JP6806304B2 - 被覆冷間用金型 - Google Patents

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本発明は、金型の基材に物理蒸着法等により成膜した硬質皮膜について、耐クラック性と耐剥離性を向上させることにより耐摩耗性を向上させて、金型寿命が格段に改善された冷間用金型に関するものである。
従来から、超硬合金、高速度工具鋼等の金属を基材とする切削工具や、プレス、鍛造用金型、打ち抜きパンチ等の塑性加工用の治工具において、耐摩耗性を向上させることを目的として、物理蒸着法や化学蒸着法によって、治工具の表面に所定の組成を有する硬質皮膜を被覆することが行われている。特に、切削工具では、その切れ刃部の表面にTiAlCrN、TiAlCrSiN、TiSiN等の硬質皮膜を被覆(形成)することが広く実用化されている。
例えば、特許文献1(特開2003−71610号公報)には、高速・高能率切削が可能で耐摩耗性に優れた切削工具用の硬質皮膜であって、組成が(Ti、Al、Cr)(C1−d)で表される式からなり、0.02≦a≦0.30、0.55≦b≦0.765、0.06≦c、a+b+c=1、0.5≦d≦1(a、b、cはそれぞれTi、Al、Crの原子比を示し、dはNの原子比を示す。)とした硬質皮膜に関する発明が提案されている。この特許文献1に記載されている切削工具用の硬質皮膜は、従来から実施されているTiAlNからなる皮膜にCrを添加することによって皮膜の硬度および耐酸化性を向上させ、その結果として耐摩耗性を飛躍的に向上させたものである。また、特許文献1に記載されている硬質皮膜は、相互に異なる硬質皮膜を2層以上形成することも提案されている。
特許文献2(特開2000−334606号公報)には、従来から実施されているTiAlN皮膜に対して耐酸化性、耐摩耗性を改善するために、硬質皮膜をTiSi系窒化物などからなるa層と、TiAl系窒化物などからなるb層を、それぞれ一層以上交互に被覆するとともに、b層の皮膜を母材の表面直上に形成した硬質皮膜被覆工具が提案されている。
具体的には、切削加工の乾式化、高速化に対応する硬質皮膜被覆工具として、高速度鋼、超硬合金、サーメット、セラミックスの何れかを母材とし、硬質皮膜のa層は、金属成分のみの原子%で、Siが10%以上60%以下、B、Al、V、Cr、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wの1種または2種以上で10%未満、残りTiで構成される窒化物、炭窒化物、酸窒化物、酸炭窒化物のいずれかで、SiおよびSiが独立した相として化合物中に存在し、b層は金属成分のみの原子%が、Al:40%越え75%以下、B、Si、V、Cr、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wの1種または2種以上で10%未満、残りTiで構成される窒化物、炭窒化物、酸窒化物、酸炭窒化物のいずれかであり、a層、b層がそれぞれ一層以上交互に被覆され、かつ、b層が母材表面直上に形成されている硬質皮膜被覆工具である。
特許文献3(特開2006−299399号公報)には切削工具や金型等に被覆する硬質皮膜において、Al及びCrを必須成分とした硬質皮膜を優れた耐熱性並びに潤滑特性を有した状態で高硬度化して、硬質皮膜被覆部材の耐摩耗性を改善した硬質皮膜が提案されている。
特許文献3に記載の硬質皮膜被覆部材は、基体表面から、最下層、中間積層部、最上層からなる硬質皮膜から構成されている。そして、この最下層はAlを50原子%以上含有し、残部がTi、Cr,Siから選択される1種もしくは2種以上の窒化物主体の硬質皮膜からなり、中間積層部は金属成分の組成が(AlCrTiSi)、但し、組成は原子%で、W+X+Y+Z=100、の窒化物、ホウ化物、炭化物及び酸化物の何れか又はそれらの固溶体又は混合物からなるA層とB層とが、A層は70<W+X<100、B層は30<Y<100で層厚方向に交互に積層され、さらに、最上層はTi又はTiとSiの窒化物、炭化物、硫化物、硼化物の何れか又はそれらの固溶体又は混合物から構成された硬質皮膜であって、潤滑性と皮膜硬度を向上させるための皮膜とされている。
特許文献4(特開2009−61465号公報)には、冷間鍛造用金型の表面に形成された硬質被膜の摩耗や剥離を防止することにより、冷間鍛造用金型により鍛造される成形品のかじりを抑制できる冷間鍛造用金型が提案されている。特許文献4に記載の硬質被膜の特徴は、金型意匠面に4A族(Ti,Zr,Hf)、5A族(V,Nb,Ta)、6A族(Cr,Mo,W)金属の一種又は二種以上を含む炭化物、窒化物若しくは炭窒化物、及び、4A族(Ti,Zr,Hf)、5A族(V,Nb,Ta)、6A族(Cr,Mo,W)金属の一種又は二種以上とSi及びAlの一種又は二種とを含む窒化物からなる群から選ばれる一種又は二種以上からなる単層又は多層の被膜を備えている。さらに、この冷間鍛造用金型に形成した被膜は、表面粗さRaがいずれの方向から測定しても0.05μm以上0.50μm以下にすることにより、潤滑材の保持力を向上させるようにしている。
特開2003−71610号公報 特開2000−334606号公報 特開2006−299399号公報 特開2009−61465号公報
特許文献1には、切削工具用の硬質皮膜であってその組成が(Ti、Al、Cr)(C1−d)で表され、この組成に含まれる元素の原子比を規定することにより硬質皮膜の耐摩耗性と耐酸化性を向上させることを特徴としているが、硬質皮膜としてTiとSiの窒化物又は炭化物を含む皮膜を形成すること、特に最上(表面)層の皮膜としてTiとSiの窒化物又は炭化物を含む皮膜を形成することについては開示されていない。
特許文献2には、切削工具に被覆する硬質皮膜をTiSi系窒化物などからなるa層と、TiAl系窒化物などからb層を、それぞれ一層以上交互に被覆し、さらにb層が母材の表面直上に形成された硬質皮膜である。
特許文献1及び特許文献2に開示されている硬質皮膜は、いずれもその組成に含まれる元素の原子比を規定することにより硬質皮膜の耐摩耗性と耐酸化性を向上させているが、その用途は切削工具用の硬質皮膜である。
切削工具に対して、過酷な環境で使用される冷間用金型は、塑性加工を行うときに、閉鎖域で、しかも高速(毎分50ショット以上)で金型の基材(母材)に引張応力と圧縮応力が繰り返して与えられる。このため、冷間用金型は切削工具や他用途の金型に比べて、金型表面に微細なクラックが発生し易い。また、冷間の塑性加工時に金型表面に作用する応力分布は、切削工具の切れ刃エッジに作用する応力に比べても格段に高く、しかも、冷間用金型の基材は切削工具に使用される基材(例えば超硬合金、ハイス、ダイス鋼等)の硬度よりも低く弾性変形し易い。
また、冷間用金型に形成する硬質皮膜において、硬度の高いSiを含有した硬質皮膜を被覆した場合、冷間用金型は上記したように過酷な環境で使用されるために切削工具に比べてこの硬質皮膜は剥離し易い。そのため、金型表面に成膜した硬質皮膜は、その特性のうち、特に繰返し応力を受けた時の耐クラック性や耐摩耗性に加えて、硬度の高い硬質皮膜が塑性加工時に剥離しないこと、つまり耐剥離性が特に強く要求されている。
特許文献3に開示されている硬質皮膜被覆部材は切削工具、金型、軸受け、ダイス、ロールなど高硬度が要求される耐摩耗工具等に被覆して耐摩耗性を向上させるために、基体表面から、最下層、中間積層部、最上層の3層を形成した硬質皮膜を備えている。さらに、中間積層部をAl、Cr、Ti、Siを必須成分とした積層構造とし、最上層をTi又はTiとSiの窒化物、炭化物、硫化物、硼化物の何れか又はそれらの固溶体又は混合物とした硬質皮膜被覆部材である。
しかしながら、特許文献3には特許文献1及び2と同様に、基材の表面に生じる微細なクラックの発生を防止するための硬質皮膜の構成などについては開示されていない。特に、特許文献3に記載されている硬質皮膜被覆部材を冷間用金型に適用した場合には、Siを含有した中間積層部は脆くなるため、最上層であるTi又はTiとSiの窒化物を含む硬質皮膜はその耐剥離性を十分に発揮することができなくなる。その結果、特許文献3に開示されている硬質皮膜被覆部材を冷間用金型に適用すると冷間用金型の耐久性(金型寿命)向上が不十分になると考えられる。
特許文献4には、冷間鍛造用金型の表面に被覆した硬質皮膜の摩耗や剥離を防止させるために、所定の元素の炭化物又は窒化物からなる単層又は多層の硬質皮膜が提案されているが、硬質皮膜の元素と面粗度を規定するものであって、硬質皮膜を積層構造にすることについては開示されていない。さらに、冷間鍛造用金型の表面に微細なクラックの発生を防止するための手段や硬質皮膜の耐剥離性の向上に対する対策は開示されていない。
本発明の発明者は、冷間用金型の耐久性を改善するために、冷間用金型の表面に被覆する硬質皮膜(以下、硬質皮膜層と記載する)の耐剥離性と耐クラック性の向上について鋭意研究した。その結果、冷間用金型は切削工具に比べて面圧が高い塑性加工で使用されるため、硬質皮膜層の特性の中でも特に靱性と耐剥離性が要求される。前記した特許文献に記載されている切削工具などの耐久性を改善した硬質皮膜層では、冷間用金型の耐久性を向上させることができないことが明らかとなった。
冷間用金型に被覆した硬質皮膜層の靱性と耐剥離性を向上させるためには、硬質皮膜層の組成、および硬質皮膜層の構成、特に、この硬質被膜層の基本構成として硬質被膜層を2種の皮膜層から形成するとともに、これら2種の皮膜層(硬質被膜層)を基材の表面に形成して配置する順序、所定の皮膜層を多層構造、又は積層構造にすることが重要であることを各種の試作実験により見出した。
そして、各種の試作実験の結果、冷間用金型に被覆する硬質皮膜層の耐剥離性と耐クラック性の双方を向上させるためには、基材の表面に被覆する硬質皮膜層の組成の基本構成はTi、Cr、Al、Siの窒化物又は炭窒化物からなる硬質皮膜層とするとともに、この硬質皮膜層は、Ti、Cr、Alの窒化物又は炭窒化物からなる硬質皮膜層(下部皮膜層)と、Ti、Siの窒化物又は炭窒化物からなる硬質皮膜層(表面皮膜層)の2種から構成し、さらに、下部皮膜層は表面皮膜層よりも基材の表面側に成膜して形成した構成にすることにより、硬質皮膜層の靱性と耐剥離性を格段に向上させることが可能になることを見出した。
