以下、添付図面に示す実施例を参照して本発明を実施するための形態につき説明する。なお、以下に示す実施例はあくまでも一例であり、例えば細部の構成については本発明の趣旨を逸脱しない範囲において当業者が適宜変更することができる。また、本実施形態で取り上げる数値は、参考数値であって、本発明を限定するものではない。
<実施形態1>
図1に本発明を採用した3次元造形装置の構成例を示す。図1の装置は、造形エリアに成膜した導電性の材料粉末を選択的に輻射加熱し、焼結させる動作を繰り返して3次元造形物を製造する、例えば3Dプリンタなどの3次元造形装置である。
図1の造形装置では、造形テーブル4を造形チャンバ1内に収容し、エネルギービーム照射装置としてのレーザ光源12と、その走査系を造形チャンバ1の外側に配置している。造形チャンバ1は外部の雰囲気に対して気密を保てるよう構成される。造形チャンバ1には排気口2が設けられ、この排気口2を介して不図示の真空ポンプにより造形チャンバ1の内部を減圧することができる。また、本実施形態の造形チャンバ1は、減圧後に、給気口3を介してより所望のガス(例えば不活性ガス)を封入できるよう構成されている。
図1の造形チャンバ1の上方には、輻射加熱による造形を行うためのエネルギービームとしてレーザビームLを照射するレーザ照射装置を配置する。このレーザ照射系は、例えば、レーザ光源12、コリメータレンズ13、ビームエキスパンダ14、集光レンズ15、ガルバノスキャナ16、およびレーザスポットを結像面上で等速走査させるためのf−θレンズ17などから構成される。ガルバノスキャナ16は、後述の制御装置によって、例えば造形物の形状を表現した3DCAD(あるいは3DCG)信号によって変調され、造形物の1層に相当する形状にレーザスポットを水平面内で走査するよう制御される。
造形チャンバ1内部には、金属や樹脂などの材料から構成された造形テーブル4が設置されている。造形テーブル4には、例えば鉛直方向に穴5a、6a、10aが設けられている。これらの穴5a、6a、10aの断面形状は矩形、円形など任意である。
穴5a、6a、10aは、それぞれ造形前の材料粉末を貯蔵するための穴、造形を行うための穴、焼結されなかった材料粉末を回収するための穴に相当する。特に、造形を行うための穴6aは、3D造形を行うための造形エリアに相当する。
材料粉末を貯蔵する穴5aの内部には、昇降可能な材料供給ステージ5が配置されている。この材料供給ステージ5によって、造形前に穴5aの上部に予め貯蔵された材料粉末をせり上げ、粉敷きローラ11によって、適宜必要な量の材料粉末を造形テーブル4上に供給することができる。材料供給ステージ5は、例えば造形チャンバ1の外部の駆動手段(例えばサーボモータ+ラック&ピニオンなどを用いた伝達系(不図示))によって昇降可能に構成される。なお、本実施形態では、穴5aの内部に貯蔵される材料粉末は導電性の金属材料であるものとする。
造形を行う穴6aの内部には、昇降可能な造形ステージ6が配置されている。造形ステージ6上には、ベースプレート7が設けられている。このベースプレート7は、造形ステージ6に対して例えばねじ止めなどの手法により固定される。造形ステージ6は、例えば造形チャンバ1の外部の駆動手段(例えばサーボモータ+ラック&ピニオンなどを用いた伝達系(不図示))によって昇降可能に構成され、層ごとの造形が進むにつれて後述の制御装置によって例えば下降するよう制御される。また、造形テーブル4の材料回収の穴10aには、回収容器10が配置される。
本実施形態では、造形を行う穴6aの周囲側面に、らせん状の誘導加熱コイル8を配置する。本実施形態では、誘導加熱コイル8は、金属性の材料粉末(22)から造形された造形物(O)を誘導加熱するために用いる。なお、図1(あるいは図12)では誘導加熱コイル8はほぼ2巻き分のみ図示してあるが、誘導加熱コイル8のループ数は任意である。
造形テーブル4の造形を行う穴6a(造形エリア)の内壁は、絶縁体9により構成し、誘導加熱コイル8は、絶縁体9の中に埋設する。絶縁体9は、絶縁セラミック材料、特に熱衝撃に強い材料である窒化アルミ、窒化ケイ素などの材質を用いて、例えば塗布〜乾燥あるいは焼結などの工法によって形成することが考えられる。誘導加熱コイル8や、下記の熱電対18は、絶縁体9の形成時に、絶縁体9中に埋設加工することができる。この絶縁体9により誘導加熱コイル8(ないしこの中空部により構成される冷却装置)が造形エリア(穴6a)の内側と隔離される。
誘導加熱コイル8は、例えば図12に示すような形状であり、らせん形状の部分と、リード部81から成る。なお、この誘導加熱コイル8の形状は、後述の実施形態3で用いる誘導加熱コイル37でも同様である。誘導加熱コイル8は、例えば銅などの導電材料、好ましくは中空のパイプ材から構成する。電気的には、リード部81は、電源線82、82を介して後述の電源系(図11)に接続される。また、誘導加熱コイル8の中空部位は、後述の冷却系(図11)に接続され、81a、81bで示すように冷媒(例えば冷却水)を供給、回収し、循環させる。このように誘導加熱コイル8の内部を冷媒(例えば冷却水)を循環させることにより、特に造形を行う穴6aの内壁の絶縁体9を冷却し(図1)、この部分の温度管理を行う。
本実施形態では、後述の制御装置によって、誘導加熱コイル8による誘導加熱と、その内部の冷媒の循環を制御することにより、特に図1の造形済みの造形物Oと、造形エリア(造形を行う穴6a)の内壁部位の温度管理を行う。
この温度管理のために、造形エリア(穴6a)内の造形済みの造形物(O)の最上部の温度を測定する第1の温度測定装置として、放射温度計19を配置している。また、造形エリア(穴6a)内の造形済みの造形物(O)の最下部の温度を測定する第2の温度測定装置として、ベースプレート7に熱電対18を配置している。
また、造形エリア(穴6a)の周囲のそれぞれ異なる位置に配置された複数の測定点の温度をそれぞれ検出する第3の温度測定装置として熱電対20を配置している。造形済みの造形物を取り巻く造形物(O)の側面周囲、特に造形エリア(穴6a)内壁部分の未焼結の材料粉末22の温度検出手段を構成する。熱電対20は、絶縁体9の内部に埋設、配置する。
図1の造形装置では、造形テーブル4の穴5aの上部〜回収容器10の上部の開口部の上面の領域を移動できるよう、粉敷きローラ11が配置される。粉敷きローラ11の回転駆動系および上記領域における(水平)往復移動系には、公知の構成を用いることができる。これら粉敷きローラ11の駆動手段は、図1では詳細図示は省略してあるが、少なくとも、図1の左右方向の(水平)往復移動と、順逆方向の回転運動をそれぞれ独立して制御できるよう構成される。造形時の粉敷きローラ11による材料粉末の供給および回収は、例えば次のように行われる。
