JP6511573B1 - 転がり軸受の異常診断方法及び異常診断装置、異常診断プログラム - Google Patents
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基本周波数だけ離れた2つの特徴周波数の振動の大きさがともに大きい場合、測定される振動の波形を見ると、基本周波数で振幅が変動しているように解釈することも可能である。よって、測定された振動の波形に対してエンベロープ処理をしたのちに周波数分析をすることで、振幅の変動の度合いを定量化し、診断する手法が知られている。
例えば特許文献1では、振動もしくは音響を測定してエンベロープ処理および周波数分析し、基本周波数成分の振動の大きさを全スペクトル成分の積分値であるオーバーオール値で除算して得られた算出値の大小によって異常の有無の判定を行う手法が示されている。
特許文献2では、振動を測定してエンベロープ処理および周波数分析し、特徴周波数成分の値を、打撃試験により予め測定した振動応答のレベル差や回転周波数を考慮した特徴周波数ごとに個別に設定されるしきい値と比較して診断する手法が示されている。
工作機械の主軸のような複雑な振動モードを持つ回転体に対して診断を実施する場合、エンベロープ処理をしたとしても回転体の回転周波数を1割変化させて特徴周波数が1割変化しただけであっても特徴周波数の振動の大きさは数倍変わってしまうことがある。これは、伝達関数の大きさが周波数毎に大きく異なるためである。エンベロープ処理は、伝達関数の大きさがそれぞれの周波数において異なることを考慮せず、複数の周波数の振動を一括して捉える処理である。複数の周波数の情報が不可逆に混ざり合ってしまう処理手法であるため、エンベロープ処理後に伝達関数の大きさを考慮した処理を行うことは理論上不可能である。
また、特許文献2で提案されているような、エンベロープ処理後の特徴周波数の振動の大きさに対する、伝達関数や回転周波数の影響を考慮したしきい値というのは、伝達関数や回転周波数から合理的に決定することはできないといった課題がある。
このため、一般に市販されている軸受診断装置では、異常と判断するしきい値の設定が使用者に任されており、容易に異常診断に用いることができないか、異常と判断するしきい値をもっているが測定を実施する回転周波数をわずかに変えるだけであっても判定結果が大きく変わってしまい、本当に異常であるのか判断できないという課題がある。
一方、回転周波数によって軸受異常により生じる力の大きさが変化する種類の異常の場合には、回転周波数の影響も考慮しなければ適切な診断ができないという課題がある。
前記回転体の複数の回転周波数における前記回転体の振動を測定する振動測定ステップと、
前記振動を振動測定時の前記回転体の回転周波数と比例関係にある所定の物理量の零より大きい指数のべき乗で除すと共に周波数分析して、周波数毎の振動の大きさを算出する周波数分析ステップと、
前記振動測定ステップでの振動測定時の前記回転体の回転周波数に対する周波数の比が同一な前記振動の大きさについて平均をとった振動平均値を算出する振動平均値算出ステップと、
前記振動平均値のうち、前記軸受に起因する振動が生じる周波数の前記回転周波数に対する比である特徴比周波数における軸受起因振動値を抽出する軸受起因振動値抽出ステップと、
前記軸受起因振動値に基づき評価指標を算出する評価指標算出ステップと、
前記評価指標に基づいて異常の有無を判断する判断ステップと、を実行することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、前記振動平均値算出ステップでは、前記回転周波数、前記回転周波数の逆数、前記回転周波数の対数のいずれか1つが等間隔となるような前記回転周波数の組み合わせにおいて測定された前記振動の大きさを用いて前記振動平均値を算出することを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の構成において、前記振動測定ステップでは、前記回転周波数が同一の組み合わせの振動測定を複数回行い、
前記評価指標算出ステップでは、前記軸受起因振動値の変化の度合いに基づいて前記評価指標を算出することを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の構成において、前記振動平均値算出ステップでは、振動の周波数が既定した範囲内である振動の大きさのみを用いて平均を取ることを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項5に記載の発明は、回転体を支持する転がり軸受の異常を診断する装置であって、
前記回転体の複数の回転周波数における前記回転体の振動を測定する振動測定手段と、
前記振動を振動測定時の前記回転体の回転周波数と比例関係にある所定の物理量の零より大きい指数のべき乗で除すと共に周波数分析して、周波数毎の振動の大きさを算出する周波数分析手段と、
前記振動測定手段での振動測定時の前記回転体の回転周波数に対する周波数の比が同一な前記振動の大きさについて平均をとった振動平均値を算出する振動平均値算出手段と、
前記振動平均値のうち、前記軸受に起因する振動が生じる周波数の前記回転周波数に対する比である特徴比周波数における軸受起因振動値を抽出する軸受起因振動値抽出手段と、
前記軸受起因振動値に基づき評価指標を算出する評価指標算出手段と、
