドリンカー対A/A’およびペプチドリンカー対B/B’は直交している。したがって、融合タンパク質1−2をタンパク質3〜5と接触させることによって、タンパク質3〜5がすべて、互いに独立してタンパク質2に接続された分岐融合タンパク質を得ることができる(図13B参照)。タンパク質3〜5は、同じタンパク質であってもよいし、異なるタンパク質であってもよいということは明らかであろう。さらに、タンパク質3〜5のうちの1つ以上が、直交したペプチドリンカー対のペプチドリンカーをさらに含むことによって、融合タンパク質の各分岐を伸長させる(例えば、別々に独立して伸長させる)ことが容易になる。
このように、いくつかの実施形態においては、融合タンパク質は分岐していてもよい。他の実施形態においては、融合タンパク質は直鎖状であってもよい。いくつかの実施形態においては、例えば、直交したペプチドリンカー対を3つ以上用いる場合は、融合タンパク質は非対称な分岐を含んでいてもよく、すなわち、融合タンパク質は非対称な構造を有していてもよい。したがって、いくつかの実施形態においては、本発明は、分岐融合タンパク質を作製する方法を提供する。いくつかの実施形態においては、本発明は、直鎖融合タンパク質を作製する方法を提供する。
「分岐」なる語は、2つ以上のタンパク質ユニットが、融合タンパク質の同じ内部タンパク質ユニット(非末端タンパク質ユニット)に、互いに独立して、すなわち独立して(個別に)形成されたイソペプチド結合を介して、結合(接続、連結)されている融合タンパク質のことをいう。内部タンパク質ユニットまたは非末端タンパク質ユニットは、融合タンパク質の他のタンパク質ユニットのうちの少なくとも2つに、イソペプチド結合によって結合(接続、連結)しているタンパク質として定義することができる。末端タンパク質ユニットは、融合タンパク質の他のタンパク質ユニットのうちの1つのみに、イソペプチド結合を介して結合(接続、連結)しているタンパク質として定義することができる。したがって、図13に示す上述した代表例においては、イソペプチド結合を介してタンパク質1およびタンパク質3に接続しているので、タンパク質2が内部タンパク質ユニットまたは非末端タンパク質ユニットであり、タンパク質4およびタンパク質5を、融合タンパク質の「分岐」と見なすことができる。タンパク質1、タンパク質3、タンパク質4、およびタンパク質5を、末端タンパク質ユニットと見なすことができる。したがって、分岐融合タンパク質は、末端タンパク質ユニットを3つ以上含む。
「直鎖状」なる語は、内部タンパク質ユニットのすべてが、融合タンパク質の他のタンパク質ユニット2つのみに結合し、それによってタンパク質ユニットの直鎖を生じている融合タンパク質のことをいう。したがって、直鎖状融合タンパク質に含まれる末端タンパク質ユニットは、2つだけである。
さらに他の実施形態においては、融合タンパク質は、環状であってもよい。例えば、上記の融合タンパク質1−2−3について、タンパク質1がペプチドリンカーCも含有し、タンパク質3がペプチドリンカーC’も含有している場合は、タンパク質1およびタンパク質3をイソペプチド結合によって結合し、それによって環状タンパク質を形成し得る。したがって、いくつかの実施形態においては、直鎖状タンパク質を、環状化可能である、すなわち環状融合タンパク質を形成できるものと見なし得る。この場合、以下で述べるように、ペプチドリンカーのうちの1つ以上をブロックまたは保護して、その反応を防止または遅延させてもよい。したがって、上記の例を用いると、ペプチドリンカーCおよび/またはペプチドリンカーC’をブロックした場合は、融合タンパク質は、環状化可能な直鎖状融合タンパク質となり、Cおよび/またはC’を脱ブロックして、ペプチドリンカーが反応してイソペプチド結合を形成できるようにすることによって、環状化され得る。
このように、いくつかの実施形態においては、本発明は、環状融合タンパク質または環状化可能な融合タンパク質を作製する方法を提供する。
このように、「環状」なる語は、概して、末端タンパク質ユニットを含有しない融合タンパク質のことをいう。しかしながら、内部タンパク質ユニットのうちの1つ以上が、融合タンパク質において、イソペプチド結合によって他のタンパク質ユニットのうちの少なくとも3つに結合している環状融合タンパク質を含む「分岐環状融合タンパク質」を作製できるということは、明らかであろう。
本明細書における「直交する」なる語は、例えば、互いに反応することができない分子、または互いに反応することができる同様の分子と比較して反応効率が低い分子などの、互いに対する反応性が低い分子のことをいう。本発明のペプチドリンカー、特にペプチドリンカー対に関して、「直交する」なる語は、他のペプチドリンカー対と反応してイソペプチド結合を形成することができないペプチドリンカー対、あるいは、例えば、自発的にイソペプチド結合を形成することができる内在性タンパク質、または互いに反応して効率よくイソペプチド結合を形成することができるペプチドリンカー対などの同様の分子と比較して、反応効率が低いペプチドリンカー対のことをいう。反応できないということは、試料中のペプチドリンカーのうち5%以下、例えば4%以下、3%以下、2%以下、または1%以下が反応してイソペプチド結合を形成することと見なされ得る。効率が低いということは、各ペプチドリンカー対がイソペプチド結合を形成できる能力と比較して、直交したペプチドリンカーの対が反応してイソペプチド結合を形成する効率が5%未満、例えば4%未満、3%未満、2%未満、または1%未満であることと見なされ得る。逆に、反応して効率よくイソペプチド結合を形成するペプチドリンカー対は、少なくとも95%の効率、例えば少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%の効率で反応し得る、すなわち、イソペプチド結合を形成することができる条件下で、試料中のペプチドリンカー対のうち少なくとも95%のペプチドリンカーが反応してイソペプチド結合を形成する。例えば、AおよびA’がBおよび/またはB’と反応してイソペプチド結合を形成することができないか、または、AとA’との間および/またはBとB’との間でのイソペプチド結合の形成と比較して、AおよびA’がBおよび/またはB’と反応してイソペプチド結合を形成する効率が5%未満の場合に、2つのペプチドリンカー対A/A’およびB/B’が直交していると見なし得る。
別の見方をすると、イソペプチド結合の形成を可能に、または容易にする条件下で、互いに反応して効率よくイソペプチド結合を形成する2つのペプチドリンカーを、同系ペプチドリンカー対と定義し得、ここで、「同系」なる語は、共に機能する成分、すなわち互いに反応してイソペプチド結合を形成する成分のことをいう。したがって、イソペプチド結合の形成を可能に、または容易にする条件下で、互いに反応して効率よくイソペプチド結合を形成する2つのペプチドリンカーを、「相補的」ペプチドリンカー対と称することもできる。したがって、直交したペプチドリンカー対を、非同系対または非相補対と見なし得る。例えば、上述した代表例に基づくと、ペプチドリンカー対A/A’を、同系または相補的ペプチドリンカー対と見なし得、一方、AおよびA’が、イソペプチド結合の形成を可能に、または容易にする条件下で、Bおよび/またはB’と効率よく反応してイソペプチド結合を形成することができない限りにおいて、A/A’とB/B’とは非同系対または非相補対である。
本発明の方法および使用において用いるペプチドリンカーは、イソペプチド結合を自発的に形成することができるタンパク質由来のものであってもよい。特に、「イソペプチド結合を自発的に形成することができるタンパク質」(本明細書においては、「イソペプチドタンパク質」とも称する)は、酵素もしくは他の物質の非存在下において、かつ/または化学修飾を行わないで、そのタンパク質鎖内に、すなわち分子内に、イソペプチド結合を形成し得るものである。したがって、イソペプチド結合を形成するための2つの反応性残基は、単一のタンパク質鎖内に含まれている。そのため、分子間でのみ、すなわち他のペプチド鎖またはタンパク質鎖もしくはタンパク質ユニットとの間でのみ、イソペプチド結合を形成するタンパク質は、本発明で用いるイソペプチドタンパク質とは見なされない。特に、分子間イソペプチド結合を有するHK97キャプシドサブユニットは除外される。
本明細書における「イソペプチド結合」なる語は、カルボキシル基またはカルボキサミド基とアミノ基との間に形成されるアミド結合のことをいい、これらの基のうちの少なくとも1つは、タンパク質主鎖由来ではないか、または、見方を変えると、タンパク質骨格の一部ではない。イソペプチド結合は、単一のタンパク質内に形成される場合もあれば、2つのペプチド間またはペプチドとタンパク質との間に生じる場合もある。したがって、イソペプチド結合は、単一のタンパク質において分子内に形成される場合もあれば、分子間で、すなわち2つのペプチド/タンパク質分子間、例えば、2つのペプチドリンカー間などにおいて形成される場合もある。典型的には、イソペプチド結合は、リジン残基と、アスパラギン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン残基、もしくはグルタミン酸残基、またはタンパク質鎖もしくはペプチド鎖の末端カルボキシル基との間に生じる場合もあれば、タンパク質鎖またはペプチド鎖のアルファ−アミノ末端と、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、またはグルタミン酸との間に生じる場合もある。イソペプチド結合に含まれる対を成す各残基は、本明細書においては、反応性残基と称する。本発明の好ましい実施形態においては、イソペプチド結合は、リジン残基とアスパラギン残基との間、またはリジン残基とアスパラギン酸残基との間に生じ得る。特に、イソペプチド結合は、リジンの側鎖のアミンとアスパラギンのカルボキサミド基またはアスパラギン酸のカルボキシル基との間に生じ得る。
イソペプチド結合に含まれる残基間の距離は、残基内の特定のC原子から測定される。したがって、イソペプチド結合にリジンが含まれている場合は、その距離はリジンのC−イプシロン原子から測定され、イソペプチド結合にアスパラギン酸が含まれている場合は、その距離はアスパラギン酸のC−ガンマ原子から測定され、イソペプチド結合にアスパラギンが含まれている場合は、その距離はアスパラギンのC−ガンマ原子から測定され、イソペプチド結合にグルタミン酸が含まれている場合は、その距離はグルタミン酸のC−デルタ原子から測定される。イソペプチド結合に含まれる反応性残基のこれらの原子(そこからの距離が算出される)は、本明細書においては、「関連原子」と称する。
典型的には、イソペプチド結合を形成するためには、反応性リジン残基および反応性アスパラギン残基/アスパラギン酸残基(ならびに、特に、それらの関連原子:リジンにおいてはC−イプシロン原子であり、アスパラギン/アスパラギン酸においてはC−ガンマ原子)などの反応性残基が、例えばそれらが由来するイソペプチドタンパク質において、空間的に互いに極めて近接して配置されるべきである。したがって、特に、リジンおよびアスパラギン/アスパラギン酸(ならびに、特に、それらの関連原子)などの反応性残基は、折り畳まれたタンパク質(それらが由来する)において、互いに4オングストローム以内に存在しており、また、互いに3.8オングストローム以内、3.6オングストローム以内、3.4オングストローム以内、3.2オングストローム以内、3.0オングストローム以内、2.8オングストローム以内、2.6オングストローム以内、2.4オングストローム以内、2.2オングストローム以内、2.0オングストローム以内、1.8オングストローム以内、または1.6オングストローム以内に存在していてもよい。特に、反応性残基(とりわけ、それらの関連原子)は、それらが由来するイソペプチドタンパク質において、互いに1.81オングストローム以内、2.63オングストローム以内、または2.60オングストローム以内に存在していてもよい。
概して、本発明のペプチドリンカーが由来し得るイソペプチドタンパク質は、グルタミン酸残基またはアスパラギン酸残基を、例えばリジンおよびアスパラギン/アスパラギン酸などのイソペプチド結合の形成に関わる他の2つの反応性アミノ酸残基に、極めて近接した状態で含み得る。特に、グルタミン酸残基のC−デルタ原子またはアスパラギン酸残基のC−ガンマ原子は、折り畳まれたタンパク質の構造中、反応性アスパラギン残基/アスパラギン酸残基から5.5オングストローム以内に存在し得る。例えば、グルタミン酸(例えば、そのC−デルタ原子)は、イソペプチド結合に含まれる反応性アスパラギン残基/アスパラギン酸残基からは、例えばそのC−ガンマ原子からだと、5.4オングストローム、5.2オングストローム、5.0オングストローム、4.8オングストローム、4.6オングストローム、4.4オングストローム、4.2オングストローム、4.0オングストローム、3.8オングストローム、3.6オングストローム、3.4オングストローム、3.2オングストローム、または3.0 オングストローム以内に存在し得る。特に、グルタミン酸残基、例えばそのC−デルタ原子は、アスパラギン残基/アスパラギン酸残基からは、例えばそのC−ガンマ原子からだと、4.99オングストローム、3.84オングストローム、または3.73オングストロームのところに存在し得る。
さらに、グルタミン酸残基、例えばそのC−デルタ原子は、イソペプチド結合に含まれる反応性リジン残基からは、例えばそのC−イプシロン原子からだと、6.5オングストローム以内に存在し得、例えば6.3オングストローム、6.1オングストローム、5.9オングストローム、5.7オングストローム、5.5オングストローム、5.3オングストローム、5.1オングストローム、4.9オングストローム、4.7オングストローム、4.5オングストローム、4.3オングストローム、または4.1オングストローム以内に存在し得る。特に、グルタミン酸残基、例えばそのC−デルタ原子は、反応性リジンからは、例えばそのC−イプシロン原子からだと、6.07オングストローム、4.80オングストローム、または4.42オングストロームのところに存在し得る。
グルタミン酸残基(またはアスパラギン酸残基)は、前述したように、イソペプチド結合の形成を誘導するのに役立ち得る。
上述したように、本発明の方法および使用において用いるペプチドリンカーは、イソペプチドタンパク質の反応性ドメインを2つまたは3つのドメインに分割することによって得られ得る。したがって、各ペプチドリンカー対は、リジン残基を含むペプチドと、アスパラギン酸残基またはアスパラギン残基を含むペプチドとからなり、これらの残基(すなわち、リジンおよびアスパラギン酸、またはリジンおよびアスパラギン)は、イソペプチド結合の形成に関わって(すなわち、反応してイソペプチド結合を形成して)、それによってこれらのペプチドリンカーを接続(連結)する。
いくつかの好ましい実施形態においては、これらのペプチドリンカー間のイソペプチド結合は、自発的に形成される。したがって、一方のペプチドリンカーは、ペプチドリンカーのリジン残基とアスパラギン残基またはアスパラギン酸残基との間におけるイソペプチド結合の形成を容易にする、例えば誘導または触媒する、グルタミン酸残基またはアスパラギン酸残基を含む。いくつかの実施形態においては、グルタミン酸残基またはアスパラギン酸残基は、上記説明した1つ以上の近接基準を満たしている。
このように、これらのペプチドリンカー間のイソペプチド結合が自発的に形成される実施形態においては、一方のペプチドリンカーをペプチドタグと見なし得、他方のペプチドリンカー(すなわち、イソペプチド結合の形成を容易にする、例えば誘導または触媒する、グルタミン酸残基またはアスパラギン酸残基を含むリンカー)を、ペプチド結合パートナー、すなわち、以下でさらに述べるようなペプチドタグに対する結合パートナーと見なし得る。
本明細書における「自発的」なる語は、他の試薬(酵素触媒など)の非存在下、および/または1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を用いた天然型化学的ライゲーションもしくは化学的カップリングなどのタンパク質またはペプチドの化学修飾を行うことなく、タンパク質中、またはペプチド間もしくはタンパク質間(例えば、2つのペプチド間またはペプチドとタンパク質との間、すなわち本発明のペプチドリンカー間)において形成することができる、イソペプチド結合または共有結合などの結合のことをいう。したがって、ペプチドまたはタンパク質を、C末端チオエステルを有するように改変する天然型化学的ライゲーションは、行われない。
このように、イソペプチド結合を、タンパク質が単独で単離される場合に、自発的に形成することができ、あるいは、共有結合またはイソペプチド結合を、2つのペプチド間またはペプチドとタンパク質との間(すなわち本発明のペプチドリンカー間)において、単独で、または化学修飾を行うことなく、形成することができる。したがって、自発的なイソペプチド結合または共有結合は、酵素もしくは他の外因性物質非存在下において、または化学修飾を行うことなく、形成され得る。しかしながら、特に、近接すると誘導される様式で(proximity-induced manner)結合を形成できるようにするためには、自発的なイソペプチド結合または共有結合には、タンパク質内において、または結合に関与するペプチド/タンパク質の一方(すなわち一方のペプチドリンカー)において、グルタミン酸残基またはアスパラギン酸残基が存在することが必要であり得る。
イソペプチド結合または共有結合は、タンパク質が生成したほぼ直後、またはペプチドタグおよび結合パートナーなどの本発明のペプチドリンカーを含む2つ以上のタンパク質が接触したほぼ直後、例えば1分以内、2分以内、3分以内、4分以内、5分以内、10分以内、15分以内、20分以内、25分以内、もしくは30分以内、または1時間以内、2時間以内、4時間以内、8時間以内、12時間以内、16時間以内、20時間以内、もしくは24時間以内に、自発的に形成され得る。結合は、例えば、pHが5.0、5.5、6.5、7.0、7.5、8.0、または8.5などの4.0〜9.0の範囲で、温度が1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、10℃、12℃、15℃、18℃、20℃、22℃、または25℃などの0〜40℃の範囲のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)またはトリス緩衝生理食塩水(TBS)などの様々な条件下において形成され得る。当業者であれば、他の適切な条件を容易に決定するであろう。
このように、いくつかの実施形態においては、「イソペプチド結合を形成することができる条件下において」本明細書で定義されるペプチドリンカーを含むタンパク質を接触させることは、例えば、PBSまたはTBSなどの緩衝液を用いて平衡化された緩衝溶液中、あるいは固相(カラムなど)上などの緩衝条件下において、該タンパク質を接触させることを含む。接触させるステップは、例えばpHが4.5〜8.5、5.0〜8.0、5.5〜7.5の範囲であり、約6.2、約6.4、約6.6、約6.8、約7.0、約7.2、約7.4、約7.6、約7.8、または約8.0などである4.0〜9.0の範囲の適切なpHにおいて行われ得る。さらに、またはあるいは、接触させるステップは、例えば温度が約1〜39℃、約2〜38℃、約3〜37℃、約4〜36℃、約5〜35℃、約6〜34℃、約7〜33℃、約8〜32℃、約9〜31℃、または約10〜30℃の範囲であり、約10℃、約12℃、約15℃、約18℃、約20℃、約22℃、または約25℃などである約0〜40℃の範囲の適切な温度において行われ得る。当業者であれば、本発明の方法で用いるペプチドリンカーの特性に応じて、条件を適用する必要があるということを理解し、どの条件が適切であるかを容易に決定することができるであろう。
いくつかの実施形態においては、「イソペプチド結合を形成することができる条件下において」本明細書で定義されるペプチドリンカーを含むタンパク質を接触させることは、例えばペプチドリンカーの反応性を向上または改善する分子などの化学シャペロンの存在下において、該タンパク質を接触させることを含む。いくつかの実施形態においては、化学シャペロンは、TMAO(トリメチルアミンN−オキシド)である。いくつかの実施形態においては、TMAOなどの化学シャペロンは、反応時、濃度が例えば少なくとも約0.3M、約0.4M、約0.5M、約1.0M、約1.5M、約2.0M、または約2.5Mであって、約0.2〜3.0M、0.5〜2.0M、1.0〜1.5Mなどの範囲などである、少なくとも約0.2Mの濃度で存在する。
いくつかの実施形態においては、該ペプチドリンカー間におけるイソペプチド結合の形成は、自発的ではない、すなわち、イソペプチド結合の形成は、反応に添加される成分によって誘導または触媒される。イソペプチド結合の形成を誘導または触媒する成分は、ペプチドであってもよく、例えば、トランスグルタミナーゼといった酵素などのポリペプチドであってもよい。好ましい実施形態においては、イソペプチド結合の形成を誘導または触媒する成分は、イソペプチドタンパク質由来のペプチドであってもよく、すなわち、ペプチドリンカーのリジン残基とアスパラギン残基またはアスパラギン酸残基との間におけるイソペプチド結合の形成を容易にする、例えば誘導または触媒する、グルタミン酸残基またはアスパラギン酸残基を含むイソペプチドタンパク質のドメインまたは断片由来のペプチドであってもよい。特に2つのペプチドリンカー間におけるイソペプチド結合の形成を誘導することができる限りにおいて、ペプチドリンカーのリジン残基とアスパラギン残基またはアスパラギン酸残基との間におけるイソペプチド結合の形成を容易にする、例えば誘導または触媒する、ペプチドを、タンパク質リガーゼまたはペプチドリガーゼと見なし得る。
