以下、本発明に関して、下記の順序で詳細に説明する。但し、本発明に関する詳細は、以下で説明する態様に限定されず、適宜変更可能である。
1.層状物質含有液
1−1.イオン液体
1−1−1.カチオン
1−1−2.アニオン
1−2.層状物質
1−3.他の材料
2.層状物質含有液の製造方法
2−1.層状物質含有液の調整
2−2.層状物質含有液の精製
3.作用及び効果
<1.層状物質含有液>
まず、層状物質含有液の構成に関して説明する。
層状物質含有液は、イオン液体及び層状物質を含有しており、その層状物質は、イオン液体中に分散されている。
<1−1.イオン液体>
イオン液体は、液体の塩であり、カチオン及びアニオンを含んでいる。
カチオン及びアニオンのそれぞれに関する詳細は、以下の通りである。すなわち、イオン液体は、以下で説明する一連のカチオンのうちのいずれか1種類又は2種類以上と、以下で説明する一連のアニオンのうちのいずれか1種類又は2種類以上とを組み合わせた化合物である。
<1−1−1.カチオン>
カチオンは、任意の陽イオンのうちのいずれか1種類又は2種類以上を含んでいる。この陽イオンの種類及び価数は、特に限定されない。後述するように、アニオンが非E−F結合含有イオンを含んでいれば、カチオンの種類に依存せずに、安全性等に関する利点が得られるからである。
陽イオンは、無機系イオンでもよいし、有機系イオンでもよい。
無機系イオンは、例えば、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオン等である。
アルカリ金属イオンの具体例は、リチウムイオン(Li+ )、ナトリウムイオン(Na+ )及びカリウムイオン(K+ )等である。
アルカリ土類金属イオンの具体例は、ベリリウムイオン(Be2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)及びカルシウムイオン(Ca2+)等である。
有機系イオンは、例えば、カルボニウムイオン、オキソニウムイオン、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン及びシクロヘプタトリエニルイオン等である。この他、有機系イオンは、例えば、遷移金属を構成元素として含むフェロセニウムイオンでもよい。
カルボニウムイオンは、例えば、三置換カルボニウムイオン等である。この三置換カルボニウムイオンの具体例は、トリフェニルカルボニウムイオン及びトリ(置換フェニル)カルボニウムイオン等である。
トリ(置換フェニル)カルボニルイオンの具体例は、トリ(メチルフェニル)カルボニウムイオン及びトリ(ジメチルフェニル)カルボニウムイオン等である。
オキソニウムイオンの具体例は、トリメチルオキソニウムイオン、トリエチルオキソニウムイオン、エチルジメチルオキソニウムイオン、ジエチルメチルオキソニウムイオン、フェニルジメチルオキソニウムイオン、フェニルエチルメチルオキソニウムイオン、フェニルメチルベンジルオキソニウムイオン、メチルオキソラニウムイオン及びフェニルオキソラニウムイオン等である。
アンモニウムイオンの具体例は、トリアルキルアンモニウムイオン、N,N−ジアルキルアニリニウムイオン及びジアルキルアンモニウムイオン等である。
トリアルキルアンモニウムイオンの具体例は、トリメチルアンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムイオン、トリプロピルアンモニウムイオン及びトリブチルアンモニウムイオン等である。このトリブチルアンモニウムイオンは、例えば、トリ(n−ブチル)アンモニウムイオン)等である。
N,N−ジアルキルアニリニウムイオンの具体例は、N,N−ジメチルアニリニウムイオン、N,N−ジエチルアニリニウムイオン及びN,N−2,4,6−ペンタメチルアニリニウムイオン等である。
ジアルキルアンモニウムイオンの具体例は、ジイソプロピルアンモニウムイオン及びジシクロヘキシルアンモニウムイオン等である。
ホスホニウムイオンは、例えば、トリアリールホスホニウムイオン等である。このトリアリールホスホニウムイオンの具体例は、トリフェニルホスホニウムイオン、トリ(メチルフェニル)ホスホニウムイオン及びトリ(ジメチルフェニル)ホスホニウムイオン等である。
遷移金属を構成元素として含むフェロセニウムイオンの具体例は、遷移金属として鉄(Fe)を含むフェロセニウムイオン等である。
この他、有機系イオンは、例えば、ピリジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、テトラエチルホスホニウムイオン、テトラメチルホスホニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオン、トリフェニルスルホニウムイオン及びトリエチルスルホニウムイオン等でもよい。尚、ピリジニウムイオン及びイミダゾリウムイオンのそれぞれには、1又は2以上の置換基が導入されていてもよい。この置換基の種類は、特に限定されないが、例えば、後述するアルキル基等である。
また、有機系イオンは、例えば、下記の式(1)で表されるイミダゾリウム系イオンでもよい。
(式中、R1及びR2のそれぞれは、1価の無置換炭化水素基及び1価の有置換炭化水素基のうちのいずれかである。R3〜R8のそれぞれは、水素原子、1価の無置換炭化水素基及び1価の有置換炭化水素基のうちのいずれかである。R9は、下記の式(2)及び式(3)のそれぞれで表される2価の基のうちのいずれかである。nは、0以上の整数である。)
(式中、R10及びR11のそれぞれは、2価の無置換炭化水素基及び2価の有置換炭化水素基のうちのいずれかである。Z1は、エーテル結合(−O−)、2価の無置換芳香族炭化水素基及び2価の有置換芳香族炭化水素基のうちのいずれかである。m1は、1以上の整数である。)
(式中、R12〜R15のそれぞれは、2価の無置換炭化水素基及び2価の有置換炭化水素基のうちのいずれかである。Z2は、2価の無置換芳香族炭化水素基及び2価の有置換芳香族炭化水素基のうちのいずれかである。m2及びm3のそれぞれは、1以上の整数である。)
R1及びR2のそれぞれの種類は、1価の無置換炭化水素基及び1価の有置換炭化水素基のうちのいずれかであれば、特に限定されない。1価の無置換炭化水素基及び1価の有置換炭化水素基のそれぞれは、直鎖状でもよいし、1又は2以上の側鎖を有する分岐状でもよい。R1及びR2は、同じ基でもよいし、異なる基でもよい。
