以下の詳細な説明において、膵細胞の表現型及び機能を有する非膵分化転換インスリン産生細胞、ならびにその製造方法に関する完全な理解を提供するために、多数の特定詳細が記載されている。他の例において、膵細胞の表現型及び機能を有する非膵分化転換ヒトインスリン産生細胞、ならびにその産生方法を不明瞭にしないように、周知の方法、手順、及び構成要素は詳細に記載されていない。本出願は、2014年12月30日出願の米国仮出願第62/098,050号の利益を主張し、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
転写因子(TF)は、多数の細胞系統において分化転換を誘導することが示されてきた。熟練者であれば、「分化転換」という用語が、第1の細胞型が、識別特徴を喪失し、細胞が胚性特徴を有するステージを経ることなく、その表現型を第2の細胞型のものに変化させるプロセスを包含し得ることを理解するであろう。一部の実施形態において、第1及び第2の細胞は、異なる組織または細胞系統に由来する。一実施形態において、分化転換は、成熟または分化細胞を、異なる成熟または分化細胞に変換することを必要とする。具体的に、系統特異的転写因子(TF)は、成体細胞を内分泌膵細胞、ニューロン、造血細胞、及び心筋細胞系統に変換することにおいて指示的役割を示すことが示唆されており、分化転換プロセスが、広範囲の環境で起こることを示唆する。全ての分化転換プロトコルにおいて、異所性TFは、潜在的な広範囲の機能的かつ不可逆的な発達プロセスに対する短期トリガーとして役立つ。多数の研究が、個々のTFの異所性発現が、追加の関連する、そうでなければサイレントなTFの活性化を伴うプロセスにおいて、所望の代替レパートリー及び機能を活性化することを示唆した。しかしながら、誘導されたTFの時間経過、相対レベル、及び階層または順序は、依然として不明である。
個々の異所性TFを導入することによる内在性転写因子(TF)誘導の相対的不足を利用することによって、TFの階層的ネットワークによって影響される、系列的かつ時間的に制御されたプロセスとしての分化転換方法が本明細書に開示される。
ヒトインスリン産生細胞産物、及びこの産物を作製及び産生するその方法は、本明細書に開示されるように、TF誘導型の肝臓から膵臓への分化転換が、段階的かつ連続的なプロセスであるという知見に基づく。重要なことに、膵TFの同時発現ではなく、系列的投与のみが、内分泌膵臓内で系統特定プログラムを選択的に駆動する。直接階層的モードでの膵TFの系列的発現は、β細胞系統に沿って分化転換細胞成熟に必須であることが示されてきた。具体的に、膵β細胞特異的転写因子MafAの役割は、分化転換プロセスの最終段階において特定されてきた。この段階でMafAは、Isl1及びソマトスタチン抑制に関連するプロセスにおいて、β細胞系統に沿った分化転換肝細胞の成熟を促進する。驚くべきことに、2+1階層的方法(PDX−1及びPax4またはNeuroD1、続いてMafA)が、非膵細胞内の膵臓表現型及び機能へ向かう系統特定を選択的に駆動するのに良好であったことがわかった。
本明細書に記載される知見は、糖尿病を含む変性疾患を治療するために、TF誘導型成体細胞再プログラム化を使用する治療的利点の増加に貢献し得る、転写因子媒介型分化転換の基本的な時間的特徴を示唆する。
膵転写因子(pTF)、例えば、Pdx−1、NeuroD1、Ngn−3、及びPax4は、肝臓から膵臓への分化転換を活性化し、糖尿病マウスにおける高血糖の改善を個々に誘導する。さらに、成体ヒト肝細胞のインビトロ実験システムを使用して、Pdx−1が、多数のβ細胞特異的マーカーの発現を活性化し、処理されたインスリンのグルコース調節分泌を誘導することが示された。誘導されたプロセスは、多数の重要な内在性pTFの発現に関連し、糖尿病マウスにおける分化転換成体ヒト肝細胞の移植時に、高血糖の改善が示された。しかしながら、多数の他の研究は、いくつかの重要なTFの組み合わせを使用することが、個々のTFの異所性発現によって誘導されるものと比較して、再プログラム化効率を顕著に増加させることが示されてきた。これは、個々の異所性因子が、内在性補完TFを、効率的な分化転換プロセスに必要とされる十分なレベルに活性化する潜在的に制限された能力を示唆する。膵臓器官形成中の膵転写因子の標的破壊または時間的誤発現は、膵臓の発達ならびに島細胞の分化及び機能を妨げる。個々の異所性TFによる内在性TF誘導の相対的不足を利用することによって、本明細書に提示される開示は、TFの階層的ネットワークによって影響される、系列的かつ時間的に制御されたプロセスとしての分化転換に関する。
膵臓特定は、成体におけるβ細胞機能にも必要とされる、ホメオボックス転写因子Pdx1によって開始される。次いで、内分泌分化は、ベーシック・ヘリックス・ループ・へリックス因子Ngn3によって媒介される。ペアードホメオボックス因子Pax4及びArxは、異なる内分泌細胞型の隔離において、重要な因子として関係するとされてきた。β細胞系統及び機能に沿った最終成熟は、成体膵臓内のβ細胞におけるMafAの選択的発現に起因する。
ヒト肝細胞が、直接分化転換して、全体的に異なる細胞型である、β細胞を含む膵ホルモン産生細胞を産生し得るという驚くべき知見に部分的に基づく、方法及びこれらの方法を使用して産生されたヒトインスリン産生細胞が、本明細書に開示される。時間的に調節された配列における選択転写因子の適用は、成体肝細胞から機能的成熟β細胞への分化転換を誘導した。本明細書に記載される方法は、成体細胞を増幅及び分化転換させるための方法を提供することによって、インスリン産生細胞、または膵β細胞の大集団の産生に関する問題を解決する。選択転写因子または生成された分化転換膵細胞の集団を含む組成物は、本明細書に記載される方法を使用して、膵障害を治療するために使用され得る。
非膵細胞を、β細胞等の膵細胞へと分化転換させるための以前の努力は、たった1つの転写因子、または1つを超える膵転写因子の一致した投与すなわち同時投与のいずれかを用いる。本明細書に開示される方法は、定義された時点における特異的転写因子の順序付き系列的投与を提供する。本明細書に開示される代替方法は、定義された時点における特異的転写因子の「2つのpTF+1つのpTF」(2+1)複合された順序付き系列的投与を提供する。さらに、本明細書に記載される方法は、個々の転写因子の各々単独により誘導されるものと比較して、分化転換効率を実質的に増加させる。
増加した分化転換能力を保有する細胞の集団が、本明細書に開示される。これらの細胞は、(1)潜在的細胞膜マーカー、(2)グルタミン合成酵素調節要素(GSRE)を活性化させる能力を保有すること、及び(3)活性Wntシグナル伝達を固有に備えることを特徴とする。集団内の細胞の少なくとも30%は、GSREを活性化することができる。例えば、これらの細胞は、内皮細胞、上皮細胞、間葉系細胞、線維芽細胞、または肝細胞である。一実施形態において、細胞は、ヒト細胞である。一部の実施形態において、細胞は、膵系統に沿って、膵機能を有する成熟膵細胞へと分化転換され得る。他の実施形態において、細胞は、神経系統に沿って神経細胞へと分化転換され得る。
故に、本明細書に開示される方法は、多くの場合、制限された効率を有する、以前の分化転換または再プログラム化プロトコルに関する問題を解決する。例えば、重要な膵転写因子の異所性発現は、各宿主細胞における発現をもたらすが、細胞の最大15%のみが、良好に分化転換され、膵機能を呈する。
さらに、富化または増加された分化転換能力を有する細胞集団の単離方法が、本明細書に開示される。例えば、これらの細胞を単離するための1つの方法は、グルタミン合成酵素調節要素またはその断片に操作可能に結合されたGFP発現を活性化する細胞を分類することによるものであり、それにより、GSREを活性化することができる細胞を単離する。細胞は、FACSによって分類されてもよく、富化された分化転換能力を有する細胞の急速増幅のために、細胞の残りとは別個に、培養下で増殖され得る。富化された分化転換能力を有する細胞集団は、インビボで組織を形成する細胞の小集団に過ぎない。例えば、所与の組織または細胞集団において、富化された分化転換能力を有する細胞集団は、所与の組織内の細胞集団全体の約1%、2%、3%、4%、5%未満、約10%、約15%に過ぎない。したがって、増加した分化転換能力を有する該細胞の、増加した分化転換能力を有しない細胞からの単離方法が、本明細書に開示される。したがって、本明細書に開示される富化された非膵β細胞は、分化転換の効率を高めて様々な疾患または障害の治療のための分化転換細胞を提供するために、増加した分化転換能力を有する細胞がより大きな割合を占める細胞集団の利点を有する。
非膵β細胞分化転換ヒトインスリン産生細胞産物、及び該産物の作製方法及び使用方法の趣旨及び範囲内で、本明細書に記載される方法に対して、様々な変更及び修正を行ってもよいことが、当業者には明らかとなるであろう。
膵β細胞の産生方法
哺乳類非膵細胞を、特定の時点において、PDX−1、Pax−4、NeuroD1、及びMafA等の膵転写因子と接触させることによって、成熟膵β細胞の表現型を呈する細胞の産生方法が、本明細書に開示される。一部の実施形態において、本方法は、第1の期間において、哺乳類非膵細胞をPDX−1と接触させることと、第2の期間において、第1のステップからの細胞をPax−4と接触させることと、第3の期間において、第2のステップからの細胞をMafAと接触させることとを含む。一実施形態において、本方法は、第1の期間において、哺乳類非膵細胞をPDX−1と接触させることと、第2の期間において、第1のステップからの細胞をNeuroD1と接触させることと、第3の期間において、第2のステップからの細胞をMafAと接触させることとを含む。別の実施形態において、本方法は、第1の期間において、哺乳類非膵細胞をPDX−1及び第2の転写因子と接触させることと、第2の期間において、第1のステップからの細胞をMafAと接触させることとを含む。なおもさらなる実施形態において、第2の転写因子は、NeuroD1及びPax4から選択される。別の実施形態において、PDX−1と一緒に提供される転写因子は、Pax−4、NeuroD1、Ngn3、またはSox−9を含む。別の実施形態において、PDX−1と一緒に提供される転写因子は、Pax−4を含む。別の実施形態において、PDX−1と一緒に提供される転写因子は、NeuroD1を含む。別の実施形態において、PDX−1と一緒に提供される転写因子は、Ngn3を含む。別の実施形態において、PDX−1と一緒に提供される転写因子は、Sox−9を含む。
他の実施形態において、本方法は、第1の期間において、哺乳類非膵細胞をPDX−1と接触させることと、第2の期間において、第1のステップからの細胞をNgn3と接触させることと、第3の期間において、第2のステップからの細胞をMafAと接触させることとを含む。他の実施形態において、本方法は、第1の期間において、哺乳類非膵細胞をPDX−1と接触させることと、第2の期間において、第1のステップからの細胞をSox9と接触させることと、第3の期間において、第2のステップからの細胞をMafAと接触させることとを含む。別の実施形態において、本方法は、第1の期間において、哺乳類非膵細胞をPDX−1及び第2の転写因子と接触させることと、第2の期間において、第1のステップからの細胞をMafAと接触させることとを含み、第2の転写因子は、NeuroD1、Ngn3、Sox9、及びPax4から選択される。
別の実施形態において、本方法は、第1の期間において、哺乳類非膵細胞をPDX−1及びNeuroD1と接触させることと、第2の期間において、第1のステップからの細胞をMafAと接触させることとを含む。別の実施形態において、本方法は、第1の期間において、哺乳類非膵細胞をPDX−1及びPax4と接触させることと、第2の期間において、第1のステップからの細胞をMafAと接触させることとを含む。別の実施形態において、本方法は、第1の期間において、哺乳類非膵細胞をPDX−1及びNgn3と接触させることと、第2の期間において、第1のステップからの細胞をMafAと接触させることとを含む。別の実施形態において、本方法は、第1の期間において、哺乳類非膵細胞をPDX−1及びSox9と接触させることと、第2の期間において、第1のステップからの細胞をMafAと接触させることとを含む。
別の実施形態において、細胞は、3つの因子全て(PDX−1、NeuroD1またはPax4またはNgn3、及びMafA)と同時に接触させられるが、それらの発現レベルは、PDX−1の場合は第1の期間、NeuroD1またはPax4またはNgn3の場合は第2の期間、及びMafAの場合は第3の期間において、それらを細胞内で発現させるような方法で制御される。発現の制御は、各遺伝子上で適切なプロモーターを使用することによって達成することができ、それにより、遺伝子は、mRNAのレベルを修正することによって、または当該技術分野において既知の他の手段によって系列的に発現される。
一実施形態において、本明細書に記載される方法は、上記ステップのうちのいずれかにおいて、その前または後に、細胞を転写因子Sox−9と接触させることをさらに含む。
一実施形態において、第1及び第2の期間は同一であり、第1の期間において、細胞集団を2つのpTFと接触させ(少なくとも1つのpTFは、pDX−1を含む)、続いて第2の期間において、結果として得られる細胞集団を、第3のpTFと接触させることになる(該第3のpTFは、MafAである)。
一実施形態において、第2の期間は、第1の期間の少なくとも24時間後である。代替実施形態において、第2の期間は、第1の期間後24時間未満である。別の実施形態において、第2の期間は、第1の期間の約1時間後、第1の期間の約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約7時間、約8時間、約9時間、約10時間、約11時間、または約12時間後である。一部の実施形態において、第2の期間は、第1の期間の少なくとも24時間、少なくとも48時間、少なくとも72時間、及び少なくとも1週間以上後であり得る。
別の実施形態において、第3の期間は、第2の期間の少なくとも24時間後である。代替実施形態において、第3の期間は、第2の期間の24時間未満後である。別の実施形態において、第3の期間は、第2の期間と同時である。別の実施形態において、第3の期間は、第2の期間の約1時間後、第2の期間の約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約7時間、約8時間、約9時間、約10時間、約11時間、または約12時間後である。他の実施形態において、第3の期間は、第2の期間の少なくとも24時間、少なくとも48時間、少なくとも72時間、及び少なくとも1週間以上後であり得る。
一実施形態において、第1、第2、及び第3の期間は同時であり、単一の期間に、細胞集団を3つのpTFと接触させることになり、少なくとも1つのpTFは、pDX−1を含み、少なくとも1つのpTFは、NeuroD1またはPax4を含み、少なくとも1つのpTFは、MafAを含む。別の実施形態において、第1、第2、及び第3の期間は同時であり、単一の期間に、細胞集団を3つのpTFと接触させることになり、1つのpTFは、pDX−1からなり、1つのpTFは、NeuroD1またはPax4からなり、1つのpTFは、MafAからなる。
一実施形態において、転写因子は、ポリペプチド、または転写因子ポリペプチドをコードするリボ核酸もしくは核酸を含む。別の実施形態において、転写因子は、ポリペプチドを含む。別の実施形態において、転写因子は、転写因子をコードする核酸配列を含む。別の実施形態において、転写因子は、転写因子をコードするデオキシリボ核酸配列(DNA)を含む。さらに別の実施形態において、DNAは、cDNAを含む。別の実施形態において、転写因子は、転写因子をコードするリボ核酸配列(RNA)を含む。なおも別の実施形態において、RNAは、mRNAを含む。
本明細書に提示される開示において使用するための転写因子は、ポリペプチド、リボ核酸、または核酸であり得る。熟練者は、「核酸」という用語が、DNA分子(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)、RNA分子(例えば、mRNA、microRNA、または他のRNA誘導体)、ヌクレオチド類似体を使用して生成されるDNAまたはRNAの類似体、ならびにその誘導体、断片、及び相同体を包含し得ることを理解するであろう。核酸分子は、一本鎖または二本鎖であり得る。一実施形態において、核酸は、DNAである。他の実施形態において、核酸は、mRNAである。PDX−1の一過性発現は、膵β細胞を産生するのに十分であるため、mRNAは、本明細書に開示される方法において特に有利である。ポリペプチド、リボ核酸、または核酸は、ウイルスベクターでの感染、エレクトロポレーション、及びリポフェクションが含まれるが、これらに限定されない当該技術分野において既知の手段によって細胞に送達され得る。
ある特定の実施形態において、本明細書に記載される方法において使用するための転写因子は、PDX−1、Pax−4、NeuroD1、及びMafAからなる群から選択される。他の実施形態において、本明細書に記載される方法において使用するための転写因子は、PDX−1、Pax−4、NeuroD1、MafA、Ngn3、及びSox9からなる群から選択される。
ホメオドメインタンパク質PDX−1(膵臓及び十二指腸ホメオボックス遺伝子−1)(IDX−1、IPF−1、STF−1、またはIUF−1としても知られる)は、膵島発達及び機能を調節することにおいて中心的役割を果たす。PDX−1は、例えば、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、プロインスリン転換酵素1/3(PC1/3)、GLUT−2、及びグルコキナーゼ等の様々な遺伝子の島細胞特異的発現に、直接的または間接的に関与する。追加として、PDX−1は、グルコースに応答するインスリン遺伝子転写を媒介する。PDX−1をコードする好適な核酸源には、例えば、それぞれGenBank受入番号U35632及びAAA88820として入手可能なヒトPDX−1核酸(及びコードされたタンパク質配列)が含まれる。一実施形態において、PDX−1ポリペプチドのアミノ酸配列は、化1に記載される。
(化1)
一実施形態において、PDX−1ポリヌクレオチドの核酸配列は、化2に記載される。
(化2)
PDX−1の他の配列源には、それぞれGenBank受入番号U35632及びAAA18355に示される、ラットPDX核酸及びタンパク質配列が含まれ、参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる。追加の源には、ゼブラフィッシュPDX−1核酸が含まれ、タンパク質配列は、それぞれGenBank受入番号AF036325及びAAC41260に示され、参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる。
ペアードボックス4、ペアードボックスタンパク質4、ペアードボックス遺伝子4、MODY9、及びKPDとしても知られるPax−4は、グルカゴン、インスリン、及びソマトスタチンプロモーター内の要素に結合する膵特異的転写因子であり、膵島β細胞の分化及び発達において重要な役割を果たすと考えられる。一部の細胞状況において、Pax−4は、抑制因子の活性を呈する。Pax−4をコードする好適な核酸源には、例えば、それぞれGenBank受入番号NM_006193.2及びAAD02289.1として入手可能なヒトPax−4核酸(及びコードされたタンパク質配列)が含まれる。
V−maf筋腱膜の繊維肉腫発癌遺伝子相同体AまたはRIPE3B1としても知られるMafAは、インスリン遺伝子発現のためのβ細胞特異的及びグルコース調節転写活性化因子である。MafAは、β細胞の機能及び発達、ならびに糖尿病の病因に関与し得る。MafAをコードする好適な核酸源には、例えば、それぞれGenBank受入番号NM_201589.3及びNP_963883.2として入手可能なヒトMafA核酸(及びコードされたタンパク質配列)が含まれる。一実施形態において、MafAポリペプチドのアミノ酸配列は、化3に記載される。
(化3)
別の実施形態において、MafAポリヌクレオチドの核酸配列は、化4に記載される。
(化4)
ニューロゲニン3またはNgn3としても知られるNeurog3は、膵臓及び小腸における内分泌発達に必要なベーシック・ヘリックス・ループ・へリックス(bHLH)転写因子である。Neurog3をコードする好適な核酸源には、例えば、それぞれGenBank受入番号NM_020999.3及びNP_066279.2として入手可能なヒトNeurog3核酸(及びコードされたタンパク質配列)が含まれる。
神経分化1またはNeuroDとしても知られるNeuroD1、及びβ−2(β2)は、NeuroD型転写因子である。それは、他のbHLHタンパク質とのヘテロ二量体を形成し、E−ボックスとして知られる特定のDNA配列を含有する遺伝子の転写を活性化する、ベーシック・ヘリックス・ループ・ヘリックス転写因子である。インスリン遺伝子の発現を調節し、この遺伝子における突然変異は、II型真性糖尿病をもたらす。NeuroD1をコードする好適な核酸源には、例えば、それぞれGenBank受入番号NM_002500.4及びNP_002491.2として入手可能なヒトNeuroD1核酸(及びコードされたタンパク質配列)が含まれる。
一実施形態において、NeuroD1ポリペプチドのアミノ酸配列は、化5に記載される。
(化5)
別の実施形態において、NeuroD1ポリヌクレオチドの核酸配列は、化6に記載される。
(化6)
Sox9は、胚発生に関与する転写因子である。Sox9は、骨及び骨格発達におけるその重要性について具体的に調査されてきた。SOX−9は、HMG−ボックスクラスDNA結合タンパク質の他のメンバーと共に、配列CCTTGAGを認識する。本明細書に提示される開示の状況において、Sox9の使用は、分化転換の誘導前または誘導後のいずれかで、膵前駆細胞塊の維持に関与し得る。Sox9をコードする好適な核酸源には、例えば、それぞれGenBank受入番号NM_000346.3及びNP_000337.1として入手可能なヒトSox9核酸(及びコードされたタンパク質配列)が含まれる。
相同性は、一実施形態において、配列アラインメントのためのコンピュータアルゴリズムによって、当該技術分野において十分に記載される方法で決定される。例えば、核酸配列相同性のコンピュータアルゴリズム解析は、例えば、BLAST、DOMAIN、BEAUTY(BLAST Enhanced Alignment Utility)、GENPEPT、及びTREMBLパッケージ等の入手可能な任意の数のソフトウェアパッケージの利用を含み得る。
別の実施形態において、「相同性」は、配列番号4〜9から選択される配列に対して60%超の同一性を指す。別の実施形態において、「相同性」は、配列番号1〜76から選択される配列に対して70%超の同一性を指す。別の実施形態において、同一性は、75%超、78%超、80%超、82%超、83%超、85%超、87%超、88%超、90%超、92%超、93%超、95%超、96%超、97%超、98%超、または99%超である。別の実施形態において、同一性は100%である。各可能性は、本明細書に提示される開示の別個の実施形態を表す。
別の実施形態において、相同性は、候補配列ハイブリダイゼーションの決定を介して決定され、その方法は、当該技術分野において十分に記載されている(例えば、非特許文献2、非特許文献3、及び非特許文献4を参照されたい)。例えば、ハイブリダイゼーション方法は、天然カスパーゼペプチドをコードするDNAの補完のために、適度〜ストリンジェントな条件下で実行されてもよい。ハイブリダイゼーション条件は、例えば、10〜20%ホルムアミド、5×SSC(150mM NaCl、15mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート溶液、10%硫酸デキストラン、及び20μg/mLの変性剪断されたサケ***DNAを含む溶液中、42℃で終夜のインキュベーションである。
