以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本発明は、(Ba,Ca,M1)(Ti,Zr,M2)O3(M1はLi、K、Naより選択される一種または複数種の金属、M2はNb、Taより選択される一種または複数種の金属である)を主成分とし、高密度、高機械的品質係数であって、動作温度範囲(例えば、−5℃〜40℃)での圧電定数の温度依存性が小さく、圧電性と絶縁性の良好な非鉛圧電材料を提供するものである。なお、本発明の圧電材料は、強誘電体としての特性を利用してメモリ、およびセンサ等のさまざまな用途に利用することができる。
本発明の圧電材料は、下記一般式(1)で表わされるペロブスカイト型金属酸化物からなる主成分と、Mnからなる第1副成分と、Biからなる第2副成分とを有する圧電材料であって、前記Mnの含有量が前記金属酸化物100重量部に対して金属換算で0.04重量部以上0.36重量部以下であり、前記Biの含有量が前記金属酸化物100重量部に対して金属換算で0.042重量部以上0.850重量部以下であることを特徴とする。
(Ba1−x−yCaxM1y)α(Ti1−z―y’ZrzM2y’)O3 (1)
(式中、0.030≦x≦0.300、0.003≦y≦0.040、0.003≦y’≦0.040、0.010≦z≦0.090、0.900≦y/y’≦1.010、0.986≦α≦1.020、M1はLi、K、Naより選択される一種または複数種の金属、M2はNb、Taより選択される一種または複数種の金属である)
本発明において、ペロブスカイト型金属酸化物とは、岩波理化学辞典 第5版(岩波書店 1998年2月20日発行)に記載されているような、ペロブスカイト型構造(ペロフスカイト構造とも言う)を有する金属酸化物を指す。
ペロブスカイト型構造を有する金属酸化物は一般にABO3の化学式で表現される。ペロブスカイト型金属酸化物において、元素A、Bは各々イオンの形でAサイト、Bサイトと呼ばれる単位格子の特定の位置を占める。例えば、立方晶系の単位格子であれば、A元素は立方体の頂点、B元素は体心に位置する。O元素は酸素の陰イオンとして立方体の面心位置を占める。A元素、B元素、O元素がそれぞれ単位格子の対象位置から僅かに座標シフトすると、ペロブスカイト型構造の単位格子が歪み、正方晶、菱面体晶、斜方晶といった結晶系となる。
なお、本発明において「主成分」とは、対象となる物質の50重量%以上もしくは50体積%以上を占める成分を指す。より好ましくは、本発明の圧電材料は、一般式(1)で表わされるペロブスカイト型金属酸化物を主成分として90モル%以上含むことが好ましい。
前記圧電材料は、一般式(1)で表わされるペロブスカイト型金属酸化物、第1副成分、第2副成分を総和で98.5モル%以上含むことが好ましい。
ここで、Mn等の副成分の「金属換算」による含有量とは、以下のものを示す。例えばMnを挙げると、前記圧電材料から蛍光X線分析(XRF)、ICP発光分光分析、原子吸光分析などにより測定されたBa、Ca、Bi、Li、Na、K、Ti、Zr、Nb、Ta、Mnの各金属の含有量から、前記一般式(1)で表わされる金属酸化物を構成する元素を酸化物換算し、その総重量を100としたときに対するMn重量との比によって求められた値を表す。
本発明の圧電材料は、絶縁性の観点からペロブスカイト型金属酸化物を主相とする。「主相」とは、圧電材料の粉末X線回折を行った場合に、最も回折強度の強いピークがペロブスカイト型構造に起因したものである場合である。ペロブスカイト型金属酸化物が主相であるかどうかは、例えば、X線回折において、ペロブスカイト型金属酸化物に由来する最大の回折強度が、不純物相に由来する最大の回折強度の100倍以上であるか否かで判断できる。
ペロブスカイト型金属酸化物のみから構成されていると、絶縁性が最も高くなるため好ましい。より好ましくは、ペロブスカイト型構造の結晶がほぼ全てを占める「単相」である。
前記一般式(1)で表わされる金属酸化物は、Aサイトに位置する金属元素がBa、CaおよびM1であり、Bサイトに位置する金属元素がTi、ZrまたはM2であることを意味する。ただし、一部のBa、Ca、M1がBサイトに位置してもよい。同様に、一部のTi、Zr、M2がAサイトに位置してもよい。ここで、M1はLi、K、Naより選択される一種または複数種の1価のアルカリ金属である。一方で、M2はNb、Taより選択される一種または複数種の5価の遷移金属である。
前記一般式(1)における、Bサイトの元素とO元素のモル比は1対3であるが、元素量の比が若干ずれた場合(例えば、1.00対2.94〜1.00対3.06)でも、前記金属酸化物がペロブスカイト型構造を主相としていれば、本発明の範囲に含まれる。
本発明に係る圧電材料の形態は限定されず、セラミックス、粉末、単結晶、膜、スラリーなどのいずれの形態でも構わないが、セラミックスまたは膜であることが好ましい。本明細書中において「セラミックス」とは、基本成分が金属酸化物であり、熱処理によって焼き固められた結晶粒子の凝集体(バルク体とも言う)、いわゆる多結晶を表す。焼結後に加工されたものも含まれる。
本明細書において「膜」とは、平板上の基材(基板)のある面を覆うように密着して設けられた集合組織を表す。膜をその設置面に対して垂直方向に計測した厚さは10μm以下であり、該垂直方向における結晶粒の積み上げ数が20個以内であるものを本発明では膜とする。
前記一般式(1)において、Ca量xの範囲が0.030≦x≦0.300であり、M1量yの範囲が0.003≦y≦0.040、M2量y’の範囲が0.003≦y’≦0.040、Zr量zの範囲が0.010≦z≦0.090であり、M1量とM2量の比y/y‘が0.900≦y/y’≦1.010であり、AサイトとBサイトのモル比αの範囲が0.986≦α≦1.020であることで、圧電定数の温度依存性が小さく、かつ良好な圧電定数を得ることができる。
ここで、圧電定数の温度依存性とは、動作温度範囲(例えば、室温(25℃)付近で、通常使用する温度としてある程度の変動幅を考慮すると、−5℃〜40℃)での圧電定数の変化率を表す。以後、「圧電定数の温度依存性」とは、−5℃〜40℃の範囲の圧電定数の変動幅を室温の圧電定数で除して、100を掛けて百分率で表記したものをいう。
圧電定数の温度依存性が大きいと、圧電材料を例えば、圧電デバイスとして使用した場合に環境温度によって、デバイス特性が大きく変動してしまい、駆動する電圧や周波数だけでは、デバイス特性を一定に保てなくなる。圧電材料を圧電デバイスとして使用した場合に、容易に制御できる圧電定数の温度依存性の目安としては、30%以下である。
また、圧電定数の温度依存性が小さいだけでは、圧電デバイスの特性としては十分ではない。圧電定数の絶対値が大きくなければ、駆動に必要な電圧が大きくなりすぎてしまう。圧電定数は、印加する電界の向きと、発生する歪の向きによって、d31、d15、d33などと定義されている。例えば、圧電定数d31を使用する圧電デバイスでは、少なくとも室温で70pm/V以上が必要となる。
また、本明細書中で言及するキュリー温度TCとは、その温度以上で圧電材料の圧電性が消失する温度である。本明細書においては、強誘電相(正方晶相)と常誘電相(立方晶相)の相転移温度近傍で誘電率が極大となる温度をTCとする。誘電率は、例えばインピーダンスアナライザを用いて周波数が1kHz、電界強度が10V/cmの交流電界を印加して測定することができる。
本発明の圧電材料はキュリー温度が90℃以上であることが好ましい。本発明に係る圧電材料は、キュリー温度が90℃以上に存在することにより、夏季の車中で想定される80℃という過酷な状況下においても、圧電性を損失することなく、維持することができ、安定な圧電定数と機械的品質係数を有することが可能となる。
本発明の圧電材料は低温から温度が上昇するにつれて、菱面体晶、斜方晶、正方晶、立方晶へと逐次相転移を起こす。本明細書で言及する相転移温度とは、斜方晶から正方晶に構造転移する温度(Tot)、正方晶から斜方晶へ構造転移する温度(Tto)を指す。相転移温度はキュリー温度同様の測定方法で評価でき、誘電率を試料温度が極大となる温度を相転移温度とする。結晶系はX線回折、電子線回折、またはラマン散乱などで評価することができる。
一般式(1)において、Ca量xの範囲は0.030≦x≦0.300である。Ca量xが0.030未満の場合、Ttoが−5℃よりも高くなり、その結果、動作温度範囲内での圧電定数の温度依存性が大きくなる。
一方、xが0.300よりも大きくなると、1400℃より低い焼成温度ではCaが固溶しないため、不純物相であるCaTiO3が発生して圧電定数が低下する。1400℃以上で焼成すると、多量のM1が揮発してしまい、元素量の比が大きくずれてしまうおそれがある。また、より好ましい圧電定数を得るという観点においては、x≦0.200が好ましく、更にx≦0.165であるとより好ましい。
