JP6477233B2 - オーステナイト系ステンレス鋼 - Google Patents

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Description

本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼に関する。
オーステナイト系ステンレス鋼は、耐食性に優れることから、様々な用途に使用されている。例えば、オーステナイト系ステンレス鋼管には、ボイラ、熱交換器等の伝熱管、化学プラントの配管等である。これらの用途に使用されるオーステナイト系ステンレス鋼には、特に優れた耐食性が要求される。
例えば、低炭素のSUS316L、SUS304Lなどのオーステナイト系ステンレス鋼は、原子炉水温度域における耐食性に優れるため、原子炉用配管材として利用されている。これらのオーステナイト系ステンレス鋼の耐食性は、鋼表面のCr酸化物を主体とする不働態皮膜によるものである。
原子炉用配管材は、短いもので数年、長い場合には30年以上もの間、原子炉の炉水環境である300℃前後の高温水の環境で用いられる。このような環境で、長期間でみるとオーステナイト系ステンレス鋼の腐食速度は遅いものの、使用の初期段階では鋼表面に十分な不働態皮膜が形成しておらず、管内面からのNi、Co、Fe、Crなどの溶出量が多い。溶出したNi、Coは、炉水が循環する過程で、炉心部に運ばれ、放射化されて半減期の長い放射性同位体になり定検時の被ばく源となる。溶出したNiおよびCoなどは、その量が多くなると、定期検査などを行う作業者の被曝線量の増大を招く、また、溶出したFeおよびCrなどは、炉心構造材、燃料被覆管の表面に付着し、腐食生成物を形成する際に半減期の長いNi、Coなどの放射性同位体を取り込む。よって、これらの金属の溶出が長期に亘り抑制されることが望まれている。
原子力環境での金属溶出を抑制するためには、鋼材表面にクロム酸化物を形成させるのが有効であることが知られている。例えば、特開2004−83965号公報(特許文献1)には、オーステナイト系ステンレス鋼管を露点が−25℃〜0℃に制御した水素ガス雰囲気、または不活性ガスと不活性ガスの混合ガス雰囲気で固溶化熱処理することで、厚さ2〜100nmでCr/Fe原子比≧0.01の酸化不動態皮膜を形成するオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法が開示されている。
特開平2−47249号公報(特許文献2)には、質量%でCrを12〜20%含有するステンレス鋼、または、Crを12〜20%、Niを40%以下含有するステンレス鋼からなる加熱炉管を0.01〜0.5vol%の酸素を含む不活性ガス雰囲気中で所定の加熱温度および加熱時間で熱処理し、クロム酸化物を主体とする酸化皮膜を形成するための熱処理方法が開示されている。
特開2002−121630号公報(特許文献3)および特開2003−239060号公報(特許文献4)には、表面に厚さ180〜1500nmで外層がMnCrを主体とする酸化皮膜,内層がCrを主体とする酸化皮膜を有するNi基合金製品とその製造方法が開示されている。
特開2004−83965号公報 特開平2−47249号公報 特開2002−121630号公報 特開2003−239060号公報
特開2004−83965号公報(特許文献1)および特開平2−47249号公報(特許文献2)に開示されている熱処理条件の範囲内でオーステナイト系ステンレス鋼を熱処理しても、その条件によっては皮膜組成および厚さが異なり、金属溶出抑制効果が十分でないことがあった。また、特開2002−121630号公報(特許文献3)および特開2003−239060号公報(特許文献4)は、Ni基合金について検討されているため、オーステナイト系ステンレス鋼が基材となる場合とは基材中の成分および元素の拡散速度が異なる。このため、熱処理によって得られる皮膜組成、厚さ、および、皮膜形態のいずれも異なり、金属抑制効果は異なる。
本発明は、耐金属溶出特性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼を提供することを目的とする。
オーステナイト系ステンレス鋼で金属溶出の抑制には、鋼材表面にCrを主体とした酸化皮膜を形成することが有効であるとされてきた。しかし、本発明者らは、オーステナイト系ステンレス鋼材表面に形成される酸化皮膜の金属溶出抑制効果を更に向上させるべく検討を行った結果、以下の知見を得た。