本明細書に列挙される任意のアミノ酸配列のタンパク質及び/またはペプチド相同性は、一実施形態において、イムノブロット解析を含む当該技術分野において十分に記載される方法によって、またはアミノ酸配列のコンピュータアルゴリズム解析を介して、多くの入手可能なソフトウェアパッケージのうちのいずれかを用いて、確立された方法を介して決定される。これらのパッケージの一部には、FASTA、BLAST、MPsrch、またはScanpsパッケージが含まれ得、例えば、解析のためのスミス・ウォーターマンアルゴリズム、及び/またはグローバル/ローカルもしくはBLOCKSアラインメントの使用を用いてもよい。相同性を決定する各方法は、本明細書に提示される開示の別個の実施形態を表す。
細胞は、膵ホルモンを産生することができる任意の細胞、例えば、骨髄、筋肉、脾臓、腎臓、血液、皮膚、膵臓、または肝臓であり得る。一実施形態において、細胞は、非膵細胞である。別の実施形態において、細胞は、非膵β細胞である。一実施形態において、細胞は、膵島として機能することができ、すなわち、膵ホルモンを貯蔵、処理、及び分泌する。別の実施形態において、分泌は、グルコース調節される。
別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも0.001pgインスリン/106細胞/時を含む。別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも0.002pgインスリン/106細胞/時を含む。別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも0.003pgインスリン/106細胞/時を含む。別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも0.005pgインスリン/106細胞/時を含む。別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも0.007pgインスリン/106細胞/時を含む。別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも0.01pgインスリン/106細胞/時を含む。別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも0.1pgインスリン/106細胞/時を含む。別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも0.5pgインスリン/106細胞/時を含む。別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも1pgインスリン/106細胞/時を含む。別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも5pgインスリン/106細胞/時を含む。別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも10pgインスリン/106細胞/時を含む。別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも50pgインスリン/106細胞/時を含む。別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも100pgインスリン/106細胞/時を含む。別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも500pgインスリン/106細胞/時を含む。別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも1ngインスリン/106細胞/時を含む。別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも5ngインスリン/106細胞/時を含む。別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも10ngインスリン/106細胞/時を含む。別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも50ngインスリン/106細胞/時を含む。別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも100ngインスリン/106細胞/時を含む。別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも500ngインスリン/106細胞/時を含む。別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも1μgインスリン/106細胞/時を含む。別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも5μgインスリン/106細胞/時を含む。別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも10μgインスリン/106細胞/時を含む。別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも50μgインスリン/106細胞/時を含む。別の実施形態において、グルコース調節インスリン分泌は、高グルコース濃度に応答して少なくとも100μgインスリン/106細胞/時を含む。
別の実施形態において、膵ホルモンは、細胞外トリガー時に分泌され得るインスリンを含む。別の実施形態において、細胞は、肝細胞である。追加の実施形態において、細胞は、全能性または多能性である。代替実施形態において、細胞は、造血幹細胞、胚幹細胞、または好ましくは肝幹細胞である。他の実施形態において、細胞は、誘導された多能性幹細胞である。
一実施形態において、本明細書に開示される細胞集団の源は、ヒト源である。別の実施形態において、本明細書に開示される細胞集団の源は、インスリン療法を必要とする対象に対する自己由来ヒト源である。別の実施形態において、本明細書に開示される細胞集団の源は、インスリン療法を必要とする対象に対する同種異系ヒト源である。
ある特定の実施形態において、細胞は、間葉系間質細胞(MSC)としても知られる、間葉系幹細胞、例えば、肝組織、脂肪組織、骨髄、皮膚、胎盤、臍帯、ウォートンゼリーまたは臍帯血から誘導されたMSCである。「臍帯血(umbilical cord blood)」または「臍帯血(cord blood)」は、新生児または胎児、最も好ましくは新生児から得られた血液を指すことを意味し、また好ましくは、新生児の臍帯または胎盤から得られる血液を指す。これらの細胞は、当該技術分野において既知の任意の従来の方法に従って入手され得る。MSCは、CD105、CD73、及びCD90が含まれるが、これらに限定されない、ある特定の細胞表面マーカーの発現、ならびに骨芽細胞、脂肪細胞、及び軟骨芽細胞含む複数の系統に分化する能力によって定義される。MSCは、プラスチック接着、STRO−1等のモノクローナル抗体を使用するか、または上皮間葉転換(EMT)を受ける上皮細胞を通じた分離等の従来の単離技法によって組織から入手され得る。
熟練者は、「脂肪組織由来間葉系幹細胞」という用語が、脂肪組織から単離された未分化成体幹細胞を包含し得、また全く同じ質及び意味を有する、「脂肪幹細胞」という用語でもあり得ることを理解するであろう。これらの細胞は、当該技術分野において既知の任意の従来の方法に従って入手され得る。
熟練者は、「胎盤由来間葉系幹細胞」という用語が、胎盤から単離された未分化成体幹細胞を包含し得、また本明細書において、全く同じ意味及び質を有する「胎盤幹細胞」とも称され得ることを理解するであろう。
化合物(すなわち、PDX−1、Pax−4、MafA、NeuroD1、及び/もしくはSox−9ポリペプチド、またはPDX−1、Pax−4、MafA、NeuroD1、及び/もしくはSox−9ポリペプチドをコードする核酸)に曝露される、すなわち、接触される細胞集団は、任意の数の細胞、すなわち、1つ以上の細胞であり得、インビトロ、インビボ、またはエクスビボで提供され得る。転写因子と接触される細胞集団は、転写因子と接触される前にインビトロで増幅され得る。産生された細胞集団は、成熟膵β細胞表現型を呈する。これらの細胞は、β細胞系統に沿った分化転換及び成熟前、及びそれを必要とする患者または対象への投与または送達前に、当該技術分野において既知の方法によってインビトロで増幅され得る。
対象は、一実施形態において、哺乳動物である。哺乳動物は、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、またはウシであり得る。
一部の実施形態において、転写因子は、PDX−1、Pax−4、MafA、NeuroD1、もしくはSox−9、またはこれらの組み合わせ等のポリペプチドであり、当該技術分野において既知の方法によって細胞に送達される。例えば、転写因子ポリペプチドは、細胞に直接提供されるか、または微粒子もしくはナノ粒子、例えば、リポソーム担体を介して送達される。
一部の実施形態において、転写因子は、核酸である。例えば、核酸は、PDX−1、Pax−4、MafA、NeuroD1、またはSox−9ポリペプチドをコードする。転写因子をコードする核酸、またはかかる核酸の組み合わせは、当該技術分野において既知の任意の手段によって細胞に送達され得る。一部の実施形態において、核酸は、発現ベクターまたはウイルスベクターに組み込まれる。一実施形態において、ウイルスベクターは、アデノウイルスベクターである。別の実施形態において、アデノウイルスベクターは、第1世代アデノウイルス(FGAD)ベクターである。別の実施形態において、FGADは、細胞のゲノムに組み込むことができない。別の実施形態において、FGADは、E1欠失組み換えアデノウイルスベクターを含む。別の実施形態において、FGADは、コードされたポリペプチドの一過性発現を提供する。
ウイルスベクターの発現は、以下、形質移入、エレクトロポレーション、感染、または形質導入のうちのいずれかによって細胞に誘導され得る。他の実施形態において、核酸は、mRNAであり、例えば、エレクトロポレーションによって送達される。一実施形態において、エレクトロポレーション方法は、フローエレクトロポレーション技術を含む。例えば、別の実施形態において、エレクトロポレーション方法は、MaxCyteエレクトロポレーションシステム(MaxCyte Inc.Georgia USA)の使用を含む。
ある特定の実施形態において、製造されたヒトインスリン産生細胞の集団は、肝臓表現型マーカーの低減を含む。一実施形態において、アルブミン、α−1抗トリプシン、またはこれらの組み合わせの発現の低減がある。別の実施形態において、内在性PDX−1を発現する細胞集団の5%未満は、アルブミン及びα−1抗トリプシンを発現する。別の実施形態において、内在性PDX−1を発現する細胞集団の10%、9%、8%、7%、6%、4%、3%、2%、または1%未満が、アルブミン及びα−1抗トリプシンを発現する。
分化転換の素因がある細胞集団
本明細書に提示される開示は、分化転換の素因がある肝臓由来細胞集団を提供する。細胞集団は、本明細書に記載される膵β細胞の産生方法において有用であり得る。本明細書に提示される開示の分化転換の素因がある細胞は、増加または富化された分化転換能力を有するとも称され得る。「増加した分化転換能力」とは、本明細書に提示される開示の細胞集団が、分化転換プロトコル(すなわち、膵転写因子の導入)に供される場合、細胞の15%超、20%超、30%超、40%超、50%超、60%超、70%超、または80%超が、代替細胞型に分化し得ることを意味する。一実施形態において、増加した分化転換能力を有する内皮細胞、上皮細胞、間葉系細胞、線維芽細胞、または肝細胞の集団は、成熟膵細胞または成熟神経細胞に分化(分化転換)され得る。
別の実施形態において、分化転換の素因がある細胞集団は、グルタミン合成酵素応答要素(GSRE)を活性化する能力を有する。例えば、本明細書に提示される開示の細胞集団において、集団内の細胞の少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%が、GSREを活性化することができる。一実施形態において、集団内の細胞の少なくとも30%が、GSREを活性化することができる。グルタミン合成酵素は、脳、腎臓、及び肝臓内で主に発現される酵素であり、グルタミン酸塩及びアンモニアの凝縮を触媒してグルタミンを形成することにより、窒素の代謝において重要な役割を果たす。グルタミン合成酵素は、例えば、中心周辺肝細胞及び脳内の星状細胞において固有に発現される。GSREの活性化を示す本明細書に提示されるデータは、分化転換の素因がある細胞の単離のための、固有の選択的パラメータを提供する。別の実施形態において、素因がある細胞集団は、中心周辺肝細胞を含む。
GSREの活性化は、当業者に既知の方法によって測定され得る。例えば、蛍光タンパク質等のプロモーター及びレポーター遺伝子に操作可能に結合されたグルタミン合成酵素応答要素を含有する、組み換えアデノウイルスが生成され得る。GSREレポーターを有するこの組み換えアデノウイルスは、いくらかの割合の分化転換の素因がある細胞を含有する、細胞の異種混合物に導入され得る。GSREの活性化の能力があるそのような細胞は、当該技術分野において既知の方法によって検出され得る、レポーター遺伝子を発現し、それにより、分化転換の素因がある細胞を特定する。
分化転換の素因がある細胞そのような細胞が不明である、異種細胞集団は、最小TKプロモーター及びeGFPに操作可能に結合されるGSREを含有するアデノウイルスベクターと接触され得る。GSREを活性化する細胞は、GFPを発現し、当該技術分野において既知の様々な方法によって特定され、GFP発現を検出することができる。例えば、分化転換の素因があるGSRE活性化細胞の、分化転換の素因がない細胞からの分離は、当業者に既知のFAC装置、ソーター、及び技法を通じて達成され得る(図14)。次いで、分化転換の素因がある分離された細胞は、インビトロで増殖または増幅され得る。本明細書に記載される結果は、5〜12継代以上にわたって分化転換の素因がある細胞の継代が、それらの分化転換能力を保持することを示す。例えば、分化転換の素因がある単離された肝細胞は、培養下12継代後でも、グルコース依存的にインスリンの産生及び分泌を継続する(図17)。
別の実施形態において、分化転換の素因がある細胞集団はまた、活性Wntシグナル伝達経路を有する。Wntシグナル伝達経路は、発達中の幹細胞多能性及び細胞運命、ならびに体軸パターン化、細胞増殖、及び細胞移行において重要な役割を果たす。Wntシグナル伝達経路は、Wnt−タンパク質リガンドの、Frizzled(Fz)ファミリー受容体(G共役型タンパク質受容体)への結合によって活性化され、任意に、共受容体タンパク質を活性化し、Dishevelled(Dsh)と呼ばれる細胞質タンパク質を後次に活性化する。正準Wnt経路において、共受容体LRP−5/6も活性化され、β−カテニンが細胞質内に蓄積し、徐々に核内へと移行して、TCF/LEF転写因子の転写共活性因子として作用する。Wntシグナル伝達経路なしに、腺腫様多発結腸ポリープ(APC)、アキシン、タンパク質ホスファターゼ2A(PP2A)、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK3)、及びカゼインキナーゼ1α(CK1α)等のタンパク質を含む破壊複合体は、ユビキチン化及びプロテアソームによるその後次分解のためのβ−カテニンを標的とする。しかしながら、Wnt結合によるFrizzled受容体の活性化は、破壊複合体の崩壊を引き起こし、それによりβ−カテニンの蓄積を可能にする。
Wntシグナル伝達経路はまた、異なる共受容体タンパク質を用い、異なる下流エフェクターを活性化する非正準経路を通じて起こり得、例えば、細胞骨格を調節し、小胞体からのカルシウム放出を刺激し、mTOR経路を活性化し、筋形成を調節する。
当業者は、当該技術分野において既知の方法を容易に使用して、Wntシグナル伝達経路の活性化を決定することができる。例えば、Wnt3aを発現する細胞、減少レベルのDKK1またはDKK3、減少レベルのAPC、増加した活性化β−カテニンレベル、またはSTAT3結合要素は、活性Wntシグナル伝達経路を有する。DKK1、DKK3、及びAPCは、Wntシグナル伝達経路の既知の阻害剤である。活性Wntシグナル伝達経路を示す他のシグナル伝達エフェクターは、当該技術分野において容易にわかる。
一実施形態において、開示される方法は、一次成体ヒト肝細胞集団をリチウムで処置することをさらに含み、該処置集団は、分化転換の素因がある細胞が富化される。別の実施形態において、開示される方法は、一次成体ヒト肝細胞集団をリチウムで処置することをさらに含み、集団内の該分化転換の素因がある細胞は、リチウムでの処置に続いて増加した素因を有する。故に、分化転換の素因がある富化された細胞集団は、一次成体細胞集団をリチウムで処置することによって確立され得る。
一実施形態において、一次成体細胞集団は、10mMのリチウムで処置される。別の実施形態において、一次成体細胞集団は、1mMのリチウムで処置される。一実施形態において、一次成体細胞集団は、1〜10mMのリチウムで処置される。一実施形態において、一次成体細胞集団は、2mMのリチウムで処置される。一実施形態において、一次成体細胞集団は、3mMのリチウムで処置される。一実施形態において、一次成体細胞集団は、4mMのリチウムで処置される。一実施形態において、一次成体細胞集団は、5mMのリチウムで処置される。一実施形態において、一次成体細胞集団は、6mMのリチウムで処置される。一実施形態において、一次成体細胞集団は、7mMのリチウムで処置される。一実施形態において、一次成体細胞集団は、8mMのリチウムで処置される。一実施形態において、一次成体細胞集団は、9mMのリチウムで処置される。一実施形態において、一次成体細胞集団は、約10〜20mMのリチウムで処置される。一実施形態において、一次成体細胞集団は、15mMのリチウムで処置される。一実施形態において、一次成体細胞集団は、20mMのリチウムで処置される。一実施形態において、一次成体細胞集団は、10〜50mMのリチウムで処置される。一実施形態において、一次成体細胞集団は、10〜100mMのリチウムで処置される。
別の実施形態において、細胞は、分化転換時の前(第1の期間)に処置された。別の実施形態において、細胞は、分化転換の12時間前(第1の期間)に処置された。別の実施形態において、細胞は、分化転換の24時間前(第1の期間)に処置された。別の実施形態において、細胞は、分化転換の36時間前(第1の期間)に処置された。別の実施形態において、細胞は、分化転換の48時間前(第1の期間)に処置された。別の実施形態において、細胞は、分化転換の60時間前(第1の期間)に処置された。別の実施形態において、細胞は、分化転換の72時間前(第1の期間)に処置された。なおも別の実施形態において、細胞は、分化転換時(第1の期間)に処置された。
一実施形態において、本明細書に開示される方法で使用される細胞集団は、膵系統への分化転換の素因があり、分化転換細胞は、膵臓表現型及び機能を呈する。例えば、分化転換細胞は、膵ホルモンの発現、産生、及び/または分泌が含まれるが、これらに限定されない成熟膵β細胞の表現型及び機能を呈する。膵ホルモンには、インスリン、ソマトスタチン、グルカゴン、または島アミロイドポリペプチド(IAPP)が含まれるが、これらに限定されない。インスリンは、肝インスリンまたは血清インスリンであり得る。一実施形態において、インスリンは、グルコース利用、ならびに炭水化物、脂肪、及びタンパク質代謝を促進することができる、完全に処理された形態のインスリンである。例えば、分化転換の素因がある細胞は、異種インビトロ一次ヒト肝細胞培養物中の全細胞の約15%を包含し得る。細胞が、異所的にpTFを発現する場合、培養下の細胞の5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%超が、インスリンを産生するか、またはC−ペプチドを分泌する。
一実施形態において、分化転換の素因がある細胞集団は、肝臓の中心静脈に密接して位置するか、または中心周辺肝細胞である。本明細書に示されるように、肝細胞の40〜50%超が、PDX−1等の膵転写因子を異所的に発現するが、細胞の部分集合のみが、pTF発現時にインスリンを産生した。これらのインスリン産生細胞(IPC)は、図10Bに示されるように、主に腹側静脈の近くに位置していた。これらの細胞はまた、グルタミン合成酵素の発現及び活性Wntシグナル伝達を特徴とする。
別の実施形態において、本明細書に開示される方法で使用される細胞集団は、神経系統への分化転換の素因があり、分化転換細胞は、神経マーカーを発現するか、神経表現型を呈するか、または神経機能を呈する。分化転換細胞は、ニューロンまたはグリア細胞であり得る。
別の実施形態において、分化転換の増加した素因を有する細胞は、特異的細胞表面マーカーを通じて特定され得る。例えば、増加したレベルのHOMER1、LAMP3、またはBMPR2を有する細胞は、分化転換の素因がない細胞と比較したときに、増加した分化転換能力を有する細胞を示す。減少したレベルのABCB1、ITGA4、ABCB4、またはPRNPを有する細胞は、分化転換の素因がない細胞と比較したときに、増加した分化転換能力を有する細胞を示す。記載される細胞表面マーカーの組み合わせを使用して、分化転換の素因がある細胞集団を、分化転換の素因がない細胞集団から区別することができる。これらの細胞表面マーカーに対する抗体は、商業的に入手可能である。当該技術分野において既知の免疫測定または免疫親和技法を用いて、増加した分化転換能力を有する細胞を、分化転換能力を有する細胞から区別することができる。
膵細胞表現型を呈する細胞を産生するための本明細書に提示される開示の細胞集団の使用は、膵細胞表現型を呈する細胞を産生するために非膵細胞の異種集団を分化することを超える、ある特定の利点を提供する。非膵細胞(すなわち、肝細胞)の異種集団内でPDX−1等の膵転写因子を発現することを記載する以前の研究は、最良でもPDX−1発現細胞のわずか15%が、インスリン産生能力があることを示す。したがって、細胞のわずか15%が、膵ホルモンを産生し、分泌することができる成熟膵β細胞へと良好に分化した。対照的に、本明細書に提示される開示の細胞集団にpTFを導入することにより、細胞の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、または少なくとも80%が、成熟膵β細胞表現型に分化され、例えば、インスリン、グルカゴンを産生し、かつ/またはc−ペプチドを分泌することになる。一実施形態において、本明細書に提示される開示の細胞集団が、膵転写因子を発現する場合、細胞の少なくとも30%が、インスリンを産生するか、またはC−ペプチドを分泌する。
分化転換方法
本明細書に提示される開示はまた、成熟分化細胞型を呈する細胞を産生する、増加した分化転換能力を有する細胞集団の利用方法を提供し、分化した細胞は、出発細胞集団とは異なる表現型を有する。例えば、増加した分化転換能力を有する細胞(すなわち、上皮細胞、線維芽細胞、または肝細胞)の集団は、成熟分化した膵表現型または神経細胞表現型を呈するように、膵系統または神経系統に沿った細胞に分化され得る。細胞を膵系統または神経系統に分化するための、当該技術分野において既知の任意の手段を用いることができる。
一実施形態において、分化転換の素因がある細胞集団は、神経転写因子の発現を通じて神経系統に沿って分化され得る。好適な神経転写因子は、当該技術分野において既知である。他の実施形態において、本明細書に提示される開示の細胞集団は、細胞を、様々なサイトカイン、成長因子、または細胞を神経系統へと分化するための当該技術分野において既知の他の薬剤と接触させることを通じて、成熟神経細胞に分化されてもよい。分化神経細胞は、神経マーカーを発現するか、神経表現型(すなわち、神経遺伝子発現プロファイル)を呈するか、または神経機能を呈する。分化細胞は、ニューロンまたはグリア細胞であり得る。
