以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
[圧電素子10の概略構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る圧電素子10を模式的に示す斜視図である。圧電素子10は、単層型圧電素子として構成される。圧電素子10は、圧電セラミックス層11と、第1の電極12aと、第2の電極12bと、を具備する。
圧電セラミックス層11は、円板形状に形成されている。圧電セラミックス層11は、アルカリニオブ酸系圧電セラミックスの多結晶体で構成されている。
電極12a,12bは、圧電セラミックス層11の上下面の全面をそれぞれ覆い、つまり圧電セラミックス層11を挟んで対向している。電極12a,12bは、例えば、銀(Ag)や、銀(Ag)−パラジウム(Pd)合金によって形成される。
電極12a,12bにおけるAgの含有量を多くすることにより、圧電素子10の焼成時に電極12a,12bから圧電セラミックス層11へのAgの拡散を発生させやすくすることができる。これにより、圧電セラミックス層11を微細かつ均一な多結晶体とすることができる。当該事項の詳細については後述する。
電極12a,12bにおけるAgの含有量は、50重量%以上であることが好ましい。これにより、上記の効果をより良好に得ることができる。勿論、電極12a,12bは純銀により形成されていても構わない。
このような構成により、圧電素子10は電気エネルギーと機械エネルギーとを良好に変換することができる。つまり、電極12a,12b間に電圧が印加されると、電極12a,12b間の圧電セラミックス層11に電圧が加わり、圧電セラミックス層11が変位する。反対に、圧電セラミックス層11に圧力が付与されると、電極12a,12b間に電位差が発生する。
なお、圧電セラミックス層11の形状は、円板形状に限定されず、例えば、円筒状、角筒状、円柱状、角柱状、凹面形状であってもよい。また、電極12a,12bは、圧電セラミックス層11の上下面の全面ではなく少なくとも一部を覆っていればよい。
[積層型圧電素子100の概略構成]
図2は、本発明の一実施形態に係る積層型圧電素子100を模式的に示す斜視図である。図3は、積層型圧電素子100の図2のA−A'線に沿った断面図である。図4は、積層型圧電素子100の図2のB−B'線に沿った断面図である。図2〜4には共通のX軸、Y軸、及びZ軸が示され、X軸、Y軸、及びZ軸は相互に直交している。
積層型圧電素子100は、素体101と、内部電極102と、外部電極103と、を具備する。素体101は、X軸、Y軸、及びZ軸に平行な辺を有する直方体状に形成されている。なお、素体101の形状はこのような形状に限定されない。例えば、素体101の各面は曲面であってもよく、素体101は全体として丸みを帯びた形状であってもよい。
内部電極102は素体101内に配置され、外部電極103は素体101の端面に配置されている。
内部電極102は、第1の内部電極102aと第2の内部電極102bとから構成される。第1の内部電極102a及び第2の内部電極102bは、それぞれXY平面に平行に延び、Z軸方向に交互に積層されている。素体101には、第1の内部電極102aと第2の内部電極102bとの間にそれぞれ圧電セラミックス層106が形成されている。圧電セラミックス層106は、アルカリニオブ酸系圧電セラミックスの多結晶体で構成されている。
内部電極102は、例えば、銀(Ag)や、銀(Ag)−パラジウム(Pd)合金によって形成される。特に、本実施形態では、内部電極102におけるAgの含有量が多いことが好ましい。これにより、Pdの使用量を抑えることができるため、積層型圧電素子100の製造コストを低減させることができる。
また、内部電極102におけるAgの含有量を多くすることにより、積層型圧電素子100の焼成時に内部電極102から圧電セラミックス層106へのAgの拡散を発生させやすくすることができる。これにより、圧電セラミックス層106を微細かつ均一な多結晶体とすることができる。当該事項の詳細については後述する。
内部電極102のAgの含有量は、50重量%以上であることが好ましい。これにより、上記の効果をより良好に得ることができる。勿論、内部電極102は純銀により形成されていても構わない。
外部電極103は、第1の外部電極103aと第2の外部電極103bとから構成され、それぞれ素体101のX軸方向の両端面に設けられている。第1の外部電極103aは第1の内部電極102aに接続され、第2の外部電極103bは第2の内部電極102bに接続されている。
このような構成により、積層型圧電素子100は電気エネルギーと機械エネルギーとを良好に変換することができる。つまり、外部電極103間に電圧が印加されると、内部電極102a,102b間の各圧電セラミックス層106に電圧が加わり、素体101がZ軸方向に変位する。反対に、素体101にZ軸方向の圧力が付与されると、外部電極103間に電位差が発生する。
また、素体101のY軸方向両側面と内部電極102との間にはそれぞれサイドマージン部104が形成されており、素体101のZ軸方向上下面にはそれぞれカバー部105が形成されている。サイドマージン部104及びカバー部105は、圧電セラミックス層106及び内部電極102を保護する保護部として機能する。
[圧電セラミックス層]
(概略構成)
図1に示す圧電素子10の圧電セラミックス層11、及び図2〜4に示す積層型圧電素子100の圧電セラミックス層106は、同様の構成のアルカリニオブ酸系圧電セラミックスの多結晶体で構成される。
以下、まず一般的なアルカリニオブ酸系圧電セラミックスについて説明した後に、本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスについて説明する。
(一般的なアルカリニオブ酸系圧電セラミックス)
アルカリニオブ酸系圧電セラミックスの結晶はペロブスカイト構造を有する。ペロブスカイト構造は、図5に示すような単位格子を有し、組成式ABO3で表される。アルカリニオブ酸系圧電セラミックスでは、図5に示す単位格子中、Aサイトにカリウム(K),ナトリウム(Na),リチウム(Li)といったアルカリ金属原子が配座し、Bサイトにニオブ(Nb),アンチモン(Sb),タンタル(Ta)といった金属原子が配座する。
一般的なアルカリニオブ酸系圧電セラミックスは、例えば、下記の組成式で表される。
(K1−w−xNawLix)(SbyTazNb1−y−z)O3
但し、この組成式中のw,x,y,zは、各元素のモル比を示しており、0≦w≦0.2、0≦x≦0.2、0≦y≦1、0≦z≦0.4、y+z≦1で表される各不等式を満たす数値である。
ここで、図2〜4に示す積層型圧電素子100の圧電セラミックス層106としてアルカリニオブ酸系圧電セラミックスを利用すると、積層型圧電素子100の焼成時に内部電極102に含まれるAgが圧電セラミックス層106に拡散しやすくなる。上記のような一般的なアルカリニオブ酸系圧電セラミックスでは、Agの拡散に伴って結晶成長が進行する。
したがって、積層型圧電素子100の圧電セラミックス層106として一般的なアルカリニオブ酸系圧電セラミックスを用いると、圧電セラミックス層106の多結晶体を構成する各結晶が大きくなる。このため、一般的なアルカリニオブ酸系圧電セラミックスで構成された圧電セラミックス層106では高い絶縁抵抗が得られない。
また、一般的なアルカリニオブ酸系圧電セラミックスでは、Agが拡散することにより、Agが過剰な組成となりやすい。この場合、一般的なアルカリニオブ酸系圧電セラミックスでは、多結晶体の結晶粒界に導電性の高いAg化合物が析出することにより、圧電セラミックス層106の絶縁抵抗が低下する。
さらに、一般的なアルカリニオブ酸系圧電セラミックスでは、Agが過剰な組成になると、NbやLiが多結晶体の結晶粒界に吐き出され、例えば、Li3NbO4や(Li,Ag)3NbO4などの結晶相が析出する場合がある。これらの結晶相は、焼成温度の低下に寄与し得るものの、圧電性を有さない。このため、これらの結晶相の多量の析出によって圧電セラミックス層106の圧電性が低下する。
