本発明の粒子線治療装置の実施形態を、図1乃至図11を用いて説明する。本実施形態では、粒子線治療装置として炭素イオン等の重粒子を照射する粒子線治療装置を例にして説明する。
まず、図1に示す治療システムについて説明する。図1は本発明の好適な一実施形態である粒子線治療装置の構成を示す図である。
図1において、粒子線治療装置1は、重粒子線(以下、ビームとも記載)を加速するシンクロトロン20と、シンクロトロン20で加速されたビームを輸送するビーム輸送系15と、ビーム輸送系15により輸送されたビームを標的に照射する照射ノズル部105(図3参照)が設けられている照射装置250(図3参照)を有する照射系10a,10bと、照射制御装置150を有する制御装置100と、照射系10a,10bの照射装置250が配置される治療室200と、を備えている。
次に、制御系について図2を参照して説明する。図2は、図1の粒子線治療装置における制御装置の構成図である。
図2において、制御装置100は、シンクロトロン20、ビーム輸送系15および照射系10a,10b内の各機器の動作を制御する照射制御装置150と、治療室200の照明400(図4等参照)の照明色と照度とを制御する照明制御装置120とを有している。照明制御装置120は、照射制御装置150や照明400等との情報の授受を行う通信部122と、照明400の照度を制御する照度制御部124と、照明400の照明色を制御する照明色制御部126と、照明400のON/OFFや照明400の点灯のモードの切り替えを入力するための入力装置128と、を有している。照明制御装置120の制御の詳細については後述する。
図1に戻り、シンクロトロン20では、ビームが加速された後にビーム輸送系に対して出射される。出射されたビームは切替電磁石30aに導かれる。切替電磁石30aは、励磁されているときにビームを偏向して照射系10aに導き、励磁されていないときにはビームを偏向せずに直進させる。この切替電磁石30aは、電源40aから電力が供給されることによって励磁されるが、電源40aからの電力の供給は図示しない制御盤のスイッチを技師が操作することで制御される。つまり、照射系10aにおいて患者106の治療を行うときに、技師のスイッチ操作により電源40aから切替電磁石30aに電力を供給させ、照射系10aにおいて患者106の治療を行わないときには、技師のスイッチ操作により電源40aから切替電磁石30aへの電力の供給を停止させる。なお、照射制御装置150において、自動で切替を行ってもよい。照射系10aでは、導かれたビームを患者106の患部に照射するが、詳細については後述する。
照射系10bで治療を行う場合は、切替電磁石30aへの電力の供給を停止させると共に、切替電磁石30bに電力を供給する。切替電磁石30bへの電力の供給は、前述の切替電磁石30aの場合と同様に、技師によるスイッチ操作によって電源40bが制御されて行われる。切替電磁石30aへの電力の供給を停止し、切替電磁石30bに電力を供給することによって、ビームは無励磁状態の切替電磁石30aを直進した後、励磁状態の切替電磁石30bにて偏向されて照射系10bに導かれる。照射系10bにおける治療については、後述する照射系10aでの照射と略同じであるため、詳細は省略する。
なお、照射系10a,10bにて治療を行わない場合は、シンクロトロン20からのビームの出射を停止するか、切替電磁石30a,30bを共に無励磁状態としてビームをビームダンプ50に捨てる。
次に、図3を用いて照射系10aにおけるビームの照射について詳細に説明する。図3は図1の粒子線治療装置が有する照射系の構成を示す図である。なお、照射系10bの構成は照射系10aと略同じであるため、詳細は省略する。
図3に示す本実施形態の照射系10aは、患者106に対して3方向からビームを照射できるように構成されている。つまり、床214に対して垂直に配置された真空ダクト102aと、床214に対して45°傾けて配置された真空ダクト102bと、床214に対して水平に配置された真空ダクト102cとが設けられている。照射系10aでは、ビームを導く真空ダクトを変えることによってビームの照射方向が変えられる。なお、本実施形態では、真空ダクト102a〜102cをそれぞれ照射ポート102a〜102cと呼ぶ。