1層の造形の際には、穴5aの上部の材料粉末を適量供給できるよう材料供給ステージ5をせり上げる。一方、造形ステージ6は例えば造形物の1層分の高さ下降させて待機させる。この状態で、粉敷きローラ11を図中左方から穴5aの上部〜造形ステージ6の上部を転動させて、1層分の材料粉末を馴らしながら造形ステージ6ないしは既に造形済みの造形物(O)上に供給する。さらに粉敷きローラ11を回収容器10の上部の開口部まで転動させることによって、1層分を超える余分の材料粉末を回収容器10の内部に回収する。
図11に、上記の造形装置(図1)の誘導加熱コイル8を用いた加熱および冷却(温度管理)を行うためのハードウェア構成の一例を示す。図11において、誘導加熱コイル8のリード部81は、電気的には、電源線82、マッチングトランス88、電源線84を介して交流電源86に接続されている。交流電源86には、好ましくは例えば後述のような出力周波数のオートマッチングを行えるものを用いる。後述の制御装置(600)のCPU(601)は、シーケンサ87を介して交流電源86の出力交流の電力、周波数、あるいはデューティ比などを制御することができる。
一方、誘導加熱コイル8の冷媒(冷却水)の循環はチラー85によって行う。チラー85は冷媒流路83を介して誘導加熱コイル8の中空の冷媒(冷却水)流路と連通させる。チラー85は、この種の冷媒(冷却水)の循環制御を行うためのもので、例えば、冷媒(冷却水)の温度制御を行う加熱(または冷却)素子や、ポンプなどの流量制御部を備える。また、チラー85は、制御回路とのインターフェース手段を備え、後述の制御装置(600)のCPU(601)は、適宜制御情報を送信することにより、冷媒(冷却水)の温度設定や単位時間あたりの流量設定を行うことができる。
図13に、図1の造形装置の制御装置600(制御系)の構成例を示す。図13の制御系は、汎用マイクロプロセッサなどから成るCPU601、ROM602、RAM603、インターフェース604、605、606、などから構成される。制御装置600には、その他に、必要に応じてネットワークインターフェースや、例えばSSDやHDDのディスク装置で構成した外部記憶装置を配置してもよい。
ROM602は、CPU601に例えば、図1の造形装置の基本制御、および本実施形態の温度管理を実行させるための制御プログラムと制御データを格納する。なお、ROM602に格納した制御プログラムと制御データを後から更新(アップデート)できるよう、そのための記憶領域はE(E)PROMなどの記憶デバイスによって構成されていてもよい。RAM603は、DRAM素子などから構成され、CPU601が各種の制御、処理を実行するためのワークエリアとして用いられる。後述する温度管理の制御手順に係る機能は、CPU601が本実施形態の制御プログラム(例えば図8)を実行することにより実現される。なお、SSDやHDDなどの外部記憶装置を配置している場合には、上記の制御プログラムや制御データを例えばファイル形式で格納することができる。また、SSDやHDDなどの外部記憶装置は、RAM603上の主記憶の領域を補完する仮想記憶領域を配置するためにも利用することができる。
なお、外部記憶装置は、SSDやHDDに限らず、着脱式の各種光ディスクのような記録媒体、あるいは、着脱式のSSDやHDDのディスク装置、着脱式のフラッシュメモリから構成されていてもよい。このような各種の着脱式のコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、例えば、本発明の一部を構成する制御プログラムをROM602(のE(E)PROM領域)にインストールしたり、またはアップデートするために用いることができる。この場合、各種の着脱式のコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、本発明を構成する制御プログラムを格納しており、記録媒体それ自体も本発明を構成することになる。
ROM602(あるいは外部記憶装置)に格納される制御データには、例えば、実験(後述の図2)によって得られた特定の材料粉末から造形する造形物に係る「拡散接合境界温度」(後述)のデータが含まれる。
CPU601は、ROM602(あるいは不図示の外部記憶装置)に格納された造形制御プログラム、温度管理に係る制御プログラム、ファームウェアなどを実行する。これにより、例えば図8に示す(制御装置600の)各機能ブロック(または制御ステップ)が実現される。
また、図13において、制御装置600には、インターフェース604、605、606が設けられている。これらのうち、例えばインターフェース604は、外部装置から3次元造形データ(3DCAD、3DCGデータなどデータ形式は任意)を受信するために用いる。また、インターフェース605は図1の造形装置の被制御要素607(P)にアクセスするために用いられる。この被制御要素607(P)には、例えば、粉敷きローラ11の駆動系、レーザ光源12、造形ステージ6を昇降制御する(3Dプリンタの)駆動系などが含まれる。また、造形チャンバ1内の雰囲気調整用の減圧装置や、不活性ガスの供給装置(いずれも詳細不図示)などが配置される場合には、被制御要素607(P)にはこれらの部材もCPU601の制御対象として含まれる。
また、図13では、特に上記の温度管理系のチラー85、シーケンサ87、センサ類609を図示している。このセンサ類609は、温度検出のための上記の熱電対18、20、あるいは放射温度計19に相当する。これらの温度管理系の各部は、CPU601によってインターフェース606を介して制御される。例えば、CPU601は、インターフェース606を介してセンサ類609の測定情報を取得できるとともに、所定の信号形式によって制御信号を送信することにより、チラー85、シーケンサ87などの動作を所望に制御可能である。
なお、ネットワークインターフェースを配置した場合、このインターフェースは他の制御端末(不図示)や、他の造形装置、ネットワーク上のサーバなどと通信するために用いることができる。このネットワークインターフェースには、例えば有線、無線接続によるネットワーク通信方式、例えば有線接続ではIEEE802.3、無線接続ではIEEE802.11、802.15のような通信方式を用いることができる。なお、インターフェース604はネットワークインターフェースで構成してもよく、造形データの入出力をネットワーク通信を介して行うようにしてもよい。
次に、図1の造形装置における3D造形処理の概略につき説明する。造形チャンバ1は図示しない作業窓より内部にアクセス可能となっている。造形に先立ち、材料供給ステージ5への造形材料(材料粉末22)の貯蔵作業、ベースプレート7の取り付け作業を事前に行う。
