JP6477233B2 - オーステナイト系ステンレス鋼 - Google Patents
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Description
化学組成が、質量%で、
C:0.005〜0.05%、
Si:0.01〜2.0%、
Mn:0.5〜2.0%、
P:0.04%以下、
S:0.003%以下、
Ni:8.0〜22.0%、
Cr:16.0〜26.0%、
Mo:0.05〜3.0%、
Cu:0〜1.0%、
Ti:0〜0.1%、
V:0〜0.2%、
N:0.15%以下、
残部:Feおよび不純物であり、
前記MnCr酸化物層が、
その全厚みが100nmを超え200nm以下であり、
該酸化物層の厚み方向において、表層から距離が0〜100nmの領域に、質量%で、40.0%以上のCrを含有するCr濃化層が存在し、表層から距離が50〜150nmの領域に、質量%で、9.5〜50.0%のSiを含有するSi濃化層が存在し、かつ、前記Cr濃化層中のCr含有量の最大値が存在する位置が、前記Si濃化層中のSi含有量の最大値が存在する位置よりも表層側に存在する、
オーステナイト系ステンレス鋼。
Cu:0.01〜1.0%を含有する、
オーステナイト系ステンレス鋼。
Ti:0.005〜0.1%および/またはV:0.01〜0.2%を含有する、
オーステナイト系ステンレス鋼。
250℃の純水中に100時間保持した後の鋼表面において、Cr、NiおよびFeを含む腐食生成物のうち、円相当径が200nm以上である腐食生成物の付着頻度が1個/μm2以下である、オーステナイト系ステンレス鋼。
本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼の化学組成における各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において、各元素の含有量の「%」は、「質量%」を意味する。
Cは、脱酸の目的で0.005%以上含有させる。しかし、粒界炭化物の析出を防止するためには、その含有量は0.05%以下とする。好ましい上限は0.04%であり、より好ましい上限は0.020%である。また、好ましい下限は0.007%である。
Siは、脱酸の目的で0.01%以上含有させる。しかし、過剰な含有は、介在物の生成を促すため、その含有量は2.0%以下とする。好ましい上限は1.5%であり、より好ましい上限は1.0%である。また、好ましい下限は0.1%であり、より好ましい下限は0.05%である。
Mnは、Crとともに耐金属溶出性に優れた酸化皮膜を形成する効果を有する。Mnは、また、脱酸の効果を有する。よって、Mnは0.5%以上含有させる。しかし、Mnは、Sと結合して硫化物を形成する。この硫化物は、溶接時に溶接部表面に優先的に濃化する。よって、溶接部表面に濃化する硫化物が過剰になると、鋼材の耐食性を低下させるため、Mn含有量は2.0%以下とする。好ましい上限は1.8%であり、より好ましい上限は1.5%である。また、好ましい下限は0.8%である。
Pは、不純物として鋼材中に存在する元素である。その含有量が過剰になると溶接性が低下するため、その含有量は0.04%以下とする。好ましい上限は0.03%であり、より好ましい上限は0.025%である。
Sは、不純物として鋼材中に存在する元素である。その含有量が過剰になると、溶接部表面に濃化する硫化物が増加して、鋼材の耐食性を低下させるので、その含有量は0.003%以下とする。好ましい上限は0.002%であり、より好ましい上限は0.0015%である。
Niは、オーステナイト相を安定させ耐食性を維持するために重要な元素である。このため、8.0%以上含有させる。しかし、その効果は、含有量を増やしても飽和していき、価格上昇を招くだけである。よって、Ni含有量は22.0%以下とする。好ましい上限は20.0%であり、好ましい下限は9.5%である。
Crは、耐食性を保つために不可欠な元素である。Crは、鋼材表面で酸化皮膜を形成し、その酸化皮膜直下の母材でCr含有量が減少することがある。したがって、Crは16.0%以上含有させる。一方、Cr含有量を増加させると、オーステナイト相を安定化するためにNiも増加させなければならず、鋼材の価格上昇を招く。よって、Crの過剰な含有は避ける必要があり、その上限は26.0%とする。好ましい上限は24.5%であり、好ましい下限は17.5%である。