このように、該ペプチドリンカー間におけるイソペプチド結合の形成が自発的でない、すなわち、ペプチドリンカー間におけるイソペプチド結合の形成を誘導する成分(例えば、ペプチドリガーゼなどのペプチド)が、個別に提供される実施形態においては、ペプチドリンカーの両方を、以下で述べるようなペプチドタグと見なし得る。したがって、ペプチドリンカー(ペプチドタグ)間におけるイソペプチド結合の形成を誘導するペプチドを、ペプチドリガーゼまたはペプチドリンカー対結合パートナーと見なし得る。
したがって、いくつかの実施形態においては、本発明はさらに、結合させるタンパク質を、これらのタンパク質間におけるイソペプチド結合の形成を可能にする条件下において、ペプチドリンカー間におけるイソペプチド結合の形成を誘導することができる成分(ペプチドなど)と接触させるステップを含む。いくつかの実施形態においては、ペプチドリンカー間におけるイソペプチド結合の形成を誘導することができる成分は、これらのタンパク質のペプチドリンカーのリジン残基とアスパラギン残基またはアスパラギン酸残基との間におけるイソペプチド結合の形成を誘導するグルタミン酸残基またはアスパラギン酸残基を含むペプチドである。
ペプチドリンカー間におけるイソペプチド結合の形成を誘導することができる成分(ペプチドなど)を反応に添加するのは、接続するタンパク質を互いに接触させる前であってもよいし、その後であってもよいし、それと同時であってもよい。いくつかの実施形態においては、接続するタンパク質を互いに接触させた後に、ペプチドリンカー間におけるイソペプチド結合の形成を誘導することができる成分(ペプチドなど)を反応に添加してもよい。
ペプチドリンカー間におけるイソペプチド結合の形成を誘導することができる成分(ペプチドなど)を用いることは、大きな介在性ペプチドドメインの非存在下で、融合タンパク質のタンパク質ユニットを接続(連結)することができるため、特に有利である。別の見方をすると、ペプチドリンカー間におけるイソペプチド結合の形成を誘導することができる成分(ペプチドなど)を用いることによって、小さなペプチドリンカー(ペプチドタグなど)を用いることが容易になる、すなわち、ペプチドリンカー間でイソペプチド結合を形成することができる同系ペプチドリンカー対において、各ペプチドリンカーのペプチド配列を最小のものにすることが容易になる。
いくつかの実施形態においては、同系ペプチドリンカー対およびペプチドリンカー間におけるイソペプチド結合の形成を誘導することができるペプチドは、同じイソペプチドタンパク質由来である。
イソペプチド結合を自発的に形成することができるタンパク質は、このような結合を少なくとも1つ形成することができてもよく、イソペプチド結合を1つより多く、例えば2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10個、またはそれ以上、含んでいてもよい。特に、タンパク質中に、自発的に形成されたイソペプチド結合が1つより多く存在している場合は、イソペプチドタンパク質から、異なるペプチドリンカー対をいくつか開発することができる場合がある。いくつかの実施形態においては、同じイソペプチドタンパク質由来の異なるペプチドリンカー対は、直交していてもよい。本発明においては、イソペプチド結合を1つだけ、または2つだけ含むイソペプチドタンパク質から、各ペプチドリンカー対を開発することが好ましい。
自発的にイソペプチド結合を1つ以上形成することができる公知のタンパク質としては、例えば、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)由来のSpy0128(Kangら,Science,2007,318(5856),1625〜8)、Spy0125(Pointonら,J.Biol.Chem.,2010,285(44),33858〜66)、およびFbaB(Okeら,J.Struct Funct Genomics,2010,11(2),167〜80);黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のCna(Kangら,Science,2007,318(5856),1625〜8);フェカーリス菌(Enterococcus faecalis)のACE19タンパク質(Kangら,Science,2007,318(5856),1625〜8);セレウス菌(Bacillus cereus)由来のBcpAピリン(Budzikら,PNAS USA,2007,106(47),19992〜7);B群溶血性連鎖球菌(Streptococcus agalactiae)由来のマイナーピリンGBS52(Kangら,Science,2007,318(5856),1625〜8);ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)由来のSpaA(Kangら,PNAS USA,2009,106(40),16967〜71);ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)由来のSpaP(Nylanderら,Acta Crystallogr Sect F Struct Biol Cryst Commum.,2011,67(Pt1),23〜6);肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)由来のRrgA(Izoreら,Structure,2010,18(1),106〜15)、RrgB(El Mortajiら,J. Biol. Chem.,2010,285(16),12405〜15)、およびRrgC(El Mortajiら,J. Biol. Chem.,2010,285(16),12405〜15);ならびにストレプトコッカス・ゴルドニ(Streptococcus gordonii)由来のSspB(Forsgrenら,J Mol Biol,2010,397(3),740〜51)などが挙げられる。上述したように、本発明の方法及び使用で用いるペプチドリンカー(特に同系ペプチドリンカー対)を生成するのに、これらのうちのいずれのタンパク質が用いられてもよい。
結合して融合タンパク質を形成するタンパク質におけるペプチドリンカーの配置または配列は、特に重要ではない。例えば、所望の融合タンパク質の第1のタンパク質は、ペプチドタグ(A)を含んでいてもよく、また第2のタンパク質は、第1のタンパク質のペプチドタグと同系のペプチド結合パートナー(A’)と、第3のタンパク質のペプチドタグと同系のペプチド結合パートナー(B’)とを含んでいてもよい。あるいは、所望の融合タンパク質の第1のタンパク質は、ペプチド結合パートナー(A’)を含んでいてもよく、また第2のタンパク質は、第1のタンパク質のペプチド結合パートナーと同系のペプチドタグ(A)と、第3のタンパク質のペプチド結合パートナーと同系のペプチドタグ(B)とを含んでいてもよい。この場合、2つのタンパク質を結合する(例えば、第1のタンパク質と第2のタンパク質とを結合する、融合タンパク質をさらなるタンパク質と結合するなど)のに用いるペプチドリンカー対は、融合タンパク質を伸長させるのに用いるペプチドリンカー対に対して直交していればよい。以下で述べるように、直交したペプチドリンカーは、様々な方法で実現され得る。
したがって、いくつかの好ましい実施形態においては、第1のペプチドリンカー対(A/A’)は、反応性リジン残基を有するペプチドリンカーA(ペプチドタグなど)を1つと、反応性アスパラギン酸残基または反応性アスパラギン残基を有するペプチドリンカーA’(ペプチド結合パートナーなど)を1つ含み、第2のペプチドリンカー対(B/B’)は、反応性アスパラギン酸残基または反応性アスパラギン残基を有するペプチドリンカーB(ペプチドタグなど)を1つと、反応性リジン残基を有するペプチドリンカーB’(ペプチド結合パートナーなど)を1つ含む。上述した例を用いると、AがB’と反応するのに適した経路はなく、またBがA’と反応するのに適した経路はない。したがって、ペプチドリンカー対は、互いに直交している。
さらなる実施形態においては、第1のペプチドリンカー対(A/A’)は、反応性リジン残基を有するペプチドリンカーA(ペプチドタグなど)を1つと、反応性アスパラギン酸残基または反応性アスパラギン残基を有するペプチドリンカーA’(ペプチド結合パートナーなど)を1つ含み、第2のペプチドリンカー対(B/B’)は、反応性リジン残基を有するペプチドリンカーB(ペプチドタグなど)を1つと、反応性アスパラギン酸残基または反応性アスパラギン残基を有するペプチドリンカーB’(ペプチド結合パートナーなど)を1つ含む。あるいは、第1のペプチドリンカー対(A/A’)は、反応性アスパラギン酸残基または反応性アスパラギン残基を有するペプチドリンカーA(ペプチドタグなど)を1つと、反応性リジン残基を有するペプチドリンカーA’(ペプチド結合パートナーなど)を1つ含み、第2のペプチドリンカー対(B/B’)は、反応性アスパラギン酸残基または反応性アスパラギン残基を有するペプチドリンカーB(ペプチドタグなど)を1つと、反応性リジン残基を有するペプチドリンカーB’(ペプチド結合パートナーなど)を1つ含む。これらの実施形態においては、ペプチドリンカー(ペプチドタグ)AおよびBは、少なくとも1つ(例えば、2つ、3つ)の「アンカー」残基の大きさが実質的に異なるように選択されてもよく、その結果、AおよびB’ならびにBおよびA’の非共有的結合(すなわち、AとB’との間、およびBとA’との間の相互作用)が生じなくなることによって、交差反応が確実に最小限となる。
「アンカー残基」なる用語は、同系ペプチドリンカー対のうちの一方のペプチドリンカー(ペプチド結合パートナーなど)のβ−ストランド中のアミノ酸残基であって、ペプチドリンカーの疎水性コアの方を向き、同系ペプチドリンカー対のもう一方のペプチドリンカー(ペプチドタグなど)由来の反応性残基を受け入れるアミノ酸残基のことをいう。β−ストランドでは、溶媒の方を向く残基と、疎水性タンパク質コアの方を向く残基とが交互に存在しており、残基の方向は、ペプチドリンカーが由来するイソペプチドタンパク質において自発的にイソペプチド結合を形成するドメインの構造によって規定される。このことは、X線結晶解析、核磁気共鳴、またはクライオ電子顕微鏡法などの、当該技術分野において公知の適当な方法によって求められ得る。
小さなアンカー残基としては、アラニンおよびバリンが挙げられる。中型のアンカー残基としては、ロイシン、イソロイシン、およびメチオニンが挙げられる。大きなアンカー残基としては、フェニルアラニンおよびトリプトファンが挙げられる。したがって、いくつかの実施形態においては、小さなアンカー残基のうちの少なくとも1つが、中型のアンカー残基または大きなアンカー残基と置換されていてもよい。いくつかの実施形態においては、中型のアンカー残基のうちの少なくとも1つが、小さなアンカー残基または大きなアンカー残基と置換されていてもよい。またさらなる実施形態においては、大きなアンカー残基のうちの少なくとも1つが、中型のアンカー残基または小さなアンカー残基と置換されていてもよい。
いくつかの実施形態においては、直交したペプチドリンカー対は、異なるイソペプチドタンパク質由来であってもよいし、同じイソペプチドタンパク質の異なるドメイン由来であってもよい。いくつかの実施形態においては、直交したペプチドリンカー対は、新規に作製されたものであってもよい。
新規に作製されるペプチドリンカー対は、好ましくはグルタミン酸残基またはアスパラギン酸残基と共に、イソペプチド結合を自発的に形成するのに必要な反応性アミノ酸残基を2つ有するべきである。したがって、上述したように、ペプチドリンカーのうちの一方は、反応性リジン残基を含み、ペプチドリンカーのうちのもう一方は、反応性アスパラギン残基または反応性アスパラギン酸残基を含む。好ましい実施形態においては、ペプチドリンカーのうちの一方は、ペプチドリンカー間におけるイソペプチド結合の形成を誘導する、または容易にするグルタミン酸残基またはアスパラギン酸残基も含む。しかしながら、上述したように、ペプチドリンカー間におけるイソペプチド結合の形成を誘導する、または容易にするグルタミン酸残基またはアスパラギン酸残基を含む成分(例えば、ペプチドリガーゼなどのペプチド)が、個別に提供されてもよい。
同系ペプチドリンカー対のペプチドリンカーのどちらもが、イソペプチド結合の形成に関わる反応性残基の両方は含まない、すなわち、同系ペプチドリンカー対の各ペプチドリンカーは、反応性残基、すなわちリジン残基またはアスパラギン酸残基/アスパラギン残基を1つ含む。
ペプチドリンカーのうちの一方が、ペプチドリンカー間におけるイソペプチド結合の形成を誘導する、または容易にするグルタミン酸残基またはアスパラギン酸残基を含む実施形態においては、典型的には、該グルタミン酸残基およびアスパラギン酸残基は、イソペプチド結合に含まれるリンカーの残基から6.5オングストローム以内に存在しており、例えば、6.0オングストローム以内、5.5オングストローム以内、5.0オングストローム以内、4.5オングストローム以内、4.0オングストローム以内、3.5オングストローム以内、または3.0オングストローム以内に存在している。これらの距離は、特に、各残基の関連原子、すなわちイソペプチド結合の形成に関わる原子間の距離のことである。2つのペプチドリンカーが互いに近づけられた場合、例えば、第1のタンパク質と第2のタンパク質を接触させた場合、結合に含まれる2つの反応性残基(より具体的には、その関連原子)は、空間的に互いに4オングストローム以内に存在すべきであり、好ましくは、3.8オングストローム以内、3.6オングストローム以内、3.4オングストローム以内、3.2オングストローム以内、3.0オングストローム以内、2.8オングストローム以内、2.6オングストローム以内、2.4オングストローム以内、2.2オングストローム以内、2.0オングストローム以内、1.8オングストローム以内、または1.6オングストローム以内に存在すべきである。
当業者であれば、新規にイソペプチドタンパク質を設計する場合は、イソペプチド結合形成に関わる残基のpKaも考慮すべきであることを、すぐに認めるであろう。例えば、反応性リジン残基は、中性pHにおいてリジンが疎水性コアに埋まっていることを必要とする場合がある反応の前に、脱プロトン化されることが好ましい。
好ましくは、直交したペプチドリンカー対は、異なるイソペプチドタンパク質由来であってもよいし、同じイソペプチドタンパク質の異なるドメイン由来であってもよいが、直交したペプチドリンカー対を、同じイソペプチドタンパク質から、特にイソペプチドタンパク質の同じドメインから、作製することができる。例えば、同系ペプチドリンカー対のうちの一方のペプチドリンカーは、その対のもう一方のペプチドリンカーと反応しない(または効率よく反応しない)ように改変されてもよい。その改変は、ペプチドリンカー間の反応を防ぐ改変を無効にする、または除去することによって、ペプチドリンカー対が反応して効率よくイソペプチド結合を形成する能力が復元されるように、可逆的であってもよい。したがって、例えば、ブロッキング基の付加によってAを改変するなど、同系ペプチドリンカー対A/A’のペプチドリンカーの一方が改変されて、ペプチドリンカーBを生じてもよく、ここで、BはA’またはAと効率よく反応してイソペプチド結合を形成することはできない。Bからブロッキング基を除去することによって、A’と反応してイソペプチド結合を形成することができるペプチドリンカーB’が生じる。
可逆的保護基または除去保護基の使用は、当該技術分野においてよく知られている。したがって、直交したペプチドリンカー対を作製するために、同系ペプチドリンカー対のうちの一方のペプチドリンカーにブロッキング基を付加することは、ペプチドリンカーに保護基を付加すること、またはペプチドリンカーをケージングすることと見なされ得る。ブロッキング基(保護基、遮蔽基、またはケージング基など)は、ペプチドリンカー対のもう一方のペプチドリンカーと効率よく反応してイソペプチド結合を形成する、ペプチドリンカーの能力を復元する、当該技術分野において公知の適切な方法によって除去されてもよい。ブロッキング基の除去(脱保護、脱遮蔽、脱ケージングなど)は、ブロッキング基の性質に応じて、化学反応によって行われてもよいし、酵素反応によって行われてもよいし、光反応によって行われてもよい。適切なブロッキング基の例としては、立体的に反応を阻害し、タバコエッチウイルスプロテアーゼなどの酵素を用いて除去され得るタンパク質などのかさ高い部位(bulky moieties)(Bioorg Med Chem. 2012 Jan 15;20(2):571〜82. doi:10.1016/j.bmc.2011.07.048. Epub 2011 Jul 30. Cleavable linkers in chemical biology. Leriche G,Chisholm L,Wagner A.に概説されている);テトラジンを用いた反応によって、化学的に脱ケージングされるトランス−シクロオクテン−ケージドリジン(N−(((E)−シクロオクト−2−エン−1−イル)−オキシ)カルボニル−L−リジン)(Nat Chem Biol. 2014 Dec;10(12):1003〜5. doi:10.1038/nchembio.1656. Epub 2014 Nov 2. Diels−Alder reaction−triggered bioorthogonal protein decaging in living cells. Li J,Jia S,Chen PR);または、当該技術分野においてよく知られている、適切な波長の光によって脱ケージングされるo−ニトロベンジルもしくはクマリン基でケージングされたリジン(例えば、Chem Rev. 2013 Jan 9;113(1):119〜91. doi:10.1021/cr300177k. Epub 2012 Dec 21. Photoremovable protecting groups in chemistry and biology: reaction mechanisms and efficacy. Klan ,Solomek T,Bochet CG,Blanc A,Givens R,Rubina M,Popik V,Kostikov A,Wirz J.を参照)などが挙げられる。
ブロッキング基の使用を、さらなる直交したペプチドリンカー対の作製に限定する必要はない。例えば複数の反応において、ブロッキング基は、例えば、融合タンパク質の伸長を制御するのに特に有用であり得る。例えば様々な異なる融合タンパク質を含むアレイを作製するために、例えば、複数の融合タンパク質を単一の固相基質上で合成してもよい。例えば核酸アレイの生成と同様に光反応性ブロッキング基を用いて、固相上の各融合タンパク質を物理的に分離すれば、基質上のペプチドリンカーの選択的脱ブロッキングを容易に行えるであろう。ペプチドリンカーを選択的に脱ブロッキングすることによって、一度の伸長反応において、単一の融合タンパク質または融合タンパク質の複数組(例えば、固相上の特定の位置に存在している)を伸長させることが可能になり、また、続く反応において異なる融合タンパク質または異なる融合タンパク質の組を伸長させることが可能になる。
したがって、いくつかの実施形態においては、1つ以上のペプチドリンカーが、ブロッキング基、すなわち可逆的ブロッキング基を含んでいてもよい。いくつかの実施形態においては、融合タンパク質を、ブロッキング基を除去する紫外線、化学薬品、または酵素などと接触させることによって、ブロッキング基を除去してもよい。
したがって、いくつかの実施形態においては、本発明の方法は、融合タンパク質のペプチドリンカーのブロッキング基を脱ブロッキングまたは除去するステップを含んでいてもよい。
代表的な実施形態においては、本発明は、融合タンパク質を作製する(例えば、生成する、合成する、または組み立てる)方法を提供し、該方法は、
a)第1のタンパク質と第2のタンパク質とを、これらのタンパク質間にイソペプチド結合を形成することができる条件下で接触させることであって、該第1のタンパク質および該第2のタンパク質は、いずれもペプチドリンカーを含み、これらのペプチドリンカーは、(互いに)反応することによって、該第1のタンパク質を該第2のタンパク質に結合して結合タンパク質とするイソペプチド結合を形成するペプチドリンカー対である、第1のタンパク質と第2のタンパク質とを接触させることと、
b)前記(a)の結合タンパク質と第3のタンパク質とを、該第3のタンパク質と該結合タンパク質との間にイソペプチド結合を形成することができる条件下で接触させることであって、該第3のタンパク質は、(a)の結合タンパク質のさらなるペプチドリンカーと反応するペプチドリンカーを含み、これらのペプチドリンカーは、(互いに)反応することによって、該第3のタンパク質を該結合タンパク質に結合して融合タンパク質とするイソペプチド結合を形成するペプチドリンカー対である、前記(a)の結合タンパク質と第3のタンパク質とを接触させることと、を含む、方法であって
(a)の該ペプチドリンカー対は、(b)の前記ペプチドリンカー対に対して直交しており、
前記結合タンパク質の前記さらなるペプチドリンカーは、ブロッキング基を含み、該第3のタンパク質と該結合タンパク質との間にイソペプチド結合を形成することができる条件は、前記結合タンパク質を処理して前記ブロッキング基を除去することを含む、方法である。
