[まえがき]
現在、スマートフォンの爆発的な普及に伴って、利便性の高いマイクロ波帯の周波数資源が枯渇している。対策として、第3世代の携帯電話から第4世代の携帯電話への移行や、新しい周波数帯の割り当てが行われている。しかし、サービスの提供を望む事業者が多いことから、各事業者に割り当てられる周波数資源は限られている。
携帯電話のサービスにおいては、複数のアンテナ素子を利用したマルチアンテナ・システムによる周波数利用効率の向上を目指す検討が進められている。既に普及している無線標準規格IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.)802.11nでは、送信と受信との双方に複数のアンテナ素子を用いるMIMO(Multiple Input Multiple Output)伝送技術を用いて空間多重伝送を行う。これにより、IEEE802.11nでは、伝送容量を高めて周波数利用効率を向上させている。なお、MIMOという用語は、一般には送信局及び受信局共に複数アンテナ素子を備えることを想定して使われる。受信側が単数アンテナ素子の場合には、MIMOではなく、MISO(Multiple Input Single Output)という用語が使われる。ただし、以下では、これらを全て包含する意味でMIMOという用語を用いる。
また、最近の通信技術としては、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調方式やSC−FDE(Single Carrier Frequency Domain Equalization)方式の様に、複数の周波数成分(サブキャリア)に分割して周波数軸上で信号処理を行う方式が一般的である。以下では、特にOFDMやSC−FDEの区別をせず、それらに共通する一般的な方式を前提として「サブキャリア」という用語を用いて説明する。
MIMO伝送技術においては、送信局と受信局との間の伝送路情報を知ることで、より効率的な伝送を行うことが可能となる。最も単純な例としては、受信側で複数のアンテナの場合を示したが、送信側にN本のアンテナ素子を備え、受信側に1本のアンテナ素子のみを備える場合、N本のアンテナ素子から送信される信号が受信側のアンテナ素子において同位相合成される様に送信側で指向性制御を行う。これにより、回線利得を高めることができる。具体的には、第kサブキャリアにおける送信局の第jアンテナ素子から受信局のアンテナ素子までの間のチャネル情報をhj (k)としたときに、そのアンテナ素子に対して下記の式(1)の送信ウエイトwj (k)を算出し、これを送信信号に乗算したものを各アンテナ素子から送信する(等利得合成)。なお、本明細書におけるチャネル情報とは実運用上の回路構成や信号処理及び制御の手順を考慮し、厳密には、送信系及び受信系のRF(Radio Frequency)回路内のアンプ、フィルタ等の複素位相の回転及び振幅の変動情報などを含むものとする。
送信側の第1アンテナ素子から第Nアンテナ素子それぞれに対応するチャネル情報を成分とするベクトル(h1 (k),…,hj (k),…,hN (k))をチャネルベクトルh(k)と称する。また、送信側の第1アンテナ素子から第Nアンテナ素子に対応する送信ウエイトを成分とするベクトル(w1 (k),…,wj (k),…,wN (k))T(Tは転置を表す。)を送信ウエイトベクトルw(k)と称する。なお、厳密には、ダウンリンクにおけるチャネルベクトル→h(k)(「h(k)」の前の記号「→」は、hの上に付与されてベクトルを表すための記号である)は行ベクトル、送信ウエイトベクトル→w(k)は列ベクトルとして表記されるべきである。しかし、以下では、簡単のために、記号「→」を省略すると共に行ベクトルと列ベクトルとを区別せずに表記する。また、以降の説明では受信信号Rx、送信信号Tx及びノイズnに関する表記も同様に「→」を付与してベクトルであることを明示すべきであるが、他に紛らわしい表記がないので「→」を省略して説明する。受信信号Rxは、送信信号Tx及びノイズnに対して下記の式(2)で与えられる。
式(1)を式(2)に代入すると、チャネルベクトルh(k)の各成分hj (k)の絶対値を全アンテナ成分に亘って加算した値がチャネル利得として得られる。各アンテナ素子からの送信電力を1本アンテナで送信する場合と同じままとするならば、N本アンテナ素子であれば、受信信号の振幅は1本のアンテナ素子で送信した場合のN倍になるものと期待される。受信信号電力は、振幅の2乗に比例するからN2倍にまで改善される。この値が複数のアンテナ素子をアレーアンテナとして利用した場合の利得である。厳密には、アレーアンテナそのものの利得としては、(総送信電力一定のもとでの評価した結果である)受信電力N倍と解釈されるのが一般的であるが、以下の説明では実運用環境を想定し、1素子当たりの送信電力一定の場合を基準として説明を行う。
一般的には、シャノンの定理により、SNR(Signal-Noise Ratio)の改善量に対する伝送容量の増加は、低SNR領域ほど大きく、高SNR領域ほど小さいことが知られている。そのため、回線利得の改善によって伝送容量の向上を目指すより、受信側にも複数のアンテナ素子を備え、空間多重によって伝送容量の向上を目指すことが多い。空間多重によって伝送容量の増加を目指すのがMIMO伝送技術である。
図1にMIMO伝送の概要を示す。ここではある周波数に着目した説明として、サブキャリアないし周波数を表す添え字「k」は省略している。図1において、符号11は送信局、符号12は受信局を表す。この例では送信局11、受信局12共に2本のアンテナ素子を備えており、送信局11の送信アンテナ#1と受信局12の受信アンテナ#1との間のチャネル情報(振幅、複素位相の回転量を表す情報)をh11、送信局11の送信アンテナ#1と受信局12の受信アンテナ#2との間のチャネル情報(振幅、複素位相の回転量を表す情報)をh21、送信局11の送信アンテナ#2と受信局12の受信アンテナ#1との間のチャネル情報(振幅、複素位相の回転量を表す情報)をh12、送信局11の送信アンテナ#2と受信局12の受信アンテナ#2との間のチャネル情報(振幅、複素位相の回転量を表す情報)をh22として表せば、送信局11の2本の送信アンテナから送信される信号t1、t2と、受信局12の2本の受信アンテナで受信される信号r1、r2との間には、雑音信号n1、n2を用いて以下の式(3)で表される。
基本的にMIMO伝送では、受信側の受信信号とチャネル行列を基に、送信側の信号を推定する。式(3)の雑音項が十分に小さければ、両辺にチャネル行列の逆行列を乗算することで、受信信号から送信信号を推定することができる。送信側で所定の送信ウエイト行列を乗算し、更に受信側でも所定の受信ウエイトを乗算することで伝送特性を改善でき、より効率的な伝送が可能になる。例えば複数の送信側のアンテナ素子と受信側のアンテナ素子との間のチャネル情報が既知の場合には、そのチャネル行列を特異値分解(SVD:Singular Value Decomposition)し、固有モードでの伝送を行うことで伝送容量を最大化する。
具体的には、下記の式(4)の様に、チャネル行列Hをユニタリー行列UとV及び特異値λを対角成分に持つ対角行列Dに分解する。
この際、送信ウエイト行列としてユニタリー行列Vを用いれば、受信信号ベクトルRxは、送信信号ベクトルTx、ノイズベクトルnに対して、下記の式(5)で与えられる。
受信側では、ユニタリー行列Uのエルミート共役の行列UHを乗算することで、下記の式(6)を得る。
式(6)において、対角行列Dの非対角成分はゼロであるから、送信信号のクロスタームは既にキャンセルされ、信号分離された状態となる。また、ノイズベクトルは受信ウエイト行列UHを乗算され、座標軸が回転されて表されるノイズベクトルn’に変換されているが、ベクトルの統計的特徴は元のノイズベクトルと等価なままである。
図2に、固有モード伝送の概念図を示す。図2(a)は基本のMIMOチャネルを示し、図2(b)は送受信ウエイト行列の乗算を行った状況を示し、図2(c)は固有モード伝送で形成される仮想的な伝送路を示している。送信局11と受信局12との各送受信アンテナの間のチャネル行列Hは、式(4)で示した通り、特異値分解により特異値λを各対角成分に持つ行列Dと、二つのユニタリー行列U、VHの積で表される。ここで図2(b)及び式(5)で示す様に送信側で送信ウエイト行列V、受信側で受信ウエイト行列UHを用いると、式(4)のユニタリー行列の部分に乗算されて単位行列となり、結果的に式(6)に示す様に非対角成分がゼロで対角成分のみが非ゼロの行列Dで表すことが可能になる。これはあたかも、図2(c)に示す様に、特異値λ1、λ2・・・で表される仮想的なチャネルの伝送路がパラレルに張られた状況に相当する。このとき、各特異値λの絶対値の2乗値が個別の信号系列の回線利得に相当する。各特異値λは、信号系統ごとに異なる値となる。この固有モードの特異値に合わせて伝送モードを最適化することによって、伝送容量を最大化することができる。伝送モードは、変調多値数と誤り訂正の符号化率などの組み合わせで定まる信号伝送の具体的なモードである。
ここで、MIMOチャネルのチャネル行列の各成分が独立で無相関であれば、各特異値の絶対値はそれぞれが比較的大きな値となる。例えば反射波が多数存在し、見通し波の受信電力が相対的に低い場合には、上述の様に各特異値は比較的大きな値を持つことになる。一方で、送受信アンテナが見通し環境にあり、反射波があまり存在しない様な場合には、第1特異値の絶対値だけが極端に大きく、第2特異値以降の特異値の絶対値は極端に小さくなる傾向がある。このため、一般的にはMIMO伝送はマルチパス環境に適していると言われ、見通し波が支配的な場合にはあまり適さないと言われている。
上記は、1台の基地局装置と1台の端末局装置とを想定したシングルユーザMIMO伝送技術に関する説明である。同様の説明は、1台の基地局装置と複数台の端末局装置との間において同時に同一周波数軸上で通信を行うマルチユーザMIMOにも拡張可能である。マルチユーザMIMOにおいては、一般に、各端末局装置は空間多重する合計の信号系統数よりも少ない本数のアンテナ素子で通信を行う。そのため、ダウンリンクにおいては、送信側で事前にユーザ間干渉を抑圧するための指向性制御を行う。具体的な式は若干異なるが、基本的には上記の固有モード伝送と同様に、チャネル行列を把握した上でそれに合わせた送信ウエイトを用いる。
また、上記の説明では、ダウンリンクを中心に説明を行ったが、アップリンクにおいても同様に事前にチャネル情報を把握した上で、そのチャネル情報を利用した通信を行うことができる。例えば、最初に説明したアレーアンテナとしての処理においては、式(1)にて与えられる同位相合成のウエイトを受信ウエイトとして用いる他、最大比合成のウエイトとして、下記の式(7)で与えられるものを用いることも可能である。
式(7)の定数Cは適宜定められる係数である。ベクトルの各成分の中でhj (k)の絶対値が大きいものは大きな重みで足し合わされ、また、小さな信号は小さな重みで足し合わされる様にCが決定される。これにより、SNRの大きな信号を重視し、SNRの小さな信号の雑音が過度に影響を与えない様に調整が図られる。
なお、送信ウエイトの算出のためにはダウンリンクのチャネル情報が必要になるが、これは様々な形のチャネルフィードバックにより実現可能である。最も単純な例では、ダウンリンクで基地局装置が送信したトレーニング信号を端末局装置が受信し、その受信結果をアップリンクの制御情報に収容して通知することが可能である。一般に、この様なループバックを行うチャネル推定方法を、エクスプリシット・フィードバックと呼ぶ。この他には、例えば基地局装置の装置内部でのアップリンクのチャネル情報とダウンリンクのチャネル情報との換算に必要となるキャリブレーション係数を事前に取得しておき、アップリンクでチャネル推定を行った後、このキャリブレーション係数を乗算することでダウンリンクのチャネル情報を推定することも可能である。この方法はインプリシット・フィードバックと呼ばれる。アンテナ数が膨大となる大規模アンテナの場合には、インプリシット・フィードバックが一般的には有利とされている。ただし、本発明においてはチャネルフィードバックの方法は特に限定せず、一般的なチャネル推定方法が利用可能であるとしている。
[将来モバイルネットワークの方向性]
前述の通り、スマートフォンの爆発的な普及に伴って、更なる伝送容量の増大が求められている。現在の無線通信の研究においては、第4世代の携帯電話に続く第5世代の携帯電話のための技術検討が進められており、ここでは第4世代の更に10倍以上の伝送容量を実現することが求められている。ここでは単に、一つの基地局装置とその配下の無線システムの伝送容量の増大のみではなく、単位面積当たりの伝送容量の増大も合わせて求められている。具体的には、新宿、渋谷、銀座や大手町など、人が多く集まる場所では単に無線システムの伝送容量増大だけでは対処できず、一つの基地局装置のカバーするエリア面積を縮小し(以降、「スモールセル」と呼ぶ)、より狭い面積で同等の伝送容量を実現し、そのスモールセルを多数設定することでスモールセルの数に比例する伝送容量を実現する。ただし、このスモールセルは人が集まり更なる伝送容量が必要となる場所に設置することが求められるため、広大なエリア面積を持つマクロセルの様に置局設計が十分にできない。元々、周波数資源が枯渇する中でスモールセルを導入するため、複数の周波数チャネルが利用可能であるならば、それは周波数繰り返し(周波数リユース)としてその資源を活用するのではなく、同一場所にて複数の周波数チャネルを利用することでトータルの伝送容量を増やすことが好ましい。したがって、同一周波数チャネルであっても、置局設計なしに比較的近距離でスモールセルの繰り返し設置ができる技術が求められる。
更に、マイクロ波帯の周波数資源が枯渇する中で、10Gbit/s以上の伝送容量を実現するためには周波数帯域幅をある程度確保する必要があり、そのためにはより高い周波数帯の活用が期待される。しかし、回線設計的には周波数が10倍になると自由空間伝搬損失は20dB増加するため、同一の送信電力であれば伝搬の到達距離は見通し環境においては1/10に縮小されてしまう。更には送信側のハイパワーアンプの大出力化に関しても、周波数が高くなるほど困難になり、1アンテナ当たりの送信電力を限定的としながらも、回線設計的に十分に10Gbit/s以上の伝送容量を実現できる技術が求められる。
この様な観点から、現在、大規模MIMO(Massive MIMO)伝送技術が注目を集めている。Massive MIMO伝送技術では、基地局装置側のアンテナ本数を最大でも数本程度であった従来のMIMO伝送よりも少なくとも一桁以上増加させ、数十本〜数百本の多数のアンテナ素子を用いることで、宛先とする端末局装置への回線利得向上と、宛先以外の端末局装置への与被干渉を低減する。Massive MIMOの実現方法、適用方法については様々なバリエーションがあり、所謂スモールセルに関しては、宛先以外の端末局装置への与被干渉の低減を「セル間干渉の抑圧」に活用している。またMassive MIMO伝送技術としては、当然ながら従来技術と同様に、大規模なMIMO行列を単純に単一の端末局装置で利用するシングルユーザMIMOとしての利用の他、複数の端末局装置で同時通信を行うマルチユーザMIMOとしての利用もある。ここでマルチユーザMIMOとしての利用においては、スモールセルの場合とは異なり同一エリア内の端末局装置間の「ユーザ間干渉の抑圧」に非常に冗長な数のアンテナ素子数を活用することも可能である。以下では、これらの大規模アンテナに関する技術の一例として、大規模アンテナシステム(例えば、非特許文献1から非特許文献4参照)について簡単に説明する。
[大規模アンテナシステムの概要]
図3は、大規模アンテナシステムの概要を示す図である。図3においては、基地局装置1、無線局装置2、見通し波3、構造物による安定反射波4、地上付近の多重反射波5〜6、構造物7が示されている。図3の大規模アンテナシステムにおいては、基地局装置1は、多数(例えば100本以上)のアンテナ素子を備え、ビルの屋上や高い鉄塔の上など高所に設置される。無線局装置2も同様に、ビルの屋上、家屋の屋根の上、電信柱や鉄塔の上など高所に設置される。そのため、基地局装置1と無線局装置2との間は概ね見通し環境にあり、その間には見通し波3のパスや大型の安定的な構造物7による安定反射波4のパスなどに加え、地上付近での車や人などの移動体などによる多重反射波5、6のパスが混在する。なお、指向性アンテナを用いる場合などは特に、地上付近の多重反射波5、6は、見通し波3及び安定反射波4などに比べて受信レベルが低くなる。
図4は、見通し環境及び見通し外環境におけるインパルス応答を表す図である。図4(a)は見通し外環境でのインパルス応答を、図4(b)は見通し環境でのインパルス応答をそれぞれ示している。図4(a)及び図4(b)において、横軸は遅延時間を表し、縦軸は各遅延波の受信レベルを表す。図4(a)に示した見通し外環境の場合、見通し区間の直接波成分は存在せず、様々な経路の多重反射波が数多く成分として存在し、各振幅及び複素位相は時間と共にランダムに激しく変動する。
これに対し、図3に示した大規模アンテナシステムの様な見通し環境を想定する場合、見通し波3、構造物7による安定反射波4の安定パスは受信レベルが高い。見通し波3、構造物7による安定反射波4よりも一般的に遅延量が大きい時変動パスの多重反射波は、多重反射と経路長に伴う減衰により、図4(b)に示す様に相対的に受信レベルが小さくなる。この様なチャネル情報を複数回取得して平均化すると、安定パスの成分は振幅及び複素位相ともに毎回安定して同様の値が得られる。しかし、時変動パスの成分は複素空間上でランダムに合成され平均化されて平均値0に近づく。そのため、平均化により安定成分のみを効果的に抽出することが可能になる。なお、絶対的なチャネル情報はシンボルタイミングに依存し、このシンボルタイミングが異なるとチャネル情報の平均化を適切に行うことができない。
この様な問題を解決するために、非特許文献2では基準となるアンテナ素子の複素位相を基準とした相対チャネル情報(ないしは、各チャネル情報を基準アンテナのチャネル情報で除算したものと考えても良い)を活用する技術が紹介されている。この様な平均化が伴わない場合には相対チャネル情報を用いず、絶対的なチャネル情報を用いて議論することが可能であるが、その様な場合でも送受信ウエイトの算出においては相対チャネル情報を用いても何ら問題は生じない。以降の説明では平均化処理を行うことも含めて包括的に扱うために、チャネル情報は基本的に基準アンテナの複素位相を基準とした相対チャネル情報として扱うこととする。
この様にして得られる時変動のない安定パスのチャネル情報を基に、基地局装置1(図3参照)は送受信ウエイトを算出する。基地局装置1は、算出した送受信ウエイトを用いて多数のアンテナ素子で同位相合成を行うための指向性制御を行う。上記の送受信ウエイトを用いることで、基地局装置1は、指向性制御のターゲットとする通信相手の無線局装置への指向性利得をアンテナ本数Nの2乗倍に比例して高めることができる。
また、宛先以外の無線局装置への与干渉の指向性利得はN倍に留まるため、相対的に希望信号と干渉信号との間には単純計算でN倍のギャップが生じる。結果的にSIR(Signal to Interference Ratio)の期待値は10Log10(N)[dB]となる。この期待値は、Nが100の場合には20dBとなる。更に相関の小さな無線局装置を選択的に空間多重する場合には、更なるSIR特性の改善が期待され、より高い空間多重が実現できる。
非特許文献3及び非特許文献4には、上記の送受信ウエイトでは抑圧しきれない干渉を更に抑圧するための技術や、チャネル情報の相関(チャネル相関)のより低い無線局装置の組み合わせを選択する技術が紹介されている。超高次の空間多重を実現するためには、チャネル情報の相関の小さな無線局装置を組み合わせることが重要である。基地局装置の多数のアンテナ素子と第j無線局装置のアンテナ素子との間の第kサブキャリアに関するチャネル情報を成分とするチャネルベクトルhj (k)(「hj (k)」はベクトルであり、本来は記号「→」をhの上に付与してベクトルであることを明示すべきであるが省略する。以下、同様に説明の上では省略する。)と、別の第i無線局装置におけるチャネルベクトルhi (k)との間のチャネル相関は以下の式(8)で与えられる。
見通し環境を想定するシステムでは、見通し波のみで構成される仮想的なチャネルモデルを想定し、無線局装置側の各アンテナと基地局装置の間のチャネルベクトルhi (k)の相関が小さい場合には空間多重には適し、逆に相関が大きい場合には空間多重には適さない状況となる。
[スモールセルにおける大規模MIMOについて]
上述の式(8)の説明においては、無線局装置側が1本アンテナであることを想定し、異なる無線局装置であれば空間的な広がりによりチャネルベクトルの相関は一般的には低くなることが想定されていた。これに対し、第5世代の携帯電話においてはユーザ当たりのスループット向上を目的として、無線局装置側にも多数のアンテナを実装し、同様に基地局装置側にも多数のアンテナを実装する。最近の研究報告の中では基地局装置側のアンテナ素子数を256素子、無線局装置側のアンテナ素子数を16素子として、256×16のサイズの大規模MIMOによる大容量化の検討がなされている。ここではユーザが携帯する無線局装置はサイズ的にも携帯可能な小規模なものであることが想定される。更に、例えば基地局装置も隣接するスモールセル間の相互干渉を低減すること、更には人が集中する場所への設置などを考えると、既存のビルの壁面(例えば地上高20m程度)に設置し、各アンテナ素子に指向性を与え、上方から下方を見下ろす形で限定的なエリアを照射する形態が予想される。この場合、ビルの壁面などに大型のアンテナを設置することは安全性や設置の容易性などの観点から好ましくない。ミリ波や準ミリ波などの高い周波数帯の利用の場合、波長が短くなるのに伴いアンテナ素子の小型化やアンテナの指向性形成が容易になり、基地局装置であっても非常に狭い領域に多数のアンテナを多数詰め込んだ小型アンテナ・セットを利用することが期待される。
この場合、例えば単一無線局装置内の複数のアンテナ素子のうちの第j及び第iアンテナ素子の間のチャネル相関を上記の式(8)により求めるならば、ユーザ側の無線局装置のアンテナ素子の間隔が非常に短く、且つ基地局装置と無線局装置間との見通しが確保できている条件下では、アンテナ素子の間のチャネル相関が非常に大きなMIMOチャネルと見ることができる。上述の様に基地局装置がビルの壁面などの高所に下方を見下ろす形で設置され、ユーザは無線局装置としてのスマートフォン等を手に持ち利用する場合には、基地局装置と無線局装置との各アンテナ素子間は概ね見通し環境となることが期待され、この様な状況は一般的な使用環境であると予想される。
この場合、MIMO行列を特異値分解した場合、第1特異値の絶対値は見通し波成分を利用して非常に高い値になるが、第2特異値以降の高次の特異値は、第1特異値に比較して相対的に非常に小さくなる傾向になる。つまり、MIMOチャネルを活用した空間多重伝送としては、第1特異値に対応する第1のパスに関しては非常に回線利得に余裕がある状況であるが、第2特異値以上の高次のパスに関しては、相対的に効率は良くない状況と言える。
この問題を回避するためには、例えば基地局装置のアンテナ素子を小規模な筐体に集約せず、空間的な広がりを確保することが理想的である。例えば、基地局装置のアンテナ素子を10m程度の直線状に均等配置するリニアアレー状に組めば、仮に見通し波が支配的である場合であっても基地局装置のアンテナ素子の空間的な広がりにより、MIMOチャネルとしては第2特異値以上の高次の特異値の絶対値を大きくし、容量の増加に寄与すると期待することができる。しかし、この様な大規模な構造物にすることはアンテナ設置の構造上も好ましくない。例えば基地局装置側のアンテナ素子数を256素子とする場合、約4cm間隔で256個のアンテナ素子を個別にビルの壁面に設置するのは設置工事の負担を増大させる。一方で、既にリニアアレーに組んだ構造物をビル壁面に設置する際には、その構造物が大型化するために、ビルの壁面に設置するのは安全対策上厳しいものがある。更に全てのアンテナ素子で協調的に伝送するためには、一つの基地局装置の筐体から無線周波数の信号をケーブルで10m程度の空間的な広がりを持つアンテナ素子に分配する必要があり、特に高い周波数帯での信号伝送のケーブル損失は無視できない。例えば無線周波数として20GHzを想定すれば、10mで10dB以上のケーブル損失となり、折角、アンテナ素子数の増大で稼いだ回線利得を損なうことになりかねない。
