最初に、以下に説明する実施例の特徴を列記する。なお、ここに列記する特徴は、何れも独立して有効なものである。
(特徴1) 本明細書に開示の放射装置は、冷却部材を備えていてもよい。冷却部材は、メタマテリアル構造物の裏面側に配置され、メタマテリアル構造物を冷却してもよい。メタマテリアル構造物は、その表面(即ち、メタマテリアル構造層の表面)に入射したふく射エネルギーのうち特定の波長領域のふく射エネルギーを吸収する。このため、放射装置の使用に伴いメタマテリアル構造物の温度が上昇する場合がある。メタマテリアル構造物の温度が過度に上昇すると、そこからの自己ふく射エネルギー(自身の温度に大きく依存)が増大するため、前記見かけ上のふく射エネルギーのスペクトル形状が変化する可能性が生じる。上記の放射装置によると、冷却部材はメタマテリアル構造物の裏面からメタマテリアル構造物を冷却する。このため、当該構造物の温度上昇が抑制され、結果的に、そこからの見かけ上のふく射エネルギーについて、所望のスペクトル形状を維持することが可能となる。
(特徴2) 本明細書に開示の放射装置は、反射面を有しており、当該反射面に入射したふく射エネルギーを反射する第1反射器と、放物面を有しており、当該放物面に入射したふく射エネルギーを反射する第2反射器と、を備えていてもよい。第1反射器は、発熱源から放射されるふく射エネルギーが、第1反射器の反射面に入射すると共に、当該反射面で反射したふく射エネルギーが、第2反射器の放物面の対称軸と平行な方向に当該放物面に入射するように構成されていてもよい。メタマテリアル構造物は、メタマテリアル構造層の表面が第2反射器の放物面と対向すると共に、その表面が当該放物面の焦点に位置するように配置されていてもよい。なお、反射面と放物面のそれぞれは、発熱源から放射されるふく射エネルギーの全波長域において高い反射率を有していてもよい。
この放射装置では、発熱源から放射されるふく射エネルギーは、第1反射器の反射面及び第2反射器の放物面でそれぞれ反射して、メタマテリアル構造層の表面に入射する。メタマテリアル構造層の表面からは、特定の波長領域を除いた波長領域のふく射エネルギーが見かけ上放射される。当該表面から見かけ上放射されるふく射エネルギーは、第2反射器の放物面で反射し、当該放物面の対称軸と平行な方向に放射される。この構成によると、第2反射器の放物面から、その対称軸と平行な方向にふく射エネルギーを放射可能である放射装置を実現することができる。また、一般に、メタマテリアル構造層は製造コストが高い。上記の放射装置では、メタマテリアル構造物を、その表面(即ち、メタマテリアル構造層の表面)が第2反射器の放物面の焦点に位置するように配置するだけでよい。このため、メタマテリアル構造物を第2反射器に比べて大幅に小さくできる。この構成によると、メタマテリアル構造物を比較的安価に製造できるため、放射装置の製造コストが高くなることを抑制できる。また、冷却部材の構成を簡素化できる。
(特徴3) 本明細書に開示の放射装置では、第1反射器の反射面が放物面形状を有していてもよい。第1反射器の反射面の対称軸は、第2反射器の放物面の対称軸と平行であってもよい。発熱源は、反射面の焦点に配置されていてもよい。この放射装置では、発熱源から放射されるふく射エネルギーは、第1反射器の反射面で反射して、第2反射器の放物面に、当該放物面の対称軸と平行な方向に入射する。この構成によると、第2反射器の放物面に、その対称軸と平行な方向に入射するふく射エネルギーを比較的容易に生成することができる。
(特徴4) 本明細書に開示の放射装置では、メタマテリアル構造層の表面が放物面形状を有していてもよい。発熱源は、当該表面の焦点に配置されていてもよい。この放射装置では、発熱源から放射されるふく射エネルギーは、メタマテリアル構造層の表面に入射し、当該表面からは見かけ上、特定の波長領域を除いた波長領域のふく射エネルギーが放射される。このふく射エネルギーは、メタマテリアル構造層の表面の対称軸と平行な方向に放射される。この構成によると、メタマテリアル構造層の表面から、その対称軸と平行な方向にふく射エネルギーを放射可能である放射装置を実現することができる。また、発熱源から放射されるふく射エネルギーの反射回数が比較的少ないため、反射に起因するエネルギー損失を低減することができる。さらに、上記の放射装置では、メタマテリアル構造層がいわゆる反射器として機能するため、メタマテリアル構造物の大きさは比較的大きい。即ち、メタマテリアル構造物が単位面積当たりに吸収するエネルギー量は比較的小さい。このため、メタマテリアル構造物を比較的容易に冷却することができる。なお、「メタマテリアル構造層の表面が放物面形状を有する」とは、メタマテリアル構造層を肉眼視したときの表面形状を意味するものであり、微視的な表面形状を意味するものではない。即ち、肉眼視においてメタマテリアル構造層の表面が放物面形状を有している構成であれば、微視的には当該表面が凹凸形状を有していたとしても、当該構成は、「メタマテリアル構造層の表面が放物面形状を有する」構成に含まれる。