1価の無置換炭化水素基は、炭素(C)及び水素(H)により構成される1価の基の総称であり、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基及びそれらの2種類以上が1価となるように結合された基等である。
アルキル基の具体例は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、アミル基、イソアミル基、t−アミル基、ヘキシル基及びヘプチル基等である。アルケニル基の具体例は、ビニル基及びアリル基等である。アルキニル基の具体例は、エチニル基等である。シクロアルキル基の具体例は、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基及びシクロオクチル基等である。アリール基の具体例は、フェニル基及びナフチル基等である。
1価の無置換炭化水素基の炭素数は、特に限定されないが、極端に多すぎないことが好ましい。具体的には、アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基のそれぞれの炭素数は、1〜7であることが好ましい。シクロアルキル基及びアリール基のそれぞれの炭素数は、6又は7であることが好ましい。層状物質の分散性等が向上するからである。
1価の有置換炭化水素基は、1価の無置換炭化水素基に1又は2以上の置換基が導入された基である。すなわち、1価の有置換炭化水素基では、1価の無置換炭化水素基のうちの1又は2以上の水素原子が置換基により置換される。この置換基の種類は、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。
置換基の種類は、特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子、シアノ基(−CN)、ニトロ基(−NO2 )、水酸基(−OH)、チオール基(−SH)、カルボキシル基(−COOH)、アルデヒド基(−CHO)、アミノ基(−NR21R22)、それらの塩及びそれらのエステルなどである。ハロゲン原子は、例えば、フッ素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)及びヨウ素原子(I)等である。R21及びR22のそれぞれは、水素原子及び1価の無置換炭化水素基のうちのいずれかであり、その1価の無置換炭化水素基に関する詳細は、上記した通りである。R21及びR22は、同じ基でもよいし、異なる基でもよい。もちろん、置換基の種類は、上記以外の基でもよい。
R3〜R6のそれぞれの種類は、水素原子、1価の無置換炭化水素基及び1価の有置換炭化水素基のうちのいずれかであれば、特に限定されない。R3〜R6は、同じ基でもよいし、異なる基でもよい。もちろん、R3〜R6のうちの任意の2以上が同じ基でもよい。1価の無置換炭化水素基及び1価の有置換炭化水素基のそれぞれに関する詳細は、上記した通りである。
繰り返し単位の数を決定するnの値は、0以上の整数であれば、特に限定されない。すなわち、nの値は、0でもよいし、1以上でもよい。中でも、nは、30以下であることが好ましい。層状物質の分散性等が向上するからである。
R7及びR8のそれぞれの種類は、原則として、水素原子、1価の無置換炭化水素基及び1価の有置換炭化水素基のうちのいずれかであれば、特に限定されない。R7及びR8は、同じ基でもよいし、異なる基でもよい。nが2以上の整数であるため、R8が複数ある場合には、R7及びR8のうちの任意の2以上が同じ基でもよい。1価の無置換炭化水素基及び1価の有置換炭化水素基のそれぞれに関する詳細は、上記した通りである。
中でも、R7及びR8のうちの1又は2以上は、1価の無置換炭化水素基であることが好ましい。この場合には、R7及びR8に1価の無置換炭化水素基が含まれていれば、その1価の無置換炭化水素基の数は、1つだけでもよいし、2つ以上でもよい。すなわち、R8が複数ある場合には、R7が1価の無置換炭化水素基でもよいし、複数のR8のうちの1以上が1価の無置換炭化水素基でもよい。R7及びR8のうちの1以上が1価の無置換炭化水素基であるのは、R7及びR8に1価の無置換炭化水素基が含まれていると、R7及びR8に1価の無置換炭化水素基が含まれていない場合と比較して、層状物質の分散性等が向上する。
より具体的には、nの値が0である場合には、R7は、1価の無置換炭化水素基であることが好ましい。又は、nの値が1以上である場合には、R7及びR8のうちの1以上が1価の無置換炭化水素基であればよいが、中でも、R7及びR8のうちの全ては、1価の無置換炭化水素基であることが好ましい。いずれの場合においても、層状物質の分散性等がより向上するからである。
尚、R7及びR8のうちの1以上である1価の無置換炭化水素基の種類は、上記した1価の無置換炭化水素基に関する候補のうちのいずれかであれば、特に限定されない。中でも、1価の無置換炭化水素基は、nの値に関係せずに、アルキル基であることが好ましい。層状物質の分散性等がより向上するからである。
R9は、式(2)に示した2価の基でもよいし、式(3)に示した2価の基でもよい。nが2以上であるため、R9が複数ある場合には、その複数のR9は、同じ基でもよいし、異なる基でもよい。もちろん、複数のR9のうちの任意の2以上が同じ基でもよい。
R10及びR11のそれぞれの種類は、2価の無置換炭化水素基及び2価の有置換炭化水素基のうちのいずれかであれば、特に限定されない。2価の無置換炭化水素基及び2価の有置換炭化水素基のそれぞれは、直鎖状でもよいし、1又は2以上の側鎖を有する分岐状でもよい。R10及びR11は、同じ基でもよいし、異なる基でもよい。m1が2以上であるため、R10が複数ある場合には、その複数のR10は、同じ基でもよいし、異なる基でもよい。もちろん、複数のR10のうちの任意の2以上が同じ基でもよい。
2価の無置換炭化水素基は、上記したように、炭素及び水素により構成される2価の基の総称であり、例えば、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、シクロアルキル基、アリーレン基及びそれらの2種類以上が2価となるように結合された基等である。