別の実施形態において、分化転換の素因がある細胞集団は、膵転写因子の発現を通じて膵系統に沿って分化され得る。膵転写因子は、例えば、PDX−1、Pax−4、MafA、NeuroD1、またはこれらの組み合わせである。膵β細胞の産生方法は、特許文献2、及び特許文献3に記載され、それらの内容は、参照によりそれら全体が組み込まれる。
別の実施形態において、分化転換の素因がある細胞集団は、本明細書に記載の方法を通じて膵系統に沿って分化され得る。
膵β細胞表現型
本明細書に提供される方法は、成熟膵β細胞の表現型または機能を有する細胞を産生する。熟練者であれば、「膵β細胞の表現型または機能」という用語が、膵β細胞に典型的な1つ以上の特徴、すなわち、分泌顆粒における膵ホルモンの産生、処理、貯蔵、ホルモン分泌、膵遺伝子プロモーターの活性化、または特徴的なβ細胞遺伝子発現プロファイルを示す細胞を包含し得ることを理解するであろう。ホルモン分泌には、栄養的及び/またはホルモン的に調節された分泌が含まれる。一実施形態において、産生された細胞は、本明細書に記載されるように、少なくとも1つの膵β細胞の表現型または機能を呈する。
膵ホルモンは、例えば、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、または島アミロイドポリペプチド(IAPP)であり得る。インスリンは、肝インスリンまたは血清インスリンであり得る。別の実施形態において、膵ホルモンは、肝インスリンである。代替実施形態において、膵ホルモンは、血清インスリン(すなわち、例えば、グルコース利用、炭水化物、脂肪、及びタンパク質代謝を促進することができる完全に処理された形態のインスリン)である。
一部の実施形態において、膵ホルモンは、「プロホルモン」形態をとる。他の実施形態において、膵ホルモンは、そのホルモンの完全に処理された生物活性形態をとる。他の実施形態において、膵ホルモンは、調節制御下にあり、すなわち、ホルモンの分泌は、内在的に産生される膵ホルモンと同様に、栄養及びホルモン制御下にある。例えば、本明細書に開示される一実施形態において、ホルモンは、グルコースの調節制御下にある。
膵β細胞表現型は、例えば、膵ホルモン産生、すなわち、インスリン、ソマトスタチン、もしくはグルカゴンタンパク質mRNAまたはタンパク質の発現を測定することによって決定され得る。ホルモン産生は、当該技術分野において既知の方法、すなわち、免疫測定、ウェスタンブロット、受容体結合アッセイによって、または糖尿病宿主に埋め込まれたときに高血糖を改善する能力によって機能的に決定され得る。インスリン分泌はまた、例えば、C−ペプチドの処理及び分泌によって測定され得る。別の実施形態において、高感度アッセイは、インスリン分泌を測定するために用いられ得る。別の実施形態において、高感度アッセイには、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、メソスケール発見アッセイ(MSD)、または酵素結合免疫スポットアッセイ(ELISpot)、または当該技術分野において既知のアッセイが含まれる。
一部の実施形態において、細胞は、本明細書で特定される方法を使用してインスリンを産生及び分泌するように指向され得る。インスリンを産生する細胞の能力は、当業者に既知の多様な方法によってアッセイされ得る。例えば、インスリンmRNAは、RT−PCRによって検出され得るか、またはインスリンは、インスリンに対して起こされた抗体によって検出され得る。加えて、膵分化の他の指標には、遺伝子Isl−1、Pdx−1、Pax−4、Pax−6、及びGlut−2の発現が含まれる。島細胞の特定のための他の表現型マーカーは、特許文献1に開示され、その全体が本明細書に組み込まれる。
膵β細胞表現型は、例えば、膵特異的遺伝子のプロモーター活性化によって決定され得る。特定の関心対象の膵特異的プロモーターには、インスリン及び膵転写因子、すなわち内在性PDX−1のプロモーターが含まれる。プロモーター活性化は、当該技術分野において既知の方法によって、例えば、ルシフェラーゼアッセイ、EMSA、または下流遺伝子発現の検出によって決定され得る。
一部の実施形態において、膵β細胞表現型はまた、膵遺伝子発現プロファイルの誘導によって決定され得る。熟練者であれば、「膵遺伝子発現プロファイル」という用語が、非内分泌組織、すなわち、膵転写因子、膵酵素、または膵ホルモン内で通常は転写的にサイレントである、1つ以上の遺伝子の発現を含むプロファイルを包含し得ることを理解するであろう。膵酵素は、例えば、PCSK2(PC2またはプロホルモン転換酵素)、PC1/3(プロホルモン転換酵素1/3)、グルコキナーゼ、グルコース輸送体2(GLUT−2)である。膵特異的転写因子には、例えば、Nkx2.2、Nkx6.1、Pax−4、Pax−6、MafA、NeuroD1、NeuroG3、Ngn3、β−2、ARX、BRAIN4、及びIsl−1が含まれる。
膵遺伝子発現プロファイルの誘導は、当業者に周知の技法を使用して検出され得る。例えば、膵ホルモンRNA配列は、膵ホルモンRNA配列は、例えば、ノーザンブロットハイブリダイゼーション解析、逆転写ベースのポリメラーゼ連鎖反応等の増殖ベースの検出方法、またはマイクロアレイチップ解析による体系的検出において検出され得る。代替として、発現はまた、タンパク質レベルで、すなわち、遺伝子によりコードされるポリペプチドのレベルを測定することによって測定され得る。特定の実施形態において、PC1/3遺伝子またはタンパク質発現は、プロホルモンをそれらの活性成熟形態に処理することにおけるその活性によって決定され得る。かかる方法は、当該技術分野において周知の方法であり、例えば、遺伝子によりコードされるタンパク質に対する抗体に基づく免疫測定、または処理されたプロホルモンのHPLCが含まれる。
一部の実施形態において、本明細書に記載される方法によって生成された成熟β細胞表現型を呈する細胞は、元の細胞の少なくとも1つの遺伝子または遺伝子発現プロファイルを抑制し得る。例えば、成熟β細胞表現型を呈するように誘導される肝細胞は、少なくとも1つの肝特異的遺伝子を抑制し得る。当業者であれば、当該技術分野において既知の方法を使用して、すなわち、遺伝子によってコードされるmRNAまたはポルペプチドのレベルを測定して、元の細胞及び産生された細胞の肝特異的遺伝子発現を容易に決定できるであろう。比較時に、肝特異的遺伝子発現の減少は、分化転換が起こったことを示す。
ある特定の実施形態において、本明細書に開示される分化転換細胞は、肝表現型マーカーの低減を含む。一実施形態において、アルブミン、α−1抗トリプシン、またはこれらの組み合わせの発現の低減がある。別の実施形態において、内在性PDX−1を発現する細胞集団の5%未満は、アルブミン及びα−1抗トリプシンを発現する。別の実施形態において、内在性PDX−1を発現する分化転換細胞の10%、9%、8%、7%、6%、4%、3%、2%、または1%未満が、アルブミン及びα−1抗トリプシンを発現する。
膵障害の治療方法
本明細書に提示される開示は、対象における膵障害の治療、すなわち、発症の予防もしくは遅延、または症状の緩和に使用するための方法を開示する。例えば、膵障害は、変性膵障害である。本明細書に開示される方法は、膵細胞、例えば、島β細胞の喪失、または膵細胞機能の喪失によって引き起こされるか、またはそれをもたらすような膵障害に特に有用である。
一般的な変性膵障害には、糖尿病(例えば、I型、II型、または妊娠性)及び膵癌が含まれるが、これらに限定されない。本明細書に開示される方法を使用することによって治療され得る他の膵障害または膵関連障害は、例えば、高血糖、膵炎、膵仮性嚢胞、または傷害によって引き起こされる膵外傷である。追加として、膵切除を受けた個体もまた、開示される方法による治療に適している。
糖尿病は、3つの形態、1型、2型、及び妊娠性で見出される代謝障害である。1型、すなわちIDDMは、自己免疫疾患であり、免疫系が、膵臓のインスリン産生β細胞を破壊し、インスリンを産生する膵臓の能力を低減または排除する。1型糖尿病患者は、生命を維持するために毎日のインスリン補添物を摂取しなければならない。典型的に、症状は急速に発達し、増加した喉の渇き及び排尿、慢性空腹、体重減少、霧視、及び疲労感が含まれる。2型糖尿病は、最も一般的であり、糖尿病罹患者の90%〜95%において見出される。加齢、肥満、家族歴、以前の妊娠性糖尿病、運動不足、及び人種に関連する。妊娠性糖尿病は、妊娠中にのみ起こる。妊娠性糖尿病を発症する女性は、5〜10年以内に2型糖尿病を発症する可能性が20%〜50%である。
糖尿病に罹患しているか、または発症する危険性のある対象は、血糖値を決定する等の、当該技術分野において既知の方法によって特定される。例えば、終夜絶食後の少なくとも2つの時点で140mg/dLを超える血糖値は、個人が糖尿病を有することを意味する。糖尿病に罹患していないか、または発症する危険性のない個人は、70〜110mg/dLの絶食時糖レベルを有すると特徴付けられる。
糖尿病の症状には、疲労感、吐き気、頻尿、過剰な喉の渇き、体重減少、霧視、頻繁な感染、及び創傷または傷の遅い治癒、一貫して140/90以上の血圧、35mg/dL未満のHDLコレステロール、または250mg/dLを超えるトリグリセリド、高血糖、低血糖、インスリン欠乏または耐性が含まれる。化合物が投与される糖尿病または前糖尿病の患者は、当該技術分野において既知の診断方法を使用して特定される。
高血糖は、過剰量のグルコースが血漿中で循環する膵関連傷害である。これは、一般に(200mg/dL)より高いグルコースレベルである。高血糖を有する対象は、糖尿病を有する場合と有しない場合がある。
膵癌は、米国において第4の最も一般的な癌であり、主に60歳を超える人々に起こり、いかなる癌よりも最低の5年生存率を有する。最も一般的な種類の膵癌である、腺癌は、膵管の内壁において起こり、嚢胞腺癌及び腺房細胞癌は稀である。しかしながら、良性腫瘍もまた膵臓内で成長し、そのようなものには、インスリンを分泌する腫瘍であるインスリノーマ、正常レベルより高いガストリンを分泌するガストリノーマ、及びグルカゴンを分泌する腫瘍であるグルカゴノーマが含まれる。
膵癌は、既知の原因はないが、糖尿病、喫煙、及び慢性膵炎を含むいくつかの危険性を有する。症状には、上腹部痛、食欲不振、黄疸、体重減少、消化不良、吐き気もしくは嘔吐、下痢、疲労感、掻痒、または腹部器官の肥大が含まれ得る。診断は、超音波、コンピューター断層撮影、磁気共鳴画像、ERCP、経皮経肝胆管撮影、膵臓生検、または血液検査を使用して行われる。治療は、手術、放射線療法もしくは化学療法、疼痛もしくは掻痒のための薬物治療、経口酵素調製物、またはインスリン治療を必要とし得る。
膵炎は、膵臓の炎症及び自己消化である。自己消化において、膵臓は、それ自体の酵素によって破壊され、これが炎症を引き起こす。急性膵炎は、典型的に単一発生のみを伴い、その後に膵臓は正常に戻ることになる。しかしながら、慢性膵炎は、膵臓及び膵機能の永久的損傷を伴い、線維症につながり得る。代替として、数回の発病後に解消し得る。膵炎は、膵管を遮断する胆石によって、またはアルコール乱用によって最も頻繁に引き起こされ、これが小さい膵管を遮断させ得る。他の原因には、腹部外傷もしくは手術、感染、腎不全、ループス、嚢胞性線維症、腫瘍、またはサソリの毒針が含まれる。
膵炎に頻繁に関連する症状には、恐らく腰部もしくは胸部に広がる腹痛、吐き気もしくは嘔吐、速脈、熱、上腹部膨張、腹水、低下した血圧、または軽度黄疸が含まれる。症状は、膵炎に関連すると特定される前に他の病気に起因するとされる場合がある。
神経障害の治療方法
本明細書に提示される開示はまた、神経変性疾患障害等の神経疾患または障害を有する対象の治療方法を提供する。本明細書に記載される細胞の集団は、変性または非機能性細胞を補充することによって、神経細胞または神経機能の喪失を特徴とする神経疾患または障害を有する対象の治療に有用である。本明細書に記載される方法を使用して治療され得る神経変性疾患には、パーキンソン病、パーキンソン様症状、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、レヴィー小体病、加齢性神経変性、神経癌、及び手術、事故、虚血、または脳卒中から生じる脳外傷が含まれるが、これらに限定されない。本明細書に記載される細胞の集団は、神経機能を有する神経細胞集団に分化され得、分化した神経細胞集団は、神経疾患または障害を有する対象に投与されてもよい。
組み換え発現ベクター及び宿主細胞
本明細書に開示される別の実施形態は、ベクターに関する。一実施形態において、本明細書に開示される方法で使用されるベクターは、発現ベクターを含む。別の実施形態において、発現ベクターは、PDX−1、Pax−4、NeuroD1、もしくはMafAタンパク質、またはNgn3等の他の膵転写因子をコードする核酸、あるいはその誘導体、断片、類似体、相同体、または組み合わせを含む。一部の実施形態において、発現ベクターは、以下の転写因子、PDX−1、Pax−4、NeuroD1、Ngn3、MafA、もしくはSox−9のうちのいずれかをコードする単一核酸、またはその誘導体もしくは断片を含む。一部の実施形態において、発現ベクターは、以下の転写因子、PDX−1、Pax−4、NeuroD1、Ngn3、MafA、もしくはSox−9の任意の組み合わせをコードする2つの核酸、またはそれらの誘導体もしくは断片を含む。なおも別の実施形態において、発現ベクターは、PDX−1及びNeuroD1をコードする核酸を含む。さらに別の実施形態において、発現ベクターは、PDX−1及びPax4をコードする核酸を含む。別の実施形態において、発現ベクターは、MafAをコードする核酸を含む。
熟練者であれば、「ベクター」という用語が、結合された別の核酸を輸送することができる核酸分子を包含することを理解するであろう。1つの種類のベクターは、追加のDNAセグメントが結紮され得る、線形または円形二本鎖DNAループを包含する、「プラスミド」である。別の種類のベクターは、追加のDNAセグメントが、ウイルスゲノムに結紮され得る、ウイルスベクターである。ある特定のベクター(例えば、細菌複製起点を有する細菌ベクター及びエピソーム哺乳類ベクター)は、それらが導入される宿主細胞内で自己複製が可能である。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳類ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それにより、宿主ゲノムに沿って複製される。さらに、ある特定のベクターは、それらが操作可能に結合されるゲノムの発現を指向することができる。かかるベクターは、本明細書において「発現ベクター」と称される。一般に、組み換えDNA技法における有用な発現ベクターは、多くの場合、プラスミドの形態をとる。熟練者であれば、「プラスミド」及び「ベクター」という用語が、同義的に使用され得、全て同じ質及び意味を有することを理解するであろう。一実施形態において、「プラスミド」という用語は、最も一般的に使用される形態のベクターである。しかしながら、本明細書に提示される開示は、かかる他の形態の発現ベクター、例えば、等しい機能を果たすウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、レンチウイルス、及びアデノ関連ウイルス)を含むことが意図される。追加として、いくつかのウイルスベクターは、特定の細胞型を、特異的または非特異的に標的とすることができる。
本明細書に開示される組み換え発現ベクターは、宿主細胞内の核酸の発現に適した形態で、本明細書に開示される核酸を含み、組み換え発現ベクターが、発現に使用される宿主細胞に基づいて選択された1つ以上の調節配列を含む、すなわち、発現される核酸配列に操作可能に結合されることを意味する。組み換え発現ベクター内で、熟練者であれば、「操作可能に結合される」という用語が、ヌクレオチド配列の発現を可能にするように(例えば、インビトロ転写/翻訳系において、またはベクターが宿主細胞に導入された場合に宿主細胞内で)、調節配列(複数可)に結合される関心対象のヌクレオチド配列を包含し得ることを理解するであろう。熟練者であれば、「調節配列」という用語が、プロモーター、エンハンサー、及び他の発現制御要素(例えば、ポリアデニル化シグナル)を包含し得ることを理解するであろう。かかる調節配列は、例えば、非特許文献4に記載される。調節配列には、多種の宿主細胞内のヌクレオチド配列の構成的発現を指向するもの、及びある特定の宿主細胞内のみでヌクレオチド配列の発現を指向するもの(例えば、組織特異的配列)が含まれる。発現ベクターの設計が、変換される宿主細胞の選択、所望されるタンパク質の発現レベル等のような因子に依存し得ることは、当業者によって理解されるであろう。本明細書に開示される発現ベクターは、宿主細胞に導入されてもよく、それにより、本明細書に記載される核酸によってコードされる、融合タンパク質またはペプチドを含む、タンパク質またはペプチドを産生する(例えば、PDX−1、Pax−4、MafA、NeuroD1、もしくはSox−9タンパク質、またはその突然変異体形態もしくは融合タンパク質等)。
例えば、発現ベクターは、プロモーターに操作可能に結合される転写因子をコードする1つの核酸を含む。転写因子をコードする2つの核酸を含む発現ベクターにおいて、各核酸は、プロモーターに操作可能に結合され得る。各核酸に操作可能に結合されるプロモーターは、異なっても同じでもよい。代替として、2つの核酸が、単一プロモーターに操作可能に結合されてもよい。本明細書に開示される発現ベクターに有用なプロモーターは、当該技術分野において既知の任意のプロモーターであり得る。熟練者であれば、核酸が発現される宿主細胞に適したプロモーター、所望のタンパク質の発現レベル、または発現のタイミング等を容易に決定することができる。プロモーターは、構成的プロモーター、誘導性プロモーター、または細胞型特異的プロモーターであり得る。
本明細書に開示される組み換え発現ベクターは、原核または真核細胞におけるPDX−1の発現のために設計され得る。例えば、PDX−1、Pax−4、MafA、NeuroD1、及び/またはSox−9は、E.coli等の細菌細胞、昆虫細胞(バキュロウイルス発現ベクター)、酵母細胞、または哺乳類細胞内で発現され得る。好適な宿主細胞は、非特許文献5においてさらに考察される。代替として、組み換え発現ベクターは、例えば、T7プロモーター調節配列及びT7ポリメラーゼを使用して、インビトロで転写及び翻訳され得る。
原核細胞内のタンパク質の発現は、最も多くの場合、融合タンパク質または非融合タンパク質のいずれかの発現を指向する構成的または誘導性プロモーターを含有するベクターを用いてE.coli内で実行される。融合ベクターは、多数のアミノ酸を、そこでコードされるタンパク質、通常は組み換えタンパク質のアミノ末端に付加する。かかる融合ベクターは、典型的に、3つの目的を果たす。(1)組み換えタンパク質の発現を増加させること、(2)組み換えタンパク質の可溶性を高めること、及び(3)親和性精製においてリガンドとして作用することによって組み換えタンパク質の精製を補助すること。多くの場合、融合発現ベクターにおいて、原核細胞切断部位は、融合部分と組み換えタンパク質との接合部に導入され、融合タンパク質の精製に続いて、組み換えタンパク質の、融合部分からの分離を可能にする。かかる酵素及びそれらの同族認識配列は、Xa因子、トロンビン、及びエンテロキナーゼを含む。典型的な融合発現ベクターには、それぞれグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質、またはタンパク質Aを、標的組み換えタンパク質に融合する、pGEX(Pharmacia Biotech Inc、(非特許文献6)、pMAL(New England Biolabs,Beverly,Mass.)、及びpRIT5(Pharmacia,Piscataway,NJ.)が含まれる。
好適な誘導性非融合E.coli発現ベクターの例には、pTrc(非特許文献7)、及びpET 11d(非特許文献8)が含まれる。
E.coli内で組み換えタンパク質発現を最大化するための1つの戦略は、組み換えタンパク質をタンパク質分解的に切断する能力が減衰した宿主細菌内でタンパク質を発現させることである。非特許文献9を参照されたい。別の戦略は、発現ベクターに挿入される核酸の核酸配列を変化させることであり、それにより、各アミノ酸の個々のコドンは、E.coli内で優先的に用いられるものとなる(非特許文献10)。本明細書に開示される核酸配列のかかる変化は、標準DNA合成技法によって実行され得る。
別の実施形態において、PDX−1、Pax−4、MafA、NeuroD1、またはSox−9発現ベクターは、酵母発現ベクターである。酵母S.cerevisiae内の発現のためのベクターの例には、pYepSec1(非特許文献11)、pMFa(非特許文献12)、pJRY88(非特許文献13)、pYES2(Invitrogen Corporation,San Diego,Calif.)、及びpicZ(Invitrogen Corp,San Diego, Calif)が含まれる。
代替として、PDX−1、Pax−4、MafA、NeuroD1、またはSox−9は、バキュロウイルス発現ベクターを使用して、昆虫細胞内で発現され得る。培養した昆虫細胞(例えば、SF9細胞)におけるタンパク質の発現に使用可能なバキュロウイルスベクターには、pAc系(非特許文献14)及びpVL系(非特許文献15)が含まれる。
なおも別の実施形態において、本明細書に開示される核酸は、哺乳類発現ベクターを使用して、哺乳類細胞内で発現される。哺乳類発現ベクターの例には、pCDM8(非特許文献16)及びpMT2PC(非特許文献17)が含まれる。哺乳類細胞内で使用される場合、発現ベクターの制御機能は、多くの場合、ウイルス調節要素によって提供される。例えば、一般に使用されるプロモーターは、ポリオーマ、アデノウイルス2、サイトメガロウイルス、及びシミアンウイルス40に由来する。真核細胞及び原核細胞の両方に適した他の発現系については、例えば、非特許文献18を参照されたい。
別の実施形態において、組み換え哺乳類発現ベクターは、特定の細胞型において優先的に核酸の発現を指向することができる(例えば、組織特異的調節要素を使用して、核酸を発現させる)。組織特異的調節要素は、当該技術分野において既知である。好適な組織特異的プロモーターの非限定例には、アルブミンプロモーター(肝特異的、非特許文献19)、リンパ球特異的プロモーター(非特許文献20)、T細胞受容体の特定のプロモーター(非特許文献21)、及び免疫グロブリン(非特許文献22、非特許文献23)、ニューロン特異的プロモーター(例えば、神経フィラメントプロモーター、非特許文献24)、膵特異的プロモーター(非特許文献25)、及び乳腺特異的プロモーター(例えば、乳清プロモーター、特許文献4、及び特許文献5)が含まれる。例えば、マウスhoxプロモーター(非特許文献26)及びα−胎児タンパク質プロモーター(非特許文献27)等の発達的に調節されたプロモーターも包含される。
本明細書における開示は、アンチセンス配向で発現ベクターにクローン化される、本明細書に開示されるDNA分子を含む、組み換え発現ベクターをさらに提供する。つまり、DNA分子は、PDX mRNAに対してアンチセンスであるRNA分子の発現(DNA分子の転写による)を可能にする様式で、調節配列に操作可能に結合される。多様な細胞型のアンチセンスRNA分子の連続発現を指向する、アンチセンス配向でクローン化された核酸に操作可能に結合された調節配列が選択され得、例えば、アンチセンスRNAの構成的、組織特異的、または細胞型特異的発現を指向する、ウイルスプロモーター及び/もしくはエンハンサー、または調節配列が選択され得る。アンチセンス発現ベクターは、アンチセンス核酸が、高効率調節領域の制御下で産生される、組み換えプラスミド、ファージミド、または減衰したウイルスの形態をとり得、その活性は、ベクターが導入される細胞型によって決定され得る。アンチセンス遺伝子を使用する遺伝子発現の調節に関する考察については、非特許文献28を参照されたい。
