(第1の実施形態)
テラヘルツ波を発振する発振器は、負性抵抗素子及び分布定数型の共振器を有する発振素子と、負性抵抗素子にバイアス電圧を供給する電源と、を有する。電源からのバイアス電圧は、電線と導体とを含むバイアス供給部を介して負性抵抗素子に供給される。テラヘルツ波の発振器における寄生的な低周波発振(寄生発振)は、このバイアス供給部に伴う構造によって発生することが多い。それゆえ、本実施形態の発振素子100では、バイアス供給部に特徴を持たせている。すなわち、バイアス供給部の一部が、分布定数型の共振器110の一部に含まれており且つ容量結合している構造を採用する。
具体的には、共振器110は、2つの導体104、106が容量結合している二導体型の共振器である。共振器110を共振するテラヘルツ波から見ると、これらは一体の共振器を成している。こうした構造は、発明者らによる鋭意研究の結果によるものであって、本実施形態の構成に至る過程を以下、図2を参照して説明する。
図2(a)は一導体で構成された共振器2の構成の概略図及び共振器2のインピーダンスプロットで、図2(d)は共振器2のスミスチャートである。一導体で構成された分布定数型の共振器2のインピーダンスは、図2(a)に示したようにDC極限においてゼロとなる。図2(d)のスミスチャートにおいて、共振器2におけるインピーダンスは周波数の増加とともに右周りとなるため、次の共振点は共振器2の最低次の並列共振点11である。
共振器2の並列共振点11は、発振素子又は発振器が発振する電磁波の発振周波数foscそのものである。こうしたことから、DC以上fosc未満の広い帯域において位相が整合することはなく、この周波数領域で発振不可である。ゆえに、寄生的な低周波発振はあり得ないものと考えられる。ただし、負性抵抗素子1の両端が、電位を同じくするひとつづきの導体なのでバイアス電圧をかけられない。
図2(b)は二導体を有する分布定数型の共振器3の概略図及び共振器3のインピーダンスプロットで、図2(e)は共振器3のスミスチャートである。図2(e)に示した共振器3のインピーダンスプロットから分かるように、共振器3のインピーダンスはDC極限において∞となる。したがって、DC以上fosc未満の広い帯域において、図2(e)のスミスチャートに示したように、意図しない共振回路のループ20が発生する。これは、典型的には、二導体間の寄生容量あるいは負性抵抗素子1の固有の接合容量、図示しないバイアス供給部の配線又は電線などのインダクタンスなどによって発生する。ループ20は、通常、並列共振点21を含むので寄生的な低周波発振が誘発される。ただし、負性抵抗素子1の両端は、電位の異なる2つの導体なのでバイアス電圧をかけることはできる。
図2(c)は、容量結合した二導体を有する分布定数型の共振器4であり、本実施形態の構成における基本となる構造である。図2(c)は、本実施形態の共振器4の概略図及び共振器4のインピーダンスプロットで、図2(f)は共振器4のスミスチャートである。
図2(f)に示したように、共振器4のインピーダンスはDC極限において∞となるものの、容量結合している2つの導体間の容量C→∞とすることで共振器2と近い状況となる。正確には2つの導体のインダクタンスL1と、容量Cとで形成する直列共振周波数f1(以下、「周波数f1」と呼ぶ)を十分に低くすることで、共振器2に近い状況となる。周波数f1は、(1)式で表される。
f1=1/{2π√(L1C)} (1)
現実には、容量C→∞は難しいが、課題であった寄生発振を抑制させる周波数領域をDC以上fosc未満からより狭く制限することが可能である。つまり、f1以上fosc未満の帯域で位相が整合することはないので、寄生発振を抑制すべき周波数領域をDC以上f1未満に絞り込むことが出来る。狭い周波数領域であれば、図2(f)のスミスチャート上のループ22を制御することが容易となり、DC以上f1未満における共振点を消去することは容易である。もちろん、負性抵抗素子1の両端は、電位の異なる2つの導体が配置されているのでバイアス電圧をかけることができる。
そこで、図2(c)のような共振器4において、周波数f1をあらかじめ決めておいた所定の周波数未満に設定する。これは容量結合の大きさを調整することで達成することができる。以降、共振器4の構成及び周波数f1を所定の周波数未満に設定する方法について説明する。
図1は、発振素子(半導体ダイ)100の断面図である。
