以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。本実施形態では、時計の一例として機械式時計を例に挙げて説明する。
一般に、時計の駆動部分を含む機械体を「ムーブメント」と称する。このムーブメントに文字板、針を取り付けて、時計ケースの中に入れて完成品にした状態を時計の「コンプリート」と称する。
時計の基板を構成する地板の両側のうち、時計ケースのガラスのある方の側(すなわち、文字板のある方の側)をムーブメントの「裏側」と称する。また、地板の両側のうち、時計ケースのケース裏蓋のある方の側(すなわち、文字板と反対の側)をムーブメントの「表側」と称する。
なお、本実施形態では、文字板からケース裏蓋に向かう方向を上方、その反対側を下方と定義して説明する。また、各回転軸線を中心として、上方から見て時計回りに回転する方向を時計方向といい、上方から見て反時計回りに回転する方向を反時計方向という。
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る時計を示す平面図である。
図1に示すように、本実施形態の時計1のコンプリートは、図示しないケース裏蓋およびガラス2からなる時計ケース内に、ムーブメント10(時計用ムーブメント)と、少なくとも時に関する情報を示す目盛りを有する文字板3と、時針5、分針6および秒針7を含む指針と、を備える。文字板3には、後述する日車40に表示された日文字40aを明示させる日窓3aが形成されている。
図2は、第1実施形態に係るムーブメントを表側から見た平面図である。なお図2では、図面を見易くするためにムーブメント10を構成する一部の部品の図示を省略している。
図2に示すように、ムーブメント10は基板を構成する地板11を有している。地板11には、巻真9が組み込まれている。巻真9には、図1に示す時計ケースの外側でりゅうず4が連結されている。ムーブメント10は、地板11の表側に、表輪列12と、脱進調速機13と、を備える。
表輪列12は、脱進調速機13にトルクを伝達する。表輪列12は、主に一対の香箱アセンブリ20A,20B、遊び歯車21、二番車22、三番車23、四番車24、およびがんぎ中間車25を備える。一対の香箱アセンブリ20A,20Bは、上下方向から見た平面視で互いに並んで配置されている。各香箱アセンブリ20A,20Bは、地板11と図示しない香箱受との間に軸支されている。各香箱アセンブリ20A,20Bは、内部にぜんまいを収容する香箱車20aと、香箱車20aと同軸かつ相対回転可能に配置された角穴車20bと、を備える。ぜんまいの外端部は香箱車20aに固定され、ぜんまいの内端部は角穴車20bに固定されている。これにより、ぜんまいの巻き解けに伴うトルクによって香箱車20aおよび角穴車20bが相対回転するとともに、香箱車20aおよび角穴車20bを所定の方向に相対回転させることでぜんまいが巻き上げられる。
一方の香箱アセンブリ20Aの角穴車20bは、角穴中間車27と噛み合っている。角穴中間車27は、手動巻輪列14の一部を構成している。手動巻輪列14は、巻真9の回転を一方の香箱アセンブリ20Aの角穴車20bに伝達する。これにより、一方の香箱アセンブリ20Aの角穴車20bは、巻真9の回転によって回転し、一方の香箱アセンブリ20Aのぜんまいを巻き上げる。一方の香箱アセンブリ20Aの香箱車20aの歯部は、他方の香箱アセンブリ20Bの香箱車20aの歯部と噛み合っている。他方の香箱アセンブリ20Bの香箱車20aは、一方の香箱アセンブリ20Aのぜんまいの巻き解けに伴うトルクによって回転し、他方の香箱アセンブリ20Bのぜんまいを巻き上げる。そして、他方の香箱アセンブリ20Bの角穴車20bは、他方の香箱アセンブリ20Bのぜんまいの巻き解けに伴って回転する。
遊び歯車21、二番車22、三番車23、四番車24およびがんぎ中間車25は、地板11と図示しない輪列受との間に軸支されている。これら遊び歯車21、二番車22、三番車23、四番車24およびがんぎ中間車25は、他方の香箱アセンブリ20Bの角穴車20bが巻き上げられたぜんまいの弾性復元力によって回転すると、この回転に基づいて回転する。
すなわち、遊び歯車21は他方の香箱アセンブリ20Bの角穴車20bと噛み合っており、角穴車20bの回転に基づいて回転する。二番車22は、遊び歯車21と噛み合っており、遊び歯車21の回転に基づいて回転する。三番車23は、二番車22と噛み合っており、二番車22の回転に基づいて回転する。四番車24は、三番車23と噛み合っており、三番車23の回転に基づいて回転する。四番車24には、図1に示す秒針7が取り付けられており、四番車24の回転に基づいて秒針7が「秒」を表示する。秒針7は、脱進調速機13によって調速された回転速度で1分間に1回転する。がんぎ中間車25は、四番車24と噛み合っており、四番車24の回転に基づいて回転する。がんぎ中間車25は、後述するがんぎ車のがんぎかな(不図示)と噛み合っている。
脱進調速機13は、表輪列12の回転を制御する。脱進調速機13は、図示しないがんぎ車およびアンクルと、てんぷ32と、を主に備える。がんぎ車は、香箱アセンブリ20A,20Bのぜんまいから表輪列12を介して伝達されるトルクによって回転する。アンクルは、がんぎ車を脱進させて規則正しく回転させる。てんぷ32は、がんぎ車を一定速度で脱進させる。
図3は、第1実施形態に係るムーブメントを裏側から見た平面図である。なお図3では、図面を見易くするためにムーブメント10を構成する一部の部品の図示を省略している。
図3に示すように、ムーブメント10は、地板11の裏側に、裏輪列15と、カレンダ機構16と、時刻修正輪列17と、カレンダ修正機構18と、を備える。
裏輪列15は、主に分車36、日の裏車37および筒車38を備える。分車36は、四番車24(図2参照)と同軸に配置されている。分車36は、三番車23(図2参照)と噛み合っており、三番車23の回転に基づいて回転する。分車36には、図1に示す分針6が取り付けられており、分車36の回転によって分針6が「分」を表示する。分針6は、脱進調速機13によって調速された回転速度で1時間に1回転する。日の裏車37は、分車36と噛み合っており、分車36の回転に基づいて回転する。筒車38は、分車36と同軸に配置されている。筒車38は、日の裏車37と噛み合っており、日の裏車37の回転に基づいて回転する。筒車38には、図1に示す時針5が取り付けられており、筒車38の回転によって時針5が「時」を表示する。時針5は、脱進調速機13によって調速された回転速度で12時間に1回転する。
カレンダ機構16は、日車40、第1日回し中間車41、第2日回し中間車42、日回し車43、日回し車規制ばね44(図4参照)および日ジャンパ45を備える。日車40は、地板11に対して回転自在に取り付けられたリング状部材である。日車40には、周方向に沿って1〜31の日を表す日文字40a(図1参照)が順番に表示されている。日車40の内周面には、複数の歯部40bが形成されている。複数の歯部40bは、径方向の内側に突出するとともに周方向に間隔をあけて形成されている。
第1日回し中間車41、第2日回し中間車42および日回し車43は、地板11に回転可能に支持されている。第1日回し中間車41は、筒車38と噛み合っており、筒車38の回転に基づいて回転する。第2日回し中間車42は、第1日回し中間車41と噛み合っており、第1日回し中間車41の回転に基づいて回転する。
日回し車43は、日回し歯車60および日回しつめ75を備える。日回し歯車60は、第2日回し中間車42と噛み合っており、第2日回し中間車42の回転に基づいて24時間に1回転する。日回しつめ75は、日回し歯車60の回転中心回りを24時間に1回転する。日回しつめ75は、1回転する毎に1度、日車40の歯部40bに係合して日車40を1歯分だけ回転させる。これにより、カレンダ機構16は、日車40を間欠的に回転させる。日回し車43の詳細な構成については、日回し車規制ばね44の構成とともに後述する。
日ジャンパ45は、日車40の回転方向の位置を規正する。日ジャンパ45の先端部45aは、平面視で日車40の内側に位置するとともに日車40側に付勢され、日車40の歯部40bに係合可能となっている。日ジャンパ45は、先端部45aが日車40の歯部40bに係合することにより、日車40の回転を規正する。これにより、日車40は、複数の歯部40bのピッチ角と同じ角度ピッチで、1日に1ステップずつ回転可能となっている。
時刻修正輪列17は、時刻修正時に、巻真9の回転を時針5および分針6に伝達する。時刻修正輪列17は、小鉄車50、日の裏中間車51および時刻修正伝え車52を備える。小鉄車50は、巻真9と一体回転するつづみ車(不図示)と噛み合うように設けられている。日の裏中間車51は、小鉄車50と噛み合っている。これにより、日の裏中間車51は、小鉄車50の回転に基づいて回転する。時刻修正伝え車52は、日の裏中間車51と常時噛み合っており、日の裏中間車51の回転に基づいて回転する。時刻修正伝え車52は、日の裏車37と噛み合うように設けられている。
カレンダ修正機構18は、日付を修正する際に、巻真9の回転を日車40に伝達する。カレンダ修正機構18は、上述した小鉄車50および日の裏中間車51に加えて、第1日修正伝え車53および第2日修正伝え車54を備える。第1日修正伝え車53は、日の裏中間車51と噛み合うように設けられている。第1日修正伝え車53は、日の裏中間車51と噛み合うことで、日の裏中間車51の回転に基づいて回転する。第2日修正伝え車54は、第1日修正伝え車53と噛み合っており、第1日修正伝え車53に基づいて回転する。第2日修正伝え車54は、第1日修正伝え車53の回転に伴って第1日修正伝え車53の回転中心回りを揺動するレバー(不図示)に支持されている。第2日修正伝え車54は、第1日修正伝え車53の所定方向の回転に伴って日車40に接近するように変位し、日車40の歯部40bに噛み合う。これにより、カレンダ修正機構18は、日車40を回転させる。
続いて、カレンダ機構16の日回し車43および日回し車規制ばね44について詳述する。
図4は、第1実施形態に係るカレンダ機構の要部をムーブメントの裏側から見た平面図である。なお、図4では、日回し車43の一部を破断して図示している。
図4に示すように、日回し車43は、ムーブメント10の通常運針時において、上下方向に延びる回転軸線P回りを図中の矢印A方向に回転する。以下、回転軸線P回りの周方向を単に周方向と称するとともに、周方向のうち通常運針時における日回し車43の回転方向を正転方向と称する。また、回転軸線Pを中心とする径方向を単に径方向と称する。日回し車43は、筒車38の回転に同期して1日で1回転する日回し歯車60と、日回し歯車60に対して回転軸線P回りに回転可能に設けられた日回しつめユニット70と、日回し歯車60と日回しつめユニット70との間にトルクを与える日回し作動ばね90(図6参照)と、を備える。
図5は、第1実施形態に係る日回し車を下方から見た平面図である。図6は、第1実施形態に係る日回し車を上方から見た平面図である。
図5および図6に示すように、日回し歯車60は、第2日回し中間車42(図3参照)に噛み合う歯車本体61と、歯車本体61から上方に突出した第1ばねピン62A、第2ばねピン62Bおよび規制解除ピン66と、を備える。歯車本体61は、回転軸線P回りに回転可能に設けられている。歯車本体61の中心には、後述する日回し真71が挿通される貫通孔が形成されている。
図7は、第1実施形態に係る日回し歯車および日回し作動ばねを上方から見た平面図である。
図7に示すように、第1ばねピン62Aおよび第2ばねピン62Bは、それぞれ回転軸線Pに対して偏心した位置で、歯車本体61に支持されている。第1ばねピン62Aおよび第2ばねピン62Bは、回転軸線P回りの周方向に並んで配置されている。第1ばねピン62Aは、第2ばねピン62Bよりも正転方向に位置している。本実施形態では、第1ばねピン62Aおよび第2ばねピン62Bは、互いに同様に形成されているので、第1ばねピン62Aおよび第2ばねピン62Bのうち1つを特定しない場合は、単にばねピン62という。ばねピン62は、横断面円形状に形成されている。ばねピン62は、歯車本体61から上方に突出した円柱部63と、円柱部63から円柱部63の径方向外側に張り出した鍔部64と、を備える。円柱部63は、一定の外径で上下方向に延在している。鍔部64は、円柱部63の上端部に設けられている。鍔部64は、歯車本体61の上面に対して間隔をあけて配置されている。
