以下、図面を参照して、本開示の典型的な実施形態を説明する。撮影装置1は、被検眼Eの波面収差を補正した状態で被検眼Eの眼底像を撮影する波面収差補償付眼底撮影装置である。
初めに、図1を参照して撮影装置1の概略構成を説明する。撮影装置1は、基台510と、顔支持ユニット600と、撮影部500と、を備える。顔支持ユニット600は、基台510に取り付けられている。撮影部500には、後述する光学系が収納されており、基台510の上に設けられている。顔支持ユニット600には、顎台610が設けられている。顎台610は、顔支持ユニット600の基部に対して左右方向(X方向)、上下方向(Y方向)および前後方向(Z方向)に移動可能である。本実施形態では、顎台610は、電動移動機構610aが駆動することによって、X,Y,Zの各方向に移動する。なお、電動移動機構610aは、顎台610を一方向に移動させる電動アクチュエータを、複数組み合わせた構成であってもよい。
次に、図2を参照して、撮影装置1の光学系について説明する。本実施形態の撮影装置1は、眼底撮像光学系100と、波面収差検出光学系(以下、収差検出光学系と記載する。)110と、収差補償ユニット20,30,72と、第2撮影ユニット200と、前眼部観察ユニット700と、を備える。
眼底撮像光学系100は、被検眼Eにレーザー光(照明光)を投光すると共に、レーザー光の眼底による反射光を受光して被検眼Eの眼底像を撮影する。被検眼Eの眼底は、眼底撮像光学系100によって、高解像度(高分解能)・高倍率で撮影される。以下のように、眼底撮像光学系100は、例えば、共焦点光学系を用いた走査型レーザー検眼鏡の構成を有してもよい。眼底撮像光学系100は、第1照明光学系100aと、第1撮影光学系100bと、を備える。また、本実施形態において、収差補償ユニット20,30,72は、収差補償ユニット20,30,72は、被検眼Eの収差を補正するために眼底撮像光学系100に配置される。なお、収差補償ユニットとしては、波面補償デバイス72と、第2補正ユニットと、に大別される。本実施形態において、第2補正ユニットは、2次以下の低次収差を補正するための光学系を備える。また、本実施形態において、第2補正ユニットには、視度補正部20と、乱視補正部30と、を含む。視度補正部20は、視度(つまり、デフォーカス成分)を補正するための光学系を備える。また、乱視補正部30は、乱視成分を補正するための光学系を備える。
第1照明光学系100aは、被検眼Eにレーザー光を照射すると共にレーザー光を眼底上で走査することによって、眼底を2次元的に照明する。第1照明光学系100aは、光源11(第1光源)から眼底に到るまでの光路において、光源11、レンズ12、偏光ビームスプリッタ(PBS)14、ビームスプリッタ(BS)71、凹面ミラー16、凹面ミラー17、平面ミラー18、収差補償ユニット72(波面補償デバイス72)、ビームスプリッタ(BS)75、凹面ミラー21、凹面ミラー22、走査部25、凹面ミラー26、凹面ミラー27、平面ミラー28、収差補償ユニット30(乱視補正部30)、レンズ32、平面ミラー33、収差補償ユニット20(視度補正部20)、平面ミラー35、凹面ミラー36、偏向部400、ダイクロイックミラー90、凹面ミラー41、平面ミラー42、平面ミラー43、および、凹面ミラー45、を有する。
光源11は、レーザー光を出射する。本実施形態において、レーザー光は、被検眼Eに視認されにくい近赤外域の波長を持つ。例えば、本実施形態において、光源11は、波長840nmのSLD(Super Luminescent Diode)が使用される。なお、光源11は、収束性の高い特性を持つスポット光を出射するものであればよく、例えば、半導体レーザー等であってもよい。
光源11から出射されたレーザー光は、レンズ12により平行光とされた後、PBS14、BS71、凹面ミラー16,17、平面ミラー18を介して、波面補償デバイス72に入射する。本実施形態において、レーザー光は、PBS14を通過することによって、S偏光成分のみの光束とされる。波面補償デバイス72は、入射光の波面を制御することによって、被検眼Eの高次収差を補正する。波面補償デバイス72の詳細構成については後述する。本実施形態において、レーザー光は、波面補償デバイス72からBS75に導かれた後、凹面ミラー21、凹面ミラー22にて反射され、走査部25に向かう。
本実施形態において、走査部25は、レーザー光を眼底上で2次元的に走査するために偏向部400と共に使用される。走査部25は、レーザー光の主走査に使用されるレゾナントミラーである。レーザー光は、走査部25によって、眼底上でX方向に走査される。
走査部25を経た光は、凹面ミラー26,27、平面ミラー28を介して、乱視補正部30へ入射される。
乱視補正部30は、被検眼Eの収差における乱視成分(2次)を補正するためのユニットである。乱視補正部30としては、様々な構成が考えられる。例えば、クロスシリンダレンズを備える構成であってもよい。この場合、乱視補正部30は、光軸上で向きを反対にして配置された、円柱度数の等しい1対のシリンダレンズが含まれていてもよい。更に、それぞれのシリンダレンズを独立に回転させる機構が含まれていてもよい。また、別の構成として、乱視補正部30は、円柱度数の異なる複数のレンズと、それぞれのレンズを独立して光軸に挿脱する機構、および,それぞれのレンズの光軸上における軸角度を変更する機構とを、備えたものであってもよい。
また、本実施形態において、乱視補正部30は、被検眼Eについて測定された乱視成分を示す値に応じて、乱視補正部30におけるレンズの配置が制御される。その結果、乱視成分が補正される。
乱視補正部30を経たレーザー光は、その後、レンズ32、平面ミラー33を介して、視度補正部20へ入射される。
視度補正部20は、視度補正を行うためのユニットである。視度補正部20は、駆動部20aのほかに、レンズおよび平面ミラーを1対ずつ有する。視度補正部20の平面ミラーおよびレンズが駆動部20aによって所定方向に移動されることで、光路長が調節される。その結果として、視度(つまり、被検眼Eの収差のデフォーカス成分)が補正される。
視度補正部20から平面ミラー35へ導かれた照明光は、凹面ミラー36に反射され、偏向部400に向かう。
偏向部400は、光源11から出射されたレーザー光を眼底上で上下方向(Y方向)に走査する。さらに、偏向部400は、眼底におけるレーザー光の走査範囲を移動させるためにも使用される。例えば、本実施形態において、偏向部400は、レーザー光を偏向する方向が異なる2つの光スキャナ(具体例としては、XガルバノミラーおよびYガルバノミラー)を有していてもよい。
偏向部400を経た光は、ダイクロイックミラー90、凹面ミラー41、平面ミラー42,43、および凹面ミラー45を経て、被検眼Eの瞳孔内に導かれる。レーザー光は、被検眼Eの眼底面上で集光する。眼底上では、前述したように、走査部25および偏向部400の動作によって、レーザー光が2次元的に走査される。
また、ダイクロイックミラー90は、後述する第2撮影ユニット200からの光束を透過させ、光源11および後述する光源76からの光束を反射させる特性を持つ。なお、光源11および光源76の出射端と被検眼Eの眼底とは共役とされている。このようにして、第1照明光学系100aが形成される。
