以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明においては便宜上、図示の状態を基準に各構造の位置関係を上下と表現することがある。
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る制御弁の構成を示す断面図である。
制御弁1は、自動車用空調装置の冷凍サイクルに設置される対象装置としての図示しない可変容量圧縮機(単に「圧縮機」という)の吐出容量を制御する電磁弁として構成されている。この圧縮機は、冷凍サイクルを流れる冷媒を圧縮して高温・高圧のガス冷媒にして吐出する。そのガス冷媒は凝縮器(外部熱交換器)にて凝縮され、さらに膨張装置により断熱膨張されて低温・低圧の霧状の冷媒となる。この低温・低圧の冷媒が蒸発器にて蒸発し、その蒸発潜熱により車室内空気を冷却する。蒸発器で蒸発された冷媒は、再び圧縮機へと戻されて冷凍サイクルを循環する。圧縮機は、自動車のエンジンによって回転駆動される回転軸を有し、その回転軸に取り付けられた揺動板に圧縮用のピストンが連結されている。その揺動板の角度を変化させてピストンのストロークを変えることにより、冷媒の吐出量が調整される。制御弁1は、その圧縮機の吐出室から制御室へ導入する冷媒流量を制御することで揺動板の角度、ひいてはその圧縮機の吐出容量を変化させる。なお、本実施形態の制御室はクランク室からなるが、変形例においてはクランク室内又はクランク室外に別途設けられた圧力室であってもよい。
制御弁1は、圧縮機の吸入圧力Ps(「被感知圧力」に該当する)を設定圧力に保つように、吐出室から制御室に導入する冷媒流量を制御するいわゆるPs感知弁として構成されている。制御弁1は、弁本体2とソレノイド3とを一体に組み付けて構成される。弁本体2は、圧縮機の運転時に吐出冷媒の一部を制御室へ導入するための冷媒通路を開閉する主弁と、圧縮機の起動時に制御室の冷媒を吸入室へ逃がすいわゆるブリード弁として機能する副弁とを含む。ソレノイド3は、主弁を開閉方向に駆動してその開度を調整し、制御室へ導入する冷媒流量を制御する。弁本体2は、段付円筒状のボディ5、ボディ5の内部に設けられた主弁および副弁、主弁の開度を調整するためにソレノイド力に対抗する力を発生するパワーエレメント6等を備えている。パワーエレメント6は、「感圧部」として機能する。
ボディ5には、その上端側からポート12,14,16が設けられている。ポート12は「吸入室連通ポート」として機能し、圧縮機の吸入室に連通する。ポート14は「制御室連通ポート」として機能し、圧縮機の制御室に連通する。ポート16は「吐出室連通ポート」として機能し、圧縮機の吐出室に連通する。ボディ5の上端開口部を閉じるように端部材13が固定されている。ボディ5の下端部はソレノイド3の上端部に連結されている。
ボディ5内には、ポート16とポート14とを連通させる内部通路である主通路と、ポート14とポート12とを連通させる内部通路である副通路とが形成されている。主通路には主弁が設けられ、副通路には副弁が設けられる。すなわち、制御弁1は、一端側からパワーエレメント6、副弁、主弁、ソレノイド3が順に配置される構成を有する。主通路には主弁孔20と主弁座22が設けられる。副通路には副弁孔32と副弁座34が設けられる。
ポート12は、ボディ5の上部に区画された作動室23と吸入室とを連通させる。パワーエレメント6は、作動室23に配置されている。ポート16は、吐出室から吐出圧力Pdの冷媒を導入する。ポート16と主弁孔20との間には主弁室24が設けられ、主弁が配置されている。ポート14は、圧縮機の定常動作時に主弁を経由して制御圧力Pcとなった冷媒を制御室へ向けて導出する一方、圧縮機の起動時には制御室から排出された制御圧力Pcの冷媒を導入する。ポート14と主弁孔20との間には副弁室26が設けられ、副弁が配置されている。副弁室26は「容量室」として機能する。ポート12は、圧縮機の定常動作時に吸入圧力Psの冷媒を導入する一方、圧縮機の起動時には副弁を経由して吸入圧力Psとなった冷媒を吸入室へ向けて導出する。
すなわち、主弁の開弁時には、ポート16が吐出室からの冷媒を導入するための「導入ポート」として機能するとともに、ポート14が制御室へ向けて冷媒を導出するための「導出ポート」として機能する。一方、副弁の開弁時には、ポート14が制御室からの冷媒を導入するための「導入ポート」として機能するとともに、ポート12が吸入室へ向けて冷媒を導出するための「導出ポート」として機能する。ポート14は、主弁および副弁の開閉状態に応じて冷媒を導入又は導出する「導入出ポート」として機能する。