いくつかの実施形態においては、結合タンパク質を該第3のタンパク質と接触させるステップの前に、ブロッキング基を除去してもよい(ペプチドリンカーを脱ブロッキングしてもよい)。いくつかの実施形態においては、結合タンパク質を該第3のタンパク質と接触させるステップの後、またはそのステップと同時に、ブロッキング基を除去してもよい(ペプチドリンカーを脱ブロッキングしてもよい)。
本明細書における「ペプチドリンカー」なる語は、概して、イソペプチドタンパク質から直接設計されたものであってもよいし、直接由来するものであってもよい、ペプチド、オリゴペプチド、またはポリペプチドのことをいい、例えば、ペプチドリンカーは、イソペプチドタンパク質の断片であってもよいし、その改変体であってもよい。ペプチド、オリゴペプチド、およびポリペプチドが意味するものの大きさの境界については、標準的な規定はないが、典型的には、ペプチドを、アミノ酸を2〜20個含むものと見なし得、オリゴペプチドを、アミノ酸を21〜39個含むものと見なし得、ポリペプチドを、アミノ酸を少なくとも40個含むものと見なし得る。したがって、本明細書において定義されるペプチドリンカーを、アミノ酸を少なくとも6個、例えば6〜300個含むものと見なし得る。
いくつかの実施形態においては、ペプチドリンカーは、ペプチドタグと称されてもよく、また、その長さは、6〜50個のアミノ酸、例えば7〜45個のアミノ酸、8〜40個のアミノ酸、9〜35個のアミノ酸、10〜30個のアミノ酸、11〜25個のアミノ酸などであってもよく、例えば、6つ、7つ、8つ、9つ、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、または20個のアミノ酸を含んでいてもよいし、これらの数のアミノ酸からなるものであってもよい。ペプチドリンカーまたはペプチドタグは、イソペプチド結合を介して第2のペプチドリンカーに特異的に共有結合し、ここで、別のペプチドリンカーは、以下で述べるように、ペプチドタグまたはペプチド結合パートナーと見なされ得る。互いに反応して(例えば、特異的にかつ効率よく)イソペプチド結合を形成する2つのペプチドリンカー(例えば、ペプチドタグおよびペプチドタグ、またはペプチドタグおよびペプチド結合パートナー)は、ペプチドリンカー対、特に同系ペプチドリンカー対と定義され得る。
したがって、上述したように、ペプチドリンカーは、リジンまたはアスパラギン/アスパラギン酸などの、イソペプチド結合の形成に関わるアミノ酸残基を少なくとも1つ、含んでいなくてはならない。したがって、ペプチドリンカー対の各ペプチドリンカーは、イソペプチド結合の形成に関わる、異なるすなわち相補的な、反応性アミノ酸残基を含んでいなくてはならない。すなわち、一方のペプチドリンカーはリジン残基を含み、もう一方のペプチドリンカーはアスパラギン残基またはアスパラギン酸残基を含む。
いくつかの実施形態においては、ペプチドリンカー対は、ペプチドタグを2つ含む。典型的には、2つのペプチドタグは、反応して自発的にイソペプチド結合を形成しない。すなわち、上述したように、該ペプチドタグ/ペプチドリンカーの間におけるイソペプチド結合の形成を誘導または触媒する成分(例えば、ペプチドリガーゼなどのペプチド)の添加を必要とする。
いくつかの実施形態においては、ペプチドリンカー(すなわち、同系ペプチドリンカー対のうちの一方のペプチドリンカー)は、ペプチド結合パートナーと称されてもよく、これは、イソペプチドタンパク質に由来するかまたはこれから設計されるペプチド(特にオリゴペプチドまたはポリペプチド)と定義され得、また、イソペプチド結合を介して(好ましくは自発的な反応によって)ペプチドタグに共有結合し得る。いくつかの実施形態においては、ペプチド結合パートナーは、それが共有結合するペプチドタグ、すなわち、それに対応するペプチドタグまたはペプチドリンカーとして、同じイソペプチドタンパク質から設計されてもよいし、同じイソペプチドタンパク質に由来するものであってもよい。
概して、ペプチド結合パートナーは、それに対応するペプチドタグよりも大きく、ペプチドタグと比較して、より大きなイソペプチドタンパク質の断片または部分を含んでいるか、またはその断片または部分からなる。特に、ペプチド結合パートナーは、イソペプチド結合の形成に関わる残基(すなわちリジンまたはアスパラギン/アスパラギン酸)に加えて、ペプチドタグおよびペプチド結合パートナーなどのペプチドリンカー間のイソペプチド結合の形成を容易にするか、または誘導するグルタミン酸残基またはアスパラギン酸残基を含む。
したがって、ペプチド結合パートナーは、ペプチドタグを構成するように設計された断片と重なるイソペプチドタンパク質断片を含んでいてもよいし、ペプチドタグの断片と比較して、不連続かつ別々のイソペプチドタンパク質断片を含んでいてもよい。したがって、ペプチド結合パートナーの配列は、設計されたペプチドタグの配列と重複があってもよいし、ペプチドタグおよびペプチド結合パートナーは、イソペプチドタンパク質の2つの不連続な断片を含むか、それらからなるものであってもよい。いくつかの実施形態においては、ペプチドタグは、イソペプチドタンパク質の配列に基づいていなくてもよく、例えば、ペプチドタグ(ペプチドリンカー)を新規に設計してもよい。
ペプチド結合パートナーの大きさは、特に限定されないが、本発明の方法および使用において用いるペプチドリンカーの大きさは、実用上、最小限に抑えることが好ましい。
したがって、いくつかの実施形態においては、ペプチドリンカー(ペプチド結合パートナーなど)は、その長さが50〜300個のアミノ酸、例えば、60〜250個のアミノ酸、70〜225個のアミノ酸、80〜200個のアミノ酸であってもよく、例えば、60個、65個、70個、75個、80個、85個、90個、95個、100個、110個、120個、130個、140個、150個、160個、170個、180個、190個、または200個のアミノ酸を含んでいてもよいし、これらの数のアミノ酸からなるものであってもよい。
したがって、いくつかの実施形態においては、ペプチドリンカー対は、ペプチドタグとペプチド結合パートナーとを含み、該ペプチドリンカーは、自発的に反応してイソペプチド結合を形成する。
ペプチドリンカー間におけるイソペプチド結合形成が自発的でない場合(例えば、ペプチドリンカーがどちらもペプチドタグである場合)、該ペプチドタグ/ペプチドリンカーの間におけるイソペプチド結合の形成を誘導または触媒するペプチドは、上述したように、イソペプチドタンパク質またはペプチド結合パートナー由来のペプチド(ペプチドリガーゼなど)と見なされ得る。特に、前記ペプチドは、ペプチドリンカー間におけるイソペプチド結合の形成を容易にするか、または誘導するグルタミン酸残基またはアスパラギン酸残基を含むが、重要なことには、リガーゼは、ペプチドリンカー対のいずれかのペプチドリンカーと反応してイソペプチド結合を形成するアミノ酸残基を含まない。いくつかの実施形態においては、ペプチドリガーゼは、その長さが50〜300個のアミノ酸、例えば、60〜250個のアミノ酸、70〜225個のアミノ酸、80〜200個のアミノ酸であってもよく、例えば、60個、65個、70個、75個、80個、85個、90個、95個、100個、110個、120個、130個、140個、150個、160個、170個、180個、190個、または200個のアミノ酸を含んでいてもよいし、これらの数のアミノ酸からなるものであってもよい。
したがって、このように、ペプチドリンカー(ペプチドタグおよび/またはペプチド結合パートナーなど)は、イソペプチドタンパク質のタンパク質配列全体からなるものではなく、それよりも長さが短い。例えば、ペプチドリンカーは、イソペプチドタンパク質に存在するアミノ酸残基の5%未満、10%未満、20%未満、30%未満、40%未満、または50%未満の数のアミノ酸残基からなるものであり得る。
ペプチドリンカーまたはペプチドリンカー対は、イソペプチドタンパク質(特にその1つ以上の断片)の配列に基づくものとすることができるが、当業者であれば、ペプチドリンカーの配列は、それが由来するイソペプチドタンパク質の一部の配列とは異なるものであってもよいということを、容易に理解するであろう。したがって、いくつかの実施形態においては、ペプチドリンカーまたはペプチドリンカー対は、それが由来するイソペプチドタンパク質の配列と比較して、突然変異または変化を含んでいてもよい。以下で述べるように、例えば、ペプチドリンカー間における自発的なイソペプチド結合形成の反応速度を向上させるなど、ペプチドリンカーの安定性および/または機能を向上させるために、いくつかの突然変異をペプチドリンカー配列に導入してもよい。
したがって、いくつかの実施形態においては、ペプチドリンカーは、イソペプチドタンパク質の断片を含むか、またはその断片からなるものであってもよく、ここで、その断片は、上記説明した大きさの基準を満たしており、それが由来するイソペプチドタンパク質の相当領域に対する配列同一性が、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%である。
さらに、上述したように、イソペプチドタンパク質は、公知のイソペプチドタンパク質の構造類似体(structural homologues)、すなわち、公知のイソペプチドタンパク質と配列類似性または配列同一性を有するタンパク質を探索することによって同定されてもよい。このような類似体は、機能的に同等なタンパク質と見なされ得、本発明のペプチドリンカーの作製に役立ち得る。
いくつかの実施形態においては、本発明の方法および使用において用いるペプチドリンカー対は、適切なイソペプチドタンパク質に由来するものであってもよい。上記のように、当該技術分野において、様々なイソペプチドタンパク質が知られている。例えば、ペプチドリンカーは、主要なピリンタンパク質であるSpy0128由来であってもよい。Spy0128は、配列番号23に示すアミノ酸配列を有し、配列番号24に示すヌクレオチド配列にコードされている。このタンパク質には、イソペプチド結合が2つ形成されている。イソペプチド結合の一方は、配列番号23における179位のリジンと、配列番号23における303位のアスパラギンとの間(反応性残基の間)に形成されている。自発的なイソペプチド結合を誘導するグルタミン酸残基は、配列番号23の258位に見出される。したがって、配列番号23に示すイソペプチドタンパク質から開発されたペプチドリンカー対は、好ましくは、303位の反応性アスパラギンを含むタンパク質断片を含むペプチドリンカーと、179位の反応性リジンを含むタンパク質断片を含むペプチドリンカーとを含む。いくつかの実施形態においては、一方のペプチドリンカーは、258位のグルタミン酸残基も含有する断片を含む。いくつかの実施形態においては、258位のグルタミン酸残基を含むタンパク質断片は、個別に、すなわち上述したペプチドリガーゼとして、提供されてもよい。
主要なピリンタンパク質であるSpy0128のイソペプチド結合のもう一方は、配列番号23の36位のリジン残基と、配列番号23の168位のアスパラギン残基との間に生じる。イソペプチド形成を誘導するグルタミン酸残基は、配列番号23の117位に見出される。したがって、配列番号23に示すイソペプチドタンパク質から開発されたペプチドリンカー対は、好ましくは、36位の反応性リジン残基を含むタンパク質断片を含むペプチドリンカーと、168位の反応性アスパラギンを含むタンパク質断片を含むペプチドリンカーとを含む。いくつかの実施形態においては、一方のペプチドリンカーは、117位のグルタミン酸残基も含有する断片を含む。いくつかの実施形態においては、117位のグルタミン酸残基を含むタンパク質断片は、個別に、すなわち上述したペプチドリガーゼとして、提供されてもよい。
フェカーリス菌(E. faecalis)由来のアドヘシンタンパク質(adhesin protein)のドメインであるACE19も、自発的にイソペプチド結合を形成する。ACE19は、配列番号27に示すアミノ酸配列を有し、配列番号28に示すヌクレオチド配列にコードされている。
イソペプチド結合は、配列番号27の181位のリジン残基と、配列番号27の294位のアスパラギン残基との間に生じる。この結合は、配列番号27の213位のアスパラギン酸残基によって誘導される。したがって、配列番号27に示すイソペプチドタンパク質から開発されたペプチドリンカー対は、好ましくは、294位の反応性アスパラギン残基を含むタンパク質断片を含むペプチドリンカーと、181位の反応性リジン残基を含むタンパク質断片を含むペプチドリンカーとを含む。いくつかの実施形態においては、一方のペプチドリンカーは、213位のアスパラギン酸残基も含有する断片を含む。いくつかの実施形態においては、213位のアスパラギン酸残基を含むタンパク質断片は、個別に、すなわち上述したペプチドリガーゼとして、提供されてもよい。
配列番号29に示すアミノ酸配列を有する黄色ブドウ球菌(S. aureus)のコラーゲン結合ドメインは、自発的に形成されるイソペプチド結合を1つ含む。イソペプチド結合は、配列番号29の176位のリジンと、配列番号29の308位のアスパラギンとの間に生じる。このイソペプチド結合を誘導するアスパラギン酸残基は、配列番号29の209位に存在する。したがって、配列番号29に示すイソペプチドタンパク質から開発されたペプチドリンカー対は、好ましくは、176位の反応性リジンを含むタンパク質断片を含むペプチドリンカーと、308位の反応性アスパラギンを含むタンパク質断片を含むペプチドリンカーとを含む。いくつかの実施形態においては、一方のペプチドリンカーは、209位のアスパラギン酸残基も含有する断片を含む。いくつかの実施形態においては、209位のアスパラギン酸残基を含むタンパク質断片は、個別に、すなわち上述したペプチドリガーゼとして、提供されてもよい。
化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)由来のFbaBは、ドメインCnaB2を含む。これは、配列番号25に示すアミノ酸配列を有し、配列番号26に示すヌクレオチド配列にコードされ、自発的に形成されるイソペプチド結合を1つ含む。CnaB2ドメインのイソペプチド結合は、配列番号25の15位のリジンと、配列番号25の101位のアスパラギン酸残基との間に形成される。このイソペプチド結合を誘導するグルタミン酸残基は、配列番号25の61位に存在する。したがって、配列番号25に示すイソペプチドタンパク質から開発されたペプチドリンカー対は、好ましくは、15位の反応性リジンを含むタンパク質断片を含むペプチドリンカーと、101位の反応性アスパラギン酸を含むタンパク質断片を含むペプチドリンカーとを含む。いくつかの実施形態においては、一方のペプチドリンカーは、61位のグルタミン酸残基も含有する断片を含む。いくつかの実施形態においては、61位のグルタミン酸残基を含むタンパク質断片は、個別に、すなわち上述したペプチドリガーゼとして(配列番号34など)、提供されてもよい。
RrgAタンパク質は、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)由来の接着タンパク質であり、配列番号21に示すアミノ酸配列を有し、配列番号22に示すヌクレオチド配列にコードされている。イソペプチド結合は、配列番号21の742位のリジンと、配列番号21の854位のアスパラギンとの間に形成される。この結合は、配列番号21の803位のグルタミン酸残基によって誘導される。したがって、配列番号21に示すイソペプチドタンパク質から開発されたペプチドリンカー対は、好ましくは、854位の反応性アスパラギンを含むタンパク質断片を含むペプチドリンカーと、742位の反応性リジンを含むタンパク質断片を含むペプチドリンカーとを含む。いくつかの実施形態においては、一方のペプチドリンカーは、803位のグルタミン酸残基も含有する断片を含む。いくつかの実施形態においては、803位のグルタミン酸残基を含むタンパク質断片は、個別に、すなわち上述したペプチドリガーゼとして、提供されてもよい。
PsCsタンパク質は、ストレプトコッカス・インテルメディウス(Streptococcus intermedius)由来のpor分泌システムC末端ソーティングドメインタンパク質の断片である。これは、配列番号31に示すアミノ酸配列を有し、配列番号32に示すヌクレオチド配列にコードされている。イソペプチド結合は、配列番号31の405位のリジンと、配列番号31の496位のアスパラギン酸との間に形成される。したがって、配列番号31に示すイソペプチドタンパク質から開発されたペプチドリンカー対は、好ましくは、496位の反応性アスパラギン酸を含むタンパク質断片を含むペプチドリンカーと、405位の反応性リジンを含むタンパク質断片を含むペプチドリンカーとを含む。
したがって、いくつかの実施形態においては、本発明の方法において用いるペプチドリンカー対は、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、または配列番号31のいずれか1つに示すアミノ酸配列を有するイソペプチドタンパク質に由来するものであってもよいし、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、または配列番号31のいずれか1つに示すアミノ酸配列に対して、少なくとも70%の配列同一性を有するタンパク質に由来するものであってもよい。
いくつかの実施形態においては、上記イソペプチドタンパク質の配列は、それが比較される配列(配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、または配列番号31)に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%の同一性を有する。
好ましくは、上述したイソペプチドタンパク質由来のペプチドリンカーは、上述の大きさの基準および配列同一性の基準を満たす。
配列同一性は、当該技術分野において公知の適切な手段によって、例えば、pam因子が可変であって、ギャップ作成ペナルティを12.0に設定し、ギャップ伸長ペナルティを4.0に設定し、ウインドウを2アミノ酸としたFASTA pep−cmpを使用するSWISS−PROTタンパク質配列データバンクを用いて決定され得る。アミノ酸配列の同一性を決定する他のプログラムとしては、ウィスコンシン大学によるジェネティクス・コンピュータ・グループ(GCG)・バージョン10・ソフトウェアパッケージのベストフィット(BestFit)プログラムが挙げられる。このプログラムは、初期値として、ギャップ作成ペナルティを−8、ギャップ伸長ペナルティを2、平均一致を2.912、平均不一致を−2.003としたSmithおよびWatermanの局所相同性アルゴリズムを用いている。
好ましくは、該比較は配列の全長にわたって行われるが、例えば、連続した200個未満のアミノ酸、100個未満のアミノ酸、または50個未満のアミノ酸など、より小さい比較ウインドウに対して行われてもよい。
好ましくは、このような配列同一性の近いタンパク質は、列挙した配列番号に示すポリペプチドと機能的に同等である。本明細書において、「機能的同等」とは、親分子(すなわち、配列相同性を示す分子)と比べて、自発的にイソペプチド結合を形成する効力がいくらか減少している場合もあるが、好ましくは、同程度に有効な分子であるか、より有効な分子である、上述したイソペプチドタンパク質の類似体のことをいう。
いくつかの実施形態においては、直交したペプチドリンカー対は、上述したイソペプチドタンパク質のうちのいずれか2つ以上に由来するものであってもよい。好ましい実施形態においては、第1のペプチドリンカー対は、配列番号21に示すアミノ酸配列を有するイソペプチドタンパク質に由来するものであり、第2の、直交したペプチドリンカー対は配列番号25に示すアミノ酸配列を有するイソペプチドタンパク質に由来するものである。以下で述べるように、いくつかの実施形態においては、直交した2つのペプチドリンカー対は、例えば配列番号21に示す、同じイソペプチドタンパク質に由来するものであってもよい。直交した他のペプチドリンカー対は、配列番号21および配列番号23、配列番号21および配列番号27、配列番号21および配列番号29、配列番号21および配列番号31、配列番号25および配列番号27、配列番号25および配列番号29、または配列番号25および配列番号31に示すアミノ酸配列を有するイソペプチドタンパク質に由来するものであってもよい。当業者であれば、本明細書、特に実施例に開示された方法に基づいて、2つのペプチドリンカー対が直交しているかどうかを決定することができるであろう。例えば、異なるペプチドリンカー対由来のペプチドリンカーの様々な組み合わせを、例えば溶液中で、1〜24時間などの適切な期間、イソペプチド結合の形成を容易にする条件下、例えばpHが7で温度が25℃である、pH4〜9で1〜40℃のPBS中で、接触させてもよい。例えばゲル電気泳動(SDS−PAGEなど)によって試料を解析し、すなわち連結したペプチドを探すことによって、ペプチドリンカーのうちのどれが反応しどれが反応しなかったかを決定してもよい。例えば、図7を参照のこと。したがって、本発明の方法において用いる直交したペプチドリンカー対は、イソペプチドタンパク質の適切な組み合わせに由来するものであってもよい。
発明者らは、本発明の方法および使用に特に役立つペプチドリンカー対を開発した。この点について、発明者らは、ペプチドリンカー対は、上述したRrgAタンパク質由来のものであってもよいことを確認した。しかしながら、下記実施例で詳しく述べるように、発明者らは、ペプチドリンカーの反応性を向上させるために、天然のRrgA配列を基準として、ペプチドリンカーに突然変異を導入した。具体的には、グリシン残基をスレオニン残基で置換して、β−ストランドを安定化し、アスパラギン酸残基をグリシン残基で置換して、反応部位に近いヘアピンターンを安定化した。