次に、第1撮影光学系100bを説明する。第1撮影光学系100bは、眼底に照射されたレーザー光の反射光を受光素子56によって受光する。撮影装置1は、第1眼底画像(細胞画像、AO−SLO画像)を、受光素子56からの信号に基づいて取得する。第1撮影光学系100bは、被検眼EからBS71までの光路を、第1照明光学系100aと共用する。また、第1撮影光学系100は、BS71の反射側光路に配置された要素、即ち、平面ミラー51、PBS52、レンズ53、ピンホール板54、レンズ55、および、受光素子56を有している。なお、本実施形態では、受光素子56はAPD(アバランシェフォトダイオード)が用いられている。また、ピンホール板54は、眼底と共役な位置に置かれる。
光源11からのレーザー光の眼底反射光は、前述した第1照明光学系100aを逆に辿り、BS71、平面ミラー51のそれぞれで反射され、PBS52にてS偏光の光だけ透過される。この透過光は、レンズ53を介してピンホール板54のピンホールに焦点を結ぶ。ピンホールにて焦点を結んだ反射光は、レンズ55を経て受光素子56に受光される。なお、照明光の一部は角膜上で反射されるが、ピンホール板54により大部分が除去される。よって、受光素子56は、角膜反射の影響を抑えて、眼底からの反射光を受光できる。
受光素子56の受光信号を画像処理部(例えば、制御部800)が処理することによって、第1眼底画像(つまり、細胞画像、AO−SLO画像ともいう)が取得される。本実施形態において、1フレームの眼底画像は、走査部25の主走査と、偏向部400に設けられたY走査用のガルバノミラーの副走査によって形成される。なお、第1撮影ユニット100で取得する眼底画像(眼底像)の画角が所定の角度となるように走査部25および偏向部400におけるミラーの振れ角(揺動角度)を定める。ここでは、眼底の所定の範囲を高倍率で観察、撮影する(ここでは、細胞レベルでの観察等をする)ために、画角を1度〜5度程度とする。本実施形態では、1.5度とする。被検眼Eの視度等にもよるが、第1眼底画像の撮影範囲は、500μm角程度とされる。
さらに、偏向部400に設けられたX走査用のガルバノミラーとY走査用のガルバノミラーの反射角度が第1眼底画像の撮像画角より大きく移動されることによって、眼底における第1眼底画像の撮像位置(つまり、レーザー光の走査範囲)が変更される。
第2撮影ユニット200は、第1撮影ユニット100の画角よりも広画角の眼底画像(第2眼底画像)を取得するためのユニットである。第2眼底画像は、例えば、第1眼底画像を得るための位置指定、および位置確認用の画像として用いられる。本実施形態の第2撮影ユニット200は、被検眼Eの眼底画像を広画角(例えば20度〜60度程度)でリアルタイムに取得および観察できる構成であることが好ましい。例えば、第2撮影ユニット200として、既存の眼底カメラの観察・撮影光学系、および走査型レーザー検眼鏡(Scanning Laser Ophthalmoscope:SLO)の光学系および制御系が利用されてもよい。
前眼部観察ユニット700は、被検眼Eの前眼部を可視光にて照明し、前眼部正面像を撮像するユニットである。前眼部観察ユニット700にて撮像された画像は、モニタ850に出力される。前眼部観察ユニット700によって取得される前眼部画像は、撮影部500と被検眼Eとのアライメントに利用される。なお、ダイクロイックミラー95は、第2撮影ユニット200からの光束を透過させ、前眼部観察ユニット700からの光束を反射させる特性を持つ。
次に、収差検出光学系110について説明する。収差検出光学系110は、波面センサ73を有する。また、収差検出光学系110は、被検眼Eの眼底に測定光を投光し、測定光の眼底反射光を、指標パターン像として波面センサ73にて受光(検出)する。収差検出光学系110は、一部の光学素子を第1照明光学系100aおよび第1撮影光学系100bの光路上(本実施形態では、共通光路上)に持ち、光学系100a,100bと光路を一部共用している。つまり、本実施形態の収差検出光学系110は、光学系100a,100bの光路上に配置されたBS71から凹面ミラー45までを、光学系100a,100bと共用する。更に、収差検出光学系110は、光源76、レンズ77、PBS78、BS75、BS71、ダイクロイックミラー86、PBS85、レンズ84、平面ミラー83、レンズ82、を有する。
光源76は、被検眼Eの波面収差検出に使用される。本実施形態において、光源76は、光源11と異なる波長の光を発する。一例として、本実施形態では、測定光として、波長780nmのレーザー光を出射するレーザーダイオードが光源76として使用される。光源76から出射した測定光は、レンズ77によって平行光束とされた後、PBS78に入射される。
PBS78は、波面補償部に備えられた第1偏光手段の一例である。PBS78は、光源76から出射された光を所定の方向に偏光する。より詳細には、PBS78は、PBS14の偏向方向(つまり、S偏光)とは、直交する方向(即ち、P偏光)に偏光する。PBS78を経た光は、BS75によって反射されることによって、第1照明光学系100aの光路に導かれる。その結果、測定光は、第1照明光学系100aの光路を経て被検眼Eの眼底に集光される。
測定光は、眼底の集光位置(例えば、網膜表面)にて反射される。測定光の眼底反射光は、第1照明光学系100aの光路(つまり、第1撮影光学系100bの光路)を、投光時とは逆に辿る。途中、測定光は、波面補償デバイス72によって反射される。その後、測定光は、BS71によって反射されることによって、第1照明光学系100aの光路を外れる。更にその後、測定光は、ダイクロイックミラー86によって反射され、PBS85、レンズ84、平面ミラー83、レンズ82を経て、波面センサ73へと導かれる。
PBS85は、波面補償部に備えられた第2偏光手段である。PBS85は、光源76から被検眼Eに照射された光のうち、一方向に偏波した光(ここでは、S偏光光)を透過することによって、波面センサ73へと導光するために利用される。また、PBS85は、透過した成分とは直交する方向に偏波された成分(P偏光光)を遮断する。なお、ダイクロイックミラー86は、光源11の波長の光(840nm)を透過し、収差検出用の光源76の波長の光(780nm)を反射する特性とされる。従って、波面センサ73では、測定光の眼底反射光のうちS偏光成分を持つ光が検出される。このようにして、角膜や光学素子で反射される光が波面センサ73に検出されることを抑制している。
波面センサ73は、被検眼Eの波面収差を検出するために、収差測定用の測定光の眼底反射光を受光する。波面センサ73としては、低次収差および高次収差を含む波面収差を検出できる素子(より詳細には、ハルトマンシャック検出器、および、光強度の変化を検出する波面曲率センサ等)等が利用されてもよい。本実施形態において、波面センサ73は、例えば、多数のマイクロレンズからなるマイクロレンズアレイと、マイクロレンズアレイを透過した光束を受光させるための2次元撮像素子73a(又は、2次元受光素子)と、を有する。波面センサ73のマイクロレンズアレイは、被検眼Eの瞳と略共役な位置に配置される。また、2次元撮像素子73aの撮像面(受光面)は、被検眼Eの眼底と略共役な位置に配置される。