床214に対して垂直な方向からビームを照射する場合、偏向電磁石103a,103b,103dを励磁すると共に四極電磁石104a〜104fを励磁する。また、このとき偏向電磁石103cは無励磁状態とする。前述のようにシンクロトロン20から出射されたビームは照射系10aの偏向電磁石103aに導かれ、偏向電磁石103a,103b,103dによって偏向されると共に、四極電磁石104a〜104fによってチューンが調節されて照射ポート102aに導かれる。
ビームは照射ポート102aから出力された後、照射ノズルを通って治療台108上の患者106に照射される。ここで、本実施形態の照射系10aにおける照射ノズルは、複数ある照射ポート102a〜102c間を移動可能な照射ノズル部105を備えている。このため、照射ポート102aから出力されたビームが通る位置(図3中のAの位置)に照射ノズル部105を予め移動させておく。なお、照射ポート102aから出力されたビームが通る位置には予めリミットスイッチが設けられており、照射ノズル部105に設けられた駆動装置(図示せず)を制御することによって照射ノズル部105をリミットスイッチの位置まで移動させる。このように、本実施形態では、照射ノズルを移動させるための移動機構として、リミットスイッチおよび駆動装置を用いている。以上のようにして、ビームを照射ポート102aを介して照射することにより、床214に対して垂直な方向から患者106にビームを照射することができる。
照射ノズル部105内には、線量モニタ、ビームの平坦度を計測するビーム位置モニタ、ビームのエネルギーを調節してビームの到達する深さを調節するレンジモジュレータ(飛程調節器)、散乱体、リッジフィルタ患者コリメータ、患者ボーラス、アプリケータ等が設置されている。
次に、床214に対して45°傾いた方向からビームを照射する場合について説明する。まず、照射ノズル部105を照射ポート102bから出力されたビームが通る位置(図3中のBの位置)に移動させる。その後、偏向電磁石103a〜103cおよび四極電磁石104a〜104d,104g,104hを励磁状態とする。偏向電磁石103aに導かれたビームは、偏向電磁石103a〜103cおよび四極電磁石104a〜104d,104g,104hによって照射ポート102bに導かれ、照射ポート102bおよび照射ノズル部105を介して患者106に照射される。このようにして、ビームを照射ポート102bを介して照射することにより、床214に対して45°傾いた方向から患者106にビームを照射することができる。
更に、床214に対して水平な方向からビームを照射する場合について説明する。まず、照射ノズル部105を照射ポート102cから出力されたビームが通る位置(図3中のCの位置)に移動させる。その後、四極電磁石104i,104jを励磁状態とする。このとき偏向電磁石103aは必ず無励磁状態とする。偏向電磁石103aに導かれたビームは、偏向電磁石103aで偏向されずに直進し、四極電磁石104i,104jによってチューンを調節された後に照射ポート102cに導かれ、照射ポート102cおよび照射ノズル部105を介して患者106に照射される。このようにして、ビームを照射ポート102cを介して照射することにより、床214に対して水平な方向から患者106にビームを照射することができる。
以上の通り、本実施形態の照射系10aでは、3方向からビームを照射することができる。なお、本実施形態の照射系10aは、照射ポートを3つ設けて3方向からのビーム照射を可能としたのに加えて、治療台108として傾けることができるようなカウチを採用することにより患者106の向きを変え、患部に対するビームの照射方向を調節できるようにすることもできる。
更に、図3に示すように、照射ノズル部105が設置された治療室200と、複数の照射ポート102a〜102cの設置された空間とは、照射装置250のカバー300により隔てられている。このカバー300は、照射装置250と治療室200の側壁210とをなだらかな曲線でつなぐよう、曲面形状をしている。このカバー300により、側壁210から照射装置250が突出して配置されていないように見えるようになっている。カバー300は、照射ノズル部105が移動で通過する箇所の壁面を構成しており、照射ノズル部105を移動させる移動機構を患者の視界から隠している。カバー300の具体的な構造については後述する。