(a)Crを主体とした酸化皮膜よりもMnCr酸化物層(MnCrを主体とした酸化皮膜)を形成するのが有効である。特に、その全厚みが100nmを超え200nm以下であり、外層側に、質量%で、40.0%以上のCrを含有する領域が存在し、内層側に、質量%で、10.0%以上のSiを含有する領域が存在するMnCr酸化物層を形成すれば、これまでよりも格段に優れた耐金属溶出特性が得られることが分かった。
(b)Crは、オーステナイト系ステンレス鋼の主要元素であるFe、CrおよびNiの中で最も酸素ポテンシャルが低く、酸化され易い元素である。一方、一般的なステンレス鋼には0.5〜2%程度のMnおよびSiが脱酸剤として含まれる。酸素ポテンシャルはSi、MnおよびCrの順で低く、Siから優先的に酸化される。ここで、表層に完全に均一なSi酸化皮膜が形成されると、高温水中で金属溶出抑制効果が得られない。しかし、Siの含有量をCr含有量に対して十分に少ない量とするとともに、酸化皮膜の形成を所定の条件で行えば、Si酸化皮膜が鋼表面を十分に覆うには至らない。このため、その欠陥を介してMnおよびCrの酸化物が外層側に点在するようになる。その後、外層でMnCr皮膜が成長し、内層でSiを含有するようにMnCr酸化物が成長していく。オーステナイト系ステンレス鋼においては、それらを初期酸化物として包含したMnCr皮膜の存在が必要である。特に、外層側に、質量%で、40.0%以上のCrを含有する領域が存在し、かつ、内層側に、質量%で、10.0%以上のSiを含有する領域が存在する場合に、耐金属溶出特性が飛躍的に向上する。
(c)酸化皮膜を、AES(Auger electron spectroscopy)、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)、GDS(Glow Discharge Spectroscopy)のような手法でその厚さ方向に分析すると、金属溶出は、Crを含有する酸化皮膜の形成と共に抑制されていく。本発明者らは、予備的に、原子炉環境を模擬した250℃の高温高圧水中で溶出試験した後の表面SEMで観察した。その結果、一部の鋼材表面にCr、NiおよびFeを含む腐食生成物が付着していたものがあった。これらの鋼材の表面に形成された酸化皮膜は、SiまたはMnが主体の薄い皮膜であるか、MnCrが形成されていても、皮膜が不均一、且つ十分な厚さに成長していない皮膜であった。このような皮膜では、欠陥を介して微量の金属溶出が生じるため、上記の腐食生成物が鋼材表面に付着したと考えられる。そこで、さらにCr酸化皮膜厚さと金属溶出量および腐食生成物の形成を検討した結果、その厚さが100nmを超え200nm以下であるMnCr酸化皮膜を形成すると、金属溶出抑制効果のあることを見い出した。
(d)オーステナイト系ステンレス鋼の表面に所望のMnCr酸化物層を形成するには、加熱温度、時間および露点などの諸条件を調整するとともに、鋼表面へのガスの供給量を制御する必要がある。ガス供給量は、初期酸化に大きく影響し、5〜15L/minで供給することによりSiの酸化が迅速に進み外層に均一なMnCrが形成することが可能となる。
本発明は、上記(a)〜(d)の知見に基づいて完成されたものであり、下記に示すオーステナイト系ステンレス鋼を要旨とする。
(1)表層にMnCr酸化物層を有するオーステナイト系ステンレス鋼であって、
化学組成が、質量%で、
C:0.005〜0.05%、
Si:0.01〜2.0%、
Mn:0.5〜2.0%、
P:0.04%以下、
S:0.003%以下、
Ni:8.0〜22.0%、
Cr:16.0〜26.0%、
Mo:0.05〜3.0%、
Cu:0〜1.0%、
Ti:0〜0.1%、
V:0〜0.2%、
N:0.15%以下、
残部:Feおよび不純物であり、
前記MnCr酸化物層が、
その全厚みが100nmを超え200nm以下であり、
該酸化物層の厚み方向において、表層から距離が0〜100nmの領域に、質量%で、40.0%以上のCrを含有するCr濃化層が存在し、表層から距離が50〜150nmの領域に、質量%で、9.5〜50.0%のSiを含有するSi濃化層が存在し、かつ、前記Cr濃化層中のCr含有量の最大値が存在する位置が、前記Si濃化層中のSi含有量の最大値が存在する位置よりも表層側に存在する、
オーステナイト系ステンレス鋼。
(2)上記(1)のオーステナイト系ステンレス鋼であって、
Cu:0.01〜1.0%を含有する、
オーステナイト系ステンレス鋼。
(3)上記(1)または(2)のオーステナイト系ステンレス鋼であって、
Ti:0.005〜0.1%および/またはV:0.01〜0.2%を含有する、