本明細書に開示される別の実施形態は、本明細書に開示される組み換え発現ベクターが導入された宿主細胞に関する。「宿主細胞」及び「組み換え宿主細胞」という用語は、本明細書において同義的に使用される。かかる用語は、特定の対象細胞を指すだけでなく、かかる細胞の子孫または潜在的子孫も指すことが理解される。突然変異または環境的影響のいずれかに起因して、ある特定の修飾が後続世代において起こり得るため、かかる子孫は、実際に、親細胞と同一でない場合があるが、依然として本明細書で使用される用語の範囲内に含まれる。追加として、一旦PDX−1、Pax−4、MafA、NeuroD1、もしくはSox−9、またはこれらの組み合わせを発現すると、宿主細胞は変調され得、元の特徴を維持するか、または喪失するかのいずれかであり得る。
宿主細胞は、任意の原核細胞または真核細胞であり得る。例えば、PDX−1、Pax−4、MafA、NeuroD1、またはSox−9は、大腸筋等の細菌細胞、昆虫細胞、酵母、または哺乳類細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)またはCOS細胞)において発現され得る。代替として、宿主細胞は、未熟哺乳類細胞、すなわち、多能性幹細胞であり得る。宿主細胞はまた、他のヒト組織に由来し得る。他の好適な宿主細胞は、当業者に知られている。
ベクターDNAは、従来の形質転換、形質導入、感染、または形質移入技法を介して原核細胞または真核細胞に導入され得る。熟練者であれば、「形質転換」、「形質導入」、「感染」、及び「形質移入」が、外来核酸(例えば、DNA)を宿主細胞に導入するための多様な技術分野で認識された技法(リン酸カルシウムもしくは塩化カルシウム共沈殿、DEAE−デキストラン媒介型形質移入、リポフェクション、またはエレクトロポレーションを含む)を包含し得ることを理解するであろう。加えて、形質移入は、形質移入剤によって媒介され得る。熟練者であれば、「形質移入剤」という用語が、宿主細胞内のDNAの組み込みを媒介する任意の化合物、例えば、リポソームを包含し得ることを理解するであろう。宿主細胞を形質転換または形質移入するために適した方法は、非特許文献29、及び他の研究室マニュアルに見出すことができる。
形質移入は、「安定」(すなわち、宿主ゲノムへの外来DNAの組み込み)または「一過性」であり得る(すなわち、DNAが宿主細胞内でエピソーム的に発現される、またはmRNAが細胞にエレクトロポレーションされる)。
哺乳類細胞の安定した形質移入の場合、使用される発現ベクター及び形質移入技法に依存して、細胞の小分画のみが、外来DNAをそれらのゲノムに組み込むことができ、DNAの残りは、エピソームのままであることが知られている。これらの組み込み体を特定し、選別するために、選別可能なマーカー(例えば、抗生物質への耐性)をコードする遺伝子が、一般に関心対象の遺伝子に沿って宿主細胞に導入される。様々な選別可能なマーカーには、薬物への耐性を付与するもの、例えば、G418、ヒグロマイシン、及びメトトレキサートが含まれる。選別可能なマーカーをコードする核酸は、PDX−1をコードするものと同じベクター上で宿主細胞に導入され得るか、または別個のベクター上に導入され得る。導入された核酸で安定して形質移入された細胞は、薬物選別によって特定され得る(例えば、選別可能なマーカー遺伝子を組み込んだ細胞は生存することになるが、他の細胞は死滅する)。別の実施形態において、PDX−1によって変調された細胞または形質移入された細胞は、内在性レポーター遺伝子の発現の導入によって特定される。特定の実施形態において、プロモーターは、緑色蛍光タンパク質(GFP)の発現を駆動するインスリンプロモーターである。
一実施形態において、PDX−1、Pax−4、NeuroD1、またはSox−9核酸は、ウイルスベクター内に存在する。一実施形態において、PDX−1及びNeuroD1核酸は、同じウイルスベクター内に存在する。別の実施形態において、PDX−1及びPax4核酸は、同じウイルスベクター内に存在する。別の実施形態において、PDX−1、Pax−4、MafA、NeuroD1、またはSox−9核酸は、ウイルス内に被包される。別の実施形態において、PDX−1及びNeuroD1は、ウイルス内に被包される(すなわち、PDX−1及びNeuroD1をコードする核酸は、同じウイルス粒子内に被包される)。別の実施形態において、PDX−1及びPax4は、ウイルス内に被包される(すなわち、PDX−1及びPax4をコードする核酸は、同じウイルス粒子内に被包される)。一部の実施形態において、ウイルスは、好ましくは、様々な組織型の多能性細胞、例えば、造血幹細胞、ニューロン幹細胞、肝幹細胞、または胚幹細胞に感染し、好ましくは、ウイルスは、肝臓指向性である。熟練者であれば、「肝臓指向性」という用語は、ウイルスが、好ましくは肝臓の細胞を特異的または非特異的に標的とする能力を有することを意味することを理解するであろう。さらなる実施形態において、ウイルスは、変調された肝炎ウイルス、SV−40、またはエプスタイン・バーウイルスである。なおも別の実施形態において、ウイルスは、アデノウイルスである。
遺伝子療法
一実施形態において、本明細書に開示される、PDX−1、Pax−4、MafA、NeuroD1、もしくはSox−9ペプチドをコードする1つまたは複数の核酸、またはこれらの組み合わせ、あるいはそれらの機能的誘導体は、遺伝子療法によって投与される。遺伝子療法は、対象への特異的核酸の投与によって行われる療法を指す。一実施形態において、核酸は、そのコードされたペプチド(複数可)を産生し、次いで、前述の疾患または障害、例えば、糖尿病の機能を変調することによって治療効果を引き出す役割を果たす。当該技術分野内で使用可能な遺伝子療法に関する方法論のうちのいずれかが、本明細書に提示される開示の実施において使用されてもよい。例えば、非特許文献30を参照されたい。
別の実施形態において、治療薬は、前述のPDX−1、Pax−4、MafA、NeuroD1、もしくはSox−9ペプチドのうちのいずれか1つ以上、またはそれらの断片、誘導体、もしくは類似体を、好適な宿主内で発現する発現ベクターの一部である核酸を含む。一実施形態において、かかる核酸は、PDX−1、Pax−4、MafA、NeuroD1、及びSox−9ペプチドのコード領域(複数可)に操作可能に結合されるプロモーターを保有する。このプロモーターは、誘導性または構成的、及び任意に組織特異的であり得る。プロモーターは、例えば、ウイルスまたは哺乳類起源であり得る。別の特定実施形態において、コード配列(及び任意の他の所望の配列)が、ゲノム内の所望の部位において相同的組み換えを促進し、故に核酸の染色体内発現を提供する領域に隣接する核酸分子が使用される。例えば、非特許文献31を参照されたい。なおも別の実施形態において、送達される核酸は、エピソームのままであり、内在性の、そうでなければサイレントな遺伝子を誘導する。
患者への治療的核酸の送達は、直接的(すなわち、患者が、核酸もしくは核酸含有ベクターに直接曝露される)または間接的(すなわち、細胞を、最初にインビトロで核酸と接触させ、次いで患者に移植する)のいずれかであり得る。これら2つのアプローチは、それぞれインビボまたはエクスビボ遺伝子療法として知られている。別の実施形態において、核酸は、インビボで直接投与され、コードされた産物を産生するように発現される。これは、該核酸を適切な核酸発現ベクターの一部として構成し、それが細胞内になるような様式でそれを投与すること(例えば、欠陥もしくは減衰レトロウイルスまたは他のウイルスベクターを使用する感染によって、米国特許第4,980,286号を参照されたい)、裸のDNAを直接注入すること、微粒子砲撃を使用すること(例えば、″Gene Gun.RTM;Biolistic,DuPont)、該核酸を脂質でコーティングすること、関連した細胞表面受容体/形質移入剤を使用すること、リポソーム、微粒子、またはマイクロカプセル内に被包すること、核に進入することが知られているペプチドに結合した状態でそれを投与すること、または受容体媒介型エンドサイトーシスの素因があるリガンドに結合した状態でそれを投与することによるもの(例えば、非特許文献32)が含まれるが、これらに限定されない、当該技術分野において既知の多数の方法のうちのいずれかによって達成されてもよく、これらを使用して、関心対象の受容体を特異的に発現する細胞型を「標的」とし得る。
遺伝子療法に対する追加のアプローチは、遺伝子またはmRNAを、エレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウム媒介型形質移入、ウイルス感染等のような方法によって、インビトロ組織培養下の細胞に形質移入することを必要とする。一般に、形質移入の方法論には、選別可能なマーカーの、細胞への同時形質移入が含まれる。次いで、伝達された遺伝子を取り込んだ細胞、及びそれを発現している細胞の単離を促進するように、細胞を淘汰圧(例えば、抗生物質耐性)下に置く。次いで、それらの細胞を患者に送達する。別の実施形態において、結果として得られる組み換え細胞のインビボ投与前に、核酸は、当該技術分野内の既知の任意の方法によって細胞に導入され、形質移入、エレクトロポレーション、微量注入、関心対象の核酸配列を含有するウイルスまたはバクテリオファージベクターによる感染、細胞融合、染色体媒介型遺伝子伝達、微小核体媒介型遺伝子伝達、スフェロプラスト融合、及びレシピエント細胞の必須の発達的及び生理学的機能が、伝達によって破壊されないことを保証する同様の方法論が含まれるが、これらに限定されない。例えば、非特許文献33を参照されたい。選択された技法は、核酸が細胞によって発現可能であるように、細胞への核酸の安定した伝達を提供すべきである。なおも別の実施形態において、該伝達された核酸は、細胞子孫によって遺伝性かつ発現可能である。代替実施形態において、伝達された核酸は、エピソームのままであり、そうでなければサイレントな内在性核酸の発現を誘導する。
一実施形態において、結果として得られる組み換え細胞は、当該技術分野内で既知の様々な方法によって患者に送達されてもよく、上皮細胞の注入(例えば、皮下的に)、皮膚移植片としての組み換え皮膚細胞の患者への適用、及び組み換え血液細胞(例えば、造血幹細胞もしくは前駆細胞)または肝細胞の静脈内注入が含まれるが、これらに限定されない。使用のために想定される細胞の総数は、所望の効果、患者の状態等に依存し、当業者によって決定されてもよい。一実施形態において、少なくとも106個の分化転換細胞が、本明細書に開示される治療方法での使用に必要である。別の実施形態において、少なくとも107個の分化転換細胞、少なくとも108個の分化転換細胞、少なくとも109個の分化転換細胞、または少なくとも1010個の分化転換細胞が、本明細書に開示される治療方法での使用に必要である。なおも別の実施形態において、少なくとも1.8×109個の分化転換細胞が、本明細書に開示される治療方法での使用に必要である。
遺伝子療法の目的で核酸が導入され得る細胞は、任意の所望の使用可能な細胞型を包含し、異種、異種遺伝子型、同一遺伝子型、または自己遺伝子型であり得る。細胞型には、上皮細胞、内皮細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、筋細胞、肝細胞、及び血液細胞等の分化細胞、または様々な幹細胞もしくは前駆細胞、具体的に、胚心筋細胞、肝幹細胞(特許文献6)、神経幹細胞(非特許文献34)、例えば、骨髄、臍帯血、末梢血、胎児肝臓から得られる、造血幹細胞もしくは前駆細胞等が含まれるが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、遺伝子療法に用いられる細胞は、患者の自己由来である。
遺伝子療法のためのDNAは、非経口的に、例えば、静脈内的、皮下的、筋内的、及び腹腔内的に患者に投与され得る。DNAまたは誘導剤は、薬学的に許容される担体、すなわち、動物への投与に適した生体適合性媒体、例えば、生理食塩水中で投与される。治療上有効な量は、医学的に望ましい結果、例えば、処置された動物における膵遺伝子の増加を産生することができる量である。かかる量は、当業者によって決定され得る。医療分野において周知のように、任意の所与の患者のための投薬量は、患者の大きさ、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、投与時間及び経路、全般健康状態、及び同時に投与される他の薬物を含む、多くの要因に依存する。投薬量は異なり得るが、DNAの静脈内投与のための好ましい投薬量は、およそ106〜1022コピーのDNA分子である。例えば、DNAは、1Kg当たりおよそ2×1012ビリオンで投与される。
ヒトインスリン産生(IP)細胞の製造方法
ヒトインスリン産生細胞の製造は、細胞ベース療法、例えば、I型真性糖尿病に罹患している対象を治療するために使用可能な組織の不足を克服することができる。十分な数のヒトインスリン産生細胞の製造方法は、一実施形態において、本明細書に開示されるように、これらの療法及び他の療法での使用のための細胞ベースの産物を提供する(図32)。
一実施形態において、自己由来または同種異系インスリン産生細胞(AIP)であり得る、ヒトインスリン産生細胞産物の製造プロセスのフローチャートを提示する、図34をここで参照する。図34は、ヒトインスリン産生細胞の製造プロセスの一実施形態を説明し、出発物質は、肝組織を含む。熟練者であれば、非膵β細胞組織のいずれかの源が、この製造プロセスにおいて使用され得ることを認識するであろう。
図34に提示されるステップのうちの多くに関する実施形態は、本出願全体で詳述され、それらは本明細書において考慮されるべきであるが、本明細書では繰り返されない。これらのステップのうちの多くを例証する、実施例20及び21も参照する。要するに、製造プロセスは、以下に提示されるステップに基づいて理解され得る。
ステップ1:肝組織を入手する、に示されるように一実施形態において、肝組織は、ヒト肝組織である。別の実施形態において、肝組織は、生検の一部として入手される。別の実施形態において、肝組織は、当該技術分野において既知の任意の外科的手順によって入手される。別の実施形態において、肝組織の入手は、熟練した医療実践者によって行われる。別の実施形態において、入手された肝組織は、健康な個人からの肝組織である。関連実施形態において、健康な個人は、グルコース調節様式で処理されたインスリンを提供する細胞ベース法を必要とする患者、例えば、I型真性糖尿病患者または膵炎に罹患している患者の同種異系ドナーである。別の実施形態において、ドナースクリーニング及びドナー検査を行い、ドナーから入手された組織が、AIP細胞の製造に由来する、感染性または悪性疾患の臨床的もしくは身体的証拠、またはその危険因子がなかったことを示すことを保証した。なおも別の実施形態において、肝組織は、グルコース調節様式で処理されたインスリンを提供する細胞ベース療法を必要とする患者、例えば、I型真性糖尿病または膵炎を罹患している患者から入手される。さらに別の実施形態において、肝組織は、グルコース調節様式で処理されたインスリンを提供する細胞ベース療法を必要とする患者、例えば、I型真性糖尿病または膵炎を罹患している患者の自己由来である。
ステップ2:一次肝細胞の回収及び処理、に示されるように肝組織は、さらなる処理に使用される付着細胞の回収のための、当該技術分野において周知の技法を使用して処理される。一実施形態において、肝組織は、約1〜2mmの小片に切断され、ピペットで滅菌緩衝液中でやさしく上下させる。次いで、試料をコラゲナーゼでインキュベートして組織を消化させてもよい。一連の洗浄ステップに続いて、別の実施形態において、一次肝細胞を、前処置されたフィブロネクチンでコーティングした組織培養組織皿上にプレーティングしてもよい。熟練者であれば、肝細胞の増殖のための周知の技法に従い、細胞を次いで処理(継代)する方法を周知しているであろう。簡単に言えば、細胞は、増殖培地中で成長させてもよく、一連の播種及び採取を通して、細胞数が増加する。細胞は、80%合流に到達すると***し、再プレーティングされ得る。図33(0〜2週)は、一次肝細胞の2つの継代を表す、この回収及び処理ステップの一実施形態の概略を示す。
熟練者であれば、プロトコルの増幅相を開始する前の、例えば2週間の期間に十分な細胞の必要性を理解するであろう(ステップ3)。熟練者であれば、2週間の期間が、細胞を増幅するための開始点の一例であることを認識するであろう。この場合、細胞は、この期間前または期間後に増幅の用意ができ得る。一実施形態において、一次細胞の回収及び処理は、細胞の2継代後に少なくとも1×105個の細胞を産出する。別の実施形態において、一次細胞の回収及び処理は、細胞の2継代後に少なくとも1×106個の細胞を産出する。別の実施形態において、一次細胞の回収及び処理は、細胞の2継代後に少なくとも2×106個の細胞を産出する。別の実施形態において、一次細胞の回収及び処理は、細胞の2継代後に少なくとも5×106個の細胞を産出する。別の実施形態において、一次細胞の回収及び処理は、細胞の2継代後に少なくとも1×107個の細胞を産出する。別の実施形態において、一次細胞の回収及び処理は、細胞の2継代後に少なくとも1×105〜1×106個の細胞を産出する。別の実施形態において、一次細胞の回収及び処理は、細胞の2継代後に1×106〜1×107個の細胞を産出する。別の実施形態において、十分な出発組織を使用して、一次細胞の回収及び処理が、ステップ3の細胞の大規模増幅における適切な播種密度に対して2継代後に十分な細胞を産出することを保証する。
一実施形態において、第1継代の一次細胞が、後の使用のために凍結保存される。別の実施形態において、早期継代の一次細胞が、後の使用のために凍結保存される。なおも別の実施形態において、第2継代の一次細胞が、後の使用のために凍結保存される。
ステップ3:一次肝細胞の増殖/増幅
ステップ3は、製造プロセスの大規模増幅相を表す。熟練者であれば、プロトコルの分化転換相を開始する前に、5週間の期間に十分な細胞の必要性を理解するであろう(ステップ4)。この場合、既定数の細胞が、患者を治療するために必要であると想定され得る。一実施形態において、分化転換前に必要とされる既定数の細胞は、約1×108個の一次細胞を含む。別の実施形態において、分化転換前に必要とされる既定数の細胞は、約2×108個の一次細胞を含む。一実施形態において、分化転換前に必要とされる既定数の細胞は、約3×108個の一次細胞、4×108個の一次細胞、5×108個の一次細胞、6×108個の一次細胞、7×108個の一次細胞、8×108個の一次細胞、9×108個の一次細胞、1×109個の一次細胞、2×109個の一次細胞、3×109個の一次細胞、4×109個の一次細胞、5×109個の一次細胞、6×109個の一次細胞、7×109個の一次細胞、8×109個の一次細胞、9×109個の一次細胞、または1×1010個の一次細胞を含む。
一実施形態において、増幅時の細胞播種密度は、1×103〜10×103細胞/cm2を含む。別の実施形態において、増幅時の細胞播種密度は、1×103〜8×103細胞/cm2を含む。別の実施形態において、増幅時の細胞播種密度は、1×103〜5×103細胞/cm2を含む。別の実施形態において、増幅時の細胞播種密度は、1×103を含む。別の実施形態において、増幅時の細胞播種密度は、2×103を含む。別の実施形態において、増幅時の細胞播種密度は、3×103を含む。別の実施形態において、増幅時の細胞播種密度は、4×103を含む。別の実施形態において、増幅時の細胞播種密度は、5×103を含む。別の実施形態において、増幅時の細胞播種密度は、6×103を含む。別の実施形態において、増幅時の細胞播種密度は、7×103を含む。別の実施形態において、増幅時の細胞播種密度は、8×103を含む。別の実施形態において、増幅時の細胞播種密度は、9×103を含む。別の実施形態において、増幅時の細胞播種密度は、10×103を含む。
別の実施形態において、増幅時の細胞播種生存率の範囲は、60〜100%を含む。別の実施形態において、増幅時の細胞播種生存率の範囲は、約70〜99%の生存率を含む。別の実施形態において、増幅時の細胞播種生存率は、約60%の生存率を含む。別の実施形態において、増幅時の細胞播種生存率は、約65%の生存率を含む。別の実施形態において、増幅時の細胞播種生存率は、約70%の生存率を含む。別の実施形態において、増幅時の細胞播種生存率は、約75%の生存率を含む。別の実施形態において、増幅時の細胞播種生存率は、約80%の生存率を含む。別の実施形態において、増幅時の細胞播種生存率は、約85%の生存率を含む。別の実施形態において、増幅時の細胞播種生存率は、約90%の生存率を含む。別の実施形態において、増幅時の細胞播種生存率は、約95%の生存率を含む。別の実施形態において、増幅時の細胞播種生存率は、約99%の生存率を含む。別の実施形態において、増幅時の細胞播種生存率は、約99.9%の生存率を含む。
図33は、この増幅期間の一実施形態を概略的に示す。一実施形態において、増幅は、2週目〜5週目の間に起こる。熟練者であれば、出発組織材料内の変動性を認識するであろう(図29)。したがって、一実施形態において、増幅は、2週目〜6週目の間に起こる。さらに別の実施形態において、増幅は、2週目〜7週目の間に起こる。別の実施形態において、増幅は、2週目〜4週目の間に起こる。なおも別の実施形態において、増幅は、必要数の一次細胞が増殖されるまで起こる。例えば、図28は、培養30日目までに目標の10億個細胞に到達したことを示す。
熟練者であれば、細胞の増幅と同時に、集団が分化転換のために強化され得ることを理解するであろう。分化転換のために強化された一次成体肝細胞、及びそれらの集団を富化するための方法に関する説明は、本明細書に開示され、実施例10〜17及び23に例証される。一実施形態において、GSRE活性の選別を使用して、分化転換のための成体細胞の集団を富化する。別の実施形態において、遺伝子発現のレベルは、増加した発現または減少した発現のいずれかを有することが知られている遺伝子について測定され、かかる増加または減少は、分化転換の素因を示す。別の実施形態において、一次成体肝細胞は、分化転換前にリチウムでインキュベートされてもよく、このインキュベーションは、該一次成体肝細胞の集団内の細胞集団の素因を強化する。
一実施形態において、バイオリアクターを使用して、分化転換ステップ前に一次細胞を増幅し、増殖させる。バイオリアクターを使用して、条件が高細胞濃度に適している、細胞の培養に使用してもよい(実施例20を参照されたい)。別の実施形態において、バイオリアクターは、細胞の増幅のための閉鎖系を提供する。別の実施形態において、複数のバイオリアクターが、一連の細胞増幅において使用される。別の実施形態において、本明細書に開示される方法で使用されるバイオリアクターは、単回使用バイオリアクターである。別の実施形態において、使用されるバイオリアクターは、多回使用バイオリアクターである。なおも別の実施形態において、バイオリアクターは、プロセスのパラメータを監視し、制御するための制御ユニットを備える。別の実施形態において、監視及び制御のためのパラメータは、溶存酸素(DO)、pH、ガス、及び温度を含む。
ステップ4:一次肝細胞の分化転換(TD)
一実施形態において、分化転換は、本明細書に開示される任意の分化転換方法を含む。例えば、分化転換は、本明細書に開示される、階層(1+1+1)プロトコルまたは「2+1」プロトコルを含み得る。
一実施形態において、分化転換に続いて結果として得られる細胞集団は、膵臓の表現型及び機能を有する分化転換細胞を含む。別の実施形態において、分化転換に続いて結果として得られる細胞集団は、成熟膵β細胞の表現型及び機能を有する分化転換細胞を含む。別の実施形態において、分化転換に続いて結果として得られる細胞集団は、増加したインスリン含有量を有する分化転換細胞を含む。別の実施形態において、分化転換に続いて結果として得られる細胞集団は、処理されたインスリンをグルコース調節様式で分泌することができる分化転換細胞を含む。別の実施形態において、分化転換に続いて結果として得られる細胞集団は、増加したC−ペプチドレベルを有する分化転換細胞を含む。
