JP6583375B2 - 耐摩耗鋼板および耐摩耗鋼板の製造方法 - Google Patents
耐摩耗鋼板および耐摩耗鋼板の製造方法 Download PDFInfo
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Description
(1)耐摩耗鋼板の曲げ加工性には、該耐摩耗鋼板表層部の硬度および延性が大きく寄与する。
(2)熱間圧延と該熱間圧延後の焼入れによって製造された耐摩耗鋼板を、さらに適切な温度範囲に再加熱して焼戻すことにより、焼入れによって導入された転位のタングル(もつれ)が緩和され、その結果、鋼板表層部の延性が改善する。
(3)上記(2)の方法によれば、耐摩耗性に大きく影響を及ぼす基地相の硬度を低下させることなく、曲げ加工性を向上させることができる。
(4)焼入れ後に急速加熱する方法、または焼入れ時の冷却を所定温度で停止する方法によっても、条件を適切に選択すれば、上記(2)の方法と同様の効果を得ることができる。
C :0.39%、
Si:0.50%、
Mn:1.20%、
P :0.005%、
S :0.002%、
Ti:0.015%、
Al:0.03%、および
Cr:0.80%を含有し、
残部がFeおよび不可避不純物からなる成分組成を有する鋼スラブを、鋼素材として用意した。前記鋼スラブを1150℃に加熱し、熱間圧延して、板厚:12mmの熱延鋼板とした。前記熱延鋼板を熱間圧延終了直後から空冷し、次いで、再加熱焼入れを行った。前記再加熱焼入れにおいては、前記熱延鋼板を900℃の焼入れ開始温度まで再加熱した後、焼入れ停止温度である室温まで水冷した。前記再加熱焼入れ後、さらに、種々の焼戻し温度で、10分間保持する焼戻しを行った。
Mf(℃)=410.5−407.3×C−7.3×Si−37.8×Mn−20.5×Cu−19.5×Ni−19.8×Cr−4.5×Mo…(1)
(ただし、上記(1)式中の元素記号は質量%で表した各元素の含有量であり、含有されていない元素の含有量は0とする)
C :0.34%超、0.50%以下、
Si:0.05〜1.00%、
Mn:0.05〜2.00%、
P :0.020%以下、
S :0.050%以下、
Al:0.100%以下、
Cr:0.05〜0.90%、
N :0.0050%以下、および
O :0.0050%以下を含み、
残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
表面から1mmの深さにおける硬度がブリネル硬さで560〜690HBW 10/3000であり、
表面から1mmの深さにおけるマルテンサイトの体積率が90%以上であり、
表面から1mmの深さにおける転位密度ρ(m−2)、および下記(1)式で定義されるMf点を用いて下記(2)式で定義されるρuが、下記(3)式を満足する、耐摩耗鋼板。
Mf(℃)=410.5−407.3×C−7.3×Si−37.8×Mn−20.5×Cu−19.5×Ni−19.8×Cr−4.5×Mo…(1)
ρu(m−2)=15×1015×C+2×1015−5.74×109×(Mf−100)2−1.05×1011×(Mf−100)…(2)
ρ≦ρu…(3)
(ただし、上記(1)および(2)式中の元素記号は質量%で表した各元素の含有量であり、含有されていない元素の含有量は0とする)
Nb:0.005〜0.025%、
Ti:0.005〜0.030%、および
B :0.0001〜0.0018%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記1に記載の耐摩耗鋼板。
Cu:0.01〜1.00%、
Ni:0.01〜5.00%、
Mo:0.01〜2.00%、
V :0.01〜1.00%、
W :0.01〜1.00%、および
Co:0.01〜1.00%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記1または2に記載の耐摩耗鋼板。
Ca:0.0005〜0.0100%、
Mg:0.0005〜0.0100%、および
REM:0.0005〜0.0100%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記1〜3のいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板。
C :0.34%超、0.50%以下、
Si:0.05〜1.00%、
Mn:0.05〜2.00%、
P :0.020%以下、
S :0.050%以下、
Al:0.100%以下、
Cr:0.05〜0.90%、
N :0.0050%以下、および
O :0.0050%以下を含み、
残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼素材を加熱温度に加熱し、
前記加熱された鋼素材を熱間圧延して熱延鋼板とし、
前記熱延鋼板の焼入れを、焼入れ開始温度から開始し、
下記(1)式で定義されるMf点以下の焼入れ停止温度で前記焼入れを停止し、次いで前記焼入れされた熱延鋼板を焼戻し温度まで再加熱するか、または、
前記焼戻し温度で前記焼入れを停止し、次いで前記焼入れされた熱延鋼板を空冷する、耐摩耗鋼板の製造方法であって、
前記焼入れが、前記焼入れ開始温度がAr3変態点以上である直接焼入れ、または、前記焼入れ開始温度がAc3変態点以上である再加熱焼入れであり、
前記焼戻し温度が(Mf点−100℃)以上、Mf点以下である、耐摩耗鋼板の製造方法。
記
Mf(℃)=410.5−407.3×C−7.3×Si−37.8×Mn−20.5×Cu−19.5×Ni−19.8×Cr−4.5×Mo…(1)
(ただし、上記(1)式中の元素記号は質量%で表した各元素の含有量であり、含有されていない元素の含有量は0とする)
Nb:0.005〜0.025%、
Ti:0.005〜0.030%、および
B :0.0001〜0.0018%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記6に記載の耐摩耗鋼板の製造方法。