同様に、図1に示す圧電素子10の圧電セラミックス層11としてアルカリニオブ酸系圧電セラミックスを利用すると、圧電素子10の焼成時に電極12a,12bに含まれるAgが圧電セラミックス層11に拡散しやすくなる。
したがって、圧電素子10の圧電セラミックス層11として一般的なアルカリニオブ酸系圧電セラミックスを利用すると、積層型圧電素子100の圧電セラミックス層106と同様に、圧電素子10の圧電セラミックス層11の電気抵抗及び圧電性の低下が生じる場合がある。
以上述べたように、Agを含む電極と、一般的なアルカリニオブ酸系圧電セラミックスと、を組み合わせると、アルカリニオブ酸系圧電セラミックスの電気抵抗及び圧電性が低下しやすい。このため、一般的なアルカリニオブ酸系圧電セラミックスを用いた圧電素子10や積層型圧電素子100では、高い信頼性及び良好な圧電特性を両立することが困難である。
(本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックス)
(1)基本構成
これに対し、本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスは、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、及びバリウム(Ba)の少なくとも1つのアルカリ土類金属M2と、銀(Ag)と、を含有する。アルカリ土類金属M2及びAgは、主に、ペロブスカイト構造のAサイトに置換される。
典型的には、本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスは、下記の組成式(1)で表される。
(AguM2v(K1−w−xNawLix)1−u−v)a(SbyTazNb1−y−z)O3
…(1)
但し、組成式(1)中のu,v,w,x,y,z,aは、各元素のモル比を示しており、0.005<u≦0.05、0.002<v≦0.05、0.007<u+v≦0.1、0≦w≦1、0.02<x≦0.1、0.02<w+x≦1、0≦y≦0.1、0≦z≦0.4、1<a≦1.1で表される各不等式を満たす数値であることが好ましい。
なお、本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスでは、ペロブスカイト構造のAサイトやBサイトが適宜他の元素で置換されていてもよく、多結晶体の結晶粒界や粒界三重点に他の結晶相や非結晶相が含まれていてもよい。
(2)アルカリ土類金属M2及びAgの作用
アルカリ土類金属M2は、製造過程においてアルカリニオブ酸系圧電セラミックスの添加物として添加される。この一方で、Agは、主に、電極からアルカリニオブ酸系圧電セラミックスに供給される。つまり、図2〜4に示す積層型圧電素子100では、焼成時に、内部電極102に含まれるAgがアルカリニオブ酸系圧電セラミックスに拡散する。また、図1に示す圧電素子10では、焼成時に、電極12a,12bに含まれるAgがアルカリニオブ酸系圧電セラミックスに拡散する。
本実施形態のアルカリニオブ酸系圧電セラミックスでは、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムの少なくとも1つのアルカリ土類金属M2が、Agの拡散による粒成長を抑止する。さらに、本実施形態のアルカリニオブ酸系圧電セラミックスでは、Ag原子の拡散挙動によってむしろ結晶の微細化が促進され、非常に微細な多結晶体が得られる。これにより、アルカリニオブ酸系圧電セラミックスの絶縁抵抗が向上する。
さらに、本実施形態のアルカリニオブ酸系圧電セラミックスでは、アルカリ土類金属M2の含有量を5.0モル%以下に留めることにより、高い圧電性を保持することができる。
このように、本発明の構成では、高い信頼性及び良好な圧電特性を兼ね備え、低コストで製造可能なアルカリニオブ酸系圧電セラミックスを備えた圧電素子10及び積層型圧電素子100を実現することができる。
ここで、上記のように一般的なアルカリニオブ酸系圧電セラミックスでは、Agの拡散によって粒成長が進行する。これに対し、本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスでは、予め添加されたアルカリ土類金属M2が、Agの拡散による粒成長を抑止するように作用する。したがって、本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスでは、Agが拡散するものの、粒成長が進行しにくい。
さらに、本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスでは、Ag原子が、焼成時の拡散挙動によって、結晶を微細化するように作用する。また、本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスでは、Agが偏在することなく均一に拡散する。このため、本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスは、微細かつ均一な多結晶体となる。したがって、前記に示した積層型圧電素子100の事例のみならず圧電素子10においても、適切にAgを添加物として導入することで、同じように微細かつ均一な多結晶体とすることもできる。
このように、本実施形態では、アルカリ土類金属M2及びAgの相乗効果により微細かつ均一なアルカリニオブ酸系圧電セラミックスの多結晶体が得られる。つまり、本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスでは、アルカリ土類金属M2によってAgの拡散による粒成長を抑止することに留まらず、微細かつ均一な多結晶体を得るためにAgの拡散を積極的に利用する。
圧電素子10及び積層型圧電素子100では、本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスを利用することにより、微細かつ均一な多結晶体で構成される圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106が得られる。このため、本実施形態に係る圧電素子10及び積層型圧電素子100では、高い信頼性が得られる。
上記に加え、本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスでは、拡散するAgが、主に、ペロブスカイト構造のAサイトに置換されるように構成されている。このため、圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106において、多結晶体の結晶粒界に導電性の高いAg化合物が析出することを抑制することができる。これにより、圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106における高い電気抵抗が担保されるため、圧電素子10及び積層型圧電素子100において高い信頼性が得られる。
さらに、本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスでは、+1価のAサイトを、+2価のアルカリ土類金属M2で置換するため、この点のみに着目するとAサイトに欠陥が生じやすい。しかし、本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスでは、圧電素子10及び積層型圧電素子100の焼成時に、+1価になりやすいAgが添加物及び内部電極102から供給され続け、随時AサイトがAgによって補償される。このため、本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスでは、Aサイトに欠陥が生じにくい。
(3)アルカリ土類金属M2及びAgの含有量
