スライドファスナーには、織成される左右一対のファスナーテープが用いられる。左右のファスナーテープの対向するテープ側縁部に、複数の合成樹脂製又は金属製のファスナーエレメントが取着されることにより、ファスナーチェーンが形成される。このファスナーチェーンのエレメント列に、ファスナーチェーンの開閉を行うスライダーが挿通される。また、エレメント列の前端部に、第1止具(上止具とも言う)が設けられるとともに、エレメント列の後端部に、第2止具(下止具とも言う)、又は、蝶棒、箱棒、及び箱体を備える開離嵌挿具が設けられる。それによって、スライドファスナーが形成される。
合成樹脂製のファスナーエレメントは、ファスナーエレメントの形状に対応するキャビティ空間を備えた金型にファスナーテープを挟んだ状態で、合成樹脂材料を射出成形することにより、ファスナーテープのテープ側縁部(エレメント取付部とも言う)に成形される。一方、金属製のファスナーエレメントは、例えば略Y字状のエレメント素子の一対の脚部間にファスナーテープのテープ側縁部を挿入した後に、エレメント素子の一対の脚部を両者が接近する方向に押圧して塑性変形させる(所謂、加締め加工を行う)ことにより、そのテープ側縁部に固定される。
ファスナーテープは、衣類などのファスナー被着製品に縫い付けられるテープ主体部と、テープ主体部の一側縁に沿って配されるエレメント取付部とを有する。また、エレメント取付部には、ファスナーテープに対するファスナーエレメントの固着強度を増大させるために芯紐部が設けられている。この芯紐部は、テープ主体部の地経糸よりも太い芯紐が、テープの織成と同時に、経糸としてテープ長さ方向に沿って織り込まれることにより形成される。
また、例えばファスナーテープに合成樹脂製のファスナーエレメントを成形する場合、ファスナーテープの織成後、ファスナーテープにヒートセット工程、染色工程、乾燥工程などの工程が順番に行われ、更にその後、ファスナーテープにファスナーエレメントの射出成形工程が行われる。この場合、ファスナーテープは、各工程で熱や力が加えられるため、経糸方向や緯糸方向に収縮又は伸長することなどの様々な変形が生じ易い。
スライドファスナーは、スライダーを滑らかに摺動させて開閉を円滑に行うためには、左右のファスナーストリンガーが組み合わされたファスナーチェーンが、長さ方向に真っ直ぐな形態を有することが好ましい。しかし実際には、ファスナーテープに対して行われる上述のような各工程やエレメント射出成形工程にて加熱による熱変形が生じることや、ファスナーチェーン又はスライドファスナーを衣服に縫着する際にファスナーテープに生じる縫製収縮(シームパッカリングと言われることもある)などの変形が生じることなどにより、ファスナーチェーンが真っ直ぐな形態を保持することは難しい。
特に、エレメント射出成形工程においては、ファスナーテープのエレメント取付部が、テープ長さ方向の大きな張力を付与された状態で、金型に挟まれてエレメントの射出成形が行われる。このため、エレメント取付部は、射出成形後に張力が解除されても元の状態まで収縮せずに、テープ主体部よりもテープ長さ方向に長くなり易い。その結果、ファスナーエレメントが成形されたファスナーストリンガーでは、エレメント取付部が外側に凸状に飛び出してストリンガー全体が弓なり状に湾曲する、所謂逆パッカーの形態が生じ易い。
更に、製造されたスライドファスナーを衣類などのファスナー被着製品に縫い付ける場合に、その縫い付けられたファスナーテープに、上述のような逆パッカーの形態への変形が更に大きく生じ易くなる。例えばスライドファスナーを衣服に縫着する場合、通常、ファスナーテープの上に衣服を重ね合せた状態でミシンを用いて両者が縫い合わされる。一般的に、衣服は柔軟性があって伸び縮みし易いものの、スライドファスナーのファスナーテープは、ファスナーエレメントの取付ピッチを維持する等の理由により、殆ど伸び縮みしないように形成される。
このため、ミシンを用いてファスナーテープと衣服を縫い合わせるときに、ミシンによって衣服は伸長した状態で縫製されるが、ファスナーテープは殆ど伸長しないため、スライドファスナーは伸長した状態の衣服に縫着されることになる。しかし、衣服は、スライドファスナーの縫着後に収縮して元の長さに戻るため、ファスナーテープの縫い付けられるテープ主体部が衣服の収縮に伴って引っ張られる。その結果、ファスナーテープのテープ主体部が、エレメント取付部よりもテープ長さ方向に短くなった状態で保持されるため、ファスナーテープが弓なり状の逆パッカーの形態に変形してしまう。
更に、スライドファスナーの縫着を行うミシンとして、例えば送り方式が最も標準的な下送り方式のミシン(すなわち、下送り歯のみにより生地を送るミシン)を用いる場合、ファスナーテープとファスナーテープの上に重ねられた衣服とが下送り歯によって一針ごとに送られる。この場合、下送り歯によって送る際に、ファスナーテープが衣服よりも多く送られる傾向にあり、ファスナーテープと衣服との間に一針ごとに縫いズレが生じて、ファスナーテープのテープ主体部がテープ長さ方向に更に短くされた状態で衣服に縫い付けられ、ファスナーテープの逆パッカーの形態が更に大きくなることもあった。
そして、上述のようにファスナーテープが逆パッカーの形態で衣服に縫い付けられてしまうと、スライドファスナーにおけるスライダーの摺動性の低下や、噛合強度の低下、外観品質の低下(見栄えの悪化)などの不具合を生じさせることがある。
このような問題に対し、例えば特開2002−209613号公報(特許文献1)には、テープ主体部と、芯紐が織り込まれたエレメント取付部とを有するとともに、芯紐がテープ主体部の経糸よりも高い熱収縮率を有するファスナーテープが開示されている。