別の実施形態において、分化転換に続いて結果として得られる細胞集団は、少なくとも1つの膵遺伝子マーカーの増加した内在性発現を有する分化転換細胞を含む。別の実施形態において、内在性発現は、少なくとも2つの膵遺伝子マーカーに関して増加する。別の実施形態において、内在性発現は、少なくとも3つの膵遺伝子マーカーに関して増加する。別の実施形態において、内在性発現は、少なくとも4つの膵遺伝子マーカーに関して増加する。関連実施形態において、膵遺伝子マーカーは、PDX−1、NeuroD1、MafA、Nkx6.1、グルカゴン、ソマトスタチン、及びPax4を含む。
一実施形態において、内在性PDX−1発現は、非分化細胞の102倍より多い。別の実施形態において、内在性PDX−1発現は、非分化細胞の103倍より多い。別の実施形態において、内在性PDX−1発現は、非分化細胞の104倍より多い。別の実施形態において、内在性PDX−1発現は、非分化細胞の105倍より多い。別の実施形態において、内在性PDX−1発現は、非分化細胞の106倍より多い。
別の実施形態において、内在性NeuroD1発現は、非分化細胞の102倍より多い。別の実施形態において、内在性NeuroD1発現は、非分化細胞の103倍より多い。別の実施形態において、内在性NeuroD1発現は、非分化細胞の104倍より多い。別の実施形態において、内在性NeuroD1発現は、非分化細胞の105倍より多い。
別の実施形態において、内在性MafA発現は、非分化細胞の102倍より多い。別の実施形態において、内在性MafA発現は、非分化細胞の103倍より多い。別の実施形態において、内在性MafA発現は、非分化細胞の104倍より多い。別の実施形態において、内在性MafA発現は、非分化細胞の105倍より多い。
別の実施形態において、内在性グルカゴン発現は、非分化細胞の10倍より多い。別の実施形態において、内在性グルカゴン発現は、非分化細胞の102倍より多い。別の実施形態において、内在性グルカゴン発現は、非分化細胞の103倍より多い。
別の実施形態において、PDX−1、NeuroD1、もしくはMafA、またはこれらの任意の組み合わせの内在性発現は各々、非分化細胞より60%超多い。別の実施形態において、PDX−1、NeuroD1、もしくはMafA、またはこれらの任意の組み合わせの内在性発現は各々、非分化細胞より70%超多い。別の実施形態において、PDX−1、NeuroD1、もしくはMafA、またはこれらの任意の組み合わせの内在性発現は各々、非分化細胞より80%超多い。
別の実施形態において、分化転換に続いて結果として得られる細胞集団は、少なくとも60%の生存率を有する分化転換細胞を含む。別の実施形態において、分化転換に続いて結果として得られる細胞集団は、少なくとも70%の生存率を有する分化転換細胞を含む。別の実施形態において、分化転換に続いて結果として得られる細胞集団は、少なくとも80%の生存率を有する分化転換細胞を含む。別の実施形態において、分化転換に続いて結果として得られる細胞集団は、少なくとも90%の生存率を有する分化転換細胞を含む。
別の実施形態において、分化転換に続いて結果として得られる細胞集団は、減少した肝細胞マーカーを示す分化転換細胞を含む。別の実施形態において、分化転換に続いて結果として得られる細胞集団は、減少したアルブミンもしくはα−1抗トリプシン(AAT)、または任意の組み合わせを示す分化転換細胞を含む。別の実施形態において、分化転換に続いて結果として得られる細胞集団は、FACSにより1%未満のアルブミンもしくはα−1抗トリプシン(AAT)、または任意の組み合わせを含む分化転換細胞を含む。
別の実施形態において、分化転換細胞は、少なくとも6ヶ月間にわたって膵表現型及び機能を維持する。別の実施形態において、分化転換細胞は、少なくとも12ヶ月間にわたって膵表現型及び機能を維持する。別の実施形態において、分化転換細胞は、少なくとも18ヶ月間にわたって膵表現型及び機能を維持する。別の実施形態において、分化転換細胞は、少なくとも24ヶ月間にわたって膵表現型及び機能を維持する。別の実施形態において、分化転換細胞は、少なくとも36ヶ月間にわたって膵表現型及び機能を維持する。別の実施形態において、分化転換細胞は、少なくとも48ヶ月間にわたって膵表現型及び機能を維持する。別の実施形態において、分化転換細胞は、少なくとも4年間にわたって膵表現型及び機能を維持する。別の実施形態において、分化転換細胞は、少なくとも5年間にわたって膵表現型及び機能を維持する。
一実施形態において、細胞数は、分化転換中に維持される。別の実施形態において、細胞数は、分化転換中に5%未満減少する。別の実施形態において、細胞数は、分化転換中に10%未満減少する。別の実施形態において、細胞数は、分化転換中に15%未満減少する。別の実施形態において、細胞数は、分化転換中に20%未満減少する。別の実施形態において、細胞数は、分化転換中に25%未満減少する。
ステップ5:分化転換一次肝細胞の採取
一実施形態において、ヒトインスリン産生細胞を含む分化転換一次肝細胞を採取し、細胞ベース療法に使用する。一実施形態において、細胞数は、採取中に維持される。別の実施形態において、細胞数は、採取中に5%未満減少する。別の実施形態において、細胞数は、採取中に10%未満減少する。別の実施形態において、細胞数は、採取中に15%未満減少する。別の実施形態において、細胞数は、採取中に20%未満減少する。別の実施形態において、細胞数は、採取中に25%未満減少する。
一実施形態において、採取時に回収された分化転換細胞の数は、合計約1×107〜1×1010細胞である。別の実施形態において、採取時に回収された分化転換細胞の数は、合計約1×108〜1×1010細胞である。別の実施形態において、採取時に回収された分化転換細胞の数は、合計約1×107〜1×109細胞である。別の実施形態において、採取時に回収された分化転換細胞の数は、合計約1×107細胞である。別の実施形態において、採取時に回収された分化転換細胞の数は、合計約5×107細胞である。別の実施形態において、採取時に回収された分化転換細胞の数は、合計約7.5×107細胞である。別の実施形態において、採取時に回収された分化転換細胞の数は、合計約1×108細胞である。別の実施形態において、採取時に回収された分化転換細胞の数は、合計約2.5×108細胞である。別の実施形態において、採取時に回収された分化転換細胞の数は、合計約5×108細胞である。別の実施形態において、採取時に回収された分化転換細胞の数は、合計約7.5×108細胞である。別の実施形態において、採取時に回収された分化転換細胞の数は、合計約1×109細胞である。別の実施形態において、採取時に回収された分化転換細胞の数は、合計約2×108細胞である。別の実施形態において、採取時に回収された分化転換細胞の数は、合計約3×108細胞である。別の実施形態において、採取時に回収された分化転換細胞の数は、合計約4×109細胞である。別の実施形態において、採取時に回収された分化転換細胞の数は、合計約5×109細胞である。別の実施形態において、採取時に回収された分化転換細胞の数は、合計約6×109細胞である。別の実施形態において、採取時に回収された分化転換細胞の数は、合計約7×109細胞である。別の実施形態において、採取時に回収された分化転換細胞の数は、合計約8×109細胞である。別の実施形態において、採取時に回収された分化転換細胞の数は、合計約9×109細胞である。
一実施形態において、採取時の分化転換細胞の密度は、約1×103〜1×105細胞/cm2である。別の実施形態において、採取時の分化転換細胞の密度は、約1×104〜5×104細胞/cm2である。別の実施形態において、採取時の分化転換細胞の密度は、約1×104〜4×104細胞/cm2である。別の実施形態において、採取時の分化転換細胞の密度は、約1×103細胞/cm2である。別の実施形態において、採取時の分化転換細胞の密度は、約2×103細胞/cm2である。別の実施形態において、採取時の分化転換細胞の密度は、約3×103細胞/cm2である。別の実施形態において、採取時の分化転換細胞の密度は、約4×103細胞/cm2である。別の実施形態において、採取時の分化転換細胞の密度は、約5×103細胞/cm2である。別の実施形態において、採取時の分化転換細胞の密度は、約6×103細胞/cm2である。別の実施形態において、採取時の分化転換細胞の密度は、約7×103細胞/cm2である。別の実施形態において、採取時の分化転換細胞の密度は、約8×103細胞/cm2である。別の実施形態において、採取時の分化転換細胞の密度は、約9×103細胞/cm2である。別の実施形態において、採取時の分化転換細胞の密度は、約1×104細胞/cm2である。別の実施形態において、採取時の分化転換細胞の密度は、約2×104細胞/cm2である。別の実施形態において、採取時の分化転換細胞の密度は、約3×104細胞/cm2である。別の実施形態において、採取時の分化転換細胞の密度は、約4×104細胞/cm2である。別の実施形態において、採取時の分化転換細胞の密度は、約5×104細胞/cm2である。別の実施形態において、採取時の分化転換細胞の密度は、約6×104細胞/cm2である。別の実施形態において、採取時の分化転換細胞の密度は、約7×104細胞/cm2である。別の実施形態において、採取時の分化転換細胞の密度は、約8×104細胞/cm2である。別の実施形態において、採取時の分化転換細胞の密度は、約9×104細胞/cm2である。
別の実施形態において、採取時の細胞生存率の範囲は、50〜100%を含む。別の実施形態において、採取時の細胞生存率の範囲は、60〜100%を含む。別の実施形態において、採取時の細胞生存率の範囲は、50〜90%を含む。別の実施形態において、採取時の細胞生存率の範囲は、約60〜99%の生存率を含む。別の実施形態において、採取時の細胞生存率の範囲は、約60〜90%の生存率を含む。別の実施形態において、採取時の細胞生存率は、約60%の生存率を含む。別の実施形態において、採取時の細胞生存率は、約65%の生存率を含む。別の実施形態において、採取時の細胞生存率は、約70%の生存率を含む。別の実施形態において、採取時の細胞生存率は、約75%の生存率を含む。別の実施形態において、採取時の細胞生存率は、約80%の生存率を含む。別の実施形態において、採取時の細胞生存率は、約85%の生存率を含む。別の実施形態において、採取時の細胞生存率は、約90%の生存率を含む。別の実施形態において、採取時の細胞生存率は、約95%の生存率を含む。別の実施形態において、採取時の細胞生存率は、約99%の生存率を含む。別の実施形態において、採取時の細胞生存率は、約99.9%の生存率を含む。
別の実施形態において、ヒトインスリン産生細胞を含む分化転換一次肝細胞を採取し、後に細胞ベース療法において使用するために貯蔵する。別の実施形態において、貯蔵は、細胞を凍結保存することを含む。
ステップ6:品質解析/品質管理
細胞ベース療法における分化転換細胞の任意の使用前に、分化転換細胞は、品質解析/品質管理評価を受けなければならない。FACS解析及び/またはRT−PCRを使用して、膜マーカー及び遺伝子発現を正確に決定することができる。さらに、インスリン分泌の解析方法論は、当該技術分野において周知であり、ELISA、MSD、ELISpot、HPLC、RP−HPLCが含まれる。一実施形態において、インスリン分泌試験は、高グルコース濃度(約17.5mM)と比較して、低グルコース濃度(約2mM)で行う。
治療薬組成物
本明細書に記載される分化転換誘導化合物、または異所性膵転写因子(すなわち、PDX−1、Pax−4、MafA、NeuroD1、もしくはSox−9ポリペプチド、リボ核酸、またはPDX−1、Pax−4、MafA、NeuroD1、もしくはSox−9ポリペプチドをコードする核酸)、及び本明細書に開示される方法によって産生された膵β細胞表現型を有する細胞は、治療的に使用される場合、「治療薬」と称される。治療薬の投与方法には、皮内、筋内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、及び経口経路が含まれるが、これらに限定されない。本明細書に提示される開示の治療薬は、任意の便宜的な経路によって、例えば、注射またはボーラス注入によって、上皮または粘膜皮膚内壁(例えば、経口粘膜、直腸及び小腸粘膜等)を通じた吸収によって投与されてもよく、また他の生体活性剤と一緒に投与されてもよい。投与は、全身的または局所的であり得、例えば、肝臓への門静脈送達による。加えて、脳室内及び髄腔内注入を含む任意の好適な経路によって、中枢神経系に治療薬を投与することが有利であり得る。脳室内注入は、貯留器(例えば、Ommaya貯留器)に取り付けられた脳室内カテーテルによって容易になり得る。肺投与はまた、吸入器または噴霧器、及びエアロゾル化剤を含む製剤の使用によって用いられてもよい。治療を必要とする領域に、局所的に治療薬を投与することが望ましい場合もあり、これは、例えば、手術中の局所注射、局所適用、注入によって、カテーテルによって、坐薬によって、または移植片によって達成され得るが、これらに限定されない。様々な送達系が知られており、それらを使用して本明細書に提示される開示の治療薬を投与することができ、例えば、(i)リポソーム、微粒子、マイクロカプセル内の被包、(ii)治療薬を発現することができる組み換え細胞、(iii)受容体媒介型エンドサイトーシス(例えば、非特許文献32を参照されたい)、(iv)レトロウイルス、アデノウイルス、または他のベクターの一部としての治療薬核酸の構成等が含まれる。本明細書に提示される開示の一実施形態において、治療薬は、小嚢内、具体的にはリポソーム内で送達されてもよい。リポソーム内で、本明細書に提示される開示のタンパク質は、他の薬学的に許容される担体に加えて、水溶液中のミセル、不溶性単層、液晶、または層状層として凝集形態で存在する脂質等の両親媒性剤と複合される。リポソーム製剤に適した脂質には、制限なしに、モノグリセリド、ジグリセリド、スルファチド、リソレシチン、リン脂質、サポニン、胆汁酸等が含まれる。かかるリポソーム製剤の調製は、例えば、特許文献7、及び特許文献8(全てが参照により本明細書に組み込まれる)に開示されるように、当該技術分野におけるスキルレベル内である。なおも別の実施形態において、治療薬は、例えば、送達ポンプ(例えば、非特許文献35を参照されたい)及び半透過性ポリマー材料(例えば、非特許文献36を参照されたい)を含む制御放出系において送達され得る。追加的に、制御放出系は、治療標的(例えば、脳)の近接に配置され得、故に、全身用量の分画のみを必要とする。例えば、非特許文献37を参照されたい。
一実施形態において、治療薬がタンパク質をコードする核酸である、本明細書に提示される開示の治療核酸は、適切な核酸発現ベクターの一部として構成し、それを細胞内になるように投与することによって(例えば、レトロウイルスベクターの使用によって、直接注入によって、微粒子砲撃の使用によって、脂質もしくは細胞表面受容体または形質移入剤でコーティングすることによって、または核に進入することが知られているホメオボックス様ペプチドに結合した状態でそれを投与することによって(例えば、非特許文献38)インビボで投与され、そのコードされたタンパク質の発現を促進し得る。代替的に、核酸治療薬は、細胞内に導入され、相同性組み換えによって、発現のために宿主細胞DNA内に組み込まれ得るか、またはエピソームのままであり得る。
一実施形態において、治療薬は、本明細書に開示される方法によって産生された膵β細胞表現型を有する細胞であり、治療薬は、静脈内的に投与される。具体的に、治療薬は、門静脈注射を介して送達され得る。
熟練者であれば、「治療上有効な量」という用語が、有意義な患者利得、すなわち、関連病態の治療、治癒、予防、もしくは改善、またはかかる病態の治療、治癒、予防、もしくは改善の割合の増加を示すのに十分な薬学的組成物または方法の各活性成分の総量を包含し得ることを理解するであろう。個々の活性成分に適用され、単独で投与される場合、この用語は、その成分単独を指す。組み合わせに適用される場合、この用語は、組み合わせで、連続的に、または同時に投与されるかを問わず、治療効果をもたらす活性成分の複合量を指す。
本明細書に提示される開示の治療薬の静脈内投与に適した投薬量範囲は、一般に、少なくとも100万個の分化転換細胞、少なくとも200万個の分化転換細胞、少なくとも500万個の分化転換細胞、少なくとも1000万個の分化転換細胞、少なくとも2500万個の分化転換細胞、少なくとも5000万個の分化転換細胞、少なくとも1億個の分化転換細胞、少なくとも2億個の分化転換細胞、少なくとも3億個の分化転換細胞、少なくとも4億個の分化転換細胞、少なくとも5億個の分化転換細胞、少なくとも6億個の分化転換細胞、少なくとも7億個の分化転換細胞、少なくとも8億個の分化転換細胞、少なくとも9億個の分化転換細胞、少なくとも10億個の分化転換細胞、少なくとも20億個の分化転換細胞、少なくとも30億個の分化転換細胞、少なくとも40億個の分化転換細胞、または少なくとも50億個の分化転換細胞である。一実施形態において、用量は、60〜75kgの対象に対して10〜20億個の分化転換細胞である。当業者であれば、インビトロまたは動物モデル試験システムに由来する用量応答曲線から外挿され得ることを理解するであろう。別の実施形態において、有効用量が、肝門静脈に静脈内的に投与されてもよい。
細胞は、かかる細胞に対する所望の効果またはその内部での活性を増幅または産生するために、本明細書に提示される開示の治療剤、核酸、またはタンパク質の存在下、エクスビボで培養されてもよい。次いで、処置された細胞は、治療目的で、本明細書に記載される投与経路を介してインビボで導入され得る。
薬学的組成物
化合物、例えば、PDX−1、Pax−4、MafA、NeuroD1、もしくはSox−9ポリペプチド、PDX−1、Pax−4、MafA、NeuroD1、もしくはSox−9ポリペプチドをコードする核酸、またはPDX−1、Pax−4、MafA、NeuroD1、もしくはSox−9ポリペプチドをコードする核酸の発現を増加させる核酸もしくは化合物(本明細書において「活性化合物」とも称される)、及びそれらの誘導体、断片、類似体、及び相同体、ならびに本明細書に開示される方法によって産生される膵β細胞は、投与に適した薬学的組成物に組み込まれ得る。かかる組成物は、典型的には、核酸分子、またはタンパク質、及び薬学的に許容される担体を含む。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」は、医薬投与に適合する任意かつ全ての溶媒、分散媒質、コーティング、抗細菌剤及び抗菌剤、等張性吸収遅延剤等を含むことが意図される。好適な担体は、参照により本明細書に組み込まれる、この分野の標準参照テキストである、Remington′s Pharmaceutical Sciencesの最新版に記載されている。かかる担体または希釈剤の好ましい例には、水、生理食塩水、フィンガー液、デキストロース溶液、及び5%ヒト血清アルブミンが含まれるが、これらに限定されない。リポソーム、及び固定油等の非水性ビヒクルが使用されてもよい。薬学的に活性な物質に対する、かかる媒質及び薬剤の使用は、当該技術分野において周知である。任意の従来の媒質または薬剤が、活性化合物と不適合である範囲を除いて、組成物中のそれらの使用が企図される。補助的活性化合物もまた、組成物に組み込まれ得る。
本明細書に開示される薬学的組成物は、その意図される投与経路と適合するように製剤化される。投与経路の例には、非経口、例えば、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば、吸入)、経皮(局所)、経粘膜、及び直腸投与が含まれる。非経口、皮内、または皮下適用に使用される溶液または懸濁液には、以下の成分、注射用水、生理食塩水、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒等の滅菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベン等の抗細菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸ナトリウム等の抗酸化剤;エチレンジアミンテトラ酢酸等のキレート化剤;酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩等の緩衝剤;及び塩化ナトリウムまたはデキストロース等の張度調整のための薬剤が含まれる。pHは、塩酸または水酸化ナトリウム等の酸または塩基で調整され得る。非経口調製物は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジ、または多回投与バイアルに封入され得る。
注入使用に適した薬学的組成物には、無菌水溶液(水溶性の場合)、または無菌注入溶液または分散剤の即時調製のための分散剤及び無菌粉末が含まれる。静脈内投与の場合、好適な担体には、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL.TM.(BASF,Parsippany,N.J.)、またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が含まれる。全ての例において、組成物は、無菌でなければならず、容易な注射針通過性が存在する程度に流動性であるべきである。製造及び貯蔵の条件下で安定していなければならず、細菌及び真菌等の微生物の汚染作用から保護されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコール等)、及びそれらの好適な混合物を含有する溶媒または分散媒質であり得る。例えば、レシチン等のコーティングの使用によって、分散剤の場合は必要な粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって、適切な流動性が維持され得る。微生物の作用の予防は、様々な抗細菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等によって達成され得る。多くの例において、等張剤、例えば、糖、マニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウム等のポリアルコールを組成物に含めることが好ましい。注射用組成物の長期吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物に含めることによってもたらされ得る。
無菌注射液は、上に列挙される成分のうちの1つまたは組み合わせと共に、適切な溶媒に必要量の活性化合物を組み込むことによって、続いて必要に応じてフィルター処理による滅菌によって調製され得る。一般に、分散剤は、活性化合物を、塩基性分散媒質及び上に列挙されるものから必要な他の成分を含有する無菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。無菌注射液の調製のための無菌粉末の場合、調製方法は、真空乾燥及び冷凍乾燥であり、活性成分に加えて任意の追加の所望の成分の粉末を、以前に無菌フィルター処理されたその溶液から産出する。
経口組成物には、一般に、不活性希釈剤または食用担体が含まれる。それらは、ゼラチンカプセルに封入され得るか、または錠剤に圧縮され得る。経口治療投与の目的で、活性化合物は、賦形剤と組み込まれ、錠剤、トローチ、またはカプセルの形態で使用され得る。経口組成物はまた、マウスウォッシュとしての使用のために、流体担体を使用して調製され得、流体担体中の化合物を、経口的に適用し、濯いで吐き出すか、または飲み込む。薬学的に適合される結合剤、及び/またはアジュバント材料は、組成物の一部として含まれ得る。錠剤、ピル、カプセル、トローチ等は、以下の成分、または同様の性質の化合物:微結晶セルロース、ガムトラガカント、もしくはゼラチン等の結合剤;デンプンもしくはラクトース等の賦形剤、アルギン酸、プリモゲル、もしくはコーンスターチ等の賦形剤;ステアリン酸マグネシウムもしくはステロート等の潤滑剤;コロイド二酸化ケイ素等の滑剤;スクロースもしくはサッカリン等の甘味剤;またはペパーミント、サリチル酸メチル、またはオレンジ風味等の風味剤のうちのいずれかを含有し得る。