規制解除ピン66は、第1ばねピン62Aおよび第2ばねピン62Bに対して正転方向に間隔をあけて配置されている。規制解除ピン66は、歯車本体61に固定された軸部67と、軸部67から軸部67の径方向外側に張り出したフランジ部68と、を備える。軸部67の下端部は、歯車本体61に形成された貫通孔に圧入されている。フランジ部68は、軸部67における上下方向の中間部に設けられている。すなわち、軸部67の上端部は、フランジ部68から上方に突出している。フランジ部68は、歯車本体61の上面に対して間隔をあけて配置され、日回し作動ばね90への干渉を避けるように配置されている。
図8は、図6のVIII−VIII線における断面図である。
図5および図8に示すように、日回しつめユニット70は、日回し真71と、日回しつめ75と、日回しつめばね80と、つめ押さえ82と、ばね押さえ83と、を備える。
図8に示すように、日回し真71は、日回し歯車60の歯車本体61と同軸に設けられた中心パイプ72と、中心パイプ72から張り出したつめ座73と、を備える。中心パイプ72は、歯車本体61の貫通孔に相対回転可能に挿通されている。中心パイプ72は、歯車本体61に対して上下両側に突出している。つめ座73は、歯車本体61の下面に重なるように配置されている。つめ座73は、中心パイプ72から径方向外側に突出するとともに周方向に沿って全周に延びる円環状に形成されている。
図5に示すように、日回しつめ75は、平面視でつめ座73に重なるように配置されている。日回しつめ75は、回転軸線P回りの周方向における中間部においてつめ座73に回動可能に支持されている。具体的に、日回しつめ75は、つめ座73から下方に突出する支軸に回動可能に支持されている。日回しつめ75は、回動中心から正転方向に延びるつめ本体76と、回動中心から正転方向とは反対方向に延びるアーム77と、を備える。アーム77は、日回し真71の中心パイプ72の外周面に接触可能に形成されている。つめ本体76の先端部76aは、平面視でつめ座73から径方向の外側に突出可能に形成されている。つめ本体76の先端部76aがつめ座73から最も突出した状態は、アーム77が日回し真71の中心パイプ72の外周面に接触した状態である。すなわち、アーム77は、つめ座73からのつめ本体76の突出距離を規定している。
つめ本体76は、日回しつめユニット70が正転方向に回転した際に先端部76aが日車40の歯部40bに接触することが可能な位置に配置されている(図4を併せて参照)。つめ本体76は、日回しつめユニット70が正転方向とは反対方向に回転した際に、先端部76aよりも正転方向とは反対方向に位置する部分が日車40の歯部40bに接触することで、径方向の内側に向かって変位する。
日回しつめばね80は、日回しつめ75を付勢している。日回しつめばね80は、平面視でつめ座73に重なるように配置されている。日回しつめばね80は、つめ座73に固定的に支持された基部80aと、基部80aから日回し車43の正転方向に延びて日回しつめ75のアーム77に接触するばね体80bと、を備える。基部80aは、つめ座73から下方に突出した支軸に支持されている。ばね体80bは、日回しつめ75のアーム77に径方向の外側から接触している。ばね体80bは、弾性変形の復元力によって、アーム77を径方向の内側に押圧している。これにより、日回しつめ75は、アーム77が日回し真71の中心パイプ72の外周面に接触する方向に付勢されている。すなわち、日回しつめ75は、つめ本体76の先端部76aが平面視でつめ座73から径方向の外側に突出する方向に付勢されている。
つめ押さえ82は、日回しつめ75および日回しつめばね80の下方への移動を規制している。つめ押さえ82は、日回しつめ75および日回しつめばね80を挟んでつめ座73とは反対側に配置されている。つめ押さえ82は、つめ座73の外径と略同径の円盤状に形成され、つめ座73と同軸に配置されている。つめ押さえ82の中心には、日回し真71の中心パイプ72の下端部が挿入される貫通孔が形成されている。また、つめ押さえ82には、日回しつめ75および日回しつめばね80を支持するそれぞれの支軸を避ける貫通孔が形成されている。つめ押さえ82は、日回し真71に対して固定的に設けられている。
図6に示すように、ばね押さえ83は、日回し歯車60の歯車本体61との間に日回し作動ばね90を保持する。ばね押さえ83は、日回し歯車60の歯車本体61の上方に配置されている。ばね押さえ83は、日回し歯車60の歯車本体61よりも小径の円盤状に形成され、日回し歯車60の歯車本体61と同軸に配置されている。ばね押さえ83の中心には、日回し真71の中心パイプ72の上端部が挿入される貫通孔が形成されている。ばね押さえ83は、日回し真71に対して固定的に設けられている。
ばね押さえ83には、ピン案内孔84と、規制ばね係合部85と、が形成されている。ピン案内孔84は、日回し歯車60における規制解除ピン66の軸部67の上端部が挿入されている。ピン案内孔84は、規制解除ピン66の回転軸線P回りの変位を許容するように、回転軸線Pを中心とする円弧状に延びている。ピン案内孔84は、正転方向に設けられた下流端84aと、日回し車43の正転方向とは反対方向に設けられた上流端84bと、を備える。ピン案内孔84の上流端84bには、規制解除ピン66の軸部67の上端部が位置している。規制ばね係合部85は、ばね押さえ83の外周面に形成された切欠である。規制ばね係合部85は、ピン案内孔84の下流端84aの近傍に形成されている。規制ばね係合部85は、日回し車43の正転方向を向くばね係合面85aを備える。ばね係合面85aは、規制解除ピン66の軸部67の上端部がピン案内孔84の下流端84aに位置する状態で、平面視で規制解除ピン66のフランジ部68に重なる位置に設けられている。
図6および図8に示すように、日回し作動ばね90は、日回し歯車60の歯車本体61と、日回しつめユニット70のばね押さえ83と、の間に配置されている。日回し作動ばね90は、鉄やニッケル等の金属、またはシリコン等の非金属からなる渦巻ばねである。日回し作動ばね90は、外端部および内端部を相対回転させ、縮径するように巻き締めることによって巻き上げられる。巻き上げられた日回し作動ばね90は、弾性変形して外端部と内端部との間にトルクを発生させる。以下の日回し作動ばね90の形状に関する説明では、特に記載のない限り、ムーブメント10の動作時における日回し車43の全ての状態のうち、日回し作動ばね90の巻き上げ量が最も小さい状態を前提とする。
図7に示すように、日回し作動ばね90は、渦巻状に延びるばね本体91と、内端部に位置する固定部92と、外端部に位置する係合部93と、を備える。ばね本体91は、平面視で一定の幅で渦巻状に延在している。具体的に、ばね本体91は、回転軸線Pを中心としたアルキメデス曲線に沿って延びている。ばね本体91は、固定部92から係合部93に向かって正転方向に延びている。
固定部92は、ばね本体91の一方の周端部である内端部に一体成形されている。固定部92は、円環状に形成され、回転軸線Pと同軸に配置されている。固定部92は、日回しつめユニット70(図6参照)に取り付けられている。具体的に、固定部92は、日回し真71の中心パイプ72に外挿され、日回し真71に固定的に支持されている(図8参照)。
係合部93は、ばね本体91の他方の周端部である外端部91aに一体成形されている。すなわち、係合部93とばね本体91との接続部は、連続性を有している。係合部93は、ばね本体91の外周部の径方向外側で、規制解除ピン66に対して周方向に間隔をあけて配置されている。係合部93は、ばね本体91に対して径方向に間隔をあけて配置されている。係合部93は、上下方向を厚さ方向として、一定の厚さでばね本体91の外端部91aから正転方向に延びている。係合部93は、日回し歯車60に少なくとも2点で係合している。具体的に、係合部93は、日回し歯車60の第1ばねピン62Aおよび第2ばねピン62Bに係合している。係合部93は、日回し歯車60に対して正転方向とは反対方向への変位を規制されている。
係合部93と日回し歯車60との係合構造について詳述する。係合部93には、第1ばねピン62Aおよび第2ばねピン62Bが下方から1つずつ挿入される一対の貫通孔94A,94Bが形成されている。一対の貫通孔94A,94Bは、第1ばねピン62Aの円柱部63が位置する第1貫通孔94Aと、第2ばねピン62Bの円柱部63が位置する第2貫通孔94Bと、である。第1貫通孔94Aは、第2貫通孔94Bに対して正転方向に配置されている。第1貫通孔94Aおよび第2貫通孔94Bは、互いに同様に形成されているので、第1貫通孔94Aおよび第2貫通孔94Bのうち1つを特定しない場合は、単に貫通孔94という。
貫通孔94は、ばねピン62の円柱部63が位置する幅狭部94aと、幅狭部94aに周方向で連なり、幅狭部94aよりも径方向に大きく形成された幅広部94bと、を備える。幅狭部94aの径方向の幅は、ばねピン62の円柱部63の外径と同等になっている。幅狭部94aは、正転方向の端部にばねピン62の円柱部63を保持している。幅広部94bは、幅狭部94aの正転方向とは反対方向の端部に連なっている。幅広部94bは、平面視でばねピン62よりも大きく形成されている。本実施形態では、幅広部94bは、平面視でばねピン62の鍔部64よりも大径の円形状に形成されている。これにより、幅広部94bは、ばねピン62の鍔部64が上下方向に通過することを許容している。係合部93は、ばねピン62が貫通孔94の幅広部94bに挿入された状態で、日回し歯車60に対して正転方向とは反対方向にスライド移動し、ばねピン62を貫通孔94の幅狭部94aにおける正転方向の端部に位置させることで、ばねピン62に係合する。係合部93の上面には、ばねピン62の鍔部64の下面が対向している。これにより、係合部93は、ばねピン62の鍔部64によって上方への移動を規制されている。
日回し作動ばね90は、係合部93が固定部92に対して日回し車43の正転方向に移動するに従い巻き上げられ、固定部92に正転方向のトルクを発生させる。これにより、日回し作動ばね90は、日回しつめユニット70を正転方向に付勢している。
図4に示すように、日回し車規制ばね44は、片持ちレバー状に形成されている。日回し車規制ばね44の基端部は、地板11等に固定的に設けられている。日回し車規制ばね44の先端部44aは、ばね押さえ83の外周面に摺接可能に設けられている。日回し車規制ばね44の先端部44aは、正転方向とは反対方向を向いている。日回し車規制ばね44の先端部44aは、ばね押さえ83の規制ばね係合部85のばね係合面85aに係合する。日回し車規制ばね44は、先端部44aがばね押さえ83の規制ばね係合部85に係合した状態で、日回し歯車60の規制解除ピン66のフランジ部68が先端部44aに接触すること可能となるように形成されている。
(カレンダ機構の動作)
次に、上述のように構成されたカレンダ機構16の動作について図4、および図9から図11を参照して説明する。
図9から11は、カレンダ機構の動作説明図であって、カレンダ機構の一部を下方から見た平面図である。
上述したように、日回し車43の日回し歯車60は、筒車38の回転に同期して正転方向に1日で1回転する。日回し歯車60が正転方向に回転すると、その回転力は日回し作動ばね90を介して日回しつめユニット70に伝達されるので、日回しつめユニット70も正転方向に回転する。