発振素子100は、負性抵抗素子101(以下、「素子101」)と共振器110とを有する。素子101及び共振器110は、基板上(基板105上)に配置されている。共振器110は、第一の導体層102(以下、「導体層102」)及び第二の導体層103(以下、「導体層103」)を備える第一の導体106(以下、「導体106」)と、第三の導体層を備える第二の導体104(以下、「導体104」)と、を有する。素子101は、導体106及び導体104のそれぞれと電気的に接続されている。導体104、106は、複数の導体層を有していても良いし、それぞれ1つの導体から形成されていてもよい。また、導体104と基板105とが一体となっていてもよい。なお、本実施形態の導体104は、第三の導体層のみで構成されているため、以降の説明では、導体104のことを導体層104と呼ぶことがある。
本明細書の「共振器」は、基板105上に配置されている導体104と導体106のうち、導体104及び導体106によって共振領域を形成している部分と、導体104と導体106とが対向して容量結合している部分と、を共振器110とする。本実施形態では、共振器110は、電磁波が共振する共振領域108を形成している部分と、導体層103と導体層104とが対向している部分と、を有する。そのため、導体104は、共振器110より外側にも存在する。なお、導体106と導体104及び基板105との間は、空洞でも良いし、誘電体を有していても良い。
基板105は導電性基板で、発振素子100を作成するのに必要十分な大きさにカットされた半導体ダイである。基板105は、基板105上の導体層104と接しており、素子101へバイアス電圧をかけることができる。導体層102と導体層103とは、電気的に短絡して接続されており、素子101のもう一極にバイアス電圧をかける。導体層102と導体層103とは、電位を同じくするひとつづきの導体として扱うことができ、素子101のもう一極にバイアス電圧を供給できる。
共振器110には、導体106と導体104とに囲まれた共振領域108が形成されている。共振領域108は空洞で、素子101から発振したテラヘルツ波が共振する。なお、共振領域108は、空洞に限らず誘電体が充填されている等、分布定数型の共振器であればよい。共振器110は、導体106と導体104とのインダクタンスL1を持つ。インダクタンスL1は、主に、領域108の側面を形成する導体層102のうち相対的に細長い部分に起因したインダクタンスである。
本実施形態では、主たるインダクタンスは導体層102で発生するが、インダクタンスは細長い導体の形状に起因するため、導体層103、104に細長い部分があればインダクタンスはその直列の和となる。ゆえに、以降、インダクタンスL1をひとまとめに「共振器のインダクタンス」と呼ぶことがある。
また、導体106と導体104とが容量結合している。具体的には、1μm以下の間隔で対向して配置されている導体層103と導体層104とが容量結合している。本実施形態の共振器110は、導体106と導体104との間に比較的大きな容量Cを有している。したがって、素子101の両極の間に、インダクタンスL1と容量Cとを直列に備えている。
典型的な素子101は、並列共振周波数(発振周波数)fosc(以下、「周波数fosc」と呼ぶ)で発振する。この並列共振をもたらす構造が、分布定数型の共振器110である。また、素子101は、導体層102に起因した共振器110のインダクタンスL1と、導体層103と導体層104との間の容量Cと、によって規定される周波数f1では発振しない。
共振器110の構造のインピーダンスは、周波数軸上において直列共振と並列共振とを交互に繰り返すことから、同構造の周波数f1以上、周波数fosc未満においては、原理的に位相が整合することがない。すなわち、本実施形態の発振素子100は、所望の周波数foscにおける発振を減衰させることなく、f1以上fosc未満の周波数領域の寄生発振を抑制できる。これは、上述の図2の説明で述べたとおりである。
周波数f1は、配線に起因する寄生発振の周波数未満に設定する。これは、寄生的な低周波発振の原因となるバイアス供給部に伴う構造が、電源131から発振素子100への電線132と、発振素子100の配線とに概ね二分割できるからである。なお、本明細書における「配線」は、電源131からのバイアス電圧が電線132を介して発振素子100に供給されてから素子101に供給されるまでの間に通る導体のことである。本実施形態では、導体104、106を指す。なお、本実施形態では、電源131からのバイアス電圧を、電線132を介して発振素子100に用いて電気的に接続しているが、これに限定されず、電源131と発振素子100とを電気的に接続する導体を有していればよい。すなわち、電線に限定されず、板状等でもよい。
