JP6756995B1 - 銅基焼結合金及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

本発明の、比較的硬くて高靱性のαFe‐Fe2Mo‐Fe7Mo6 粒子内に潤滑性の優れるMnS を反応焼結により微細に分散保持させた硬質潤滑粒子を含む黄銅で作製した部材を用いることで、その硬質粒子の耐摩耗性及び自己潤滑効果で、摺動部材の摩耗量を著しく低下させ、例えばターボチャージャの回転部分の軸受に用いると、さらなる出力向上と、高効率化および高寿命化を図ることができて、より低燃費化、排ガス浄化が可能となる。

Description

本発明は、自動車用エンジン向けのターボチャージャで使用する浮動ブッシュ軸受やスラスト軸受に好適に用いられ、自動車の燃料ポンプ用の軸受等の常時潤滑油が供給される摺動部材や家電用軸受等の潤滑油を合金内部に含浸させた含油摺動部材等にも利用可能な銅基焼結合金及びその製造方法に関する。
自動車用エンジンに採用されるターボチャージャは、当初、エンジンへ圧縮空気を送り込むことにより高出力を得ることが目的であった。しかし、1990年頃から、燃費向上を目的としたエンジン軽量化(小排気量化)に伴い、エンジンの出力低下を補いつつ排ガス浄化機能も備えたダウンサイジングターボが主流となってきた。小排気量のエンジンほど回転速度の上昇率が大きく、排気温度が上昇しやすいため、エンジンルーム内の雰囲気温度も上昇する。そのため燃費向上を求めると、使用する潤滑油及び軸受が曝される温度がより高まる。
ターボチャージャはエンジンからの燃焼排気ガスにより回転するタービン翼と、その回転により空気を圧縮してエンジンに送風するコンプレッサ翼とを備え、両翼はクロムモリブデン鋼材等からなる回転軸により接続されている。ターボチャージャの回転軸は、回転軸に対して垂直な方向の荷重を受ける浮動ブッシュ軸受と平行な方向の荷重を受けるスラスト軸受とにより支持されている。いずれの軸受にも摺動特性に優れる鉛青銅や高力黄銅をベースとした合金が使用されてきた。
鉛青銅は、耐焼付き性や摺動特性に優れるものの耐硫化腐食性に劣るため、硫黄を含んだ高温の潤滑油に曝されると合金表面に脆弱な黒色の銅硫化物層が生成し、軸受面の摩耗が促進される。そのため、高温に曝されるターボチャージャの回転軸を受ける浮動ブッシュ軸受やスラスト軸受等に用いると、長期間安定して使用することが困難であった(岩間由華、山根正明、飯塚清和、和田山勝也:「自動車用潤滑油による車両用過給機の軸受材の黒色化現象に関する研究」、自動車技術会論文集、47(2016)、p.615‐619参照)。
高力黄銅は、耐硫化腐食性が優れるため、硫黄を含んだ高温の潤滑油に曝されても黒色の硫化物層が生成されない。しかし、耐摩耗性に問題があり、そのためターボチャージャの軸受と比べると低速回転で使用する摺動部材に多く使用されてきた(特許第3718147号公報の段落[0052]参照)。
特許第2745696号公報は、従来の銅基溶製合金の問題を解決するため、Zn:5〜25質量%、Si:0.1〜2質量%、Fe、Ni及びCoのうち1種又は2種以上:0.1〜3質量%、酸素:0.01〜0.5質量%、Al:0.1〜0.3質量%、Cr、Mo及びWのうち1種または2種以上:0.1〜2質量%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる組成を有し、素地中に1〜40μmの粒度範囲内に分布した酸化物が0.1〜7%の面積率で均一分散し、かつ同じく1〜25μmの粒度範囲内に分布した金属間化合物が1〜8%の面積率で均一分散し、さらに素地中に微細な酸化物及び金属間化合物が均一に分散し、かつ空孔が1〜15体積%分布した組織を有する銅基焼結合金を開示している。
ダウンサイジングターボ化した自動車用エンジンで、より低燃費化及び排ガス浄化を可能とするためにさらなる出力向上と高効率化を図ろうとすると、ターボチャージャの軸受のあるエンジンルーム内雰囲気は180℃以上の高温となる場合が多い(特許第3718147号公報の段落[0013]参照)。その結果、特許第2745696号公報の軸受用焼結合金はZn量が25%以下の黄銅であるため、180℃以上の高温で使用されるターボチャージャの軸受に応用すると、潤滑油に含まれる硫黄により腐食が進行しやすく、軸受部に異常摩耗を生じる(特許第3718147号公報の段落[0012]参照)。
そこで、特許第3718147号では、ターボチャージャの軸受用焼結合金として、硫化腐食し難いZn量40%程度の黄銅とし、さらに黄銅中に針状の硬質のMnSi相粒子を回転軸方向に配向分散させた合金とし、腐食を防止しつつMnSi相による耐摩耗性向上を狙った。
しかし、特開2016‐169434号公報によると、長期使用した際に、MnSi相が破壊して軸受面から脱落し摺動面を傷つけ、それが原因となり焼付きを生じるという問題が発生した(段落[0004]参照)。これを緩和するため、特開2016‐169434号公報では、MnSi相の硬質粒子を分散させた銅亜鉛合金(α‐β二相合金)のα相に着目し、β相よりも硬さが低いα相に内包されるようにBi粒子を分散させて、α相が摩耗して生じた凹部にBiを残存させ、Biにより摺動性を付与して、耐焼付き性を改善している。