本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスにおけるアルカリ土類金属M2の組成式(1)中のAサイトにおけるモル比率は、0.2モル%を超え、5.0モル%以下である。アルカリ土類金属M2のAサイトにおけるモル比率が0.2モル以下の場合には、Agの拡散に伴う粒成長を充分に抑制することができないことがある。また、アルカリ土類金属M2のAサイトにおけるモル比率が5.0モルを超える場合には、圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106における圧電性の低下が生じやすくなる。
さらに、本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスにおけるAgの組成式(1)中のAサイトにおけるモル比率は5.0モル%以下であることが好ましい。AgのAサイトにおけるモル比率を5.0モル%以下に留めることにより、多結晶体の結晶粒界におけるAg化合物の析出をより効果的に抑制することができる。これにより、圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106における高い電気抵抗が担保されるため、圧電素子10及び積層型圧電素子100における高い信頼性が得られる。
なお、本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスにおけるアルカリ土類金属M2は、Ca,Sr,Baのうちの1種類のみで構成されていても、Ca,Sr,Baのうちの複数種類が固溶して構成されていてもよい。
(4)その他の添加物
本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスは、必要に応じて、アルカリ土類金属M2以外の各種添加物を含んでいてもよい。以下に挙げるような添加物は、圧電素子10及び積層型圧電素子100の製造過程においてアルカリニオブ酸系圧電セラミックスの添加物として添加可能である。
・Li2O,SiO2
本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスは、Li2O及びSiO2を含んでいてもよい。Li2O及びSiO2の添加によって、圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106の焼結性を向上させることができるとともに、圧電素子10及び積層型圧電素子100の圧電特性を向上させることもできる。
この点において、主相となるアルカリニオブ酸系圧電セラミックス100モル%に対して、Li2Oの添加量が0.1モル%以上1.5モル%以下であることが好ましく、SiO2の添加量が0.1モル%以上3.0モル%以下であることが好ましい。さらに、Li2Oの添加量とSiO2の添加量との比率、つまり「Li2Oの添加量(モル%)/SiO2の添加量(モル%)」が0.3以上1.0以下であることがさらに好ましい。
これにより、焼成後のアルカリニオブ酸系圧電セラミックスでは、Liの含有量が0.2モル%以上3.0モル%以下となり、Siの含有量が0.1モル%以上3.0モル%以下となる。また、Liの含有量とSiの含有量との比率、つまり「Liの含有量(モル%)/Siの含有量(モル%)」が0.6以上2.0以下となる。
また、SiO2の添加によって、Li2SiO3やLi4SiO4などのLi、Siを含有する結晶相又は非結晶相を析出相として析出させることが可能である。このような析出相は、積層型圧電素子100の焼成時において、K,Na,Liの揮発を抑制することができるとともに、多結晶体の結晶粒界におけるアルカリ金属の析出を抑制することもできる。
このような効果を奏する析出相としては、他にも、K3Nb3O6Si2O7やKNbSi2O7などのK,Nb,Si,Oを含有する結晶相又は非結晶相、K3LiSiO4やKLi3SiO4などのK,Li,Si,Oを含有する結晶相又は非結晶相、K,Si,Oを含有する結晶相又は非結晶相などが挙げられる。
これらのケイ酸アルカリ化合物やケイ酸ニオブ酸アルカリ化合物などの析出相には、NaやAgが拡散していてもよい。また、これらのケイ酸アルカリ化合物及びケイ酸ニオブ酸アルカリ化合物などの析出相は、少なくとも1相析出していればよいし、2相以上複合して析出していても同等の効果を得ることができる。
・MnO
本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスは、MnOを含んでいてもよい。MnOは、アルカリニオブ酸系圧電セラミックスの多結晶体の粒界三重点に存在しやすい。また、MnOは、電極の近傍にも存在しやすい。つまり、MnOは、圧電素子10の圧電セラミックス層11における電極12a,12bの近傍や、積層型圧電素子100の圧電セラミックス層106における内部電極102の近傍に存在しやすい。MnOは、圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106の電気抵抗を向上させるように作用する。
また、上記のとおり、アルカリ土類金属M2及びAgは、主にペロブスカイト構造のAサイトに置換されるものの、その一部がBサイトに置換されて、BサイトのNb,Ta,Sbの価数を揺動させる場合もある。特に、アルカリ土類金属M2及びAgが、+5価のNbに置換される場合には、価数が揺動することにより電子伝導性を発現させやすい。この場合、圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106の電気抵抗が低下してしまう。
その点、MnOを添加した場合には、Mn原子が、Aサイトに一部固溶置換したり、結晶格子に取り込まれたりすることにより、Aサイトの価数の揺動を抑制するように作用する。より具体的に、Mn原子は、例えば、Ca(Mn1/3Nb2/3)O3、Sr(Mn1/3Nb2/3)O3、Ba(Mn1/3Nb2/3)O3などとして結晶格子内で安定な形態をとる。これらの形態では、結晶構造として中性を保つことが可能である。このように、MnOの添加によって、圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106の電気抵抗の低下を防止することができる。
MnOの添加量は、主相となるアルカリニオブ酸系圧電セラミックス100モル%に対して、2.0モル%以下であることが好ましい。MnOの添加量が2.0モル%を超えると、主相となるアルカリニオブ酸系圧電セラミックスの圧電特性を低下させてしまう場合がある。
なお、圧電素子10及び積層型圧電素子100におけるMnの存在形態については、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)、エネルギー分散型X線分光器(EDS:Energy Dispersive x−ray Spectrometry)、波長分散型X線分光器(WDS:Wavelength Dispersive x−ray Spectrometry)などによって確認することが可能である。
・遷移元素
本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスは、必要に応じて、第一遷移元素であるSc,Ti,V,Cr,Fe,Co,Ni,Cu,Znの少なくとも1つを含んでいてもよい。これにより、圧電素子10及び積層型圧電素子100の、焼成温度の調整や、粒成長の制御や、高電界における長寿命化が可能である。
また、本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスは、必要に応じて、第二遷移元素であるY、Mo、Ru、Rh、Pdの少なくとも1つを含んでいてもよい。これにより、圧電素子10及び積層型圧電素子100の、焼成温度の調整や、粒成長の制御や、高電界における長寿命化が可能である。
さらに、本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスは、必要に応じて、第三遷移元素であるLa,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Hf,W,Re,Os,Ir,Pt,Auを少なくとも1つを含んでいてもよい。これにより、圧電素子10及び積層型圧電素子100の、焼成温度の調整や、粒成長の制御や、高電界における長寿命化が可能である。
