以下、添付図面を参照して、本願の開示するレーダ装置および信号処理方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
[1.信号処理の概要]
まず、実施形態に係るレーダ装置1によって実施される信号処理方法について、図1を参照し説明する。図1は、実施形態に係るレーダ装置1における信号処理を説明する概略図である。
レーダ装置1は、いわゆるFM−CW(Frequency Modulated−Continuous Wave)方式をとっており、反射波RWに基づいて物標Tの情報を生成する。物標Tは、例えば、自車両の前方を走行する前方車両、後方を走行する後方車両や自転車、歩行者などの移動体である。また、物標Tは、例えば、路側帯や信号機やポール、ガードレールなどの静止物であってもよい。
レーダ装置1は、所定周期で周波数が変化する送信波TWを送信アンテナ40から送信し(ステップS1)、送信波TWを反射する物標Tからの反射波RWを各受信アンテナ51で受信する(ステップS2)。各受信アンテナ51は、例えば、アンテナ間隔が等間隔の4本の受信アンテナである。
レーダ装置1は、送信波TWに対応する送信信号と、受信波に対応する受信信号とをミキシングしてビート信号を、受信アンテナ51で受信した受信波毎に生成する(ステップS3)。
レーダ装置1は、ビート信号に基づいて、ビート信号をFFT(Fast Fourier Transform)処理して周波数スペクトラムを受信アンテナ51で受信した受信波毎に生成する(ステップS4)。以降では、各周波数スペクトラムについて、第1周波数スペクトラム〜第4周波数スペクトラムとして記載することがある。例えば、4本の受信アンテナ51のうちの第1受信アンテナ51で受信した受信波に関する周波数スペクトラムを第1周波数スペクトラムとすると、第2受信アンテナ51の受信波に関する周波数スペクトラムは、第2周波数スペクトラム、第3受信アンテナ51の受信波に関する周波数スペクトラムは、第3周波数スペクトラム、第4受信アンテナ51の受信波に関する周波数スペクトラムは、第4周波数スペクトラムとなる。
レーダ装置1は、各周波数スペクトラムからピークを抽出する(ステップS5)。図1に示す周波数スペクトラムにおいては、各周波数スペクトラムのBIN2の信号レベルがピーク閾値よりも大きく、BIN1の信号レベルと、BIN3の信号レベルとがBIN2の信号レベルよりも小さい。
このため、BIN2は、(i)あるBIN(以下、「特定BIN」という。)の信号レベルがピーク閾値以上の条件(レベル条件)と、(ii)特定BINよりも1BIN小さいBINの信号レベルと、特定BINよりも1BIN大きいBINの信号レベルとが、特定BINの信号レベルよりも小さい条件との2つの条件(以下、「ピーク抽出条件」という。)を満たすことから、レーダ装置1は、対象となるBIN2の信号をピークとして抽出する。ピーク閾値は、予め設定された値である。BINは、周波数の別の単位であり、1BINは、約467Hzに相当する。
このようにピークとして抽出される場合は、(i)周波数スペクトラムのある周波数(以下、「特定周波数」という。)における信号レベルが所定の閾値以上である条件と、(ii)特定周波数よりも所定周波数小さい周波数の信号レベルと、特定周波数よりも所定周波数大きい周波数の信号レベルとが、特定周波数の信号レベルよりも小さい場合の条件との2つの条件を満たす場合である。
具体的には、特定周波数を特定BINとすると、(i)特定BINの信号レベルがピーク閾値以上の条件と、(ii)この特定BINよりも1BIN小さいBINの信号レベルと、特定BINよりも1BIN大きいBINの信号レベルとが、特定BINの信号レベルよりも小さい条件との2つの条件を満たす場合に、周波数スペクトラムにおける特定BINに対応する周波数における信号がピークとして抽出される。
