JP6832572B2 - マグネトロンスパッタ法による装飾被膜の形成方法 - Google Patents

マグネトロンスパッタ法による装飾被膜の形成方法 Download PDF

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Description

本発明は、マグネトロンスパッタ法による装飾被膜の形成方法に関し、特に、当該装飾被膜として窒化チタン(TiN)膜および/または炭窒化チタン(TiCN)膜を形成する方法に関する。
この種の装飾被膜、とりわけ窒化チタン膜、を形成する方法として、従来、例えば特許文献1に開示されたものがある。この従来技術によれば、イオンプレーティング法またはスパッタ法によって色調が金色の当該窒化チタン膜することができる、とされている。例えば、イオンプレーティング法による場合には、蒸発材料としての金属チタン(Ti)の蒸発量が一定とされる。その一方で、反応性ガスとしての窒素(N)ガスの流量が初期設定量から段階的または連続的に減らされる。これにより、色調が自然な金色の窒化チタン膜が形成される、とされている。また、窒素ガスの流量が減らされるのではなく、当該窒素ガスの流量が初期設定量から段階的または連続的に増やされる場合についても、開示されている。この場合は、やや緑色を帯びた窒化チタン膜が形成される、とされている。これは即ち、窒素ガスの流量によって窒化チタン膜の色調が変化すること、つまり当該窒化チタンの色調の制御が可能であること、を意味する。これに対して、スパッタ法による場合には、チタン製のターゲットのスパッタ量が一定とされ、詳しくは当該ターゲットに供給される高周波(RF:Radio frequency)電力が一定とされると共に、スパッタリングガス(スパッタガス)としてのアルゴン(Ar)ガスの流量が一定とされる。そして、反応性ガスとしての窒素ガスの流量が段階的に減らされる。これによっても、色調が自然な金色の窒化チタン膜が形成される、とされている。
特開平7−243022号公報
しかしながら、上述の従来技術では、とりわけイオンプレーティング法による場合には、概ね1回のバッチごとに、電子銃等のイオン化手段およびその周囲の清掃、ならびに、蒸発材料としての金属チタンの供給およびその溶かし込み、といった煩雑な作業が必要であり、そのためにかなりの時間が掛かる、という欠点がある。しかも、蒸発材料としての金属チタンが溶融した状態にあるところに反応性ガスとしての窒素ガスが導入されるので、バッチが重ねられるに連れて、当該溶融した状態にあるチタンに窒素が固溶化し、これにより、当該チタンが蒸発し難くなり、ひいては窒化チタン膜の色調の再現性が得られなくなる、という欠点もある。
これに対して、スパッタ法による場合には、ターゲットの温度が水冷等によって比較的に低めに抑えられるので、当該ターゲットが溶融することはなく、ゆえに、当該ターゲットに窒素が固溶化することがない。従って、色調の再現性の良い窒化チタン膜が得られる。また、ターゲットは、例えば1回のバッチごとに交換されるのではなく、複数回(概ね数十回〜百数十回)のバッチにわたって使用することができる程度の寿命を持つので、イオンプレーティング法による場合に比べて、事前の作業の簡素化が図られ、ひいては当該作業に要する時間の短縮化が図られる。即ち、スパッタ法によれば、イオンプレーティング法による上述の欠点が全て解消される。
ところが、従来技術におけるスパッタ法では、プラズマの密度がそれほど高くはない。これは、当該プラズマの態様が、高電圧小電流のグロー放電であることによる。このため、ターゲットの被スパッタ面から叩き出されたスパッタ粒子、つまりチタン粒子、がイオン化される率が低く、このイオン化率は、概ね数%程度である。このため、比較的に硬度の低い窒化チタン膜しか形成することができず、つまり高硬度な窒化チタン膜を形成することができない。また、色調の面でも、鮮やかさに欠けた(言わばどんよりとした)金色の窒化チタン膜しか形成することができず、つまり鮮やかな金色の窒化チタン膜を形成することができない、という問題がある。
なお、イオンプレーティング法によれば、スパッタ法に比べて、プラズマ密度が高いので、高硬度でありかつ鮮やかな金色の窒化チタン膜を形成することができる。ただし、当該イオンプレーティング法によれば、事前の作業にかなりの時間が掛かり、また、窒化チタン膜の色調の再現性が得られないことは、上述した通りである。
そこで、本発明は、修飾被膜として、従来よりも高硬度でありかつ鮮やかな金色の窒化チタン膜を形成することができる、マグネトロンスパッタ法による当該装飾被膜の形成方法を提供することを、目的とする。また、窒化チタン膜以外にも、当該修飾被膜として、高硬度でありかつ様々な色調の炭窒化チタン膜を形成することも、本発明の目的とするところである。
この目的を達成するために、本発明は、ガス導入過程と、スパッタ電力供給過程と、バッチ電力供給過程と、を備える。このうちのガス導入過程では、被処理物が収容されると共にマグネトロンカソードが設けられた真空槽の内部に、スパッタガスと反応性ガスとが導入される。そして、スパッタ電力供給過程では、真空槽を陽極とし、マグネトロンカソードを陰極として、これら両者にスパッタ電力が供給される。これにより、スパッタガスの粒子が放電して、真空槽の内部にプラズマが発生し、詳しくはグロー放電による当該プラズマが発生する。さらに、バイアス電力供給過程では、真空槽を陽極とし、被処理物を陰極として、これら両者にバイアス電力が供給される。ここで、マグネトロンカソードは、チタン製のターゲットと、このターゲットの被スパッタ面の近傍に磁界を発生させる磁界発生手段と、を有している。そして、当該マグネトロンカソードは、ターゲットの被スパッタ面が被処理物の被処理面と対向するように、設けられている。従って、プラズマ中の電子(2次電子)は、マグネトロンカソードの磁界発生手段から発生される磁界の作用を受けて螺旋運動(サイクロイド運動および/またはトロコイド運動)する。これにより、当該磁界が作用しているターゲットの被スパッタ面の近傍におけるプラズマの密度が向上する。そして、プラズマ中のイオン、とりわけスパッタガスの粒子のイオン、がターゲットの被スパッタ面に衝突することによって、当該被スパッタ面からターゲットの粒子、つまりチタン粒子、が叩き出される。この叩き出されたいわゆるスパッタ粒子としてのチタン粒子は、被処理物の被処理面に向かって飛翔する。併せて、反応性ガスの粒子がプラズマによって分解される。この分解された反応性ガスの粒子である反応性粒子は、被処理物の被処理面に向かって飛翔するチタン粒子と反応して、当該被処理物の被処理面に付着し、堆積する。この結果、被処理物の被処理面にチタン粒子と反応性粒子とを成分とする反応膜が装飾被膜として形成される。また、上述のバイアス電力の供給によって、チタン粒子のうちのイオン、つまりチタンイオンが、被処理物の被処理面に積極的に引き寄せられる。これと同様に、反応性粒子のうちのイオン、言わば反応性イオンもまた、被処理物の被処理面に積極的に引き寄せられる。これにより、被処理物の被処理面に形成される装飾被膜の高硬度化が図られる。
その上で、本発明は、熱電子放出過程と、アーク放電誘起過程と、をさらに備える。このうちの熱電子放出過程では、ターゲットの被スパッタ面と被処理物の被処理面との間に設けられたフィラメントに熱電子放出用電力が供給される。これにより、フィラメントが加熱されて、当該フィラメントから熱電子が放出される。そして、アーク放電誘起過程では、真空槽を陽極とし、フィラメントを陰極として、これら両者に放電用電力が供給される。これにより、フィラメントから放出された熱電子が加速され、この加速された熱電子がスパッタガスの粒子および反応性ガスの粒子と衝突する頻度が増大して、当該フィラメントの周囲に低電圧大電流のアーク放電が誘起される。この状態で、上述のガス導入過程では、反応性ガスとして、窒素ガスのみが、または、当該窒素ガスと炭化水素系ガスとが、真空槽内に導入される。