主弁室24と副弁室26との間に主弁孔20が設けられ、その下端開口端部に主弁座22が形成されている。ポート14と作動室23との間にはガイド孔25が設けられている。ボディ5の下部(主弁室24の主弁孔20とは反対側)にはガイド孔27が設けられている。ガイド孔27には、段付円筒状の弁駆動体29が摺動可能に挿通されている。
弁駆動体29の上半部が縮径し、主弁孔20を貫通しつつ内外を区画する区画部33となっている。弁駆動体29の中間部に形成された段部が、主弁座22に着脱して主弁を開閉する主弁体30となっている。主弁体30が主弁室24側から主弁座22に着脱することにより主弁を開閉し、吐出室から制御室へ流れる冷媒流量を調整する。区画部33の上部が上方に向かってテーパ状に拡径し、その上端開口部に副弁座34が構成されている。副弁座34は、弁駆動体29と共に変位する可動弁座として機能する。なお、本実施形態では、弁駆動体29と主弁体30とを区別しているが、弁駆動体29を「主弁体」として捉えてもよい。
一方、ガイド孔25には、円筒状の副弁体36が摺動可能に挿通されている。副弁体36の内部通路が副弁孔32となっている。この内部通路は、副弁の開弁により副弁室26と作動室23とを連通させる。副弁体36と副弁座34とは軸線方向に対向配置されている。副弁体36が副弁室26にて副弁座34に着脱することにより副弁を開閉する。
また、ボディ5の軸線に沿って長尺状の作動ロッド38が設けられている。作動ロッド38の上端部は、副弁体36を貫通してパワーエレメント6と作動連結可能に接続される。作動ロッド38の下端部は、ソレノイド3の後述するプランジャ50に連結されている。作動ロッド38の上半部は弁駆動体29を貫通し、その上部が縮径されている。その縮径部には副弁体36が外挿され、圧入により固定されている。その縮径部の先端がパワーエレメント6に接続されている。
作動ロッド38の軸線方向中間部にはリング状のばね受け40が嵌着され、支持されている。弁駆動体29とばね受け40との間には、弁駆動体29を主弁および副弁の閉弁方向に付勢するスプリング42(「第2の付勢部材」として機能する)が介装されている。主弁の制御時には、スプリング42の弾性力によって弁駆動体29とばね受け40とが突っ張った状態となり、主弁体30と作動ロッド38とが一体に動作する。
パワーエレメント6は、吸入圧力Psを感知して変位するベローズ45を含み、そのベローズ45の変位によりソレノイド力に対抗する力を発生させる。この対抗力は、作動ロッド38および副弁体36を介して主弁体30にも伝達される。副弁体36が副弁座34に着座して副弁を閉じることにより、制御室から吸入室への冷媒のリリーフが遮断される。また、副弁体36が副弁座34から離間して副弁を開くことにより、制御室から吸入室への冷媒のリリーフが許容される。
一方、ソレノイド3は、段付円筒状のコア46と、コア46の下端開口部を封止するように組み付けられた有底円筒状のスリーブ48と、スリーブ48に収容されてコア46と軸線方向に対向配置された段付円筒状のプランジャ50と、コア46およびスリーブ48に外挿された円筒状のボビン52と、ボビン52に巻回され、通電により磁気回路を生成する電磁コイル54と、電磁コイル54を外方から覆うように設けられる円筒状のケース56と、ケース56の下端開口部を封止するように設けられた端部材58と、ボビン52の下方にて端部材58に埋設された磁性材料からなるカラー60を備える。なお、コア46、ケース56およびカラー60がヨークを構成する。また、ボディ5、端部材13、コア46、ケース56および端部材58が制御弁1全体のボディを形成している。
弁本体2とソレノイド3とは、ボディ5の下端部がコア46の上端開口部に圧入されることにより固定されている。コア46と弁駆動体29との間には作動室28が形成されている。一方、コア46の中央を軸線方向に貫通するように、作動ロッド38が挿通されている。作動室28は、弁駆動体29および副弁体36のそれぞれの内部通路を介して作動室23に連通する。このため、作動室28には作動室23の吸入圧力Psが導入される。この吸入圧力Psは、作動ロッド38とコア46との間隙により形成される連通路62を通ってスリーブ48の内部にも導かれる。
コア46とプランジャ50との間には、両者を互いに離間させる方向に付勢するスプリング44(「第1の付勢部材」として機能する)が介装されている。スプリング44は、ソレノイド3のオフ時に主弁を開弁させるいわゆるオフばねとして機能する。作動ロッド38は、副弁体36およびプランジャ50のそれぞれに対して同軸状に接続されている。作動ロッド38は、その上部が副弁体36に圧入され、下端部がプランジャ50の上部に圧入されている。これら作動ロッド38、副弁体36およびプランジャ50は、主弁の制御時において弁駆動体29と一体変位する「可動部材」を構成する。