その後、造形チャンバ1内の雰囲気の調整を行う。例えば作業窓(不図示)を閉じ、再度チャンバ内の気密を確保する。もし造形材料が酸化しやすい材料である、などの事情がある場合には、チャンバ内の酸素濃度を下げる目的で、排気口2より真空ポンプでチャンバ内を減圧する。また、その後で給気口3より不活性ガスを導入し封止しても良い。不活性ガスとしては窒素、アルゴンなどが好適に用いられる。なお、造形チャンバ1内の雰囲気要件として、酸素濃度のみが課題であるならば、必ずしも造形チャンバ1は封止されている必要は無い。また、例えば造形中常に不活性ガスを供給、排出することで結果的に造形チャンバ1内の酸素濃度を規定以下に制御するようにしてもよい。また、同様に不活性ガスを供給、排出することにより造形チャンバ1内で発生したヒュームや浮遊した材料粉末を回収しながら造形を行っても良い。
造形チャンバ1内の雰囲気が所望の真空度、酸素濃度あるいは封入ガス濃度となったことを確認した後、ベースプレート7の予備加熱を行う。
ベースプレート7が導電性材料である場合は、誘導加熱コイル8を利用して予備加熱を行う事もできる。ベースプレート7を一定の温度に維持したまま、第1層の造形に入るためには、ベースプレート7の上面が造形テーブル4の上面とほぼ一致した高さで予備加熱されることが望ましい。ただし、予備加熱に誘導加熱コイル8を用いる場合、ベースプレート7の予備加熱と同時に、造形ステージの下部構成部品も発熱する恐れがある。これを考慮し、予備加熱中および造形中にコイルの内側に侵入し得る部位については上記の絶縁体9と同様の絶縁材料で構成することが望ましい。
また、ベースプレート7の予備加熱は誘導加熱コイル8によらず、造形ステージに設けた抵抗加熱ヒーターを用いて行っても良い。この場合、ベースプレート7の材料は導電性の有無を問わない。なお抵抗加熱ヒーターは通電中の誘導加熱コイル8の内側に侵入し得ない位置に設ける必要がある。
ベースプレート7の温度制御はベースプレート7内に設けられた熱電対18を制御点として行う。ベースプレート7の予備加熱の指令温度は、後述する(造形中の)造形物の指令温度と同一で良い。この造形物の指令温度の決定方法については後で詳述する。
例えば、ベースプレート7とそれに隣接する造形ステージが予備加熱温度において酸化し劣化し得る構成であるものとして、予備加熱前にチャンバ内雰囲気の調整を行う。しかしながら、通常大気下でも予備加熱温度までの昇温が可能である構成の場合には、雰囲気の調整工程と予備加熱工程を並行して行い、造形開始までの時間を短縮するようにしても良い。
続いて、第1層の造形を開始する。図1において粉敷きローラ11を材料の貯蔵穴の左側に待機させ、材料供給ステージ5をせり上げ、適当な量の材料粉末を造形テーブル4上に供給する。なお薄膜の形成に必要な量よりも若干多めに供給を行う。粉敷きローラ11を所望の速度で右方に並進移動させるとともに回転させる。このようにして、供給ステージ上にせり出た材料粉末の山を右方へ搬送しながら、ベースプレート7上に材料粉末の薄膜を形成していく。
形成される薄膜の厚さは粉敷きローラに対する造形ステージ6の相対高さを予め調整することで制御することができる。粉敷きローラ11はベースプレート7上を通過し、残った粉体材料を回収容器10に流し込む。その後、そのまま粉敷きローラを左方へ並進移動させ、初期の待機場所まで戻す。また、造形ステージ6を僅かに上昇させてから、粉敷きローラ11を待機場所に戻すことで、往路で形成した薄膜を押し潰し、あるいは削り取って所望の膜厚としても良い。この場合は粉敷きローラ11を回転をさせながら待機位置に戻すことになる。
なお、薄膜の形成中もベースプレート7に対する上記の予備加熱は切らないでおく。ただし、粉敷きローラ11が導電性材を含み、誘導発熱により粉敷きローラ11の運動精度や薄膜形成挙動に影響が出るようであれば、粉敷きローラ11が誘導加熱コイル8上を通過中のみ、誘導加熱コイル8の加熱通電を遮断するよう制御してもよい。
なお、以上では薄膜形成の手段として粉敷きローラ11を例示したが、薄膜形成は粉敷きローラ11に限らずスクレーパーなどにより行うこともできる。
続いて、ベースプレート7上に形成された粉体薄膜に造形用レーザを選択的に照射していく。レーザ光源12から得られたレーザビームをコリメータレンズ13でコリメートし、ビームエキスパンダ14で帯状に広げた後、集光レンズ15で集光する。レーザビームLはガルバノスキャナ16のミラーで反射され、f−θレンズ17を通過して最上層に材料粉末22から形成された薄膜の上面に焦点を結びレーザスポットを形成する。ガルバノスキャナ16は後述の制御装置の指令に基づきレーザスポットを材料粉末22の薄膜上面内で水平にスキャンさせる。
このレーザスポット走査を制御するために、制御装置600のCPU601は、インターフェース604を介して外部装置から予め用意された造形物の3次元モデルデータ(3DCAD、3DCGデータなど)を入力する。そしてこの3次元モデルデータを水平断面の積層データに分解し、さらに各層に対応する造形層のスキャン軌跡のデータを生成する。さらにCPU601は、当該の造形層の軌跡データに基づき、走査系、例えばガルバノスキャナ16の駆動データを生成する。なお、レーザのスキャン光学系は上述の構成に限定されるものではない。例えば、ガルバノスキャナなどの揺動走査系に限定されることなく、必要に応じてポリゴンミラーなどの回転走査系を用いることが考えられる。また、本実施形態では、エネルギービームとしてレーザビーム(L)を考えたが、材料粉末22の輻射加熱に電子ビームなどの他のエネルギービームを用いる場合には、その発生源や、走査系は当業者において適宜変更して構わない。
以上のようにして、レーザ光をスキャンし薄膜を焼結する間、本実施例では、誘導加熱コイル8はベースプレート7および造形された造形物の加熱を続ける。
1層目の焼結が終了すると、造形ステージ6は2層目の所望の膜厚分だけ下降し、1層目と同様に2層目の材料供給および薄膜形成を行う。なお、造形時間短縮のために、1層目の造形中に並行して材料供給工程のうち実行可能な部分を行っても良い。
以後、2層目以上の層も同様に造形を行う。本実施例では、造形中、誘導加熱コイル8は常に加熱を続け、造形物Oの温度を所望の温度に保ち続ける。造形初期から造形終了までの誘導加熱コイル8による温度管理については後で詳述する。
造形が終了すると、造形チャンバ1の雰囲気は保ったまま、造形物Oの降温を開始する。例えば、誘導加熱コイル8の通電を遮断し、造形物Oないしその周囲が作業者の作業が可能となる温度まで冷却する。この降温中、制御装置600は熱電対18、20や放射温度計を用いて、引き続き造形物(ないしその周囲)の温度を監視することができる。そして、造形物の酸化、劣化等の問題が生じない温度まで下がった時点で、雰囲気の調整を停止し、造形チャンバ1内に大気を導入する。降温終了後、制御装置600は造形ステージ6を上昇させ、造形テーブル4上に造形物をせり出させる。
