JP6627536B2 - 溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材、及び、溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材の製造方法 - Google Patents
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従来、大入熱溶接の溶接熱影響部において、オーステナイト粒の粗大化を防止するために、微細な酸化物、炭化物、窒化物などによって粒界をピン止め(ピンニングともいう。)するとともに、IGF(粒内フェライト)変態核となる酸化物を分散させる技術が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
ここで、特許文献1〜3に記載された鋼材においては、IGF変態核となる酸化物が十分に形成されておらず、溶接影響部における結晶粒径を十分に微細化できないおそれがあった。また、Caを含有している場合には、IGF変態核となる酸化物においてフェライトの析出が促進されないおそれがあった。
C:0.03%以上0.2%以下、
Si:0.4%以下、
Mn:0.5%以上2.0%以下、
P:0.015%以下、
S:0.006%以下、
Al:0.001%以上0.01%以下、
Ti:0.007%以上0.02%以下、
Mg:0.001%超え0.006%以下、
O:0.001%以上0.004%以下、
N:0.0025%以上0.006%以下、
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、MgとAlからなる酸化物を内包する粒径0.01μm以上0.5μm未満のTiN粒子が、10000個/mm2以上の個数密度で存在するとともに、Mgを質量%で50%以上含む粒径0.5μm以上5μm以下のMg含有酸化物粒子が、50個/mm2以上の個数密度で存在することを特徴としている。
そして、IGF変態核となる粒径0.5μm以上5μm以下のMg含有酸化物粒子がMgを質量%で50%以上含んでいるので、このMg含有酸化物粒子を核としたフェライトの析出が促進される。また、このMg含有酸化物粒子が50個/mm2以上の個数密度で存在しているので、粒内フェライトの析出が促進され、溶接熱影響部における結晶粒径をさらに微細化することができる。
よって、溶接熱影響部における靭性を大幅に向上させることが可能となる。
〔O〕−0.66×〔Mg〕−0.89×〔Al〕≧0の場合、
有効Ti量=〔Ti〕−2×(〔O〕−0.66×〔Mg〕−0.89×〔Al〕)−3.4×〔N〕・・・(1)
〔O〕−0.66×〔Mg〕−0.89×〔Al〕<0の場合、
有効Ti量=〔Ti〕−3.4×〔N〕・・・(2)
Cu:1.5%以下、
Ni:1.5%以下、
Mo:1%以下、
Cr:1%以下、
Nb:0.05%以下、
V:0.05%以下、
B:0.002%以下、
の1種または2種以上を含有していてもよい。
なお、酸素源添加工程後におけるMg量が0.001%を超えて0.006%以下となるように、Mg添加工程におけるMg添加量及び酸素源添加工程における酸素源添加量をそれぞれ調整することになる。
この場合、スラグ中にSiO2を添加して、スラグ中のSiO2の存在比を上昇させることにより、スラグと溶鋼との反応によってMg酸化物が緩やかに形成されることになり、粒径0.5μm以上5μm以下の比較的微細なMg含有酸化物粒子を確実に形成することができる。
本実施形態における溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材は、質量%で、
C:0.03%以上0.2%以下、
Si:0.4%以下、
Mn:0.5%以上2.0%以下、
P:0.015%以下、
S:0.006%以下、
Al:0.001%以上0.01%以下、
Ti:0.007%以上0.02%以下、
Mg:0.001%超え0.006%以下、
O:0.001%以上0.004%以下、
N:0.0025%以上0.006%以下、
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学成分を有する。
〔O〕−0.66×〔Mg〕−0.89×〔Al〕≧0の場合、
有効Ti量=〔Ti〕−2×(〔O〕−0.66×〔Mg〕−0.89×〔Al〕)−3.4×〔N〕・・・(1)
〔O〕−0.66×〔Mg〕−0.89×〔Al〕<0の場合、
有効Ti量=〔Ti〕−3.4×〔N〕・・・(2)
Cu:1.5%以下、
Ni:1.5%以下、
Mo:1%以下、
Cr:1%以下、
Nb:0.05%以下、
V:0.05%以下、
B:0.002%以下、
の1種または2種以上を含有していてもよい。