しかし、MnSi相の脱落自体はなんら防止されていないため、摩耗が進行した際にMnSi相が破壊して軸受面から脱落し摺動面を傷つけ、それが原因となり焼付きが生じる問題は解決できていない。
以上のように、より厳しい使用環境向けのターボチャージャの軸受用の焼結合金についての提案がなされてきたが、耐摩耗性を有する相の脱落を防止できる軸受用合金を開示した先行技術は見当たらない。そこで本願発明者らは、ターボチャージャの軸受に好適となるように銅基焼結合金の性能を改善するためには、具体的には以下の二点を同時に解決することが重要であると考えた。
第一に、軸受部材に分散させる硬質粒子は、摺動時の微視的な衝撃による破壊や脱落を防止するために、摺動時に生じる応力に耐える高い靱性と銅合金基材から脱落しない高い界面強度を有する必要がある。
第二に、軸受材料は、過酷な摺動時においても低摩擦係数を維持している必要がある。ターボチャージャの駆動時には潤滑油が常時供給されるが、過酷な条件では軸受/回転軸界面の油膜形成が十分でなくなり、軸受材料と回転軸材料同士が微視的に直接接触するため、回転軸材料によって軸受の黄銅部(硬さ:黄銅<鋼)に傷が発生し、摩擦係数が急激に増大して焼付きの原因となる。ターボチャージャ用の軸受に限らず、軸受材料の境界潤滑下での摺動特性はポンプやモーター等の製品性能や寿命を左右することになる。そのため、過酷な摺動環境下においても低摩擦係数を維持できる軸受材料が必要である。
解決する手段として、軸受部材に分散する硬質粒子が自己潤滑性を有していれば、一時的に油切れとなっても、軸受/回転軸界面における摩擦係数の増大を防ぎ、安定した摺動を維持することができる。
以上から、軸受部材等の過酷な環境で使用される摺動材料に用いる銅基焼結合金に分散する硬質粒子は、靱性が高く、銅合金基材との界面強度が高く、かつ自己潤滑性を有することが望ましい。
特許第5229862号公報は、Fe粉末が55〜60原子%で残りがMo粉末となるようにFe粉末とMo粉末を混合し、加圧焼結して得たFe7Mo6金属間化合物相、Fe‐7原子%Mo相及びMo相の三相から構成される低摩擦・低摩耗を示すFe7Mo基合金(以下、「合金A」とする。)を開示している。特許第5229862号公報はさらに、合金Aを構成する三相のうち、Fe7Mo6金属間化合物相は低摩擦・低摩耗に寄与し、Fe‐7原子%Mo相は破壊靱性強化相として機能する旨を記載している。従って、合金Aは加圧焼結により作製するため生産性はやや劣る欠点はあるものの、硬質潤滑粒子として有望である。
特開平10‐317002号は、Fe‐Mo‐S三元系合金粉末を用いて作製した自動車部品等の機械構造部品は摩擦係数が低いことを明らかにしている。すなわち、本合金粉末粒子自体の内部にMoxSy型の化合物(FeMoxSy)が微細に析出し、そのMoxSy型化合物の潤滑作用に基づいて粉末粒子自体、ひいては粉末焼結体の摩擦係数を効果的に低減することができるとしている。本願発明者らは、この考え方を用いれば、前述の特許第5229862号公報に開示の合金Aの摺動特性をさらに改善できると考えた。
すなわち、本発明の一態様は、Cu、Zn及びMnを含む黄銅合金基材にαFe、Fe2Mo、Fe7Mo6及びMnSを含む硬質粒子を分散させた焼結合金において、焼結合金全体の質量を100%としたとき、FeとMoの合計含有量が7〜25質量%であり、Fe、Mo、Mn及びSの含有量(質量%)をそれぞれCFe、CMo、CMn及びCSとすると、CMn/(CFe+CMo)が0.15〜0.47であり、CMo/(CFe+CMo)が0.20〜0.30であり、CS/(CFe+CMo)が0.01〜0.04であり、前記硬質粒子は、硬質粒子全体の体積を100%としたとき、40〜60体積%のαFe相、10〜30体積%のFe 2 Mo相、10〜30体積%のFe 7 Mo 6 相、10〜20体積%のMnS相、及び4体積%未満のZnS相を有し、前記硬質粒子の平均粒径は10〜40μmの範囲内である銅基焼結合金である。
前記黄銅合金基材におけるCu及びZnの合計含有量に対するZnの含有量の比が0.38〜0.42であるのが好ましい。
前記黄銅合金基材が6.0質量%以下のAl及び1.0質量%以下のSnをさらに含むか、1.2質量%以下のAl1.0質量%以下のSn及び1.0質量%以下のNiをさらに含むのが好ましい。
銅基焼結合金の相対密度は96%以上であるのが好ましい。また含油軸受として用いるときは銅基焼結合金の相対密度が82%以上88%以下であるのが好ましい。
前記硬質粒子の出発原料粉末として、Fe‐Mo‐S合金粉末と、Mn粉末及び/又はMnを含む銅合金粉末とを用いるのが好ましい。
本発明の焼結合金は、比較的硬くて高靱性のαFe‐Fe2Mo‐Fe7Mo6粒子内に潤滑性の優れるMnSが微細に分散保持された硬質粒子Mを含む黄銅合金である。本発明の焼結合金で摺動部材を製造すると、硬質粒子Mの耐摩耗性及び自己潤滑効果により、摺動部材の摩耗量を著しく低下させる。そのため、例えばターボチャージャの浮動ブッシュ軸受やスラスト軸受等のエンジン補器用摺動部材又は軸受に用いると、出力向上と高効率化を図ることができ、さらなる低燃費化・排ガス浄化が可能となる。なお本発明の焼結合金は、ターボチャージャ用軸受等のエンジン補器用、産業機器用、コンプレッサ用、家電用、OA機器用の摺動部材又は軸受等の鉛青銅や高力黄銅を用いる他の用途においても代替できることは自明である。