アルキレン基の具体例は、メタン−1,1−ジイル基、エタン−1,2−ジイル基、プロパン−1,3−ジイル基、ブタン−1,4−ジイル基、エタン−1,1−ジイル基、プロパン−1,2−ジイル基、ブタン−1,2−ジイル基、ブタン−1,3−ジイル基及びブタン−2,3−ジイル等である。アルケニレン基の具体例は、ビニレン基等である。アルキニレン基の具体例は、エチニレン基等である。シクロアルキレン基の具体例は、シクロプロピレン基及びシクロブチレン基等である。アリーレン基の具体例は、フェニレン基及びナフチレン基等である。
2価の無置換炭化水素基の炭素数は、特に限定されないが、極端に多すぎないことが好ましい。具体的には、アルキレン基、アルケニレン基及びアルキニレン基のそれぞれの炭素数は、1〜4であることが好ましい。シクロアルキレン基及びアリーレン基のそれぞれの炭素数は、6であることが好ましい。層状物質の分散性等が向上するからである。
2価の有置換炭化水素基は、上記したように、2価の無置換炭化水素基に1又は2以上の置換基が導入された基である。尚、置換基の種類等に関する詳細は、上記した通りである。
Z1の種類は、エーテル結合、2価の無置換芳香族炭化水素基及び2価の有置換芳香族炭化水素基のうちのいずれかであれば、特に限定されない。m1が2以上であるため、Z1が複数ある場合には、その複数のZ1は、同じ基でもよいし、異なる基でもよい。もちろん、複数のZ1のうちの任意の2以上が同じ基でもよい。
2価の無置換芳香族炭化水素基は、炭素及び水素により構成されると共に環状の共役系構造を有する2価の基の総称であり、例えば、アリーレン基等である。このアリーレン基の具体例は、単環式のフェニレン環等であると共に、多環式のナフチレン基等である。
2価の無置換芳香族炭化水素基は、2つの結合手を有しているが、その2つの結合手の位置は、特に限定されない。一例を挙げると、2価の無置換芳香族炭化水素基がフェニレン基である場合において、1つ目の結合手の位置に対する2つ目の結合手の位置は、オルト位でもよいし、メタ位でもよいし、パラ位でもよい。中でも、2つ目の結合手の位置は、パラ位であることが好ましい。イオン液体の化学的安定性が向上すると共に、分散性等も向上するからである。
2価の有置換芳香族炭化水素基は、2価の無置換芳香族炭化水素基に1又は2以上の置換基が導入された基である。尚、置換基の種類等に関する詳細は、上記した通りである。
繰り返し単位の数を決定するm1の値は、1以上の整数であれば、特に限定されない。中でも、m1は、30以下であることが好ましい。層状物質の分散性等が向上するからである。
R12〜R15のそれぞれの種類は、2価の無置換炭化水素基及び2価の有置換炭化水素基のうちのいずれかであれば、特に限定されない。R12〜R15は、同じ基でもよいし、異なる基でもよい。もちろん、R12〜R15のうちの任意の2以上が同じ基でもよい。m2が2以上であるため、R13が複数ある場合には、その複数のR13は、同じ基でもよいし、異なる基でもよい。また、複数のR13のうちの任意の2以上が同じ基でもよい。同様に、m3が2以上であるため、R14が複数ある場合には、その複数のR14は、同じ基でもよいし、異なる基でもよい。また、複数のR14のうちの任意の2以上が同じ基でもよい。2価の無置換炭化水素基及び2価の有置換炭化水素基のそれぞれに関する詳細は、上記した通りである。
Z2の種類は、2価の無置換芳香族炭化水素基及び2価の有置換芳香族炭化水素基のうちのいずれかであれば、特に限定されない。2価の無置換芳香族炭化水素基及び2価の有置換芳香族炭化水素基のそれぞれに関する詳細は、上記した通りである。
繰り返し単位の数を決定するm2及びm3のそれぞれの値は、1以上の整数であれば、特に限定されない。中でも、m2及びm3のそれぞれは、30以下であることが好ましい。層状物質の分散性等が向上するからである。
中でも、イミダゾリウム系イオンの構成は、以下の条件を満たしていることが好ましい。容易に合成可能であると共に、層状物質の分散性等がより向上するからである。
両末端に位置するR1及びR2のそれぞれは、直鎖状のアルキル基であることが好ましく、より具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基及びn−ヘキシル基等であることが好ましい。イミダゾリウム環に導入されるR3〜R6のそれぞれは、水素原子であることが好ましい。イミダゾリウム環に導入されるR7及びR8のそれぞれは、直鎖状のアルキル基であることが好ましく、より具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基及びn−ヘキシル基等であることが好ましい。イミダゾリウム環同士を接続させる基(R9)に含まれるR10〜R15のそれぞれは、直鎖状のアルキレン基であることが好ましく、より具体的には、エチレン基であることが好ましい。
繰り返し単位の数を決定するnの値は、0〜2の整数であることが好ましい。nの値が大きくなりすぎると、イオン液体の粘度が増大するため、後述する層状物質含有液の製造工程において、音波等の照射による効果(層状物質の剥離しやすさ)が得られにくくなる可能性があるからである。また、層状物質含有液の精製処理を行う必要がある場合には、その精製処理を行いにくくなる可能性があるからである。
m1の値は、1〜5であることが好ましいと共に、m2及びm3のそれぞれの値は、2又は3であることが好ましい。
尚、上記した1価の無置換炭化水素基には、以下で説明する連結基のうちのいずれか1種類又は2種類以上が含まれていてもよい。
この連結基の種類は、2価の基であれば、特に限定されない。連結基の具体例は、−O−)、−CO−、−COO−、−OCO−、−NR23−及び−S−等である。R23は、水素原子及び1価の無置換炭化水素基のうちのいずれかである。
ここで説明する連結基は、1価の無置換炭化水素基に、炭素鎖を一回又は二回以上分断するように導入される。一例を挙げると、エチル基(−CH2 −CH3 )に1つのエーテル基が導入されると、−CH2 −O−CH3 になる。又は、プロピレン基(−CH2 −CH2 −CH3 )に2つのエーテル基が導入されると、−CH2 −O−CH2 −O−CH3 になる。
