以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、車載エンジン(内燃機関)より排出される排気を被検出ガスとして同排気中の酸素濃度(空燃比:A/F)を検出する空燃比検出装置を具体化しており、空燃比の検出結果はエンジンECU等により構成される空燃比制御システムにおいて用いられる。空燃比制御システムでは、空燃比をストイキ近傍でフィードバック制御するストイキ空燃比制御や、同空燃比を所定のリーン領域でフィードバック制御するリーン空燃比制御等が適宜実施される。
(第1実施形態)
はじめに、A/Fセンサの素子構造を図2を用いて説明する。このA/Fセンサは、エンジンの排気管に設けられ、排気管内を流れる排気を検出対象として排気中の酸素濃度に応じたセンサ出力を生じさせるものとしている。A/Fセンサは、固体電解質層を有し電圧印加状態で排気中の酸素濃度に応じた素子電流を流すセンサ素子10を備えており、図2には、積層型構造により構成されるセンサ素子10の断面構成を示す。センサ素子10は、実際には図2の紙面直交方向に延びる長尺状をなし、素子全体がハウジングや素子カバー内に収容される構成となっている。
センサ素子10は、固体電解質層11、拡散抵抗層12、遮蔽層13及び絶縁層14を有し、これらが図の上下に積層されて構成されている。同素子の周囲には図示しない保護層が設けられている。長方形板状の固体電解質層11は部分安定化ジルコニア製のシートであり、その固体電解質層11を挟んで上下一対の電極15,16が対向配置されている。この一対の電極15,16のうち電極15が排気側電極、電極16が大気側電極である。拡散抵抗層12は電極15へ排気を導入するための多孔質シートからなり、遮蔽層13は排気の透過を抑制するための緻密層からなる。拡散抵抗層12には、電極15を囲むようにして排気チャンバ17が設けられている。拡散抵抗層12と遮蔽層13は何れも、アルミナ、スピネル、ジルコニア等のセラミックスをシート成形法等により成形したものであるが、ポロシティの平均孔径及び気孔率の違いによりガス透過率が相違するものとなっている。なお、拡散抵抗層12は、ピンホールが形成されることにより構成されていてもよい。
絶縁層14はアルミナ等の高熱伝導性セラミックスからなり、電極16に対面する部位には大気室としての大気ダクト18が形成されている。また、同絶縁層14にはヒータ19が埋設されている。ヒータ19は、バッテリ電源からの通電により発熱する線状の発熱体よりなり、その発熱により素子全体を加熱する。
上記構成のセンサ素子10において、その周囲の排気は拡散抵抗層12の側方部位から導入された後、拡散抵抗層12内を経由して排気チャンバ17に流れ込み、電極15に達する。排気がリーンの場合、排気中の酸素が電極15で分解され、電極16より大気ダクト18に排出される。また、排気がリッチの場合、逆に大気ダクト18内の酸素が電極16で分解され、電極15より排気側に排出される。
本実施形態では、排気側電極である電極15を負極、大気側電極である電極16を正極としており、図2のように電極15を負(−)、電極16を正(+)としてこれら電極間に印加される印加電圧VPを正電圧としている。ゆえに、その逆に、電極15を正(+)、電極16を負(−)としてこれら電極間に印加される印加電圧VPが負電圧である。
図3は、センサ素子10の出力特性(V−I特性)を示す図面である。図3では、横軸を電圧、縦軸を電流とし、センサ素子10の印加電圧VPに対する素子電流ILの関係を表した特性線が示されている。図3の特性線において、横軸である電圧軸に概ね平行な直線部分は限界電流としての素子電流ILを特定する限界電流域であって、素子電流ILの増減は空燃比の増減、すなわちリーン・リッチの程度に対応している。つまり、空燃比がリーン側になるほど素子電流ILが増大し、空燃比がリッチ側になるほど素子電流ILが減少する。また、上記特性線において限界電流域よりも低電圧側は、V−I座標の原点を通り、かつセンサ素子10の直流抵抗Riの大きさに依存する傾きを有する抵抗支配域となっている。