本発明はこのような従来技術の不具合に鑑みてなされたものであって、その目的は、切削工具に比べて面圧の高い塑性加工で使用される冷間用金型について、耐久性(金型寿命)を向上させることにある。特に、本発明は、硬度が高く耐摩耗性に優れた硬質皮膜層について、金型基材からの耐剥離性と耐クラック性を向上させた硬質皮膜層を被覆した被覆冷間用金型とすることにより、金型寿命を格段に向上させた被覆冷間用金型を提供することにある。
本発明の請求項1に記載の発明は、基材の表面に、Ti、Cr、Al、Siの窒化物又は炭窒化物からなる硬質皮膜層を被覆した被覆冷間用金型であって、
前記硬質皮膜層は、Ti、Cr、Alの窒化物又は炭窒化物からなる下部皮膜層と、Ti、Siの窒化物又は炭窒化物からなる表面皮膜層を備え前記下部皮膜層は、前記表面皮膜層よりも前記基材の表面側に成膜されている被覆冷間用金型において、
前記下部皮膜層は、その組成が一般式:TiaCrbAlc(CuNv)(ただし、a、b、c、u、vは、それぞれTi、Cr、Al、C、Nの原子比を示す)で表され、
前記a、b、c、u、vは下記の条件:
0<a≦0.6、
0<b≦0.3、
0.3<c<0.7、
0≦u≦0.5、
0<v≦1、
a+b+c=1、
u+v=1、を満たしているとともに、
前記下部皮膜層は、前記基材の表面側から前記表面皮膜層側に向けて、順次、Ti、Cr 、Al、の原子比が異なる皮膜層を少なくとも2層以上有する多層構造をなしていることを特徴としている。
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の被覆冷間用金型において前記多 層構造は、前記基材の表面側から前記表面皮膜層側に向けて、順次、第1層、第2層、第 3層からなる3つの皮膜層から構成されており、
前記第1層のTi、Cr、Alの原子比を、それぞれa1、b1、c1、
前記第2層のTi、Cr、Alの原子比を、それぞれa2、b2、c2、
前記第3層のTi、Cr、Alの原子比を、それぞれa3、b3、c3、としたときに、 前記Ti、Cr、Alの原子比は、
a1>a2>a3、
b3>b2>b1、
c3>c2>c1
を満たしていることを特徴としている。
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の被覆冷間用金型において前記多 層構造をなす前記第2層は、D層とF層からなる皮膜層を交互に積層した積層構造をなし
前記D層及び前記F層は、0.02μm未満の膜厚を有しているとともに、
前記D層のTiの原子比をa(D)、前記F層のTiの原子比をa(F)、としたときに
a(D)>a(F)
を満たしていることを特徴としている。
本発明の請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の被覆冷間用金型において、前記D 層の膜厚は、前記F層の膜厚と同じ、もしくは、前記F層の膜厚よりも厚くなるように成 膜されていることを特徴としている。
本発明の被覆冷間用金型に形成した硬質皮膜層は、冷間用金型の基材に被覆され、Ti、Cr、Alの窒化物又は炭窒化物からなる下部皮膜層と、この下部皮膜層の上に被覆され、Ti、Siの窒化物又は炭窒化物からなる表面皮膜層から構成したことにより、硬質皮膜層の耐剥離性と耐クラック性を格段に向上させることが可能になる。これにより、金型寿命を著しく向上させた冷間用金型を提供することができる。
さらに、本発明は、下部皮膜層を多層構造、あるいはこの多層構造のうちの特定の皮膜層(第2層)を、2つの皮膜層を交互に積層した積層構造とすることにより、靱性、耐剥離性、及び耐摩耗性を格段に向上させて、金型寿命をさらに一段と向上させた冷間用金型を提供することが可能になる。
本発明の被覆冷間用金型について、硬質皮膜層の第1の実施形態の構成を説明するための断面模式図である。 本発明の被覆冷間用金型について、硬質皮膜層の第2の実施形態の構成を説明するための断面模式図である。 本発明の被覆冷間用金型について、硬質皮膜層の第3の実施形態の構成を説明するための断面模式図である。 本発明の被覆冷間用金型の一例となるパンチの構成を説明するための平面図である。 図4に示すパンチについて、先端部の構成を説明するための一部拡大平面図である。 本発明の被覆冷間用金型の一例となるダイスの構成を説明するための断面図である。 硬質皮膜層を成膜するための成膜装置の構成を説明するための図である。 本発明の被覆冷間用金型を用いた冷間鍛造装置により、被加工物に対して後方押し出し成形による塑性加工を行う手順を説明するための図であって、(a)はパンチ、ダイスにより塑性加工を実施する前の状態を示し、(b)は塑性加工を開始したときの状態を示し、(c)は被加工物に塑性加工を実施しているときの状態を示す。 図7に示す成膜装置において、ダイスを構成するニブに硬質皮膜層を成膜するときに、ニブを成膜装置の基材ステージに取付ける位置についてその一例を示す図である。
以下、本発明の被覆冷間用金型の構成、特にこの金型に被覆する硬質皮膜層の構成とその特徴を図面に基づいて説明する。図1〜図3は本発明の被覆冷間用金型の基材に硬質皮膜層を被覆したときに、この硬質皮膜層の構成を説明するための図であって、図1は硬質皮膜層の基本構成(第1の実施形態)を示す断面図、図2は同じく硬質皮膜層の第2の実施形態を示す断面図、図3は同じく第3の実施形態を示す断面図である。
[硬質皮膜層の基本構成(第1の実施形態)]
図1は、本発明に係る被覆冷間用金型1について、その基材2に被覆した硬質皮膜層3の基本構成(第1の実施形態)を示す部分断面図である。以下の説明において冷間用金型1の基材(「母材」と呼ぶ場合もある)2のことを単に「基材2」と記載して説明する。また、本発明の被覆冷間用金型1のことを「冷間用金型1」と記載する場合もある。
基材2は、冷間で各種の金属に対して塑性加工を行うための金型であって、各種の成形用金型を示す。本発明が適用できる各種の冷間用金型としては、前方押出し成形用金型、据込み加工用金型、打ち抜き加工用金型、圧印加工用金型、各種のプレス成型用金型等に用いるパンチやダイス等を挙げることができる。
基材2の材質としては、超硬合金、金属炭化物を有する鉄基合金、高速度工具鋼、セラミックス、等を用いることができるが、これらに限定されるものではなく、治工具等の部材に適用できるものであれば、いかなる材質でもよい。本発明の被覆冷間用金型1の基材2の材質としてはCrを含有する超硬合金であって、WC(炭化タングステン)の平均粒度が0.8〜3μm、Co含有量が6〜25重量%からなる基材が特に好適であり、切削工具に適用される超硬合金よりもWCの平均粒度も大きく、Co含有量も多くなっている。
図1に示す第1の実施形態においては、硬質皮膜層3は基材2の表面に被覆された下部皮膜層4と、この下部皮膜層4の上に被覆された表面皮膜層5から構成されている。下部皮膜層4はTi、Cr、Alの窒化物又は炭窒化物からなる皮膜層から構成され、表面皮膜層5はTi、Siの窒化物又は炭窒化物からなる皮膜層から構成されている。
このように、本発明の被覆冷間用金型1は、基材2の表面に被覆(成膜又は形成)された硬質皮膜層3として、Ti、Cr、Alの窒化物又は炭窒化物からなる下部皮膜層4と、Ti、Siの窒化物又は炭窒化物からなる表面皮膜層5とを備え、下部皮膜層4は表面皮膜層5よりも基材2の表面側に成膜されているとともに、表面皮膜層5の直下に下部皮膜層4が成膜されていることを基本構成としている。図1においては、下部皮膜層4は基材2の表面の直上に成膜している例を示しているが、基材2の表面と下部皮膜層4との間に他の皮膜層、例えば、Ti、Cr、Alから選択される1種以上の窒化物又は炭窒化物を含む皮膜層を成膜してもよい。
なお、上記した「下部皮膜層4はTi、Cr、Alの窒化物又は炭窒化物からなる」とは、下部皮膜層4はTiとCr及びAlの窒化物、又はTiとCr及びAlの炭窒化物からなる皮膜層から構成される場合と、Ti、Cr、Alの窒化物又は炭窒化物であって、これら3種の元素の窒化物と炭窒化物のうち、Ti、Cr、Alを含む3種の窒化物や炭窒化物からなる皮膜層から構成される場合を含む。
同様に、「表面皮膜層5はTi、Siの窒化物又は炭窒化物からなる」とは、表面皮膜層5はTiとSiの窒化物、又はTiとSiの炭窒化物からなる皮膜層から構成される場合と、Ti、Siの窒化物又は炭窒化物であって、これら2種の元素の窒化物と炭窒化物のうち、Ti、Siを含む2種の窒化物や炭窒化物からなる皮膜層から構成される場合を含む。
Ti、Siの窒化物又は炭窒化物からなる表面皮膜層5は硬度は高いが、特に冷間用金型に適用される基材(母材)上では靱性および耐剥離性に乏しい欠点を有する。この欠点を改善するためには、表面皮膜層5の直下に、Ti、Cr、Alの窒化物又は炭窒化物からなる下部皮膜層4を形成することが重要であることが各種の試作実験により明らかになった。本発明は、このような技術思想に基づいて各種の試作実験を行った結果得られたものである。
本発明において、Ti、Cr、Alの窒化物又は炭窒化物からなる下部皮膜層4は、表面皮膜層5の耐剥離性と耐クラック性を同時に向上させ、表面皮膜層5の効果を最大限に発揮する作用を行うことができる。また、Ti、Cr、Alの窒化物又は炭窒化物からなる下部皮膜層4は、被覆冷間用金型1の耐摩耗性向上にも欠かせない硬質皮膜層になる。本発明の被覆冷間用金型1は、上記した下部皮膜層4と表面皮膜層5とを組み合わせた構成、すなわち、表面皮膜層5の直下に下部皮膜層4を形成した構成にすることにより、被覆冷間用金型1の耐久性(金型寿命)を向上させることができたのである。さらに、後記するように、下部皮膜層4を多層構造あるいは積層構造を有する皮膜層で構成することにより、被覆冷間用金型1の耐久性を格段に向上させることができたのである。
続いて、Ti、Cr、Alの窒化物又は炭窒化物からなる下部皮膜層4の組成について説明する。
下部皮膜層4の組成は、一般式:TiCrAl(C)(ただし、a、b、c、u、vはそれぞれ、Ti、Cr、Al、C、Nの原子比を示す)で表され、前記a、b、c、u、v(a+b+c=1、u+v=1)は下記の条件を満たすことが好ましい。