Cは、母材及び溶接部の強度、靭性を向上させる作用効果を有する元素である。ここで、Cの含有量が0.03%未満では、上述の作用効果を奏功せしめることができない。一方、Cの含有量が0.2%を超えると、溶接熱影響部の靭性が劣化するとともに、溶接性が劣化してしまうおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Cの含有量を0.03%以上0.2%以下の範囲内に限定している。
Siは、溶鋼の脱酸のために添加されるが、その含有量が0.4%を超えると、溶接熱影響部の靭性が劣化するとともに、溶接性も劣化してしまうおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Siの含有量を0.4%以下の範囲内に限定している。
Mnは、母材及び溶接部の強度及び靭性を向上させる作用効果を有する元素である。ここで、Mnの含有量が0.5%未満では、上述の作用効果を奏功せしめることができない。一方、Mnの含有量が2.0%を超えると、溶接熱影響部の靭性が劣化するとともに、溶接性が劣化してしまう。
以上のことから、本実施形態では、Mnの含有量を0.5%以上2.0%以下の範囲内に限定している。
Pは、母材の靭性に影響を与える元素であるが、不可避的に含有されることから、本実施形態では、その上限値を0.015%に規定している。
Sは、母材の靭性に影響を与える元素であるが、不可避的に含有されることから、本実施形態では、その上限値を0.006%に規定している。
Alは、溶鋼の脱酸を促進するために投入される元素である。さらに、粒界をピンニングするTiN粒子の析出核となる酸化物に含有される元素である。ここで、Alの含有量が0.001%未満では、十分に脱酸をすることができないとともに、TiN粒子の析出核となる酸化物を十分に生成することができないおそれがある。一方、Alの含有量が0.01%を超えると、溶接熱影響部の靭性が劣化するおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Alの含有量を0.001%以上0.01%以下の範囲内に限定している。
Tiは、ピンニング粒子を形成し、オーステナイト相の粗大化を抑制する作用効果を有する元素である。ここで、Tiの含有量が0.007%未満では、上述の作用効果を奏することができないおそれがある。一方、Tiの含有量が0.02%を超えると、炭化物等が過剰に生成し、溶接熱影響部の靭性が劣化するおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Tiの含有量を0.007%以上0.02%以下の範囲内に限定している。
Mgは、上述のピンニング粒子の析出核となる酸化物、及び、IGF変態核となるMg含有酸化物粒子を形成する元素である。ここで、Mgの含有量が0.001%以下では、上述の作用効果を奏することができないおそれがある。一方、Mgの含有量が0.006%を超えると、酸化物が多量に発生し、介在物起因による製品欠陥が多発するおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Mgの含有量を0.001%超え0.006%以下の範囲内に限定している。
Oは、上述のピンニング粒子の析出核となる酸化物、及び、IGF変態核となるMg含有酸化物粒子を形成する元素である。ここで、Oの含有量が0.001%未満では、上述の作用効果を奏することができないおそれがある。一方、Oの含有量が0.004%を超えると、溶鋼の清浄度が低下して機械的特性が低下するとともに、介在物起因による製品欠陥が多発するおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Oの含有量を0.001%以上0.004%以下の範囲内に限定している。
Nは、Tiとともにピンニング粒子を形成し、オーステナイト相の粗大化を抑制する作用効果を有する元素である。ここで、Nの含有量が0.0025%未満では、上述の作用効果を奏することができないおそれがある。一方、Nの含有量が0.006%を超えると、炭化物等が過剰に生成し、溶接熱影響部の靭性が劣化するおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Nの含有量を0.0025%以上0.006%以下の範囲内に限定している。
Cu及びNiは、母材の強度及び靭性を向上させる作用効果を有する元素であることから、適宜添加してもよい。ただし、Cuの含有量及びNiの含有量がそれぞれ1.5%を超えると、溶接性及び溶接熱影響部の靭性が劣化するおそれがある。このため、Cu及びNiを添加する場合には、それぞれの含有量を1.5%以下に制限することが好ましい。