オーステナイト系ステンレス鋼。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかのオーステナイト系ステンレス鋼であって、
250℃の純水中に100時間保持した後の鋼表面において、Cr、NiおよびFeを含む腐食生成物のうち、円相当径が200nm以上である腐食生成物の付着頻度が1個/μm以下である、オーステナイト系ステンレス鋼。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかのオーステナイト系ステンレス鋼で構成される、原子力プラント用構造体。
本発明によれば、耐金属溶出特性に優れており、高温水環境においても金属成分の溶出が極めて少ない。したがって、本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、原子炉用配管等の原子力プラント用部材に好適である。
実施例の酸化物層の深さ方向組成分布図(a)No.4の組織分布図(b)No.2の組織分布図
1.化学組成
本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼の化学組成における各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において、各元素の含有量の「%」は、「質量%」を意味する。
C:0.005〜0.05%
Cは、脱酸の目的で0.005%以上含有させる。しかし、粒界炭化物の析出を防止するためには、その含有量は0.05%以下とする。好ましい上限は0.04%であり、より好ましい上限は0.020%である。また、好ましい下限は0.007%である。
Si:0.01〜2.0%
Siは、脱酸の目的で0.01%以上含有させる。しかし、過剰な含有は、介在物の生成を促すため、その含有量は2.0%以下とする。好ましい上限は1.5%であり、より好ましい上限は1.0%である。また、好ましい下限は0.1%であり、より好ましい下限は0.05%である。
Mn:0.5〜2.0%
Mnは、Crとともに耐金属溶出性に優れた酸化皮膜を形成する効果を有する。Mnは、また、脱酸の効果を有する。よって、Mnは0.5%以上含有させる。しかし、Mnは、Sと結合して硫化物を形成する。この硫化物は、溶接時に溶接部表面に優先的に濃化する。よって、溶接部表面に濃化する硫化物が過剰になると、鋼材の耐食性を低下させるため、Mn含有量は2.0%以下とする。好ましい上限は1.8%であり、より好ましい上限は1.5%である。また、好ましい下限は0.8%である。
P:0.04%以下
Pは、不純物として鋼材中に存在する元素である。その含有量が過剰になると溶接性が低下するため、その含有量は0.04%以下とする。好ましい上限は0.03%であり、より好ましい上限は0.025%である。
S:0.003%以下
Sは、不純物として鋼材中に存在する元素である。その含有量が過剰になると、溶接部表面に濃化する硫化物が増加して、鋼材の耐食性を低下させるので、その含有量は0.003%以下とする。好ましい上限は0.002%であり、より好ましい上限は0.0015%である。
Ni:8.0〜22.0%
Niは、オーステナイト相を安定させ耐食性を維持するために重要な元素である。このため、8.0%以上含有させる。しかし、その効果は、含有量を増やしても飽和していき、価格上昇を招くだけである。よって、Ni含有量は22.0%以下とする。好ましい上限は20.0%であり、好ましい下限は9.5%である。
Cr:16.0〜26.0%
Crは、耐食性を保つために不可欠な元素である。Crは、鋼材表面で酸化皮膜を形成し、その酸化皮膜直下の母材でCr含有量が減少することがある。したがって、Crは16.0%以上含有させる。一方、Cr含有量を増加させると、オーステナイト相を安定化するためにNiも増加させなければならず、鋼材の価格上昇を招く。よって、Crの過剰な含有は避ける必要があり、その上限は26.0%とする。好ましい上限は24.5%であり、好ましい下限は17.5%である。
Mo:0.05〜3.0%
Moは、鋭敏化を抑制する効果があり、母材の耐食性を向上させるのに有効な元素であるので、0.05%以上含有させる。しかし、過剰な含有は、Laves相として粒界に析出して、鋭敏化を促すので、その上限は3.0%とする。好ましい上限は2.5%である。また、好ましい下限は0.1%であり、より好ましい下限は0.2%である。
Cu:0〜1.0%
