本発明は、その開始および/または進行がミトコンドリア由来の活性酸素種(ROS)の産生および影響に関連する疾患の予防および治療のための化合物の使用に関する。
ミトコンドリアは現在広く認識されている「老化のフリーラジカル説」の中心にあり、従って、心血管疾患、神経変性疾患(パーキンソン病、アルツハイマー病など)、癌および糖尿病ならびに虚血由来の組織機能障害を含む、ほぼ全ての老化関連疾患の病因に関わっている。この説では、活性酸素種(ROS)によって引き起こされる損傷の蓄積がエネルギー供給および最適な細胞の機能にとって不可欠な数多くの細胞の機能、特にミトコンドリアの機能に影響を与えると述べられている。従って、最適な細胞の機能は細胞が自己修復するためのエネルギーを供給するのに非常に重要であるため、ミトコンドリアはROSの主要な標的であるように思われる。
興味深いことに、ミトコンドリアは活性酸素種(ROS)の主要源であり、そのため酸化的損傷によって特に標的化される。従って、ミトコンドリアのROS自己産生はミトコンドリアの機能障害や細胞死に寄与する酸化的損傷を引き起こす。
ROSの生理学的および病理学的役割に関して各種抗酸化剤が試験されてきた。抗酸化剤研究により、生理学的(細胞のシグナル伝達)または病理学的に異なる原因のROSに対して様々な選択性でROSを調節する数多くの天然および設計された分子が提供されてきた。しかし、ROSは数多くの疾患に関連し、かつ抗酸化剤は多くの前臨床的実験において有望であることを示しているが、抗酸化剤を用いた治療のほぼ全ての臨床試験は有効性の限界を示している(Orr et al., 2013. Free Radic. Biol. Med. 65:1047−59)。
また、いくつかの最近の研究から細胞におけるROSの過剰な減少は有害であることも実証されており、細胞の機能のためにはROS産生の適切なバランスが必要であるように思われる(Goodmanら, 2004 Dec 1. J. Natl. Cancer Inst. 96(23):1743−50; Bjelakovic Gら, 2007 Feb 28. JAMA. 297(8):842−57)。そのため、細胞質ROS産生による細胞のシグナル伝達に影響を与えないミトコンドリアによるROS産生の選択的阻害に対する関心が高まっている。
ミトコンドリアの酸化的損傷は広範囲のヒトの疾患の一因となるため、生体内でミトコンドリアによって蓄積されるように設計された抗酸化剤が開発されてきた。これらのミトコンドリア標的化抗酸化剤のうち最も広範囲に研究されてきたものはMitoQであり、これは親油性トリフェニルホスホニウムカチオンに共有結合的に結合された抗酸化キノン部分を含んでいる。MitoQは現在、ラットおよびマウスならびに2種類の第2相ヒト治験における様々な生体内研究で使用されている。高ROS産生の条件は現在では十分に明らかにされている。ROSはミトコンドリアにおける呼吸鎖の複数の部位において産生され得るように思われる(Quinlan CLら, 2013 May 23. Redox Biol. 1:304−12)。最大のスーパーオキシド/H2O2産生は電子輸送体(主にキノン)の大きな減少および高値のミトコンドリアの膜電位という条件下で生じる。逆説的には、これらの条件はミトコンドリアの酸化的リン酸化が低い場合(低い筋肉収縮)または低酸素条件(低酸素状態)で満たされる。
本出願人は、AOL(アネトールトリチオン)が古典的な非特異的抗酸化剤分子としては機能しないが、より興味深いことに大部分がミトコンドリア呼吸鎖の複合体Iの部位IQ、すなわち主要なミトコンドリアROS産生部位およびミトコンドリア機能障害に主に関与する部位において、酸素ラジカル(ROS)産生の直接的な選択的阻害剤として機能することを本明細書において実証する。また、本出願人はAOLがミトコンドリアの酸化的リン酸化に影響を与えないことも本明細書において実証し、これはどんな有害な副作用も存在せず、かつ長期的にフリー酸素ラジカルに関連する疾患を治療および/または予防する可能性を示唆している。従って、AOLはミトコンドリアが部位IQにおいてROSを産生するのを防止するヒトの使用が認可された(FDA市販承認の)最初の公知の薬物である。
本発明は、フリー酸素ラジカル関連疾患を治療するための、またはその治療で使用するための、活性酸素種(ROS)産生阻害剤に関する。
一実施形態では、前記阻害剤はアネトールトリチオン(AOL)である。
一実施形態では、前記阻害剤はミトコンドリアのROS産生を阻害する。
好ましい実施形態では、前記阻害剤は、ミトコンドリアの複合体Iの部位IQにおけるミトコンドリアROS産生を阻害する。
一実施形態では、前記フリー酸素ラジカル関連疾患は、加齢黄斑変性症、パーキンソン病、アルツハイマー病、虚血再灌流障害、肺動脈高血圧症、強皮症、アテローム性動脈硬化症、心不全、心筋梗塞、関節炎、肺毒性、心肺疾患、炎症性疾患、癌、転移、アントラサイクリンの心毒性、原因を問わない心不全、虚血、心臓発作、脳卒中、血栓症/塞栓症、喘息、アレルギー/炎症状態、気管支喘息、関節リウマチ、炎症性腸疾患、ハンチントン病、認知障害、早老症、早老症候群、てんかん性認知症、初老期認知症、外傷後認知症、老人性認知症、血管性認知症、HIV−1関連認知症、脳卒中後認知症、ダウン症候群、運動ニューロン疾患、アミロイドーシス、2型糖尿病関連アミロイド、クロイツフェルト・ヤコブ病、壊死性細胞死、ゲルストマン・ストロイスラー症候群、クールー病・動物スクレイピー、長期血液透析関連アミロイド、老人性心臓アミロイドおよび家族性アミロイドポリニューロパチー、脳疾患、内臓神経障害(neurospanchnic disorder)、記憶喪失、アルミニウム中毒、生体細胞中の鉄レベルの減少、哺乳類における遊離遷移金属イオンレベルの減少、体または特定の体区画に毒性量の金属を有する患者、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、白内障、糖尿病、癌、肝疾患、皮膚の老化、移植、アミノグリコシドの耳毒性副作用、腫瘍および抗腫瘍薬または免疫抑制薬および化学物質の毒性、先天性免疫応答およびフリードライヒ運動失調症を含む群から選択される。
一実施形態では、前記阻害剤は、転移を予防するためのものであるか、または転移の予防に使用するためのものである。
定義
本発明では、以下の用語は以下の意味を有する。
「治療する」または「治療」または「軽減」という用語は、治療処置および予防処置の両方を指し、その目的は、標的とされる病的状態または疾患を予防するか減速させることである。治療を必要とするものとしては、既に疾患に罹患しているものならびに疾患に罹患しやすいものまたは疾患を予防すべきものが挙げられる。対象または哺乳類は、本発明に係る治療を受けた後に当該対象または哺乳類が、ROS産生の減少および/または特定の疾患または病気に関連する1つ以上の症状のある程度の緩和、罹患率および死亡率の低下ならびに生活の質の問題の改善のうちの1つ以上の観察可能および/または測定可能な減少または非存在を示す場合に、疾患または障害(affection)または病気に対する「治療が成功」となる。治療の成功および疾患の改善を評価するための上記パラメータは、医師が精通している通常の手順によって容易に測定可能である。
「治療的有効量」とは、標的に対して有意なマイナスまたは有害な副作用を引き起こすことなく、(1)フリー酸素ラジカルに関連する疾患、障害または病気の発症を遅らせるか予防する、(2)フリー酸素ラジカルに関連する疾患、障害または病気の1つ以上の症状の進行、増悪または悪化を減速または停止する、(3)フリー酸素ラジカルに関連する疾患、障害または病気の症状の寛解をもたらす、(4)フリー酸素ラジカルに関連する疾患、障害または病気の重症度または発生率を低下させる、または(5)フリー酸素ラジカルに関連する疾患、障害または病気を治癒させることを目的とした薬剤のレベルまたは量を意味する。予防的または防止的な処置のために、フリー酸素ラジカルに関連する疾患、障害または病気の発症前に治療的有効量を投与してもよい。代わりまたは追加として、治療処置のためにフリー酸素ラジカルに関連する疾患、障害または病気の開始後に治療的有効量を投与してもよい。
「薬学的に許容される賦形剤」とは、動物、好ましくはヒトに投与した場合に副作用、アレルギー反応または他の有害反応を生じさせない賦形剤を指す。これは、ありとあらゆる溶媒、分散媒、被覆剤、抗菌薬および抗真菌薬、等張剤および吸収遅延剤などを含む。ヒトへの投与のために、製剤は例えばFDA局またはEMAなどの規制当局によって要求される無菌性、発熱性、一般的な安全性および純度基準を満たすものでなければならない。
「対象」とはヒトを含む動物を指す。本発明の意味において、対象は患者、すなわち医学的注意を受けている人、医学的治療の途中または治療したばかりの人あるいは疾患の発現について監視されている人であってもよい。一実施形態では、当該対象は男性である。別の実施形態では、当該対象は女性である。
数字の前の「約」は前記数字の値の±10%を意味する。
本発明の目的の1つは、有効量のミトコンドリア活性酸素種(ROS)産生阻害剤の投与を含む、それを必要とする対象においてフリー酸素ラジカル関連疾患を治療するための方法である。
本発明の別の目的は、フリー酸素ラジカル関連疾患を治療するための、またはその治療で使用するための、活性酸素種(ROS)産生阻害剤であって、ミトコンドリアのROS産生を阻害する活性酸素種(ROS)産生阻害剤である。
一実施形態では、本発明の阻害剤は生理学的(細胞質)ROS産生に影響を与えない。一実施形態では、生理学的(細胞質)ROS産生は本発明の阻害剤の存在下で5%を超えて調節(増減)されない。
本明細書で使用される「影響を与えない」という用語は、ROS産生レベルを決定するための当業者に公知の技術によって測定される本発明の阻害剤の効果の欠如を指す。
別の実施形態では、本発明の阻害剤は、細胞質のROS産生の阻害剤ではない。
細胞質のROS産生は、細胞全体のROS産生とミトコンドリアのROS産生との差によって決定される。
別の実施形態では、本発明の阻害剤はROS産生の上流で作用する。
細胞質のROS産生を検出するための試験は最先端技術において当業者に周知である。
そのような試験の例としては、以下のものが挙げられる:
全体的な細胞のROS産生の測定:5−(および−6)−クロロメチル−2’,7’−ジクロロジヒドロフルオレセインジアセテート、アセチルエステル(CM−H2DCFDA)および/またはH2DCFDAは、細胞における細胞質の活性酸素種(ROS)の指示薬である。CM−H2DCFDAは受動的に細胞の中に拡散し、そこではその酢酸基が細胞内エステラーゼによって切断され、そのチオール反応性クロロメチル基は細胞内のグルタチオンおよび他のチオールと反応する。その後の酸化により細胞内部に捕捉された蛍光付加物が生じ、このようにして長期研究を容易にする(Zhang, X.ら, 2008. J. Cardiovasc. Pharmacol. 51(5):443−449; Sarvazyan, N., 1996. Am. J. Physiol. 271(5 Pt 2):H2079−2085)。
細胞におけるミトコンドリアのROS産生の測定:インタクトな細胞において細胞内ROSを測定してその由来をミトコンドリアであると決定するのはかなり難しい。近年、ミトコンドリアの機能にとって非常に重要なプロトン駆動力が、「送達」複合体として親油性トリフェニルホスホニウムカチオンTPP(+)を用いて様々な化合物を強く負に帯電したミトコンドリアマトリックスに標的化するために利用されている。これらのうち、ミトヒドロエチジン(mito−hydroethidine)またはミトジヒドロエチジウム(mito−dihydroethidium)とも呼ばれているミトソックスレッド(MitoSOX Red)は一般にミトコンドリアのROSの推定のために使用されている。ミトソックス(MitoSOX)のTPP(+)部分により、ミトコンドリアマトリックスにおけるROS感受性ヒドロエチジンの多くの蓄積が可能になり、スーパーオキシドによるヒドロエチジンの酸化により特異的な蛍光酸化産物、すなわち2−ヒドロキシエチジウムが生じる(Zhao, H.ら, 2005. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 102(16):5727−5732; Polster, B. M.ら, 2014. Methods Enzymol. 547:225−250)。
一実施形態では、本発明の阻害剤は、ミトコンドリアの活性酸素種産生の選択的阻害剤である。
本明細書で使用される「選択的阻害剤」という用語は、残りの部位からのROS産生およびミトコンドリアの膜電位(ΔΨm)および酸化的リン酸化に対する影響は最小であるが、複合体Iの部位IQにおけるROS産生を阻害することができる化合物も指す。例えば、ロテノン(すなわち、部位IQにおけるROS産生が阻害される場合)およびアンチマイシンA(すなわち、ROSが主に複合体IIIによって産生される場合)の存在下での単離したミトコンドリアにおけるROS産生の阻害に対する当該化合物のEC50は、ロテノンの非存在下よりも約5、6、7、8、9、10、15、20倍高い。
一実施形態では、本明細書で使用される「選択的阻害剤」という用語は、複合体Iの部位IQにおけるミトコンドリアのROS産生を約10μMのEC50で阻害することができる化合物を指す。別の実施形態では、前記化合物は、NAD(P)HオキシダーゼROS産生の生体外アッセイにおいて細胞質ROS産生を有意に阻害しない。
別の実施形態では、本発明の阻害剤または選択的阻害剤は、ミトコンドリア呼吸鎖の複合体Iの部位IQにおけるROS産生の選択的阻害剤である。
本明細書で使用される「選択的阻害剤」という用語は、残りの部位からのROS産生およびミトコンドリアの膜電位(ΔΨm)および酸化的リン酸化に対する影響は最小であるが、複合体Iの部位IQにおけるROS産生を阻害することができる化合物も指す。例えば、ロテノン(すなわち部位IQにおけるROS産生が阻害される場合)の存在下での単離したミトコンドリアにおけるROS産生の阻害に対する当該化合物のEC50は、アンチマイシンA(すなわち、ROSが主に複合体IIIによって産生される場合)の存在下よりも約5、6、7、8、9、10、15、20倍高い。
ロテノンおよび神経毒MPP+による複合体I活性の阻害は、齧歯類およびヒトの両方におけるパーキンソニズムに関連づけられており、これは複合体Iの機能障害、ROS産生および神経変性間の関連を示唆している。従って、複合体IからのROS産生を阻害することができる化合物は治療法において有用であり得る。
各種組織から単離したミトコンドリアにおけるミトコンドリア呼吸鎖の複合体Iの部位IQで産生されるROSを特異的に検出するための試験は当業者に周知である。
エネルギー産生を変えることもなく単離したミトコンドリアの規定部位におけるROS産生阻害剤を同定するためのハイスループットアッセイについても説明する。これらのアッセイはROS産生の部位特異的調節剤を同定すると共に、ミトコンドリアの生体エネルギー産生の広範囲作用型抗酸化剤および各種阻害剤のような特異性の低いエフェクターも明らかにする。従って、内部ミトコンドリア膜を横切る正常なエネルギー共役される電子およびプロトン流束を変えることなく、電子伝達鎖内の特定の部位における酸素への望ましくない電子漏出(ROS産生)を区別する阻害剤を同定することができる。アッセイは、色素Amplex UltraRed(Invitrogen社)を用いるミトコンドリアROS産生の標準的な蛍光系アッセイおよび電位差測定色素TMRM(Invitrogen社)を用いるΔΨmをハイスループットマイクロプレートフォーマットに適合させる。新しく単離した骨格筋ミトコンドリアにおける機能的調節のロバスト検出のために5種類のROSおよび1種類のΔΨmアッセイのコアセットが提供される。一般的なアッセイ混合物に添加される基質および阻害剤を変えることにより5つの主要なROS産生部位(部位IQ、IF、IIIQO、SDHおよびmGPDH)を別々に標的化することができる。ΔΨmを監視するためのカウンタースクリーニングを並行して実行し、正常なミトコンドリアエネルギー産生の一般的な阻害剤または脱共役剤であると思われる化合物を除去してもよい。