勿論、本実施形態に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスでは、上記の第一遷移元素、第二遷移元素、及び第三遷移元素のうちの複数種類を併用することもできる。
[サイドマージン部104及びカバー部105]
続いて、図2〜4に示す積層型圧電素子100のサイドマージン部104及びカバー部105の詳細について説明する。
本実施形態に係るサイドマージン部104及びカバー部105は、積層型圧電素子100の焼成時の収縮率や、積層型圧電素子100内における内部応力の緩和などの観点から、圧電セラミックス層106と同様のアルカリニオブ酸系圧電セラミックスで形成されていることが好ましい。しかし、サイドマージン部104及びカバー部105を形成する材料は、高い絶縁性を有する材料であれば、アルカリニオブ酸系圧電セラミックスに限定されない。
また、サイドマージン部104及びカバー部105にも、圧電セラミックス層106と同様に内部電極102に含まれるAgが均一に拡散していることが好ましい。これにより、サイドマージン部104及びカバー部105における高い電気抵抗が担保されるとともに、積層型圧電素子100における内部応力を抑制することができる。
[圧電素子10及び積層型圧電素子100の製造方法]
以下、図1に示す圧電素子10、及び図2〜4に示す積層型圧電素子100の製造方法について、より具体的に記載をする。
(アルカリニオブ酸系圧電セラミックスの仮焼粉混合物の生成)
圧電素子10及び積層型圧電素子100を製造する際に用いられる、アルカリニオブ酸系圧電セラミックスの仮焼粉混合物の生成には、Kを含有する原料と、Naを含有する原料と、Liを含有する原料と、Nbを含有する原料と、Taを含有する原料と、Sbを含有する原料と、を用いることができる。
Kを含有する原料としては、例えば、炭酸カリウム(K2CO3)や炭酸水素カリウム(KHCO3)を用いることができる。
Naを含有する原料としては、例えば、炭酸ナトリウム(Na2CO3)や、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)を用いることができる。
Liを含有する原料としては、例えば、炭酸リチウム(Li2CO3)を用いることができる。
Nbを含有する原料としては、例えば、五酸化ニオブ(Nb2O5)を用いることができる。
Taを含有する原料としては、例えば、五酸化タンタル(Ta2O5)を用いることができる。
Sbを含有する原料としては、例えば、三酸化アンチモン(Sb2O3)を用いることができる。
上記の原料を準備した後、これらの原料を所定の組成に秤量する。そして、これらの原料を、部分安定化ジルコニア(PSZ)ボールを用い、エタノール等の有機溶媒を分散媒とするボールミルによって10〜60時間湿式攪拌した後、有機溶媒を揮発乾燥させることにより、攪拌原料が得られる。そして、得られた攪拌原料を700〜950℃の温度で、1〜10時間の仮焼成を行った後、ボールミルによって解砕することにより、仮焼粉が得られる。
アルカリ土類金属M2を含む添加物としては、Ca,Ba,Srの少なくとも1つ含有する添加物を用いる。
Caを含有する添加物としては、例えば、炭酸カルシウム(CaCO3)を用いることができる。
Baを含有する添加物としては、例えば、炭酸バリウム(BaCO3)を用いることができる。
Srを含有する添加物としては、例えば、炭酸ストロンチウム(SrCO3)を用いることができる。
アルカリ土類金属M2以外の元素を含む添加物についても適宜用いられる。このような添加物としては、例えば、Mnを含有する添加物や、Liを含有する添加物や、Siを含有する添加物を用いることができる。各元素の添加物は、1種類のみで構成されていても、複数種類を組み合わせて構成されていてもよい。
Mnを含有する添加物としては、例えば、炭酸マンガン(MnCO3)や一酸化マンガン(MnO)や二酸化マンガン(MnO2)や四三酸化マンガン(Mn3O4)や酢酸マンガン(Mn(OCOCH3)2)を用いることができる。
Siを含有する添加物としては、例えば、二酸化ケイ素(SiO2)を用いることができる。
また、添加物としては、複数種類の金属原子を含むものを用いることも可能である。例えば、Li及びSiを含有する添加物として、メタケイ酸リチウム(Li2SiO3)やオルトケイ酸リチウム(Li4SiO4)等を用いることができる。また、Ca及びSiを含有する添加物として、メタケイ酸カルシウム(CaSiO3)やオルトケイ酸カルシウム(Ca2SiO4)等を用いることができる。
そして、上記のように得られた仮焼粉と各種添加物とを、PSZボールを用い、エタノール等の有機溶媒を分散媒とするボールミルによって10〜60時間湿式攪拌した後、有機溶媒を揮発乾燥させることにより、仮焼粉混合物が得られる。
(圧電素子10の製造方法)
以下においては、図1に示す圧電素子10の製造方法について説明する。
まず、造粒工程を行う。造粒工程は、上記のように生成された仮焼粉混合物を有機バインダと混練し、成形性を得る工程となる。主にセラミックス粉末を有機バインダと混練してよくなじませることを、造粒と呼ぶ。この際、混練する有機バインダには、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、エチルセルロースなど、さまざまに用いることができる。
その次に、成形工程を行う。成形工程は、造粒工程で造粒されたセラミックス粉末を、様々な形の金型に充填して、一軸プレス機や静水圧装置などで圧力をかけて目的の形となる未焼成の成形体を得る工程となる。このときセラミックス粉末は、おおよそ、そのセラミックスの理想的な密度の60%前後になるように成形される。
続いて、焼成工程を行う。焼成工程では、成形工程で得られた成形体の焼成を行う。焼成は、例えば、アルミナ製のサヤ内に各成形体を収容した状態で行うことができる。
焼成工程としては、脱バインダと焼成とを行う。脱バインダは、各成形体を300〜500℃の温度で保持することにより、成形体中のバインダ成分を蒸発させて除去する。さらに脱バインダの後の焼成では、大気雰囲気中にて900〜1200℃の温度で保持する。これにより、図1に示す圧電セラミックス層11が得られる。
そして、外部電極形成工程を行う。外部電極形成工程では、焼成工程で得られた圧電セラミックス層11に、Agを主成分とする導電性ペーストを塗布し、750〜850℃で焼き付け処理を行うことにより、図1に示す電極12a,12bを形成する。これにより、図1に示す圧電素子10が得られる。
電極12a,12bの形成方法は、導電性ペーストの焼き付けに限定されず、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法による薄膜形成方法であっても構わない。また、導電性ペーストとしては、Ag以外にも、Al、Fe、Ni、Cu、Ga、Nb、Pd、In、Sn、W、Pt、Au、Biを主成分とする導電性ペーストを用いることもできる。
さらに、これらの元素を主成分とする電極12a,12bを、焼き付け以外の方法によって、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、無電界メッキ法、電界メッキ法などによって形成しても構わない。加えて、電極12a,12bは、これらの元素を複合的に用いても構わず、複数層に形成されても構わない。
(積層型圧電素子100の製造方法)
以下においては、図2〜4に示す積層型圧電素子100の製造方法について説明する。
まず、未焼成シート準備工程を行う。未焼成シート準備工程では、未焼成シート(セラミックグリーンシート)501,505を準備する。未焼成シート501は、積層型圧電素子100の圧電セラミックス層106及びサイドマージン部104に対応する。未焼成シート505は、積層型圧電素子100のカバー部105に対応する。