この特許文献1に記載されているファスナーテープ(スライドファスナー用テープ)では、エレメント取付部に織り込まれる芯紐の熱収縮率と、テープ主体部に配される経糸の熱収縮率との間に差があるため、ファスナーテープを真っ直ぐな形態で織成した後、ファスナーテープを所定の温度に加熱するヒートセット工程を行うことによって(更には、ヒートセット工程に続いてファスナーテープを加熱しながら染色する染色工程を行うことによって)、エレメント取付部の芯紐をテープ主体部の経糸よりも大きく熱収縮させることができる。その結果、ファスナーテープは、エレメント取付部が内側に向けて凹むように弓なり状に湾曲する形態(パッカー形態又は正パッカー形態と言う)を有する。
このようなパッカー形態のファスナーテープにファスナーエレメントを取り付けることによって得られるファスナーストリンガーでは、ファスナーテープが、正パッカー形態を有するか、又は、テープ長さ方向にまっすぐな直線状(若しくは略直線状)の形態を有する。このため、スライドファスナーを衣服に縫い付けるときに、ファスナーテープのテープ主体部が衣服に対して収縮した状態で取り付けられても、ファスナーテープは、上述のような逆パッカーの形態に変形することを防いで、テープ長さ方向にまっすぐな状態で衣服に縫い付けられる。このため、上述のような不具合が発生することを防止して、スライダーの摺動によってスライドファスナーを円滑に開閉することができる。
ファスナーテープに染織工程を行う場合、長さ方向に連続するファスナーテープを、円筒状のビームに、ビームの円周方向に対して少し傾斜させた向きで重ねながら何周にも巻き付けて、その後、ファスナーテープを巻き付けたビームを、ビームごと染色液に浸漬することによって染色処理が行われる。
しかし、例えば前述の特許文献1のファスナーテープのように、ファスナーテープが、染織工程前のヒートセット工程で加熱されることによって、エレメント取付部が内側に向けて凹状に湾曲するパッカー形態を有する場合、そのファスナーテープを、染色用のビームに巻き付け難くなる。
更に、ファスナーテープをビームに巻き付けたときに、ファスナーテープにおける耳部側のテープ側縁部(エレメント取付部とは反対側のテープ側縁部)が折れて皺が生じたり、耳部側のテープ側縁部が浮いたりして、ファスナーテープをきれいに巻き付けることができなかった。その結果、染色されたファスナーテープに、折り皺や染織ムラが生じ易くなるという染色工程上の問題がある。
また、ファスナーテープがパッカー形態を有する場合、特にパッカー形態の曲がり具合がテープ長さ方向で一定でない場合、そのファスナーテープを搬送ローラーを用いて真っ直ぐに搬送することが難しくなり、また、染色工程、乾燥工程、及びエレメント射出成形工程などの工程で供給ローラーを用いて長い長さで円滑に供給することが難しくなるという搬送の上での問題がある。
更には、エレメント射出成形工程において、ファスナーテープが大きなパッカー形態を有する場合や、パッカー形態の曲がり具合がテープ長さ方向で一定でない場合、ファスナーテープがエレメント成形用金型の所定位置にきちんと収まらないこと、また、金型に対してテープ位置がずれることによって湯漏れが生じること、更には、ファスナーテープに対してファスナーエレメントの成形位置がずれることなどの不具合が生じるという射出成形工程上の問題もある。
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、その具体的な目的は、ファスナー被着製品に縫い付けたときに逆パッカー形態になることを防いで、スライドファスナーの円滑な開閉操作を可能にするともに、パッカー形態に起因する上述した染色工程上の問題、搬送の上での問題、及び射出成形工程上の問題を解消することが可能なスライドファスナー用ファスナーテープ、及び、そのファスナーテープにファスナーエレメントが取着されたファスナーストリンガーを提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明により提供されるファスナーテープは、基本的な構成として、地経糸と緯糸とにより織組織が形成されるテープ主体部と、前記テープ主体部の一側縁に沿って配され、芯紐が経糸として織り込まれて芯紐部が設けられるエレメント取付部とを有するスライドファスナー用ファスナーテープであって、前記テープ主体部は、テープ幅方向において、前記芯紐部とは反対側のテープ側縁部に配され、複数本の前記地経糸を備える耳部と、前記耳部と前記エレメント取付部との間に配されるベース部とを有し、前記芯紐に、前記ベース部に配される前記地経糸よりも高い熱収縮率を有する合成繊維が用いられ、前記耳部に配される前記地経糸の少なくとも1つに、前記ベース部に配される前記地経糸よりも高い熱収縮率を有する高収縮糸が用いられ、前記ベース部の前記地経糸は、前記耳部に配される前記地経糸のうちの少なくとも1つ、及び前記芯紐より弛緩した状態で配されてなることを最も主要な特徴とするものである。
この場合、前記耳部の前記高収縮糸は、前記芯紐の前記合成繊維よりも低い熱収縮率を有することが好ましい。
また、前記耳部に、2本の前記高収縮糸が互いに隣接して配されていることが好ましい。
更に、前記高収縮糸は、前記耳部側のテープ側縁から、前記高収縮糸よりも低い熱収縮率を有する少なくとも1本の低収縮糸を間に挟んで離間して配されていることが好ましい。
本発明のファスナーテープにおいて、前記ファスナーテープを所定の長さで切断して前記芯紐、前記地経糸、及び前記緯糸を解きほぐしたときに、前記ベース部に配される前記地経糸は、前記芯紐よりも大きな長さ寸法を有することが好ましい。
また、前記ファスナーテープを所定の長さで切断して前記芯紐、前記地経糸、及び前記緯糸を解きほぐしたときに、前記ベース部に配される前記地経糸は、前記耳部に配される前記地経糸のうちの少なくとも1つよりも大きな長さ寸法を有することが好ましい。