したがって、本発明は、ペプチドリンカーを提供するものであって、該ペプチドリンカーは、
(i)配列番号1に示すアミノ酸配列、または配列番号1に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有し、9位にリジン残基を含む、配列、あるいは
(ii)配列番号2に示すアミノ酸配列、または配列番号2に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有し、55位にグルタミン酸残基もしくはアスパラギン酸残基を含み、94位にスレオニン残基を含み、100位にグリシン残基を含み、106位にアスパラギン残基もしくはアスパラギン酸残基を含む、配列、
を有する、ペプチドリンカーである。
いくつかの実施形態においては、(i)のペプチドリンカーは、配列番号38に示すアミノ酸配列を有し、かつ/または(ii)のペプチドリンカーは配列番号39に示すアミノ酸配列を有する。
さらなる実施形態においては、本発明は、ペプチドリンカーを提供するものであって、該ペプチドリンカーは、
(i)配列番号5に示すアミノ酸配列、または配列番号5に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有し、8位にアスパラギン酸残基もしくはアスパラギン残基を含む、配列、あるいは
(ii)配列番号6に示すアミノ酸配列、または配列番号6に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有し、8位にリジン残基を含む、配列、
を有する、ペプチドリンカーである。
いくつかの実施形態においては、(i)のペプチドリンカーは、配列番号42に示すアミノ酸配列を有し、かつ/または(ii)のペプチドリンカーは配列番号43に示すアミノ酸配列を有する。
またさらなる実施形態においては、本発明は、ペプチドリンカーを提供するものであって、該ペプチドリンカーは、
(i)配列番号9に示すアミノ酸配列、または配列番号9に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有し、17位にアスパラギン残基もしくはアスパラギン酸残基を含む、配列、あるいは
(ii)配列番号10に示すアミノ酸配列、または配列番号10に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有し、9位にリジン残基を含み、70位にグルタミン酸残基もしくはアスパラギン酸残基を含む、配列、
を有する、ペプチドリンカーである。
いくつかの実施形態においては、(i)のペプチドリンカーは、配列番号109に示すアミノ酸配列、または配列番号109に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有し、17位にアスパラギン残基もしくはアスパラギン酸残基を含み、11位にグリシン残基を含み、好ましくは20位にイソロイシン残基を含み、21位および22位にプロリン残基を含み、23位にリジン残基を含む、配列を有する。
いくつかの実施形態においては、(i)のペプチドリンカーは、配列番号46に示すアミノ酸配列を有し、かつ/または(ii)のペプチドリンカーは配列番号47に示すアミノ酸配列を有する。
いくつかの実施形態においては、上記のペプチドリンカー配列は、それが比較される配列(配列番号1、配列番号2、配列番号5、配列番号6、配列番号9、配列番号10、または配列番号109)に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%の同一性を有する。
好ましい実施形態においては、上記各(i)で述べたペプチドリンカーは、上記各(ii)で述べたアミノ酸配列を有するペプチドリンカーと自発的にイソペプチド結合を形成することができる。例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するペプチドリンカー、またはその変異体は、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するペプチドリンカー、またはその変異体と自発的にイソペプチド結合を形成することができる。同様に、配列番号5および配列番号6のペプチド、またはその変異体は、互いに、自発的にイソペプチド結合を形成することができ、配列番号9および配列番号10のペプチド、またはその変異体(配列番号109など)は、互いに(配列番号109および配列番号10など)、自発的にイソペプチド結合を形成することができる。
したがって、本発明は、本発明の方法および使用において用いることができるペプチドリンカー対を提供するものであって、該ペプチドリンカー対は、
(1)配列番号1および配列番号2のペプチドリンカー、または上述したような、例えば配列番号38および配列番号39である、その変異体、
(2)配列番号5および配列番号6のペプチドリンカー、または上述したような、例えば配列番号42および配列番号43である、その変異体、
(3)配列番号9および配列番号10のペプチドリンカー、または上述したような、例えば配列番号46および配列番号47である、その変異体、あるいは、
(4)配列番号109および配列番号10のペプチドリンカー、または上述したような、その変異体、
を含む、ペプチドリンカー対である。
したがって、上述した各ペプチドリンカー対は、同系ペプチドリンカー対と定義され得る。
いくつかの実施形態においては、上述した各ペプチドリンカー対(すなわち、各同系ペプチドリンカー対)を、他のペプチドリンカー対に対して直交している(すなわち、同系でない)と見なし得る。例えば、対(1)は、対(2)、対(3)および/または対(4)に対して直交しており、対(2)は、対(1)、対(3)および/または対(4)に対して直交しており、対(3)は、対(1)および/または対(2)に対して直交しており、対(4)は、対(1)および/または対(2)に対して直交している。いくつかの実施形態においては、これらの直交した対は、本発明の方法および使用において用いる好ましいペプチド(同系)リンカーの直交した(同系でない)対を代表するものである。さらに好ましい直交したペプチドリンカー対を以下で述べる。
上述したように、本発明のペプチドリンカーは、融合タンパク質の合成に特に役立ち、ペプチドリンカーは、別のタンパク質ユニットに結合(連結)されて融合タンパク質を形成するタンパク質ユニットに組み入れられる(例えば、タンパク質ユニットのドメインを形成する、またはタンパク質ユニットに結合される)。したがって、さらなる実施形態においては、本発明は、上述したポリペプチドおよびペプチドリンカーを含む組み換えポリペプチドまたは合成ポリペプチドを提供する。
本発明のペプチドリンカーが、例えば、WO2011/098772(参照により本明細書に援用される)で説明されているペプチドタグなどとして、他の方法および使用に役立ち得るということは、明らかであろう。
本発明の方法および使用において用いられ得る他のペプチドリンカーは、
(i)配列番号13に示すアミノ酸配列、または配列番号13に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有し、7位にアスパラギン酸残基もしくはアスパラギン残基を含む、配列、あるいは、
(ii)配列番号14に示すアミノ酸配列、または配列番号14に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有し、56位にグルタミン酸残基もしくはアスパラギン酸残基を含み、10位にリジン残基を含む、配列、あるいは、
(iii)配列番号33に示すアミノ酸配列、または配列番号33に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有し、8位にリジン残基を含む、配列、あるいは、
(iv)配列番号17に示すアミノ酸配列、または配列番号17に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有し、11位にアスパラギン酸残基もしくはアスパラギン残基を含む、配列、あるいは、
(v)配列番号18に示すアミノ酸配列、または配列番号18に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有し、241位にグルタミン酸残基もしくはアスパラギン酸残基を含み、162位にリジン残基を含む、配列、
を有する、ペプチドリンカーである。
いくつかの実施形態においては、上記のペプチドリンカー配列は、それが比較される配列(配列番号13、配列番号14、配列番号17、配列番号18、または配列番号33)に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%の同一性を有する。
本発明の方法および使用において用いられ得る他のペプチドリンカー対は、
(5)配列番号13および配列番号14のペプチドリンカー、または上述したような、その変異体、
(6)配列番号13および配列番号33のペプチドリンカー、または上述したような、その変異体、あるいは
(7)配列番号17および配列番号18のペプチドリンカー、または上述したような、その変異体、
を含む、ペプチドリンカー対である。
同系ペプチドリンカー対が、上記(6)で述べた対を含むいくつかの実施形態においては、反応には、イソペプチド結合の形成を誘導または触媒する成分も含まれる。例えば、反応には、ペプチドリガーゼが含まれ、好ましくは、該ペプチドリガーゼは、配列番号34に示すアミノ酸配列、または配列番号34に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有する配列を有する。
いくつかの実施形態においては、上記のペプチドリガーゼ配列は、それが比較される配列(配列番号34)に対して、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%の同一性を有する。
上記(1)〜(7)から選択されるペプチドリンカー対のうち、直交した対を本発明の方法および使用において用い得るが、特に好ましい直交したペプチドリンカー対としては、上述した以下の対のうちのいずれか1つが挙げられる:(1)および(4)、(1)および(5)、(1)および(6)、(1)および(3)、(1)および(2)、(2)および(4)、(2)および(5)、(2)および(6)、(3)および(5)、(3)および(6)、(4)および(5)、および(4)および(6)。
他のタンパク質に結合して融合タンパク質を形成するタンパク質内におけるペプチドリンカーの位置は、特に重要ではない。したがって、いくつかの実施形態においては、ペプチドリンカーは、組み換えポリペプチドもしくは合成ポリペプチド、または融合タンパク質に結合されるタンパク質のN末端またはC末端に位置していてもよい。いくつかの実施形態においては、ペプチドリンカーは、組み換えポリペプチドもしくは合成ポリペプチド、または融合タンパク質に結合されるタンパク質の内部に位置していてもよい。したがって、いくつかの実施形態においては、ペプチドリンカーを、組み換えポリペプチドもしくは合成ポリペプチド、または融合タンパク質に結合されるタンパク質のN末端ドメイン、C末端ドメイン、または内部ドメインと見なし得る。
いくつかの実施形態においては、融合タンパク質に組み入れられる、または接続されるタンパク質と、ペプチドリンカーとの間に、ペプチドスペーサーなどのスペーサーを1つ以上含むことが、有用である場合がある。したがって、タンパク質とペプチドリンカーとが、互いに直接結合されてもよいし、スペーサー配列を1つ以上用いて、間接的に結合されてもよい。したがって、スペーサー配列によって、組み換えポリペプチドもしくは合成ポリペプチド、または融合タンパク質に結合されるタンパク質のそれぞれの部分のうちの2つ以上の間をあけるか、または離し得る。いくつかの実施形態においては、ペプチドリンカーのN末端またはC末端に、スペーサーが存在していてもよい。いくつかの実施形態においては、ペプチドリンカーの両側に、スペーサーが存在していてもよい。
スペーサー配列の厳密な特徴は、重要ではなく、その長さおよび/または配列は可変であってもよい。例えば、1〜40残基であってもよく、より具体的には、2〜20残基、1〜15残基、1〜12残基、1〜10残基、1〜8残基、または1〜6残基であってもよく、例えば、6残基、7残基、8残基、9残基、10残基またはそれ以上であってもよい。代表的な例においては、スペーサー配列は、もしも存在するのであれば、1〜15残基、1〜12残基、1〜10残基、1〜8残基、または1〜6残基などであってもよい。残基の特徴は重要ではなく、例えば、中性アミノ酸または脂肪族アミノ酸など、どのようなアミノ酸であってもよく、あるいは、疎水性アミノ酸であってもよいし、極性アミノ酸であってもよいし、荷電したアミノ酸であってもよいし、プロリンなどの構造形成アミノ酸であってもよい。いくつかの好ましい実施形態においては、リンカーは、セリンおよび/またはグリシンに富む配列である。
したがって、典型的なスペーサー配列は、S、G、L、V、P、R、H、M、A、またはEなどの単一アミノ酸残基、あるいはこのような残基の1つ以上からなるジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド、ペンタペプチド、またはヘキサペプチドを含む。代表的かつ好ましいスペーサー配列は、配列番号36または配列番号37に示すアミノ酸配列を有する。
本発明の組み換えポリペプチドまたは合成ポリペプチドは、精製を(例えば、本発明の方法および使用において用いる前、および/または以下で述べるように融合タンパク質を伸長させる間)容易にするために、精製用部位または精製用タグを含んでいてもよい。適切なものであれば、どのような精製用部位または精製用タグがポリペプチドに組み込まれてもよく、このような部位は当該技術分野においてよく知られている。例えば、いくつかの実施形態においては、組み換えペプチドまたは合成ペプチドは、His−タグ配列などのペプチド精製用タグまたはペプチド精製用部位を含んでいてもよい。このような精製用部位または精製用タグは、ポリペプチド内のどの位置に組み込まれていてもよい。いくつかの好ましい実施形態においては、精製用部位は、ポリペプチドのN末端またはC末端に位置しているか、またはそれらの近く(すなわちアミノ酸5つ分、10個分、15個分、20個分離れたところ)に位置している。
本発明の代表的な組み換えポリペプチドまたは合成ポリペプチドは、配列番号50〜59のいずれか1つに示すアミノ酸配列、または配列番号50〜59のいずれか1つに示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を有するポリペプチドを含み、該ポリペプチドは、上述したペプチドリンカーを含む。
好ましくは、組み換えポリペプチドまたは合成ポリペプチドは、上述した配列同一性の要件を満たしており、例えば、それが比較される配列に対して少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%の同一性を有する。
上述したように、本発明の利点は、接続されて融合タンパク質を形成するタンパク質に組み込まれたペプチドリンカー(本発明の組み換えポリペプチドまたは合成ポリペプチドなど)を、完全に、遺伝的にコードし得るという事実にある。したがって、さらなる態様においては、本発明は、上述したペプチドリンカーまたはポリペプチドをコードする核酸分子を提供する。
いくつかの実施形態においては、上述したペプチドリンカーをコードする核酸分子は、配列番号3、配列番号4、配列番号7、配列番号8、配列番号11、配列番号12、配列番号40、配列番号41、配列番号44、配列番号45、配列番号48、配列番号49、または配列番号110のいずれか1つに示すヌクレオチド配列、あるいは配列番号3、配列番号4、配列番号7、配列番号8、配列番号11、配列番号12、配列番号40、配列番号41、配列番号44、配列番号45、配列番号48、配列番号49、または配列番号110のいずれか1つに示す配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する。
いくつかの実施形態においては、上述した組み換えポリペプチドまたは合成ポリペプチドをコードする核酸分子は、配列番号60〜69のいずれか1つに示すヌクレオチド配列、あるいは配列番号60〜69のいずれか1つに示す配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する。
好ましくは、上記の核酸分子は、それが比較される配列に対して少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%の同一性を有する。
核酸配列の同一性は、例えば、設定値が初期値かつpam因子が可変であって、ギャップ作成ペナルティを12.0、ギャップ伸長ペナルティを4.0、ウインドウを6ヌクレオチドとしたGCGパッケージを用いるFASTA検索などによって、決定され得る。好ましくは、該比較は、配列の全長にわたって行われるが、例えば、連続した600個未満のヌクレオチド、500個未満のヌクレオチド、400個未満のヌクレオチド、300個未満のヌクレオチド、200個未満のヌクレオチド、100個未満のヌクレオチド、または50個未満のヌクレオチドなど、より小さい比較ウインドウに対して行われてもよい。
本発明の核酸分子は、リボヌクレオチドおよび/またはデオキシリボヌクレオチドのみならず、ワトソン−クリック型またはそれに類似の塩基対相互作用に加わることができる合成ヌクレオチド残基で構成されていてもよい。好ましくは、核酸分子はDNAまたはRNAである。
上述した核酸分子は、発現制御配列、または組み換えDNAクローニング媒体もしくはこのような組み換えDNA分子を含有するベクターに、作動可能に結合させ得る。このことによって、対象の細胞に導入された遺伝子によって発現される遺伝子産物として、本発明の方法および使用において用いるタンパク質を細胞内で発現すること、例えば本発明のポリペプチドなどを発現することが可能になる。遺伝子発現は、対象の細胞において有効なプロモーター側から行われ、ゲノムへの組み込みのための、または非依存的な複製もしくは一過性トランスフェクション/発現のための、直鎖状または環状核酸(DNAなど)ベクターの形態で挿入されてもよい。適切な形質転換技術またはトランスフェクション技術は、文献にてよく説明されている。あるいは、ネイキッド核酸(DNAなど)分子を、本発明のタンパク質およびポリペプチドを作製するため、かつ本発明において用いるため、細胞に直接導入してもよい。あるいは、インビトロにおける転写によって、核酸をmRNAに変換し、インビトロにおける翻訳によって、該当するタンパク質を生成してもよい。
適切な発現ベクターは、例えば、本発明の核酸分子に一致する読み枠に結合される翻訳制御因子(開始コドン、終止コドン、リボソーム結合部位など)および転写制御因子(プロモーター−オペレーター領域、終結終止配列など)などの適切な制御配列を含む。適切なベクターとしては、プラスミドおよびウイルス(バクテリオファージおよび真核生物ウイルスの両方を含む)が挙げることができる。適切なウイルスベクターとしては、バキュロウイルスや、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルスおよびワクシニア/痘症ウイルスも挙げられる。当該技術分野においては、他にも多くのウイルスベクターが説明されている。好ましいベクターとしては、pGEX−KG、pEF−neo、およびpEF−HAなどの細菌用発現ベクターおよび哺乳類用発現ベクターが挙げられる。
上述したように、本発明のポリペプチドは、さらなる配列(ポリペプチドの精製を容易にするためのペプチド/タンパク質タグなど)を含んでいてもよく、したがって、好都合なことには、His−タグやマルトース結合タンパク質などのさらなるペプチドまたはポリペプチドをコードするDNAに核酸分子を融合させて、発現時に融合タンパク質が生じるようにしてもよい。
したがって、さらなる態様から見ると、本発明は、上述した核酸分子を含むベクター、好ましくは発現ベクターを提供する。
本発明の他の態様は、本発明に係る組み換え核酸分子を調製する方法を含み、該方法は、本発明のペプチドリンカーおよび/またはポリペプチドをコードする本発明の核酸分子を、ベクター核酸に挿入することを含む。
好ましくはベクターに含まれる本発明の核酸分子は、適切な手段によって細胞に導入され得る。適切な形質転換技術またはトランスフェクション技術は、文献にてよく説明されている。様々な技術が知られており、これらの技術を用いて、このようなベクターを、発現用の原核細胞または真核細胞に導入してもよい。この目的のための好ましい宿主細胞としては、昆虫細胞系、酵母、哺乳類細胞系、またはBL21/DE3株などの大腸菌(E. coli)が挙げられる。本発明は、核酸分子、特に、上述したベクターを含有する、形質転換またはトランスフェクションされた原核宿主細胞または真核宿主細胞にもわたるものである。
したがって、別の態様においては、上述した核酸分子および/またはベクターを含有する組み換え宿主細胞が提供される。
「組み換え」とは、核酸分子および/またはベクターが、宿主細胞に導入されていることを意味する。宿主細胞は、核酸分子の内因性複製物を元々含有していてもよいし、含有していなくてもよいが、核酸分子および/またはベクターの外因性複製物またはさらなる内因性複製物が導入されていると、組み換えである。