2次元撮像素子73aの撮像面には、マイクロレンズアレイを透過した光束によって、指標パターン像61(本実施形態では、ハルトマン像)が形成される(図示を省略する)。よって、眼底反射光は、マイクロレンズアレイを通過して2次元撮像素子73aに受光されることによって、ハルトマン像(ドットパターン像)として撮像される。本実施形態では、ハルトマン像から被検眼Eの収差情報が取得され、収差情報に基づいて波面補償デバイス72が制御される。なお、ハルトマン像の詳細については、後述する。
波面補償デバイス72は、眼底撮像光学系100の光路中(本実施形態では、眼底撮像光学系100と収差検出光学系110との共通光路中)に配置される。波面補償デバイス72は、入射光の波面を制御して被検眼Eの波面収差を補償する。波面補償デバイス72は、例えば、波面の位相を変調することで、波面を補償する構成でもよい。また、例えば、波面の各部分に対して光路長差を与えることで、波面を補償する構成であってもよい。また、これら両方の方法を併用する構成でもよいし、勿論、他の構成であってもよい。
一例として、本実施形態では、波面補償デバイス72として液晶空間光変調器が使用される場合を説明する。以下では、反射型のLCOS(Liquid Crystal On Silicon)等が使用されるものとして説明する。この場合、波面補償デバイス72は、光源11からのレーザー光(S偏光光)、該レーザー光の眼底反射光(S偏光光)、収差検出用の光(つまり、測定光)の反射光(S偏光成分)等の所定の直線偏光(S偏光)に対して収差を補正することが可能な向きに配置される。その結果、波面補償デバイス72は、入射する光のS偏光成分を変調できる。また、本実施形態において、波面補償デバイス72の反射面は、被検眼Eの瞳と略共役となる位置に配置される。
本実施形態の波面補償デバイス72において、液晶層内の液晶分子の配列方向は、入射する反射光の偏光面と略平行である。また、液晶層への印加電圧の変化に応じて回転する液晶分子の所定の面は、波面補償デバイス72に対する眼底反射光の入射光軸および反射光軸と、波面補償デバイス72が持つミラー層の法線と、を含む平面に対して略平行に配置されている。
なお、以上の説明では、収差検出用光源として、眼底撮影用の光源11(第1光源)とは異なる波長の光を出射する光源71を用いた。しかし、眼底撮影用の光源11を、収差検出用の(つまり、測定光を発する)光源と兼用してもよい。
なお、以上説明した本実施形態では、波面センサ(より詳細には、そのマイクロレンズアレイ)および波面補償デバイスを被検眼Eの瞳共役としたが、被検眼Eの前眼部の所定部位と略共役な位置であればよく、例えば、角膜共役であってもよい。
次に、図3を参照して、本実施形態における撮影装置1の制御系を説明する。撮影装置1は、演算制御部800(以下、制御部800と省略する)を有している。制御部800は、撮影装置1の装置全体の制御を行うプロセッサ(例えば、CPU)である。本実施形態において、制御部800には、記憶部801、操作部802、画像処理部803、モニタ850、が電気的に接続される。また、制御部800には、光源11、走査部15、視度補正部20、乱視補正部30、受光素子56、波面補償デバイス72、波面センサ73、光源76、第2撮影ユニット200、偏向部400、電動移動機構610a、前眼部観察ユニット700が電気的に接続される。
記憶部801は、各種の制御プログラムおよび固定データを格納する。また、記憶部801には、撮影装置1によって撮影された画像、一時データ等が記憶されてもよい。
制御部800は、操作部802から出力される操作信号に基づいて、第1撮影ユニット100等の上記の各部材を制御する。操作部802は、検者によって操作される操作部材として図示無きマウス等が接続されている。
画像処理部803は、受光素子56、第2撮影ユニット200にて受光した信号に基づきモニタ850に画角の異なる被検眼眼底の画像、つまり、第1眼底画像及び第2眼底画像を形成する。なお、画像処理部803は、制御部800によって兼用される構成であってもよい。
モニタ850は、撮影装置1に搭載された表示モニタであってもよいし、撮影装置1とは別体の汎用の表示モニタであってもよい。また、これらが併用された構成であってもよい。モニタ850は、撮影装置1で撮影される眼底画像(第1眼底画像、および第2眼底画像)を、動画像および静止画像のそれぞれで表示できる。
なお、制御部800による波面補償デバイス72の制御は、波面センサ73によって検出される波面収差に基づいて実行される。本実施形態では、波面センサ73からの検出信号に基づく波面補償デバイス72のフィードバック制御が行われる。波面補償デバイス72が制御されることによって、光源76の反射光のS偏光成分と共に、光源11から出射されるレーザー光と該レーザー光の眼底反射光の高次収差が取り除かれる。このようにして、光源11から出射されたレーザー光、および該レーザー光の眼底反射光が持つ収差が取り除かれる。その結果、被検眼Eの高次収差が取り除かれた(波面補償された)高解像度の第1眼底画像が撮影装置1によって取得される。なお、本実施形態では、低次の収差が、視度補正部20と乱視補正部30とのそれぞれによって補正される。
ここで、図4〜図6を参照して、波面補償デバイス72と波面センサ73とを用いた波面補償制御の概要について説明する。図4に示すように、波面補償デバイス72は、補償可能領域40が形成される範囲において、入射光の波面を制御可能である。図4において、補償可能領域40上の領域41は、波面補償デバイス72上の有効領域を示す。有効領域41は、波面センサ73からの検出信号に基づいて収差補正が有効に行われる領域である。補償可能領域40において有効領域41が設定される範囲(つまり、位置、および大きさ)は、例えば、補償可能領域40における一定の領域(全体、又は、一部)として予め定められていてもよい。但し、必ずしもこれに限られるものではなく、有効領域41が設定される範囲は、補償可能領域40上で変位してもよい。この場合、後述の制御部800が、補償可能領域40における有効領域40の範囲を制御する構成であってもよい。本実施形態において、補償可能領域40は、16×12mmの大きさである。また、一例として図4に示した有効領域41は、φ8.64mmの大きさである。補償可能領域40は、有効領域41と比べて十分な大きさを有するので、有効領域41は、位置・大きさ・形状の少なくともいずれかを補償可能領域40内において変更可能である(詳しくは後述する)。また、波面補償デバイス72において、有効領域41は、入射光全体の内、ある一部の領域(例えば、瞳孔上における直径6mm領域)の光束に制限される場合がある。この場合、本実施形態の波面補償デバイス72は、有効領域41の外側に入射された光についても、有効領域41内への入射光と同様に受光素子56に向けて反射するが、外側に入射された光の波面は補償できない。