(特徴5) 本明細書に開示の処理装置は、特徴4に記載の放射装置を備えていてもよい。メタマテリアル構造物は、収容部の一部を構成していてもよい。メタマテリアル構造物の裏面は、収容部の外部に露出していてもよい。一般に、収容部の外部の温度は、収容部内の処理温度よりも低い。このため、メタマテリアル構造物の裏面を収容部の外部に露出させる(例えば、大気開放する)ことにより、メタマテリアル構造物をその裏面側から冷却することができる。このため、冷却部材を用いることなくメタマテリアル構造物の温度上昇が抑制可能となり、結果として、その表面の放射率を一定に維持することができる。
実施例1の放射装置10は、近赤外線の波長領域(2〜10μm)内の特定の波長領域(本実施例では、5.2〜6.2μm)を除いた波長領域のふく射エネルギーを放射する放射装置(エミッタ)である。図1に示すように、本実施例の放射装置10は、メタマテリアル構造物12と、冷却管18と、ランプヒーター20、24と、第1パラボラリフレクタ30、34と、第2パラボラリフレクタ38を備えている。
メタマテリアル構造物12は、平板状の支持基板16と、MIM(Metal−Insulaor−Metal)構造層14を備えている。別言すれば、メタマテリアル構造物12は、その表面側にMIM構造層14を有している。支持基板16は、熱伝導率の大きい材料によって形成することができ、例えば、ケイ素(Si)基板等を用いることができる。
MIM構造層14は、メタマテリアル構造層の一種であり、支持基板16の表面に形成されている。後で詳しく説明するが、MIM構造層14の表面(即ち、メタマテリアル構造物12の表面)には、ランプヒーター20、24から放射されるふく射エネルギー(近赤外線の波長領域を有する)が、第1パラボラリフレクタ30、34及び第2パラボラリフレクタ38を介して入射する。図2(a)〜(c)は、MIM構造層に入射したふく射エネルギーがどのようにふく射エネルギーを放射するかをシミュレーションしたグラフである。グラフには示していないが、図2(a)〜(c)の横軸は、いずれも近赤外線の波長領域(2〜10μm)を示す。図2(a)〜(c)を比較すると、図2(b)における吸収率のピーク波長と、図2(c)におけるふく射エネルギーが最も小さいときのピーク波長が一致することが分かる。また、図2(a)の入射エネルギーから図2(b)の吸収に相当する分だけふく射エネルギーを除くと、図2(c)のふく射エネルギーに一致することが分かる。上記のシミュレーションから、MIM構造層14は、その表面に入射したふく射エネルギーのうち特定の波長領域のふく射エネルギーを吸収し、特定の波長領域を除いた波長領域のふく射エネルギーを反射することが分かる。即ち、MIM構造層14は、ピーク波長とその周辺の狭い波長領域(特定の波長領域)のふく射エネルギーを吸収し、特定の波長領域以外のふく射エネルギーを反射エネルギーとして見かけ上放射するように構成されている。具体的には、MIM構造層14は、特定の波長領域では極めて低い放射率(例えば、0.03〜0.1)を有し、特定の波長領域以外では高い放射率(例えば、0.85〜0.9)を有している。このため、MIM構造層14は、特定の波長領域の境界において放射率が急峻に変化するという性質を有する(図2(c)参照)。また、上記の説明から明らかなように、MIM構造層14では、ふく射エネルギーが入射する面と、ふく射エネルギーが放射される面が同一となっている。
図3に示すように、MIM構造層14は、支持基板16の表面に形成された第1金属層14cと、第1金属層14cの表面に形成された絶縁層14bと、絶縁層14bの表面に形成された複数の凸状金属部14aを備えている。第1金属層14cは、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、金(Au)等の金属によって形成することができ、本実施例ではモリブデン(Mo)によって形成されている。第1金属層14cは、支持基板16の表面全体に形成されている。絶縁層14bは、セラミックス等の絶縁材料によって形成することができ、本実施例では酸化アルミニウム(Al2O3)によって形成されている。絶縁層14bは、第1金属層14cの表面全体に形成されている。