即ち、本発明によれば、グロー放電によるプラズマに加えて、アーク放電による極めて高密度なプラズマが、フィラメントの周囲に発生し、つまりターゲットの被スパッタ面と被処理物の被処理面との間に発生する。従って、ターゲットの被スパッタ面から叩き出されたチタン粒子は、被処理物の被処理面に向かって飛翔する途中で、このアーク放電による極めて高密度なプラズマの空間を通過する。これにより、当該チタン粒子は、活性化され、少なくとも基底状態よりは高いエネルギを持つようになり、とりわけ効率的にイオン化される。これと同様に、反応性粒子もまた、より活性化され、より効率的にイオン化される。このイオン化率の向上によって、被処理物の被処理面に積極的に引き寄せられるイオンの量が増えるので、当該被処理面に形成される装飾被膜の高硬度化が図られる。併せて、この装飾被膜を形成するチタン粒子と反応性粒子との相互の結合力が増大するので、当該装飾被膜の緻密化も図られる。
ここで例えば、反応性ガスとして窒素ガスのみが真空槽内に導入される場合には、装飾被膜として窒化チタン膜が形成される。そして特に、鮮やかな金色の窒化チタン膜を形成することができる。また、窒素ガスの流量によって、窒化チタン膜の色調が変わり、例えば鮮やかさに欠けた金色の窒化チタン膜を形成することもできる。
一方、反応性ガスとして窒素ガスと炭化水素系ガスとが真空槽内に導入される場合には、装飾被膜として炭窒化チタン膜が形成される。そして、窒素ガスと炭化水素系ガスとの流量によって、とりわけ相互の流量比によって、炭窒化チタン膜の色調が変わり、様々な色調の当該炭窒化チタン膜を形成することができる。
なお、窒素ガスに対する炭化水素系ガスの流量比は、0より大きく、50以下であるのが、望ましい。ここで言う流量比が0以外である場合は、反応性ガスとして窒素ガスと炭化水素系ガスとが真空槽内に導入されることになり、装飾被膜として炭窒化チタン膜が形成される。
また、炭化水素系ガスとしては、アセチレン(C)ガスが好適である。この炭化水素系ガスとしては、アセチレンガス以外にも、メタン(CH)ガス,エチレン(C)ガス,エタン(C)ガス等があるが、これらのガスにおける炭素と水素との組成比の関係から、アセチレンガスが最も好適であり、つまり最も効率的に炭窒化チタン膜を形成することができる。
上述したように、本発明によれば、マグネトロンスパッタ法による修飾被膜の形成方法であるにも拘らず、当該修飾被膜として、例えば従来よりも高硬度でありかつ鮮やかな金色の窒化チタン膜を形成することができる。また、高硬度でありかつ様々な色調を呈する炭窒化チタン膜を形成することもできる。このことは、修飾被膜の用途や対象の拡大等に大きく貢献する。
本発明の一実施形態に係るマグネトロンスパッタ装置の概略構成を示す図解図である。 同マグネトロンスパッタ装置の内部を上方から見た図解図である。 同実施形態におけるマグネトロンカソードの概略構成を示す図解図である。 同実施形態におけるマグネトロンカソードとフィラメントとの相互の位置関係を示す図解図である。 同実施形態における装飾被膜としての窒化チタン膜の成膜条件および性状の一例を従来技術におけるものと比較して示す一覧である。 同窒化チタン膜が形成された被処理物の外観写真である。 同実施形態における装飾被膜としての炭窒化チタン膜の成膜条件および性状の一例を従来技術におけるものと比較して示す一覧である。 同実施形態における実験の条件および結果を示す一覧である。 同実験における各試料の外観写真である。
本発明の一実施形態について、以下に詳しく説明する。
本実施形態に係る装飾被膜の形成方法は、例えば図1および図2に示すマグネトロンスパッタ装置10によって形成される。このマグネトロンスパッタ装置10は、中空の概略直方体状の真空槽12を備えている。この真空槽12は、当該直方体の1つの面に当たる部分を上面とし、当該上面と対向する別の1つの面に当たる部分を下面とし、それ以外の4つの面に当たる部分を側面とした状態で、設置されている。この真空槽12の内部は、その水平方向においては、1つの側面の長さ寸法が例えば1100mm程度とされている。そして、当該真空槽12の内部の高さ寸法は、例えば800mm程度とされている。なお、この真空槽12の形状および寸法は、飽くまでも一例であり、後述する被処理物100の大きさや個数等の諸状況に応じて適宜に定められる。また、真空槽12自体は、耐食性および耐熱性の高い金属製、例えばSUS304等のステンレス鋼製、であり、その壁部は、基準電位としての接地電位に接続されている。
この真空槽12の壁部の適宜位置、例えば下面を成す壁部の中央から外れた位置(図1における左寄りの位置)には、排気口14が設けられている。そして、この排気口14には、真空槽12の外部において、図示しない排気管を介して図示しない排気手段としての真空ポンプが結合されている。なお、真空ポンプは、真空槽12内の圧力Pを制御する圧力制御手段としても機能する。加えて、排気管の途中には、図示しない自動圧力制御装置が設けられており、この自動圧力制御装置もまた、圧力制御手段として機能する。
さらに、真空槽12の側面を成す壁部の内側の適宜位置(図1および図2における右側の側壁部の適宜位置)に、当該真空槽12とは電気的に絶縁された状態で、マグネトロンカソード16が配置されている。図3を併せて参照して、このマグネトロンカソード16は、概略矩形平板状の純度の高い(例えば99.99%以上の純度の)チタン製のターゲット162と、このターゲット162の一方主面である背面側に設けられた磁石ユニット164と、を有している。そして、磁石ユニット164は、磁界発生手段としての永久磁石166と、この永久磁石166を収容する筐体168と、を有している。さらに、永久磁石166は、ターゲット162の背面に密着しつつ当該ターゲット162の周縁に沿うように設けられた概略矩形枠状の一方磁極としての例えばN極166aと、このN極166aの内側においてターゲット162の背面に密着しつつ当該ターゲット162の長手方向に沿って延伸するように設けられた概略角棒状の他方磁極としてのS極166bと、を有している。なお、ターゲット162の寸法は、例えばその長手方向(長さ寸法)が457mmであり、短手方向(幅寸法)が127mmであり、厚さ方向(厚さ寸法)が8mmである。また、永久磁石166のN極166aとS極166bとの間には、概略矩形溝状の間隙166cが設けられている。さらに、筐体168には、当該筐体168を含むマグネトロンカソード16全体を冷却するための図示しない冷却手段としての例えば水冷機構が付属されている。
このマグネトロンカソード16は、ターゲット162の他方主面(前面)である被スパッタ面を真空槽12の中心方向に向け、かつ、当該ターゲット162の長手方向が垂直方向に沿って延伸するように、配置されている。そして、このマグネトロンカソード16は、ターゲット162の被スパッタ面を除いてアースシールド18によって覆われており、換言すれば被スパッタ面を露出させた状態で当該アースシールド18によって覆われている。アースシールド18は、耐食性および耐熱性の高い金属製、例えばSUS304等のステンレス鋼製、である。そして、このアースシールド18は、マグネトロンカソード16とは電気的に絶縁されており、かつ、真空槽12と電気的に接続されている。なお、図示は省略するが、真空槽12の壁部のうちマグネトロンカソード16およびアースシールド18が設けられている部分については、ターゲット162の交換を含む当該マグネトロンカソード16およびアースシールド18のメンテナンス時の作業性等を考慮して、引き戸や開き戸の如く開閉可能とされるのが、望ましい。