このように連結基が導入されてもよいことは、1価の有置換炭化水素基、2価の無置換炭化水素基、2価の有置換炭化水素基、2価の無置換芳香族炭化水素基及び2価の有置換芳香族炭化水素基のそれぞれに関しても同様である。
一例を挙げると、エチレン基(−CH2 −CH2 −)に1つのエーテル基が導入されると、−CH2 −O−CH2 −になる。又は、プロピレン基(−CH2 −CH2 −CH2 −)に2つのエーテル基が導入されると、−CH2 −O−CH2 −O−CH2 −になる。
なお、カチオンの種類は、ここで例示した陽イオンに限らず、他の陽イオンでもよい。
<1−1−2.アニオン>
アニオンは、任意の陰イオンのうちのいずれか1種類又は2種類以上を含んでいる。この陰イオンの価数は、特に限定されない。
陰イオンは、例えば、pAnq-で表される。但し、Anq-は、q価の陰イオンである。pは、イオン液体の全体を中性に保つために必要な係数であり、そのpの値は、陰イオンの種類に応じて決定される。pとqとの積(p×q)は、カチオンの全体の価数に等しくなる。
この陰イオンは、長周期型周期表の15族元素(E)とフッ素(F)との結合を有していないイオン(第1アニオン)を含んでいる。
「長周期型周期表の15族元素」とは、上記したように、リン(P)、ヒ素(As)及びアンチモン(Sb)等を含んでおり、より具体的には、例えば、リン及びヒ素を含んでいる。
「長周期型周期表の15族元素(E)とフッ素(F)との結合」とは、上記したように、いわゆるE−F結合であり、15族元素の原子に対してフッ素原子が直接的に結合されていることを意味している。このため、15族元素の原子に対してフッ素原子が任意の原子を介して間接的に結合されている場合には、その結合は、E−F結合に該当しない。この場合の結合は、いわゆるE−X−F結合(Xは、15族元素以外の元素の原子である。)であるため、15族元素の原子に対してフッ素原子が直接的に結合されていないからである。尚、Xの数は、1でもよいし、2以上でもよい。
例えば、15族元素がリンである場合のE−F結合は、P−F結合である。また、15族元素がヒ素である場合のE−F結合は、As−F結合である。
以下では、E−F結合を有していないイオンを「非E−F結合含有イオン」と呼称する。
この非E−F結合含有イオンの構成は、E−F結合を有していなければ、特に限定されない。このため、非E−F結合含有イオンは、上記したように、E−F結合を有していなければ、フッ素を構成元素として含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。すなわち、15族元素の原子以外の原子にフッ素原子が直接的に結合されている場合には、フッ素は、非E−F結合含有イオンに構成元素として含まれていてもよい。
非E−F結合含有イオンのうち、1価のイオンは、例えば、ハロゲンイオン、無機系イオン、有機スルホン酸系イオン及び有機リン酸系イオン等である。
ハロゲンイオンの具体例は、フッ素イオン(F- )、塩素イオン(Cl- )、臭素イオン(Br- )及びヨウ素イオン(I- )等である。
無機系イオンの具体例は、過塩素酸イオン(ClO4 -)、塩素酸イオン(ClO3 -)、チオシアン酸イオン(SCN- )、六フッ化アンチモンイオン(SbF6 -)及び四フッ化ホウ素イオン(BF4 -)等である。
有機スルホン酸系イオンの具体例は、ベンゼンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ジフェニルアミン−4−スルホン酸イオン、2−アミノ−4−メチル−5−クロロベンゼンスルホン酸イオン及び2−アミノ−5−ニトロベンゼンスルホン酸イオン等である。この他、特開平8−253705号公報、特表2004−503379号公報、特開2005−336150号公報、及び国際公開2006/28006号公報等に記載されている有機スルホン酸イオンでもよい。
有機リン酸系イオンの具体例は、オクチルリン酸イオン、ドデシルリン酸イオン、オクタデシルリン酸イオン、フェニルリン酸イオン、ノニルフェニルリン酸イオン及び2,2’−メチレンビス(4,6−ジ第三ブチルフェニル)ホスホン酸イオン等である。
この他、1価の陰イオンは、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン((CF3 SO2 )2 N- )、ビス(パーフルオロブタンスルホニル)イミドイオン((C4 F9 SO2 )2 N- )、パーフルオロ−4−エチルシクロヘキサンスルホネートイオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン、トリス(フルオロアルキルスルホニル)カルボイオン及びジベンゾイル酒石酸アニオン等でもよい。
非E−F結合含有イオンのうち、2価のイオンは、例えば、ベンゼンジスルホン酸イオン及びナフタレンジスルホン酸イオン等である。
なお、非E−F結合含有イオンに該当しないイオンは、15族元素とフッ素との結合(E−F結合)を有しているイオン(第2アニオン)である。E−F結合の数は、1でもよいし、2以上でもよい。
以下では、E−F結合を有しているイオンを「E−F結合含有イオン」と呼称する。
このE−F結合含有イオンの構成は、E−F結合を有していれば、特に限定されない。E−F結合含有イオンの具体例は、六フッ化リン酸イオン(PF6 -)、六フッ化ヒ酸イオン(AsF6 -)及びトリフルオロトリス(ペンタフルオロエチル)リン酸イオン(PF3 (C2 F5 )3 -)等である。
ここで、アニオンが非E−F結合含有イオンを含んでいるのは、イオン液体の取り扱い時、より具体的には、後述する層状物質含有液の製造工程において、安全性が確保されながら、イオン液体中において層状物質が高濃度に分散されるからである。
詳細には、アニオンが非E−F結合含有イオンを含んでおらず、そのアニオンがE−F結合含有イオンだけを含んでいるとする。この場合には、主に、後述する音波等の照射工程等において、E−F結合の存在に起因して層状物質含有液中にフッ化水素酸が発生しやすくなる。このフッ化水素酸は、人間が触れただけで激しく体を侵される可能性があると共に、ガラス等を容易に腐食する可能性がある危険物である。これにより、フッ化水素酸が発生すると、層状物質含有液を用いて層状物質を高濃度に分散できたとしても、その層状物質含有液の取り扱い時における安全性が低下する。