Fe‐Mo‐S三元系状態図のFe‐MoS2の垂直断面図である。 Cu‐Zn‐Mn三元系状態図である。 比較合金6及び7及び発明合金2及び4の相対密度を示すグラフである。 SEM‐EDXにより分析した比較合金6及び7及び発明合金2及び4中の各元素の分布を示す図である。 比較合金6及び発明合金4のX線回折図である。 図4及び5を比較し、分散粒子の化合物/金属相を判定し、画像処理した分布を示す図である。 比較合金6及び発明合金4の出発原料粉末をそれぞれ成形し、Arフロー(大気圧)雰囲気で室温から1,000℃まで10℃/分で加熱したときのTG‐DTA曲線を示す図である。 100質量%粉末Fと粉末Fに16.7質量%Mn添加した混合粉末とをそれぞれ成形し、Arフロー(大気圧)雰囲気で室温から1,000℃まで10℃/分で加熱したときのTG‐DTA曲線を示す図である。
本発明の銅基焼結合金(以下、「発明合金」と呼ぶ。)は粉末冶金法により作製することができる。発明合金は、Cu、Zn及びMnからなる黄銅合金基材に、反応焼結でαFe相、Fe 2Mo相、Fe7Mo6相及びMnS相を主成分とする硬質粒子Mを分散させた焼結合金である。銅合金基材の原料粉末としては、銅や銅亜鉛合金の粉末を銅合金が所定の亜鉛量になるように配合してなる混合粉末を用いることができる。硬質潤滑粒子の原料粉末としては、アトマイズ法等で作製したαFe、Fe2Mo及びFeMo3S4からなる粉末F(組成:Fe‐24質量%Mo‐2.7質量%S)と、Mn粉末とを配合してなる混合粉末を用いることができ、Mn粉末の代わりにMnを含む銅合金の粉末を用いても良い。
上記の原料粉末を所定の組成になるように配合しボールミルで混合し出発原料粉末を得る。この出発原料粉末を金型で成形したのち、反応焼結させてMnSを硬質粒子内部に形成させて発明合金を得る。焼結は、所定の型に出発原料粉末又はその成形体を充填してホットプレス焼結や通電焼結しても良く、焼結時に加圧する焼結HIPでも良いが、普通焼結が望ましい。普通焼結の場合は、焼結条件により焼結体の気孔率を変化させることができ、コスト的にも有利である。普通焼結を減圧下で行うと銅合金中の亜鉛の揮発量が多くなるため、雰囲気ガスとしてAr等の不活性ガスを用いて大気圧以上とするのが良い。
FeとMoとを合わせた含有量は、焼結合金全体の質量を100%としたとき、7〜25質量%とする。合計量が7質量%未満であると分散させる硬質粒子Mの量が十分でないことから耐摩耗性が低下し、25質量%超であると強度が低下し、軸受として使用するとき焼付きを発生しやすくなる。
発明合金に分散する硬質粒子Mの平均粒径は10〜40μmの範囲内である硬質粒子Mの平均粒径が10μm未満であると摺動時の硬質粒子Mの自己潤滑効果を十分に発揮できず、耐摩耗性向上が十分でない。硬質粒子Mの平均粒径が40μm超であると本材料の強度が低下して軸受として使用する際に欠けや割れ等が起きる場合があり信頼性が低下する。硬質粒子Mの平均粒径は300倍のSEM組織写真を9視野撮影し、画像解析することにより求めることができる。また硬質粒子Mの粒径は2μmから90μmの範囲にあるのが望ましい。粒径が2μm未満の硬質粒子Mは自己潤滑効果が十分でなく、粒径が90μm超の硬質粒子Mがあると軸受として使用する際に欠けや割れ等の原因となる。
発明合金のFe、Mo、Mn及びSの含有量(質量%)をそれぞれCFe、CMo、CMn及びCSとしたとき、FeとMoの合計含有量に対するMnの含有量の比CMn/(CFe+CMo)は0.15〜0.47である。Mnは硬質粒子M内のSと結合してMnS相を微細に分散して形成し、反応するSが無くなると黄銅合金基材中に固溶する。CMn/(CFe+CMo)が0.15未満であるとMnS相の量が少ないため硬質粒子Mの自己潤滑効果が十分でなく、0.47超であると黄銅合金基材中に固溶するMn量が多くなることにより、黄銅合金の液相出現温度が降下し、焼結中に液相過多となり変形を生じる。CMn/(CFe+CMo)は0.46以下であるのが好ましく、0.20以上であるのが好ましい。
FeとMoの合計含有量に対するSの含有量の比CS/(CFe+CMo)は0.01〜0.04である。Sは黄銅合金基材中にほとんど固溶せず、硬質粒子M内にMnS相と後述するZnS相を形成する。C S/(CFe+CMo)が0.01未満であると硬質粒子M内でMnと結合して十分な量のMnS相を生成させることができず、0.04超であると脆弱な硫化物相が増加して使用状況によっては硬質粒子Mの割れや破壊等により耐摩耗性を維持できない。
FeとMoの合計含有量に対するMoの含有量の比CMo/(CFe+CMo)は0.20〜0.30である。Moは黄銅合金基材中にほとんど固溶せず、硬質粒子M内にFe7Mo6相及びFe2Mo相を形成する。CMo/(CFe+CMo)が0.20未満であるとFe7Mo6相やFe2Mo相の量が少なすぎるため硬質粒子Mの自己潤滑効果が低下し、0.30超であると靱性の低いFe7Mo6相やFe2Mo相の量が多すぎるため機械加工性が低下する。
なお、黄銅合金基材中の各成分の含有量と硬質粒子M内の各成分の含有量とを合わせた焼結合金全体の各成分の含有量は、出発原料粉末に含まれる各成分の添加量にほぼ一致しているので、上述の焼結合金の各成分の含有量比は、出発原料粉末の配合時の添加量を元に計算により求めることができる。その計算値は、焼結合金をICP発光分光分析装置(例えば、島津製作所製ICPV‐1017)で分析した結果と基本的に同様となる。