本発明のさらなる態様は、先に述べた本発明のペプチドリンカーおよび/またはポリペプチドを調製する方法を提供するものであって、該方法は、上述した核酸分子を含有する宿主細胞を、該ペプチドリンカーおよび/またはポリペプチドをコードする該核酸分子が発現される条件下で培養することと、それによって生じた該分子(ペプチドリンカーおよび/またはポリペプチド)を回収することとを含む。発現されたペプチドリンカーおよび/またはポリペプチドは、本発明のさらなる態様を形成する。
いくつかの実施形態においては、本発明のペプチドリンカーおよび/またはポリペプチド、あるいは本発明の方法および使用において用いるペプチドリンカーおよび/またはポリペプチドは、例えば、アミノ酸または人工的に生成された小さなペプチドをライゲーションすることによって、あるいは、より好都合なことには、先に述べた該ポリペプチドをコードする核酸分子の組み換え発現によって、人工的に生成されてもよい。
本発明の核酸分子は、当該技術分野において公知の適切な手段によって、人工的に生成されてもよい。
したがって、本発明のペプチドリンカーおよび/またはポリペプチドは、単離・精製された組み換えペプチドリンカーもしくは合成ペプチドリンカー、または組み換えポリペプチドもしくは合成ポリペプチドであってもよい。上述したように、「ポリペプチド」なる語は、本明細書においては、「タンパク質」なる語と交換可能に用いられる。上述したように、典型的には、ポリペプチドまたはタンパク質なる語は、少なくとも40個の連続したアミノ酸残基であって、例えば、少なくとも50個、少なくとも60個、少なくとも70個、少なくとも80個、少なくとも90個、少なくとも100個、少なくとも150個のアミノ酸であり、例えば40〜1000個、50〜900個、60〜800個、70〜700個、80〜600個、90〜500個、100〜400個のアミノ酸を含むアミノ酸配列を有する。
同様に、本発明の核酸分子は、単離・精製された組み換え核酸分子もしくは合成核酸分子であってもよい。
したがって、別の見方をすると、本発明のペプチドリンカー、ポリペプチド、および核酸分子は、好ましくは、非自然の、すなわち非天然型の、分子である。
本明細書においては、標準的なアミノ酸命名法を用いる。したがって、アミノ酸残基の正式名称は、一文字コードまたは三文字略語と交換可能に用いられ得る。例えば、リジンを、KまたはLysに替えて用いることができ、イソロイシンを、IまたはIleに替えて用いることがでいる。さらに、アスパラギン酸塩(aspartate)およびアスパラギン酸(aspartic acid)、ならびにグルタミン酸塩(glutamate)およびグルタミン酸(glutamic acid)は、本明細書において交換可能に用いられ、それぞれ、aspまたはD、あるいはgluまたはEに替えて用いることができる。
本発明のペプチドリンカーおよびポリペプチド、ならびに本発明の使用において用いるペプチドリンカーおよびポリペプチドは、組み換えによって作製されることが想定され、これは、本発明の好ましい実施形態であるが、本発明のペプチドリンカーは、融合タンパク質に接続されたタンパク質に、他の手段によって連結されてもよいということは明らかであろう。換言すると、ペプチドリンカーおよびタンパク質は、適切な手段、例えば組み換えによって、個別に作製され、次いで、連結(接続)されて、本発明の方法において用いることができるペプチドリンカー−タンパク質複合体を形成してもよい。例えば、本発明のペプチドリンカーは、上述したように、人工的に、または組み換えによって作製され、化学的リンカーまたは化学的スペーサーなどの非ペプチドリンカーまたは非ペプチドスペーサーを介して、タンパク質(これは、本発明の方法にしたがって融合タンパク質に結合される)に連結されてもよい。
したがって、いくつかの実施形態においては、融合物に組み入れられるペプチドリンカーおよびタンパク質は、結合によって直接接続されてもよいし、結合基を介して間接的に接続されてもよい。結合基が用いられる場合、このような基は、結合基を介してペプチドリンカーとタンパク質成分とが共有結合するように、選択され得る。対象の結合基は、タンパク質成分の性質に応じて、様々なものがあり得る。結合基が存在する場合、これは、多くの実施形態において、生物学的に不活性である。
様々な結合基が当業者には知られており、また、本発明において用いられる。代表的な実施形態においては、概して、結合基は少なくとも約50ダルトンであって、通常は少なくとも約100ダルトンであり、結合基がスペーサーを含有する場合は、例えば1000000ダルトンを限度として1000ダルトンより大きくてもよいが、概して約500ダルトンを越えることはなく、通常は約300ダルトンを越えることはない。概して、このようなリンカーは、ペプチドリンカーおよびタンパク質成分と共有結合できる反応性官能基がいずれかの末端をなすスペーサー基を含む。対象のスペーサー基としては、脂肪族不飽和炭化水素鎖、酸素(ポリエチレングリコールなどのエーテル)または窒素(ポリアミン)などのヘテロ原子を含有するスペーサー、ペプチド、炭水化物、ヘテロ原子を含有する可能性のある環状系または非環状系を挙げることができる。金属イオンが存在すると、2つ以上のリガンドと配位結合して複合体を形成するように、スペーサー基が、金属と結合するリガンドを含むものであってもよい。具体的なスペーサーの構成分子としては、1,4−ジアミノヘキサン、キシリレンジアミン、テレフタル酸、3,6−ジオキサオクタン二酸、エチレンジアミン−N,N−二酢酸、1,1’−エチレンビス(5−オキソー3−ピロリジンカルボン酸)、4,4’−エチレンジピペリジンなどが挙げられる。潜在的な反応性官能基としては、求核性官能基(アミン、アルコール、チオール、ヒドラジド)、求電子性官能基(アルデヒド、エステル、ビニルケトン、エポキシド、イソシアネート、マレイミド)、環状付加反応、ジスルフィド結合の形成、または金属への結合が可能な官能基などが挙げられる。具体的な例としては、第1級アミンおよび第2級アミン、ヒドロキサム酸、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル、炭酸N−ヒドロキシスクシンイミジル、オキシカルボニルイミダゾール、ニトロフェニルエステル、トリフルオロエチルエステル、グリシジルエーテル、ビニルスルホン、およびマレイミドなどが挙げられる。対象のブロッキング試薬に用いられ得る具体的なリンカー基としては、アジドベンゾイルヒドラジド、N−[4−(p−アジドサリチルアミノ)ブチル]−3’−[2’−ピリジルジチオ]プロピオンアミド、ビス−スルホスクシンイミジルスベレート、ジメチルアジピミデート、酒石酸ジスクシンイミジル、N−マレイミドブチリルオキシスクシンイミドエステル、N−ヒドロキシスルホスクシンイミジル−4−アジド安息香酸、N−スクシンイミジル[4−アジドフェニル]−1,3’−ジチオプロピオン酸、N−スクシンイミジル[4−ヨードアセチル]アミノ安息香酸、グルタルアルデヒド、およびスクシンイミジル−4−[N−マレイミドメチル]シクロヘキサン−1−カルボン酸などのヘテロ官能性化合物、ならびに3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(SPDP)、4−(N−マレイミドメチル)−シクロヘキサン−1−カルボン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(SMCC)などが挙げられる。
いくつかの実施形態においては、ペプチドリンカーおよび/またはタンパク質中の残基を1つ以上改変して、これらの分子の連結を容易にし、かつ/あるいはペプチドリンカーおよび/またはタンパク質の安定性を向上させることは、有用であり得る。したがって、いくつかの実施形態においては、本発明のペプチドリンカー、ポリペプチド、またはタンパク質、あるいは本発明において用いるペプチドリンカー、ポリペプチド、またはタンパク質は、非天然アミノ酸または非標準アミノ酸を含んでいてもよい。
いくつかの実施形態においては、本発明のペプチドリンカー、ポリペプチド、またはタンパク質、あるいは本発明において用いるペプチドリンカー、ポリペプチド、またはタンパク質は、非従来的な(non-conventional)アミノ酸、すなわち、標準的な遺伝コードではコードされない側鎖を有し、本明細書においては「非コードアミノ酸」と称する、アミノ酸を、1つ以上、例えば少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、含んでいてもよく、例えば、10個、15個、20個またはそれ以上の非従来的なアミノ酸を含んでいてもよい(表1などを参照)。これらは、代謝過程で形成されるオルニチンもしくはタウリンなどのアミノ酸、および/または9H−フルオレン−9−イルメトキシカルボニル(Fmoc)、tert−ブチルオキシカルボニル(Boc)、2,2,5,7,8−ペンタメチルクロマン−6−スルホニル(Pmc)などで保護されたアミノ酸もしくはベンジルオキシ−カルボニル(Z)基を有するアミノ酸などの人工的に改変されたアミノ酸から選択されてもよい。
本発明のペプチドリンカーまたはポリペプチド、あるいは本発明において用いるペプチドリンカーまたはポリペプチドにおいて用い得る非標準アミノ酸または構造類似アミノ酸としては、例えば、Dアミノ酸、アミド等電子体(N−メチルアミド、レトロ逆アミド(retro-inverse amide)、チオアミド、チオエステル、ホスホン酸塩、ケトメチレン、ヒドロキシメチレン、フルオロビニル、(E)−ビニル、メチレンアミノ、メチレンチオ、またはアルカン)、L−Nメチルアミノ酸、D−αメチルアミノ酸、D−N−メチルアミノ酸などが挙げられる。表1に、非従来的なアミノ酸、すなわち非コードアミノ酸の例を挙げる。
いくつかの実施形態においては、本発明の方法は、例えば固相を用いて(上述したように)不均一系で行われてもよく、本方法においては、伸長する融合タンパク質、好ましくは融合タンパク質鎖における第1のタンパク質または第2のタンパク質、を固相上に固定し、洗浄ステップを用いてもよい。したがって、いくつかの実施形態においては、本方法は固相法(すなわち不均一法)である。別の見方をすると、本方法は、固相または固体基質上で行われる。固相アッセイの使用は、有利である。例えば、洗浄ステップを行うことで、ペプチドリガーゼや、ペプチドリンカーの脱ブロッキング(脱ケージング、脱遮蔽、脱保護)に関わる成分など、次の反応(すなわち融合タンパク質へのさらなるタンパク質の付加)に干渉し得る過剰な未反応タンパク質および/または成分の除去を援助することができる。
融合タンパク質の固相への固定化は、様々な方法で行われ得る。融合タンパク質の固定化、すなわち担体への結合は、あらゆる簡便な方法で行われてもよい。いくつかの実施形態においては、融合タンパク質の第1のタンパク質または第2のタンパク質が、固相担体に固定化される。したがって、いくつかの実施形態においては、本方法は、第1のタンパク質を固相担体に固定化するステップを含んでいてもよい。いくつかの実施形態においては、本方法は、第1のタンパク質および第2のタンパク質を含む結合タンパク質を、固相担体に固定化するステップを含んでいてもよい。
したがって、固定化の様式または手段、および固相担体は、当該技術分野において広く知られ、文献にて説明されている任意の数の固定化手段および固相担体から、好みに応じて選択されてもよい。したがって、融合タンパク質は、例えば、融合タンパク質中の少なくとも1つのタンパク質のドメインまたは部位を介して、直接、担体に結合(例えば、化学的に架橋結合)されてもよい。いくつかの実施形態においては、融合タンパク質は、リンカー基によって、または中継結合基によって(例えば、ビオチン−ストレプトアビジン相互反応によって)、間接的に結合されてもよい。したがって、融合タンパク質は、固相担体に共有結合してもよいし、非共有的に結合してもよい。結合は、可逆的結合(例えば、切断可能な結合)であってもよいし、不可逆的結合であってもよい。したがって、いくつかの実施形態においては、結合は、酵素によって切断されてもよいし、化学的に切断されてもよいし、光によって切断されてもよい。例えば結合は、感光性結合であってもよい。
したがって、いくつかの実施形態においては、融合タンパク質に含まれるタンパク質は、固定化手段(例えば、担体に備えられたストレプトアビジンまたは抗体などの結合パートナー、すなわち同系結合パートナーに結合することができるビオチンまたはハプテンなどの親和性結合パートナー)を備えていてもよい。いくつかの実施形態においては、担体に固定化されるタンパク質は、マルトース結合タンパク質、抗体などの結合タンパク質であってもよい。融合タンパク質と固相担体との間の相互作用は、洗浄ステップが可能となるくらいに、強固でなければならない。すなわち、融合タンパク質と固相担体との間の相互作用は、洗浄ステップによって分断されない(大きくは分断されない)。例えば、各洗浄ステップによって、固相から除去されるまたは溶出する融合タンパク質は、5%未満、好ましくは4%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、または0.1%未満であることが好ましい。この点において、発明者らは、マルトースに対する結合親和性が向上し、それによって本発明の方法に特に役立つ改変マルトース結合タンパク質を開発した。
したがって、本発明のさらなる態様は、配列番号70に示すアミノ酸配列、または配列番号70に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有する配列を有するマルトース結合タンパク質を提供する。
いくつかの実施形態においては、上記のマルトース結合タンパク質は、それが比較される配列に対して少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%の同一性を有する。
好ましくは、配列番号70に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有するマルトース結合タンパク質は、配列番号70に示すアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等である。すなわち、配列番号70に示すアミノ酸配列からなるタンパク質と同じか、またはそれよりも高い親和性で、マルトースと結合することができる。例えば、本発明のマルトース結合タンパク質のマルトースに対する結合親和性は、0.2μM未満であり、例えば、0.1μM以下、0.08μM以下、0.05μM以下、0.03μM以下、または0.01μM以下である。好ましい実施形態においては、配列番号70に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有するマルトース結合タンパク質は、312位および317位にバリンを含む。
本発明は、上述したマルトース結合タンパク質をコードする核酸分子も提供する。いくつかの実施形態においては、核酸分子は、配列番号71に示すヌクレオチド配列、または配列番号71に示すヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を有する。
いくつかの実施形態においては、マルトース結合タンパク質は、本明細書で述べるペプチドリンカーを含む(例えば、連結されている)。またさらなる実施形態においては、マルトース結合タンパク質は、上述したアミノ酸配列を2つ以上(例えば、2つまたは3つ)有する。すなわち、繰り返し配列を有する。
融合タンパク質、例えば融合タンパク質に組み入れられた第1のタンパク質の固定化は、融合タンパク質に組み入れられるさらなるタンパク質(第2のタンパク質など)との接触前に行われてもよいし、接触後に行われてもよい。さらに、このような「固定化可能な」融合タンパク質は、担体と共に、さらなるタンパク質と接触させてもよい。
固相担体は、固定化や分離などに現在広く用いられている、または提案されている、公知の担体またはマトリクスのいずれであってもよい。これらの形態としては、粒子(例えば、磁気ビーズであってもよいし、常磁性ビーズであってもよいし、非磁気ビーズであってもよい)、シート、ゲル、フィルター、膜、繊維、毛細管、スライド、アレイもしくはマイクロタイターストリップ、チューブ、プレート、またはウェルなどのいずれであってもよい。
担体は、ガラス製、シリカ製、ラテックス製、またはポリマー材料製のいずれであってもよい。融合タンパク質が結合する表面積が大きい材料が適している。このような担体の表面は、凹凸があってもよく、例えば、粒子、繊維、ウェブ、焼結体または篩などの多孔性または粒状のものであってもよい。ビーズなどの粒状材料は、結合容量が大きいので有用であり、特にポリマービーズが有用である。
好都合なことには、本発明にしたがって用いられる粒状固相担体は、球状のビーズを含む。ビーズの大きさは重要ではないが、その直径のオーダーは、例えば、少なくとも1μm、好ましくは少なくとも2μmであってもよく、好ましくは、最大直径は10μm以下、例えば、6μm以下であってもよい。
大きさが実質的に均一である(例えば、直径の標準偏差が5%未満の大きさである)単分散粒子は、反応の再現性が非常に一定であるという点で、有利である。代表的な単分散ポリマー粒子は、US−A−4336173で説明されている技術によって作製され得る。
しかしながら、取り扱いおよび分離の助けとなるという点では、磁気ビーズが有利である。本明細書における「磁気」なる語は、磁界に置かれた際に、担体に磁気モーメントが付与され得、そのため、磁界の作用によって担体の変位が可能であることを意味する。換言すると、磁気粒子を含む担体は、磁気凝集によって容易に除去され得、それによって、イソペプチド結合形成ステップの後に、粒子を分離する速くて簡便で効率的な方法が提供される。
いくつかの実施形態においては、固相担体は、アミロース樹脂である。
最後から2番目のタンパク質と、最後のタンパク質との間のイソペプチド結合が形成されると、固相担体からタンパク質を除去する、または溶出させることが望ましい。したがって、いくつかの実施形態においては、本方法は、固相担体から融合タンパク質を溶出させる、または除去するステップを含む。
上記したように、ある種のプロトコールにおいては、本発明の方法によって、アレイなどの同一の固相担体上で、2つ以上の融合タンパク質を同時に作製するようにしてもよい。したがって、いくつかの実施形態においては、本発明の方法を、複合的および/またはハイスループットな様式であると見なしてもよい。
さらなる実施形態においては、本発明は、本発明の方法によって得られた、または得ることができる融合タンパク質を提供する。いくつかの実施形態においては、融合タンパク質は、固体基質上に固定化される。したがって、またさらなる実施形態においては、本発明は、本発明の方法によって得られた、または得ることができる融合タンパク質を少なくとも1つ含む固体基質を提供する。いくつかの実施形態においては、固体基質は、本発明の方法によって得られた、または得ることができる融合タンパク質(配列が異なる融合タンパク質)を2つ以上含むアレイ(すなわちタンパク質アレイ、特に融合タンパク質アレイ)の形態であってもよい。いくつかの実施形態においては、アレイは、融合タンパク質、すなわち異なる(構造または配列が異なる)融合タンパク質を、少なくとも10個、少なくとも20個、少なくとも50個、少なくとも100個、少なくとも200個、少なくとも300個、少なくとも400個、少なくとも500個、少なくとも1000個、少なくとも1500個、少なくとも2000個、少なくとも5000個、または少なくとも10000個、含む。
いくつかの実施形態においては、本発明の方法によって得られた、または得ることができる融合タンパク質を、2つ以上混合して、融合タンパク質ライブラリを形成してもよい。したがって、さらなる実施形態においては、本発明は、本発明の方法によって得られた、または得ることができる融合タンパク質を少なくとも2つ含む融合タンパク質ライブラリを提供する。いくつかの実施形態においては、ライブラリは、融合タンパク質、すなわち異なる(構造または配列が異なる)融合タンパク質を、少なくとも10個、少なくとも20個、少なくとも50個、少なくとも100個、少なくとも200個、少なくとも300個、少なくとも400個、少なくとも500個、少なくとも1000個、少なくとも1500個、少なくとも2000個、少なくとも5000個、または少なくとも10000個、含む。いくつかの実施形態においては、ライブラリは、ビーズまたは粒子などの固体基質上に固定化された融合タンパク質を含む。例えば、ビーズまたは粒子などの固体基質は、それぞれ異なる融合タンパク質を含んでいてもよい。
本発明の方法を、不均一な実施形態を用いて例示したが、本方法は、均一系(すなわち溶液)に用いられてもよいことが、本明細書の開示から容易に明らかとなるであろう。しかしながら、融合タンパク質の混合物の生成を避けるために、いくつかの実施形態においては、伸長後の各反応において、融合タンパク質を他の成分から分離する必要があるであろう。分離または精製は、適切な手段によって行われ得る。例えば、融合タンパク質鎖のうちの1つのタンパク質は、精製用のタグを含んでいてもよいし、アフィニティクロマトグラフィなどの反応中、融合タンパク質の他の成分からの分離を容易にする結合タンパク質(マルトース結合タンパク質など)であってもよい。さらに、またはあるいは、イオン交換クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、超遠心法、遠心ろ過、透析、透析ろ過などの、他の精製/分離法を用いてもよい。