次に、照射系10a,10bの具体的な制御方法について以下説明する。照射系10a,10bを構成する多数の機器は予め定められた治療計画に基づいて制御されるので、まず治療計画の立て方について説明する。
まず、技師が治療計画装置160に治療を行う患者106を特定するための情報を入力する。治療計画装置160では、予めX線CT装置により撮像して得られた患者106の画像データを、入力された患者特定情報に基づいて取得し、画像を表示させる。
技師は、表示された断層画像上に患部領域、照射中心位置、体輪郭、重要臓器、位置判別用マーカー等の情報を入力すると、断層画像と3次元人体画像とが表示される。
技師は、表示された断層画像と3次元人体画像を参照しながら患部に対するビームの照射方向を入力する。なお、本実施形態では、ビームを複数の方向から患部に照射するので、照射する順番を付加して複数の照射方向を入力する。治療計画装置160では、入力された複数の照射方向に基づいて複数の照射方向毎に使用する照射ポート102a〜102cと治療台108の傾きを決定する。
次に、治療計画装置160は、照射方向から見た患部の深さ位置、患部の厚さ、患部外形の2次元形状および患部底部の形状を計算し、必要に応じ、スキャニング照射であればシンクロトロン20から出射するビームのエネルギー、走査電磁石109a〜109cの電流値等、ブロードビーム照射であれば更に、ワブラ電磁石に流す電流の値、散乱体の厚み、レンジモジュレータの形状、患者コリメータの形状、患者ボーラスの形状等の機器データを求める。なお、上記機器データは照射方向毎に求められる。
次に、治療計画装置160は、患者106に照射されるビームの線量分布を照射方向ごとに計算し、患者106の体内における線量分布の計算結果を表示させる。
技師は、表示された線量分布が良好であれば承認をし、例えば重要な臓器における線量が多い等の問題があれば照射方向を変更して良好な線量分布が得られるまで線量分布の計算を行わせる。
技師に承認された線量分布に対応する照射ポート102a〜102c、治療台108の傾きおよび機器データ等の患者データは記憶され、制御装置100の照射制御装置150の要求に応じて患者データを出力する。
また、必要に応じ、散乱体の厚み、レンジモジュレータの形状、患者コリメータの形状および患者ボーラスの形状に基づいて、散乱体、レンジモジュレータ、患者コリメータおよび患者ボーラスを作製する。
次に、先に作成された治療計画に基づいた実際の照射の際の照射系10aの制御方法について以下説明する。
照射制御装置150において、まず技師が治療を行う患者106の患者特定情報を入力すると共に使用する照射装置を選択し、患者特定情報と選択された照射装置を特定する情報が入力される(ここでは照射系10aが選択されたとする)。照射制御装置150では、入力された患者特定情報に基づいて対応する患者データを取り込む。取り込んだ患者データのうち、1番目に照射を行う照射方向が表示される。技師は、必要に応じ、表示された照射方向に応じて作製された散乱体、レンジモジュレータ、患者コリメータおよび患者ボーラスを照射ノズル部105に設置する。
照射制御装置150は、取り込んだ患者データから、1番目に照射を行う照射方向に対応する照射ポート(ここでは照射ポート102aとする)の情報を読み出し、駆動部を制御し、照射ポート102aから出力されたビームが通過する位置に照射ノズル部105を移動させる。また、照射系10aを構成する偏向電磁石のうち照射ポート102aを使用する際に励磁しなければならない偏向電磁石(この場合は偏向電磁石103a,103b,103d)および四極電磁石(この場合は四極電磁石104a〜104f)を選択し、特定された偏向電磁石および四極電磁石に電力を供給させ、偏向電磁石および四極電磁石を励磁する。ここで、励磁する必要がない電磁石に対しては電力値として0を設定するか、電磁石を停止させるように設定する。更に、照射系電磁石に与える電流の値や治療台108の傾きの情報も取り出し、照射系電磁石や治療台108に入力される。照射系電磁石とは、スキャニング照射をする場合は図3等に示すような走査電磁石109aであり、ワブラ照射をする場合はワブラ電磁石である。シンクロトロン20から出射するビームのエネルギーも取り出し、与えられたビームエネルギーを持つビームが出射されるようにシンクロトロン20を制御する。