別の実施形態では、全てのアッセイに対して阻害剤を2.5μMにて2連で試験する。エンドポイント蛍光をDMSOに対して正規化し、公知のミトコンドリアの阻害剤対照ウェルを各プレートに含めた。各ROSアッセイにおける陽性ヒット化合物を、好ましくは15%以上、より好ましくは18%以上、さらにより好ましくは20%以上の減少閾値をそのアッセイに適用することにより最初に濾過してもよい。TMRMを用いるカウンタースクリーニングにおいてΔΨmを変えた化合物の除去も行いながら、各ROSアッセイをそれ以外に対するカウンタースクリーニングとして用いてもよい。従って、濾過したヒット化合物をその後に評価して、他のROSアッセイを例えば20%または18%または15%を超えて変えるか、ΔΨmを好ましくは10%またはより好ましくは5%またはさらにより好ましくは4%を超えて変えたものを除去してもよい。
別の実施形態では、単一のROS産生部位からのROS産生の選択的阻害剤である阻害剤は、ROS産生部位IQ、IF、IIIQO、SDHおよびmGPDHのうちの1つからのROS産生を18%超で減少させるが、残りのROS産生部位からのROS産生に対する影響は10%未満である。
呼吸鎖の複合体Iは2つの別々の部位(ユビキノン結合部位およびフラビンモノヌクレオチド部位)からROSを産生することができる。
複合体I(IQ)のユビキノン結合部位
IQからのROS産生を特異的に分析するために、電子を呼吸鎖に供給するための基質として5mMのコハク酸を使用することができる。IQROS産生はミトコンドリアの内膜を横切るプロトン駆動力(PMF)の変化に対して非常に感受性が高い(PMF=ΔΨm+ΔpH)。故に、IQROSアッセイにおいてヒット化合物の選択性を評価する際にΔΨmアッセイでは保守的な閾値を利用してもよい。
部位IQからの電子漏出は、強力なPMFの存在下において減少したQプールからCIによるマトリックスNAD+への逆伝達中に十分に明らかにされている。実験によれば、IQROS産生に有利に働く条件は生理学からあまりにもかけ離れており、そのため、高率のためのその能力にもかかわらず多くの者がその関連性を却下している。但し、低濃度のグルタミン酸(CIにより電子を順方向に供給する)およびコハク酸(電子を逆方向に供給する)の両方を供給した場合であっても、呼吸しているミトコンドリアは有意なレベルのロテノン感受性ROS(すなわちIQROS)をなお産生する。さらに、比較分析から、部位IQからの最大のROS産生(但し、部位IFからは産生されない)と多様な脊椎動物種全体における最大寿命との反比例関係が分かっている(Lambert, A.ら, 2007. Aging Cell. 6(5):607−18; Lambert, A.ら, 2010. Aging Cell. 9(1):78−91)。従って、IQROSの選択的調節剤により、正常および病理学的プロセスにおけるミトコンドリアROS産生の推定上の役割を探るための独特な機会が得られる。
複合体I(IF)のフラビン結合部位
IFからのROS産生を特異的に分析するために、呼吸鎖に電子を与えるための基質溶液は5mMのグルタミン酸、5mMのリンゴ酸および4μMのロテノンを含んでいてもよい。部位IFは、ミトコンドリアマトリックス内のNADHプールの減少状態に比例する割合でROSを産生する(Treberg, J.ら, 2011. J. Biol. Chem. 286(36):31361−72)。殺虫剤ロテノンによる部位IQの遮断は、フラビンの酸化を防止することによって部位IFからのROS産生を増加させることができる。複合体Iのフラビン結合部位(部位IF)からの最大のROS産生は部位IQおよびIIIQOと比較して比較的低く、これは、このアッセイにおけるより高い可変性およびその後の最初のスクリーニングに立ち戻るヒット化合物のより高い偽陽性率に繋がり得る。
別の実施形態では、本発明の阻害剤は直接にはミトコンドリアでの酸化的リン酸化に有意に影響を与えず、酸化的リン酸化は10、9、8、7、6、5%未満で調節されることが好ましい。
フリー酸素ラジカルに関連する疾患は、酸化ストレス不均衡およびミトコンドリア機能障害に関連している。特に、ミトコンドリア機能障害に関連する疾患はミトコンドリアのROS産生によって誘発される。
フリー酸素ラジカルに関連する疾患としては、限定されるものではないが、老化疾患、自己免疫疾患、心血管疾患、早老症候群、パーキンソン症候群、神経疾患、虚血再灌流障害、感染性疾患、筋肉疾患、肺、腎臓および肝疾患が挙げられる。
老化疾患としては、限定されるものではないが、加齢黄斑変性症(AMD)、皮膚の老化、皮膚のUV損傷、薄毛(thinning)、たるみ、しわ、年齢によるしみの出現、血管損傷/乾燥部位、脂漏性角化症、日光性角化症、キンドラー症候群、ボーエン病、皮膚癌、関節炎、強直性脊椎炎、炎症性多発性関節症、膝関節炎、流行性多発性関節炎、乾癬性関節炎、白内障、難聴、癌、転移、転移プロセス阻止、肝疾患、移植、腫瘍および抗腫瘍薬または免疫抑制薬および化学物質の毒性、骨粗鬆症、多形皮膚萎縮症、肢端早老症、遺伝性硬化性多形皮膚萎縮症、先天性角化異常症、色素性乾皮症、ブルーム症候群、ファンコニー貧血、コケイン症候群および公害病が挙げられる。
自己免疫疾患としては、限定されるものではないが、多発性硬化症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、1型糖尿病、クローン病、重症筋無力症、グレーヴス病、強皮症、シェーグレン症候群、潰瘍性大腸炎、原発性胆汁性肝硬変、自己免疫性肝炎、橋本甲状腺炎、強直性脊椎炎、乾癬が挙げられる。自己免疫疾患は、自己免疫性溶血性貧血、悪性貧血および自己免疫性血小板減少症などの血液疾患に関連する自己免疫疾患であってもよい。自己免疫疾患は一時的な動脈炎、抗リン脂質抗体症候群、ウェゲナー肉芽腫症などの脈管炎およびベーチェット病であってもよい。他の自己免疫疾患としては、多発性筋炎、皮膚筋炎、強直性脊椎炎などの脊椎関節症、抗リン脂質抗体症候群および多発性筋炎が挙げられる。
心血管疾患としては、限定されるものではないが、高血圧症、抗癌剤の心毒性、アントラサイクリンの心毒性、キノロンの心毒性、原因を問わない心不全、虚血、心臓発作、脳卒中、アテローム性動脈硬化症、心細動、高血圧症、血栓症/塞栓症、気管支喘息などのアレルギー/炎症状態、関節リウマチ、炎症性腸疾患、2型糖尿病、糖尿病と難聴(DAD)またはBallinger−Wallace症候群、炎症性疾患、リウマチ熱、肺動脈高血圧症、先天性免疫応答、心肺疾患、例えば、慢性閉塞性肺疾患、肺塞栓症、心膜炎、大動脈縮窄症、ファロー四徴症、大動脈弁狭窄症、僧帽弁狭窄症、大動脈弁逆流、僧帽弁逆流、塵肺症、気管支拡張症、心筋症、内皮のニトログリセリン耐性が挙げられる。
早老症候群としては、限定されるものではないが、早老症、ブルーム症候群、コケイン症候群、ド・ブラシー症候群(De Barsy syndrome)、先天性角化異常症、拘束性皮膚障害、ロスムンド・トムソン症候群、硫黄欠乏性毛髪発育異常症、ウェルナー症候群、Wiedemann−Rautenstrauch症候群、色素性乾皮症が挙げられる。
パーキンソン症候群としては、限定されるものではないが、パーキンソン病(PD)、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症、大脳皮質基底核変性症またはレヴィー小体認知症、毒素誘発性パーキンソニズム、および常染色体性劣性PARK6関連パーキンソニズムまたは常染色体性劣性PINK1関連パーキンソニズムなどのPDの早期発症型変形が挙げられる。
神経疾患としては、限定されるものではないが、認知症、アルツハイマー病、パーキンソン病および老化、ハンチントン病、フリードライヒ運動失調症、ウィルソン病、リー症候群、キーンズ・セイアー症候群、レーベル遺伝性視神経症、認知障害、気分障害、運動障害、遅発性ジスキネジー、脳損傷、アポトーシス、認知症、てんかん、てんかん性認知症、初老期認知症、外傷後認知症、老人性認知症、血管性認知症、HIV−1関連認知症、脳卒中後認知症、統合失調症、ダウン症候群、運動ニューロン疾患、アミロイドーシス、2型糖尿病関連アミロイド、クロイツフェルト・ヤコブ病、壊死性細胞死、ゲルストマン・ストロイスラー症候群、クールー病・動物スクレイピー、長期血液透析関連アミロイド、老人性心臓アミロイドおよび家族性アミロイドポリニューロパチー、脳疾患、内臓神経障害、記憶喪失、アルミニウム中毒、生体細胞中の鉄レベルの減少、哺乳類における遊離遷移金属イオンレベルの減少、体または特定の体区画に毒性量の金属を有する患者、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、視覚性運動盲(akinetopsia)、アルコール関連認知症、主要な加齢性タウオパチー、健忘失語症、疾病失認、失行症、発語失行、聴覚型言語失認(auditory verbal agnosia)、前頭側頭型認知症、前頭側頭葉変性症、ロゴペニック型進行性失語(logopenic progressive aphasia)、神経原線維変化、声失認(phonagnosia)、ピック病、主要な進行性失語症、進行性非流暢性失語症、意味性認知症、ステロイド認知症症候群、視空間失認(visuospatial dysgnosia)、アミノグリコシドの耳毒性副作用、コカイン毒性が挙げられる。
虚血再灌流障害としては、限定されるものではないが、脳卒中、脳虚血、脳幹脳卒中症候群(brainstem stroke syndrome)、頸動脈内膜剥離、小脳卒中症候群(cerebellar stroke syndrome)、皮質性色覚異常、脳出血、脳梗塞、脳静脈洞血栓症、実質内出血、頭蓋内出血、ラクナ梗塞、延髄外側症候群、橋脳外側症候群(lateral pontine syndrome)、部分的前方循環梗塞(partial anterior circulation infarct)、後方循環梗塞(posterior circulation infarct)、無症候性脳卒中(silent stroke)、脳卒中の組み合わせ(troke Association)、脳卒中地帯(stroke belt)、脳卒中回復、一過性脳虚血発作、流域梗塞(Watershed stroke)、ウェーバー症候群、肥満症、移植のための臓器保存、虚血、再灌流障害が挙げられる。
感染性疾患としては、限定されるものではないが、C型肝炎、敗血症、感染性ミオパチー、敗血症性ショックが挙げられる。
筋肉疾患としては、限定されるものではないが、ミオパチー、ミトコンドリアのミオパチー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー1型、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー2型、リアノジン受容体1(RYR1)関連ミオパチー、セレンタンパク質1(SEPN1)関連ミオパチー、キーンズ・セイアー症候群、心筋症、運動障害、不活動による筋萎縮、骨格筋火傷、デュピュイトラン拘縮が挙げられる。
肺、腎臓および肝疾患としては、限定されるものではないが、嚢胞性線維症、喘息、公害病、心肺疾患、肺動脈高血圧症、慢性閉塞性肺疾患、肺塞栓症、塵肺症、気管支拡張症、気管支喘息、人工呼吸器誘発性横隔膜機能不全、肺癌、アルコール性脂肪肝疾患、脂肪肝疾患、糖尿病、生体外腎臓保存、C型肝炎における肺炎、1型糖尿病における腎臓損傷、肝硬変が挙げられる。
本発明において特に治療される疾患は、老化疾患、AMD、皮膚老化、心血管疾患(例えば、アントラサイクリンの心毒性など)、早老症/早老症候群、パーキンソン病、アルツハイマー病、フリードライヒ運動失調症、虚血再灌流、心肺疾患、喘息、癌、転移、公害病である。
一実施形態では、本発明において特に予防される疾患は転移である。実際には、ROS産生は腫瘍成長および転移の機序、すなわち腫瘍細胞の遊走、浸潤、コロニー形成能(clonogenicity)、転移生着に関与しており、自然発生転移は、ROS産生およびTCAサイクル活性異常に関連するミトコンドリア表現型の自然淘汰、すなわち「転移性ミトコンドリアスイッチ(metastatic mitochondrial switch)」と命名されている機序によって促進される(Porporatoら, 2014. Cell Reports. 8:754−766)。ROS過剰産生も血管新生を促進し、ROS産生阻害剤は交換的に抗血管新生製品でもある。
一実施形態では、本発明の阻害剤または選択的阻害剤は、以下の式:
のうちの1つのもの、ならびにそれらの酸化物、誘導体および代謝産物であり、式中、
Zは、S、O、NR、R
2またはCR
2であり、
Rは、−H、−OH、C
1〜C
5アルキル、C
1〜C
5アルコキシまたはC
1〜C
5アルコキシカルボニルであり、
R2は、それが結合する原子と一緒にスピロ環を含み、
R1、R2、R3およびR4は独立して、−H、−アルキル、−アリール、−アルキルアリール、複素環、ハロゲン、−アルコキシカルボニル(C
1〜C
5)または−カルボキシルであり、
いずれかのアルキルは、C
1〜C
10の直鎖または分岐鎖である飽和部分または不飽和部分であり、これは任意選択で、1つ、2つまたは3つ以上の独立して選択されるエーテル(−O−)、ハロゲン、アルキル(C
1〜C
5)、−OH、アルコキシ(C
1〜C
5)、アルコキシカルボニル、(C
1〜C
5)、カルボキシル、アミド、アルキルアミド(C
1〜C
5)、アミノ、モノアルキルアミノもしくはジアルキルアミノ(C
1〜C
5)、アルキルカルバモイル(C
1〜C
5)、チオール、アルキルチオ(C
1〜C
5)またはベンゼノイドアリールによって置換されていてもよく、
R1、R2、R3およびR4の−アリールおよび−アルキルアリール置換基はベンゼノイド基(C
6〜C
14)を含み、このベンゼノイド基は任意選択で、1つ、2つまたは3つ以上の独立して選択される−SO
3H、ハロゲン、アルキル(C
1〜C
5)、−OH、アルコキシ(C
1〜C
5)、アルコキシカルボニル、(C
1〜C
5)、カルボキシル、アミド、アルキルアミド(C
1〜C
5)、アミノ、モノアルキルアミノもしくはジアルキルアミノ(C
1〜C
5)、アルキルカルバモイル(C
1〜C
5)、チオール、アルキルチオ(C
1〜C
5)で置換されていてもよく、
複素環は、N、OおよびSから選択される1〜3つの環原子を含み且つ残りの環原子が炭素である、飽和もしくは不飽和の、任意選択で置換されていてもよい任意の4、5もしくは6員の複素環として定められ、前記アリール上または前記複素環上の前記置換基は、ハロゲン、アルキル(C
1〜C
5)、ヒドロキシル、アルコキシ(C
1〜C
5)、アルコキシカルボニル(C
1〜C
5)、カルボキシル、アミド、アルキルアミド(C
1〜C
5)、アミノ、モノアルキルアミノおよびジアルキルアミノ(C
1〜C
5)、アルキルカルバモイル(C
1〜C
5)、チオール、アルキルチオ(C
1〜C
5)、ベンゼノイド、アリール、シアノ、ニトロ、ハロアルキル(C
1〜C
5)、アルキルスルホニル(C
1〜C
5)またはスルホネートからなる群から選択されるか、あるいは
R1およびR2のうちの1つおよびR3およびR4のうちの1つはそれらが結合する炭素原子と一緒に飽和もしくは不飽和の複素環または炭素環である縮合された二環式もしくは三環式の化合物(その環は全て任意選択で置換されていてもよい5、6、7もしくは8員の環であり、置換基は任意選択でアルキル、アルコキシ、−SO
3H、−OHおよびハロゲンから選択されてもよい)を含むか、あるいは
R1とR2は一緒に、またはR3とR4は一緒に、独立して、オキシム(=NOH)である。