したがって、いくつかの実施形態においては、本発明の方法は、イソペプチド結合を形成するステップの後に、融合タンパク質を分離または精製するステップを含んでいてもよい。
さらなる実施形態においては、本発明は、キット、特に、本発明の方法または使用、すなわち融合タンパク質の作製または合成において用いるキットを提供し、該キットは、
(a)上述したペプチドリンカーを含む組み換えポリペプチドまたは合成ポリペプチド、および、
(b)(a)のポリペプチドのペプチドリンカーとイソペプチド結合を形成することができる、上述したペプチドリンカーを含む組み換えポリペプチドまたは合成ポリペプチド、および/または、
(c)上述したペプチドリンカーをコードする核酸分子、特にベクター、および/または、
(d)(b)の核酸分子にコードされているペプチドリンカーとイソペプチド結合を形成することができるペプチドリンカーをコードする核酸分子、特にベクター
を含むキットであって、
場合によっては、前記(a)および/または(b)の組み換えポリペプチドまたは合成ポリペプチドは、前記(a)および(b)のポリペプチドのペプチドリンカーに対して直交しているペプチドリンカー対の一部である、さらなるペプチドリンカーを含む。
本発明の方法および使用は、インビトロにおける方法および使用、すなわちインビトロにおける融合タンパク質の合成方法と定義されてもよい。
本発明の方法は、特定のタンパク質を結合して融合タンパク質を形成することに限定されないということは、明らかであろう。したがって、本方法においては、本明細書で述べるタンパク質またはポリペプチド、すなわち所望のタンパク質またはポリペプチドを、どれでも用い得る。換言すると、本発明においては、融合タンパク質に含む、または組み入れることを望むタンパク質またはポリペプチドをどれでも用い得る。さらに、本発明の組み換えポリペプチドまたは合成ポリペプチドは、本発明のペプチドリンカーに結合されたタンパク質を含み得る。タンパク質は、適切な供給源由来のものであってもよいし、そこから得られたものであってもよい。例えば、タンパク質は、インビトロで翻訳されたものであってもよいし、生物(真核生物、原核生物)の細胞試料もしくは組織試料、またはそれらに由来する体液もしくは標本、さらには、細胞培養液、細胞標本、細胞溶解物などのような試料などの生物試料および臨床試料から精製されたものであってもよい。タンパク質は、例えば土壌試料もしくは水試料、または食品試料をも含む、環境試料に由来してもよいし、そこから得られてもよく、例えばそのような試料から精製されてもよい。試料は、新たに調製されてもよく、例えば保存中に、都合のよい方法で前処理されてもよい。
上記したように、好ましい実施形態においては、融合タンパク質に組み入れられるタンパク質は、組み換えによって作製されてもよく、したがって、該タンパク質をコードする核酸分子は、真核細胞または原核細胞、ウイルス、バクテリオファージ、マイコプラズマ、プロトプラスト、およびオルガネラを全て含む、ウイルス材料または細胞材料などの適切な供給源に由来するものであってもよいし、そこから得られたものであってもよい。したがって、このような生物材料は、全ての種類の哺乳類細胞、非哺乳類細胞、植物細胞、藍藻を含む藻類、真菌、細菌、原生動物などを含み得る。いくつかの実施形態においては、融合タンパク質に結合されるタンパク質は、合成タンパク質であってもよい。
代表例として、本発明に係る融合タンパク質に接続されるタンパク質は、酵素、構造タンパク質、抗体、抗原、プリオン、受容体、リガンド、サイトカイン、ケモカイン、ホルモンなど、またはこれらの組み合わせであり得る。
いくつかの実施形態においては、本発明の組み換えポリペプチドまたは合成ポリペプチド、および本方法に用いる組み換えポリペプチドまたは合成ポリペプチドは、イソペプチドタンパク質でもないし、ペプチドリンカーが由来するイソペプチドタンパク質とは異なるイソペプチドタンパク質でもない。
いくつかの実施形態においては、融合タンパク質は、繰り返し構造を含んでおり、例えば、同じタンパク質が結合していてもよい。別の見方をすると、融合タンパク質は、同じ配列を有するタンパク質ユニットを2つ以上含有していてもよい。融合タンパク質が、同じ配列を有するタンパク質ユニットを2つ以上含有している場合、これらのタンパク質ユニットは、連続的であって、例えば、タンパク質ユニットを接続するペプチドリンカーのみによって分離されていてもよく、また、連続的でなくても、一連でなくてもよい(例えば、異なる配列を有する1つ以上のタンパク質によって分離されている)。いくつかの好ましい実施形態においては、融合タンパク質は、異なる配列を有するタンパク質を少なくとも2つ含み、例えば、異なる配列を有するタンパク質を少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、含む。異なる配列を有するタンパク質は、融合タンパク質の目的に応じて、適切な順序で配置され得る。
またさらなる実施形態においては、タンパク質は、本明細書で述べるペプチドリンカー2つ以上と、場合によっては該ペプチドリンカーを接続するペプチドスペーサーなどのスペーサー1つ以上とからなるものであってもよい。この場合、上述したように、タンパク質を、機能しないタンパク質、またはリンカータンパク質/リンカーペプチドと見なし得る。これらの実施形態においては、融合タンパク質のもう一方のタンパク質は、異なるタンパク質または機能性タンパク質である。すなわち、ペプチドリンカーおよびスペーサーとは異なる配列を有する。したがって、いくつかの実施形態においては、融合タンパク質は、配列番号56〜59のいずれか1つに示すアミノ酸配列、または配列番号56〜59のいずれか1つに示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質を1つ以上含んでおり、該タンパク質は、上述したペプチドリンカーを少なくとも2つ含む。例えば、機能しないタンパク質は、融合タンパク質の第2のタンパク質として、すなわち、第1のタンパク質と第3のタンパク質とを結合する第2のタンパク質として用いられてもよいし、融合タンパク質の第4のタンパク質として、すなわち、第3のタンパク質と第5のタンパク質とを結合する第4のタンパク質として用いられてもよい。この代表例においては、第2のタンパク質および第4のタンパク質は、同じタンパク質であってもよいし、異なるタンパク質であってもよい。したがって、いくつかの実施形態においては、融合タンパク質のタンパク質ユニットは、リンカータンパク質を交互に含んでいてもよく、例えば、機能性タンパク質−リンカータンパク質−機能性タンパク質や、リンカータンパク質−機能性タンパク質−リンカータンパク質などであってもよい。
いくつかの実施形態においては、上記のタンパク質は、それが比較される配列に対して少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%の同一性を有する。
「融合タンパク質」は、共有結合によって、好ましくは本明細書で述べるイソペプチド結合によって、結合しているタンパク質ユニットを少なくとも2つ、例えば2つ以上、3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、7つ以上、8つ以上、9つ以上、または10個以上含む、例えばタンパク質ユニットを15個、20個、25個、または50個含むポリマーとして定義され得る。タンパク質ユニットは、連続したアミノ酸を少なくとも40個含む分子として定義され得、好ましくは、タンパク質はインビボにおいて機能を有するものであり、例えば、タンパク質は、1つ以上の生体成分に対して特異的に反応することが出来るものであって、例えば、インビボにおいて活性を有するものである。したがって、融合タンパク質を、共有結合によって、好ましくは本明細書で述べるイソペプチド結合によって、結合しているタンパク質ユニットを少なくとも2つ、例えば2つ以上、3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、7つ以上、8つ以上、9つ以上、または10個以上含む、例えばタンパク質ユニットを15個、20個、25個、または50個含む巨大構造体、高分子、巨大分子、またはポリタンパク質と見なし得る。
本発明において、融合タンパク質の2つ以上のタンパク質についての「結合する」、「結合した」、または「結合している」なる語は、該タンパク質を、共有結合を介して、特に該タンパク質に組み入れられているペプチドリンカー(該タンパク質のドメインを形成するペプチドリンカーなど)の間に形成されるイソペプチド結合を介して、接続(joining)または連結することをいう。
ここまで、共に反応してイソペプチド結合を形成するリンカー対に関して、本発明を説明したが、各(同系)リンカー対は、別の見方をすると、反応してイソペプチド結合を形成する(該タンパク質を結合/連結する)別々の、または分離可能な、2つの部分(2つのタグや、タグと結合パートナー)から形成される単一のペプチドリンカーと見なされ得る。したがって、この観点からだと、本発明を、融合タンパク質を作製するために直交した2つのペプチドリンカーを使用することと見なし得、各ペプチドリンカーは、反応してイソペプチド結合を形成する分離可能な2つの部分を含むか、またはそれらからなるものであり、またリンカーの各部分は、結合(連結)されるタンパク質に組み入れられる(タンパク質のドメインを形成する)。
本明細書で述べる方法および使用、ならびに本明細書で述べる方法によって得られた、または得ることができる融合タンパク質は、広範囲に役立つ。別の見方をすると、本明細書で述べる方法によって作製された融合タンパク質は、様々な産業において用いられ得る。例えば、本発明の方法は、予防接種用の融合タンパク質を作製するのに有用であり得る。この場合、本方法は、直接注射される鎖、またはウイルス様粒子(VLPS)を修飾するのに用いられる鎖に、タンパク質抗原を結合するのに有用であり得る。なぜなら、抗原の多量化によって、免疫応答が大きく増強されるからである。
本発明の方法は、基質チャネリングなどの酵素的性質が向上した融合タンパク質を作製するのに有用であり得る。この点において、酵素は、細胞内の経路において共に機能することが多く、従来より、細胞外(インビトロ)において複数の酵素を接続することは難しかった。したがって、本発明の方法を用いて、多段階の酵素経路の活性を増強することができ、このことは、様々な工業的転化や診断に有用であり得る。
本発明の融合タンパク質の安定性に関する性質も、増強され得る。すなわち、融合タンパク質のタンパク質ユニットの安定性は、個別のタンパク質としてのそれらの安定性と比較して、増強され得る。特に、融合タンパク質は、タンパク質ユニットの熱安定性を向上させ得る。この点において、酵素は、多くのプロセスで役に立つ手段であるが、不安定で回復しにくいものである。酵素ポリマーは、温度やpH、有機溶媒に対する安定性が高く、工業プロセスにおいて、酵素ポリマーを用いることに対する要望が高まっている。しかしながら、本発明以前は、酵素ポリマーの生成には、通常、グルタルアルデヒドの非特異的な反応が用いられていたが、これによって、潜在的に有用な酵素の多くが、損傷を受けたり変性したり(すなわち、活性が低下)する。本発明に係るイソペプチド結合を介した鎖(ポリマー)へのタンパク質の部位特異的な結合は、例えば動物用飼料に添加された診断薬や酵素において、酵素の復元力を増強することが期待される。特に好ましい実施形態においては、酵素は、上述したように、環状化によって安定化されてもよい。
本発明の方法は、抗体ポリマーの作製にも役立つ。この点において、抗体は、医薬品類において最も重要なものの1つであり、表面に付着させて用いられる。しかしながら、抗原の試料への混合、および、ひいては該試料中における該抗原の捕捉は、表面付近では非効率的である。抗体鎖を伸長させることによって、捕捉効率の向上が期待される。これは、循環腫瘍細胞の単離に特に有用であり、現時点で、早期の癌診断を可能にする最も有望な方法の1つである。また、特異性が異なる抗体を、所望の順序で組み合わせることができる。
またさらなる実施形態においては、本発明の方法は、細胞シグナル伝達を活性化する薬剤の作製に役立ち得る。この点において、細胞機能を活性化する最も効果的な方法の多くは、タンパク質リガンドを介するものである。しかしながら、現実には、タンパク質リガンドは、通常、単独では機能せず、他のシグナル伝達分子との特異的な組み合わせによって機能する。したがって、本発明の方法によって、テーラーメイドな融合タンパク質(tailored fusion proteins)(すなわちタンパク質団)を生成することができ、これによって、細胞シグナル伝達の活性化が最適となる。これらの融合タンパク質(タンパク質団)を用いて、細胞の生存、分割、または分化を制御し得る。
またさらなる実施形態においては、本発明のペプチドリンカー、特に本発明のペプチドリンカー対は、幹細胞増殖用のヒドロゲルの生成、生体材料の調製、染料を用いた抗体の機能化、または環状化による酵素の安定化に有用であり得る。
次に、本発明を、以下の限定されない実施例において、以下の図面を参照してより詳細に説明する。
図1は、スヌープタグ/スヌープキャッチャーおよびスパイタグ/スパイキャッチャーという直交したペプチドリンカー対を2つ用いた融合タンパク質の固相合成の代表例の概略図を示す。
図2は、スヌープタグおよびスヌープキャッチャーのペプチドリンカー対が由来するRrgAタンパク質におけるイソペプチド結合形成の概略図を示す(タンパク質構造データバンクID 2WW8に基づいて番号を付けている)。
図3は、スヌープタグ−MBPのスヌープキャッチャーとの反応の特性を、スヌープタグの反応性Lysをアラニンへ変異させたコントロール(KA)またはスヌープキャッチャーの反応性Asnをアラニンへ変異させたコントロール(NA)と並べて明らかにする、クマシー染色SDS−PAGEゲルの写真を示す。
図4の(A)は、スヌープキャッチャーのスヌープタグ−MBPに対する比を1:1または2:1としたスヌープタグ反応の経時変化を表すグラフを示し、(B)は、スヌープキャッチャーのスヌープタグ−MBPに対する比を2:1としたスヌープタグ−MBPのスヌープキャッチャーとの反応の特性を明らかにする、クマシー染色SDS−PAGEゲルの写真を示し、(C)は、スヌープキャッチャーのスヌープタグ−MBPに対する比を1:1、2:1、または4:1としたスヌープタグ反応の経時変化を表すグラフを示し、(D)は、スヌープキャッチャーのスヌープタグ−MBPに対する比を4:1としたスヌープタグ−MBPのスヌープキャッチャーとの反応の特性を明らかにする、クマシー染色SDS−PAGEゲルの写真を示す。
図5の(A)は、スヌープタグ−MBPとスヌープキャッチャーとの間におけるイソペプチド結合形成のpH依存性を表す棒グラフを示し、(B)は、スヌープタグ−MBPとスヌープキャッチャーとの間におけるイソペプチド結合形成の温度依存性を表す図を示す。
図6の(A)は、スヌープタグ−MBPとスヌープキャッチャーとの間におけるイソペプチド結合形成の、塩、還元剤、および界面活性剤に対する依存性を表す棒グラフを示し、(B)は、スヌープタグ−MBPとスヌープキャッチャーとの間におけるイソペプチド結合形成のTMAO依存性を表すグラフを示す。
図7は、スヌープタグ/スヌープキャッチャーおよびスパイタグ/スパイキャッチャーの直交した反応性の特性を明らかにする、クマシー染色SDS−PAGEゲルの写真を示す。
図8の(A)は、PsCsタグ/PsCsキャッチャー、スヌープタグ/スヌープキャッチャー、およびスパイタグ/スパイキャッチャーの直交した反応性の特性を明らかにする、クマシー染色SDS−PAGEゲルの写真を示し、(B)は、RrgAタグ/RrgAキャッチャー、スヌープタグ/スヌープキャッチャー、およびスパイタグ/スパイキャッチャーの直交した反応性の特性を明らかにする、クマシー染色SDS−PAGEゲルの写真を示す。
図9の(A)は、融合タンパク質の固相合成を解析する、クマシー染色SDS−PAGEゲルの写真を示す。レーン1〜3は、MBPx−スパイキャッチャー、スヌープタグ−Affi−スパイタグ、およびスパイキャッチャー−スヌープキャッチャーを個別に示す。MBPx−スパイキャッチャーをアミロース樹脂に結合させ、スヌープタグ−アフィボディ(Affibody)−スパイタグおよびスパイキャッチャー−スヌープキャッチャーを用いた段階的な反応を行った。各段階後、試料の一定分量を、マルトースを用いて樹脂から溶出させた(レーン4〜13)。試料は、さらなる精製を行わずに解析した。(B)は、融合タンパク質の固相合成を解析する、クマシー染色SDS−PAGEゲルの写真を示す。レーン1〜3は、ビオチン−スパイキャッチャー、スヌープタグ−Affi−スパイタグ、およびスパイキャッチャー−スヌープキャッチャーを個別に示す。ビオチン−スパイキャッチャーをストレプトアビジンアガロースに結合させ、スヌープタグ−アフィボディ−スパイタグおよびスパイキャッチャー−スヌープキャッチャーを用いた段階的な反応を行った。各段階後、試料の一定分量を、ビオチンを用いてアガロースから溶出させた(レーン4〜13)。試料は、さらなる精製を行わずに解析した。
図10の(A)は、十量体融合タンパク質であるビオチン−スパイキャッチャー:(スヌープタグ−Affi−スパイタグ:スパイキャッチャー−スヌープキャッチャー)4:スヌープタグ−Affi−スパイタグの同一性を分析するエレクトロスプレーイオン化質量分析を表すグラフを示し、(B)は、十量体融合タンパク質であるMBPx−スパイキャッチャー:(スヌープタグ−Affi−スパイタグ:スパイキャッチャー−スヌープキャッチャー)4:スヌープタグ−Affi−スパイタグのサイズ排除クロマトグラフィ解析を表すグラフを示す。挿入図は、分子量の基準を示す。
図11の(A)は、十量体融合タンパク質であるMBPx−スパイキャッチャー:(スヌープタグ−Affi−スパイタグ:スパイキャッチャー−スヌープキャッチャー)4:スヌープタグ−Affi−スパイタグの熱安定性を解析する、クマシー染色SDS−PAGEゲルの写真を示し、(B)は、十量体融合タンパク質であるビオチン−スパイキャッチャー:(スヌープタグ−Affi−スパイタグ:スパイキャッチャー−スヌープキャッチャー)4:スヌープタグ−Affi−スパイタグの時間依存的な安定性を解析する、クマシー染色SDS−PAGEゲルの写真を示す。
図12は、融合タンパク質の固相合成を解析する、クマシー染色SDS−PAGEゲルの写真を示す。レーン1〜3は、MBPx−スパイキャッチャー、スヌープタグ−mEGFP−スパイタグ、およびスパイキャッチャー−スヌープキャッチャーを個別に示す。MBPx−スパイキャッチャーをアミロース樹脂に結合させ、スヌープタグ−mEGFP−スパイタグおよびスパイキャッチャー−スヌープキャッチャーを用いた段階的な反応を行った。各段階後、試料の一定分量を、マルトースを用いて樹脂から溶出させた(レーン4〜9)。試料は、さらなる精製を行わずに解析した。(B)は、融合タンパク質の固相合成を解析する、クマシー染色SDS−PAGEゲルの写真を示す。レーン1〜3は、MBPx−スパイキャッチャー、スヌープタグ−スパイタグ−Affi3、およびスパイキャッチャー−スヌープキャッチャーを個別に示す。(A)と同様に段階的な反応を行い、解析した。
図13は、本発明の方法を用いて得ることができる分岐融合タンパク質の簡易な構造を2つ表す図を示す。
図14は、MBPと融合させた変異型RrgAタグ(RrgAタグ2.0、配列番号111)をRrgAキャッチャーと反応させた場合の活性を、MBPと融合させた非変異型RrgAタグ(配列番号9)をRrgAキャッチャーと反応させた場合の活性と比較する、クマシー染色SDS−PAGEゲルの写真を示す。
図15は、RrgAキャッチャーと反応させた様々なRrgAタグペプチドリンカー変異体(SUMOと融合させた)の特性を明らかにする、クマシー染色SDS−PAGEゲルの写真を示す。
図16は、RrgAタグ2のRrgAキャッチャーに対する比を1:1、2:1、または4:1としたRrgAタグ2反応の経時変化を表すグラフを示す。挿入グラフは、反応開始後8分間の反応を示す。
図17は、スヌープタグ、スヌープキャッチャー、スパイタグ、スパイキャッチャー、およびRrgAタグ2に対するRrgAキャッチャーの反応性の特性を明らかにする、クマシー染色SDS−PAGEゲルの写真を示す。
図18は、RrgAタグ2/RrgAキャッチャー、スヌープタグ/スヌープキャッチャー、およびスパイタグ/スパイキャッチャーの直交した反応性の特性を明らかにする、クマシー染色SDS−PAGEゲルの写真を示す。
[実施例]
(実施例1−自発的イソペプチド結合を形成する同系ペプチドリンカー対の設計および合成)
RrgA(配列番号21)は、ヒトにおいて敗血症、肺炎、および髄膜炎を引き起こし得るグラム陽性細菌である肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)由来のアドヘシンである。自発的なイソペプチド結合は、RrgAのD4免疫グロブリン様ドメインにおいて、Lys742残基とAsn854残基との間で形成される(図2)。発明者らは、D4ドメインを、スヌープタグと命名されたペプチドリンカー(734位の残基と748位の残基との間、配列番号1)の対と、スヌープキャッチャーと命名したタンパク質(749位の残基と860位の残基との間、配列番号2)とに分割した。