Cuは、不働態皮膜を安定にし、母材の耐食性を向上させるのに有効な元素であるので、必要に応じて含有させてもよい。しかし、過剰に含有させると、Cuが粒界に偏析し、熱間加工時の表面割れ、溶接割れなどを助長するため、上限は1.0%とする。より好ましい上限は0.5%である。上記の効果を得るには0.01%以上含有させることが好ましい。より好ましい下限は0.05%である。
Ti:0〜0.1%
V:0〜0.2%
TiおよびVは、鋭敏化を抑制する効果があり、母材の耐粒界腐食性を一層改善する効果を有するため、必要に応じて一方または両方を含有させてもよい。しかし、これらの元素を過剰に含有させると、熱間加工性が劣化するため、これらの元素を含有させる場合には、Ti含有量は0.1%以下、V含有量は0.2%以下とする。上記の効果を得るためには、Tiは0.005%以上、Vは0.01%以上含有させることが好ましい。より好ましい下限は、Tiでは0.02%であり、Vでは0.05%である。より好ましい上限は、Tiでは0.05%、Vでは0.15%である。
N:0.15%以下
Nは、強度を向上させる効果を有する。しかし、Nは、鋼中のCrと結合してCr窒化物を形成し、その量が過剰な場合には、粒界耐食性を低下させる。したがって、N含有量は0.15%以下とする。好ましい上限は0.12%であり、より好ましい上限は0.10%である。上記の効果は、微量でも得られるが、顕著となるのはNが0.05%以上含有する場合である。
本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼の化学組成は、上記の各元素を含有し、残部はFeおよび不純物である。ここにいう「不純物」とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料その他の要因により混入する成分を意味する。
2.酸化皮膜
本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、その表層にMnCr酸化物層を有する。このMnCr酸化物層は、その全厚みが100nmを超え200nm以下であり、該酸化物層の厚み方向において、表層から距離が0〜100nmの領域に、質量%で、40.0%以上のCrを含有するCr濃化層が存在し、表層から距離が50〜150nmの領域に、質量%で、9.5〜50.0%のSiを含有するSi濃化層が存在し、かつ、前記Cr濃化層中のCr含有量の最大値が存在する位置が、前記Si濃化層中のSi含有量の最大値が存在する位置よりも表層側に存在するものである。
Si濃化層について
SiおよびMnは、Crに比較して酸素ポテンシャルが低く、酸化されやすい。このため、本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼の表層には、まずSiを含有する酸化物が形成されることになる。しかし、本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼に含まれるSi含有量は、Cr含有量と比べると少ないため、鋼表面を十分に覆うには至らず、その欠陥を介してMnおよびCrの酸化物が外層側に点在するようになる。このとき、内層側にSi酸化物が点在していることにより、外層が急激な酸化が抑制され、その結果、外層に緻密なMnCr酸化物層が形成されることになる。その後、外層でMnCr酸化物層(MnCr皮膜)が成長し、内層でSiを含有するようにMnCr酸化物が成長していくことになる。
ここで、表層に完全に均一なSi酸化皮膜が形成されると、高温水中での金属溶出抑制効果が十分ではなく、また、外層に緻密なMnCr酸化物層を形成させることもできない。このため、該酸化物層の厚み方向において、表層から距離が50〜150nmの領域に、質量%で、9.5〜50.0%のSiを含有するSi濃化層が存在させることとした。MnCr酸化物層中のSi含有量が高すぎると、外層に緻密なMnCr酸化物層を形成させることができないため、その含有量は30.0%以下とすることが好ましく、20.0%以下とすることがより好ましい。
Cr濃化層について
MnCr酸化物層の外層は、母材、内層中に含まれるMnおよびCrが外層まで拡散することで生成する。本発明では、該酸化物層の厚み方向において、表層から距離が0〜100nmの領域に、質量%で、40.0%以上のCrを含有するCr濃化層が存在させることとしている。このため、Mn単独の酸化物に比べて、鋼の使用中において、MnCrが生成しやすく、その結果、耐金属溶出特性が飛躍的に向上する。MnCr酸化物層中のCr含有量が高すぎると、気孔状の欠陥が形成されることがある。これは、Cr含有量が高すぎる酸化物層とは酸化物層が厚いを意味するからである。よって、Cr濃化層のCr含有量は70.0%以下とすることが好ましい。