この様な理由のため、見通し波が支配的な大規模MIMOの運用において、少なくとも無線局装置側のアンテナを小型化することが求められる場合には、シングルユーザMIMOによる空間多重伝送で大容量化を図ることは困難となる。
[MIMO伝送の装置構成例]
(全体の回路構成)
図5は、マルチユーザMIMOシステムにおける基地局装置80の構成の一例を示す概略ブロック図である。ここではマルチユーザMIMOシステムとして説明を行うが、空間多重する対象が異なる端末局装置の代わりに、同一無線局装置内の複数のアンテナ素子で複数の信号系列を行うと理解すれば、基本的に装置構成はシングルユーザMIMOシステムと同一である。図5に示す様に、基地局装置80は、送信部81、受信部85、インタフェース回路87、MAC(Medium Access Control)層処理回路88、及び通信制御回路820を備えている。MAC層処理回路88はスケジューリング処理回路881を有している。
基地局装置80は、インタフェース回路87を介して、外部機器ないしはネットワークとのデータの入出力を行う。インタフェース回路87は、入力されるデータのうち、無線回線上で転送すべきデータを検出し、検出したデータをMAC層処理回路88に出力する。MAC層処理回路88は、基地局装置80全体の動作の管理制御を行う通信制御回路820の指示に従い、MAC層に関する処理を行う。ここで、MAC層に関する処理には、インタフェース回路87で入出力されるデータと、無線回線上で送受信されるデータの変換、MAC層のヘッダ情報の付与などが含まれる。この処理の中で、スケジューリング処理回路881は、マルチユーザMIMO伝送において同時に空間多重を行う端末局装置の組み合わせを含む各種スケジューリング処理を行う。スケジューリング処理回路881は、スケジューリング結果を通信制御回路820に出力する。マルチユーザMIMOでは、複数の端末局装置宛に一度に信号を送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路88から送信部81に出力される。
(送信部81の回路構成)
図6は、マルチユーザMIMOシステムにおける基地局装置80における送信部81の構成の一例を示す概略ブロック図である。図6に示す様に、送信部81は、送信信号処理回路811−1〜811−NSDM(NSDMは2以上の整数)と、加算合成回路812−1〜812−NBS−Ant(NBS−Antは2以上の整数)と、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform:逆高速フーリエ変換)&GI(Guard Interval:ガードインターバル)付与回路813−1〜813−NBS−Antと、D/A(デジタル/アナログ)変換器814−1〜814−NBS−Antと、ローカル発振器815と、ミキサ816−1〜816−NBS−Antと、フィルタ817−1〜817−NBS−Antと、ハイパワーアンプ(HPA)818−1〜818−NBS−Antと、アンテナ素子819−1〜819−NBS−Antと、送信ウエイト処理部830とを備えている。送信信号処理回路811−1〜811−NSDMと、送信ウエイト処理部830とは、図5において示した通信制御回路820に接続されている。
送信ウエイト処理部830は、チャネル情報取得回路831と、チャネル情報記憶回路832と、マルチユーザMIMO(MU−MIMO)送信ウエイト算出回路833とを備えている。ここで、図6における送信信号処理回路811−1〜811−NSDMの添え字のNSDMは、同時に空間多重を行う多重数を表す。また、加算合成回路812−1〜812−NBS−Antからアンテナ素子819−1〜819−NBS−Antまでの回路の添え字のNBS−Antは、基地局装置80が備えるアンテナ素子数を表す。NBS−Antは、例えば、100である。
マルチユーザMIMOでは、複数の端末局装置宛に一度に信号を送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路88から送信部81に入力され、入力された複数系統の信号系列が送信信号処理回路811−1〜811−NSDMに入力される。送信信号処理回路811−1〜811−NSDMは、宛先の端末局装置それぞれに送信すべきデータ(データ入力#1〜#NSDM)がMAC層処理回路88から入力されると、無線回線で送信する無線パケットを生成して変調処理を行う。ここで、例えばOFDM変調方式を用いるのであれば、送信信号処理回路811−1〜811−NSDMは、各信号系列の信号に対して変調処理をサブキャリアごとに行う。更に、送信信号処理回路811−1〜811−NSDMは、変調処理がなされたベースバンド信号に送信ウエイトをサブキャリアごとに乗算する。各アンテナ素子819−1〜819−NBS−Antに対応した送信ウエイトが乗算された信号は、必要に応じて残りの信号処理が施され、ベースバンドにおける送信信号のサンプリングデータとして加算合成回路812−1〜812−NBS−Antに入力される。
加算合成回路812−1〜812−NBS−Antに入力された信号は、サブキャリアごとに合成される。合成された信号は、IFFT&GI付与回路813−1〜813−NBS−Antにて周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換され、更にガードインターバルの挿入やOFDMシンボル間(SC−FDE(Single-Carrier Frequency Domain Equalization)であればブロック伝送のブロック間)の波形整形等の処理が行われ、アンテナ素子819−1〜819−NBS−Antごとに、D/A変換器814−1〜814−NBS−Antでデジタル・サンプリング・データからベースバンドのアナログ信号に変換される。更に、各アナログ信号は、ローカル発振器815から入力される局部発振信号と、ミキサ816−1〜816−NBS−Antで乗算され、無線周波数の信号にアップコンバートされる。ここで、アップコンバートされた信号には、送信すべきチャネルの帯域外の領域に信号が含まれるため、フィルタ817−1〜817−NBS−Antで帯域外成分を除去し、送信すべき電気的な信号を生成する。生成された信号は、ハイパワーアンプ818−1〜818−NBS−Antで増幅され、アンテナ素子819−1〜819−NBS−Antより送信される。
なお、図6では、各サブキャリアの信号の加算合成を加算合成回路812−1〜812−NBS−Antで実施した後に、IFFT処理、ガードインターバルの挿入、波形整形等の処理を行っているが、送信信号処理回路811−1〜811−NSDMにてこれらの処理を行い、機能配分的にはこの位置にてIFFT&GI付与回路813−1〜813−NBS−Antを省略する構成としてもよい。この場合、送信信号処理回路811−1〜811−NSDMにおける送信ウエイト乗算後の必要に応じた残りの信号処理とは、IFFT処理、ガードインターバルの挿入、波形整形等の処理を指す。
また、送信信号処理回路811−1〜811−NSDMで乗算される送信ウエイトは、信号送信処理時に、送信ウエイト処理部830に備えられているマルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833より取得される。送信ウエイト処理部830では、チャネル情報取得回路831が、受信部85にて取得されたチャネル情報を通信制御回路820経由で別途取得しておき、これを逐次更新しながら、チャネル情報記憶回路832に記憶させる。信号の送信時には通信制御回路820からの指示に従い、マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833は、宛先とする端末局装置に対応したチャネル情報をチャネル情報記憶回路832から読み出し、読み出したチャネル情報を基に宛先とする端末局装置の組み合わせに対応した送信ウエイトを算出する。マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833は、算出した送信ウエイトを送信信号処理回路811−1〜811−NSDMに出力する。
また、宛先とする端末局装置の管理や、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路820が管理する。上述の送信ウエイトの算出に係る信号処理を行う送信ウエイト処理部830に対し、通信制御回路820は宛先とする端末局装置等を示す情報を出力する。
(受信部85の回路構成)
図7は、マルチユーザMIMOシステムにおける基地局装置80における受信部85の構成の一例を示す概略ブロック図である。図7に示す様に、受信部85は、アンテナ素子851−1〜851−NBS−Antと、ローノイズアンプ(LNA)852−1〜852−NBS−Antと、ローカル発振器853と、ミキサ854−1〜854−NBS−Antと、フィルタ855−1〜855−NBS−Antと、A/D(アナログ/デジタル)変換器856−1〜856−NBS−Antと、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)回路857−1〜857−NBS−Antと、受信信号処理回路858−1〜858−NSDMと、受信ウエイト処理部860とを備えている。受信信号処理回路858−1〜858−NSDMと、受信ウエイト処理部860とは、図5において示した通信制御回路820に接続されている。受信ウエイト処理部860は、チャネル情報推定回路861と、マルチユーザMIMO(MU−MIMO)受信ウエイト算出回路862とを備えている。
アンテナ素子851−1〜851−NBS−Antで受信された信号は、ローノイズアンプ852−1〜852−NBS−Antで増幅される。増幅された信号とローカル発振器853から出力される局部発振信号とがミキサ854−1〜854−NBS−Antで乗算され、増幅された信号は無線周波数の信号からベースバンドの信号にダウンコンバートされる。ダウンコンバートされた信号には、受信すべき周波数帯域外の領域にも信号が含まれるため、フィルタ855−1〜855−NBS−Antは帯域外成分を除去する。帯域外成分を除去された信号は、A/D変換器856−1〜856−NBS−Antでデジタルベースバンド信号に変換される。デジタルベースバンド信号は全てFFT回路857−1〜857−NBS−Antに入力され、ここでは記載を省略したタイミング検出用の回路で判定した所定のシンボルタイミングで、時間軸上の信号を周波数軸上の信号に変換(各サブキャリアの信号に分離)される。この各サブキャリアに分離された信号は、受信信号処理回路858−1〜858−NSDMに入力されると共に、チャネル情報推定回路861にも入力される。
チャネル情報推定回路861は、各サブキャリアに分離されたチャネル推定用の既知の信号(無線パケットの先頭に付与されるプリアンブル信号等)を基に各端末局装置のアンテナ素子と、基地局装置80の各アンテナ素子851−1〜851−NBS−Antとの間のチャネル情報をサブキャリアごとに推定し、その推定結果をマルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862に出力する。マルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862は、入力されたチャネル情報を基に受信ウエイトをサブキャリアごとに算出する。この際、各アンテナ素子851−1〜851−NBS−Antで受信された信号を合成する受信ウエイトは、信号系列ごとに異なり、抽出すべき信号系列に対応する受信信号処理回路858−1〜858−NSDMそれぞれに入力される。
受信信号処理回路858−1〜858−NSDMは、FFT回路857−1〜857−NBS−Antから入力されたサブキャリアごとの信号に対し、マルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862から入力された受信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子851−1〜851−NBS−Antで受信された信号をサブキャリアごとに加算合成する。受信信号処理回路858−1〜858−NSDMは、加算合成した信号に対して復調処理を施し、再生されたデータをMAC層処理回路88に出力する。ここでの復調処理では、例えば一旦受信信号の軟判定を行い、必要に応じてデインタリーブ処理を行い、その後に誤り訂正処理を行うなどして最終的な信号検出を行う構成としても良い。
ここで、異なる受信信号処理回路858−1〜858−NSDMでは、異なる信号系列の信号処理が行われる。また、MAC層処理回路88は、MAC層に関する処理(例えば、インタフェース回路87に対して入出力するデータと、無線回線上で送受信されるデータとの変換、MAC層のヘッダ情報の終端など)を行う。この処理の中でスケジューリング処理回路881は、マルチユーザMIMO伝送において同時に空間多重を行う端末局装置の組み合わせを含む各種スケジューリング処理を行い、スケジューリング結果を通信制御回路820に出力する。MAC層処理回路88にて処理された受信データは、インタフェース回路87を介して外部機器ないしはネットワークに出力される。
また、送信元の端末局装置の管理や、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路820が管理する。また、上述の受信ウエイトの算出に係る信号処理を行う受信ウエイト処理部860に対し、通信制御回路820から送信元の端末局装置等を示す情報が入力される。
なお、信号受信に関しても送信の場合と同様に、OFDM変調方式ないしはSC−FDE方式を用いた広帯域のシステムでは、上述の受信ウエイトの乗算はサブキャリアごとに行われる。つまりA/D変換器856−1〜856−NBS−Antから出力される信号に対し、FFT回路857−1〜857−NBS−AntがFFTを行い各サブキャリアに分離し、分離したサブキャリアごとに、チャネル情報推定回路861での信号処理、及び、受信信号処理回路858−1〜858−NSDMでの受信信号処理が実施されることになる。
以上がマルチユーザMIMOシステムにおける基地局装置80、送信部81、及び受信部85の構成の説明である。上述の様に、例えば送信信号処理回路811−1〜NSDMや受信信号処理回路858−1〜NSDMをそれぞれ単一の端末局装置のNSDM系統の信号系列に対する信号処理回路と見なし、更にマルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833及びマルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862がシングルユーザMIMOに関する送受信ウエイトの算出回路と見なせば、基本的に上述の説明でシングルユーザMIMOシステムにおける基地局装置80、送信部81及び受信部85の構成を表したものとなる。
ここで重要なのは、送信部81におけるローカル発振器815が送信部81の各アンテナ系統におけるミキサ816−1〜816−NBS−Antで共通化されている点、受信部85におけるローカル発振器853が受信部85の各アンテナ系統におけるミキサ854−1〜854−NBS−Antで共通化されている点である。各アンテナで送受信信号の位相を調整することになるが、それぞれのローカル発振器815ないしはローカル発振器853から入力される信号の位相関係が常に一定になる様にすることで、どの様な位相関係で送受信ウエイトを乗算すれば良いかが判断可能となる。このローカル発振器が送信部81内又は受信部85内で非同期のものを複数利用する場合には、少なくとも送信部81において送信ウエイトを乗算する指向性制御が効果的に機能しなくなる。装置の設計においては、この点に注意が必要である。
[見通し波が支配的なMIMOチャネルの特徴]
まず、見通し波が支配的な伝搬路での空間多重特性について整理する。送信局と受信局との間が見通し環境にある場合のチャネル行列をHLOS、行列の各成分が独立無相関となるチャネル行列をHi.i.d.とする。簡単のため、HLOSを各成分が全て「1」である行列で代用し、下記のチャネル行列を送信アンテナ16本、受信アンテナ16本の場合と、送信アンテナ256本、受信アンテナ16本の二つの場合について、下記の式(9)で与えられるチャネル行列の16個の特異値の絶対値の分布を評価する。
図8にチャネル行列ごとの特異値の絶対値の分布特性を示す。図8(a)はHi.i.d.のみの場合(i.i.d. channel)、図8(b)はライス係数K=10dBの場合の式(9)で表されるライスチャネル(Rician channel)の場合における特異値の絶対値の分布特性を示す。図8(a)及び図8(b)のそれぞれにおいて、左側の分布特性は送受信のアンテナ素子を16本としたときの分布特性であり、右側の分布特性は送信側のアンテナ素子を256本としたときの分布特性である。送受信のアンテナ素子の数が16本と同数の場合には、特異値の絶対値の分布は広がると共に、第1特異値と第16特異値の絶対値のギャップは広がる傾向がある。しかし、送信又は受信アンテナの本数が冗長になり、例えば送信アンテナ素子が256本にもなると、特異値の絶対値はHi.i.d.の評価ごとの乱数の値に影響を受けず、分布確率0%と100%値の差が殆どなくなる。これは図8(a)、図8(b)で共通であるが、図8(a)のHi.i.d.のみの場合には第1特異値から第16特異値までのギャップが非常に小さくなるのに対し、図8(b)のライスチャネルの場合には第1特異値と第2特異値との絶対値の間のギャップがライス係数よりも10dB大きい20dBあり、一方で第2特異値と第16特異値のギャップは小さい。つまり、図8(a)及び図8(b)より分かることは、見通し波が支配的な場合にはアンテナ素子数を増やしても第1特異値に相当する図2(c)の一番上(λ1)のパイプに相当する伝送路に回線利得が集中しすぎて、空間多重を行うための図2(c)の上から2番目(λ2)、3番目(λ3)のパイプに相当する伝送路が殆ど活用できないことを意味する。
一方で、ミリ波などを用いる場合には自由空間伝搬損失が周波数に依存して大きくなるため、例えば5GHzに対して80GHzでは24dB程度の利得を何処かで稼がなくてはならない。このためにアンテナを大規模化することが有効であるが、空間多重のためのアンテナの大規模化と、回線利得を稼ぐためのアンテナの大規模化は、別の観点から実施する必要がある。
本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
ここで、以下の説明において用いる記号・変数を説明する。
NSDM:空間多重数。
N、M、N’、M’:自然数。
i、j、m、n:主としてアンテナ素子等の通し番号(一般的な整数)。
k:サブキャリアの番号(周波数成分の番号)。
NBS−Ant:基地局装置のアンテナ素子の総数。
N’BS−Ant:基地局装置の第1の送信信号処理部又は第1の受信信号処理部が備えるアンテナ素子の数。
NMT−Ant:端末局装置のアンテナ素子の数。
NAnt:基地局装置又は端末局装置のアンテナ素子の数。
NSC:サブキャリアの数。
NFFT:FFTのポイントの数。
L:距離。
K:ライス係数。
λk:第kサブキャリアの波長。
rji:送信側の第iアンテナ素子と、受信側の第jアンテナ素子との間の距離。
hji、h’ji:送信側の第iアンテナ素子と、受信側の第jアンテナ素子との間のチャネル情報(周波数依存性を持つため、説明上で必要があれば第k周波数成分であることを明示的に示す場合もある)。
d:アンテナ素子同士の間隔。
Δdmn:第nアンテナ素子と第mアンテナ素子の間隔。
ΔLm:第1アンテナ素子を基準とした第mアンテナ素子の経路長差。
c:光速(3×108m/s)。
fc:無線信号の中心周波数[Hz]。
fk:ベースバンド信号の第kサブキャリアの周波数[Hz]。
t:時刻。
W:帯域幅[Hz]。
Δt:サンプリング周期(Δt=1/W)。
ψj(t)、Φj(t):時刻tにおける第jアンテナ素子での受信信号(サンプリング値)。
φj (k)(t):時刻tにおける第jアンテナ素子での第kサブキャリアの受信信号(サンプリング値の中の所定のサブキャリアに着目した値)。
ηk:最小二乗法を用いる場合の2π周期の複素位相を考慮した第kサブキャリアのオフセット値。
um:第m左特異ベクトル。
vm:第m右特異ベクトル。
まず、本発明の実施形態を説明する前に、本発明に関連する技術(以下、関連技術という。)について説明を行う。
[複数の第1特異値に対応する仮想的伝送路を用いた空間多重伝送]
(基本原理の概要)
図8でも説明した様に、図8(b)の様な見通し波が支配的な環境の場合には第1特異値と第2特異値の絶対値の間のギャップが大きくなり、第2特異値以上の特異値に相当する伝送路を利用する場合には、ほんの僅かな反射波によるHi.i.d.の成分を用いて稼いだ僅かな回線利得により通信を行うことになる。しかし、例えばビルの壁面に設置された基地局装置から下方の限定的なスモールセルのエリア内を照射する場合には、基地局装置側は指向性利得の高いアンテナを実装する。更に、波長の短いミリ波等の特徴を利用して、指向性利得を得ることが可能な小型のアンテナ素子が端末局装置側に実装されることが予想される状況では、送信側・受信側双方がオムニ指向性のアンテナを実装するマイクロ波帯のシステムなどに比べて、マルチパス成分は非常に限定的となることが予想される。そこで、見通し波のみを考慮した場合のMIMO伝送の特性を整理する。
図9は、基地局装置の100本のアンテナ素子が等間隔に配置されたリニアアレーの例を示す図である。図9において、符号40は無線通信システムであり、符号301は基地局装置であり、符号302は端末局装置である。図9では、基地局装置301の100本のアンテナ素子は、リニアアレー状に実装されている。基地局装置301の100本のアンテナ素子は、長さD1に亘って等間隔に配置されている。また、端末局装置302の16本のアンテナ素子は、長さD2に亘ってリニアアレー状に等間隔に配置されている。
図10は、基地局装置の100本のアンテナ素子が25本ごとの4個のグループに分けて配置されたリニアアレーの例を示す図である。図10において、符号50は無線通信システムであり、符号303は基地局装置、符号302は端末局装置、符号304−1〜304−4は第1の信号処理部、符号305は第2の信号処理部(厳密にはインタフェース回路、MAC層処理回路、通信制御回路などのその他の基地局装置機能を含む)である。図10では、基地局装置303の100本のアンテナ素子は、25本のアンテナ素子ごとの4個のグループに分けられている。同じグループの25本のアンテナ素子は、図9の場合に比べて非常に狭い間隔で、長さD1よりも短い長さD3に亘って、リニアアレー状に配置されている。
図10では、基地局装置303の100本のアンテナ素子は、グループ(25本のアンテナ素子)ごとに、リニアアレー状に実装されている。すなわち、基地局装置303の100本のアンテナ素子は、第1の信号処理部304ごとに、リニアアレー状に実装されている。第1の信号処理部304−1〜304−4は、信号処理により、グループ(25本のアンテナ素子)ごとに一つの指向性ビームを形成する。また、端末局装置302の16本のアンテナ素子は、長さD2に亘ってリニアアレー状に等間隔に配置されている。
ここで、図9と図10とに示すふたつのケースのそれぞれにおいて、四つの信号系統を空間多重(4多重)して伝送する場合の伝送特性を比較する。伝送の特性の把握は、図2(c)に示す各伝送路の利得により把握可能で、これはチャネル行列の特異値分解を行った特異値の絶対値の2乗値に相当する。図9に示すケースでは、例えばダウンリンクを想定し、基地局装置301が送信局11、端末局装置302が受信局12であるものとすれば、チャネル行列のサイズは16×100となる。この行列に対して特異値分解を行う。
一方、図10に示すケースでは下記の手順を想定し、その特性を把握する。まず、基地局装置303は、基地局装置303の各グループの25本のアンテナ素子と、端末局装置302の16本のアンテナ素子とにより形成される16×25のチャネル行列(ダウンリンクの場合)を基に特異値分解を行い、第1右特異ベクトルを用いて送信する、と仮定する。具体的には、基地局装置303は、第1の信号処理部304−1〜304−4に接続された各25本のアンテナ素子と、端末局装置302の16本のアンテナ素子の間の部分チャネル行列H1〜H4を特異値分解する。部分チャネル行列H1〜H4を、式(10)に示す。