そして、本発明により提供されるファスナーストリンガーは、上述した構成を有する前記ファスナーテープの前記エレメント取付部に、合成樹脂製又は金属製のファスナーエレメントが取着されてなることを最も主要な特徴とするものである。
本発明に係るファスナーテープは、テープ主体部と、芯紐の織り込みにより芯紐部が設けられたエレメント取付部とを有する織成されたファスナーテープであり、このファスナーテープのテープ主体部は、複数本の地経糸を備える耳部と、耳部とエレメント取付部との間に配されるベース部とを有する。また、ベース部の地経糸は、耳部に配される地経糸のうちの少なくとも1つと、エレメント取付部に織り込まれた芯紐とよりも、例えばベース部のテープ面が表裏方向に波打つように弛緩した状態で配されている。
このようなファスナーテープであれば、ファスナーテープの芯紐部が設けられる一方のテープ側縁側の部分と、耳部が設けられる他方のテープ側縁側の部分は、テープ長さ方向に比較的まっすぐに延びるように形成されて、ファスナーテープ全体がまっすぐな直線状(又は略直線状)の形態を有すると同時に、テープ主体部のベース部にテープ長さ方向の弛み(たるみ)を設けて、余裕を持たせることができる。このようにファスナーテープの芯紐部が設けられる一方のテープ側縁側の部分と、耳部が設けられる他方のテープ側縁側の部分の両方にはテープ面の波打つ状態が殆ど生じてなく、且つ、これらの間に配される少なくともベース部に、そのテープ面が凹凸状に波打つような弛みのある状態(このような状態を「中べこ状態」と言うこともある)が表れることにより、ファスナーテープの芯紐部や耳部に対してテープ主体部のベース部にテープ長さ方向への動きを持たせることが可能となる。
従って、上述のように全体が直線状の形態を有する本発明のファスナーテープに対して例えば染織工程を行う際には、そのまっすぐなファスナーテープを染色用のビームに安定して巻き付けることができる。またその際に、ファスナーテープに皺が寄ることも、耳部側のテープ側縁部がビームから浮くことも防止して、ファスナーテープをきれいに巻き付けることができる。それにより、染色後のファスナーテープに、折り皺や染織ムラが生じることを効果的に防止することができる。
また、ファスナーテープがまっすぐな形態を有することにより、搬送ローラーを用いてファスナーテープを搬送する際や、供給ローラーを用いてファスナーテープを染色工程などの各工程に供給する際に、ファスナーテープを長い長さで円滑に且つ安定して搬送又は供給することができる。
更に本発明のファスナーテープにエレメント射出成形工程を行う場合には、まっすぐな形態のファスナーテープを、エレメント成形用金型の所定位置にしっかりと安定して挟んだ状態で射出成形を行うことができる。このため、たとえばパッカー形態のファスナーテープに射出成形を行う場合に生じる湯漏れや、ファスナーエレメントの位置ずれなどの不具合が生じることを防止できる。
すなわち、本発明のファスナーテープによれば、パッカー形態を有する従来のファスナーテープの場合に発生していた前述の染色工程上の問題、搬送の上での問題、及び射出成形工程上の問題を解消することができる。
また、本発明のファスナーテープは、まっすぐな形態を有する上に、上述のようにテープ主体部のベース部に弛み(地経糸が弛緩した状態)を意図的に設けている。このため、本発明のファスナーテープにファスナーエレメントを取着してファスナーストリンガーを形成した後、そのファスナーストリンガー(又はファスナーチェーン)を衣服などのファスナー被着製品にミシンを用いて縫着する場合に、ファスナーテープのベース部が、縫製時に生じる衣服の伸び縮みに容易に追従でき、それによって、縫着後のファスナーテープが全体的に逆パッカーの形態に変形することを防止できる。また下送り方式のミシンを用いることによって、ファスナーテープのベース部とファスナー被着製品との間に縫いズレが生じるような場合でも、その縫いズレをベース部の弛みで吸収することが可能であるため、縫いズレに起因して生じる逆パッカー形態への変形も防止できる。
従って、本発明のファスナーテープを用いることにより、ファスナーテープが逆パッカー形態に変形することに起因するスライダーの摺動性の低下、噛合強度の低下、外観品質の低下(見栄えの悪化)などの従来の不具合が発生することを防いで、スライドファスナーの開閉を円滑に行うことができる。
このような本発明のファスナーテープにおいて、芯紐に、ベース部に配される全ての地経糸よりも高い熱収縮率を有する合成繊維が用いられるとともに、耳部に配される地経糸の少なくとも1つには、ベース部に配される全ての地経糸よりも高い熱収縮率を有する高収縮糸が用いられる。これにより、織成後のファスナーテープに対して所定の温度でヒートセット工程が行われることにより、ファスナーテープの芯紐と耳部の少なくとも1本の地経糸とを、ベース部の全ての地経糸よりも大きく熱収縮させることができ、それによって、ファスナーテープの形態をまっすぐな直線状(又は略直線状)に保持しつつ、ファスナーテープのベース部に上述のような弛みが安定して形成される。
この場合、耳部の高収縮糸は、芯紐の合成繊維よりも低い熱収縮率を有することにより、ヒートセット工程後のファスナーテープが、逆パッカーの形態になることを効果的に防止できる。
また、本発明のテープ主体部における耳部には、2本の高収縮糸が互いに隣接して配されている。これにより、ファスナーテープにヒートセット工程を行って高収縮糸を熱収縮させるときに、2本の高収縮糸(地経糸)が緯糸をつかむように収縮して、緯糸に対して2本の高収縮糸(地経糸)が滑ることを防止できる。それにより、ファスナーテープの耳部がテープ長さ方向に安定して収縮するとともに、その収縮に起因して耳部に引き攣るような凹凸状の皺ができることや、耳部が局所的に強張ることを効果的に防止できる。