作動ロッド38は、コア46とプランジャ50との吸引力であるソレノイド力を、主弁体30および副弁体36に適宜伝達する。一方、作動ロッド38には、パワーエレメント6の伸縮作動による駆動力(「感圧駆動力」ともいう)がソレノイド力と対抗するように負荷される。すなわち、主弁の制御状態においては、ソレノイド力と感圧駆動力とにより調整された力が主弁体30に作用し、主弁の開度を適切に制御する。圧縮機の起動時には、ソレノイド力の大きさに応じて作動ロッド38がスプリング44の付勢力に抗してボディ5に対して相対変位し、主弁を閉じた後に副弁体36を押し上げて副弁を開弁させる。また、主弁の制御中であっても、吸入圧力Psが相当高まると、作動ロッド38がベローズ45の付勢力に抗してボディ5に対して相対変位し、主弁を閉じた後に副弁体36を押し上げて副弁を開弁させる。それによりブリード機能を発揮させる。
スリーブ48は非磁性材料からなる。プランジャ50の側面には軸線に平行な連通溝66が設けられ、プランジャ50の下部には内外を連通する連通孔68が設けられている。このような構成により、図示のようにプランジャ50が下死点に位置しても、吸入圧力Psがプランジャ50とスリーブ48との間隙を通って背圧室70に導かれる。
ボビン52からは電磁コイル54につながる一対の接続端子72が延出し、それぞれ端部材58を貫通して外部に引き出されている。同図には説明の便宜上、その一対の片方のみが表示されている。端部材58は、ケース56に内包されるソレノイド3内の構造物全体を下方から封止するように取り付けられている。端部材58は、耐食性を有する樹脂材のモールド成形(射出成形)により形成され、その樹脂材がケース56と電磁コイル54との間隙にも満たされている。このように樹脂材がケース56と電磁コイル54との間隙に樹脂材を満たすことで、電磁コイル54で発生した熱をケース56に伝達しやすくし、その放熱性能を高めている。端部材58からは接続端子72の先端部が引き出されており、図示しない外部電源に接続される。
図2は、図1の上半部に対応する部分拡大断面図である。
弁駆動体29のガイド孔27との摺動面には、冷媒の流通を抑制するための複数の環状溝からなるラビリンスシール74が設けられている。ばね受け40は、いわゆるEリングからなり、作動ロッド38の中間部に形成された環状溝に嵌合するようにして支持され、作動室28内に配置されている。
弁駆動体29の下半部は内径が拡径されており、スプリング42がその拡径部に収容されるように配置されている。このような構成により、スプリング42と弁駆動体29との当接ポイントが、ガイド孔27における摺動部の中央よりも主弁室24側に位置するため、弁駆動体29がいわゆるやじろべいのような態様でスプリング42に安定に支持される。その結果、主弁体30が開閉駆動されるときのぐらつきによるヒステリシスの発生を防止又は抑制することができる。
副弁体36は、その中央を軸線方向に貫通する挿通孔43を有する。作動ロッド38の上部は、その挿通孔43を貫通してパワーエレメント6まで延在している。副弁体36は、作動ロッド38における縮径部の基端である段部79に係止されることにより、作動ロッド38に対する位置決めがなされている。副弁体36における挿通孔43の周囲には、弁駆動体29の内部通路37と作動室23とを連通させるための複数の内部通路39が形成されている。内部通路39は、挿通孔43と平行に延在し、副弁体36を貫通している。副弁体36のガイド孔25との摺動面にはラビリンスシール75が設けられている。なお、作動ロッド38は、副弁体36が副弁座34に着座した図示の状態においては、ばね受け40の上面が弁駆動体29の下面から少なくとも所定間隔Lをあけて離間するように、段部79の位置が設定されている。所定間隔Lは、いわゆる「遊び」として機能する。
ソレノイド力を大きくすると、作動ロッド38を主弁体30(弁駆動体29)に対して相対変位させて副弁体36を押し上げることもできる。それにより、副弁体36と副弁座34とを離間させて副弁を開くことができる。また、ばね受け40と弁駆動体29とを係合(当接)させた状態でソレノイド力を主弁体30に直接的に伝達することができ、主弁体30を主弁の閉弁方向に大きな力で押圧することができる。この構成は、弁駆動体29とガイド孔27との摺動部への異物の噛み込みにより主弁体30の作動がロックした場合に、それを解除するロック解除機構として機能する。