一方、図5に示すように、波面センサ73の2次元撮像素子73aでは、前述したように、ハルトマン像61が撮像される。ハルトマン像61は、波面センサ73上に受光された複数の点像61aの集まりを示す。1つのレンズアレイを通過した光束が、一つの点像61を形成する。波面センサ73によって点像61aが検出される領域において、収差検出が可能である。
また、図5では、円62によって、有効領域41(即ち、円62は、有効領域41の外周と対応する)が仮想的に示されている。本実施形態では、波面補償デバイス72の制御に使用される波面収差は、円62に含まれるハルトマン像61から検出される。円62(有効領域41)とハルトマン像61との位置関係は、例えば、波面補償デバイス72上で有効領域41の位置を変位することによって、調節可能である。また、撮影光軸と被検眼Eの瞳位置との位置関係に応じて、円62とハルトマン像61との位置関係も変位する。本実施形態において、ハルトマン像61と円62とは、収差補正画面60の一部として、モニタ850上に表示される。
このように、本実施形態において、ハルトマン像61の形成される領域は、ある面上(例えば、前眼部共役面上)において、収差検出光学系110によって波面収差が測定される領域(つまり、「波面測定領域」)である。波面補償デバイス72によって波面補償が有効に行われる領域は、そのある面に対して投影された有効領域(その波面測定領域における有効領域)となる。
ここで、図6を参照して、収差補正画面60について説明する。収差補正画面60は、受光素子56、波面センサ73等からの信号に基づいて生成される。収差補正画面60には、ハルトマン像表示画面64と、収差補正グラフィック表示画面65と、細胞表示画面66と、を含む。
ハルトマン像表示画面64では、ハルトマン像61と円62とを、同一平面上(例えば、波面センサ73の受光面上等)において重畳して示す。円62の位置、及び大きさは、制御部800によって設定される。制御部800は、例えば、波面補償デバイス72上の有効領域41の位置および大きさと対応する領域に、円62を設定する。ハルトマン像表示画面64上の円62の外周、領域等を規定する情報は、例えば、キャリブレーション又はシミュレーション等の結果から予め求めておくことができる。
図6において、円62の中心に位置するマーク62aは、波面センサ73上における有効領域41の中心位置を示すグラフィックである。収差補正グラフィック表示画面65では、収差補正の補正度合(残収差)を示す収差補正グラフィック65aが表示される。
収差補正グラフィック65aは、波面センサ73への入射光束が持つ波面収差の分布を等高線で表したものである。収差補正グラフィック65aは、例えば、波面センサ73を介して撮像されたハルトマン像61を制御部800が処理することによって生成される。具体例としては、ハルトマン像61の処理結果として波面収差のRMS値(平均2乗平方根)を位置毎に求め、各位置のRMS値に基づいて生成されてもよい。この場合において、収差補正グラフィック65aにおける等高線が密であるほど、波面収差が大きいと評価してもよい。
また、細胞表示画面66には、実際に撮影されている眼底の細胞画像66a(つまり、第1眼底画像、AO−SLO画像)が表示される。
ここで、収差補正は、波面センサ73による波面収差検出結果に基づいて行われる。すなわち、円62の内側においてハルトマン像61が形成された領域では、波面の状態が検出可能である(図5(b)参照)。一方、円62の内側において、ハルトマン像61が形成されていない領域Sにおいては、波面の状態が検出されない。ここで、波面データの一部が欠損している場合(例えば、図6(a)参照)、波面全体の情報が得られないため、有効領域41における波面収差が適正に測定されない。よって、収差補正が実行されても、図6の収差補正グラフィック65に示されるように適正に収差が除去されない。この場合、細胞画像66aは良好に表示されない。また、細胞画像66aの良好な撮影が困難となる。
以上のような構成と持つ装置の動作を、図7に示すフローチャートを参照して説明する。
撮影装置1の電源がオンされると、記憶部801に記憶された制御プログラムに従って、制御部800は、メイン処理を実行する。撮影装置1は、メイン処理に従って動作する。
図7に示すフローチャートでは、まず、制御部800によって、前眼部観察画像の取得および表示が開始される(S1)。以降、制御部800は、前眼部観察ユニット700から出力される撮像信号に基づいて、前眼部画像を逐次取得してもよい。さらに、制御部800は、随時取得される前眼部画像を、モニタ850における前眼部画像の表示領域に、逐次表示してもよい。
次に、X,Y,Zの各方向に、被検眼Eと撮影部500との位置関係が調整される(第1のアライメント:S2)。第1のアライメントは、制御部800によって自動で行われてもよいし、操作部802に対する検者の操作に基づいて手動で行われてもよい。以下、具体例として、手動で行われる場合を示す。なお、アライメントが行われる場合において、検者は、被検者が図示無き固視標を固視するように指示する。
本実施形態では、モニタ850において逐次表示される前眼部画像を参考にして、アライメントが行われる。例えば、検者は、モニタ850において表示される前眼部画像を観察しながら、操作部802を操作することによって、電動移動機構610aを駆動させ、顎台610の位置をX,Y,Z方向に調整する。例えば、XY方向については、被検眼Eの瞳孔中心が光軸中心(例えば、画像中心)となるように、アライメントを行う。なお、角膜頂点が光軸中心となるようにアライメントが行われてもよい。例えば、図示無きアライメント投影光学系によって角膜に投影されるアライメント指標を参考にして、アライメントを行ってもよい。また、Z方向については、例えば、虹彩にピントがあうように、アライメントを行ってもよい。
第1のアライメントが完了した後、本実施形態では、制御部800によって、波面補償制御が開始される(S3)。つまり、制御部800は、光源76を点灯して測定光の投光を開始する。また、制御部800は、波面センサ73(検出器の一例)によって検出される像に基づく波面収差検出を開始する。制御部800は、波面センサ73からの検出信号に基づいて、波面収差の収差量を演算する。例えば、本実施形態では、波面センサ73で検出される像(ハルトマン像61)に基づく演算が行われる。この場合、例えば、ハルトマン像61における各ドット像の偏位量が検出される。そして、検出された偏位量に基づいてゼルニケ(Zernike)多項式の展開が適用されることで、収差の成分ごとに収差量が得られる。なお、ハルトマン像61から収差量を得る方法としては、上記方法以外の直交展開が使用されても良い。また、直交展開以外の数学的技術(即ち、演算)が利用されてもよい。
ゼルニケ多項式での展開が適用された場合であれば、ゼルニケ多項式における1次から4次までの収差についての収差量が、少なくとも得られることが好ましい。なお、ゼルニケ多項式における2次の収差としては、デフォーカス、および乱視があり、3次の収差としては、コマ収差、および、トレフォイルがあり、4次の収差としては、球面収差、2次の非点収差、テトラフォイルがあることが知られている。勿論、ゼルニケ多項式における5次以上の収差が、演算によって得られてもよい。ゼルニケ展開以外の数学的技術が適用される場合であっても、演算の結果として、少なくともコマ収差と球面収差とを得ることが好ましい。更に、演算の結果として、デフォーカス、および乱視が得られると、より好ましい。