未焼成シート501を得るためには、まず基本組成のアルカリニオブ酸系圧電セラミックスの仮焼粉混合物に、有機バインダ、及び分散剤を加え、ボールミルで湿式混合する。これにより、セラミックススラリーが得られる。このセラミックススラリーをドクターブレード法などによってシート成形加工することにより、未焼成シート501が得られる。
未焼成シート505も、未焼成シート501と同様に作製することができる。未焼成シート505の組成は、未焼成シート501の組成と同一でも、未焼成シート501の組成とは異なっていてもよい。しかし、未焼成シート505の組成は、焼成時の収縮率などの観点から、未焼成シート501と同一又は類似の組成であることが好ましい。
この段階の未焼成シート501,505にはAgが含まれていない。これにより、未焼成シート501,505は、焼成時において未焼成電極502に含まれるAgがより拡散しやすい状態となる。なお、未焼成シート501,505には、焼成時において未焼成電極502に含まれるAgが良好に拡散する範囲内でAgが含まれていてもよい。
その次に、未焼成電極印刷工程を行う。未焼成電極印刷工程では、未焼成シート準備工程で得られた未焼成シート501に、内部電極102を形成するための未焼成電極502をパターニングする。未焼成電極502としては、例えば、Agのみ、又は50%以上のAgを含む金属成分を有する導電性ペーストを用いることができる。未焼成電極502は、例えば、スクリーン印刷法によりパターニングすることができる。
上記によって、図6に示すように、未焼成シート501として、第1の内部電極102aに対応する第1の未焼成電極502aがパターニングされた第1の未焼成シート501aと、第2の内部電極102bに対応する第2の未焼成電極502bがパターニングされた第2の未焼成シート501bと、を作製する。なお、カバー部105に対応する未焼成シート505には、未焼成電極502を設けない。
続いて、積層工程を行う。積層工程では、未焼成シート準備工程及び未焼成電極印刷工程で得られた未焼成シート501,505を積層する。
具体的には、図6に示すように、第1の未焼成電極502aがパターニングされた第1の未焼成シート501aと、第2の未焼成電極502bがパターニングされた第2の未焼成シート501bと、が交互に積層される。また、未焼成シート501のZ軸方向最上層及び最下層には未焼成シート505が配置される。未焼成シート505は、それぞれ複数枚重ねて配置されてもよい。
積層工程で積層した未焼成シート501,505を圧着させることにより積層体500が得られる。なお、図6では、説明の便宜上、積層体500を、未焼成シート501,505ごとに分解して示している。そして、積層体500をダイシングなどにより切断し、各々の積層型圧電素子100に個片化する。
その後、焼成工程を行う。焼成工程では、個片化された積層体500の焼成を行う。焼成は、例えば、アルミナ製のサヤ内に各積層体500を収容した状態で行うことができる。
焼成工程としては、脱バインダ及び焼成とを行う。脱バインダは、各積層体500を300〜500℃の温度で保持することにより、積層体500中のバインダ成分を蒸発させて除去する。さらに脱バインダの後の焼成では、大気雰囲気中にて900〜1200℃の温度で保持する。これにより、図1〜3に示す素体101が得られる。
焼成工程では、未焼成シート501,505及び未焼成電極502が焼結するとともに、未焼成電極502(内部電極102)に含まれるAgが、未焼成シート501,505(圧電セラミックス層106、サイドマージン部104、及びカバー部105)に均一に拡散する。
そして、外部電極形成工程を行う。外部電極形成工程では、焼成工程で得られた素体101に、Agを主成分とする導電性ペーストを塗布し、750〜850℃で焼き付け処理を行うことにより、図2,3に示す外部電極103を形成する。これにより、図2〜4に示す積層型圧電素子100が得られる。
外部電極103の形成方法は、導電性ペーストの焼き付けに限定されず、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法による薄膜形成方法であっても構わない。また、導電性ペーストとしては、Ag以外にも、Al、Fe、Ni、Cu、Ga、Nb、Pd、In、Sn、W、Pt、Au、Biを主成分とする導電性ペーストを用いることもできる。
さらに、これらの元素を主成分とする外部電極103を、焼き付け以外の方法によって、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、無電界メッキ法、電界メッキ法などによって形成しても構わない。加えて、外部電極103は、これらの元素を複合的に用いても構わず、複数層に形成されても構わない。
[圧電素子10及び積層型圧電素子100の評価]
(Agの含有量)
圧電素子10及び積層型圧電素子100の圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106では、Agがより均一に分散していることが好ましい。これにより、微細かつ均一な結晶からなる多結晶体が得られ、圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106における高い電気抵抗が担保されるため、圧電素子10及び積層型圧電素子100における高い信頼性を確保することができる。
圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106におけるAgの分散の度合いは、例えば、Agの含有量の変動係数CVによって評価可能である。圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106におけるAgの含有量の変動係数CVは、例えば、圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106の様々な位置におけるAgの含有量の測定値を用いて算出することが可能である。具体的には、Agの含有量の変動係数CVは、Agの含有量の算術平均α及び標準偏差σを用いて、下記数式(A)により得られる。
圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106におけるAgの含有量の変動係数CVは20%以下であることが好ましい。この場合に、圧電素子10及び積層型圧電素子100の焼成時におけるAgの良好な拡散挙動が得られ、圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106における高い電気抵抗がより確実に担保される。圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106におけるAgの分布は、例えば、圧電素子10及び積層型圧電素子100の焼成温度や焼成時間などによって調整可能である。
また、積層型圧電素子100においては、サイドマージン部104及びカバー部105におけるAgの含有量の変動係数CVは、圧電セラミックス層106と同様に20%以下であることが好ましい。この場合に、サイドマージン部104及びカバー部105における高い電気抵抗がより確実に担保される。サイドマージン部104及びカバー部105におけるAgの分布は、積層型圧電素子100の焼成温度や焼成時間などによって制御可能である。
上記で説明した圧電セラミックス層11、圧電セラミックス層106、サイドマージン部104、及びカバー部105の各位置におけるAgの含有量の測定方法は、特定した方法に限定されない。
Agの含有量の測定としては、例えば、エネルギー分散型X線分光器(EDS:Energy Dispersive x−ray Spectrometry)、波長分散型X線分光器(WDS:Wavelength Dispersive x−ray Spectrometry)、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)、オージェ電子分光法(AES:Auger Electron Spectroscopy)、X線光電子分光(XPS:X−ray Photoelectron Spectroscopy)などを用いることが可能である。