図4に示すように、日回しつめユニット70の回転が進むと、1回転毎に1度、日回し車規制ばね44の先端部44aがばね押さえ83の規制ばね係合部85に係合する。これにより、日回しつめユニット70の正転方向の回転が規制された状態となる。このため、日回し歯車60は、日回しつめユニット70に対して正転方向に回転する。この際、日回し歯車60は、日回しつめユニット70のピン案内孔84の上流端84b近傍から規制解除ピン66の軸部67を正転方向に移動させながら回転する(図6を併せて参照)。日回し歯車60は、日回し作動ばね90を巻き上げながら正転方向に回転する。その結果、日回し作動ばね90は、日回しつめユニット70を正転方向に付勢するトルクを大きくしながら巻き上げられる。
そして、図9に示すように、日回し歯車60の回転がさらに進むと、規制解除ピン66の軸部67がピン案内孔84の下流端84a(図6参照)近傍に到達する。すると、規制解除ピン66のフランジ部68が日回し車規制ばね44の先端部44aに接触して、日回し車規制ばね44の先端部44aを径方向の外側に押圧する。そして、日回し車規制ばね44とばね押さえ83の規制ばね係合部85との係合が解除される。なお、午前0時に日回し車規制ばね44とばね押さえ83の規制ばね係合部85との係合が解除するタイミングで、時計1の指針はおおよそ午前0時を示す。
これにより、巻き上げられた日回し作動ばね90が一気に巻き解けて、日回しつめユニット70が正転方向に急激に回転する。そして、図10に示すように、日回しつめ75のつめ本体76が正転方向に急激に移動して、先端部76aが日車40の歯部40bに接触し、日車40を回転させることができる。これにより、日ジャンパ45による係合を解除しながら、日車40を瞬時に回転させることができる。
そして、図11に示すように、日車40が回転すると、日ジャンパ45の先端部45aが日車40の次の歯部40bに再び係合する。これにより、日車40は回転方向の位置が再度規正される。その結果、文字板3の日窓3aに明示される日付を1日分だけ瞬時に切替えることができる。
(日回し作動ばねの作用)
次に、本実施形態の日回し作動ばね90の作用について図12を参照して説明する。
図12は、第1実施形態に係る日回し作動ばねの要部を上方から見た平面図である。
図12に示すように、日回し作動ばね90が日回し歯車60によって巻き上げられる際、係合部93がばねピン62によって正転方向に引っ張られて固定部92に対して正転方向に回転する。このため、日回し作動ばね90が巻き上げられると、係合部93には、ばね本体91による付勢力が正転方向とは反対方向に作用する。さらに、日回し作動ばね90が巻き上げられると、ばね本体91が縮径するように巻き締められるので、係合部93にはばね本体91による付勢力が径方向の内側に作用する。これにより、係合部93には、日回し作動ばね90が巻き上げられた状態で、正転方向とは反対方向、かつ径方向の内側への力が作用する。係合部93は、第1接触部95および第2接触部96において、日回し歯車60のばねピン62A,62Bに接触している。
第1接触部95は、係合部93が正転方向とは反対方向に引っ張られることにより、日回し歯車60に接触する部分である。本実施形態では、第1接触部95は、第1貫通孔94Aを画成する内面に位置し、第1ばねピン62Aに接触している。例えば、第1接触部95は、第1貫通孔94Aを画成する内面において、第1ばねピン62Aとの接触による面圧が極値をとる部分である(以下で述べる他の接触部も同様)。第1接触部95は、平面視で径方向に対して正転方向とは反対方向に傾斜した方向を向いている。つまり、第1接触部95における第1法線ベクトルV1は、平面視で回転軸線P(図7参照)から正転方向とは反対方向にずれた方向を指向している。これにより、係合部93は、ばね本体91によって正転方向とは反対方向に引っ張られる力を第1接触部95において第1ばねピン62Aに作用させ、その抗力により正転方向とは反対方向への変位を規制されている。
第2接触部96は、係合部93が径方向の内側へ引っ張られることにより、日回し歯車60に接触する部分である。本実施形態では、第2接触部96は、第2貫通孔94Bを画成する内面に位置し、第2ばねピン62Bに接触している。第2接触部96における第2法線ベクトルV2は、平面視で第1接触部95からずれた方向を指向している。これにより、係合部93は、第1接触部95を中心として回転しようとする力を第2接触部96において第2ばねピン62Bに作用させ、その抗力により回転を規制されている。
なお、本実施形態では第1接触部95が第1貫通孔94Aの内面に位置し、第2接触部96が第2貫通孔94Bの内面に位置しているが、これに限定されない。例えば、第1接触部が第2貫通孔94Bの内面に位置し、第2接触部が第1貫通孔94Aの内面に位置していてもよい。つまり、第1貫通孔94Aおよび第2貫通孔94Bの相対位置の実寸、並びに第1ばねピン62Aおよび第2ばねピン62Bの相対位置の実寸の関係によって、第1接触部が第1貫通孔94Aおよび第2貫通孔94Bのいずれに位置するか決まる。いずれの場合であっても、第2接触部における第2法線ベクトルが平面視で第1接触部からずれた方向を指向していればよい。
以上に説明したように、本実施形態の日回し作動ばね90は、ばね本体91の外端部91aに一体成形され、日回し歯車60に2点で係合する係合部93を備える。この構成によれば、係合部93が日回し歯車60に対して回転することを抑制できる。このため、日回し作動ばね90が巻き上げられて係合部93に周方向の力のみならず径方向の力が作用しても、日回し作動ばね90の意図しない変形を抑制できる。よって、日回し作動ばね90の巻き締めによる自己接触を抑制できる。これにより、巻き上げられた状態の日回し作動ばね90の接触に伴う摩擦力により、日回し作動ばね90が発生させるトルクが減少することを抑制できる。したがって、日回し作動ばね90は、所望のトルクを発生させることができる。
係合部93は、日回し歯車60に接触する第1接触部95および第2接触部96を有する。第1接触部95における第1法線ベクトルV1は、平面視で回転軸線Pからずれた方向を指向している。第2接触部96における第2法線ベクトルV2は、平面視で第1接触部95からずれた方向を指向している。この構成によれば、係合部93に作用する周方向の力による係合部93の変位を第1接触部95において規制できる。さらに、係合部93に作用する径方向の力による、第1接触部95を中心とする係合部93の回転を第2接触部96において規制できる。よって、日回し歯車60に対する係合部93の回転が規制されるので、上述した効果を奏することができる。
係合部93には、日回し歯車60に設けられた一対のばねピン62A,62Bが1つずつ配置される一対の貫通孔94A,94Bが形成されている。この構成によれば、第1ばねピン62Aと第1貫通孔94Aの内面との接触、および第2ばねピン62Bと第2貫通孔94Bの内面との接触によって、係合部93と日回し歯車60とが2点で係合する。したがって、上述した効果を奏することができる。
貫通孔94は、ばねピン62が配置される幅狭部94aと、幅狭部94aに周方向で連なり、幅狭部94aよりも径方向に大きく形成された幅広部94bと、を備える。この構成によれば、鍔部64が設けられたばねピン62を幅広部94bに挿通させた後に幅狭部94aに移動させることで、ばねピン62を幅狭部94aに配置できる。このため、鍔部64が設けられたばねピン62を係合部93に係合させて、ばねピン62が貫通孔94から脱落することを抑制できる。したがって、係合部93と日回し歯車60とを確実に係合させることができる。
また、本実施形態のカレンダ機構16は、所望のトルクを発生させる日回し作動ばね90を備えるので、日回し歯車60と日回しつめユニット70との間に与えられるトルクが不足することを抑制できる。これにより、日回しつめユニット70に与えられるトルクの不足により日車40に伝達される回転力が不足することを抑制できる。したがって、確実な日送り動作が可能なカレンダ機構16とすることができる。
そして、本実施形態の時計1およびムーブメント10は、上述したカレンダ機構16を備えるので、日送り動作を安定させて、高精度なカレンダを備えるムーブメントおよび時計とすることができる。
なお、本実施形態では、日車40には、日文字40aとして日付に対応する数字が表示されているが、これに限定されない。日車40には、日文字として曜日が表示されていてもよい。
[第1実施形態の第1変形例]
図13は、第1実施形態の第1変形例に係る日回し歯車および日回し作動ばねを上方から見た平面図である。
第1実施形態では、ばねピン62が円柱部63から円柱部63の径方向外側に張り出した鍔部64を有する。これに対して第1実施形態の第1変形例では、ばねピン162が鍔部を有していない点で、第1実施形態と異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
図13に示すように、日回し歯車60は、第1実施形態の第1ばねピン62Aおよび第2ばねピン62Bに代えて、第1ばねピン162Aおよび第2ばねピン162Bを有する。本実施形態では、第1ばねピン162Aおよび第2ばねピン162Bは、互いに同様に形成されているので、第1ばねピン162Aおよび第2ばねピン162Bのうち1つを特定しない場合は、単にばねピン162という。ばねピン162は、横断面円形状に形成されている。ばねピン162は、歯車本体61から上方に突出した円柱部163を備える。ばねピン162は、円柱部163よりも上方の部分が円柱部163と同径、または円柱部163よりも小径となるように形成されている。
係合部93Aには、第1ばねピン162Aおよび第2ばねピン162Bが下方から1つずつ挿入される一対の貫通孔104A,104Bが形成されている。一対の貫通孔104A,104Bは、第1ばねピン162Aの円柱部163が位置する第1貫通孔104Aと、第2ばねピン162Bの円柱部163が位置する第2貫通孔104Bと、である。第1貫通孔104Aには、第1ばねピン162Aが隙間嵌めされている。第1貫通孔104Aは、平面視で第2ばねピン162Bよりも大きく形成され、上下方向に一様に延びている。具体的には、第1貫通孔104Aは、長円形状(角丸長方形状)に形成されている。第1貫通孔104Aは、長軸が周方向に沿うように形成されている。第1貫通孔104Aの短径は、第1ばねピン162Aの円柱部163の外径と同程度になっている。第1貫通孔104Aの長手方向両端から離間した位置には、第1ばねピン162Aの円柱部163が位置している。第2貫通孔104Bには、第2ばねピン162Bが隙間嵌めされている。第2貫通孔104Bは、平面視で円形状に形成され、上下方向に一定の内径で延びている。第2貫通孔104Bの内径は、第2ばねピン162Bの円柱部163の外径と同程度になっている。
次に、本変形例の日回し作動ばね90の作用について図14を参照して説明する。
図14は、第1実施形態の第1変形例に係る日回し作動ばねの要部を上方から見た平面図である。
図14に示すように、日回し作動ばね90が巻き上げられると、係合部93Aは、第1接触部95Aおよび第2接触部96Aにおいて、日回し歯車60のばねピン162A,162Bに接触する。
第1接触部95Aは、係合部93Aが正転方向とは反対方向に引っ張られることにより、日回し歯車60に接触する部分である。第1接触部95Aは、第2貫通孔104Bを画成する内面に位置し、第2ばねピン162Bに接触している。第1接触部95Aにおける第1法線ベクトルV1は、平面視で回転軸線P(図13参照)から正転方向とは反対方向にずれた方向を指向している。これにより、係合部93Aは、ばね本体91によって正転方向とは反対方向に引っ張られる力を第1接触部95Aにおいて第2ばねピン162Bに作用させ、その抗力により正転方向とは反対方向への変位を規制されている。
第2接触部96Aは、係合部93Aが径方向の内側へ引っ張られることにより、日回し歯車60に接触する部分である。第2接触部96Aは、第1貫通孔104Aを画成する内面に位置し、第1ばねピン162Aに接触している。第2接触部96Aにおける第2法線ベクトルV2は、平面視で第1接触部95Aからずれた方向を指向している。これにより、係合部93Aは、第1接触部95Aを中心として回転しようとする力を第2接触部96Aにおいて第1ばねピン162Aに作用させ、その抗力により回転を規制されている。