1,2−ジチオランクラス阻害剤の例としては、限定されるものではないが、リポアミド(1,2−ジチオラン)、1,2−ジチオラン−4−カルボン酸、4−オクチル−1,3−ジチオラン−2−チオン、4−デシル−1,3−ジチオラン−2−チオン、4−ドデシル−1,3−ジチオラン−2−チオン、4−テトラデシル−1,3−ジチオラン−2−チオンおよび1,3−ジチオラン−2−チオンが挙げられる。
1,2−ジチオールクラス阻害剤の例としては、限定されるものではないが、4−メチル−5−(2−ピラジニル)−3−ジチオールチオン(オルチプラズ)、5−(4−メトキシフェニル)−3H−1,2−ジチオール−3−チオン(アネトールトリチオンまたはAOL)、アネトールジチオールチオン(ADT)、ADO、1,2−ジチオール−3−チオン、5−(4−フェニル−1,3−ブタジエニル)−1,2−ジチオール−3−チオン、5−4(4−クロロフェニル)−1,3−ブタジエニル−1,2−ジチオール−3−チオン、5−{4−(4−メトキシフェニル)−1,3−ブタジエニル}−1,2−ジチオール−3−チオン、5−{4−(p−トルイル)−1,3−ブタジエニル}−1,2−ジチオール−3−チオン、5−{4−(o−クロロフェニル)−1,3−ブタジエニル}−1,2−ジチオール−3−チオンおよび5−{4−(m−メチルフェニル)−1,3−ブタジエニル}−1,2−ジチオール−3−チオンが挙げられる。
1,3−ジチオールクラス阻害剤の例としては、限定されるものではないが、1,3−ジチオール−2−イリデンマロン酸ジイソプロピル(マロチラート)、1,3−ジチオロ(4.5−d)−1,3−ジチオロ−2−チオン、1,3−ジチオロ(4.5−d)−1,3−ジチオール−2−チオン、5−クロロ−1,3−ジチオロ(4.5−d)−1,3−ジチオール−2−チオン、および5−シアノ−13−ジチイノ(4.5−d)−1,3−ジチオール−2−チオンが挙げられる。
1,3−ジチオランクラス阻害剤の例としては、限定されるものではないが、5−(1−カルボニル−L−アミノ酸)−2,2−ジメチル−[1,3]ジチオラン−4−カルボン酸、ヘキサヒドロ−1−3−ベンゾジチオール−2−チオン、4−オクチル−1,3−ジチオラン−2−チオン、4−デシル−1,3−ジチオラン−2−チオン、4−ドデシル−1,3−ジチオラン−2−チオンが挙げられる。
本発明の阻害剤または選択的阻害剤は、5−(4−メトキシフェニル)−3H−1,2−ジチオール−3−チオン(アネトールトリチオンまたはAOL)、アネトールジチオールチオン(ADT)、ADO、1,2−ジチオール−3−チオン、1,2−ジチオラン、1,3−ジチオール−2−チオン、4−メチル−5−(2−ピラジニル)−3−ジチオールチオン(オルチプラズ)、および1,3−ジチオール−2−イリデンマロン酸ジイソプロピル(マロチラート)またはそれらの誘導体または類似体を含む群から選択されることが好ましい。
本発明の阻害剤または選択的阻害剤の例としては、限定されるものではないが、
が挙げられる。
一実施形態では、本発明の阻害剤は、
5−(4−メトキシフェニル)−3H−1,2−ジチオール−3−チオン(AOL)である。
一実施形態では、本発明の阻害剤はキレート剤ではなく、好ましくはFeおよび/またはCuのキレート剤ではない。
一実施形態では、本発明の阻害剤はオルチプラズではない。
一実施形態では、本阻害剤または選択的阻害剤は、米国特許出願公開第2004/053989号に記載されているものから選択される。
別の実施形態では、本阻害剤または選択的阻害剤は、米国特許第3,040,057号、欧州特許第0576619号、米国特許第3,576,821号、米国特許第3,959,313号、米国特許第3,109,772号に記載されているものから選択される。
一実施形態では、本阻害剤はN−シクロヘキシル−4−(4−ニトロフェノキシ)ベンゼンスルホンアミドではない。
本発明は、それを必要とする対象においてフリー酸素ラジカルに関連する疾患を治療するための組成物であって、上に記載されている阻害剤を含むかそれからなるか本質的にそれからなる組成物にも関する。
本発明は、フリー酸素ラジカル関連疾患を治療するための、またはその治療で使用するための、組成物であって、ミトコンドリアのROS産生の阻害剤または選択的阻害剤を含むかそれからなるか本質的にそれからなる組成物にも関する。
本発明は、それを必要とする対象においてフリー酸素ラジカルに関連する疾患を治療するための医薬組成物であって、少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせた上に記載されている阻害剤を含むかそれからなるか本質的にそれからなる医薬組成物にも関する。
本発明は、フリー酸素ラジカル関連疾患を治療するための、またはその治療で使用するための、医薬組成物であって、ミトコンドリアのROS産生の阻害剤または選択的阻害剤および少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤を含むかそれらからなるか本質的にそれらからなる医薬組成物にも関する。
本発明は、それを必要とする対象においてフリー酸素ラジカルに関連する疾患を治療するための医薬であって、上に記載されている阻害剤を含むかそれからなるか本質的にそれからなる医薬にも関する。
本発明は、フリー酸素ラジカル関連疾患を治療するための、またはその治療で使用するための、医薬であって、ミトコンドリアのROS産生の阻害剤または選択的阻害剤を含むかそれからなるか本質的にそれからなる医薬にも関する。
好適な賦形剤としては、水、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液およびエタノール、グルコース、スクロース、デキストラン、マンノース、マンニトール、ソルビトール、ポリエチレングリコール(PEG)、リン酸塩および酢酸塩の溶液、ゼラチン、コラーゲン、カーボポール(登録商標)、植物油などが挙げられる。賦形剤は、好適な防腐剤、安定化剤、抗酸化剤、抗菌剤および緩衝剤、例えば、BHA、BHT、クエン酸、アスコルビン酸、テトラサイクリンをさらに含んでもよい。
本発明の組成物中に使用することができる薬学的に許容される賦形剤の他の例としては、限定されるものではないが、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ヒトの血清アルブミンなどの血清タンパク質、リン酸塩などの緩衝物質、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、植物性飽和脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩または電解質(例えば、硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩)、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸塩、ワックス、ポリエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリエチレングリコールおよび羊毛脂が挙げられる。
また、いくつかの賦形剤は、界面活性剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース)、好適な担体(例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセリン、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)を含有する例えば溶媒および分散媒、好適なそれらの混合物および例えば落花生油および胡麻油などの植物油など)、等張剤(例えば、糖類または塩化ナトリウムなど)、被覆剤(例えば、レシチンなど)、吸収遅延剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなど)、防腐剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロロブタノール、チメロサールなど)、緩衝液(例えば、ホウ酸、重炭酸ナトリウムおよび重炭酸カリウム、ホウ酸ナトリウムおよびホウ酸カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウム、酢酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなど)、等張化剤(例えば、デキストラン40、デキストラン70、デキストロース、グリセリン、塩化カリウム、プロピレングリコール、塩化ナトリウムなど)、抗酸化剤および安定化剤(例えば、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ尿素など)、非イオン性浸潤剤または清澄剤(例えば、ポリソルベート80、ポリソルベート20、ポロキサマー282およびチロキサポールなど)、粘度調整剤(例えば、デキストラン40、デキストラン70、ゼラチン、グリセリン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロース、ラノリン、メチルセルロース、ペトロラタム、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースなど)を含んでもよい。
一実施形態では、本発明の組成物、医薬組成物または医薬は、全身投与または局所投与される。
一実施形態では、本発明の組成物、医薬組成物または医薬は、経口で、注射によって、局所的に、経鼻で、口腔内に、直腸内に、膣内に、気管内に、内視鏡で、経粘膜で、および経皮で、投与される。
一実施形態では、本発明の組成物、医薬組成物または医薬は注射され、好ましくは全身注射される。全身注射に適した製剤の例としては、限定されるものではないが、液体溶液または懸濁液、溶液または懸濁液に適した固体形態、注射前の液体が挙げられる。全身注射の例としては、限定されるものではないが、静脈内、皮下、筋肉内、皮内および腹膜内注射ならびに灌流が挙げられる。別の実施形態では、本発明の組成物、医薬組成物または医薬は注射の際に無菌である。無菌医薬組成物を得るための方法としては、限定されるものではないが、GMP合成(GMPは「優良医薬品製造基準」を表す)が挙げられる。
別の実施形態では、本発明の組成物、医薬組成物または医薬は経口投与される。経口投与に適した製剤の例としては、限定されるものではないが、固体形態、液体形態およびゲルが挙げられる。経口投与に適した固体形態の例としては、限定されるものではないが、丸剤、錠剤、カプセル、軟ゼラチンカプセル、硬ゼラチンカプセル、カプレット、圧縮錠剤、カシェ剤、ウェーハ、糖被覆丸剤、糖被覆錠剤、またはOD錠/崩壊錠、粉末、溶液または懸濁液に適した固体形態、経口投与前の液体および発泡錠が挙げられる。経口投与に適した液体形態の例としては、限定されるものではないが、溶液、懸濁液、飲用に適した溶液、エリキシル剤、密閉アンプル、頓服水剤、飲薬、シロップおよび水薬が挙げられる。
別の実施形態では、本発明の組成物、医薬組成物または医薬は局所投与される。局所投与に適した製剤の例としては、限定されるものではないが、スティック、リップスティック、ワックス、クリーム、ローション、軟膏、香膏、ゲル、グロス、日焼け止め製剤、化粧品、マスク、洗い流さない洗浄剤(leave-on wash)またはクレンザー、脱毛薬などが挙げられる。
局所投与は、例えば、手、指または多種多様な塗布装置(ロールアップ、ロールオンもしくは他のスティック容器、チューブ容器、綿ボール、化粧用パフ、綿棒、ポンプ、ブラシ、マット、布など)を用いて、局所的効果のために本発明の組成物、医薬組成物または医薬を目的の部位(一般に、露出された目視で観察可能な表皮の最も外側の層などのその1つ以上の露出面または外面)に直接に送達、投与または塗布することを特徴とする。塗布は例えば、皮膚に塗る、置く、擦り付ける、撫で付ける、注ぐ、延ばす、および/またはマッサージすることによって、あるいはあらゆる他の好都合または好適な方法によって行ってもよい。局所投与は、本組成物の成分の対象の血流内へのあらゆる顕著な吸収を生じさせることなく(全身作用を回避するように)達成することが好ましい。
本発明の組成物、医薬組成物または医薬を、例えば防腐剤としての1%または2%(wt/wt)ベンジルアルコール、乳化蝋、グリセリン、パルミチン酸イソプロピル、乳酸、精製水およびソルビトール溶液と混合して、白色の滑らかで均質かつ不透明なクリームまたはローションを形成することができる。また、本組成物はポリエチレングリコール400を含有していてもよい。それらを例えば、防腐剤としての2%(wt/wt)ベンジルアルコール、白色ペトロラタム、乳化蝋およびテノックス(tenox)II(ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸プロピル、クエン酸、プロピレングリコール)と混合して軟膏を形成することができる。包帯材料の織布パッドまたはロール、例えばガーゼを本組成物の溶液、ローション、クリーム、軟膏に含浸させることができ、あるいは他のそのような形態も局所塗布のために使用することができる。
本発明の1つの目的は、本発明の阻害剤を含む化粧用組成物である。
本発明の別の目的は、本発明の阻害剤を含む薬用化粧用組成物である。
別の実施形態では、本発明の組成物は、本組成物に含浸させて不透過性支持体に積層される樹脂架橋剤を含むアクリル系ポリマー接着剤のうちの1種などの経皮システムを用いて局所塗布することもできる。
一実施形態では、本発明の組成物を経皮パッチ、より詳細には持続放出経皮パッチとして投与することができる。この経皮パッチは、例えば、接着剤マトリックス、ポリマーマトリックス、リザーバーパッチ、マトリックスまたは一体型積層構造などのあらゆる従来の形態を含むことができ、一般に1つ以上の支持体層、接着剤、浸透促進剤、任意の律速膜および塗布前に接着剤を露出させるために除去される剥離ライナーからなる。ポリマーマトリックスパッチはポリマーマトリックス形成材料も含む。好適な経皮パッチは、例えば米国特許第5,262,165号、第5,948,433号、第6,010,715号および第6,071,531号により詳細に記載されており、その各開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
経皮投与に適した製剤の例としては、限定されるものではないが、軟膏、ペースト、クリーム、フィルム、香膏、例えば経皮パッチなどのパッチ、ゲル、リポソーム形態などが挙げられる。
一実施形態では、経皮組成物は、軟膏、ペースト、クリーム、フィルム、香膏、例えば経皮パッチなどのパッチ、ゲル、リポソーム形態などである。
本発明の一実施形態では、軟膏は油性軟膏、例えば水中油型または油中水型軟膏などの乳化軟膏または水溶性軟膏であり、好ましくは油性軟膏である。
本発明の一実施形態では、油性軟膏は、例えば、植物および動物油、植物および動物脂肪、ワックス、ワセリン(例えば白色ワセリンまたはワセリン油など)、ならびにパラフィン(例えば液体パラフィンまたはパラフィン油など)などの基剤を使用する。
本発明の一実施形態では、経皮組成物は1種以上の賦形剤をさらに含む。好適な薬学的に許容される賦形剤は当業者に周知である。好適な賦形剤の例としては、限定されるものではないが、担体、乳化剤、硬化剤、レオロジー改質剤または増粘剤、界面活性剤、皮膚軟化剤、防腐剤、湿潤剤、緩衝剤、溶媒、保湿剤および安定化剤が挙げられる。
別の実施形態では、特定の投与経路は眼内であってもよい。別の実施形態では、投与経路は、例えば点眼薬の投与または眼を本発明の阻害剤を含む点眼液に浸して洗うなどの局所眼投与であってもよい。
点眼液は、眼球および/または結膜への投与、結膜嚢への挿入あるいは後眼部内への投与を目的とした無菌の液体、半固体または固体製剤を指す。本明細書で使用される「後眼部」という用語は、前部硝子体膜およびその後ろの構造体(硝子体液、網膜、脈絡膜、視神経)を含む眼の後部3分の2を指す。特に、眼科用組成物は例えば硝子体内注射によってガラス体内に投与してもよい。眼科用組成物の例としては、限定されるものではないが、点眼薬、洗眼液、点眼薬のための粉末および洗眼液のための粉末ならびに結膜嚢またはガラス体内に注射される組成物が挙げられる。