Fe7Mo6相及びFe2Mo相は優れた耐摩耗性と同時に自己潤滑効果を示すので、Fe7Mo6相及びFe2Mo相は硬質粒子M全体に対して合計で20〜46体積%含有するのが良い。Fe7Mo6相及びFe2Mo相の体積比がこの範囲内にあると、優れた耐摩耗性及び強度が得られる。また硬質粒子M全体に対してFe7Mo6相は10〜30体積%含有するのが好ましく、Fe2Mo相は10〜30体積%含有するのが好ましい。
MnS相は、硬質粒子M全体に対して10〜20体積%含有させるのが良い。MnS相の体積比がこの範囲内にあると、硬質粒子Mが良好な自己潤滑性及び界面強度を有するとともに、摺動特性に優れ、過酷な摺動環境下でも焼付きを生じない。
硬質粒子MにZnS相が含まれると、MnS相の量が十分でないことを示すため、焼結性等で問題が生じる。そのため、硬質粒子MにZnS相は含まれるとしても4体積%未満であることが望ましい。
硬質粒子Mを分散させる黄銅合金基材は、銅亜鉛合金(黄銅)をベースとする。CuとZnの合計量に対するZn量の比は0.38〜0.42であるのが好ましい。この組成範囲では、高温下で硫黄を含む潤滑油に合金が接したとき表面に緻密なZnSを主成分とする被膜を形成させてCuS形成反応を抑止し、あたかもステンレス鋼が水溶液中で緻密な不働態被膜を形成させて優れた耐食性を示すように、硫黄を含む高温の潤滑油下で優れた耐硫化腐食性を示す。またβ相形成を促進して硬さも高くなり耐摩耗性も向上する。
黄銅合金基材に含まれるMnの量は0.1〜5質量%の範囲であるのが好ましい。黄銅にMnを添加するとZnの効果と同様にβ相が増加し、硬度が上昇して耐摩耗性を向上させることができる。その量が0.1質量%以下だと硬度上昇が十分でなく、5質量%より多いと機械加工性が低下する。
黄銅合金基材は、6.0質量%以下のAl及び1.0質量%以下のSnをさらに含んでも良く、1.2質量%以下のAl1.0質量%以下のSn及び1.0質量%以下のNiをさらに含んでも良い。また、各原料由来の不可避不純物を含む。
発明合金は、ターボチャージャ用軸受などの厳しい使用環境で使用する場合には相対密度96%以上であるのが良い。96%未満の場合には摺動中に形成する油膜が破壊されやすく焼付きを生じやすい。また焼結合金に一定量の気孔を形成させ、その中に油を含浸させることで含油軸受としても用いることができる。このとき発明合金の相対密度は82%以上88%以下であるのが好ましい。88%を超える場合には合金から排出される油量が不足することにより、82%未満の場合には相手材との接触面積が減少することにより面圧が高くなり焼付きやすくなる。
本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
(実施例1)
合金AよりもFe量を増加させてαFe相の比率を高め、特開平10‐317002号のFe‐Mo‐S系合金粉末よりもS量を減少させてMoxSy型化合物を少なくした粉末F(組成:Fe‐24質量%Mo‐2.7質量%S)を作製した。粉末Fの構成相をX線回折で調べたところ、αFe、Fe2Mo及びFeMo3S4からなることが分かった。
粉末F及び粉末Fを黄銅に添加した焼結体を下記の手順により作製した。黄銅粉末(平均粒度10μm)、粉末F(平均粒度25μm)、Mn粉末(平均粒度10μm)を表1に示す比較合金1〜9及び発明合金1〜6の組成に配合し、乾式のボールミル(粉末:ボール=1:1)により30分混合して出発原料粉末を得た。続いてこの出発原料粉末を成形(5 t/cm2)し、最後に不活性ガス中(Ar)で焼結(900℃‐1時間)を行った。なお、市販合金1(黄銅C2801)及び市販合金2(高力黄銅C6782)は、市中から得た。
*1: Cu及びZnはCu‐40質量%Zn黄銅合金として添加する。
*2: Fは粉末Fを指す。
*3: その他の元素はFe、Al、Pbである。
*4: Nは普通焼結、Hはホットプレス焼結、Cは鋳造である。
表1(続き)
*5: 焼結中、液相過多のためダレた。
*6: 焼結中、液相過多で、所定の形状が得られなかったため、試験せず。
*7: 「破断せず」は、曲がってちぎれなかったことを示し、曲げ強度が大きいわけではない。
*8: エンジンオイルS中(200℃)での変色を示し、○は変色なし、●は黒く変色し、△は灰色に変色することを示す。
*9: ピンオンディスク試験機を用いた試験。
*10: ◎は、市販合金1の焼付かない面圧に対し20%以上優れるもの。○は同等より優れ〜20%未満優れるもの。△は同等のもの。○△はばらついて両方の結果があるもの。
表1は、配合成分、作製方法及び合金の特性を示す。相対密度、曲げ強さ及び腐食試験に用いた各合金試験片の寸法は幅×厚さ×長さを8 mm×4 mm×25 mmとした。耐硫化腐食性を調べる腐食試験では、200℃に加熱した硫黄を含むエンジンオイルS(出光興産株式会社製ゼプロエコメダリストSN/GF5 0W‐20)中に試験片を20時間浸漬し、試験片の色調変化を観察した。○は変色なし、●は黒く変色、△は灰色に変色。○のみが耐食性があるとみなすことができ、本用途に適する。