また、図1に示すように、マグネトロンカソード16は、真空槽12の外部において、スパッタ電力供給手段としてのスパッタ電源装置20に接続されている。そして、当該マグネトロンカソード16は、このスパッタ電源装置20からスパッタ電力Esとして接地電位を基準とする負電位の直流電力の供給を受ける。言い換えれば、真空槽12を陽極とし、マグネトロンカソード16を陰極として、これら両者に直流のスパッタ電力Esが供給される。なお、このスパッタ電力Esの供給源であるスパッタ電源装置20は、当該スパッタ電力Esの電力値が一定となるように動作する定電力モードと、当該スパッタ電力Esの電圧成分である言わばスパッタ電圧(またはターゲット電圧とも言う。)Vsが一定となるように動作する定電圧モードと、当該スパッタ電力Esの電流成分である言わばスパッタ電流(またはターゲット電流とも言う。)Isが一定となるように動作する定電流モードと、の3つの動作モードを備えており、ここでは、定電力モードで動作するように設定されている。
加えて、マグネトロンカソード16の前方、詳しくはターゲット162の被スパッタ面の前方に、熱電子放出手段としてのフィラメント22が設けられている。このフィラメント22は、例えば直径が約1mmの直線状の線状体であり、その素材としては、モリブデン(Mo),タングステン(W),タンタル(Ta),炭素(C)等の高融点金属が用いられている。ここで、図4を併せて参照して、とりわけ図4(a)を参照して、このフィラメント22は、これを水平方向におけるマグネトロンカソード16が配置されている方向とは反対側の方向から、例えば真空槽12の中心方向から、見たときに、ターゲット162の被スパッタ面の中央を垂直方向に沿って、つまり当該ターゲット162の長手方向に沿って、さらに換言すれば当該ターゲット162の被スパッタ面と平行を成して、延伸するように、設けられている。また、とりわけ図4(b)に示すように、このフィラメント22は、ターゲット162の被スパッタ面との間に所定の距離Dを置いている。この距離Dは、例えばこれが過度に小さいと、フィラメント22がターゲット162の被スパッタ面またはアースシールド18と接触する虞があり、甚だ不都合である。一方、当該距離Dが過度に大きいと、フィラメント22の周囲における上述の磁石ユニット164(永久磁石166)による磁界の作用が弱くなり、後述するアーク放電の誘起が困難になる。このようなことから、当該距離Dは、5mm〜50mmが適当であり、例えば25mmとされている。そして、フィラメント22の長さ寸法は、ターゲット162の長さ寸法と同等かそれ以上であり、厳密には当該ターゲット162の後述するエロージョン領域162aの長さ寸法と同等かそれ以上であり、例えば500mmである。加えて、図示は省略するが、フィラメント22の両端部またはいずれか一方の端部には、当該フィラメント22の直線状の状態を維持するべく当該フィラメント22に適当な張力を付与するための張力付与手段としての張力付与機構が設けられている。
改めて図1を参照して、フィラメント22の両端部は、真空槽12の外部において、熱電子放出用電力供給手段としての例えば交流のカソード電源装置24に接続されている。そして、フィラメント22は、このカソード電源装置24から熱電子放出用電力としてのカソード電力Ecの供給を受けて2000℃以上に加熱されることで、熱電子を放出する。なお、カソード電源装置24は、交流のものに限らず、直流のものであってもよい。
さらに、フィラメント22は、真空槽12の外部において、放電用電力供給手段としての放電用電源装置26に接続されている。そして、フィラメント22は、この放電用電源装置26から放電用電力Edとして接地電位を基準とする負電位の直流電力の供給を受ける。言い換えれば、真空槽12を陽極とし、フィラメント22を陰極として、これら両者に直流の放電用電力Edが供給される。なお、この放電用電力Edの供給源である放電用電源装置26は、上述のスパッタ電源装置20と同様、当該放電用電力Edの電力値が一定となるように動作する定電力モードと、当該放電用電力Edの電圧成分である言わば放電電圧Vdが一定となるように動作する定電圧モードと、当該放電用電力Edの電流成分である言わば放電電流Idが一定となるように動作する定電流モードと、の3つの動作モードを備えている。ただし、この放電用電源装置26は、定電圧モードで動作するように設定されている。
そして、真空槽12内のフィラメント22が設けられている位置よりも内側に注目すると、当該真空槽12内には、複数の被処理物100,100,…が配置される。具体的には、真空槽12内の水平方向における略中央には、垂直方向に沿って延伸する中心軸Xaが設定されており、各被処理物100,100,…は、当該中心軸Xaを中心とする円の円周方向に沿って等間隔に配置されている。それぞれの被処理物100は、例えば後述する化粧パイプのような細長い円筒状のものであり、垂直方向に沿って延伸するように、つまり真空槽12の中心軸Xaに沿う方向に延伸するように、保持手段としてのホルダ28によって保持されている。そして、それぞれのホルダ28は、ギア機構30を介して、円盤状の公転台32の周縁近傍に結合されている。この公転台32の中心は、真空槽12の中心軸Xa上に位置しており、当該公転台32の中心には、真空槽12の中心軸Xaに沿って延伸する回転軸34の一方端が固定されている。そして、回転軸34の他方端は、真空槽12の外部において、回転駆動手段としてのモータ36のシャフト36aに結合されている。
即ち、モータ36が駆動して、当該モータ36のシャフト36aが例えば図1に矢印200で示す方向に回転すると、公転台32が同方向に回転し、つまり図2においても矢印200で示す方向に回転する。これに伴って、それぞれの被処理物100が真空槽12の中心軸Xaを中心として回転し、言わば公転する。併せて、それぞれのギア機構30による回転駆動力伝達作用によって、それぞれのホルダ28が、自身を通る垂直軸Xbを中心として例えば図1および図2のそれぞれに矢印202で示す方向に回転する。そして、このホルダ28自身の回転に伴って、当該ホルダ28によって保持されている被処理物100もまた、同じ方向に回転し、言わば自転する。なお、被処理物100の公転経路の直径(PCD;Pitch Circle Diameter)は、例えば約600mmである。そして、この被処理物100の公転速度(公転台32の回転速度)は、例えば0.5rpm〜1rpmである。これに対して、被処理物100の自転速度(垂直軸Xbを中心とするホルダ28自身の回転速度)は、例えば30rpm〜60rpmであり、つまり公転速度の60倍である。なお、図1および図2においては、12個の被処理物100,100,…(ホルダ28,28,…およびギア機構30,30,…)が設けられているが、この個数は一例であり、これ以外の個数であってもよい。
併せて、それぞれの被処理物100には、ホルダ28,ギア機構30,公転台32および回転軸34を介して、真空槽12の外部にあるバイアス電力供給手段としての基板バイアス電源装置38から基板バイアス電力Ebが供給される。この基板バイアス電力Ebは、その電圧成分である言わば基板バイアス電圧Vbの値が、接地電位を基準とする正電位のハイレベル値と、当該接地電位を基準とする負電位のローレベル値と、に交互に遷移する、いわゆるバイポーラパルス電力である。この基板バイアス電圧Vbのハイレベル値は、一定であり、例えば接地電位を基準として+37Vである。一方、基板バイアス電圧Vbのローレベル値は、任意に調整可能とされており、このローレベル値によって、当該基板バイアス電圧Vbの平均値(直流換算値)が任意に設定可能とされている。さらに、この基板バイアス電力Ebの周波数もまた、例えば50kH〜250kHの範囲内で任意に設定可能とされている。そして、当該基板バイアス電力Ebのデューティ比(基板バイアス電圧Vbの1周期において当該基板バイアス電圧Vbの値がハイレベル値となる期間の比率)もまた、任意に設定可能とされている。なお、ここでは、当該基板バイアス電力Edの周波数については、例えば100kHzとされ、デューティ比については、例えば30%とされる。