主弁室24は、ボディ5と同軸状に設けられ、主弁孔20よりも大径の圧力室として構成される。このため、主弁とポート16との間には比較的大きな空間が形成され、主弁を開弁させたときに主通路を流れる冷媒の流量を十分に確保することができる。同様に、副弁室26もボディ5と同軸状に設けられ、主弁孔20よりも大径の圧力室として構成される。このため、副弁とポート14との間にも比較的大きな空間が形成される。そして図示のように、弁駆動体29の上端と副弁体36の下端との着脱部が、副弁室26の中央部に位置するように設定されている。つまり、副弁座34が常に副弁室26に位置するよう主弁体30の可動範囲が設定され、副弁室26にて副弁が開閉されるようになる。このため、副弁を開弁させたときに副通路を流れる冷媒の流量を十分に確保することができる。つまり、ブリード機能を効果的に発揮することができる。
パワーエレメント6は、ベローズ45の上端開口部を第1ストッパ82により閉止し、下端開口部を第2ストッパ84により閉止して構成されている。ベローズ45は「感圧部材」として機能し、第1ストッパ82および第2ストッパ84は、それぞれ「ベース部材」として機能する。第1ストッパ82は、端部材13により同軸状に支持されている。ストッパ82,84は、金属材をプレス成形して有底円筒状に構成されており、その開口端部に半径方向外向きに延出するフランジ部86を有する。ベローズ45は、蛇腹状の本体を有し、その本体の上端開口部が第1ストッパ82のフランジ部86に気密に溶接され、その本体の下端開口部が第2ストッパ84のフランジ部86に気密に溶接されている。ベローズ45の内部は密閉された基準圧力室Sとなっており、ベローズ45の内方には、第1ストッパ82と第2ストッパ84との間に、ベローズ45を伸長方向に付勢するスプリング88が介装されている。基準圧力室Sは、本実施形態では真空状態とされている。
端部材13は、パワーエレメント6の固定端となっている。端部材13の下面中央には、下方に向けて支持部89が突設されている。その支持部89が、第1ストッパ82に同軸状に嵌合し、第1ストッパ82を上方から支持している。支持部89の先端が第1ストッパ82の底部を係止することにより、パワーエレメント6の上方への変位が規制されている。ボディ5への圧入量を調整することにより、パワーエレメント6の設定荷重(スプリング88の設定荷重)を調整できるようにされている。
第1ストッパ82の中央部がベローズ45の内方に向けて下方に延在し、第2ストッパ84の中央部がベローズ45の内方に向けて上方に延在し、それらがベローズ45の軸芯を形成している。作動ロッド38の上端部が第2ストッパ84に嵌合している。ベローズ45は、作動室23の吸入圧力Psと基準圧力室Sの基準圧力との差圧に応じて軸線方向(主弁および副弁の開閉方向)に伸長または収縮する。ベローズ45の変位に応じて主弁体30に開弁方向の駆動力が付与される。その差圧が大きくなっても、ベローズ45が所定量収縮すると、第2ストッパ84が第1ストッパ82に当接して係止されるため、その収縮は規制される。
本実施形態においては、ベローズ45の有効受圧径Aと、主弁体30の主弁における有効受圧径B(シール部径)と、弁駆動体29の摺動部径C(シール部径)と、副弁体36の摺動部径D(シール部径)とが等しく設定されている。なお、ここでいう「等しい」とは、完全に等しい概念はもちろん、ほぼ等しい(実質的に等しい)概念を含むとみなしてよい。このため、弁駆動体29とパワーエレメント6とが作動連結した状態においては、主弁体30と副弁体36との結合体に作用する吐出圧力Pd,制御圧力Pcおよび吸入圧力Psの影響がキャンセルされる。その結果、主弁の制御状態において、主弁体30は、パワーエレメント6が作動室23にて受ける吸入圧力Psに基づいて開閉動作することになる。つまり、制御弁1は、いわゆるPs感知弁として機能する。
本実施形態ではこのように、径B,C,Dを等しくするとともに、弁体(主弁体30および副弁体36)の内部通路を上下に貫通させることで、弁体に作用する圧力(Pd,Pc,Ps)の影響をキャンセルすることができる。つまり、副弁体36,弁駆動体29,作動ロッド38およびプランジャ50の結合体の前後(図では上下)の圧力を同じ圧力(吸入圧力Ps)とすることができ、それにより圧力キャンセルが実現される。これにより、ベローズ45の径に依存することなく各弁体の径を設定することもでき、設計自由度が高い。このため、変形例においては、径B,C,Dを等しくする一方、有効受圧径Aをこれらと異ならせてもよい。すなわち、ベローズ45の有効受圧径Aを、径B,C,Dより小さくしてもよいし、径B,C,Dより大きくしてもよい。