作業者は、作業窓からチャンバ内部にアクセスし、造形物周りの材料粉末を取り除き、ベースプレート7上の造形物Oを造形ステージ6から取り外す。また、作業者は、必要に応じて造形チャンバ1内に飛散した材料粉末の清掃や、回収容器10内の材料粉末(22)の取り出しを行い、これにより造形作業が終了する。その後、必要に応じて造形物Oに付着した材料粉末の除去処理、造形物Oの熱処理、ベースプレート7の除去加工、造形物Oの追加加工などを経て、最終の造形品(成形)を得る。
ここで、本実施形態において、好適とされるベースプレート7および造形物の材料について詳細に説明する。ベースプレート7の材料は造形材料と接合可能であること、融点が造形材料の拡散接合を生じる温度より十分に高いことが求められる。また、ベースプレート7を予備加熱する際に、誘導加熱コイル8を用いて誘導加熱する場合には、ベースプレート7も導電性材料である必要がある。
ベースプレート7と造形物の接合力が弱すぎる場合には、造形中に発生した残留応力が緩和される前に、プレートと造形物間にクラックが発生してしまう恐れがある。また、ベースプレート7の剛性および締結力が低すぎると、やはり残留応力が緩和される前に、造形中の反り、歪みが発生してしまう恐れがある。従って、造形中の一時的な残留応力に十分耐えるだけの接合力と剛性が得られるプレート材料、プレート厚、締結トルクの選定が必要となる。ベースプレート7と第一層の接合の条件出しを容易にし、かつある程度の接合力を確保するには、プレート材料にも造形物と同じ材料を用いることが望ましい。熱伝導率および融点が造形材料と変わらないため、造形物を焼結するのと同様の焼結条件で接合が可能であり、接合部においては熱膨張差によるクラック等も発生せず造形物と同程度の強度が期待できる。
次に、本実施形態に好適な造形材料(材料粉末22)の選定について説明する。本実施形態では、誘導加熱コイル8を交流で通電駆動し、造形エリア(穴6a)内に交流磁場を発生させ、主に造形物Oだけを選択的に誘導発熱させる。
即ち、本実施形態は、造形(固体化)済みの造形物Oに発生する渦電流ループに比べ、例えば造形物Oの周囲の粉末状態の材料粉末22に発生する渦電流ループが十分に小さく、造形物Oと比較して粉末材料粉末22では殆ど発熱が生じないという現象に基づく。この現象は発生する渦電流ループの大きさに差があるほど、より顕著に表れるため、造形材料の粉末は渦電流ループの小さいもの、つまり、粒径が小さいものが望ましい。具体的には平均粒径が10μm以下のものが好適に用いられる。
一方、交流磁場による誘導発熱は上記の渦電流損によるもの以外に、材料の磁性に基づくヒステリシス損によるものが知られている。このヒステリシス損は造形物Oでも材料粉末22でも一様に発生する。
本実施形態では、特に造形済みの造形物Oの部位を誘導加熱し、造形エリア(穴6a)中で固化されていない材料粉末22の方はむしろ誘導加熱されないほうが望ましい。従って、ヒステリシス損が造形済みの造形物Oでも未造形の材料粉末22でも一様に発生する点を考慮すると、材料粉末22の磁性は無い方が望ましい。ただし、交流磁場の周波数を上げていくと、ヒステリシス損に対して、渦電流損による発熱量を支配的にすることができる。従って、誘導加熱コイル8によって印加する交流磁場の周波数を上げることにより、磁性材料から成る材料粉末22でも本実施形態を実施することが可能になる。
本実施形態において、誘導加熱コイル8を配置する目的は、造形期間中、造形エリア(穴6aの内部)に存在する、導電性の材料粉末22から造形された造形物(O)を加熱(ないし保温)する温度管理を行うことにある。前述のように、もし造形物(O)の温度管理を行わない場合には、例えばレーザ照射された部位が急激に熱膨張し、その後、冷却収縮されることによって、造形物(O)内部に応力残留が生じる。そして、特に、造形物(O)の造形エリア(穴6aの内部)からの取り出しやベースプレート7の除去の時に、造形中の残留応力が解放され、造形物(O)の反りや歪みなどの形状不良が生じることがある。
本実施形態では、特にこのような造形後に取り出した造形物(O)の変形、形状不良を防止するために、誘導加熱コイル8によって造形物(O)を加熱(ないし保温)する温度管理を行う。ただし、誘導加熱コイル8による誘導加熱は、造形エリア(穴6aの内部)に存在する造形済みの造形物(O)のみならず、同じ材料から成る材料粉末22にも作用する。
そこで、誘導加熱コイル8によって造形物(O)を加熱(ないし保温)する温度管理を行う場合には、例えば造形エリア(穴6a)内の造形物(O)および材料粉末22を加熱する条件、例えば加熱の上限温度を予め実験によって定めておく必要がある。これは、過度の加熱を行なえば、造形済みの造形物(O)の周囲を取り巻く、造形上、固体化させる必要のない材料粉末22同士、あるいは造形物(O)と周囲の材料粉末22の拡散接合(甚しい場合には融解)が生じる可能性があるためである。
以下、造形中の造形物(O)の指令温度および、造形中の造形エリア(穴6a)の側面の温度管理の基準となる「拡散接合境界温度」の定義および決定方法を示す。
粉末床溶融結合で用いられる材料粉末、例えば鉄系の合金材料などでは、融点に達しなくても、ある温度以上で長時間維持することで、隣接する粒同士が接合する現象が起こり得る。これは、粒を構成する原子が粒の表面積を小さくするように移動を起こすことで生じる。このようにして粗大化が進行し、大きくなりすぎた粒子は薄膜形成に用いることができないため、造形材料として再利用することはできない。また、粒同士でなくても、こうした接合は起こり得る。造形エリア内の造形材料粉末が造形装置の壁面に高温状態で接触していると、材料粉末は壁面に固着し、造形物の取り出しが困難になるとともに、造形の度に装置壁面をメンテナンスする必要が生じる。したがって、造形エリア内の未造形の材料粉末はこうした拡散接合が起きない低温に保たれることが望ましく、そのために拡散接合が起こり得る温度を予め把握する必要がある。
拡散接合が生じる上限温度の把握には、造形に利用する材料粉末を加熱し、拡散接合の有無を確認する実験を行うとよい。図2にこの拡散接合実験に用いる試験容器21を示す。
図2は、試験容器21に材料粉末22を収容した状態を示している。この試験容器21は、例えば材料粉末との拡散接合を確認したい材料で作成する。材料粉末との造形物の固着を確認したいのであれば造形物と同材料とし、造形エリア壁面との固着を確認したいのであれば、造形エリア壁面と同じ材料から作成する。