以上のようにして、照射系10aの照射ポート102aからビームを照射するための準備が行われる。
そして、準備が整った状態で技師から治療開始指令が入力されると、シンクロトロン20よりビームを出射させ、シンクロトロン20から出射されたビームは照射系10aに導かれ、照射ポート102aから患者106に対して照射される。患部に照射されるビームの照射線量は照射ノズル部105に設けられた線量計にて測定され、その測定値が予め定められた設定値に達したら、シンクロトロン20からのビームの出射を停止し、患部へのビーム照射を停止する。
以上のようにして1番目に照射を行う照射方向からのビーム照射が終了したら、次に2番目に照射を行う照射方向からビーム照射を行う。その手順は1番目の照射方向の場合と同様であるので詳細な説明は省略するが、照射方向を変更する際に照射ポート102a,102b,102cが変わる場合は、照射ノズル部105の位置や治療台108の傾き、励磁される照射系電磁石、偏向電磁石および四極電磁石が変更されると共に、必要に応じ、照射ノズル部105に設置される散乱体、レンジモジュレータ、患者コリメータおよび患者ボーラスも交換される。
このように、設定された各照射方向からの照射が全て終了するまでビーム照射を繰り返し、患者106の患部に対して複数の方向からのビーム照射が行われる。
次に、図4乃至図9を用いて照射装置250と治療室200の側壁210とをなだらかな曲線でつなぐカバー300の具体的構造について説明する。図4は図1の粒子線治療装置の治療室の概略を示す図、図5は治療室の上面図、図6は図5のA−A断面図、図7は図5のB−B断面図、図8は照明制御装置の制御に用いるデータテーブルの図、図9は照明制御装置の動作を説明するフローである。
図4および図5に示すように、側壁210、天井212、床214とで構成される治療室200には、照射装置250の一部、治療台108が配置されている。照射装置250として、治療室200内には、照射ノズル部105、位置検出器280、レーザマーカ290が配置されている。
本実施形態では、図4等に示すように、照射装置250のカバー300と治療室200の側壁210とが、なだらかな曲線でつながれた形状となっている。カバー300は、側壁210と基本的に同じ色、材質で構成されており、統一感を持たせている。
図4および図6に示すように、このカバー300のなだらかな曲線の曲率が変化する部分には、側壁210や照射装置250とは色が異なるカバーライン部302が設けられている。このカバーライン部302は、図4および図7に示すように、照射ノズル部105の移動範囲においては、照射ノズル部105の移動方向に略平行に設けられている。また位置検出器280の設けられている範囲では、照射ノズル部105の移動範囲より幅が拡げられて設けられている。
カバーライン部302の色は、側壁210や照射装置250のカバー300の色と同系統の色で構成されており、カバーライン部302が強調されずに統一感は保つようになっている。例えば、側壁210や照射装置250のカバー300を白色とし、カバーライン部302を銀色とすることが考えられる。
また、照射ノズル部105についても、角張った部分を無くして曲線を意識した外観となっており、圧迫感の低減を図っている。
図4等に示すように、照射装置250は、患者106中の標的の位置を検出するための位置検出器280を有している。この位置検出器280の外壁も、先端が狭まるようななだらかな曲線で構成されており、先端に向かって緩やかな曲線形状の外観をしている。位置検出器280は、治療台108に固定された患者106内の標的の位置を確認するための機器であり、例えばX線発生器とFPD(Flat Panel Display)とから構成される。
図6および図7に示すように、位置検出器280とカバーライン部302との間には、段差286が形成されている。この段差286が設けられていることによって、位置検出器280がなだらかな曲線よりさらに小さく見えるようになっており、位置検出器280の存在感をより小さくするようになっている。