電線132は、その長さに比例したインダクタンスまたは分布定数回路に起因して、主に10MHz以上の寄生発振を生じさせる。これは、電線132の長さが数mmから数mあるからで、数mの電線は10MHz程度の分布定数型の共振器となる。配線は、発振素子100の配線の長さに比例したインダクタンスまたは分布定数回路に起因して寄生発振を生じさせる。寄生発振の周波数は、配線の長さを、発振素子100の作成に必要十分な大きさの半導体ダイ(基板105)の対角線の長さと近似した場合、配線における電磁波の速度Cを半導体ダイ105の対角線の長さdで割った値(C/d)以上となる。配線における電磁波の速度Cは真空中の電磁波の速度C0より遅い。配線が半導体ダイ105の表面に位置する場合の電磁波の速度Cは、半導体ダイ105の比誘電率をεrとすると、(2)式で表される。
このように、配線に起因した寄生発振は発振素子100の大きさによって異なるため、半導体ダイ105における発生し得る寄生的な分布定数型の共振周波数未満となるように、周波数f1を適宜決定することが望ましい。周波数f1は、(3)式を満たすように設定する。
例えば、発振素子100が20mm角以下の半導体ダイを有する場合、配線の長さをその対角線の長さと同じと仮定すると、3GHz程度かそれ以上の分布定数共振器となる。テラヘルツ波を発振する発振素子の場合、典型的には大きくても20mm角以下の半導体ダイを有するため、周波数f1は3GHz未満に設定することが望ましい。
バイアス供給部の一部を有する共振器110として、導体104と導体106とが容量結合している構造を用い、周波数f1を周波数f2未満に設定すれば、後者の寄生発振を発振不可とすることができる。そのため、周波数f1は周波数f2未満であればどのように設定してもよい。また、本実施形態のように導体層103と導体層104とを基板105上に対向するように配置する場合、同一の基板105上に集積できる容量は最大でも100nF程度である。そのため、周波数f1は100MHz以上を選択することが望ましい。本実施形態では、周波数f1を1GHz程度に設定する場合を例に述べる。
周波数f1を低くする方法としては、共振器110が有する容量Cを大きくする方法がある。共振器110の構成や領域108の形状にはよるものの、典型的には、最低次の周波数foscが0.1THz以下の共振器に対しては、容量Cは0.1nF以上あれば、周波数f1=1GHz程度を達成できる。また、周波数foscが1THz以下の共振器に対しては1nF以上、周波数foscが10THz以下の共振器に対しては10nF以上あれば、周波数f1=1GHz程度を達成できる。
これは、共振器110を成す2つの導体104、106のインダクタンスが、その構成や形状にはよるものの、SI単位系で、周波数foscの逆数のオーダーとなるからである。つまり、周波数foscが0.1THzの共振器110であれば10pHオーダー、周波数foscが1THzの共振器110であれば1pHオーダーである。また、周波数foscが10THzの共振器110であれば0.1pHオーダーであり、並列共振周波foscに依存して必要な容量Cは異なる。
本実施形態の発振素子100を用いた発振器150について、図3を参照して説明する。図3は、発振器150の構成を説明する図である。発振素子100を用いることにより、f1以上fosc未満の寄生発振を抑制できる。さらに、発振器150は、DC以上f1未満の周波数領域における寄生発振を抑制する構成を備える。
発振器150は、発振素子100と電源回路130(以下、「回路130」と呼ぶ)とを有する。回路130は、発振素子100にバイアス電圧を供給する電源131と、電線132とを有し、DC以上f1未満、特に10MHz以上f1未満の周波数領域で寄生発振を引き起こすおそれがある。本実施形態では、発振素子100から見て電源側に向かってf1=1GHzに対応する波長の1/4以下、つまり7.5cm以下の電線の位置にシャント整流ダイオード(シャント素子)133(以下、「ダイオード133」と呼ぶ)を配置する。換言すると、ダイオード133と電線132とを、電源131と発振素子100との間で接続している。電線132と発振素子100とが接続されている位置とダイオード133との間の電線132の長さが、7.5cm以下である。
この方法を利用すると、DC以上f1未満の周波数領域における寄生発振の振幅を減衰させることができる。ダイオード133の挿入は、図2(f)におけるスミスチャート上のループ120の並列共振点における共振のQ値を下げることと等価である。その結果、ループ120は同チャート上の左側に寄る。そのため、本実施形態の発振器150では、所望の周波数foscのテラヘルツ波の振幅を減衰させることなく、寄生的な低周波発振のみを抑制できる。整流ダイオードに限ることはなく、抵抗器などを有するシャント素子であれば同じ効果を持たせることが出来る。
あるいは、f1=1GHzに対応する波長の1/4より十分小さい7.5cm以下の短い電線(不図示)を用いた発振素子100と電源回路130とをモジュール化した発振器(不図示)を構成しても良い。この方法でも、所望の周波数foscのテラヘルツ波の振幅を減衰させることなく、寄生的な低周波発振を抑制することが出来る。DC以上f1未満の周波数領域における寄生発振を抑制する方法はこれに限ることはなく、さまざまな方法が適用できる。