以上に説明したように、本変形例の日回し作動ばね90は、日回し歯車60に2点で係合する係合部93Aを備えるので、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
さらに、第1貫通孔104Aは、平面視で第1ばねピン162Aよりも大きく形成されている。この構成によれば、製造誤差により第1貫通孔104Aに対して第1ばねピン162Aが位置ずれしても、第1ばねピン162Aを第1貫通孔104Aに配置させることができる。
なお、本変形例では、係合部93Aにはばねピン162が挿入される第1貫通孔104Aおよび第2貫通孔104Bが形成されているが、係合部には、貫通孔に代えて、ばねピン162が挿入される凹部が形成されていてもよい。また、本変形例では第1貫通孔104Aおよび第2貫通孔104Bのうち、正転方向に位置する第1貫通孔104Aが長孔とされているが、これに限定されない。すなわち、第1貫通孔および第2貫通孔のうち、正転方向と反対方向に位置する第2貫通孔が長孔とされていてもよい。
[第1実施形態の第2変形例]
図15は、第1実施形態の第2変形例に係る日回し歯車および日回し作動ばねを上方から見た平面図である。
第1実施形態では、係合部93にばねピン62が挿入される貫通孔94が形成されている。これに対して第1実施形態の第2変形例では、係合部93Bにばねピン62が挿入されるスリット114が形成されている点で、第1実施形態と異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
図15に示すように、係合部93Bには、第1ばねピン62Aおよび第2ばねピン62Bを受け入れる一対のスリット114A,114Bが形成されている。一対のスリット114A,114Bは、係合部93Bを上下方向に貫通するとともに、係合部93Bの側面に開口している。一対のスリット114A,114Bは、第1ばねピン62Aの円柱部63が位置する第1スリット114Aと、第2ばねピン62Bの円柱部63が位置する第2スリット114Bと、である。第1スリット114Aは、第2スリット114Bに対して正転方向に配置されている。第1スリット114Aおよび第2スリット114Bは、互いに同様に形成されているので、第1スリット114Aおよび第2スリット114Bのうち1つを特定しない場合は、単にスリット114という。
スリット114は、ばねピン62の円柱部63が全長にわたって通過可能に形成されている。スリット114は、平面視でばねピン62の円柱部63の外径と同程度の幅で延在している。スリット114は、ばねピン62の円柱部63が位置し、周方向に沿って延びる第1延在部114aと、第1延在部114aに連なり、径方向に沿って延びて係合部93Bの側面に開口する第2延在部114bと、を備える。第2延在部114bは、第1延在部114aにおける正転方向の端部よりも正転方向とは反対方向の部分に連なっている。本変形例では、第2延在部114bは、第1延在部114aにおける正転方向とは反対方向の端部に連なっている。第2延在部114bは、第1延在部114aから径方向の内側に延びている。日回し作動ばね90を日回し歯車60に組み付ける際、係合部93Bを日回し歯車60に対してスライド移動させ、ばねピン62を第2延在部114bを通過させて第1延在部114aにおける正転方向の端部に位置させることで、係合部93Bがばねピン62に係合する。
次に、本変形例の日回し作動ばね90の作用について図16を参照して説明する。
図16は、第1実施形態の第2変形例に係る日回し作動ばねの要部を上方から見た平面図である。
図16に示すように、日回し作動ばね90が巻き上げられると、係合部93Bは、第1接触部95Bおよび第2接触部96Bにおいて、日回し歯車60のばねピン62A,62Bに接触する。
第1接触部95Bは、係合部93Bが正転方向とは反対方向に引っ張られることにより、日回し歯車60に接触する部分である。第1接触部95Bは、第1スリット114Aを画成する内面に位置し、第1ばねピン62Aに接触している。第1接触部95Bにおける第1法線ベクトルV1は、平面視で回転軸線P(図15参照)から正転方向とは反対方向にずれた方向を指向している。これにより、係合部93Bは、ばね本体91によって正転方向とは反対方向に引っ張られる力を第1接触部95Bにおいて第1ばねピン62Aに作用させ、その抗力により正転方向とは反対方向への変位を規制されている。
第2接触部96Bは、係合部93Bが径方向の内側へ引っ張られることにより、日回し歯車60に接触する部分である。第2接触部96Bは、第2スリット114Bを画成する内面に位置し、第2ばねピン62Bに接触している。第2接触部96Bにおける第2法線ベクトルV2は、平面視で第1接触部95Bからずれた方向を指向している。これにより、係合部93Bは、第1接触部95Bを中心として回転しようとする力を第2接触部96Bにおいて第2ばねピン62Bに作用させ、その抗力により回転を規制されている。
なお、本変形例では第1接触部95Bが第1スリット114Aに位置し、第2接触部96Bが第2スリット114Bに位置しているが、これに限定されない。第1実施形態と同様に、例えば、第1接触部が第2スリット114Bに位置し、第2接触部が第1スリット114Aに位置していてもよい。
以上に説明したように、本変形例の日回し作動ばね90は、日回し歯車60に2点で係合する係合部93Bを備えるので、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
さらに、スリット114は、ばねピン62が配置され、周方向に沿って延びる第1延在部114aと、第1延在部114aに連なり、径方向に沿って延びて係合部93Bの側面に開口する第2延在部114bと、を備える。この構成によれば、第1延在部114aに位置するばねピン62を係合部93Bの側面の開口に到達させるためには、ばねピン62を係合部93Bに対して周方向に沿って変位させた後、径方向に沿って変位させる必要がある。このため、スリットが平面視で直線状に延びる構成と比較して、ばねピン62がスリット114から脱落することを抑制できる。したがって、係合部93Bと日回し歯車60とを確実に係合させることができる。
しかも、本変形例では、ばねピン62には鍔部64が設けられているので、スリット114の幅が鍔部64の外径より小さくても、係合部93Bの側面の開口からばねピン62をスリット114に入り込ませることができる。よって、鍔部64が設けられたばねピン62を係合部93Bに係合させて、ばねピン62がスリット114から脱落することを抑制できる。したがって、係合部93Bと日回し歯車60とを確実に係合させることができる。
なお、本変形例では、係合部93Bにはスリット114が形成されているが、係合部には、スリットに代えて、係合部を貫通していない溝状の凹部が形成されていてもよい。この場合、日回し歯車60には、ばねピン62に代えて、鍔部が設けられていないばねピン162を設けることが望ましい。
[第1実施形態の第3変形例]
図17は、第1実施形態の第3変形例に係る日回し歯車および日回し作動ばねを上方から見た平面図である。
第1実施形態では、第1ばねピン62Aの円柱部63が係合部93の第1貫通孔94Aに位置している。これに対して第1実施形態の第3変形例では、第1ばねピン62Aの円柱部63が係合部93Cの側方に配置されている点で、第1実施形態と異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
図17に示すように、日回し歯車60は、第1ばねピン62Aおよび第2ばねピン162Bを有する。係合部93Cには、第2ばねピン162Bが下方から挿入され、第2ばねピン162Bの円柱部163が位置する第2貫通孔104Bが形成されている。係合部93Cにおける正転方向の端部は、第1ばねピン62Aの円柱部63に対して径方向の内側に配置されている。係合部93Cにおける正転方向の端部の側面93aは、第1ばねピン62Aの円柱部63に径方向の内側から接触可能に配置されている。係合部93Cの上面には、第1ばねピン62Aの鍔部64の下面が対向している。これにより、係合部93Cは、ばねピン62Aの鍔部64によって上方への移動を規制されている。
次に、本変形例の日回し作動ばね90の作用について図18を参照して説明する。
図18は、第1実施形態の第3変形例に係る日回し作動ばねの要部を上方から見た平面図である。
図18に示すように、日回し作動ばね90が巻き上げられると、係合部93Cは、第1接触部95Cおよび第2接触部96Cにおいて、日回し歯車60のばねピン62A,162Bに接触する。
第1接触部95Cは、係合部93Cが正転方向とは反対方向に引っ張られることにより、日回し歯車60に接触する部分である。第1接触部95Cは、第2貫通孔104Bに位置し、第2ばねピン162Bに接触している。第1接触部95Cにおける第1法線ベクトルV1は、平面視で回転軸線P(図17参照)から正転方向とは反対方向にずれた方向を指向している。これにより、係合部93Cは、ばね本体91によって正転方向とは反対方向に引っ張られる力を第1接触部95Cにおいて第2ばねピン162Bに作用させ、その抗力により正転方向とは反対方向への変位を規制されている。
第2接触部96Cは、係合部93Cが径方向の内側へ引っ張られることにより、日回し歯車60に接触する部分である。第2接触部96Cは、係合部93Cにおける正転方向の端部の側面93aに位置し、第1ばねピン62Aに接触している。第2接触部96Cにおける第2法線ベクトルV2は、平面視で第1接触部95Cからずれた方向を指向している。これにより、係合部93Cは、第1接触部95Cを中心として回転しようとする力を第2接触部96Cにおいて第1ばねピン62Aに作用させ、その抗力により回転を規制されている。
以上に説明したように、本変形例の日回し作動ばね90は、日回し歯車60に2点で係合する係合部93Cを備えるので、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
さらに、係合部93Cの側面93aは、第1ばねピン62Aに接触可能に形成されている。この構成によれば、第2ばねピン162Bと第2貫通孔104Bの内面との接触、および第1ばねピン62Aと係合部93Cの側面93aとの接触によって、係合部93Cと日回し歯車60とが2点で係合する。したがって、上述した効果を奏することができる。
しかも、第1ばねピン62Aが係合部に形成された貫通孔等の凹部に配置される構成と比較して、第2ばねピン162Bに対する第1ばねピン62Aの製造誤差による位置ずれを許容できる構成とすることができる。さらに、係合部に貫通孔等の凹部が形成される構成と比較して、平面視で係合部93Cの面積を小さくできる。これにより、係合部93Cの省スペース化を達成できる。
[第1実施形態の第4変形例]
図19は、第1実施形態の第4変形例に係る日回し歯車および日回し作動ばねを上方から見た平面図である。
第1実施形態の第1変形例では、係合部93Aに第1貫通孔104Aおよび第2貫通孔104Bが形成されている。これに対して第1実施形態の第4変形例では、係合部93Dに単一の貫通孔124が形成されている点で、第1実施形態と異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態の第1変形例と同様である。
図19に示すように、係合部93Dには、第1ばねピン162Aおよび第2ばねピン162Bが下方から挿入される貫通孔124が形成されている。貫通孔124には、第1ばねピン162Aおよび第2ばねピン162Bそれぞれが隙間嵌めされている。貫通孔124は、平面視で非円形状に形成され、上下方向に一様に延びている。具体的には、貫通孔124は、平面視で長円形状(角丸長方形状)に形成されている。貫通孔124は、長軸が周方向に沿うように形成されている。貫通孔124の短径は、ばねピン162の円柱部163の外径と同程度になっている。貫通孔124の正転方向の端部には、第1ばねピン162Aの円柱部163が位置している。貫通孔124の正転方向とは反対側の端部には、第2ばねピン162Bの円柱部163が位置している。