一般式(1)において、AサイトのM1およびBサイトのM2はそれらだけでも、ペロブスカイト構造を構成しうる。そのため、(1)式は(Ba1−x−yCax)(Ti1−z―y’Zrz)O3−M1yM2y’O3の2元系ペロブスカイト構造の式で書き変えられる。この時、M1量yとM2量y’は共に同範囲で、0.003≦y≦0.040、0.003≦y’≦0.040であり、M1量とM2量の比は0.900≦y/y’≦1.010である。ここで、M1はLi、K、Naより選択される一種または複数種の金属である。圧電定数の温度依存性を小さくする本発明の効果をより大きく得るためにはM1にNaが含まれることが好ましい。更に、大きな圧電定数を得るためには、K、Naの両方が含まれるとより好ましい。M2はNb、Taより選択される一種または複数種の金属である。
M1量y、M2量y’が0.003≦y、y’であると、圧電定数の温度依存性が小さくなる。圧電定数の温度依存性は相転移温度付近で誘電率の温度変化の極大点がある事と関連し、M1とM2の添加により、相転移温度が低温にシフトするため、圧電定数の温度依存性が小さくなる。M1yM2y’O3を単体の正方晶ペロブスカイト体と見立てると、同様に正方晶構造を有する(Ba1−x−yCax)(Ti1−z―y’Zrz)O3と比べて結晶の異方性が高い。この異方性は圧電特性を発現させるのに重要な要素であり、これを持つことで結晶内の電荷が一種の双極子モーメント(自発分極)を形成できる。正方晶構造である場合には、この結晶構造の異方性が増す事で自発分極のスカラー量が増大し、正方晶構造が安定化する。そのため、M1とM2を有する本発明の圧電材料の正方晶構造はM1、M2を持たない(Ba1−x−yCax)(Ti1−z―y’Zrz)O3と比較して、より安定であるため、斜方晶との相転移温度Ttoが低温側にシフトする。この時、誘電率は相転移温度付近の極大点から離れるため、誘電率が下がる一方で正方晶構造の異方性の増大に伴い、圧電定数の起源である自発分極が大きくなるため、誘電率の低下分を相殺し、高い圧電定数を維持したまま、相転移温度を低温側にシフトできる。本明細書内の結晶構造の異方性の指標は、前記ペロブスカイト型酸化物の単位格子のc軸長をcとし、a軸長をaとしたとき(ただしc≧a)のc/a比である。圧電材料の格子定数aおよびcは、2θ−θ法の回折ピークから算出できる。
M1量y、M2量y’が0.040を超えると、M1,M2が固溶しきれずペロブスカイト構造が不安定化するため、圧電定数、機械的品質係数が共に低下する。
y/y’が0.900より小さかったり、y/y’が1.010より大きかったりするとM1ないしM2が固溶しきれずペロブスカイト構造が不安定化するため圧電定数、機械的品質係数は低下する。
Zr量zは0.010≦z≦0.090である。Zr量zが0.010未満の場合、動作温度範囲において十分な圧電性(圧電定数)が得られない。本発明の特徴であるM1、M2の効果として、温度特性が良好になる効果とは別に、TCが上がる傾向がある。TCが上がり過ぎると、その影響で室温付近の誘電率が下がり、圧電定数が低下する。この時、圧電定数70pm/V以上を保つ観点で、TCは130℃以下であることが好ましい。一方で、yが0.090よりも大きいと、TCが80℃未満となる場合がある。Tcが80℃未満の圧電材料は、使用環境によっては圧電定数の経時劣化が大きくなる。良好な圧電定数を得て、TCを80℃以上、かつ130℃以下にするために、zの範囲は0.045≦z≦0.090である。
Zr量zが0.050以上であると、室温での誘電率を増加させて、さらに圧電定数を増加させることができる。よってZr量zの範囲は0.050≦z≦0.090であることが好ましい。
Ba、Ca、M1のモル数の和に対するTi、Zr、M2のモル数の和との比であるα(α=(Ba+Ca+M1)/(Ti+Zr+M2))の範囲は0.986≦α≦1.020である。αが0.986未満の場合、焼成時に異常粒成長が発生することがある。さらに、平均粒径が50μmより大きくなり、材料の機械的強度が低下することがある。αが1.020よりも大きい場合、高密度な圧電材料が得られない。圧電材料の密度が低いと、圧電性が低下する。本発明では、焼成が不十分な試料の密度は、密度が93%未満と小さい。高密度で機械的強度の高い圧電材料を得るために、αの範囲は0.986≦α≦1.020である。
本発明の圧電材料は、一般式(1)で表わされるペロブスカイト型金属酸化物100重量部に対して、第一の副成分として金属換算で0.040重量部以上0.360重量部以下のMnが含まれる。前記範囲のMnが含まれると機械的品質係数が増加する。しかし、Mnの含有量が0.040重量部よりも小さいと、機械的品質係数を増加させる効果が得られない。一方でMnの含有量が0.360重量部よりも大きいと圧電材料の絶縁抵抗が低下する。絶縁抵抗が低い時、インピーダンスアナライザを用いて、周波数が1kHz、電界強度が10V/cmの交流電界を印加して測定される室温での誘電正接が0.01を超える。もしくは電気抵抗率が1GΩcm以下となる。
Mnは金属Mnに限らず、Mn成分として圧電材料に含まれていれば良く、その含有の形態は問わない。例えば、Bサイトに固溶していても良いし、粒界に含まれていてもかまわない。または、金属、イオン、酸化物、金属塩、錯体などの形態でMn成分が圧電材料に含まれていても良い。より好ましくは、絶縁性や焼結容易性という観点からMnは存在することが好ましい。Mnは、4+、2+、3+といった価数を取ることができるが、Mnの価数が4+よりも低い場合、Mnはアクセプタとなる。アクセプタとしてMnがペロブスカイト構造結晶中に存在すると、結晶中に酸素空孔が形成される。酸素空孔は欠陥双極子を形成すると、圧電セラミックスの機械的品質係数を向上させることができる。Mnが4+よりも低い価数で存在するためには、Aサイトに3価の元素が存在することが好ましい。好ましい3価の元素はBiである。他方、Mnの価数は、磁化率の温度依存性の測定によって評価できる。
また、一般式(1)で表わされるペロブスカイト型金属酸化物100重量部に対して、第二の副成分として金属換算で0.042重量部以上0.850重量部以下のBiが含まれる。前記範囲のBiが含まれると相転移温度が低温化し、機械的品質係数が増加する。しかし、Bi量が0.042よりも少ないと、相転移温度を低温化し、機械的品質係数を向上させる効果が得られない。Bi量が0.850よりも多くなると、Biを含まない場合と比較して機械的品質係数が低下する。
本発明の圧電材料において、Biは粒界にあってもかまわないし、チタン酸バリウム系ペロブスカイト型構造中に固溶していてもかまわない。
Biが粒界に存在すると、粒子間の摩擦が低減され機械的品質係数が増加する。Biがペロブスカイト構造の(Ba,Ca,M1)(Ti,Zr,M2)O3に固溶すると、相転移温度が低温化するので動作温度範囲内での圧電定数の温度依存性が小さくなり、さらに機械的品質係数を向上させることができる。Biが存在する場所は、例えば、X線回折、電子線回折、電子顕微鏡、ICP−MS等で評価することができる。
本発明の圧電材料において、M1量y及びM2量y’は0.005≦y≦0.010、0.005≦y’≦0.010である事が好ましい。M1量y及びM2量y’がこの範囲内にある事でより良好な圧電定数を維持しつつ、圧電定数の温度依存性をより小さくできる。
本発明の圧電材料は、Mgよりなる第2副成分を有しており、前記第2副成分の含有量が前記一般式(1)で表わされるペロブスカイト型金属酸化物100重量部に対して金属換算で0.100重量部以下(ただし0重量部を除く)であることが好ましい。
Mgを0.100重量部より多く含有すると、機械的品質係数が900未満と小さくなるおそれがある。機械的品質係数が小さいと、前記圧電材料を圧電素子にして共振デバイスとして駆動した際に、消費電力が増大してしまうおそれがある。好ましい機械的品質係数は、900以上であり、より好ましくは1100以上である。より好ましい機械的品質係数を得るという観点において、Mgの含有量は0.050重量部以下であることが好ましい。
MgはMg成分として圧電材料に含まれていれば良く、その含有の形態は金属Mgに限らない。例えば、ペロブスカイト構造のAサイトまたはBサイトに固溶していても良いし、粒界に含まれていてもかまわない。または、金属、イオン、酸化物、金属塩、錯体などの形態でMg成分が圧電材料に含まれていても良い。
本発明の圧電材料の製造を容易にしたり、本発明の圧電材料の物性を調整したりする目的で、BaとCaの1mol%以下を2価の金属元素、例えばSrで置換しても構わない。同様にTiとZrの1mol%以下を4価の金属元素、例えばSnやHfで置換しても構わない。
本発明に係る圧電素子における前記圧電材料は、前記圧電材料を構成する結晶粒の平均円相当径が500nm以上10μm以下であることが好ましい。平均円相当径をこの範囲にすることによって、本発明の前記圧電材料は、良好な圧電特性と機械的強度を有することが可能となる。平均円相当径が500nm未満であると、圧電特性が充分でなくなるおそれがある。一方で、10μmより大きくなると機械的強度が低下するおそれがある。より好ましい範囲としては3μm以上8μm以下である。