0<a≦0.6、
0<b≦0.3、
0.3<c<0.7、
0≦u≦0.5、
0<v≦1、
a+b+c=1、
u+v=1。
上記した下部皮膜層4の組成の一般式において、原子比a、b、c、u、v(a+b+c=1、u+v=1)を、上記条件を満たすように設定することが好ましい理由を説明すると次のようになる。
Tiの原子比aを0<a≦0.6の範囲に設定することが好ましい理由は、下部皮膜層4がTiを含有しない場合、下部皮膜層4と基材2との十分な密着性が得られないばかりではなく、下部皮膜層4の耐摩耗性が低下することに加え、硬度と弾性係数が低くなり、表面皮膜層5との強度(硬度と弾性係数)差が大きくなり過ぎてしまい、表面皮膜層5の耐剥離性と耐クラック性が低下する。一方、Tiの原子比が0.6を超えると、下部皮膜層4の耐熱性、硬度、靱性が低下することで耐摩耗性が劣化し、また弾性係数が高くなる傾向になり、その結果として、表面皮膜層5の耐剥離性と耐クラック性が低下するからである。
Crの原子比bを0<b≦0.3の範囲に設定することが好ましい理由は次の通りである。Crを含有しない場合、下部皮膜層4の基材2との十分な密着性が得られないばかりではなく、下部皮膜層4の靱性が低下、また弾性係数が高くなり、さらに結晶粒が粗大化する傾向にあり、その結果、表面皮膜層5との強度と結晶粒の連続性が低下するため、表面皮膜層5の耐剥離性と耐クラック性が低下する。一方、Crの原子比bが0.3を超えると、下部皮膜層4の硬度と弾性係数が急激に低下する傾向になり、下部皮膜層4の耐摩耗性が低下することに加え、表面皮膜層5との強度(硬度と弾性係数)差が大きくなり過ぎてしまい、表面皮膜層5の耐剥離性と耐クラック性が低下する場合がある。
Alの原子比cを0.3<c<0.7の範囲に設定することが好ましい理由は、Alの原子比cが0.3以下の場合、下部皮膜層4の耐熱性と硬度が低下することで耐摩耗性が低下し、さらに結晶粒が粗大化することで、表面皮膜層5との密着性が低下し、耐剥離性が低下する場合がある。一方、Alの原子比cが0.7以上になると、下部皮膜層4の結晶粒が微細化する傾向になり、硬度が著しく低下し、表面皮膜層5との強度(硬度と弾性係数)差が大きくなり過ぎてしまい、その結果として、表面皮膜層5の耐剥離性と耐クラック性が低下するからである。
Cの原子比uを0≦u≦0.5の範囲に設定することが好ましい理由は次の通りである。硬質皮膜にCを含有させると、下部皮膜層4の組織が微細化して、下部皮膜層4を高硬度化することができる。さらに、下部皮膜層4の摩擦係数の低下に貢献し、耐付着性を向上させることができ、その結果として、下部皮膜層4の耐摩耗性が向上する。冷間用金型においては、耐付着性が向上すると、被加工材の面粗度が向上する。また、Cは含有しなくとも良く、冷間用金型の使用環境によって選択されるべきである。なお、Cの原子比uが0.5を超えて含有する場合は、下部皮膜層4の硬度が急激に低下することから、下部皮膜層4の耐摩耗性が劣化することになる。
vはNの原子比であるが、Cを含有する場合を考慮して、Nの原子比vは0を超え1以下の範囲に設定した。なお、下部皮膜層4にCを含有させない場合には、下部皮膜層4はTi、Cr、Alの窒化物で構成する。
[硬質皮膜層の第2の実施形態]
続いて、硬質皮膜層3の第2の実施形態について詳細に説明する。図2は、本発明の被覆冷間用金型1について第2の実施形態の構成を示す部分断面図である。第2の実施形態は、図1に示す第1の実施形態と比較してより好ましい実施形態になる。
図2に示すように第2の実施形態は、下部皮膜層4を3つの皮膜層からなる第1層6、第2層7、第3層8からなる多層構造とし、第1層6は基材2の直上、すなわち、基材2と接する側に形成することが望ましい。そして、基材2の直上(表面)側から表面皮膜層5方向に向けて、順次、第1層6、第2層7、第3層8を形成した例を示している。
下部皮膜層4を構成する第1層6は、基材2の表面と接する側に成膜すると、基材2との密着強度を最大限に担保する機能を発揮する。第2層7は表面皮膜層5の耐クラック性を高める効果と、第1層6と第3層8のそれぞれを密着性が高い状態に保持する機能を発揮するために設けている。第3層8は表面被覆層5との密着性が高い状態に保持して、表面皮膜層5の耐剥離性と耐クラック性を高める効果を発揮する。
さらに、本発明においては、第1層6、第2層7、第3層8のTi、Cr、Alの含有量(原子比)がそれぞれ異なった窒化物または炭窒化物で構成していることに特徴がある。これにより、下部皮膜層4内において硬度と弾性係数の異なる層が積層されることとなり、表面皮膜層5に作用する応力の緩和やクラック進展の抑制に効果を発揮すると推察される。また、第1層6、第2層7、第3層8の硬度と弾性係数が異なった状態で積層されても、相互に結晶粒の連続性を保った状態を維持することができ、各層間の密着性が高い状態を維持することができる効果も発揮する。下部皮膜層4を上記した3層の多層構成にすることにより、基材2と硬質皮膜層3との密着強度、第2層7と第3層8の耐クラック性、第3層の耐剥離性の効果を著しく発揮することが可能になる。
下部皮膜層4を第1層6、第2層7、第3層8の3層で構成する場合、その最適な膜厚は、下部皮膜層4の総膜厚を2〜6μm、第1層6を1〜3μm、第2層7を1〜2μm、第3層8を0.1〜2μmにすることが好ましく、膜厚をこれらの範囲に成膜すれば、表面皮膜層5の耐クラック性、及び耐剥離性と硬質皮膜層3の耐摩耗性が最大となる。
下部皮膜層4に形成した第1層6、第2層7、第3層8の組成は、前記した下部皮膜層4の組成である、
TiCrAl(C)(ただし、a、b、c、u、vは、それぞれTi、Cr、Al、C、Nの原子比を示す)で表され、
前記a、b、c、u、vは下記の条件:
0<a≦0.6、0<b≦0.3、0.3<c<0.7、0≦u≦0.5、
0<v≦1、a+b+c=1、u+v=1、
を満たしているが、さらに、下記の条件を満たすように設定することが好ましい。
すなわち、第1層のTi、Cr、Alの原子比をa1、b1、c1、第2層のTi、Cr、Alの原子比をa2、b2、c2、第3層のTi、Cr、Alの原子比をa3、b3、c3としたときに、
a1>a2>a3、
b3>b2>b1、
c3>c2>c1、
を満たすように設定することが望ましい。
第1層6、第2層7、第3層8の各元素の原子比が上記の条件を満たすように、下部皮膜層4を3層の多層構造から構成することにより、前記した各層に期待する効果がそれぞれ発揮されることになる。
なお、各層におけるTi、Cr、Alの組成は、上記したように、第1層のTiの原子比を他の層より高く設定し、第3層8のCrとAlの原子比を他の層より高く設定し、さらに、第2層7のTi、Cr、Alの原子比は、ともに第1層6と第3層8の原子比の中間となる値に設定することで、下部皮膜層4を第1層6、第2層7、第3層8の結晶粒が連続した状態となり、各層がそれぞれ密着性の高い状態が維持され、また硬度と弾性係数が表面皮膜層5に向かって連続的に傾斜する構造となり、表面皮膜層5の耐クラック性と耐剥離性を発揮することになる。
上記した第1層6について、より好ましいTi、Cr、Alの原子比は、0.5≦a10.6、0<b1≦0.1、0.3<c1≦0.5であり、第3層8のTi、Cr、Alの原子比は、0<a3<0.5、0.1<b3≦0.3、0.5<c3<0.7であり、第2層7は第1層6と第3層8の略中間組成比にすることである。
図2に示す第2の実施形態は、下部皮膜層4を3つの皮膜層からなる第1層6、第2層7、第3層8から構成した例を示しているが、下部皮膜層4を、上記した組成と条件を満足する、2つ、4つ、もしくは5つの皮膜層からなる多層の皮膜層(第1層、第2層、又は第1層、第2層、第3層、第4層、・・・)から構成してもよい。このように、下部皮膜層4を組成が異なる少なくとも2層以上の多層構造にすることにより、基材2と硬質皮膜層3との密着強度、耐クラック性、及び耐剥離効果を強く発揮することが可能になる。本発明においては、下部皮膜層4を多層構造で構成する場合には、3層(前記した第1層、第2層、第3層)から構成するのが最も好ましい。この理由は、次の通りである。
本発明は、下部皮膜層4によって表面皮膜層5の耐クラック性と耐剥離性を最大限に発揮させ、硬質皮膜層3が優れた耐摩耗性を発揮するものである。そのために、下部皮膜層4に少なくとも3つの機能を持たせることが特に重要である。
その第1の機能は、基材2との密着性を確保する機能であって、この機能は第1層6が有している。第2の機能は、表面皮膜層5と下部皮膜層4との密着性を確保する機能であって、この機能は第3層8が有している。そして、第3の機能は、第1層6と第3層8の特性と各層(第1層6〜第3層8)を密着性が高い状態で連結する機能であって、この機能を第2層7が有している。これにより、下部皮膜層4の多層構造は3つの皮膜層、すなわち、第1層6、第2層7、第3層8から構成するのが最も好ましい。この3つの機能を有した下部皮膜層4が表面皮膜層5の耐クラック性と耐剥離性を最大限に高めることになる。
なお、多層構造とした下部皮膜層4を2つの皮膜層、すなわち基材2側から第1層と第2層から構成した場合に、第1層のTi、Cr、Alの原子比をa1、b1、c1、第2層のTi、Cr、Alの原子比をa2、b2、c2としたときに、
a1>a2、
b2>b1、
c2>c1、
を満たすように設定する。
なお、図2に示す第2の実施形態においては、基材2の表面の直上に下部皮膜層4を成膜した例を示しているが、基材2の表面と下部皮膜層4との間に他の皮膜層、例えば、Ti、Cr、Alから選択される1種以上の窒化物又は炭窒化物を含む皮膜層を成膜してもよい。
[硬質皮膜層の第3の実施形態]
続いて、硬質皮膜層3の第3の実施形態を、図3を参照して説明する。第3の実施形態は、図2に示す第2の実施形態と比較してより好ましい実施形態となる。
第3の実施形態は、図2に示す第2の実施形態の下部皮膜層4が備えている第2層7を、組成が異なるD層7aとF層7bからなる2つの皮膜層を、少なくとも交互に2つ以上積層した積層構造にするとともに、D層7aとF層7bの各皮膜層(単一層)の膜厚を0.02μm未満としたことに特徴がある。