次に、本変形例の日回し作動ばね90の作用について図20を参照して説明する。
図20は、第1実施形態の第4変形例に係る日回し作動ばねの要部を上方から見た平面図である。
図20に示すように、日回し作動ばね90が巻き上げられると、係合部93Dは、第1接触部95Dおよび第2接触部96Dにおいて、日回し歯車60のばねピン162A,162Bに接触する。
第1接触部95Dは、係合部93Dが正転方向とは反対方向に引っ張られることにより、日回し歯車60に接触する部分である。第1接触部95Dは、貫通孔124を画成する内面に位置し、第1ばねピン162Aに接触している。第1接触部95Dにおける第1法線ベクトルV1は、平面視で回転軸線P(図19参照)から正転方向とは反対方向にずれた方向を指向している。これにより、係合部93Dは、ばね本体91によって正転方向とは反対方向に引っ張られる力を第1接触部95Dにおいて第1ばねピン162Aに作用させ、その抗力により正転方向とは反対方向への変位を規制されている。
第2接触部96Dは、係合部93Dが径方向の内側へ引っ張られることにより、日回し歯車60に接触する部分である。第2接触部96Dは、貫通孔124を画成する内面に位置し、第2ばねピン162Bに接触している。第2接触部96Dにおける第2法線ベクトルV2は、平面視で第1接触部95Dからずれた方向を指向している。これにより、係合部93Dは、第1接触部95Dを中心として回転しようとする力を第2接触部96Dにおいて第2ばねピン162Bに作用させ、その抗力により回転を規制されている。
以上に説明したように、本変形例の日回し作動ばね90は、日回し歯車60に2点で係合する係合部93Dを備えるので、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
さらに、係合部93Dには、第1ばねピン162Aおよび第2ばねピン162Bが配置される、平面視で非円形状の貫通孔124が形成されている。仮に単一の貫通孔が平面視で円形状に形成された場合、ばねピンの形状によらず係合部と日回し歯車とを2点以上で係合させることができず、係合部が日回し歯車に対して回転することを抑制できない。本変形例によれば、係合部93Dと日回し歯車60とを2点で係合させることができる。したがって、上述した効果を奏することができる。
[第1実施形態の第5変形例]
図21は、第1実施形態の第5変形例に係る日回し歯車および日回し作動ばねを上方から見た平面図である。
第1実施形態では、日回し歯車60に一対のばねピン62が設けられている。これに対して第1実施形態の第5変形例では、日回し歯車60に単一の突起172が形成されている点で、第1実施形態と異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
図21に示すように、日回し歯車60は、第1実施形態の第1ばねピン62Aおよび第2ばねピン62Bに代えて、突起172を有する。突起172は、平面視で非円形状に形成されている。具体的には、突起172は、平面視で矩形状に形成されている。突起172は、歯車本体61に一体成形されている。突起172は、例えば歯車本体61を成形する際の削り出し加工や、プレス加工を行う際の切り起こし加工等により形成されている。突起172は、歯車本体61の上面から上方に一様に延びている。
係合部93Eには、突起172が下方から挿入される貫通孔134が形成されている。貫通孔134には、突起172が隙間嵌めされている。貫通孔134は、平面視で突起172の形状に対応するように矩形状に形成され、上下方向に一様に延びている。
次に、本変形例の日回し作動ばね90の作用について図22を参照して説明する。
図22は、第1実施形態の第5変形例に係る日回し作動ばねの要部を上方から見た平面図である。
図22に示すように、日回し作動ばね90が巻き上げられると、係合部93Eは、第1接触部95Eおよび第2接触部96Eにおいて、日回し歯車60の突起172に接触する。
第1接触部95Eは、係合部93Eが正転方向とは反対方向に引っ張られることにより、日回し歯車60に接触する部分である。第1接触部95Eは、貫通孔134を画成する内面に位置し、突起172に接触している。第1接触部95Eにおける第1法線ベクトルV1は、平面視で回転軸線P(図21参照)から正転方向とは反対方向にずれた方向を指向している。これにより、係合部93Eは、ばね本体91によって正転方向とは反対方向に引っ張られる力を第1接触部95Eにおいて突起172に作用させ、その抗力により正転方向とは反対方向への変位を規制されている。
第2接触部96Eは、係合部93Eが径方向の内側へ引っ張られることにより、日回し歯車60に接触する部分である。第2接触部96Eは、貫通孔134を画成する内面に位置し、突起172に接触している。第2接触部96Eにおける第2法線ベクトルV2は、平面視で第1接触部95Eからずれた方向を指向している。これにより、係合部93Eは、第1接触部95Eを中心として回転しようとする力を第2接触部96Eにおいて突起172に作用させ、その抗力により回転を規制されている。
以上に説明したように、本変形例の日回し作動ばね90は、日回し歯車60に2点で係合する係合部93Eを備えるので、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
さらに、係合部93Eには、突起172が配置される、平面視で非円形状の貫通孔134が形成されている。この構成によれば、突起172の形状が平面視で非円形状に形成されているので、係合部93Eと日回し歯車60とを2点で係合させることができる。したがって、上述した効果を奏することができる。
[第1実施形態の第6変形例]
図23は、第1実施形態の第6変形例に係る日回し歯車および日回し作動ばねを上方から見た平面図である。
第1実施形態の第5変形例では、日回し歯車60に設けられた突起172を日回し作動ばね90の係合部93Eが囲うように構成されている。これに対して第1実施形態の第6変形例では、日回し作動ばね90の係合部93Fを日回し歯車60に設けられた壁部182が囲うように構成されている点で、第1実施形態の第5変形例と異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
図23に示すように、係合部93Fの外形は、平面視で非円形状である。具体的には、係合部93Fは、平面視で角丸長方形状に形成されている。係合部93Fは、上下方向を厚さ方向として、一定の厚さで延びている。
日回し歯車60は、歯車本体61から上方に突出した壁部182を備える。壁部182は、係合部93Fを囲うように延びている。壁部182によって画成された空間は、平面視で係合部93Fの形状に対応するように角丸長方形状に形成されている。壁部182の内側には、係合部93Fが隙間嵌めされている。壁部182は、係合部93Fの側面に対向する壁面183を備える。壁面183は、正転方向を向く規制面183aを備える。規制面183aは、係合部93Fに正転方向とは反対方向から対向している。壁部182には、日回し作動ばね90のばね本体91を避ける開口部184が形成されている。開口部184は、規制面183aにおける径方向の中間部に開口している。これにより、規制面183aは、開口部184によって分断されている。開口部184の開口縁は、ばね本体91から離間している。
次に、本変形例の日回し作動ばね90の作用について図24を参照して説明する。
図24は、第1実施形態の第6変形例に係る日回し作動ばねの要部を上方から見た平面図である。
図24に示すように、日回し作動ばね90が巻き上げられると、係合部93Fは、第1接触部95F、第2接触部96Fおよび第3接触部97Fにおいて、日回し歯車60の壁部182に接触する。
第1接触部95Fおよび第2接触部96Fは、係合部93Fが正転方向とは反対方向に引っ張られることにより、日回し歯車60に接触する部分である。第1接触部95Fは、係合部93Fの側面に位置し、壁部182の規制面183aに接触している。第1接触部95Fおよび第2接触部96Fは、規制面183aにおける開口部184を挟んだ両側に接触している。第1接触部95Fは、開口部184に対する径方向の内側に位置している。第1接触部95Fにおける第1法線ベクトルV1、および第2接触部96Fにおける第2法線ベクトルV2は、それぞれ平面視で回転軸線P(図23参照)から正転方向とは反対方向にずれた方向を指向している。これにより、係合部93Fは、ばね本体91によって正転方向とは反対方向に引っ張られる力を第1接触部95Fにおいて壁部182に作用させ、その抗力により正転方向とは反対方向への変位を規制されている。さらに、第2接触部96Fにおける第2法線ベクトルV2は、平面視で第1接触部95Fからずれた方向を指向している。これにより、係合部93Fは、係合部93Fが径方向の内側へ引っ張られることにより第1接触部95Fを中心として回転しようとする力を第2接触部96Fにおいて壁部182に作用させ、その抗力により回転を規制されている。
第3接触部97Fは、係合部93Fが径方向の内側へ引っ張られることにより、日回し歯車60に接触する部分である。第3接触部97Fは、係合部93Fの側面に位置し、壁部182の壁面183に接触している。第3接触部97Fにおける第3法線ベクトルV3は、第1法線ベクトルV1および第2法線ベクトルV2よりも径方向の内側を指向している。これにより、係合部93Fは、径方向の内側へ変位しようとする力を第3接触部97Fにおいて壁部182に作用させ、その抗力により径方向の内側への変位を規制されている。
以上に説明したように、本変形例の日回し作動ばね90は、日回し歯車60に2点で係合する係合部93Fを備えるので、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
さらに、係合部93Fの外形は、平面視で非円形状である。仮に係合部の外形が平面視で円形状の場合、日回し歯車を係合部の側面に接触させるだけでは係合部と日回し歯車とを2点以上で係合させることができず、係合部が日回し歯車に対して回転することを抑制できない。本変形例によれば、日回し歯車60の壁部182を係合部93Fの側面に接触させることで、係合部93Fと日回し歯車60とを2点で係合させることができる。したがって、上述した効果を奏することができる。
[第2実施形態]
次に、図25から図28を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態では、脱進調速機214に伝達される動力の変動を抑制する定トルク機構230に渦巻ばねが設けられている点で、第1実施形態と異なる。なお、第1実施形態と同様の構成については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
図25は、第2実施形態のムーブメントのブロック図である。
図25に示すように、本実施形態のムーブメント210(時計用ムーブメント)は、動力源である香箱車211と、香箱車211に繋がる動力源側輪列212と、脱進調速機214と、脱進調速機214に繋がる脱進機側輪列215と、動力源側輪列212と脱進機側輪列215との間に配置された定トルク機構230と、を備えている。
なお、定トルク機構230は、一般に二番車や三番車、四番車等を含む表輪列の一部を構成している。本実施形態における動力源側輪列212とは、定トルク機構230から見て、定トルク機構230よりも動力源である香箱車211側に位置する輪列をいう。同様に、本実施形態における脱進機側輪列215とは、定トルク機構230から見て、定トルク機構230よりも脱進調速機214側に位置する輪列をいう。
香箱車211の内部には、ぜんまい216が収容されている。ぜんまい216は、巻真9(図1参照)の回転によって巻き上げられる。香箱車211は、ぜんまい216の巻き解きに伴う動力(トルク)によって回転し、動力源側輪列212を介して該動力を定トルク機構230に伝える。なお、本実施形態では、動力源側輪列212を介して香箱車211からの動力を定トルク機構230に伝える場合を例にして説明するが、この場合に限定されるものではない。例えば動力源側輪列212を介さずに、香箱車211からの動力を定トルク機構230に直接伝えても良い。