また、ピークとして抽出されない場合は、ピーク抽出条件である(i)、(ii)のいずれかを満たさない場合である。
次に、例えば、BIN4についてピーク抽出条件を満たすか否かを検討する。BIN4では、第1周波数スペクトラムにおいては、ピーク抽出条件における(i)および(ii)の条件を満たすため、ピークとなっている。しかし、第2周波数スペクトラム〜第4周波数スペクトラムのBIN4ではピーク抽出条件における(i)の条件を満たすものの、(ii)の条件を満たさないためピークとなっていない。
そのため、例えば、各周波数スペクトラムの平均値を算出した場合には、BIN4では、ピーク抽出条件を満たさずにピークとして抽出されない場合がある。
レーダ装置1は、第1周波数スペクトラムにおいてピーク抽出条件を満たすBIN4について、第2周波数スペクトラム〜第4周波数スペクトラムでは、ピーク抽出条件を満たさないものの、信号レベルが準ピーク閾値よりも大きい周波数スペクトラムが所定数以上あるので、BIN4をピークとして抽出する。信号レベルがピーク閾値を大幅に超え、準ピーク閾値よりも大きい場合、レーダ装置1は、ピーク抽出条件における(ii)の条件を満たさなくとも、物標Tが存在する可能性が高いとして複数の受信アンテナ51の周波数スペクトラムの状況を考慮して、最終的にピークとして抽出するか否かを判断するものである。
所定数は、受信アンテナ51の数に応じて予め設定された数であり、本実施形態では、3つである。なお、所定数は、全体の受信アンテナ数に対する割合としてもよく、例えば、全体の受信アンテナ数の70%としてもよい。準ピーク閾値は、予め設定された値であり、ピーク閾値よりも大きい。準ピーク閾値は、周波数スペクトラムにおける最大信号レベルに基づいて設定されてもよい。例えば、準ピーク閾値は、周波数スペクトラムにおける最大信号レベルの80%の値としてもよい。
このように、レーダ装置1は、特定周波数(特定BIN)において、ピーク抽出条件を満たさない場合であっても、所定数以上の周波数スペクトラムで信号レベルが準ピーク閾値よりも大きい場合には、特定周波数の信号をピークとして抽出することで、抽出可能なピークを増加させることができる。
[2.レーダ装置1の構成]
次に、実施形態に係るレーダ装置1について図2を参照し説明する。図2は、実施形態に係るレーダ装置1の構成を示す図である。
レーダ装置1は、例えば車両のフロントバンパー内に設けられ、車両外部に送信波TWを出力し物標Tからの反射波RWを受信する。またレーダ装置1は、送信部4と、受信部5と、信号処理装置6とを主に備える。
送信部4は信号生成部41と、発振器42とを備えている。信号生成部41は三角波状に電圧が変化する変調信号を生成し、発振器42に供給する。発振器42は、信号生成部41で生成された変調信号に基づいて連続波の信号を周波数変調し、時間の経過に従って周波数が変化する送信信号を生成し、送信アンテナ40に出力する。
送信アンテナ40は、発振器42からの送信信号に基づいて、送信波TWを自車両の外部に出力する。送信アンテナ40が出力する送信波TWは、所定の周期で周波数が上下するFM−CWとなる。送信アンテナ40から自車両の前方に送信された送信波TWは、他の車両などの物標Tで反射されて反射波RWとなる。
受信部5は、アレーアンテナを形成する複数の受信アンテナ51と、その複数の受信アンテナ51に接続された複数の個別受信部52とを備えている。実施形態では受信部5は、4つの受信アンテナ51と、4つの個別受信部52とを備えている。4つの個別受信部52は、4つの受信アンテナ51にそれぞれ対応している。各受信アンテナ51は物標Tからの反射波RWを受信し、各個別受信部52は対応する受信アンテナ51で得られた受信信号を処理する。
なお、送信アンテナ40および受信アンテナ51の数は、仕様に応じて適宜設計変更可能である。