図3に示すように、硬質皮膜層3の第3の実施形態においては、下部皮膜層4が備えている第2層7を、組成が異なるD層7aとF層7bからなる2層を一対として、少なくともD層7aとF層7bを交互に2つ以上積層した積層構成にしている。
このように第2層7を、D層7aとF層7bを交互に2つ以上積層した構成にすることにより、第1層6と第3層8の結晶粒の連続性がさらに高い状態となり、各層がそれぞれ密着性の高い状態が維持され、また硬度と弾性係数が表面皮膜層5に向かって連続的に傾斜する構造でありながら、D層7aとF層7bの交互積層による接合界面の増加によって、表面皮膜層5の応力緩和とクラック進展を抑制する効果がより高くなる。これにより、表面皮膜層5の耐クラック性と耐剥離性を発揮させることになる。その結果として、下部皮膜層4の第2層7の耐クラック性と耐摩耗性を高め、硬質皮膜層3全体の耐剥離性と耐クラック性を高める効果を発揮することが可能になる。この第3の実施形態は、本発明の被覆冷間用金型1において最適な実施形態になる。
なお、D層7aとF層7bの膜厚のそれぞれが0.02μm以上になるように形成すると、D層7aとF層7bの交互積層による接合界面の増加による表面皮膜層5の応力緩和とクラック進展を抑制する効果が見られなくなり、第2層7の耐クラック性と耐摩耗性、硬質皮膜層3の耐剥離性と耐クラック性の改善効果が乏しくなるので、D層7aとF層7bのそれぞれの膜厚は0.02μm未満になるように設定することが望ましい。
(D層とF層の組成と膜厚)
続いて、第2層7において積層構成をなすD層7aとF層7bの組成について説明する。D層7aのTi、Cr、Alの原子比をそれぞれa(D)、b(D)、c(D)、F層7bのTi、Cr、Alの原子比をそれぞれa(F)、b(F)、c(F)としたときに、D層7aとF層7bの組成(原子比)は、
a(D)>a(F)、
を満たすようにする、つまり、D層7aはF層7bよりもTi含有量を多くするとともに、D層7aを第1層6側に成膜することが望ましい。この理由は、D層7aを第1層6側と接するように成膜すると、a(D)>a(F)にしていることにより、第1層6とD層7aとの密着性が向上すると考えられるからである。但し、D層7aと第1層6が略同一組成となる場合は、第1層6とD層7aが区別できないため、F層7bが第1層6側に成膜することになる。
さらに、D層7aのCrとAlの含有量(原子比)はF層7bよりも少ない組成を有する構造、すなわち、
b(F)>b(D)、
c(F)>c(D)、
を満たすようにすることが好ましい。D層7aとF層7bの組成を、
a(D)>a(F)、かつ、
b(F)>b(D)、
c(F)>c(D)、
に設定することにより、第2層7の耐クラック性と耐摩耗性、及び硬質皮膜層3の耐剥離性と耐クラック性をより高くすることが可能になる。特に、D層7aとF層7bからなる積層構造を、冷間用金型の硬質皮膜層3に適用した場合には、金型の耐久性を向上させるための最適な硬質皮膜になる。
第3の実施形態においては、上記したようにD層7aとF層7bの各層の厚みを0.02μm未満に設定しているが、さらに、D層7aの単一(単一層)の膜厚は、F層7bの単一(単一層)の膜厚と同じか、もしくは厚くなるように構成することにより、第2層7の靭性が向上し、表面皮膜層5の応力緩和とクラック進展を抑制する効果が一段と高くなり、冷間用金型の耐久性をより一層向上させることが可能になる。
なお、第2層7において、D層7aとF層7bを積層させて成膜する順序、すなわち、第1層6と接する側および第3層8と接する側にD層7aとF層7bのいずれを配置するかについては、上記ではD層7aを第1層6側と接するように成膜することが好ましいと記載したが、必ずしもこの順序に限定されない。D層7a及びF層7bの膜厚は、透過型電子顕微鏡による断面観察によって測定することができる。
上記した硬質皮膜層3の第3の実施形態においては、下部被覆層4を多層構造となる第1層6、第2層7、第3層8の3層から構成するとともに、第2層7をD層7aとF層7bを交互に積層させた積層構造にする例について説明した。本発明においては、前記硬質皮膜層の第2の実施形態で説明したように、下部被覆層4を2層(第1層と第2層)からなる多層構成とした場合には、この第2層の皮膜層を上記したD層7aとF層7bを交互に積層させた積層構造にしてもよい。
なお、図3に示す第3の実施形態においては、基材2の表面の直上に下地皮膜層4を成膜した例を示しているが、基材2の表面と下部皮膜層4との間に前記した他の皮膜層(Ti、Cr、Alから選択される1種以上の窒化物又は炭窒化物を含む皮膜層)を成膜してもよい。
[表面皮膜層]
続いて、Ti、Siの窒化物又は炭窒化物からなる表面皮膜層5の構成について説明する。
Ti及びSiの窒化物又は炭窒化物は硬度が高く靭性に乏しい特性を有しているが、本発明においては、Ti、Cr、Alの窒化物又は炭窒化物からなる下部皮膜層4の上(直上)に表面皮膜層5を形成することにより、冷間用金型に形成した硬質皮膜層3の耐剥離性と耐クラック性を格段に向上させ、剥離やクラックによる異常摩耗を抑制することを可能にしている。すなわち、表面皮膜層5は冷間用金型に優れた耐摩耗性を保持させることを可能にしている。表面皮膜層5の膜厚は、0.5μm〜5μmの範囲になるように成膜すればよい。
なお、Ti、Siの窒化物又は炭窒化物からなる表面皮膜層5において、Ti、Siの原子比は、表面皮膜層5の硬度と耐摩耗性を考慮すると、Siの原子比はTiとSiの合計の原子比に対して10〜20%の範囲に設定することが好ましい。
[冷間用金型の実施形態]
続いて、上記した硬質皮膜層3を被覆した本発明に係る被覆冷間用金型の実施形態について説明する。冷間用金型のうち、特に過酷な環境で使用される冷間鍛造用金型は、閉鎖域(塑性加工時に余肉を逃す場所がない)で、しかも高速(毎分50ショット以上)で金型の基材2に対して引張応力と圧縮応力を繰り返して与えることから、他用途の金型に比べて、金型表面に微細なクラックが発生し易い。
そのため、金型表面に成膜した硬質皮膜層には、特に、繰返し応力に対する耐クラック性が要求され、同時に耐摩耗性も要求される。このような過酷な用途の冷間鍛造用金型に対して、前記した硬質皮膜層3を被覆した本発明の冷間用金型は、格段に金型の耐久性を向上させることが可能になる。なかでも、各種の冷間鍛造用金型のうち、後方押出成形に使用される金型、特に、パンチやダイスに上記した硬質皮膜層3を被覆することで、冷間用金型の耐久性の向上、すなわち、金型寿命の向上がより顕著になる。
以下、本発明に係る被覆冷間用金型の実施形態として、冷間鍛造用金型として用いられるパンチとダイスを例にして説明する。
図4は、冷間鍛造用金型の一例としてパンチの平面図を示している。図4に示すパンチ20は略円柱形状をなしている。略円柱形状をなすパンチ20は、冷間鍛造装置に把持させるための把持部21、機能部22、機能部22の端面となる上端部23を備えている。パンチ20の長手(軸)方向に対して機能部22は長さL1を有し、把持部21は同じく長さL2を有している。上端部23を含む機能部22は、被加工物に対して塑性加工による冷間鍛造に寄与する箇所になるので、鏡面磨きがなされている。本発明に係る冷間鍛造用金型においては、機能部22(冷間鍛造用金型の基材となる部分)の表面に上記した硬質皮膜層3が被覆(形成)される。
図5は、図4に示しているパンチ20の上端部23を含む先端部分の拡大部分図であって、パンチ20の長手方向の上側部分の一部を示している。図5に示しているように、パンチ20の先端部分は、上端部23、ベアリング部24、径縮小部25、逃げ部26から構成されている。ベアリング部24から逃げ部26にかけては、逃し角αの勾配でパンチ20の径を減少させた径縮小部25を設け、その一方の端部(頂点)である逃し稜線部27において径縮小部25はベアリング部24と一体に繋がった構成になっている。
また、上端部23は、パンチ20の長手方向と直交する平面に対して先端角βの勾配をもって上端部23の中心部方向に緩やかに傾斜する円錐形状をなす面を備えている。そして、この円錐形状面をなす上端部23のベアリング部24側の外周縁部は、全周にわたって円弧形状面をなす円弧形状面部28が形成され、この円弧形状面部28はベアリング部24と一体に繋がっている。なお、ベアリング部24と径縮小部25、径縮小部25と逃げ部26の繋ぎ部は、図示していないがそれぞれ滑らかな微小な円弧形状で連結させても良い。
上記したパンチ20において、先端角βは0°、すなわち、上端部23の端面は平面形状をなす面を備えている構成としてもよい。この場合においても、上端部23の外周縁部は、全周にわたって円弧形状面部28を設けるようにする。
上記パンチ20において、円弧形状面部28の円弧半径は1mm以下に設定することが望ましい。この理由は、円弧形状面部28の円弧半径を1mm以下とすることで、パンチ20に形成した硬質層皮膜層3に対する耐クラック性と耐摩耗性のバランスが最適になると考えられるからである。これに対して、円弧形状面部28の円弧半径が1mmを超えるような、比較的に摺動抵抗が高くなるようにすると、冷間鍛造時において、円弧形状面部28、またはその近傍の硬質層皮膜層3を起点とした異常摩耗が生じ易くなる場合がある。
図6は、冷間鍛造用金型の一例としてダイスの断面図を示す。図6に示すダイス30は中空部を備えた略円筒形状をなしている。略円筒形状をなすダイス30は、機能部を有するニブ31と、ニブ31を保持するケース32から構成されている。図6に示す符号33は中空形状をなすニブ内周部を示している。ニブ内周部33が機能部35になり、鏡面磨きがなされている。被加工物に対して冷間鍛造を行うときには、このニブ内周部33の空間部34にパンチ20がショット動作として高速度で繰り返して挿入されて、被加工物の塑性加工が行われる。
ニブ31はケース32に圧入や焼嵌め等によって挿入される。ニブ31の基材の内周部33に鏡面加工を行った後、ニブ内周部33の表面に硬質皮膜層3が成膜される。なお、ニブ内周部33の形状は、それぞれ鍛造製品の形状に対応させた適切な形状を備えている。
[冷間用金型への硬質皮膜層の成膜]