以上、第1の実施形態の発振素子100、及びその発振素子100を用いた発振器150について説明した。発振素子100によれば、寄生発振を減衰させる周波数範囲を従来よりも狭くできる発振素子および発振器を提供できる。特に、発振素子100は、周波数f1以上周波数fosc未満の寄生発振を抑制できる。すなわち、本実施形態の発振素子を用いて発振器を構成すれば、発振素子によってf1以上fosc未満の寄生発振が抑制されるため、電源回路の構成などによって寄生発振の振幅を減衰する帯域が狭くなる。そのため、寄生発振の抑制が容易になり、所望の周波数foscにおける発振の減衰をさらに抑制できる。
(第2の実施形態)
本実施形態に係る発振素子200については、図4を用いて説明する。図4は、発振素子(半導体ダイ)200の断面図を表す。
発振素子200は、負性抵抗素子201(以下、「素子201」)と、共振器210と、を有する。素子201及び共振器210は、基板205上に配置されている。共振器210は、第一の導体層202(以下、「導体層202」)及び第二の導体層203(以下、「導体層203」)を含む第一の導体206(以下、「導体206」)と、第三の導体層を備える第二の導体204(以下、「導体204」)と、を有する。素子201は、導体204、206のそれぞれと、電気的に接続している。なお、以降の説明では、導体204のことを導体層204と呼ぶことがある。
基板205は、導体層204と接している。導体204を介して素子201の一極へバイアス電圧が供給される。導体層202と導体層203とは、電気的に短絡して接続されており、素子201の他の一極をなす。すなわち、導体層202、203は、電位を同じくするひとつづきの導体として扱うことができ、この導体206を介して素子201のもう一極へバイアス電圧を供給する。
共振器210は、導体層202、導体層203、導体層204によって囲まれて形成される領域208を有する分布定数型の共振器である。なお、領域208は、空洞であってもよいし、誘電体が充填されていてもよい。分布定数型の共振器のなかでも、本実施形態は、導体層202と導体層204とに挟まれている素子201が、図4の紙面に垂直な方向に伸びた導波路型の共振器を形成するものである。
ゆえに、素子201の接合容量Cdと素子201の負性微分抵抗−Rd(Rd>0)との積を変えることなく、導体層202に起因した共振器のインダクタンスL1及び直列抵抗Rsを第1の実施形態と比較して小さくできる。ただし、発振素子の全体の構造を集中定数素子で表すことができる低周波領域において、振幅減衰の十分条件である(4)式を満たすのは、次のような理由で難しい。なお、(4)式は、微分方程式を解くことにより得られる。
Rd>Rs>L/CdRd・・・ (4)
素子201の種類にもよるが、テラヘルツ波を発振する発振素子の典型的な素子において、その形状に依らないCdRd積は、エサキダイオードで10−11sec程度、共鳴トンネルダイオード10−12sec程度となる。また、導波路型の共振器210の場合の典型的な直列抵抗Rsは、典型的には0.1から1Ω程度である。ゆえに、素子201が共鳴トンネルダイオードの場合、共振器210のインダクタンスL1は10−12H以上10−13H以下、エサキダイオードで10−11H以上10−12H以下が要求される。しかし、このような小さなインダクタンス構造を設計するのは容易ではない。
しかしながら、(4)式を満たさずとも、対向する導体層203と導体層204との間の容量Cでデカップリングし、素子201から見てその内側の共振器210の部分を後述のような構成にすればよい。
導体層202、203、204それぞれのインピーダンスは、周波数軸上において直列共振と並列共振とを交互に繰り返す。そのため、共振器210の周波数f1以上、周波数fosc未満においては原理的に位相が整合することはない。そのため、f1以上fosc未満の周波数領域において、寄生発振が抑制される。これは、第1の実施形態の図2を参照した説明で述べたとおりである。したがって、DC以上f1以下の周波数領域において、共振器210を含まない電源側の集中定数回路の部分に低周波領域における振幅減衰の十分条件を満たす構成とすれば、結果としてDC以上fosc未満の周波数領域における寄生発振を抑制できる。
本実施形態では周波数f1を200MHz以下に設定する。これは、電源回路を分布定数回路としてではなく集中定数素子とみなせる周波数の上限が200MHzだからである。