これに対して、アニオンが非E−F結合含有イオンを含んでいる場合には、そのアニオンが非E−F結合含有イオンを含んでいない場合と比較して、層状物質含有液中にフッ化水素酸が発生しにくくなる。アニオンの量を一定とした場合、アニオンが非E−F結合含有イオンを含んでいると、その非E−F結合含有イオンが存在する分だけフッ化水素酸の発生確率が低下するからである。これにより、層状物質含有液を用いて層状物質を高濃度に分散できるだけでなく、その層状物質含有液の取り扱い時における安全性が向上する。
中でも、非E−F結合含有イオンは、フッ素を構成元素として含んでいないことが好ましい。フッ化水素酸の発生確率がより低下し得るため、安全性がより向上するからである。また、後述する層状物質含有液の製造工程において、層状積層物から層状物質が剥離しやすくなるからである。
詳細には、フッ素を構成元素として含んでいない非E−F結合含有イオンに起因するフッ化水素酸の発生確率は、フッ素を構成元素として含んでいる非F−F結合含有イオンに起因するフッ化水素酸の発生確率と比較して、低下し得る。前者の非E−F結合含有イオンの具体例は、ヨウ素イオン(I- )等であると共に、後者の非E−F結合含有イオンの具体例は、四フッ化ホウ酸イオン(BF4 -)等である。このため、安全性を十分に考慮すると、非E−F結合含有イオンは、フッ素を構成元素として含んでいるよりも、含んでいないことが好ましい。
但し、フッ素を構成元素として含んでいる非E−F結合含有イオンに起因するフッ化水素酸の発生確率は、E−F結合含有イオンに起因するフッ化水素酸の発生確率よりも低下する。前者の非E−F結合含有イオンの具体例は、上記したように、四フッ化ホウ酸イオン(BF4 -)等であると共に、後者のE−F結合含有イオンの具体例は、六フッ化リン酸イオン(PF6 -)等である。このため、安全性を考慮すると、非E−F結合含有イオンは、フッ素を構成元素として含んでいたとしても、E−F結合含有イオンよりは好ましい。
これらのことから、アニオンとして用いる陰イオンに関する序列は、以下の通りになる。E−F結合含有イオンよりも、非E−F結合含有イオンが好ましい。また、非E−F結合含有イオンの中でも、フッ素を構成元素として含んでいる非E−F結合含有イオンよりも、フッ素を構成元素として含んでいない非E−F結合含有イオンが好ましい。
なお、陰イオンは、非E−F結合含有イオンだけを含んでいてもよい。又は、陰イオンは、非E−F結合含有イオンを含んでいれば、さらにE−F結合含有イオンのうちのいずれか1種類又は2種類以上を含んでいてもよい。
但し、陰イオンが非E−F結合含有イオンとE−F結合含有イオンとを一緒に含んでいる場合には、イオン液体中における非E−F結合含有イオンの含有量は、イオン液体中におけるE−F結合含有イオンの含有量よりも大きいことが好ましい。言い替えれば、イオン液体中における非E−F結合含有イオンの含有量Cは、50mol%<C<100mol%を満たしていることが好ましい。
イオン液体中に含まれる陰イオンの量(mol)を一定とする。この場合には、イオン液体中における非E−F結合含有イオンの含有量Cが上記した条件を満たしていると、その条件を満たしていない場合と比較して、E−F結合含有イオンの存在に起因するフッ化水素酸の発生確率が低下するからである。
なお、イオン液体中における非E−F結合含有イオンの含有量Cは、70mol%≦C≦100mol%を満たしていることがより好ましい。フッ化水素酸の発生確率がより低下するからである。
<1−2.層状物質>
層状物質は、上記したように、層状の薄い物質であり、いわゆるナノシートである。
この層状物質は、単層に限らず、層数が十分に少なければ、多層でもよい。尚、ここで説明する層状物質は、後述する層状物質含有液の製造工程において、複数の層状物質の積層物から剥離したものである。尚、層状物質の種類は、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。
層状物質は、上記したように、1種類の元素だけを構成元素として含んでいる物質(単元素層状物質)でもよいし、2種類以上の元素を構成元素として含んでいる物質(多元素層状物質)でもよい。但し、多元素層状物質では、各層が1種類の元素だけを構成元素として含んでいてもよいし、2種類以上の元素を構成元素として含んでいてもよい。
単元素層状物質の種類は、特に限定されない。この単元素層状物質の具体例は、グラファイト等である。
多元素層状物質の種類は、特に限定されない。この多元素層状物質は、例えば、金属カルコゲン化物、金属酸化物・金属オキシハロゲン化物、金属リン酸塩、粘土鉱物・ケイ酸塩、複水酸化物、層状チタン酸化物、層状ペロブスカイト酸化物及び窒化ホウ素類等である。
金属カルコゲン化物の具体例は、MX2 (Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo及びW等である。Xは、S、Se及びTe等である。)及びMPX3 (Mは、Mg、V、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Cd及びIn等である。Xは、S、Se及びTe等である。)等である。
金属酸化物・金属オキシハロゲン化物の具体例は、Mx Oy (Mは、Ti、Mn、Mo及びV等である。)、MOXO4 (Mは、Ti、V、Cr及びFe等である。Xは、P及びAs等である。)、MOX(Mは、Ti、V、Cr及びFe等である。Xは、Cl及びBr等である。)、LnOCl(Lnは、Yb、Er及びTm等である。)、K[Ca2 Nan-3 Nbn O3n+1](nは、3≦n<7を満たす。)で表されるニオブ酸塩、及びチタン酸塩等である。尚、Mx Oy の具体例は、MoO3 、Mo18O52、V2 O5 、LiNbO2 及びLix V3 O8 等である。チタン酸塩の具体例は、K2 Ti4 O9 及びKTiNbO5 等である。
金属リン酸塩の具体例は、M(HPO4 )2 (Mは、Ti、Zr、Ce及びSn等である。)及びZr(ROPO3 )2 (Rは、H、Rh及びCH3 等である。)等である。