一方、本実施形態では、副弁体36の副弁におけるシール部径Eが、主弁体30の主弁におけるシール部径有効受圧径Bよりも小さくされ、制御圧力Pcと吸入圧力Psとの差圧(Pc−Ps)が弁駆動体29に対して副弁の開弁方向に作用する。このような受圧構造とスプリング42による付勢構造とが、差圧(Pc−Ps)が設定差圧ΔPset以上となったときに副弁を開弁させる「差圧開弁機構」を実現している。
ボディ5の外周面において、ポート12とポート14との間にはOリング92が嵌着され、ポート14とポート16との間にはOリング94が嵌着されている。さらに、コア46の上端近傍の外周面にもOリング96が嵌着されている。これらのOリング92,94,96は、シール機能を有し、制御弁1が圧縮機の取付孔に取り付けられた際に冷媒の漏洩を規制する。
次に、制御弁の動作について説明する。
本実施形態では、ソレノイド3への通電制御にPWM(Pulse Width Modulation )方式が採用される。このPWM制御は、所定のデューティ比に設定した400Hz程度のパルス電流を供給して制御を行うものであり、図示しない制御部により実行される。この制御部は、指定したデューティ比のパルス信号を出力するPWM出力部を有するが、その構成自体には公知のものが採用されるため、詳細な説明を省略する。
図3〜図5は、制御弁の動作を表す図である。既に説明した図2は、制御弁の最小容量運転状態を示している。図3は、制御弁の起動時等にブリード機能を動作させたときの状態を示している。図4は、比較的安定した制御状態を示している。図5は、ソレノイド3のオフ時に制御圧力Pcが過大となったときの状態を示している。以下では図1に基づき、適宜図2〜図5を参照しつつ説明する。
制御弁1においてソレノイド3が非通電(オフ)のとき、つまり自動車用空調装置が動作していないときには、コア46とプランジャ50との間に吸引力が作用しない。一方、スプリング44の付勢力が、プランジャ50、作動ロッド38および副弁体36を介して弁駆動体29に伝達される。その結果、図2に示すように、主弁体30が主弁座22から離間して主弁が全開状態となる。このとき、副弁は閉弁状態を維持する。
一方、自動車用空調装置の起動時にソレノイド3の電磁コイル54に起動電流が供給されると、図3に示すように、吸入圧力Psがその供給電流値により定まる開弁圧力(「副弁開弁圧力」ともいう)よりも高ければ、副弁が開弁する。すなわち、ソレノイド力がスプリング42の付勢力に打ち勝ち、副弁体36が一体的に押し上げられる。その結果、副弁体36が副弁座34から離間して副弁が開かれ、ブリード機能が有効に発揮される。この動作過程で主弁体30がスプリング42の付勢力により押し上げられ、主弁座22に着座する。その結果、主弁は閉弁状態となる。すなわち、主弁が閉じて制御室への吐出冷媒の導入を規制した後、副弁が開いて制御室内の冷媒を吸入室に速やかにリリーフさせる。その結果、圧縮機を速やかに起動させることができる。なお、「副弁開弁圧力」については、車両がおかれる環境下に応じて後述する設定圧力Psetが変化されると、それに応じて変化する。
ソレノイド3に供給される電流値が主弁の制御電流値範囲にあるときには、吸入圧力Psが供給電流値により設定された設定圧力Psetとなるよう主弁の開度が自律的に調整される。この主弁の制御状態においては、図4に示すように、副弁体36が副弁座34に着座し、副弁は閉弁状態を維持する。一方、吸入圧力Psが比較的低いためにベローズ45が伸長し、主弁体30が動作して主弁の開度を調整する。このとき、主弁体30は、スプリング44による開弁方向の力と、閉弁方向のソレノイド力と、吸入圧力Psに応じたパワーエレメント6による開弁方向の力とがバランスした弁リフト位置にて停止する。
そして、例えば冷凍負荷が大きくなり吸入圧力Psが設定圧力Psetよりも高くなると、ベローズ45が縮小するため、主弁体30が相対的に上方(閉弁方向)へ変位する。その結果、主弁の弁開度が小さくなり、圧縮機は吐出容量を増やすよう動作する。その結果、吸入圧力Psが低下する方向に変化する。逆に、冷凍負荷が小さくなって吸入圧力Psが設定圧力Psetよりも低くなると、ベローズ45が伸長する。その結果、パワーエレメント6が主弁体30を開弁方向に付勢して主弁の弁開度が大きくなり、圧縮機は吐出容量を減らすよう動作する。その結果、吸入圧力Psが設定圧力Psetに維持される。なお、吸入圧力Psが設定圧力Psetよりも相当高くなると、その吸入圧力Psの高さによっては主弁が閉弁し、副弁が開くことも想定される。ただし、主弁が閉じた後に副弁が開くまでに圧力範囲(不感帯)があるため、主弁と副弁が不安定に開閉する等の事態は防止される。