Cu:0.01〜1.00%、
Ni:0.01〜5.00%、
Mo:0.01〜2.00%、
V :0.01〜1.00%、
W :0.01〜1.00%、および
Co:0.01〜1.00%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記6または7に記載の耐摩耗鋼板の製造方法。
Ca:0.0005〜0.0100%、
Mg:0.0005〜0.0100%、および
REM:0.0005〜0.0100%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記6〜8のいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板の製造方法。
前記焼入れを、Mf点以下の焼入れ停止温度で停止し、
次いで前記焼入れされた熱延鋼板を前記焼戻し温度まで再加熱し、
さらに、前記再加熱された熱延鋼板を、前記焼戻し温度に保持する、耐摩耗鋼板の製造方法。
前記焼入れを、Mf点以下の焼入れ停止温度で停止し、
次いで前記焼入れされた熱延鋼板を、5℃/s以上の平均昇温速度で前記焼戻し温度まで再加熱する、耐摩耗鋼板の製造方法。
前記焼戻し温度で前記焼入れを停止し、
次いで、前記焼入れされた熱延鋼板を空冷する、耐摩耗鋼板の製造方法。
C :0.34%超、0.50%以下、
Si:0.05〜1.00%、
Mn:0.50〜2.00%、
P :0.020%以下、
S :0.020%以下、
Al:0.04%以下、
Cr:0.15〜0.90%、
N :0.0050%以下、および
O :0.0050%以下を含み、
残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
表面から1mmの深さにおける硬度がブリネル硬さで560〜690HBW 10/3000であり、
表面から1mmの深さにおけるマルテンサイトの体積率が90%以上であり、
表面から1mmの深さにおける転位密度ρ、下記(1)式で定義されるMf点、および下記(2)式で定義されるρuが、下記(3)式を満足する、耐摩耗鋼板。
Mf(℃)=410.5−407.3×C−7.3×Si−37.8×Mn−20.5×Cu−19.5×Ni−19.8×Cr−4.5×Mo…(1)
ρu(m−2)=15×1015×C+2×1015−5.74×109×(Mf−100)2−1.05×1011×(Mf−100)…(2)
ρ(m−2)≦ρu…(3)
(ただし、上記(1)および(2)式中の元素記号は質量%で表した各元素の含有量であり、含有されていない元素の含有量は0とする)
Nb:0.005〜0.020%、
Ti:0.010〜0.017%、および
B :0.0001〜0.0015%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記aに記載の耐摩耗鋼板。
Cu:0.01〜0.2%、
Ni:0.01〜2.0%、
Mo:0.1〜0.5%、
V :0.01〜0.05%、
W :0.01〜0.05%、および
Co:0.01〜0.05%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記aまたはbに記載の耐摩耗鋼板。
Ca:0.0005〜0.0040%、
Mg:0.0005〜0.0050%、および
REM:0.0005〜0.0080%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記a〜cのいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板。
C :0.34%超、0.50%以下、
Si:0.05〜1.00%、
Mn:0.50〜2.00%、
P :0.020%以下、
S :0.020%以下、
Al:0.04%以下、
Cr:0.15〜0.90%、
N :0.0050%以下、および
O :0.0050%以下を含み、
残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼素材を加熱温度に加熱し、
前記加熱された鋼素材を熱間圧延して熱延鋼板とし、
前記熱延鋼板の焼入れを、焼入れ開始温度から開始し、
下記(1)式で定義されるMf点以下の焼入れ停止温度で前記焼入れを停止し、次いで前記焼入れされた熱延鋼板を焼戻し温度まで再加熱するか、または、
前記焼戻し温度で前記焼入れを停止し、次いで前記焼入れされた熱延鋼板を空冷する、耐摩耗鋼板の製造方法であって、
前記焼入れが、前記焼入れ開始温度がAr3変態点以上である直接焼入れ、または、前記焼入れ開始温度がAc3変態点以上である再加熱焼入れであり、
前記焼戻し温度が(Mf点−100℃)以上、Mf点以下である、耐摩耗鋼板の製造方法。
記
Mf(℃)=410.5−407.3×C−7.3×Si−37.8×Mn−20.5×Cu−19.5×Ni−19.8×Cr−4.5×Mo…(1)
(ただし、上記(1)式中の元素記号は質量%で表した各元素の含有量であり、含有されていない元素の含有量は0とする)
Nb:0.005〜0.020%、
Ti:0.010〜0.017%、および
B :0.0001〜0.0015%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記eに記載の耐摩耗鋼板の製造方法。
Cu:0.01〜0.2%、
Ni:0.01〜2.0%、
Mo:0.1〜0.5%、
V :0.01〜0.05%、
W :0.01〜0.05%、および
Co:0.01〜0.05%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記eまたはfに記載の耐摩耗鋼板の製造方法。
Ca:0.0005〜0.0040%、
Mg:0.0005〜0.0050%、および
REM:0.0005〜0.0080%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、上記e〜gのいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板の製造方法。