各個別受信部52は、ミキサ53と、A/D(Analog/Digital)変換器54とを備えている。受信アンテナ51で受信された反射波RWから得られた受信信号は、ローノイズアンプ(図示省略)で増幅された後にミキサ53に送られる。ミキサ53には送信部4の発振器42からの送信信号が入力され、ミキサ53において送信信号と受信信号とがそれぞれミキシングされる。これにより送信信号の周波数と、受信信号の周波数との差となるビート周波数を示すビート信号が生成される。ミキサ53で生成されたビート信号は、A/D変換器54でデジタルの信号に変換された後に信号処理装置6に出力される。
信号処理装置6は、CPUおよびメモリ63などを含むマイクロコンピュータを備えている。信号処理装置6は、演算の対象とする各種のデータを、記憶装置であるメモリ63に記憶する。
信号処理装置6は、マイクロコンピュータでソフトウェア的に実現される機能として、送信制御部61、フーリエ変換部62、および、データ処理部7を備えている。送信制御部61は、送信部4の信号生成部41を制御する。
フーリエ変換部62は、複数の個別受信部52のそれぞれから出力されるビート信号を対象に、高速フーリエ変換(FFT)を実行する。これによりフーリエ変換部62は、複数の受信アンテナ51の各受信信号に係るビート信号を、周波数領域のデータである周波数スペクトラムに変換する。フーリエ変換部62で得られた周波数スペクトラムは、データ処理部7に対して出力される。
データ処理部7は、複数の受信アンテナ51それぞれの周波数スペクトラムに基づいて、自車両の周辺(例えば、前方)に存在する物標Tに係る物標データを導出する。データ処理部7は、導出した物標データを車両制御装置2に出力する。
データ処理部7は、主な機能として物標データ導出部71、物標データ処理部72、および、物標データ出力部73を備えている。
物標データ導出部71は、フーリエ変換部62で得られた周波数スペクトラムに基づいて物標Tに係る物標データを導出する。物標データ導出部71は、導出部74と、算出部75と、抽出部76とを備える。なお、物標データ導出部71におけるピークの抽出方法、および導出部74、算出部75、および抽出部76の各機能については、後述する。
物標データ処理部72は、導出された物標データを対象にして連続性判定処理、および、フィルタ処理などの各種の処理を行う。
物標データ出力部73は、物標データ処理部72により処理された物標データを車両制御装置2に出力する。
なおデータ処理部7には、自車両に設けられた車速センサ81、および、ステアリングセンサ82などの各種センサからの情報が、車両制御装置2を介して入力される。データ処理部7は、車速センサ81から車両制御装置2に入力される自車両の速度、および、ステアリングセンサ82から車両制御装置2に入力される自車両の舵角などを処理に用いることができる。
[3.物標データのパラメータ導出]
次に、レーダ装置1が物標データのパラメータ(縦距離、横位置、および、相対速度)を導出する手法(原理)を説明する。図3は、送信波TWと反射波RWとの関係を示す図である。説明を簡単にするため、図3に示す反射波RWは理想的な一つの物標Tのみからの反射波RWとしている。図3においては送信波TWを実線で示し、反射波RWを破線で示す。
図3に示すように、送信波TWは、所定の周波数を中心として所定の周期で周波数が上下する連続波となっている。送信波TWの周波数は、時間に対して線形的に変化する。以下では、送信波TWの周波数が上昇する区間を「アップ区間」といい、下降する区間を「ダウン区間」という。また送信波TWの中心周波数をfo、送信波TWの周波数の変位幅をΔF、送信波TWの周波数が上下する一周期の逆数をfmとする。
なお、「アップ区間」を「UP」と略記し、「アップ区間のピーク」を「UPピーク」と略記する場合がある。また、「ダウン区間」を「DN」と略記し、「ダウン区間のピーク」を「DNピーク」と略記する場合がある。