担体の例としては、限定されるものではないが、水、緩衝生理食塩水、ワセリン(Vaseline、白色軟パラフィンとしても知られている)、ペトロラタム、油(例えば、鉱油、植物油、動物油、パラフィン油、ヒマシ油またはワセリン油など)、有機および無機ワックス(例えば、微結晶性ワックス、パラフィンワックス、蜜蝋およびオゾケライトワックスなど)、天然ポリマー(例えば、キサンタンガム、ゼラチン、セルロース、コラーゲン、澱粉またはアラビアゴムなど)、合成ポリマー、アルコール類、ポリオール類などが挙げられる。本発明の一実施形態では、担体は乳化剤、油相成分および水相成分を含むクリーム基剤である。
周知の軟膏またはローション基剤(賦形剤)の例としては、限定されるものではないが、ワセリン、プラスチベース(商標)(ポリエチレン(平均分子量:約21000Da)および液体パラフィンを用いて調製された基剤)またはESMA−P(商標)(微結晶性ワックスで調製されている)が挙げられる。
乳化剤の例としては、限定されるものではないが、セチルアルコール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、カルボキシポリメチレン、ポリカルボフィル、ポリエチレングリコールおよびそれらの誘導体、ポリオキシエチレンおよび、単独または脂肪アルコール類(例えば、セチルアルコール、ステアリルアルコールおよびセトステアリルアルコールなど)と組み合わせた例えばポリソルベート20またはポリソルベート80などのそれらの誘導体ならびにソルビタンエステル(例えば、ソルビタン脂肪酸エステルなど)が挙げられる。
油相成分の例としては、限定されるものではないが、ワセリン(例えば、白色ワセリン、黄色ワセリンまたはワセリン油など)、パラフィン(例えば、液体パラフィンまたはパラフィン油など)、ジメチコンおよびそれらの混合物が挙げられる。
水相成分の例としては、限定されるものではないが、水、グリセロールおよびプロピレングリコールが挙げられる。
硬化剤の例としては、限定されるものではないが、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコールおよびセチルアルコールが挙げられる。
レオロジー改質剤または増粘剤の例としては、限定されるものではないが、カルボマー(例えば、カーボポール(登録商標)など)およびポリオキシエチレン獣脂アミン(例えば、エトミーン(Ethomeen(登録商標)など)が挙げられる。
界面活性剤の例としては、限定されるものではないが、アニオン性、カチオン性、両性および非イオン性界面活性剤、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、セトステアリルアルコール、セチルアルコール、ラウリル硫酸マグネシウム、ワックスまたはそれらの組み合わせなどが挙げられる。
皮膚軟化剤の例としては、限定されるものではないが、白色または黄色ペトロラタム(白色または黄色ワセリン)、液体ペトロラタム(液体ワセリン)、パラフィンまたはアクアフォー(aquaphor)が挙げられる。
防腐剤の例としては、限定されるものではないが、例えば、ニパギン(ヒドロキシ安息香酸メチル)、ニパソール(nipasol)(ヒドロキシ安息香酸エステル)、ブチルパラベン、エチルパラベン、メチルパラベン、プロピルパラベンカリウム、プロピルパラベンナトリウム、パラヒドロキシ安息香酸エステル、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、安息香酸、パラベン、クロロブタノール、フェノール、チメロサール、安息香酸ナトリウムおよびベンジルアルコールなどの抗菌性防腐剤が挙げられる。
湿潤剤の例としては、限定されるものではないが、プロピレングリコールおよびアルギン酸プロピレングリコールが挙げられる。
緩衝剤の例としては、限定されるものではないが、水酸化ナトリウム、クエン酸および水酸化カリウムが挙げられる。
溶媒の例としては、限定されるものではないが、水、イソプロパノール、ベンジルアルコールおよびプロピレングリコールが挙げられる。
保湿剤の例としては、限定されるものではないが、グリセリン、鉱油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油およびワセリン、プロピレングリコール、パラフィン、ワックス(例えば、蜜蝋など)、ポリエチレングリコールまたはそれらの混合物(例えば、マクロゴール(マクロゴールは異なる分子量のポリエチレングリコールからなる混合物である)など)、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、パラヒドロキシ安息香酸エステル(パラベン)、ゲル化炭化水素、クエン酸、スクアレン、ラノリン、グリセリン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、動物および植物脂肪、油、澱粉、トラガント、セルロース誘導体、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、タルク、酸化亜鉛およびそれらの混合物が挙げられる。
安定化剤の例としては、限定されるものではないが、炭水化物(例えば、スクロース、ラクトースおよびトレハロースなど)、糖アルコール類(例えば、マンニトールおよびソルビトールなど)、アミノ酸(例えば、ヒスチジン、グリシン、フェニルアラニンおよびアルギニンなど)が挙げられる。
本発明の一実施形態では、本発明の組成物、医薬組成物または医薬を当該薬剤の中枢神経系への送達を容易にする送達システムと共に使用してもよい。例えば、各種血液脳関門(BBB)透過性促進剤を使用して、治療薬に対する血液脳関門の透過性を一時的かつ可逆的に高めてもよい。そのようなBBB透過性促進剤としては、限定されるものではないが、ロイコトリエン、ブラジキニン作動薬、ヒスタミン、密着結合破壊剤(disruptor)(例えば、ゾヌリン(zonulin)、ゾット(zot))、高浸透圧溶液(例えば、マンニトール)、細胞骨格収縮剤(cytoskeletal contracting agent)、および短鎖アルキルグリセリン(例えば、1−O−ペンチルグリセリン)が挙げられる。経口、舌下、非経口、埋込、経鼻および吸入経路により活性薬剤の中枢神経系への送達を行うことができる。いくつかの実施形態では、本発明の化合物を末梢神経系に対する効果を最小にして中枢神経系に投与することができる。
血液脳関門(BBB)は物理的障壁であり、中枢神経系(CNS)の血管とCNSそれ自体の大部分の領域との間の細胞輸送機序のシステムである。BBBは血液からの潜在的に有害な化学物質の進入を制限し、かつ必須栄養素の進入を可能にすることによって恒常性を維持する。しかし、BBBは障害の治療または認知、学習および記憶などの正常かつ望ましい脳機能を維持または促進するために、薬剤のCNSへの送達に対する恐るべき障壁になり得る。
一実施形態では、本阻害剤、組成物、医薬組成物または医薬は持続放出形態で投与される。別の実施形態では、本組成物、医薬組成物または医薬は、調節剤の放出を制御する送達システムを含む。
一実施形態では、本発明の阻害剤、組成物、医薬組成物または医薬は、当業者によって決定され且つ各対象に個人的に適合させた用量で投与される。
当然のことながら、本発明の阻害剤、組成物、医薬組成物および医薬の総1日使用量は、適切な医学的判断の範囲内で担当医によって決定される。あらゆる特定の患者のための具体的な治療的有効量は、治療されている疾患および疾患の重症度、用いられる具体的な組成物、対象の年齢、体重、健康状態、性別および食事、投与時間、投与経路、治療の持続期間、用いられるポリペプチドまたは核酸配列と組み合わせるか同時に使用される薬物、および医療分野で周知の同様の因子などの様々な因子によって決まる。例えば、所望の治療効果を達成するのに必要なレベルよりも低いレベルで治療用化合物の投与を開始して所望の効果が達成されるまで投与量を徐々に増加させることは十分に当業者の範囲内であるが、反対に、負荷用量(より迅速に定常状態血漿中濃度に到達するための方法)で開始し、その後に***過程の効果を正確に補償するように計算した維持用量を投与することも同様に有用であり得る。
一実施形態では、治療的有効量の本発明の阻害剤、組成物、医薬組成物または医薬は、少なくとも1日1回、1日2回、少なくとも1日3回投与される。
別の実施形態では、治療的有効量の本発明の阻害剤、組成物、医薬組成物または医薬は、2日ごとに、3日ごとに、4日ごとに、5日ごとに、6日ごとに投与される。
別の実施形態では、治療的有効量の本発明の阻害剤、組成物、医薬組成物または医薬は、1週間に2回、毎週、2週間ごとに、1ヶ月に1回投与される。
本発明の一実施形態では、対象に投与される阻害剤または組成物の1日量は、約2mg/日〜約2000mg/日、約2mg/日〜約1500mg/日、約2mg/日〜約1000mg/日、約2mg/日〜約500mg/日、約2mg/日〜約200mg/日、約5mg/日〜約2000mg/日、約5mg/日〜約1500mg/日、約5mg/日〜約1000mg/日、約5mg/日〜約500mg/日、約5mg/日〜約200mg/日、約10mg/日〜約2000mg/日、約10mg/日〜約1500mg/日、約10mg/日〜約1000mg/日、約10mg/日〜約500mg/日、約10mg/日〜約200mg/日の範囲である。
本発明の一実施形態では、対象に投与される本阻害剤または組成物の1日量は、約1mg/kg/日〜約20mg/kg/日、約1mg/kg/日〜約15mg/kg/日、約1mg/kg/日〜約12mg/kg/日、約1mg/kg/日〜約10mg/kg/日、約1mg/kg/日〜約9mg/kg/日、約1mg/kg/日〜約8mg/kg/日、約1mg/kg/日〜約7mg/kg/日の範囲である。
別の実施形態では、本発明の阻害剤または組成物は、約5mg〜約2000mg、約5mg〜約1500mg、約5mg〜約1000mg、約5mg〜約500mg、約5mg〜約200mgの量で投与される。
一実施形態では、本発明の方法は慢性治療のためのものである。別の実施形態では、本発明の方法は急性治療のためのものである。
本発明の一実施形態では、対象は、フリー酸素ラジカル関連疾患であると診断されている。本発明の別の実施形態では、対象は、フリー酸素ラジカル関連疾患を発症するリスクがある。
一実施形態では、前記対象は成人、十代の若者、小児、幼児または新生児である。
本発明の別の目的は、本発明の阻害剤を含む保存液である。
一実施形態では、保存液は、臓器の保存のためのものである。一実施形態では、前記臓器としては、限定されるものではないが、心臓、肝臓、腎臓、肺、膵臓、腸が挙げられる。一実施形態では、前記臓器は移植のためのものである。
一実施形態では、保存液は、5μM〜120μMの範囲の濃度(すなわち約5μM、10μM、20μM、50μM、80μM、100μMまたは120μMの濃度)で本発明の阻害剤を含む。
本発明の別の目的は、有効量の活性酸素種阻害剤を対象に投与することを含む、複合体Iの部位IQにおいてミトコンドリアに作用させることによってそれを必要とする対象においてフリー酸素ラジカル産生を阻害するための方法である。
本発明の別の目的は、有効量の活性酸素種阻害剤を対象に投与することを含む、複合体Iの部位IQにおいてミトコンドリアに作用させることによってそれを必要とする対象において老化疾患を治療するための方法である。
本発明の別の目的は、有効量の活性酸素種阻害剤を対象に投与することを含む、それを必要とする対象において細胞質のROS産生を阻害することなくフリー酸素ラジカル産生を阻害するための方法である。
本発明の別の目的は、有効量の本明細書の上に記載されている活性酸素種産生阻害剤を投与することを含む、複合体Iの部位IQにおいてミトコンドリアに作用させることによってそれを必要とする対象においてインスリン分泌を増加させるための方法である。
本発明の別の目的は、有効量の本明細書の上に記載されている活性酸素種産生阻害剤を投与することを含む、複合体Iの部位IQにおいてミトコンドリアに作用させることによってそれを必要とする対象においてニューロンを保護するための方法である。
本発明の別の目的は、少なくとも1種のフリー酸素ラジカルに関連する疾患を治療するためのミトコンドリアの活性酸素種産生の阻害剤である。
本発明の別の目的は、少なくとも1種のフリー酸素ラジカルに関連する疾患を治療するための、ミトコンドリアの活性酸素種産生の阻害剤の使用である。
本発明の別の目的は、少なくとも1種のフリー酸素ラジカルに関連する疾患を治療するための医薬の調製のための、ミトコンドリアの活性酸素種産生の阻害剤の使用である。
図1は、ミトコンドリアの呼吸に対するAOLの効果の欠如を示す。パネルA:AOL(この実施例では20μM)の存在下でのインキュベーションの後に、ラットの心臓から単離したミトコンドリアは基質としてのグルタミン酸+リンゴ酸(GM)を酸化させていた。リン酸化はアデノシン二リン酸(ADP)によって引き起こされ、アデニントランスロケーターの特異的阻害剤であるアトラクチロシド(ATR)によって停止した。パネルB〜D:各種呼吸基質の存在下でのミトコンドリアの酸化的リン酸化の古典的な研究を増加濃度のAOL(5〜80μM)の存在下で行った。AOLの添加後の異なるエネルギー状態でのミトコンドリアの呼吸において統計学的差異は認められなかった。ADP添加後の酸化率は、単離したミトコンドリアのアデノシン三リン酸(ATP)の合成活性を反映している。
図2は、最大のミトコンドリアROS産生を得るためにATRの存在下(状態4)および複合体IおよびIIIの両基質の存在下での単離したミトコンドリアによる酸素ラジカル産生の主要部位を示す。先に述べたように、ミトコンドリアROS産生はミトコンドリアの活性および条件に大きく依存している。AOLを数多くの条件下で試験したが、明確性のために、本発明者らは最も立証的な結果のみを本明細書に示すことを選択した。鎖全体に電子を与える全ての基質(すなわち、グルタミン酸+リンゴ酸+コハク酸)の存在は細胞におけるin situ条件に最も近い。これらの基質条件下で、本発明者らはATR(リン酸化の阻害:最大の産生)下で完全な鎖によるROS産生、および複合体I(ロテノンによる阻害)および複合体II(アンチマイシンAによる阻害)によるROS産生に対するAOLの存在の効果を評価した。色は図3を参照する。
図3は、ATRの存在下(状態4)および複合体IおよびIIの基質の存在下での単離したミトコンドリアによるROS/H2O2産生に対するAOL(5〜80μM)の効果、ロテノン、アンチマイシンAおよびミキソチアゾールの効果を示す。これらの複合体の特異的阻害剤の非存在下ではROS産生は最大であり、主に部位IQにおける逆電子伝達により生じる(図4を参照)。IQを阻害して電子伝達を特異的に逆にするロテノンの添加後に産生は減少し、部位IIIQOにおいてほぼ全体が生じる。その後に酸素への電子の伝達を遮断するアンチマイシンAを添加することにより部位IIIQOにおけるROS産生が増加し、最後にミキソチアゾールが部位IIIQOにおけるROS産生を遮断する(詳細については図2を参照)。
図4は、ミトコンドリアROS産生に対するAOLの作用部位およびAOLが作用しないか僅かにしか作用しない部位を示すスキームである。
図5は、雄のC57Bl/6Jマウスから単離した膵島におけるグルコース応答性インスリン分泌(GSIS)に対する10μMおよび20μMのAOLの効果を示すヒストグラムである。3種類の実験の組み合わせが示されている。各実験のために2匹のマウスからの膵島、ウェルごとに5つの膵島、条件ごとに4〜6つのウェル。インスリン分泌のデータを11mMのGlc−Veh群(これを100%とみなした)に対して正規化した。3mMのGlc−Vehに対して*p<0.05、**p<0.01および***p<0.001、11mMのGlc−Vehに対して#p<0.05、##p<0.01および###p<0.001、一元配置分散分析およびボンフェローニ事後検定。