また、S3のステップでは、波面補償ユニット(本実施形態では、第2補正ユニット20,30,および波面補償デバイス72)による収差補正が開始される。この場合において、制御部800は、2次以下の低次収差の収差量(例えば、デフォーカス成分の収差量、乱視成分の収差量等)を、波面センサ73からの検出信号に基づいて演算を行い、求めることができる。そして、制御部800は、第2補正ユニット20,30を、低次収差の収差量に基づいて駆動させる。その結果として、低次収差が補正される。ここでは、具体例として、デフォーカス成分の収差量に応じた視度補正部20の駆動制御と、乱視成分の収差量に応じた乱視補正部30の駆動制御とが、それぞれ行われるものとする。但し、このうち一方だけの駆動制御が行われるようにしてもよい。
また、制御部800は、演算によって得られた収差量に基づいて、波面補償デバイス72を駆動制御する。これによって、低次、および高次の収差が補償される。特に、本実施形態では、上記のとおり、波面補償デバイス72は、第2補正ユニット20,30と共に、駆動される。低次の収差は、可能な限り、第2補正ユニット20,30によって補正し、その補正状態で残留する残収差(つまり、3次以上の高次の収差と、2次以下の低次の収差であって、第2補正ユニット20,30では補正されずに残留した収差)とを、波面補償デバイス72を用いて補正するようにしてもよい。この場合、制御部800は、第2補正ユニット20,30による収差補正が行われた状態において、波面センサ73から出力される検出信号に対して演算を行い、その演算結果に基づいて波面補償デバイス72を駆動制御する。結果、残収差が波面補償デバイス72によって補償される。
ここで、例えば、波面補償デバイス72としてLCOSが用いられる場合、波面補償制御としては、波面センサ73による波面収差の検出演算と、この演算結果に基づくLCOSの位相パターンの算出と、この算出結果に基づくLCOSの各画素への電圧印加と、を含むループ処理が行われる。ループ処理において、補償用位相パターンはフィードバック制御される。これにより、波面収差の検出に基づいてLCOSの液晶層の屈折率が随時変化され、眼底反射光の波面の歪みが補正される。
本実施形態では、S3の処理によって波面補償制御が開始された後、上記のような波面の検出、収差量の演算、および算出された収差量に基づく波面補償ユニットの駆動制御は、逐次、繰り返し実行される。なお、制御部800は、演算の結果取得された収差量を、演算の度にメモリ(例えば、記憶部801等)に記憶する。
ここで、図8に、第1のアライメントを終えた段階における眼底反射光の波面の状態を示す。なお、図8は、波面補償ユニットを駆動させない状態での有効領域41における波面の状態を示す収差補正グラフィック65である。第1のアライメントを終えた段階では、波面補償デバイス72における有効領域41の中心位置は、瞳の中心(或いは、角膜頂点)に位置合わせされている。この場合、有効領域41の中心に対してピークP1,P2(つまり、波面の極大、極小)が偏心した、図8に示すような非対称な波面が検出される場合がある。非対称な波面の歪みは、第2補正ユニット20,30では補正できない。このような歪みは、波面補償デバイス72が駆動することによって補償される。
これに対し、本実施形態の撮影装置1では、第2のアライメントが、制御部800によって誘導される(S4)。第2のアライメントでは、被検眼Eと、波面補償デバイス72の有効領域41との相対的な位置関係が、少なくともX,Yの各方向に関して(つまり、眼底撮像光学系100の光軸と交差する方向に関して)微調整される。第2のアライメントは、波面補償デバイス72に対して入射する入射光(主に、測定光、および撮影光の眼底反射光)の波面の歪みが少ない位置に、波面補償デバイス72(より詳細には、その有効領域41)を配置するために行われる。この場合、制御部800が、被検眼Eと有効領域41との位置関係を自動的に調整することで、アライメントを誘導してもよい。また、検者が手動で位置関係を調整するための案内を、モニタ850等で行うことで、アライメントを誘導してもよい。以下では、具体例として、被検眼Eと有効領域41との位置関係を、制御部800が自動的に調整する場合について説明する。
ここで、図9のフローチャートを参照して、第2のアライメントを誘導する動作を、詳細に説明する。まず、制御部800は、コマ収差についての収差量の演算結果を、メモリから読み出す。ここでは、直近の演算結果が読み出されてもよい。また、読み出したコマ収差の収差量が、閾値以下であるか否かを判定する(S22)。この場合、閾値は、例えば、0であっても良い。勿論、0よりも大きな値であってもよい。この場合、閾値は、必要とされる第1眼底画像の画質、又は、波面補償デバイス72の性能、或いはその両方の観点から、許容される範囲で設定され得る。コマ収差の収差量が閾値以下であると判定される場合は(S22:Yes)、第2のアライメントを終了して、S5のステップに進む。一方、コマ収差の収差量が閾値より大きいと判定される場合は(S22:No)、S23のステップに進む。
S23〜S26のステップでは、制御部800が、コマ収差の収差量に基づいて被検眼Eと波面補償デバイス72の有効領域41との位置関係を調整する。コマ収差は、有効領域41の中心に対し、極大と極小のピークが対称(軸対称)に現れる。このため、コマ収差は、図8に示すような波面におけるピークP1,P2の偏心に対する影響が大きいと考えられる。本実施形態では、有効領域41への入射光におけるコマ収差が軽減されるように、制御部800は、第2のアライメントを誘導する。つまり、制御部800は、有効領域41を満たすハルトマン像61から得られるコマ収差の収差量がより少なくなるように、被検眼Eと有効領域41との相対的な位置関係を調整する。
被検眼Eと有効領域41との相対的な位置関係は、例えば、以下の方法で調整できる。
(1)被検眼Eと波面補償デバイス71とを相対的に移動させる方法。
(2)波面補償デバイス71の補償可能領域40において、有効領域41が設定される範囲を変更する方法。
さらに、(1)の具体例としては、例えば、被検眼Eと,波面補償デバイス71を含む補償光学系と,のうち少なくとも一方を移動させる方法、光スキャナー(本実施形態では、走査部25および撮影部400)の走査範囲を、X,Yの各方向に関して移動させる方法等が挙げられる。なお、ここでいう補償光学系は、眼底反射光の収差を補償する光学系であり、図1においては、撮影光学系100における波面補償デバイス72から凹面ミラー41までの部材を含む。補償光学系と被検眼Eとの位置関係を変化させる場合は、被検眼Eと収差検出光学系110との位置関係が連動して変化することが好ましい。つまり、位置関係が変化する際に、収差検出光学系の検出光軸と、補償光学系の光軸とが同軸に維持されるとよい。