反射波RWは、送信波TWが物標Tで反射されたものであるため、送信波TWと同様に、所定の周波数を中心として所定の周期で周波数が上下する連続波となる。ただし反射波RWには、送信波TWに対して時間tの時間遅延が生じる。
また、反射波RWには、自車両に対する物標Tの相対速度Vに応じたドップラー効果により、送信波TWに対して周波数fdの周波数偏移が生じる。
このように、反射波RWには、送信波TWに対して、縦距離に応じた時間遅延とともに相対速度に応じた周波数偏移が生じる。このため図3の下部に示すように、ミキサ53で生成されるビート信号のビート周波数(送信波TWの周波数と反射波RWの周波数との差の周波数)は、アップ区間とダウン区間とで異なる値となる。以下、アップ区間のビート周波数をfup、ダウン区間のビート周波数をfdnとする。
詳細な算出式は省略するが、物標Tの相対速度が0(ゼロ)の場合(ドップラー効果による周波数偏移がない場合)のビート周波数をfrとすると、周波数frは、上述した遅延する時間tに応じた値となる。このため、物標Tの縦距離Rは、周波数frを用いて求めることができる。また、ドップラー効果により偏移する周波数fdも、上述した遅延する時間tに応じた値となる。物標Tの相対速度Vは、周波数fdを用いて求めることができる。これらの算出は、周知の技術を用いることができる。
以上の説明では、理想的な一つの物標Tの縦距離および相対速度を求めたが、実際には、レーダ装置1は、自車両の前方に存在する複数の物標Tからの反射波RWを同時に受信する。このためフーリエ変換部62が、受信信号から得たビート信号をFFT処理した周波数スペクトラムには、それら複数の物標Tそれぞれに対応する物標情報が含まれている。
[4.周波数スペクトラム]
次に、周波数スペクトラムについて説明する。図4は、周波数スペクトラムの例を示す図である。図4の上部はアップ区間における周波数スペクトラムを示し、図4の下部はダウン区間における周波数スペクトラムを示している。
図4の上部に示すアップ区間の周波数スペクトラムにおいては、3つの周波数fup1、fup2、fup3の位置にそれぞれピークPuが表れている。また、図4の下部に示すダウン区間の周波数スペクトラムにおいては、3つの周波数fdn1、fdn2、fdn3の位置にそれぞれピークPdが表れている。
相対速度を考慮しなければ、このように周波数スペクトラムにおいてピークが表れる位置の周波数は、物標Tの縦距離に対応する。1BINは、縦距離約0.36mに相当する。そして例えば、アップ区間の周波数スペクトラムに注目すると、ピークPuが表れる3つの周波数fup1、fup2、fup3に対応する縦距離の位置それぞれに、物標Tが存在していることになる。
このため、物標データ導出部71(図2参照)は、アップ区間およびダウン区間の双方の周波数スペクトラムに関して、所定の閾値を超えるレベルを有するピークPu、Pdを抽出する。
図4に示すようなアップ区間およびダウン区間の双方の周波数スペクトラムは、一つの受信アンテナ51の受信信号から得られる。したがって、フーリエ変換部62は、4つの受信アンテナ51の受信信号のそれぞれから、図4と同様のアップ区間およびダウン区間の双方の周波数スペクトラムを導出する。
4つの受信アンテナ51は同一の物標Tからの反射波RWを受信しているため、4つの受信アンテナ51の周波数スペクトラムの相互間において、抽出されるピークにおける周波数は同一となる。しかし、4つの受信アンテナ51の位置や、物標Tの表面の形状などの影響により、受信アンテナ51ごとに反射波RWの位相は異なる。このため、同一BINとなる受信信号の位相情報は、受信アンテナ51ごとに異なっている。
これに対し、ピークを抽出するために、例えば、4つの周波数スペクトラムの平均値を算出する方法が考えられる。