センサ素子10においては、都度の空燃比に応じて適正な印加電圧VPが定められており、その印加電圧VPの電圧印加状態で素子電流ILが検出される。つまり、限界電流域は、上記のとおり電圧軸に概ね平行になっているが、詳しくは僅かに右上がりになっている。また、上記V−I特性にはセンサ素子10の直流抵抗Riに応じた傾きが生じている。この場合、素子電流ILに基づいて空燃比を正確に検出するには、印加電圧VPを適正に設定する必要があり、例えば図3に示すように、空燃比ごとに印加電圧VPが定められている。なお、各空燃比における印加電圧VPは、抵抗支配域と同じ傾きを有する直線L上に定められているとよい。
また本実施形態では、センサ素子10において固体電解質層11と各電極15,16との間に電極界面容量が存在していることに着目し、センサ素子10に対する電圧印加状態から電圧印加を停止した後において、電極界面容量に蓄えられた電荷により生じるセンサ素子10の発生電圧(素子電圧)に基づいて印加電圧制御を行うこととしている。以下に、その詳細を説明する。
まずはセンサ素子10の構成を図4によりあらためて説明する。図4は、センサ素子10の要部構成とその要部構成に対応する等価回路とを示す図である。
図4に示すように、センサ素子10は、ジルコニアZrO2よりなる固体電解質層11と、その両側の電極15,16と、排気の拡散を制限する拡散抵抗層12とが積層されて構成されている。この場合、センサ素子10は、抵抗及び容量からなる等価回路で表すことができる。この等価回路において、Rp1,Rp2は大気側電極16、排気側電極15のそれぞれの電極リード抵抗である。Rgは固体電解質層11の粒子抵抗である。Rf1,Cf1はそれぞれ電極16の側の電極界面抵抗、電極界面容量であり、Rf2,Cf2はそれぞれ電極15の側の電極界面抵抗、電極界面容量である。
また、図4の等価回路を簡略化すると、図5のように表すことができる。Rpは電極リード抵抗であり、Rgは固体電解質層11の粒子抵抗であり、Rf,Cfはそれぞれ電極界面抵抗、電極界面容量である。この等価回路では、一対の電極15,16間に電圧を印加した状態下において、電極リード抵抗Rpと固体電解質層11の粒子抵抗Rgとに電圧VRが印加され、電極界面抵抗Rf及び電極界面容量Cfの並列回路に電圧VCが印加されるものとなっている。
ここで、一対の電極15,16に対する電圧印加状態では、印加電圧VPが「VR+VC」に相当する電圧値となる。この電圧印加状態では、電極界面容量Cfに電荷が蓄えられる。そして、その状態から電圧印加を停止すると、電圧印加の停止後も暫くは電極界面容量に蓄えられた電荷が残ることから、印加電圧VPがその電荷分に相当する電圧に移行する。つまり、電圧印加状態では、センサ素子10において固体電解質層11や電極15,16の直流抵抗に印加される電圧VRと、電極界面容量に印加される電圧VCとを加算した電圧(VC+VR)が一対の電極15,16間に生じるのに対し、電圧印加の停止直後には、センサ素子10において電極界面容量に印加される電圧VCのみが一対の電極15,16間に生じることとなる。この場合、電圧VCは、センサ素子10のV−I出力特性である限界電流特性において限界電流を発生させている電圧に相当し、この電圧VCが適正であるか否かにより、所望の限界電流を生じさせる上で印加電圧が適正値であるか否かを判断できる。
これをセンサ素子10のV−I特性上にて説明する。図6において、空燃比がAであり、センサ素子10の一対の電極15,16間にVAを印加している場合、その印加電圧VAは、直流抵抗分の電圧VRと電極界面容量分の電圧VCとの加算値に相当する。この状態から一対の電極15,16間の電圧印加を停止すると、直流抵抗分の電圧VRが無くなり、電極界面容量分の電圧VCのみとなる。この場合、電圧VCは、限界電流域αにおける電圧印加位置を表すものであり、換言すれば、限界電流域αにおいて所望の位置で電流検出が行われているかどうかを表すものとなっている。