このように、本発明では、酸化物層の内層側にSi濃化層を有し、外層の急激な酸化を防ぐとともに、外層側に耐金属溶出特性に優れるCr濃化層を存在させる、すなわち、Cr濃化層中のCr含有量の最大値が存在する位置をSi濃化層中のSi含有量の最大値が存在する位置よりも表層側に存在させることが重要である。
MnCr酸化物層の全厚み:100nmを超え200nm以下
MnCr酸化物層の全厚みが薄い場合は欠陥が存在し、母材からの金属溶出を十分に抑制することができない。また、Crは、Mnよりも拡散が遅いため、外層側に、質量%で、40.0%以上のCrを含有する領域を存在させて、優れた耐金属溶出特性を得るためには、100nmを超える膜厚を有することが重要である。一方、全厚みが厚すぎると、皮膜に気孔状の欠陥が形成され、金属溶出量が増加する。従って、全厚みは200nm以下とする。全厚みの好ましい下限は120nmである。全厚みの好ましい上限は160nmである。
3.MnCr酸化物層の形成方法
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼の表層に所定のMnCr酸化物層を形成することができれば、その形成方法については特に制約がない。例えば、下記に示す条件で形成することができる。
前記の条件を満足するMnCr酸化物層をオーステナイト系ステンレス鋼の表面に生成させるためには熱処理時の雰囲気が重要である。その雰囲気は、水素ガスで、かつ露点が特定の範囲のものである。特に、緻密な外層を生成させるためには、上記の雰囲気に含まれる水分量は、100〜2250ppmの範囲とすることが重要である。特に、2000ppm以下が好ましい。
ガス供給量は初期酸化に大きく影響する。所望の内層を得るためには、上記の条件を満たすガスを5〜15L/minで供給することが重要である。これにより、Siの酸化が迅速に進み、しかも、外層に均一で緻密なMnCr酸化物を形成することが可能となる。
MnCr酸化物層は、オーステナイト系ステンレス鋼の固溶化熱処理時に形成させるのがよい。その温度域は1000〜1100℃である。また、熱処理時間は、固溶化の効果を考え、3分を超える時間とする。望ましくは5分を超える時間とする。しかし、熱処理時間が長すぎると、製造コストを上昇させるとともに、形成される酸化物層が厚くなり、耐金属溶出特性が劣化することがある。このため、熱処理時間は、15分以下とするのが望ましく、10分以下とするのがより望ましい。
表1に示す化学組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼を真空溶解し、熱間鍛造および熱間圧延を行って、厚さ6mmの熱間圧延板を作製した。得られた熱間圧延板を冷間圧延し、厚さ4mmの冷間圧延板を作製した。得られた冷間圧延板から、厚さ2mm、幅10mm、長さ50mmの短冊状試験片を採取し、表面を湿式エメリー紙600番で研磨した後、アセトンで脱脂した。この短冊状試験片を石英管に挿入し、水分量を100〜2250ppmで制御した水素ガスを5L/minで通気しながら、1060℃で5〜10分の熱処理に供した。
<酸化物層(酸化皮膜)の深さ方向組成分布>
酸化物層の深さ方向組成分布は、グロー放電発光分光分析装置(以下、GDSという)で測定した。MnCr酸化物層の全厚さは、深さ方向分布でCr濃化部の延長線と母材で濃度が一定になっている部分の延長線の交点から算出した。
<金属溶出試験>
内径20mmの純Ti管に純水と酸化物層を形成した短冊試験片を入れ、両端部を純Ti製のスウェージロックで封じて250℃で100h保持した。Cr、NiおよびFeの溶出量を評価するため,管とスウェージロックはTi製を用いた。250℃で100h保持した後、管中の溶液をサンプリングし、誘導結合プラズマ発光装置(以下、ICP−MSという)で分析を行った。金属の溶出量は、酸化物層を形成していない例における各金属の溶出量を100%として評価し、10%以下を効果ありと判断した。
<溶出試験後の観察試験>
250℃で過飽和の溶出金属は、常温では試験片表面に腐食生成物として付着するため、これを確認するべく、250℃の純水中に100時間保持した後の試験片表面を走査型電子顕微鏡(以下,SEMと呼称)で観察した。Cr、NiおよびFeを含む腐食生成物のうち、円相当径が200nm以上である腐食生成物の付着頻度が1個/μm以下である場合を、腐食生成物が発生していないものとし、付着頻度が1個/μmを超える場合を、腐食生成物が発生したものとした。