このような定常制御が行われている間にエンジンの負荷が大きくなり、空調装置への負荷を低減させたい場合、制御弁1においてソレノイド3がオンからオフに切り替えられる。そうすると、コア46とプランジャ50との間に吸引力が作用しなくなるため、スプリング44の付勢力により主弁体30が主弁座22から離間し、主弁が全開状態となる。このとき、基本的に副弁体36は副弁座34に着座しているため、副弁は閉弁状態となる。それにより、圧縮機の吐出室からポート16に導入された吐出圧力Pdの冷媒は、全開状態の主弁を通過し、ポート14から制御室へと流れることになる。したがって、制御圧力Pcが高くなり、圧縮機は最小容量運転を行うようになる。
ただし、この最小容量運転への切り替えに際して差圧(Pc−Ps)が設定差圧ΔPset以上となると、図5に示すように、差圧開弁機構が作動する。すなわち、差圧(Pc−Ps)による力がスプリング42の付勢力に打ち勝ち、弁駆動体29を下方へ押し下げて副弁を開弁させる。このため、制御圧力Pcの急上昇を防止又は抑制することができる。なお、設定差圧ΔPsetとしては、主弁の安定した制御中に弁駆動体29に作用し得る差圧(Pc−Ps)の最大値を超える値が設定されている。このため、主弁の制御中に副弁が開かれることは基本的にない。この差圧開弁機構による副弁の開弁は、主弁の開弁状態において実現されるものである点で、図3に示したソレノイド3による副弁の強制開弁機構とは異なる。
なお、本実施形態では、主弁体30と副弁座34とを弁駆動体29に対して一体に設けたため、差圧開弁機構の作動により副弁が開く一方で主弁の開度も増加する。しかも、主弁のシール部径のほうが副弁のシール部径のほうが大きい。このため、単に主弁と副弁との開度の大きさのみに着目すると、差圧開弁機構による効果を期待するのは難しいとの見方もある。しかしながら、圧縮機には通常、当該制御弁1の副弁とは別に、制御室と吸入室とを連通するオリフィス(「漏洩用オリフィス」ともいう)が設けられ、制御室内の冷媒を吸入室側へ常に漏洩させている。この漏洩用オリフィスおよび差圧開弁機構の各機能の相乗効果により、トータルとして制御圧力Pcの上昇を抑えることが可能となっている。なお、後述のように、変形例においては主弁体と副弁座とを別体とし、差圧開弁機構による効果が直接的に得られるようにしてもよい。
図6は、制御弁1の開弁特性を表す図である。(A)は副弁の開弁特性を表し、横軸は副弁ストローク(副弁座34からの副弁体36のリフト量)を示し、縦軸は副弁の開口面積を示す。(B)は副弁の開弁特性を表し、横軸は吸入圧力Psを示し、縦軸は副弁ストロークを示す。(C)は主弁および副弁の開弁特性を表し、横軸は吸入圧力Psを示し、縦軸は各弁の開口面積を示す。なお、供給電流値を一定とした場合、吸入圧力Psが低くなるほどソレノイド3の磁気ギャップは大きくなり、吸入圧力Psが高くなるほど磁気ギャップは小さくなる。
図6(A)に示すように、副弁の開口面積の変化量が、副弁が開き始めの領域、つまりストロークが小さい領域では小さく、所定のストロークに達した後に大きくなるように設定されている。これは、図3等に示したように、副弁座34と副弁体36との当接面を軸線に対して傾斜させてテーパ状にしたことによる。このような構成により、仮に主弁の制御中に副弁が寸開したとしても、その制御への影響を小さくすることができる。すなわち、本実施形態ではPWM制御を採用するため、その振動により副弁が開く可能性がある。例えば、主弁の寸開時に主弁体30が主弁座22を叩くようなことがあると、その衝撃で副弁が開く可能性がある。特にスプリング42の荷重を小さめに設定した場合にその可能性が高い。そのような場合に副弁が寸開しても、主弁の制御に実質的に影響を与えないようにしたものである。
一方、図6(B)に示すように、吸入圧力Psに対して副弁ストロークがリニアに(比例的に)変化するように設定している。このようにすることで、図6(C)に示すように、吸入圧力Psが上昇してある値を超えたときに副弁が大きく開くようにしている。それにより、吸入圧力Psが高い状態においてブリード機能が速やかに発揮され、空調機能が効率的に得られるようにしている。
以上に説明したように、本実施形態では、ソレノイド3のオフにより制御圧力Pcと吸入圧力Psとの差圧(Pc−Ps)が設定差圧ΔPset以上となると、差圧開弁機構が作動して副弁が開かれる。それにより、制御圧力Pcが上昇し過ぎることを防止又は抑制でき、冷媒が圧縮機内部のシール部から外部へ漏れるなどの問題を回避することができる。