Moは、鋭敏化を抑制する効果があり、母材の耐食性を向上させるのに有効な元素であるので、0.05%以上含有させる。しかし、過剰な含有は、Laves相として粒界に析出して、鋭敏化を促すので、その上限は3.0%とする。好ましい上限は2.5%である。また、好ましい下限は0.1%であり、より好ましい下限は0.2%である。
Cuは、不働態皮膜を安定にし、母材の耐食性を向上させるのに有効な元素であるので、必要に応じて含有させてもよい。しかし、過剰に含有させると、Cuが粒界に偏析し、熱間加工時の表面割れ、溶接割れなどを助長するため、上限は1.0%とする。より好ましい上限は0.5%である。上記の効果を得るには0.01%以上含有させることが好ましい。より好ましい下限は0.05%である。
V:0〜0.2%
TiおよびVは、鋭敏化を抑制する効果があり、母材の耐粒界腐食性を一層改善する効果を有するため、必要に応じて一方または両方を含有させてもよい。しかし、これらの元素を過剰に含有させると、熱間加工性が劣化するため、これらの元素を含有させる場合には、Ti含有量は0.1%以下、V含有量は0.2%以下とする。上記の効果を得るためには、Tiは0.005%以上、Vは0.01%以上含有させることが好ましい。より好ましい下限は、Tiでは0.02%であり、Vでは0.05%である。より好ましい上限は、Tiでは0.05%、Vでは0.15%である。
Nは、強度を向上させる効果を有する。しかし、Nは、鋼中のCrと結合してCr窒化物を形成し、その量が過剰な場合には、粒界耐食性を低下させる。したがって、N含有量は0.15%以下とする。好ましい上限は0.12%であり、より好ましい上限は0.10%である。上記の効果は、微量でも得られるが、顕著となるのはNが0.05%以上含有する場合である。
本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼は、その表層にMnCr酸化物層を有する。このMnCr酸化物層は、その全厚みが100nmを超え200nm以下であり、該酸化物層の厚み方向において、表層から距離が0〜100nmの領域に、質量%で、40.0%以上のCrを含有するCr濃化層が存在し、表層から距離が50〜150nmの領域に、質量%で、9.5〜50.0%のSiを含有するSi濃化層が存在し、かつ、前記Cr濃化層中のCr含有量の最大値が存在する位置が、前記Si濃化層中のSi含有量の最大値が存在する位置よりも表層側に存在するものである。
SiおよびMnは、Crに比較して酸素ポテンシャルが低く、酸化されやすい。このため、本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼の表層には、まずSiを含有する酸化物が形成されることになる。しかし、本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼に含まれるSi含有量は、Cr含有量と比べると少ないため、鋼表面を十分に覆うには至らず、その欠陥を介してMnおよびCrの酸化物が外層側に点在するようになる。このとき、内層側にSi酸化物が点在していることにより、外層が急激な酸化が抑制され、その結果、外層に緻密なMnCr酸化物層が形成されることになる。その後、外層でMnCr酸化物層(MnCr2O4皮膜)が成長し、内層でSiを含有するようにMnCr酸化物が成長していくことになる。
MnCr酸化物層の外層は、母材、内層中に含まれるMnおよびCrが外層まで拡散することで生成する。本発明では、該酸化物層の厚み方向において、表層から距離が0〜100nmの領域に、質量%で、40.0%以上のCrを含有するCr濃化層が存在させることとしている。このため、Mn単独の酸化物に比べて、鋼の使用中において、MnCr2O4が生成しやすく、その結果、耐金属溶出特性が飛躍的に向上する。MnCr酸化物層中のCr含有量が高すぎると、気孔状の欠陥が形成されることがある。これは、Cr含有量が高すぎる酸化物層とは酸化物層が厚いを意味するからである。よって、Cr濃化層のCr含有量は70.0%以下とすることが好ましい。