Mo及びCrは、母材の強度及び靭性を向上させる作用効果を有する元素であることから、適宜添加してもよい。ただし、Moの含有量及びCrの含有量がそれぞれ1.0%を超えると、母材の靭性、溶接性及び溶接熱影響部の靭性が劣化するおそれがある。このため、Mo及びCrを添加する場合には、それぞれの含有量を1.0%以下に制限することが好ましい。
Nbは、母材の結晶粒を微細化させる作用効果を有する元素であることから、適宜添加してもよい。ただし、Nbの含有量が0.05%を超えると、溶接熱影響部の靭性が劣化するおそれがある。このため、Nbを添加する場合には、Nbの含有量を0.05%以下に制限することが好ましい。
Vは、母材の強度を向上させる作用効果を有する元素であることから、適宜添加してもよい。ただし、Vの含有量が0.05%を超えると、溶接性及び溶接熱影響部の靭性が劣化するおそれがある。このため、Vを添加する場合には、Vの含有量を0.05%以下に制限することが好ましい。
Bは、焼き入れ性を高めて母材や溶接熱影響部の機械的性質を向上させる作用効果を有する元素であることから、適宜添加してもよい。ただし、Bの含有量が0.002%を超えると、溶接性及び溶接熱影響部の靭性が劣化するおそれがある。このため、Bを添加する場合には、Bの含有量を0.002%以下に制限することが好ましい。
Tiは、まず酸素と結合してTi酸化物を形成し、その後ピンニング粒子となるTiN(Ti窒化物)を形成する。そして、Ti酸化物及びTi窒化物を形成した後に過剰にTiが存在すると、TiCを形成して析出脆化するおそれがある。また、Ti量が少なく未反応のNが存在する場合には、固溶Nとなって脆化をもたらす。そこで、本実施形態では、酸化物及び窒化物を形成した後のTi量を上述の(1)式及び(2)式によって「有効Ti量」を定義しているのである。なお、(1)式及び(2)式の各元素の係数は、想定される酸化物及び窒化物から化学量論的に決定された値である。
ここで、有効Ti量が−0.01%未満の場合には固溶N量が過剰となり、有効Ti量が+0.005%を超える場合にはTiC析出量が過剰となり、いずれも溶接熱影響部の靭性が劣化するおそれがある。このため、本実施形態では、有効Ti量を−0.01%以上+0.005%以下の範囲内に規定している。
TiN粒子は、粒界をピン止めしてオーステナイト相の粗大化を抑制するピンニング粒子である。
ここで、MgとAlからなる酸化物は、TiN粒子の析出核となる。そして、MgとAlからなる酸化物に析出して形成されTiN粒子は、1400℃以上の高温域で非常に強力なピンニング力を発揮する。また、MgとAlからなる酸化物は、非常に微細であることから、このMgとAlからなる酸化物を析出核として形成されたTiN粒子は、粒径0.01μm以上0.5μm未満と微細となり、ピンニング効果を十分に発揮させることが可能となる。
以上のことから、本実施形態においては、MgとAlからなる酸化物を内包する粒径0.01μm以上0.5μm未満のTiN粒子が、10000個/mm2以上の個数密度で存在する構成としている。
Mg含有酸化物粒子は、IGF変態核(粒内フェライトの析出核)として作用する粒子である。
ここで、Mgを質量%で50%以上含む場合には、フェライトの析出が促進されることになる。また、粒径0.5μm以上5μm以下のMg含有酸化物粒子は、粒内変態を促進させるのに効果的である。
以上のことから、本実施形態においては、Mgを質量%で50%以上含む粒径0.5μm以上5μm以下のMg含有酸化物粒子が、50個/mm2以上の個数密度で存在する構成としている。
まず、転炉吹錬を行い、所定の組成の溶鋼を溶製する(溶製工程S01)。
次に、転炉から取鍋に溶鋼を移送し、真空脱ガスを行う(真空脱ガス工程S02)。
このMg添加工程S03においては、Mgを、例えば、Si−Mg合金、Fe−Si−Mg合金等のMg含有合金として添加することが好ましい。
この酸素源添加工程S04においては、スラグ中にSiO2を添加することによって、Mgを酸化させている。なお、この酸素源添加工程S04前後のスラグの具体的な組成は、例えば、SiO2添加前のスラグ組成は、質量%で10〜20%、SiO2添加後のスラグ組成が、20〜25%となる。
ここで、本実施形態では、酸素源添加工程S04において、質量%で0.001%以上
0.003%以下のMgを酸化させる酸素源を溶鋼中に添加する。
以上のような工程により、本実施形態である溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材が製造される。
また、本実施形態では、Mgを質量%で50%以上含む粒径0.5μm以上5μm以下のMg含有酸化物粒子が、50個/mm2以上の個数密度で存在する構成とされているので、このMg含有酸化物粒子を核として粒内フェライトの析出を促進することができ、溶接熱影響部における結晶粒径をさらに微細化することができる。