さらに、真空槽12の側面を成す壁部の内側の適宜位置であって、被処理物100,100,…の公転経路よりも外方の適当な位置、例えば真空槽12の中心軸Xaを挟んで上述のマグネトロンカソード16が設けられている位置とは反対側の位置(図1および図2における左側の位置)に、温度制御手段としての例えばカーボンヒータ40が設けられている。このカーボンヒータ40は、真空槽12の外部において、図示しないヒータ加熱用電源装置に接続されている。そして、当該カーボンヒータ40は、このヒータ加熱用電源装置から直流または交流のヒータ加熱用電力の供給を受けて発熱し、とりわけ、被処理物100,100,…を加熱する。
また、図1に示すように、真空槽12内の適宜位置、好ましくはフィラメント22の近傍の位置に、放電用ガス等の各種ガスを当該真空槽12内に導入するためのガス導入管42が設けられている。そして、このガス導入管42には、真空槽12の外部において、個別の複数の、例えば4本の、支管44,46,48および50が結合されている。これら4本の支管44,46,48および50のうちの1本、例えば支管44は、真空槽12内にスパッタガスとしての希ガス、例えばアルゴンガス、を導入するためのものであり、つまり図示しない当該アルゴンガスの供給源に結合されている。この言わばアルゴンガス用の支管44には、当該アルゴンガスの流通を開閉するための開閉手段としての例えば開閉バルブ44aと、当該アルゴンガスの流量を制御するための流量制御手段としての例えばマスフローコントローラ44bと、が設けられている。そして、他の支管46、48および50のうちの1本、例えば支管46は、真空槽12内に洗浄用ガスとしての例えば水素(H)ガスを導入するためのものであり、つまり図示しない当該水素ガスの供給源に結合されている。この水素ガス用の支管46にも、当該水素ガスの流通を開閉するための開閉バルブ46aと、当該水素ガスの流量を制御するためのマスフローコントローラ46bと、が設けられている。さらに、他の支管48および50のうちの1本、例えば支管48は、真空槽12内に第1の反応性ガスとしての例えば窒素を導入するためのものであり、つまり図示しない当該窒素ガスの供給源に結合されている。この窒素ガス用の支管48にも、当該窒素ガスの流通を開閉するための開閉バルブ48aと、当該窒素ガスの流量を制御するためのマスフローコントローラ48bと、が設けられている。そして、残りの支管50は、真空槽12内に第2の反応性ガスとしての炭化水素系ガス、例えばアセチレンガス、を導入するためのものであり、つまり図示しない当該アセチレンガスの供給源に結合されている。このアセチレンガス用の支管48にも、当該アセチレンガスの流通を開閉するための開閉バルブ50aと、当該アセチレンガスの流量を制御するためのマスフローコントローラ50bと、が設けられている。なお、各開閉バルブ44a,46a,48aおよび50aは、手動のものであるが、各マスフローコントローラ44b,46b,48bおよび50bは、後述する制御手段としてのメインコントローラ52によって制御される。これらのガス導入管42と、各支管44,46,48および50と、各開閉バルブ44a,46a,48aおよび50aと、各マスフローコントローラ44b,46b,48bおよび50bとは、(厳密にはメインコントローラ52を含め)ガス導入手段として機能する。
加えて、マグネトロンカソード16と被処理物100の公転経路との間、詳しくはターゲット162の被スパッタ面(厳密にはアースシールド18の外側面)と当該被スパッタ面に最接近した被処理物100の表面との間、であって、フィラメント22よりも被処理物100に近い位置に、シャッタ手段としてのシャッタ54が設けられている。このシャッタ54は、概略矩形平板状のものであり、その両主面をターゲット162の被スパッタ面に沿う方向に沿わせた状態にある。そして、このシャッタ54は、図示しないシャッタ駆動手段としてのモータによる駆動力によって、図2に矢印204で示す如く水平方向に移動(スライド)する。言い換えれば、シャッタ54は、ターゲット162の被スパッタ面を被処理物100,100,…が置かれた空間に向けて露出させる開状態と、当該ターゲット162の被スパッタ面を被処理物100,100,…が置かれた空間から遮蔽する閉状態と、に遷移可能とされている。なお、このシャッタ54を駆動するためのシャッタ駆動手段としてのモータもまた、メインコントローラ52によって制御される。
メインコントローラ52は、上述の如く各マスフローコントローラ44b,46b,48bおよび50bと、シャッタ駆動手段としてのモータと、の制御を司る。また、このメインコントローラ52は、上述したスパッタ電源装置20,カソード電源装置24および放電用電源装置26の制御をも司る。さらに、メインコントローラ52は、回転駆動手段としてのモータ36の制御をも司る。このようなメインコントローラ52は、例えばパーソナルコンピュータによって実現される。なお、メインコントローラ52と当該メインコントローラ52による各制御対象とを結ぶ線路については、図面の見易さを考慮して、図示を省略してある。
さて、本実施形態によれば、このマグネトロンスパッタ装置10を用いて、被処理物100,100,…の表面、言わば被処理面に、装飾被膜としての例えば窒化チタン膜を形成することができる。また、当該装飾被膜として炭窒化チタン膜を形成することもできる。なお厳密には、これらの装飾被膜の形成に先立って、中間層としてのチタン層が形成される。その上で、言わば主層としての当該装飾被膜が形成される。このように中間層としてのチタン層が設けられることによって、成膜対象である被処理物100,100,…の被処理面に対する装飾被膜の密着力の向上が図られる。
具体的にはまず、真空槽12内に被処理物100,100,…が設置され、つまり各ホルダ28,28,…に当該被処理物100,100,…が取り付けられる。その上で、真空槽12内が真空ポンプによって排気され、例えば2×10−3Pa程度の圧力Pになるまで排気される。このいわゆる真空引きの後、または、この真空引きと並行して、モータ36が駆動され、被処理物100,100,…の自公転が開始される。そして、カーボンヒータ40によって、被処理物100,100,…が例えば150℃程度にまで加熱される。これにより、被処理物100,100,…に含まれている不純物ガスが排出され、いわゆる脱ガス処理が行われる。なお、この脱ガス処理においては、シャッタ54は、常套的には(ターゲット162の被スパッタ面の汚染を防止するために)閉状態とされるが、(後述するプレスパッタ処理によってターゲット162の被スパッタ面が洗浄されることから)開状態とされてもよい。