例えば、動力源側輪列212は、第1伝達車218を備えている。第1伝達車218は、例えば三番車である。第1伝達車218は、地板223(図27参照)と輪列受(不図示)との間に軸支されている。第1伝達車218は、香箱車211の回転に基づいて回転する。なお、第1伝達車218が回転すると、この回転に基づいて図示しない筒かなが回転する。筒かなには、図1に示す分針6が取り付けられている。第1伝達車218が回転すると、この回転に基づいて図示しない日の裏車が回転し、さらに日の裏車の回転に基づいて図示しない筒車が回転する。
脱進機側輪列215は、主に第2伝達車219を備えている。第2伝達車219は、例えば四番車である。第2伝達車219は、地板223と輪列受との間に軸支され、定トルク機構230の後述する定力下段車260(図26参照)の回転に基づいて回転する。
脱進調速機214は、第1実施形態の脱進調速機13と同様に形成されている。脱進調速機214は、脱進機側輪列215の回転を制御する。
(定トルク機構の構成)
定トルク機構230は、脱進調速機214に伝達される動力の変動(トルク変動)を抑制する機構である。
図26は、第2実施形態のムーブメントの一部を上方から見た斜視図である。
図26に示すように、定トルク機構230は、上下に延びる第1回転軸線O1を中心軸線とする固定歯車231と、第1回転軸線O1回りに回転する定力上段車240(入力回転体)と、定力上段車240と同軸に配置され、第1回転軸線O1回りに定力上段車240に対して相対回転可能な定力下段車260(出力回転体)と、定力上段車240と定力下段車260とを連係する係脱レバーユニット280と、蓄えた動力を定力上段車240および定力下段車260に伝える定力ばね300と、定力ばね300のトルクを調整するトルク調整機構310と、を備える。第1回転軸線O1は、上述した第1伝達車218および第2伝達車219(図25参照)の回転軸線に対して地板223(図27参照)の面方向にずれた位置に配置されている。
図27は、第2実施形態のムーブメントの一部を示す断面図である。
図27に示すように、固定歯車231は、地板223と定力ユニット受224との間に配置されている。定力ユニット受224は、地板223よりも上方に配置されている。固定歯車231は、第1回転軸線O1と同軸に配置された筒体232と、筒体232に一体に形成された歯車本体233と、を備える。
筒体232は、定力ユニット受224から下方に突出する固定歯車ピン234によって、定力ユニット受224の下面に固定されている。筒体232には、中心孔235および窓部236が形成されている。中心孔235は、第1回転軸線O1を中心として一定の内径で上下に延び、筒体232を上下に貫通している。窓部236は、平面視で第1回転軸線O1と第1伝達車218の回転軸線とが並ぶ方向で中心孔235に隣接している(図26参照)。窓部236は、筒体232を上下方向に貫通するとともに、中心孔235に連なっている。これにより、固定歯車231を上下に貫通する孔は、平面視で長孔となっている。
歯車本体233は、第1回転軸線O1と同軸に形成され、筒体232の下端部から径方向の外側に向かって張り出している。歯車本体233の外周面には、全周に亘って固定歯233aが形成されている。すなわち、固定歯車231は、外歯タイプの歯車である。
定力上段車240は、地板223と定力ユニット受224との間に軸支されている。定力上段車240は、第1回転軸線O1回りに回転する回転軸241と、第1回転軸線O1回りを公転する遊星車243と、遊星車243を軸支するキャリア247(第1部品)と、を備えている。
回転軸241は、第1回転軸線O1に沿って延びている。回転軸241は、地板223および定力ユニット受224によって、穴石225A,225Bを介して軸支されている。穴石225A,225Bは、例えばルビー等の人工宝石から形成されている。なお、穴石225A,225Bは人工宝石で形成される場合に限定されるものではなく、例えばその他の脆性材料や鉄系合金等の金属材料で形成しても構わない。回転軸241の上部には、定力上段かな241aが形成されている。定力上段かな241aは、第1伝達車218に噛み合っている。これにより、回転軸241には、動力源側輪列212を介して香箱車211(図25参照)からの動力が伝達される。回転軸241には、香箱車211からトルクTbの動力が伝達される。以降、トルクTbを香箱車211の回転トルクTbと称する。回転軸241は、香箱車211からの動力によって時計方向に回転する。
キャリア247は、回転軸241に固定的に支持されている。キャリア247には、回転軸241からの時計方向の回転トルクTbが伝達される。これにより、キャリア247は、香箱車211からの動力によって、回転軸241とともに第1回転軸線O1回りを時計方向に回転する。キャリア247は、回転軸241に一体に連結された下座248と、下座248の上方に配置され、下座248に固定された上座254と、を備える。
下座248は、固定歯車231の下方に配置されている。下座248は、遊星車243を支持する遊星車支持部249と、定力ばね300を支持するばね支持部250と、遊星車支持部249とばね支持部250とを連結する連結部251と、を備える。
図28は、第2実施形態のムーブメントの一部を上方から見た平面図である。なお、図26では、固定歯車231の一部を破断して図示している。
図26および図28に示すように、遊星車支持部249は、平面視で第1回転軸線O1回りの周方向に沿って円弧状に延びている。遊星車支持部249は、上下方向から見た中間部が両端部よりも下方に一段下がるように形成されている。
図27に示すように、ばね支持部250は、第1回転軸線O1を挟んで遊星車支持部249とは反対側に設けられている。ばね支持部250には、一対の定力ばねピン303が挿通された一対のピン挿通孔250aが形成されている。なお、図27では、ピン挿通孔250aおよび定力ばねピン303を1つずつ図示している。定力ばねピン303は、ばね支持部250から下方に突出している。定力ばねピン303の下端部には、第1実施形態のばねピン62と同様に、円柱部63および鍔部64が設けられている。連結部251には、回転軸241が挿通された中心孔が形成されている。連結部251は、回転軸241における定力上段かな241aよりも下部に固定されている。これにより、下座248は、回転軸241と一体に回転する。下座248には、キャリア窓部252が形成されている。キャリア窓部252は、遊星車支持部249に対する第1回転軸線O1側に形成されている。キャリア窓部252は、下座248を上下に貫通している。キャリア窓部252は、下座248と後述する係合爪石286との接触を回避する。
図26に示すように、上座254は、下座248の遊星車支持部249の上方、かつ固定歯車231の歯車本体233よりも上方に配置されている。上座254は、平面視で第1回転軸線O1回りの周方向に沿って円弧状に延びている。上座254は、複数の円筒状のピラー255により下座248の遊星車支持部249に対して間隔をあけた状態で積層されている。上座254の両端部は、複数のピラー255に挿通された複数のボルト256により、遊星車支持部249の両端部に固定されている。
図27に示すように、遊星車243は、キャリア247に自転可能に支持されている。具体的に、遊星車243は、下座248の遊星車支持部249および上座254によって、穴石259A,259Bを介して軸支され、第2回転軸線O2回りに回転可能とされている。第2回転軸線O2は、第1回転軸線O1に対して地板223の面方向にずれた位置であって、キャリア247に対して固定された位置に配置されている。遊星車243は、上下方向から見た下座248の遊星車支持部249の中間部と、上下方向から見た上座254の中間部と、の間に配置されている(図26参照)。遊星車243は、遊星かな244および遊星歯車245を備える。
遊星かな244は、固定歯車231の固定歯233aに噛み合う。固定歯車231が外歯タイプとされているので、遊星車243は、遊星かな244と固定歯車231との噛み合いにより、キャリア247の時計方向の回転に伴って、第2回転軸線O2回りを時計方向に自転しつつ、第1回転軸線O1回りを時計方向に公転する。
遊星歯車245は、遊星かな244よりも下方に形成され、固定歯車231に接触することなく回転可能(自転および公転可能)とされている。遊星歯車245は、係合爪石286に対して係脱可能な複数のストップ歯245aを有する。ストップ歯245aの歯数は8歯とされている。ただし、この場合に限定されるものではなく、歯数を適宜変更して構わない。
図28に示すように、ストップ歯245aは、平面視で第2回転軸線O2から離間するに従い第2回転軸線O2回りの時計方向に延びている。ストップ歯245aの歯先は、係合爪石286に対して係脱する作用面とされている。以下では、遊星車243の自転に伴ってストップ歯245aの歯先が描く回転軌跡Mを、遊星歯車245の回転軌跡Mという。
図27に示すように、定力下段車260は、地板223と定力ユニット受224との間において、定力上段車240の回転軸241に回転可能に支持されている。定力下段車260は、定力上段車240のキャリア247よりも下方であって、キャリア247と地板223との間に配置されている。定力下段車260は、回転軸241に外挿された定力下段筒261(第2部品)と、定力下段筒261に一体に連結された定力下段歯車262と、を備える。なお、定力下段車260は、定力ばね300から伝えられる動力によって第1回転軸線O1回りを時計方向に回転する。
定力下段筒261内には、回転軸241が上方から挿通されて定力下段筒261の下方に突出している。定力下段筒261における上端部および下端部の内側には、リング状の穴石269A,269Bが圧入されている。回転軸241は、これら穴石269A,269Bの内側を挿通している。
定力下段歯車262は、定力下段筒261の下端部に一体に連結されている。定力下段歯車262の外周面には、第2伝達車219が噛み合う定力下段歯262aが全周に亘って形成されている。これにより、定力下段車260は、脱進調速機214に繋がる第2伝達車219、すなわち脱進機側輪列215に対して定力ばね300からの動力を伝えることが可能とされている。
なお、本実施形態では、脱進機側輪列215を介して定力ばね300からの動力を脱進調速機214に伝える場合を例にして説明するが、この場合に限定されるものではない。例えば、脱進機側輪列215を設けず、定力ばね300からの動力を脱進調速機214に直接伝達するように構成しても良い。
係脱レバーユニット280は、遊星歯車245のストップ歯245aに係脱する係合爪石286を含み、係合爪石286を第1回転軸線O1回りに回転可能に支持する。係脱レバーユニット280は、定力下段筒261に対して相対回転不能に設けられたレバーブッシュ281と、レバーブッシュ281の時計方向の回転に伴って時計方向に回転可能に設けられた係脱レバー284と、を備える。
レバーブッシュ281は、第1回転軸線O1と同軸の円筒状に形成されている。レバーブッシュ281は、定力下段車260の定力下段筒261の上端部に外挿され、定力下段筒261に一体に連結されている。これにより、レバーブッシュ281は、定力下段車260の回転に同期して、第1回転軸線O1回りを時計方向に回転する。
係脱レバー284は、レバー本体285と、レバー本体285に支持された係合爪石286と、を備える。
レバー本体285は、遊星車243の遊星歯車245よりも下方に配置されている。レバー本体285は、レバーブッシュ281に支持されている。レバー本体285の一端部には、係合爪石286が取り付けられている。