更に、本発明のファスナーテープにおいて、高収縮糸は、耳部側のテープ側縁から、高収縮糸よりも低い熱収縮率を有する少なくとも1本の低収縮糸を間に挟んで離間して配されている。ファスナーテープの耳部側のテープ側縁は、緯糸のループが、隣接する緯糸のループに順番に絡むことにより形成されている。このような耳部側のテープ側縁から低収縮糸を間に挟んで高収縮糸が離れて配されることにより、ヒートセット工程で高収縮糸が大きく収縮しても、その間の低収縮糸によって高収縮糸の大きな収縮が耳部側のテープ側縁に与える影響を小さく抑えることができ、それによって、ファスナーテープの織成時に織り上げられる耳部側のテープ側縁における形態を、崩すことなく、ヒートセット工程後も安定して保持できる。
また、本発明のファスナーテープを所定の長さで切断して芯紐、地経糸、及び緯糸を解きほぐしてそれぞれの長さを比べた場合、ベース部に配される全ての地経糸は、芯紐よりも長く形成されており、また、耳部に配される地経糸のうちの少なくとも1つ(高収縮糸)よりも長く形成されている。このようにベース部の地経糸が、芯紐や耳部の高収縮糸よりも長くなることにより、ベース部のテープ面が表裏方向に波打つようにベース部の地経糸が弛緩した状態(中べこ状態)を安定して作り出すことができる。
そして、本発明により提供されるファスナーストリンガーは、上述のような構成を有するファスナーテープのエレメント取付部に、合成樹脂製又は金属製のファスナーエレメントが取着されて形成されている。このようなファスナーストリンガーは、テープ主体部のベース部に弛みが意図的に設けられているため、そのファスナーストリンガーを、又はファスナーストリンガーを2つ一組で組み合わせたファスナーチェーンを、衣服などのファスナー被着製品にミシンを用いて縫着したときに、上述したように、ファスナーテープ全体が逆パッカーの形態に変形することを防止できる。従って、スライドファスナーがファスナー被着製品に取り付けられても、そのスライドファスナーの開閉作業をスライダーの摺動により安定して行うことができる。
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明と実質的に同一な構成を有し、かつ、同様な作用効果を奏しさえすれば、多様な変更が可能である。
例えば、以下ではファスナーテープを形成する地経糸、芯紐、及び緯糸の材質について具体的に説明するが、本発明においてこれらの材質は特に限定されるものではない。また本発明において、ファスナーテープの織組織も特に限定されない。
ここで、図1は、本実施形態に係るファスナーテープの織物構造を模式的に示す部分平面図であり、図2は、テープ織成直後のファスナーテープの織物構造を模式的に示す部分平面図である。なお、これらの図における織物構造は図解するために粗く示してあり、実際のファスナーテープは、もっと緻密な構造で形成されている。
また、以下の説明において、前後方向とは、ファスナーテープの長さ方向又は経糸方向を言う。左右方向とは、ファスナーテープのテープ幅方向又は緯糸方向を言い、ファスナーテープのテープ面に平行で、且つ、テープ長さ方向に直交する方向を指す。上下方向とは、ファスナーテープのテープ面に直交するテープ表裏方向を言う。
本実施形態のファスナーテープ1は、ニードル織機と呼ばれる細幅織機を用いて、テープ長さ方向に沿って配される複数の地経糸10及び芯紐20と、連続する緯糸30とにより織成された細幅の帯状体により形成されている。
緯糸30は、ダブルピックのニードル織成によって地経糸10及び芯紐20の開口内を1本の糸条が往復動することにより、2本の糸条が一組として引き揃えられた状態で緯入れされている。また、ファスナーテープ1において、緯糸30の引き返し端側となる一方のテープ側縁(後述する耳部3側のテープ側縁)は、ダブルピックの緯糸30による各ループ31が、隣接して形成される緯糸30のループ31に絡まることによって形成されている。この場合、2本一組で緯糸30を形成する糸条には、330デシテックスのポリエステルからなる仮撚り加工糸(テクスチャードヤーン)が用いられる。
本実施形態のファスナーテープ1は、衣服などのファスナー被着製品に縫い付けられる部分となるテープ主体部2と、テープ主体部2の一側縁側に配され、ファスナーエレメント40が取着されるエレメント取付部5とをテープ幅方向に有する。また、テープ主体部2は、エレメント取付部5とは反対側のテープ側縁部に配される耳部3と、耳部3とエレメント取付部5との間に配されるベース部4とを有する。
テープ主体部2の耳部3は、緯糸30の複数のループ31が隣接するループ31と交絡して形成されるループ部3aと、ループ部3aからテープ幅方向の内側に向けて延び、複数の地経糸10と緯糸30とによって織成されるループ近接部3bとを有する。
特に、本実施形態の場合、耳部3のループ近接部3bには、4本の地経糸10が配されている(織り込まれている)。なおこの場合、耳部3とは、ループ部3aから最も離れた後述する高収縮糸11が配されている部分からループ部3aまでのテープ幅方向の領域を言い、この耳部3に織り込まれる地経糸10の本数は、限定されず、任意に設定することができる。
本実施形態の耳部3には、4本の地経糸10が配されている。この場合、耳部3の地経糸10は、ベース部4に配される全ての地経糸10よりも高い熱膨張率を有する合成繊維が用いられる高収縮糸(第1耳部側経糸)11と、その高収縮糸11よりも低い熱膨張率を有する合成繊維が用いられる低収縮糸(第2耳部側経糸)12とを有する。特に本実施形態の場合、耳部3の低収縮糸12は、ベース部4に配される後述の地経糸10と同じ合成繊維が用いられる。また、耳部3の高収縮糸11には、その熱膨張率が後述する芯紐20よりも低いものが用いられる。