全身投与はまた、経粘膜または経皮手段によるものであり得る。経粘膜または経皮投与の場合、浸透される障壁に適切な浸透剤が製剤に使用される。かかる浸透剤は、一般に、当該技術分野において知られており、例えば、経粘膜投与の場合、洗剤、胆汁塩、及びフシジン酸誘導体を含む。経粘膜投与は、鼻スプレーまたは坐薬の使用を通じて達成され得る。経皮投与の場合、活性化合物は、当該技術分野において一般に知られている軟膏、膏薬、ゲル、またはクリームに製剤化される。
一実施形態において、活性化合物は、移植片及びマイクロカプセル化送達系を含む、制御放出製剤等の、身体からの急速な排除から化合物を保護する担体と共に調製される。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸等の生分解性、生体適合性ポリマーが使用され得る。かかる製剤の調製方法は、当業者に明らかとなるであろう。これらの材料はまた、Alza Corporation及びNova Pharmaceuticals,Inc.から商業的に入手され得る。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体に感染した細胞を標的とするリポソームを含む)を、薬学的に許容される担体として使用することもできる。これらは、例えば、特許文献9(参照により本明細書に完全に組み込まれる)に記載されるように、当業者に既知の方法に従って調製され得る。
投与の容易性及び投薬量の均一性のために、投与単位形態で、経口または非経口組成物を製剤化することが特に有益である。本明細書で使用される投与単位形態は、治療される対象のための一体型剤形として適している物理的に別個の単位を指し、各単位が、必要な医薬担体と関連した所望の治療効果をもたらすように算出された既定量の活性化合物を含有する。本明細書に開示される投与単位形態の仕様は、活性化合物の固有の特徴及び達成される特定の治療効果によって記され、それらに直接依存する。
本明細書に開示される核酸分子は、ベクターに挿入され、遺伝子治療ベクターとして使用され得る。遺伝子治療ベクターは、例えば、特許文献10に記載される多数の経路のうちのいずれかによって対象に送達され得る。故に、送達はまた、例えば、静脈内注入、局所投与(特許文献11を参照されたい)、または定位的注入(例えば、非特許文献39)を含み得る。遺伝子治療ベクターの薬学的調製物は、許容される希釈剤中に遺伝子治療ベクターを含み得るか、または遺伝子送達ビヒクルが埋め込まれる遅効性マトリクスを含み得る。代替的に、完全な遺伝子送達ベクターが、例えば、レトロウイルスベクターが、組み換え細胞からインタクトに産生され得る場合、薬学的調製物は、遺伝子送達系を産生する1つ以上の細胞を含み得る。
薬学的組成物は、投与のための指示書と一緒に、容器、パック、または分注器に含まれ得る。
本明細書に提示される開示が、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコル及び試薬、ならびに実施例に限定されないことを理解されたい。本明細書で使用される用語及び実施例は、単に特定の実施形態を説明する目的、熟練者にガイダンスを提供する意図及び目的であって、本明細書に提示される開示の範囲を限定することを意図しない。
実施例1:一般的方法
ヒト肝細胞
成体ヒト肝組織を、3〜23歳以上の個人から入手した。臨床調査委員会(施設内審査委員会)からの承認を得て、肝組織を使用した。ヒト肝細胞の単離は、記載の通り行った(非特許文献40、非特許文献41)。細胞を、10%胎仔血清、100単位/mLのペニシリン、100ng/mLのストレプトマイシン、250ng/mLのアンフォテリシンB(Biological Industries,Beit Haemek,Israel)で補充したダルベッコ最小必須培地(1g/Lのグルコース)中で培養し、5% CO2及び95%空気の湿潤雰囲気下、37℃で保持した。
ウイルス感染
本研究で使用されるアデノウイルスは、以下の通りであった。Ad−CMV−Pdx−1(非特許文献40、非特許文献41)、Ad−RIP−ルシフェラーゼ(非特許文献42)、Ad−CMV−β−Gal、Ad−CMV−MafA(Newgard,C.B.,Duke Universityからの寛大な寄贈)、Ad−CMV−Pax4−IRES−GFP(St Onge,L.DeveloGen AG,Gottingen,Germanyからの寛大な寄贈)、及びAd−CMV−Isl1(Kieffer,T.University of British Columbia,Vancouver,Canadaからの寛大な寄贈)。ウイルス粒子は、標準プロトコルによって生成された(非特許文献43)。
肝細胞に、組み換えアデノウイルスを5〜6日間にわたって感染させ(表1)、EGF(20ng/mL、Cytolab,Ltd.,Israel)及びニコチンアミド(10mM、Sigma)で補充した。最適感染多重度(MOI)を、細胞生存率(75%未満)及びC−ペプチド分泌の誘導に従って決定した。使用されるウイルスのMOIは、Ad−CMV−Pdx−1(1000 MOI)、Ad−CMV−Pax4−IRES−GFP(100 MOI)、Ad−CMV−MafA(10 MOI)、及びAd−CMV−Isl1(100 MOI)であった。
RNA単離、RT及びRT−PCR反応
以前に記載の通り、総RNAを単離し、cDNAを調製及び増幅した(非特許文献44、非特許文献40)。定量的リアルタイムRT−PCRを、ABIステップ1プラス配列検出システム(Applied Biosystems,CA,USA)を使用して、以前に記載の通り行った(非特許文献40、非特許文献41、非特許文献45)。
C−ペプチド及びインスリン分泌検出
C−ペプチド及びインスリン分泌は、記載の通り、ウイルス治療への初期曝露の6日後に、成体肝細胞の一次培養物の静的インキュベーションによって測定した(非特許文献40、非特許文献41、非特許文献45)。グルコース調節C−ペプチド分泌は、2mM及び17.5mMのグルコースで測定し、これを用量依存的解析によって決定して、処置した細胞の機能に悪影響を及ぼすことなく、分化転換肝細胞からのインスリン分泌を最大限に誘導した(非特許文献40、非特許文献41、非特許文献45)。C−ペプチド分泌は、ヒトC−ペプチド放射免疫測定キットを使用する放射免疫測定によって検出した(Linco Research, St.Charles,MO、ヒトプロインスリンに対して4%未満の交差反応性)。インスリン分泌は、ヒトインスリン放射免疫測定キットを使用する放射免疫測定によって検出した(DPC,Angeles,CA、ヒトプロインスリンに対して32%の交差反応性)。分泌を、Bio−Radタンパク質アッセイキットによって測定された総細胞タンパク質に対して標準化した。
ルシフェラーゼアッセイ
ヒト肝細胞に、Ad−RIP−ルシフェラーゼ(200moi)及び様々なアデノウイルスを感染させた(下記の通り)。6日後に、ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)及びLKB 1250ルミノメーター(LKB,Finland)を使用して、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果を、Bio−Radタンパク質アッセイキット(Bio−Rad)によって測定された総細胞タンパク質に対して標準化した。
免疫蛍光
様々なアデノウイルスで処置したヒト肝細胞を、12ウェル培養プレートのガラスカバースライド上にプレーティングした(2×105細胞/ウェル)。3〜4日後に、細胞を固定し、記載の通り染色した(非特許文献40、非特許文献41、非特許文献45)。この研究で使用される抗体は、抗ウサギPDX−1、抗ヤギPDX−1(いずれも1:1000、C.V.E.Wrightからの寛大な寄贈)、抗ヒトインスリン、抗ヒトソマトスタチン(いずれも1:100、Dako,Glostrup,Denmark)、抗Pax4(1:100、R&D Systems,Minneapolis,MN)、抗MafA(1:160、Santa Cruz Biotechnology,Inc.,Santa Cruz,CA)であった。使用された二次抗体は、抗ウサギIgGシアニン(cy2)複合抗体1:250、抗ウサギIgGインドカルボシアニン(cy3)複合抗体1:250、抗ヤギIgGシアニン(cy2)複合抗体1:200、抗ヤギIgGインドカルボシアニン(cy3)複合抗体1:250、及び抗マウスIgGインドカルボシアニン(cy3)複合抗体1:250(全てJackson ImmunoResearch,PAから)であった。最後に、細胞を4′,6−ジアミジノ−2−フェニル−インドール(DAPI、Sigma)で染色した。スライドを撮像し、蛍光顕微鏡(Provis,Olympus)を使用して解析した。
純度アッセイ
フローサイトメトリーベースのアッセイは、細胞の90%超が、増幅及び分化転換中に、間葉系幹細胞(MSC)様表現型を有することを保証する主要な純度アッセイとして開発されてきた。培養されたMSCは、CD73、CD90、CD105、及びCD44に関して陽性染色するはずであり、CD45、CD34、CD14、またはCD11b、CD19、またはCD79α、及びHLA−DR表面分子に関して陰性のはずである。
図44A及び44Bに示されるように、増幅した肝細胞及び感染細胞は、CD90、CD44、CD105、及びCD73マーカーを高レベル(≧90%)で発現したが、それらは、系統陰性マーカー(CD34、CD11b、CD45、CD19、及びHLA−DRのカクテル)を発現しなかった。CD105発現が、P14での非感染細胞と比較して、P16での感染細胞においてわずかに減少したことに留意されたい。この減少が有意であるかどうか、及びそれが継代数または分化転換と共に減少するかどうかを理解するために、追加の実験が必要である。これらの結果は、MSCマーカーが、経時的、及び肝細胞の分化転換中に安定していたことを示す。MSCマーカーのフローサイトメトリーは、実際にQCテストとして使用されてもよい。
次のステップは、様々な外在性転写因子、及び理想的にはインスリンまたはC−ペプチドを発現または共発現する下位集団を定量化する、フローサイトメトリーまたは免疫蛍光アッセイを開発することであろう。
統計解析
統計解析は、不均等な変数を想定し、2標本スチューデントi検定を用いて行った。
実施例2:PDX−1誘導型分化転換
以前の研究(非特許文献40、非特許文献41、非特許文献45、非特許文献46、非特許文献47)は、PDX−1が単独で、ヒト肝細胞においてβ細胞様表現型及び機能を、恐らくは肝臓内の多数の、そうでなければサイレントな内在性pTFを活性化するその能力に起因して誘導可能であることを示唆した。膵系統の活性化は速く、5日以内に起こった(非特許文献40、非特許文献44)。
この実施例において、PDX−1により誘導される肝臓から膵臓への分化転換を媒介する一連の事象を調べる。Pdx−1をコードするアデノウイルスベクターを、成体ヒト肝細胞に導入し、異所性PDX−1発現の効果を、感染後4日間連続して監視した(2〜5日目、図1A〜1D)。膵ホルモン及び膵特異的転写因子の発現を、RT−PCR解析によって毎日5日間にわたって決定した。結果を、同じcDNA試料内のβ−アクチン遺伝子発現に対して標準化し、同日の対照ウイルス(Ad−CMV−β−gal、1000MOI)処置細胞に対する相対発現の平均±SEとして提示される。2つの独立した実験を行った(n≧4、*p<0.05及び**p<0.01)。
グルカゴン及びソマトスタチン遺伝子の両方を、Ad−Pdx−1感染後1日以内に速やかに活性化した(図1B及び1C)。しかしながら、インスリン発現は、感染後4日目〜5日目においてのみ検出された(図1A)。3つの主要な膵ホルモンの別個の時間的活性化に関する機構的説明を提供するために、内在的に活性化された転写因子の発現レベルを、分化転換プロセス中に解析した。早期膵内分泌転写因子、NGN3、及びNEUROD1は、速やかに活性化された(図1D)。しかしながら、NKX6.1及びMafA等のβ−細胞特異的TFは、異所性PDX−1発現に応答して段階的かつ中度に活性化されたに過ぎず、それぞれ4日目及び5日目にピーク発現レベルに到達する。5日目のインスリン遺伝子発現の活性化は、MafA発現の増加のみならず、Isl1発現の減少にも関連した(図1D)。これらのデータは、膵系統に沿ったヒト肝細胞の分化転換が、急速であるにもかかわらず、段階的かつ連続的なプロセスであることを示唆する。膵ホルモン遺伝子発現(ソマトスタチン及びグルカゴン等)の別個の時間的活性化は、部分的に時間経過、及び内在的に活性化されたpTF発現の相対レベルに起因し得る。
実施例3:PDX−1、PAX4、及びMAFAの複合発現は、肝臓から膵臓への分化転換の効率を増加させる
以前の研究は、いくつかのpTFの協奏発現が、個々のpTFによって誘導されたものと比較して(非特許文献48、非特許文献49、非特許文献50、非特許文献51、非特許文献46)、β細胞系統に沿った、ならびに他の系統に沿った分化転換効率を増加させることを示唆してきた。本明細書に記載される一次成体ヒト肝細胞の実験システムにおいてこの見解を解析するために、肝臓から膵臓への分化転換に対する3つの主要なpTFの個々の、及び共同の貢献を調査した。膵臓器官生成において異なるステージを媒介する、PDX−1、Pax4、及びMafAは、組み換えアデノウイルスを使用して成体ヒト肝細胞の一次培養物中で異所的に共発現させた。培養した成体ヒト肝細胞に、Ad−CMV−Pdx−1(1000 MOI)、Ad−CMV−Pax−4(100 MOI)、及びAd−CMV−MafA(10 MOI)を単独で、または対照ウイルス(Ad−CMV−β−gal、1000 MOI)と共に感染させ、膵分化転換マーカーを6日後に調べた。各因子の感染多重度(MOI)を滴定し、感染した細胞生存率に対する最小の悪影響に関連した最大再プログラム化効率をもたらした。PDX−1は、培養下の細胞の70%において発現し、3つのpTF全ての共同共発現は、PDX−1陽性細胞の46.8%において証明された(図2A)。極めて少ない細胞が、Pax−4のみまたはMafAに関して陽性染色した。3つのpTF全てに関して陽性染色した細胞は、矢印で示される(図2A、右パネル)。図2Bにおいて、肝細胞に、複合pTF及びAd−RIP−LUC(200moi)を共感染させ、インスリンプロモーターのルシフェラーゼ活性を測定した。
3つのpTFの複合発現は、pTFの各々を単独で誘導されたものと比較して、インスリンプロモーター活性化の実質的増加(図2B)、(プロ)インスリン産生細胞の数の3倍増加(図2C)、及びグルコース調節された(プロ)インスリン分泌の30〜60%増加(図2D)をもたらした。まとめると、これらの結果は、3つのpTFの複合が、分化転換効率を増加させることを示唆し、また因子の各々が、その能力が制限されているか、または最大の分化転換を個々に促進するには不十分であることを示している(非特許文献48、非特許文献49、非特許文献52)。
実施例4:分化転換細胞の異なるホルモン産生細胞の成熟及び分離は、階層的様式で時間的に制御される
この実施例において、異所性pTF発現を時間的に制御することの影響を調査して、3つのpTFの複合異所性発現による増加した分化転換効率が、上記で示唆されるように時間的に制御されるかどうかを決定した(図2A〜2D)。膵臓分化転換において役割を有する時間的制御の支持を受けて、3つのpTF、Pdx−1、Pax4、及びMafAは、膵臓器官生成中に別個の時間的発現及び機能を示す。
3つのpTF、Pdx−1、Pax4、及びMafAは、組み換えアデノウイルスを使用して、系列的に、または成体ヒト肝細胞の一次培養物と協奏して導入された。アデノウイルス媒介型異所性遺伝子発現は、感染後17時間にピークを迎える(非特許文献53)。したがって、pTFは、3連続日の間に系列的に投与され(実施例1のウイルス感染を参照されたい)、それらの個々の効果の出現を可能にする。細胞を、表1に示されるスケジュールに従って感染させた。
細胞に、1日当たり1つのpTFアデノウイルス構成体を、3日間にわたって3つの異なる順序、直接階層順(処置C=Pdx−1→Pax4→MafA)、逆順(処置D=MafA→Pax4→Pdx−1)、及びランダム順(処置E=Pdx−1→MafA→Pax4)で系列的に感染させた。分化転換効率及びβ細胞様成熟に対する系列的pTF投与の効果を、1日目の3つのpTF全ての協奏または同時投与の効果(処置B=Pdx−1+Pax4+MafA)及び同様のMOIの対照ウイルス(処置A=β−gal)と比較した(表1及び図3A)。具体的に、培養した成体ヒト肝細胞に、Ad−CMV−Pdx−1(1000 MOI)、Ad−CMV−Pax−4(100 MOI)、及びAd−CMV−MafA(10 MOI)を、一緒に、もしくは図3A及び表1に要約される系列的様式で(処置B〜E)、または対照ウイルス(Ad−CMV−β−gal、1000 moi、処置A)と共に感染させ、6日後にそれらの膵分化について解析した。
インスリンプロモーター活性(図4A)、インスリン産生細胞のパーセント(図3B)、及びグルコース調節(プロ)インスリン分泌(図3C)は、系列的に投与したpTFの順序によって影響されなかった。興味深いことに、ランダム順(処置E=Pdx−1→MafA→Pax4)での系列的pTF投与は、増加したインスリンプロモーター活性をもたらしたが、インスリン分泌のグルコース調節の喪失及び減少したグルコース輸送体2(GLUT−2)発現に関連していた(図3B、3C、及び4B)。Pax4及びMafA投与の順序を変更した際のグルコース感知能力の喪失は、分化転換プロセスの効率に対してではなく、β細胞様成熟に対する発現pTFの順序の潜在的効果を示唆している。
実施例5:PDX−1、PAX4、及びMAFAの階層的投与は、β様細胞への分化転換細胞の成熟を促進する
CELLS
以前の結果は、増加した分化転換効率がβ細胞系統に沿って強化された成熟と関連する程度及び条件を決定するために、さらなる調査を促した。成熟β細胞の顕著な特徴は、プロインスリンを処理する能力、及びそれをグルコース調節様式で分泌する能力である(非特許文献54、非特許文献55)。pTF発現の時間的変化が、β細胞系統に沿った分化転換細胞成熟に明らかな影響を及ぼすかどうかを解析するために、プロインスリン処理及びグルコース調節C−ペプチド分泌に対する別個の処置A〜E(表1及び図3A)の効果を解析した。
実際に、pTFの直接階層投与(処置C)のみが、処理されたインスリン及びそのグルコース調節分泌の顕著な産生をもたらし、生理学的グルコース用量応答特徴を示した(図3C及び5A)。新たに取得された表現型及び機能は、インビトロで最大4週間にわたってグルコース調節様式でc−ペプチドを分泌する能力によって示されるように安定していた(図5A及び5B)。
直接階層的pTF投与(処置C)の場合のみに増加したプロホルモン処理は、PCSK2及びGLUT2遺伝子発現の顕著な増加と関連し、それぞれプロホルモン処理及びグルコース感知能力における役割を保有する(図3A〜3E及び4A〜4C)。これらのデータは、β細胞系統に沿った分化転換肝細胞の成熟及び機能を促進することにおける、pTFの系列的かつ直接的な階層的発現の義務的役割を示唆する。協奏(処置B)及び間接階層的モードでの系列的TF投与(処置D及びE)の両方は、成熟β細胞様特徴を示す分化転換細胞を生成しなかった。
β細胞様成熟状態の変化に関する機構的説明を提供するために、別個の時間的処置(B〜E)下の内在性活性化pTFのレパートリーを解析した。全ての処置(B〜E)は、NEUROG3、NEUROD1、NKX6.1、及びNKX2.2等の多数の内在性pTFの増加した発現をもたらした(図3E)。しかしながら、「成熟」表現型(処置C)と「未熟」表現型(処置B、E、及びD)との間の最も頑強な差異は、内在性Isl1遺伝子発現のレベルにおいて提示された。故に、直接階層的pTF投与(処置C)によって誘導されたβ細胞系統に沿って最も強化された成熟は、内在性Isl1発現の劇的な減少と相関する(図3E、矢印)。まとめると、これらのデータは、β細胞への分化転換細胞の成熟が、特定のpTFの相対的かつ時間的発現レベルによって影響され得ることを示唆する。
実施例6:PDX−1、PAX4、及びMAFAの階層的投与は、β様細胞とδ様細胞との間の分化転換細胞の分離を促進する
処置C(表1)からのMafAの除外は、Isl−1(図6D)及びソマトスタチン遺伝子発現(図8D)の両方を誘導した。MafA除外時の増加したIsl−1発現が、実際に増加したソマトスタチン遺伝子発現を引き起こすかどうかを解析するために、Ad−CMV−Isl−1を、3日目にMafAと一緒に付加した(処置C、表1)。実際に、Isl−1は、ソマトスタチン遺伝子発現を増加させた(図6E)。異所性Isl−1発現(C+Isl−1)はまた、増加したソマトスタチンタンパク質産生(図6F)及びインスリン産生細胞におけるその共産生(図9、下パネル)を引き起こし、低いIsl−1発現に関連した高MafA発現が、インスリン産生細胞とソマトスタチン産生細胞との分離に重要であることを示唆する。
実施例7:肝臓から膵臓への分化転換に対するPDX−1、PAX4、及びMAFAの個々の貢献の解析
分化転換プロセスの系列的特徴は、機能の時間的利得の研究によって特定された。転写因子、Pdx−1、Pax4、及びMafAの各々の、階層的発達プロセスに対する別個の貢献に関するさらなる解析は、相対的かつ時間的「低減機能」アプローチによって行った。成体ヒト肝細胞を、直接時間的かつ系列的再プログラム化プロトコル(処置C)によって処置し、そこから異所性pTFのうちの1つを省略した。省略されたpTFを、同様の感染多重度においてβ−gal発現を運ぶ対照アデノウイルスによって置換した。具体的に、成体ヒト肝細胞を、直接「階層的」系列的感染順によって処置した(処置C、図3A及び表1)。1つの単一転写因子(pTF)を、ある時点で省略し、同一moiのAd−CMV−β−galによって置換した。Pdx−1の省略は、(C−Pdx−1)として示され、Pax4の省略は、(C−Pax4)として示され、MafAの省略は、(C−MafA)として示される。
pTF各々の発現を別個に省略する機能的結果を、分子レベル及び機能レベルで解析した(図6A〜6D)。別個のPdx−1及びMafA省略(それぞれC−Pdx−1及びC−MafA)は、減少したインスリンプロモーター活性化(図6A)、処理されたインスリン分泌の切断されたグルコース応答(図6B)、及び減少したGLUT2及びGK発現(図6C)をもたらした。MafAの除外は、プロホルモン転換酵素、PCSK2の減少した発現とも関連していた(図6C)。一方で、Pax4の除外(C−Pax4)は、インスリンプロモーター活性化に著しく影響しなかったばかりか、グルコース調節C−ペプチド分泌にも影響しなかった。Pax−4省略は、減少したGLUT2及びPCSK2発現と関連しており(図6C)、恐らくは、GKの発現が、ホルモン分泌のグルコース制御能力を得るために十分であることを示唆する。
内在的に活性化されたpTF発現のレパートリーに対する時間的かつ別個のpTF除外の結果の解析を行い、これらの発達的変化を説明した。Pdx−1及びPax4の除外は、大部分の他のpTF(NeuroG3、NKX2.2、NKX6.2、及びPax6)の発現において顕著な減退を引き起こし、漸増する分化転換効率に対するそれらの潜在的貢献が、それらが内在性膵TFを活性化する能力に関連する(図6D)。一方で、MafAの除外は、内在性pTF発現のさらなる活性化に貢献せず、恐らくは、膵β細胞においてのみ遅く制限された発現を反映する。対照的に、増加したインスリンプロモーター活性、プロホルモン処理、及びそのグルコース調節分泌に対するMafAの貢献は、減少したIsl−1発現とのみ関連していた(図6D)。これらのデータは、MafAが、内在性pTF発現及び肝臓から膵臓への分化転換の効率のさらなる促進に関与しないが、むしろ分化転換細胞の成熟の促進に関与することを示唆し得る。