続いて、本発明の冷間用金型の一例である図4に示すパンチ20に、硬質皮膜層3を成膜する方法について説明する。パンチ20の機能部22の表面に硬質皮膜層3を成膜するときは、上端部23の膜厚がベアリング部24、径縮小部25、逃げ部26よりも厚くなるように硬質皮膜層3を成膜する。これにより、パンチ20の耐久性、特に上端部23の耐久性を一段と向上させることができる。例えば、逃げ部26に対する上端部23の膜厚比が1を超え2.5未満(上端部23の膜厚を逃げ部26の膜厚の1倍を超え、2.5倍未満)とすることで、最も優れた耐久性が得られる。
硬質皮膜層3をパンチ、ダイス等の金型へ成膜するときには、硬質皮膜層3を構成する各層の組成を正確に制御する必要がある。このため、硬質皮膜層3の成膜は、成膜装置のうち、固体の蒸発源を使用したアークイオンプレーティング法を用いることが最も好ましい。アークイオンプレーティング法は、ターゲットに含まれる各原子の蒸発時のイオン化率が高く、金型の基材に印加したバイアス電圧により緻密な皮膜を形成することができるからである。
パンチ、ダイスの基材の機能部上に硬質皮膜層3を形成するためには、まず前処理として、所定サイズのパンチ、ダイスの基材について超音波脱脂洗浄を実施する。次に、超音波脱脂洗浄済みの基材を成膜装置内の所定の位置に挿入して固定した後、この基材を400〜500℃の所定温度に保持して、アークイオンプレーティング法でパンチ、又はダイスの基材上に硬質皮膜層3を形成する。これにより、所定の組成と積層構造等を有する硬質皮膜層3を形成した冷間用金型のパンチ、ダイスを製造することができる。
続いて、図7に示す成膜装置40を用いてパンチに硬質皮膜層3を成膜する手順の概要について説明する。成膜装置40のチャンバー(真空容器)41内に設けられているカソード42a、カソード42b、カソード42c、カソード42dに、各種合金、あるいは金属のターゲットを取り付け、さらに、回転する基材ステージ43上の図示していない支持台上に被処理体となるパンチの基材44を取り付ける。また、基材ステージ43に取り付けたパンチの基材44は、回転する基材ステージ43上でさらに回転する回転機構(図示せず)を備えた成膜装置40を用いて、いわゆる「自公転処理」機能を利用して成膜処理を行っても良い。
次に、チャンバー41内を真空引き(5×10−3Pa以下に排気)し、真空状態にする。続いて、基材ステージ43をR方向に回転させるとともに、チャンバー41内に設置されているヒータ(図示せず)を作動させてパンチの基材44の温度を約500℃に加熱して、フィラメントからの熱電子放出によるイオン源により、Arガスイオンによるエッチングを5分間程度実施する。
続いて、アーク電源装置45を作動させてそのアーク電流を150Aとし、全圧力3.2PaのNガス雰囲気にて、アーク式蒸発源による上記ターゲットを用いたアークイオンプレーティングにより、上記ターゲット成分の窒化物皮膜等をパンチの基材44の表面に成膜する。このとき、炭窒化物の皮膜を成膜する場合には、Nガスに加えて、炭素を含有するガスを加えた雰囲気中で、同様にアークイオンプレーティングにより上記ターゲット成分の炭窒化物皮膜を成膜する。図7に示す符号「46」は、バイアス電源装置である。
なお、複数のカソード42a、42b、42c、42dに異なる組成のターゲットを取り付け、回転する基材ステージ43の支持台上にパンチの基材44を載置して、成膜中にパンチの基材44を基材ステージ43とともに回転させることによって積層された硬質皮膜層を形成することができる。このとき、パンチの基材44は基材ステージ43の回転に伴い、異なる組成のターゲットを取り付けた蒸発源の前を交互に通過するときに、各々の蒸発源のターゲット組成に対応した皮膜が交互にパンチの基材44の表面に形成される。これにより、積層構造を備えた硬質皮膜層3を形成することが可能になる。
また、硬質皮膜層3において、多層構造や積層構造を構成する各皮膜層などの膜厚は、パンチの基材44とターゲット表面間の距離、各蒸発源(アーク電源装置45)への投入電力、基材ステージ43の回転速度及び回転数の累計値、等に基づいて制御することができる。例えば、基材ステージ43の回転速度が速くなるように制御すると、基材ステージ43の1回転あたりの成膜される皮膜層の厚さは薄くなる。
パンチの基材44への成膜において、前記したパンチの上端部23の膜厚を、パンチの長手方向に向く周面(側面)となる逃げ部26等に対して厚くなる皮膜を形成する方法は、パンチの基材44がターゲットの前面を通過するときに、この上端部23をターゲット面に向けた姿勢になるようパンチの基材44を基材ステージ43に載置することにより可能になる。
上記した手順に基づいて硬質皮膜層3を被覆したパンチの基材44は、成膜時に不可避的に混入するドロップレットと呼ばれる金属粒子等の付着や、皮膜層の結晶粒径、パンチの基材44の凹凸によって、硬質皮膜層3の表面粗度は被覆前よりも悪化する。そのため、硬質皮膜層3を形成した後に、ダイヤモンド粒子等の硬質粒子を含有したバフ等で、硬質皮膜層3の表面をバフ研磨して所定の表面粗さを有する平滑化された硬質皮膜層3を得るようにする。これにより、硬質皮膜層3が形成されたパンチ20を製造することができる。上記した成膜手順に基づいて、パンチの基材44の表面に前記した多層構造又は積層構造を有する下部皮膜層4、及び表面皮膜層5を形成することができる。
ダイスのニブ31のニブ内周面33(図8に示す52a1)に硬質皮膜層3を成膜する方法は、上記したパンチの基材44の成膜手順とほぼ同様の手順で行うことができる。すなわち、図9に示すように、ニブ52aの空間部(図6に示す空間部34)52cがカソードを通過するときに、この空間部34の開口部がカソードと対面するようにニブ52a(31)を基材ステージ43に取り付けるようにする。なお、図9は、成膜装置40でパンチの基材44とニブ52aとを同時に成膜する場合であって、成膜装置40の基材ステージ43にパンチの基材44とニブ52aとを取付けた例を示している。
以下、本発明に係る被覆冷間用金型の試作と耐久試験の実験を行った実施例と、その結果について説明する。この試作実験においては、24種の冷間鍛造用パンチと4種の冷間鍛造用ダイスを試作してその機能部の表面に硬質皮膜層を成膜(被覆)した。そして、硬質皮膜層を成膜した冷間鍛造用パンチとダイスについて、その耐久性となる金型寿命(鍛造寿命)を評価するために、試作した冷間鍛造用パンチとダイスのそれぞれについて、冷間鍛造により被加工物を繰り返して製造することにより鍛造寿命を評価する実験を行った。
試作したパンチの材質は、いずれも超硬合金製でCIS規格のVM30(CIS019D分類)を使用した。この超硬合金からなる素材に、研削及び切削加工を施して所定の形状を有するパンチの基材(以下、「パンチ基材」と記載する)を製作した。なお、このパンチ基材は、被加工物に対して冷間鍛造を行う時に被加工物との接触部となる機能部(図4に示す長さL1の機能部22)の表面を鏡面研磨し、機能部の表面粗さ(Ra)を0.02μm以下に、表面粗さ(Ry)を0.2μm以下にした。
試作したダイスのうち、ニブの材質は、いずれも超硬合金製でCIS規格のVC50(CIS019D分類)を使用した。そして、SKD61を48HRCに調質したケース内に焼嵌めによりニブを挿入し、一体になったダイスの基材に研削及び切削加工を施して、図6に示すような所定の形状を有するダイスの基材(以下、「ダイス基材」と記載する)を製作した。なお、このダイス基材は、鍛造成形時に被加工物との接触部(鍛造する被加工物との接触部)となるダイスの機能部35(図6に示すニブ内周部33)の表面を鏡面研磨し、機能部35の表面粗さ(Ra)を0.02μm以下に、表面粗さ(Ry)を0.2μm以下にした。
試作した24種のパンチの形状は図4(図5)に示す通りとし、その具体的な形状に関する仕様は次の通りである。パンチ基材の先端部分の形状は、先端ベアリング部24の径を18.35mm、逃げ部26の径を18.15mm、円弧形状面部28の円弧半径を0.5mm、逃し角αを5°、先端部の先端角βを4°とし、ベアリング部24と径縮小部25とが滑らかに繋がった構成からなる仕様とした。
また、試作したダイス基材のニブ内周部33の内径部分の径を26.5mmとして、ストレートな内径形状を備えているようにした。
上記仕様を有する24種のパンチ基材と4種のダイス基材について、その機能部の表面に複数のアーク蒸発源を有する成膜装置40を用いて、硬質皮膜層を成膜して試作パンチと試作ダイスを製造した。以下の説明において、パンチ基材とダイス基材、及び試作パンチと試作ダイスの各部位の名称と符号は、図1〜図6の説明で使用した名称と符号使用する場合がある。
(成膜実験1)
成膜実験1では、表1に示す試料番号1〜7の7種のパンチ基材に対して硬質被覆層3を構成する下部皮膜層4と表面皮膜層5を成膜した。この成膜実験1では、下部被覆層4は基本的な構成、すなわち、多層構造又は積層構造を有していない、Ti、Cr、Alの窒化物又は炭窒化物からなる下部皮膜層4を成膜した。
成膜装置40を用いて下部皮膜層4と表面皮膜層5を成膜する方法は、次の手順で実施した。下部皮膜層4と表面皮膜層5の組成となるターゲットを、成膜装置40のカソード42aおよびカソード42bに取り付けて、試作パンチ基材を載置した基材ステージ43をR方向に回転させた。そして、まず、下部皮膜層4のターゲット(カソード42a)のみ、前記した窒素ガス等を含む所定の雰囲気中で単独で放電させ、試作パンチ基材にバイアス電圧を−40V印加して、膜厚が4μmの下部皮膜層4を試作パンチ基材の表面に形成した。
次に、表面皮膜層5の組成となるターゲット(カソード42b)を窒素ガスの雰囲気中で放電させ、パンチ基材にバイアス電圧を−40V印加して、下部皮膜層4の上に膜厚が2μmの表面皮膜層5を形成した。このとき、7種の全試料番号について表面皮膜層5のTiとSiの原子比率はTi/Si=85/15とし、試料番号4以外は、TiとSiの窒化物からなる皮膜層を成膜した。
なお、パンチ基材に成膜した膜厚はベアリング部24の膜厚とした。成膜処理が完了したパンチ基材は、基材の温度が200℃以下となった後にチャバー41から取り出した。成膜実験1は、試料番号1〜7のパンチ基材に下部皮膜層4を1層からなる皮膜層として成膜し、この下部皮膜層4の直上に表面皮膜層5を成膜している。この成膜実験1で成膜した下部皮膜層4の組成と膜厚を表1に、表面皮膜層5の組成と膜厚を表2に示している。