前記焼入れを、Mf点以下の焼入れ停止温度で停止し、
次いで前記焼入れされた熱延鋼板を前記焼戻し温度まで再加熱し、
さらに、前記再加熱された熱延鋼板を、前記焼戻し温度に保持する、耐摩耗鋼板の製造方法。
前記焼入れを、Mf点以下の焼入れ停止温度で停止し、
次いで前記焼入れされた熱延鋼板を、5℃/s以上の平均昇温速度で前記焼戻し温度まで再加熱する、耐摩耗鋼板の製造方法。
前記焼戻し温度で前記焼入れを停止し、
さらに、前記焼入れされた熱延鋼板を空冷する、耐摩耗鋼板の製造方法。
次に、本発明を実施する方法について具体的に説明する。本発明においては、耐摩耗鋼板およびその製造に用いられる鋼素材が、上記成分組成を有することが重要である。そこで、まず本発明において鋼の成分組成を上記のように限定する理由を説明する。なお、成分組成に関する「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味するものとする。
Cは、基地相の硬さを増加させ、耐摩耗性を向上させる作用を有する元素である。前記効果を得るために、C含有量を0.34%超とする。C含有量は0.37%以上とすることが好ましい。一方、C含有量が0.50%を超えると、基地相の硬度が過度に上昇し、曲げ加工性が著しく低下する。そのため、C含有量は0.50%以下とする。C含有量は0.47%以下とすることが好ましい。
Siは、脱酸剤として作用する元素である。また、Siは、鋼中に固溶し、固溶強化により基地相の硬さを上昇させる作用を有している。これらの効果を得るために、Si含有量を0.05%以上とする。Si含有量は、0.10%以上とすることが好ましく、0.20%以上とすることがより好ましい。一方、Si含有量が1.00%を超えると、延性および靭性が低下し、さらに介在物量が増加するなどの問題が生じる。そのため、Si含有量を1.00%以下とする。Si含有量は0.80%以下とすることが好ましく、0.60%以下とすることがより好ましく、0.40%以下とすることがさらに好ましい。
Mnは、基地相の硬さを上昇させ、耐摩耗性を向上させる作用を有する元素である。前記効果を得るために、Mn含有量を0.05%以上とする。Mn含有量は、0.25%以上とすることが好ましく、0.50%以上とすることがより好ましい。一方、Mn含有量が2.00%を超えると硬さが高くなりすぎるため、曲げ加工性が低下する。そのため、Mn含有量は2.00%以下とする。Mn含有量は、1.80%以下とすることが好ましく、1.60%以下とすることがより好ましい。
Pは、不可避的不純物として含有される元素であり、粒界に偏析することによって破壊の発生起点となることや、リン化物を形成して曲げ加工性を低下させるなど、悪影響を及ぼす。そのため、P含有量は、0.020%以下とする。P含有量は、0.015%以下とすることが好ましい。一方、P含有量はできる限り低くすることが望ましいため、P含有量の下限は特に限定されず、0%であってよいが、通常、Pは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってよい。また、過度の低減は精錬コストの高騰を招くため、P含有量は0.001%以上とすることが好ましい。
Sは、不可避的不純物として含有される元素であり、MnS等の硫化物系介在物として鋼中に存在し、破壊の発生起点となるなど、悪影響を及ぼす元素である。そのため、S含有量は、0.050%以下とする。S含有量は、0.020%以下とすることが好ましい。一方、S含有量はできる限り低くすることが望ましいため、S含有量の下限は特に限定されず、0%であってよいが、通常、Sは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってよい。また、過度の低減は精錬コストの高騰を招くため、S含有量は0.0005%以上とすることが好ましい。
Alは、脱酸剤として作用するとともに、結晶粒を微細化する作用を有する元素である。これらの効果を得るためには、Al含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Al含有量が0.100%を超えると、酸化物系介在物が増加して清浄度が低下する。清浄度の低下は、表面疵の増加による表面性状の劣化と、曲げ加工性の低下を招く。そのため、Al含有量は0.100%以下とする。なお、Al含有量は0.050%以下とすることが好ましく、0.040%以下とすることがより好ましく、0.030%以下とすることがさらに好ましい。
Crは、基地相の硬さを増加させ、耐摩耗性を向上させる作用を有する元素である。前記効果を得るために、Cr含有量を0.05%以上とする。Cr含有量は、0.15%以上とすることが好ましく、0.25%以上とすることがより好ましい。一方、Cr含有量が0.90%を超えると硬さが高くなりすぎるため、曲げ加工性が低下する。そのため、Cr含有量は0.90%以下とする。Cr含有量は、0.85%以下とすることが好ましく、0.80%以下とすることがより好ましい。
Oは、不可避的不純物として含有される元素であり、酸化物などの介在物として鋼中に存在し、破壊の発生起点となるなど、悪影響を及ぼす元素であるが、0.0050%以下の含有は許容できる。O含有量は、0.0040%以下とすることが好ましく、0.0030%以下とすることがより好ましい。一方、O含有量の下限は特に限定されず、0%であってよいが、通常、Oは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってよい。
Nは、不可避的不純物として含有される元素であり、窒化物などの介在物として鋼中に存在し、破壊の発生起点となるなど、悪影響を及ぼす元素であるが、0.0050%以下の含有は許容できる。N含有量は、0.0040%以下とすることが好ましく、0.0030%以下とすることがより好ましい。一方、N含有量の下限は特に限定されず、0%であってよいが、通常、Nは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってよい。