しかし、この場合、図5に示すように、抽出されるピークが少なくなることがある。図5は、各受信アンテナにおける周波数スペクトラムと、平均化した周波数スペクトラムとを示す図である。図5では、各受信アンテナにおける周波数スペクトラムを一点鎖線、太い破線、実線、二点鎖線で示し、平均化した周波数スペクトラムを細い破線で示す。図5においては、各周波数スペクトラムでは多数のピークが表れているが、平均化した周波数スペクトラムではピーク抽出条件を満たすBINの数は2つとなる。その結果、平均化した周波数スペクトラムにおけるピークの数、すなわち、検出される物標Tは、2つとなり、本来、検出され得る物標Tが検出されないおそれもある。そのため、以下のようなピークの抽出処理を行う。
[5.確定ピークの抽出]
物標データ導出部71における確定ピークの抽出方法について説明する。
以下では、4つの受信アンテナ51に基づく反射波RWによって、図6A〜図6Dの周波数スペクトラムが得られた場合を一例として説明する。図6Aは、第1周波数スペクトラムを示す図である。図6Bは、第2周波数スペクトラムを示す図である。図6Cは、第3周波数スペクトラムを示す図である。図6Dは、第4周波数スペクトラムを示す図である。
導出部74は、各周波数スペクトラムから、ピーク抽出条件を満たすBINと、ピーク抽出条件を満たすBINの信号レベルとを導出する。
第1周波数スペクトラムでは、BIN4、8、および10がピーク抽出条件を満たすBINとなる。そして、これらのBINの信号レベルが導出される。
第2周波数スペクトラムでは、BIN5、9、および11がピーク抽出条件を満たすBINとなる。そして、これらのBINの信号レベルが導出される。
第3周波数スペクトラムでは、BIN5、9、および11がピーク抽出条件を満たすBINとなる。そして、これらのBINの信号レベルが導出される。
第4周波数スペクトラムでは、BIN6、および10がピーク抽出条件を満たすBINとなる。そして、これらのBINの信号レベルが導出される。
次に、導出部74は、ピーク抽出条件を満たしたBINの周波数スペクトラムとは別の周波数スペクトラムで、ピーク抽出条件を満たしたBINと同一BINの信号レベルを導出する。
第1周波数スペクトラムではBIN4においてピーク抽出条件を満たすため、導出部74は、BIN4における、第2周波数スペクトラム〜第4周波数スペクトラムの各信号レベルを導出する。第2周波数スペクトラムのBIN4の信号レベルは、ピーク閾値以上および準ピーク閾値未満である。また、第3周波数スペクトラムのBIN4の信号レベルは、ピーク閾値以上および準ピーク閾値未満である。さらに、第4周波数スペクトラムのBIN4のレベルは、ピーク閾値未満である。
第2周波数スペクトラム、および第3周波数スペクトラムではBIN5においてピーク抽出条件を満たすため、導出部74は、BIN5における、第1周波数スペクトラム、および第4周波数スペクトラムの各信号レベルを導出する。第1周波数スペクトラムのBIN5の信号レベルは、準ピーク閾値以上である。第4周波数スペクトラムのBIN5の信号レベルは、ピーク閾値以上および準ピーク閾値未満である。
第4周波数スペクトラムではBIN6においてピーク抽出条件を満たすため、導出部74は、第1周波数スペクトラム〜第3周波数スペクトラムの各信号レベルを導出する。BIN6における、第1周波数スペクトラム、第2周波数スペクトラム、および第4周波数スペクトラムの各信号レベルは、準ピーク閾値以上である。
第1周波数スペクトラムではBIN8においてピーク抽出条件を満たすため、導出部74は、第2周波数スペクトラム〜第4周波数スペクトラムの各信号レベルを導出する。BIN8における、第2周波数スペクトラム〜第4周波数スペクトラムの各信号レベルは、準ピーク閾値以上である。