試験容器21に材料粉末22を投入する前後の試験容器21の重量差から、容器内の材料粉末22の質量を把握できる。試験容器の蓋23は、材料粉末22が飛散しないようにするとともに、材料粉末22粉の充填状態が大きく変化しないようにするウェイト(バラスト)としても機能させる。また、試験容器21と蓋23は、例えば隙間嵌めの嵌合構造としており、試験容器21に対する蓋23の差し込み長を計測することで、試験容器21内部の容積がわかるように設計する。
以上のような構成により、試験容器21の容積、投入されている材料粉末22の質量を取得することができる。また、材料粉末22を構成する造形材料の密度から、容器内での粉末の充填率を算出できる。一般に、粉の充填率が高いほど、拡散接合に必要な温度は下がり、時間も短くなる。なお、この実験では、充填密度(圧力)は、材料粉末22の試験容器21への充填を一定に管理することで制御できる。
図2のようにして試験容器21および材料粉末22の温度管理条件を決定する場合、実造形において確実に拡散接合を抑制するためには、充填率の高い状態で評価を行うのが望ましい。粉末の充填率としては例えばタップ密度相当の値を取得して評価するのが望ましい。
この図2に示す実験の目的は、例えば材料粉末22それ自体、あるいは材料粉末22と試験容器21との間の拡散接合を生じない加熱温度の基準(例えば下記の「拡散接合境界温度」)を求めることにある。
ただし、材料粉末(22)の拡散接合の条件には、温度だけではなく、加熱時間(図1装置においては予測総造形時間)や充填密度(圧力)が密接に関係する。例えば、同じ加熱温度であっても、加熱時間(図1装置における予測総造形時間)や充填密度(圧力)の値の大小によって材料粉末22の拡散接合が起きたり起きなかったりする。なお、ある造形物の造形時間は、造形物の積層数、各層におけるレーザの走査距離と速度、1層あたりの薄膜形成時間から定量的に予測可能である。
そこで、この実験では、図1の装置と同じ加熱時間(予測総造形時間)と、充填密度(圧力)の条件を用いて、「予測総造形時間内で材料粉末22の拡散接合を生じ得ない上限温度」である「拡散接合境界温度」を求める。即ち、本発明における「拡散接合境界温度」とは「予測総造形時間内で材料粉末22の拡散接合を生じ得ない上限温度」として定義される。即ち、この「拡散接合境界温度」は、加熱時間(図1の装置における予測総造形時間)ないしは特定の充填密度(圧力)の範囲内であれば、その温度で加熱を続けても材料粉末22の拡散接合が生じない温度である。
試験容器21および材料粉末22の温度管理に用いる「拡散接合境界温度」を求めるには、例えば、材料粉末22を収容した試験容器21を図1の造形チャンバ1と同等の雰囲気調整が可能な恒温炉に入れる。そして、図1の装置における実造形と同様の雰囲気下で、加熱時間と加熱温度を種々に変更し、拡散接合が生じる温度と時間の関係を評価する。
ここで「拡散接合が生じるか否か」の判断基準は、運用上必要とされるレベルに合わせたもので構わない。造形エリアの装置壁面と材料の固着のみが課題であれば、試験容器と材料粉末が固着しているかを目視で判断するだけで構わない。一方、造形材料の再利用を考えるのであれば、加熱後の粉末の粒度分布計測や、残留酸素濃度計測を行い、再利用可能か否か、を判断する必要がある。
以上のような実験を行うことにより、図1の装置と同じ加熱時間(予測総造形時間)、および充填密度(圧力)の条件を満たす上記の「拡散接合境界温度」を求めることができる。
ここで、造形物の残留応力蓄積を抑制する、という本来の目的に関しては、造形中(ないし造形済み)の造形物の温度は上記の「拡散接合境界温度」を基準にして決定できる。例えば、発明者の実験によると、上記のような実験により求めた「拡散接合境界温度」よりも造形物の加熱温度としては「拡散接合境界温度」より例えば50℃〜100℃程度高い温度を好適に用いることができることが判明した。
即ち、本実施形態では、誘導加熱コイル8による造形物の造形物指令温度を、上記の実験により求めた「拡散接合境界温度」に基づき定めた、例えばそれよりも上記の範囲(50℃〜100℃程度)高い温度値とする。ここで造形物指令温度とは、放射温度計19、熱電対18、20などにより、それらの制御点(温度検出位置)で検出した温度に基づき、誘導加熱コイル8を制御するための制御量に相当する。
このような温度管理制御により、造形中に造形物中の応力残留を緩和させることが可能となるが、温度を高くしすぎると造形材料が造形物に固着するという弊害がある。実験により求めた「拡散接合境界温度」に基づき、どの程度の範囲内に造形物の加熱温度(加熱上限温度)を求めるかは、当業者が各自の実験によって確認の上、決定すればよい。
一方、造形エリア(穴6a)内の材料粉末22については、造形エリアの内側面の領域では、例えば上記の「拡散接合境界温度」よりも低い温度に管理すべきであるのはいうまでもない。造形エリアの内側面の領域における未焼結(未造形)の材料粉末22に関して、温度が低いことによる弊害は特にないため、低ければ低いほど望ましく、造形エリア(穴6a)の側面から積極的に冷却するのが望ましい。本実施形態では、誘導加熱コイル8内部の冷媒の循環によって造形エリア(穴6a)の内側面およびその内側の材料粉末22を積極的に冷却することができる。
また、造形エリア(穴6a)の内側面およびその内側の未造形の材料粉末22の温度を例えば上記の「拡散接合境界温度」よりも低く管理することにより、未焼結(未造形)の材料のリサイクルや造形終了後の降温工程の短縮などの効果を期待できる。
次に、本実施形態において、好適と考えられる造形ステージ6、誘導加熱コイル8、絶縁体9、および温度検出手段の構成について説明する。
図3は第1層目を造形中の造形エリア(穴6a:図1)近傍の断面を模式的に示している。同図において、誘導加熱コイル8は鉛直方向に上、中、下の3つの加熱ゾーンに分割されており、それぞれ所望の制御点温度に基づいて出力制御を行う事ができる。誘導加熱コイル8はらせん状の例えば銅管でそれぞれ構成され、その内部には前記のように冷媒(冷却水)を循環させる。誘導加熱コイル8は絶縁体9に埋設してある。絶縁体9の材料としては、高温でも高強度である絶縁セラミック材、中でも熱衝撃に強い窒化アルミニウムや窒化ケイ素などが好適に用いられる。誘導加熱コイル8と造形物Oの距離は近いほど加熱効率が良くなるため、絶縁体9の内径側に誘導加熱コイル8を設けるのが望ましい。
一方、造形テーブル4での発熱を抑制するため、絶縁体9の断面において、誘導加熱コイル8と造形テーブル4の間には距離を取るように配置している。このように絶縁体9に誘導加熱コイル8を埋設することにより、誘導加熱コイル8を造形エリア側面の冷却配管としても機能させ、側面の粉体材料を積極的に冷却することができる。なお、絶縁体9の材質としては、熱伝導率の高いものが望ましく、窒化アルミニウムなどが好適である。