これらの結果を表2に併記する。なお、MnCr酸化物層の厚み方向において、表層から距離が0〜100nmの領域に、質量%で、40.0%以上のCrを含有するCr濃化層が存在する例については、Cr濃化層中のCr含有量の最大値およびその最大値が存在する位置(ピーク深さ)を表2に併記した。また、MnCr酸化物層の厚み方向において、表層から距離が50〜150nmの領域に、質量%で、9.5〜50.0%のSiを含有するSi濃化層が存在する例については、Si濃化層中のSi含有量の最大値およびその最大値が存在する位置(ピーク深さ)を表2に併記した。No.2および4については、酸化物層の深さ方向組成分布図を図1に示す。
表2に示すように、No.2は、酸化皮膜として、MnCr酸化物(MnCr)がなく、Si酸化物のみからなる例であるが、金属溶出量の合計が酸化皮膜なしの例(No.1)の約半分にはなるものの、その量は多い。
No.3〜5は、所望のMnCr酸化物(MnCr)を形成した例であるが、いずれも金属溶出量が十分に低減されていた。特に、MnCr酸化物の全厚さが厚くなるほどに、金属溶出量の合計が減る傾向にある。しかし、MnCr酸化物の全厚さが100nmを超える例(No.6)では、溶出量が再び増加の傾向を示した。
No.7は、MnCr酸化物(MnCr)の全厚さが100nm未満であり、また表層から距離が0〜100nmの領域に、質量%で、40.0%以上のCrを含有するCr濃化層が形成されなかった例である。この例では、金属溶出量の抑制が不十分であった。
No.8および9は、No.3〜5とは母材の化学組成が異なるが所望のMnCr酸化物(MnCr)を形成した例であり、金属溶出量を抑制することができた。
本発明によれば、耐金属溶出特性に優れており、高温水環境においても金属成分の溶出が極めて少ない。したがって、本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、原子炉用配管等の原子力プラント用部材に好適である。

Claims (5)

  1. 表層にMnCr酸化物層を有するオーステナイト系ステンレス鋼であって、
    化学組成が、質量%で、
    C:0.005〜0.05%、
    Si:0.01〜2.0%、
    Mn:0.5〜2.0%、
    P:0.04%以下、
    S:0.003%以下、
    Ni:8.0〜22.0%、
    Cr:16.0〜26.0%、
    Mo:0.05〜3.0%、
    Cu:0〜1.0%、
    Ti:0〜0.1%、
    V:0〜0.2%、
    N:0.15%以下、
    残部:Feおよび不純物であり、
    前記MnCr酸化物層が、
    その全厚みが100nmを超え200nm以下であり、
    該酸化物層の厚み方向において、表層から距離が0〜100nmの領域に、質量%で、40.0%以上のCrを含有するCr濃化層が存在し、表層から距離が50〜150nmの領域に、質量%で、9.5〜50.0%のSiを含有するSi濃化層が存在し、かつ、前記Cr濃化層中のCr含有量の最大値が存在する位置が、前記Si濃化層中のSi含有量の最大値が存在する位置よりも表層側に存在する、
    オーステナイト系ステンレス鋼。
  2. 請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼であって、
    Cu:0.01〜1.0%を含有する、
    オーステナイト系ステンレス鋼。
  3. 請求項1または2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼であって、
    Ti:0.005〜0.1%および/または
    V:0.01〜0.2%を含有する、
    オーステナイト系ステンレス鋼。
  4. 請求項1から3までのいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼であって、
    250℃の純水中に100時間保持した後の鋼表面において、Cr、NiおよびFeを含む腐食生成物のうち、円相当径が200nm以上である腐食生成物の付着頻度が1個/μm以下である、オーステナイト系ステンレス鋼。
  5. 請求項1から4までのいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼で構成される、原子力プラント用構造体。
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