各部分チャネル行列H1〜H4は16×25の行列である。したがって、各右特異ベクトルを形成するvijはそれぞれ25次元ベクトルであり、四つのグループのアンテナ群のi番目のグループの中の第j特異値に対応する右特異ベクトルを表している。同様に、各左特異ベクトルを形成するuijはそれぞれ16次元ベクトルであり、四つのグループのアンテナ群のi番目のグループの中の第j特異値に対応する左特異ベクトルを表しているここで、基地局装置303の全アンテナ素子と端末局装置302との間の全体チャネル行列を、式(11)に示す。
ここでの送信ウエイト行列WTxを、式(12)に示す。
式(12)では表記の都合上、送信ウエイト行列WTxのエルミート共役の表現を用いているが、送信ウエイト行列WTx自体のサイズは100×4である。この結果、全体チャネル行列と送信ウエイト行列の積は、式(13)に示される。
ここで、Hivi1は16×1の行列(列ベクトル)であり、式(10)によりλiui1と一致する。この結果、全体チャネル行列と送信ウエイト行列との積の全体のサイズは16×4となる。一般には部分チャネル行列H1〜H4の第1左特異ベクトルはそれぞれ直交していないため、受信時には信号分離のための受信ウエイトを形成して乗算する。ただし、部分チャネル行列H1〜H4の第1左特異ベクトルがそれぞれ概ね直交している環境にある場合には、全体チャネル行列と送信ウエイト行列との積で表される行列を特異値分解した4個の特異値の絶対値の2乗値が、図2(c)の伝送路の回線利得に概ね一致する。ここでの評価では、見通し波のみを考慮した自由空間伝搬モデルにより、チャネル行列の各要素が下記の式(14)で表されるものとする。
ここで、rijは送信側の第iアンテナと受信側の第jアンテナとの間の距離を表し、λは波長を表す。全体の特徴を把握するため、全体に係数として乗算される係数はここでは簡単化のため省略している。
そこで、図10においてL=100m、D1=12m、D2=10cm、D3=30cm、周波数80GHzの場合について、それと同程度のアンテナ開口長で設置した図9の特性を比較する。ここでは回線利得として特異値の絶対値をXとしたとき、回線利得を20Log(X)[dB]として評価する。このとき、図9の4本の回線の利得はそれぞれ−56.5dB、−83.4dB、−118.3dB、−157.2dBであるのに対し、図10に対し上述の処理を施したものはそれぞれ−62.5dBとなる。図9の場合には、図2(c)の第1特異値に相当する利得最大の回線のみが大きな値を持ち、残りの特異値に相当する回線の利得は相対的に小さく、送信電力やアンテナ利得などのパラメータの値にも依存するが、実質的には第1特異値に相当する回線しか利用できない状況にある。これに対し、図10の場合には4本の伝送路がほぼ均等に利用可能であることが分かる。ここで、図9の第1特異値に対する利得と図10の特異値に対する利得差は6dBであるが、これは図10では指向性ビーム形成に用いるアンテナ素子数が100本から25本に1/4となっており、その分の10Log(1/4)=−6dBに相当する。言い換えれば、アンテナ素子群を4分割することにより効率が1/4になるが、シャノン限界によるチャネル容量には、SNRを6dB改善するよりも4本の信号系列を多重化した方が、伝送容量増大の観点では圧倒的に効率が良い。
送信電力やアンテナ利得などのパラメータの値の設定により、第2特異値以降の特異値に相当する回線の回線利得が十分に有効利用可能なほど、反射波成分の受信信号電力が強ければ別だが、一般にはミリ波等の高周波数帯を利用に伴い減少する回線利得を補うためにアンテナ素子数を増大させるのであれば、第2特異値以降の特異値に相当する回線の回線利得が十分であるという状況は一般的には考えにくく、データ伝送としては実質1回線分の伝送を行う図9のケースよりも、4回線分の伝送を並列的に行う図10の方が伝送容量を増大するのに適していると見ることができる。この様にアンテナをグループ化し、それぞれのグループで第1特異値に相当する仮想的伝送路を効率的に利用することが有効である。
(本発明の関連技術における基地局装置の回路構成について)
図11は、本発明の関連技術におけるMIMOシステムにおける基地局装置70の構成の一例を示す概略ブロック図である。図10では基地局装置303が1台と、端末局装置302が1台とのPoint−to−Point型の1対1通信の場合を例示したが、当然ながら複数の端末局装置302が存在していても構わない。図10の信号の送受信は、着目するサブキャリアで見れば同時に1台の端末局装置302としか通信しておらず、シングルユーザMIMO伝送の形態となり、スケジューリングにより通信対象は一つの端末局装置302が選択される。アクセス制御でOFDMAを用いるのであれば、サブキャリアごとに異なる端末局装置302が割り当てられても良いが、各サブキャリアに着目すれば、一つの端末局装置302に割り当ては限定されている。また以下の説明では、説明を簡単にするために広帯域のシステムを想定しOFDMないしはSC−FDEなどの様に周波数軸でのサブキャリアごとの信号処理を行う場合について説明を行うが、その他のシステム(例えば狭帯域のシングルキャリアのシステムなど)においても拡張可能である。
図11に示す様に、基地局装置303に対応する基地局装置70は、第1の送信信号処理部181−1〜181−4と、第2の送信信号処理部71と、第1の受信信号処理部185−1〜185−4と、第2の受信信号処理部75と、インタフェース回路77と、MAC(Medium Access Control)層処理回路78と、通信制御回路120とを備えている。MAC層処理回路78はスケジューリング処理回路781を有している。
基地局装置70は、インタフェース回路77を介して、外部機器ないしはネットワークとのデータの入出力を行う。インタフェース回路77は、入力されるデータのうち、無線回線上で転送すべきデータを検出し、検出したデータをMAC層処理回路78に出力する。MAC層処理回路78は、基地局装置70全体の動作の管理制御を行う通信制御回路120の指示に従い、MAC層に関する処理を行う。ここで、MAC層に関する処理には、インタフェース回路77で入出力されるデータと、無線回線上で送受信されるデータとの変換と、MAC層のヘッダ情報の付与などが含まれる。この処理の中で、スケジューリング処理回路781は、空間多重を行う端末局装置302の各種スケジューリング処理を行う。スケジューリング処理回路781は、スケジューリング結果を通信制御回路120に出力する。MIMO伝送では、複数の信号系列の信号を一度に空間多重して送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路78から第2の送信信号処理部71に出力される。
第2の送信信号処理部71の動作は後述するが、基本的にはMAC層処理回路78からの複数系列の信号に所定の変調処理を行い、必要に応じて何らかのプリコーディング処理(送信側での等化処理や信号分離などの処理)などを施し、第1の送信信号処理部181−1〜181−4に出力する。この際、OFDMやSC−FDEを用いる場合にかかわらず、第1の送信信号処理部181−1〜181−4にて周波数軸上の信号処理を行う場合には、第2の送信信号処理部71内で周波数軸上の信号を生成し、これを第1の送信信号処理部181−1〜181−4に出力する。なお、第1の送信信号処理部で時間軸上の信号処理を行う場合には、時間軸の信号を出力する構成としてもよい。第1の送信信号処理部181−1〜181−4はそれぞれ図10に示す様に複数のアンテナ素子が接続され、それぞれのアンテナに対して送信信号を出力する。この際、第1の送信信号処理部181−1〜181−4ごとにグループ化されたアンテナ素子群の中で、第1の特異値に相当する送信ウエイトベクトルを乗算した信号(厳密には、例えばOFDMであれば各サブキャリアの信号を合成した信号を時間軸成分に変換し、これを無線周波数にアップコンバートした信号)が各アンテナから送信される。
次に受信時においては、各第1の受信信号処理部185−1〜185−4に接続された複数のアンテナ素子で受信した信号(正確には受信した無線周波数の信号をベースバンド信号にダウンコンバートし、例えばOFDMであればこの時間軸信号をFFTで周波数軸の信号に変換したもの)に所定の受信ウエイトベクトルを乗算し、サブキャリアごとに一つの複素スカラー量に変換し、これらを第2の受信信号処理部75に出力する。第2の受信信号処理部75では、この例では4本の受信信号系列を参照し、まずは受信信号の先頭に付与された既知のトレーニングシング信号を用いてサブキャリアごとのチャネル推定を行い、4×4のMIMOチャネル行列をサブキャリアごとに取得する。このチャネル行列を基に受信ウエイト行列を算出し、取得された受信ウエイト行列を基に送信された信号の検出処理を行う。例えば、ZF(Zero Forcing)型の逆行列を利用したり、MMSE(Maximum Mean Square Error)型の受信ウエイト行列を利用したりする。信号処理に余裕があれば、MLD(Maximum Likelihood Detection)やQR分解を用いた簡易MLD(QR-MLD)等を用いても良い。この受信信号処理で検出された信号はMAC層処理回路78に出力され、所定のMAC層の処理を行い、インタフェース回路77を介してネットワーク側に出力される。
図12は、本発明の関連技術の基地局装置70における第1の送信信号処理部181の構成の一例を示す概略ブロック図である。図12に示す様に、第1の送信信号処理部181は、第1の送信信号処理回路111と、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform:逆高速フーリエ変換)&GI(Guard Interval:ガードインターバル)付与回路813−1〜813−N’BS−Antと、D/A(デジタル/アナログ)変換器814−1〜814−(N’BS−Ant)と、ローカル発振器815と、ミキサ816−1〜816−(N’BS−Ant)と、フィルタ817−1〜817−(N’BS−Ant)と、ハイパワーアンプ(HPA)818−1〜818−(N’BS−Ant)と、アンテナ素子819−1〜819−(N’BS−Ant)と、第1の送信ウエイト処理部130とを備えている。N’BS−Antは、基地局装置70のアンテナ素子の総数を空間多重数で除算した値(=NBS−Ant/NSDM)である。N’BS−Antは、端的に言えば一つの第1の送信信号処理部181が備える複数のアンテナ素子の数を表す。第1の送信信号処理回路111は図11において示した第2の送信信号処理部71に接続されている。また、第1の送信信号処理回路111と、第1の送信ウエイト処理部130とは、図11において示した第2の送信信号処理部71を介して通信制御回路120に接続されている。図11の例では、基地局装置70は4個の第1の送信信号処理部(181−1〜181−4)を備えるが、その一つに着目した説明を行う。
第1の送信ウエイト処理部130は、第1のチャネル情報取得回路131と、第1のチャネル情報記憶回路132と、第1の送信ウエイト算出回路133とを備えている。ここで、IFFT&GI付与回路813−1〜813−(N’BS−Ant)からアンテナ素子819−1〜819−(N’BS−Ant)までの回路の添え字の(N’BS−Ant)は、基地局装置70の第1の送信信号処理部181が備えるアンテナ素子数を表す。
本発明の関連技術では、一つの端末局装置302宛に複数系統NSDM(=4)の信号を空間多重して送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路78から第2の送信信号処理部71を介して各第1の送信信号処理部181−1〜181−4に送信信号が入力される。第2の送信信号処理部71では、宛先の端末局装置302に送信すべきデータがMAC層処理回路78から入力されると、無線回線で送信する無線パケットを生成して変調処理を行う。ここで、例えばOFDM変調方式を用いるのであれば、各信号系列の信号はサブキャリアごとに変調処理が行われる。変調処理が行われた信号は、必要に応じてプリコーディング処理を行う。ここでのプリコーディング処理とは、複数の第1特異値に対応する仮想的伝送路間での信号の漏れ込みを抑圧するための送信ウエイト行列の乗算であっても良い。又は、この様なプリコーディング処理を行わなくても良い。この様にして生成されたNSDM系統の信号は、各第1の送信信号処理部181−1〜181−4に入力される。
各第1の送信信号処理部181−1〜181−4では、入力されたデジタルベースバンド信号入力#i(iは、1〜NSDM)が第1の送信信号処理回路111−iに入力される。第1の送信信号処理回路111は、基本的に送信ウエイトの乗算と、残りの物理レイヤの信号処理をと行う。例えばOFDM変調方式を用いるのであれば、第1の送信信号処理回路111は、入力された変調処理がなされたベースバンド信号にサブキャリアごとに送信ウエイトを乗算する。各アンテナ素子819−1〜819−(N’BS−Ant)に対応した送信ウエイトが乗算された信号は、必要に応じて残りの信号処理が施され、IFFT&GI付与回路813−1〜813−(N’BS−Ant)にて周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換される。変換された信号には、更にガードインターバルの挿入やOFDMシンボル間(SC−FDE(Single-Carrier Frequency Domain Equalization)であればブロック伝送のブロック間)の波形整形等の処理が行われ、アンテナ素子819−1〜819−(N’BS−Ant)ごとに、D/A変換器814−1〜814−(N’BS−Ant)でデジタル・サンプリング・データからベースバンドのアナログ信号への変換が行われる。更に、各アナログ信号は、ローカル発振器815から入力される局部発振信号と、ミキサ816−1〜816−(N’BS−Ant)で乗算され、無線周波数の信号にアップコンバートされる。ここで、アップコンバートされた信号には、送信すべきチャネルの帯域外に信号が含まれるため、フィルタ817−1〜817−(N’BS−Ant)が帯域外の信号を除去し、送信すべき電気的な信号が生成される。生成された信号は、ハイパワーアンプ818−1〜818−(N’BS−Ant)で増幅され、アンテナ素子819−1〜819−(N’BS−Ant)より送信される。
なお、第1の送信信号処理回路111でベースバンド信号に乗算される送信ウエイトベクトルは、信号送信処理時に、第1の送信ウエイト処理部130に備えられている第1の送信ウエイト算出回路133より取得される。第1の送信ウエイト処理部130では、第1のチャネル情報取得回路131が、第1の受信信号処理部185−1〜185−4にて取得されたチャネル情報を通信制御回路120経由(厳密には第2の受信信号処理部75及び第2の送信信号処理部71も合わせて経由する)で別途取得しておき、これを逐次更新しながら、第1のチャネル情報記憶回路132に記憶させる。信号の送信時には通信制御回路120からの指示に従い、第1の送信ウエイト算出回路133は、宛先とする端末局装置に対応したチャネル情報を第1のチャネル情報記憶回路132から読み出し、読み出したチャネル情報を基に送信ウエイトベクトルを算出する。
第1特異値に対応する仮想的伝送路を活用する場合のチャネル推定の方法及び送受信ウエイトの算出方法には幾つかのバリエーションがあり、これを効率的に取得する手法についての詳細は後述する。その一例としては、送信ウエイトベクトルは、例えば取得したチャネル行列に対して特異値分解を行い、その結果得られる第1右特異ベクトルを用いても良い。
ないしは、端末局装置302側のアンテナの中心部分の1本のアンテナ素子に着目し、その1本のアンテナ素子と基地局装置70の1の受信信号処理部(185−1〜185−4のいずれかひとつ)の備えるアンテナ素子819−1〜819−4とN’BS−Antとの間のチャネルベクトルを基に、送信ウエイトベクトルの各成分を式(7)で求めても良いし(最大比合成のウエイト)、ないしは式(7)で与えられる値に対して全ての絶対値を一定にして与えても良い(等利得合成のウエイト)。
ないしは、送信側が複数のアンテナ素子に所定の送信ウエイトベクトルを乗算して信号送信している場合には、実際には複数の送信アンテナから送信されているにも関わらず、実効的には1本の仮想的アンテナ素子から送信されたものと等価であるため、所定の送信ウエイトベクトルを乗算してこの1本の仮想的アンテナ素子からトレーニング信号を送信し、この1本の仮想的アンテナ素子と各受信アンテナとの間のチャネル情報のベクトルを取得し、このベクトルを基に受信ウエイトベクトルの各成分を式(7)で求めても良いし(最大比合成のウエイト)、ないしは式(7)で与えられる値に対して全ての絶対値を一定にして与えても良い(等利得合成のウエイト)。
受信時のチャネルベクトルが既知であれば、インプリシット・フィードバックの手法でアップリンクのチャネル情報を取得することが可能であり、この様にして求めたアップリンクのチャネルベクトルを基に、送信ウエイトベクトルを同様に算出しても良い。また同様に、アップリンクの受信ウエイトベクトルを基に、これに直接キャリブレーション処理を施すインプリシット・フィードバックの手法で、送信ウエイトベクトルを算出しても良い。
第1の送信ウエイト算出回路133は、この様にして算出した送信ウエイトベクトルを第1の送信信号処理回路111に出力する。また、宛先とする端末局装置の管理や、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路120が管理する。上述の送信ウエイトの算出に係る信号処理を行う第1の送信ウエイト処理部130に対し、通信制御回路120は宛先とする端末局装置等を示す情報を出力する。
なお、上述の説明では第1のチャネル情報取得回路131が、第1の受信信号処理部185−1〜185−4にて取得されたチャネル情報を通信制御回路120経由で取得し、このチャネル情報を逐次更新するとして説明した。しかし、チャネル時変動が無視可能な高所の見通し環境であれば、頻繁にチャネル情報の更新は必要ない。第1のチャネル情報取得回路131は、例えばサービス運用開始前に事前にチャネル情報を取得しておき、更にそのチャネル情報の値から算出した送信ウエイトベクトルを記憶しておき(図中には記載がないが、この場合には「送信ウエイト記憶回路」を実装して記録する構成にて実現する)、それを繰り返し利用することとしても構わない。また、これらの中間として、基本的に第1の送信ウエイト記憶回路から送信ウエイトベクトルを読み出す構成としながらも、逐次取得したチャネル情報を基に送信ウエイトベクトルを更新し、その更新されたチャネル情報を基に送信ウエイトベクトルを所定の時間間隔で更新する構成とすることも可能である。
図13は、本発明の関連技術の基地局装置70における第1の受信信号処理部185の構成の一例を示す概略ブロック図である。図13に示す様に、第1の受信信号処理部185は、アンテナ素子851−1〜851−(N’BS−Ant)と、ローノイズアンプ(LNA)852−1〜852−(N’BS−Ant)と、ローカル発振器853と、ミキサ854−1〜854−(N’BS−Ant)と、フィルタ855−1〜855−(N’BS−Ant)と、A/D(アナログ/デジタル)変換器856−1〜856−(N’BS−Ant)と、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)回路857−1〜857−(N’BS−Ant)と、第1の受信ウエイト処理部160と、第1の受信信号処理回路158とを備えている。
第1の受信信号処理回路158−1〜158−NSDM(=4)は、図11において示した第2の受信信号処理部75に接続されている。また、第1の受信信号処理回路158−1〜158−NSDM(=4)と、第1の受信ウエイト処理部160とは、図11において示した第2の受信信号処理部75を介して通信制御回路120に接続されている。第1の受信ウエイト処理部160は、第1のチャネル情報推定回路161と、第1の受信ウエイト算出回路162とを備えている。なお、第1の送信信号処理部181の説明と同様に、図11の例では基地局装置70に4個の第1の受信信号処理部(185−1〜185−4)が接続されているが、その一つに着目した説明を行う。
まず、アンテナ素子851−1〜851−(N’BS−Ant)で受信した信号は、ローノイズアンプ852−1〜852−(N’BS−Ant)で増幅される。増幅された信号とローカル発振器853から出力される局部発振信号とがミキサ854−1〜854−(N’BS−Ant)で乗算され、増幅された信号は無線周波数の信号からベースバンドの信号にダウンコンバートされる。ダウンコンバートされた信号には受信すべき周波数帯域外の信号も含まれるため、フィルタ855−1〜855−(N’BS−Ant)が帯域外成分を除去する。帯域外成分が除去された信号は、A/D変換器856−1〜856−(N’BS−Ant)でデジタルベースバンド信号に変換される。デジタルベースバンド信号は、例えばOFDMの場合には全てFFT回路857−1〜857−(N’BS−Ant)に入力され、ここでは記載を省略したタイミング検出用の回路で判定した所定のシンボルタイミングで時間軸上の信号を周波数軸上の信号に変換(各サブキャリアの信号に分離)される。この各サブキャリアに分離された信号は、第1の受信信号処理回路158に入力されると共に、第1のチャネル情報推定回路161にも入力される。なお、図13ではOFDMのシンボルタイミング検出のための回路は省略しているが、既存の何らかの手法でシンボルタイミングの把握は可能である。
第1のチャネル情報推定回路161は、各サブキャリアに分離されたチャネル推定用の既知の信号(無線パケットの先頭に付与されるプリアンブル信号等)を基に各端末局装置302のアンテナ素子と、基地局装置70の各アンテナ素子851との間のチャネル情報をサブキャリアごとに推定し、その推定結果を第1の受信ウエイト算出回路162に出力する。第1の受信ウエイト算出回路162は、入力されたチャネル情報を基に乗算すべき受信ウエイトベクトルをサブキャリアごとに算出する。この際、各アンテナ素子851−1〜851−(N’BS−Ant)で受信された信号を合成する受信ウエイトは、第1の受信信号処理部185−1〜185−NSDM(=4)ごとに異なり、第1の受信信号処理部185−1〜185−NSDMそれぞれ個別に算出される。
第1の受信信号処理回路158は、FFT回路857−1〜857−(N’BS−Ant)から入力されたサブキャリアごとの信号(正確には、複数のアンテナ素子からの信号を要素とする受信信号ベクトル)に対し、第1の受信ウエイト算出回路162から入力された受信ウエイト(正確には、複数のアンテナ素子に対応する受信ウエイトを要素とする受信ウエイトベクトル)を乗算し、乗算した結果をサブキャリアごとに加算合成する。第1の受信信号処理回路158は、加算合成して得られた信号を第2の受信信号処理部75に出力する。なお、ここでの加算合成は、サブキャリアごとのベクトル積におけるベクトルの各成分の乗算後の加算を意味し、受信信号と受信ウエイトの乗算とその結果の加算合成全体が、数学的にはベクトル積の処理に対応する。
なお、第1の受信信号処理回路158で乗算される受信ウエイトベクトルは、信号受信処理時に、第1の受信ウエイト処理部160に備えられている第1の受信ウエイト算出回路162より取得される。第1の受信ウエイト処理部160では、第1のチャネル情報推定回路161において取得されたチャネル情報が用いられ、第1の受信ウエイト算出回路162が受信ウエイトベクトルを算出する。例えば、端末局装置302が第1の受信信号処理部185の複数のアンテナ素子851に向けて第1特異値に対応する仮想的伝送路で信号送信を行っているのであれば、端末局装置302は第1特異値に対応する仮想的伝送路用の送信ウエイトを用いて1本の仮想的なアンテナ素子を用いて各第1の受信信号処理部185に向けて送信している様なものなので、その1本のアンテナ素子と第1の受信信号処理部185の複数のアンテナ素子851との間の受信側のチャネル情報を求め、このチャネルベクトルに対し受信ウエイトベクトルの各成分を式(7)で求めても良いし(最大比合成のウエイト)、ないしは式(7)で与えられる値に対して全ての絶対値を一定にして与えても良い(等利得合成のウエイト)。ないしは、端末局装置302の備えるアンテナ素子と基地局装置70の備える第1の受信信号処理部185のそれぞれの複数のアンテナ素子851との間のチャネル行列に対し、特異値分解して得られる第1左特異ベクトルのそれぞれを受信ウエイトベクトルとして用いても良い。