摺動試験及び実用模擬試験にはピンオンディスク試験機を使用し、相手材をSCM435(HRC47)製ディスク(φ35 mm×15 mm)とし、ピンを各合金試験片(8 mm×8 mm×16 mm、角は0.2 R)とした。
摺動試験では、室温で、摺動速度を0.4 m/sとし、エンジンオイルSをディスクの摺動面上に最初のみ0.5 cc塗布し、面圧20 MPaとして1時間摺動させた。摩擦係数は定常状態での値であり、摩耗寸法は1時間摺動後の値である。「-*6」は、合金が焼結時に液相過多で変形したため、試験していないことを示す。なお、エンジンオイルを常時供給しなかったのは過酷な条件となるようにしたためである。
実用模擬試験は、実用した場合の使用環境をシミュレーションした焼付き試験である。室温で、摺動速度を0.4 m/sとし、エンジンオイルSをディスクの摺動面上に最初のみ0.2 cc塗布し、面圧を徐々に増加して焼付く直前の負荷を求めた。焼付く直前の負荷が市販合金1の値と同等のものを△とし、同等以上20%未満優れるものを○とし、20%以上優れるものを◎とする。「-」は、合金の緻密化不足や焼結時の変形が大きいため、試験しなかったことを示す。なお、エンジンオイルをディスクに最初のみ0.2 cc塗布としたのは摩擦係数測定と同じく過酷な条件となるようにしたためである。
試験温度を室温としたのは以下の理由による。実用試験で焼付くとされるエンジンルーム内の温度は180℃以上であるが、本模擬試験においてディスクの反対に接触させた熱電対で焼付いた時の温度を測定したところ、その温度は約200℃であった。そのため、室温での模擬試験でも実環境の再現ができていると判断した。
比較合金1は粉末Fのみからなり、難焼結性であって普通焼結では相対密度が低く、また耐食性も不足した。黄銅に粉末Fを40質量%添加した比較合金2も難焼結性を示し、普通焼結では相対密度が75.6%と低かった。そこでホットプレス焼結で緻密化させたのが比較合金3である。比較合金3は耐食性が改善されたので、実用模擬試験を行ったところ〇と△の両方の判定結果が得られた。しかし、ホットプレス焼結では生産コストが高くなりすぎるので実用的ではない。
そのため、普通焼結における焼結性の改善について検討した。黄銅自体の焼結性が悪いことに加えて、黄銅に添加した粉末Fも焼結性を低下させていると考えられたので、粉末Fの添加量を徐々に減少させた比較合金4〜6を作製して評価を行った。その結果、比較合金6は相対密度が約90%に向上したため、粉末Fの添加量は10質量%とした。
普通焼結においてさらに焼結性が改善できないかを状態図から考察した。図1に示すFe‐Mo‐S三元系状態図のFe‐MoS2の垂直断面図(P. Villars, A. Prince, H. Okamoto : Handbook of Ternary Alloy Phase Diagrams, Volume 1-10, ASM International, 1995, p.10480参照)より、焼結温度(〜900℃)では粉末Fは固相であることから、粉末Fそのままでは焼結性の向上は見込めない。従って、焼結性の改善には、この焼結温度でいかにして黄銅自体の焼結性を向上させるか、を考えることが先決である。図2はCu‐Zn‐Mn三元系状態図(P. Villars, A. Prince, H. Okamoto : Handbook of Ternary Alloy Phase Diagrams, Volume 1-10, ASM International, 1995, p.9710参照)であり、図中の数字は液相出現温度を示す。Cu‐39.3原子%Znの近くに示した2つの小さな○は、表1の比較合金6及び7の組成のうち粉末Fを除いた各元素の位置を示す。これより、1質量%Mn添加で液相出現温度は約5℃低下すると見積もられる。すなわち、Mnを添加することによって液相出現温度が降下し、黄銅自体の焼結性が向上すると考えられる。
またMnの添加は、粉末Fに対しても以下の効果をもたらすと考えられる。焼結温度(〜900℃)下ではFeS及びMoS2のいずれよりもMnSの方がエネルギー的に低く安定であるため(社団法人日本鉄鋼協会編:第3版 鉄鋼便覧 第I巻 基礎、丸善株式会社、1981年、p.12のエリンガム図参照)、同様にFe‐Mo‐S系化合物であるFeMo3S4よりもMnSの方が安定であると考えられる。従って、Mnを添加して焼結すれば、粉末F内のFeMo3S4と反応してMnSが生成すると推察でき、仮にMnSの生成が発熱反応であれば粉末Fの周囲の温度が上がるため、黄銅との濡れ性が良くなり焼結性を改善できると考えられる。
以上より、Mnの添加は焼結性の改善に有効と思われた。さらに、Mnの添加によって粉末F内のFeMo3S4がαFeとFe7Mo6とMnSになれば、分散粒子の構成相は合金Aにより近づく。そして、潤滑性に優れるMnS(特許第4823183号公報の段落[0060]参照)が分散粒子内に微細に生成すれば、摺動特性の向上も図れると考えた。
そこで、所定の混合方法でCu‐40質量%Zn黄銅合金粉末に粉末Fを10質量%添加し、さらに0〜5質量%Mn添加した組成の混合粉末を成形(5 t/cm2)し、不活性ガス中(大気圧下)で900℃、1時間の普通焼結を行い、比較合金6〜8及び発明合金1〜5を作製した。