MnCr酸化物層の全厚みが薄い場合は欠陥が存在し、母材からの金属溶出を十分に抑制することができない。また、Crは、Mnよりも拡散が遅いため、外層側に、質量%で、40.0%以上のCrを含有する領域を存在させて、優れた耐金属溶出特性を得るためには、100nmを超える膜厚を有することが重要である。一方、全厚みが厚すぎると、皮膜に気孔状の欠陥が形成され、金属溶出量が増加する。従って、全厚みは200nm以下とする。全厚みの好ましい下限は120nmである。全厚みの好ましい上限は160nmである。
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼の表層に所定のMnCr酸化物層を形成することができれば、その形成方法については特に制約がない。例えば、下記に示す条件で形成することができる。
酸化物層の深さ方向組成分布は、グロー放電発光分光分析装置(以下、GDSという)で測定した。MnCr酸化物層の全厚さは、深さ方向分布でCr濃化部の延長線と母材で濃度が一定になっている部分の延長線の交点から算出した。
内径20mmの純Ti管に純水と酸化物層を形成した短冊試験片を入れ、両端部を純Ti製のスウェージロックで封じて250℃で100h保持した。Cr、NiおよびFeの溶出量を評価するため,管とスウェージロックはTi製を用いた。250℃で100h保持した後、管中の溶液をサンプリングし、誘導結合プラズマ発光装置(以下、ICP−MSという)で分析を行った。金属の溶出量は、酸化物層を形成していない例における各金属の溶出量を100%として評価し、10%以下を効果ありと判断した。
250℃で過飽和の溶出金属は、常温では試験片表面に腐食生成物として付着するため、これを確認するべく、250℃の純水中に100時間保持した後の試験片表面を走査型電子顕微鏡(以下,SEMと呼称)で観察した。Cr、NiおよびFeを含む腐食生成物のうち、円相当径が200nm以上である腐食生成物の付着頻度が1個/μm2以下である場合を、腐食生成物が発生していないものとし、付着頻度が1個/μm2を超える場合を、腐食生成物が発生したものとした。
Claims (5)
- 表層にMnCr酸化物層を有するオーステナイト系ステンレス鋼であって、
化学組成が、質量%で、
C:0.005〜0.05%、
Si:0.01〜2.0%、
Mn:0.5〜2.0%、
P:0.04%以下、
S:0.003%以下、
Ni:8.0〜22.0%、
Cr:16.0〜26.0%、
Mo:0.05〜3.0%、
Cu:0〜1.0%、
Ti:0〜0.1%、
V:0〜0.2%、
N:0.15%以下、
残部:Feおよび不純物であり、
前記MnCr酸化物層が、
その全厚みが100nmを超え200nm以下であり、
該酸化物層の厚み方向において、表層から距離が0〜100nmの領域に、質量%で、40.0%以上のCrを含有するCr濃化層が存在し、表層から距離が50〜150nmの領域に、質量%で、9.5〜50.0%のSiを含有するSi濃化層が存在し、かつ、前記Cr濃化層中のCr含有量の最大値が存在する位置が、前記Si濃化層中のSi含有量の最大値が存在する位置よりも表層側に存在する、
オーステナイト系ステンレス鋼。 - 請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼であって、
Cu:0.01〜1.0%を含有する、
オーステナイト系ステンレス鋼。 - 請求項1または2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼であって、
Ti:0.005〜0.1%および/または
V:0.01〜0.2%を含有する、
オーステナイト系ステンレス鋼。 - 請求項1から3までのいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼であって、
250℃の純水中に100時間保持した後の鋼表面において、Cr、NiおよびFeを含む腐食生成物のうち、円相当径が200nm以上である腐食生成物の付着頻度が1個/μm2以下である、オーステナイト系ステンレス鋼。 - 請求項1から4までのいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼で構成される、原子力プラント用構造体。
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