表2には表面皮膜層5の組成と膜厚を全試料番号となる試料番号1〜24ごとに示しているが、このうち、試料番号1〜7が成膜実験1に該当する7種の試作パンチになる。表2に示す「d」はSiの原子比を示し、a+d=1、u+v=1になる。また、表1、表2の試料番号の欄には、試作パンチの試料番号が本発明例に該当するか比較例に該当するかも表示している。表2に示す試料番号1〜4は、Ti、Cr、Alの原子比a、b、cは前記した下部皮膜層4の組成の一般式を満足し、原子比a、b、c、u、vについては、
0<a≦0.6、
0<b≦0.3、
0.3<c<0.7、
0≦u≦0.5、
0<v≦1、
a+b+c=1、
u+v=1、
の条件を満たしているので本発明例に相当する。試料番号5〜6は、下部皮膜層4にTi、Cr、Alの3種の元素の全てを含んでいない比較例である。なお、後記するが表2〜表5に記載の試料番号欄にも本発明例に該当するか比較例に該当するかを表示している。
Figure 0006806304
Figure 0006806304
表1に示すように、本発明例となる試料番号1〜3は、下部皮膜層4として、Ti、Cr、Alの窒化物を含む皮膜層を成膜し、試料番号4はTi、Cr、Alの炭窒化物を含む皮膜層を成膜した。
これに対して、比較例となる試料番号5は下部皮膜層としてCrを含まないで、TiとAlの窒化物を含む皮膜層を成膜した。同じく試料番号6はTiを含まないで、CrとAlの窒化物を含む皮膜層を成膜し、同じく試料番号7は、CrとAlを含まないで、Tiの窒化物を含む皮膜層を成膜した。
この成膜実験1においては、2種のダイス基材についても、それぞれ表1の試料番号1と試料番号5に示す下部皮膜層の組成からなり、膜厚が4μmの下部皮膜層4と、この下部皮膜層の直上に膜厚が2μmからなる表面皮膜層5を成膜した試作ダイスを製作した。また、試作ダイスにおける上記した膜厚は、ニブ内周部33の入口側付近の厚さとした。
なお、ダイス基材に下部皮膜層4を成膜した後、パンチ基材と同様に表2に示すように、下部皮膜層4の上に膜厚が2μmで、TiとSiの原子比率がTi/Si=85/15となる表面皮膜層5を成膜した。この2種のダイス基材に成膜した表面皮膜層5の組成(原子比)と膜厚は、表2の試料番号1と試料番号5に記載の通りである。
(成膜実験2)
試料番号8〜16の9種のパンチ基材について、硬質皮膜層3を構成する下部皮膜層4が図2に示すように、第1層6、第2層7、第3層8の3層の多層構造からなる皮膜層を成膜する実験を行った。この3層の多層構造からなる下部皮膜層3の成膜については、成膜装置40を次のように作動させた。
下部皮膜層4のうち第1層6を成膜するターゲットをカソード42aに、同じく第2層7を成膜するターゲットをカソード42cに、同じく第3層8を成膜するターゲットをカソード42dに取り付けて、表3の試料番号8〜13に記載の組成と膜厚となるように、成膜装置40の制御装置を制御して、パンチ基材の表面に第1層6、第2層7、第3層8の順に窒化物からなる下部皮膜層4を成膜した。その他の成膜制御となる各成膜用ターゲットと3層の多層構造とするための条件以外の成膜条件は、成膜実験1と同様とした。また、第1層6〜第3層8の皮膜層を成膜した後、第3層8の直上に表面被覆層5を成膜するターゲットをカソード42bに取り付けて窒化物からなる表面被覆層5を成膜した。この表面被覆層5の成膜条件、放電条件は成膜実験1と同様にした。
この成膜実験2では、試料番号8〜13では多層構造を第1層〜第3層の3つの皮膜層からなる多層構造の皮膜層を形成したが、試料番号14〜16では、多層構造が2つの皮膜層からなる構成とした。本成膜実験2で成膜した試料番号8〜16の試作パンチについて、下部被覆層4の第1層6〜第3層8の組成と膜厚を表3に、同じく、表面被覆層5の組成と膜厚を表2に示している。なお、成膜実験2において試料番号8〜16に成膜した表面皮膜層5のTiとSiの原子比率は、Ti/Si=85/15になるように、Ti、Siの窒化物からなる表面皮膜層5を成膜した。
成膜実験2でパンチ基材に成膜した試料番号8〜13は、下地硬質層4は各皮膜層の膜厚が0.1〜3μmとし、2層以上の多層構造、すなわち3層の皮膜層を有し、この多層構造をなす各皮膜層の組成は異なっているとともに、Ti、Cr、Alの原子比a、b、cは、前記した下部皮膜層4の組成の一般式と原子比a、b、cに関する条件を満している。さらに、表面皮膜層5もTi、Siの窒化物又は炭窒化物からなる表面皮膜層を備えている。さらに、3層からなる多層構造の各層のTi、Cr、Alの原子比a1〜a3、b1〜b3、c1〜c3は、
a1>a2>a3、
b3>b2>b1、
c3>c2>c1、
を満たしているので本発明例に相当する。
成膜実験2では、1種の試作ダイス基材について、表3の試料番号8に示す第1層6、第2層7、第3層8からなる下部皮膜層4を成膜した。この下部皮膜層4の組成と膜厚は表3の試料番号8に示す通りである。また、この試作ダイスに成膜した表面皮膜層5の組成と膜厚は表2の試料番号8の欄に示している。成膜実験2において、各成膜用ターゲットと成膜条件は成膜実験1と同様とし、表面被覆層5の成膜条件、放電条件も成膜実験1と同様とした。
Figure 0006806304
(成膜実験3)
成膜実験3では、試料番号17〜24の8種のパンチ基材に形成する硬質皮膜層3のうち、図3に示すように、多層構造からなる下部皮膜層4の第2層7を、D層7aとF層7bを交互に積層した積層構造からなる皮膜層を形成するための成膜実験を行った。この成膜実験3においては、成膜装置40を次のように作動させた。
第1層6を成膜するターゲット、D層7aを成膜するターゲットをカソード42aに、F層7bを成膜するターゲット、第3層8を成膜するためのターゲットをカソード42cに取り付けた。そして、カソード42aを放電させて窒化物からなる第1層6をパンチ基材の表面に成膜した後、第2層7を積層構造からなる皮膜層として形成するために、カソード42aとカソード42cを同時に放電させて、回転する基材ステージ43上のパンチ基材にD層7aとF層7bを交互に積層した。
D層7aとF層7bを交互に積層した積層構造からなる窒化物と、第2層7を成膜した後に、カソード42cのみを放電させて窒化物から構成される下部皮膜層4のうちの第3層8を成膜した。第3層8を成膜した後、表面皮膜層5を成膜するターゲットをカソード42bに取り付けて、パンチ基材に窒化物からなる表面皮膜層5を第3層8の直上に成膜した。成膜実験3において、各成膜用ターゲットと積層条件以外の成膜条件は成膜実験2と同様とし、表面皮膜層5の成膜条件、放電条件は成膜実験1と同様にした。
なお、成膜実験3において成膜装置40への各種ターゲットの取り付け、及び成膜制御方法は上記した方法に限定されるものではなく、成膜装置の構成、成膜の効率性を考慮して最適な手段を採用するとよい。
この成膜実験3で成膜した試料番号17〜24について下部皮膜層4の第1層6から第3層8の組成と膜厚を表4に示している。さらに、表4には、D層7aとF層7bについてその単一層の膜厚を「nm」単位で示している。
表4に示すように、試料番号17〜24の全てについて第1層6の膜厚は1.5μm、第2層7の膜厚は2μm、第3層の膜厚は0.5μmになるように成膜した。また、交互に形成されるD層7aとF層7bのうち、D層7aが第1層6側になるように成膜した。なお、成膜実験3において試料番号17〜24に成膜した表面皮膜層5の組成と膜厚を表2に示している。試料番号17〜24に成膜した表面皮膜層5のTiとSiの原子比率は、Ti/Si=85/15になるように、Ti、Siの窒化物からなる表面皮膜層5を成膜した。
表4に示しているように試料番号17〜24について、第1層6、第2層7、第3層8の膜厚は0.1〜3μmの範囲、すなわち、それぞれ1.5μm、2μm、0.5μmの厚さを有するように成膜されているとともに、下部皮膜層4の多層構造は2層以上の皮膜層を有し、多層とした第1層と第3層のTi、Cr、Alの組成(原子比)は同一の試料番号内において異なっているとともに、前記した下部皮膜層4の組成の一般式と原子比a、b、cに関する条件を満足している。また、表面皮膜層5もTi、Siの窒化物からなる表面皮膜層を備えている。
ここで、試料番号17〜19において、D層7aとF層7bの膜厚比を変化させることで、鍛造寿命に及ぼすD層7aとF層7bの膜厚比の影響を比較した。さらに、試料番号17、23、24において、D層7aとF層7bの単一の膜厚を変化させることで、鍛造寿命に及ぼすD層7aとF層7bの単一の膜厚の影響を比較した。さらに、試料番号17、20〜22において、D層7aとF層7bを交互に積層した積層構造の組成を変化させることで、鍛造寿命に及ぼす皮膜層の組成に対する影響を比較した。
Figure 0006806304
なお、上記したD層7aとF層7bを交互に積層構造にするための具体的な成膜制御方法は、次の手段を採用することができる。
すなわち、D層7aおよびF層7bに対応する成膜用ターゲットに印加するアーク放電電流を、例えば、80〜150Aの範囲で変化させること、さらに、基材ステージ43の回転速度、回転数の累計値に基づいて成膜した皮膜の膜厚、等を所定の値になるように制御した。例えば、パンチ基材とターゲットとの基材間距離L3を長くすること、ターゲットに印加するアーク放電電流を低くすること、基材ステージ43の回転速度を早くすることにより、D層7aおよびF層7bの単一の膜厚が薄くなるように制御することができる。
成膜実験3では1種のダイス基材について、表4の試料番号17に示す組成と膜厚を有する下部皮膜層4をダイス基材の表面に成膜した後、この下部皮膜層4の直上に表面皮膜層5を成膜した。この表面皮膜層5の組成と膜厚は表2の試料番号17に示す通りである。
上記手順により硬質皮膜層の成膜を行ったパンチ基材とダイス基材について、機能部の表面を再度鏡面研磨し、機能部の表面粗さ(Ra)を0.05μm以下、表面粗さ(Ry)を0.5μm以下とされた試料番号1〜24の試作パンチと4種の試作ダイスを製作した。