本発明における「円相当径」とは、顕微鏡観察法において一般に言われる「投影面積円相当径」を表し、結晶粒の投影面積と同面積を有する真円の直径を表す。本発明において、この円相当径の測定方法は特に制限されない。例えば圧電材料の表面を偏光顕微鏡や走査型電子顕微鏡で撮影して得られる写真画像を画像処理して求めることができる。対象となる粒子径により最適倍率が異なるため、光学顕微鏡と電子顕微鏡を使い分けても構わない。材料の表面ではなく研磨面や断面の画像から円相当径を求めても良い。
前記圧電材料は、前記圧電材料を構成する結晶粒において、円相当径が25μm以下である結晶粒が99個数パーセント以上であることが好ましい。円相当径が25μm以下である結晶粒の個数パーセントをこの範囲にすることで、本発明の圧電材料は、良好な機械的強度を有することが可能となる。機械的強度は円相当径の大きな結晶粒の含有割合と強い負の相関関係がある。結晶粒の個数パーセントが99個数パーセント未満であると、円相当径が25μmを超える粒子の含有割合が多くなるため、機械的強度が低下するおそれがある。
前記圧電材料は、長辺が25μmを超える針状結晶を含むこともあるが、この場合も円相当径に換算して、25μm以下のものが99個数パーセント以上であることが好ましい。
焼結体の密度は例えばアルキメデス法で測定することができる。本発明では、焼結体の組成と格子定数から求められる理論密度(ρcalc.)に対する測定密度(ρmeas.)の割合、つまり相対密度(ρcalc./ρmeas.)が93%以上であると圧電材料として十分に高いと言える。
そのため、本発明の圧電材料は、相対密度が93%以上100%以下であることが好ましい。
相対密度が93%より小さくなると、圧電特性や機械的品質係数が充分でなかったり、機械的強度が低下したりするおそれがある。
本発明の圧電材料の周波数1kHzにおける誘電正接は0.006以下であることが好ましい。誘電正接が0.006以下であると、圧電材料を素子の駆動条件下で最大500V/cmの電界を印加した際でも、安定した動作を得ることが出来る。
(圧電材料の製法)
本発明に係る圧電材料の製造方法は特に限定されない。
セラミックス状の圧電材料を製造する場合は、構成元素を含んだ酸化物、炭酸塩、硝酸塩、蓚酸塩などの固体粉末を常圧下で焼結する一般的な手法を採用することができる。原料としては、Ba化合物、Ca化合物、Bi化合物、Li化合物、K化合物、Na化合物、Ti化合物、Zr化合物、Mn化合物といった金属化合物から構成される。Li化合物、K化合物、Na化合物は仕込み量に対して焼結後の含有量が減少することがあるので、焼結後の組成が所望の値になるように過剰に原料粉に含ませて良い。例えばK化合物、Na化合物の場合、目的組成の1〜5モル%程度過剰に原料粉に含ませることがある。例えば、Li化合物の場合、目的組成の1〜50モル%程度過剰に原料粉に含ませることがある。
使用可能なBa化合物としては、酸化バリウム、炭酸バリウム、蓚酸バリウム、酢酸バリウム、硝酸バリウム、チタン酸バリウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウムなどが挙げられる。
使用可能なCa化合物としては、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、蓚酸カルシウム、酢酸カルシウム、チタン酸カルシウム、ジルコン酸カルシウムなどが挙げられる。
使用可能なLi化合物としては、炭酸リチウム、塩化リチウムなどが挙げられる。
使用可能なK化合物としては、炭酸カリウム、塩化カリウムなどが挙げられる。
使用可能なNa化合物としては、炭酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが挙げられる。
使用可能なTi化合物としては、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸カルシウムなどが挙げられる。
使用可能なZr化合物としては、酸化ジルコニウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウムなどが挙げられる。
使用可能なNb化合物としては、炭化ニオブ、酸化ニオブ、塩化ニオブ、ニオブ酸バリウム、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸ナトリウムなどが挙げられる。
使用可能なTa化合物としては、酸化タンタル、タンタル酸リチウム、タンタル酸カリウム、タンタル酸ナトリウムなどが挙げられる。
使用可能なMn化合物としては、炭酸マンガン、一酸化マンガン、二酸化マンガン、四酸化三マンガン、酢酸マンガンなどが挙げられる。
使用可能なBi化合物としては、酸化ビスマス、塩化ビスマス、ビスマス酸リチウムなどが挙げられる。
使用可能なMg化合物としては、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、過酸化マグネシウム、塩化マグネシウムなどが挙げられる。
また、本発明に係る前記圧電材料のBaとCaとM1のモル数の和に対するTi、Zr及びM2のモル数の和との比を示すα(α=(Ba+Ca+M1)/(Ti+Zr+M2))を調整するための原料は特に限定されない。Ba化合物、Ca化合物、Bi化合物、Li化合物、K化合物、Na化合物、Ti化合物、Zr化合物、Mn化合物のいずれでも効果は同じである。
本発明に係る圧電材料の原料粉は必要に応じて、仮焼して用いても構わない。仮焼は600℃から1050℃の温度で行うことが好ましい。仮焼によって得られた粉末を仮焼粉と呼ぶ。
本発明に係る圧電材料の原料粉を造粒する方法は特に限定されない。造粒する際に使用可能なバインダーの例としては、PVA(ポリビニルアルコール)、PVB(ポリビニルブチラール)、アクリル系樹脂が挙げられる。添加するバインダーの量は1重量部から10重量部が好ましく、成形体の密度が上がるという観点において2重量部から5重量部がより好ましい。
Ba化合物、Ca化合物、Bi化合物、Li化合物、K化合物、Na化合物、Ti化合物、Zr化合物およびMn化合物を機械的に混合した混合粉を造粒してもよい。また。これらの化合物を800〜1300℃程度で仮焼した後に造粒してもよいし、Ba化合物、Ca化合物、Li化合物、K化合物、Na化合物、Ti化合物、Zr化合物、Nb化合物及びTa化合物を仮焼したのちに、Mn化合物、Bi化合物をバインダーと同時に添加させてもよい。造粒粉の粒径をより均一にできるという観点において、最も好ましい造粒方法はスプレードライ法である。
本発明に係る圧電材料の成形体の作成方法は特に限定されない。成形体とは原料粉末、造粒粉、もしくはスラリーから作成される固形物である。成形体作成の手段としては、一軸加圧加工、冷間静水圧加工、温間静水圧加工、鋳込成形と押し出し成形などを用いることができる。
本発明に係る圧電材料の焼結方法は特に限定されない。焼結方法の例としては、電気炉による焼結、ガス炉による焼結、通電加熱法、マイクロ波焼結法、ミリ波焼結法、HIP(熱間等方圧プレス)などが挙げられる。電気炉およびガスによる焼結は、連続炉であってもバッチ炉であっても構わない。
前記焼結方法における圧電材料の焼結温度は特に限定されない。各化合物が反応し、充分に結晶成長する温度であることが好ましい。好ましい焼結温度としては、圧電材料の結晶粒の平均円相当径を500nm以上10μm以下の範囲にするという観点で、1100℃以上1400℃未満であり、より好ましくは1100℃以上1380℃以下である。上記温度範囲において焼結した圧電材料は良好な圧電性能を示す。
焼結処理により得られる圧電材料の特性を再現よく安定させるためには、焼結温度を上記範囲内で一定にして2時間以上24時間以下の焼結処理を行うとよい。
二段階焼結法などの焼結方法を用いてもよいが、生産性を考慮すると急激な温度変化のない方法が好ましい。
前記圧電材料を研磨加工した後に、1000℃以上の温度で熱処理することが好ましい。機械的に研磨加工されると、圧電材料の内部には残留応力が発生するが、1000℃以上で熱処理することにより、残留応力が緩和し、圧電材料の圧電特性がさらに良好になる。また、粒界部分に析出した炭酸バリウムなどの原料粉を除去する効果もある。熱処理の時間は特に限定されないが、1時間以上が好ましい。
本発明の圧電材料を基板上に作成された膜として得る際、前記圧電材料の厚みは200nm以上10μm以下、より好ましくは300nm以上3μm以下であることが望ましい。圧電材料の膜厚を200nm以上10μm以下とすることで圧電素子として十分な電気機械変換機能が得られるからである。
前記膜の成膜方法は特に制限されない。例えば、化学溶液堆積法(CSD法)、ゾルゲル法、有機金属化学気相成長法(MOCVD法)、スパッタリング法、パルスレーザデポジション法(PLD法)、水熱合成法、エアロゾルデポジション法(AD法)などが挙げられる。このうち、最も好ましい積層方法は化学溶液堆積法またはスパッタリング法である。
化学溶液堆積法またはスパッタリング法は、容易に成膜面積を大面積化できる。本発明の圧電材料に用いる基板は(001)面または(110)面で切断・研磨された単結晶基板であることが好ましい。特定の結晶面で切断・研磨された単結晶基板を用いることで、その基板表面に設けられた圧電材料膜も同一方位に強く配向させることができる。