Agの含有量を測定するための試料としては、例えば、圧電素子10や積層型圧電素子100を切断した断面を多結晶体の組織を観察可能な状態に処理したものを用いることができる。このような試料は、例えば、圧電素子10や積層型圧電素子100の断面に、ダイヤモンドペースト等を用いた鏡面研磨を施して、測定に十分な平滑性を得ることによって観察可能になる。
(結晶粒子径)
圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106の結晶粒子径の測定は、例えば、SEM等によって圧電素子10や積層型圧電素子100の断面の組織観察により行うことができる。圧電セラミックス層11や圧電セラミックス層106の結晶粒子径を測定するための試料としては、Agの含有量を測定するための試料と同様に、圧電素子10や積層型圧電素子100の断面に鏡面研磨を施した後に、エッチングをさらに施したものを用いることが可能である。
圧電素子10や積層型圧電素子100の断面のエッチングには、例えば、加熱することによる熱エッチングを用いることができる。もしくは、弗酸、塩酸、硫酸、硝酸など、またそれらを混合した酸をエッチングに適切な濃度として用いて、化学的にエッチングすることも可能である。
圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106の結晶粒子径は、例えば、SEM等で圧電素子10や積層型圧電素子100の断面をエッチングして撮影した写真を用い、写真法によって決定することができる。写真法では、圧電素子10や積層型圧電素子100の断面の写真に、相互に平行な直線を任意本数引き、その直線が横切る各結晶の長さを結晶粒子径とする。例えば、各試料について400個以上の結晶について結晶粒子径を求め、得られた結晶粒子径によって評価を行うことにより信頼性の高いデータが得られる。
圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106の結晶粒子径は、例えば、結晶粒子径の累積分布における累積百分率が10%、50%及び90%にそれぞれ相当する10%粒子径D10、50%粒子径D50、及び90%粒子径D90を用いて評価することができる。より詳細には、D10、D50、D90の値を用いて、(D90−D10)/D50となる値により結晶粒子径の分布を評価することができる。
ここにおいて、10%粒子径D10、50%粒子径D50、90%粒子径D90を得るために、例えば、上記の写真法によって得られた400個以上の結晶について求められた結晶粒子径を利用することができる。つまり、求められた結晶粒子径を小さい順に数えた場合に、全体の個数の10%以上となった初めての結晶粒径を10%粒子径D10とし、全体の個数の50%以上となった初めての結晶粒子径を50%粒子径D50とし、全体の個数の90%以上となった初めての結晶粒子径を90%粒子径D90とすることができる。
本実施形態に係る圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106では、50%粒子径D50が、100nm≦D50≦800nmを満たすことが好ましい。D50を800nm以下とすることにより、圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106が非常に微細な多結晶体で構成されるため、圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106において高い電気抵抗が得られる。一方、D50を100nm以上とすることにより、結晶の粒子界面に発生する応力の影響を受けにくくなり、圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106の良好な圧電性を確保することができる。
これに加え、D50は、200nm以上であることがさらに好ましい。
また、本実施形態に係る圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106は、(D90−D10)/D50≦2.0を満たすことが好ましい。この場合、均一な結晶粒径の多結晶体となるため、圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106の高い電気抵抗がより確実に担保される。
圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106を微細かつ均一な多結晶体で構成することにより、圧電セラミックス層11及び圧電セラミックス層106を薄くした場合にも高い電気抵抗が担保されるため、圧電素子10及び積層型圧電素子100の高い信頼性を確保することができる。したがって、この構成では、小型化した場合においても信頼性を確保することができる。また、圧電素子10及び積層型圧電素子100のさらなる小型化により量産性を向上させることができる。
さらに、積層型圧電素子100では、圧電セラミックス層106を薄くすることが可能であるため、大型化することなく圧電セラミックス層106の層数を増加させることが可能である。これにより、積層型圧電素子100における大幅な変位量の向上を実現可能である。
(信頼性)
圧電素子10及び積層型圧電素子100の信頼性は、例えば、電気抵抗率ρ(Ω・cm)によって評価可能である。電気抵抗率ρは、例えば、100℃で8kV/mm程度の電界を5分程度印加したときの電圧値及び電流値から換算することが可能である。積層型圧電素子100は、1.0×108Ω・cm以上の電気抵抗率ρを有することが好ましい。
(圧電特性)
圧電素子10及び積層型圧電素子100の圧電特性は、例えば、変位量d* 33(pm/V)によって評価可能である。圧電素子10及び積層型圧電素子100の変位量d* 33は、例えば、レーザードップラー変位計を用いて測定可能である。
レーザードップラー変位計を用いた測定では、例えば、圧電素子10及び積層型圧電素子100に100Hz程度で最大電界8kV/mmとなる単極性のサイン波形を打ち込み、圧電素子10及び積層型圧電素子100の変位量を測定する。そして、1層における単位電圧あたりの変位量d* 33は、圧電素子10及び積層型圧電素子100の変位量を電極間の層数及び最大電圧で割って得られる商として算出することが可能である。圧電素子10及び積層型圧電素子100は、140pm/V以上の変位量d* 33を有することが好ましい。
実施例1では、上記実施形態に係る積層型圧電素子100について、圧電セラミックス層106、サイドマージン部104、及びカバー部105におけるAgの分布について評価を行った。
評価を行った積層型圧電素子100は、後述の試料A02となる試料である。積層型圧電素子100の断面を露出させるために、まず500番手から3000番手までの研磨紙を用い、水に浸しながら徐々に研磨を行い、平滑面を出した。その後、さらに1umダイヤモンドペーストを用いて鏡面研磨を施して、測定に十分な平滑性を得て、観察評価を行っている。
(圧電セラミックス層106)
図7は、上記実施形態に係る積層型圧電素子100の圧電セラミックス層106の厚さ方向におけるAgの含有量の分布について説明するための図である。図7に示すように、単一の圧電セラミックス層106について、内部電極102の間に並ぶp2〜p14の13箇所の位置についてAg,K,Na、Nbの含有量を測定した。圧電セラミックス層106の厚さは、50μmであった。
より詳細に、電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM:日立ハイテクノロジーズ社製、S−4300)に設置した、シリコンドリフト型エネルギー分散型X線検出器(アメテック社製、Appolo)によって得られたエネルギー分散型X線スペクトル(EDS)から評価を行った。測定時の電圧は10kVとし、Ag−L、K−K、Na−K、及びNb−Lスペクトルを定量評価に用いた。それぞれのスペクトルには、原子番号補正、吸収補正、蛍光補正を施して(ZAF補正)、各元素の含有量を評価した。