造形ステージ6は造形中に発熱しないよう、ベースプレート7の取り付け部と、ベースプレート7の直下の構造部材を絶縁体で構成するのが望ましい(詳細不図示)。この部位の絶縁体には絶縁体料としてはやはり窒化アルミニウム、窒化ケイ素などが好適に用いられる。
続いて、各部の温度検出手段について述べる。各検出温度を造形中どのように利用するかは後述する。上記のように、造形エリア(穴6a)の上部には、造形中の造形物の上面温度を測る放射温度計19を配置している。放射温度計19の計測点は造形物上面内の複数点であることが望ましく、面内の温度分布が面計測できることが理想的である。当然ながら放射温度計19の筐体は造形用レーザが通過し得る領域の外側に設置する。また、放射温度計19には、造形用レーザの波長をカットするフィルタを設けておく。
造形の際には、予め、放射温度計19により、造形物Oおよび材料粉末22の放射率をキャリブレーションしておくのが望ましい。造形中の上面温度計測は、例えば最低限各層ごとに焼結工程の直前と直後の2回ずつ行う。1層の焼結工程の直前の造形物O上部の薄膜の温度計測では、前層の造形物の直上の薄膜温度が造形物の上面温度と同等であると見なして測定を行う。また、1層の焼結工程直後においては造形物Oの上面をそのまま計測する。この場合、例えば放射温度計19で測定した面内での平均温度を検出温度として用いる。
また、造形物Oの最下部の温度を測定するために、ベースプレート7に設けられた熱電対18を配置している。例えばベースプレート7の材質と造形物Oの材質を同じにしておくことにより、熱電対18で検出したベースプレート7の温度は、造形物最下面温度として測定することができる。熱電対18の配置位置は造形物Oの最下面の直下が望ましい。なお、造形物Oの最下面の面積が大きい場合には、造形が行われる面内に複数の熱電対を設けるのが望ましい。熱電対18には、ベースプレート7とは絶縁されたシース熱電対を用いることができる。ここで熱電対18の自己発熱を抑制するため、太すぎる熱電対は望ましくなく、シース径0.2mm〜1mm程度の物が好適に用いられる。
また、上述のように、造形エリア(穴6a)の内側面ないし、特にこの部位近傍の材料粉末22の温度を検出するために、絶縁体9の内側面に近い位置に熱電対20を配置している。熱電対20の先端(検出端)位置は、造形エリア(穴6a)の内壁面に近いほど望ましい。また、熱電対20は、誘導加熱コイル8の上、中、下の3つの加熱ゾーンに相当する温度を測定できるよう、これら加熱ゾーンごとに独立して少なくとも1個ずつ配置するのが望ましい。各加熱ゾーンにおける検出温度は、そのゾーン設けられた複数の熱電対の平均温度とする。また、熱電対20は、同一の高さで造形エリア(穴6a)の周方向に等配に複数設けるのが望ましい。これらの熱電対20についてもシース径0.2mm〜1mm程度のシース熱電対を好適に用いることができる。
続いて、造形中の各段階での温度制御方法を示す。図3〜図6は、造形物Oを上層、中層、下層の3つの高さの領域として分割して考えたときの造形の様子を示している。図3は造形物Oの最下層の1層目を造形している状態に相当し、図4は造形物Oの下層の造形が終了した状態に相当する。また、図5は造形物Oの中層の造形が終了した状態に相当し、図6は造形物Oの上層の造形が終了した状態に相当する。
図4〜図6は、上述の図3に準拠した図示となっており、各部およびそれらと参照符号の関係は図3と同様である。図1の構成によると、レーザビームLによる造形(1層の焼結)は造形エリア(穴6a)の最上部の1層に対して行われるため、図3〜図6のように、造形物Oは下層、中層、上層の順で造形され、造形ステージ6によって造形エリア中を下降していく。
図7は上記の造形物Oの下層、中層、上層の造形の各段階と、上(部)、中(部)、下(部)の加熱ゾーンの制御指令値と制御点(温度検出位置)の関係を示している。図7において、701、702、703はそれぞれ上(部)、中(部)、下(部)の加熱ゾーンの制御指令値と制御点(温度検出位置)を示す。また、704、705、706はそれぞれ造形物Oの下層、中層、上層の造形の各段階に相当する。
図7に示すように、図3から図4に至る造形物Oの下層の造形(図7の704の区画)では、誘導加熱コイル8は上部の加熱ゾーンのみを使用する。また、造形物指令温度としては、上述のようにして予め「拡散接合境界温度」に基づき決定した造形物指令温度を用いることができる。また、制御点(温度検出位置)には、放射温度計19による測定点である造形物上面を採用するか、または造形物Oの下面(熱電対18の測定点)を用いてよい。ここでは、制御装置600のCPU601は上部の加熱ゾーンの誘導加熱コイル8に造形物指令温度に対応する駆動量を与え、造形物Oを加熱する。
図4から図5に至る中層の造形(図7の705の区画)では、誘導加熱コイルは上部と中部の2ゾーンを使用する(701、702)。上部加熱ゾーンの制御点としては、造形物の上面(放射温度計19の測定点)を用いる。また、中部加熱ゾーンの制御点としては、造形物Oの下面(熱電対18の測定点)を用いる。
また、図5から図6に至る上層の造形(図7の706の区画)では、誘導加熱コイル8は上、中、下の3つの加熱ゾーンのものを全て使用する(701、702、703)。上部加熱ゾーンの制御点としては造形物の上面(放射温度計19の測定点)、下部加熱ゾーンの制御点としては造形物の下面(熱電対18の測定点)を使用する。また、中部加熱ゾーンについては、造形物温度を直接検出することができないため、側面の材料の温度を検出・制御する。上下の加熱ゾーンにおける側面の材料温度の平均値を指令温度とし、造形エリア内側面(熱電対20の測定点)を制御点として制御する。
ここで、造形物Oの中層ないし上層の造形(図4〜図6)において、制御装置600のCPU601は図8に示すような手順により、誘導加熱コイル8の出力値を決定する温度管理を行うことができる。図8では、特に造形物Oの上面温度を制御点として使用する場合の制御を詳細に示している。
図8の温度管理制御は、造形済みの造形物Oの温度を、上記の「拡散接合境界温度」に基づき決定した一定の目標造形物指令温度(807)に保つためのものである。図8のように造形物Oの上面温度を制御点とする制御においては各層ごとに加熱出力を決定するため制御周期を1層ごとを単位としている。例えば、1層の焼結、次の薄膜形成を繰り返す間に計測対象である造形物上面の温度と領域が大きく変動する可能性があり、リアルタイムに温度計測を誘導加熱コイル8の駆動へのフィードバックさせるのは難しい。そこで、図8の制御では、1層の造形中で最も低温と考えられる焼結直前と、高温と考えられる焼結直後を用いて、上面の温度を決定する。