周波数f1の値が低いため、要求される容量Cは比較的大きい。本実施形態の共振器210は、図4の紙面に垂直な方向に伸びている導波路型の構造であるため、対向に配置されることによって容量結合している導体層203と導体層204との間に、比較的大きな容量Cを形成しやすく、本実施形態に適している。第1の実施形態と同様、同一の基板205上に集積できる容量は最大でも100nF程度であるから、周波数f1は100MHz以上とすることがさらに望ましい。
本実施形態の発振素子200を用いた発振器250について、図5を参照して説明する。図5に、発振器250の構成を示す。発振器250は、発振素子200と電源回路230(以下、「回路230」と呼ぶ)とを有する。回路230は、電源231と電線232とを含み、DC以上f1未満の周波数領域のうち特に10MHz以上の周波数領域で、寄生発振を引き起こす可能性がある。
そこで、本実施形態では、発振素子200と電源231とを接続する電線232にシャント素子を接続して寄生発振を抑制する。共振器210を十分に小さいと考えられる波長領域、すなわち全体の構造を集中定数素子で表すことができる低周波領域において、(4)式の振幅減衰の十分条件を拡張すると(5)式のように表される。
Rd>Rs2>L2/(Cd+C)Rd・・・ (5)
導体層202に起因する共振器210の直列抵抗RsとインダクタンスL1とはそれぞれ、電線232の直列抵抗Rs2とインダクタンスL2とに置換される。素子201の接合容量Cdは、接合容量Cdと容量Cとの和、すなわちCd+Cへ置換される。デカップリング容量CはCdより圧倒的に大きいためCd+C=Cと近似する。
ここで、容量Cは導体層203と導体層204とが対向している部分の面積によって調整できる。また、素子201の導波路の幅によって、負性抵抗−Rd(Rd>0)を調整することができる。そのため、発振素子200の設計によって、CRd積を10−7secにするなど大幅に遅延させることができる。また、直列抵抗Rs2が0.1Ωの電線232を用いると、電線232のインダクタンスL2への要求は、10−8H以下となる。このような直列抵抗Rs2及びインダクタンスL2を持たせた電線232の設計は容易である。
(5)式に示した振幅減衰の十分条件を満たせば、図2(f)におけるスミスチャート上のループ22は小さくなり、また、同チャート上の左側ないし下側へ寄る。すなわち、発振素子200を用いて発振器250を構成すれば、発振素子200によって周波数f1以上fosc未満の寄生発振が抑制される。そのため、寄生発振を減衰させる周波数範囲を従来よりも狭くできる発振素子および発振器を提供できる。
特に、発振素子100は、周波数f1以上周波数fosc未満の寄生発振を抑制できる。よって、本実施形態の発振素子を用いて発振器を構成すれば、発振素子によってf1以上fosc未満の寄生発振が抑制されるため、電源回路の構成などによって寄生発振の振幅を減衰する帯域が狭くなる。そのため、寄生発振の抑制が容易になり、所望の周波数foscにおける発振の減衰をさらに抑制できる。
(実施例1)
実施例1に係る発振器350について、図6を用いて説明する。図6(a)は発振器350の模式図、図6(b)は発振素子の断面図を表す。
発振器350は、負性抵抗素子301a、301bとして、共鳴トンネルダイオード(RTD:Resonant Tunneling Diodes)を用いる。本実施例では、分布定数型の共振器310を2つ用いるため、RTD301a、301bを2つ(301a、301b)備える。共振器310は、それぞれ、第一の導体306(以下、「導体306」と呼ぶ)と第二の導体304(以下、「導体304」と呼ぶ)とを有する。
第一の導体層302、第二の導体層303、第三の導体層(第二の導体)304は、それぞれ厚さ200nmのTi/Pd/Au金属を用いた金属層である。以降、それぞれ金属層(第一の金属層)302、金属層(第二の金属層)303、金属層(第三の金属層)304と呼ぶ。基板305は、導電性のn−InP基板である。導体304は、基板305上に金属層304が接して配置されており、RTD301a、301bそれぞれの一極へバイアス電圧を供給する。
導体304と対向して配置されている導体306は、金属層302と金属層303との間に誘電体ベンゾシクロブテン(BCB:Benzocyclobutene)32が配置されている。また、金属層302と金属層303とがBCBチャネル部315で電気的に短絡して接続されており、負性抵抗素子301の他の一極をなす。
2つの共振器310は、金属層302、303、304によって囲まれて形成される領域を有し、BCBチャネル部315に充填された金属によって隔てられている。共振器310それぞれの領域308が1つの分布定数型の共振領域となり、BCBチャネル部315と金属層302のBCBチャネル部315と反対側の端部との距離(共振器310の長さ)l1に応じて、l1=λ/4を満たす波長λの電磁波が共振する。