係合爪石286は、例えばルビー等の人工宝石から形成されている。なお、係合爪石286は、上述した穴石と同様に人工宝石で形成される場合に限定されるものではなく、例えばその他の脆性材料や鉄系合金等の金属材料で形成しても構わない。また、係合爪石286は、レバー本体285と別体ではなく、レバー本体285と一体に形成されても構わない。係合爪石286は、レバー本体285よりも遊星歯車245側(上方)に突出した状態でレバー本体285に保持されている。係合爪石286は、定力上段車240のキャリア247のキャリア窓部252の内側に配置されている。
図28に示すように、係合爪石286の突出した部分のうち、第1回転軸線O1とは反対側を向いた側面は、遊星歯車245のストップ歯245aの歯先が係脱可能とされている。係合爪石286は、遊星歯車245の回転軌跡M内で遊星歯車245に係合して遊星車243の自転を規制する。また、係合爪石286は、遊星車243に対して第1回転軸線O1回りの時計方向に変位して遊星歯車245の回転軌跡Mから退避することで、ストップ歯245aから離脱して遊星歯車245との係合を解除する。
図26に示すように、定力ばね300は、渦巻ばねである。図27に示すように、定力ばね300は、第1実施形態の日回し作動ばね90と同様の構成を有する。すなわち、定力ばね300は、ばね本体91、固定部92および係合部93を備える。定力ばね300は、係脱レバーユニット280よりも下方であって、係脱レバーユニット280と定力下段歯車262との間に配置されている。
固定部92は、第1回転軸線O1と同軸に配置されている。固定部92は、トルク調整機構310の後述する定力ばねブッシュ311に一体に連結されている。固定部92は、トルク調整機構310を介して定力下段車260の定力下段筒261に取り付けられている。係合部93は、定力上段車240のばね支持部250の下方に配置されている。係合部93は、貫通孔94に定力ばねピン303の下端部が上方から挿入されることで、定力ばねピン303に係合している。係合部93と定力ばねピン303との係合構造は、第1実施形態の係合部93と日回し歯車60のばねピン62との係合構造と同様である。係合部93は、定力ばねピン303を介して定力上段車240のキャリア247の下座248に取り付けられている。これにより、定力ばね300は、蓄えた動力を定力上段車240および定力下段車260にそれぞれ伝えることが可能とされている。
定力ばね300のばね本体91は、内端部から外端部に向かって時計方向に延びている。定力ばね300には、巻き上げによって予負荷が加えられている。そのため、定力ばね300にはトルクTcの動力が発生し、該動力が蓄えられている。本実施形態では、定力ばね300は、巻き締めることによって縮径するように弾性変形し、トルクを発生させる。
定力ばね300に蓄えられた動力は、定力ばね300の弾性復元変形に伴って定力上段車240および定力下段車260に伝えられる。これにより、定力上段車240および定力下段車260は、定力ばね300から伝えられる動力によって、第1回転軸線O1回りを互いに反対方向に回転可能とされている。具体的に、定力下段車260が時計方向に回転可能とされ、かつ定力上段車240が反時計方向に回転可能とされている。以降、上記トルクTcを定力ばね300の回転トルクTcと称する。なお、香箱車211内のぜんまい216が所定の巻き量で巻き上げられている場合、回転トルクTcは、回転軸241の回転トルクTbよりも小さいトルクとされている。
トルク調整機構310は、定力ばね300に予負荷を加えて、定力ばね300の回転トルクTcを調整する。トルク調整機構310は、定力下段車260の定力下段筒261に支持された定力ばねブッシュ311と、定力ばねブッシュ311に一体に連結された第1トルク調整歯車312と、定力下段筒261に一体に連結された第2トルク調整歯車313と、第1トルク調整歯車312と第2トルク調整歯車313とを連係するトルク調整ジャンパ314と、を備える。
定力ばねブッシュ311は、第1回転軸線O1と同軸の円筒状に形成されている。定力ばねブッシュ311は、定力下段歯車262と係脱レバーユニット280との間で、定力下段筒261に外挿されている。定力ばねブッシュ311は、定力下段筒261に対して第1回転軸線O1回りに回転自在に設けられている。定力ばねブッシュ311における上下方向の中間部には、定力ばね300の固定部92が外挿され、定力ばねブッシュ311および固定部92が一体に連結している。
第1トルク調整歯車312は、定力ばねブッシュ311の下端部に一体に連結されている。第1トルク調整歯車312の外周面には、第1トルク調整歯312aが全周に亘って形成されている。第1トルク調整歯312aには、図示しないトルク調整用の歯車が噛み合う。
第2トルク調整歯車313は、定力下段歯車262と、定力ばねブッシュ311および第1トルク調整歯車312と、の間に配置されている。第2トルク調整歯車313は、定力下段筒261に一体に連結されている。第2トルク調整歯車313は、第1トルク調整歯車312よりも小径に形成されている。第2トルク調整歯車313の外周面には、第2トルク調整歯313aが全周に亘って形成されている。第2トルク調整歯313aには、トルク調整ジャンパ314が離脱可能に係合する。
トルク調整ジャンパ314は、第1トルク調整歯車312に支持され、第2トルク調整歯車313の周囲を第1回転軸線O1回りに公転可能とされている。トルク調整ジャンパ314は、第2トルク調整歯車313に対して第1トルク調整歯車312が時計方向に回転することを規制可能とされている。また、トルク調整ジャンパ314は、第2トルク調整歯車313に対して第1トルク調整歯車312が反時計方向に回転することを許容可能とされている。
これにより、定力ばねブッシュ311および第1トルク調整歯車312が定力ばね300から時計方向の動力を受けると、該動力がトルク調整ジャンパ314を介して第2トルク調整歯車313に伝わる。すると、トルク調整ジャンパ314は、第2トルク調整歯車313に対する第1トルク調整歯車312の時計方向の回転を規制し、第1トルク調整歯車312および第2トルク調整歯車313が一体的に時計方向に回転する。その結果、定力下段車260も第2トルク調整歯車313とともに時計方向に回転する。
また、定力ばね300に予負荷を加える際には、図示しないトルク調整用の歯車を第1トルク調整歯車312に噛み合わせ、トルク調整用の歯車を回転させることで、第1トルク調整歯車312を反時計方向に回転させる。すると、トルク調整ジャンパ314は、第2トルク調整歯車313に対する第1トルク調整歯車312の反時計方向の回転を許容するので、定力下段車260を回転させることなく、定力ばねブッシュ311を反時計方向に回転させる。これにより、定力ばね300の固定部92を反時計方向に回転させることができる。その結果、定力ばね300の巻き上げを行うことができ、定力ばね300の予負荷を増大させて、回転トルクTcが増大するように調整することができる。
(定トルク機構の動作)
次に、上述したように構成された定トルク機構230の動作について説明する。
なお、初期状態として、香箱車211内のぜんまい216が所定の巻き量で巻き上げられ、香箱車211から動力源側輪列212を介して定力上段車240のキャリア247に回転トルクTbの動力が伝達されているものとする。また、定力ばね300が所定の巻き量で巻き上げられ、定力ばね300から定力上段車240のキャリア247および定力下段車260に、回転トルクTbよりも小さい回転トルクTcの動力が伝達されているものとする。
本実施形態の定トルク機構230によれば、定力ばね300を有しているので、定力ばね300に蓄えた動力を定力下段車260に伝えて、定力下段車260を第1回転軸線O1回りの時計方向に回転させることができる。詳細には、定力ばね300からの動力は、固定部92からトルク調整機構310に伝わる。トルク調整機構310に伝わった動力は、定力下段車260に伝わる。これにより、定力下段車260には、回転トルクTcで第1回転軸線O1回りを時計方向に回転するような動力が定力ばね300から伝達される。さらに、定力下段車260から第2伝達車219に定力ばね300の動力を伝えることができ、定力下段車260の回転に伴って第2伝達車219を回転させることができる。つまり、定力下段車260を介して脱進機側輪列215に定力ばね300からの動力を伝えることができ、脱進調速機214を作動させることができる。
また、定力ばね300からの動力は、係合部93から定力ばねピン303を介して定力上段車240にも伝わるので、定力上段車240を回転トルクTcで第1回転軸線O1回りの反時計方向に回転させようとする。
しかしながら、定力上段車240には、動力源側輪列212から第1回転軸線O1回りを時計方向に回転するような回転トルクTbが伝達されている。回転トルクTbは回転トルクTcよりも大きいので、定力上段車240は、第1回転軸線O1回りを反時計方向に回転することが防止されている。
なお、定力上段車240には、動力源側輪列212から伝えられた回転トルクTbと、定力ばね300から伝えられた回転トルクTcとの差分の動力(回転トルクTb−回転トルクTc)が作用する。ところが、係脱レバーユニット280の係合爪石286は、定力上段車240の遊星歯車245の回転軌跡M内で遊星歯車245に係合しているので、遊星車243の自転および公転が規制される。これにより、定力上段車240と定力下段車260とを連係させることができ、定力上段車240が第1回転軸線O1回りを時計方向に回転することが防止されている。
以上のことから、遊星歯車245と係合爪石286とが係合している段階では、定力上段車240は第1回転軸線O1回りに回転することが防止されている。なお、定力上段車240には、上述した差分の動力が作用するので、遊星歯車245のストップ歯245aの歯先が係合爪石286に対して強く押し当たった状態で係合する。
定力ばね300からの動力によって定力下段車260が回転すると、これに伴って係脱レバーユニット280のレバーブッシュ281および係脱レバー284が第1回転軸線O1回りを時計方向に回転する。係脱レバー284が時計方向に回転すると、係脱レバー284が有する係合爪石286は、第1回転軸線O1回りの時計方向に変位する。これにより、係脱レバーユニット280は、係合爪石286を遊星歯車245の回転軌跡Mから退避させるように、遊星歯車245から徐々に離脱させることができる。これにより、係合爪石286の離脱に伴ってストップ歯245aの歯先が係合爪石286に摺動しながら係合爪石286に対して第1回転軸線O1回りの反時計方向に移動する。そして、ストップ歯245aの歯先が係合爪石286の爪先を超えた時点で、ストップ歯245aと係合爪石286との係合が解除される。これにより、係合爪石286および遊星車243を介した定力上段車240と定力下段車260との連係が解除される。
従って、定力上段車240は、動力源側輪列212から伝えられた回転トルクTbと、定力ばね300から伝えられた回転トルクTcとの差分の動力(回転トルクTb−回転トルクTc)によって第1回転軸線O1回りを時計方向に回転する。
定力上段車240が第1回転軸線O1回りを時計方向に回転することで、キャリア247に固定された定力ばねピン303を介して、定力ばね300を巻き上げることができ、定力ばね300に動力を補充することができる。つまり、定力下段車260に動力を伝えることで失った動力の損失分を、動力源である香箱車211側から伝えられた動力を利用して補充することができる。これにより、定力ばね300の動力を一定に維持することができ、定トルクで脱進調速機214を作動させることができる。
なお、定力ばね300に対する動力の補充を行っている場合であっても、定力下段車260は定力ばね300からの動力によって回転し、脱進機側輪列215に定力ばね300からの動力を伝えている。
また、上述した定力ばね300に対する動力の補充が行われている際、定力上段車240の第1回転軸線O1回りの回転に伴って、遊星車243が第2回転軸線O2回りを時計方向に自転しながら、第1回転軸線O1回りを時計方向に公転して、係合爪石286を追従する。そして、ストップ歯245aの1歯分だけ遊星車243が自転することで係合爪石286に追いつき、ストップ歯245aの歯先が係合爪石286に再び係合する。