この脱ガス処理が所定時間(30分間〜1時間ほど)にわたって行われた後、カーボンヒータによる加熱が停止されて、次に、放電洗浄処理が行われる。この放電洗浄処理においては、シャッタ54は、開状態とされる。そして、フィラメント22にカソード電力Ecが供給される。これにより、フィラメント22が2000℃以上に加熱されて、当該フィラメント22から熱電子が放出される。併せて、フィラメント22に放電用電力Edが供給される。即ち、真空槽12を陽極とし、フィラメント22を陰極として、これら両者に当該放電用電力Edが供給される。これにより、陰極であるフィラメント22から放出された熱電子が、陽極である真空槽12の壁部に向かって、とりわけ当該フィラメント22に近い位置にあって真空槽12と同電位であるアースシールド18に向かって、加速される。この状態で、真空槽12内にアルゴンガスが導入される。すると、加速された熱電子がアルゴンガスの粒子に衝突して、その衝撃により、当該アルゴンガス粒子が電離して、プラズマ300が発生する。ここで、フィラメント22の周囲を含むターゲット162の被スパッタ面の近傍には、上述した永久磁石166による磁界が発生しているので、当該フィラメント22から放出された熱電子は、この磁界の作用を受けて螺旋運動する。これにより、熱電子がアルゴンガス粒子に衝突する頻度が増大して、プラズマ300が高密度化される。このようなプラズマ300の態様は、低電圧大電流のアーク放電である。さらに、真空槽12内に水素ガスが導入される。すると、この水素ガスの粒子もまた電離して、プラズマ300を形成する。なお、真空槽12内へのアルゴンガスの導入と、当該真空槽12内への水素ガスの導入とは、同時に開始されてもよい。
このようにアーク放電によるプラズマ300が発生している状態で、被処理物100,100,…に基板バイアス電力Ebが供給されると、当該プラズマ300中のアルゴンイオンおよび水素イオンがそれぞれの被処理物100の被処理面、とりわけプラズマ300に晒されている状態にある被処理物100の被処理面に、積極的に入射される。この結果、アルゴンイオンがそれぞれの被処理物100の被処理面に衝突することによるスパッタ作用と、水素イオンがそれぞれの被処理物100の被処理面に付着している不純物と化学的に反応することによる化学反応作用と、によって、当該それぞれの被処理物100の被処理面から不純物が取り除かれ、つまり放電洗浄処理が行われる。この放電洗浄処理におけるアルゴンガスは、プラズマ300を発生させるための放電用ガスとして機能すると共に、上述の如くスパッタ作用によって当該放電洗浄処理を実現する洗浄用ガスとしても機能する。一方、水素ガスは、上述の如く化学反応作用によって放電洗浄処理を実現する洗浄用ガスとして機能すると共に、放電用ガスとしても機能する。
この放電洗浄処理においては、アルゴンガスの流量は、例えば50mL/minとされ、水素ガスの流量は、例えば150mL/minとされる。そして、真空槽12内の圧力Pは、例えば0.2Paとされる。さらに、放電用電力Edは、例えば500Wとされる。具体的には、この放電用電力Edの電圧成分である放電電圧Vdが50Vとなるように、当該放電用電力Edの供給源である放電用電源装置26が上述の如く定電圧モードで動作する。この状態で、放電用電力Edの電流成分である放電電流Idが10Aになるように、カソード電力Ecによってフィラメント22の加熱温度が制御され、つまり当該フィラメント22からの熱電子の放出量が制御される。これにより、放電用電力Edが500W(=50V×10A)とされる。加えて、基板バイアス電力Ebについては、その電圧成分である基板バイアス電圧Vbの平均値が−600Vとされる。因みに、この基板バイアス電圧Vbの平均値が−600Vであるときの当該基板バイアス電圧Vbのローレベル値は、約−873V(=[−600V−{37V×0.3}]/0.7)である。また、このときの基板バイアス電力Ebの電流成分である基板バイアス電流Ibは、約4Aである。これは即ち、この約4Aという比較的に大きな基板バイアス電流Ibが被処理物100,100,…に流れていることを示しており、つまりそれだけ多くのイオンが当該被処理物100,100,…の被処理面に入射されていることを示しており、ひいてはそれだけ大きな放電洗浄処理効果(とりわけアルゴンイオンのスパッタ作用によるボンバードメント効果)が得られることを示している。
この放電洗浄処理が所定時間(約30分間)にわたって行われた後、ターゲット162の被スパッタ面を洗浄するためのプレスパッタ処理が行われる。そのために、真空槽12内への水素ガスの導入が停止される。併せて、シャッタ54が閉状態とされる。その上で、マグネトロンカソード16にスパッタ電力Esが供給される。即ち、真空槽12を陽極とし、マグネトロンカソード16を陰極として、これら両者に当該スパッタ電力Esが供給される。すると、プラズマ300中のアルゴンイオンが、陰極であるマグネトロンカソード16に向かって加速され、とりわけターゲット162の被スパッタ面に衝突し、つまりスパッタする。このアルゴンイオンによるスパッタ作用によって、ターゲット162の被スパッタ面に付着している酸化物や有機不純物等の汚れが除去され、当該被スパッタ面が洗浄される。なお、このプレスパッタ処理においては、スパッタ電力Esの供給によっても、アルゴンガス粒子が放電し、高電圧小電流のグロー放電が誘起される。即ち、プラズマ300は、上述のアーク放電に加えて、当該グロー放電を含んだ(合わせた)状態になる。そして、このアーク放電を含む極めて高密度なプラズマ300の作用によって、ターゲット162の被スパッタ面の洗浄が効率的に行われる。また上述したように、ターゲット162の被スパッタ面の近傍には磁界が発生しているので、とりわけ当該ターゲット162の被スパッタ面の近傍におけるプラズマ300の密度が高くなる。これにより、ターゲット162の被スパッタ面の洗浄がより効率的に行われる。特に、上述した永久磁石166の間隙166cに倣う領域におけるプラズマ300の密度が高いので、この領域がより効率的(集中的)にスパッタされる。
このプレスパッタ処理におけるアルゴンガスの流量は、例えば150mL/minとされる。そして、真空槽12内の圧力Pは、例えば0.5Paとされる。さらに、放電用電力Edは、例えば500W(=50V×10A)とされる。加えて、スパッタ電力Esは、例えば8kWとされる。このスパッタ電力Esの供給源であるスパッタ電源装置20は、上述したように当該スパッタ電力Esが一定となるように定電力モードで動作する。また、基板バイアス電力Ebについては、その電圧成分である基板バイアス電圧Vbの平均値が−100Vとされる。因みに、この基板バイアス電圧Vbの平均値が−100Vであるときの当該基板バイアス電圧Vbのローレベル値は、約−159V(=[−100V−{37V×0.3}]/0.7)である。なお、このプレスパッタ処理においては、シャッタ54が閉状態とされるので、ターゲット162の被スパッタ面から除去された汚れが被処理物100,100,…の被処理面に付着して、当該被処理物100,100,…の被処理面が汚れてしまうようなことはない。
このプレスパッタ処理が所定時間(3分間〜5分間ほど)にわたって行われた後、中間層としてのチタン層を形成するための成膜処理が行われる。そのために、シャッタ54が開状態とされる。すると、プラズマ300中のアルゴンイオンがプレスパッタ処理後のターゲット162の被スパッタ面に衝突して、当該被スパッタ面からターゲット162の粒子が、つまりチタン粒子が、叩き出される。そして、この叩き出されたいわゆるスパッタ粒子としてのチタン粒子は、被処理物100,100,…の被処理面に向かって、とりわけプラズマ300に晒されている状態にある被処理物100の被処理面に向かって、飛翔して、当該被処理面に付着し、堆積する。この結果、被処理物100,100,…の被処理面にチタン層が形成される。ここで、ターゲット162の被スパッタ面から叩き出されたチタン粒子は、被処理物100,100,…の被処理面に向かって飛翔する途中で、アーク放電を含む極めて高密度なプラズマ300中を通過する。これにより、スパッタ粒子が活性化され、さらにはイオン化されて、少なくとも中性の状態よりは高いエネルギを持つようになる。そうなることで、チタン層の高硬度化および緻密化が図られる。