凸状金属部14aは、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、金(Au)等の金属によって円柱状に形成されており、本実施例ではモリブデン(Mo)によって形成されている。凸状金属部14aは、絶縁層14bの表面の一部に形成されている。凸状金属部14aは、絶縁層14bの表面に、幅方向及び奥行き方向に間隔を空けて複数配置されている。上記の説明から明らかなように、MIM構造層14の表面(即ち、メタマテリアル構造物12の表面)は、凸状金属部14aの表面及び側面(いわゆる外表面)と、凸状金属部14aが配置されていない部分の絶縁層14bの表面によって構成されている。凸状金属部14aの寸法(円柱形状の径及び高さ)を調整することで、MIM構造層14が吸収するふく射エネルギーのピーク波長を調整することができる。また、凸状金属部14aの配置パターン(隣接する凸状金属部14aの間隔等)を調整することで、上述した「特定の波長領域」の広狭等を調整することができる。上述したMIM構造層14は、公知のナノ加工技術を用いて製作することができる。
なお、本実施例の放射装置10では、金属層と絶縁層を積層したMIM構造層14を用いたが、MIM構造層以外のメタマテリアル構造層を用いてもよい。
図1に戻って説明を続ける。冷却管18は、円柱形状を有する液冷却式の冷却管である。冷却管18は、支持基板16の裏面(即ち、メタマテリアル構造物12の裏面側)に配置されている。冷却管18の側周面は、支持基板16の裏面に接触している。上述したように、MIM構造層14は特定の波長領域のふく射エネルギーを吸収するため、放射装置10の使用に伴いメタマテリアル構造物12の温度が上昇する。メタマテリアル構造物12に生じた熱は、冷却管18との接触部分から冷却管18に熱伝導し、これにより、メタマテリアル構造物12が冷却される。冷却管18の温度を制御することにより、メタマテリアル構造物12の温度上昇を抑制し、一定の温度に保つことができる。冷却管18には公知の冷却器を用いることができる。なお、冷却管18は、「冷却部材」の一例に相当する。
ランプヒーター20は、球状のハロゲンランプであり、供給される電力エネルギーを、赤外線の波長領域(2〜10μm)を有するふく射エネルギーに変換して、その中心から放射する。ランプヒーター20の表面の一部は金(Au)を材料とするコート22によりコーティングされている(後述)。このため、ランプヒーター20から放射されるふく射エネルギーの一部は、コート22が形成されていない部分(以下では「ランプヒーター20の開口部」とも称する)から直接外部に放射される。一方、ランプヒーター20から放射されるふく射エネルギーの残部は、コート22で反射して(場合によっては反射を繰り返して)、最終的にランプヒーター20の開口部から放射される。コート22は、スパッタコーティング法によりコーティングされており、高い反射率を有する。このため、コート22で反射を繰り返したとしても、反射に起因するエネルギー損失が増大することを抑制できる。ランプヒーター24は、ランプヒーター20と略同一の構成を有しており、その表面の一部がコート26によりコーティングされている(後述)。コート26は、コート22と同一材料、同一方法によりコーティングされている。なお、ランプヒーター20、24は、ハロゲンランプに限られず、近赤外線の波長領域のふく射エネルギーを放射可能な公知のヒーターを用いることができる。また、ランプヒーター20、24は、「発熱源」の一例に相当する。
第1パラボラリフレクタ30は、放物面形状の反射面32を有している。反射面32は、平面視において円形状を有している。反射面32は、金(Au)によるスパッタ処理、及び鏡面加工が施されている。金(Au)によるスパッタ処理により、反射面32における反射率を向上でき、第1パラボラリフレクタ30の温度上昇を抑制できる。ランプヒーター20は、その中心が反射面32の焦点F1に位置するように配置されている。ランプヒーター20から放射されたふく射エネルギーは、ランプヒーター20の開口部を通って、反射面32に入射する。ここで、ランプヒーター20の寸法は、第1パラボラリフレクタ30の寸法に比べて大幅に小さい。このため、ランプヒーター20から放射されるふく射エネルギーのうち、コート22で反射されるふく射エネルギーは、コート22で反射することなくランプヒーター20の中心から直接放射されたふく射エネルギーとみなすことができる。別言すれば、ランプヒーター20は、焦点F1に位置する点熱源とみなすことができる。従って、ランプヒーター20から放射されたふく射エネルギーは、反射面32に入射し、反射面32において、反射面32の対称軸A1と平行な方向に反射する。