上記した成膜実験1〜3で製作した試作パンチ及びダイスに成膜した硬質皮膜層3の組成の測定は、エネルギー分散型X線分析により測定した。また、下部皮膜層4のうち第2層を構成するD層7a及びF層7bの組成は、各々の単一層を上記した同一の成膜条件で2μm以上被覆した試料を別途作成し、この別途作成した試料についてエネルギー分散型X線分析で分析して求めた。
[冷間鍛造の実験]
続いて、上記手順で硬質皮膜層を成膜した試作パンチ及びダイスについて、耐久性を評価するために、冷間鍛造装置を使用してこの試作パンチ及び試作ダイスを冷間鍛造用の金型として使用する冷間鍛造の実験を行った。図8(a)、(b)、(c)は、この冷間鍛造の実験方法を説明するための図である。以下、図8(a)、(b)、(c)に基づいてこの冷間鍛造の実験方法について説明する。
図8は、冷間鍛造方法のうち、後方押し出し成形工程(以下、「後方押出し成形」と記載する)を実施する冷間鍛造装置50の概略構成と、被加工物に対して後方押出し成形を行う手順の概要を示している。後方押出し成形を行う冷間鍛造装置50は、冷間加工(鍛造)用金型として上記した手順に基づいて硬質皮膜層3を成膜した試作パンチ51と試作ダイス52、下受けパンチ53、枠体54等を少なくとも備えている。図8に示す符号52a、52bは、それぞれ試作ダイス52のニブ、ケースを示している。ニブ52aのニブ内周部52a1の表面には前記した成膜実験1〜3で成膜した硬質皮膜層が形成されている。
なお、図8(a)は、被加工物56に対して後方押出し成形により塑性加工する前の状態を示し、図8(b)は被加工物56に対して後方押出し成形による塑性加工を開始したときの状態を示し、図8(c)は同じく後方押出し成形による塑性加工を実施しているときの状態を示している。
被加工物56に対して後方押出し成形を行うときには、図8(a)に示すように、試作パンチ51を上下ショット駆動の上端部に停止させた状態で、試作ダイス52のニブ内周部52a1の内側に形成されている空間部52c内に、例えば、円柱形状をなす被加工物56を挿入して下受けパンチ53の上端部に載置する。続いて、図8(b)に示すように、試作パンチ51をS方向に高速で上下動させる駆動、すなわち、試作パンチ51を試作ダイス52の空間部52c内で高速でショット駆動させて被加工物56に対して後方押出し成形による冷間鍛造(塑性加工)を行って、被加工物56を図8(c)に示すように底付円筒形状からなる押出し成形品55に加工した。なお、被加工物56の材質はS45C(機械構造用炭素鋼)とした。
なお、この被加工物56については、この被加工物の素材への線引時に焼鈍及びボンデ処理(リン酸塩処理)を施した後、パーツフォーマーを用いて切断し、切端面の矯正及び絞り加工を行う工程を実施した。
また、この冷間鍛造による塑性加工では、被加工物56の断面減少率が70%、成形深さが直径の略5倍の後方押し出しからなる塑性加工を実施して、図8(c)に示すように、円筒部55aと底部55bを有する底付き円筒形状の鍛造成形品(押出し成形品)55を順次繰り返して成形しながら、累計ショット回数を計測して、試作パンチ51と試作ダイス52の耐久性を評価した。
また、上記した後方押出し成形においては、試作パンチ51の上端部23の表面および試作ダイス52の内径部、すなわちニブ内周部52a1(33)の表面に作用する鍛造成形応力(負荷)は2500MPa程度、1分間あたりのショット回数は60ショットに設定し、潤滑油は硫黄系の極圧添加剤を含有した不水溶性の鍛造油を試作パンチ51の表面に直接供給した。
試作パンチ51、試作ダイス52について、それぞれの耐久性の評価は、次の手順に基づいて実施した。すなわち、一つの試作パンチ51又は試作ダイス52について繰り返しの冷間鍛造を実施しながら、試作パンチ又は試作ダイスの表面の機能部に形成した硬質皮膜層が損耗し、パンチ(ダイス)基材の表面が露出した時点、または試作パンチのベアリング部24の径が0.01mm減少した時点の累計ショット回数をその試作パンチの金型寿命、すなわち、試作パンチの損傷による鍛造寿命と判定した。
一方、4種の試作ダイス52の評価は、次の手順に基づいて実施した。すなわち、4種の試作ダイスのそれぞれについて、繰り返しの冷間鍛造により、ニブ内周部の機能部に成膜した硬質皮膜層が損耗し、基材の表面が露出した時点、またはダイス内径(ニブ内周部33の径)が0.01mm増加した時点の累計ショット回数を金型寿命、すなわち、その試作ダイスの損傷による鍛造寿命と判定した。
上記した成膜実験1〜成膜実験3によりそれぞれの硬質皮膜層を成膜した試作パンチ24種(試料番号1〜24)の冷間鍛造による評価には、公知のTiAlN皮膜を成膜したダイスを用いて冷間鍛造を行った。そして、ダイス内径部(ニブ内周部33)に焼付きや損耗が生じた場合には、ダイスを新品に交換又は焼き付きを除去してこの試作パンチの耐久性を継続して評価した。
また、硬質皮膜層を成膜した4種の試作ダイス52の冷間鍛造による評価には、公知のTiAlN皮膜を成膜したパンチを用いて冷間鍛造を行って、パンチのベアリング径が0.01mm減少した時点でこのパンチを新品に交換して試作ダイスの耐久性を継続して評価した。
上記した24種の試作パンチ及び4種の試作ダイスについて、試料番号ごとに耐久性評価の実験を行った結果を表5に示している。表5には、耐久性となる鍛造寿命を累計ショット回数として示している。なお、表5の鍛造寿命欄に示す記号「−」は鍛造寿命を評価していないことを示している。表5の「鍛造寿命(万ショット)」の欄には、前記したように冷間鍛造を実施したときの鍛造寿命を累計ショット回数として示しているが、この回数の単位は万ショットを単位として、1万ショット以下を切り捨てた数値で記載している。また、表5の「鍛造寿命(万ショット)」欄には、試作パンチの鍛造寿命をパンチ欄に、試作ダイスの鍛造寿命をダイス欄に示している。
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[試作パンチの耐久性についての考察]
前記した試作パンチの冷間鍛造の実験で得た鍛造寿命を表5に試料番号ごとに示しているが、この表5に示す鍛造寿命に基づいて、下部皮膜層の組成と皮膜層の構成等が鍛造寿命に影響する関係について考察してみた。その結果、下記(1)〜(4)に記載の事項が明らかになった。
(1)表5に示すように、本発明例の試料番号1〜4の試作パンチは、Ti、Cr、Alの窒化物又は炭窒化物を含む下部皮膜層4を1層からなる基本構成とした例であるが、その鍛造寿命は4〜7万ショットであった。これに対して、Ti又はCrを含まない比較例となる試料番号5と試料番号6、及びCrとAlを含まない比較例となる試料番号7の鍛造寿命は2万ショット以下であった。これら比較例の試作パンチでは、鍛造時の繰返し応力によって円弧形状面部の円弧半径からベアリング部にかけて硬質皮膜層(下部皮膜層や表面皮膜層)にクラックや剥離が生じ、このクラックや剥離を起点としたベアリング部の異常摩耗が生じていた。この異常摩耗により、鍛造寿命が2万ショット以下になったと考えられる。
このように、試料番号1〜4の試作パンチは、比較例となる試料番号5〜7と比較して2倍以上の鍛造寿命が得られた。また、試料番号1〜4の試作パンチの2万ショットにおける損傷形態の観察結果から、円弧形状面部の円弧半径からベアリング部にかけて硬質皮膜層(下部皮膜層や表面皮膜層)にクラックや剥離が生じておらず、ベアリング部の硬質皮膜層3に均一な円周状の摩耗が生じているのみであった。
さらに、試料番号1〜3において、下部皮膜層4のTi、Cr、Alの含有量が鍛造寿命に及ぼす影響を比較してみると、次のことが明らかになった。
試料番号1〜3の下部皮膜層4においてCrの原子比は、表1に表示されているように、それぞれ0.05、0.15、0.25であり、これら試料番号1〜3の鍛造寿命はそれぞれ、試料番号1は4万ショット、試料番号2、3は7万ショットであった。これより、表面皮膜層5直下の下部皮膜層4においてCr含有量が高いほど、硬質皮膜層3のクラックや剥離が減少し、鍛造寿命が長くなる傾向がみられた。
一方、Crの原子比が0.05である試料番号4は、下部皮膜層4と表面皮膜層5が炭窒化物からなる試料(表1、表2参照)であるが、試料番号1に比べて鍛造寿命は7万ショットであった。試料番号4の試作パンチで冷間鍛造した押出し成形品55の円筒部55aの内径部には光沢が観察されており、炭窒化物を含んでいることから耐付着性が向上して、パンチの耐久性である鍛造寿命が7万ショットになったと推測される。
上記した耐久性評価の実験結果から、金型表面にTi、Cr、Alの窒化物又は炭窒化物からなる下部皮膜層4を形成し、この下部皮膜層4の直上にTi、Siの窒化物又は炭窒化物からなる表面皮膜層5を被覆したパンチとすることで、硬質皮膜層3の耐クラック性と耐剥離性が向上し、その結果として耐摩耗性が向上した冷間用金型が得られることが判明した。特に、表面皮膜層5の直下に被覆された下部皮膜層4にCrを一定量含んでいることが鍛造寿命の向上に重要であることが推測された。
(2)本発明例の試料番号8〜13は、下部皮膜層4を多層構造である第1層、第2層、第3層の3層から構成し、これら各層の組成または膜厚を変化させて成膜した試作パンチである。これら試料番号8〜13の試作パンチは、表5に示すように10〜18万ショットの鍛造寿命が得られた。下部皮膜層4を第1層、第2層、第3層の3層からなる多層構造とし、さらに各層は所定の組成を有する多層構造とすることで、硬質皮膜層3の耐クラック性と耐剥離性が向上し、異常摩耗の発生がさらに抑制され耐摩耗性も向上して、試料番号1〜4の試作パンチと比較してさらに鍛造寿命が向上することが判明した。
特に、第1層6のCr含有量がTi、Al含有量に比べて低いほど、また第3層8のCr含有量が第1層6のCr含有量、第3層8のTi含有量よりも高く、かつ、Al含有量が高いほど、さらに、第2層7は第1層6と第2層8の略中間組成とした皮膜層とすることにより試作パンチの鍛造寿命が長くなり、好ましい組成構成であることが判った。つまり、第1層6のTi、Cr、Alの原子比は、0.5≦a1≦0.6、0<b1≦0.1、0.3<c1≦0.5であり、第3層8のTi、Cr、Alの原子比は、0<a3<0.5、0.1<b3≦0.3、0.5<c3<0.7であり、第2層7は第1層6と第3層8の略中間組成比であることがより好ましい組成構成である。