また、本実施形態では、副弁が開き始めの領域において副弁の開口面積の変化量が小さくなるようにしたため、仮に主弁の制御中に副弁が開弁するようなことがあったとしても、主弁の制御に影響が及ぶことはない。なお、このように「副弁の開弁により主弁の制御性能に影響を与えないようにする」ことをメインの課題とする場合には、上述した差圧開弁機構を必須としなくてもよい。
[第2実施形態]
図7は、第2実施形態に係る制御弁の開弁特性を表す図である。(A)は副弁の開弁特性を表し、横軸は副弁ストロークを示し、縦軸は副弁の開口面積を示す。(B)は副弁の開弁特性を表し、横軸は吸入圧力Psを示し、縦軸は副弁ストロークを示す。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
本実施形態は、副弁の開弁特性が第1実施形態とは異なる。すなわち、図7(A)に示すように、副弁の開口面積の変化量が、副弁が開き始めから全開状態に到るまでリニアに(比例的に)変化するように設定されている。この設定は、例えば図3等において、副弁座34と副弁体36との当接面を軸線に対して直角な平面とすることで実現できる。
一方、図7(B)に示すように、副弁の開度が吸入圧力Psが高くなるにしたがって徐々に大きくなり、予め定める全開圧力を境に急峻に全開状態へ変化するように開弁特性が設定されている。このような開弁特性は、ソレノイド3の吸引力特性とパワーエレメント6の駆動力特性(荷重特性)との関係により設定することができる。具体的には、吸入圧力Psに応じて変化するソレノイド3の磁気ギャップに対する特性として、ソレノイド3の吸引力特性の傾きを、全開圧力を境にパワーエレメント6の駆動力特性の傾きよりも大きく設定することにより、上記開弁特性が実現することができる。なお、変形例においては、副弁の開弁特性として、例えば図6(A)に示す特性と図7(B)に示す特性とを併せ持つように設定してもよい。
本実施形態および変形例によっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、第1実施形態と同様に、「副弁の開弁により主弁の制御性能に影響を与えないようにする」という課題に対処することができる。
[第3実施形態]
図8は、第3実施形態に係る制御弁の開弁特性を表す図である。(A)は本実施形態の開弁特性を表し、(B)は比較例の開弁特性を示す。各図の上段は主弁と副弁の双方が閉じる不感帯の設定を示し、下段はその設定による各弁の開閉状態を示す。各図において、横軸は吸入圧力Psを示し、縦軸は弁ストロークを示す。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
本実施形態では、主弁が閉じた後に副弁が開くまでに双方の弁が閉じる状態である「不感帯」を小さく設定し、主弁体30の主弁座22に対する跳ね返りを抑制する。すなわち、上述したPWM制御がなされる制御弁では、その周波数(例えば400Hz程度)に合わせて主弁体30が微小振動しながらストロークする。このため、図8(B)に示す比較例のように不感帯を大きく設定すると(図8(B)上段)、主弁が寸開状態となったときに、その振幅により主弁体30が主弁座22を叩き、その反動で跳ね返る可能性がある(図8(B)下段)。なお、図中の実線と二点鎖線との間隔が各弁体の振幅を例示している。その主弁体30の跳ね返りにより主弁の開度が大きくなると(一点鎖線参照)、意図しない吸入圧力Psの上昇を招く虞がある。
そこで本実施形態では、図8(A)に示すように、上記不感帯を小さく設定することで(図8(A)上段)、主弁の寸開状態で副弁を開き易くする。このような構成により、仮に主弁体30が跳ね返りにより主弁の開度を大きくしようとしても、副弁の開弁により制御圧力Pcひいては吸入圧力Psの上昇を抑えることができる(図8(A)下段)。なお、図中の実線と二点鎖線との間隔が各弁体の振幅を例示している。言い換えれば、主弁体30の衝突エネルギーを副弁の作動エネルギーとして逃がすことができる。このような制御圧力Pcの安定化が、結果的に主弁体30の振動を吸収し、その跳ね返りそのものを抑制する。その結果、意図しない吸入圧力Psの上昇が抑制される。