しかしながら、発明者らは、本発明で用いる安定したペプチドリンカー対を形成するためには、スヌープキャッチャーペプチドリンカーに変異を2つ導入する必要があることを見出した。この点において、発明者らは、スヌープキャッチャーにG842T変異を導入してβ−ストランドを安定化させ、またD848G変異を導入して反応部位に近いヘアピンターンを安定化させた。
スヌープタグペプチドは、マルトース結合タンパク質(MBP)およびHis−タグと融合させた組み換えポリペプチドとして発現させた(配列番号50)。スヌープキャッチャーは、His−タグと融合させた組み換えポリペプチドとして発現させた(配列番号39)。スヌープタグ−MBPおよびスヌープキャッチャーは、可溶性タンパクとして、大腸菌(Escherichia coli)のサイトゾルにおいて効率よく発現され、Ni−NTAアフィニティクロマトグラフィによって、その精製を行った。スヌープタグ−MBPおよびスヌープキャッチャーは、混合するだけで、SDS存在下での煮沸に対して安定な複合体を形成した(図3)。反応性があると見なされているスヌープタグのLys742の変異(スヌープタグKA−MBP)および反応性があると見なされているスヌープキャッチャーのAsn854の変異(スヌープキャッチャーNA)によって、反応は起こらなくなった(図3)。エレクトロスプレーイオン化質量分析によって、スヌープキャッチャーと合成スヌープタグペプチドとの間におけるイソペプチド結合によりNH3が失われていることが立証され、また、大腸菌(E. coli)での過剰発現において一般的に生じるアセチル化副生物およびグルコニル化副生物も観察された。
スヌープキャッチャーのスヌープタグ−MBPに対する比を1:1とすると、収率が80%に達するまで反応が進んだ。しかしながら、スヌープキャッチャーを2倍過剰にすると、スヌープタグ−MBPは定量的に反応した(図4Aおよび4B)。同様に、スヌープタグ−MBPを過剰にすると、スヌープキャッチャーは100%まで消費された(図4Cおよび4D)。
発明者らは、さらに、反応はpH6〜9において効率的に進行するが、pH5においては進行が遅くなることを立証した(図5A)。反応は室温で最も速く進行するが、4℃および37℃においても起こった(図5B)。スヌープタグおよびスヌープキャッチャーにはシステインは存在しないので、期待通り、反応はジチオスレイトール(DTT)の影響を受けなかった。反応をPBS中、さらにトリトン(Triton)X−100やトゥィーン(Tween)20などの界面活性剤存在下または高塩濃度(1M NaCl)において行った場合、特定の緩衝液成分が必要となることはなかった(図6A)。化学シャペロンであるトリメチルアミンN−オキシド(TMAO)によって、適度な向上が見られた(図6B)。
中性条件においては、通常、アミド結合の自発的な加水分解は長い年月を要するが、この特定のタンパク質環境下において、加水分解が加速するかを調べた。過剰量の別のスヌープタグ結合タンパク質またはアンモニアと競合することによるスヌープタグ−MBP/スヌープキャッチャーの相互作用の切断を探索したが、可逆性は観察されなかった。
スヌープタグ/スヌープキャッチャーのペプチドリンカー対とは異なる方向にD4免疫グロブリン様ドメインを分割することによって、RrgAタンパク質から、さらなるペプチドリンカー対を開発した。このペプチドリンカー対を、RrgAタグ(配列番号9)およびRrgAキャッチャー(配列番号10)と命名した。PsCsタンパク質(配列番号31)に基づいたペプチドリンカー対も開発し、PsCsタグ(配列番号5)およびPsCsキャッチャー(配列番号6)と命名した。
上述したスヌープタグ/スヌープキャッチャー対と類似した様々な条件下で、各ペプチドリンカー対は、イソペプチド結合を自発的に形成することができる。
(実施例2−ペプチドリンカー対の交差反応性の研究)
反応して自発的にイソペプチド結合を形成するペプチドタグおよび結合パートナーである、スパイタグおよびスパイキャッチャー(配列番号13および14)が、以前に開発されている(WO2011/098772)。
スヌープタグは反応性Lysを有し、一方スパイタグは反応性Aspを有しているので、発明者は、スヌープタグ/スヌープキャッチャー対およびスパイタグ/スパイキャッチャー対は、完全に直交している、すなわち、交差反応性を示さないという仮説を立てた。様々な組み合わせでペプチドリンカーを混合すると、各同系ペプチドリンカー対は効率的に反応することがわかったが、一晩インキュベートした後であっても、各対の間において交差反応は見られなかった(図7)。この結果から、スヌープタグ/スヌープキャッチャー対は、スパイタグ/スパイキャッチャーに対して直交していることが確認された。
また、発明者は、スヌープタグ/スヌープキャッチャー対およびスパイタグ/スパイキャッチャー対に対する、PsCsタグ/PsCsキャッチャー対およびRrgAタグ/RrgAキャッチャー対の交差反応性も調べた。図8Aおよび8Bに示すように、「PsCs」対と「スパイ」対または「スヌープ」対との間において、有意な交差反応性は見られなかった。同様に、「RrgA」対と「スパイ」対または「スヌープ」対との間において、有意な交差反応性は見られなかった。したがって、各ペプチドリンカー対は、他のペプチドリンカー対に対して直交している。
(実施例3−直交した2つのペプチドリンカー対を用いた融合タンパク質の合成)
発明者らは、「スパイ」ペプチドリンカー対および「スヌープ」ペプチドリンカー対を用いることによって、このような直交したペプチドリンカー対を用いて、融合タンパク質の合成に成功できるということを実証した。
大腸菌MBPとアミロース樹脂との相互作用は、アフィニティ精製に広く用いられている。MBP融合物は、典型的には、うまく折り畳まれて発現され、樹脂に対する非特異的な結合は少ない。MBPは、マルトースを用いて選択的に穏やかに溶出されるので、プロテアーゼを除去する必要がない。野生型MBPのマルトースに対する親和性は、1.2μMであり、これはタンパク質精製において実用的であるが、融合タンパク質の合成において洗浄および鎖の伸長を複数回行うには不十分である。したがって、発明者らは、変異型MBPを開発して、そのマルトースに対する結合安定性を向上させた。まず、発明者らは、A312Vの変異およびI317Vの変異を導入し、172位、173位、175位、および176位の残基を欠失させることによって、ポリペプチド配列を改変した。次に、MBP変異体(配列番号70)を直列状に結合させて、MBPx(His6−MBPmt−リンカーMBPmt)を生成した。
最初の鎖の構築のために、発明者らは、大腸菌のサイトゾルにおいて効率的に発現される非免疫グロブリン骨格であるアフィボディを組み入れた。HER2に対するアフィボディを、スヌープタグのN末端およびスパイタグのC末端に結合させた(スヌープタグ−Affi−スパイタグ、配列番号72)。螺旋状のスペーサーを介してスヌープキャッチャーに接続されたスパイキャッチャー(スパイキャッチャー−スヌープキャッチャー(配列番号56)、これもまた、大腸菌において、可溶性タンパク質として効率的に発現される)を用いて、アフィボディユニットを接続した(図1)。各結合は共有結合であるので、鎖を合成した後、マルトースを添加して樹脂から溶出させ、上清を煮沸し、クマシー染色SDS−PAGEによって融合タンパク質の伸長を追跡した(図9A)。MBPx−スパイキャッチャー(アミロース樹脂に結合している)は、スヌープタグ−Affi−スパイタグと定量的に反応した(図9A、レーン5)。その後、このコンストラクトは、スパイキャッチャー−スヌープキャッチャーと定量的に反応した(図9A、レーン6)。スヌープタグ−Affi−スパイタグおよびスパイキャッチャー−スヌープキャッチャーを順次追加することによって、鎖を効率的に伸長させることができ、生成物を10ユニット分の長さまで伸長させた(十量体;図9A、レーン13)。
異なる種類の固相結合による固相伸長を説明するために、改変スパイキャッチャータンパク質であるAviタグ−スパイキャッチャーを生成して、部位特異的にN末端をビオチン化した。ビオチン化スパイキャッチャーをストレプトアビジン被覆ビーズに結合させた後、同様にして十量体の長さの融合タンパク質鎖を構築し、遊離ビオチンを用いて溶出させた(図9B)。
構築された十量体を確認するため、エレクトロスプレーイオン化質量分析を行ったところ、観察された質量と予想された質量との間に良い相間が見られた(図10A)。質量分析は、同一性の良い指標を与えるが、より小さい分子量の副生物がより効率的にイオン化されるので、純度を評価するのはSDS−PAGEの方がより良い。アフィボディは、通常、単量体であり、自己会合はほとんど起こらないので、十量体が会合体を形成したかどうかを解析するために、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を行った。SECは、球状タンパク質の基準を用いて検量すると、十量体が会合していない場合に予想される非会合体の質量に一致する主要な1つのピークを示し、これは、この条件下において、十量体の自己会合が最小限であったことを表している(図10B)。
熱安定性を評価するために、十量体を様々な温度で短時間加熱したところ、70℃であっても大部分が可溶なままであった(図11A)。また、保存した際の十量体の完全性を調べたところ、1〜4日後に、分解および可溶性の減少はほとんど観察されなかった(図11B)。
AffiHER2を最初に鎖へ組み入れてから拡張していく際に、イソペプチド結合を直交的に形成させることによって、他のタンパク質ユニットを効率的に組み入れできることが示された(図12)。この場合、蛍光タンパク質の融合タンパク質鎖を生成した(図12A)。また、直列状に結合されたHER2に対するアフィボディを、両方のタグのN末端に接続させることによって、びん洗浄用ブラシ型融合タンパク質ポリマー(Bottle-brush fusion protein polymers)(スヌープタグ−スパイタグ−Affi−Affi−Affi)も作製した(図12B)。
要約すると、発明者は、ペプチドリンカー間における自発的なイソペプチド結合の形成によって融合タンパク質を合成する、モジュール式の手法を開発した。本発明の方法にしたがって生成された融合タンパク質は、不可逆的なアミド結合によって結合されているので、(プロテアーゼから保護されている場合は)ある期間にわたって安定であり、SDS−PAGEによって容易に解析することができる。開始ステップ、伸長ステップ、および放出ステップは、酸化還元状態と無関係に、穏やかな条件で行われるので、広範囲のタンパク質に適用可能であろう。鎖を単一方向にのみ伸長させると、生成物は分子的に限定され、機能の再現性や正確な調整にとって好都合である。また、上述したびん洗浄用ブラシ型ポリマーの構造に示されるように、サブユニットは、N末端からC末端の方向に接続される必要もない。モジュールの化学修飾も必要ではなく、時間がかかり制御が困難な生体共役反応を行わなくて済むので、本方法は、組み換えタンパク質を発現することができる研究室であればどこでも利用可能である。自発的なイソペプチド結合の形成は、元々の反応性が低い2つの官能基−アミンとカルボン酸またはカルボキサミド−の間における簡易な反応経路という点で有利であり、副生物はほとんど生じない。
本実施例では、「スパイ」ペプチドリンカー対および「スヌープ」ペプチドリンカー対を用いた融合タンパク質の合成について説明したが、本発明に係る直交したペプチドリンカー対は、どれでも本発明の方法に用い得、上述したように、直交したペプチドリンカー対を3つ以上用いることは、例えば分岐構造または環状構造などの複雑な構造を有する融合タンパク質を合成するのに特に有利であるということは、明らかであろう。
(実施例4−RrgAタンパク質に基づく改良同系ペプチドリンカー対の設計および合成)
RrgAタグ/RrgAキャッチャーのペプチドリンカー対と比較して、活性が向上したペプチドリンカー対を作製することを目的として、実施例1で説明したRrgAタグに様々な改変を施した。
発明者は、11位にアスパラギン酸からグリシンへの置換(D11G)を含む変異型RrgAタグペプチドリンカーを合成し、これをRrgAタグ2.0と命名した(下記表2参照)。RrgAタグ2.0(配列番号111)およびRrgAタグ(配列番号9)を、マルトース結合タンパク質(MBP)に結合した融合タンパク質として発現させ、RrgAキャッチャーに対する反応性を比較した。pH7.4で室温のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で6時間、反応を行った。各反応には、10μMの各タンパク質を用いた。
図14は、RrgAキャッチャーに対するRrgAタグ2.0の反応性が、RrgAタグと比較して、大きく向上していることを示している。
発明者は、RrgAタグ(配列番号9)と比較して、伸長、短縮、置換、およびこれらの組み合わせを含む様々な変異を有するペプチドリンカーを、さらに8つ合成した。変異型RrgAタグペプチドリンカーの配列を表2に示す。置換および伸長箇所には下線を付した。
変異型RrgAタグペプチドリンカーを、SUMO(ユビキチン様)タンパク質に結合した融合タンパク質として発現させ、RrgAキャッチャー(配列番号10)に対する融合タンパク質の反応性を調べた。pH7.4で室温のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で30分間、反応を行った。各反応には、10μMの各タンパク質を用いた。図15は、改変RrgAタグペプチドリンカーのうち、RrgAタグ2.0、RrgAタグ2.3、RrgAタグ2、およびRrgAタグ2.7の4つのみが、RrgAキャッチャーに対して観察可能な反応性を示したことを示す。しかしながら、上述したように、RrgAタグと比較して活性が向上したRrgAタグ2.0と比べて、RrgA2では、活性が有意に向上した。したがって、RrgAタグと比較すると、RrgAタグ2は、RrgAキャッチャーに対する反応性が有意に向上した。
図16は、RrgAタグ2(SUMOとの融合タンパク質の形態)とRrgAキャッチャーとの反応の速度を示し、RrgAタグ2が過剰であれば、反応速度が上昇することが示されている。しかしながら、全ての濃度のRrgAタグ2において、反応は、完了に近づいた。すなわち、RrgAキャッチャーを100%近く消費した。
理論に拘束されることを望むものではないが、RrgAタグ2において活性が有意に向上したのは、RrgAタグに対して修飾/変異を組み合わせた結果であると仮定される。この場合、天然RrgAの配列に基づいてC末端を伸長させたことによって、RrgAキャッチャーペプチドリンカーとの相互作用が好ましいものになったと考えられる。さらに、RrgAタグ2の中間部におけるDからGへの変異(すなわち、側鎖サイズの減少)によって、ペプチドのヘアピンターン(結晶構造において、完全長のドメインに存在しているように見える)が安定化されると仮定される。
(実施例5−改良RrgAタグ2ペプチドリンカーの交差反応性の研究)
スヌープタグ/スヌープキャッチャーペプチドリンカー対およびスパイタグ/スパイキャッチャーペプチドリンカー対に対する、RrgAタグ2/RrgAキャッチャーペプチドリンカー対の交差反応性を、上記実施例3で説明したのと同様にして調べた。RrgAタグ2ペプチドリンカーを、実施例4で説明したように、SUMOに結合した融合タンパク質として発現させた。
図17は、RrgAキャッチャーペプチドリンカーと、スパイタグペプチドリンカーまたはスヌープタグペプチドリンカーとの間に、有意な交差反応性は見られなかったことを示す。図18は、RrgAタグ2ペプチドリンカーと、スパイキャッチャーペプチドリンカーまたはスヌープキャッチャーペプチドリンカーとの間に、有意な交差反応性は見られなかったことを示す。したがって、各ペプチドリンカー対は、他のペプチドリンカー対に対して直交している。
(材料および方法)
<クローニング>
KODホットスタートDNAポリメラーゼ(ロシュ社(Roche))を用いて、全てのPCRおよび部位特異的変異の導入を行った。ギブソン・アセンブリ(Gibson Assembly)(登録商標)・マスターミックス(NEB社)を、製造元の説明書にしたがって用いた。コンストラクト(constructs)は、まず、化学的コンピテント大腸菌DH5α(ライフテクノロジー社(Life Technologies))にクローニングされた。
pET28aスパイタグ−MBP(アドジーン(Addgene)プラスミドID35050)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ−BirA、およびpDEST14−スパイキャッチャー(ジェンバンク(GenBank)JQ478411、アドジーンプラスミドID35044)については、B.Zakeriら、2012年(Proc Natl Acad Sci USA 109,E690〜697)に記載されている。
DNAワークス(DNAWorks)プライマーを用いて構築した、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)のアドヘシンRrgAの749〜860位の残基(タンパク質構造データバンクID 2WW8に基づいて番号を付けている)由来の構築物を、HindIIIおよびNdeIで切断してpET28aにサブクローニングすることによって、pET28aスヌープキャッチャーを生成した。スヌープタグとの反応を最適化するために、このコンストラクトにおいて、5’−GTGCCGCAGGATATTCCGGCTACATATGAATTTACCAACG(配列番号73)およびその逆方向の相補鎖を用いたクイックチェンジ(QuikChange)によりG842Tの変異を導入し、5’−GCTACATATGAATTTACCAACGGTAAACATTATATCACCAATGAACC(配列番号74)およびその逆方向の相補鎖を用いたクイックチェンジによりD848Gの変異を導入した。スヌープキャッチャーの長さは132残基(fMetを用いた切断により推定)であり、N末端にトロンビン切断部位とHis6タグとを有する。フォワードプライマー5’−ACATTATATCACCGCTGAACCGATACCGCCG(配列番号75)およびその逆方向の相補鎖を用いたクイックチェンジにより、pET28aスヌープキャッチャーのN854をAとすることによって、pET28aスヌープキャッチャーNAを作製した。
pET28aスヌープタグ−MBPを、二段階で生成した。まず、5’−GGTAGTGGTGAAAGTGGTAAAATCGAAGAAG(配列番号76)、5’−AAACTGGGCGATATTGAATTTATTAAAGTGAACAAAAACGATAAAGGTAGTGGTGAAAGTGGTAAAATCGAAGAAG(配列番号77)、5’−TCCCATATGGCTGCCGCGCG(配列番号78)、および5’−TTTATCGTTTTTGTTCACTTTAATAAATTCAATATCGCCCAGTTTTCCCATATGGCTGCCGCGCG(配列番号79)を用いた部位特異的リガーゼ非依存変異導入(SLIM)PCR(Chiuら,2004年)によって、RrgAのD4ドメインのN末端β−ストランドに基づいた反応性ペプチド(734〜748位の残基)を、pET28a−スパイタグ−MBPにクローニングした。ペプチドのC末端の3残基を、5’−GAATTTATTAAAGTGAACAAAGGTAGTGGTGAAAGTGGTAAAATCG(配列番号80)およびその逆方向の相補鎖を用いたクイックチェンジによって除去した。スヌープタグの活性のない形態であるpET28aスヌープタグKA−MBPを、5’−GGGCGATATTGAATTTATTGCAGTGAACAAAGGTAGTGG(配列番号81)およびその逆方向の相補鎖を用いたクイックチェンジによって、pET28aスヌープタグ−MBPにおいてK742をAとすることによって生成した。
MBPのC末端において、重複伸長PCRによってスパイキャッチャーをGly/Serスペーサーと融合することにより、pET28aMBP−スパイキャッチャーを生成した。フォワードプライマー5’−GTTCGGGCGGTAGTGGTGCCATGGTTGATACCTTATCAGGTTTATCAAGTGAGCAAG(配列番号82)およびリバースプライマー5’−TACTAAGCTTCTATTAAATATGAGCGTCACCTTTAGTTGCTTTGCCATTTACAG(配列番号83)を用いて、pDEST14−スパイキャッチャーからスパイキャッチャーを増幅した。フォワードプライマー5’−ATCTCATATGGGCAGCAGCCATCATCATCATCATCAC(配列番号84)およびリバースプライマー5’−GTATCAACCATGGCACCACTACCGCCCGAACCCGAGCTCGAATTAGTCTGCG(配列番号85)を用いて、pET28aスパイタグ−MBPからMBPを増幅した。得られた2つのPCR産物を混合し、再びスパイキャッチャーフォワードプライマーおよびMBPリバースプライマーを用いて増幅させ、NdeIおよびHindIIIを用いて切断し、pET21にサブクローニングした。アミロースに対するMBP−スパイキャッチャーの親和性を高めるために、まず、フォワードプライマー5’−GTCTTACGAGGAAGAGTTGGTGAAAGATCCACGTGTGGCCGCCACTATGGAAAACGC(配列番号86)およびその逆方向の相補鎖を用いたクイックチェンジによって、MBPにA312Vの変異およびI317Vの変異を導入した。172位、173位、175位、および176位の残基を、5’−GGGTTATGCGTTCAAGTATGGCGACATTAAAGACGTGGGCG(配列番号87)およびその逆方向の相補鎖を用いたクイックチェンジによって、MBPから欠失させた。次に、5’−CACCATCACCATCACGATTACGATAGTGCTACCCATATTAAATTCTC(配列番号88)およびその逆方向の相補鎖を用いたクイックチェンジによって、スパイキャッチャーのN末端を短くした。アミロース樹脂からの解離をさらに抑えるために、この変異型MBPを直列状に結合して、MBPx−スパイキャッチャー(N末端His6タグ−MBPmt−スペーサー−MBPmt−スペーサー−スパイキャッチャー)とした。フォワードプライマー5−GGCGGATCCGGAGGTGGATCCGGAAAGATAGAGGAGGGTAAACTGGTAATCTGG(配列番号89)、リバースプライマー5−CCTATAGTGAGTCGTATTAATTTCG(配列番号90)、フォワードプライマー5−CGAAATTAATACGACTCACTATAGG(配列番号91)、およびリバースプライマー5−TCCGGATCCACCTCCGGATCCGCCGGAACTAGAATTCGTCTGCGCGTCTTTCAGG(配列番号92)を用いたギブソン・アセンブリによって、MBPxを増幅し、MBPx−スパイキャッチャーと融合させた。