図6は、治療から3週間後に決定した脂肪量を示すヒストグラムである。脂肪量はグラム(g)で表されている。データは平均±SEMとして表されている。
図7は、治療から3週間後に決定した除脂肪量を示すヒストグラムである。除脂肪量はグラム(g)で表されている。データは平均±SEMとして表されている。
図8は、インスリン負荷試験(ITT)中のグルコース反応に対するAOL(5mg/kgおよび10mg/kg)による慢性治療の効果を示すグラフである。このグラフはITT中の血糖値の変化を示す。データは平均±SEMとして表されている。
図9は、血糖値に対するAOLの効果を示すヒストグラムである。5週間の治療後に、2時間絶食させたマウスにおいて血糖を測定した。データは平均±SEMとして表されている。
図10は、MPTPで治療したマウスのSNにおけるTH陽性細胞数に対するAOL(11日間にわたって5mg/kgを1日2回)の神経保護効果を示すヒストグラムである。データは平均±SEM(n=10〜11)として表されており、反復測定一元配置分散分析、次いでダネットの多重比較検定を用いて分析した。MPTP+媒体に対して**P<0.01、***P<0.001。
図11は、虚血後の再灌流段階中の心収縮性の回復に対するAOLの効果を示すグラフである。データは6回の独立した実験について対照群(黒色)およびAOL治療群(灰色)の平均±SEMとして表されている。
図12は、虚血性心臓の切片の梗塞面積に対するAOLの効果を示すグラフである。再灌流期間の終了時に心臓を塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)で染色した。生体組織は赤色に見えるが、損傷した組織は白色に見える。
図13は、胚動脈圧および心臓リモデリングに対するAOL治療の効果を示す2つのグラフのセットである。パネルA:正常酸素圧ラット(N、白色のカラム)、慢性低酸素症ラット(CH、薄い灰色のカラム)およびモノクロタリンで治療したラット(MCT、濃い灰色のカラム)において測定した平均胚動脈圧(mPAP)に対するAOLの効果(斜線のカラム)。パネルB:フルトン(Fulton)指数(すなわち、右心室重量(RV):左心室+隔壁重量(LV+S)の比)として表される右心室肥大。nはラット数である。*、**および***はそれぞれNに対してP<0.05、0.01および0.0001の有意差を示す。###はCHに対してP<0.05の有意差を示す。†および††はN+AOLに対してP<0.05および0.01の有意差を示す。‡はMCTに対してP<0.05の有意差を示す。
図14は、肺動脈(PA)リモデリングに対するAOLの効果を示すグラフのセットである。正常酸素圧ラット(N、白色のカラム)、慢性低酸素症ラット(CH、薄い灰色のカラム)およびモノクロタリンで治療したラット(MCT、濃い灰色のカラム)におけるPA中膜厚の割合を測定してPAリモデリングに対するAOLの効果(斜線のカラム)を評価した。PAリモデリングを評価するために観察した細葉内動脈を異なる断面直径を有する3つの群に分けた(パネルA:50μm未満、パネルB:50〜100μm、パネルC:100〜150μm)。nは血管数である。*、**および***はそれぞれNに対してP<0.05、0.01および0.0001の有意差を示す。##および###はCHに対してP<0.01および0.0001の有意差を示す。N+AOLに対してP<0.05および0.01の有意差。‡はMCTに対してP<0.05の有意差を示す。
図15は、進行性の光誘発性網膜変性における網膜の外顆粒層(ONL)厚に対するAOLの効果を示すグラフのセットである。パネルA:「移動させない」動物に対する媒体およびAOLの効果。動物を周期的な低強度照明下で飼育し、媒体またはAOLの注射を7日間にわたって1日3回行った。治療の終了から15日後に網膜の組織学的分析を行った。データは、未治療の動物(薄い灰色、四角形のドット)、媒体で治療した動物(濃い灰色、三角形のドット)およびAOLで治療した動物(黒色、丸いドット)の視神経からであって視神経乳頭の上極および下極において0.39mmごとのONL厚の平均±SEM(単位:μm)として表されている。パネルB:「移動させた」動物に対する媒体およびAOLの効果。動物を周期的な低強度照明下で飼育し、周期的な高強度照明下に7日間移動させ、その間に動物に媒体またはAOLの注射を1日3回行った。治療の終了時に、動物を周期的な低強度照明条件下に戻し、15日後に網膜の組織学的分析を行った。データは未治療の動物(薄い灰色、四角形のドット)、媒体で治療した動物(濃い灰色、三角形のドット)およびAOLで治療した動物(黒色、丸いドット)の視神経からであって視神経乳頭の上極および下極において0.39mmごとのONL厚の平均±SEM(単位:μm)として表されている。
図16は、4つの群のマウス(WT−KOL:媒体で治療した野生型マウス、WT−AOL:AOLで治療した野生型マウス、KO−KOL:媒体で治療したSOD2−KOマウス、KO−AOL:AOLで治療したSOD2−KOマウス)に対するSOD2−KO寿命実験を示すグラフのセットである。データは平均値として表されている。パネルA:日数による経時的なマウスの体重の漸増的変化(単位:グラム)。パネルB:日数による経時的な体重増加の割合としてのベースライン補正したマウスの体重。パネルC:日数による経時的な割合でのKO−KOLおよびKO−AOL群間の生存割合。
図17は、5つの群のマウス(WT−KOL:媒体で治療した野生型マウス、WT−AOL:AOLで治療した野生型マウス、KO−KOL:媒体で治療したSOD2−KOマウス、KO−AOL:AOLで治療したSOD2−KOマウス、WT:未治療の野生型マウス)間での心臓におけるコハク酸デヒドロゲナーゼ(SDH)活性を示すグラフである。心臓部から試料採取したSDH反応の光学濃度を画像処理ソフトウェアImage Analyst MKII(Akos社)を用いて測定した。この密度を平均灰色レベルの形態で表した(ここでは、平均灰色レベル=灰色の合計/測定した画素数である)。データは測定した光学濃度の平均値として表されている。
図18は、AOLで治療したか未治療のWTおよびSOD2−KOマウスからの肝臓切片のオイルレッドO染色を示すグラフのセットである。ヒストグラムは、脂質滴の平均サイズ(パネルA)、滴密度(滴数/肝臓面積)(パネルB)および総脂質面積(平均サイズ×滴数)(パネルC)を表す。
以下の実施例により本発明をさらに例示する。
実施例1:AOLはミトコンドリアの酸化的リン酸化に影響を与えない
材料および方法
動物処置法および倫理声明
記載されている全ての実験は、国家および欧州研究会議の実験動物の管理と使用のためのガイドに準じて行った。P. Diolezは、フランス農林水産省の動物の健康および保護局(Service Veterinaire de la Sante et de la Protection Animale of the Ministere de l’agriculture et de la Foret, France)(03/17/1999、ライセンス番号3308010)による動物実験を行うための有効なライセンスを有している。
材料
全ての化学物質は、スクロースおよびNADHオキシダーゼ(Merck社(ドイツのダルムシュタット)から得た)以外は、Sigma Chemical社(ミズーリ州セントルイス)から購入した試薬用であった。アネトールトリチオン(AOL)化合物は民間企業GMPO(フランスのパリ)からの贈り物であった。15mMの原液をDMSOで調製し、数日間だけ0℃で暗所に保管した。
ミトコンドリアの単離
雄のウィスターラット(250〜325g、Janvier Labs社(フランスのル・ジュネスト=サン=ティスル(Le Genest-Saint-Isle))から得た)をスタニングおよび頸椎脱臼によって屠殺し、その心臓を迅速に取り出し、100mMのスクロース、180mMのKCl、50mMのTris、5mMのMgCl2、10mMのEDTAおよび0.1%(w/v)の脱脂BSA(pH7.2)を含有する冷たい単離培地で洗浄した。
心臓ミトコンドリアの単離を冷室で行った。均質化の前に心臓(約1.5g)をハサミで細かく刻み、プロテアーゼ(1mLの単離緩衝液中に2mgの細菌プロテイナーゼ型XXIV(bacterial proteinase type XXIV))を添加した5mLの同じ培地中で撹拌しながら5分間処理した。その組織懸濁液を50mlのガラス製ポッター型ホモジナイザーの中に注ぎ、20mLの単離緩衝液で希釈し、次いで電動テフロン乳棒を用いて3分間均質化した。ホモジネートを篩絹(Sefar Nitex)で濾過してデブリを除去し、8,000gで10分間遠心分離した。得られたペレットを5mLの単離緩衝液で洗い流し、25mLの同じ緩衝液に再懸濁し、次いで低速遠心分離(400g)に8分間供した。得られた上澄みを7,000gで15分間2回遠心分離して、洗浄したミトコンドリアのペレットを得、これを150μLの単離緩衝液に穏やかに再懸濁した。BSAを標準液として用いるブラッドフォード法(Sigma社、キット番号B6916)によってタンパク質濃度を測定した。ミトコンドリアを40〜50mg/mLの最終濃度で氷上に5時間未満で維持した。
ミトコンドリアの呼吸
増加用量(0〜80μMの最終濃度)のAOLの非存在または存在下でインキュベートした心臓ミトコンドリア(0.1mg/mL)の酸素消費率を、高分解能酸素計(Oxygraph−2K、Oroboros Instruments社、オーストリア)を用いて25℃で絶えず撹拌しながらポーラログラフィーで記録した。呼吸培地は、140mMのスクロース、100mMのKCl、1mMのEGTA、20mMのMgCl2、10mMのKH2PO4、および本質的に脂肪酸を含まない1g/L(w/v)のBSA(pH7.2)で構成されていた。
ミトコンドリアROS/H2O2産生
心臓ミトコンドリアからのROS/H2O2産生率を外来性西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP、EC1.11.1.7、Sigma社)の存在下で無色の非蛍光指示薬Amplex Redの酸化によって評価した。H2O2をAmplex Redと1:1の化学量論量で反応させ、一旦形成されると安定する蛍光化合物レゾルフィン(励起:560nm、発光:585nm)を得る。温度制御および撹拌機能を備えた分光蛍光光度計(SAFAS Xenius、モナコ)を用いて蛍光を連続的に測定した。単離したミトコンドリア(0.1mg/mL)を15μMのAmplex Redおよび10μg/mLのHRPを添加した先のものと同じ実験用緩衝液中でインキュベートした。グルタミン酸(5mM)/リンゴ酸(2.5mM)をそれぞれコハク酸(5mM)と共に複合体Iおよび複合体II基質として使用した。15μMのアトラクチロシドの存在下での非リン酸化条件、すなわちミトコンドリア膜が最大となる状態IV条件下で実験を行った。その後、ロテノン(1.5μM)、アンチマイシンA(2μM)およびミキソチアゾール(0.2μM)を連続的に添加して電子伝達鎖内の酸化還元中心(図2を参照)、すなわち部位IQ、IF(ロテノンにより阻害)、IIIQi(アンチマイシンAにより阻害)およびIIIQO(ミキソチアゾールにより阻害)を阻害した。最後にアッセイを、AOLを含む全ての関連化合物の存在下で公知の量のH2O2(300nMの工程)で較正した。Amplex Redアッセイそれ自体およびNAD(P)HオキシダーゼROS/H2O2産生に対するAOLの効果が欠如した対照試験を、心臓ミトコンドリアの非存在下およびNAD(P)Hオキシダーゼ(EC1.6.3.3、5mU/mL、Sigma社)およびNADH(100μM)溶液の存在下で行った。
結果
本発明者らは最初に、AOL化合物がラットの心臓から単離したミトコンドリアでの酸化的リン酸化に直接には影響を与えないことを確認した(図1)。これを今では古典的であるオキシグラフ法を用いて行った。ミトコンドリアを最初に各種AOL濃度(5〜80μM)でインキュベートし、次いで呼吸基質を添加し(基質状態、黒色の曲線)、その後に飽和ADP濃度を添加して最大の酸化的リン酸化率(灰色の曲線)を得、最後にADP/ATPトランスロケーターを阻害し、かつ非リン酸化条件下でミトコンドリアの漏出速度を生じさせるアトラクチロシド(ATR)を添加した(図1A)。図1B〜図1Dの他のパネルは異なる呼吸基質の組み合わせ、すなわち複合体Iに電子を与えるグルタミン酸+リンゴ酸、複合体IIに電子を与えるコハク酸(+ロテノン)、および両複合体に電子を与えるグルタミン酸+リンゴ酸+コハク酸で得られた結果を示す。この最後の基質組み合わせは、クレブス回路が機能し、かつコハク酸およびNADHの両方が呼吸鎖によって酸化される生体内条件に最も酷似しているため選択した。その結果は、試験した広範囲の濃度についてAOLの存在下において統計学的差異が観察されなかったことを示しており(図1)、これはミトコンドリアの酸化的リン酸化、すなわち呼吸鎖活性およびATP合成の両方ならびにミトコンドリアの内膜完全性(ATR添加後の漏出速度)に対するこれらの条件下でのAOLの効果の欠如を実証している。この最後の結果は、AOLが酸化的リン酸化収率に影響を与えないことを示している。つまり、全てのこれらの結果から、ヒトの健康のためのこの薬物の長期間の使用によって文書化されているAOLのあらゆる有害な効果は存在しないことが確認される。
実施例2:AOLはミトコンドリアによるスーパーオキシド/H2O2産生を阻害する
先に述べたように、ミトコンドリアROS産生はミトコンドリアの活性および条件に大きく依存している。本発明者らは数多くの条件下でミトコンドリアによるROS産生に対するAOLの効果を試験したが、明確性のためにAOLの非常に特異的な効果の最も立証的な結果のみを本明細書に示すことを選択した。既に考察したように、呼吸鎖全体に電子を与える基質の組み合わせ(すなわち、グルタミン酸+リンゴ酸+コハク酸)の存在は、代謝が活性である細胞におけるin situ条件を最も代表している。さらに、最大のミトコンドリアROS/H2O2産生はミトコンドリアの高リン酸化条件下では生じないが電子輸送体が大きく減少する条件下、すなわち低リン酸化条件またはリン酸化が存在しない条件下で生じる。これらの条件は、ATRの存在下(ATRによるATP/ADPトランスロケーターの阻害)(図1)で満たされ、本発明者らは飽和ADP条件下でATRを添加することによりROS産生が引き起こされることを有効に確認することができ、これは最大のリン酸化条件下での検出限界であった(結果は示さず)。これらの条件下では、ROSは呼吸鎖の異なる部位において産生される(Orrら, 2013. Free Radic. Biol. Med. 65:1047−1059; Quinlanら, 2013. Redox Biol. 1:304−312)(図2)。主要な産生部位は複合体IおよびIIIに位置しており、ここでは電子の位置エネルギーの大きな変化が生じ(Balabanら, 2005. Cell. 120:483−495; Goncalvesら, 2015 Jan 2. J. Biol. Chem. 290(1):209−27)、これにより、これらの部位におけるプロトンポンピングも可能になる。