図8の温度管理制御は、ある層、例えばN層の造形における誘導加熱コイル8による加熱制御量を、前層、例えばN−1層の造形における温度計測に基づいて行うようにしてある。即ち、N−1層の焼結前において、制御装置600のCPU601は、放射温度計19によって、(N−1層の造形中で最も低温と考えられる)焼結直前の温度計測(801)を行わせる。また、N−1層の焼結後において、放射温度計19によって、(N−1層の造形中で最も高温と考えられる)焼結直後の温度計測(802)を行わせる。
そして、CPU601は、焼結直前の温度計測(801)、および焼結直後の温度計測(802)の計測値から、適当な演算手法を用いてN−1層の上面温度の代表値を算出(803)する。また、焼結直前、直後の温度計測(801、802)の温度偏差を算出する(804)ことにより、N−1層の誘導加熱コイル8による加熱の効果(温度変化)を評価することができる。
そして、CPU601は、N−1層上面温度の代表値(803)、およびN−1層の焼結直前、直後の温度偏差(804)を用い、適当な演算方式によって、続くN層の造形中の誘導加熱コイル8の駆動制御量を取得(805)する。その後、取得した駆動制御量(805)を用いて、N層の造形中の誘導加熱コイル8を駆動し、造形物Oの加熱(保温)を行う(806)。なお、複数の加熱ゾーンの温度検出に基づき誘導加熱コイル8の駆動制御量(ないし指令温度)を演算する方式の一例については、実施形態2(図9)として示す。
以上説明したように、本実施形態では、誘導加熱コイル8の誘導加熱を介して造形物Oの温度管理制御を行い、造形済みの造形物Oの温度を上述の「拡散接合境界温度」に基づき決定した一定の造形物指令温度に温度管理する。そのため、造形物Oの造形期間中の応力残留を緩和し、造形エリア(穴6aの内部)からの造形物Oの取り出しや、ベースプレート7の除去の際に生じる可能性のある造形物(O)の変形(形状不良)を良好に抑制することができる。また、造形期間中、造形物(O)全体を加熱ないし保温することにより造形物の鉛直方向の温度差を抑制でき、造形中の温度分布に起因する形状不良を抑制することができる。
その場合、本実施形態では、造形物指令温度は、上述のように、予め実験(図2)によって求めた「拡散接合境界温度」に基づき決定している。このため、造形物(O)と未造形の材料粉末22の不用意な固着、未造形の材料粉末22の変質や、造形エリア内壁面への固着などを生じることなく、精度のよい3次元造形が可能となる。
なお、上記のように造形物温度を制御点とした制御を行う場合、造形エリアの内側面の冷却能力が不十分な構成においては、造形エリアの内側面の材料温度が拡散接合境界温度を越えてしまう可能性がある。そこで、CPU601による温度管理制御には、熱電対20などを介して測定した造形エリアの内側面(の材料粉末)の温度が拡散接合境界温度を上回った場合に、制御方式切換を行うルーチンを組み込んでおくのが望ましい。
例えば、この造形エリアの内側面(の材料粉末)の温度が拡散接合境界温度を上回った場合に実施する制御方式切換では、造形物指令温度を低下させることが考えられる。例えば、造形物指令温度を、上記の「拡散接合境界温度」に50℃〜100℃程度のマージンを加えて求めた値から実験などにより求めた「拡散接合境界温度」それ自体まで低下させることが考えられる。また、この制御方式切換では、制御点(温度検出ないし温度管理位置)を造形エリアの内側面とし、造形エリアの内側面の材料粉末の温度を直接管理するような制御方式に切り替えるのが望ましい。
なお、本実施形態においては、装置の造形可能高さの限界まで造形した場合について説明しているが、高さの低い造形物にも本発明は適用可能である。このような場合、造形中加熱に利用される誘導加熱コイルのゾーン数は造形物高さに合わせて少なくなる。
<実施形態2>
以上では、それぞれ独立して通電制御可能な複数の誘導加熱コイルを、造形エリア(穴6a)の外周部の上、中、下の3つの加熱ゾーンに配置する構成を示した。しかしながら、加熱ゾーン数は少なくとも鉛直方向に2ゾーン以上あることが望ましく、あるいは加熱ゾーン数はより多いほど望ましい。その場合、最上部および最下部の加熱ゾーン以外の中間の加熱ゾーンでは造形物自体の温度の検出が困難であり、造形エリア(穴6a)側面(ないしその近傍の材料粉末)の温度を温度管理制御に利用することになる。
図9は、図1の造形装置の造形エリア(穴6a)に鉛直方向に5つの加熱ゾーン配置した構成における最上部および最下部以外の加熱ゾーンの指令値決定の例を示している。図9の左端部に示した造形エリア(穴6a)の模式図示では、(造形済みの)造形物Oがあり、その周囲を(未造形の)材料粉末32がとり巻いている。なお、造形装置の他の構成は、上述の実施形態1と同様であるものとする。
図9の例では、5つの加熱ゾーンには、造形エリアの内壁面ないしそれに面した材料粉末32の温度を検出するため、5つの熱電対31をそれぞれ配置している。図9において、33はN−1回目の制御周期における各ゾーンの材料温度検出結果のプロットを示している。この例では、各ゾーンの材料温度検出結果のプロット(33)は、下層から上層にかけてなだらかに変化していない。実際の造形では、このように、造形物Oの形状に対応した各造形層の面積(その層の体積)の持つ蓄熱量などに応じてこのように材料温度検出結果のプロット(33)に非直線性が生じる可能性がある。
このように材料温度検出結果のプロット(33)に非直線性が生じることを考慮すると、複数(この例では5つ)の熱電対31から得た材料温度検出結果から、各加熱ゾーンの指令温度値を決定するには次のような演算方式が考えられる。
図9において、34はN−1回目の温度検出結果(33)に基づいて、5つの熱電対31の各温度検出ゾーンのうち、最上端と最下端のゾーンで検出された温度に基づき決定した指令温度値を線形でつないだ近似線に相当する。制御装置600のCPU601は、このように熱電対31の検出ゾーンの最上端と最下端のゾーンで求めた指令温度値を直線で接続した近似線(34)を求めることができる。さらに、CPU601は、この近似線(34)と、例えば各ゾーンの距離を用いることにより、中間の3つの温度検出ゾーンの高さに相当する位置における指令温度値を取得できる。即ち本実施形態では、図9のように、最上部および最下部の加熱(温度検出)ゾーンに配置した熱電対31でそれぞれ検出した材料温度を基準とし、側面における鉛直方向温度分布がなだらかに繋がるよう、各加熱(温度検出)ゾーンの指令温度を設定する。
なお、誘導加熱コイル8に流す交流電流の周波数は造形物の材質、形状に応じて好適なものは変わるが、周波数の高低に応じてそれぞれメリットがある。周波数を高くする場合は、上述の通り、磁性材料にも本発明を実施できる可能性がある。一方、周波数を低くするメリットは、造形物の表皮において生じる発熱領域が、高周波に比べより深くなることが挙げられる。造形物の表皮近傍の温度が下がると、より均一な造形物加熱が実現できる。また、表皮近傍の温度が下がることで、材料粉末の造形物への固着が抑制できるといったメリットもある。上記を勘案し、例えば、非磁性材料であるSUS316Lを造形材料とすると、誘導加熱コイル8を通電するための交流の周波数としては、例えば150kHz〜400kHz程度が好適であると考えられる。