また、図4に示すように、カバーライン部302の位置検出器280が設けられている位置での鉛直方向の幅304と位置検出器280の鉛直方向の幅284とは、1:(1+√5)/2の黄金比となっており、位置検出器280の圧迫感をより軽減する構成になっている。
図7に示すように、位置検出器280の曲線部281と曲線部282とは全く同じ曲率の曲線ではないものの、同じような曲率の曲線となっている。照射ノズル部105側の曲線部281は、照射ノズル部105の移動軌跡の描く曲率とは異なる曲率の曲線になっており、位置検出器280の存在による圧迫感を軽減する曲率となっている。
図5に示すように、治療室200の天井212には、照射装置250との境界部分に照明400が治療室200を連続して一周するように設けられており、治療室200と照射装置250との一体感を強調する配置となっている。なお、照明400は、天井212と照射装置250との境界部分の少なくとも照射装置250の外周を覆う位置に設けられていればよいが、図5に示すように治療室200の全周に連続して設けられているか、治療室200の入り口を除いて連続して設けられていることが望ましい。
照明400は、LED等の照度や照明色を自由に調整可能な光源が用いられている。この照明400は、治療台108上の患者106が直接視認できないようになっており、室内を間接的に照明するよう配置されている。
具体的には、図6に示すように、照射装置250は、天井212との接続部分のあたりにR部260が設けられており、曲線の形状を有している。また、治療室200の天井212は、その天板が窪んだ位置に照明400が設けられており、照明400の下部には、照明400を治療台108の患者106から隠すための覆い部410が設けられている。これらR部260および覆い部410により、照明400から放出された光は、図6に示すように、R部260または覆い部410によって治療台108の患者106に直接入射しないようになっており、直接視認することができない間接照明となっている。
なお、治療台108の周囲などに、技師の作業用の照明を別途設けることができる。
図4に戻って、カバー300は、照射装置250と治療室200の側壁210との境界部に照射装置250の駆動部(モータ軌跡270の部分等)にアクセスするためのメンテナンス用扉310,312を有している。メンテナンス用扉310は側壁210側を軸として開閉可能であり、メンテナンス用扉312はメンテナンス用扉310側を軸として開閉可能である。
また、治療台108は、広い可動範囲が必要であるため、アーム部108A,108Bを備えた多関節ロボット(アーム型ロボット)に接続されているが、図4等に示すように、アーム部108Aの床214の反対側は面取りが行われており、なだらかな曲線を意識した外観としている。
なお、本発明においては、治療台108に限られず、治療室200内に配置される機器の外観は、角張った部分のないなだらかな曲線を意識した外観とすることが望ましい。
図4等に示す治療室200では、制御装置100の照明制御装置120により治療室200の照明400の照明色と照度とが制御される。照明制御装置120は、患者106内の標的への照射のフェーズごとに照明400の照明色,照度を、照度制御部124および照明色制御部126により自動で切り替える制御を行う。特に、標的の位置合わせ中およびビームの照射中は、照射開始前や照射終了後より照明400の照明色,照度を低くする制御を実行する。
より具体的には、照明制御装置は図8に示すようなデータテーブルに基づいて照明400の照明色,照度を切り替える。データテーブルは、例えば、4つの照射フェーズに応じた4つのモード(入室・患者固定モード、位置合わせモード、照射モード、照射終了・退室モード)を有している。
入室・患者固定モードは、照度を高くし、また照明色を昼白等のように高くして、治療室200内を明るい状態とするモードである。位置合わせモードは、レーザマーカ290による位置合わせのために、照度を極低とし、また照明色も黄色等のように低くして、暗い状態とするモードである。照射モードは、照度を低くし、また照明色を黄色等のように低くして、落ち着きのある状態とするモードである。照射終了・退室モードは、照射終了を演出することを目的として、照度を高くし、また照明色も昼白色等のように高くして、明るい状態とするモードである。