第1パラボラリフレクタ34は、第1パラボラリフレクタ30と略同一の構成であり、放物面形状の反射面36を有している。ランプヒーター24は、その中心が反射面36の焦点F2に位置するように配置されている。ランプヒーター24も、焦点F2に位置する点光源とみなすことができる。ランプヒーター24から放射されたふく射エネルギーは、反射面36に入射し、反射面36において、反射面36の対称軸A2と平行な方向に反射する。なお、第1パラボラリフレクタ30、34は、「第1反射器」の一例に相当する。また、上記の説明から明らかなように、ランプヒーター20、24から放射されるふく射エネルギーは、ランプヒーター20、24の開口部を通って、第1パラボラリフレクタ30、34に入射する。すなわち、ランプヒーター20、24から放射されるふく射エネルギーの放射角度は開口部によって制限されており、第1パラボラリフレクタ30、34の一部にのみ入射することとなる。従って、第1パラボラリフレクタ30、34の一部を除去し、ランプヒーター20、24から放射されるふく射エネルギーが入射する範囲にのみ設けてもよい。
第2パラボラリフレクタ38は、放物面形状の反射面40を有している。反射面40は、平面視において円形状を有している。反射面40は、金(Au)によるスパッタ処理、及び鏡面加工が施されている。第2パラボラリフレクタ38は、その反射面40が、第1パラボラリフレクタ30、34の反射面32、36とそれぞれ対向する向きに配置されている。第1パラボラリフレクタ30、34及び第2パラボラリフレクタ38は、それぞれの対称軸A1、A2、A3が互いに平行となるように配置されている。第1パラボラリフレクタ30、34は、第2パラボラリフレクタ38の両側に、対称軸A3に関して左右対称に配置されている。反射面40の焦点F3には、メタマテリアル構造物12の表面(即ち、MIM構造層14の表面)が位置している。メタマテリアル構造物12は、その表面が反射面40と対向すると共に、対称軸A3に関して左右対称となるように配置されている。なお、第2パラボラリフレクタ38は、「第2反射器」の一例に相当し、反射面40は、「放物面」の一例に相当する。
ここで、ランプヒーター20のコート22は、第2パラボラリフレクタ38の反射面40に入射可能なふく射エネルギーの経路以外の経路を遮断するようにランプヒーター20の表面にコーティングされている。このため、ランプヒーター20からその開口部を通って放射されるふく射エネルギーは、第1パラボラリフレクタ30を介して全て第2パラボラリフレクタ38の反射面40に入射する。ランプヒーター24のコート26は、対称軸A3に関してコート22と左右対称となるようにランプヒーター24の表面にコーティングされている。
放射装置10から特定の波長領域以外のふく射エネルギーを放射させるには、ランプヒーター20、24に電力エネルギーを供給する。これにより、ランプヒーター20、24が電力エネルギーをふく射エネルギーに変換し、ランプヒーター20、24からふく射エネルギーが放射される。ランプヒーター20、24からそれぞれ放射されたふく射エネルギーは、第1パラボラリフレクタ30、34の反射面32、36及び第2パラボラリフレクタ38の反射面40でそれぞれ反射して、焦点F3に配置されているMIM構造層14の表面に入射する。MIM構造層14の表面からは、入射したふく射エネルギーのうち特定の波長領域以外のふく射エネルギーが見かけ上放射され、第2パラボラリフレクタ38の反射面40に入射する。このふく射エネルギーは、焦点F3の位置から放射されるため、反射面40で反射したふく射エネルギーは、対称軸A3と平行な方向に放射される。なお、MIM構造層14は積層構造を有するため、厳密には、MIM構造層14の表面に入射したふく射エネルギーは、入射位置から若干ずれた位置から放射されると考えられる。しかしながら、入射位置と放射位置のずれ量は第2パラボラリフレクタ38の大きさに比べて大幅に小さいため、MIM構造層14の表面のうち焦点F3に対応する位置に入射したふく射エネルギーは、同じく焦点F3に対応する位置から放射されるとみなすことができる。
実施例1の放射装置10は、ランプヒーター20、24と、MIM構造層14を有するメタマテリアル構造物12を備える。MIM構造層14は、その表面に入射したふく射エネルギーのうち特定の波長領域を除いた波長領域のふく射エネルギーを見かけ上放射する。MIM構造層14は、特定の波長領域の境界において放射率が急峻に変化するという性質を有する。このため、放射装置10は急峻な波長選択性を有する。この構成によると、エネルギー効率の低下を抑制しながら特定の波長領域を除いた波長領域のふく射エネルギーを放射することができる。