具体的に、耳部3の高収縮糸11には、11.5%以上13.5%以下の乾熱収縮率を有し、330デシテックスのポリエステルからなる仮撚り加工糸が用いられる。また、耳部3の低収縮糸12には、6%以上7%以下の乾熱収縮率を有し、330デシテックスのポリエステルからなる仮撚り加工糸が用いられる。
また、本実施形態の耳部3は、ループ部3aに隣接する位置に2本の低収縮糸12が並べて配されており、更にその低収縮糸12のテープ内側(ベース部4寄り)に2本の高収縮糸11が並べて配されている。
このため、2本の高収縮糸11は、ループ部3aから2本の低収縮糸12を間に挟んで離れて配されている。更に本実施形態では、2本の高収縮糸11が、緯糸30に対して互い違いに交差するように、すなわち、一方の高収縮糸11が緯糸30の上に配される場合には他方の高収縮糸11が緯糸30の下に配されるように、織り込まれている。
このように耳部3の高収縮糸11及び低収縮糸12を配置することにより、ファスナーテープ1の織成後に、後述するヒートセット工程を行うことにより、2本の高収縮糸11を、両高収縮糸11間に緯糸30を保持するようにしながらテープ長さ方向に大きく収縮させることができる。それとともに、2本の低収縮糸12を高収縮糸11よりも小さい割合で収縮させて、ループ部3aに向けて耳部3を段階的に収縮させることができる。
これにより、高収縮糸11が緯糸30に対して滑るように収縮することを防いで、ファスナーテープ1の耳部3に凹凸状の皺や局所的に強張る部分を生じさせることなく、また、耳部3側のテープ側縁の形態を崩すことなく、耳部3を、後述するようにベース部4よりもテープ長さ方向に大きく安定して収縮させることができる。
なお本発明において、耳部3に配置する高収縮糸11の本数や低収縮糸12の本数は、任意に変更可能であり、また、耳部3を1本又は複数本の高収縮糸11のみを用いて形成することも可能である。
本実施形態のテープ主体部2におけるベース部4には、複数の地経糸10がベース経糸13として配されており、このベース部4のベース経糸13の本数は、形成するファスナーテープ1のテープ幅方向の寸法に対応して設定される。例えば本実施形態のベース部4は、44本のベース経糸13を用いて形成されている。
このベース部4の各ベース経糸13(地経糸10)には、全て同じ合成繊維が用いられている。具体的には、ベース部4の各地経糸10には、6%以上7%以下の乾熱収縮率を有し、330デシテックスのポリエステルからなる仮撚り加工糸が用いられる。このベース経糸13の仮撚り加工糸は、耳部3に配される低収縮糸12と同じ糸である。なお本発明において、ベース部4の地経糸10と耳部3の低収縮糸12とに、互いに異なる糸を用いることも可能である。
本実施形態のエレメント取付部5は、ファスナーテープ1におけるファスナーエレメント40が取着されるテープ幅方向の領域であり、このエレメント取付部5は、ファスナーエレメント40の大きさ及び形状に対応して、ファスナーテープ1の耳部3とは反対側に配されるテープ側縁から、所定のテープ幅寸法を有して形成される。
本実施形態のエレメント取付部5は、2本の芯紐20が経糸として織り込まれることによって形成される芯紐部6と、後述するように液体(水)で地経糸を溶かすことによって排除し、緯糸30のみにより形成される経糸排除領域7とが設けられている。
この場合、経糸排除領域7は、芯紐部6とテープ主体部2の間に配されている。この経糸排除領域7を設けることによって、ファスナーエレメント40を射出成形したときにエレメント取付部5をテープ表方向に貫通する合成樹脂の量を多くでき、エレメント取付部5に対するファスナーエレメント40の固着強度を増大させることができる。
本実施形態の2本の芯紐20は、テープ表裏方向に並ぶようにして、ファスナーテープ1のテープ表面側と裏面側とに織り込まれている。各芯紐20は、軸中心部に配される芯糸(芯材)21と、芯糸21を包み込むように複数の編糸を用いて芯糸21の周りに編成される皮糸部22とを有しており、このような芯紐20は、ニットコードと呼ばれることもある。
この場合、芯糸21には、複数本のポリエステル繊維を束ねた560デシテックスのマルチフィラメント糸が用いられている。この芯糸21は、ベース部4に配される全ての地経糸10(ベース経糸13)よりも高い熱膨張率を有しており、具体的には、17%以上18%以下の乾熱収縮率を有する。また、皮糸部22は、芯糸21の周りに編成されており、芯糸21の伸縮に従って芯糸21に沿って伸び縮みすることが可能である。
また、エレメント取付部5には、複数本の地経糸10が配されている。このエレメント取付部5に配される地経糸10は、芯紐部6よりもテープ内方側(テープ主体部2側)に配される第1取付部側経糸14と、芯紐部6よりもテープ側縁側(テープ主体部2側とは反対の側)に配される第2取付部側経糸15とを有する。
第1取付部側経糸14は、経糸排除領域7の左右両側に2本ずつ配されており、合計で4本配されている。左側の2本の第1取付部側経糸14が、芯紐部6と経糸排除領域7との間に配されていることにより、経糸排除領域7を形成しても、芯紐20を所定の位置に織り込んで安定して保持することができる。
また、右側の2本の第1取付部側経糸14が、経糸排除領域7とテープ主体部2との間に配されていることにより、経糸排除領域7を形成しても、テープ主体部2の織組織を安定させることができる。なお本実施形態において、第1取付部側経糸14は、経糸排除領域7の両側に少なくとも1本ずつ配されていれば良く、第1取付部側経糸14の本数は任意に変更することができる。