第1の受信ウエイト算出回路162は、この様にして算出した受信ウエイトベクトルを第1の受信信号処理回路158に出力する。また、送信元局の管理や、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路120が管理する。
なお、上述の説明では第1のチャネル情報推定回路161において取得したチャネル情報を用いて逐次受信ウエイトを算出するとして説明したが、チャネル時変動が無視可能な高所の見通し環境であれば、頻繁なチャネル情報の更新は必要ない。第1のチャネル情報推定回路161は、例えばサービス運用開始前に事前にチャネル情報を取得しておき、そのチャネル情報の値から算出した受信ウエイトベクトルを記憶しておき(図中には記載がないが、この場合には「第1の受信ウエイト記憶回路」を第1の受信ウエイト算出回路162の後段に実装して記録する構成にて実現する)、それを繰り返し利用することとしても構わない。この場合には、受信ウエイトの出力を行う第1の受信ウエイト記憶回路に対し、通信制御回路120は送信元の端末局装置等を示す情報を出力する。また、これらの中間として、基本的に第1の受信ウエイト記憶回路から受信ウエイトベクトルを読み出す構成としながらも、逐次取得したチャネル情報を基に受信ウエイトベクトルを更新し、その更新されたチャネル情報を基に受信ウエイトベクトルを所定の時間間隔で更新する構成とすることも可能である。
なお、図11における第2の受信信号処理部75は、受信ウエイトベクトルが乗算されて各1系統に集約された受信信号が前述の第1の受信信号処理部185−1〜185−4から入力するが、これらは実質的に4×4のMIMOチャネルの受信信号と等価であり、従来技術の受信信号検出処理により空間多重された信号系列の処理を行うことが可能である。具体的には、送信側で送信される4系統の信号系列に対し、受信側(基地局装置70側)の複数本アンテナで構成された4組の仮想的アンテナで受信した場合の4×4のMIMOチャネルに対し、受信信号の先頭に付与されたチャネル推定用の既知のトレーニング信号で4×4のチャネル行列をサブキャリアごとに取得する。このチャネル行列を基に受信ウエイト行列を算出し、取得された受信ウエイト行列を基に送信された信号の検出処理を行う。例えば、ZF(Zero Forcing)型の逆行列を利用したり、MMSE(Maximum Mean Square Error)型の受信ウエイト行列を利用したりする。信号処理に余裕があれば、MLD(Maximum Likelihood Detection)やQR分解を用いた簡易MLD(QR-MLD)等を用いても良い。また、ここでの信号検出処理では、例えば一旦受信信号の軟判定を行い、必要に応じてデインタリーブ処理を行い、その後に誤り訂正処理を行うなどして最終的な信号検出を行う構成としても良い。この受信信号処理で検出された信号はMAC層処理回路78に出力され、所定のMAC層の処理を行い、インタフェース回路77を介してネットワーク側に出力される。
また、MAC層処理回路78は、MAC層に関する処理(例えば、インタフェース回路77に対して入出力するデータと、無線回線上で送受信されるデータ即ち無線パケットとの変換、MAC層のヘッダ情報の終端など)を行う。Point−to−Point型の通信の場合にはスケジューリング処理回路781は実質的には不要であるが、複数の端末局装置302との間でPoint−to−MultiPoint型の通信を行う場合には、通信を行う端末局装置302を選択する各種スケジューリング処理を行い、スケジューリング結果を通信制御回路120に出力する。MAC層処理回路78にて処理された受信データは、インタフェース回路77を介して外部機器ないしはネットワークに出力される。
また、送信元の端末局装置302の管理や、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路120が管理する。また、上述の受信ウエイトの算出に係る信号処理を行う第1の受信ウエイト処理部160に対し、通信制御回路120から送信元の端末局装置等を示す情報が入力される。
なお、信号受信に関しても送信の場合と同様に、OFDM変調方式ないしはSC−FDE方式を用いた広帯域のシステムでは、上述の受信ウエイトの乗算はサブキャリアごとに行われる。つまりA/D変換器856−1〜856−(N’BS−Ant)から出力される信号に対し、FFT回路857−1〜857−(N’BS−Ant)でFFTを行い各サブキャリアに分離し、分離したサブキャリアごとに、第1のチャネル情報推定回路161での信号処理、及び、第1の受信信号処理回路158での受信信号処理が実施されることになる。
以上が本発明の関連技術における基地局装置70の説明である。ここで重要なのは、第1の送信信号処理部181におけるローカル発振器815が同一の第1の送信信号処理部181内の各アンテナ系統におけるミキサ816−1〜816−(N’BS−Ant)で共通化されている点、一方で異なる第1の送信信号処理部181間ではローカル発振器815は共通化されていない点である。また同様に、第1の受信信号処理部185におけるローカル発振器853が同一の第1の受信信号処理部185内の各アンテナ系統におけるミキサ854−1〜854−(N’BS−Ant)で共通化されている点、一方で異なる第1の受信信号処理部185間ではローカル発振器853は共通化されていない点も重要である。図10に示す様に、一般に第1の送信信号処理部181−1〜181−4(図10では第1の信号処理部304−1〜304−4)は物理的に数メートルのオーダーで離れて設置されることが想定され、ミリ波等の高い周波数帯ではケーブルで取り回した際の損失が1メートル当たり10dB以上と非常に大きい。第1の送信信号処理部181及び第1の受信信号処理部185に接続されるアンテナ素子が多数であるため、ミキサ816や854には信号を複数系統に分岐させて入力させる必要があるが、この分岐に伴うレベルの低下を考えると、数メートル単位のケーブル長の損失は無視できないため、個別の第1の送信信号処理部181及び個別の第1の受信信号処理部185内に閉じてローカル発振器815及び853をそれぞれ共用化し、異なる第1の送信信号処理部181及び第1の受信信号処理部185間では共用化しない構成が有効である。
ここで、各アンテナでは指向性制御のために送受信信号の位相を調整することになるが、同一の第1の送信信号処理部181−1〜181−4(図10では第1の信号処理部304−1〜304−4)内では、それぞれのローカル発振器815ないしはローカル発振器853から入力される信号の位相関係が常に一定になる様にすることが容易であり、ローカル発振器815ないしはローカル発振器853に依存しない部分で、どの様な位相関係となる様に送受信ウエイトを乗算すれば良いかが判断可能となる。しかし、ローカル発振器815が第1の送信信号処理部181内で(又はローカル発振器853が第1の受信信号処理部185内で)非同期のものを複数利用する場合には、少なくとも第1の送信信号処理部181において送信ウエイトを乗算する際に、複数のローカル発振器815(又は853)の間の複素位相関係を考慮して調整する必要があり、この調整を怠ると指向性制御が効果的に機能しなくなる。装置の設計においては、この点に注意が必要である。本発明の関連技術では、同一の第1の送信信号処理部181では上述の理由でローカル発振器815を共通化し、同一の第1の受信信号処理部185では上述の理由でローカル発振器853を共通化するが、空間多重する4系統の信号系列間の信号分離は受信側において実施することが可能であるため、マルチユーザMIMOの様に送信側で完全な信号分離を実施する必要はない。
なお、この様に受信側での信号処理で基本的に複数の信号系列は分離可能であるが、例えばチャネルのフィードバックなどで第1の送信信号処理部181−1〜181−4の間の位相関係が既知であるならば、送信側で事前に信号分離の送信ウエイト行列を乗算(すなわち送信プリコーディング)することも可能である。この場合には、基地局装置70の第2の送信信号処理部71にてこの送信ウエイト行列を乗算することになる。この送信ウエイト行列の算出においては、第2の受信信号処理部75により取得された受信ウエイトベクトルを乗算した後の4系統の信号系列に関するアップリンクのチャネル情報を基にキャリブレーション処理を用いて取得しても構わない。ただし、前述の様にダウンリンクにおいても受信側の端末局装置302では送信信号に付与されたトレーニング信号によりチャネル行列が取得可能であるため、受信側での信号処理を活用すれば、必ずしも第2の送信信号処理部71での送信ウエイト行列の乗算は必要ではない。
(本発明の関連技術における端末局装置302に対応する端末局装置60の回路構成について)
図14は、本発明の関連技術における端末局装置302に対応する端末局装置60の構成の一例を示す概略ブロック図である。図14に示す様に、端末局装置60は、送信部61と、受信部65と、インタフェース回路67と、MAC(Medium Access Control)層処理回路68と、通信制御回路121とを備えている。
端末局装置60は、インタフェース回路67を介して、外部機器ないしはネットワークとのデータの入出力を行う。インタフェース回路67は、入力されるデータのうち、無線回線上で転送すべきデータを検出し、検出したデータをMAC層処理回路68に出力する。MAC層処理回路68は、端末局装置60全体の動作の管理制御を行う通信制御回路121の指示に従い、MAC層に関する処理を行う。ここで、MAC層に関する処理には、インタフェース回路67で入出力されるデータと、無線回線上で送受信されるデータ即ち無線パケットとの変換、MAC層のヘッダ情報の付与などが含まれる。MIMO伝送では、一つの端末局装置60宛に信号を空間多重して送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路68から送信部61に出力される。
図15は、本発明の関連技術における端末局装置60における送信部61の構成の一例を示す概略ブロック図である。図15に示す様に、送信部61は、送信信号処理回路811−1〜811−NSDM(NSDMは2以上の整数)と、加算合成回路812−1〜812−NMT−Ant(NMT−Antは2以上の整数)と、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform:逆高速フーリエ変換)&GI(Guard Interval:ガードインターバル)付与回路813−1〜813−NMT−Antと、D/A(デジタル/アナログ)変換器814−1〜814−NMT−Antと、ローカル発振器815と、ミキサ816−1〜816−NMT−Antと、フィルタ817−1〜817−NMT−Antと、ハイパワーアンプ(HPA)818−1〜818−NMT−Antと、アンテナ素子819−1〜819−NMT−Antと、第1の送信ウエイト処理部140とを備えている。送信信号処理回路811−1〜811−NSDMと、第1の送信ウエイト処理部140とは、図14において示した通信制御回路121に接続されている。
第1の送信ウエイト処理部140は、チャネル情報取得回路141と、チャネル情報記憶回路142と、第1の送信ウエイト算出回路143とを備えている。ここで、図15における送信信号処理回路811−1〜811−NSDMの添え字のNSDMは、同時に空間多重を行う多重数を表す。また、加算合成回路812−1〜812−NMT−Antからアンテナ素子819−1〜819−NMT−Antまでの回路の添え字のNMT−Antは、端末局装置60が備えるアンテナ素子数を表す。NMT−Antは、例えば、16である。
本発明の関連技術では、一つの端末局装置60が基地局装置70宛に信号を空間多重して送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路68から送信部61に入力され、入力された複数系統の信号系列が送信信号処理回路811−1〜811−NSDMに入力される。送信信号処理回路811−1〜811−NSDMは、宛先の基地局装置70に無線回線で送信すべきデータ(データ入力#1〜#NSDM)がMAC層処理回路68から入力されると、入力されたデータに対して変調処理を行う。ここで、例えばOFDM変調方式を用いるのであれば、各信号系列の信号に対してサブキャリアごとに変調処理が行われる。更に、変調処理がなされたベースバンド信号にサブキャリアごとに送信ウエイトが乗算される。各アンテナ素子819−1〜819−NMT−Antに対応した送信ウエイトが乗算された信号は、必要に応じて残りの信号処理が施され、ベースバンドにおける送信信号のサンプリングデータとして各送信信号処理回路811−1〜811−NSDMから加算合成回路812−1〜812−NMT−Antに入力される。
加算合成回路812−1〜812−NMT−Antに入力された信号は、サブキャリアごとに合成される。合成された信号は、IFFT&GI付与回路813−1〜813−NMT−Antにて周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換され、更にガードインターバルの挿入やOFDMシンボル間(SC−FDE(Single-Carrier Frequency Domain Equalization)であればブロック伝送のブロック間)の波形整形等の処理を施され、アンテナ素子819−1〜819−NMT−Antごとに、D/A変換器814−1〜814−NMT−Antでデジタル・サンプリング・データからベースバンドのアナログ信号に変換される。更に、各アナログ信号は、ローカル発振器815から入力される局部発振信号と、ミキサ816−1〜816−NMT−Antで乗算され、無線周波数の信号にアップコンバートされる。ここで、アップコンバートされた信号には、送信すべきチャネルの帯域外の領域に信号が含まれるため、フィルタ817−1〜817−NMT−Antで帯域外の信号が除去され、送信すべき信号が生成される。生成された信号は、ハイパワーアンプ818−1〜818−NMT−Antで増幅され、アンテナ素子819−1〜819−NMT−Antより送信される。
なお、図15では、各サブキャリアの信号の加算合成を加算合成回路812−1〜812−NMT−Antで実施した後に、IFFT処理、ガードインターバルの挿入、波形整形等の処理を行っている。しかし、送信信号処理回路811−1〜811−NSDMがこれらの処理を行い、IFFTされた時間軸上のサンプリング信号を加算合成回路812−1〜812−NMT−Antが合成することとして、IFFT&GI付与回路813−1〜813−NMT−Antを省略する構成(厳密には、送信信号処理回路811−1〜811−NSDMにこれらを含める)としてもよい。この場合、送信信号処理回路811−1〜811−NSDMにおける送信ウエイト乗算後の必要に応じた残りの信号処理とは、IFFT処理、ガードインターバルの挿入、波形整形等の処理を指す。
また、送信信号処理回路811−1〜811−NSDMで乗算される送信ウエイトは、信号送信処理時に、第1の送信ウエイト処理部140に備えられている第1の送信ウエイト算出回路143より取得される。第1の送信ウエイト処理部140では、チャネル情報取得回路141が、受信部65にて取得されたチャネル情報を通信制御回路121経由で別途取得しておき、これを逐次更新しながら、チャネル情報記憶回路142に記憶させる。信号の送信時には通信制御回路121からの指示に従い、第1の送信ウエイト算出回路143は、宛先局に対応したチャネル情報をチャネル情報記憶回路142から読み出し、読み出したチャネル情報を基に送信ウエイトを算出する。第1の送信ウエイト算出回路143は、算出した送信ウエイトを送信信号処理回路811−1〜811−NSDMに出力する。なお、通常の通信では端末局装置が通信する相手は特定の基地局装置に限られるため、上述の説明では宛先とする端末局装置に関する管理を明示的に示したが、通信の宛先局が単一であるものとして処理を行うことも当然可能である。
なお、本発明の関連技術の特徴は、送信ウエイトの算出において、端末局装置60と基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4との間で、第1特異値に対応する仮想的伝送路を利用することである。この第1特異値に対応する仮想的伝送路を活用する場合のチャネル推定の方法及び送受信ウエイトの算出方法には幾つかのバリエーションがあり、これを効率的に取得する手法については、詳細は後述する。例えば、端末局装置60から基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4に向けてのアップリンクでの各チャネル行列に対し、特異値分解した際の第1右特異ベクトルを送信ウエイトベクトルに用いても良い。この場合、第1の送信ウエイト算出回路143はこの第1右特異ベクトルを算出する機能を有することになる。
ないしは、基地局装置70側が第1の送信信号処理部181−1〜181−4のそれぞれの複数のアンテナ素子に所定の送信ウエイトベクトルを乗算して信号送信している場合には、実際には複数の送信アンテナから送信されているにも関わらず、実効的には第1の送信信号処理部181−1〜181−4のそれぞれが1本の仮想的アンテナ素子から送信しているものと等価である。このため、この1本の仮想的アンテナ素子と端末局装置60の各受信アンテナとの間のチャネル情報のベクトルを取得し、このチャネルベクトルにキャリブレーション処理を施すインプリシット・フィードバックの手法でアップリンクのチャネル情報を取得することも可能である。第1の送信ウエイト算出回路143は、この様にして求めたアップリンクのチャネルベクトルを基に、式(7)に示す様にこのチャネルベクトルの複素共役を取ったベクトル、ないしはそのベクトルの各成分の絶対値を全て一定にしたベクトルのいずれかを、送信ウエイトベクトルとして利用しても良い。
なおこの代替として、第1の送信ウエイト算出回路143は、基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4の中の1本のアンテナ素子と端末局装置60との間で受信側のチャネル情報のチャネルベクトルを求め、式(7)に示す様にこのチャネルベクトルの複素共役を取ったベクトル、ないしはそのベクトルの各成分の絶対値を全て一定にしたベクトルのいずれかを、送信ウエイトベクトルとして利用しても構わない。また、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路121が管理する。
図16は、本発明の関連技術における端末局装置60における受信部65の構成の一例を示す概略ブロック図である。図16に示す様に、受信部65は、アンテナ素子851−1〜851−NMT−Antと、ローノイズアンプ(LNA)852−1〜852−NMT−Antと、ローカル発振器853と、ミキサ854−1〜854−NMT−Antと、フィルタ855−1〜855−NMT−Antと、A/D(アナログ/デジタル)変換器856−1〜856−NMT−Antと、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)回路857−1〜857−NMT−Antと、受信信号処理回路145−1〜145−NSDMと、第1の受信ウエイト処理部144とを備えている。受信信号処理回路145−1〜145−NSDMと、第1の受信ウエイト処理部144とは、図14において示した通信制御回路121に接続されている。第1の受信ウエイト処理部144は、第1のチャネル情報推定回路146と、第1の受信ウエイト算出回路147とを備えている。
アンテナ素子851−1〜851−NMT−Antで受信した信号は、ローノイズアンプ852−1〜852−NMT−Antで増幅される。増幅された信号とローカル発振器853から出力される局部発振信号とがミキサ854−1〜854−NMT−Antで乗算され、増幅された信号は無線周波数の信号からベースバンドの信号にダウンコンバートされる。ダウンコンバートされた信号には、受信すべき周波数帯域外の信号も含まれるため、フィルタ855−1〜855−NMT−Antが帯域外成分を除去する。帯域外成分を除去された信号は、A/D変換器856−1〜856−NMT−Antでデジタルベースバンド信号に変換される。例えばOFDMを用いる場合には、デジタルベースバンド信号は、FFT回路857−1〜857−NMT−Antに入力され、ここでは記載を省略したタイミング検出用の回路で判定した所定のシンボルタイミングで時間軸上の信号を周波数軸上の信号に変換(各サブキャリアの信号に分離)される。この各サブキャリアに分離された信号は、受信信号処理回路145−1〜145−NSDMに入力されると共に、第1のチャネル情報推定回路146にも入力される。
第1のチャネル情報推定回路146は、各サブキャリアに分離されたチャネル推定用の既知の信号(無線パケットの先頭に付与されるプリアンブル信号等)を基に、基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4の各送信ウエイトベクトルにより形成される仮想的アンテナ素子と、端末局装置60の各アンテナ素子851−1〜851−NMT−Antとの間のチャネル情報のチャネルベクトルをサブキャリアごとに推定し、その推定結果を第1の受信ウエイト算出回路147に出力する。第1の受信ウエイト算出回路147は、入力されたチャネル情報を基に受信ウエイトをサブキャリアごとに算出する。この受信ウエイトに関しては、例えば前述の様に、ZF型の擬似逆行列を利用したり、MMSE型の受信ウエイト行列を利用したりする。この際、各アンテナ素子851−1〜851−NMT−Antで受信された信号を合成するための受信ウエイトベクトルは、信号系列ごとに異なり、上述のZF型の擬似逆行列ないしはMMSE型の受信ウエイト行列などの行ベクトルに相当し、抽出すべき信号系列に対応する受信信号処理回路145−1〜145−NSDMにそれぞれ入力される。
受信信号処理回路145−1〜145−NSDMは、FFT回路857−1〜857−NMT−Antから入力されたサブキャリアごとの信号に対し、第1の受信ウエイト算出回路147から入力された受信ウエイトを乗算し、乗算結果をサブキャリアごとに加算合成する。受信信号処理回路145−1〜145−NSDMは、加算合成により得られた信号それぞれに対して復調処理を施し、再生されたデータをMAC層処理回路68に出力する。
ここで、受信信号処理回路145−1〜145−NSDMでは、異なる信号系列の信号処理が行われる。また、複数の受信信号処理回路145−1〜145−NSDMにまたがった受信信号処理として、MLDやQR分解を用いた簡易MLD等を用いても良い。また、MAC層処理回路68は、MAC層に関する処理(例えば、インタフェース回路67に対して入出力するデータと、無線回線上で送受信されるデータ即ち無線パケットとの変換、MAC層のヘッダ情報の終端など)を行う。MAC層処理回路68にて処理された受信データは、インタフェース回路67を介して外部機器ないしはネットワークに出力される。また、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路121が管理する。
ここで、送信側と同様に受信時の端末局装置60側においても第1特異値に対応する仮想的伝送路を意識的に利用する信号処理とすることも可能である。図17に、本発明の関連技術における端末局装置60における受信部65の別の構成の一例を示す。
図17において、符号154は第1の受信ウエイト処理部、符号155は第1の受信信号処理回路、符号156は第1のチャネル情報推定回路、符号157は第1の受信ウエイト算出回路、符号159は第2の受信信号処理回路を示し、その他は図16と同様である。先の説明においては、第1の受信ウエイト算出回路157ではNSDM系統の信号系列を直接信号分離するための受信ウエイトを算出するものとして説明したが、一旦、第1特異値に対応する仮想的伝送路で信号分離を行いながら、それでも残る信号系列間の残留干渉を2段階で除去することも可能である。
この場合、第1の受信ウエイト算出回路157は、例えば基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4の各アンテナ素子から端末局装置60の各アンテナ素子に向けてのチャネル情報を取得できる場合、このチャネル情報を成分とするチャネル行列に対し、特異値分解した際の第1左特異ベクトルを受信ウエイトベクトルとして算出する。ないしは、第1の送信信号処理部181−1〜181−4が送信ウエイトベクトルを乗算することで形成される1本の仮想的アンテナ素子を活用して信号送信をしている場合には、その対応する仮想的アンテナ素子と端末局装置60の各アンテナ素子との間のチャネルベクトルを求め、このベクトルを基に受信ウエイトベクトルの各成分を式(7)で求めても良いし(最大比合成のウエイト)、ないしは式(7)で与えられる値に対して全ての絶対値を一定にして与えても良い(等利得合成のウエイト)。