なお、これらの各モードの照度や照明色の状態は一例であり、任意に設定することができる。またモードの数も4つに限定されず、適宜設けることができる。例えば、治療装置のPR,説明用のモード等を搭載することも可能である。
次に、図9を用いて、照射の流れとその際の照明制御装置120の制御について説明する。
患者106が治療室200に入室すると、患者106を治療台108上に固定するため、照明制御装置120は、技師による入力装置128による指示等に基づいて治療室200の照明400をONにする。次いで、照明制御装置120は、照明400のモードとして入室・患者固定モードを読み込み、照度制御部124により照度を高くし、照明色制御部126により照明色を高くする(ステップS10)。
次いで、患者106が治療台108上に固定されたことを認識した後は、レーザマーカ290を用いた照射位置の位置合わせが行われるため、レーザマーカ290のONの信号などの入力を受けて、照明制御装置120は、照明400のモードとして照射位置の位置合わせモードを読み込み、照度制御部124により照度を極力低くし、照明色制御部126により照明色を低くする(ステップS12)。
位置合わせが終了したら照射が行われるため、照明制御装置120は、制御装置100からの照射開始信号の入力を受けて、照明400のモードとして照射モードを読み込み、照度制御部124により照度を低くし、照明色制御部126により照明色を低くする(ステップS14)。
照射が終了したら、照明制御装置120は、制御装置100からの照射終了信号の入力を受けて、照明400のモードとして照射終了・退室モードを読み込み、照度制御部124により照度を高くし、照明色制御部126により照明色を高くする(ステップS16)。
次に、本実施形態の効果について説明する。
上述した本実施形態の粒子線治療装置1では、照射装置250のカバー300と治療室200の側壁210とが、なだらかな曲線でつながれた形状となっている。治療室200の側壁210と照射装置250とがなだらかに連続されていることにより、照射装置250と治療室200の空間との境界をわかりづらくし、照射装置250を突出した装置として意識させないようにすることができる。これにより、不安をもって連日がん治療にのぞむ患者106が、「広い部屋(空間)で治療を受ける」という安らいだ感覚を持つことができ、従来に比べてよりリラックスした状態で治療に挑むことができるようになる。よって、患者の心理的負担を従来に比べてより低減することができる。また、なだらかな曲線が設けられていることから、治療室200の外側に配置される機器の設置スペースを確保できるとともに、機器のメンテナンススペースの確保にもつながる、との効果も得られる。
また、治療室200の天井212は、照射装置250との境界部分の少なくとも照射装置250の外周を覆う位置に間接的な照明400が設けられたため、照射装置250と治療室200(空間)の連続性を強調することができ、患者106の心理的負担をより低減することができる。また、照射装置250の周囲で照明ラインが分断されていないことで連続性が強調されているため、治療室200全体の照度、色コントロール時にも効果的な照明ラインとすることができ、患者106の心理的負担の更なる低減に寄与することができる。
更に、制御装置100は、治療室200の照明400を制御する照明制御装置120を備え、この照明制御装置120により照明400の照明色と照度との少なくともいずれかを制御することで、治療室200内の環境を患者がリラックスできる照度や照明色に切り替えることができ、患者106心理的負担をより効果的に低減することができる。
また、照射装置250のなだらかな曲線の曲率が変化する部分に、側壁210や照射装置250とは色が異なるカバーライン部302が設けられたことにより、このカバーライン部302の照射ノズル部105側のみが照射装置250に見えるように感じられ、照射装置250による圧迫感をより低減することができるようになる。