第1取付部側経糸14には、その熱膨張率が、芯紐20よりも低く、且つ、ベース部4のベース経糸13と同じ又はベース経糸13よりも高い合成繊維が用いられる。本実施形態の場合、第1取付部側経糸14には、ベース部4の地経糸10と同じ合成繊維、すなわち、6%以上7%以下の乾熱収縮率を有し、330デシテックスのポリエステルからなる仮撚り加工糸が用いられる。
また、本実施形態のエレメント取付部5には、2本の第2取付部側経糸15が、芯紐部6よりもテープ側縁側に配されている。この第2取付部側経糸15には、ポリエステルよりも強度が高く、耐摩耗性に優れるポリアミド(ナイロン)からなるマルチフィラメント糸が用いられる。このように芯紐部6の外側に配される第2取付部側経糸15にポリアミド繊維を用いることにより、緯糸30が折り返されるテープ側縁の強度を高くして、ファスナーテープ1のテープ形態を安定させることができる。また、スライドファスナーを形成したときに、左右のファスナーテープ1の対向するテープ側縁の強度を高めて、ファスナーテープ1にほつれや破損を発生させ難くすることができる。なお本発明において、第2取付部側経糸15には、ポリアミド繊維以外の合成繊維(例えば、ポリエステル繊維)を用いることも可能である。
このような本実施形態のファスナーテープ1は、テープ織成後に、後述するような所定の条件でヒートセット工程が施されていることによって、ファスナーテープ1全体として、テープ長さ方向にまっすぐに延びる直線状の形態を有する。その上、このファスナーテープ1は、芯紐部6と耳部3の高収縮糸11が配されている部分との間の領域(すなわち、テープ主体部2のベース部4の部分と、エレメント取付部5の芯紐部6よりもテープ内方側の部分)には、地経糸10(すなわち、ベース経糸13及び第1取付部側経糸14)が弛緩した状態で配されて、テープ面に凹凸状の波打ちが表れる「中べこ状態」が設けられる。
具体的に説明すると、本実施形態の場合、ファスナーテープ1に用いられる芯紐20(芯糸21)、耳部3の高収縮糸11、及びベース部4の地経糸10(ベース経糸13)は、それぞれ、17%以上18%以下の乾熱収縮率、11.5%以上13.5%以下の乾熱収縮率、及び6%以上7%以下の乾熱収縮率を有するものの、ヒートセット工程においてファスナーテープ1を実際に収縮させるセット熱収縮率は、芯紐20及び高収縮糸11については6%以上8%以下、好ましくは6.5%以上7.5%以下とし、ベース部4の地経糸10については4%以上6%未満としている。なお、エレメント取付部5の第1取付部側経糸14と、耳部3の低収縮糸12とは、ベース部4の地経糸10と基本的に同じものである。
すなわち、本実施形態では、ヒートセット工程において、芯紐20、耳部3の高収縮糸11、及びベース部4の地経糸10を、それぞれ完全に熱収縮させておらず、それぞれ繊維の収縮性が残されている。このように繊維の収縮性を残すことにより、ヒートセット工程のファスナーテープ1が適切なテープ伸度を有することができる。この場合のテープ伸度は、例えばファスナーテープ1に1kgの荷重を加えたときに1%前後伸びる程度であれば良い。
また、本実施形態のファスナーテープ1は、ヒートセット工程で実際に収縮させる収縮率(セット収縮率)を、芯紐20と高収縮糸11とでは6%以上8%以下の同じ範囲に合わせている。このように芯紐20の実際の収縮率と高収縮糸11の実際の収縮率とをほぼ同じ位に合わせることにより、ファスナーテープ1をヒートセット工程で熱収縮させても、ファスナーテープ1全体の形態を、まっすぐな(又はほぼまっすぐな)直線状に保持することができる。
また同時に、ヒートセット工程のセット収縮率を、6%以上8%以下の芯紐20及び高収縮糸11と、4%以上6%未満のベース部4のベース経糸13との間では、はっきりと異ならせている。これにより、ベース経糸13に弛みを持たせて、ファスナーテープ1のベース部4に「中べこ状態」を設けることができる。
特にこの場合、芯紐20及ぶ高収縮糸11のセット収縮率を6%以上(特に6.5%以上)に設定することにより、芯紐20及び高収縮糸11の収縮率と、ベース部4の地経糸10の収縮率との間に明確な差を設けて、テープ主体部2のベース部4に「中べこ状態」を安定して設けることができる。
一方、芯紐20及び高収縮糸11のセット収縮率を8%以下(特に7.5%以下)に設定することにより、ファスナーテープ1が正パッカー形態(エレメント取付部5が内側に凹状に湾曲する形態)になることを抑え、まっすぐな直線状の形態を安定して維持することができる。
次に、上述のような本実施形態のファスナーテープ1を製造する方法について説明する。
先ず、細幅織機を用いて、図2に示す織物構造を有する一次テープ1aを織成する。この一次テープ1aは、図1に示した本実施形態のファスナーテープ1と異なり、ファスナーテープ1の経糸排除領域7となる部分に、複数本(本実施形態では3本)の水溶性ビニロン等の水溶性繊維16が経糸として配されており、ファスナーテープ1と一次テープ1aとでは織物構造が異なる。このため、本実施形態では、ファスナーテープ1と一次テープ1aとは異なる符号で表すことにするが、後述する変形例(図4)のように、例えば水溶性繊維16の代わりに非水溶性の合成繊維(ポリエステル繊維)が配される場合は、ファスナーテープと一次テープとは同じ織物構造を有するものとなる。
また、本実施形態の織成された一次テープ1aは、テープ長さ方向にまっすぐに延びる直線状の形態を有する。なお本発明において、経糸排除領域7に配置する水溶性繊維16の本数や水溶性繊維16の繊度などについては、経糸排除領域7の大きさ等に応じて任意に設定することができる。