そして、第1の受信ウエイト算出回路157は、この様にして求めた受信ウエイトベクトルを各第1の受信信号処理回路155−1〜155−NSDMに対して出力する。ただし、この後段で、第2の受信信号処理回路159にて残留干渉を分離する信号処理が実施されるため、リアルタイムで頻繁に受信ウエイトベクトルを更新する必要はなく、例えば100ms周期程度の、見通し波のチャネル情報が急激には変動しないと期待される時間領域において、共通の受信ウエイトベクトルを使いまわすことも可能である。
第1のチャネル情報推定回路156及び第1の受信ウエイト算出回路157は、この様な視点から逐次受信ウエイトを更新するのではなく、例えばある程度のチャネル推定結果を第1のチャネル情報推定回路156が平均化することでチャネル推定精度を向上させ、その平均化されたチャネル情報を基に所定の周期で第1の受信ウエイト算出回路157が第1の受信ウエイトベクトルを算出し、これを第1の受信信号処理回路155−1〜155−NSDMに対して入力する構成とすることも可能である。この場合には、平均化に際してチャネル情報は基準アンテナ(例えば第1アンテナ)の複素位相を基準とする相対チャネル情報(ないしは、各チャネル情報を基準アンテナのチャネル情報で除算したものと考えても良い)を活用することが好ましい。
第1の受信信号処理回路155−1〜155−NSDMは、これらの第1特異値に対応する仮想的伝送路からの信号を第2の受信信号処理回路159に出力する。この第1の受信信号処理回路155−1〜155−NSDMと第2の受信信号処理回路159との機能分担は、図11に示した基地局装置70の第1の受信信号処理部185と第2の受信信号処理部75との関係に類似している。すなわち、アンテナ素子数NMT−Antに相当する膨大な受信信号の信号を、第1の受信信号処理回路155−1〜155−NSDMにて空間多重された信号系列数NSDMに縮小した信号に変換して第2の受信信号処理回路159に出力し、第2の受信信号処理回路159では次元が縮小された空間内での一般的なMIMO信号処理を実施する。
具体的には、第2の受信信号処理回路159は、受信信号の先頭に付与された既知のトレーニング信号を参照し、NSDM系統の信号系列に対しNSDM×NSDMのチャネル行列を取得し、そのチャネル行列を基に受信信号検出処理を行う。先にも示した様に、第2の受信信号処理回路159は、ZF型の逆行列やMMSE型の線形受信ウエイト行列を乗算すること、ないしはMLDや簡易MLD(QR−MLD等)などの非線形の信号処理を行うことも可能である。第2の受信信号処理回路159は、この様に信号分離されたNSDM系統の信号に対して復調処理を施し、再生されたデータをMAC層処理回路68に出力する。これは基地局装置の第2の受信信号処理部75の信号処理と同等である。
図18は、基地局装置70の第2の受信信号処理部75ないしは端末局装置60の第2の受信信号処理回路159における装置構成の例(基本的に処理は基地局装置と端末局装置で共通である)を示す図である。第2の受信信号処理回路190の基本的な動作は上述の通りであり、NSDM本の第1特異値に対応する仮想的伝送路の受信信号としてNSDM系列の信号系列が第2の受信信号処理回路190(図17の第2の受信信号処理回路159に相当)に入力されると、チャネル行列取得回路191が受信信号の先頭に付与された既知のトレーニング信号を参照し、NSDM系統の信号系列に対するNSDM×NSDMのチャネル行列を取得する。受信ウエイト行列算出回路192は、そのチャネル行列を基に受信ウエイト行列をZF型の逆行列やMMSE型の線形受信ウエイト行列として算出し、これを受信ウエイト行列乗算回路193に出力する。受信ウエイト行列乗算回路193は、後続するデータに受信ウエイト行列を乗算し、異なる仮想的伝送路間のクロストーク成分である干渉信号を抑圧する。信号検出回路194は、SINR特性が高められた各信号に対して信号検出を行う。ここでの信号検出とは一般的な復調処理を意図する。例えば、信号検出回路194は、受信信号の軟判定を行い、デインタリーブの後に誤り訂正を行い、最終的な信号検出を行う。複数の信号系列に展開されてパラレル伝送されたデータは、パラレル/シリアル変換で1系列のデータに変換され、これらをMAC層処理回路に出力する。なお、ここでは典型的な例として線形の信号処理の例を示したが、信号検出回路194は、MLDないしQR−MLDなどの非線形の信号処理を行うことも可能である。
なお、図11に示した基地局装置70に第2の送信信号処理部71が備えられる様に、端末局装置60においても第2の送信信号処理回路148が備えられてもよい。図19は、本発明の関連技術における端末局装置60の送信部61の異なる構成例を示す図である。送信部61は、第2の送信信号処理回路148を更に備え、送信信号処理回路811−1〜811−NSDMに代えて第1の送信信号処理回路821−1〜821−NSDMを備え、更に第1の送信ウエイト算出回路143に代えて送信ウエイト算出回路149を備える。この場合、第2の送信信号処理回路148は、図11に示した第2の送信信号処理部71の機能を備える。具体的には、第2の送信信号処理回路148は、無線回線で送信する無線パケットを生成して変調処理を行う処理を行うと共に、各第1特異値に対応する仮想的伝送路間の信号の漏れ込みを補償するための送信ウエイト行列を送信ウエイト算出回路149から取得し、NSDM系統の送信信号ベクトルに送信ウエイト行列を乗算する処理(送信プリコーディング)を行い、処理により得られたNSDM系統の送信信号を第1の送信信号処理回路821に出力する。
第1の送信信号処理回路821−1〜821−NSDMは、第2の送信信号処理回路148から入力されたNSDM系統の送信信号のそれぞれに、第1特異値に対応する仮想的伝送路を形成するための送信ウエイトを乗算する。ここで、送信ウエイト算出回路149の機能としては、第1の送信信号処理回路821−1〜821−NSDMにて第1特異値に対応する仮想的伝送路を形成するための送信ウエイトを算出する機能と、各第1特異値に対応する仮想的伝送路間の信号の漏れ込みを補償するための送信ウエイト行列を算出するための機能とを両方備えることになる。この場合の送信ウエイト行列は、例えばキャリブレーション処理を伴うインプリシット・フィードバックを用いる手法、ないしは直接的なエクスプリシット・フィードバックを用いる手法などで取得したチャネル情報を基に求められる。
本発明の関連技術の特徴は、基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4と端末局装置60との間で、第1特異値に対応する仮想的伝送路を利用することである。したがって、端末局装置60から基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4に向けての各チャネル行列に対し、特異値分解した際の第1右特異ベクトルに送信ウエイトベクトルを用いることになり、第1の送信ウエイト算出回路143はこの第1右特異ベクトルを算出する機能を有することになる。なお、この第1右特異ベクトルの近似解として、詳細は後述するが、基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4の中の1本のアンテナ素子との間でチャネルベクトルを求め、このチャネルベクトルの複素共役を取ったベクトル、ないしはそのベクトルの各成分の絶対値を全て一定にしたベクトルのいずれかを、送信ウエイトベクトルとして利用しても構わない。本来、基地局装置70の第1の送信信号処理部181−1〜181−4のアンテナ素子群が全体で仮想的な指向性アンテナを形成することになるが、その代替としてこの手法は例えばそのアンテナ素子群の中の物理的に中央付近に存在するアンテナ1本で代表した場合を近似解と見なすことに相当する。この場合、近似解のウエイトは厳密解のウエイトとは異なるものとなるのであるが、シミュレーションで評価すればその結果得られる利得は後述する様に極端に大きな劣化がある訳ではない。
以上が、本発明の関連技術における端末局装置60、送信部61及び受信部65の構成の説明である。ここで重要なのは、送信部61におけるローカル発振器815が送信部61の各アンテナ系統におけるミキサ816−1〜816−NMT−Antで共通化されている点、受信部65におけるローカル発振器853が受信部65の各アンテナ系統におけるミキサ854−1〜854−NMT−Antで共通化されている点である。指向性制御においてはアンテナ素子ごとで送受信信号の位相を調整することになるが、それぞれのローカル発振器815ないしはローカル発振器853から入力される信号の位相関係が常に一定になる様にすることで、どの様な位相関係で送受信ウエイトを乗算すれば良いかが判断可能となる。一方、ローカル発振器815ないしはローカル発振器853が送信部61内又は受信部65内で非同期のものを複数利用する場合には、少なくとも送信部61において送信ウエイトを乗算する指向性制御が効果的に機能しなくなる。装置の設計においては、この点に注意が必要である。なお、ローカル発振器815とローカル発振器853を共用することも可能である。
(Point−to−Multipointへの拡張について)
以上の説明ではPoint−to−Point型の無線エントランス回線に関する説明を中心に行っていたため、第1の信号処理部304の配置は何らかの手法で最適化された状態で運用すれば、第1の信号処理部304の数だけの空間多重伝送が可能になる。このための最適化手法はチャネルの直交化条件を基に算出したアンテナ配置法でも良いし、アンテナ設置時に何ヶ所かに設定しながら、その中で仮想的伝送路が概ね直交する配置を検索して対応しても構わない。しかし、一つの基地局装置70と複数の端末局装置60が同時にPoint−to−Multipoint型の通信を行う場合には、全ての端末局装置にとって基地局装置70側のアンテナ配置が共通の理想的な配置とすることは困難なので、冗長な数の第1の信号処理部304を設置し、通信する端末局装置60ごとに異なる組み合わせの第1の信号処理部304を選択して通信を行う構成としても構わない。この場合には、通信制御回路にて最適な第1の信号処理部304の組み合わせを判断することになるため、通信制御回路に端末局装置60ごとの最適な第1の信号処理部304の組み合わせ情報に関するデータベースなどの機能を備える必要がある。
例えば、参考文献1に記載の技術では、複数のサブアレー化された第1の信号処理部304がビルの壁面上方に複数配置され、下方に位置する端末局装置に上方から見通し環境で照射する状況について説明している。基地局装置側をこの様に複数のサブアレー化された第1の信号処理部304で構成することにより、そのサブアレー全体としてのアンテナ開口長を拡大することが安定的なMIMO伝送を実現するために有効となる。しかし、この参考文献1で評価に用いた様な端末局装置側のアンテナ開口長の確保は、現状のスマートフォンの形状などを考慮すると、基地局装置側から直接波が到来する方向においては液晶モニタ画面が大きく設置されており、この様な評価条件を確保することは非現実的である。したがって、参考文献1に示される様な見通し波が支配的な通信環境でMIMO伝送を行うアクセス系の無線通信システムにおいて、本発明の背景技術や関連技術の様な基地局装置側のアンテナ開口長の拡大を図ることに加え、同様に端末局装置側でも安定的に基地局装置側から直接波が到来する方向に対してアンテナ開口長を確保することで、伝送容量を更に増大させるための技術が求められる。
[参考文献1]太田厚、新井拓人、白戸裕史、丸田一輝、岩國辰彦、飯塚正孝、「RCS2015−144 第1固有モードの並列伝送を用いた見通し環境ミリ波帯空間多重伝送技術 〜方式提案と基本特性評価結果〜」、電子情報通信学会技術研究報告、無線通信システム(RCS)、Vol.115、No.181、2015年8月10日、p.73−p.78
(本発明の関連技術における信号処理の処理フローについて)
以下では、本発明の関連技術における信号処理の処理フローについて説明する。基本的に基地局装置と端末局装置の信号処理フローは共通であるが、引用すべき回路の名称・符号番号が異なるため、ここでは基地局装置に関する信号処理フローを例に取り説明する。また、上述の様に第2の送信信号処理部71(端末局装置においては、明示的な記述がある図19の第2の送信信号処理回路148に相当)での信号処理は、送信ウエイト行列の乗算(送信プリコーディング)を施さないこととすることも可能であり、この場合にはその信号処理に関する部分は省略可能である。
図20は、本発明の関連技術における信号送信時の信号処理を示すフローチャートである。送信処理が開始されると、通信制御回路120は第1の信号処理部304及び第2の信号処理部305に対して、第1の送信ウエイトベクトル及び第2の送信ウエイト行列の読み出しを指示する(ステップS2601、ステップS2602)。
ここでの送信ウエイトベクトル及び送信ウエイト行列の読み出しは、例えばPoint−to−Multipoint型の通信で且つ基地局装置70の場合には、通信相手局である端末局装置60が通信の都度異なることになるため、送信の都度、毎回読み出し処理を行うことになる。一方、固定的なPoint−to−Point型の通信の場合、ないしは端末局装置60の様に通信相手局が常に基地局装置70に固定される場合には、毎回読み出さずとも処理を省略することも可能である。ただし、チャネルの時変動が無視できず、毎回、送信ウエイトが変更になる場合には、通信相手が固定である場合でも毎回、送信の都度読み出す構成としても良い。ないしは、所定の周期で更新された送信ウエイトを読み出す構成としても良い。また、前述の様に第2の信号処理部305における第2の送信ウエイト乗算回路での行列乗算を省略する場合には、この第2の信号処理部305における送信ウエイト行列の読み出しは不要となる。
第2の信号処理部305は、空間多重を行うNSDM系統分の送信信号を生成し(ステップS2603)、その送信信号に対して第2の送信ウエイト行列を乗算する(ステップS2604)。乗算後のNSDM系統分の送信データはそれぞれ対応する第1の信号処理部304に転送される(ステップS2605)。第2の信号処理部305は、送信データの送信が終了しているか否かを判定する(ステップS2606)。送信データの送信が終了していない場合(ステップS2606:NO)、第2の信号処理部305は、ステップS2603に処理を戻す。送信データの送信が終了している場合(ステップS2606:YES)、第2の信号処理部305は、信号送信時の信号処理フローを終了する。
一方、第1の信号処理部304は、事前に読み出していた、自身に対応する送信ウエイトベクトルを用いて、送信信号(1次元の信号)に送信ウエイトベクトルを乗算し(ステップS2607)、送信アンテナ数NAnt次元の送信信号ベクトルに変換し、アンテナ系統ごとに送信信号処理を行う(ステップS2608)。
例えば、OFDM変調方式を想定する際には、送信信号の生成はサブキャリアごと、及びOFDMシンボルごとに実施され、送信ウエイト行列の乗算や送信ウエイトベクトルの乗算なども、全てサブキャリアごとに個別に行われる。ここでの送信信号処理として、周波数軸上のサブキャリアごとの送信信号に対しIFFT処理を施し、ガードインターバルを付与してシンボル間の波形整形などを必要に応じて加え、この時間軸上のサンプリングデータをD/A変換してアナログベースバンド信号を生成し、これをミキサにてアップコンバートした後、帯域外成分をフィルタにて除去し、ハイパワーアンプで信号増幅したものをアンテナから送信する処理が行われる。
以上はOFDM変調方式を用いる場合の例だが、その他のSC−FDEなどの方式に対しても同様であり、基本的には従来の様々な通信方式を適用することができる。また、必ずしも周波数軸上の信号処理である必要はなく、後述する様に送信ウエイトベクトルの乗算を時間軸上で実施する場合などでは、単一の送信ウエイトベクトル(及び行列)を用いて、サンプリングデータごとに送信ウエイトベクトル(及び行列)の乗算を施す構成としても構わない。また、誤り訂正の符号化やインタリーブなどの処理は送信信号の生成処理に含まれるものとし、ここでの説明では省略している。
次に図21は、本発明の関連技術における信号受信時の信号処理フローの第1例を示すフローチャートである。信号が受信されると、通信制御回路120は複数の第1の信号処理部304に対して、それぞれの第1の受信ウエイトベクトルの読み出しを指示する(ステップS2701)。
ここでの受信ウエイトベクトルの読み出しは、送信側の場合と同様に例えばPoint−to−Multipoint型の通信で且つ基地局装置70の場合には、通信相手局である端末局装置60が通信の都度異なることになるため、送信の都度、毎回読み出し処理を行うことになる。一方、固定的なPoint−to−Point型の通信である場合、ないしは端末局装置60の様に通信相手局が常に基地局装置70に固定される場合には、毎回読み出さずとも処理を省略することも可能である。ただし、チャネルの時変動が無視できず、毎回、受信ウエイトが変更になる場合には、通信相手が固定である場合でも毎回、送信の都度読み出す構成としても良い。ないしは、所定の周期で更新された受信ウエイトを読み出す構成としても良い。
その後、実際の信号を受信すると、第1の信号処理部304は、アンテナ系統ごとに信号受信処理を実施する(ステップS2702)。ここでの信号受信処理とは、例えば受信信号をローノイズアンプで増幅し、ミキサにてダウンコンバート処理を施し、フィルタにて帯域外周波数成分を除去した後、A/D変換器にてデジタルベースバンド信号のサンプル値に変換する。これらの受信信号処理においては、例えばOFDM変調方式であればOFDMシンボルごとに切り出すと共にガードインターバルを除去し、FFTによりサブキャリア成分ごとの周波数軸上の信号に変換する。
以上の受信信号処理が施された信号に対して、第1の信号処理部304は、アンテナ素子ごとの信号をベクトル成分とする受信信号ベクトルに対し受信ウエイトベクトルを乗算し(ステップS2703)、乗算結果を第2の信号処理部305に転送する(ステップS2704)。第1の信号処理部304は、受信データの受信が終了しているか否かを判定する(ステップS2705)。ここで、受信データが更に継続する場合には(ステップS2705:YES)、ステップS2702に示す受信信号処理に戻り処理を継続し、受信データが終了している場合(ステップS2705:NO)には第1の信号処理部304の処理は終了となる。
一方、第2の信号処理部305は、第1の信号処理部304から転送される信号が例えば無線パケットの先頭に付与されているチャネル推定用のトレーニング信号か否かを判断し(ステップS2706)、トレーニング信号であれば(ステップS2706:YES)チャネル推定を実施し(ステップS2707)、得られたチャネル行列を基に第2の受信ウエイト行列を生成する(ステップS2708)。転送される信号がトレーニング信号でないデータ部分であれば(ステップS2706:NO)、第2の信号処理部305は、空間多重数のNSDM次元の受信信号ベクトルに対し、第2の受信ウエイト行列を乗算し(ステップS2709)、信号分離の後に信号検出処理を実施する(ステップS2710)。ここでの信号検出処理とは、例えば送信信号に対する軟判定処理、デインタリーブ処理、誤り訂正処理などを経て、送信信号を推定する処理を意味する。物理層の信号検出処理により得られた信号は、MAC層処理回路へと出力される。
なお、受信信号処理においてはOFDM変調方式の他にSC−FDE方式などの一般の従来技術も同様に適用可能である。更に、説明ではサブキャリアごとの信号処理の様に説明したが、必ずしも周波数軸上の信号処理である必要はなく、後述する様に受信ウエイトベクトル及び受信ウエイト行列の乗算を時間軸上で実施する場合などでは、単一の受信ウエイトベクトル及び受信ウエイト行列を用いて、サンプリングデータごとに受信ウエイトベクトル及び受信ウエイト行列の乗算を施す構成としても構わない。また、例えば第2の受信ウエイト行列を乗算するステップS2709(及び信号分離の後に信号検出処理を実施するステップS2710)に相当するMIMO信号処理に関しては必ずしも線形信号処理として第2の受信ウエイト行列を乗算する必要はなく、QR−MLDやMLDなどの一般的なMIMO信号検出処理を適用することも可能である。
なお、以上の説明は基地局装置70の様に第1の信号処理部304で用いるローカル発振器853が第1の信号処理部304ごとに非同期の場合を想定し、第2の受信ウエイト行列を信号の受信ごとに算出する場合について説明したが、例えば端末局装置60の場合には全てのアンテナ素子のアップコンバート処理、及び又はダウンコンバート処理に用いるローカル発振器853が共通化されているため、必ずしも受信のたびに第2の受信ウエイト行列が変化する訳ではない。この様にローカル発振器853が全体で共通化されていて且つチャネルの時変動を無視できる場合には、過去に取得した第2の受信ウエイト行列を用いることも可能である。
図22は、本発明の関連技術における信号受信時の信号処理フローの第2例の概要を示すフローチャートである。図22に示すステップS2801からステップS2805までは、図21に示すステップS2701からステップS2705までと同じである。図21との差分は、第2の信号処理部305の信号処理において、信号の受信処理が開始された時点で第2の信号処理部305は通信制御回路120からの第2の受信ウエイト行列の読み出し指示を受け、第2の受信ウエイト行列の読み出しを行う(ステップS2806)ことである。その後、第2の信号処理部305は、第1の信号処理部304から受信信号が転送されると、空間多重数のNSDM次元の受信信号ベクトルに対して第2の受信ウエイト行列を乗算し(ステップS2807)、その後に信号検出処理を行う(ステップS2808)。その他の信号処理に関しては図21と同様である。
以上の様に、本発明の関連技術の無線通信システム50は、基地局装置70(第1の無線局装置)及び端末局装置60(第2の無線局装置)を備える。基地局装置70は、複数の第1の送信信号処理部181と、複数の第1の受信信号処理部185と、第2の送信信号処理部71と、第2の受信信号処理部75とを有する。複数の第1の送信信号処理部181は、複数のアンテナ素子819を備える。複数の第1の受信信号処理部185は、複数のアンテナ素子851を備える。第2の送信信号処理部71は、複数の第1の送信信号処理部181に対応付けられた無線通信の信号処理を実行する。第2の受信信号処理部75は、複数の第1の受信信号処理部185に対応付けられた無線通信の信号処理を実行する。端末局装置60は、複数のアンテナ素子819と、複数のアンテナ素子851と、送信部61と、受信部65とを備える。送信部61は、複数のアンテナ素子819を介して、複数の第1の受信信号処理部185との無線通信を実行する。送信部61は、複数のアンテナ素子819を介して、複数の第1の受信信号処理部185と、第1の受信信号処理部185に対応付けられた第2の受信信号処理部75との無線通信を実行してもよい。受信部65は、複数のアンテナ素子851を介して、複数の第1の送信信号処理部181との無線通信を実行する。受信部65は、複数のアンテナ素子851を介して、複数の第1の送信信号処理部181と、第1の送信信号処理部181に対応付けられた第2の送信信号処理部71との無線通信を実行してもよい。第1の送信信号処理部181及び第1の受信信号処理部185は、第1のアンテナ素子群と第2のアンテナ素子群との間の無線通信に用いるMIMOチャネル行列に対する送信ウエイトベクトル及び受信ウエイトベクトルの少なくとも一方を、MIMOチャネル行列の第1特異値に対応する第1右特異ベクトル及び第1左特異ベクトルのうち少なくとも一方又は第1右特異ベクトルの近似解及び第1左特異ベクトルの近似解のうち少なくとも一方に基づいて算出する。複数の第1の送信信号処理部181及び第1の受信信号処理部185は、第1の送信信号処理部181又は第1の受信信号処理部185に対応した当該送信ウエイトベクトル及び受信ウエイトベクトルのうち少なくとも一方を用いて、1つ又は独立な複数の信号系列を伝送する。