以下、本実施形態では、顎台610を移動させることで、被検眼Eの位置を、補償光学系に対して移動させ、その結果として、被検眼Eと有効領域41との相対的な位置関係を調整するものとして説明する。なお、本実施形態では、制御部800が電動移動機構610aを駆動制御することによって、被検眼Eと有効領域41との位置関係を、装置が自動的に調整するものとする。
S23のステップでは、アライメントの目標位置までの変位量および変位の方向に関する変位情報を、演算の結果として取得する。本実施形態における目標位置は、被検眼Eを基準とする有効領域41の目標位置である。本実施形態では、第2のアライメントにおける目標位置への移動方向と、目標位置までの移動量とを、コマ収差の収差量に基づいて求める。そして、変位情報として、目標位置へのベクトルを得る。
ここで、目標位置への移動方向は、有効領域41への入射光におけるコマ収差が抑制される方向に定められる。コマ収差(その収差量)が抑制される方向は、図8に示した波面のピークP1,P2を結ぶ線に沿う方向である。この場合、移動方向は、P1からP2に向かう方向でもよいし、P2からP1に向かう方向でもよい。いずれの方向にも、収差量の極小点(例えば、計算上、コマ収差が極小となる位置)が存在するためである。このように、例えば、コマ収差を示すZernike係数から、移動方向を定めることが可能である。
この場合において、制御部800は、有効領域41の中心(つまり、収差補正グラフィック65aの中心O)に対し、より近い波面のピークに向かう方向を移動方向として設定することが好ましい。例えば、図8では、「OP1間の距離m>OP2間の距離n」であるため、P1からP2に向かう方向が移動方向として設定される。ピークが近いほど、収差量が極小となる位置までの移動量は少なくなる。ここで、前述したように、被検眼Eに対する有効領域41の変位に伴って、有効領域41とハルトマン像62との位置関係が変化する。収差量の極小点までの移動量がより少なくなる移動方向が選択された場合、移動後においても、有効領域41がハルトマン像62によって満たされ易くなる。結果、移動後の波面補償が確実に行われやすい。
目標位置までの移動量は、例えば、コマ収差の収差量と球面収差の収差量とに基づいて求めることができる。ここで、球面収差は、有効領域41の中心に対し、回転対称に表れる収差であり、波面を歪ませる影響が比較的大きい。よって、本実施形態では、有効領域41を、入射光における波面の歪みがより少ない領域に配置するために、コマ収差だけでなく、球面収差についても考慮して(球面収差とコマ収差とを重ねあわせた収差を考慮して)、第2のアライメントにおける目標位置を設定する。
ここで、移動量の厳密解は、コマ収差の収差量と球面収差の収差量との比を変数とする3次方程式で表される。これを解いて移動量を得ても良いが、複雑になる。そこで、本実施形態では、以下のように近似式を用いて移動量を得る。
コマ収差の収差量(但し、絶対値)をc、球面収差の収差量(但し、絶対値)をsとし、x=c/(c+s)と置いた場合、瞳半径1(例えば、有効領域41の半径を1)として規格化された移動量(変位)は、次の式(1)で近似できる。
d=0.454x3−0.838x2−0.0837x ・・・(1)
また、次の式(2)で直線近似してもよい。
d=0.44x ・・・(2)
このように、コマ収差の収差量と、球面収差の収差量とが得られた場合には、式(1)、(2)のいずれかを用いて、制御部800は、目標位置までの移動量を求めることができる。
以上のようにして求めた移動方向と、移動量とから、有効領域41を現在位置から目標位置まで移動させるためのベクトルが得られる。
次に、制御部800は、上記のようにして求めた目標位置における有効領域41とハルトマン像61との位置関係をシミュレーションする(S24)。例えば、現在の有効領域41の位置情報を、上記のベクトルの分だけ変化させることによって、目標位置に配置された場合における有効領域41の位置を予測(シミュレーション)できる。これにより、目標位置における有効領域41の位置情報が得られる。この位置情報と、ハルトマン像61の位置情報とから、有効領域41とハルトマン像61との位置関係が予測される。なお、それぞれの位置情報は、例えば、領域の中心の位置情報であってもよいし、輪郭の位置情報であってもよい。
次に、制御部800は、有効領域41が目標位置に設定される場合において、適正な波面補償制御が可能であるか否かを、シミュレーションの結果に基づいて判定する(S25)。つまり、有効領域41が目標位置に配置される場合において、有効領域41がハルトマン像61によって満たされるか否かが、シミュレーションの結果に基づいて判定される。例えば、目標位置における有効領域41の中心とハルトマン像61の中心(つまり、ハルトマン像61の外周における中心)との中心間距離に基づいて、上記判定を行うことができる。例えば、有効領域41の中心とハルトマン像61との中心間距離が、有効領域41とハルトマン像61との半径の差分に対して大きな値であれば、有効領域41はハルトマン像61によって満たされていない。一方、中心間距離が、有効領域41とハルトマン像61との半径の差分に対して小さな値であれば、有効領域41はハルトマン像61によって満たされている。また、判定の手法はこれに限られるものではなく、目標位置における有効領域41とハルトマン像61との輪郭(外周)同士の位置関係を用いて判定を行ってもよいし、その他の情報に基づいて判定を行ってもよい。
S25のステップでは、シミュレーションの結果として、目標位置における有効領域41がハルトマン像61によって満たされる場合は、制御部800は、目標位置において適正な波面補償制御が可能であると判定する(S25:Yes)。この場合、S26のステップに進む。一方、目標位置における有効領域41がハルトマン像61によって満たされない場合には、制御部800は、目標位置において、適正な波面補償ができないと判定する(S25:No)。この場合、有効領域41が目標位置に設定されてしまうと、かえって良好な画像が得られ難くなってしまう。そこで、本実施形態では、S23のステップで設定された目標位置に対するアライメントの誘導を実行せずに、第2のアライメントを終了して、S5のステップに進む(S5のステップの内容については後述する)。
S26のステップにおいて、制御部800は、電動移動機構610aを駆動制御することによって、有効領域41を目標位置まで変位させる。制御部800は、S23のステップで求められた移動量および移動方向を、電動移動機構610aに対して指令する。その結果、本実施形態では、顎台610が移動されることで、被検眼Eと有効領域41との相対的な位置関係が調整される。結果として、本実施形態では、有効領域41への入射光におけるコマ収差、および球面収差が軽減される位置に、有効領域41が配置される。
本実施形態では、S26のステップの後、S22に戻って、被検眼Eと有効領域41との位置関係を、繰り返し微調整する。その結果として、有効領域41がハルトマン像で満たされる限度において(つまり、ハルトマン像61の中に有効領域41が配置される限度において)、コマ収差が閾値以下となる位置、或いは、コマ収差が可能な限り抑制される位置に、被検眼Eに対する有効領域41の位置が誘導される。