本発明者らは、最大のROS産生条件下で呼吸鎖全体によるROS産生に対するAOLの作用を解明するために、一連の阻害剤滴定を設計した(図2E)。複合体の特異的阻害剤の非存在下ではROS産生は最大となり、これは主に部位IQにおける逆電子伝達により生じる(図2A)。部位IQ(キノン部位)または部位If(フラビン部位)のいずれかにより複合体Iによって産生されるROSはミトコンドリア内膜の内側(すなわちマトリックス側)に送達されることに留意することが非常に重要である。ロテノン(IQに特異的に結合する古典的な複合体I阻害剤)の添加後、ROS産生は大きく減少し、部位IIIQOにおいてほぼ全体が生じ、残りの産生は複合体I基質の存在により部位Ifにおいて生じ、NADH産生はロテノンによって阻害されない(図2B)。その後のアンチマイシンA(チトクロームcへの電子伝達阻害剤)の添加により、酸化されたキノンに対する還元されたキノンの比の増加が生じ、これは複合体II活性によってさらに減少し、従って部位IIIQOにおけるROS産生は同時に増加する(図1C)。最後に、ミキソチアゾール(複合体IIIの部位IIIQOの阻害剤)の添加により複合体IIIのROS産生が消失し、残りの非常に低い産生は複合体Iのフラビン部位によるものとみなすことができ、本発明者らはこのための公知の阻害剤を有していない(Goncalvesら, 2015 Jan 2. J. Biol. Chem. 290(1):209−27)。
図3は、図2に規定されている異なる条件下で測定したROS/H2O2産生に対する増加濃度のAOL(5〜80μM)の存在の効果を示す。この図に示されている結果から、AOLは阻害剤の非存在下で測定したROS産生に対してのみ約80%で影響を与えるが、他の条件下で測定したROS/H2O2に対するこの範囲のAOL濃度について統計学的差異は観察されないことが明らかに認められる。図2から分かるように、この特定の条件(ATRのみが存在)は、本発明者らのアッセイにおいてROSが複合体I(部位IQ)によって産生される唯一の条件である。ロテノンをこのアッセイに添加した場合、ROS/H2O2産生は、どの部位が関与しようとも高濃度の場合であってもAOLに対して感受性がないように思われる。ミトコンドリアROS産生のいくつかの部位に対する効果の明らかな欠如は驚くべきものであるだけでなく、ミトコンドリアに対するAOLの真の作用機序に関する興味深い疑問を呈するものでもある。実際には、これらの結果は過去の論文に記載されており、かつその治療的使用のための本特許の元となるAOLの作用モードの基本的な仮説を否定するものである。これらの結果はAOLがラジカル捕捉剤ではないことを有効に実証しており、もしAOLがラジカル捕捉剤であれば、その作用はROSの由来とは無関係になるであろう。但し、AOLは明らかに部位IQにおいてその部位のみで複合体IによるROS産生を大きく減少させるため、本発明者らはAOLがこの部位におけるROSの形成を特異的に阻害するという証拠を有する。
その機序はまだ調査中であるが、AOL化合物が特異的にミトコンドリアの複合体Iを妨害し、かつ他の部位からのスーパーオキシド産生または酸化的リン酸化に対して影響を与えることなく複合体Iのユビキノン結合部位(部位IQ)からのスーパーオキシド産生を選択的に阻害するという証拠が本明細書に示されている。本発明者らの知識が及ぶ範囲では、最近になって文献に記載されたばかりの匹敵する特性を有する1種の化合物、すなわちN−シクロヘキシル−4−(4−ニトロフェノキシ)ベンゼンスルホンアミドのみが存在する(Orrら, 2013. Free Radic. Biol. Med. 65:1047−1059)。AOL同様に、この化合物は呼吸鎖の成分としての複合体Iの活性および酸化的リン酸化を変化させない。
実際にAmplex Redを酸化して蛍光レゾルフィンを生成することによりH2O2の出現を測定する、ミトコンドリアによるROS/H2O2の測定のために利用されるペルオキシダーゼ−Amplex Redシステムを用いて、AOLの特異性をさらに生体外で試験した(図4を参照)。ミトコンドリアの非存在下で、代わりにH2O2産生系を測定システムに追加して、この系に対するAOLの効果を試験することができた。添加されるNAD(P)Hの存在下でH2O2を産生する市販のNAD(P)Hオキシダーゼを用い、かつAmplex Redのレゾルフィンへの還元を測定することにより、これを行った(図4)。本発明者らはこれらの条件下では蛍光のどんな阻害も観察せず、これはNAD(P)Hオキシダーゼまたはペルオキシダーゼ活性に対するAOLのあらゆる効果を否定するものである(結果は示さず)。これらの結果から、AOLは測定システムを妨害することもH2O2と直接相互作用することもないことが確認される。興味深いことに、これらの結果は、AOLがNADP(H)オキシダーゼによるROS/H2O2産生を阻害せず、かつ細胞における主要な非ミトコンドリアROS/H2O2産生物質の1種(そうでなければ唯一)であることも実証している。図4のスキームは、ミトコンドリアによるROS/H2O2産生およびNAD(P)Hオキシダーゼに対するAOLの作用モードに関する異なる情報を要約しており、本明細書に実証されている非常に高い特異性を強調している。これらの結果はラジカル捕捉剤としてのAOLの推定上の効果に関する過去の断定と著しく対照的なものである。
ラットの心臓から単離したミトコンドリアについて試験した際に、AOLはミトコンドリアROS/H2O2産生を有効に減少させる(単離したミトコンドリアにおいて、H2O2はミトコンドリアスーパーオキシドディスムターゼによるROSの還元により産生される)。しかし、本明細書に示されている結果により、AOLが単純な抗酸化剤またはラジカル捕捉剤として機能しないことが明らかに実証されている。抗酸化剤は一般的なROS/H2O2捕捉剤であるが、AOLは複合体Iにおける部位IQによるROSの形成に対して完全な選択性を示し、これはAOLがスーパーオキシドラジカルと単純に相互作用しないが、複合体Iにおけるそれらの形成を特異的に防止することを実証している。従って、その点でAOLは最新クラスの酸化ストレス保護剤のメンバーであるように見え、そのたった1つのメンバーはごく最近になって文献に記載されたばかりである(Orrら, 2013. Free Radic. Biol. Med. 65:1047−1059)。抗酸化剤は一般に電子伝達を直接妨害しないが産生の下流でROSおよび/またはH2O2を捕捉し、従ってROSの効果を完全に抑制することはできない(Orrら, 2013. Free Radic. Biol. Med. 65:1047−1059)が、AOLはROS形成を防止することにより異なって作用し、そのようにしてより活性になってミトコンドリアをそれ自体のROSから保護することができる。
本明細書に示されているデータはさらに踏み込んでAOLがミトコンドリア呼吸鎖の複合体Iの部位IQにおけるROS形成の特異的阻害剤であることを実証している。しかし、さらなる実験はAOLが他のミトコンドリア部位に対して完全に影響を与えないことを確認することを求められるが、これは上記結論を妨げるものではない。本発明者らは、AOLが細胞質ゾルにおける酸素ラジカル形成に影響を与えることなくミトコンドリアとのみ相互作用することができ、従って細胞内シグナル伝達に影響を与えないといういくつかの証拠も本明細書に示す。
ロテノンまたは神経毒MPP+による複合体I活性の阻害は齧歯類およびヒトの両方におけるパーキンソニズムに関連づけられおり、これは複合体Iの機能障害、ROS産生および神経変性間の関連性を示唆している(Langstonら, 1983. Science. 219:979−980; Betarbetら, 2000. Nat. Neurosci. 3:1301−1306)。対照的に、比較分析から、部位IQからの最大のスーパーオキシド/H2O2産生(但し、部位IFからは産生されない)と多様な脊椎動物種全体における最大寿命との反比例関係が分かっている(Lambertら, 2007. Aging Cell. 6:607−618; Lambertら 2010. Aging Cell. 9:78−91)。従って、部位IQまたは部位IFからのスーパーオキシド/H2O2産生の選択的調節剤により、正常および病理学的プロセスにおけるミトコンドリアROS産生の推定上の役割を探るための独特な機会が得られる(Orrら, 2013. Free Radic. Biol. Med. 65:1047−1059)。議論の余地があるとしてもAOLによって影響を受けない部位IIIQが低酸素状態中に細胞のシグナル伝達において重要な役割を担うといういくつかの推測もある。
結論として、AOL特性は細胞におけるROS/H2O2産生の特異的調節剤の探索における大きな進歩を表し得るように見える。これは研究における現在の重要な問題であり、AOLはヒトの使用のために既に認可されているため、新しく発見される分子に対して非常に大きな利点を有している。
− AOLはROS産生の上流で作用するため古典的な抗酸化剤よりも高い保護を保証する
− AOLはミトコンドリアROS産生に対して特異的に作用する
− AOLは数多くの疾患、特に心疾患にとって非常に重要なミトコンドリアの保護を保証する
− AOLは細胞シグナル伝達を妨げない
− AOLは、主要なミトコンドリア部位であり、かつパーキンソン病および心細動などの重要な疾患に関与し得る複合体I内のその場IQに特異的に作用する。
故に、AOLはミトコンドリア内部でのROS産生を特異的に防止する新しいクラスの「保護剤」の最初のメンバーの代表となり得、従って各種酸化ストレス中にミトコンドリアの保護のために使用することができ、従って非常に重要な細胞のROSシグナル伝達に対して非常に少ない副作用で疾患を予防することができる。
実施例3:心血管疾患/糖尿病におけるAOLの効果
マウス膵島におけるグルコース応答性インスリン分泌(GSIS)に対する化合物AOLの効果
この研究の目的は、マウスから単離した膵島におけるグルコース応答性インスリン分泌(GSIS)を調節する化合物AOLの能力を調査することである。
材料および方法
実験は欧州連合勧告(2010/63/EU)に徹底的に遵守して行い、フランス農業水産省(認可番号3309004)およびボルドー大学の地方倫理委員会によって認可された。使用する動物の犠牲および数を少なくするために最大の努力を行った。
3種類の独立した実験を行い、各実験のために2匹のマウスを屠殺し、以下にさらに記載する手順に従って膵島を単離した。
コラゲナーゼ消化法を用いて膵島を単離した。簡単に言うと、膵臓を0.33mg/mLのコラゲナーゼ(Sigma−Aldrich社)、5.6mMのグルコースおよび1%のウシ血清アルブミン(pH7.35)を含有するハンクス液で膨張させ、取り出して、37℃で6〜9分間維持した。組織の消化および3回の連続する洗浄による外分泌の除去後に、双眼ルーペ下で膵島を手で回収した。膵島は11mMのグルコース(Invitrogen社、米国カリフォルニア州)を含有し、かつ2mMのグルタミン、200IU/mLのペニシリン、200μg/mLのストレプトマイシン、およびチャコール/デキストラン処理した8%のウシ胎児血清(Invitrogen社)を添加したRPMI−1640培地で20〜24時間培養することにより消化から回復させた。
各静的GSIS実験のために、2匹のマウスからの膵島を最初に95%のO2:5%のCO2の混合物(pH7.4)で平衡させた3mLのクレブス−重炭酸塩緩衝液(14mMのNaCl、0.45mMのKCl、0.25mMのCaCl2、0.1mMのMgCl2、2mMのHEPESおよび3mMのグルコース)中、37℃で2時間インキュベートした。次いで、5つのサイズを一致させた膵島からなる群を、3mMのグルコース(Glc)および11mMのグルコース+媒体(クレブス−重炭酸塩緩衝液中に0.4%のDMSO)または11mMのグルコース+試験する希釈した薬物(媒体中に10μMまたは20μMのAOL)刺激のうちのいずれか1つを含む0.5mLの新しい緩衝液を含む24ウェルプレートウェルに移動させ、さらに1時間インキュベートした。各実験条件のために6つの異なるウェルを使用した。インキュベーションの終了時に、ウシのアルブミンを1%の最終濃度になるまで各ウェルに添加し、プレートを4℃で15分間放置してインスリン分泌を止めた。次に、培地を回収し、製造業者の説明書に従うELISA(Mercodia社製のキット、スウェーデンのウプサラ)によるインスリン含有量のその後の測定のために−20℃で貯蔵した。各ウェルにおけるインスリン分泌を1時間のインキュベーションごとに1つの膵島当たりのインスリン(ng)として計算し、次いで11mMのグルコース媒体群(これを100%とみなした)中のインスリン分泌の割合として表した。
実験群の内容を表1に示す。
結果
3種類の実験のそれぞれで得られた個々のインスリン分泌値を1つにまとめて平均した。これらを11mMのグルコース媒体群に対して正規化したインスリン分泌の相対的割合として表す(図5)。
1つにまとめたデータ分析からAOLが10μMおよび20μMの両方においてGSISを増加させたことが分かり、これは11mMのグルコース媒体群と比較した場合に同様の効力を示し(一元配置分散分析、ボンフェローニの事後検定)、そのGSIS増加は約65〜75%の範囲であった。統計分析については表2を参照されたい。
結論
この研究は、試験した用量(10μMおよび20μM)のAOLがGSISを増加させ、マウスから単離した膵島における生体外でのインスリン分泌を有意に刺激することを実証している。
従って、これらの発見は、AOLが、インスリン分泌が不十分な病的状態において特に有用であり得ることを示唆している。
食餌誘発性肥満マウスにおける食餌摂取量、体重およびグルコース代謝に対するAOLによる慢性治療の効果
材料および方法
この研究の目的は、高脂肪食(HFD)を与えられた食餌誘発性肥満(DIO)マウスにおいて毎日の腹膜内(ip)投与によって最長5週間にわたって5mg/kg〜10mg/kgの用量で毎日投与した化合物AOLが食餌摂取量、体重、脂肪症およびグルコース代謝を変化させるか否かを決定することであった。
薬理学的研究を開始する前の12週間にわたってマウスにHFD(脂肪、主としてラードからカロリーの60%)を不断給餌で与えた。動物に腹膜内(ip)投与によってAOLまたはその媒体を与え、この研究期間にわたってHFDで維持した。食餌摂取量および体重を毎日測定し、最長で連続3週間記録した。
異なる実験群におけるマウスの適当な振り分けのために薬理学的研究の開始前に、本発明者らはそれらの体組成をEcho MRI 900(EchoMedical Systems社、米国テキサス州ヒューストン)を用いて生体内で評価した(Cardinal P.ら, 2014 Oct. Mol. Metab. 3(7):705−16; Cardinal P.ら, 2015 Feb. Endocrinology. 156(2):411−8も参照)。毎日の食餌摂取量および体重測定値を天秤(モデルTP1502、Denver Instruments社)を用いて得た。
30匹の7週齢の雄のC57/Bl6Jマウスが2016年2月25日に実験室に到着し、マウスを実験飼育室に1週間順応させた後、1回目の生体内体組成分析(Echo MRI 900、EchoMRI Systems)に供した。この1回目のMRI分析後に、動物に12週間の期間にわたって高脂肪食(HFD)を不断給餌で与えた。その後、それらのマウスを2回目のMRI分析に供し、同等の体重および体組成の3つの実験群に振り分けた。
薬理学的治療が開始したら(1日目)、自身のホームケージに収容されている動物において食餌摂取量(FI)および体重(BW)を暗期前に毎日測定した。こぼれた餌を毎日確認した。最初の事前に測定した量からホッパーに残っている餌を差し引いて餌の消費量を計算した。連続3週間にわたってFIおよびBWを測定した。その後に、体組成(脂肪量および除脂肪量の変化)に対する治療の潜在的効果を観察するために動物を3回目のMRI分析に供し、続いて、グルコース寛容性試験(GTT)およびインスリン負荷試験(ITT)に供した。屠殺するまで全部で5週間の期間でマウスにAOLまたはその媒体の毎日のip投与を行った。
核磁気共鳴画像全身組成分析装置(Echo MRI 900、EchoMedical Systems社)を使用して意識があるマウスの体脂肪および除脂肪量を繰り返し評価した。
GTTおよびITTを常に使用してそれぞれグルコース負荷およびインスリン負荷中にグルコース代謝の動的調節を評価した。それらにより耐糖能異常の存在およびホルモンインスリンの作用に対して生じ得る抵抗性に関する情報が得られる。