Nbは、基地相の硬さを増加させ、耐摩耗性の向上に寄与する元素である。Nbを添加する場合、前記効果を得るためにNb含有量を0.005%以上とする。Nb含有量は0.007%以上とすることが好ましい。一方、Nb含有量が0.025%を超えるとNbCが多量に析出し、曲げ加工性が低下する。そのため、含Nbを添加する場合、Nb含有量を0.025%以下とする。Nb含有量は0.023%以下とすることが好ましく、0.021%以下とすることがより好ましく、0.020%以下とすることがさらに好ましく、0.019%以下とすることが最も好ましい。
Tiは、窒化物形成傾向が強く、Nを固定して固溶Nを低減する作用を有する元素である。そのため、Tiの添加により、母材および溶接部の靭性を向上させることができる。また、TiとBの両者が添加される場合、TiがNを固定することによってBNの析出が抑制され、その結果、Bの焼入れ性向上効果が助長される。これらの効果を得るために、Tiを添加する場合、Ti含有量を0.005%以上とする。Ti含有量は、0.010%以上とすることが好ましく、0.012%以上とすることがさらに好ましい。一方、Ti含有量が0.030%を超えると、TiCが多量に析出し、曲げ加工性を低下させる。そのため、Tiを含有する場合、Ti含有量は0.030%以下とする。Ti含有量は、0.025%以下とすることが好ましく、0.020%以下とすることがより好ましく、0.017%以下とすることがさらに好ましい。
Bは、微量の添加でも焼入れ性を著しく向上させる作用を有する元素である。したがって、Bを添加することによりマルテンサイトの形成を助長し、耐摩耗性をさらに向上させることができる。前記効果を得るために、Bを添加する場合、B含有量を0.0001%以上とする。B含有量は、0.0005%以上とすることが好ましく、0.0010%以上とすることがより好ましい。一方、B含有量が0.0018%を超えると、ホウ化物などの介在物が多量になり破壊の発生起点となるなど、悪影響が生じる。そのため、Bを添加する場合、B含有量を0.0018%以下とする。B含有量は0.0016%以下とすることが好ましく、0.0015%以下とすることがより好ましく、0.0014%以下とすることがより好ましい。
Cuは、焼入れ性を向上させる作用を有する元素であり、鋼板内部の硬度を向上させるために任意に添加することができる。Cuを添加する場合、前記効果を得るためにCu含有量を0.01%以上とする。一方、Cu含有量が1.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Cuを添加する場合、Cu含有量を1.00%以下とする。Cu含有量は0.50%以下とすることが好ましく、0.20%以下とすることがより好ましい。
Niは、Cuと同様に焼入れ性を向上させる作用を有する元素であり、鋼板内部の硬度を向上させるために任意に添加することができる。Niを添加する場合、前記効果を得るためにNi含有量を0.01%以上とする。一方、Ni含有量が5.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Niを添加する場合、Ni含有量を5.00%以下とする。Ni含有量は3.00%以下とすることが好ましく、2.00%以下とすることがより好ましい。
Moは、Cuと同様に焼入れ性を向上させる作用を有する元素であり、鋼板内部の硬度を向上させるために任意に添加することができる。Moを添加する場合、前記効果を得るためにMo含有量を0.01%以上とする。Mo含有量は0.1%以上とすることが好ましい。一方、Mo含有量が2.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Moを添加する場合、Mo含有量を2.00%以下とする。Mo含有量は1.00%以下とすることが好ましく、0.50%以下とすることがより好ましい。
Vは、Cuと同様に焼入れ性を向上させる作用を有する元素であり、鋼板内部の硬度を向上させるために任意に添加することができる。Vを添加する場合、前記効果を得るためにV含有量を0.01%以上とする。一方、V含有量が1.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Vを添加する場合、V含有量を1.00%以下とする。V含有量は0.50%以下とすることが好ましく、0.25%以下とすることがより好ましく、0.05%以下とすることがさらに好ましい。
Wは、Cuと同様に焼入れ性を向上させる作用を有する元素であり、鋼板内部の硬度を向上させるために任意に添加することができる。Wを添加する場合、前記効果を得るためにW含有量を0.01%以上とする。一方、W含有量が1.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Wを添加する場合、W含有量を1.00%以下とする。W含有量は0.50%以下とすることが好ましく、0.25%以下とすることがより好ましく、0.05%以下とすることがさらに好ましい。
Coは、Cuと同様に焼入れ性を向上させる作用を有する元素であり、鋼板内部の硬度を向上させるために任意に添加することができる。Coを添加する場合、前記効果を得るためにCo含有量を0.01%以上とする。一方、Co含有量が1.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Coを添加する場合、Co含有量を1.00%以下とする。Co含有量は0.50%以下とすることが好ましく、0.25%以下とすることがより好ましく、0.05%以下とすることがさらに好ましい。
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有することができる。