(圧電素子)
以下に本発明の圧電材料を用いた圧電素子について説明する。
図1は本発明の圧電素子の構成の一実施形態を示す概略図である。本発明に係る圧電素子は、第一の電極1、圧電材料部2および第二の電極3を少なくとも有する圧電素子であって、前記圧電材料部2が本発明の圧電材料であることを特徴とする。
本発明に係る圧電材料は、少なくとも第一の電極と第二の電極を有する圧電素子にすることにより、その圧電特性を評価できる。前記第一の電極および第二の電極は、厚み5nmから10μm程度の導電層よりなる。その材料は特に限定されず、圧電素子に通常用いられているものであればよい。例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Ag、Cuなどの金属およびこれらの化合物を挙げることができる。
前記第一の電極および第二の電極は、これらのうちの1種からなるものであっても、あるいはこれらの2種以上を積層してなるものであってもよい。また、第一の電極と第二の電極が、それぞれ異なる材料であってもよい。
前記第一の電極と第二の電極の製造方法は限定されず、金属ペーストの焼き付けにより形成しても良いし、スパッタ、蒸着法などにより形成してもよい。また第一の電極と第二の電極とも所望の形状にパターニングして用いてもよい。
前記圧電素子は一定方向に分極軸が揃っているものであると、より好ましい。分極軸が一定方向に揃っていることで前記圧電素子の圧電定数は大きくなる。
前記圧電素子の分極方法は特に限定されない。分極処理は大気中で行ってもよいし、シリコーンオイル中で行ってもよい。分極をする際の温度は60℃から150℃の温度が好ましいが、素子を構成する圧電材料の組成によって最適な条件は多少異なる。分極処理をするために印加する電界は、600V/mmから2.0kV/mmが好ましい。
前記圧電素子の圧電定数および電気機械品質係数は、市販のインピーダンスアナライザを用いて得られる共振周波数及び***振周波数の測定結果から、電子情報技術産業協会規格(JEITA EM−4501)に基づいて、計算により求めることができる。以下、この方法を共振−***振法と呼ぶ。
(積層圧電素子)
次に、本発明の圧電材料を用いた積層圧電素子について説明する。
本発明に係る積層圧電素子は、複数の圧電材料層と、内部電極を含む複数の電極とが交互に積層された積層圧電素子であって、前記圧電材料層が本発明の圧電材料よりなることを特徴とする。
図2は本発明の積層圧電素子の構成の一実施形態を示す断面概略図である。本発明に係る積層圧電素子は、圧電材料層54と、内部電極55を含む複数の電極層とで構成されており、圧電材料層と層状の電極とが交互に積層された積層圧電素子であって、前記圧電材料層54が上記の圧電材料よりなることを特徴とする。電極層は、内部電極55以外に第一の電極51や第二の電極53といった外部電極を含んでいてもよい。
図2(a)は2層の圧電材料層54と1層の内部電極55が交互に積層され、その積層構造体を第一の電極51と第二の電極53で狭持した本発明の積層圧電素子の構成を示しているが、図2(b)のように圧電材料層と内部電極の数を増やしてもよく、その層数に限定はない。図2(b)の積層圧電素子は9層の圧電材料層504と8層の内部電極505が交互に積層され、その積層構造体を第一の電極501と第二の電極503で狭持した構成であり、交互に形成された内部電極を短絡するための外部電極506aおよび外部電極506bを有する。
内部電極55、505および外部電極506a、506bの大きさや形状は必ずしも圧電材料層54、504と同一である必要はなく、また複数に分割されていてもよい。
内部電極55、505および外部電極506a、506b、第一の電極51、501および第二の電極53、503は、厚み5nmから10μm程度の導電層よりなる。その材料は特に限定されず、圧電素子に通常用いられているものであればよい。例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Ag、Cuなどの金属およびこれらの化合物を挙げることができる。
内部電極55、505および外部電極506a、506bは、これらのうちの1種からなるものであっても2種以上の混合物あるいは合金であってもよく、あるいはこれらの2種以上を積層してなるものであってもよい。また複数の電極が、それぞれ異なる材料であってもよい。
電極材料が安価という観点において、内部電極55、505はNiおよびCuの少なくともいずれか1種を含むことが好ましい。内部電極55、505にNiおよびCuの少なくともいずれか1種を用いる場合、本発明の積層圧電素子は還元雰囲気で焼成することが好ましい。
本発明の積層圧電素子は、内部電極がAgとPdを含み、前記Agの含有重量N1と前記Pdの含有重量N2との重量比N1/N2が0.25≦N1/N2≦4.0であることが好ましい。前記重量比N1/N2が0.25未満であると内部電極の焼結温度が高くなるので望ましくない。一方で、前記重量比N1/N2が4.0よりも大きくなると、内部電極が島状になるために面内で不均一になるので望ましくない。より好ましくは0.3≦N1/N2≦3.0である。
図2(b)に示すように、内部電極505を含む複数の電極は、駆動電圧の位相をそろえる目的で互いに短絡させても良い。例えば、内部電極505aと第一の電極501を外部電極506aで短絡させても良い。内部電極505bと第二の電極503を外部電極506bで短絡させても良い。内部電極505aと内部電極505bは交互に配置されていても良い。また電極どうしの短絡の形態は限定されない。積層圧電素子の側面に短絡のための電極や配線を設けてもよいし、圧電材料層504を貫通するスルーホールを設け、その内側に導電材料を設けて電極どうしを短絡させてもよい。
(液体吐出ヘッド)
本発明に係る液体吐出ヘッドは、前記圧電素子または前記積層圧電素子を配した振動部を備えた液室と、前記液室と連通する吐出口を少なくとも有することを特徴とする。本発明の液体吐出ヘッドによって吐出する液体は流動体であれば特に限定されず、水、インク、燃料などの水系液体や非水系液体を吐出することができる。
図3は、本発明の液体吐出ヘッドの構成の一実施態様を示す概略図である。図3(a)(b)に示すように、本発明の液体吐出ヘッドは、本発明の圧電素子101を有する液体吐出ヘッドである。圧電素子101は、第一の電極1011、圧電材料1012、第二の電極1013を少なくとも有する圧電素子である。圧電材料1012は、図3(b)の如く、必要に応じてパターニングされている。
図3(b)は液体吐出ヘッドの模式図である。液体吐出ヘッドは、吐出口105、個別液室102、個別液室102と吐出口105をつなぐ連通孔106、液室隔壁104、共通液室107、振動板103、圧電素子101を有する。図において圧電素子101は矩形状だが、その形状は、楕円形、円形、平行四辺形等の矩形以外でも良い。一般に、圧電材料1012は個別液室102の形状に沿った形状となる。
本発明の液体吐出ヘッドに含まれる圧電素子101の近傍を図3(a)で詳細に説明する。図3(a)は、図3(b)に示された圧電素子の一点鎖線A−A位置での部分断面図である。圧電素子101の断面形状は矩形で表示されているが、台形や逆台形でもよい。なお、図3(a)は、図3(b)における液室隔壁104より下の部材は省略している。
図中では、第一の電極1011が下部電極、第二の電極1013が上部電極として使用されている。しかし、第一の電極1011と、第二の電極1013の配置はこの限りではない。例えば、第一の電極1011を下部電極として使用してもよいし、上部電極として使用してもよい。同じく、第二の電極1013を上部電極として使用しても良いし、下部電極として使用しても良い。また、振動板103と下部電極の間にバッファ層108が存在しても良い。なお、これらの名称の違いはデバイスの製造方法によるものであり、いずれの場合でも本発明の効果は得られる。
前記液体吐出ヘッドにおいては、振動板103が圧電材料1012の伸縮によって上下に変動し、個別液室102の液体に圧力を加える。その結果、吐出口105より液体が吐出される。本発明の液体吐出ヘッドは、プリンタ用途や電子デバイスの製造に用いることができる。
振動板103の厚みは、1.0μm以上15μm以下であり、好ましくは1.5μm以上8μm以下である。振動板の材料は限定されないが、好ましくはSiである。振動板のSiにホウ素やリンがドープされていてもよい。また、振動板上のバッファ層108、電極が振動板の一部となってもよい。
バッファ層108の厚みは、5nm以上300nm以下であり、好ましくは10nm以上200nm以下である。吐出口105は、ノズルプレート109に設けられた開口部によって形成される。ノズルプレートの厚みは、30μm以上150μm以下であることが好ましい。吐出口105の大きさは、円相当径で5μm以上40μm以下であることが好ましい。吐出口105はノズルプレート内でテーパー形状を有していることが好ましい。吐出口105の形状は、円形であっても良いし、星型や角型状、三角形状でも良い。