ここでの波長λは、真空中の波長λ0ではなく、BCB32の誘電率や金属層302、及び金属層303の形状の効果によって波長短縮効果を受けた実効的な波長である。したがって、共振領域308を囲む金属層302、303、金属層304は、逆Fアンテナ構造となる。2つの共振器310は、BCBチャネル部315を中心に互いに対称の形状をしているが、これは、ある一つの発振周波数で互いに連成振動させるためである。共振器310は、形状の異なる共振器を用いてもよいし、片側の共振器がなくてもよい。
本実施例では、金属層303と金属層304との間に、厚さ100nmの窒化シリコン(SiN)膜33を備え、容量Cを形成する。RTD301a、301bの両極の間には、金属層302に起因する共振器310におけるインダクタンスL1と、金属層303と金属層304との間の容量Cと、による周波数f1(f1=1/{2π√(L1C)})が存在する。周波数f1は、金属層303と金属層304とが重なりあう面積を調整することにより所定の周波数未満に調整できる。
RTD301a、301bそれぞれは、InP基板305上のInGaAs/InAlAs、InGaAs/AlAsによる多重量子井戸構造を有して構成される。多重量子井戸構造としては、ここでは三重障壁構造を用いる。より具体的には、AlAs(1.3nm)/InGaAs(7.6nm)/InAlAs(2.6nm)/InGaAs(5.6nm)/AlAs(1.3nm)の半導体多層膜構造で構成する。このうち、InGaAsは井戸層、格子整合するInAlAsや非整合のAlAsは障壁層である。これらの層は意図的にキャリアドープを行わないアンドープ層としておく。
この様な多重量子井戸構造は、電子濃度が2×1018cm−3のn−InGaAsによる電気的接点層に挟まれる。こうした電気的接点層間の構造の電流電圧I(V)特性において、ピーク電流密度は約280kA/cm2であり、約0.7Vから約0.9Vまでが負性微分抵抗領域となる。本実施例では、RTD301aとして直径2μmΦのメサ構造を用いる。各RTD301a、301bあたり、ピーク電流10mA、負性微分抵抗−20Ωが得られる。
金属層302は、逆Fアンテナを利用したテラヘルツ波の共振回路であって、本実施例では、共振周波数が約0.6THzに設計された共振器310の長さl1が75μm、これと垂直な方向(以降、縦方向と呼ぶ)の長さが150μmである。RTD301aは、BCBチャネル部315とから縦方向と直交する方向(以降、横方向と呼ぶ)にx=40μmだけ外側へ配置する。
BCB32の厚さは、本実施例では約3μmである。発振周波数foscは、テラヘルツ波帯で影響が大きくなるRTD301a、301bのリアクタンスの分だけ共振領域308それぞれにおける共振周波数からシフトし、約0.5THzである。以上に述べた寸法はいずれも設計要素であって、望む発振周波数fosc、パワー、電力効率などに応じて適宜、変更できる。
金属層303と金属層304とが重なりあう面積は、本実施例では約0.75mm×約0.75mmとする。こうした手段を用いて、金属層303と金属層304との間の容量C=約0.33nFを確保すると、上述の周波数f1=約3GHzとなる。こうして、発振素子300を用いた発振器350は、寄生発振を抑制するべき周波数領域をDC以上3GHz未満に絞りこむことができる。
発振素子300は次の作製方法で作製できる。まず、n−InP基板305上に、分子ビームエピタキシー(MBE)法や有機金属気相エピタキシー(MOVPE)法などによって、半導体多層膜をエピタキシャル成長する。すなわち、順に、n−InP/n−InGaAs、InGaAs/InAlAsによるRTD構造、n−InGaAsをエピタキシャル成長する。つぎに、RTD301を円形のメサ状にエッチングを行う。エッチングにはEB(電子線)リソグラフィとICP(誘導性結合プラズマ)によるドライエッチングを用いる。ホトリソグラフィを用いてもよい。
続いて、エッチングした面に、リフトオフ法によりTi/Pd/Au金属膜(第三の金属層)304を形成し、スパッタ法を用いて窒化シリコン膜100nmを成膜する。プラズマCVD法を用いて成膜すれば同時にRTD301における側壁の保護のためのパッシベーションにもなり好適である。さらにリフトオフ法によりTi/Pd/Au金属膜(第二の金属層)303を形成し、容量Cが完成する。容量には貢献しない不要な窒化シリコン膜は第二の金属層303と同様のパターンでエッチング除去する。