このチタン層を形成するための成膜処理におけるアルゴンガスの流量は、例えば150mL/minとされる。そして、真空槽12内の圧力Pは、例えば0.5Paとされる。さらに、放電用電力Edは、例えば1000Wとされる。具体的には、放電用電力Edの電圧成分である放電電圧Vdが50Vとされ、当該放電用電力Edの電流成分である放電電流Idが20Aとなるように、カソード電力Ecによってフィラメント22の加熱温度が制御される。これにより、放電用電力Edが1000W(=50V×20A)とされる。加えて、スパッタ電力Esは、例えば8kWとされる。そして、基板バイアス電力Ebについては、その電圧成分である基板バイアス電圧Vbの平均値が−100Vとされる。このような条件による成膜処理が例えば5分間〜10分間にわたって行われることで、膜厚が0.1μm〜0.3μm程度のチタン層が形成される。なお、このチタン層を形成するための成膜処理においても、上述のプレスパッタ処理時と同様に、永久磁石166の間隙166cに倣う領域がより効率的にスパッタされる。
このチタン層を形成するための成膜処理が行われた後、窒化チタン膜を形成するための成膜処理が行われる。そのために、真空槽12内に窒素ガスが導入される。すると、この窒素ガスの粒子がプラズマ300によって分解される。そして、この分解された窒素ガスの粒子、とりわけ窒素イオンは、被処理物100,100,…の被処理面に向かって飛翔するスパッタ粒子、とりわけチタンイオンと、反応して、当該被処理物100,100,…の被処理面に付着し、とりわけプラズマ300に晒されている状態にある被処理物100の被処理面に付着し、堆積する。この結果、被処理物100,100,…の被処理面に窒素とチタンとの反応膜である窒化チタン膜が形成される。
なお、この窒化チタン膜を形成するための成膜処理においては、アルゴンガスの流量は、例えば150mL/minとされる。そして、窒素ガスの流量は、例えば40mL/minとされる。ただし、この窒素ガスの導入開始直後においては、当該窒素ガスの流量は、直ちに40mL/minという所期の流量とされるのではなく、所定の時間(数分間)を掛けて段階的または連続的に漸増され、最終的に当該40mL/minという所期の流量とされる。これにより、窒化チタン膜のチタン層との境界付近において、当該窒化チタン膜の膜厚方向に沿って窒素とチタンとの組成比が段階的または連続的に変化する言わば傾斜層が形成される。このような傾斜層が形成されることによって、窒化チタン膜の密着力のさらなる向上が図られる。また、この窒化チタン膜を形成するための成膜処理において、真空槽12内の圧力Pは、例えば0.5Paとされる。さらに、放電用電力Edは、例えば1000W(=50V×20A)とされる。加えて、スパッタ電力Esは、例えば8kWとされる。そして、基板バイアス電力Ebについては、その電圧成分である基板バイアス電圧Vbの平均値が−100Vとされる。
この窒化チタン膜を形成するための成膜処理においても、ターゲット162の被スパッタ面から叩き出されたチタン粒子は、被処理物100,100,…の被処理面に向かって飛翔する途中で、アーク放電を含む極めて高密度なプラズマ300中を通過することによって活性化され、少なくとも中性の状態よりも高いエネルギを持つようになり、とりわけ効率的にイオン化される。これと同様に、窒素ガスの粒子もまた、当該高密度なプラズマ300によって活性化され、より効率的にイオン化される。このイオン化率の向上によって、被処理物100,100,…の被処理面に入射されるイオンの量が増えるので、当該被処理面に形成される窒化チタン膜のさらなる高硬度化が図られる。併せて、この窒化チタン膜を形成するチタン粒子と窒素粒子との相互の結合力が増大するので、当該窒化チタン膜の緻密化も図られる。なお、この窒化チタン膜を形成するための成膜処理においても、上述のプレスパッタ処理時およびチタン層を形成するための成膜処理時と同様に、永久磁石166の間隙166cに倣う領域がより効率的にスパッタされる。この結果、図4に示した如く当該間隙166cに倣うように概略矩形ループ状(または長円ループ状)のスパッタ痕、いわゆるエロージョンジョン領域162a、が現れる。
この窒化チタン膜を形成するための成膜処理によって所定の膜厚の当該窒化チタン膜が形成されると(みなされると)、真空槽12内へのアルゴンガスおよび窒素ガスの導入が停止される。併せて、マグネトロンカソード16へのスパッタ電力Esの供給が停止されると共に、フィラメント22へのカソード電力Ecおよび放電用電力Edの供給が停止される。これにより、プラズマ300が消失する。さらに、被処理物100,100,…への基板バイアス電力Ebの供給が停止される。そして、真空槽12内の圧力が大気圧付近にまで徐々に戻されながら、一定の冷却期間が置かれる。その後、モータ36の駆動が停止されることによって、被処理物100,100,…の自公転が停止される。その上で、真空槽12内が外部に開放されて、当該真空槽12内から被処理物100,100,…が外部に取り出される。これをもって、窒化チタン膜を形成するための成膜処理を含む一連の処理が終了する。
このような要領による一連の処理によって、とりわけ窒化チタン膜を形成するための成膜処理が6時間にわたって行われることによって、形成された当該窒化チタン膜の性状を、図5に示す。なお、ここでの被処理物100は、直径が50mm、長さ寸法が300mmの、鏡面加工が施されたSUS304製の円筒形の化粧パイプである。また、比較対象として、フィラメント22へのカソード電力Ecおよび放電用電力Edの供給を停止することによって、プラズマ300の態様を故意にグロー放電のみによるものとし、つまり上述した従来技術におけるスパッタ法と同様の状態を擬似的に構成し、この擬似的に構成された従来技術によっても、窒化チタンを形成するための成膜処理を6時間にわたって行った。この擬似的な従来技術によって形成された窒化チタン膜の性状についても、図5に示す。
この図5に示すように、本実施形態による窒化チタン膜によれば、従来技術による窒化チタン膜に比べて、とりわけヌープ硬度の値が大きい。即ち、本実施形態によれば、従来技術に比べて、高硬度な窒化チタン膜が形成されることが、分かる。これは主に、本実施形態によれば、従来技術に比べて、プラズマ30によるイオン化率が高いこと、つまり被処理物100の被処理面へのイオンの入射量が大きいこと、による。このことは、本実施形態によれば、従来技術に比べて、基板バイアス電流Ibの値が遥かに大きいことからも、分かる。また、本実施形態による窒化チタン膜は、従来技術による窒化チタン膜に比べて、膜厚が小さい。このことから、本実施形態によれば、従来技術に比べて、緻密な窒化チタン膜が形成されることが、分かる。さらに、色調に注目すると、本実施形態による窒化チタン膜は、従来技術による窒化チタン膜に比べて、L値,a値およびb値のいずれも大きい。これは、本実施形態による窒化チタン膜は、従来技術による窒化チタンに比べて、鮮やかな金色の色調を呈することを、意味する。
この図5に示される本実施形態による窒化チタン膜が形成された化粧パイプと、当該図5に示される従来技術による窒化チタン膜が形成された化粧パイプと、の外観写真を、図6に示す。この図6から分かるように、本実施形態による窒化チタン膜は、鮮やかな金色の色調を呈する。一方、従来技術による窒化チタン膜は、どんよりとした金色の色調を呈する。このことからも、本実施形態によれば、従来技術に比べて、鮮やかな金色の色調を呈する窒化チタン膜が形成されることが、明らかである。
次に、装飾被膜として炭窒化チタン膜を形成する場合について、説明する。この場合は、上述した一連の処理のうちの窒化チタン膜を形成するための成膜処理に代えて、当該炭窒化チタン膜を形成するための処理が行われる。即ち、中間層としてのチタン層を形成するための成膜処理が行われた後、当該炭窒化チタン膜を形成するための成膜処理が行われる。