また、実施例1の放射装置10は、メタマテリアル構造物12を裏面側から冷却する冷却管18を備える。この構成によると、メタマテリアル構造物12の表面からの自己放射を抑制することができる。このため、メタマテリアル構造物12の見かけ上のふく射エネルギーに関して、所望のスペクトル形状を維持することが可能となる。
また、実施例1の放射装置10によると、第2パラボラリフレクタ38の反射面40から、対称軸A3と平行な方向にふく射エネルギーを放射可能な放射装置を実現できる。また、メタマテリアル構造物12を第2パラボラリフレクタ38に比べて大幅に小さくできる。このため、メタマテリアル構造物12を比較的安価に製造でき、放射装置10の製造コストが高くなることを抑制できる。加えて、冷却管18のような簡素な冷却部材でメタマテリアル構造物12を冷却することができる。
さらに、実施例1の放射装置10では、第1パラボラリフレクタ30、34の反射面32、36がそれぞれ放物面形状を有する。このため、ランプヒーター20、24、及び各パラボラリフレクタ30、34、38の位置及び向きを制御するだけで、第2パラボラリフレクタ38の反射面40に、対称軸A3と平行な方向に入射するふく射エネルギーを比較的容易に生成できる。
次に、実施例1の放射装置10を用いてワークを処理する処理装置の一例について、図4を参照して説明する。図4に示す処理装置50は、炉体52と、炉体52内の空間54に収容された複数の放射装置10を備えている。複数の放射装置10は、ワークWの搬送方向(図4の矢印参照)に間隔を空けて並んで配置されている。複数の放射装置10は、それぞれの第2パラボラリフレクタ38の対称軸A3(図示省略)がワークWの搬送方向と略直交し、かつ、第2パラボラリフレクタ38の反射面40がワークWと対向するように配置されている。複数の放射装置10は、図示しない保持部材によって炉体52の内壁面52aに保持されている。内壁面52aは、SUS等の高反射率の材料で形成することができる。なお、炉体52は、「収容部」の一例に相当する。
上記の処理装置50においてワークWを加熱するためには、炉体52内を矢印に沿ってワークWを搬送する。炉体52内を搬送されるワークWには、複数の放射装置10のそれぞれから特定の波長領域を除いた波長領域のふく射エネルギーが照射される。上述したように、放射装置10は急峻な波長選択性を有する。また、ふく射エネルギーの進行方向は、ワークWの搬送方向と略直交する。このため、ワークWの表面にはふく射エネルギーが均一に照射される。また、炉内を流れる空気の対流による熱伝導によってワークWが加熱される。これらによって、図4に示す処理装置50では、エネルギー効率の低下を抑制しながら、ワークWに特定の波長領域を除いた波長領域のふく射エネルギーを均一に照射することができる。
実施例2の放射装置110について説明する。以下では、実施例1と相違する点についてのみ説明し、実施例1と同一の構成についてはその詳細な説明を省略する。実施例2の放射装置110は、メタマテリアル構造物112と、冷却部材118と、ランプヒーター120を備えている。メタマテリアル構造物112は、支持基板116と、その表面に形成されたMIM構造層114を有しており、平面視において円形状を有している。メタマテリアル構造物112は、実施例1の第2パラボラリフレクタ38と略同一の大きさを有している。MIM構造層114の表面は、支持基板116側に凸となる放物面形状を有している。ここで、「MIM構造層の表面が放物面形状を有する」とは、MIM構造層を肉眼視したときの表面形状を意味するものであり、微視的な表面形状を意味するものではない。即ち、肉眼視においてMIM構造層の表面が放物面形状を有している構成(即ち、本実施例のMIM構造層114)であれば、微視的には当該表面が凹凸形状を有していたとしても、当該構成は、「MIM構造層の表面が放物面形状を有する」構成に含まれる。
支持基板116の裏面(即ち、メタマテリアル構造物112の裏面側)には、冷却部材118が配置されている。冷却部材118は、支持基板116の裏面全体に配置されている。これにより、メタマテリアル構造物112の温度上昇を好適に抑制することができる。ランプヒーター120は、MIM構造層114の表面の焦点F4に配置されている。ランプヒーター120は、その表面の一部がコート122、123によりコーティングされている。