このようにして主弁の寸開状態で副弁を開き易くすると、例えば圧縮機の漏洩用オリフィスを小さくすることができる。それにより、ソレノイド3をオフにしたときに圧縮機を速やかに最小容量運転に移行させることができ、空調装置の運転効率を高めることが可能となる。なお、この「不感帯」の大きさは、スプリング42の荷重により設定でき、例えば主弁の寸開時(主弁が完全閉となる前)に副弁が開き始める程度に設定することができる。具体的には、PWM制御による振動により主弁体30が主弁座22を叩く範囲に入ったときに副弁が開き始めるよう不感帯を設定してもよい。あるいは、主弁の開度がPWM制御による振幅以下となったときに、その主弁が完全閉となる前に副弁が開き始めるよう不感帯を設定してもよい。本実施形態によれば、主弁が完全に閉じる前に、主弁と副弁とが同時に開く状態を経ることになる。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はその特定実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で種々の変形が可能であることはいうまでもない。
上記実施形態では述べなかったが、副弁の最大開口面積と漏洩用オリフィスの開口面積とを合わせた大きさが、主弁の最大開口面積よりも大きくなるように構成してもよい。また、副弁全開時において副弁および漏洩用オリフィスを流れる冷媒の総流量が、主弁全開時に主弁を流れる流量よりも大きくなるように構成してもよい。このような構成により、例えば主弁が全開状態において主弁体の作動がロックした場合でも、制御圧力Pcをある程度低減して圧縮機を起動させることができる。すなわち、空調装置の空調機能をある程度確保することができる。
上記実施形態では、主弁体30と副弁座34とが一体に設けられる例を示した。変形例においては、これらを互いに別体で構成してもよい。具体的には、主弁体30とは別に弁駆動体を設け、その弁駆動体に副弁座34を形成して「可動弁座」としてもよい。その場合も、差圧(Pc−Ps)が設定差圧ΔPset以上となると、その弁駆動体が変位することにより副弁が開かれるようにする。
上記実施形態では、副弁体36を作動ロッド38に対して固定する例を示した。変形例においては、両者を相対変位可能に構成してもよい。具体的には、図2に示される副弁体36を作動ロッド38に摺動可能に挿通し、副弁体36を閉弁方向に付勢するスプリング(「付勢部材」として機能する)を介装させてもよい。例えば、副弁体36とパワーエレメント6との間にスプリングを介装させてもよい。ただし、副弁体36の閉弁方向への変位は、作動ロッド38の段部79により規制される。このような構成において、差圧(Pc−Ps)が設定差圧ΔPset以上となると、その設定差圧ΔPsetによる荷重がそのスプリングの荷重を上回り、副弁体36が副弁座34から離間する方向に変位するようにしてもよい。このような構成により、差圧(Pc−Ps)が設定差圧ΔPset以上となったときに、副弁をより大きく開くことができ、制御圧力Pcの上昇抑制効果を高めることが可能となる。
上記実施形態では、図2に示したように、スプリング42が弁駆動体29と作動ロッド38との間に介装される例を示した。変形例においては、スプリング42が弁駆動体29とコア46(制御弁1のボディ)との間に介装されるようにしてもよい。
上記実施形態では、制御弁として、吸入圧力Psが満たされる作動室23にパワーエレメント6を配置し、吸入圧力Psを直接感知して動作するいわゆるPs感知弁を例示した。変形例においては、吸入圧力Psではなく制御圧力Pcを被感知圧力として感知して動作するいわゆるPc感知弁としてもよい。あるいは、パワーエレメントを設けることなく、弁体を含む可動部材が差圧を感知して動作する差圧弁として構成してもよい。例えば、吐出圧力Pdと吸入圧力Psとの差圧(Pd−Ps)が設定差圧となるように動作するPd−Ps差圧弁としてもよい。あるいは、吐出圧力Pdと制御圧力Pcとの差圧(Pd−Pc)が設定差圧となるように動作するPd−Pc差圧弁としてもよい。
上記実施形態では、パワーエレメント6を構成する感圧部材としてベローズ45を採用する例を示したが、ダイヤフラムを採用してもよい。その場合、その感圧部材として必要な動作ストロークを確保するために、複数のダイヤフラムを軸線方向に連結する構成としてもよい。
上記実施形態では、スプリング42,44等に関し、付勢部材(弾性体)としてスプリングを例示したが、ゴムや樹脂等の弾性材料を採用してもよいことは言うまでもない。
上記実施形態では、ベローズ45の内部の基準圧力室Sを真空状態としたが、大気を満たしたり、基準となる所定のガスを満たすなどしてもよい。あるいは、吐出圧力Pd、制御圧力Pc、および吸入圧力Psのいずれかを満たすようにしてもよい。そして、パワーエレメントが適宜ベローズの内外の圧力差を感知して作動する構成としてもよい。また、上記実施形態では、主弁体が直接受ける圧力Pd,Pc,Psをキャンセルする構成としたが、これらの少なくともいずれかの圧力をキャンセルしない構成としてもよい。
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。