<実施形態3>
上述の実施形態1では、中空の誘導加熱コイルが造形エリアの内壁部位の冷却配管(冷却装置ないし冷却手段)を兼ねるものとした。しかしながら、これら誘導加熱と冷却の2つ機能は別構成に分離してもよい。例えば、図10に示すように、これらの誘導加熱コイルとは別に冷却水路(冷却配管)配置する構成も考えられる。図10は造形テーブル4近傍の部分の断面構造例を示しており、その他の構成は上述の実施形態1(あるいは実施形態2)と同様であるものとする。なお、図10では、造形ステージ6およびベースプレート7が最上の位置にある状態を図示している。
図10の例では、絶縁体25内に冷却水路36を配置しており、絶縁体25の外側の画成した空間部に誘導加熱コイル37(上記の誘導加熱コイル8に対応)を配置している。また、誘導加熱コイル37の配置空間の上部には、材料粉末22が誘導加熱コイル37を配置した空間部に流れ込まないよう遮蔽するため、天板38を配置してある。冷却水路36は、例えば絶縁体25に溝加工を行うことで作成することができ、この部位に導電材料は用いる必要はない。誘導加熱コイル37は、周囲の絶縁体25および造形テーブルとは非接触に支持されている。
なお、このような構成においても、好ましくは誘導加熱コイル37は中空材料とし、コイルそれ自体を冷却するために、上述同様に誘導加熱コイル37の内部で冷却水を循環させる。なお、天板38は絶縁体25と同じ絶縁材料で構成することができる。
図10のような構成例によれば、絶縁体25内に誘導加熱コイルを埋設加工する必要がなく、絶縁体25の部位の製作が容易となる。また、造形エリアの側面全体を覆う一体物部品ではなく、絶縁体25の部位は、安価な板状部材の組み合わせなどによっても構成することができる。また、誘導加熱コイル37を埋設加工しないため、同コイルと絶縁体25の熱膨張差に起因する絶縁体25の変形や破損などの問題も考慮しなくてよくなる。
ただし、図10の構成では、一方で、誘導加熱コイル37と造形物との距離が大きくなりがちで、加熱効率が落ちる可能性がある。このため、図10の構成では、所望の加熱制御のために、誘導加熱コイル37の通電エネルギーが大きくなる可能性がある。また、粉敷きローラからの鉛直荷重に耐えるよう天板38を構成しようとすると、コイルの最上端位置が造形物上端より低くなり、結果的に造形物上面の加熱が難しくなる可能性がある。
本発明は上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読み出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
<実施例1>
以下に、上記各実施形態で例示した構成を基本とする造形装置において、図7に示した制御手順で3次元造形物の造形を行った結果を例示する。本例の造形の制御条件は以下の通りとした。
造形チャンバ内は常温常圧で窒素置換を行い酸素濃度300ppm以下とする。
造形ステージの大きさは144mm×144mmの正方形形状で、ベースプレート7も同様とする。造形ステージの取り付け板の材質には窒化アルミニウムを用いる。ベースプレート7の材料には厚さ10mmのSUS316Lを選択した。ベースプレート7の締結はM5ねじ8本で行い、各締結トルクは5Nmとした。
造形材料(材料粉末22)にはSUS316Lの平均粒径が7μm程度のものを用いた。造形を通じて、粉敷きローラ11によって成膜する1層の薄膜の厚さは40μmとする。また、誘導加熱コイル8には、例えば3巻程度、高さ約35mmのらせん形状のものを、図1のように上、中、下の3つの加熱ゾーンに配置した。誘導加熱コイル8を駆動する高周波を発生する交流電源には150kHzから400kHzまでの範囲でオートマッチングを行えるものを用い、造形中の駆動周波数は200〜300kHzの範囲とした。
温度検出用の熱電対には0.5mm径SUSシース、非接地型のK熱電対を用いた。また、造形エリア上面の温度計測のための放射温度計19には検出波長半値幅が8〜15mmのサーモビューワを用い、面計測データから面積平均を取り検出温度を取得した。
本実施例で造形した造形物の設計高さは103mm、設計体積は1046cm3、予測総造形時間は9時間40分であった。絶縁体9の材質は窒化アルミニウムとした。
また、上記のSUS316Lの平均粒径が7μm程度の造形材料(材料粉末22)を用いて図2に示した手法で実験を行い、求めた上述の「拡散接合境界温度」は450℃であった。そこで、その上面と下面の温度検出に基づき、誘導加熱コイル8の駆動によって温度管理する造形中の造形物(O)の指令温度は500℃とした。造形レーザとしてのレーザ光源12には波長1070nmのYbファイバーレーザを用い、1層の焼結時の平均レーザ出力は40Wとした。また、造形中、同時に、例えば実施形態1で説明した中空の誘導加熱コイル8の冷媒循環によって造形エリア(穴6a)を冷却している。造形中を通じて、造形エリア(穴6a)側面の熱電対18を介して検出した温度(材料粉末22の温度)は上記の拡散接合境界温度以下を保つことができた。
以上のような制御条件による造形終了後、造形エリア(穴6a)の内壁面(絶縁体9)に対する材料粉末22の固着は認められなかったが、ベースプレート7上面の一部と、造形物の低層部分の間に若干の固着が見られた。
材料供給ステージ5をせり上げて、造形物(O)の周囲の材料粉末22を除去したが、所期の形状に造形された造形物(O)に対する材料粉末22の固着も認められなかった。
その後、造形物(O)の変形を評価すべく、造形物(O)をベースプレート7から除去し、造形物(O)の水平な上面部分を用いて反り形状を計測した。本実施例において、この造形物(O)の水平な上面部分は凹の反り形状となっており、100mmの面内長さに対して最大反り量(凹面の深さ)は27μm程度認められた。一方、ベースプレート7の予備加熱、および誘導加熱コイル8による造形物(O)の誘導加熱のみ省略してその他は同じ造形条件で造形した造形物(O)の最大反り量は85μmであった。
従って、本実施例によれば、ベースプレート7の予備加熱、および誘導加熱コイル8による造形物(O)の誘導加熱によって、造形物(O)中の残留応力抑制、および取り出し後の応力開放に起因する変形量を良好に減少できた。本実施例によれば、造形物(O)の変形量は、ベースプレート7の予備加熱、および誘導加熱コイル8による造形物(O)の誘導加熱を行わない場合に比して、約1/3以下に減少させることができた。