実施例8:ISL−1は、分化転換細胞のβ細胞系統への成熟を防止する
β細胞様成熟に対するMafAの効果は、それがIsl1発現を抑制する能力と部分的に関連し得る。この仮説を検証するために、異所性Isl1を、アデノウイルス感染(Ad−Isl1)によって分化転換細胞に導入した。簡潔に言うと、成体ヒト肝細胞を、直接「階層的」系列的感染順(処置C)によって処置し、Ad−Isl1(1または100MOI)で3日目に補充した(C+Isl1)。
上に示されるように、直接階層様式での3つのpTFの系列的投与(処置C)は、増加した分化転換効率及び新たに生成された細胞の、β細胞系統に沿った成熟の両方をもたらした。Isl1は、3日目にMafAと共同投与された(C+Isl1)。実際に、3日目のIsl1過剰発現は、異種プロモーターの制御下で、インスリン遺伝子発現の大幅な減少及びグルコース調節(プロ)インスリン分泌の切断をもたらした(図7A〜7C)。グルコース感知能力の喪失は、減少したGLUT2発現と関連していた(図7C)。これらの結果は、分化転換プロトコルの最終段階における調節解除したIsl1発現が、β細胞系統に沿った成熟を潜在的に妨害し、低MafA発現下での切断された成熟を部分的に説明し得ることを示唆する。
まとめると、これらのデータは、β細胞系統に沿って分化転換肝細胞成熟を促進することにおけるpTFの直接階層的発現が、重要な義務的役割を果たすことを示唆する。さらに、系列的発達プロセスは、膵β細胞系統に沿った分化転換細胞の成熟を促進または妨害し得る、pTFの活性化及び抑制の両方と関連する。
実施例9:PDX−1、PAX4、及びMAFAの階層的投与は、グルカゴン及びソマトスタチン発現を誘導する
内分泌膵系統に沿った分化転換は、多数の膵ホルモンの発現の活性化をもたらす。これらのホルモン発現レベルがpTFの時間的操作によって影響される程度も調査した。膵ホルモングルカゴン(GCG)(図8A及び8B)、ソマトスタチン(SST)(図8A、8D、及び8E)、または細胞特異的転写因子(図8C)の遺伝子発現を、示された処置後の定量的リアルタイムPCRによって決定した。
グルカゴン(GCG)遺伝子及びソマトスタチン(SST)遺伝子両方の転写は、個々に発現したpTFの各々によって、主にPdx−1及びMafAによって誘導され、Pax4によってより低い程度で誘導された(図8A)。グルカゴン遺伝子転写のさらなる増加は、pTFの直接階層的投与時のみに起こった(図4A、処置Cを参照されたい)。Pdx−1及びMafAは、それぞれα−細胞特異的転写因子ARX及びBRAIN4またはARX単独の活性化と関連するプロセスにおいて、グルカゴン発現に対するそれらの効果を発揮した(図8C)。大部分の処置によって影響されないままであるソマトスタチン遺伝子発現(図8A及び8D)は、時間的プロトコルが異所性Pax4発現によって終了した場合に増加した(E=Pdx−1→MafA→Pax4)。この系列的プロトコルはまた、グルコース調節(プロ)インスリン分泌に対する悪化の原因となるような影響を呈し、増加したIsl1内在性発現と関連していた(図3C及び3E)。β細胞系統に沿った切断成熟は、増加したソマトスタチン遺伝子発現及び増加したソマトスタチン陽性細胞数と関連していた(図8F)。細胞の多くは、ソマトスタチン及びインスリン共局在化を呈した(データ図示せず)。
実施例6で考察される階層的投与(処置C)からの各pTFの除外も用いて、グルカゴン及びソマトスタチン発現における個々のpTFの役割をさらに調査した(図8B及び8D)。Pax4除外は、ソマトスタチン遺伝子発現を実質的に低減し、この遺伝子の転写を誘導することにおけるその潜在的な役割を示唆する(図8D)。興味深いことに、発達的プロセスの最後でのMafAの除外もまた、ソマトスタチン遺伝子発現を実質的に増加させ、ソマトスタチン遺伝子発現に対するMafAの潜在的な阻害効果を示唆する。この効果はまた、Isl1発現を抑制するMafAの能力に起因し得る。この仮説を説明するために、ソマトスタチン遺伝子発現に対する異所性Isl1の効果を解析した。実際に、MafAと併せた3日目のAd−Isl1投与(C+Isl1)は、ソマトスタチン遺伝子発現を増加させ(図8E)、一方でインスリン遺伝子発現、ホルモン産生、及び分泌を減少させた(図8A、8B、及び図7A〜7C)。これらの実験条件下で、インスリン産生細胞の40%が、ソマトスタチンに関して陽性染色し、ソマトスタチン単独を発現する細胞は極めて少なかった。
これらの結果は、β細胞への分化転換細胞の成熟の一部が、分化転換プロセスの後期段階におけるMafA発現に起因することを示唆する。この段階で、MafAは、それがIsl1発現を阻害する能力と関連するプロセスにおいてソマトスタチン発現を制限する。
図9は、膵転写因子の提案された機構が、肝臓から膵臓への分化転換を誘導したことを示す。pTFの各々は、制限数のヒト肝細胞において、中度のβ細胞様表現型を活性化することができる。pTFの協奏発現は、肝臓から内分泌膵臓への分化転換を顕著に増加させる。しかしながら、新たに生成された細胞は未熟であり、インスリン及びソマトスタチンの両方を共発現する。直接階層的様式での同じ因子の系列的投与のみが、分化転換効率及びβ細胞系統に沿った分化転換細胞の成熟の両方を増加させる。
実施例10:インビボで分化転換能力を有する細胞集団の特定
分化転換能力を有する細胞集団は、マウスにおいてインビボで特定された。Pdx−1遺伝子の異所性発現は、マウス肝臓内で達成された。肝臓の細胞の約40〜50%における異所性Pdx−1遺伝子の均一発現にもかかわらず(図10A)(非特許文献56、及び非特許文献44)、Pdx−1処置したマウスにおけるインビボでのインスリン産生細胞(IPC)は、主に中心静脈の近くに位置し(図10B)、活性Wntシグナル伝達及びグルタミン合成酵素(GS)の発現を特徴とする(図1C)。GS発現の共局在化及びPdx−1によるインスリン活性化はまた、GSREを活性化することができるそれらの細胞が、増加した分化転換能力の素因を有することを示した。したがって、分化転換の素因がある細胞集団もまた、GSRE活性化または活性Wntシグナル伝達経路によって特定され得る。
実施例11:アデノウイルスを使用して分化転換の素因があるヒト肝細胞を特定する
この実施例は、分化転換の素因があるヒト肝細胞を特定する組み換えアデノウイルスの使用を示す。培養下のヒト肝細胞は、細胞内WNtシグナル伝達経路及びGSの発現の活性化に関して異種性である。GSは中心周辺肝細胞内で固有に発現されるため、したがってGSRE(GS調節要素)を活性化する能力を、関連細胞の単離の選択的パラメータとして使用することができる。
加えて、GSREは、STAT3結合要素も含有するため、分化転換に対する細胞の素因は、この要素によって媒介され得る。STAT3経路はまた、再プログラム化または分化転換の素因を有する細胞の付与に関与し得る(図10A〜10D、11、14A〜14E、及び19)。
実施例12:GSREは、培養下のヒト肝細胞の13〜15%を繰り返し標的とする。
GSREは、TCF/LEF及びSTAT5結合要素を含む(図11)。最小TKプロモーターに操作可能に結合されたGSRE(図11)の制御下で、eGFP遺伝子またはPdx−1遺伝子の発現を運ぶ2つの組み換えアデノウイルスが生成された。これらのアデノウイルスは、Pdx−1(図12A)またはeGFP(図12B)のいずれかの発現を駆動した。両方のタンパク質は、培養下のヒト肝細胞の約13〜15%において繰り返し発現され、特定の肝細胞集団の標的を示唆する。
実施例13:GSRE駆動型PDX−1は、肝細胞におけるインスリン産生の活性化において、CMV駆動型PDX−1より効率的である。
GSRE駆動型PDX−1の繰り返し発現にもかかわらず、培養下の脂肪の約13+2%のみが、Ad−CMV−Pdx−1によって誘導されるものと同様またはそれより高い分化転換能力を示し、培養下の細胞の60〜80%におけるPdx−1発現を駆動する(図13)。GSRE活性化細胞は、培養下の成体ヒト肝細胞全体の分化転換能力の大部分を説明し得る。インスリン産生は、Ad−CMV−Pdx−1処置細胞の1%と比較して、Ad−GSRE−Pdx−1処置時にPdx−1陽性細胞の25%において起こった。
実施例14:レンチウイルスを使用して、GSRE+細胞をEGFPによって永続的に標識する
レンチウイルス構成体を使用して、永続的系統追跡を行った。肝細胞内のケラチノサイトまたはアルブミン発現におけるKRT5を追跡するために最近使用されている修飾された二重レンチウイルス系によって、GSRE活性に関するインビトロ系統追跡を行った。このレンチウイルス系(Universite Pierre et Marie Curie(Paris,France)Prof.P.Ravassardとの共同、図12)には、CMV−loxP−DsRed2−loxP−eGFP(R/G)レポーター、ならびにGSRE及び最小TKプロモーター(Prof.Gaunitz,Germany、図3Aからの寛大な寄贈)の制御下で、Cre組み換え酵素の発現を運ぶ追加のレンチウイルスベクターが含まれる。故に、GSRE活性化細胞は、eGFP(eGFP+)によって不可逆的にマークされるが、二重感染した細胞の残りは、DsRed2(DsRed2+)によってマークされる。細胞の10〜14%は、10日未満以内にeGFP+になった(図14B)。セルソーターによって細胞を分離し(図14A〜14E)、別個に増殖させた(図15A)。eGFP+(GSRE活性因子)及びDsRed2+細胞の培養物を、10人の異なるヒトドナー(3〜60歳)から生成した。
実施例15:EGFR+細胞は、一貫して優れた分化転換能力を呈した
GSRE活性に従い、系統追跡によって分離されたヒト肝細胞は、効率的に増殖し(図15A)、組み換えアデノウイルスによって同様に効率的に感染した。eGFP+細胞は、培養下のヒト膵島(図16A)、グルコース調節インスリン分泌(図16B)、及びグルコース調節C−ペプチド分泌(図16C)に相当する、インスリン及びグルカゴン遺伝子発現によって提示される優れた分化転換能力(図16A〜16C)を一貫して呈した。これらの能力は一貫し、広範囲の細胞増殖時に減少しなかった(図17)。
実施例16:分化転換の素因がある細胞の特徴付け
ヒト肝細胞の別個の分化転換効率に潜在的に影響し得る因子を特定するために、2つの別個の集団の網羅的遺伝子発現プロファイルを、マイクロアレイチップ解析を使用して比較した。3人の異なるドナーに由来し、eGFP+及びDsRed2+細胞に分離されたヒト肝細胞培養物を、4継代にわたって増殖させた。抽出されたRNAを、cDNAに変換し、一般ヒトアレイ(GeneChip Human Genome U133A 2.0 Array,Affymetrix)を使用してマイクロアレイチップ解析にかけた。遺伝子の大部分が、分離群に相当するレベルで発現されたが、約800プローブの発現は、著しく異なっていた(図18)。マイクロアレイチップ解析に従い、膜タンパク質をコードする約100遺伝子は、分化転換しやすい(eGFP+)細胞と非応答(DsRed2+)細胞との間で差次的に発現される。これらのマーカーのうちのいくつかを、表2A及び2Bに提示する。
図47は、表2Bに提示された細胞表面分子の相対発現を示す。特定された分子の発現レベルを、リアルタイムPCRによって試験し、β−アクチン発現に対して標準化した。マイクロアレイデータは、eGFP+細胞とDsRed2+細胞との間の差次的発現である、多数の膜タンパク質を示唆した(倍数=DsRed2+(log2)と比較したeGFP+差次的発現)。全ての提示された抗原は、商業的に入手可能な抗体を有する。
実施例17:WNTシグナル伝達は、分化転換の素因がある細胞において活性である
肝臓分帯は、活性化β−カテニンレベルの勾配によって制御されることが示唆されてきたが、肝臓内の大部分の細胞は、非常に低いβ−カテニン活性を含み、中心周辺肝細胞は、活性Wntシグナル伝達と関連した高いβ−カテニン活性を発現する。Wntシグナル伝達は、競合β細胞活性に必須であるため、肝臓におけるpTF誘導型膵系統活性化は、プライオリが活性Wntシグナル伝達を示す細胞に制限される。
GSREは、GSの5′エンハンサーから単離されたTCF調節要素を用いた。Pdx−1誘導型肝臓から膵臓への分化転換が、細胞内Wntシグナル伝達経路によって部分的に媒介される場合、Wntシグナル伝達経路を変調する因子もまた、分化転換効率に影響し得る(図19)。
成体ヒト肝細胞におけるこのデータは、漸増濃度のWnt3aが、Pdx−1誘導型グルコース調節インスリン分泌を増加させ、一方DKK3(Wntシグナル伝達経路の阻害剤)が、プロセスに対するPdx−1の効果を完全に排除したことを示唆する(図19)。DKK3はまた、GSREを活性化する能力に従って単離されたeGFP細胞の分化転換能力を完全に排除した(図20)。
eGFP+及びDsRed+細胞集団におけるWntシグナル伝達経路活性の特徴付けを行った。β−カテニン不安定化、故にWntシグナル伝達の減少に関与するAPC発現は、eGFP+細胞内よりもDsRed2+細胞において700%高かった(図21A、インビボで示された分帯と相対的に一致する)。eGFP+集団は、DsRed2+細胞において解析されたレベルと比較して、活性化β−カテニンレベルを増加させた(40%)(図21B及び21C)。これらのデータは、GSRE活性化の能力があり、分化転換の素因がある細胞において、Wntシグナル伝達が活性であることを示す。
実施例18:PAX4及びNEUROD1によって誘導された分化転換の効率を比較する
目的
この研究の目的は、Ad−PDX−1によって誘導される分化転換プロセスを促進することにおいて、PAX4及びNeuroD1アデノウイルス(Ad−PAX4及びAd−NeuroD1)を比較することであった。
材料及び方法
Ad−PAX4またはAd−NeuroD1によって誘導される分化転換効率の比較を、ヒト対象Muhammad、Pedro、及びDiegoから入手された3つのナイーブ培養物(未分類の一次肝細胞)、ならびにグルタミン合成酵素応答要素(GSRE)活性化(GS富化)の分類に続く4つの一次肝細胞培養物、Shalosh、Eden、Muhammad、及びYamに対して行った。
実験設計
実験の初日に、表3に従い、100mmFalcon皿上のウイルス感染後に、300,000個の細胞を播種した。実験の3日目に、細胞を計数し、Ad−MafAによって処置し、6ウェル皿のうち3ウェルに最終濃度100,000細胞/ウェルまで播種した。実験の6日目に、放射免疫測定を使用し、インスリン分泌に関して細胞を解析した。KRB中の2mMグルコース(低)または17.5mMグルコース(高)のいずれかを用いた15分間の細胞のインキュベーションに続いて、インスリン分泌を測定した。
結果
結果を表4、ならびに図24A〜24B及び25A〜25Dに要約する。
2つの膵転写因子間で詳細な比較を行った。強化されたGS発現(GS富化)の分類によって富化されたナイーブ一次肝細胞及び肝細胞集団の混合集団に関して比較を行った。
図24A〜24B及び25A〜25Dは、棒グラフとして表にしたデータを提示する。
インスリン分泌測定は、PAX4またはNeuroD1を使用して誘導された分化転換において統計的差異がないことを明らかにした。この結論は、ナイーブ細胞及び富化GS細胞の両方に対して真であった。同じ傾向を示したのは、富化されたGS集団及びナイーブ細胞の平均だけでなく、同じ培養物Muhammadナイーブ及び富化Muhammad GSの結果を調べたときに、同じ結果が得られた(分化転換プロセスのためのモデル系として役立つGS富化集団の能力を示す)。
以前の結果は、GS富化集団が、分化転換効率に関して、完全肝細胞一次培養物を超える明らかな利点を有することを示した。したがって、GS富化集団及びMuhammadの未分類集団が、同様の結果を示した(統計的有意性なし)のは驚くべきことであった。しかしながら、両方の集団の継代数に差異があったことを述べるべきである。GS富化集団は、19継代において調べ、ナイーブ集団は、7継代において調べた。これらの結果は、GS富化集団が有効な分化転換を受けるのに失敗したと捉えるべきではなく、GS富化集団が高次継代において分化転換を受ける能力として捉えるべきであり、これはナイーブ細胞が達成できない場合がある。
NeuroD1でインキュベートされた細胞と比較して、PAX4でインキュベートされた細胞の細胞死に有意差はなかった。明らかであった唯一の差異は、処置群(Ad−PAX4/Ad−NeuroD1)と比較して、対照群(未処置/Ad−ヌル)のものであった。これは、総インスリンに関する結果を調べるか、またはng INS/10^6細胞/時に関する結果を調べるかを問わず、PAX4及びNeuroD1に関して至った同じ結論によって見られる。
観察された1つの差異は、分化転換効率(特定のアデノウイルスを使用したときに得られた陽性分化転換のパーセント)を算出したときであった。Ad−NeuroD1の場合、効率は、87.5%であり(8実験のうち7陽性分化転換)、Ad−PAX4の場合、71%であった(7実験のうち5陽性分化転換)。
結論
Ad−PAX4及びAd−NeuroD1の両方は、同様の肝細胞の分化転換を支持する。
実施例19:分化転換プロセスに最適なプロトコルを決定する
目的
この研究の目的は、完全な階層(1+1+1プロトコル)、2+1プロトコルによる、及び3つのアデノウイルス全ての同時感染による分化転換効率を比較することであった。
試験システム
DMEM 1g/Lグルコース中で成長させたヒト肝細胞、Leon、Muhammad、及びPedroの3つの一次培養物上で異なる分化転換プロトコルを調べた。ウイルス感染後に、細胞を、5nM Exendin−4、20ng/mL EGF、及び10mMニコチンアミドで補充したDMEM 1g/Lグルコース培地中で成長させた。
実験設計
異なる分化転換(TD)プロトコルを、以下の表6に従って調べた。簡潔に言うと、実験の初日に、300,000個の細胞を、ウイルス感染後に、プロコルA(ヌル)、B(2+1)、及びE(階層1+1+1)に関する下の表6に従って、100mm Falcon皿上に播種した。実験の2日目に、プロトコルCの場合(3因子同時)、100,000個の細胞を6ウェル皿上に播種し、プロトコルDの場合(3因子同時)、70,000個の細胞を6ウェル皿上に播種した。実験の3日目に、細胞を計数し、Ad−MafA(プロトコルB及びE)によって処置し、6ウェル皿のうちの3ウェル上に、最終濃度の100,000細胞/ウェルまで播種した。
実験の6日目に、2mMグルコース(低)または17.5mMグルコース(高)の存在下で、細胞を分泌解析にかけた(図26A〜26C)。KRB中の2mMグルコースまたは17.5mMグルコースを用いた15分間の細胞のインキュベーションに続いて、インスリン分泌を測定した。
結果及び解析
本研究は、分化転換プロセスのための最適なプロトコルを決定することを目的とした。伝統的な階層プロトコル(1+1+1)において、細胞を3つの転写因子で系列的に処置した(1日目にPDX1、2日目にNeuroD1、及び3日目にMafA)。効率的かつ容易なプロトコルを発達させる試みにおいて、伝統的なプロトコルの分化転換効率を、2+1プロトコル及び提示された3つの転写因子全ての同時処置と比較した。
この審査のためのリードアウトアッセイは、インスリン分泌であった。当該分野における知識に従い、効率における差異は、細胞の成熟においてのみ、例えば、C−ペプチド分泌によって測定されるように提示されるはずであるため、全ての処置は、同様レベルのインスリン分泌を提示したはずである。しかしながら、本実験において、インスリン分泌測定によって明らかに見られるように、分化転換効率に予想外の差異が存在した(図26A〜26C)。最良の結果は、2+1プロトコルにおいて得られた。これらの結果は、以下の表7に示されるように、統計的に有意であった。
2+1プロトコル及び階層プロトコルのp値は、有意であるが、比較的高い。3つの因子全てによる同時処置は、2つの播種密度を調べたにもかかわらず最低の結果を提示した(階層プロトコルと比較して有意でない)。
実施例20:ペトリ皿からXPANSIONマルチプレートバイオリアクターへの肝細胞増殖プロセスの産業化
目的
前臨床適用のための細胞皿内のバイオプロセスが開発され、肝細胞増殖の後に、インスリン産生細胞への肝細胞分化転換が続く、2つの主なステップを含んでいた。ヒト臨床治験における患者の処置の場合、患者1人当たり約10億個細胞の用量要件を使用して、1型糖尿病における高血糖を改善することになる。かかる産生規模は、細胞培養皿プロセス(図27上)製造戦略では提供されない大きな培養表面積を必要とする。故に、この研究の目標は、XPANSIONプラットフォーム(バイオリアクターシステム、Pall Corporation,USA)を使用して、細胞ベースの細胞培養皿プロセスを産業化することであった。
材料及び方法
使用される材料を以下に列挙する。
i.生体材料:ヒト成体肝由来細胞(一次培養物)。
ii.成長培地:ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Life Technologiesカタログ番号21885−025)(10%熱不活化胎仔血清(FBS、Life Technologiesカタログ番号10500−064)、1%ペニシリン−ストレプトマイシン−アンフォテリシンB(100X)(Lonzaカタログ番号17−745E)、及び5nM Exendin−4(Sigma−Aldrichカタログ番号E7144で補充)
iii.他の試薬:ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS、Lonzaカタログ番号17−512Q)、及びTrypLE*Select(Life Technologiesカタログ番号12563−029)。
iv.細胞培養サポート:CellBIND*CellStack*2−、5−、及び10−チャンバ(Corningカタログ番号COS−3310、COS−3311、及びCOS−3320)、Xpansion 50プレート(XP−50)バイオリアクター(カタログ番号XPAN050000000)及びXpansion 200プレート(XP−200)バイオリアクター(カタログ番号810155)。
v.Pallの連続遠心分離のための細胞回収キット(アイテム6100043)
vi.遠心分離対照:500mL遠心分離ボウル内の細胞回収システム対照
方法は、図27に提示されるプロセスフローチャートに従う。簡潔に言うと、前培養は、伝統的なマルチトレイ培養として行った。継代14及び15において、細胞をXpansionバイオリアクター(複数可)内で使用した。使用されるバイオリアクターシステムは、汚染の危険性を低減するために閉鎖系である。マルチトレイ培養は、細胞成長対照としてXpansion培養と平行して行った(pHのコントローラー設定点:7.3〜7.6、溶存酸素(DO):50%より上で維持)。目標播種密度は、各継代で4,000細胞/cm2であった。
培養期間は、7〜9日であり、培地交換は2〜4日毎に適用して(XP−50:4、6、及び8日目−XP−200:4及び7日目)、培養物全体で0.5g/Lを超えるグルコースレベルを維持した。
結果
ここに提示される結果は、ペトリ皿からXpansion 200バイオリアクター(Pall Corporation,USA)へのヒト肝由来細胞増殖相の良好なスケールアップを示す。
細胞成長−図28に提示される細胞増幅プロファイルは、細胞が最初の前培養ステップから最終バイオリアクター(XP−200)培養への急激な成長相にあることを明らかに示す。4継代以内に、細胞は、200万個から約18億個へと増幅し、1,000倍のバイオマス増加を表す。したがって、ヒト肝由来一次細胞の大規模産生の実現性が明らかに示され、目標の10億細胞/患者、さらにはXP−200当たりほぼ18億細胞/患者が達成された。
継代1は、CellStack10(CS10)において実行し、継代2は、2×CS10において実行し、継代3は、XP50において実行し、継代4は、XP200において実行した。