第2周波数スペクトラム、および第3周波数スペクトラムではBIN9においてピーク抽出条件を満たすため、導出部74は、BIN9における、第1周波数スペクトラム、および第4周波数スペクトラムの各信号レベルを導出する。BIN9における、第1周波数スペクトラムの信号レベルは、ピーク閾値以上および準ピーク閾値未満である。BIN9における、第4周波数スペクトラムの信号レベルは、準ピーク閾値以上である。
第1周波数スペクトラム、および第4周波数スペクトラムではBIN10においてピーク抽出条件を満たすため、導出部74は、BIN10における、第2周波数スペクトラム、および第3周波数スペクトラムの各信号レベルを導出する。BIN10における、第2周波数スペクトラム、および第3周波数スペクトラムの各信号レベルは、ピーク閾値以上および準ピーク閾値未満である。
第2周波数スペクトラム、および第3周波数スペクトラムではBIN11においてピーク抽出条件を満たすため、導出部74は、BIN11における、第1周波数スペクトラム、および第4周波数スペクトラムの各信号レベルを導出する。BIN11における、第1周波数スペクトラムの信号レベルは、ピーク閾値未満である。BIN11における、第4周波数スペクトラムの信号レベルは、準ピーク閾値以上である。
次に、算出部75は、各周波数スペクトラムに対して、信号レベル評価値を算出する。信号レベル評価値は、ピーク抽出条件を満たすBINを対象として算出される。例えば、信号レベル評価値は、ピーク抽出条件を満たす周波数スペクトラムのBINにおける信号レベルに関する個別評価値と、その他の周波数スペクトラムの同一BINにおける信号レベルに関する個別評価値との合計を平均した値である。
算出部75は、例えば、ピーク抽出条件を満たす信号レベルのBINの個別評価値を「100点」、ピーク抽出条件は満たさないが、準ピーク閾値以上の信号レベルのBINの個別評価値を「50点」、ピーク抽出条件を満たさず、ピーク閾値以上、および準ピーク閾値未満の信号レベルのBINの個別評価値を「0点」、およびピーク閾値未満の信号レベルのBINの個別評価値を「−100点」として算出する。
なお、上記した個別評価値は、一例であり、適宜設定することが可能である。
上述のとおり、図6A〜図6Dの各周波数スペクトラムにおいて、ピーク抽出条件を満たすBINは、BIN4、5、6、8、9、10、および11である。算出部75は、BIN4、5、6、8、9、10、および11について、個別評価値、および信号レベル評価値を算出する。個別評価値、および信号レベル評価値の一覧を図7に示す。
図7においては、RX1ch〜RX4chは、4つの受信アンテナ51に対応し、第1周波数スペクトラム〜第4周波数スペクトラムに対応する。
また、図7では、「ピーク」はピーク抽出条件を満たす信号レベルであることを示す。また、「準ピーク」は、ピーク抽出条件を満たさず、かつ準ピーク閾値以上の信号レベルであることを示す。また、「×」は、ピーク抽出条件を満たさず、かつピーク閾値以上および準ピーク閾値未満の信号レベルであることを示す。さらに、「−」は、ピーク閾値未満の信号レベルであることを示す。
抽出部76は、信号レベル評価値が、所定評価値、例えば「50.0」以上となるBIN5、6、8、9、および10の信号を最終的に確定したピーク(以下、「確定ピーク」という。)として抽出する。
なお、所定評価値は、予め設定された値である。例えば、所定評価値は、特定BIN(特定周波数)において、ピーク抽出条件を満たさない周波数スペクトラムがあった場合でも、他の周波数スペクトラムの特定BINの信号レベルのうち所定数以上の信号レベルが、準ピーク閾値以上である場合に、特定BINがピークとして抽出される値である。所定評価値は、車両の状況、例えば、車両が走行している道路状況(一般道路、高速道路)や、天候などに応じて設定可能としてもよい。