具体的には、真空槽12内に窒素ガスが導入されると共に、当該真空槽12内にアセチレンガスが導入される。すると、窒素ガスの粒子がプラズマ300によって分解されると共に、アセチレンガスの粒子もまた当該プラズマ300によって分解される。そして、これらの分解された窒素ガスの粒子、とりわけ窒素イオンと、分解されたアセチレンガスの粒子、とりわけ炭素イオンとが、被処理物100,100,…の被処理面に向かって飛翔するスパッタ粒子、とりわけチタンイオン、と反応して、当該被処理物100,100,…の被処理面に付着し、とりわけプラズマ300に晒されている状態にある被処理物100の被処理面に付着し、堆積する。この結果、被処理物100,100,…の被処理面に窒素と炭素とチタンとの反応膜である炭窒化チタン膜が形成される。
なお、この炭窒化チタン膜を形成するための成膜処理においては、アルゴンガスの流量は、例えば150mL/minとされる。そして、窒素ガスの流量は、例えば20mL/minとされ、アセチレンガスの流量もまた、例えば20mL/minとされる。ただし、これら窒素ガスおよびアセチレンガスの導入開始直後においては、当該窒素ガスおよびアセチレンガスそれぞれの流量は、直ちに20mL/minという所期の流量とされるのではなく、所定の時間(数分間)を掛けて段階的または連続的に漸増され、最終的に当該20mL/minという所期の流量とされる。これにより、炭窒化チタン膜のチタン層との境界付近において、当該炭窒化チタン膜の膜厚方向に沿って窒素および炭素のそれぞれとチタンとの組成比が段階的または連続的に変化する傾斜層が形成される。このような傾斜層が形成されることによって、炭窒化チタン膜の密着力のさらなる向上が図られる。これ以外の条件は、窒化チタン膜を形成するための成膜処理におけるのと同様である。即ち、真空槽12内の圧力Pは、0.5Paとされる。そして、放電用電力Edは、1000W(=50V×20A)とされる。さらに、スパッタ電力Esは、8kWとされる。そして、基板バイアス電力Ebについては、その電圧成分である基板バイアス電圧Vbの平均値が−100Vとされる。この炭窒化チタン膜を形成するための成膜処理においても、窒化チタン膜を形成するための成膜処理と同様、永久磁石166の間隙166cに倣う領域がより効率的にスパッタされ、この結果、図4に示した如く当該間隙166cに倣うように概略矩形ループ状のエロージョンジョン領域162aが現れる。
この炭窒化チタン膜を形成するための成膜処理が6時間にわたって行われることによって形成された当該炭窒化チタン膜の性状を、図7に示す。なお、ここでの被処理物100は、一辺の長さ寸法が50mm、厚さ寸法が1mm、の鏡面加工が施されたSUS304製の正方形板である。また、比較対象として、上述の図5および図6におけるのと同様の擬似的な従来技術を構成し、この擬似的な従来技術によっても、炭窒化チタンを形成するための成膜処理を6時間にわたって行った。この擬似的な従来技術によって形成された炭窒化チタン膜の性状についても、図7に示す。
この図7に示すように、本実施形態による炭窒化チタン膜によれば、従来技術による炭窒化チタン膜に比べて、とりわけヌープ硬度の値が大きい。即ち、炭窒化チタン膜についても、窒化チタン膜と同様、本実施形態によれば、従来技術に比べて、高硬度な当該炭窒化チタン膜が形成されることが、分かる。これは上述したように、本実施形態によれば、従来技術に比べて、プラズマ30によるイオン化率が高いこと、つまり被処理物100の被処理面へのイオンの入射量が大きいことが、主な要因である。このことは、本実施形態によれば、従来技術に比べて、基板バイアス電流Ibの値が遥かに大きいことからも、分かる。なお、本実施形態および従来技術のいずれにおいても、この図7に示される炭窒化チタン膜のヌープ硬度の値は、図5に示した窒化チタン膜のヌープ硬度の値に比べて、大きい。これはおそらく、炭窒化チタン膜に炭素が含まれることによって、当該炭窒化チタン膜の方が、窒化チタン膜に比べて、高硬度化されるためであると思われる。そして、膜厚に注目すると、本実施形態による炭窒化チタン膜は、従来技術による炭窒化チタン膜に比べて、当該膜厚が小さい。このことから、窒化チタン膜と同様、本実施形態によれば、従来技術に比べて、緻密な炭窒化チタン膜が形成されることが、分かる。因みに、本実施形態および従来技術のいずれにおいても、この図7に示される炭窒化チタン膜の膜厚は、図5に示した窒化チタン膜の膜厚に比べて、大きい。これはおそらく、炭窒化チタン膜に炭素が含まれることによって、とりわけ炭化チタン(TiC)が形成されることによって、当該炭窒化チタン膜の方が、窒化チタン膜に比べて、厚膜化したことによるものと思われる。色調については、この図7からは、何とも判断し兼ねる。
加えて、次のような実験を行った。
即ち、窒化チタン膜について、スパッタガスとしてのアルゴンガスの流量を一定とする一方、反応性ガスとしての窒素ガスの流量を変えて、当該窒化チタン膜を形成した。そして、この窒素ガスの流量の差異によって、窒化チタン膜の色調がどのように変化するのかを、確認した。また、炭窒化チタン膜について、スパッタガスとしてのアルゴンガスの流量を一定とする一方、反応性ガスとしての窒素ガスおよびアセチレンガスの相互の流量比を変えて、当該炭窒化チタン膜を形成した。なお、窒素ガスおよびアセチレンガスの両方を合わせた反応性ガス全体の流量については、一定とした。そして、この窒素ガスおよびアセチレンガスの相互の流量比の差異によって、炭窒化チタン膜の色調がどのように変化するのかを、確認した。さらに、参考用として、反応性ガスをアセチレンガスのみとすることによって、炭化チタン膜を形成した。そして、この炭化チタン膜の色調についても、確認した。これらの結果を、図8に示す。ここでの被処理物100は、上述の図7におけるものと同様であり、つまり一辺の長さ寸法が50mm、厚さ寸法が1mm、の鏡面加工が施されたSUS304製の正方形板である。
図8に示すように、7つの試料1〜7について、それぞれの色調を確認した。なお、試料1は、何らの処理も施されていない被処理物100の素材そのものである。また、試料2および3は、窒化チタン膜が形成されたものであり、当該窒化チタン膜を形成するための成膜処理時における窒素ガスの流量が互いに異なるものである。さらに、試料4〜6は、炭窒化チタン膜が形成されたものであり、当該炭窒化チタン膜を形成するための成膜処理時における窒素ガスおよびアセチレンガスの相互の流量比が互いに異なるものである。そして、試料7は、参考用としての炭化チタン膜が形成されたものである。
この図8から分かるように、例えば窒化チタン膜が形成された試料2および3については、金色の色調を示すが、窒素ガスの流量の差異によって、当該色調が異なる。具体的には、窒素ガスの流量が小さいほど、薄い金色を呈し、当該窒素ガスの流量が大きいほど、濃い金色を呈する傾向にあるものと、推察される。また、炭窒化チタン膜が形成された試料4〜6については、窒素ガスとアセチレンガスとの相互の流量比の差異によって、当該色調が異なる。概して言えば、窒素ガスに対するアセチレンガスの流量比が小さいほど、ブラウン系の色調を呈するようになり、究極的には窒化チタン膜の性状に近づいて金色の色調を呈するものと、推察される。一方、窒素ガスに対するアセチレンガスの流量比が大きいほど、グレー系の色調を呈するようになり、究極的には試料7の炭化チタン膜の性状に近づいて、ライトグレーの色調を呈するものと、推察される。即ち、窒素ガスに対するアセチレンガスの流量比が適宜に設定されることで、例えば0〜50の範囲で適宜に設定されることで、様々な色調を呈する窒化チタン膜および/または炭窒化チタン膜を形成することができる。なお、試料7の炭化チタン膜は、当該ライトグレー系の色調を呈するが、この色調は、試料1の被処理物100の素材そのもの、つまりSUS304そのもの、と概ね同様の色調であるように、見受けられる。