Caは、Sと結合し、圧延方向に長く伸びるMnS等の形成を抑制する作用を有する元素である。したがって、Caを添加することにより、硫化物系介在物が球状を呈するように形態制御し、溶接部等の靭性を向上させることができる。前記効果を得るために、Caを添加する場合、Ca含有量を0.0005%以上とする。一方、Ca含有量が0.0100%を超えると、鋼の清浄度が低下する。清浄度の低下は、表面疵の増加による表面性状の劣化と、曲げ加工性の低下を招く。そのため、Caを添加する場合、Ca含有量0.0100%以下とする。Ca含有量は0.0050%以下とすることが好ましく、0.0040%以下とすることがより好ましい。
Mgは、Caと同様、Sと結合し、圧延方向に長く伸びるMnS等の形成を抑制する作用を有する元素である。したがって、Mgを添加することにより、硫化物系介在物が球状を呈するように形態制御し、溶接部等の靭性を向上させることができる。前記効果を得るために、Mgを添加する場合、Mg含有量を0.0005%以上とする。一方、Mg含有量が0.0100%を超えると、鋼の清浄度が低下する。清浄度の低下は、表面疵の増加による表面性状の劣化と、曲げ加工性の低下を招く。そのため、Mgを添加する場合、Mg含有量を0.0100%以下とする。Mg含有量は0.0060%以下とすることが好ましく、0.0050%以下とすることがより好ましい。
REM(希土類金属)は、Ca、Mgと同様、Sと結合し、圧延方向に長く伸びるMnS等の形成を抑制する作用を有する元素である。したがって、REMを添加することにより、硫化物系介在物が球状を呈するように形態制御し、溶接部等の靭性を向上させることができる。前記効果を得るために、REMを添加する場合、REM含有量を0.0005%以上とする。一方、REM含有量が0.0100%を超えると、鋼の清浄度が低下する。清浄度の低下は、表面疵の増加による表面性状の劣化と、曲げ加工性の低下を招く。そのため、REMを添加する場合、REM含有量を0.0100%以下とする。REM含有量は0.0080%以下とすることが好ましく、0.0060%以下とすることがより好ましい。
質量%で、
C :0.34%超、0.50%以下、
Si:0.05〜1.00%、
Mn:0.05〜2.00%、
P :0.020%以下、
S :0.050%以下、
Al:0.100%以下、
Cr:0.05〜0.90%、
N :0.0050%以下、
O :0.0050%以下、
任意に、Nb:0.005〜0.025%、Ti:0.005〜0.030%、およびB:0.0001〜0.0018%からなる群より選択される1または2以上、
任意に、Cu:0.01〜1.00%、Ni:0.01〜5.00%、Mo:0.01〜2.00%、V:0.01〜1.00%、W:0.01〜1.00%、およびCo:0.01〜1.00%からなる群より選択される1または2以上、
任意に、Ca:0.0005〜0.0100%、Mg:0.0005〜0.0100%、およびREM:0.0005〜0.0100%からなる群より選択される1または2以上、並びに
残部のFeおよび不可避的不純物からなる成分組成。
ブリネル硬さ:560〜690HBW 10/3000
本願発明の耐摩耗鋼板は、上記成分組成を有することに加えて、表面から1mmの深さにおける硬度がブリネル硬さで560〜690HBW 10/3000である。表面硬度を前記範囲に限定する理由を以下に説明する。
マルテンサイトの体積率:90%以上
本願発明においては、耐摩耗鋼板の表面から1mmの深さにおけるマルテンサイトの体積率(以下、単に「マルテンサイトの体積率」という)を90%以上とする。マルテンサイトの体積率が90%未満であると、鋼板の基地組織の硬度が低下するため、耐摩耗性が劣化する。そのため、マルテンサイトの体積率を90%以上とする。マルテンサイト以外の残部組織は特に限定されないが、フェライト、パーライト、オーステナイト、ベイナイト組織などの他の組織が1種または2種以上存在してよい。一方、マルテンサイトの体積率は高いほどよいため、該体積率の上限は特に限定されず、100%であってよい。なお、前記マルテンサイトの体積率は、耐摩耗鋼板の表面から1mmの深さの位置における値とする。前記マルテンサイトの体積率は、実施例に記載した方法で測定することができる。
さらに、本発明においては、耐摩耗鋼板の表面から1mmの深さにおける転位密度ρ(m−2)、および上述した(1)式で定義されるMf点を用いて下記(2)式で定義されるρuが、下記(3)式を満足する。
ρu=15×1015×C+2×1015−5.74×109×(Mf−100)2−1.05×1011×(Mf−100)…(2)
ρ≦ρu…(3)
(ただし、上記(2)式中の元素記号は質量%で表した各元素の含有量であり、含有されていない元素の含有量は0とする)
介在物・析出物の密度:3.0個/mm2以下
介在物および析出物の密度は、Al、N、Oなどの鋼板の成分と該鋼板の製造時の温度条件(例えば、加熱温度)の影響を受ける。耐摩耗鋼板の表面から1mmの深さにおける、平均粒径が500nm以上の介在物・析出物の密度(以下、単に「介在物・析出物の密度」という)を3.0個/mm2以下とすることにより、曲げ加工時の割れの起点を減らし、曲げ加工性をさらに向上させることができる。そのため、前記介在物・析出物の密度を3.0個/mm2以下とすることが好ましい。一方、介在物・析出物の密度は低いほどよいため、下限は特に限定されないが、過度の低減は精錬コストの高騰を招くため、0.1個/mm2以上とすることが好ましい。
本発明の耐摩耗鋼板の板厚は特に限定されず、任意の厚さとすることができるが、製造上の観点からは、4〜50mmとすることが好ましい。
次に、本発明の一実施形態における耐摩耗鋼板の製造方法について説明する。本発明の耐摩耗鋼板は、上述した成分組成を有する鋼スラブを、加熱し、熱間圧延した後に、焼入れを含む熱処理を後述する条件で行うことによって製造することができる。
前記鋼素材の製造方法は、とくに限定されないが、例えば、上記した組成を有する溶鋼を常法により溶製し、鋳造して製造することができる。前記溶製は、転炉、電気炉、誘導炉等、任意の方法により行うことができる。また、前記鋳造は、生産性の観点から連続鋳造法で行うことが好ましいが、造塊−分解圧延法により行うこともできる。前記鋼素材としては、例えば、鋼スラブを用いることができる。