焼結合金の相対密度とMn添加量との関係を理解しやすくするため、比較合金6及び7及び発明合金2及び4の相対密度を図3に示す。Mnを1質量%添加すると相対密度が96.0%に達し、その後は緩やかに上昇する傾向にあることが分かる。Mn添加によって焼結性の改善が期待通り成功した。
分散粒子内でMnS生成が起きているかを確かめるため、焼結合金のX線回折分析と断面組織のSEM観察及びEDX分析を行った。X線回折では、物質が少量しか含まれない場合検出されないことが多いので、はじめにMnを0〜4質量%添加した焼結合金(比較合金6及び7及び発明合金2及び4)を研削・研磨した後、SEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製Regulus8100)付属のEDX(ブルカー製FlatQUAD)で分析(加速電圧15 kV、2次電子検出時間30分一定)した。得られた結果を図4に示す。各段の左端にMn添加量を示した。最左列がSEMの2次電子像で、その右側は各図の最下段に示した元素の分布を白色〜灰色で示している。白色ほど検出エネルギーが強く、その元素成分がより多いことを示す。Mnの分布に着目すると、1質量%Mn添加では大部分が黄銅合金基材中に分布していたが、分散粒子の周囲にも僅かに生じていた。
0質量%及び4質量%Mn添加焼結合金(比較合金6及び発明合金4)のX線回折パターンを図5に示す。株式会社リガク製RINT‐Ultima IIIを用い、測定条件を、管電圧:40 kV、管電流:30 mA、X線種:CuKα、発散スリット:2/3°、散乱スリット:2/3°、受光スリット:0.3 mm、ステップ幅:0.01°、スキャンスピード:0.25°/分、グラファイト湾曲結晶モノクロメータ使用とした。焼結合金の構成成分は、Mn無添加では(Cu‐Zn)‐αFe‐Fe2Mo‐Fe7Mo6‐ZnSであった。一方、4質量%Mn添加では(Cu‐Zn)‐αFe‐Fe2Mo‐Fe 7Mo6‐MnSとなった。すなわち、4質量%Mn添加によってZnSは無くなり、新たにMnSが生成した。
図4及び5を比較し、分散粒子内の化合物/金属相を判定し、画像処理した分布を図6に示す。分かりやすくするため2値化をしている。黒色〜灰色部分が最下段に表示した各相の分布を示しており、黒色ほど、その成分の量が多いことを表わしている。図6に示すように、焼結後の合金の分散粒子の構成相は、Mn無添加ではαFe‐Fe2Mo‐Fe7Mo6‐ZnSであった。1質量%Mn添加で、分散粒子の周囲にMnSが認められ、やや分かり難いが、分散粒子内にも僅かに生成していた。2質量%Mn添加では、ZnSは消滅し、逆にMnSが明瞭となり、4質量%Mn添加も同様であった。なお、5質量%Mn添加合金(比較合金8)でも同様にMnSは生成していたが、前述したように焼結変形が著しいため各種の評価に用いることができなかった。そのため、図6には0〜4質量%Mn添加の結果のみを示した。いずれにしてもMnを添加することによって、分散粒子内に目的としたMnSを生成させることができた。
前述したように、図6より1質量%以下のMn添加では分散粒子内にZnSが生成していることが分かる。これはFeS<ZnS<MnS(MnSが最も安定)の順にエネルギー的に安定であるため、Mn添加量が少ない場合はZnSが存在し、多くなるとMnSのみになると考えられる。また表1及び図3と合わせて考えるとMnS生成と異なりZnS生成は粉末Fの添加による焼結性劣化をほとんど改善しないと思われる。いずれにしても、ZnS生成は本願発明に対して大きな意味はないとして良い。
MnSの生成が発熱反応か否か確かめるため、株式会社リガク製示差熱分析装置TG8120を用いて熱重量(Thermo Gravimeter:TG)及び示差熱(Differential Thermal:DT)同時測定(以下、「TG‐DTA」と記す。)をArフロー雰囲気(大気圧)で室温〜1,000℃まで行った。
図7は、Mn無添加の比較合金6と4質量%Mn添加の発明合金4の出発原料粉末をそれぞれ成形し、Arフロー(大気圧)雰囲気で室温から1,000℃まで10℃/分で加熱した場合のTG‐DTA曲線を示す。出発原料粉末は5 t/cm2で成形し、基準物質はアルミナとした。図7に示すように、900℃付近に鋭い吸熱反応が見られた。これは、黄銅合金の液相出現温度を示しており、Mn無添加の場合は890℃であったが、4質量%Mnの場合は880℃であった。すなわち、図2のCu‐Zn‐Mn三元系状態図が示す通りMnの添加によって黄銅合金の液相出現温度が降下しており、黄銅自体の焼結性が向上したと考えられる。
図8は、100質量%粉末Fと、F‐16.7質量%Mnの混合粉末について図7と同様に測定したTG‐DTA曲線を示す。16.7質量%Mnの値は、発明合金2のF+Mnの合計含有量に対するMn含有量の比に相当する。推定したとおりMnS生成は発熱反応であることが分かった。発熱反応すなわち反応焼結が起きると粉末Fの周囲の温度が上がるため、黄銅との濡れ性が良くなり、密着性が向上する。これにより、摺動時に硬質粒子(粉末Fと組成は変わっている)を脱落し難くすると思われる。
なお粉末Fが難焼結性を有するのは、粉末Fが粗粒粉末であること、粉末の混合条件が軽粉砕であること等も大きな要因である。
さらに、4.5質量%Mn添加の発明合金5と5質量%Mn添加の比較合金8の結果に示すように、4.5質量%よりもMn添加量が多いと、焼結で液相が多くなりすぎるため焼結体が変形してしまった。従って、焼結変形のない合金を得るには1.5質量%以上4.5質量%Mn以下が良いことになる。