動物にGTTのために1.5g/kgのD−グルコース(Sigma−Aldrich社)またはITTのために0.5U/kgのインスリン(ヒューマリン、Lilly社、フランス)をip注射した。GTTおよびITTのために動物を一晩絶食させた。これらの試験を翌朝行った。血液試料を尾静脈から異なる時点で(グルコースまたはインスリンのip投与から0、15、30、60、90および120分後に)採取し、グルコーススティック(OneTouch Vita、Lifescan France社、フランスのイシー=レ=ムリノー)を用いてグルコース濃度を測定した。
屠殺時に血液試料を採取し、グルコーススティックを用いて血糖を素早く評価し、次いで血液試料を3000rpmで15分間遠心分離した。得られた血漿をその後のインスリン測定のために−80℃で貯蔵し、製造業者の説明書に従うELISA(Mercodia社製のキット、スウェーデンのウプサラ)を実施してインスリン測定を行った。
インスリン抵抗性の存在に関する情報を与えるHOMA−IR指数を、式[(グルコース(mmol/L)×インスリン(mU/L))/22.5]を用いて計算した。
グラフパッドプリズム(GraphPad Prism)ソフトウェア(米国カリフォルニア州サンディエゴ)を用いて統計分析を行った。反復測定二元配置分散分析を行って、食餌摂取量、体重、GTTおよびITTに対する治療因子、時間因子およびそれらの相互作用の効果を分析した。一元配置分散分析を行って、累積食餌摂取量、体組成、GTTおよびITTのAUCならびに屠殺時の循環グルコース、インスリンおよびHOMA−IRに対する治療因子の効果を比較した。分散分析の結果が有意である場合(p<0.05)、チューキー事後検定を行って当該群間での適切な多重比較を可能にした。データは平均±SEMとして表されている。グラフはグラフパッドプリズムソフトウェアを用いて作成した。
結果
当該治療は、体重またはAOLの1回目の投与前に体重を測定した1日目から計算した体重の変化率(%)に対して有意な効果を有していなかった。
AOLの慢性投与は、3週間後に脂肪量を減少させる傾向があった(p=0.13、図6)が除脂肪量に対しては全く効果を有していなかった(図7)。平均±SEM値は図6および図7に示されており、統計分析はそれぞれ表3および表4に示されている。
10mg/kgの用量のAOLはITT中に循環グルコースレベルに対するインスリンの作用を有意に鈍らせ(図8)、これはインスリン抵抗性の存在を示唆している。従って、治療効果はAUCを分析する際にも認められ(AUC(媒体):12812.50±750.35、AUC(5mg/kgのAOL):15006.56±1139.69、AUC(10mg/kgのAOL):18168.33±1562.90、一元配置分散分析F(2,23)=5.186、p=0.0138)、10mg/kgのAOL群は媒体群よりも有意に高いAUCを有していた(チューキー事後検定、p=0.0107)。平均±SEM値は図8に示されており、統計分析は表5に示されている。
チューキー事後検定分析表の中の数はp値を表す。太字の値は有意な(p<0.05)結果に対応する。
5週間の治療後の屠殺時に2時間絶食させたマウスにおいて血糖値を測定した。
AOLは血糖値を減少させる傾向があり(図9)、統計分析は表6に示されている。
結論
食餌誘発性肥満動物において、AOLの慢性毎日投与はDIOマウスにおいて体重および食餌摂取量を減少させる傾向があった(データは示さず)。従って、これは脂肪量および基礎血糖値を減少させる傾向と関連していた。
全体として、これらのデータはAOLが食餌性肥満症モデルにおいていくつかの有益な効果を有し得ることを示唆している。
実施例4:神経疾患/パーキンソン病におけるAOLの効果
この研究では、パーキンソン病の亜慢性1−メチル−4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン(MPTP)マウスモデルにおける黒質(SN)中のチロシンヒドロキシラーゼ(TH)陽性ニューロンの数を数えることによってAOLの潜在的な神経保護効果を評価した。マウスをAOL(5mg/kg、ip)または媒体で連続11日間治療した。MPTP(20mg/kg、ip)または生理食塩水を4〜8日目の治療日に投与した。治療薬の最終投与から12日目に全てのマウスを屠殺した。
C57/bl6マウスにおける亜慢性MPTP投与により黒質線条体のドーパミン作動性ニューロンの変性が生じ、これによりSN中のTH陽性ニューロン数の減少(今回は39%の減少)が生じる。
材料および方法
媒体条件では、試験項目を生理食塩水中に0.5%のDMSO/0.95%のTween20に溶解し、AOLを5mg/kgの用量で腹膜内に(i.p.)投与した。投与体積は10mL/kgであった。
22〜28gの体重の雄のC57bl/6マウス(Janvier社)を12時間の明暗サイクル下で餌および水を自由に与えながら温度制御された部屋に収容した。さしあたって1群当たりn=10の最終数を達成するために、1群当たりn=12を使用して実験中に生じ得る減少を補った。黒質においてドーパミン作動性ニューロンの神経変性を生じさせるために、マウスをMPTP塩酸塩で治療した(20mg/kg(i.p.)を連続5日間にわたって1日1回)。
マウスを最後の投与後に人道的に頸椎脱臼によって安楽死させた。
脳の尾側半分(黒質を含む)をパラホルムアルデヒド(0.1Mのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.4)中に4%)中に5日間置き、次いで凍結保護のために20%のスクロース(0.1MのPBS中に20%)に移動させた。次いでその組織を冷たいイソペンタン(−50℃±2℃)中で凍結させた。
線条体をばらばらにし、重量を測定し、ドライアイス(−70℃±10℃)中で別々にスナップ凍結させた。組織試料をドーパミンおよびその代謝産物の任意のHPLC分析のために−70℃(±10℃)で貯蔵した。この選択肢を採用しない場合、線条体は破壊される。
中脳全体の冠状方向連続切片を50μmの間隔でクリオスタットを用いて切断した。切片を凍結保護溶液を含むウェルプレートの中に浮動状態で回収し、次いでこれをTH免疫組織化学処理の日まで−20℃で貯蔵した。
TH免疫組織化学を4番目の切片ごとに以下のように行った。組織切片を−20℃の冷凍庫から取り出し、放置して室温に調節し、次いでPBS溶液で洗い流した。内因性ペルオキシダーゼを0.3%のH2O2を含むPBS中で10分間インキュベートすることによって阻害した。この後に切片をPBSで洗浄し、非特異的抗原部位の遮断のためにPBS(4%の正常なウマ血清(NHS)および0.3%のTritonX−100)中で30分間インキュベートした。次いで、切片を1/10,000希釈の抗体希釈物+チロシンヒドロキシラーゼ(TH)のための一次抗体(抗TH親和性単離抗体、Sigma T8700)中、室温で一晩インキュベートした。次いで、切片をPBSで徹底的に洗い流し、ImmPRESS Igペルオキシダーゼポリマー検出試薬(Vector MP7401)中で30分間インキュベートした。この後に、切片をPBSで徹底的に洗浄した。次いで、免疫学的染色を3,3’−ジアミノベンジジン(DAB)/Tris/H2O2キット(Vector SK4100)で顕色させた。1分後、何回かのPBS洗浄により顕色を停止した。切片をマウントして0.1%クレシルバイオレットで対比染色した。
不偏の立体的解析を使用してTH免疫陽性(TH+)ニューロンの数を推定した(Mercator、Explora Nova社、フランスのラロシェル)。異なるTH+ニューロンの群のサイズおよび形状を調べてSNの境界を決定した。その体積を、式:V=ΣS td(式中、ΣSは表面積の合計であり、tは平均切片厚であり、dは測定する2つの連続する切片間の切片数である)を用いて計算した。4切片ごとに1つを使用して、系統抽出法を用いて光学式解剖器具を配置した。解剖器具(50μmの長さ、40μmの幅)を150μm(x)および120μm(y)だけ互いに分離させた。式:N=V(SN)(ΣQ−/ΣV(dis))(式中、Nは細胞数の推定であり、VはSNの体積であり、ΣQ−は解剖器具で数えた細胞数であり、ΣV(dis)は全ての解剖器具の総体積である)を使用してTH+ニューロンの数を推定した。次いで、各群についてニューロンの平均推定数およびSEMを計算した。
全ての統計分析をグラフパッドプリズム(Graphpad prism)バージョン7を用いて行った。全てのデータは平均±標準誤差(SEM)として示されている。AOLの効果は一元配置分散分析、次いでダネットの多重比較事後分析を用いて分析した。0.05未満のAP値を有意とみなした。
結果
SN中のTH+細胞数に対する治療の有意な効果が認められた(F:2,29=10.94、p<0.001、図10)。SN中のTH+細胞数は媒体で治療した動物と比較してMPTPで治療した動物において39%減少した(p<0.001)。AOLの投与後に、SN中のTH+細胞数は媒体と比較してMPTPで治療したマウスにおいて44%増加した(p<0.01)。
結論
5mg/kgの用量における連続11日間のAOL治療は、SN中のTH+細胞のMPTPに誘発される減少を防止するために媒体と比較して有意な神経保護効果があり、AOLの投与によりSN中の44%超の細胞生存が得られる。
これらのデータは、AOL治療がMPTP中毒から黒質中のドーパミン作動性ニューロンを保護できることを示唆している。
実施例5:心血管疾患/虚血再灌流障害におけるAOLの効果
本研究は、全虚血および再灌流後に生じる損傷からラットの灌流心臓を保護するAOLの能力を評価することを目的とする。
収縮性および組織生存能に対する30分間の全虚血およびその後の120分間の再灌流の結果(図11)を、10μMのAOLで予め治療したか未治療(対照媒体)の単離したラットの灌流心臓で調べた。
材料および方法
全ての手順は、英国動物(科学的方法)条例1986および国立衛生研究所によって発行された実験動物の管理と使用のためのガイド(NIH刊行物番号85−23、1996年改訂)に準拠していた。雄のウィスターラット(250〜300g)を3%イソフルランで麻酔し、ヘパリン処理してペントバルビタール(130mg/kg)の致死的なIP注射によって安楽死させた。心臓(約0.95gの生重量)を迅速に回収して、37℃で95%O2/5%CO2を通気した118mmol/LのNaCl、25mmol/LのNaHCO3、4.8mmol/LのKCl、1.2mmol/LのKH2PO4、1.2mmol/LのMgSO4、11mmol/Lのグルコースおよび1.8mmol/LのCaCl2を含有する氷のように冷たいクレブス−ヘンゼライト液(pH7.4)の中に入れた。ランゲンドルフ心臓灌流を行い(Garlid, K.D.ら, 2006. Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol. 291(1):H152−60)、左心室に配置し、かつ圧力変換器に接続したバルーンを用いて、二重積(心拍数×収縮期血圧)(RPP:rate pressure product)を連続測定して収縮性を評価した。心臓を一定流量モード(12mL/分)で灌流した。10分間の安定化およびその後の媒体(対照)または10μMのAOL溶液による10分間の治療後に、心臓を37℃の灌流緩衝液に浸漬しながら灌流の流れを30分間停止することで正常温度の全虚血を誘発させた。再灌流期間の終了時に心臓を染色して梗塞面積を評価するか、液体窒素で冷却したトングを用いて凍結クランプした。後者の場合、心臓を液体窒素下で粉砕してさらなる分析のために−80℃で貯蔵した。
再灌流期間の終了時に、心臓を塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)で染色した。すなわち、心臓において1%の最終濃度を得るために、心臓を12%(w/v)のTTC溶液で13mL/分で7分間灌流した。次いで、心臓をカニューレから外し、37℃でさらに4分間インキュベートした後、長手方向軸に垂直にスライスして6枚の切片にした。次いで、これらの切片を4℃の4%(w/v)のホルマリン溶液で一晩処理し、重量を測定した後、各切片の両側を写真撮影した。各側の壊死およびリスク部分の表面を面積測定(AlphaEase v5.5)により各写真上で決定し、心臓全体を虚血に供したため、梗塞面積は心臓の総断面積の割合として表した。
6種類の独立した製剤からのデータは平均±SEMとして表されている。各群の数nは20未満であり、当該分布を非正規とみなしたため、ノンパラメトリックマンホイットニー検定(SPSS statistics 17.0)を行って2つの群を比較した。結果はP値が0.05未満であれば統計的に有意であるとみなした。
結果
図11は、虚血後の再灌流の重要な段階中のRPP(本明細書では心収縮性の代わりとみなした)の進行を示す。明らかにAOLは収縮性を改善し、AOLで治療した対照心臓と比較した場合の同一の進行後に、再灌流の2時間後に対照心臓よりも約3倍高い収縮性の改善を示した。この時点で、心臓をTTC染色のために準備して組織生存能を評価した。AOL心臓のより高い収縮活動をTTC染色で確認し、治療した心臓および未治療の心臓の切片の写真(データは示さず)はAOLが心臓組織の重要な保護を明らかに誘発したことを示す。この保護をより徹底的に分析し、その結果は図12に示されている。梗塞面積(損傷した組織)は、AOLで治療した心臓と未治療の心臓の平均値と共に各独立した実験の総表面の割合として表されている。結果から、明らかにAOLが心臓組織を虚血/再灌流損傷から非常に有意に保護することが分かる。実際には、約50%の梗塞性組織をAOLでの予備治療によって救った(図12)。
結論
これらの結果は、生体外(生体器官)条件下では、高確率で複合体IのレベルにおけるミトコンドリアROS産生阻害剤としてのAOLの役割にまで及んでいる。
それらは心臓だけでなく虚血に供したあらゆる組織においても虚血/再灌流損傷に対する組織保護のためのAOLの治療的利益も証明している。
実施例6:心血管疾患/アントラサイクリンの心毒性におけるAOLの効果
本研究は、アントラサイクリンの心毒性モデルにおけるAOLの効果を評価することを目的とする。10週齢のラットにアントラサイクリン由来の抗癌剤をAOLと共に14〜17日間投与して、これを評価した。
材料および方法
この研究を10週齢のSDラットにおいて行い、異なる治療薬を腹膜内に14〜17日間投与した後、分析のために心臓を回収した。動物実験における「3R原則」を尊重するために、特に1種のアントラサイクリン分子のみ、すなわちドキソルビシンに対する実験に焦点を当て、AOLの効果を1種類の他の保護分子のみ、すなわちデクスラゾキサンのみと比較することによって試験する群の数を可能な限り制限した。
実験の終了時に、治療したラットの心臓を取り出し、心臓機能をLangendhorfシステムにおいてこれらの心臓の灌流後に徹底的に調べて、ドキソルビシンによって影響を受ける心臓機能およびAOL治療が効率的であるか否かを決定した。
この研究は、それぞれ8匹のラットからなる5つの異なる群を含む。
1.対照群。ラットは5%のDMSO+95%のNaCl(0.9%)からなる媒体のみを17日間にわたって1日2回(朝と晩)摂取した。
2.Doxo群。ラットは3mg/kg(ip)の用量のドキソルビシンを3日目から14日間にわたって2日に1回(朝)摂取した。ラットは全ての他の注射では媒体のみを摂取した。
3.Dexra群。ラットを3mg/kg(ip)の用量のドキソルビシンと同時に30mg/kg(ip)の用量のデクスラゾキサン(参照保護剤)で3日目から14日間にわたって2日に1回治療した(2011年にフランスの地域健康機関「ARS」によって推奨された投与量比に従う)。ラットは全ての他の注射では媒体のみを摂取した。
4.AOL群。ラットをAOLおよびドキソルビシンで治療した。
・4mg/kg(ip)のAOL、朝と晩、ドキソルビシンの1回目の注射の前の72時間