図2に示したように織成された一次テープ1aは、ヒートセット工程に送られて、170℃以上185℃以下の乾熱による熱処理が所定の時間で施される。このヒートセット工程が一次テープ1aに対して行われることによって、一次テープ1aの地経糸10、芯紐20、及び緯糸30をそれぞれ熱収縮させる。
このとき、一次テープ1aの芯紐20と、耳部3に配される高収縮糸11とは、6%以上8%以下の収縮率で熱収縮する。一方、ベース部4のベース経糸13と、耳部3に配される低収縮糸12と、エレメント取付部5の第1取付部側経糸14とは、4%以上6%未満の収縮率で熱収縮する。
このように一次テープ1aの各地経糸10と芯紐20とが、それぞれ所定の範囲の収縮率で熱収縮することにより、ファスナーテープ1の芯紐部6と耳部3の収縮量がほぼ同じ大きさであるため、テープ全体としてはまっすぐな直線状の形態(又は正パッカリングの方向に僅かに湾曲した略まっすぐな形態)を維持してテープ全体の形態を安定させることができる。それとともに、ファスナーテープ1の芯紐部6と耳部3の収縮量が、テープ主体部2のベース部4よりも大きくなるため、収縮量が小さいベース部4に、弛みとなる「中べこ状態(弛緩状態)」が形成される。
本実施形態では、このヒートセット工程後の一次テープ1aのテープ形態が、実質的に、後述するエレメント射出成形工程まで維持される。また、一次テープ1aのベース部4に付与される中べこ状態は、テープ面の波打ちが一次テープ1a(又はファスナーテープ1)の外観からでは視認できないくらい小さい場合もある。
ここで、ベース部4に「中べこ状態(弛緩状態)」が形成されているか否かを判別する一つの手段としては、ファスナーエレメント40が取り付けられたファスナーテープ1を長さ方向に直交する方向で直線状に切断して、ファスナーエレメント40のベース部4側の端部でテープ長さ方向に沿って切断した試料Aと、ベース部4の範囲内でテープ長さ方向に沿って切断した試料Bと、耳部3の範囲内でテープ長さ方向に沿って切断した試料Cとを作製し、これらの試料A〜試料Cにおけるテープ長さ方向のそれぞれの長さを測定する。なお、それぞれの試料をまっすぐにして長さの測定を行う場合、必要であれば、荷重(荷重の一例としては0.1kg〜1kg)を長さ方向に加えた状態で、試料A〜試料Cのそれぞれの長さを測定することができる。この測定の結果、ベース部4に中ベコ状態が形成される場合は、試料Bが試料A及び試料Cよりも長くなる。また、より好ましくは、試料B>試料C>試料Aとなる。なお、試料Aはファスナーエレメント40のベース部4側の縁部でなく、エレメント取付部5でテープ長さ方向に沿って切断しても良い。この場合、切断する箇所は、ファスナーテープ1の縁部から2mm〜4mmの範囲がファスナーエレメント40のベース部4側の縁部であると近似して設定することができる。
次に、ヒートセット工程が行われた一次テープ1aは、所望の色彩を着色するために染色工程に搬送され、この染色工程で円筒状のビームに巻き付けられる。このとき、一次テープ1aはまっすぐな形態を有するため、ヒートセット工程から容易に且つ円滑に搬送されて、染色工程に供給できる。また、供給された一次テープ1aは、ビームに、一次テープ1aに皺が寄ることもなく、また、耳部3側のテープ側縁部がビームから浮くこともなく、ビームの円周方向に対して少し傾斜させた向きで何周にも安定して且つきれいに巻き付けられる。
一次テープ1aが巻き付けられたビームは、先ず、ビームごとお湯に通されることによって湯洗いされる。この湯洗いを行うことによって、一次テープ1aの埃などを洗い落すとともに、一次テープ1aに配されている水溶性繊維16を溶かして排除する。これによって、エレメント取付部5に経糸排除領域7が形成され、図1に示した織物構造を有するファスナーテープ1が得られる。
続いて、湯洗いされたファスナーテープ1は、ビームごと染色液に所定時間投入されることによって、ファスナーテープ1に染色処理が行われる。この染色処理では、ファスナーテープ1を染色する色等に応じて、120℃以上140℃以下の温度、且つ15分以上60分以下の処理時間で、ビームが染色液内に浸漬される。それによって、ファスナーテープ1に折り皺や染織ムラが生じることなく、ファスナーテープ1全体を所望の色に染色できる。
本実施形態において、ファスナーテープ1におけるテープ主体部2の地経糸10と芯紐20とは、上述した湯洗い及び染色処理が行われても殆ど熱収縮しないため、染色処理後のファスナーテープ1には、直線状の形態と中べこ状態とが維持される。またこのとき、エレメント取付部5の芯紐20よりも外側に配される2本の第2取付部側経糸15(ポリアミド繊維)が染色処理で収縮することにより、染色処理後のファスナーテープ1は、エレメント取付部5が内側に凹むように僅かに湾曲する小さな正パッカーの形態を有することもある。
またこのとき、染色処理後の中べこ状態を有するファスナーテープ1を、所定の長さで切断し、更に切断されたテープ片を解きほぐして芯紐20、地経糸10、及び緯糸30に分離した場合、ベース部4の全ベース経糸13は、芯紐20よりも長く、且つ、耳部3の高収縮糸11よりも長くなっている。
その後、染色されたファスナーテープ1は、乾燥工程に送られて乾燥処理が施されることによって、本実施形態のファスナーテープ1が製造される。
次に、製造されたファスナーテープ1は、図1に仮想線で示したようなファスナーエレメント40を成形するために、エレメント射出成形工程に送られる。
この成形工程では、直線状の形態(又は小さな正パッカーの形態)を有するファスナーテープ1を成形金型に供給し、更に、ファスナーテープ1にテープ長さ方向の張力を加えてテープ長さ方向にまっすぐに引っ張った状態で、そのファスナーテープ1の経糸排除領域7を含むエレメント取付部5を金型で挟持して金型を型締めする。続いて、金型のキャビティ内に、例えばポリアセタールやポリアミドなどの熱可塑性樹脂材料を射出することにより、ファスナーテープ1のエレメント取付部5にファスナーエレメント40を成形する。