(3)試料番号14の試作パンチは、下部皮膜層4を2層の多層構造から構成した試料であるが、下部皮膜層4を3層の多層構造にした試料番号8(鍛造寿命:18万ショット)と比較して鍛造寿命が8万ショットに低下している。おなじく、試料番号15の試作パンチは、2層の多層構造から構成した試料であるが、試料番号8の鍛造寿命18万ショットと比較し鍛造寿命が低下している。同様に、試料番号16の試作パンチも2層の多層構造から構成した試料であるが、試料番号8と比較して鍛造寿命が低下している。しかしながら、試料番号14〜16の試作パンチは、比較例となる試料番号5〜6の試作パンチと比較して2倍以上の鍛造寿命が得られた。
上記した試料番号1〜4、及び試料番号8〜13の試作パンチの鍛造寿命の結果から、下部皮膜層4を第1層、第2層、第3層の3層からなる多層構造として、各層を所定の成分と膜厚とすることにより、2層の多層構造とした下部皮膜層4と比較して、さらに耐摩耗性が向上し、格段に優れた冷間用金型が得られることが判明した。
(4)試料番号17〜24は、3層の多層構造からなる下部皮膜層4のうち、第2層7をD層7aとF層7bを交互に積層した積層構造からなる試作パンチであって、D層7aとF層7bの組成または膜厚を変化させて成膜した試料である。これら試料番号17〜24の鍛造寿命は、表5に示すように、下部皮膜層4を3層の多層構造とした試料番号8〜13の鍛造寿命が10〜18万ショットであることと比較して、20〜35万ショットの鍛造寿命となり、さらに優れた耐久性を示した。
(4a):試料番号17、23、24において、D層7aとF層7bの単一の膜厚を変化させることで、鍛造寿命に及ぼすD層7aとF層7bの単一の膜厚の影響を比較した。D層7aとF層7bの単一の膜厚が0.02μm未満からなる試料番号17はより損傷形態が安定しており鍛造寿命が格段に良い結果となった。試料番号23、24はD層7aの単一の膜厚が64nm、128nmであるが、略同一組成の試料番号8と比較して、D層7aとF層7bの皮膜層を交互に積層した積層構造による鍛造寿命の改善効果が得られていないことから、D層7aとF層7bの単一の膜厚を0.02μm未満とすることが本発明の好ましい構成であることが判明した。
(4b):試料番号17〜19において、D層7aとF層7bの単一の膜厚を0.02μm未満とし、D層7aとF層7bの膜厚比を変化させることで、鍛造寿命に及ぼすD層7aとF層7bの膜厚比の影響を比較してみた。その結果、D層7aの単一の膜厚がF層7bの単一の膜厚よりも厚い試料番号17が35万ショット、D層7aとF層7bの単一の膜厚が同程度の試料番号18が27万ショット、D層7aの単一の膜厚がF層7bの単一の膜厚よりも薄い試料番号19が24万ショットとなり、D層7aの単一の膜厚をF層7bの単一の膜厚よりも厚くすることがより好ましい構成であることが判明した。
(4c):試料番号17、20〜22において、D層7aとF層7bを交互に積層した積層構造の組成を変化させることで、鍛造寿命に及ぼす皮膜組成の影響を比較した。D層7aのTiの原子比をa(D)、F層7bのTiの原子比をa(F)としたとき、a(D)>a(F)を見たし、さらにa(D)/a(F)値が高いほど、鍛造寿命が良く、且つ、F層7bのCrとAl含有量が高い試料番号17が特に鍛造寿命が良い結果となった。
以上のことから、下部皮膜層4を3層の多層構造とし、その多層構造うち、第2層7をD層7aとF層7bからなる交互の積層構造とすることにより、試作パンチの鍛造寿命をさらに格段に向上させることが判明した。
[試作ダイスの耐久性についての考察]
試料番号8、試料番号5、試料番号8、及び試料番号17の4種の試作ダイスについてその耐久性評価(鍛造寿命)の結果を表5に示している。この4種の試作ダイスの鍛造寿命から次の事項が判明した。
(1)試料番号1に記載の下部皮膜層4を成膜した試作ダイスは、Ti、Cr、Alの窒化物からなる下部皮膜層4を被覆した本発明例に係る試料であって、鍛造寿命が8万ショットになり、Crを含有しない比較例となる試料番号5の試作ダイスに比べて2倍以上の鍛造寿命が得られた。
(2)試料番号8の試作ダイスは、下部皮膜層4を3層の多層構造となる第1層6、第2層7、第3層8を有する皮膜層として成膜した試料であるが、上記した試料番号1の試作ダイスと比べて、3倍以上の鍛造寿命となる25万ショットが得られ、より好ましい本発明に係るダイスの被覆構造であることが判明した。このことから、下部皮膜層4を多層構造とした試作ダイスは、前記した試作パンチと同様に、下部皮膜層4を1層から構成した試作ダイスと比較して、その鍛造寿命が一段と向上することが判明した。
(3)本発明例に係る試料番号17の試作ダイスは、下部皮膜層4のうち第2層をD層7aとF層7bの交互積層構造として成膜した試料であるが、本発明例となる試料番号8に係る試作ダイスと比較して、さらに2倍以上の鍛造寿命となる62万ショットが得られ、一段と好ましい本発明の実施形態であることが判明した。
以上に説明した本発明の実施形態及び実施例においては、本発明に係る硬質皮膜層を形成した冷間用金型の例として、冷間鍛造用金型に使用するパンチであって、長手方向と直交す方向の断面形状が円形をなし、その先端部に、被加工物に対して塑性加工の圧縮応力を集中して作用させるための上端部(円錐状部)を備えた、後方押出し成形用のパンチを例にして説明した。
本発明に係る硬質皮膜層を形成した被覆冷間用金型は、後方押出し成形用金型の他に、前方押出し成形用金型、据込み加工用金型、打ち抜き加工用金型、圧印加工用金型、各種のプレス成型用金型や、各種のパンチやダイスも含む。例えば、本発明の冷間用金型は、断面形状が四角形、六角形等の多角形状や、楕円形状、ギヤ型の形状等の鍛造成形製品の内径形状に応じたパンチも含むものである。断面形状が六角形をなすパンチやダイスは、ボルトやナット等の成形用パンチとして使用できる。
このように、本発明に係る硬質皮膜層を形成した冷間用金型は、上記した各種のパンチ、ダイスに限定されるものではなく、一般にポンチやピンといわれている塑性加工用治具、これらパンチ、ポンチ、ピンと組み合せて使用されるダイス、又はダイ等を含むものである。また、その材質は鉄基合金、高速度工具鋼、超硬合金等、各種のセラミックス等を利用することができる。
なお、上記した本発明の実施形態及び実施例においては、下部皮膜層4をパンチ及ダイスの基材の表面の直上に成膜する例について説明したが、下部皮膜層4と金型の基材との密着性を向上させる等のために、パンチ及ダイスの基材の表面直上に、Ti、Cr、Al、の1種又は2種以上の窒化物又は炭窒化物からなる皮膜層を1層以上形成し、この皮膜層の直上に下部皮膜層4を成膜してもよい。さらには、表面皮膜層5の直上に、外観色調整や表面皮膜層5より耐酸化性の高い皮膜層として、Ti、Cr、Al、Si、Nbの1種又は2種以上の窒化物又は炭窒化物からなる皮膜層を1層以上形成しても良い。
1:被覆冷間用金型
2:基材
3:硬質皮膜層
4:下部皮膜層
5:表面皮膜層
6:第1層
7:第2層、7a:D層、7b:F層
8:第3層
20:パンチ
22:機能部
23:上端部
24:ベアリング部
25:径縮小部
26:逃げ部
28:円弧形状面部
30:ダイス
31:ニブ
32:ケース
33:ニブ内周部
34:空間部
35:機能部
40:成膜装置
41:チャンバー
42a、42b、42c、42d:カソード
43:基材ステージ
44:パンチの基材
45:アーク電源装置
46:バイアス電源装置
50:冷間鍛造装置
51:試作パンチ
52:試作ダイス、52a:ニブ、52a1:ニブ内周部、52b:ケース、52c:空 間部
53:下受けパンチ
55:押出し成形品、55a:円筒部、55b:底部
56:被加工物

Claims (4)

  1. 基材の表面に、Ti、Cr、Al、Siの窒化物又は炭窒化物からなる硬質皮膜層を被覆した冷間用金型であって、前記硬質皮膜層は、Ti、Cr、Alの窒化物又は炭窒化物からなる下部皮膜層と、Ti、Siの窒化物又は炭窒化物からなる表面皮膜層を備え、前記下部皮膜層は、前記表面皮膜層よりも前記基材の表面側に成膜されている被覆冷間用金型において、
    前記下部皮膜層は、その組成が一般式:TiaCrbAlc(CuNv)(ただし、a、b、c、u、vは、それぞれTi、Cr、Al、C、Nの原子比を示す)で表され、
    前記a、b、c、u、vは下記の条件:
    0<a≦0.6、
    0<b≦0.3、
    0.3<c<0.7、
    0≦u≦0.5、
    0<v≦1、
    a+b+c=1、
    u+v=1、を満たしているとともに、
    前記下部皮膜層は、前記基材の表面側から前記表面皮膜層側に向けて、順次、Ti、Cr 、Alの原子比が異なる皮膜層を少なくとも2層以上有する多層構造をなしていることを特徴とする被覆冷間用金型。
  2. 請求項1に記載の被覆冷間用金型において、前記多層構造は、前記基材の表面側から前 記表面皮膜層側に向けて、順次、第1層、第2層、第3層からなる3つの皮膜層から 構成 されており、
    前記第1層のTi、Cr、Alの原子比を、それぞれa1、b1、c1、
    前記第2層のTi、Cr、Alの原子比を、それぞれa2、b2、c2、
    前記第3層のTi、Cr、Alの原子比を、それぞれa3、b3、c3、としたときに、 前記Ti、Cr、Alの原子比は、
    a1>a2>a3、
    b3>b2>b1、
    c3>c2>c1、
    を満たしていることを特徴とする被覆冷間用金型。
  3. 請求項2に記載の被覆冷間用金型において、前記多層構造をなす前記第2層は、D層と F層からなる皮膜層を交互に積層した積層構造をなし、
    前記D層及び前記F層は、0.02μm未満の膜厚を有しているとともに、前記D層のT iの原子比をa(D)、前記F層のTiの原子比をa(F)、としたときに、
    a(D)>a(F)、
    を満たしていることを特徴とする被覆冷間用金型。
  4. 請求項3に記載の被覆冷間用金型において、前記D層の膜厚は、前記F層の膜厚と同じ 、もしくは、前記F層の膜厚よりも厚くなるように成膜されていることを特徴とする被覆冷間用金型。
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