(液体吐出装置)
次に、本発明の液体吐出装置について説明する。本発明の液体吐出装置は、被転写体の載置部と前記液体吐出ヘッドを備えたものである。
本発明の液体吐出装置の一例として、図4および図5に示すインクジェット記録装置を挙げることができる。図4に示す液体吐出装置(インクジェット記録装置)881の外装882〜885及び887を外した状態を図5に示す。インクジェット記録装置881は、被転写体としての記録紙を装置本体896内へ自動給送する自動給送部897を有する。更に、自動給送部897から送られる記録紙を所定の記録位置へ導き、記録位置から排出口898へ導く搬送部899と、記録位置に搬送された記録紙に記録を行う記録部891と、記録部891に対する回復処理を行う回復部890とを有する。記録部891には、本発明の液体吐出ヘッドを収納し、レール上を往復移送されるキャリッジ892が備えられる。
このようなインクジェット記録装置において、コンピューターから送出される電気信号によりキャリッジ892がレール上を移送され、圧電材料を挟持する電極に駆動電圧が印加されると圧電材料が変位する。この圧電材料の変位により、図3(b)に示すように、振動板103を介して個別液室102を加圧し、インクを吐出口105から吐出させて、印字を行う。本発明の液体吐出装置においては、均一に高速度で液体を吐出させることができ、装置の小型化を図ることができる。
上記例は、プリンタとして例示したが、本発明の液体吐出装置は、ファクシミリや複合機、複写機などのインクジェット記録装置等のプリンティング装置の他、産業用液体吐出装置、対象物に対する描画装置として使用することができる。
加えてユーザーは用途に応じて所望の被転写体を選択することができる。なお載置部としてのステージに載置された被転写体に対して液体吐出ヘッドが相対的に移動する構成をとっても良い。
(超音波モータ)
本発明に係る超音波モータは、前記圧電素子または前記積層圧電素子を配した振動体と、前記振動体と接触する移動体とを少なくとも有することを特徴とする。図6は、本発明の超音波モータの構成の一実施態様を示す概略図である。本発明の圧電素子が単板からなる超音波モータを、図6(a)に示す。超音波モータは、振動子201、振動子201の摺動面に不図示の加圧バネによる加圧力で接触しているロータ202、ロータ202と一体的に設けられた出力軸203を有する。前記振動子201は、金属の弾性体リング2011、本発明の圧電素子2012、圧電素子2012を弾性体リング2011に接着する有機系接着剤2013(エポキシ系、シアノアクリレート系など)で構成される。
本発明の圧電素子2012は、不図示の第一の電極と第二の電極によって挟まれた圧電材料で構成される。本発明の圧電素子に位相がπ/2の奇数倍異なる二相の交番電圧を印加すると、振動子201に屈曲進行波が発生し、振動子201の摺動面上の各点は楕円運動をする。この振動子201の摺動面にロータ202が圧接されていると、ロータ202は振動子201から摩擦力を受け、屈曲進行波とは逆の方向へ回転する。
不図示の被駆動体は、出力軸203と接合されており、ロータ202の回転力で駆動される。圧電材料に電圧を印加すると、圧電横効果によって圧電材料は伸縮する。金属などの弾性体が圧電素子に接合している場合、弾性体は圧電材料の伸縮によって曲げられる。ここで説明された種類の超音波モータは、この原理を利用したものである。
次に、積層構造を有した圧電素子を含む超音波モータを図6(b)に例示する。振動子204は、筒状の金属弾性体2041に挟まれた積層圧電素子2042よりなる。積層圧電素子2042は、不図示の複数の積層された圧電材料により構成される素子であり、積層外面に第一の電極と第二の電極、積層内面に内部電極を有する。
金属弾性体2041はボルトによって締結され、積層圧電素子2042を挟持固定し、振動子204となる。積層圧電素子2042に位相の異なる交番電圧を印加することにより、振動子204は互いに直交する2つの振動を励起する。この二つの振動は合成され、振動子204の先端部を駆動するための円振動を形成する。
なお、振動子204の上部にはくびれた周溝が形成され、駆動のための振動の変位を大きくしている。ロータ205は、加圧用のバネ206により振動子204と加圧接触し、駆動のための摩擦力を得る。ロータ205はベアリングによって回転可能に支持されている。
(光学機器)
次に、本発明の光学機器について説明する。本発明の光学機器は、駆動部に前記超音波モータを備えたことを特徴とする。
図7は、本発明の光学機器の好適な実施形態の一例である一眼レフカメラの交換レンズ鏡筒の主要断面図である。また、図8は本発明の光学機器の好適な実施形態の一例である一眼レフカメラの交換レンズ鏡筒の分解斜視図である。カメラとの着脱マウント711には、固定筒712と、直進案内筒713、前群鏡筒714が固定されている。これらは交換レンズ鏡筒の固定部材である。
直進案内筒713には、フォーカスレンズ702用の光軸方向の直進案内溝713aが形成されている。フォーカスレンズ702を保持した後群鏡筒716には、径方向外方に突出するカムローラ717a、717bが軸ビス718により固定されており、このカムローラ717aがこの直進案内溝713aに嵌まっている。
直進案内筒713の内周には、カム環715が回動自在に嵌まっている。直進案内筒713とカム環715とは、カム環715に固定されたローラ719が、直進案内筒713の周溝713bに嵌まることで、光軸方向への相対移動が規制されている。このカム環715には、フォーカスレンズ702用のカム溝715aが形成されていて、カム溝715aには、前述のカムローラ717bが同時に嵌まっている。
固定筒712の外周側にはボールレース727により固定筒712に対して定位置回転可能に保持された回転伝達環720が配置されている。回転伝達環720には、回転伝達環720から放射状に延びた軸720fにコロ722が回転自由に保持されており、このコロ722の径大部722aがマニュアルフォーカス環724のマウント側端面724bと接触している。またコロ722の径小部722bは接合部材729と接触している。コロ722は回転伝達環720の外周に等間隔に6つ配置されており、それぞれのコロが上記の関係で構成されている。
マニュアルフォーカス環724の内径部には低摩擦シート(ワッシャ部材)733が配置され、この低摩擦シートが固定筒712のマウント側端面712aとマニュアルフォーカス環724の前側端面724aとの間に挟持されている。また、低摩擦シート733の外径面はリング状とされマニュアルフォーカス環724の内径724cと径嵌合しており、更にマニュアルフォーカス環724の内径724cは固定筒712の外径部712bと径嵌合している。
低摩擦シート733は、マニュアルフォーカス環724が固定筒712に対して光軸周りに相対回転する構成の回転環機構における摩擦を軽減する役割を果たす。
なお、コロ722の径大部722aとマニュアルフォーカス環のマウント側端面724bとは、波ワッシャ726が超音波モータ725をレンズ前方に押圧する力により、加圧力が付与された状態で接触している。
また同じく、波ワッシャ726が超音波モータ725をレンズ前方に押圧する力により、コロ722の径小部722bと接合部材729の間も適度な加圧力が付与された状態で接触している。波ワッシャ726は、固定筒712に対してバヨネット結合したワッシャ732によりマウント方向への移動を規制されており、波ワッシャ726が発生するバネ力(付勢力)は、超音波モータ725、更にはコロ722に伝わり、マニュアルフォーカス環724が固定筒712のマウント側端面712aを押し付ける力ともなる。
つまり、マニュアルフォーカス環724は、低摩擦シート733を介して固定筒712のマウント側端面712aに押し付けられた状態で組み込まれている。
従って、不図示の制御部により超音波モータ725が固定筒712に対して回転駆動されると、接合部材729がコロ722の径小部722bと摩擦接触しているため、コロ722が軸720f中心周りに回転する。コロ722が軸720f回りに回転すると、結果として回転伝達環720が光軸周りに回転する(オートフォーカス動作)。
また、不図示のマニュアル操作入力部からマニュアルフォーカス環724に光軸周りの回転力が与えられると、マニュアルフォーカス環724のマウント側端面724bがコロ722の径大部722aと加圧接触しているため、摩擦力によりコロ722が軸720f周りに回転する。コロ722の径大部722aが軸720f周りに回転すると、回転伝達環720が光軸周りに回転する。このとき超音波モータ725は、ロータ725cとステータ725bの摩擦保持力により回転しないようになっている(マニュアルフォーカス動作)。
回転伝達環720には、フォーカスキー728が2つ互いに対向する位置に取り付けられており、フォーカスキー728がカム環715の先端に設けられた切り欠き部715bと嵌合している。従って、オートフォーカス動作或いはマニュアルフォーカス動作が行われて、回転伝達環720が光軸周りに回転させられると、その回転力がフォーカスキー728を介してカム環715に伝達される。カム環が光軸周りに回転させられると、カムローラ717aと直進案内溝713aにより回転規制された後群鏡筒716が、カムローラ717bによってカム環715のカム溝715aに沿って進退する。これにより、フォーカスレンズ702が駆動され、フォーカス動作が行われる。