焼結体の質量変化が比較的大きいが、これは焼結中に焼結体表層の亜鉛が揮発するためである。しかし、その部分は軸受や摺動部材へ加工する際の取代の範疇であることから、生産上、特に問題とはならない。
図4の観察を行う際に基材の黄銅部分のEDXによる定量分析も行った結果、黄銅部分はMn添加により僅かにMnを含有することが確認され、4質量%Mn添加の発明合金4では約2質量%のMnの含有が認められた。これにより、黄銅をα‐β二相合金として硬さ及び強さが高まるので(根本正、鎌田充也、田野崎和夫:「Cu‐Zn‐Mn‐Al‐Fe系鋳造用銅合金の組織と機械的性質」、日立評論、44(1962)、1755‐1760参照)、耐摩耗性も向上していると思われる。
表1より、粉末F及び粉末F添加合金の焼結体は、摩擦係数が0.07と極めて優れることが分かる。その場合の摩耗寸法は粉末Fを除いて相対密度が96%以上でないと20μmを下回らない。具体的には、相対密度が96%以上の粉末F添加合金の焼結体では、試験開始初期こそ相手材とのなじみにより大きい摩耗速度を示すものの、その後は硬質粒子Mの潤滑効果により摩耗は抑えられ、1時間摺動後でも摩耗寸法は20μmを下回り、ほとんど摩耗しないことを確かめた。なお比較合金9及び市販合金1及び2では、摩耗試験開始時から1時間経過するまで同じ摩耗速度で摩耗して最終的に摩耗寸法は大きくなった。
いずれにしても、ターボチャージャ用の軸受や燃料ポンプ用の軸受等が使用される過酷な環境を再現する実用模擬試験において、焼付く直前の負荷が市販合金より安定して上回ることが、実用化できるかどうかを判断する指標となる。これを達成したのは表1では発明合金1〜6であった。
上記の結果から下記のことが言える。Mn添加により粉末F中のFeMo3S4を分解して得たαFe、Fe2Mo、Fe7Mo6及びMnSを主成分とする硬質粒子Mは、耐摩耗性及び潤滑性を併せ持つ分散粒子であり、粉末Fから硬質粒子Mに変化する反応は発熱反応であるため周囲との密着性がよく、摺動する際にも脱落し難い。従って、硬質粒子Mが黄銅中に分散した発明合金1〜6は、ターボチャージャ用の軸受、燃料ポンプ用の軸受等に用いると、硫黄を含む高温の潤滑油存在下においても極めて安定した耐硫化腐食性及び摺動特性を示すことができる。
表2は、比較合金6〜8及び発明合金1〜6中に存在する硬質粒子全体を100体積%としたときのαFe相、Fe2Mo相、Fe7Mo6相、MnS相、ZnS相の体積率を示す。MnSの生成量は、Mnの含有量を0質量%から1質量%及び1.5質量%と増やすと(相対密度が96%を越すと)急激に増加し、Mnの含有量が2質量%以上では約15体積%一定となる。他の相もMnの含有量が2質量%以上でほぼ一定であるので、発明合金2〜6の組成が特に安定であり、工業的に有利であると言える。
(実施例2)
表1の発明合金2〜6の中で摩耗寸法が最も大きい発明合金2と同じ組成を有する合金を選択し、含油合金の試験を行った。出発原料粉末は実施例1と同様の方法で得た。出発原料粉末を1〜5 t/cm2で成形したのち、800〜900℃で焼結し、相対密度が80%、82%、85%、88%及び90%の参考合金1,発明合金7〜9及び参考合金2をそれぞれ作製した。Cu‐10%Sn市販合金3(青銅合金P4013Z)は市中から得た。得られた合金を潤滑油に浸し、真空脱泡することで合金内に潤滑油を含浸させ含油合金を得た。相対密度の測定及び含油方法は日本工業規格:「焼結金属材料‐密度、含油率及び解放気孔率試験方法」、Z2501:2000、p.3‐6を参考とした。
焼付き試験は、各合金の相手材にSUS304(HV250)、SUS440C(HV700)及びSCM435(HV470)を用いてピンオンディスク型試験機で行った。摺動速度は合金中に含油した潤滑油が摺動面に広がりにくく、境界潤滑となりやすい低速の0.1 m/s一定とし、その状態で面圧を徐々に増加させ、相手材に焼付く面圧を比較した。
表3は、発明合金2と同組成で相対密度の異なる参考合金1及び2及び発明合金7〜9と市販合金3の配合組成、気孔率、相対密度、焼付き試験結果を示す。焼付き試験の結果判定は表1と同様とした。
試験の結果、発明合金7〜9は市販合金3と比べて1.8倍以上の高い面圧でも焼付きは起こらなかった。市販合金3の2倍の面圧でも焼付かない合金もあった。このことから、本発明の含油合金を青銅含油合金の代替とすることで長期間使用し境界潤滑が発生したとしても焼付かなくなり、発明合金を用いた製品の寿命を延ばすことが可能である。
参考合金1及び2は市販合金3との面圧の差がほとんど現れなかった。原因として、参考合金1は気孔率が高いため、含油量は十分だが、見かけの接触面積より実際に相手材と接触している面積は小さく、面圧が高くなる。そのため境界潤滑になりやすく、焼付き面圧が低くなったと考えられる。参考合金2は気孔率が低いことから含油量が少なく、摺動面に十分な潤滑油の供給が行われなかったため焼付いたと考えられる。
上記の結果より、発明合金を含油合金とする場合、合金の含油量が十分にあり、機械的強度が優れている相対密度82%〜88%が適していることが明らかである。また発明合金2よりも摩耗寸法が少ない発明合金3〜6を発明合金8と同じ方法で含油合金とした場合、少なくとも発明合金7〜9と同等の性能が得られることは明らかである。