これによって、本発明の関連技術の基地局装置70、端末局装置60、無線通信システム50及び無線通信方法は、見通し環境が支配的な環境でMIMOによって伝送容量を増大させることが可能となる。例えば、基地局装置70、端末局装置60、無線通信システム50及び無線通信方法は、将来モバイルネットワークにおける無線通信システムにおいて、見通し環境が支配的でありながら、高次空間多重及び高周波数帯を利用して大容量化を実現することが可能となる。
本発明の関連技術の基地局装置303としての基地局装置70は、狭い領域にアンテナ素子を束ねた第1の信号処理部304と、それらを集約する第2の信号処理部305を備える。第1の信号処理部304では個々の信号処理部内に閉じたビームフォーミングを行い、異なる第1の信号処理部304にまたがったビームフォーミングはしない。個別の第1の信号処理部304は、「見通し波」を最大限に活用する「第1特異値に対応する仮想的伝送路」のための送受信ウエイトを生成し、複数の第1の信号処理部304における個々の送受信ウエイトを用いて空間多重伝送を行う。
ここで、以上の説明では見通し環境が支配的な環境であることを典型的な関連技術として説明してきたが、例えば完全な見通し環境でない場合でも、非常に強い反射波が特定の方向から到来したり、見通し波と遜色ない回折波が到来したりする場合には、第1特異値に相当する仮想的伝送路はその到来方向に形成されることになる。この意味で、第1特異値に相当する仮想的伝送路とは見通し波により構成される伝送路である必然性はなく、第1特異値に相当する仮想的伝送路を複数系統、積極的に活用して空間多重伝送することであるために、見通し外環境であっても適用可能である。その場合の回路構成、処理フローは上記説明と全く変わることなく、そのままの内容で適用することが可能である。
(見通しMIMO伝送の直交化のためのアンテナ配置条件)
ここで、複数の仮想的伝送路が概ね直交関係になるための条件を整理する。図10では、25本のアンテナ素子ごとに実効的に一つの指向性ビームが形成されているので、これは近似的には指向性利得の非常に高い1本のアンテナ(例えばパラボラアンテナ)を利用していることに相当する。図23は、基地局装置が4本のパラボラアンテナを備え、端末局装置がリニアアレー状の16本のアンテナ素子を備える場合を示す図である。図23において、符号306は基地局装置、符号302は端末局装置、符号307−1〜307−4はパラボラアンテナを示す。端末局装置302は、端末局装置60に相当する。基地局装置306は、基地局装置70に相当する。基本的には、図23に示すパラボラアンテナ307−1〜307−4と等価な伝送を、基地局装置70の多数のアンテナ素子をグループ化することで実現する。
ここで、見通し波が支配的な図23におけるMIMOチャネルの4個の特異値が、先に示す場合と同様に概ね均等に大きな値となる条件を整理する。例えば特許文献(特許第5488894号公報)には見通し環境のMIMO伝送が成立する条件が規定されているが、これらの従来技術の基本的な考え方は、基地局装置と端末局装置とが備えるアンテナ素子の間隔を可能な限り広げ、その結果として個々の送信アンテナと受信アンテナとの間の距離にばらつきを与え、その距離の差の関係が擬似的にランダムな関係(ないしは所定の関係)となる様に調整する様に試みるのである。
一方、例えばフェーズドアレーアンテナ技術においては、1次元状のリニアアレーのアンテナ素子間隔をdとすれば、このdの値を小さく設定することで、指向性を向けるべき方向の遠方にあるアンテナから見れば、個々のリニアアレーのアンテナ素子に到来する(ないしは送出される)電波が平面波状に近似できる様になり、到来波の方向を角度θで表せば、アンテナ素子ごとの経路差はd・sinθで高精度に近似可能になる。しかし、上述の従来技術の基本的な考え方ではそれぞれのアンテナ素子の間隔を可能な限り広く設定するために、この様な平面波近似を行うことができず、その近似を異なる条件で行う必要があった。その結果として従来技術の近似の精度は低下する。実際、見通し環境でのMIMO通信を行う際には、送受信局の双方で大型のパラボラアンテナを想定していた。通常、パラボラアンテナのサイズは波長に比べて大幅に大きいため、上述の様な経路長差を波長に対して無視可能な程度の精度で平面波近似することはできない。
しかし、基地局装置70側のみのアンテナの実効的な開口長を広げる一方で、端末局装置60側のアンテナ素子の間隔を数波長程度(基地局装置70と端末局装置60の間の距離にも依存するが、例えば3波長以下)のオーダーに設定すれば、図23の基地局装置306側のあるパラボラアンテナからの端末局装置302側のアンテナ素子ごとの経路差をd・sinθで十分に近似可能になる。そこで、図24に示す様に、基地局装置306に相当する基地局装置70の基地局装置アンテナ#j(310−j)(1≦j≦M)と、端末局装置302に相当する端末局装置60の端末局装置アンテナ#1(320−1)との間の距離をLjとし、更に端末局装置アンテナ#1(320−1)の正面方向との角度差をθjとすれば、端末局装置アンテナの間隔dを用いてチャネル行列(基地局装置70の基地局装置アンテナ#jから端末局装置60の端末局装置アンテナ#i(1≦i≦NMT−Ant)アンテナの間のチャネル情報をhijとする)を表すと、以下の式(15)で近似的に表すことができる。式(15)では煩雑さを避けるためNMT−AntをNと表記する。また、図23では基地局装置306が備えるパラボラアンテナ307−1〜307−4の数を4としたが、式(15)では基地局装置306が備えるアンテナ素子数をMと表記する。
式(15)ではチャネル行列Hを行列の積の形式で表記したが、第2項目の行列の第(j,j)成分は基地局装置70の第jアンテナと端末局装置60の第1アンテナとの間のチャネル情報を示す。端末局装置60のNMT−Ant本のアンテナの各成分の差分情報は、第1項目の行列の第j列の列ベクトルに相当する。第2項目の第(j,j)成分はその列ベクトルの全ての成分に掛かる共通項であるため、第1項目の各列ベクトルが直交していれば各特異値が安定して大きな値となる。第1項の第i列ベクトルと第j列ベクトルが直交している条件は複素ベクトルの内積がゼロとなるという下記の式(16)で表される。
以上の式変形では、等比級数の和の公式を利用している。この最後の条件は分母がゼロでない条件のもとで分子がゼロであれば良いので、分子のexpの括弧の中の項が2πiの整数倍となるとの条件から、下記の条件式(17)が導かれる。以降の式では、Nは元のアンテナ数NMT−Antとして記述する。
式(17)の定数K1は端末局装置60のアンテナ数NMT−Antの倍数ではない整数である。ここで図24に示す通り、基地局装置70側の基地局装置アンテナ#jが端末局装置60側の端末局装置アンテナ#1の真正面から横方向にdjの変位があるとし、基地局装置アンテナ#iと#jとの差分をΔdijとする。基地局装置70と端末局装置60との間の距離をLとし、式(17)の第1式の両辺にL/dを乗算する。基地局装置70の各基地局装置アンテナと端末局装置60の基地局装置アンテナ#1との間の距離は微妙に異なるが、距離Lが変位djよりも十分大きければL≒Ljと近似可能になる。
つまり、端末局装置60のアンテナ数NMT−Antに対し、NMT−Antの整数倍でもゼロでもない整数K2に対し、端末局装置60のアンテナ素子の間隔d、端末局装置60と基地局装置70の距離L、無線通信の信号波の波長λに対し、任意の2本のアンテナ素子の間隔が式(18)を満たす間隔になる様に設定すればよい。この条件を幾何学的に解釈すると、例えば以下の様な条件であれば簡易にこの条件を実現することができる。例えば最も簡易な条件としては、端末局装置60側のリニアアレーと距離がL離れ且つ正対する直線上に、その直線方向に任意のオフセットを許容し、λL/(NMT−Antd)間隔でNMT−Ant点の地点を直線的に設定し、このNMT−Ant点の中からM地点を選択して基地局装置70のM本のアンテナ素子を配置すればよい。これは、連続するNMT−Ant個の整数の中から任意の二つの整数を選び、その差分を求めると必ずその絶対値が(NMT−Ant−1)以下になり、K2がNMT−Antの整数倍になることを回避できることを利用している。なお、個別の任意のふたつの整数の差分がNMT−Antの整数倍とならない配置を検索して設定すれば、その他のより広い条件の中から基地局装置のアンテナ設置個所を選ぶことも可能である。
図23に示す様に、端末局装置302のアンテナ素子312を小型化する場合にはその分、端末局装置302のアンテナ素子数NMT−Antを増やす一方、一般には基地局装置306のアンテナ素子数Mは想定する空間多重数の上限に設定するため、Mの値は端末局装置306のアンテナ素子数NMT−Antよりも小さいことが想定される。つまり、NMT−Ant>Mのときには、上述の最も簡易な条件においても基地局装置306のM本のアンテナは等間隔である必要はなく、上述のNMT−Ant地点の中から間欠的にアンテナ素子の配置場所を設定しても構わない。
なお、図10の場合には実際の基地局装置303のアンテナ素子数は100本であるが、25本単位にグループ化して仮想的な4本のアンテナ素子と見なすことができるので、図10におけるMは4であると見なすべきである。また、式(17)の導出までは非常に高精度の近似を行っているが、式(18)で用いた近似は精度が若干低い。しかし、パラメータの設定次第ではあるが、式(18)の基地局装置70のアンテナ素子の間隔が仮に1m程度としたとき、±数cm程度の数%の誤差があっても概ね直交状態にあることには違いはない。本発明に係る関連技術でも同様であるが、基本的に受信側において複数の仮想的伝送路間の干渉成分がある場合でも、受信側の信号処理でその干渉を抑圧することは可能であり、その様な信号処理を想定すれば、あくまでも概ね直交状態にすることにより損失の最小化が可能なので、式(18)の近似精度はシステム運用上において大きな影響を与えない。
この様な性質も考慮すれば、図10で表される各グループ化されたアンテナ素子群を仮想的な一つのアンテナと見なせば、物理的に広がりを持つ多素子アンテナのその中心点を仮想的アンテナの物理的な位置と見なし、これらの複数のアンテナ素子群を上述のアンテナ配置で設置すれば、それぞれ第1特異ベクトルで表現されるウエイトベクトルを用い、所望の特性で複数の信号系列を空間多重して伝送することが可能になる。
なお、上述の説明では基地局装置側のアンテナ素子と端末局装置側のアンテナ素子とは、図23に示す様にお互いに向かい合い正対している状態を例に取り説明を行ったが、一般的には図25に示す様に、正対関係にない場合が想定される。これは、基地局装置306や端末局装置302の設置場所に関する制約に起因する。この様な場合には、若干、各パラメータを換算することで所望の効果を導くことができる。図25では、基地局装置306から端末局装置302を見たときに、正面から角度θずれた方向に端末局装置302が存在し、また端末局装置302から基地局装置306を見たときに、正面から角度θ’ずれた方向に基地局装置306が存在している。この場合、基地局装置306のパラボラアンテナ307−1と307−4との間隔D1は、D1’(=D1cosθ)に狭まった状態に端末局装置302から見える。同様に、端末局装置302のリニアアレー312の幅D2は、D2’(=D2cosθ’)に狭まった状態に基地局装置306から見える。言い換えれば、アンテナ素子間隔dがdcosθ×cosθ’倍に変換された状態と捉えることができる。基地局装置306のパラボラアンテナ307−1〜307−4の概ね重心付近と端末局装置302の距離をLとすれば、これらの換算を行った上で上述の条件式を用いて最適なアンテナ配置の条件を算出することができる。すなわち、基地局装置70は、見通し方向の直線に対して直交する軸上に各リニアアレーを仮想的に投影する。同様に、端末局装置60は、見通し方向の直線に対して直交する軸上に各リニアアレーを仮想的に投影する。仮想的に投影した軸上のアンテナ素子の間隔に基づいて式(18)のdは、dcosθ×cosθ’に換算される。仮想的に投影した軸上のアンテナ素子の間隔に基づいて式(18)のdは、換算装置又は人によって換算される。
ちなみに、図23及び図25において基地局装置306のパラボラアンテナ307−1〜307−4の概ね重心付近と端末局装置302の距離をLとしているが、個々のアンテナ素子の厳密な距離は共通の距離Lではなく、それぞれが誤差を持つことになる。しかし、式(18)の算出の途中段階では近似を用いていることからも分かる様に、ここでの距離Lもある程度の誤差は許容可能であり、図23で示した様に正対したアンテナ素子の間隔(平行な直線上に並ぶアンテナ素子の、2本の直線の間の距離)としても良いし、図25に示した様に概ねアンテナ素子の重心を結んだ距離としても良い。この様に、距離Lはその近似値ないしは概算値として扱えば良い。
なお、本説明における図23及び図24における説明では、端末局装置はリニアアレーにより構成される場合を典型的な例として示している。この特徴は、基地局装置側のパラボラアンテナ307−1〜307−4ないしは310−1〜310−M(図10ではアンテナ素子群304−1〜304−4に相当)は直線上に配置されており、同様に端末局装置側のアンテナ素子も直線上にリニアアレーを構成して配置されている。上述の直交化条件の算出においては、このふたつの直線は平行関係にあるものとして説明した。具体的に説明すれば、例えばビル壁面ないしはビルの屋上などに、ビルの壁面に平行な水平軸を仮定し、その水平軸に沿って複数の第1の信号処理部及びアンテナ素子(群)307−1〜307−4を設置する場合には、端末局装置のリニアアレーも道を隔てた反対側のビルの壁面に平行で且つ水平な軸上に配置することが好ましい。ここで、端末局装置側のこの水平軸に対して直交する垂直軸を設定し、この水平軸及び垂直軸に平行な格子を仮定し、先に説明した端末局装置のリニアアレーを垂直方向にN’段積み上げた正方格子アレーを利用する場合について考える。このとき、端末局装置の全アンテナ素子数はN×N’素子になる。しかし、この端末局装置から基地局装置の複数の第1の信号処理部のアンテナ素子(群)307−1〜307−4を見ると、水平方向に対してはそれぞれ角度差があるものの、垂直方向の仰角に関してはアンテナ素子(群)307−1〜307−4ごとに差がないため、上述の正方格子アレーのN’段のそれぞれは独立なアンテナ素子とはみなされず、実質的には垂直方向に並ぶN’素子が等価的に一つの仮想的アンテナ素子として振る舞い、この仮想的アンテナ素子が水平軸上にリニアアレー状にN素子配置されているものと理解される。実際、シミュレーション評価においてもこの効果は確認されており、基地局装置側のアンテナ素子(群)307−1〜307−4を結ぶ軸に対し、端末局装置のアンテナ素子を、この軸と平行な軸及びこの軸と直交する軸で構成される格子状にN×N’素子を配置する場合には、基地局装置側のアンテナ素子(群)307−1〜307−4を結ぶ軸と平行な軸上のN素子で且つそのN素子の素子間隔のリニアアレーと見なして、式(12)に当てはめて基地局装置側のアンテナ素子(群)307−1〜307−4の素子間隔を最適すれば良い。当然ながら、基地局装置側のアンテナ素子(群)307−1〜307−4がビルの壁面などに垂直方向に整列している場合には、端末局装置側のアンテナ素子も垂直方向にN素子、水平方向にN’素子を格子状に並べ、これを垂直方向に並んだ等価的なN素子のリニアアレーと見なして式(12)を適用すればよい。また、ここでは端末局装置側のアンテナ配列を正方格子アレーとして説明したが、必ずしも正方格子である必要はなく、長方形状に水平方向と垂直方向の素子間隔が異なっていても構わない。この場合には、基地局装置側のアンテナ素子(群)307−1〜307−4が整列する軸と平行な端末局装置側の軸に並ぶアンテナ素子の間隔を、式(12)のアンテナ素子間隔dとして算出すればよい。
以上の様に、本発明に係る関連技術の無線通信システム53は、基地局装置306(第1の無線局装置)及び端末局装置302(第2の無線局装置)を備える。基地局装置306はアンテナ素子(パラボラアンテナ)307−1〜307−4を備え、端末局装置302は端末局装置アンテナ素子群312を備える。基地局装置306の複数のパラボラアンテナ(アンテナ素子)307−1〜307−4は、式(18)に示されている様に、第m素子と第n素子の間隔Δdmnと、端末局装置302と基地局装置306の距離Lと、無線通信の信号波の波長λと、端末局装置302のアンテナ数NMT−Antと、端末局装置302のアンテナ素子の間隔dとに基づいて配置される。パラボラアンテナ307−1〜307−4は、例えば、それぞれが単一の高利得アンテナ素子(単一アンテナ素子)である。高利得アンテナ素子は、例えば、パラボラアンテナ307である。パラボラアンテナ307−1〜307−4は、単一の高利得アンテナ素子である代わりにアンテナ素子群でもよい。この様にアンテナ素子群を用いる場合には、基地局装置306は図10に示す基地局装置303及び図11の基地局装置17であっても良い。図11における基地局装置70は、複数の第1の送信信号処理部181と、複数の第1の受信信号処理部185と、第2の送信信号処理部71、第2の受信信号処理部75とを有する。複数の第1の送信信号処理部181は、複数のアンテナ素子819を有する。複数の第1の受信信号処理部185は、複数のアンテナ素子851を有する。第2の送信信号処理部71は、複数の第1の送信信号処理部181に対応付けられた無線通信の信号処理を実行する。第2の受信信号処理部75は、複数の第1の受信信号処理部185に対応付けられた無線通信の信号処理を実行する。端末局装置60は、複数のアンテナ素子819と、複数のアンテナ素子851と、送信部61と、受信部65とを有する。送信部61は、複数のアンテナ素子819を介して複数の第1の受信信号処理部185との無線通信を実行する。受信部65は、複数のアンテナ素子851を介して複数の第1の送信信号処理部181との無線通信を実行する。
すなわち、アンテナ素子の間隔又はアンテナ素子グループの間隔が、基地局装置306(第1の無線局装置)と端末局装置302(第2の無線局装置)との距離Lと、無線通信の信号波の波長λと、第2のアンテナ素子群を構成するリニアアレー状のアンテナ素子の数N又は格子状に配置された縦方向又は横方向のいずれかのアンテナ素子の数Nと、第2のアンテナ素子群を構成する縦方向又は横方向のいずれかのアンテナ素子の間隔dとに基づいて算出された値の整数倍になる様に、複数の第1のアンテナ群を構成する各単一アンテナ素子又はアンテナ素子グループは配置される。
これによって、本発明に係る関連技術の基地局装置306又は70、端末局装置302又は60、無線通信システム53又は50、及びアンテナ素子配置方法は、見通し環境が支配的な環境でMIMOによって伝送容量を増大させることが可能となる。本発明に係る関連技術の基地局装置306又は70、端末局装置302又は60、無線通信システム53又は50、及びアンテナ素子配置方法は、所望の特性で複数の信号系列を空間多重して伝送することが可能になる。本発明に係る関連技術の基地局装置306又は70、端末局装置302又は60、無線通信システム53又は50、及びアンテナ素子配置方法は、SIR特性を改善することができる。本発明に係る関連技術の基地局装置306又は70、端末局装置302又は60、無線通信システム53又は50、及びアンテナ素子配置方法は、より高い空間多重を実現することができる。
本発明に係る関連技術の基地局装置306又は70、端末局装置302又は60、無線通信システム53又は50、及びアンテナ素子配置方法は、見通しが支配的な環境で、基地局装置306又は70側の複数のパラボラアンテナ307と、端末局装置302又は60側の複数素子アンテナとのMIMOチャネルにおいて、各チャネルが直交化されるためのアンテナ設置条件を規定している。ただし、ここでは議論を単純化するために基地局側にパラボラアンテナを実装する場合の条件を示したが、当然ながらパラボラアンテナ以外の高指向性アンテナを用いたり、更には基地局側が複数アンテナ素子で構成される図10に示す様な第1の信号処理部を用いたりする様な場合であっても、同様の条件で各伝送路間の直交化を概ね図ることができる。これにより、伝送路上での通信品質の向上と、伝送容量の増大を図ることが可能になる。
(本発明の関連技術をアクセス系に適用する際の課題)
本発明の関連技術では、複数の第1の信号処理部を複数実装し、各アンテナ素子群を非常に小型に形成する一方、それらを物理的に離して配置することで、全体としては基地局装置側で大規模アレーを構成し、それぞれの第1の信号処理部と端末局装置との間で第1特異値に対応する仮想的伝送路を複数系統並列的に利用する無線伝送を行う。この際の基地局装置の第1の信号処理部の配置に関しては、上述の「見通しMIMO伝送の直交化のためのアンテナ配置条件」に示した様に、エントランス回線としての利用の様な基地局装置及び端末局装置の双方が固定設置の場合には、式(18)を満たす様に、周波数(波長)、基地局装置と端末局装置との間の距離、端末局装置のアンテナ素子間隔、端末局装置のアンテナ素子数(2次元配置の場合には縦又は横の素子数)などを最適化することは可能である。
しかし、アクセス系の場合には端末局装置は移動を伴うものであり、しかも双方が常に正対関係ある場合は殆どなく、更には相対的な位置関係及び向きは時間と共に変化する。最も極端な例としては、端末局装置がリニアアレーを備え、基地局装置が直線的に配列された第1の信号処理部を備える場合、それぞれの直線状のアンテナ配置が平行な状態で概ね正対する場合と、それぞれの直線状のアンテナ配置が直交する場合とでは、通信環境は大きく異なる。それぞれの直線上のアンテナ配置が直交する場合とは、例えば、端末局装置の配置が90度回転し、端末局装置のリニアアレーが並ぶ直線と基地局装置の第1の信号処理部が並ぶ直線が捻じれた位置関係にある場合である。
それぞれの直線状のアンテナ配置が平行な状態で概ね正対する場合であれば、基地局装置のアンテナを設置する地上高から、基地局装置と端末局装置との間の距離はある範囲の幅で概ね推定することができる。これにより、完全な最適化までは行かなくても、ある程度の準最適条件を確保することは可能である。しかし、それぞれのアンテナが並ぶ直線が捻じれた直交関係にある場合には、各アンテナ素子の相関が非常に強くなり、空間多重には適さない状況になる。これは言い換えると、この捻じれた状態において、端末局装置側にて基地局装置の第1の信号処理部が並ぶ直線に平行な直線を引き、その直線上に端末局装置の各アンテナ素子を投影した場合に、その投影点が非常に狭いところに集中するため、等価的にアンテナ素子間隔が非常に狭まり、その結果、アンテナ相関が強まると理解することができる。
この様な課題を解決する方法としては、端末局装置側のアンテナ素子を2次元的な格子状アレーに組むことが考えられる。これにより、基地局装置の第1の信号処理部が並ぶ直線に平行な直線を引き、その直線上に端末局装置の各アンテナ素子を投影した場合でも、ある程度の空間的な広がりを期待することができる。しかし、例えばスマートフォンなどを端末局装置として想定した場合、通常、ユーザが手にスマートフォンを持つときでは、スマートフォンのモニタ画面が上方を向いている。そのため、基地局装置からの見通し波(反射を伴わない直接波)を効率的に活用するには、スマートフォンのモニタ画面と同側に多くのアンテナ素子が配置されなければならない。しかし、液晶画面上にアンテナ素子を配置することは困難であり、現実的には液晶画面の周りの縁の部分に1次元的に配置せざるを得ないなど、配置上の制限が大きい。
図26は、本発明の関連技術における端末局装置に実装するアンテナ配列の例を示す図である。同図において、符号501は端末局装置(スマートフォン)、符号502−1〜502−4はアンテナ素子を表している。同図では4つのアンテナ素子が備えられる場合の例を示したが、例えば搬送波の中心周波数が20GHzであれば、波長は1.5cmであり、1/2波長間隔でリニアアレー状に9つのアンテナ素子を配置すると、配置に要する長さは約6cmとなる。同図のアンテナ素子502−1と502−4の間隔がアンテナ開口長の最大値であり、9つのアンテナ素子を配置した場合には6cmとなる。片手に収まる様なスマートフォンの横幅を考えれば、これ以上のアンテナ開口長を想定するのは困難である。
図27は、ユーザが端末局装置を手に持ち利用する場合の形態を示す図である。比較的高い位置に基地局装置が配置された場合、同図に示す様に、端末局装置501の上方から電波が到来することになる。図28は、本発明の関連技術において、基地局装置の第1の信号処理部が直線的にビル壁面などの高所に配置された場合を示す図である。同図において、符号501−1〜501−2は端末局装置を示し、符号511−1〜511−5は第1の信号処理部(及びアレーアンテナ)を示し、符号515はサービスエリアを示す。ビル壁面に直線的に配置された第1の信号処理部511−1〜511−5の下方にサービスエリア515が広がり、その中に複数の端末局装置501−1〜501−2が存在する。ユーザは端末局装置501−1〜501−2を図27に示した様に、アンテナ素子が設置されている面(すなわち液晶画面側)を上側に向けて手に持つことになる。