ここで本発明の光学機器として、一眼レフカメラの交換レンズ鏡筒について説明したが、コンパクトカメラ、電子スチルカメラ、カメラ付き携帯情報端末等、カメラの種類を問わず、駆動部に超音波モータを有する光学機器に適用することができる。
(振動装置および塵埃除去装置)
粒子、粉体、液滴の搬送、除去等で利用される振動装置は、電子機器等で広く使用されている。
以下、本発明の振動装置と、その一つの例として、本発明の圧電素子を用いた塵埃除去装置について説明する。
本発明に係る振動装置は、前記圧電素子または前記積層圧電素子を振動板に配した振動体を有することを特徴とする。また、本発明の塵埃除去装置は、前記振動装置を振動部に備え、振動板の表面に付着した塵埃を除去する機能を有する。
図9(a)および図9(b)は本発明の塵埃除去装置の一実施態様を示す概略図である。塵埃除去装置310は板状の圧電素子330と振動板320より構成される。圧電素子330は、本発明の積層圧電素子であってもよい。振動板320の材質は限定されないが、塵埃除去装置310を光学デバイスに用いる場合には透光性材料や光反射性材料を振動板320として用いることができ、振動板の透光部や光反射部が塵埃除去の対象となる。
図10は図9(a)、(b)における圧電素子330の構成を示す概略図である。図10(a)と(c)は圧電素子330の表裏面の構成、図10(b)は側面の構成を示している。圧電素子330は図9(a)に示すように圧電材料331と第1の電極332と第2の電極333より構成され、第1の電極332と第2の電極333は圧電材料331の板面に対向して配置されている。
図9(a)、(b)と同様に圧電素子330は、本発明の積層圧電素子であっても良い。その場合、圧電材料331は圧電材料層と内部電極の交互構造をとり、内部電極を交互に第一の電極332または第二の電極333と短絡させることにより、圧電材料の層ごとに位相の異なる駆動波形を与えることができる。図10(c)において圧電素子330の手前に出ている第1の電極332が設置された面を第1の電極面336、図10(a)において圧電素子330の手前に出ている第2の電極333が設置された面を第2の電極面337とする。電極面とは電極が設置されている圧電素子の面であり、例えば図10に示すように第1の電極332が第2の電極面337に回りこんでいても良い。
圧電素子330と振動板320は、図9(a)(b)に示すように圧電素子330の第1の電極面336で振動板320の板面に固着される。そして圧電素子330の駆動により圧電素子330と振動板320との間に応力が発生し、振動板に面外振動を発生させる。本発明の塵埃除去装置310は、この振動板320の面外振動により振動板320の表面に付着した塵埃等の異物を除去する装置である。面外振動とは、振動板を光軸方向つまり振動板の厚さ方向に変位させる弾性振動を意味する。
図11は本発明の塵埃除去装置310の振動原理を示す模式図である。図11(a)は左右一対の圧電素子330に同位相の交番電圧を印加して、振動板320に面外振動を発生させた状態を表している。左右一対の圧電素子330を構成する圧電材料の分極方向は圧電素子330の厚さ方向と同一であり、塵埃除去装置310は7次の振動モードで駆動している。
図11(b)は左右一対の圧電素子330に位相が180°反対である逆位相の交番電圧を印加して、振動板320に面外振動を発生させた状態を表している。塵埃除去装置310は6次の振動モードで駆動している。本発明の塵埃除去装置310は少なくとも2つの振動モードを使い分けることで振動板の表面に付着した塵埃を効果的に除去できる装置である。
(撮像装置)
次に、本発明の撮像装置について説明する。本発明の撮像装置は、前記塵埃除去装置と撮像素子ユニットとを少なくとも有する撮像装置であって、前記塵埃除去装置の振動板を前記撮像素子ユニットの受光面側に設けたことを特徴とする。図12および図13は本発明の撮像装置の好適な実施形態の一例であるデジタル一眼レフカメラを示す図である。
図12は、カメラ本体601を被写体側より見た正面側斜視図であって、撮影レンズユニットを外した状態を示す。図13は、本発明の塵埃除去装置と撮像ユニット400の周辺構造について説明するためのカメラ内部の概略構成を示す分解斜視図である。
図12に示すカメラ本体601内には、撮影レンズを通過した撮影光束が導かれるミラーボックス605が設けられており、ミラーボックス605内にメインミラー(クイックリターンミラー)606が配設されている。メインミラー606は、撮影光束をペンタダハミラー(不図示)の方向へ導くために撮影光軸に対して45°の角度に保持される状態と、撮像素子(不図示)の方向へ導くために撮影光束から退避した位置に保持される状態とを取り得る。
図13において、カメラ本体の骨格となる本体シャーシ300の被写体側には、被写体側から順にミラーボックス605、シャッタユニット200が配設される。また、本体シャーシ300の撮影者側には、撮像ユニット400が配設される。前記撮像ユニット400は、塵埃除去装置の振動板と撮像素子ユニットで構成される。また、塵埃除去装置の振動板は前記撮像素子ユニットの受光面と同一軸上に順に設けてある。撮像ユニット400は、撮影レンズユニットが取り付けられる基準となるマウント部602(図12)の取り付け面に設置され、撮像素子ユニットの撮像面が撮像レンズユニットと所定の距離を空けて、且つ平行になるように調整されている。
ここで、本発明の撮像装置として、デジタル一眼レフカメラについて説明したが、例えばミラーボックス605を備えていないミラーレス型のデジタル一眼カメラのような撮影レンズユニット交換式カメラであってもよい。また、撮影レンズユニット交換式のビデオカメラや、複写機、ファクシミリ、スキャナ等の各種の撮像装置もしくは撮像装置を備える電子電気機器のうち、特に光学部品の表面に付着する塵埃の除去が必要な機器にも適用することができる。
(電子機器)
次に、本発明の電子機器について説明する。本発明の電子機器は、前記圧電素子または前記積層圧電素子を備えた圧電音響部品を配したことを特徴とする。圧電音響部品にはスピーカ、ブザー、マイク、表面弾性波(SAW)素子が含まれる。
図14は本発明の電子機器の好適な実施形態の一例であるデジタルカメラの本体931の前方から見た全体斜視図である。本体931の前面には光学装置901、マイク914、ストロボ発光部909、補助光部916が配置されている。マイク914は本体内部に組み込まれているため、破線で示している。マイク914の前方には外部からの音を拾うための穴が設けられている。
本体931上面には電源ボタン933、スピーカ912、ズームレバー932、合焦動作を実行するためのレリーズボタン908が配置される。スピーカ912は本体931内部に組み込まれており、破線で示してある。スピーカ912の前方には音声を外部へ伝えるための穴が設けられている。
本発明の圧電素子又は積層圧電素子を備えた圧電音響部品は、マイク914、スピーカ912、また表面弾性波素子(不図示)、の少なくとも一つに用いられる。
ここで、本発明の電子機器としてデジタルカメラについて説明したが、本発明の電子機器は、音声再生機器、音声録音機器、携帯電話、情報端末等各種の圧電音響部品を有する電子機器にも適用することができる。
前述したように本発明の圧電素子および積層圧電素子は、液体吐出ヘッド、液体吐出装置、超音波モータ、光学機器、振動装置、塵埃除去装置、撮像装置および電子機器に好適に用いられる。本発明の圧電素子および積層圧電素子を用いることで、鉛を含む圧電素子を用いた場合と同等以上のノズル密度、および吐出速度を有する液体吐出ヘッドを提供できる。
本発明の液体吐出ヘッドを用いることで、鉛を含む圧電素子を用いた場合と同等以上の吐出速度および吐出精度を有する液体吐出装置を提供できる。
本発明の圧電素子および積層圧電素子を用いることで、鉛を含む圧電素子を用いた場合と同等以上の駆動力、および耐久性を有する超音波モータを提供できる。
本発明の超音波モータを用いることで、鉛を含む圧電素子を用いた場合と同等以上の耐久性および動作精度を有する光学機器を提供できる。
本発明の圧電素子および積層圧電素子を用いることで、鉛を含む圧電素子を用いた場合と同等以上の振動能力、および耐久性を有する振動装置を提供できる。
本発明の振動装置を用いることで、鉛を含む圧電素子を用いた場合と同等以上の塵埃除去効率、および耐久性を有する塵埃除去装置を提供できる。
本発明の塵埃除去装置を用いることで、鉛を含む圧電素子を用いた場合と同等以上の塵埃除去機能を有する撮像装置を提供できる。
本発明の圧電素子または積層圧電素子を備えた圧電音響部品を用いることで、鉛を含む圧電素子を用いた場合と同等以上の発音性を有する電子機器を提供できる。
本発明の圧電材料は、液体吐出ヘッド、モータなどに加え、超音波振動子、圧電アクチュエータ、圧電センサ、強誘電メモリ、発電装置等の圧電装置に用いることができる。