粘土鉱物・ケイ酸塩の具体例は、スメクタイト族、カオリン族、パイロフィライト−タルク、バーミキュライト、雲母群、脆雲母群、緑泥石群、セピオライト−パリゴルスカイト、イモゴライト、アロフェン、ヒシンゲライト、マガディアイト及びカネマイト等である。尚、スメクタイト族の具体例は、モンモリロナイト及びサポナイト等である。カオリン族の具体例は、カオリナイト等である。
複水酸化物の具体例は、[M2+ 1-x M3+ x (OH)2 ][An- ]x/n ・zH2 O(M2+は、Mg2+及びZn2+等である。M3+は、Al3+及びFe3+等である。An- は、任意のアニオンである。)等である。
層状チタン酸化物の具体例は、二チタン酸カリウム(K2 Ti2 O5 )及び四チタン酸カリウム(K2 Ti4 O9 )等である。
層状ペロブスカイト酸化物の具体例は、KCa2 Nb3 O10、KSr2 Nb3 O10及びKLaNb2 O7 等である。
窒化ホウ素類は、窒素(N)及びホウ素(B)を構成元素として含む化合物の総称である。この窒化ホウ素類の具体例は、窒化ホウ素(BN)及び窒化炭素ホウ素(BCN)等である。
尚、層状物質の平均粒径は、特に限定されないが、中でも、100μm以下であることが好ましく、1μm〜100μmであることがより好ましい。分散性等が向上するからである。この平均粒径は、いわゆるメジアン径(累積50%に相当するD50)である。
<1−3.他の材料>
尚、層状物質含有液は、上記したイオン液体及び層状物質と一緒に、他の材料のうちのいずれか1種類又は2種類以上を含有していてもよい。
他の材料は、例えば、有機溶剤(上記したイオン液体を除く)等である。有機溶剤の具体例は、水及びエタノール等である。
<2.層状物質含有液の製造方法>
次に、上記した層状物質含有液の製造方法に関して説明する。尚、以下では、複数の層状物質の積層物を「層状積層物」という。
<2−1.層状物質含有液の調製>
層状物質含有液を調製する場合には、最初に、例えば、任意の合成手順により、非E−F結合含有イオンのうちのいずれか1種類又は2種類以上をアニオンとして含むイオン液体を準備する。尚、カチオンの種類は、任意でよい。
続いて、イオン液体に層状積層物を添加して、そのイオン液体中に層状積層物を含有させる。この場合には、必要に応じて、イオン液体を撹拌してもよい。これにより、イオン液体中に層状積層物が分散される。
最後に、層状積層物を含有するイオン液体に、音波及び電波のうちの一方又は双方を照射する。
音波の種類は、特に限定されないが、中でも、超音波を用いることが好ましい。層状積層物から層状物質が剥離しやすくなるからである。超音波を用いる場合には、例えば、任意の超音波分散機を使用可能であるが、中でも、ホーンタイプの超音波分散機を用いることが好ましい。超音波の周波数、振幅及び照射時間等の条件は、特に限定されない。一例を挙げると、周波数は10kHz〜1MHz、振幅は1μm〜100μm(ゼロツーピーク値)であると共に、照射時間は1分間以上、好ましくは1分間〜6時間である。
電波の種類は、特に限定されないが、中でも、マイクロ波を用いることが好ましい。層状積層物から層状物質が剥離しやすくなるからである。マイクロ波を用いる場合には、例えば、任意のマイクロ波オーブンを使用可能である。マイクロ波の出力、周波数、及び照射時間等の条件は、特に限定されない。一例を挙げると、出力は500W、周波数は2.4GHzであると共に、照射時間は10秒間以上、好ましくは10秒間〜10分間である。但し、出力が1W〜100W、周波数が2.4GHz、照射時間が0.2時間〜48時間である低エネルギーのマイクロ波を用いてもよい。
この照射処理により、層状積層物から1又は2以上の層状物質が剥離すると共に、その層状物質がイオン液体中に分散されるため、層状物質含有液が得られる。照射処理後の層状物質含有液中には、層状積層物が残存していてもよいし、残存していなくてもよい。
尚、照射工程では、上記した照射条件(周波数等)を変更することで、層状物質の剥離量、すなわち層状物質含有液の濃度を制御できる。このため、層状物質の剥離量が増大するように照射条件を設定することで、高濃度の層状物質含有液が得られる。具体的には、照射時間を長くすれば、層状物質の剥離量が増大するため、層状物質含有液の濃度が高くなる。これにより、層状物質含有液の濃度は、最大で10mg/cm3 (=10mg/ml)以上、好ましくは20mg/cm3 (=20mg/ml)以上、より好ましくは40mg/cm3 (=40mg/ml)以上になる。
<2−2.層状物質含有液の精製>
層状物質含有液を調整した後、必要に応じて、その層状物質含有液を精製してもよい。
層状物質含有液を精製する場合には、例えば、その層状物質含有液(照射処理後のイオン液体)を遠心分離する。ただし、精製以外の理由により、層状物質含有液を遠心分離してもよい。この場合には、例えば、任意の遠心分離機を使用可能である。遠心分離条件は、任意に設定可能である。この遠心分離処理により、層状物質含有液は、例えば、残存する層状積層物及び不純物等を含む固相と、層状物質を含む液相(上澄み液)とに分離される。尚、層状物質含有液を遠心分離する場合には、その層状物質含有液のうちの一部だけを遠心分離してもよいし、全部を遠心分離してもよい。
この遠心分離処理の後、層状物質含有液から液相のうちの一部又は全部を回収してもよい。これにより、層状物質含有液から不純物等が除去されるため、その層状物質含有液が精製される。この場合には、遠心分離条件を変更することで、層状物質含有液の濃度(層状物質の純度)を調整できる。
<3.作用及び効果>
上記した層状物質含有液及びその製造方法によれば、アニオンとして非E−F結合含有イオンを含むイオン液体に層状積層物を含有させて、その層状積層物を含有するイオン液体に音波等を照射している。
この場合には、含有処理及び照射処理という簡単な処理だけを用いているにも関わらず、層状積層物から層状物質が簡単に剥離するため、その層状物質がイオン液体中において高濃度に分散される。これにより、層状物質は安定かつ再現性よく剥離するため、その層状物質の層数は均一化する。また、剥離時において層状物質は破損しにくいため、その層状物質の面積は十分に大きくなる。
しかも、上記した音波等の照射工程において、イオン液体中にフッ化水素酸が発生しにくくなる。これにより、層状物質含有液の取り扱いに関する安全性が向上する。