得られた鋼素材は、熱間圧延に先立って加熱温度に加熱される。前記加熱は、鋳造などの方法によって得た鋼素材を一旦冷却した後に行ってもよく、また、得られた鋼素材を冷却することなく直接、前記加熱に供することもできる。
次いで、前記加熱された鋼素材を熱間圧延して熱延鋼板とする。前記熱間圧延の条件は特に限定されず、常法に従って行うことができる。ただし、圧延温度が850℃未満であると、鋼素材の変形抵抗が高いため、熱間圧延における圧延機への負荷が増大し、熱間圧延を行うことが困難となる場合がある。そのため圧延温度を850℃以上とすることが好ましく、900℃以上とすることがより好ましい。一方、圧延温度が1000℃より高いと、高温のため鋼の酸化が顕著となり、酸化によるロスが増大する結果、歩留まりが低下する。そのため、前記圧延温度は1000℃以下とすることが好ましく、950℃以下とすることがより好ましい。
次いで、得られた熱延鋼板を焼入れ開始温度から焼入れ停止温度まで焼入れする。前記焼入れは、直接焼入れ(DQ)と再加熱焼入れ(RQ)のいずれの方法で行ってもよい。また、前記焼入れにおける冷却方法は特に限定されないが、水冷で行うことが好ましい。なお、ここで「焼入れ開始温度」とは焼入れ開始時における鋼板の表面温度とする。前記「焼入れ開始温度」を、単に「焼入れ温度」という場合がある。また、「焼入れ停止温度」とは、焼入れ終了時における鋼板の表面温度とする。例えば、焼入れを水冷によって行う場合には、水冷開始時の温度を「焼入れ開始温度」、水冷終了時の温度を「焼入れ停止温度」とする。
前記焼入れを直接焼入れで行う場合、上記熱間圧延終了後、熱延鋼板を再加熱することなく焼入れを行う。その際、前記焼入れ開始温度をAr3変態点以上とする。これはオーステナイト状態からの焼入れによってマルテンサイト組織を得るためである。前記焼入れ開始温度がAr3変態点未満であると十分に焼きが入らないため鋼板の硬度を十分に向上させることができず、その結果、最終的に得られる鋼板の耐摩耗性が低下する。一方、直接焼入れにおける焼入れ開始温度の上限は特に限定されないが、950℃以下とすることが好ましい。焼入れ停止温度については後述する。
Ar3(℃)=910−273×C−74×Mn−57×Ni−16×Cr−9×Mo−5×Cu…(4)
(ただし、(4)式中の各元素記号は、質量%で表した各元素の含有量であり、含有されていない元素の含有量は0とする)
前記焼入れを再加熱焼入れで行う場合、上記熱間圧延終了後、熱延鋼板を再加熱した後に焼入れする。その際、前記焼入れ開始温度をAc3変態点以上とする。これはオーステナイト状態からの焼入れによってマルテンサイト組織を得るためである。前記焼入れ開始温度がAc3変態点未満であると十分に焼きが入らないため鋼板の硬度を十分に向上させることができず、その結果、最終的に得られる鋼板の耐摩耗性が低下する。一方、再加熱焼入れにおける焼入れ開始温度の上限は特に限定されないが、950℃以下とすることが好ましい。焼入れ停止温度については後述する。
Ac3(℃)=912.0−230.5×C+31.6×Si−20.4×Mn−39.8×Cu−18.1×Ni−14.8×Cr+16.8×Mo…(5)
(ただし、(5)式中の各元素記号は、質量%で表した各元素の含有量であり、含有されていない元素の含有量は0とする)
上記焼入れにおける冷却速度は特に限定されず、マルテンサイト相が形成される冷却速度であれば任意の値とすることができる。例えば、焼入れ開始から焼入れ停止の間における平均冷却速度は、25〜70℃/sとすることが好ましく、30〜60℃/sとすることが好ましい。なお、前記平均冷却速度は、鋼板表面の温度を用いて求められる冷却速度とする。
(i)Mf点以下の焼入れ停止温度で前記焼入れを停止し、次いで前記焼入れされた熱延鋼板を焼戻し温度まで再加熱する。
(ii)前記焼戻し温度で前記焼入れを停止する。
以下、上記(i)および(ii)のそれぞれについて説明する。
焼入れ停止温度:Mf点以下
上記焼入れ工程における焼入れ停止温度がMf点より高いと、マルテンサイトの体積率を十分に高めることができず、鋼板の硬度が低下する。そのため、Mf点以下の焼入れ停止温度で前記焼入れを停止する。焼入れ停止温度は、200℃以下とすることが好ましく、150℃以下とすることがより好ましく、120℃以下とすることがさらに好ましい。一方、焼入れ停止温度の下限は特に限定されないが、過度の冷却は製造効率の低下を招くため、焼入れ停止温度を20℃以上とすることが好ましく、30℃以上とすることがより好ましい。
前記焼入れ停止後、焼入れされた熱延鋼板を焼戻し温度まで再加熱する。前記再加熱を行うことにより、焼入れ後の鋼板が焼き戻される。先に述べたように、前記焼戻し温度が(Mf点−100℃)未満であると、転位密度を低下させることができず、したがって、曲げ加工性が改善しない。そのため、前記焼戻し温度を(Mf点−100℃)以上とする。前記焼戻し温度は(Mf点−90℃)以上とすることが好ましく、(Mf点−80℃)以上とすることがより好ましい。一方、先に述べたように、前記焼戻し温度がMf点より高いと、転位密度は減少するものの、表面硬度の低下が顕著となる。そのため、前記焼戻し温度をMf点以下とする。前記焼戻し温度は、(Mf点−10℃)以下とすることが好ましく、(Mf点−20℃)以下とすることがより好ましい。
(再加熱後、温度保持を行う場合)
上記処理(i)においては、焼入れされた熱延鋼板を前記焼戻し温度まで再加熱した後、さらに、前記再加熱された熱延鋼板を前記焼戻し温度に保持することができる。以下、この製造条件を、「製造条件A」という。前記焼戻し温度に保持される時間(以下、「保持時間」という)は、特に限定されないが、焼戻しの効果を高めるという観点からは、30秒以上とすることが好ましく、1分以上とすることがより好ましい。一方、保持時間が過度に長いと鋼板の硬度が低下するため、保持時間は60分以下とすることが好ましく、30分以下とすることがより好ましく、20分以下とすることがさらに好ましい。
(焼入れ後、急速加熱を行う場合)