本発明の圧電装置は、図16に示すように、本発明の圧電素子または積層圧電素子を備えており、前記圧電素子または積層圧電装置への電圧印加手段および電力取出手段の少なくとも一方を有している。「電力取出」とは、電気エネルギーを採取する行為、および、電気信号を受信する行為のいずれであっても良い。
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
以下のように本発明の圧電材料および圧電素子を作製した。
(本発明の圧電材料)
(実施例1)
(Ba1−x−yCaxM1y)α(Ti1−z−y’ZrzM2y’)O3の一般式において、x=0.140、y=0.012、y’=0.012、z=0.070、α=0.996の組成である(Ba0.848Ca0.140Li0.002Na0.005K0.005)0.996(Ti0.918Zr0.070Nb0.010Ta0.002)O3に相当する原料を以下に示す手順で秤量した。ただし、M1はLi、NaおよびKからなり、それぞれの含有量のモル数の比をLi:Na:K=2:5:5とした。M2はNb、Taからなり、それぞれの含有量のモル数の比をNb:Ta=5:1とした。
Ba原料には炭酸バリウム(BaCO3)粉末(純度99.9%以上)、Ca原料には炭酸カルシウム(CaCO3)粉末(純度99.9%以上)、Li原料には炭酸リチウム(Li2CO3)粉末(純度99.9%以上)、Na原料には炭酸ナトリウム(Na2CO3)粉末(純度99.9%以上)、K原料には炭酸カリウム(K2CO3)粉末(純度99.9%以上)、Ti原料には酸化チタン(TiO2)粉末(純度99.9%以上)、Nb原料には酸化ニオブ(V)(Nb2O5)粉末(純度99.9%以上)、Ta原料には酸化タンタル(V)(Ta2O5)粉末(純度99.9%以上)、Zr原料には酸化ジルコン(ZrO2)粉末(純度99.9%以上)を準備し、Ba、Ca、Li、Na、K、Ti、Zr、Nb、Taが組成(Ba0.848Ca0.140Li0.002Na0.005K0.005)0.996(Ti0.918Zr0.070Nb0.010Ta0.002)O3の比率になるように秤量した。
前記主成分の金属酸化物100重量部に対して、第1副成分のMnの含有量が金属換算で0.160重量部となるように、四酸化三マンガン(Mn3O4)粉末(純度99.5%以上)を秤量した。同様にして、前記主成分の金属酸化物100重量部に対して、第2副成分のBiの含有量が金属換算で0.181重量部となるように、酸化ビスマス(Bi2O3)粉末(純度99.9%以上)を秤量した。
また、Mg重量が金属換算で0.0005重量部になるよう酸化マグネシウムを秤量した。
これらの粉末を、ボールミルを用いて24時間の乾式混合によって混合した。
ただし、Ba、Ca、Li、Na、Kのモル数の和に対するTi、Zr、Nb、Taのモル数の和との比α(α=(Ba+Ca+Li+Na+K)/(Ti+Zr+Nb+Ta))を0.996に調整するために上記炭酸バリウムや酸化チタンを用いた。
(焼成)
得られた混合粉を白金るつぼの中に入れ、電気炉中で室温から1000℃まで5時間で昇温し、その後1000℃で10時間保持し、仮焼粉を得た。
次に、得られた仮焼粉を造粒するために、仮焼粉に対して3重量部となるPVAバインダーを、スプレードライヤー装置を用いて、仮焼粉の表面に付着させ、造粒粉を得た。次に、得られた造粒粉を金型に充填し、プレス成型機を用いて200MPaの成形圧をかけて円盤状の成形体を得た。金型の表面には非マグネシウム系の離型剤を塗布しておいた。
得られた成形体を雰囲気可変型の電気炉に入れ、まず大気雰囲気で600℃の加熱を行い、次に同じ電気炉中で1290℃の最高温度で5時間保持した。降温は炉冷により行った。以上の工程により、円盤状の焼結体(多結晶のセラミックス)よりなる本発明の圧電材料を得た。
(圧電材料の結晶粒評価)
次に、圧電材料を構成する結晶粒の平均円相当径と相対密度を評価した。結果、平均円相当径は8.0μm、相対密度は98%であった。なお、結晶粒の観察には、主に偏光顕微鏡を用いた。小さな結晶粒の粒径を特定する際には、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた。この観察像を画像処理して平均円相当径を算出した。また、相対密度はアルキメデス法を用いて評価した。
(圧電材料の結晶構造評価)
次に、得られたセラミックスを厚さ0.5mmになるように研磨し、室温においてX線回折により結晶構造を解析した。その結果、ペロブスカイト構造に相当するピークのみが観察され、正方晶構造である事を確認した。
(圧電材料の組成分析)
また、ICP発光分光分析法(ICP−AES)により圧電材料の組成を評価した。その結果、本実施例の圧電材料は(Ba0.848Ca0.140Li0.002Na0.005K0.005)0.996(Ti0.918Zr0.070Nb0.010Ta0.002)O3の化学式で表わすことができる金属酸化物を主成分としており、前記主成分100重量部に対してMn、Bi、Mgがそれぞれ0.160、0.181、0.0005重量部含有されていることが分かった。Mn、Bi、Mgについては、秤量した組成と焼結後の組成が表記した有効桁数において一致していた。
(本発明の圧電素子)
前記円盤状の圧電材料の表裏両面にDCスパッタリング法により厚さ400nmの金電極を形成した。なお、電極と圧電材料の間には、密着層として厚さ30nmのチタンを成膜した。この電極付きの圧電材料を切断加工し、10mm×2.5mm×0.5mmの短冊状の素子を作製した。
(分極処理)
この素子を、表面温度が110℃から140℃のホットプレート上に設置し、両電極間に0.6kV/mmの電界を30分間印加して、分極処理した。こうして、電極に狭持された部分の圧電材料が電極面と垂直に残留分極を有する本発明の圧電素子を得た。
(実施例2〜29)
実施例1と同様の工程で、実施例2〜実施例29の圧電素子を作製した。ただし、圧電材料の原料となる各成分の秤量比率を表1に示す比率にした。
実施例2〜29の圧電素子における圧電材料についても実施例1と同様に平均円相当径、相対密度を評価した。その結果を表2に示す。また、実施例1と同様に組成分析を行った結果、いずれの金属元素も、秤量した組成と焼結後の組成が表記した有効桁数において一致していた。
また、雰囲気温度を−5℃から40℃の範囲(動作温度範囲)を5℃間隔で変化させて測定したところ、実施例2〜実施例29の圧電材料は、いずれの温度でも正方晶系のペロブスカイト型構造に相当するピークのみが観察された。
(比較例1〜15)
実施例1と同様の工程で、圧電材料の原料となる各成分の秤量比率を表1に示す比率として、比較例1から15の圧電材料および該セラミックスを用いた比較用の素子を作製した。ただし、圧電材料の原料となる各成分の秤量比率を表1に示す比率にした。
各々の比較用の圧電材料について、実施例1と同様に組成分析を行った結果、いずれのサンプルにおいても表1に示した秤量組成と焼結後の組成は表記した有効桁数において一致していることが分かった。
各々の比較用の圧電材料について、実施例1と同様に平均円相当径、相対密度を評価した。その結果を表2に示す。
(圧電定数の測定)
実施例1〜29で得られた圧電素子および比較例1から15で得られた素子の室温(25℃)における誘電正接tanδ、圧電定数d31、室温における機械的品質係数Qm、相転移温度、キュリー温度を評価した。これらの結果を表3に示す。機械的品質係数Qmは共振−***振法によって圧電定数と同時に求めた値を記載した。
実施例1〜29の圧電素子の圧電定数d31は、いずれも70pm/V以上と大きく圧電デバイスに対する実用に適していた。
適度なZr量によってTcを制御した効果と、適度なM1量、M2量、y/y’による圧電定数の制御の相乗効果と考えられる。
実施例1〜23および実施例25〜27の圧電素子の機械的品質係数Qmは、いずれも1100以上と共振型の圧電デバイスに対する実用に適していた。また、実施例24と28、29の圧電素子の機械的品質係数Qmはいずれも900以上であり、圧電デバイスとして十分な値であった。Bi量とMn量、Mg量がいずれも適量であったためと考えられる。
圧電定数d31は各温度(−5℃から40℃)で共振−***振法によって求め、表中には室温(25℃)のときの測定値を絶対値で記載した。また、圧電定数の温度依存性を評価するために、−5℃から40℃の範囲で圧電定数の最大値と最小値の差の絶対値(Δd31)を求め、室温(25℃)における圧電定数d31に対する割合を記載した。図15は、実施例1の圧電素子を測定した結果であり、100×(Δd31)/(室温25℃のd31)は、20%であった。また、その他の実施例2から29においても、30%以下であった。これは、適度なCa量とBi量による相転移温度の制御の効果と、適度なM1量、M2量、y/y’によって相転移温度の制御の相乗効果と考えられる。
(機械的強度の測定)