よって、高品質な層状物質を容易かつ安全に得ることができる。
特に、非E−F結合含有イオンがフッ素を構成元素として含んでいなければ、より高い効果を得ることができる。
また、アニオンが非E−F結合含有イオンとE−F結合含有アニオンとを含んでおり、イオン液体中における非E−F結合含有イオンの含有量Cが50mol%<C<100mol%を満たしていれば、より高い効果を得ることができる。
この他、音波として超音波、電波としてマイクロ波を用いれば、層状積層物から層状物質から剥離しやすくなるため、より高い効果を得ることができる。
また、照射後のイオン液体を遠心分離すると共に、遠心分離後のイオン液体から液相(上澄み液)を回収すれば、層状物質の純度が向上するため、より高い効果を得ることができる。
以下では、本発明の実施例に関して、下記の順序で詳細に説明する。但し、本発明の態様は、ここで説明する態様に限定されない。
1.イオン液体の合成
2.層状物質含有液の製造
3.層状物質含有液の評価
3−1.層数分布
3−2.安全性
<1.イオン液体の合成>
以下の手順により、イオン液体として化合物1〜3を合成した。
まず、アニオンとして非E−F結合含有イオン(CH3 −C6 H4 −SO3 -)を含む化合物1を合成した。
最初に、アルゴンガス(Ar)の雰囲気下において、卜リエチレングリコールビス(p−トルエンスルホン酸エステル)(62.369g,0.136mol)のアセ卜ニトリル溶液(40cm3 =40ml)に、1−ブチルイミダゾール(37.159g,0.299mol)を混合させた後、その混合物を撹拌(60℃×72時間)した。続いて、減圧環境下において混合物(反応物)を濃縮及び乾固した後、その混合物(粘稠な残渣)に塩化メチレン(10cm3 =10ml)を添加した。続いて、酢酸エチル(50cm3 =50ml)を用いて二層分離を3回行うことで、イオン液体相を得た。続いて、ロータリーエバポレータと共に五酸化リン(P2 O5 )を用いて、真空オーブン(105℃)中においてイオン液体相を一晩乾燥させた。これにより、化合物1が得られた。尚、化4に示した「OTs」は、p−トルエンスルホン酸基(いわゆるトシル基)を表していると共に、「n−Bu」は、n−ブチル基を表している。
化合物1は、薄黄色の粘稠な液体であると共に、その化合物1の収率は、81%(579g,0.129mol)であった。尚、核磁気共鳴(NMR)法を用いて化合物1を分析したところ、以下の結果が得られた。
1H−NMR(500MHz,DMSO−d6,25℃)d(ppm)9.7(s,2H),7.81(t,J=1.5Hz,2H),7.74(t,J=1.5Hz,2H)、7.48(d,J=8.5Hz,4H),7.2(d,J=7.9Hz,4H),4.33(t,J=4.9Hz,4H),4.17(t,J=7.0Hz,4H),3.73(t,J=4.9Hz,4H),3.51(s,4H),2.29(s,6H),1.75(dt,J=15.0,7.0Hz,4H),1.22(td,J=15.0,75Hz,4H),0.88(t,J=7.3Hz,6H)
13C−NMR(125MHz,DMSO−d6,25℃)d(ppm)145.7,137.6,136.3,125.5,122.8,122.3,69.3,68.1,48.7,48.5,31.3,20.8,18.7,13.2
ESI−MS:m/z535.29([M−OTs]+ ,calcd. for C27H43N4 O5 S+ 535.30)
また、上記した化合物1を用いて、アニオンとしてE−F結合含有アニオン(PF6 -)を含む化合物2を合成した。
最初に、化合物1(38.179g,0.054mol)のアセ卜ニトリル溶液(MeCN,30cm3 =30ml)に、ヘキサフルオロリン酸カリウムの水溶液(KPF6 /H2 O,239g,0.125mol)を混合させた後、その混合物を撹拌(室温×2時間)した。この後、混合物を放置することで、混合物(反応物)は水相とイオン液体相とに分離した。続いて、混合物から上澄みの水相を除去した。続いて、イオン液体相に塩化メチレン(10cm3 =10ml)を添加した後、蒸留水(30cm3 =30ml)を用いてイオン液体相を3回洗浄した。続いて、硫酸ナトリウム(Na2 SO4 )を用いてイオン液体相を乾燥させた後、ロータリーエバポレータと共に五酸化リンを用いて真空オーブン(105℃)中においてイオン液体相を一晩乾燥させた。これにより、化合物2が得られた。
化合物2は、粘稠な液体であると共に、その化合物2の収率は、85%(30.39g,0.046mol)であった。尚、NMR法を用いて化合物2を分析したところ、以下の結果が得られた。
1H−NMR(500MHz,DMSO−d6,25℃)d(ppm)9.3(s,2H),7.79(t,J=1.8Hz,2H),7.72(t,J=1.8Hz,2H),4.33(t,J=4.9Hz,4H),4.8(t,J=7.0Hz,4H),3.74(t,J=5.2Hz,4H),3.52(s,4H),1.77(dt,J=15.3,6.9Hz,4H),1.25(td,J=15.0,7.3Hz,4H),0.90(t,J=7.3Hz,6H)
13C−NMR(125MHz,DMSO−d6,25℃)d(ppm)136.3,122.8,122.2,69.3,68.1,48.8,48.6,31.3,18.7,13.2
ESI−MS:m/z509.25([M−PF6 ]+ ,calcd. for C20H36F6 N4 O2 P+ 509.25)
さらに、ヘキサフルオロリン酸カリウム水溶液に代えてテトラフルオロホウ酸水溶液を用いたことを除き、上記した化合物2の合成手順と同様の手順により、アニオンとして非E−F結合含有イオン(BF4 -)を含む化合物3を合成した。
<2.層状物質含有液の製造>
以下の手順により、層状物質含有液を製造した。
(実験例1〜12)
最初に、層状積層物(グラファイト)100mgと、表1に示したイオン液体1ml(=1cm3 )とを混合した。
グラファイトとしては、人造黒鉛(SECカーボン株式会社製SGL−12)を用いた。この人造黒鉛の平均粒径(D50)は12μm、純度は99.8%であった。尚、表1において、「種類」は、イオン液体の種類を表している。また、「アニオン」は、アニオンの構成を表していると共に、「イオン種」は、アニオンとして用いたイオンの種類(非E−F結合含有イオン又はE−F結合含有イオン)を表している。