更に、照射装置250は、患者106中の標的の位置を検出するための位置検出器280を有し、この位置検出器280の外壁も、なだらかな曲線で構成されたことで、患者106の両サイドに配置される機器による圧迫感が低減されるため、更なる心理的負担の低減を図ることができる。
また、位置検出器280は、なだらかな曲線との間に、段差286を有することにより、位置検出器280の存在感をより小さくすることができ、更なる心理的負担の低減を図ることができる。
更に、照射装置250は天井212に向けた曲線(R部260)の形状を有しており、天井212は照明400を標的から隠す覆い部410を有しており、R部260および覆い部410により、照明400は間接照明となっていることで、患者106に対する刺激をより低減することができ、患者106の心理的負担の更なる低減を図ることができる。
また、照明制御装置120は、標的への照射のフェーズごとに照明400の照明色,照度を自動で切り替える制御を行うことで、患者固定時に必要な明るさを確保できるとともに、その後の照射時に患者106がリラックスできる照度や照明色に自動で切り替えることができ、より簡易に患者106の心理的負担の低減を図ることができる。また、ビームのONとOFFの信号等にリンクして照明400が切り替わるため、技師の作業性も考慮されている粒子線治療装置とすることができる。
また、標的の位置合わせ中およびビームの照射中は、照明400の照明色,照度を照射開始前や照射終了後より低くすることにより、最も不安となる照射中の患者106の心理低負担の低減を図ることができるとともに、レーザマーカ290による位置合わせ中における技師の作業性も確保することができる。
更に、本実施形態では、照射装置250のカバー300と治療室200の側壁210とが、なだらかな曲線でつながれた形状となっていることから、照射ノズル部105を移動させるための駆動部の設置スペースが確保されているが、駆動部へアクセスすることが難しいことがある。しかし上述したようなメンテナンス用扉310,312を照射装置250のカバー300に設けることで、駆動部へのアクセスも容易となり、メンテナンス性も確保することができる。
なお、本発明は上記の実施形態に限られず、種々の変形、応用が可能なものである。上述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。
例えば、治療室や照射装置の形状は、図5に示す形状に限られず、例えば図10に示すような円を基調としたなだらかな曲線でつながれた治療室200Aと照射装置250Aとすることができる。更には、図11に示すようななだらかな曲線でつながれた治療室200Bと照射装置250Bとすることもできる。
また、照明制御装置120が照度制御部124および照明色制御部126とを備え、照明400の照度および照明色のいずれも制御する場合について説明したが、照明400の制御は照度のみや照明色のみであってもよい。また照射フェーズごとに自動でモードが切り替わる場合について説明したが、入力装置128等の入力に基づいてモードを変更するようにすることもできる。
更に、照射装置に設置される四極電磁石の数は患部におけるビームパラメータを最適にするのに必要な数を設置すればよく、実施形態で説明した四極電磁石の数に限られるものではない。
また、照射ノズルに設けられる機器で走査電磁石やワブラ電磁石以外にも自動的に制御可能な機器があれば、その機器を照射制御装置150にて制御しても良い。
更に、上述の実施形態では、シンクロトロン20に対して2つの照射系を設けた例について説明したが、照射系の数は2つに限られるものではない。
また、上述の実施形態では、照射ポートを3つ設けた場合について説明したが、照射ポートの数は3つに限られるものではなく、2つでも4つでもよく、複数であれば良い。
更に、重粒子線の加速器としてシンクロトロンを例に示したが、加速器はサイクロトロンやライナック等の他の加速器であってもよい。
また、炭素等の重粒子イオンを照射する重粒子線の照射装置を例に示したが、照射対象に照射する粒子線は重粒子イオンに限られず、重粒子より軽い陽子や、炭素以外の陽子より質量の重い粒子、中性子にも適用できる。