このエレメント射出成形工程では、ファスナーテープ1に張力が付与されてまっすぐな状態でファスナーエレメント40の成形が行われる。このため、ファスナーテープ1の芯紐部6を金型内に安定して嵌入させた状態で射出成形を行って、ファスナーテープ1の弛みが生じていないエレメント取付部5に複数のファスナーエレメント40を成形できる。従って、所定の形状のファスナーエレメント40を、ファスナーテープ1の所定の位置に安定して成形できるとともに、湯漏れなどの不具合が生じることを防止できる。また、ファスナーテープ1は、上述した中べこ状態を有するとともに、適度なテープ伸度を有するため、ファスナーエレメント40が成形された後のファスナーテープ1は、直線状の形態を維持するとともに中べこ状態も維持される。
また、エレメント射出成形工程では、例えばファスナーエレメント40が成形されたファスナーストリンガーを金型から外すときに、成形されたファスナーエレメント40が金型によってテープ長さ方向に引っ張られ、ファスナーテープ1のエレメント取付部5に、ファスナーエレメント40が互いに離れるようなテープ長さ方向の引張力が加えられることがある。この場合、本実施形態のファスナーテープ1は適度なテープ伸度を有することにより、離形時に上述の引張力が加えられてエレメント取付部5が伸ばされても、離形後にはエレメント取付部5が収縮し、エレメント取付部5を元の長さ(又は元の長さに近い長さ)まで戻すことができる。
更に本実施形態において、ファスナーエレメント40は、ファスナーテープ1の経糸排除領域7を含むエレメント取付部5に成形されるため、射出成形時に、ファスナーエレメント40の樹脂材料は、経糸排除領域7の緯糸30を包み込むようにして経糸排除領域7を表裏方向に貫通しながら、金型のキャビティ内全体に充填されて固化(硬化)する。これにより、ファスナーエレメント40のテープ表面側に成形されるエレメント半部と、テープ裏面側に成形されるエレメント半部とが、経糸排除領域7を貫通するように連結されるため、ファスナーテープ1に対するファスナーエレメント40の固着強度(取付強度)を効果的に向上させることができる。
このように製造された本実施形態のファスナーストリンガーは、テープ長さ方向にまっすぐな直線状の形態を安定して有するとともに、ファスナーテープ1のテープ中央部分(ベース部4)に、弛みのある「中べこ状態」が意図的に形成されている。
そして、図3に示したように、このように製造されたファスナーストリンガー41を2つ一組で組み合わせてファスナーチェーンを形成し、更に、そのファスナーチェーンに対して、スライダー42を取り付け、ファスナーエレメント40のエレメント列の前端部に止具43を取り付け、更に、エレメント列の後端部に開離嵌挿具44(又は止具)を取り付けることによって、スライドファスナー50が製造される。
また、得られたスライドファスナー50を衣服などのファスナー被着製品にミシンを用いて縫着することによって、スライドファスナー50付きの製品が製造される。
本実施形態のスライドファスナー50では、ファスナーテープ1に、上述したような中べこ状態51が、図3に示すように形成されている。これにより、スライドファスナー50をファスナー被着製品に縫い付けるときに、ファスナーテープ1のベース部4が、その中べこ状態51によってファスナーテープ1の左右のテープ側縁部に対してテープ長さ方向に少し動くことが可能となるため、ファスナーテープ1が縫製時に生じる衣服の伸び縮みに容易に追従できる。また、例えば下送り方式のミシンを用いる場合でも、ファスナーテープ1とファスナー被着製品との間に生じる縫いズレを、ベース部4の中べこ状態51で吸収することも可能となる。
従って、本実施形態のスライドファスナー50をファスナー被着製品にミシンを用いて縫着しても、縫着後のファスナーテープ1が逆パッカー形態に変形することを効果的に防いで、逆パッカー形態に起因する従来の不具合、すなわち、スライダー42の摺動性の低下、噛合強度の低下、外観品質の低下(見栄えの悪化)などの不具合が発生することを防止できる。それによって、開閉操作を円滑に行うことができ、且つ、高い噛合強度を有するスライドファスナー50付きの製品を安定して提供することができる。
なお、上述した実施形態では、ファスナーテープ1の織成の際に、エレメント取付部5を形成する経糸の一部に水溶性繊維16を用いることによって、ファスナーテープ1のエレメント取付部5に経糸排除領域7が設けられる場合について説明している。
しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば図4に示したように、エレメント取付部5の水溶性繊維16の代わりに、上述の実施形態におけるベース経糸13や第1取付部側経糸14と同じポリエステル加工糸を用いることもできる。
この場合、芯紐20とベース部4との間にポリエステル加工糸を第1取付部側経糸14として等間隔で配置することによって、経糸排除領域を備えないファスナーテープ1bが製造される。このように製造されるファスナーテープ1bも、上述の実施形態の場合と同様に、ヒートセット工程が施されることによって、テープ長さ方向にまっすぐな直線状の形態を有し、ファスナーテープ1の幅方向中央部分に弛みのある中べこ状態を備える。
更に、上述した実施形態では、ファスナーテープ1に複数の合成樹脂製ファスナーエレメント40を射出成形することによって、ファスナーストリンガー41を製造する場合について説明している。しかし本発明では、ファスナーテープ1に複数の金属製ファスナーエレメントを押圧により塑性変形させることによって、ファスナーストリンガーを製造しても良い。