前記評価指標に基づいて異常の有無を判断する判断手段と、を備えることを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項6に記載の発明は、回転体を支持する転がり軸受の異常を診断するプログラムであって、複数の回転周波数でそれぞれ測定された回転体の振動が各回転周波数と共に入力されたコンピュータに、請求項1乃至4の何れかに記載の転がり軸受の異常診断方法における周波数分析ステップと、振動平均値算出ステップと、軸受起因振動値抽出ステップと、評価指標算出ステップと、判断ステップとを実行させることを特徴とする。
請求項2に記載の発明によれば、上記効果に加えて、伝達関数の大きさの機台ばらつき、および、伝達関数の大きさの比周波数毎のばらつきの低減効果が向上する。
請求項3に記載の発明によれば、上記効果に加えて、評価指標の値が伝達関数の大きさの値に依存しない値となるため、異なる構造の回転体の診断をする場合や異なる振動センサ位置で測定する場合でも同一のしきい値を用いた診断が可能となる。
請求項4に記載の発明によれば、上記効果に加えて、伝達関数の大きさの機台ばらつき、および、伝達関数の大きさの比周波数毎のばらつきの低減効果がさらに向上する。
図1は転がり軸受の異常診断装置を工作機械の主軸に対して適用した場合の構成を示した機能ブロック図で、この図に基づいて具体的に説明する。
主軸1は、転がり軸受である軸受7を介して主軸ハウジング2に対して回転可能に取り付けられており、加工を行うための工具3が固定されている。モータ4は主軸1を駆動する。モータ4には速度検出器5が設けられて、測定されたモータ4の回転周波数が制御装置6に入力されるようになっている。制御装置6は、加工時には、速度検出器5で測定されたモータ4の回転周波数を指令回転周波数に保つようにモータ4へ供給する電流の制御を行っている。
但し、ここで用いた伝達関数は、軸受異常による加振力から振動センサ8の位置における振動への伝達関数ではなく、軸受近傍を加振した際の振動センサ8の位置における振動を測定することで得られた伝達関数を代用している。ここで、軸受近傍とは、有限要素解析などにより求めた、振動センサ8の位置に加振した際に、軸受異常による加振力の発生位置と振動の方向・大きさが少なくともある周波数範囲において、同じと見なせる位置のことを表している。伝達関数の入力と出力を入れ替えても同じとなる相反定理により、ある周波数範囲においては軸受近傍を加振して得られる伝達関数は、軸受異常による加振力から振動センサ8の位置における振動への伝達関数として代用することが可能である。
なお、複数の回転周波数で測定する場合、回転周波数によって変化する特徴周波数では議論がしにくいため、特徴周波数を回転周波数で割った値(特徴比周波数)で論じる。内輪傷のN次の低い側の特徴比周波数kI,N−、内輪傷のN次の高い側の特徴比周波数kI,N+は、以下の数3、数4のようにそれぞれ求めることができる。
そこで、数8を用いて、数7の特徴比周波数kにおける振動の大きさA(k、fROT)を修正振動値A*(k、fROT)に置き換えると、以下の数9となる。
軸受の損傷度合いに依存し回転周波数に依存しない定数F*は、数9、数10のいずれであっても同じであり、軸受の損傷度合いに依存し回転周波数に依存しない定数F*にかかる比例係数の機台ばらつきが小さいため、数9の左辺の値(修正振動値)によって評価指標を算出するよりも、修正振動値の平均(数10左辺の値)によって評価指標を算出する方が高い診断精度となる。伝達関数の大きさの平均の機台ばらつきに比べれば、正常時と異常時で振動の大きさの差異が十分大きいため、同一機種のデータを十分数集めることで修正振動値の平均(数10左辺の値)から算出した評価指標に対するしきい値の設定は容易である。
ここでの振動の成長率Rは、軸受1回転あたりの振動の平均に対する振動の増加量の比として算出する事例を示したが、2回の測定における振動の平均値の比、軸受の回転回数M、基準の軸受の回転回数M0を使った以下の式15など別の定義式を用いることも可能である。
まず、S1で、主軸1の回転周波数を振動を測定する回転周波数に変更し、S2で、振動センサ8によって振動加速度を測定し記憶する(S1,S2:振動測定ステップ)。
次に、S3で、振動測定時の回転周波数と振動加速度とにより修正振動値を算出し、S4で、修正振動値のフーリエ変換を行い、周波数が既定範囲内である修正振動値について比周波数毎の振幅を記録する(S3,S4:周波数分析ステップ)。
そして、S5で、既定された全ての振動を測定する複数の回転周波数における振動測定が終了しているか否かを判別し、振動測定が終了していればS6へ移行し、終了していなければS1へ戻ってS4までの処理を繰り返す。
なお、ここで振動を測定する複数の回転周波数は、回転周波数、回転周波数の逆数、回転周波数の対数の何れか1つが等間隔となるような回転周波数の組み合わせとするのが望ましい。このような回転周波数の組み合わせで測定された振動の大きさを用いて振動平均値を算出すれば、伝達関数の大きさの機台ばらつき、および、伝達関数の大きさの比周波数毎のばらつきの低減効果が向上する。
次に、S8では、診断を行う責任者が予め選択して設定した振動の成長率(軸受起因振動値の変化の度合い)によって診断するか否かを判断する。ここで振動の成長率によって診断する場合はS9へ移行し、振動の成長率によって診断しない場合はS11へ移行する。