pET28aスパイキャッチャー−スヌープキャッチャーを段階的に作製した。初めに、スヌープキャッチャーのN末端において、スパイキャッチャーをGly/Serスペーサーと融合し、次いで、Gly/Serスペーサーをα−ヘリックス状スペーサー(配列:PANLKALEAQKQKEQRQAAEELANAKKLKEQLEK;配列番号93)と置換した。フォワードプライマー5’−CTTTAAGAAGGAGATATACATATGTCGTACTACCATCACCATC(配列番号94)およびリバースプライマー5’−CCGCTGCTTCCGGATCCAATATGAGCGTCACCTTTAGTTG(配列番号95)を用いて、pDEST14−スパイキャッチャーからスパイキャッチャーの部位を増幅した。フォワードプライマー5’−CATATTGGATCCGGAAGCAGCGGCCTGGTGCCGCGCGGATCCCATATGAAGCCGCTGC(配列番号96)およびリバースプライマー5’−GTGGTGGTGGTGGTGCTCGAGTTATTATTTCGGCGGTATCGGTTC(配列番号97)を用いて、pET28aスヌープキャッチャーからスヌープキャッチャーの部位をクローニングした。スパイキャッチャーおよびスヌープキャッチャーを融合させた後、フォワードプライマー5’−CTAAAGGTGACGCTCATATTGGATCCCCCGCCAACCTGAAGGCCCTGGAGGCCCAGAAGCAGAAGGAGCAGAGACAGGCCGCCGAGGAGC(配列番号98)およびリバースプライマー5’−CACGGCACCACGCAGCGGCTTCATATGGGATCCCTTCTCCAGCTGCTCCTTCAGCTTCTTGGCGTTGGCCAGCTCCTCGGCGGCCTGTC(配列番号99)を用いて、Gly/Serスペーサーを安定なα−ヘリックス状リンカーと置換した。フォワードプライマー5’−CACCATCACCATCACGATTACGATAGTGCTACCCATATTAAATTCTC(配列番号100)およびその逆方向の相補鎖を用いたクイックチェンジによって、スパイキャッチャーのN末端から35残基を欠失させた。
フォワードプライマー5’−GTGAACAAAGGCAGTGGTGAGTCGGGATCCGGAGCTAGCATGACTGGTGG(配列番号101)およびリバース5’CATCACGATGTGGGCACCGGAACCTTCCCCGGATCCCTCGAGGCCTTTCGG(配列番号102)を用いたギブソン・アセンブリによって、pET28a−Kタグ−AffiHer2−スパイタグから、pET28aスヌープタグ−Affi−スパイタグ(N末端His6タグ−スヌープタグ−スペーサー−HER2に対するアフィボディ−スペーサー−スパイタグ)を生成した。
5’−CTACCCAACCTAAACGGGGTACAAGTAAAGGCTTTCATAGACTCGCTAAGGGATGACCCAAGCCAAAGCGC(配列番号103)および5’−GTTGAATATCTCCCAAGTAGCCCACCCTAGCTCCTTGTTGAACTTGTTGTCTACTTCTTTGTTGAATTTGTTGTCCACGCC(配列番号104)を用いた逆PCRによって、pET28aスヌープタグ−AffiHer2−スパイタグから、TaqDNAポリメラーゼに対するアフィボディであるpET28aスヌープタグ−AffiTaq−スパイタグを生成した。
pET28aスヌープタグ−Affi−スパイタグのBamHIサイトにおいてmEGFPを置換し、スペーサーを伸長させるPCRを行うことによって、pET28aスヌープタグ−mEGFP−スパイタグをクローニングした。Gly/Serスペーサーによって結合されたAffiHER2の直列的な複製物をPCRで構築することによって、pET28aスヌープタグ−スパイタグ−Affi3を生成した。
5’−GATTACGACATCCCAACGACCGAAAACCTG(配列番号105)、5’−GCCTGAACGATATTTTTGAAGCGCAGAAAATTGAATGGCATGAAGGCGATTACGACATCCCAACGACCGAAAACCTG(配列番号106)、5’−GTGATGGTGATGGTGATGGTAGTACGACATATG(配列番号107)、および5’−TGCCATTCAATTTTCTGCGCTTCAAAAATATCGTTCAGGCCGCTGCCGTGATGGTGATGGTGATGGTAGTACGACATATG(配列番号108)を用いるSLIM PCRによって、pDEST14−スパイキャッチャーから、N末端を部位特異的にビオチン化するペプチドタグを含有するAviタグ−スパイキャッチャーをクローニングした。
変異体およびコンストラクトは全て、塩基配列決定法によって確認した。
<タンパク質の発現および精製>
タンパク質は、大腸菌BL21 DE3 RIPL(アジレント社(Agilent))で発現させた。pET28aベクターの場合は、0.5mg/mLのカナマイシンを含有するLB中、pET21の場合は、0.1mg/mLアンピシリンを含有するLB中において、37℃で一晩、コロニーを増殖させた。一晩培養した培養液を、適切な抗生物質とともに0.8%のグルコースを含有するLBで1:100に希釈し、OD600が0.5〜0.6になるまで、200rpm、37℃で増殖させ、0.4mMのIPTGを用いて200rpm、30℃で4時間、誘導をかけた。標準的な方法を用いてタンパク質をNi−NTA(キアゲン社(Qiagen))で精製し、TBS(pH8.0の50mM トリス(Tris)HClおよび50mM NaCl)を用いて三度透析を行った。
MBPx−スパイキャッチャーを精製する場合は、Ni−NTAから溶出させた後、4℃で透析を行うことによって緩衝液をpH8.0の20mM トリスHClに交換し、クォータナリハイパフォーマンス(quaternary high performance)(Q−HP)樹脂(GEヘルスケア社(GE Healthcare))にロードして、流速1mL/min、0〜0.15MのNaClのリニアグラジエントによって、カラム容量の10倍量(すなわち10mL)を溶出させた。流速1.5mL/min、0.15〜0.35MのNaClのリニアグラジエントでさらなる溶出ステップを行い、0.5mLずつ、画分を回収した。回収した画分を、TBSに対して透析し、ビバスピン(Vivaspin)遠心濃縮器5kDaカットオフ(GEヘルスケア社)を用いて濃縮し、−80℃で保存した。
4℃にて、pH5.8の20mM 2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)に対してスヌープタグ−Affi−スパイタグを透析し、スルホプロピルハイパフォーマンス(sulfopropyl high performance)(SP−HP)樹脂(GEヘルスケア社)にロードした。0.2〜0.5MのNaClのリニアグラジエントによってタンパク質を溶出させ、1mLずつ、画分を回収した。溶出させた画分を、ビバスピン遠心濃縮器5kDaカットオフ(GEヘルスケア社)を用いて1〜2mg/mLまで濃縮し、pH8.0のTBSに対して透析して、−80℃で保存した。
スパイキャッチャー−スヌープキャッチャーを精製する場合は、Ni−NTAから溶出させた後、4℃で透析を行うことによって緩衝液をpH8.0の20mM トリスHClに交換し、クォータナリハイパフォーマンス(Q−HP)樹脂にロードして、0.2〜0.5MのNaClのリニアグラジエントによって溶出させた。回収した画分を、TBSに対して透析し、ビバスピン遠心濃縮器5kDaカットオフを用いて濃縮し、−80℃で保存した。
5mM MgCl2、1mM ATP、380μM D−ビオチン、および7μM GST−BirAを含有するpH7.4のPBS中、25℃で1時間、精製したAviタグ−スパイキャッチャーをビオチン化した。1時間のインキュベーション後、さらなるGST−BirAを最終濃度が14μMとなるように加え、25℃でさらに1時間インキュベートし、反応を行った。反応混合液を、ハイキャップグルタチオンマトリクス(Hi-Cap Glutathione matrix)(キアゲン社)のスラリー50μLと、回転させながら30分間、25℃でインキュベートすることによって、GST−BirAを除去した。4,000gで1分間、樹脂をスピンダウンした。上清を回収し、4℃で一晩、PBSに対して透析した。ビオチン化の完了を確認するために、説明したように、ストレプトアビジンゲルシフトアッセイを行った。
<SDS−PAGE>
エクセルシュアロック(XCell SureLock)ゲルコンテナ(ライフテクノロジー社)を用い、示したパーセントのポリアクリルアミドゲル上、200VでSDS−PAGEを行った。インスタントブルークマシーステイン(Instant Blue Coomassie stain)(トリプルレッド社(Triple Red Ltd.))を用いてゲルを染色し、ゲルドックXRイメージャー(Gel Doc XR imager)およびイメージラボ3.0ソフトウェア(Image Lab 3.0 software)(バイオ・ラッド社(Bio-Rad))を用いて濃度を測定することによって、バンドの解析を行った。高Mw物質の解像度を向上させるためにトリス−酢酸を用いた図9A以外は全て、ランニングバッファーとしてトリス−グリシンを用いた。
<イソペプチド結合の再構成>
スヌープタグとスヌープキャッチャーとの間における共有結合の形成を評価するために、1.5M トリメチルアミンN−オキシド(TMAO;シグマ・アルドリッチ社(Sigma-Aldrich))を含有するpH8.0のTBSに、それぞれ10μMの最終濃度でタンパク質を混合した。TMAOは、化学シャペロンとして機能する。6×SDSローディングバッファー(pH6.8の0.23M トリス−HCl、24%v/v グリセロール、120μM ブロモフェノールブルー、0.23M SDS)を添加することによって、反応を止めた。次に、バイオ・ラッドC1000サーマルサイクラーを用いて、95℃で5分間、試料を加熱し、その後、16%ポリアクリルアミドゲルを用いてSDS−PAGEを行った。
直交性を調べるため、10μMのスヌープタグ−MBPと10μMのスヌープキャッチャーまたはスパイキャッチャーとを、pH8.0のTBS中、25℃で1時間インキュベートし、SDS−PAGEを行った。同様に、10μMのスパイタグ−MBPと10μMのスヌープキャッチャーまたはスパイキャッチャーとを、上述したようにインキュベートした。
他のペプチドリンカー対の場合は、10μMのRrgAタグ−MBPまたは10μMのPsCsタグ−MBPと、10μMのスヌープキャッチャー、スパイキャッチャー、スヌープタグ−MBP、またはスパイタグ−MBPとを、pH7.4のPBS中、25℃で24時間インキュベートし、SDS−PAGEを行った。
pH依存性を評価するために、pH4.0〜pH9.0におよぶ広いpH範囲において適切に緩衝能を発揮できるように選択されたコハク酸−リン酸−グリシン緩衝液(12.5M コハク酸、43.75mM NaH2PO4、43.75mM グリシン)に、各タンパク質を10μMで混合し、25℃で15分間、インキュベートした。
温度効果を決定するために、1.5M TMAOを含有するpH8.0のリン酸緩衝生理食塩水(PBS、10mM Na2HPO4、137mM NaCl、27mM KCl、1.8 mM KH2PO4)に、示した温度で15分間、10μMのスヌープタグ−MBPと10μMのスヌープキャッチャーを混合した。トリス緩衝液のpHは、実質的に、温度に応じて変化するので、TBSの代わりにPBSを用いた。
緩衝液の組成に対する感受性を調べるために、pH8.0のPBS、pH8.0のTBS、あるいは1% トリトンX−100(w/v)、1% トゥイーン20(v/v)、10mM エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、10mM MgCl2、または10mM DTTを含有するpH8.0のTBS、あるいは1M NaClを含有するpH8.0の50mMトリス中、25℃で15分間、タンパク質をインキュベートした。
スヌープタグ−MBPとスヌープキャッチャーとを、1.5M TMAOを含有するpH8.0のTBS中、示された濃度で反応させ、25℃で様々な時間インキュベートすることによって、反応速度を求めた。上述したように、SDSローディングバッファーで反応を止め、SDS−PAGEを行った。再構成の割合を、共有結合した付加物のバンド強度を100倍し、スヌープタグ−MBP、スヌープキャッチャー、および共有結合した付加物のバンド強度の合計で除したものとして算出した。
競合するタグとの可逆性を調べるために、10μMのスヌープキャッチャーを、15μMのスヌープタグ−MBPと共に6時間インキュベートした後、スヌープタグ−Affi−スパイタグを最終濃度130μMで16時間添加した。温度は全て25℃とした。アンモニアとの可逆性を調べるために、10μMのスヌープキャッチャーを、1.5MのTMAOを含有するpH8.0のTBS中で、10μMのスヌープタグ−MBPと共に2時間インキュベートした後、pH8.0のTBSまたはpH9.0のNH4Cl(最終濃度1M)を16時間添加した。温度は全て25℃とした。
<質量分析>
20μMのスヌープタグ−MBPと20μMのスヌープキャッチャーとを、pH7.4のPBS中、25℃で2時間インキュベートした。マイクロマスLCT飛行時間型エレクトロスプレーイオン化MS(マイクロマス社(Micromass))を用いて質量分析を行い、最大エントロピーアルゴリズムおよびV4.00.00ソフトウェア(ウォーターズ社(Waters))を用いて、m/zスペクトルを分子質量に変換した。ExPASy ProtParamを用いて、タンパク質のアミノ酸配列に基づき、N末端をfMetで切断し、形成されたイソペプチド結合の17.0Daを除いた分子質量を予測した。大腸菌においてHis−タグを付加したタンパク質を発現させると、非酵素的なグルコニル化が観察されることが多く、178Daが付加される。同様に、大腸菌で発現させたタンパク質は、いくらかのアセチル化を受ける場合もある。
10kDaカットオフのアミコンウルトラ(Amicon Ultra)0.5mL遠心フィルター(ミリポア社(Millipore))を用いて、十量体を15μMまで濃縮し、200mMの酢酸アンモニウムにバッファー置換した。250mMの酢酸アンモニウムに溶解させた10mg/mLのヨウ化セシウムを用いて校正した第一世代のシナプトハイディフィニションマススペクトロメトリー(Synapt High Definition Mass Spectrometry)四重極飛行時間型質量分析計(ウォーターズ社)を用いて、測定を行った。2.5μLずつ分取した試料を、自身で調製した金被覆キャピラリーを用いたナノエレクトロスプレーイオン化によって、送出した。機器のパラメータとしては、供給源圧力を6.0mbar、キャピラリー電圧を1.20kV、コーン圧力を150V、トラップエネルギーを30V、伝達エネルギーを10V、バイアス電圧を5V、トラップ圧力を0.0163mbarとした。マスリンクス(MassLynx)v4.1(ウォーターズ社)を用いて、質量スペクトルを平滑化してピーク中心を求め、質量を特定した。
<融合タンパク質の固相合成>
アミロース樹脂(NEB社)のスラリー40μLを1mLのポリ・プレップ(poly-prep)カラム(バイオ・ラッド社)に入れ、1mLのミリQ(MilliQ)水で洗浄し、pH8.0のTBS 1mLで平衡化した。最終体積が80μLのpH8.0のTBSに含まれる、320pmolの直列MBPx−スパイキャッチャーを樹脂に添加し、サーモミキサーコンフォート(ThermoMixer comfort)(エッペンドルフ社(Eppendorf))を用いて700rpmで振盪させながら、25℃で1時間インキュベートした。自然流下によって、未反応のタンパク質をカラムから除去し、1mLの洗浄バッファー(500mMのNaClを含有するpH8.0の50mMトリスHCl)を用いて樹脂を洗浄した。最終体積が80μLのpH8.0のTBSに含まれる、3nmolのスヌープタグ−Affi−スパイタグを樹脂に添加し、700rpmで振盪させながら、25℃で1時間インキュベートした。自然流下によって、未反応のスヌープタグ−Affi−スパイタグをカラムから除去し、1mLの洗浄バッファーを用いて樹脂を洗浄した。1.5MのTMAOを含有するpH8.0のTBSに含まれる、4nmolのスパイキャッチャー−スヌープキャッチャーを樹脂に添加し、700rpmで振盪させながら、25℃で2時間インキュベートした。自然流下によって、未反応のスパイキャッチャー−スヌープキャッチャーをカラムから除去し、1mLの洗浄バッファーを用いて樹脂を洗浄した。上述した条件にしたがって、スヌープタグ−Affi−スパイタグおよびスパイキャッチャー−スヌープキャッチャーを順次付加することによって、鎖を作製した。樹脂の洗浄後、50mMのD−マルトース(シグマ社(Sigma))を含有するpH8.0のTBS 40μLを添加し、700rpmで振盪させながら25℃で10分間インキュベートすることによって、鎖を溶出させた。カラムを、1.5mLのマイクロ遠心チューブに入れ、17,000gで10秒間遠心分離を行うことによって、鎖を回収した。スヌープタグ−mEGFP−スパイタグを含有する鎖、およびスヌープタグ−スパイタグ−Affi3を含有する鎖を、全く同様にして合成した。
各ステップ後SDS−PAGEのために、前述したように試料を溶出させ、6×SDSローディングバッファーを混合し、95℃で5分間加熱した後、SDS−PAGEを行った。
ビオチン化スパイキャッチャーを基にして構築する場合は、単量体アビジン樹脂(サーモ・サイエンティフィック社(Thermo Scientific)のスラリー40μLを1mLのポリ・プレップカラムに入れ、上記の通り洗浄し、平衡化した。最終体積が80μLのpH8.0のTBSに含まれる、4μMのビオチン化スパイキャッチャーを樹脂に添加し、700rpmで振盪させながら、25℃で1時間インキュベートした。自然流下によって、未反応のビオチン化スパイキャッチャーをカラムから除去し、1mLの洗浄バッファーを用いて樹脂を洗浄し、上述したように、スヌープタグ−Affi−スパイタグおよびスパイキャッチャー−スヌープキャッチャーを順次付加した。樹脂の洗浄後、1mMのD−ビオチンを含有するpH8.0のTBS 40μLを添加し、700rpmで振盪させながら25℃で4時間インキュベートすることによって、鎖を溶出させた。前述したように鎖を回収し、16%のトリス−グリシンゲルおよび8%のトリス−グリシンゲルを用いたSDS−PAGEによって解析を行った。
<ゲルろ過クロマトグラフィ>
スーパーデックス(Superdex)200GL 10/300カラム(ベッド体積は24mL)(GEヘルスケア社)を用いたゲルろ過クロマトグラフィによって、十量体鎖を解析した。ゲルろ過の基準(670kDaのチログロブリン、158kDaのIgG、44kDaのオボアルブミン、17kDaのミオグロビン、および1.35kDaのビタミンB12)(バイオ・ラッド社)を用いて、カラムを校正した。アクタ(AKTA)精製装置10(GEヘルスケア社)を用いて280nmの吸光度のグラフを測定しながら、500mMのNaClを含有するpH8.0の50mMトリスHClを0.4mL/minで流して試料を溶出させた。
<鎖の安定性試験>
温度安定性試験のために、最終体積が30μLのpH8.0の150mM 酢酸アンモニウムに含まれる、3μMの十量体鎖を、バイオ・ラッドC1000サーマルサイクラーを用いて25℃、37℃、50℃、60℃、または70℃で3分間インキュベートし、10℃になるまで1秒に3℃の割合で冷却した。その後、17,000g、4℃で30分間、試料をスピンダウンして凝集物を除去し、8%トリス−グリシンゲルを用い、クマシー染色を行ったSDS−PAGEによって、上清を解析した。時間依存的な安定性試験のために、0.1%のアジ化ナトリウム、1mMのフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、1mMのEDTA、およびEDTAフリー混合プロテアーゼ阻害剤(ロシュ社)を含有する最終体積が30μLのpH8.0の150mM 酢酸アンモニウムに含まれる、3μMの十量体鎖を、25℃で1日または4日インキュベートした。各時点において、17,000g、4℃で30分間、試料をスピンダウンし、8%トリス−グリシンゲルを用い、クマシー染色を行ったSDS−PAGEによって、上清を解析した。