各位置におけるAg、K、Na含有量は、Nb含有量を組成式(1)中のBサイトにおけるモル比率100%として、組成式(1)中のAサイトにおけるモル比率として示した。この際にAg、K、Na含有量が、組成として配合した条件に多くの場合完全には一致しないが、これは測定手法によって、観測される絶対値が異なってくることに由来する。
本測定においては、それぞれの測定箇所におけるモル比率として算出し、その結果から、算術平均α、標準偏差σ、変動係数CVといった、測定箇所における統計的なばらつきを評価する。このため、この測定手法による絶対値の差異は、各位置における測定が十分に信頼される値となるまでに時間をかけることにより、問題とならない。本測定においては、EDSの内、K−Kスペクトルの線強度が5000カウント以上となるように十分な時間をかけて測定を行っている。
図7における、圧電セラミックス層106の各位置p2〜p14は、Nbの含有量を100モル%とした場合のAサイト元素Ag,K,Naの含有量を前記の通りEDSによって評価した箇所を示している。
表1は、圧電セラミックス層106における各位置p2〜p14におけるAg,K,Naの含有量の算術平均α、標準偏差σ、変動係数CVを算出した結果を示している。
表1に示すように、圧電セラミックス層106におけるAgの含有量の変動係数CVは、14.91%であり、20%を大きく下回っていた。これにより、積層型圧電素子100の焼成時において、内部電極102から圧電セラミックス層106へのAgの良好な拡散挙動が得られていることがわかる。
また、表1及び図7から明らかなように、圧電セラミックス層106では、Agが、ペロブスカイト構造のAサイトに配座するNa及びKと同様にその厚さ方向において均一に分散していることがわかる。つまり、積層型圧電素子100の焼成時に、内部電極102に含まれるAgが圧電セラミックス層106の厚さ方向の全領域にわたって均一に拡散していることがわかる。
(サイドマージン部104)
図8は、上記実施形態に係る積層型圧電素子100のサイドマージン部104の幅方向におけるAgの含有量の分布について説明するための図である。図8に示すように、サイドマージン部104について、積層型圧電素子100の側面と内部電極102の端部との間に並ぶp1〜p14の14箇所の位置についてAg、K、Na、Nbの含有量を測定した。サイドマージン部104の幅は、300μmであった。
なお、測定方法、測定条件、含有量の評価方法、及び留意点は上記の圧電セラミックス層106における記載と同等である。
図8における、サイドマージン部104の各位置p1〜p14について、Nbの含有量を100モル%とした場合のAサイト元素Ag,K,Naの含有量を前記の通りEDSによって評価した箇所を示している。
表2は、サイドマージン部104におけるAg,K,Naの含有量の算術平均α、標準偏差σ、変動係数CVを算出した結果を示している。
表2に示すように、サイドマージン部104におけるAgの含有量の変動係数CVは、13.99%であり、20%を大きく下回っていた。これにより、積層型圧電素子100の焼成時において、内部電極102からサイドマージン部104へのAgの良好な拡散挙動が得られていることがわかる。
また、表2及び図8から明らかなように、サイドマージン部104では、Agが、ペロブスカイト構造のAサイトに配座するNa及びKと同様にその幅方向において均一に分散していることがわかる。つまり、積層型圧電素子100の焼成時に、内部電極102に含まれるAgがサイドマージン部104の幅方向の全領域にわたって均一に拡散していることがわかる。
(カバー部105)
図9は、上記実施形態に係る積層型圧電素子100のカバー部105の厚さ方向におけるAgの含有量の分布について説明するための図である。図9に示すように、カバー部105について、積層型圧電素子100の上面と内部電極102との間に並ぶp1〜p19の19箇所の位置についてAg、K、Na、Nbの含有量を測定した。カバー部105の厚さは、150μmであった。
なお、測定方法、測定条件、含有量の評価方法、及び留意点は上記の圧電セラミックス層106における記載と同等である。
図9は、カバー部105の各位置p1〜p19について、Nbの含有量を100モル%とした場合のAサイト元素Ag,K,Naの含有量を前記の通りEDSによって評価した箇所を示している。
表3は、カバー部105におけるAg,K,Naの含有量の算術平均α、標準偏差σ、変動係数CVを算出した結果を示している。
表3に示すように、カバー部105におけるAgの含有量の変動係数CVは、11.23%であり、20%を大きく下回っていた。これにより、積層型圧電素子100の焼成時において、内部電極102からカバー部105へのAgの良好な拡散挙動が得られていることがわかる。
また表3及び図9から明らかなように、カバー部105では、Agが、ペロブスカイト構造のAサイトに配座するNa及びKと同様にその厚さ方向において均一に分散していることがわかる。つまり、積層型圧電素子100の焼成時に、内部電極102に含まれるAgがカバー部105の厚さ方向の全領域にわたって均一に拡散していることがわかる。
実施例2では、Li0.064Na0.52K0.42NbO3となるアルカリニオブ酸系圧電セラミックスの組成の仮焼粉を用意し、内部電極102及び添加物を変化させて積層型圧電素子100の試料P01,A01,A02を作製した。表4は、各試料P01,A01,A02について、添加物の種類及び量を示している。表4に記載される添加物の量はLi0.064Na0.52K0.42NbO3となるアルカリニオブ酸系圧電セラミックスを100モル%として換算される、各々の添加物のモル%量で示してある。
表4に示すように、試料P01は、内部電極102がAgを含まず、Pdのみにより構成されている点において上記実施形態の構成とは異なる。試料A01は、アルカリ土類金属M2を含む添加物を添加しない点において上記実施形態の構成とは異なる。試料A02は、上記実施形態に係る積層型圧電素子100の構成を有する。つまり、試料A02は本発明の実施例であり、試料P01,A01は本発明の比較例である。
各試料P01,A01,A02の仮焼粉混合物について厚さ80μmとなる未焼成シート501,505を得た。次に、未焼成電極502として、表4に示す内部電極102に対応する導電性ペーストを、未焼成シート501にパターニングした。そして、未焼成シート501,505を積層し、50MPa程度の圧力で加圧して、積層体500を得た。
積層体500を個片化し、脱バインダ工程及び焼成工程を行うことにより、素体101を得た。素体101に導電性ペーストを800℃で焼き付けて外部電極103を形成することにより、積層型圧電素子100の試料P01,A01,A02を得た。各試料P01,A01,A02について、100℃の恒温槽において、3.0kV/mmの電界を15分間印加して分極処理を行った。
このように得られた積層型圧電素子100の各試料P01,A01,A02について、上記の方法によって、圧電セラミックス層106におけるD50(nm)及び(D90−D10)/D50を求めた。表5は、各試料P01,A01,A02について、焼成温度、D50、及び(D90−D10)/D50を示している。
表5に示すように、本発明の実施例に係る試料A02では、D50が460nmであり、100nm≦D50≦800nmを満足していた。また、試料A02では、(D90−D10)/D50が0.96であり、2.0より大幅に小さかった。したがって、試料A02の圧電セラミックス層106を構成する多結晶体は微細かつ均一であることがわかる。