集団倍加時間(PDT)比較は、ヒト肝由来一次細胞が、伝統的なマルチトレイシステムよりXpansionバイオリアクターにおいてより速く増殖したことを明らかにした(図29)。採取した細胞密度は、Xpansion 50バイオリアクターにおいて約15,000細胞/cm2、Xpansion 200バイオリアクターにおいて14,000細胞/cm2であり、それらそれぞれのマルチトレイ対象の約160%を表す。より良い培養環境(pH、DO)の制御が、この結果を説明する主な仮説である。
pH、溶存酸素、及びXpansionバイオリアクター内の温度制御傾向(pH及びDO)を、それぞれの予想範囲内で維持した(図30)。DOは、プロセス全体を通して空気飽和の最大50%を維持し、pHは、プロセスの最後の高い細胞数に起因して、各培養の最後の2日間に7.4から7.2へと漸次減少させた。両方の培養中に同様の傾向が観察され、良好な再現性及びスケーラビリティを示す。
Ovizioホログラフ顕微鏡(Ovizio Imaging Systems,Brussels/Belgium)を使用する顕微鏡観察
細胞合流及び形態論は、細胞療法プロセスにおいて監視するための重要なパラメータである。このために、Xpansionバイオリアクター内の上位10プレートの観察を可能にする顕微鏡を使用した。
図31A〜31Dに提示される顕微鏡画像は、Xpansionプレート全体でヒト肝由来一次細胞の均一分布を確認する。細胞合流は、培養の9日後におよそ90%であると決定され、XP−50及びXP−200バイオリアクターの両方において等しいと推定された(図31A及び31B)。50プレート及び200プレートスケールの両方で、Xpansionシステム内の合流は、対照マルチトレイシステムからのものよりわずかに高かった。これらの画像はまた、細胞形態論が、Xpansionシステム内の良好な培養によって、または細胞回収に使用される連続遠心分離によって影響されなかったことを示す。マルチトレイプロセスを使用して成長させた対照細胞を、図31C及び31Dに示す。Xpansionバイオリアクターを使用するヒト肝由来一次細胞増殖が、分化転換特性または分化転換細胞のインスリン分泌プロファイルを変化させなかったことを示した(データ図示せず)。
結論
バイオリアクターを良好に使用して、ヒト成体肝由来細胞増殖プロセスをスケールアップした。本明細書における結果は、バイオリアクタープラットフォームを含むプロセスを使用することによって、細胞が100万個から最大18億個の細胞へと容易に増殖し得ることを示す。このレベルのスケールアップは、潜在的に、糖尿病を標的とする細胞ベース自己療法中の患者への投与に対して18億個の細胞を入手可能にする。これを、細胞皿プロセス、例えば、ペトリ皿を使用して産生されたわずか700万個の細胞と比較する(データ図示せず)。重要なことに、バイオリアクターを使用するプロセスは、細胞の生存性、分化転換の能力、及び細胞のインスリン分泌プロファイルを保存した。
実施例21:糖尿病の治療のための自己インスリン産生(AIP)細胞を産生するためのプロトコル
目的
この研究の目的は、糖尿病の治療のために、非β膵細胞から自己インスリン産生(AIP)細胞を産生するための産業スケールのプロトコルを開発することであった。患者自身の既存の臓器から生成された新たな機能的組織を用いて、機能不全の膵インスリン産生β細胞を機能的に補正することによって、細胞ベース自己療法は、対象における糖尿病を良好に標的とすることができる。
本明細書に提示されるプロトコルは、転写因子誘導型分化転換によってヒト肝由来細胞を機能的インスリン産生細胞に変換することを目的とした分子的及び細胞的アプローチを用いる(図32)。この治療的アプローチは、自己インスリン産生(AIP)細胞を産業規模で生成し、ドナーからの組織入手可能性の不足を克服する。
プロトコルの概要
図33は、本明細書に提供されるプロトコルの概要を提供し、各ステップにおけるおよその細胞数に沿って、生検から6週間の最終産生までのおよその時間を示す。図34は、ヒトインスリン産生細胞産物製造プロセスのフローチャートを提示し、一実施形態において、自己由来または同種異系インスリン産生細胞(AIP)であり得る。詳細を以下に提供する。
肝組織を入手する 図34のステップ1
肝組織は、成体ヒト対象から入手した。入手した全ての肝組織は、Helsinki Committee of the Medical Facilityの承認を得て受領した。したがって、全ての肝組織ドナーは、インフォームドコンセントにサインし、ドナースクリーニング及びドナー試験を行って、感染もしくは悪性疾患の臨床的もしくは身体的証拠、またはその危険因子を有するドナーからの検体が、ヒトインスリン産生細胞の製造から除外されたことを保証した。
肝検体は、有資格の訓練された外科医によって手術室において入手された。約2〜4gのサイズの肝組織の検体を、適格患者から採取し、2〜8℃で滅菌バッグに入ったウィスコンシン大学(UW)溶液中でGMP施設に輸送した。
インビトロ培養/図34のステップ2及び3
製造施設において、肝検体を付着細胞に関して処理した。簡潔に言うと、生検組織を薄いスライスに切断し、I型コラゲナーゼによって20分間37℃で消化した。後次に、単離された単一細胞を得るために、細胞をトリプシンで繰り返し消化した。初期実験は、検体1グラム当たりおよそ0.5×106個の細胞が単離され得ることを示した。
次いで、細胞を、10% FCS、Exendin−4、及び抗生物質の混合(ペニシリン、ストレプトマイシン、及びアンフォテリシンB)で補充した細胞培地中でエクスビボで増幅させた。前処置したフィブロネクチンコーティング組織培養皿を使用して、5%CO2/95%空気の湿潤雰囲気下、37℃で細胞を継代させた(最大20継代)。検体プレーティング後最初の3日間は毎日培地を変えて、非付着細胞を除去し、第1細胞継代後は1週間に2回変えた。第1細胞継代の時点で、少なくとも1分量の細胞を凍結保存した(以下を参照されたい。図34のオプショナルステップ)。
細胞を、所望の数の細胞が生成されるまで(約10〜30億個の細胞、約4〜7週間以内)、トリプシンを使用して1:3で継代した。細胞の増幅には、およそ4週間〜7週間における、実施例20に記載され、図33に示されるマルチプレートシステムの使用が含まれる。(図34のステップ3)
組織培養プレートに付着したヒト肝細胞は、上皮間葉転換(EMT)を経て効率的に増殖した。これらのEMT様細胞のほぼ100%が、既知の間葉的特徴(CD29、CD105、CD90、及びCD73)を示したが、アルブミン及びAAT等の成体肝マーカーも発現した。細胞は、肝芽細胞も「幹細胞性」マーカーも発現しない。以下の表8は、分化転換(TD)前の培養肝細胞上の間葉、造血、及び肝マーカーの存在に関する、これらのEMT様培養肝細胞の解析の結果を示す。
表8に示されるパーセンテージは、低い継代数におけるものである。
継代1細胞の凍結保存(図34)
簡潔に言うと、継代1細胞を、2mL凍結保存バイアル中の10% FBS及び10% DMSOで補充したDMEM中で凍結保存した(最小0.5×106細胞)。できる限り最早の継代で細胞を凍結保存することが推奨される。冷凍細胞を、最初に−70℃で24〜48時間保存し、次いで長期貯蔵のために液体N2に移した。
凍結保存した細胞の解凍(図34)
凍結保存した細胞は、当該技術分野において周知の方法を使用して解凍した。簡潔に言うと、バイアルを液体N2から取り出し、側面は解凍されたが中心が依然として凍結している状態までゆっくり解凍した。細胞を、組織培養プレートに静かに移した。一旦細胞がプレートに付着すると、細胞培養物を増幅させるインビトロ処理(図34のステップ2及び3)を行った。
素因がある肝細胞を選別する(図34)
図34のステップ3におけるオプションは、分化転換の素因がある細胞を富化するために、一次肝細胞を分類することである。例えば、細胞は、本明細書において上記の実施例10〜15に記載される、グルタミン合成酵素応答要素(GSRE)活性化(GS富化細胞)に関して分類され得る。代替として、細胞は、活性Wntシグナル伝達経路を有するために富化され得、それらは、本明細書において上記の実施例17に記載される、Wntシグナル伝達に応答する素因がある。加えて、細胞は、ある特定の遺伝子の発現の増加または減少、例えば、本明細書において上記の実施例16に記載される、ABCB1、1TGA4、ABCB4、もしくはPRNPの発現の減少、またはこれらの任意の組み合わせ、またはHOMER1、LAMP3、BMPR2、ITGA6、DCBLD2、THBS1、もしくはVAMP4の発現の増加、またはこれらの任意の組み合わせを監視することによって富化され得る。細胞集団は、細胞の分化転換への素因を強化するために、実施例23に記載されるように、リチウムで処置され得る。分化転換への素因の強化に続いて、細胞を図34のステップ4で使用した。
分化転換(図34のステップ4)
分化転換の場合、細胞を追加の5日間にわたって分化転換培地中で成長させた。分化転換培地は、10% FCS、Exendin−4、ニコチンアミド、EGF、及び抗生物質の混合(ペニシリン、ストレプトマイシン、及びアンフォテリシンB)で補充したダルベッコ最小必須培地(1g/Lのグルコース)である。
2つの異なるプロトコルを、細胞の分化転換に使用した。階層(1+1+1)系列的プロトコルを使用するか、または2+1プロトコルを使用して細胞を分化転換した。各方法の実施例を以下に提供する。
階層(1+1+1)系列的プロトコル
次いで、エクスビボで増幅した肝細胞に、3血清型−5組み換え複製欠乏アデノウイルスベクターを感染させ、各々が、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下で膵転写因子(pTF)、PDX−1、Neuro−D、またはMafAのうちの1つのヒト遺伝子を運ぶ。3つのヒトpTF遺伝子は、CMVプロモーターの制御下でFGADベクターの同じ骨格に挿入されてきた。CMVプロモーターは、通常は感染後3〜4週間以内に遮断される異種プロモーターである。それにもかかわらず、異所性pTF遺伝子の短期発現は、内在性ヒト相同体を誘導するのに十分であった。
FGADベクターは、発達的再指向を誘導するための差次的遺伝子送達ツールとして選別された。上記実施例は、一次成体ヒト肝細胞のこれらの異所性遺伝子の導入は、成体細胞の再プログラム化の不可逆的プロセスの短期トリガーとして作用する。一方で、組み換えアデノウイルスは、宿主ゲノムに組み込まれず、したがって遺伝子情報の宿主配列を破壊しないため、比較的安全であった。PDX−1は、クロマチン構造において後成的変化を誘導し、故にそうでなければサイレントな遺伝子情報の活性化を許す一方で、発現された遺伝子の宿主レパートリーを遮断する(表8及び10の結果を比較する)。
閉鎖自動Xpansionバイオリアクターシステム(Pall Life Sciences)を使用し、図33に提示されるステップの流れに従って分化転換プロセスを行った。バイオリアクターシステムを、高細胞濃度に適した条件下で、細胞培養物の養成に使用した。バイオリアクターシステムは、2つの主なシステム、制御システム及びバイオリアクター自体(容器及び付属品)で構成された。
プロセスのパラメータを監視し、プローブ用コネクター、モーター及びポンプ、溶存酸素(DO)、pH、ガス制御システム、及び温度制御のためのインキュベーター内の場所を含む、制御コンソールによって制御された。制御されたプロセスパラメータ(温度、pH、DO等)は、オペレーターインターフェース上に表示され、指定されたコントローラーによって監視され得る。
バイオリアクター内の細胞培養成長手順
250±50×106細胞を、無菌XP−200バイオリアクター内に播種した。バイオリアクター内の成長培地を、以下の条件、37℃、70%溶存酸素(DO)、及びpH7.3で保持した。DO値を70%及びpH値を7.3で保持するために、フィルター処理したガス(空気、CO2、N2及びO2)を、制御システムによって決定されるように供給した。培地グルコース濃度が500mg/Lを下回って減少したとき、成長培地を変えた。培地は、無菌シリコーン管を使用して供給容器からバイオリアクターに圧送した。全ての管接続は、無菌コネクターを提供する管溶接器により行った。グルコース、乳酸塩、グルタミン、グルタミン酸塩、及びアンモニウム濃度の決定のために、成長培地の試料を、1〜2日毎に採取した。細胞培養物のグルコース消費速度及び乳酸塩形成速度は、細胞成長速度を測定するのを可能にした。これらのパラメータを使用し、蓄積された実験データに基づいて採取時間を決定した。
バイオリアクターからの細胞の採取
細胞採取プロセスは、成長相の最後(8〜16日)に開始した。培養物を、クラス−100層領域内で以下のように採取した。
重力を使用し、配管を介して、バイオリアクター容器の中身を廃物容器に移した。次いで、バイオリアクター容器を22Lの予熱したPBS(37℃)で再充填した。配管を介し、圧力または重力によって、PBSを廃物瓶に排出した。洗浄手順を2回繰り返した。
細胞を表面から離すために、22Lの37℃に予熱したトリプシン−EDTA(トリプシン0.25%、EDTA1mM)をバイオリアクター容器に付加した。500mL FBSをバイオリアクター容器に付加し、細胞懸濁液を無菌容器に収集した。細胞懸濁液を遠心分離し(600RPM、10分、4℃)、培養培地中に再懸濁した。
階層(1+1+1)ウイルス感染ステップ
異所性導入遺伝子を、3日連続で組み換えアデノウイルスにより系列的に投与した。異所性遺伝子の系列的投与は、分化転換効率を増加させると共に、具体的にβ細胞系統及び機能に沿って、細胞の成熟を増加させることが記録されてきた。
分化転換手順は、およそ7日を要し、その最後に、細胞を洗浄して組み込まれなかった組み換えアデノウイルスを除去した。簡潔に言うと、
1日目に、再懸濁した細胞に、1,000のMOIを使用して、PDX−1アデノウイルスベクターを感染させた。次いで、培養皿の上に播種された細胞を、5% CO2を供給した過失した37℃インキュベーター内で終夜インキュベートする。
2日目に、細胞を、トリプシンを使用して培養皿から取り出し、再懸濁した。再懸濁した細胞に、250のMOIを使用して、NeuroD1アデノウイルスベクターに感染させた。次いで、培養皿の上に播種された細胞を、5% CO2が供給された加湿した37℃インキュベーター内で終夜インキュベートする。
3日目に、細胞を、トリプシンを使用して培養皿から取り出し、再懸濁した。再懸濁した細胞に、50のMOIを使用して、MafAアデノウイルスベクターを感染させた。次いで、培養皿の上に播種された細胞を、5% CO2が供給された加湿した37℃インキュベーター内で3日間インキュベートする。
次いで、細胞を回収し、マーカー及びグルコース調節処理されたインスリン分泌について解析した。対照細胞は、同じプロトコルに従うが、アデノウイルスを付加しないで増殖及びインキュベートされたものを含んでいた。
材料及び実験方法
膜マーカー−細胞のFACS解析は、以下のようにモノクローナル抗体で染色した。400,000〜600,000個の細胞を、5mLの試験管内の0.1mLフローサイトメーター緩衝液中に懸濁し、暗所、室温(RT)で15分間、以下のものクローナル抗体(MAb)の各々を用いてインキュベートした。
AIP細胞を採取する(図34のステップ5)次いで、細胞をフローサイトメーター緩衝液で2回洗浄し、再懸濁して、FC−500フローサイトメーター(Beckman Coulter)を使用するフローサイトメトリーによって解析した。陰性対照を、関連アイソタイプ蛍光分子で調製した。
パッケージ化及び発送
製造の最後に、AIP細胞は、出荷用にパッケージ化され、製造場所において発送されることになる。AIP細胞を2〜8℃で病院に出荷することが計画されている。
階層(1+1+1)プロトコルの結果
細胞のアデノウイルス感染は、導入遺伝子の一時発現をもたらし、これが内在性遺伝子の永続的誘導を誘起し、AIP細胞への安定した分化転換をもたらす(データ図示せず)。結果として、最終産物におけるウイルスDNAの修飾または挿入はなかった。
採取したAIP細胞の解析(図34のステップ6)
間葉、造血、及び肝マーカーの存在に関する分化転換肝細胞(AIP細胞)の解析を、表10に提示する。陰性マーカーには、造血マーカーが含まれる。
Xpansionバイオリアクターにおいて異なる患者試料にわたって変動性が認められたが、全ての例において、採取した細胞の細胞密度は、出発培養物と比較して大幅に増加した(図35)。
採取したAIP細胞産物を解析して、多数のマーカーの発現を特定した。識別は、RT−PCR及びFACSによるものであった。以下の表11及び12に提示される結果は、PDX−1、NeuroD、MafA、Pax4、Nkx6.1、及びインスリンを含むβ−細胞膵マーカー遺伝子の内在性発現の倍数増加を示す。
図36A及び36Bに提示される棒グラフは、階層プロトコルの使用に続いて得られた典型的な結果を示す。分化転換肝細胞(AIP細胞)と、膵細胞及び非分化転換肝細胞の対照集団との比較が提示され、AIP細胞が、対照と比較して膵細胞マーカーの著しい増加を示すことがわかる。
AIP細胞の機能の肝臓対膵臓表現型に関する細胞のさらなる特徴付けの結果を、以下の表13に提示する。膵細胞マーカーの増加と複合されたPDX−1細胞中の肝マーカーの著しい減少は、肝細胞の、膵β細胞表現型及び機能を有する細胞への良好な変換を示す。
採取したAIP細胞の集団内の死細胞に関する解析は、細胞の20%未満が死亡したことを示した(データ図示せず)。
採取したAIP細胞産物は、インスリンの機能分泌についても解析した。図37は、AIP細胞産物能力を示す(ELISAを使用して測定される、インスリンのグルコース調節分泌)。試験したAIP細胞産物は、XP−200バイオリアクター内で増幅されていた分化転換細胞集団を表す。GSISによってインスリン分泌を測定した(KRB+0.1% BSA RIAグレードまたは組み換えBSAによる、低(2mM)及び高(17.5mM)グルコース濃度でのグルコース刺激インスリン分泌)。1時間当たりの細胞100万個当たりのngインスリンとして結果を提示し、AIP細胞の応答の著しい増加を示す。
2+1分化転換(TD)プロトコル
図38は、Xpansionバイオリアクターシステムならびにプロセス対照を使用する、「2+1」TDプロトコルを提示する。マルチシステムバイオリアクターと複合した「2+1」TDプロトコルを使用することの結果は、このプロトコルの実現性を示し、AIP産物細胞を効率的に産生した。第1の感染は、2つのアデノウイルスベクター(1つはPDX−1をコードする核酸を含み、もう1つはNeuroD1をコードする核酸を含む)上のPDX−1及びNeuroD1ポリペプチドをコードした核酸を含むアデノウイルスベクターのいずれかを使用して3日目に行った。PDX−1の場合、MOIは1:1,000であり、NeuroD1の場合、1:250であった。次いで、細胞を3日間インキュベートし、MafA(1:50 MOI)をコードする核酸を含むアデノウイルスベクターを使用して、6日目に第2の感染を行った。2日後の8日目に細胞を採取し、階層(1+1+1)プロトコルを使用した場合の上記と同様に、品質管理マーカーについてスクリーニングした。
第2の感染時(6日目)の細胞培養物の観察は、使用した条件から独立して同様の合流を示した(図39及び40A〜40B)。最終採取の時点で、CTL(対照)条件下で処理された細胞は、他の条件よりわずかに高い合流を提示した(図41)。細胞密度の差異は、主に異なる播種密度、細胞回収率、及び感染後の致死率に起因していた。
採取された細胞のインスリン含有量をアッセイし、図42に提示される結果は、未処置の対照と比較して(PDX−1、NeuroD1、及びMafAをコードする核酸を含むウイルスベクターに感染していない)、試験した3つの2+1プロトコル全てにおいて分化転換した細胞について、増加したインスリン含有量(マイクロインターナショナル単位/100万細胞)を示す。提示されたプロセス対照条件は、未処置細胞より著しく高いインスリン含有量(約2.5倍高い)をもたらす傾向を予想した。Xpansion対照条件はまた、処置細胞が、未処置の細胞より著しく高いインスリン含有量(約1.7倍高い)を提示するという予想傾向を提示した。Xpansion 10システムにおいて分化転換した細胞は、Xpansion対照条件の処置細胞と同様のインスリン含有量を提示した(未処置の対照より約1.7倍高い)。
「2+1」分化転換プロトコルの使用は、未処置肝細胞より著しく高いインスリン含有量を有するAIP細胞産物を産生することにおいて効率的であった(ステップ数及び細胞喪失の機会を低減した)。
純度アッセイ
純度アッセイを開発して、増幅及び分化転換ステップ中の細胞の90%超が、間葉系幹細胞(MSC)様表現型を有することを保証した(上記の方法を参照されたい)。これらの純度アッセイは、分化転換に使用されるプロトコルから独立して使用した。養成したMSCは、CD73、CD90、CD105、及びCD44に関して陽性染色するはずである。加えて、MSCは、CD45、CD34、CD14、またはCD11b、CD19、またはCD79#、及びHLA−DR表面分子について陰性であるはずである。以前の結果(図44A及び44B)は、MSCマーカーが、経時的、及び肝細胞の分化転換中に安定していたことを示した。AIP細胞のMSC様表現型を示す結果を、表6及び7に提示する。フローサイトメトリー及び免疫蛍光アッセイの両方を使用して、これらのパラメータを調べた。
実施例22:消化方法の解析
目的
この研究の目的は、異なる消化方法が、肝細胞がアデノウイルスによって形質導入される能力に影響しないことを検証することであった。
方法
簡潔に言うと、肝細胞に、Ad.CMV.GFPを感染させ、GFPの発現を96時間後に測定した。肝細胞に、10、100、及び500moiのAd5.CMV.GFPウイルスを形質導入するか、または未処置のまま放置した。96時間後に、GFP発現を蛍光顕微鏡によって(図45A、図46A)、及びFACSによって(図45B〜45C、図46B〜46C)測定した。
結果
図45A〜45Cは、Serva及びWorthingtonコラゲナーゼによる肝臓の消化に由来する、BP001細胞の形質導入の効率を示す。形質導入細胞のパーセンテージは同様であったが、Servaコラゲナーゼで消化された肝臓は、GFP蛍光強度によって示されるように、Worthingtonコラゲナーゼで消化された肝臓より多くのGFPを産生した(図45B及び45C)。同様に、TS001細胞の形質導入効率は、Servaコラゲナーゼによって影響されなかった(図46A〜46C)。
実施例23:分化転換前のWNT処置は、分化転換能力を改善する
目的
この研究の目的は、細胞集団内の分化転換能力を改善することであった。
実施例17において上述されるように、活性WNTシグナル伝達は、eGFP+素因がある集団を特徴付けた。上記の実験は、WNTシグナル伝達の誘導が、分化転換転写因子と共に適用されたときに分化転換効率を改善したことを示したが、eGFP+内の既存のWNTシグナル伝達が、それらの分化運命を再指向する能力の増加と関連するかどうかを示さなかった。
方法
WNTシグナル伝達が分化転換の能力を細胞に付与するかどうかを試験するために、eGFP+細胞を、10mMリチウム(Li)で、分化転換因子の付加前に48時間処置した。次いで、膵転写因子を付加したときにリチウムを培地から除去した。
結果
分化転換時に、Liで前処置した細胞は、インスリン分泌の増加(図48A)、ならびに膵遺伝子の発現(図48B)を示し、WNTシグナル伝達が、「内蔵型」シグナル経路であり、細胞が効率的な分化転換を受けるのを可能にすることを示す。興味深いことに、内在性PDX−1発現レベルは、Li前処置によって上方調節されず(図48C)、後期WNTシグナルが安定した膵レパートリーに必須であることを示唆する。
本明細書に開示される、ある特定の特徴が本明細書において例証及び説明されてきたが、ここで多くの修正、置換、変更、及び同等物が当業者に想到されるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲が、かかる修正及び変更の全てを網羅し、本明細書に開示される真の趣旨に含まれるものとして意図されることを理解されたい。