ここで、図10に、第2のアライメントを終えた段階における眼底反射光の波面の状態を示す。なお、図10は、波面補償ユニットを駆動させない状態での有効領域41における波面の状態を示す収差補正グラフィック65である。このように、第2のアライメントによって被検眼Eと有効領域41との位置関係が微調整された場合には、第1のアライメントが行われた段階での収差補正グラフィック65に対し、非対称に生じる波面の歪みが有効領域41において軽減されることがわかる。即ち、第2のアライメントが行われた結果として、波面補償デバイス72によって補償すべき波面の歪みが軽減される。その結果、波面補償デバイス72の性能の範囲で、良好に波面補償が行われやすくなる。つまり、例えば、補償できる波面の歪みが比較的小さなデバイスを用いて良好な波面補償が可能となる。
ここで、波面補償デバイス72に光が入射した際に、回折光が発生する場合がある。例えば、波面補償デバイス72として、LCOS等の液晶を利用した装置の場合、画素を構成する液晶分子の端部にて、入射光が回折する。入射光の一部は、回折によって補償に有効利用されないロスとなってしまう。また、回折光が波面検出用の検出器(本実施形態では、波面センサ73)へ照射すると、波面検出に影響を及ぼしてしまう。波面補償デバイス72では、歪みの大きな波面を補償する場合ほど、回折光が生じやすくなる。つまり、波面補償デバイス72によって補償される波面の歪みが大きい場合ほど、波面補償を良好に行うことが難しくなり、第1眼底画像の画質が悪くなり易い。これに対し、第2のアライメントが行われることによって、波面補償デバイス72には、比較的波面の歪みの小さな光が入射する。このため、波面補償デバイス72において、入射光から回折光が生じにくくなる。その結果、良好な画質の第1眼底画像が得られやすくなる。
また、本実施形態において、波面補償デバイス72は、第2補正ユニット(視度補正部20,および乱視補正部30)によって低次の収差が補正された状態で駆動される。つまり、有効領域41に対する入射光の波面は、予めその低次の収差による歪みが軽減されているので、波面補償デバイス72による波面補償をより良好に行うことができる。
本実施形態では、第2のアライメント完了後、第1眼底画像および第2眼底画像の取得、および表示を開始する(S5)。その後、例えば、毎秒数フレームから、数十フレームずつ、第1および第2眼底画像がそれぞれ取り込まれ、それぞれ随時モニタ85に表示されるようになる。
また、第2のアライメント完了後、トラッキングが開始される(S6)。例えば、トラッキングは、眼の動きによる第1眼底画像の撮影位置の変化を、補正するものであってもよい。また、トラッキングは、眼の動きによる被検眼Eと有効領域41との位置関係の変化を、補正するものであってもよい。勿論、これらの両方が併用されてもよい。なお、本実施形態では、被検眼Eと有効領域41との位置関係の変化を補正するトラッキングが行われる場合、制御部800は、第2のアライメントによって設定された被検眼Eと有効領域Eとの位置関係(換言すれば、ハルトマン像61と有効領域41との位置関係)が維持されることが好ましい。この場合、制御部800は、第2のアライメントが完了した際における被検眼Eと有効領域41との位置関係を示す基準情報を取得する。そして、トラッキング開始後、制御部800は、被検眼Eと有効領域41との位置関係を示す変動情報を、随時取得する。そして、変動情報と基準情報との差分に応じて被検眼Eと有効領域41との位置関係を調整することによって、被検眼Eと有効領域41との位置関係を、基準情報によって示される位置関係に補正する。ここで、基準情報および変動情報は、例えば、ハルトマン像61の位置情報と有効領域41の位置情報とに基づく情報であってもよい(具体例としては、ハルトマン像61と有効領域41との中心同士の位置関係を示す情報等でもよい)。また、前眼部観察ユニット700の撮像素子から逐次出力される情報(例えば、前眼部画像そのもの、およびその前眼部画像における瞳孔の位置情報のいずれか等)であってもよい。このような被検眼Eと有効領域41との位置関係を維持するトラッキングが行われることによって、眼が動いてしまっても、良好に波面補償が行われた第1眼底画像が得られやすくなる。なお、トラッキングにおいて被検眼Eと有効領域41との位置関係を調整するためには、被検眼Eと波面補償デバイス71との位置関係を(主には、X,Y方向に関して)相対的に移動させてもよいし、波面補償デバイス71における有効領域41の位置を変位させてもよい。
その後、第1眼底画像撮影処理が実行される(S7)。S7では、制御部800は、撮影トリガ信号の入力さに基づいて、画像撮影を実行する。例えば、制御部800は、トリガ信号の入力タイミングにて取得された眼底の細胞像動画像又は静止画像を、記憶部801に記憶する。上記のように、本実施形態では、第2のアライメントが行われたことで、眼底反射光の波面が適正に補償される。このため、S5およびS7のステップにおいて、制御部800は、画質の良好な第1眼底画像を得ることができる。
以上、実施形態に基づいて説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々に変形可能である。
例えば、上記実施形態において、波面補償デバイス72は液晶変調素子とし、特に、反射型のLCOS等を用いるものとしているが、これに限るものではない。他の反射型の波面補償デバイスであってもよい。例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の1形態であるデフォーマブルミラーが使用されてもよい。デフォーマブルミラーは、デバイスの入射面において多数のマイクロミラーが二次元的に配置される。各マイクロミラーが光軸方向に変位することで、波面全体の光路長差を調整して波面を補償する。デフォーマブルミラーにおいても、隣り合うミラーとの隙間で生じる回折が、補償のロスとなる。光軸方向におけるミラー同士の隙間が大きくなるほど、回折によるロスが大きくなる。つまり、例えば、デフォーマブルミラーにおいても、歪みの少ない波面を補償した場合のほうが、良好な画質の画像が得られやすい。従って、上記実施形態を、デフォーマブルミラーに置き換えた場合においても、上記実施形態と同様の効果を享受することができる。また、反射型の波面補償デバイスではなく、透過型の波面補償デバイスが使用されてもよい。透過型のデバイスでは、眼底からの反射光を透過させて波面収差が補償される。
また、上記実施形態では、撮影装置1の光学系に設けられた波面センサ73を用いて被検眼Eの波面収差を測定する場合について説明した。しかし、撮影装置1は、被検眼Eの波面収差を眼底からの反射光に基づいて測定する構成を備えていればよく、必ずしも波面センサ73が設けられていなくてもよい。例えば、PhaseDiversity法を用いて、波面収差を測定する場合が考えられる。この方法は、対象の光学系(ここでは、被検眼E)に、PhaseDiversityと呼ばれる既知の波面収差を持つ測定光をわざと与え、その際に得られる画像に対し、所定の画像処理を行うことによって、対象の光学系における波面収差を推定するものである。この場合、例えば、眼底撮像光学系100に設けられた受光素子56を、波面収差検出用の検出器として利用できる。つまり、この場合、眼底撮像光学系100は、収差検出光学系110と共用できる。勿論、検出器は、受光素子56とは別体に設けられていてもよい。なお、PhaseDiversityを持つ測定光は、例えば、波面補償デバイス73を所定の状態に制御することによって、生成できる。勿論、他の手法で生成されてもよい。