・ドキソルビシン注射の日(Doxo群に基づく):ドキソルビシン注射と共に4mg/kg(ip)のAOL、次いで90分後に4mg/kg(ip)の用量のAOLの2回目の注射
・ドキソルビシン注射以外の日:4mg/kg(ip)のAOL、朝と晩
5.AOL/Carv/Enal群。ラットを本明細書の上に記載したAOL群からのラットと同様に治療した。AOL注射に心不全のための古典的な治療薬(1mg/kgの用量のカルベジロール(αβ遮断薬)および0.5mg/kgの用量のエナラプリル(血管拡張薬))を添加した。
実施例7:心血管疾患/肺高血圧症におけるAOLの効果
本研究は、肺血管系の生理におけるミトコンドリアの役割を研究し、かつ肺高血圧症の新しい他の治療を提供することを目的とする。この疾患は、肺血管抵抗の上昇、右心室肥大、右心不全および最終的に死に繋がる肺の動脈圧の上昇および肺動脈(PA)のリモデリングを特徴とする。
肺高血圧症は5つの群に分けることができ、そのうち群1は肺動脈高血圧症に対応している。群3に関しては、肺疾患(慢性閉塞性肺疾患など)および/または肺胞の低酸素血症(alveolar hypoxemia)に起因する肺高血圧症を含む。
AOLの効果の問題に対処するために、群3および群1の肺高血圧症をそれぞれ有する、病態生理学的特性を共有する2種類の異なるラットモデル、すなわち低酸素症モデルおよびモノクロタリン誘発モデルを使用した。
材料および方法
雄のウィスターラット(300〜400g)を3つの群に分けて4週間後に使用した。
・第1の群(対照または正常酸素圧ラット−Nラット)を周囲空気室に収容した。
・第2の群(慢性低酸素症ラット−CHラット)を低圧室(50kPa)において慢性低酸素に3週間曝露した。
・第3の群(MCTラット)に60mg/kgの用量で腹膜内単回用量のモノクロタリンを注射した。MCT(Sigma社、フランスのサン=カンタン=ファラヴィエ)を等体積のHCl(1M)およびNaOH(1M)に溶解した。
各群において、何匹かの動物をAOL(スルファレム(Sulfarlem)、EG Labo Eurogenerics社、不断給餌で与えられる餌と混合した破砕錠剤)で治療し、何匹かの他の動物は治療しなかった。食べた餌の重量を毎日測定して投与したAOL用量を推定した。よって、第2および第3の群では3週間の実験中に10mg/kg/日を投与した。
各条件では7〜10匹のラットを使用した。全ての動物の世話および実験手順は、欧州実験動物学会連合(FELASA:Federation of European Laboratory Animals Science Association)の勧告に準拠しており、地方の倫理委員会によって認可されていた(アキテーヌ地域倫理委員会(Comite d’ethique regional d’Aquitaine)−参照番号50110016−A)。
平均胚動脈圧(mPAP)および右心室肥大の両方を測定して肺高血圧症を評価した。PAPを測定するために、N、CHおよびMCTラットを腹膜内注射(60mg/kg)によってペントバルビタールナトリウム(Centravet社)で麻酔し、閉胸ラットにおいて、右の頸静脈、次いで右心房および右心室を通して肺動脈の中に挿入し、かつBaxter社製Uniflowゲージ圧力変換器に取り付けられたカテーテルを介してmPAPを測定した。右心室(RV):左心室+隔壁(LV+S)重量の比(フルトン指数)によって右心室肥大を推定した。
パラフィン包埋した肺の切片からの肺動脈(PA)中膜厚を測定してPAリモデリングを評価した。最初に肺切片を一般的な組織学的手順に従ってヘマトキシリンおよびエオシン(VWR)で染色した。各切片において、異なる断面直径を有する10個の細葉内動脈からなる3群を観察して中膜壁厚を評価した(すなわち、50μm未満、50〜100μmおよび100〜150μmの断面直径)。
結果
結果をn回の独立した観察の平均±SEMとして表す。対応のない標本のためのノンパラメトリック試験(マンホイットニー検定)を用いて全てのデータを分析した。図13は肺の動脈圧(図13A)および心臓リモデリング(図13B)に対するAOLの効果を示す。nはmPAPおよびフルトン指数測定のためのラット数を示す。グラフパッドプリズムソフトウェア(v6、Graphpad Software社)を用いて全ての棒グラフの作成および統計を行った。P<0.05を有意とみなした。図から分かるように、AOLは対照群(Nラット)に対して有意な効果を有していなかった。しかし、平均胚動脈圧はAOLで治療したMCTラットにおいて減少し、AOLで治療したCHラットにおいてさらにより有意であった。但し、AOL治療はフルトン指数に対しては効果を有していなかった。
図14は肺動脈リモデリングに対するAOLの効果を示す。nは中膜厚の割合(%)の測定のために分析した血管数を示す。グラフパッドプリズムソフトウェア(v6、Graphpad Software社)を用いて全ての棒グラフの作成および統計を行った。P<0.05を有意とみなした。AOLはCHラットにおいて有意な効果を示し、肺動脈直径は約30%減少した。
結論
10mg/kg/日の経口用量でのAOL治療は、生体内での肺高血圧症、特に群3の肺高血圧症における予防および/または治療において有意な効果を有していた。結果は実際に臨床的総体症状の有意な改善を示している。
これらのデータは、ミトコンドリアが肺血管生理機序において主要な役割を担い、かつAOLの使用を肺高血圧症の治療まで拡張させることを示唆している。
実施例8:老化疾患および早老症候群/黄斑変性症におけるAOLの効果
本研究は網膜を進行性変性に対して保護するAOLの能力を評価することを目的とする。
材料および方法
周期的な低強度照明下で飼育したラットを周期的な高強度照明下に1週間移動させ、3つの群(未治療の動物、媒体で治療した動物およびAOLで治療した動物)に分けた。治療した動物に媒体またはAOL注射を6mg/kg/日の用量で移動日の7日間にわたって1日3回行った(照明をつける前の30分、01:00pm、09:00pm)。1週間後に動物を暗所に移動させた(D0)。
対照群(「移動させない群」)は周期的な高強度照明下に移動させなかったが、上記と同じ治療、すなわち7日間に3回の媒体またはAOL注射を行い、その後に暗所に移動させた(D0)。
暗所への移動の翌日(D1)に1回目の網膜電図検査を行う。その検査では光刺激に応答して網膜によって生成される電気生理学的シグナルを測定する。そのシグナルは典型的には2種類の波、すなわちa波およびb波を特徴とする。a波は外側の光受容体層の杆錐状体に由来する最初の角膜の陰性波を表す。それは外節膜におけるナトリウムイオンチャネルの閉鎖による光受容体の過分極を反映している。b波は内網膜(大部分がミューラーおよびオン双極細胞)に由来する角膜の陽性波を表す。網膜電図の分析は、光刺激の強度の関数としての振幅および/またはこれらの波の潜時を測定することからなる。所与の光刺激強度ではa波の振幅は光受容体の数に依存し、所与の光刺激強度および所与の光受容体数ではb波の振幅はシグナル伝達効率を示す。
D1の網膜電図検査後に動物を周期的な低強度照明条件下に戻し、D15に2回目の網膜電図検査を行う。
次いで、組織学的分析のために動物を屠殺した。網膜の各種層の厚さ、特に外顆粒層(ONL)厚および内顆粒層(INL)厚を測定した(単位:μm、視神経からであって視神経乳頭の上極および下極において0.39mmごと)。
結果
組織学的分析は図15に報告されている。それは、対照群(「移動させない群」)においてAOLでの治療がONL厚に対して効果を有していなかったことを示している(図15A)。これはAOLが網膜の光受容体に対して毒性作用がないことを示唆している。
一方、周期的な高強度照明条件への移動(「移動させた場合」)は未治療の動物においてONLの有意な減少(いくつかの領域では半分だけ)を誘発する。しかし、AOLはONLを光誘発性損傷に対して保護する傾向がある。組織学的分析は実際にAOLで治療し、かつ周期的な高強度照明に曝露した動物においてONL厚の有意な増加を示した(図15B)。
結論
AOL治療は網膜への光誘発性損傷に対する有意な保護効果を有する。特に網膜の厚さは、未治療の動物と比較した場合に長期の周期的な高強度照明曝露後に保存されていることが分かった。
実施例9:ミトコンドリア機能障害に関連する疾患におけるAOLの効果
本研究は酸化的リン酸化機能障害モデルにおける生体内でのAOLの効果を試験することを目的とする。
材料および方法
CD1バックグラウンドに対してミトコンドリアのマンガンスーパーオキシドジスムターゼが不足しているマウス(SOD2−KO)を使用した。この遺伝子変化は有害な表現型および平均8日齢での動物の死亡を引き起こす。ミトコンドリアのスーパーオキシドディスムターゼは、スーパーオキシド(高反応性)を過酸化水素(低反応性)に変換させ、次いでミトコンドリア膜を通過してマトリックスおよび細胞質の抗酸化系によって解毒することができるフリーラジカル消去酵素である。この研究の目的は、AOLがIQスーパーオキシド産生に対するその活性によりSOD2−KO表現型を救うことができるか否かを試験することであった。
出生後、動物の子の遺伝子型を同定し(3日齢)、一腹子数は1ケージ当たり動物の子が6匹まで減少した。次いで、動物を治療した(Kolliphor(登録商標)中にAOL−5mg/kg)か治療しなかった(Kolliphor(登録商標)のみ、以下ではKOLと記載されている)。投与量の選択は主に、化合物(Kolliphor(登録商標)中に2.8mM)の溶解限度および動物の子における最大注射可能体積(1グラムの体重当たり6〜7μL)によって決定された。同じ親からの2種類の異なる世代に対して2種類の研究(寿命と心臓におけるコハク酸デヒドロゲナーゼ(SDH)活性および肝臓におけるオイルレッドO染色)を行った。毎日動物の体重を測定して(腹膜内)注射した。
コハク酸デヒドロゲナーゼ活性はミトコンドリアマトリックスにおけるスーパーオキシドのマーカーである。従って、SOD2の不足は心臓におけるSDH活性の減少に関連している。この実験の目的はAOLがKOマウスにおけるSDH活性を回復することができるか否かを試験することであった。
オイルレッドO染色はSOD2−KOの肝臓に蓄積することが分かっている脂質のマーカーである。しかし、スーパーオキシド/過酸化水素産生と肝臓の脂質蓄積との直接的な関連性は確立されていない。この研究の目的は、SOD2−KOマウスにおける肝臓の脂質蓄積を防止するAOLの効力を試験することであった。
結果
寿命
4つ群は以下から構成されていた。
1.WT−KOL(n=7)、媒体のみで治療した野生型マウス群
2.WT−AOL(n=17)、AOLで治療した野生型マウス群
3.KO−KOL(n=2)、媒体のみで治療したSOD2−KOマウス群
4.KO−AOL(n=4)、AOLで治療したSOD2−KOマウス群
3日齢から死亡するまで動物に1日1回注射した。
図16Aおよび図16Bは体重の漸増的変化(A)および最初の体重の割合を示す。これらの結果から、体重および体重増加がWTマウスよりもKOマウスで低いことが分かる。しかし、AOLでの治療は8日目〜12日目から分かるようにこの効果を軽減する傾向があり、当該化合物の潜在的な有益な効果を示唆している。
図16Cは、AOLで治療したか否かに関わらずSOD2−KOマウスの生存割合を示す。上記結果を考慮して期待されるように、KOマウスにおいてAOL治療によって中間寿命および最大寿命の両方が僅かに向上し、AOLで治療したマウスは未治療のマウスと比較して最長2日間長く生き延び、これはAOLの有益な効果を支持している。
心臓におけるSDH活性およびオイルレッドO染色
5つの群は以下から構成されていた。
1.WT−注射なし(n=6)、未治療の野生型マウス群
2.WT−KOL(n=6)、媒体のみで治療した野生型マウス群
3.WT−AOL(n=6)、AOLで治療した野生型マウス群、
4.KO−KOL(n=4)、媒体のみで治療したSOD2−KOマウス群
5.KO−AOL(n=6)、AOLで治療したSOD2−KOマウス群
この研究では、動物を3日目から5日目まで毎日治療した(5mg/kg)。心臓および肝臓を6日目に回収した。
予想どおりに、SDH活性はWT動物と比較してKOにおいて減少する傾向があった(有意でない)。但し、AOLはKOマウスにおいてSDH活性の非常に僅かな増加のみを示したが、SDH活性をWTマウスのレベルまで回復させることはできなかった(図17)。
図18は、脂肪滴の平均サイズ(パネルA)、密度(パネルB)および面積(パネルC)を示す。未治療のKOマウスはWT動物と比較して高脂質含有表現型を示した。しかし、AOLで治療したKOマウスでは未治療の動物と比較して脂肪滴密度は減少した。さらに重要なことには、これらの結果はAOL治療がKOマウスにおける総脂質面積を回復させることができることも示し、これはSOD2−KOマウスにおける生体内でのミトコンドリアのスーパーオキシド産生の狙い通りの抑制に一致していた。
結論
生体内研究は有望な結果を示している。AOL治療はマウスにおけるSOD2枯渇の効果を完全に打ち消すことはできないが、結果は体重増加の低下の軽減と共に未治療のKO動物と比較して寿命をなお数日引き延ばすことができたことを示している。これはAOLの潜在的効果を示唆している。
AOLの生物学的利用能は非常に短いことが知られている。従って、より高い用量での治療はこれらの実験におけるAOLの効果の向上に繋がる可能性がある。しかし、常時発現のKOは非常に特定の治療のみにより救われる非常に有害な表現型のままであり、他の薬物との相乗作用を必要とするかもしれない。
生体内での結果から、AOLが脂質含有量を回復させることができ、かつ/またはSOD2−KOマウスの肝臓における脂質蓄積を防止することができることも分かった。
実施例10:自己免疫疾患/強皮症におけるAOLの効果
本研究は強皮症を有する患者からの線維芽細胞に対するAOLの効果を試験することを目的とする。強皮症は、コラーゲン合成の増加、微小血管の損傷、Tリンパ球の活性化および結合組織産生の変化を特徴とする慢性の全身性自己免疫疾患である。
材料および方法
健康なドナーおよび強皮症を有する患者の両方からの線維芽細胞を完全DMEM培地(10%FCS、1%抗生物質)においてフラスコで培養する。6時間の接着後に、細胞から血清を一晩除去した。
AOLを即席で調製する。AOLの重量を測定し、5mg/mLでDMSOに溶解した。この原液を最終的に10mMおよび5mMになるまでDMSOでさらに希釈した。AOLを40、20および10μMの最終濃度に達するまで完全DMEM培地でさらに希釈した。
培養した細胞を40、20および10μMのAOLに接触させた。対照細胞をDMSO(0.2%)およびN−アセチルシステイン(3mM)を添加した完全DMEM培地に接触させた。細胞を正常酸素圧条件(37℃、20%O2)および低酸素状態(37℃、1%O2)で6時間または24時間インキュベートする。
MMP−1、MIPおよびMCPの分泌の分析のために培養物上澄みを回収し、等分し、投与のために−20℃で貯蔵する。製造業者の説明書に従ってMMP−1をELISA(Abcam社)で定量化する。MCP−1およびMIP−1αの濃度をCBA(Cytometric Bead Array、Biolegend社)で定量化する。
MMP−1、コラーゲンおよびCCl2の発現の分析のために、細胞をトリプシンで剥がし、PBSで洗浄する。次いで、細胞ペレットを溶解緩衝液に再懸濁し、製造業者の説明書に従ってRNA抽出を行う(Nucleospin RNA Plus、Macherey Nagel社)。1μgのRNAをレトロ転写し(retro−transcribe)(GoScript、Promega社)、次いで、BioRad CFX384 PCR装置におけるSYBR緑色qPCR(SYBR qPCR Premix Ex Taq、Takara社)の前に10倍に希釈する。MMP−1、Col1A2およびCCl2のためのプライマーを使用して目的の遺伝子を測定し、Ppia、RPLP0およびEEF1A1のためのプライマーを使用して参照遺伝子を測定する。