その後、誘電体としてのBCB32でRTD301の埋め込みを行い、RTD301の最表層が露出するまで平坦化する。続いて、BCBチャネル部315のみドライエッチングを用いて、Ti/Pd/Au金属膜(第二の金属層)303を露出させる。この際、ドライエッチングを用いてエッチングガスに酸素を混合しつつホトレジストを後退させながらエッチングするとBCBチャネル部315が順テーパー形状となる。最後に、リフトオフ法によりTi/Pd/Au金属膜(第一の金属層)302を形成し、誘電体BCB32を除去すれば本実施例の発振素子300は完成する。
発振素子300に電源回路330(以下、「回路330」と呼ぶ)を接続した発振器350は、第1の実施形態を用いるとよい。電源回路330に含まれる電源331は、RTD301a、301bの負性微分抵抗領域約0.7から約0.9Vにバイアスできるように約0.8Vの電圧源を用意する。電線332は、それぞれ、金属層303と金属層304とにワイヤボンディング等を用いて接続すればよく、接続箇所はどこでもよい。例えば、発振素子(半導体ダイ)の端付近に接続すればよい。
シャント抵抗器(シャント素子)333は、電線332と金属層303又は金属層304とが接続している位置から電源331側に向かって約2.5cm以内の位置に配置する。これをより容易に済ませるためには、接続位置付近の金属層303と金属層304との間に集積抵抗器を設けてもよい。シャント抵抗器333の抵抗値としては、二つの負性抵抗素子301a、301bの合成抵抗約−10Ωの絶対値と等しい約10Ωかそれ以下であれば、DC以上3GHz未満の周波数領域における寄生発振を確実に抑制できる。
発振素子300のシミュレーション計算結果を図7に示す。図7(a)は、RTD301a、301bの両端部より外側のバイアス供給構造を兼ねた共振器のインピーダンスを、約1GHzから約1200GHzまでプロットしたスミスチャートである。図7(b)は、図7(a)のスミスチャートの1GHz付近を拡大したものである。
図7(a)及び図7(b)から、スミスチャートのリアクタンス(インピーダンスの虚数部)がゼロの直線と共振器310のインピーダンスの周波数依存性を示す曲線との交点が3GHzであることが分かる。すなわち、共振器310の直列共振点は周波数約3GHzであり、次の共振点は、共振器310の最低次の並列共振点である周波数約0.6THzであることが分かる。シミュレーションは、三次元有限要素法のAnsys社高周波電磁界シミュレータHFSS ver.13を用いた。
本実施例の発振素子によれば、寄生発振を減衰させる周波数範囲を従来よりも狭くできる。
(実施例2)
実施例2に係る発振素子400及び発振器450については、図8を用いて説明する。図8(a)は発振器450を示す模式図、図8(b)は発振素子400の断面図を表す。
本実施例の負性抵抗素子401は、RTD(以下、「RTD401」と呼ぶ)である。実施例1と異なるのは、RTD401の形状が、メサ状ではなくストライプ状の格好をしている点である。本実施例では分布定数型の共振器410は、ストライプ状の素子401の長手方向(以降、縦方向と呼ぶ)に沿った利得導波路型の共振器であって、電磁波は共振器410に腹、節、腹などと定在波として分布している。端面は開放端のため、開放端に電磁波の電界の腹が定在する。
本実施例では両端が開放端なので、第一の金属層(第一の導体層)402(以下、「金属層402」と呼ぶ)の縦方向の長さをl3とすると、最低次の共振はl3=λ/2を満たす波長の電磁波である。2次の共振はl3=2×λ/2、3次の共振はl3=3×λ/2を満たす波長の電磁波で、次数が多くなるにつれて共振周波数が高くなる。
それ以外の構成部品である金属層402、第二の金属層(第二の導体層)403(以下、「金属層403」と呼ぶ)、第三の金属層(第三の導体層)404(以下、「金属層404」と呼ぶ)、n−InP基板405は、実施例1と同様である。第2の実施形態のように2つの金属層に挟まれたRTD401を用いてもよく、その際の基板405はRTD401とは格子整合系でなくてもよい。
金属層402と金属層403とが、誘電体としてのBCB42を挟み、かつ、BCBチャネル部415、416で電気的に短絡して接続されている。波長λは、真空中の波長λ0ではなく、BCB42の誘電率や金属層402、金属層403の形状の効果によって波長短縮効果を受けた実効的な波長である。
共振器410は、利得導波型であるため、金属層402、金属層403の形状依存性の他、RTD401の半導体多層膜にも依存し、比較的強い波長短縮効果がある。これは、導波モードとして、RTD401内におけるTM0モードすなわち準TEMモードが選択されるからである。本実施例の場合、共振器410はBCB42で満たされており、また、BCBチャネル部415、416で閉じられている。したがって、BCB42が充填されている領域では磁力線が縦方向に成分Hzを持つTEモードとなる。