振動の成長率によって診断する場合、S9では、全ての振動を測定する回転周波数における振動測定が2回繰り返されたか否かを判断する。ここで当該振動測定が2回繰り返された場合は、S11へ移行する。一方、当該振動測定が2回繰り返されていない場合は、S10へ移行し、予め設定された時間又は回数だけ軸受7が回転するまで慣らし運転を実施し、S1へ移行する。
また、振動平均値算出ステップでは、振動の周波数が既定した範囲内である振動の大きさのみを用いて平均を取るようにしているので、伝達関数の大きさの機台ばらつき、および、伝達関数の大きさの比周波数毎のばらつきの低減効果がさらに向上する。
また、角速度の2乗で除算する計算は定数のスカラー量で除算するだけの処理であるため、上記形態の周波数分析ステップでは、周波数分析の前に修正振動値を算出する例となっているが、振動平均値算出ステップを開始するまでであれば計算結果に影響しないため、例えばフーリエ変換して周波数領域での加速度を算出した後、角速度の2乗で除算する等、どのタイミングで行ってもよい。
一方、軸受起因振動値から評価指標を算出する場合は、各特徴比周波数の軸受起因振動値の平均値を採用しても良いし、各特徴比周波数の振動の成長率を求めてそれらの最大値や平均値としても良い。さらに、軸受起因振動値以外の振動平均値の値も参照した複雑な関数等によって決定してもよい。
また、工作機械以外の機械に用いられる転がり軸受であっても本発明は適用可能である。
さらに、異常診断装置としては工作機械に組み込む形態の他、少なくとも記憶部と演算部と表示部とを工作機械とは別の装置として工作機械と有線又は無線で通信可能とし、工作機械側で振動を測定してデータを取得しつつ、異常診断プログラムに基づいて異常診断方法を実行するようにしてもよい。このようにすれば複数の工作機械に対して集中管理が行える。
Claims (6)
- 回転体を支持する転がり軸受の異常を診断する方法であって、
前記回転体の複数の回転周波数における前記回転体の振動を測定する振動測定ステップと、
前記振動を振動測定時の前記回転体の回転周波数と比例関係にある所定の物理量の零より大きい指数のべき乗で除すと共に周波数分析して、周波数毎の振動の大きさを算出する周波数分析ステップと、
前記振動測定ステップでの振動測定時の前記回転体の回転周波数に対する周波数の比が同一な前記振動の大きさについて平均をとった振動平均値を算出する振動平均値算出ステップと、
前記振動平均値のうち、前記軸受に起因する振動が生じる周波数の回転周波数に対する比である特徴比周波数における軸受起因振動値を抽出する軸受起因振動値抽出ステップと、
前記軸受起因振動値に基づき評価指標を算出する評価指標算出ステップと、
前記評価指標に基づいて異常の有無を判断する判断ステップと、を実行することを特徴とする転がり軸受の異常診断方法。 - 前記振動平均値算出ステップでは、前記回転周波数、前記回転周波数の逆数、前記回転周波数の対数のいずれか1つが等間隔となるような前記回転周波数の組み合わせにおいて測定された前記振動の大きさを用いて前記振動平均値を算出することを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受の異常診断方法。
- 前記振動測定ステップでは、前記回転周波数が同一の組み合わせの振動測定を複数回行い、
前記評価指標算出ステップでは、前記軸受起因振動値の変化の度合いに基づいて前記評価指標を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の転がり軸受の異常診断方法。 - 前記振動平均値算出ステップでは、振動の周波数が既定した範囲内である振動の大きさのみを用いて平均を取ることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の転がり軸受の異常診断方法。
- 回転体を支持する転がり軸受の異常を診断する装置であって、
前記回転体の複数の回転周波数における前記回転体の振動を測定する振動測定手段と、
前記振動を振動測定時の前記回転体の回転周波数と比例関係にある所定の物理量の零より大きい指数のべき乗で除すと共に周波数分析して、周波数毎の振動の大きさを算出する周波数分析手段と、
前記振動測定手段での振動測定時の前記回転体の回転周波数に対する周波数の比が同一な前記振動の大きさについて平均をとった振動平均値を算出する振動平均値算出手段と、
前記振動平均値のうち、前記軸受に起因する振動が生じる周波数の回転周波数に対する比である特徴比周波数における軸受起因振動値を抽出する軸受起因振動値抽出手段と、
前記軸受起因振動値に基づき評価指標を算出する評価指標算出手段と、
前記評価指標に基づいて異常の有無を判断する判断手段と、を備えることを特徴とする転がり軸受の異常診断装置。 - 複数の回転周波数でそれぞれ測定された回転体の振動が各前記回転周波数と共に入力されたコンピュータに、請求項1乃至4の何れかに記載の転がり軸受の異常診断方法における周波数分析ステップと、振動平均値算出ステップと、軸受起因振動値抽出ステップと、評価指標算出ステップと、判断ステップとを実行させることを特徴とする転がり軸受の異常診断プログラム。
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