図9に、各試料1〜7の外観写真を示す。なお、これら各試料1〜7については、それぞれの色調の差異を分かり易くするために、それぞれの半面(図9において左側の半面)にブラスト処理を施している。この図9からも分かるように、例えば窒化チタン膜が形成された試料2および3については、窒素ガスの流量の差異によって、金色の色調が異なることが、明らかである。そして、炭窒化チタン膜が形成された試料4〜6については、窒素ガスとアセチレンガスとの相互の流量比の差異によって、それぞれの色調が異なることが、明らかである。
なお、これらの結果を得るためには、例えば放電用電力Edの電流成分である放電電流Idについて、これが5A以上であることが、望ましい。これは、この放電電流Idが5Aよりも小さいと、プラズマ300の密度が不十分となり、高硬度な装飾被膜を形成するのに十分な反応が得られなくなり、つまり当該高硬度な装飾被膜を形成することができなくなるからである。従って、放電電流Idは、5A以上であることが、望ましい。
また、基板バイアス電力Ebについて、その電圧成分である基板バイアス電圧Vbの平均値が−50V〜−300Vの範囲内であることが、望ましい。この基板バイアス電圧Vbの平均値の絶対値が過度に小さいと、それぞれの被処理物100の被処理面に入射するイオンの衝撃効果が不十分となり、装飾被膜の密着性および緻密性が十分に得られず、高硬度な当該装飾被膜が形成されない。一方、当該基板バイアス電圧Vbの絶対値が過度に大きいと、それぞれの被処理物100の角(端)部分に放電が集中する、いわゆるエッジ効果、が顕著になり、不都合である。これらのことから、基板バイアス電圧Vbの平均値は、−50V〜−300Vであるのが、望ましく、さらには、−75V〜−150Vであるのが、より望ましい。
以上のように、本実施形態によれば、マグネトロンスパッタ法による成膜処理であるにも拘らず、アーク放電を用いた言わばアーク放電型の当該マグネトロンスパッタ法とすることによって、修飾被膜として、例えば従来よりも高硬度でありかつ鮮やかな金色の窒化チタン膜を形成することができる。また、高硬度でありかつ様々な色調の炭窒化チタン膜を形成することもできる。このことは、修飾被膜の用途や対象の拡大等に大きく貢献するものと期待される。
なお、本実施形態は、本発明の1つの具体例であり、本発明の範囲を限定するものではない。
例えば、炭化水素系ガスとしてアセチレンガスが採用されたが、このアセチレンガスに限らず、メタンガス,エチレンガス,エタンガス等の他の炭化水素系ガスが採用されてもよい。ただし、これらの炭化水素系ガスにおける炭素と水素との組成比の関係から、アセチレンガスが最も好適であり、つまり最も効率的に炭窒化チタン膜を形成することができる。
また、マグネトロンカソード16については、永久磁石166が固定された、つまり当該永久磁石166の位置が動かない、磁石固定型のものが採用されたが、これに限らない。例えば、永久磁石166がターゲット162の背面に沿って動くことで当該ターゲット166の被スパッタ面を広域的にスパッタし、ひいては非エロージョン領域の低減を図る、いわゆる広域エロージョン型のものが採用されてもよい。
さらに、本実施形態においては、中間層としてのチタン膜が設けられたが、このチタン膜については、設けられなくてもよい。ただし、当該チタン膜が設けられた方が、主層としての装飾被膜の密着力の向上が図られることは、上述した通りである。
加えて、マグネトロンカソード16のターゲット162は、概略矩形平板状のものに限らず、例えば概略円板状のものであってもよく、極端には、その被スパッタ面が曲面状のものであってもよい。また、このターゲット16(被スパッタ面)の形状に応じて、フィラメント22に形状も適宜に定められる。
そして、マグネトロンカソード16は、1つに限らず、複数設けられてもよい。この場合、真空槽12の中心軸Xaの円周方向に沿って当該マグネトロンカソード16が複数設けられるのが、望ましい。併せて、それぞれのマグネトロンカソード16にフィラメント22が付随されるのが、望ましい。この構成によれば、成膜速度の向上が図られ、ひいては生産性の向上が図られる。
また、基板バイアス電力Ebとしてバイポーラパルス電力が採用されたが、これに限らない。例えば、被処理物100,100,…が導電性物質である場合には、直流電力が採用されてもよい。ただし、被処理物100,100,…に含まれるガス等によって異常放電が生じる場合があるので、このような異常放電を防止する観点から、バイポーラパルス電力が採用されるのが、望ましい。また、このバイポーラパルス電力以外のパルス電力や高周波電力が採用されてもよい。
10 マグネトロンスパッタ装置
12 真空槽
16 マグネトロンカソード
20 スパッタ電源装置
22 フィラメント
24 カソード電源装置
26 放電用電源装置
38 基板バイアス電源装置
42 ガス導入管
44,46,48,50 支管
44a,46a,48a,50a 開閉バルブ
44b,46b,48b,50b マスフローコントローラ
50 メインコントローラ
100 被処理物
162 ターゲット
164 磁石ユニット
300 プラズマ

Claims (3)

  1. 被処理物が収容されると共にマグネトロンカソードが設けられた真空槽の内部にスパッタガスと反応性ガスとを導入するガス導入過程と、
    上記真空槽を陽極とし上記マグネトロンカソードを陰極としてこれら両者にスパッタ電力を供給することによって上記スパッタガスの粒子を放電させて該真空槽の内部にプラズマを発生させるスパッタ電力供給過程と、
    上記真空槽を陽極とし上記被処理物を陰極としてこれら両者にバイアス電力を供給するバイアス電力供給過程と、
    を具備し、
    上記マグネトロンカソードはチタン製のターゲットと該ターゲットの被スパッタ面の近傍に磁界を発生させる磁界発生手段とを有しており該被スパッタ面が上記被処理物の被処理面と対向するように設けられており、
    上記プラズマ中のイオンが上記被スパッタ面に衝突することによって該被スパッタ面から叩き出されたチタン粒子と該プラズマによって分解された上記反応性ガスの粒子である反応性粒子とを成分とする反応膜を装飾被膜として上記被処理面に形成する、
    マグネトロンスパッタ法による装飾被膜の形成方法において、
    上記被スパッタ面と上記被処理面との間に設けられたフィラメントに熱電子放出用電力を供給することによって該フィラメントを加熱させて熱電子を放出させる熱電子放出過程と、
    上記真空槽を陽極とし上記フィラメントを陰極としてこれら両者に放電用電力を供給することによって上記熱電子を加速させて該フィラメントの周囲にアーク放電を誘起させるアーク放電誘起過程と、
    をさらに具備し、
    上記ガス導入過程では上記反応性ガスとして窒素ガスのみまたは該窒素ガスと炭化水素系ガスとを上記真空槽の内部に導入すること、
    を特徴とする、マグネトロンスパッタ法による装飾被膜の形成方法。
  2. 上記反応性ガスとして窒素ガスと炭化水素系ガスとを上記真空槽の内部に導入し、上記窒素ガスに対する上記炭化水素系ガスの流量比は0より大きく50以下である、
    請求項1に記載のマグネトロンスパッタ法による装飾被膜の形成方法。
  3. 上記反応性ガスとして窒素ガスと炭化水素系ガスとを上記真空槽の内部に導入し、上記炭化水素系ガスはアセチレンガスである、
    請求項1に記載のマグネトロンスパッタ法による装飾被膜の形成方法。
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