上記処理(i)においては、前記焼戻し温度までの再加熱を急速加熱で行うこともできる。その場合、前記再加熱における平均昇温速度を5℃/s以上とすることが好ましい。前記平均昇温速度を5℃/s以上とすることにより、炭化物を微細に析出させることができ、その結果、曲げ加工性が向上する。前記平均昇温速度を10℃/s以上とすることがより好ましい。以下、この製造条件を、「製造条件B」という。一方、前記平均昇温速度の上限は特に限定されないが、過度に昇温速度を高めると、再加熱を行うための設備が大型化することに加え、消費電力の増大が問題となる。そのため、前記平均昇温速度は30℃/s以下とすることが好ましく、25℃/s以下とすることがより好ましい。
[処理(ii)の場合]
処理(ii)においては、前記焼入れを停止した後、前記焼入れされた熱延鋼板を空冷する。そして、前記焼入れにおける焼入れ停止温度を、前記焼戻し温度、すなわち、(Mf点−100℃)以上、Mf点以下とする。これにより、上記処理(i)の場合と同様に鋼板が焼き戻され、転位密度を低下させることができる。以下、この製造条件を、「製造条件C」という。
上記焼入れ工程における焼入れ停止温度がMf点より高いと、マルテンサイトの体積率を十分に高めることができず、鋼板の硬度が低下する。そのため、Mf点以下の焼入れ停止温度で前記焼入れを停止する。焼入れ停止温度は、(Mf点−10℃)以下とすることが好ましく、(Mf点−20℃)以下とすることがより好ましい。一方、焼入れ停止温度が(Mf点−100℃)未満であると、転位密度を低下させることができず、したがって、曲げ加工性が改善しない。そのため、前記焼入れ停止温度を(Mf点−100℃)以上とする。前記焼入れ停止温度は(Mf点−90℃)以上とすることが好ましく、(Mf点−80℃)以上とすることがより好ましい。
鋼スラブに対し、次の(1)〜(4)の処理を順次施した:
(1)加熱、
(2)熱間圧延、
(3)直接焼入れまたは再加熱焼入れ、および
(4)焼戻し。
鋼スラブに対し、次の(1)〜(4)の処理を順次施した:
(1)加熱、
(2)熱間圧延、
(3)直接焼入れまたは再加熱焼入れ、および
(4)急速加熱。
鋼スラブに対し、次の(1)〜(4)の処理を順次施した:
(1)加熱、
(2)熱間圧延、
(3)直接焼入れまたは再加熱焼入れ、および
(4)空冷。
得られた耐摩耗鋼板から硬さ測定用試験片を採取し、JIS Z 2243(1998)の規定に準拠してブリネル硬さを測定した。前記測定は、耐摩耗鋼板表面に存在するスケールおよび脱炭層の影響を除くため、鋼板表面から1mmの深さまでの領域を研削除去したのちに実施した。したがって、測定された硬度は、鋼板表面から1mmの深さの面における表面硬度である。なお、測定に際しては、直径10mmのタングステン硬球を使用し、荷重は3000kgfとした。また、測定位置は、鋼板の幅方向中央とした。
鋼板の幅方向中央、表面から1mmの深さの位置が観察位置となるよう、各鋼板からサンプルを採取した。前記サンプルの表面を鏡面研磨し、さらにナイタール腐食した後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて10mm×10mmの範囲を撮影した。撮影された像を、画像解析装置を用いて解析することによってマルテンサイトの面積分率を求めた。ランダムに10視野の観察を行い、得られた面積分率の平均値をマルテンサイトの体積率とした。
得られた耐摩耗鋼板から、測定位置が鋼板の幅方向中央となるように、幅25mm×長さ25mmの転位密度測定用試験片を採取し、転位密度を測定した。前記測定は、耐摩耗鋼板表面に存在するスケールおよび加工組織の影響を除くため、研削、機械研磨、および電解研磨によって鋼板表面から1mmの深さまでの領域を除去したのちに実施した。したがって、測定された転位密度は、鋼板表面から1mmの深さの面における転位密度である。転位密度は、X線回折測定によりラインプロファイルを取得し、得られたラインプロファイルをmodified Williamson-Hall法およびmodified Warren-Averbach法を用いて解析することによって算出した。前記X線回折測定は、次の条件で実施した。
電圧:40kV、
電流:150mA、
X線源:CuKα
鋼板の幅方向中央、表面から1mmの深さの位置が観察位置となるよう、各鋼板からサンプルを採取した。前記サンプルの表面を鏡面研磨し、SEMを用いて10mm×10mmの範囲を撮影した。撮影された像を、画像解析装置を用いて解析することによって介在物・析出物の粒径と個数を求め、平均粒径500nm以上の介在物・析出物について個数を測定し、密度を求めた。
得られた鋼板から、幅50mm×長さ150mmの曲げ試験片を採取し、JIS Z 2248の規定に準拠して、曲げ角度:180°での曲げ試験を実施した。前記曲げ試験における、割れ発生のない最小の曲げ半径R(mm)、および板厚t(mm)から、限界曲げ半径R/tを求めた。限界曲げ半径R/tが3.8以下を曲げ加工性が良好であると判定した。
Claims (13)
- 質量%で、
C :0.34%超、0.50%以下、
Si:0.05〜1.00%、
Mn:0.05〜2.00%、
P :0.020%以下、
S :0.050%以下、
Al:0.100%以下、
Cr:0.05〜0.90%、
N :0.0050%以下、および
O :0.0050%以下を含み、
残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
表面から1mmの深さにおける硬度がブリネル硬さで560〜690HBW 10/3000であり、
表面から1mmの深さにおけるマルテンサイトの体積率が90%以上であり、
表面から1mmの深さにおける転位密度ρ(m-2)、および下記(1)式で定義されるMf点を用いて下記(2)式で定義されるρuが、下記(3)式を満足する、耐摩耗鋼板。
Mf(℃)=410.5−407.3×C−7.3×Si−37.8×Mn−20.5×Cu−19.5×Ni−19.8×Cr−4.5×Mo…(1)
ρu(m-2)=15×1015×C+2×1015−5.74×109×(Mf−100)2−1.05×1011×(Mf−100)…(2)