*1: CuとZnは、Cu‐40質量%Zn黄銅合金として添加する。
*2: Fは、αFe‐Fe2Mo‐FeMo3S4合金粉末Fである(組成:Fe‐24質量%Mo‐2.7質量%S)。
*3: ◎は、市販合金3の焼付かない面圧に対し20%以上優れるもの。○は同等より優れ〜20%未満優れるもの。△は同等のもの。
*4: 相手材SUS304、SUS440C及びSCM435での焼付き試験の結果がいずれも同じ区分となったため、区分の表記を1つにまとめた。
以上の通り、硬質粒子M内に潤滑性に優れるMnSが微細に分散していることで、使用時にMnS粒子ごとの脱落が抑制され長期的な潤滑効果を示す。上記手法以外にもM内にMnSを微細に分散させる別の方法が無いか種々検討した。
FeやMoを含む溶湯に予めMnS粒子を分散させてアトマイズ法などによりFe‐Mo‐MnS粒子粉末を作製してみたところ、Fe‐Mo系の共晶温度が1,450℃でMn‐S系の共晶温度が1,580℃と温度差が大きいためか、Fe‐Mo合金粉末中にMnS粒子が偏析して微細に分散させることはできなかった。
混合粉末を作製する際に原料粉末としてMnS粉末(平均粒度約5μm)を用いて分散させることも検討したが、焼結合金の黄銅合金基材中にMnS相として粗大(約10μm以上)に分散し、硬質粒子内に微細に分散させることができなかった。
結局、MnS粉末ではなくMn粉末と粉末Fを混合して反応焼結させる方法が最も良いことが確認された。Mnを添加する際に使用する粉末は、Mn粉末でも良く、Mnを含んだ銅合金粉末でも良い。
上記のような特徴を有する本発明の焼結合金は、ターボチャージャに使用する軸受に限らず、常時潤滑油が供給される摺動部材又は潤滑油を合金内部に含ませた含油軸受材料にも用いることができる。潤滑油が供給される軸受の一例として、自動車エンジン補器用、産業機械用等の軸受がある。
具体的には、自動車エンジン補器用としては、ターボチャージャ、燃料ポンプや燃料噴射ポンプ用の摺動部材又は軸受が挙げられる。産業用機械用としては、ギアポンプや工作機械の主軸支持用やエアコンプレッサ用の摺動部材又は軸受が挙げられる。
合金内部に油を含ませた含油摺動部材の一例としては、家電用やOA機器用の摺動部材又は軸受が挙げられる。具体的には、家電用としては、冷蔵庫やエアコン等に用いられるコンプレッサ、HDDやBlu‐ray(登録商標)等の磁気式又は光学式記録装置、換気装置、洗濯機、電動調理器具等に組み込まれる摺動部材又は軸受が挙げられる。OA機器用としては、複合機等の摺動部材又は軸受が挙げられる。これらの摺動部材又は軸受に本発明の焼結合金を用いると、出力向上や効率化を図ることができ、長寿命化が可能となる。
本発明の焼結合金からなる軸受を用いたターボチャージャは、エンジンのさらなるダウンサイジングを可能とし、出力向上と効率化を図ることができるので、低燃費化・排ガス清浄化を促進し、地球温暖化防止及び省エネルギーに貢献し得る。

Claims (6)

  1. Cu、Zn及びMnを含む黄銅合金基材にαFe、Fe2Mo、Fe7Mo6及びMnSを含む硬質粒子を分散させた焼結合金において、
    焼結合金全体の質量を100%としたとき、FeとMoの合計含有量が7〜25質量%であり、Fe、Mo、Mn及びSの含有量(質量%)をそれぞれCFe、CMo、CMn及びCSとすると、CMn/(CFe+CMo)が0.15〜0.47であり、CMo/(CFe+CMo)が0.20〜0.30であり、CS/(CFe+CMo)が0.01〜0.04であり、
    前記硬質粒子は、硬質粒子全体の体積を100%としたとき、40〜60体積%のαFe相、10〜30体積%のFe 2 Mo相、10〜30体積%のFe 7 Mo 6 相、10〜20体積%のMnS相、及び4体積%未満のZnS相を有し、
    前記硬質粒子の平均粒径は10〜40μmの範囲内であることを特徴とする銅基焼結合金。
  2. 前記黄銅合金基材におけるCu及びZnの合計含有量に対するZnの含有量の比が0.38〜0.42であることを特徴とする請求項1に記載の銅基焼結合金。
  3. 前記黄銅合金基材が6.0質量%以下のAl及び1.0質量%以下のSnをさらに含むか、1.2質量%以下のAl1.0質量%以下のSn及び1.0質量%以下のNiをさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の銅基焼結合金。
  4. 相対密度が96%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の銅基焼結合金。
  5. 相対密度が82%以上88%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の含油軸受用の銅基焼結合金。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の銅基焼結合金を製造する方法であって、前記硬質粒子の出発原料粉末として、Fe‐Mo‐S合金粉末と、Mn粉末及び/又はMnを含む銅合金粉末とを用いることを特徴とする方法。
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