よって、本実施形態である溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材においては、溶接熱影響部における靭性を大幅に向上させることが可能となる。
表1に鋼材の化学成分と介在物の分散状態を、表2に鋼材の製造条件と機械的性質を示す。
表1のピンニング粒子の個数の測定は、鋼材母材の板厚中心部から抽出レプリカ試料を作製し、これを、30000倍の倍率で2000μm2の面積に渡ってTEM 観察することで行った。
表1の0 .5〜5μmの大きさの酸化物の個数の測定は、同じく、鋼材母材の板厚中心部から小片を切り出して1400℃で20分間保定した後に水冷し、鏡面研磨面を1000倍の倍率で4mm2の面積に渡って光学顕微鏡観察することで行った。
表1の0 .5〜5μmの大きさの酸化物のMg量は、EPMA−WDSによって、0.5〜5μmの20個の酸化物について組成を分析し、地鉄(Fe)の分析値を差し引いて平均組成を求めた。
表1の本発明鋼1の組成の鋼を溶製するに際して、Mgを添加しMg濃度を質量%で0.006%とした後、取鍋スラグにSiO2源を添加して、スラグ中のSiO2濃度を質量%で17%から22%に増加させた。その後、連続鋳造した鋳片を圧延し、板厚70mmの鋼板を製造した。
比較として、表1の本発明鋼1の組成の鋼を溶製するに際して、Mgを添加しMg濃度を質量%で0.005%とした後、取鍋スラグにSiO2源を添加せず、スラグ中のSiO2濃度を質量%で17%としたまま、連続鋳造した鋳片を圧延し、板厚70mmの鋼板を製造した。このときの0 .5〜5μmの大きさの酸化物の個数と平均組成を測定した。
S04 酸素源添加工程
Claims (5)
- 質量%で、
C:0.03%以上0.2%以下、
Si:0.4%以下、
Mn:0.5%以上2.0%以下、
P:0.015%以下、
S:0.006%以下、
Al:0.001%以上0.01%以下、
Ti:0.007%以上0.02%以下、
Mg:0.001%超え0.006%以下、
O:0.001%以上0.004%以下、
N:0.0025%以上0.006%以下、
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、
MgとAlからなる酸化物を内包する粒径0.01μm以上0.5μm未満のTiN粒子が、10000個/mm2以上の個数密度で存在するとともに、
Mgを質量%で50%以上含む粒径0.5μm以上5μm以下のMg含有酸化物粒子が、50個/mm2以上の個数密度で存在することを特徴とする溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。 - さらに、〔O〕、〔Mg〕、〔Al〕、〔Ti〕、〔N〕をそれぞれの元素の質量%とした場合に、下記の(1)式あるいは(2)式で計算される有効Ti量が、−0.01%以上+0.005%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
〔O〕−0.66×〔Mg〕−0.89×〔Al〕≧0の場合、
有効Ti量=〔Ti〕−2×(〔O〕−0.66×〔Mg〕−0.89×〔Al〕)−3.4×〔N〕・・・(1)
〔O〕−0.66×〔Mg〕−0.89×〔Al〕<0の場合、
有効Ti量=〔Ti〕−3.4×〔N〕・・・(2) - 質量%で、さらに、
Cu:1.5%以下、
Ni:1.5%以下、
Mo:1%以下、
Cr:1%以下、
Nb:0.05%以下、
V:0.05%以下、
B:0.002%以下、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。 - 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材を製造する溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材の製造方法であって、
溶鋼中にMgを添加し、Mg濃度を質量%で0.002%超えて0.007%以下の範囲内とするMg添加工程と、
質量%で0.001%以上のMgを酸化させる酸素源を溶鋼中に添加する酸素源添加工程と、
を備えていることを特徴とする溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材の製造方法。 - 前記酸素源添加工程では、スラグ中にSiO2を添加することで、質量%で0.001%以上のMgを酸化させることを特徴とする請求項4に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材の製造方法。
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