ρ≦ρu…(3)
(ただし、上記(1)および(2)式中の元素記号は質量%で表した各元素の含有量であり、含有されていない元素の含有量は0とする) - 前記成分組成が、質量%で、
Nb:0.005〜0.025%、
Ti:0.005〜0.030%、および
B :0.0001〜0.0018%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、請求項1に記載の耐摩耗鋼板。 - 前記成分組成が、質量%で、
Cu:0.01〜1.00%、
Ni:0.01〜5.00%、
Mo:0.01〜2.00%、
V :0.01〜1.00%、
W :0.01〜1.00%、および
Co:0.01〜1.00%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、請求項1または2に記載の耐摩耗鋼板。 - 前記成分組成が、質量%で、
Ca:0.0005〜0.0100%、
Mg:0.0005〜0.0100%、および
REM:0.0005〜0.0100%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板。 - 表面から1mmの深さにおける平均粒径が500nm以上の介在物および析出物の密度が3.0個/mm2以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板。
- 質量%で、
C :0.34%超、0.50%以下、
Si:0.05〜1.00%、
Mn:0.05〜2.00%、
P :0.020%以下、
S :0.050%以下、
Al:0.100%以下、
Cr:0.05〜0.90%、
N :0.0050%以下、および
O :0.0050%以下を含み、
残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼素材を加熱温度に加熱し、
前記加熱された鋼素材を熱間圧延して熱延鋼板とし、
前記熱延鋼板の焼入れを、焼入れ開始温度から開始し、
下記(1)式で定義されるMf点以下の焼入れ停止温度で前記焼入れを停止し、次いで前記焼入れされた熱延鋼板を焼戻し温度まで再加熱するか、または、
前記焼戻し温度で前記焼入れを停止し、次いで前記焼入れされた熱延鋼板を空冷する、摩耗鋼板の製造方法であって、
前記焼入れが、前記焼入れ開始温度がAr3変態点以上である直接焼入れ、または、前記焼入れ開始温度がAc3変態点以上である再加熱焼入れであり、
前記焼戻し温度が(Mf点−100℃)以上、Mf点以下であり、
前記耐摩耗鋼板の表面から1mmの深さにおける硬度がブリネル硬さで560〜690HBW 10/3000であり、
前記耐摩耗鋼板の表面から1mmの深さにおけるマルテンサイトの体積率が90%以上であり、
前記耐摩耗鋼板の表面から1mmの深さにおける転位密度ρ(m -2 )、および下記(1)式で定義されるMf点を用いて下記(2)式で定義されるρ u が、下記(3)式を満足する、耐摩耗鋼板の製造方法。
記
Mf(℃)=410.5−407.3×C−7.3×Si−37.8×Mn−20.5×Cu−19.5×Ni−19.8×Cr−4.5×Mo…(1)
ρ u (m -2 )=15×10 15 ×C+2×10 15 −5.74×10 9 ×(Mf−100) 2 −1.05×10 11 ×(Mf−100)…(2)
ρ≦ρ u …(3)
(ただし、上記(1)および(2)式中の元素記号は質量%で表した各元素の含有量であり、含有されていない元素の含有量は0とする) - 前記成分組成が、質量%で、
Nb:0.005〜0.025%、
Ti:0.005〜0.030%、および
B :0.0001〜0.0018%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、請求項6に記載の耐摩耗鋼板の製造方法。 - 前記成分組成が、質量%で、
Cu:0.01〜1.00%、
Ni:0.01〜5.00%、
Mo:0.01〜2.00%、
V :0.01〜1.00%、
W :0.01〜1.00%、および
Co:0.01〜1.00%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、請求項6または7に記載の耐摩耗鋼板の製造方法。 - 前記成分組成が、質量%で、
Ca:0.0005〜0.0100%、
Mg:0.0005〜0.0100%、および
REM:0.0005〜0.0100%
からなる群より選択される1または2以上をさらに含有する、請求項6〜8のいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板の製造方法。 - 前記耐摩耗鋼板の表面から1mmの深さにおける平均粒径が500nm以上の介在物および析出物の密度が3.0個/mm2以下である、請求項6〜9のいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板の製造方法。
- 請求項6〜10のいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板の製造方法であって、
前記焼入れを、Mf点以下の焼入れ停止温度で停止し、
次いで前記焼入れされた熱延鋼板を前記焼戻し温度まで再加熱し、
さらに、前記再加熱された熱延鋼板を、前記焼戻し温度に保持する、耐摩耗鋼板の製造方法。 - 請求項6〜10のいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板の製造方法であって、
前記焼入れを、Mf点以下の焼入れ停止温度で停止し、
次いで前記焼入れされた熱延鋼板を、5℃/s以上の平均昇温速度で前記焼戻し温度まで再加熱する、耐摩耗鋼板の製造方法。 - 請求項6〜10のいずれか一項に記載の耐摩耗鋼板の製造方法であって、
前記焼戻し温度で前記焼入れを停止し、
次いで、前記焼入れされた熱延鋼板を空冷する、耐摩耗鋼板の製造方法。
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