放射装置110から特定の波長領域以外のふく射エネルギーを放射させるには、ランプヒーター120に電力エネルギーを供給する。これにより、ランプヒーター120からふく射エネルギーが放射される。ランプヒーター120から放射されたふく射エネルギーは、MIM構造層114の表面に入射して、当該表面からは、実施例1と同様の原理で、特定の波長領域を除いた波長領域のふく射エネルギーが見かけ上放射される。MIM構造層114の表面から放射されたふく射エネルギーは、MIM構造層114の表面の対称軸A4と平行な方向に進行する。
ここで、コート122は、MIM構造層114の表面に入射可能なふく射エネルギーの経路以外の経路を遮断するようにランプヒーター120の表面にコーティングされている。コート123は、MIM構造層114の表面から見かけ上放射される経路のうち、ランプヒーター120に入射することになる経路を遮断するようにランプヒーター120の表面にコーティングされている。ランプヒーター120は、焦点F4に位置する点光源とみなすことができる。このため、ランプヒーター120から放射されるふく射エネルギーは、全てMIM構造層114の表面に入射する。
実施例2の放射装置110によると、MIM構造層114の表面から、対称軸A4と平行な方向にふく射エネルギーを放射可能である放射装置を実現できる。また、ランプヒーター120から放射されるふく射エネルギーの反射回数は1回のみであるため、反射に起因するエネルギー損失を低減できる。さらに、メタマテリアル構造物112はランプヒーター120と比べて大幅に大きいため、メタマテリアル構造物112が単位面積あたりに吸収するふく射エネルギー量は小さい。従って、メタマテリアル構造物112を比較的容易に冷却できる。なお、メタマテリアル構造物112の温度上昇を好適に抑制できるのであれば、放射装置110は冷却部材118を有していなくてもよい(以下では、放射装置110から冷却部材118を除いた放射装置を放射装置210と称する)。また、コート123はコーティングされていなくてもよい。
次に、放射装置210を用いてワークを処理する処理装置の一例について、図6を参照して説明する。図6に示す処理装置150は、複数の放射装置210を備えている。複数の放射装置210のそれぞれのメタマテリアル構造物112は、炉体152の一部を構成している。具体的には、それぞれの支持基板116が炉体152の壁部153と一体化しており、それぞれのMIM構造層114及びランプヒーター120は、炉体152内の空間154に収容されている。MIM構造層114の表面は、ワークWと対向している。複数の放射装置210は、それぞれのメタマテリアル構造物112の対称軸A4(図示省略)がワークWの搬送方向と略直交するように配置されている。この処理装置150では、支持基板116の裏面(即ち、メタマテリアル構造物112の裏面)が炉体152の外部に露出している。この構成によると、支持基板116の裏面に冷却部材を配置しなくても、メタマテリアル構造物112をその裏面側から冷却することができる。これにより、メタマテリアル構造物112の温度上昇を抑制でき、その表面から放射されるふく射エネルギーの放射率を一定に維持することができる。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。
例えば、MIM構造層14が吸収するふく射エネルギーの波長領域は近赤外線の波長領域に限られない。MIM構造層14の凸状金属部14aの寸法及び配置パターンを調整することにより、電磁波の全波長領域のふく射エネルギーが吸収の対象となり得る。これに関連して、ランプヒーター20、24は、近赤外線の波長領域のふく射エネルギーを放射するヒーターに限られない。ランプヒーター20、24に用いられるヒーターの種類(即ち、ヒーターが放射するふく射エネルギーの波長領域)は、MIM構造層14の波長選択性(即ち、MIM構造層14が吸収するふく射エネルギーの波長領域)に応じて、適宜決定してもよい。
また、実施例1の第1パラボラリフレクタ30、34(第1反射器の一例)の反射面32、36は、放物面形状でなくてもよく、例えば平坦であってもよい。この場合、指向性の強い発熱源が用いられることが好ましい。また、発熱源と第1反射器の位置関係は、第1反射器の反射面で反射したふく射エネルギーが、第2パラボラリフレクタ38の反射面40に、その対称軸と平行な方向に入射する位置関係であることが好ましい。
また、実施例2のメタマテリアル構造物112は、その全体がMIM構造層114の表面形状(即ち、放物面形状)に追従するように湾曲していたが、この構成に限られない。例えば、MIM構造層114の絶縁層14b及び/又は第1金属層14cの厚みを調整することで、支持基板116を平板状にしてもよい。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。