この一方で、本発明の比較例に係る試料P01,A01では、D50が800nmを大幅に超えるとともに、(D90−D10)/D50が2.0を大幅に超えていた。試料P01では、内部電極102にAgが含まれておらず、Agの拡散による結晶の微細化の作用が得られないため、圧電セラミックス層106において微細な結晶が得られなかったものと考えられる。試料A01では、アルカリ土類金属M2が含まれていないため、圧電セラミックス層106においてAgの拡散によって結晶が粗大化したものと考えられる。
実施例3では、仮焼粉の組成、及び添加物を変化させた積層型圧電素子100の試料A02〜A20についての性能評価を行った。なお、試料A02は実施例2と共通であり、試料A02〜A20の内部電極102にはいずれもAg0.7Pd0.3を用いた。表6は、試料A02〜A20について、仮焼粉の組成、並びに添加物の種類及び量を示している。
表6に示すように、試料A03は、アルカリ土類金属M2を含む添加物であるSrCO3の添加量が0.2モル%以下である点において上記実施形態の構成とは異なる。試料A04〜A20は、いずれも上記実施形態に係る積層型圧電素子100の構成を有する。つまり、試料A02,A04〜A20は本発明の実施例であり、試料A03は本発明の比較例である。上記実施例2と同様の要領で積層型圧電素子100の試料A03〜A20を作製した。
積層型圧電素子100の各試料A02〜A20について、前出の方法によって、100℃における電気抵抗率ρ、及び室温25℃における変位量d* 33を測定した。また、積層型圧電素子100の各試料A02〜A20について、前出の写真法による評価方法によって、圧電セラミックス層106におけるD50(nm)、及び(D90−D10)/D50を求めた。さらに、積層型圧電素子100の各試料A02〜A20について、FE−SEMを用いたEDS測定によって圧電セラミックス層106に含まれるAgとNbの元素分率となるAg/Nb(%)を求めた。
加えて、圧電セラミックス層106における変動係数CVについても確認した。評価方法は、上記の圧電セラミックス層106について記載したEDS測定の方法と同様の手法でもって測定を行った。各試料A02〜A20それぞれの圧電セラミックス層106について、その内部電極間を10点以上測定することによって変動係数CVを算出している。またさらに、積層型圧電素子100の各試料A02〜A20について、Li3NbO4の析出の有無を調べた。
表7は、各試料A02〜A20についての性能評価の結果を示している。
表7に示すように、本発明の実施例に係る試料A02,A04〜A20では、いずれも100nm≦D50≦800nm及び(D90−D10)/D50≦2.0を満足する微細かつ均一な多結晶体で構成される圧電セラミックス層106が得られていることがわかる。また、試料A02,A04〜A20では、いずれも充分に高い電気抵抗率ρ及び変位量d* 33が得られていることがわかる。さらに、Li3NbO4の析出が見られた試料A15,A16では、低い温度でのより高い焼結性が得られた。
また、実施例に係る試料A04〜A06に着目すると、アルカリ土類金属M2を含む添加物であるSrCO3の添加量が増加するほど、変位量d* 33が低下する傾向が見られた。その点、アルカリ土類金属M2の添加量が最も多く、5.0モル%である試料A06においても140pm/V以上の変位量d* 33が得られている。しかしながら、この傾向から、積層型圧電素子100では、アルカリ土類金属M2の添加量が5.0モル%を超える場合に、変位量d* 33が140pm/V未満となることが予測される。また、電気抵抗ρについても、2.2×108Ω・cmであり、好ましい値の下限に近い。このため、アルカリ土類金属M2の添加量は、5.0モル%以下に留めることが好ましいことがわかる。
またさらに、実施例に係る試料A17〜A20に着目すると、アルカリ土類金属M2について、Sr以外となるCaやBaを用いることで、焼結性の向上と共に、同等にいずれも、100nm≦D50≦800nm及び(D90−D10)/D50≦2.0を満足する微細且つ均一な多結晶体で構成される圧電セラミックス層106が得られており、本発明の効果を得られることがわかった。さらには、SrとCa、SrとBaといった、アルカリ土類金属M2について、2種類以上の元素を用いても、同等の効果を発揮しており、本発明の効果を得られることがわかった。
本発明の比較例に係る試料A03では、D50が800nmを大幅に超えるとともに、(D90−D10)/D50が2.0を超えていた。試料P01では、アルカリ土類金属M2を含む添加物であるSrCO3の添加量が少ないために、Agの拡散による粒成長を抑止する作用が充分に得られず、結晶が粗大化したものと考えられる。
実施例4は、上記実施例1〜3の変形例である。上記実施例1〜3では、図2〜4に示す積層型圧電素子100において、内部電極102に含まれるAgをアルカリニオブ酸系圧電セラミックスに拡散させた例を示した。これに対し、実施例4では、図1に示す圧電素子10において、アルカリニオブ酸系圧電セラミックスに直接Agを添加する例について示す。
本実施例の試料B01〜B05の作製に用いる仮焼粉の組成はLi0.064Na0.52K0.42NbO3とした。表8は、各試料B01〜B05の添加物の種類及び量を示している。表8における添加物の量は、上記の説明と同様に、Li0.064Na0.52K0.42NbO3で示されるアルカリニオブ酸系圧電セラミックスの仮焼粉100モル%に対しての添加量をモル%で示している。
試料B01ではAgを添加していない。この一方で、試料B02ではAg2Oを0.25モル%添加し、試料B03ではAg2Oを0.50モル%添加し、試料B04ではAg2Oを1.00モル%添加し、試料B05ではAg2Oを2.50モル%添加した。つまり、試料B03〜B05はそれぞれ本発明の実施例に相当し、試料B01及びB02は本発明の比較例である。
各試料B01〜B05については、上記の説明のとおりの圧電素子10の作製工程を経て、図1に示したような円板形状の圧電素子10を得た。得られた圧電素子10の各試料B01〜B05について、シリコーンオイル中で3kV/mmで15分の電界を印加して分極を行った後に、前出の方法によって、100℃における電気抵抗率ρ、及び室温25℃における変位量d* 33を測定した。また、前出の写真法による評価方法によって、圧電セラミックス層106におけるD50(nm)、及び(D90−D10)/D50を求めた。
試料B01〜B05についての焼成温度、電気抵抗率ρ、変位量d* 33、D50及び(D90−D10)/D50について表9にまとめた。
本発明の実施例に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスの試料B03〜B05では、焼成温度によらずに、結晶粒径が100nm≦D50≦800nmを満たし、かつ、(D90−D10)/D50≦2.0を満たしていた。これにより、試料B03〜B05では、微細かつ均一な多結晶体が得られていることがわかる。
この一方で、本発明の比較例に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスの試料B01では、D50が800nmを超えており、(D90−D10)/D50が2.0を超えていた。試料B01では、Agが含まれていないため、Agによる結晶の微細化の作用が得られず、微細な多結晶体が得られなかったものと考えられる。
また、本発明の比較例に係るアルカリニオブ酸系圧電セラミックスの試料B02においても、D50が800nmを超えており、(D90−D10)/D50が2.0を超えていた。試料B02では、Agが含有されているものの、その添加量がAg2O換算で0.25モル%とわずかであるため、本発明の効果を十分に発揮できなかったと考える。
さらに、試料B01及びB02については、微細な多結晶体が得られていないために、電気抵抗率ρが1.0×108Ω・cm以下となり、信頼性の点で問題がある。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定され
るものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿
論である。