このように、データ処理部7は、信号レベル評価値に基づいて、特定BINの信号がピークに該当するか否かを判定する。そして、データ処理部7は、複数の受信アンテナ51に係る周波数スペクトラムのうちの少なくとも1つの周波数スペクトラムにおける特定BINの信号レベルが、所定の閾値であるピーク閾値(第1閾値)以上の信号レベルか否かのレベル条件を含むピーク抽出条件を満たす場合、他の周波数スペクトラムの特定BINの信号レベルのうちの所定数以上の信号レベルが、レベル条件以外のピーク抽出条件を満たさずに、ピーク閾値よりも大きい準ピーク閾値(第2閾値)以上の信号レベルを有する場合に、特定BINの信号をピークとして確定させる。
抽出部76は、抽出した確定ピークに基づいて、物標Tの自車両に対する物標Tの縦距離を算出する。
なお、物標データ導出部71は、物標Tの角度も推定するが、ここでの詳しい説明は省略する。物標Tの角度を推定する方法としては、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)、MUSIC(Multiple Signal Classification)、および、PRISM(Panchromatic Remotesensing Instrument for Stereo Mapping)などの周知の角度推定方式を用いることができる。
[6.確定ピーク抽出処理]
次に、実施形態に係る確定ピーク抽出処理について、図8を参照し説明する。図8は、実施形態に係る確定ピーク抽出処理を説明するフローチャートである。
導出部74は、各周波数スペクトラムから、ピーク抽出条件を満たすBINと、ピーク抽出条件を満たすBINの信号レベルを導出する(ステップS10)。そして、導出部74は、ピーク抽出条件を満たすBINと同一BINにおける、他の周波数スペクトラムの信号レベルを導出する(ステップS11)。
算出部75は、ピーク抽出条件を満たすBINを対象に、各周波数スペクトラムにおける個別評価値を算出する(ステップS12)。そして、算出部75は、個別評価値に基づいて信号レベル評価値を算出する(ステップS13)。
抽出部76は、信号レベル評価値に基づいて、確定ピークを抽出する(ステップS14)。
[7.効果]
レーダ装置1は、複数の受信アンテナ51に係る周波数スペクトラムのうちの少なくとも1つの周波数スペクトラムにおける特定BINの信号レベルが、ピーク閾値以上の信号レベルか否かのレベル条件を含むピーク抽出条件を満たす場合、他の周波数スペクトラムの特定BINの信号レベルのうちの所定数以上の信号レベルが、レベル条件以外のピーク抽出条件を満たさずに、ピーク閾値よりも大きい準ピーク閾値以上の信号レベルを有する場合に、特定BINの信号をピークとして確定させる。
これにより、例えば、平均化した周波数スペクトラムを用いてピークを抽出する場合よりも、抽出可能なピークを増加させることができる。特に、送受信周波数帯域幅が広く、距離分解能が良いレーダ装置1において、多くのピークを抽出することができる。
レベル条件以外のピーク抽出条件は、特定BINよりも1BIN小さいBINの信号レベル、および特定BINよりも1BIN大きいBINの信号レベルが、特定BINの信号レベルよりも小さい条件である。
これにより、特定BINにおいてピーク抽出条件を満たさない周波数スペクトラムがある場合であっても、ピーク閾値よりも大きい準ピーク閾値以上の信号レベルを有する場合には、特定BINの信号を確定ピークとして抽出することができ、多くのピークを抽出することができる。
レーダ装置1は、特定BINに対して各周波数スペクトラムの信号レベルに基づく信号レベル評価値を算出し、信号レベル評価値に基づいてピークを抽出する。
これにより、例えば、平均化した周波数スペクトラムを用いてピークを抽出する場合よりも、抽出可能なピークを増加させることができる。
[8.変形例]
受信アンテナ51は、4つ以外でもよく、例えば、2〜3、5つ以上であってもよい。
例えば、変形例のレーダ装置1は、3つの受信アンテナ51を備えており、3つの受信アンテナ51によって、図6A〜図6Cの周波数スペクトラムが得られたとする。