それゆえ、RTD401とBCBチャネル部415、416との距離l2は次のようにして設計する。まず、磁力線の縦方向成分Hz及び電気力線の上述の縦横に直交する成分Exは、BCB42が充填されている側壁領域では(6)式、(7)式のように表すことができる。ここで、負性抵抗素子401の長手方向(縦方向)をz方向、これを直交する方向(横方向)をy方向とする。(6)式、(7)式は、縦方向成分Hz及び成分Exを、虚数単位をj、電磁波の振動数をω、時間tによる時間振動成分をexp(jωt)、y方向の波数をβy、z方向の波数をβzとして、係数A、Bを伴った一般解形式で表したものである。
Hz=Aexp(jωt+jβzz+jβyy)+Bexp(jωt+jβzz−jβyy)・・・ (6)
Ex=ωμβy/(k0 2−βz 2)×{Aexp(jωt+jβzz+jβyy)+Bexp(jωt+jβzz−jβyy)}・・・ (7)
なお、本実施例では、構造はy方向に対称のため、A=Bである。(6)式及び(7)式より、y方向の波数βyは、z方向の波数βzと(8)式に示す関係がある。βy 2=k0 2−βz 2・・・ (8)
波長短縮βz/k0が比較的大きな本実施例の場合、右辺第1項は第2項より十分小さいため、(9)式のように表すことができる。
βy 2=−βz 2・・・ (9)
それゆえ、y方向の電磁波の広がりは、z方向の波数を用いて1/βz程度となるため、l2>1/βzと設計すると望むβzの導波モードでの発振が可能になる。最低次の共振の場合、l3=λ/2=π/βzであるから、l2>l3/πとなる設計が望まれる。典型的なアスペクト比はl2:l=1:3以下となる。このように、l2を小さく設計することは出来ないためインダクタンスL1には下限があるが金属層403と金属層404とが重なりあう面積を調整することにより、周波数f1を調整することはできる。
本実施例では、発振周波数0.3THzの利得導波型発振素子を設計し、第一の金属層402の縦方向の長さl3=約100μm、RTD401とBCBチャネル部415、416との距離l2=約35μmとする。BCBチャネル部415、416からの2箇所から給電されるため、金属層402に起因する共振器410のインダクタンスL1も直列抵抗Rsもカウントが半減される。しかし、10−11HのオーダーのインダクタンスL1が残る。
ゆえに、共振器410を構成する第二の金属層403と第三の金属層404とが重なりあう面積を調整し、容量Cは例えば10nFを確保できるように設計する。具体的には、約0.1×約5mmの重なり面積と厚さ約20nmのハフニア膜43を用いる。こうした手段を用いて容量Cを確保すると、周波数f1は500MHzとなる。こうして、発振素子400を用いれば、寄生発振を抑制するべき帯域をDC以上f1=500MHz未満の周波数領域に絞りこむことが出来る。
発振素子400に電源回路を接続した発振器450は、第二の実施形態を用いるとよい。電源431はRTD401の負性抵抗領域約0.7から0.9Vにバイアスできるように約0.8Vの電圧源を用意する。電線432は、直列抵抗Rs2が焼く0.1Ωの比較的太めの電線を用いて、インダクタンスL2への要求を10−8H以下とする。したがって、電線432と発振素子400とは、10−9H程度のワイヤボンディング等を使用して接続しもよく、もちろん電線432を複数本並列させて使用してもよい。
こうすることで、DC以上f1=500MHz未満の周波数領域における寄生発振を抑制できる。また、第1の実施形態のようなシャント素子を用いた電源回路を用いてもよい。
本実施例の発振素子によれば、寄生発振を減衰させる周波数範囲を従来よりも狭くできる。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
例えば、上述の実施形態及び実施例の発振素子及びそれを用いた発振器と、ミリ波・テラヘルツ波を画像として検出する画像形成装置とを含むイメージングシステムを構成してもよい。ミリ波帯からテラヘルツ帯までの周波数領域では、赤外領域とは異なり、背景黒体輻射のエネルギーが小さいので、通常、こうした発振素子、発振器によるアクティブ照明を使用する。
電磁波の画像形成装置としては、ショットキー障壁ダイオード、FETなどの整流素子を有する電子デバイスや、マイクロボロメータ、パイロ検出器、ゴーレイセルなどの熱変換デバイスでもよい。被写体を照射し、透過あるいは反射された被写体の情報を有するテラヘルツ波は画像形成装置で取得される。その際、画像形成装置と被検体との間に対物レンズを備えれば、本イメージングシステムは焦点面アレイ型となり、1ショットでの撮像を実施できる。
上述の実施形態及び実施例の発振素子及びこれを用いた発振器は、製造管理、医療画像診断、安全管理などに用いることができるミリ波・テラヘルツ波によるアクティブ照明を行う照射手段として、或いは超高速の通信機の送信手段として応用が期待できる。