これにより、定力上段車240と定力下段車260とが再び連係するので、定力上段車240の回転が防止され、定力ばね300への動力の補充が終了する。
以上を繰り返すことで、遊星歯車245と係合爪石286との係脱を間欠的に行うことができる。すなわち、遊星歯車245および係合爪石286は、定力下段車260の回転に基づいて、定力下段車260に対して定力上段車240を間欠的に回転させることができる。これにより、間欠的に定力ばね300への動力の補充を行うことができる。
以上に説明したように、本実施形態の定力ばね300は、第1実施形態の日回し作動ばね90と日回し歯車60との係合構造と同様に、定力上段車240に定力ばねピン303を介して2点で係合しているので、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
そして、本実施形態の定トルク機構230は、所望のトルクを発生させる定力ばね300を備えるので、定力上段車240と定力下段車260との間に与えられるトルクが不足することを抑制でき、定力下段車260から脱進調速機214に伝達されるトルクの変動を抑制できる。
また、本実施形態の時計およびムーブメント210は、脱進調速機214に伝達されるトルクの変動を抑制された定トルク機構230を備えるので、高い計時精度を有するムーブメントおよび時計とすることができる。
[第3実施形態]
次に、図29から図31を参照して、第3実施形態について説明する。第3実施形態では、日針8を運針するレトログラード機構411に渦巻ばねが設けられている点で、第1実施形態と異なる。なお、第1実施形態または第2実施形態と同様の構成については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
図29は、第3実施形態を示す時計の外観図である。
図29に示すように、本実施形態の時計1Aには、日付を表示するカレンダ表示部401aが設けられている。カレンダ表示部401aは、日針8と、文字板3に設けられた扇状の目盛りと、を備える。日針8は、時針5、分針6および秒針7とは異なる軸線回りに、所定の角度範囲内で回動可能に設けられている。扇状の目盛りは、日付を表す「1」から「31」の数字によって構成されている。扇状の目盛りは、日針8の回動範囲に合わせて設けられ、日針8によって指示される。
図30および図31は、レトログラード機構の平面図である。
図30に示すように、ムーブメント410(時計用ムーブメント)は、日針8を駆動するレトログラード機構411を備える。レトログラード機構411は、日針8を所定の角度範囲内で往復移動させる。レトログラード機構411は、日回し車412と、日回し伝え車420と、日復針レバー440と、日針車450と、戻しばね460と、を備える。
日回し車412は、上述した動力源側輪列212(図25参照)に連係して1日(24時間)で1回転する。日回し車412には、日回しつめ413が設けられている。日回しつめ413は、平面視で円弧状に形成されたばね部414と、ばね部414の先端に設けられた当接部415と、を有している。日回しつめ413は、日回し車412に対して平面視で重なるように配置される。日回しつめ413は、日回し車412と一体的に設けられており、日回し車412と同期して回転する。ばね部414は、日回し車412の周方向および径方向に弾性変形可能とされている。当接部415は、日回し車412の回転に伴って日回し車412の回転軸線回りを回転することにより、1回転毎に1度だけ日回し伝え車420に係合して日回し伝え車420を回転させる。
日回し伝え車420は、円盤状に形成されており、外周縁に複数の歯421が形成されている。複数の歯421は、1ヶ月の日数である31日に対応して、31歯形成されている。複数の歯421の1つは、1日で1回転する日回しつめ413の当接部415によって、1日で1回押される。これにより、日回し伝え車420は、複数の歯421のピッチ角と同じ角度ピッチで、1日に1ステップずつ回転し、1ヶ月(すなわち31日)で1回転する。
日回し伝え車420には、日作動カム425が設けられている。日作動カム425は、日回し伝え車420と同期して、1ヶ月で1回転する。日作動カム425の外周面は、日回し伝え車420の回転方向とは反対方向に向かうに従い渦巻き状に半径が大きくなるように形成されたカム面426となっている。カム面426は、日回し伝え車420の回転軸線からの離間距離が最大となる最外部426aと、日回し伝え車420の回転軸線からの離間距離が最小となる最内部426bと、を有している。
日回し伝え車420には、日ジャンパ430が当接している。日ジャンパ430は、日回し伝え車420の回転方向の位置を規正する。日ジャンパ430は、先端部が自由端とされた弾性変形可能な日ジャンパばね部431を備えている。日ジャンパばね部431の先端部は、日回し伝え車420の歯421に係合可能となっている。日ジャンパ430は、先端部が日回し伝え車420の歯421に係合することにより、日回し伝え車420の回転を規正する。これにより、日回し伝え車420は、複数の歯421のピッチ角と同じ角度ピッチで、1日に1ステップずつ回転可能となっている。
日復針レバー440は、日回し伝え車420の回転軸線からずれた軸線を中心として往復回動可能に設けられている。日復針レバー440は、日針車450に噛み合う扇形歯車部441と、扇形歯車部441と一体的に回動するカム腕部442と、を備える。カム腕部442は、先端部が日作動カム425のカム面426に当接するカム従節になっている。以下、カム腕部442の先端部が日作動カム425のカム面426の最内部426bに当接するときの日復針レバー440の位置を「初期位置」という。また、カム腕部442の先端部が日作動カム425のカム面426の最外部426aに当接するときの日復針レバー440の位置を「終期位置」という。前述のとおり日作動カム425は、1ヶ月で1回転する。したがって、日復針レバー440は、初期位置と終期位置との間を1ヶ月で1回往復移動する。なお、図30においては、日復針レバー440が初期位置にある状態を図示している。また、図31においては、日復針レバー440が終期位置にある状態を図示している。
日針車450は、日針8と連結されて日針8を回転させる。日針車450は、日復針レバー440の回動に同期して回転軸線O3回りを回転する。日針車450は、日復針レバー440が初期位置にあるとき、最も一方向(図中の反時計回り方向)に回転した状態となる。このとき、日針8は、カレンダ表示部401a(図29参照)の目盛りの「1」を指示する。また、日針車450は、日復針レバー440が終期位置にあるとき、最も他方向に回転した状態となる。このとき、日針8は、カレンダ表示部401aの目盛りの「31」を指示する。これにより、日針8は、日作動カム425の回転および日復針レバー440の移動に対応して、1日ごとにステップ運針される。
戻しばね460は、日針車450を介して日復針レバー440を日作動カム425に接近する方向に付勢している。戻しばね460は、渦巻ばねである。戻しばね460は、第1実施形態の日回し作動ばね90と同様の構成を有する。すなわち、戻しばね460は、ばね本体91、固定部92および係合部93を備える。戻しばね460の固定部92は、日針車450に取り付けられ、日針車450に固定的に設けられている。戻しばね460の係合部93は、地板に取り付けられている。係合部93と地板との係合構造は、第1実施形態の係合部93と日回し歯車60との係合構造と同様である。すなわち、係合部93は、地板に設けられた一対のばねピン462に係合している。なお、係合部93が係合する部材は、地板に限定されず、日針車450を回転可能に支持する部材であればよい。
戻しばね460には、巻き上げによって予負荷が加えられている。本実施形態では、戻しばね460は、巻き締めることによって縮径するように弾性変形し、トルクを発生させる。戻しばね460は、日復針レバー440が初期位置にある状態で、巻き上げられている。戻しばね460は、日復針レバー440が終期位置にある状態で、日復針レバー440が初期位置にある状態よりもさらに巻き上げられている。これにより、戻しばね460は、日復針レバー440が初期位置から終期位置に亘るいずれの位置にある状態でもトルクを発生させており、日復針レバー440を日作動カム425に接近する方向に付勢している。
(レトログラード機構の動作)
次に、上述したように構成されたレトログラード機構411の動作について説明する。
上述したように、日回し車412は、1日で1回転する。日回し車412に設けられた日回しつめ413は、日回し車412と同期して、1日で1回転する。
日回しつめ413の当接部415は、回転により日回し伝え車420の歯421に当接した後、時刻の経過に伴い歯421を押す。なお、日回しつめ413の当接部415が日回し伝え車420の歯421に当接する時間は、一般に日が替わる午前0時前の所定時間(例えば午後23時から翌日午前0時までの間)に設定される。そして、日回し伝え車420の歯421が日回しつめ413の当接部415により押されて所定角度だけ回転すると、日ジャンパばね部431の先端部が歯421を乗り越えて、隣の歯421に係合する。これにより、日回し伝え車420は、所定の角度ピッチで1日に1ステップずつ回転し、1ヶ月で1回転する。
日作動カム425は、日回し伝え車420と同期して1日に1ステップずつ回転し、1ヶ月で1回転する。
ここで、日復針レバー440は、カム腕部442が日作動カム425の回転によってカム面426の最内部426bから最外部426aに向かって相対的に移動することにより、初期位置から終期位置に向かって移動する。これにより、日復針レバー440の扇形歯車部441と噛み合う日針車450は、1日で1ステップずつ回転する。また、日針車450に取り付けられた日針8は、日針車450の回転に対応して、日が替わる午前0時頃に1日分だけ運針される。このように、レトログラード機構411は、月の初日から末日かけて日針8を1ステップずつ運針させる。
以上に説明したように、本実施形態の戻しばね460は、第1実施形態の日回し作動ばね90と日回し歯車60との係合構造と同様に、地板に一対のばねピン462を介して2点で係合しているので、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
また、本実施形態のレトログラード機構411は、所望のトルクを発生させる戻しばね460を備えるので、日針車450に与えられるトルクが不足することを抑制できる。これにより、日針車450に与えられるトルクが不足して日針8の反復移動が乱れることを抑制できる。
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、本発明の渦巻ばねは、巻き上げに際して、外端部および内端部を相対回転させて巻き締めるように用いられる。しかしながら、巻き上げに際して、巻き広げて拡径するように用いられる渦巻ばねに本発明を適用してもよい。この場合には、渦巻ばねの巻き広がりによる周囲の部品への接触等を抑制できる。これにより、巻き上げられた状態の渦巻ばねの接触に伴う摩擦力により、渦巻ばねが発生させるトルクが減少することを抑制できる。
また、上記実施形態では、渦巻ばねの係合部が被係合部材に2点で係合しているが、3点以上で係合していてもよい。
また、上記実施形態では、渦巻ばねの係合部と被係合部材とが隙間嵌めによって係合しているが、圧入(締り嵌め)や中間嵌め等によって係合していてもよい。ただし隙間嵌めによって係合させることで、簡便な組み立てが可能という点で有効である。
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した各実施形態および各変形例を適宜組み合わせてもよい。例えば、第2実施形態および第3実施形態に、第1実施形態の各変形例を組み合わせてもよい。