また、上記実施形態では、第2のアライメントにおいて、電動移動機構610a駆動制御して顎台610を移動させることによって、被検眼Eと有効領域41との相対的な位置関係を調整する場合について説明した。しかし、この場合において、顎台610の移動ではなく、撮影部500の移動によって実現されてもよい。この場合、撮影装置1は、撮影部500を基台に対して移動させる電動移動機構を備える。また、撮影部500の筐体内部の補償光学系が、X,Y方向に関して移動されることによって、第2のアライメントが行われてもよい。
なお、上記実施形態では、第2のアライメントにおいて、波面センサ73からの検出信号に対する演算の結果として得られる被検眼Eの収差のうち、コマ収差の収差量と、球面収差の収差量とに基づいて、被検眼Eと有効領域41との位置関係を調整した。しかし、第2のアライメントは、有効領域41への入射光における波面の歪みがより少ない位置に、有効領域41を配置するためのものであればよく、必ずしもコマ収差の収差量と、球面収差の収差量とを考慮して位置調整が行われる必要はない。コマ収差、および、球面収差、のいずれとも異なる種類の収差の量に基づいて、被検眼Eと有効領域41との位置関係が調整されてもよい。この場合、例えば、コマ収差のような有効領域の経線に対して対称に表れる収差の収差量に基づいて、被検眼Eと有効領域41との位置関係が調整されてもよい。また、例えば、ゼルニケ展開において次数が奇数となる3次以上(例えば、3次、5次、7次・・・)の収差の収差量に基づいて、被検眼Eと有効領域41との位置関係が調整されてもよい。いずれの場合においても、制御部800は、波面収差の検出信号に基づく演算によって、所望の収差量を求め、その演算によって得られる収差量に基づいて第2のアライメントを誘導する。
また、上記実施形態において、制御部800は、波面センサ73からの検出信号から得られる収差量を用いて、目標位置を求め、その目標位置にアライメントを誘導した。しかし、必ずしも目標位置を求める必要はない。例えば、制御部800は、被検眼Eと有効領域41との位置関係を切換えながら、各位置で収差量を求めることで、有効領域41に対する入射光の波面の歪みが抑制される位置を、トライ&エラーで探索してもよい。この場合、例えば、トライ&エラーの結果、求められた波面の歪みが最も抑制される位置へアライメントが誘導されてもよい。
また、上記実施形態では、第2のアライメント(つまり、被検眼Eと有効領域41との位置関係の微調整のステップ)において、制御部800は、有効領域41への入射光における収差量が抑制される(上記実施形態では、閾値以下となる)まで、繰り返し、被検眼Eと有効領域41との位置関係が調整される。このとき、上記実施形態では、被検眼Eの収差量に基づいて算出した移動量分だけ、被検眼Eと有効領域41とを相対的に変位させる制御が、制御部800によって行われた。しかし、必ずしもこれに限られるものではなく、S26の処理が行われる度に、一定の移動量分だけ、被検眼Eと有効領域41とを相対的に変位させる構成であってもよい。
また、上記実施形態では、目標位置における有効領域41とハルトマン像61との位置関係をシミュレーションし、そのシミュレーション結果に応じて、被検眼Eと有効領域41との位置調整を行うか、行わないかを定めた場合について説明した。しかし、シミュレーション結果に応じて、アライメントの誘導内容を変更する制御としては、これに限定されるものではない。例えば、制御部800は、シミュレーションの結果として、目標位置において有効領域41がハルトマン像61によって満たされる場合には、目標位置までのアライメントの誘導を行い、目標位置において有効領域41がハルトマン像61によって満たされない場合には、有効領域41がハルトマン像61によって満たされる限度においてアライメントの誘導を行うようにしてもよい。この場合、例えば、S23で求めた移動方向に関して、有効領域41がハルトマン像61によって満たされる範囲で、有効領域41が移動可能な移動可能量(例えば、瞳半径1に対する移動可能量)を、制御部800は求める。そして、移動可能量分だけ、アライメントを誘導してから、S5のステップに進むように構成しても良い。
また、シミュレーションの結果として、目標位置において有効領域41がハルトマン像61によって満たされない場合には、制御部800は、有効領域41を狭小化させるようにしてもよい。狭小化の結果、ハルトマン像61によって満たされる範囲で、有効領域41を変位させる余裕が生じるため、有効領域の更なる微調整をおこなうことができる。その結果として、第1眼底画像の画質が改善される可能性がある。
また、上記実施形態では、制御部800は、電動移動機構610aの駆動制御によって、被検眼Eと有効領域41との位置関係を自動的に移動させることで、第2のアライメントを誘導する場合について説明した。しかし、必ずしもこれに限られるものではなく、第2のアライメントにおいて、被検眼Eと有効領域41との位置関係を手動で調整する構成が採用されてもよい。この場合、被検眼Eと有効領域41とを相対的に移動させる移動機構は、上記電動移動機構610aのような電動の機構である必要はなく、機械式の移動機構であってもよい。この移動機構は、例えば、被検眼Eと撮影部500との相対的な位置関係を調節する機構であってもよい。機械式の場合、被検眼Eと有効領域41とを相対的に移動させるための操作が入力される操作部として、例えば、移動機構と機械的にリンクしたジョイスティック、および調節ノブ等のいずれかを用いることができる。この場合において、制御部800は、波面センサからの検出信号に対する演算によって、被検眼Eの収差量を求めてもよい。そして、収差量の演算結果に基づいて、第2のアライメントのための操作のガイド情報をモニタ850に表示させてもよい。ガイド情報は、例えば、XY方向における顎台(或いは、撮影部でもよい)の移動方向を図示するための指標であってもよい。指標としては、有効領域41の移動方向(或いは、検者の操作方向でもよい)を示す矢印であってもよい。また、前眼部画像表示画面、又は、収差補正画面60等において目標位置を示す点、十字等のマーク等であってもよい。制御部800は、ガイド情報をモニタ850に表示させることで、検者の操作による第2のアライメントを誘導する。
なお、以上の説明においては、眼底撮像光学系100として、被検眼眼底と略共役な位置に配置された共焦点開口を介して被検眼眼底で反射した光束を受光して被検眼眼底の共焦点正面画像を撮影する共焦点光学系(SLO光学系)を用いるものとしたが、これに限るものではない(例えば、特表2001−507258号公報参照)。
例えば、被検眼眼底で反射した光束を2次元撮像素子により受光して被検眼Eの眼底正面画像を撮影する眼底カメラ光学系であってもよい。また、被検眼眼底で反射した光束と参照光による干渉光を受光して被検眼Eの断層画像を撮影する光断層干渉光学系(OCT光学系)であってもよい。