機械的強度の評価はJIS規格(JISR1601、ファインセラミックスの室温曲げ強さ試験方法)に準じて実施した。実施例1から29および比較例1から15で得られた圧電材料を切断加工して、36mm×3mm×4mmの試験片を作製した。試験片に対して四点曲げ試験を行って破壊荷重を測定し、破壊荷重から曲げ強度を算出した。結果は表3に記載の通りである。
実施例1〜29の圧電材料の機械的強度は、いずれも90MPa以上であり、圧電素子を作製する過程において、加工による割れなどは発生しなかった。AサイトとBサイトのモル比αを適度に制御し、十分な焼成によって、適度な大きさの結晶粒を有する高密度な圧電材料が得られたためと考えられる。
(比較例の結果)
比較例1で作製した圧電材料はCa量xが0.020と小さく、相転移温度Tto=0℃、Tot=4℃と室温にシフトしたため圧電定数d31の温度依存性が40%と大きかった。
比較例2で作製した圧電材料はCa量xが0.450と大きく、X線回折を測定したところCaTiO3相が検出された。圧電定数d31は、50pm/Vと低くかった。また、比較例3で作製した圧電材料はZr量zが0.005と小さく、圧電定数d31は、48pm/Vと低くかった。どちらの比較例の圧電定数d31も、実施例1から29と比べて低い値となった。また、比較例4で作製したセラミックスは、Zr量zが0.150と大きく、圧電定数d31は69pm/Vと小さく、Tcは78℃と80℃を下回った。
比較例5で作製した圧電材料は、Mnを添加しておらず、機械的品質係数Qmが450となり、実施例1から29に比べて小さかった。
また、比較例6で作製した圧電材料は、Mn量が0.370重量部と多く、誘電正接が0.010となり、実施例1から29に比べて大きかった。
比較例7で作製した圧電材料はBi量が0.020と小さく、比較例8で作製したセラミックスはBi量が0.980と大きく、機械的品質係数Qmはそれぞれ390、500なり、実施例1から29に比べて大きく低下した。また、比較例9で作製したセラミックスは、M1量、M2量が共に0.002と小さく、相転移温度Tto=4℃、Tot=8℃と室温にシフトしたため圧電定数d31の温度依存性が50%となり、実施例1から29と比べて大きかった。
また、比較例10で作製した圧電材料は、M1量、M2量が共に0.045と大きく、圧電定数d31は63pm/Vと低かった。
また、比較例11で作製したセラミックスは、M1量、M2量が共に0であり、圧電定数d31は50pm/Vと低く、圧電定数d31の温度依存性が55%であった。
また、比較例12で作製した圧電材料は、AサイトとBサイトのモル比αが0.9850と小さく、異常粒成長をしていた。機械的強度は、76MPaとなり、実施例1から29に比べて小さかった。
また、比較例13で作製した圧電材料はAサイトとBサイトのモル比αが1.030と大きかったため、結晶粒の平均円相当径は0.4μmと小さく、相対密度は87%と低く、焼結が不十分であった。焼成温度を上げて1400℃で焼結も行ったが、比較例13と同様の結果であった。
また、比較例14で作製した圧電材料はM1量とM2量の比y/y’が0.67と小さく、圧電定数d31は50pm/V、機械的品質係数Qmは630と低かった。比較例15で作製した圧電材料はM1量とM2量の比y/y’が1.67と大きく、圧電定数d31は48pm/V、機械的品質係数Qmは660と低かった。
(電極材料の影響)
電極を銀ペーストの焼き付けに変更した他は実施例1から29と同じ工程で本発明の圧電素子を作成しても、金電極を有する本発明の圧電素子の場合と同等の特性であった。
次に、本発明の積層圧電素子を作製した。
(実施例30)
炭酸バリウム(BaCO3)粉末(純度99.9%以上)、炭酸カルシウム(CaCO3)粉末(純度99.9%以上)、酸化ビスマス(Bi2O3)粉末(純度99.9%以上)、炭酸リチウム(Li2CO3)粉末(純度99.9%以上)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)粉末(純度99.9%以上)、炭酸カリウム(K2CO3)粉末(純度99.9%以上)、酸化チタン(TiO2)粉末(純度99.9%以上)、酸化ジルコン(ZrO2)粉末(純度99.9%以上)、四酸化三マンガン(Mn3O4)粉末(純度99.5%以上)を、表1の実施例1記載の組成になるよう秤量した。
秤量した原料粉末を混合し、ボールミルで一晩混合して混合粉を得た。
ただし、本実施例においては、SiとBを含むガラス助剤(SiO2を30〜50重量%、B2O3を21.1重量%含む)を上記混合粉に対して0.1重量部添加した。
得られた混合粉にPVBを加えて混合した後、ドクターブレード法によりシート形成して厚み50μmのグリーンシートを得た。
上記グリーンシートに内部電極用の導電ペーストを印刷した。導電ペーストには、Ag60%−Pd40%合金ペーストを用いた。導電ペーストを塗布したグリーンシートを9枚積層して、その積層体を1200℃の条件で5時間焼成して焼結体を得た。前記焼結体を10mm×2.5mmの大きさに切断した後にその側面を研磨し、内部電極を交互に短絡させる一対の外部電極(第一の電極と第二の電極)をAuスパッタにより形成し、図2(b)のような積層圧電素子を作製した。
得られた積層圧電素子の内部電極を観察したところ、電極材であるAg−Pdが圧電材料と交互に形成されていた。
圧電性の評価に先立って試料に分極処理を施した。具体的には、試料をオイルバス中で100℃に加熱し、第一の電極と第二の電極間に0.6kV/mmの電圧を30分間印加し、電圧を印加したままで室温まで冷却した。
得られた積層圧電素子の圧電性を評価したところ、十分な絶縁性を有し、実施例1の圧電材料と同等の良好な圧電特性を得ることができた。
(実施例31)
実施例30と同様の手法で混合粉を作成した。得られた混合粉をロータリーキルンで回転させながら1000℃、大気中で3時間仮焼を行い、仮焼粉を得た。ボールミルを用いて、得られた仮焼粉を解砕した。得られた解砕粉にPVBを加えて混合した後、ドクターブレード法によりシート形成して厚み50μmのグリーンシートを得た。上記グリーンシートに内部電極用の導電ペーストを印刷した。導電ペーストには、Niペーストを用いた。導電ペーストを塗布したグリーンシートを9枚積層して、その積層体を熱圧着した。
熱圧着した積層体を管状炉中で焼成した。焼成は300℃まで大気中で行い、脱バインダーを行った後、雰囲気を還元性雰囲気(H2:N2=2:98、酸素濃度2×10−6Pa)に切り替え、1200℃で5時間保持した。降温過程においては、1000℃以下から酸素濃度を30Paに切り替えて室温まで冷却した。
このようにして得られた焼結体を10mm×2.5mmの大きさに切断した後にその側面を研磨し、内部電極を交互に短絡させる一対の外部電極(第一の電極と第二の電極)をAuスパッタにより形成し、図2(b)のような積層圧電素子を作製した。
得られた積層圧電素子の内部電極を観察したところ、電極材であるNiが圧電材料層と交互に形成されていた。得られた積層圧電素子を、100℃に保持したオイルバス中で0.6kV/mmの電界を30分間印加し、分極処理した。得られた積層圧電素子の圧電特性を評価したところ、十分な絶縁性を有し、実施例1の圧電素子と同等の良好な圧電特性を得ることができた。
(実施例32)
実施例1の圧電素子を用いて、図3に示される液体吐出ヘッドを作製した。入力した電気信号に追随したインクの吐出が確認された。
(実施例33)
実施例32の液体吐出ヘッドを用いて、図4に示される液体吐出装置を作製した。入力した電気信号に追随したインクの吐出が記録媒体上に確認された。
(実施例34)
実施例1の圧電素子を用いて、図6(a)に示される超音波モータを作製した。交番電圧の印加に応じたモータの回転が確認された。
(実施例35)
実施例34の超音波モータを用いて、図7に示される光学機器を作製した。交番電圧の印加に応じたオートフォーカス動作が確認された。
(実施例36)
実施例1の圧電素子を用いて、図9に示される塵埃除去装置を作製した。プラスチック製ビーズを散布し、交番電圧を印加したところ、良好な塵埃除去率が確認された。
(実施例37)
実施例36の塵埃除去装置を用いて、図12に示される撮像装置を作製した。動作させたところ、撮像ユニットの表面の塵を良好に除去し、塵欠陥の無い画像が得られた。
(実施例38)
実施例31の積層圧電素子を用いて、図6(b)に示される超音波モータを作製した。交番電圧の印加に応じたモータの回転が確認された。
(実施例39)
実施例38の超音波モータを用いて、図7に示される光学機器を作製した。交番電圧の印加に応じたオートフォーカス動作が確認された。
(実施例40)
実施例31の積層圧電素子を用いて、図9に示される塵埃除去装置を作製した。プラスチック製ビーズを散布し、交番電圧を印加したところ、良好な塵埃除去率が確認された。
(実施例41)
実施例40の塵埃除去装置を用いて、図12に示される撮像装置を作製した。動作させたところ、撮像ユニットの表面の塵を良好に除去し、塵欠陥の無い画像が得られた。
(実施例42)
実施例31の積層圧電素子を用いて、図14に示される電子機器を作製した。交番電圧の印加に応じたスピーカ動作が確認された。