導出部74は、第1周波数スペクトラム〜第3周波数スペクトラムから、上記実施形態と同様の方法により、ピーク抽出条件を満たすBINとして、BIN4、5、8、9、10、および11を導出し、各BINの信号レベルを導出する。また、導出部74は、ピーク抽出条件を満たすBINと同一BINにおける、他の周波数スペクトラムの信号レベルを導出する。
算出部75は、各周波数スペクトラムに対して、上記実施形態と同様の方法により、個別評価値、および信号レベル評価値を算出する。この変形例における個別評価値、および信号レベル評価値を図9に示す。
抽出部76は、信号レベル評価値が、所定評価値、例えば「50.0」以上となるBIN5、8、および9の信号を確定ピークとして抽出する。
また、例えば、変形例のレーダ装置1は、5つの受信アンテナ51を備えており、5つの受信アンテナ51によって、図6A〜図6Dの周波数スペクトラムに加えて、図10の周波数スペクトラムが得られたとする。図10は、第5周波数スペクトラムを示す図である。
導出部74は、第1周波数スペクトラム〜第5周波数スペクトラムから、ピーク抽出条件を満たすBINとして、BIN4、5、8、9、10、および11を導出し、各BINの信号レベルを導出する。また、導出部74は、ピーク抽出条件を満たすBINと同一BINにおける、他の周波数スペクトラムの信号レベルを導出する。
算出部75は、各周波数スペクトラムに対して、上記実施形態と同様の方法により、個別評価値、および信号レベル評価値を算出する。この変形例における個別評価値、および信号レベル評価値を図11に示す。図11においては、Rx5chは5つ目の受信アンテナ51に対応し、第5周波数スペクトラムに対応する。
抽出部76は、信号レベル評価値が、所定評価値、例えば「50.0」以上となるBIN5、6、8、9、および10の信号を確定ピークとして抽出する。
上記変形例に加えて、以下の変形例を適用することも可能である。
算出部75は、個別評価値を、上記実施形態とは逆の傾向で付して、信号レベル評価値を算出してもよい。例えば、ピーク抽出条件を満たす信号レベルのBINの個別評価値を「0点」、ピーク抽出条件は満たさないが、準ピーク閾値以上の信号レベルのBINの個別評価値を「50点」、ピーク抽出条件を満たさず、ピーク閾値以上、かつ準ピーク閾値未満の信号レベルのBINの個別評価値を「100点」、およびピーク閾値未満の信号レベルのBINの個別評価値を「200点」としてもよい。このような場合には、信号レベル評価値が小さい場合に、確定ピークとして抽出される。
また、算出部75は、信号レベル評価値を、受信アンテナ51の数Ntと、同一のBINでピーク抽出条件を満たす周波数スペクトラムの数Npと、同一のBINにおいて、ピーク抽出条件を満たさず、かつ信号レベルが準ピーク閾値以上となる周波数スペクトラムの数Nqとを用いて、算出してもよい。
例えば、算出部75は、以下の式に基づいて信号レベル評価値を算出してもよい。
信号レベル評価値=100×(Np+0.5×Nq)/Nt
抽出部76は、これにより算出した信号レベル評価値と、予め設定された閾値とを比較して、信号レベル評価値が閾値以上のBINの信号を確定ピークとして抽出してもよい。この信号レベル評価値では、「Np」、または「Nq」が多いBINの信号ほど、確定ピークとして抽出される。
抽出部76は、ピーク抽出条件を満たすBINと同一BINの信号レベルがピーク閾値よりも小さい周波数スペクトラムがある場合、そのBINの信号を確定ピークとして抽出しなくてもよい。これにより、信号レベルが低い周波数スペクトラムを含む場合には、そのBINの信号が確定ピークとして抽出されないので、物標Tの検出精度を向上させることができる。
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。