図29は、端末局装置のアンテナ素子の並びと第1の信号処理部の並びの関係を示す図である。同図において、符号501−1〜501−2は端末局装置を示し、符号510はビル壁面を示し、符号511−1〜511−5は基地局装置の第1の信号処理部(及びアレーアンテナ)を示し、符号512−1及び512−2はアンテナ素子を示し、符号513−1及び513−2は端末局装置のアンテナ素子の並ぶ方向を示し、符号514は基地局装置の第1の信号処理部の並ぶ方向を示す。例えば、図28に示した様にビル壁面に設置された第1の信号処理部511−1〜511−5から下方向に送信された信号を、図27に示した様にアンテナ面が上向きの状態で保持される端末局装置501は信号を受信することになる。このとき、ユーザが端末局装置501を保持する向き、即ち端末局装置501の向きは様々な角度となる可能性がある。
例えば、図29における端末局装置501−1では、アンテナ素子512−1が並ぶ方向513−1は、第1の信号処理部が並ぶ方向514と平行な方向となっている。端末局装置501−1に関しては、基地局装置から見ればアンテナ素子512−1が配置された幅はそのままアンテナ開口長となる。しかし、図29における端末局装置501−2に関しては、アンテナ素子512−2が並ぶ方向513−2は、第1の信号処理部が並ぶ方向514と直交する方向となっている。端末局装置501−2に関しては、基地局装置から見れば複数のアンテナ素子512−2を第1の信号処理部511が並ぶ方向514と平行な軸上に投影した点がほぼ1点として見えるため、等価的なアンテナ開口長としては極端に狭い幅となる。
この様に、本発明の関連技術の端末局装置でも、送信側のアンテナ素子と受信側のアンテナ素子との並びが正対しない場合には、アンテナ開口が縮小した状態となる。アンテナ素子の並びそれぞれが直交する端末局装置501−2の向きが、アンテナ開口が最も短い最悪のケースになる。このとき、アンテナ素子512−2では第1の信号処理部511−1〜511−5からの信号の相関が高まり、信号処理で信号分離することができなくなり、即ち空間多重伝送が困難となる。また、送信側のアンテナ素子と受信側のアンテナ素子とが正対する様に端末局装置の向き(ユーザの立ち位置)を変えて通信を行いながら使用することは、ユーザの操作性の観点からも現実的ではない。
一方、端末局装置の上面にアンテナ素子を正方アレー状に2次元的に配置することができれば、この様なアンテナ開口の縮小を低減できる。しかし、スマートフォンの液晶画面上(液晶の下層側)にアンテナ素子を配置することは困難であり、実際には図26に示した様にスマートフォンの筐体における液晶画面の周りの縁の部分にアンテナ素子を配置せざるを得ない。
[本発明に係る第1の実施形態]
図30は、本発明に係る第1の実施形態における端末局装置600Aの構成例を示す図である。第1の実施形態における端末局装置600Aは、少なくとも1つのアンテナアレーを備える基地局装置とMIMO伝送を行う。基地局装置は、例えば図9から図13を参照して説明した基地局装置303や基地局装置70などである。端末局装置600Aは、2次元アレーアンテナ610を備える。2次元アレーアンテナ610は、アンテナ基板611と、複数のアンテナ素子612とを備える。複数のアンテナ素子612は、アンテナ基板611の一方の主面上にマトリックス状に配置され、2次元アレーを形成している。複数のアンテナ素子612が配置されるアンテナ基板611の主面の形状は矩形形状である。アンテナ基板611の主面の一辺に沿って設けられた蝶番部613−1、613−2を介して、アンテナ基板611は、端末局装置600Aの筐体601に取り付けられている。アンテナ基板611は、蝶番部613−1、613−2を軸として回転する様に筐体601に取り付けられている。
端末局装置600Aの筐体601の厚さは、筐体601の縦方向及び横方向の長さに比べて薄く、筐体601は一定の厚さを有する板状の形状を有している。筐体601の一方の主面には、ユーザが端末局装置600Aを操作する際に使用するタッチパネル式のディスプレイ602が設けられている。アンテナ基板611は、蝶番部613−1、613−2を軸として回転することにより、複数のアンテナ素子612が配列された主面とディスプレイ602とが同じ方向を向くと共に、アンテナ基板611の主面とディスプレイ602とが並ぶ位置(図30(A))から、アンテナ基板611の主面とディスプレイ602とが直交する位置(図30(B))を通り、アンテナ基板611の主面とディスプレイ602とが逆の方向を向くと共に、アンテナ基板611とディスプレイ602とが対向する位置(図30(C))までの180度に亘り回転する様に、筐体601に取り付けられている。なお、アンテナ基板611が蝶番部613−1、613−2を軸として回転する角度は、180度以上であってもよい。また、アンテナ基板611は、アンテナ基板611の主面とディスプレイ602とが互いに逆を向いている位置にあるとき、図30(C)に示す様に、携行の邪魔にならない様に筐体601内に収容される。
複数のアンテナ素子612は、筐体601内に設けられた送信部61及び受信部65(図14)に接続されている。複数のアンテナ素子612と送信部61及び受信部65とを接続する信号線は、蝶番部613−1、613−2を介して設けられている。ユーザが端末局装置600Aを通信に利用する際にアンテナ基板611を回転させ、図30(A)で示される様に、2次元アレーアンテナ610をディスプレイ602と同様に上方に向いた位置へ移動させることができる。これにより、ビルなどの建造物の高所に備えられた基地局装置のアンテナアレーと、端末局装置600Aの2次元アレーアンテナ620とを正対させることが容易となり、各アンテナ素子622で受信する信号間の相関の高まりを低減することができ、見通し波が支配的な通信環境でMIMO伝送を行う無線通信システムにおける伝送容量を増大させることができる。
また、複数のアンテナ素子612は、マトリックス状に配置されているので、端末局装置600Aが基地局装置のアンテナアレーに対していずれの方向を向いたとしても、2次元アレーアンテナ610のアンテナ開口長が狭くなることを防ぐことができる。また、アンテナ基板611は筐体601内に収容することができるため、端末局装置600Aの大型化を抑えつつ、2次元アレーアンテナ610を端末局装置600Aに備えることができる。
[本発明に係る第2の実施形態]
図31は、本発明に係る第2の実施形態における端末局装置600Bの構成例を示す図である。第2の実施形態における端末局装置600Bは、第1の実施形態の端末局装置600Aと同様に、少なくとも1つのアンテナアレーを備える基地局装置とMIMO伝送を行う。端末局装置600Bは、2次元アレーアンテナ620を備える。2次元アレーアンテナ620は、アンテナ基板621と、複数のアンテナ素子622とを備える。複数のアンテナ素子622は、アンテナ基板621の一方の主面上にマトリックス状に配置され、2次元アレーを形成している。複数のアンテナ素子622が配置されるアンテナ基板621の主面の形状は矩形形状である。アンテナ基板621の主面の両側に位置する細長の面には溝623−1、623−2が当該面の長手方向に形成されている。
端末局装置600Bの筐体603の厚さは、筐体603の縦方向及び横方向の長さに比べて薄く、筐体603は一定の厚さを有する板状の形状を有している。筐体603の一方の主面には、ユーザが端末局装置600Bを操作する際に使用するタッチパネル式のディスプレイ602が設けられている。筐体603の内側には、アンテナ基板621の溝623−1、623−2に対向する位置に、アンテナ基板621の移動を案内する案内部605−1、605−2が設けられている。案内部605−1、605−2は、例えば溝623−1、623−2の形状に対応する形状の凸部として形成される。案内部605−1、605−2が溝623−1、623−2に沿ってアンテナ基板621の移動を案内することにより、筐体603内部に収容されたアンテナ基板621を筐体603の主面と平行に移動させて、複数のアンテナ素子622が配置された面をディスプレイ602が設けられている側に露出させることができる。
端末局装置600Bは、案内部605−1、605−2が溝623−1、623−2に沿ってアンテナ基板621の移動を案内するスライド機構を有することにより、アンテナ基板621が筐体603に収容された状態(図31(C))から、アンテナ基板621を筐体603の主面と平行に移動させて(図31(B))、アンテナ基板621の主面上にマトリックス状に配置された複数のアンテナ素子622がディスプレイ602と同じ側に露出させた状態(図31(A))に移動させることができる。アンテナ基板621が移動する方向は、筐体603の厚さ方向に垂直な方向であり、例えば筐体603の縦方向又は横方向に平行な方向である。
複数のアンテナ素子622は、筐体603内に設けられた送信部61及び受信部65(図14)に接続されている。複数のアンテナ素子622は、案内部605−1、605−2の近傍に設けられた接点を介して接続された信号線ないしは筐体603内での折れ曲がり等により伸縮可能な信号線やフレキシブルプリント基板により送信部61及び受信部65と電気的に接続されている。ユーザが端末局装置600Bを通信に利用する際にアンテナ基板621を引き出し、図31(A)で示される様に、2次元アレーアンテナ620をディスプレイ602と同様に上方に向いた状態で複数のアンテナ素子622を露出させる位置へ移動させることができる。これにより、ビルなどの建造物の高所に備えられた基地局装置のアンテナアレーと、端末局装置600Bの2次元アレーアンテナ620とを正対させることが容易となり、各アンテナ素子622で受信する信号間の相関の高まりを低減することができ、見通し波が支配的な通信環境でMIMO伝送を行う無線通信システムにおける伝送容量を増大させることができる。
また、複数のアンテナ素子622は、マトリックス状に配置されているので、端末局装置600Bが基地局装置のアンテナアレーに対していずれの方向を向いたとしても、2次元アレーアンテナ620のアンテナ開口長が狭くなることを防ぐことができる。また、アンテナ基板621は筐体603内に収容することができるため、端末局装置600Bの大型化を抑えつつ、2次元アレーアンテナ620を端末局装置600Bに備えることができる。
なお、図31(C)に示される様にアンテナ基板621が筐体603内に収容されているときや、図31(B)に示される様に複数のアンテナ素子622の一部が筐体603内にあるときにおいて、端末局装置600Bは、2次元アレーアンテナ620から信号を送信しない様にしてもよい。これにより、2次元アレーアンテナ620から送信される無線信号が筐体603や筐体603に備えられた素子などに吸収されることを防ぎ、効率的な送信を行うことができる。
また、アンテナ基板621の移動を案内するスライド機構として、アンテナ基板621に設けられた溝623−1、623−2と、筐体603に設けられた案内部604−1、604−2の凸部とを組み合わせた構成を例示したが、アンテナ基板621を平行に移動させるスライド機構であれば他の構成を用いてもよい。
[本発明に係る第3の実施形態]
図32は、本発明に係る第3の実施形態における端末局装置600Cの構成例を示す図である。第3の実施形態における端末局装置600Cは、第1の実施形態の端末局装置600Aと同様に、少なくとも1つのアンテナアレーを備える基地局装置とMIMO伝送を行う。端末局装置600Cは、2次元アレーアンテナ630を備える。2次元アレーアンテナ630は、アンテナ基板631と、複数のアンテナ素子632とを備える。複数のアンテナ素子632は、アンテナ基板631の一方の主面上にマトリックス状に配置され、2次元アレーを形成している。複数のアンテナ素子632が配置されるアンテナ基板631の主面の形状は扇形形状である。アンテナ基板631の2箇所の直線部分が交わる要部分の近傍に取り付けられた蝶番部633を介して、アンテナ基板631は、蝶番部633を介して端末局装置600Cの筐体607に取り付けられている。アンテナ基板631は、蝶番部633を軸として、アンテナ基板631の主面の向きを一定にして回転する様に筐体607に取り付けられている。
端末局装置600Cの筐体607の厚さは、筐体601などと同様に、筐体607の縦方向及び横方向の長さに比べて薄く、筐体607は一定の厚さを有する板状の形状を有している。筐体607の一方の主面には、ユーザが端末局装置600Cを操作する際に使用するタッチパネル式のディスプレイ602が設けられている。アンテナ基板631は、筐体607の主面の隅近傍に取り付けられた蝶番部633を軸として回転する。アンテナ基板631は、複数のアンテナ素子632が配列された主面とディスプレイ602とが同じ方向を向くと共に、アンテナ基板611の主面とディスプレイ602とが並ぶ位置(図32(A))から、アンテナ基板631の主面上に配置された複数のアンテナ素子632の一部が筐体607に隠れる位置(図32(B))を通り、アンテナ基板631が筐体607内に収容される位置(図32(C))までの90度に亘り回転する様に、筐体607に取り付けられている。
複数のアンテナ素子632は、筐体607内に設けられた送信部61及び受信部65(図14)に接続されている。複数のアンテナ素子632は、蝶番部633を介して接続された信号線、ないしは筐体607内での折れ曲がり等により伸縮可能な信号線やフレキシブルプリント基板により、送信部61及び受信部65とを接続されている。ユーザが端末局装置600Cを通信に利用する際にアンテナ基板631を回転させて引き出し、図32(A)で示される様に、2次元アレーアンテナ630をディスプレイ602と同様に上方に向いた位置で露出させることができる。これにより、ビルなどの建造物の高所に備えられた基地局装置のアンテナアレーと、端末局装置600Cの2次元アレーアンテナ630とを正対させることが容易となり、各アンテナ素子632で受信する信号間の相関の高まりを低減することができ、見通し波が支配的な通信環境でMIMO伝送を行う無線通信システムにおける伝送容量を増大させることができる。
なお、図32(C)に示される様にアンテナ基板631が筐体607内に収容されているときや、図32(B)に示される様に複数のアンテナ素子632の一部が筐体607内にあるときにおいて、端末局装置600Cは、2次元アレーアンテナ630から信号を送信しない様にしてもよい。これにより、2次元アレーアンテナ630から送信される無線信号が筐体607や筐体607に備えられた素子などに吸収されることを防ぎ、効率的な送信を行うことができる。
また、図32において、蝶番部633が筐体607の主面の角近傍に取り付けられた構成を説明したが、筐体607の主面に対して平行な状態を保ちつつアンテナ基板631を回転させることができる位置であれば、蝶番部633は筐体607のいずれの位置に取り付けられていてもよい。
[本発明に係る第4の実施形態]
図33は、本発明に係る第4の実施形態における端末局装置600Dの構成例を示す図である。第4の実施形態における端末局装置600Dは、第1の実施形態の端末局装置600Aと同様に、少なくとも1つのアンテナアレーを備える基地局装置とMIMO伝送を行う。端末局装置600Dは、リニアアレーアンテナ640を備える。リニアアレーアンテナ640は、アンテナ基板641と、複数のアンテナ素子642とを備える。複数のアンテナ素子642は、アンテナ基板641の一方の主面上に直線状に配置され、リニアアレーを形成している。複数のアンテナ素子642が配置されるアンテナ基板641の主面の形状は細長の矩形形状である。アンテナ基板641の長手方向の両端部のうち一方の端部の近傍に取り付けられた蝶番部643を介して、アンテナ基板641は端末局装置600Dの筐体609に取り付けられている。アンテナ基板641は、蝶番部643を軸(支点)として、アンテナ基板641の主面の向きを一定にして回転する様に筐体609に取り付けられている。
端末局装置600Dの筐体609の厚さは、筐体601などと同様に、筐体609の縦方向及び横方向の長さに比べて薄く、筐体609は一定の厚さを有する板状の形状を有している。筐体609の一方の主面には、ユーザが端末局装置600Dを操作する際に使用するタッチパネル式のディスプレイ602が設けられている。アンテナ基板641は、筐体609の主面の隅近傍に取り付けられた蝶番部643を軸として回転する。図33に示す様に、アンテナ基板641は、筐体609の長手方向に突出した位置(図33(A))から、蝶番部643を軸に回転して筐体609の長手方向とアンテナ基板641の長手方向とが成す角度が0度から180度までの任意の角度をとる位置(図33(B))を通り、筐体609内に収容される位置まで回転する様に、筐体609に取り付けられている。なお、アンテナ基板641が蝶番部643を軸として回転する角度は、180度以上であってもよい。
複数のアンテナ素子642は、筐体609内に設けられた送信部61及び受信部65(図14)に接続されている。複数のアンテナ素子642と送信部61及び受信部65とを接続する信号線は、蝶番部643を介して設けられている。ユーザが端末局装置600Dを通信に利用する際にアンテナ基板641を回転させ、図33(A)又は図33(B)で示される様に、リニアアレーアンテナ640をディスプレイ602と同様に上方に向いた位置で露出させることができる。これにより、ビルなどの建造物の高所に備えられた基地局装置のアンテナアレーと、端末局装置600Dのリニアアレーアンテナ640とを正対させることが容易となり、各アンテナ素子642で受信する信号間の相関の高まりを低減することができ、見通し波が支配的な通信環境でMIMO伝送を行う無線通信システムにおける伝送容量を増大させることができる。
また、端末局装置600Dの特徴の一つは、図29において示した様に端末局装置501をユーザが手に持ったときの方向に応じてアンテナ開口長が大きく変化したのに対して、端末局装置500Dの向きに拘わらずリニアアレーアンテナ540の向きを調整することがすることができるため、アンテナ開口長を広く確保することができる。
図34は、端末局装置600Dのリニアアレーアンテナ640の向きと基地局装置の第1の信号処理部511の並びと関係を示す図である。同図において、符号500D−1〜500D−3は端末局装置を示し、符号510はビル壁面を示し、符号511−1〜511−5は基地局装置に備えられる第1の信号処理部(及びアレーアンテナ)を示し、符号514は基地局装置の第1の信号処理部511の並ぶ方向を示し、符号533−1、533−2及び533−3は端末局装置600Dのリニアアレーアンテナの並ぶ方向を示す。例えば、端末局装置600D−1はユーザがビル壁面510側(第1の信号処理部側)を向いた状態となっているが、リニアアレーアンテナを第1の信号処理部511が並ぶ方向514と平行な方向533−1に向けることで、第1の信号処理部511−1〜511−5の並ぶ方向514と、リニアアレーアンテナにおいてアンテナ素子が並ぶ方向533−1とを平行な状態に保ち、第1の信号処理部511とリニアアレーアンテナとが概ね正対した状態を確保できる。
また、端末局装置600D−2はユーザがビル壁面510側(第1の信号処理部側)を横に見る向きに立った状態となっているが、端末局装置600Dのリニアアレーアンテナを方向514と平行な方向533−2に向けることで、第1の信号処理部511−1〜511−5の並ぶ方向514と、リニアアレーアンテナの並ぶ方向533−2を平行な状態に保ち、第1の信号処理部511とリニアアレーアンテナとが概ね正対した状態を確保できる。更に、端末局装置600D−3はユーザがビル壁面510側(第1の信号処理部側)に対して斜めの向きに立った状態となっているが、リニアアレーアンテナを第1の信号処理部511が並ぶ方向514と平行な方向533−3に向けることで、第1の信号処理部511−1〜511−5の並ぶ方向514と、リニアアレーアンテナにおけるアンテナ素子が並ぶ方向533−3を平行な状態に保ち、第1の信号処理部511とリニアアレーアンテナとが概ね正対した状態を確保できる。
図26に示した様にスマートフォン(端末局装置)のディスプレイ周りの縁の部分にアンテナ素子を配置した場合、ユーザが手に持ったときの端末局装置の向きに依存してアンテナ開口長が大きく変動し、その結果、図29に示した様に第1の信号処理部511との間で多数の空間多重伝送を実施しにくい、ないしは通信が不安定化する状況が起きえた。これに対して、第4の実施形態における端末局装置600Dは、図34に示した様に、アンテナ基板641を筐体609に対して回転させることで安定的にリニアアレーアンテナ640のアンテナ開口長を確保することが可能になり、通信の安定性及び空間多重数の増大を図り、通信の品質向上を図ることが可能になる。
なお、上記の説明ではアンテナ基板641は蝶番部643で示される一つの軸を中心とする回転(すなわち単一平面内での回転)のみを可能とする説明を行ったが、一般には蝶番部643の構成を拡張して複数の軸で回転方向の自由度を高めることも可能である。最も簡単な実現方法は、蝶番部643を2つの蝶番の組み合わせで実現し、片方の蝶番で平面内の回転を実現し、残りの蝶番でこの平面外への移動を可能としてもよい。また、この様な蝶番の実現方法は様々なものがあり、それらの任意の実現方法を用いても構わない。
以上の様に、各実施形態の端末局装置は、複数のアンテナ素子又はアレーアンテナを備える基地局装置とMIMO伝送する端末局装置であり、筐体と、筐体に対して移動可能に取り付けられたアンテナ基板と、アンテナ基板の主面に配置された複数のアンテナ素子とを備える。すなわち、端末局装置は、端末局装置のディスプレイ面と独立して、基地局装置の第1の信号処理部(及びアレーアンテナ)に対向する様にアンテナ基板にアンテナ素子を配置可能とする構成を有することを特徴としている。複数のアンテナ素子により形成されるアレーアンテナは、アンテナ基板が筐体に対して移動可能となっているため、筐体の向きに拘わらず、基地局装置の複数のアンテナ素子又はアレーアンテナに対して正対した位置を確保することができ、端末局装置の各アンテナ素子で受信する信号間の相関の高まりを低減することができ、見通し波が支配的な通信環境でMIMO伝送を行う無線通信システムにおける伝送容量を増大させることができる。更に上述の通り、端末局筐体の向きを変える必要がないことから、ユーザの通信時における操作性を向上させることが可能となる。
なお、各実施形態の端末局装置において、アンテナ基板の複数のアンテナ素子が配置されている側にアンテナ素子を保護するためにアンテナ素子を覆うカバーを設けてもよい。カバーとしての部材は、電波の送受信を妨げない素材を用いることが好ましい。
[本発明に係る実施形態及び関連技術の補足事項]
以下に、本発明に係る実施形態及び関連技術に関する幾つかの補足事項を説明する。
まず、本発明の実施形態を説明するにあたり、その関連技術の説明を詳しく行ってきたが、これらの関連技術とは本発明の実施形態が最も効率的に機能する状況をもたらす環境に対応した技術であり、必ずしもこの関連技術が同時に適用されなければ本発明の実施形態の効果が期待できない訳ではない。すなわち、関連技術とは異なる技術を組み合わせた環境での利用であっても、本発明実施形態の適用により、電波の到来方向に依存せずにアンテナの開口長を広く確保することが可能になり、結果として本発明の効果を得ることは可能である。
また、一般の端末局装置は本発明の実施形態に示したアンテナ素子とは別に、端末局装置の筐体内のいずれかの場所に別のアンテナ素子を実装し、これらを併用して利用することも可能である。この様な利用の場合でも、本発明の実施形態に示すアンテナ素子の利用により確実にアンテナ開口長は拡張されることになり、如何なる信号処理を実施したとしても、結果として本発明の効果を得ることは可能である。したがって、関連技術の適用の有無やその他のアンテナ素子の併用とは関係なく、本発明の意図する請求の範囲は請求項記載の範囲とするべきである。