実験例1〜3では、イオン液体として、上記した製造工程により製造されたイオン液体(化合物1〜3)を用いた。また、実験例4〜12では、イオン液体として、市販のイオン液体(いずれもメルク株式会社製)を用いた。
実験例4〜12において用いたイオン液体に関する詳細は、以下の通りである。
実験例4:BMIm・BF4 (1-buthyl-3-methylimidazolium tetrafluoroborate)
実験例5:BMIm・TFSI(1-butyl-3-methylimidazolium bis(trifluoromethylsulfonyl)imide )
実験例6:BMIm・AcO(1-buthyl-3-methylimidazolium acetate)
実験例7:BMIm・CH3 SO3 (1-buthyl-3-methylimidazolium mesylate )
実験例8:BMIm・I(1-butyl-3-methylimidazolium iodide)
実験例9:Bpy・TFSI(1-butylpyridinium bis(trifluoromethylsulfonyl)imide )
実験例10:Ph3 T・TFSI(Trihexyltetradecylphosphonium bis(trifluoromethylsulfonyl)amide )
実験例11:BMIm・PF6 (1-buthyl-3-methylimidazolium hexafluorophosphate)
実験例12:BMIm・FAP(1-buthyl-3-methylimidazolium tris(pentafluoroethyl)trifluorophosphate )
続いて、乳鉢を用いて混合物を磨り潰して(15分間)、イオン液体中に層状積層物が分散された混合液を得た。この場合には、マイクロウェーブ合成装置(Biotage社製Initiator+ )用のバイアル(0.5cm3 =0.5ml)に混合液0.68gを投入した後、そのバイアルを密閉した。
最後に、マイクロウェーブ合成装置を用いて混合液にマイクロ波を照射した。この場合には、出力=17W、照射時間=6時間とした。これにより、層状物質含有液が得られた。
<3.層状物質含有液の評価>
以下の手順により、層状物質含有液を評価した。
<3−1.層数分布>
Nature Materials(”Wetting transparency of graphene”,Javad Rafiee 等,vol.11 ,217 頁〜222 頁,2012年)に記載されている方法を用いて、層状物質含有液中に分散されている層状物質(グラフェン)の層数分布を調べたところ、図1に示した結果が得られた。この場合には、層状物質含有液のラマンスペクトル(横軸:波数(cm-1),縦軸:スペクトル強度)を測定した。このラマンスペクトルに基づいて、波数=約2600cm-1〜約2800cm-1の範囲内に検出される2Dバンドのラマンピークを判定して、層状物質の層数分布を調べた。
図1は、層状物質の層数分布を表している。図1において、層数が9層以下である物質は、本発明の層状物質を表していると共に、層数が9層よりも大きい物質は、本発明の層状積層物を表している。
図1に示した結果から明らかなように、層数分布は、層状物質を分散させるイオン液体の種類(アニオンのイオン種)に応じて変動した。
詳細には、アニオンとしてE−F結合含有イオンを用いた場合(実験例11)には、層状積層物(層数>9層)の割合が約26%以上まで増大したため、層状物質(特に層数≦3層)の割合が約22%程度にすぎなかった。
これに対して、アニオンとして非E−F結合含有イオンを用いた場合(実験例4)には、層状積層物(層数>9層)の割合が約2%程度まで減少したため、層状物質(特に層数≦3層)の割合が約70%まで増大した。
この結果は、イオン液体のアニオンとして非E−F結合含有イオンを用いると、E−F結合含有イオンを用いた場合と比較して、層状積層物から層状物質が剥離しやすくなることを表している。
<3−2.安全性>
遠心分離機(株式会社久保田製作所製マイクロ冷却遠心機3740)を用いて層状物質含有液を遠心分離(遠心力=20000G)して、その層状物質含有液中に残存している層状積層物を沈降させた。続いて、遠心分離後の層状物質含有液の液相(上澄み液)をPTFEタイプメンブレンフィルタ(ADVANTEC製T010A025A )に通して、濾液を得た。最後に、NMR(19F−NMR)法を用いて濾液0.05ml(=0.05cm3 )を分析して、その濾液中におけるフッ化水素酸の濃度(重量%)を求めたところ、表1に示した結果が得られた。
19F−NMR法を用いた分析では、1,3,5−トリフルオロベンゼンを内部標準とすると共に、溶媒としてd6−アセトンを用いて、フッ化水素酸の濃度を定量した。尚、表1に示した「N.D.」は、フッ化水素酸中のフッ素に起因するピークが検出されなかったことを表している。
イオン液体がアニオンとしてE−F結合含有イオンを含む場合(実験例2,11,12)には、フッ素に起因するピークが検出されたため、濾液中にフッ化水素酸が発生した。これに対して、イオン液体がアニオンとして非E−F結合含有イオンを含む場合(実験例1,3〜10)には、フッ素に起因するピークが検出されなかったため、濾液中にフッ化水素酸が発生しなかった。
この結果は、アニオンの種類に応じて、フッ化水素酸の発生状況が左右されることを表している。具体的には、E−F結合含有イオンを用いると、E−F結合の存在に起因してフッ化水素酸が発生する。これに対して、非E−F結合含有イオンを用いると、フッ化水素酸の発生原因であるE−F結合が存在しないため、フッ化水素酸の発生が抑制される。
表1に示した結果から、層状物質含有液に含有されているイオン液体がアニオンとして非E−F結合含有イオンを含んでいると、フッ化水素酸の発生が抑制されながら、イオン液体中において層状積層物から層状物質が簡単に剥離した。よって、層状物質含有液を用いて層状物質を容易かつ安全に得ることができた。
以上、実施形態及び実施例を挙げながら本発明を説明したが、本発明は実施形態及び実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。