同様に、各実施形態のアンテナ基盤の裏面にも一部のアンテナ素子を実装し、表面のアンテナ素子と共に裏面のアンテナ素子を併用して利用することも可能である。ただし、例えば図28などに示した様に、端末局装置から見て概ね上方に基地局装置が存在する場合の見通し波は、スマートフォンなどの表面、すなわち液晶モニタ等の配置されている側に主として到来するため、液晶モニタ等の配置されている側に各実施形態に示すアンテナ素子が向く様にアンテナ基盤を移動したとき、その良好な通信特性の効果は到来波を利用した信号の送受信に適したアンテナ基盤の表面側のアンテナ素子により得られることになる。このため、アンテナ基盤の裏面のアンテナ素子はあくまでも限定的な効果しか生むことができず、この様な付随的なアンテナ素子の追加を含めて本発明の請求の範囲とすべきである。
また、本発明の各実施形態に適用可能な関連技術の説明では、受信側のアンテナ素子851−1〜851−(N’BS−Ant)と送信側のアンテナ素子819−1〜819−(N’BS−Ant)には、それぞれ異なる番号を振って個別に説明を行っているが、当然ながら送信系と受信系にTDD−SWなどを介して共通化したアンテナ素子(851−1〜851−(N’BS−Ant)又は819−1〜819−(N’BS−Ant))として扱うことも可能である。特に、インプリシット・フィードバックを行う場合には、送信系と受信系のアンテナの共用化は必須であり、アップリンクとダウンリンクを時間的に切り替えるTDD制御が基本となる。ここでのTDD−SWの切り替えは、通信制御回路120等により管理・制御されることになる。
また、基地局装置に関する受信側のアンテナ素子851−1〜851−(N’BS−Ant)及び送信側のアンテナ素子819−1〜819−(N’BS−Ant)と、端末局装置に関する受信側のアンテナ素子851−1〜851−(NMT−Ant)及び送信側のアンテナ素子819−1〜819−(NMT−Ant)とでは、それぞれ説明を簡単化するために共通の番号を使用して説明をしている。しかし、基地局装置に関するアンテナ素子のサイズや指向性利得などの要求条件と、端末局装置のアンテナ素子のサイズや指向性利得などの要求条件は一般には一致せず、機能としては同一であるために番号としては同一の番号を付与したが、実際の運用ではサイズや指向性利得などの点で異なる条件のアンテナ素子を利用しても構わない。その他の回路としても同様で、それぞれ説明を簡単化するために共通の番号を使用して説明をしているが、例えばハイパワーアンプ818−1〜818−(N’BS−Ant及びNMT−Ant)、ローノイズアンプ852−1〜852−(N’BS−Ant及びNMT−Ant)などにおいても、同様にアンプの増幅率、消費電力、サイズや許容発熱量などの要求条件は一般には一致せず、機能としては同一であるために番号としては同一の番号を付与したが、実際の運用では異なる条件の回路を利用しても構わない。
また本発明の関連技術における送信ウエイトベクトルとは、送信ウエイト行列の各列ベクトル(又は一部の列ベクトル)を意味し、同時に空間多重する信号系列のひとつに着目したベクトル表記された送信ウエイトである。具体的には、複数の信号系列を空間多重する際の送信ウエイト行列の各列ベクトルは、複数の信号系列の中のある信号系列に着目したウエイト(送信ウエイトベクトルの成分)をベクトル表記したもので、空間多重する端末局装置のチャネルベクトルないしはチャネル行列を基に全体の送信ウエイト行列生成の過程で順次取得されるものである。したがって、送信ウエイトベクトルの生成(及び、「算出」「決定」「乗算」「成分」などの言葉が後続する場合も同様)とは、全体としては送信ウエイト行列の生成と等価であり、特にその行列の行ベクトルないしは列ベクトルを順番に生成する手順を意識した際に、「送信ウエイト行列の生成」と等価な意味で「送信ウエイトベクトルの生成」の様に標記している場合もある。
また同様に、本発明の関連技術における受信ウエイトベクトルとは、受信ウエイト行列の各行ベクトル(又は一部の行ベクトル)を意味し、同時に空間多重された信号系列のひとつに着目したベクトル表記された受信ウエイトである。具体的には、複数の信号系列が空間多重された際の受信ウエイト行列の各行ベクトルは、複数の信号系列の中のある信号系列に着目したウエイト(受信ウエイトベクトルの成分)をベクトル表記したもので、空間多重された端末局装置のチャネルベクトルないしはチャネル行列を基に全体の受信ウエイト行列生成の過程で順次取得されるものである。したがって、受信ウエイトベクトルの生成(及び、「算出」「決定」「乗算」「成分」などの言葉が後続する場合も同様)とは、全体としては受信ウエイト行列の生成と等価であり、特にその行列の行ベクトルないしは列ベクトルを順番に生成する手順を意識した際に、「受信ウエイト行列の生成」と等価な意味で「受信ウエイトベクトルの生成」の様に標記している場合もある。
また更に、本発明の関連技術における「送信ウエイトベクトル」、「受信ウエイトベクトル」、「チャネル(情報)ベクトル」、「送信信号ベクトル」、「受信信号ベクトル」など、様々な形で「ベクトル」との表記をしているが、これらは全て各アンテナ素子に対応したところの「送信ウエイト」、「受信ウエイト」、「チャネル(情報)」、「送信信号」、「受信信号」を成分とするベクトルであり、各関連技術の中で明示的に「ベクトル」との記載がなくても、当該関連技術においてそれらを成分とするものがそれらの「ベクトル」であることは明らかであり、必要に応じてこれらの内容を補って理解されるべきである。更に、「送信信号ベクトル」、「受信信号ベクトル」における「送信信号」及び「受信信号」とは、各アンテナ素子に対応した、ないしは各アンテナ素子に基づく送信又は受信信号であり、実際に送受信される無線周波数のアナログ信号ではなく、デジタル化されたベースバンド(又は中間周波数)の信号でもよい。この信号とは、周波数軸上の信号及び時間軸上のサンプリング信号の両方を含むものである。したがって、以上の関連技術の説明では明示的な記載を省略した部分もあるが、これらの信号は無線周波数で送受信される信号そのものだけではなく、これらの信号と無線周波数で送受信される信号との間では、何らかの信号処理が施されていても構わない。
また、本発明の関連技術におけるチャネル推定に関する説明では、1回のチャネル推定でチャネル情報を取得する場合に加えて、複数回のチャネル推定結果を平均化する場合についても説明している。例えば大規模なアンテナ素子を活用することによる回線利得を考慮すれば、1本アンテナと1本アンテナの間の回線設計においては回線利得は不足していても問題ない一方、その大規模アンテナによる指向性利得を稼ぐためには適切な送受信ウエイトが必要であり、その送受信ウエイトの算出に必要なチャネル情報は基本的に1本アンテナと1本アンテナとの間のチャネル推定結果に基づくため、ここで回線利得が不足するとその後の指向性利得を得ることができなくなってしまう。このための対策として、非特許文献2などではトレーニング信号を複数シンボル受信し、その受信信号の平均化処理により回線利得の不足を補っていた。この複数回の推定結果の平均化としては、数シンボルに渡り周期的なトレーニング信号が連続する場合において、その周期性を活用して数シンボルに渡る短時間平均化を行う手法と、離散的な時刻において行われるチャネル推定結果を複数回分だけ寄せ集めて平均化を行う長時間平均化を行う手法がある。ここで短時間平均化の場合には、平均化を行う複数シンボルは連続しているが故に、全てシンボルタイミングがその周期性故に保存しているものと考えられるため、特に基準となるアンテナ素子の複素位相を基準とする相対チャネルとして扱う必要はなかった。これに対し、離散的な時刻において行われるチャネル推定結果に関しては、そのシンボルタイミングが同一となる必然性が一般的にはないため、そのシンボルタイミングの誤差に伴う影響を排除するために、相対チャネル情報を取得して平均化する構成を取る必要があった。この場合、基準となるアンテナ素子のチャネル情報の複素位相は全てゼロ(すなわち実数値を取る)であるものと見なされる。これらの相対チャネル情報の算出においては、全てのアンテナ素子のチャネル情報に、基準アンテナの複素位相θに対してExp(−jθ)を乗算する他、全てのアンテナ素子のチャネル情報を、基準となるアンテナ素子のチャネル情報で除算する形で求めても良い。この様な相対チャネル情報の活用は、一般にはシンボルタイミングが異なるチャネル推定結果の平均化には必須であるが、シンボルタイミングが共通となる場合には、一般的には送受信ウエイトの算出に際して相対チャネル情報を用いる必要はない。単純に、取得したチャネル情報に対して式(1)や式(7)などを用いて送受信ウエイトを計算すれば良かった。しかし、仮にシンボルタイミングが共通となる場合であっても相対チャネル情報を活用しても全く問題は生じないため、上述の説明としては時として相対チャネル情報として説明を行ったり、単純なチャネル情報をそのまま用いて説明している場合がある。しかし、その差は上述の様な差であり、相対チャネル情報を用いることが必須である訳ではない。
本発明の関連技術におけるチャネル情報の取得では、特にエントランス回線などで利用する場合には短時間平均化及び長時間平均化などの処理を施し1本アンテナと1本アンテナとの間のチャネル推定における回線利得の不足を補っていた。しかし、アクセス系の場合には端末局装置及びその周りの環境は時間と共に移動、変化するため、短時間平均化及び長時間平均化などの処理を施すことはできない。しかし、様々な手法で1本アンテナと1本アンテナとの間のチャネル推定を所定の精度で実施する従来技術を用いれば、リアルタイムでのチャネル情報の取得、ないしはチャネル情報のフィードバックは可能であり、その場合には得られた相対チャネル情報を用いて必要な送受信ウエイトの算出を行うことが可能になる。
また相対チャネル情報とは、基準アンテナの複素位相を基準として複素位相に補正を加えたチャネル情報として扱うことも可能であるし、振幅まで含めて基準となるアンテナのチャネル情報で各アンテナ素子のチャネル情報を除算したものであっても良い。各相対チャネル情報の振幅は、例えば式(7)で表される最大比合成の受信ウエイトの時には意味を持つが、式(1)で表される等利得合成の送受信ウエイトの場合には意味を持たない。更に、実際的には見通し環境ではアンテナごとの振幅の偏差は極めて限定的なことが期待され、その場合には全てを同一の振幅と近似しても大きな差はない。そもそも、送受信ウエイトの絶対値には大きな意味はなく、有限の量子化ビット数の中で効率的な値となる様に別途最適化される必要はあるが、その様な量子化ビット数に係る議論は本発明の関連技術とは全く別の議論であり、既存の技術の中で最適化を図れば良い。その意味で、送受信ウエイトベクトルのベクトルとしての大きさ(絶対値)はここでは特別な意味は持たず、任意の係数を乗算した送受信ウエイトベクトルもその統計的な性質は保存されるものとしてここでは説明を行っている。
以上の相対チャネル情報を用いることで、本発明の関連技術では各種信号処理を簡易化することができる。一方、従来のMIMO伝送技術では、例えば受信ウエイト行列の乗算処理が直接的に信号検出に適した状態に変換する処理までを含むものとして説明されることが多かった。つまり、SISOの信号であっても信号検出処理のためには、受信信号をチャネル推定結果で除算し、チャネルの歪を受けた受信信号からI、Q軸を正しく設定したコンスタレーション上の信号点に変換する必要があった。本発明の関連技術において、第1の信号処理部で行う送受信ウエイトの乗算処理とは、あくまでも指向性利得の確保と大雑把な信号分離のための信号処理を主なる目的としており、この様に送受信ウエイトの乗算により多数のアンテナ素子をあたかも1本の仮想的アンテナ素子として扱うことを可能とするだけで、受信信号をチャネル推定結果で除算し、チャネルの歪を受けた受信信号からI、Q軸を正しく設定したコンスタレーション上の信号点に変換する処理までは含んでいない。しかし、受信側においてはその後段において、信号検出などの処理を行うことも可能であり、これらの処理は従来のMIMO伝送ないしはSISO伝送で行う信号処理と同一の信号処理を適用することが可能である。特に基地局装置の受信系では、第2の信号処理回路において、これらの処理が実施されることになる。
また、送信局側の異なるアンテナ素子から、限定的なサブキャリア成分より構成されるトレーニング信号を、各アンテナ素子で割り当てられるサブキャリアの重複を避けて送信する場合、周波数軸上での重複がない核トレーニング信号は空間上で合成されて、受信局側ではより多くのサブキャリア成分を含むトレーニング信号として受信されることになる。この意味で、受信局側では送信側の各アンテナ素子で送信したトレーニング信号とは異なるが、空間上で合成されたトレーニング信号(「合成トレーニング信号」と呼ぶ)をあたかも通常のトレーニング信号と見なして信号処理を行うことが可能になる。この様な合成トレーニング信号の利用に際しても、チャネル情報を基準となるアンテナ素子との相対値である相対チャネル情報に変換して利用することが有効である。
また以上の説明においては、簡単のためサブキャリアを表すk(例えば第k周波数成分等)を省略したり、更には個別のサブキャリアに関する説明も省略されているところがあるが、本発明の関連技術の想定するシステムは広帯域のシステムであり、チャネル情報や送受信ウエイト、更には送信信号や受信信号などにおける全ての信号処理は、時間軸上での信号処理などを除き、基本的には周波数軸上でサブキャリアごとに個別に規定され処理されるべきものである。したがって、説明を簡略化する上で、多くの説明においてサブキャリアを明示的に表す添え字を省略して説明していた。しかし、これらの説明は、実際にはサブキャリアごとに個別に行われるものであり、その際にはサブキャリアを表す添え字を付加して理解すれば説明を厳密に解釈可能である。各信号処理回路の内部では、例えば送信側におけるIFFT処理の前段までの信号処理(一例としてOFDM変調方式を想定すれば、ビット列のインタリーブ処理、信号点のマッピング、信号の変調処理、送信ウエイトベクトルの乗算などを含む)は全てサブキャリアごとに行われるものであり、同様に受信側におけるFFT処理後の信号処理(同じくOFDM変調方式を想定すれば、受信ウエイトの乗算、信号検出処理、信号のデマッピング、デインタリーブ処理など)も全てサブキャリアごとに行われるものである。
また回路構成上は、それぞれのサブキャリアごとに個別の回路を備えてもよいし、同一の処理を実施することからサブキャリアごとにシリアルに順番に処理を行い、回路をサブキャリアに対して共用化することも可能である。更には、この中間的に、複数の回路を用意して、サブキャリアを適宜分割し、複数の回路でパラレルな処理をシリアルに実施する処理としても構わない。これらは全ての関連技術に共通する話である。
また、OFDM変調方式では全てのサブキャリアが同一の端末局装置との通信に利用されているので、その際の送受信ウエイト(平均化送受信ウエイトベクトル及びリアルタイム送受信ウエイト行列)は全サブキャリアで共通の組み合わせの端末局装置に対する送受信ウエイトを用いることになる。しかし、OFDMAでは、時間軸及び周波数軸上にパッチワーク状に異なる組み合わせの端末局装置への割り当てを寄せ集めているため、時間(OFDMシンボル)及び周波数(サブキャリア)ごとに、割り当てられている端末局装置に対する送受信ウエイトを用いる必要がある。しかし、その差を除けばOFDMとOFDMAとは全く同様に処理することが可能であり、本明細書ではOFDMを中心に説明を行ったが、OFDMAにおいても全く同様に本発明の実施形態を適用することができる。
また、SC−FDEに関しても様々な運用上のバリエーションが存在するが、送信側で送信ウエイトベクトルを乗算し、各アンテナ素子から送信された信号が空間上で合成された後の受信信号処理、及び受信側で受信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子の信号が加算合成された後の受信信号処理のいずれにおいても、上述の各構成例では従来のSC−FDEで行われる処理をそのまま適用可能とする構成としているために、全てのバリエーションのSC−FDEに適用可能である。この場合には、OFDM変調方式の信号処理の代わりにシングルキャリアでの信号処理を行った後、ダウンリンクであればシングルキャリアの時間軸上の信号に対してFFT処理を施すことで各サブキャリアの信号成分を生成し、これらの信号成分をOFDM変調方式で生成される各サブキャリアの信号と見なして本発明の関連技術により生成された送信ウエイトベクトルを乗算すれば良い。同様にアップリンクであれば、受信信号をFFT処理した信号をOFDM変調方式の場合と同様に扱い、本発明により生成された受信ウエイトベクトルを乗算することで信号分離するが、その信号分離されたサブキャリアの信号に対してIFFT処理を施すことで時間軸上のシングルキャリアの信号に変換すれば良い。この様に一部の信号処理にOFDM変調方式とSC−FDEでは差異があるが、送受信ウエイトの生成と乗算処理などは共通であり、これらどちらの信号方式であっても本発明の実施形態は適用可能である。
また、空間多重伝送では複数系列の信号がパラレル伝送されるが、これらの信号系列に対して行う誤り訂正などの処理は、上述の関連技術ではそれぞれの信号系列ごとに独立に施す場合を例に取って説明したが、当然ながら送信側において誤り訂正符号化後の信号をシリアル/パラレル変換して空間多重する信号系列に分離し、受信側においては誤り訂正処理を行う前の状態の信号に対してパラレル/シリアル変換を施し、その後に1系統のビタビ復号などの誤り訂正処理を施しても構わない。更にはその他のバリエーションも含めて本発明の関連技術の本質とは関係なく、任意の誤り訂正処理を行っても構わない。この場合、MAC層処理回路と第2の信号処理部などとの信号の交換は空間多重数系統にて行われるのではなく、例えば1系統の信号として情報交換が行われたりすると共に、シリアル/パラレル変換及びパラレル/シリアル変換や、誤り訂正に対応する機能などが第2の信号処理部などに含まれることになる。
また、上記の説明では特異値分解の右特異ベクトルを活用する旨説明をしたが、特異値分解対象の行列を転置した行列を特異値分解した左特異ベクトルは、転置しない行列に対する特異値分解の右特異ベクトルと等価である。同様に、元のチャネルベクトルにエルミート共役のベクトルを乗算して固有値分解を行っても、右特異ベクトルないしは左特異ベクトルと等価なベクトルを求めることができる。この意味で「右特異ベクトル」に数学的に等価なベクトルを活用する場合も、本発明の関連技術の意図する「右特異ベクトル」の範囲となる。同様に、左特異ベクトルに数学的に等価なベクトルを活用する場合も、本発明の関連技術の意図する「左特異ベクトル」の範囲となる。
更に、上記の説明では基地局側の各第1の信号処理部と端末局装置との間では、第1特異値に対応する仮想的伝送路のみを利用し、第2特異値以降の特異値に対応する仮想的伝送路は利用しないとして説明したが、例えばV偏波とH偏波などの複数の偏波に関する共用アンテナを利用する場合などは、一つの第1の信号処理部においてそれぞれの偏波アンテナにおいて第1特異値に対応する仮想的伝送路を活用することになるため、形式上は一つの第1の信号処理部において二つの特異値に対応する仮想的伝送路を活用していることに相当する。特に、若干の偏波間の漏れ込みが存在する場合には、2種類の偏波アンテナの全てを第1の信号処理部が一括で収容及び信号処理することで偏波間のクロストーク成分を抑圧することが可能になり、即ち第1特異値と第2特異値に対応する仮想的伝送路を利用することが伝送効率的には優れることになる。この場合、数学的な表現上は第1特異値と第2特異値を活用することに相当するが、実効上は、各偏波アンテナ群ごとに第1特異値に対応した仮想的伝送路を利用することに相当する。本発明の意図するところは、この様な偏波アンテナを活用する場合の様に相互に相関が非常に低いことが予想される複数のアンテナ群を利用する場合においては、信号処理的ないしは回路的には同一の第1の信号処理部にて活用する場合でも、それぞれのアンテナ群に対して実効的に対応する第1特異値に対応する仮想的伝送路を並列的に活用する場合を含め、実効的な意味での第1特異値に対応する仮想的伝送路を活用した空間多重伝送を複数の第1の信号処理部を用いて伝送するところにある。また、基地局装置が備える複数の第1の信号処理部においては、それぞれ個別のローカル発振器信号を用いてベースバンドと無線周波数間のアップコンバート及びダウンコンバート処理を行うことを基本とする。ただし、それぞれのローカル発振器の信号は可能な限り準同期的に振る舞うことが好ましく、このために共通の基準クロックなどの基準信号を第3の信号処理部から供給しても構わない。ないしは、第2の信号処理部から中間周波数の基準信号を第1の信号処理部に供給し、それを例えば逓倍処理することでベースバンドと無線周波数間のアップコンバート及びダウンコンバートを行うための無線周波数の信号を生成することも可能である。ここで用いる中間周波数の値、及び逓倍処理を行う回路の安定性次第では、送信信号処理においても複数の第1の信号処理部間の無線信号の複素位相の不確定性が限定的である場合もあり、この場合には第2の信号処理部における複数の第1の信号処理部間のプリコーディング処理を実施することも可能になる。しかし、基本的には少なくとも第2の信号処理部から複数の第1の信号処理部に供給される基準信号は、第2の信号処理部における複数の第1の信号処理部間のケーブル上での損失を低減するために、ベースバンドと無線周波数間のアップコンバート及びダウンコンバート処理に用いるローカル信号の周波数の1/2以下とすることが基本となり、この意味でローカル発振器は複数の第1の信号処理部間で独立となる。ただし、基地局装置と端末局装置が近距離で配置される場合には、式(18)のLが小さくなり、結果的に第1の信号処理部間の間隔を短縮することが可能であり、ケーブル損失の値次第では、第2の信号処理部からローカル発振器の信号を複数の第1の信号処理部に対して直接供給する構成とすることも可能である。
また、以上の説明においては送受信信号と送受信ウエイトの乗算処理はベースバンド上で行うこととして説明を行ったが、それは典型的な信号処理を示すものであり、それと等価な信号処理をベースバンド信号と無線周波数のRF信号の間の中間的なIF(Intermediate Frequency)信号上で実施することも当然ながら可能である。信号処理的にはより低い周波数帯で処理を行う方が簡易ではあるが、第5世代移動通信ではミリ波帯などの高周波数帯で、数百から1GHzもの帯域幅で通信を行うため、中心周波数を数GHzのIF帯で処理を行っても処理の困難さは大きく変わらない。本明細書におけるベースバンド信号ないしはベースバンド帯とは、デジタル信号処理を行うことが可能な周波数帯という広義の意味で用いており、この意味では狭義の意味でのベースバンド帯とは異なるIF帯での信号処理であっても、本質的に本発明を適用することは可能であり、本発明の請求の範囲はこの様な広義のベースバンド信号、ベースバンド帯を含むものである。
また、本発明では無線局装置が備えるアンテナ素子の数が膨大であるために、その内の例えば若干の本数のアンテナ素子を例外的な信号処理の対象としても、残りの大多数のアンテナ素子の効果により概ね期待する特性を得ることが可能である。しかし、この様な一部のアンテナ素子を例外的に処理したとしても、大勢的には残りのアンテナ素子を用いた信号処理の結果が特性の大勢を決めることになるため、この様な一部の例外処理の適用を行ったとしても、その例外適用による拡張効果が得られることなく寧ろ効果が制限されるのであれば、本発明の請求の範囲とするべきである。
前述した関連技術における基地局装置、端末局装置をコンピュータで実現する様にしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。更に「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線の様に、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリの様に、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、更に前述した機能をコンピュータシステムに既に記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、PLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されるものであってもよい。
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明してきたが、上記実施の形態は本発明の例示に過ぎず、本発明が上記実施の形態に限定されるものではないことは明らかである。したがって、本発明の技術思想及び範囲を逸脱しない範囲で構成要素の追加、省略、置換、その他の変更を行ってもよい。