ここで、限界電流域αは概ねフラットな領域であるが、実際には僅かな傾きを有している。そのため、限界電流域αにおける電圧印加位置が所望の位置からずれていると、電流検出値にずれが生じ、結果として空燃比の検出値に誤差が生じるおそれがある。
そこで本実施形態では、センサ素子10の一対の電極15,16間に電圧を印加した状態から電圧印加を停止した後に、その電圧印加停止の状態における一対の電極15,16間の電圧である素子電圧を算出し、その素子電圧に基づいて、印加電圧VPを制御することとしている。この場合特に、素子電圧が、あらかじめ定めた目標値に一致するよう印加電圧VPをフィードバック制御する。
印加電圧VPのフィードバック制御の概要を図7で説明する。空燃比がAであり、センサ素子10の一対の電極15,16間にVA1を印加している状態では、直流抵抗分の電圧はVR、電極界面容量分の電圧はVC1である。この状態から電圧印加を停止することで電圧VC1が検出され、その電圧VC1が目標値Vtgよりも小さければ、電圧VC1と目標値Vtgとの差に応じて、印加電圧VPが増加側のVA2に変更される。この場合、電極界面容量分の電圧が目標値Vtgと同じVC2になることで、限界電流域αにおいて所望の位置で電流検出が行われることとなる。目標値Vtgは例えば0.4Vである。
次に、本実施形態の主要な構成を実現するセンサ制御回路30について図1を参照しながら説明する。
概要として、センサ制御回路30は、センサ素子10の大気側電極16に接続される正側端子S+と排気側電極15に接続される負側端子S−とを介してセンサ素子10に接続されている。センサ制御回路30は、センサ素子10に流れる素子電流IL、及びセンサ素子10のインピーダンスを検出し、その検出結果をエンジンECU50に対して出力する。エンジンECU50は、素子電流ILの検出結果に基づいて排気の空燃比を把握し、空燃比フィードバック制御等を適宜実施する他、素子インピーダンスの検出結果に基づいてヒータ19の通電制御を実施する。
センサ制御回路30において、両端子S+,S−のうち負側端子S−の側には、素子電流IL及び素子インピーダンスを検出するための構成として、交流信号生成部31とアンプ部32と電流検出抵抗33とが設けられている。交流信号生成部31は、インピーダンス検出用の信号として所定周波数の交流信号を出力し、その交流信号が基準電圧Vref(例えば2.5V)と合成されてアンプ部32に対して出力される。この場合、電流検出抵抗33の両端においてアンプ部32側の電圧は基準電圧Vrefを中心に交流変化するようになっている。
また、素子電流ILは電流検出抵抗33を介して流れ、電流検出抵抗33の両端においてセンサ素子10側の電圧、すなわち負側端子電圧VS−が素子電流ILに応じて変化する。例えば排気がリーンの場合、センサ素子10において正側端子S+から負側端子S−に電流が流れるためVS−が上昇し、リッチの場合、負側端子S−から正側端子S+に電流が流れるためVS−が低下する。この場合、負側端子電圧VS−が電圧検出部34により検出され、その検出信号が電流検出部35とインピーダンス検出部36とにそれぞれ入力される。電流検出部35は、負側端子電圧VS−に基づいて素子電流ILを検出する。インピーダンス検出部36は、負側端子電圧VS−に基づいて素子インピーダンスを検出する。
インピーダンス検出について補足する。交流信号生成部31から交流信号が出力される状態では、電圧検出部34から出力されるVS−検出信号が、素子インピーダンスに応じた振幅で交流変化することから、インピーダンス検出部36では、VS−検出信号の振幅を検出するとともに、その振幅に相当する信号をインピーダンス検出信号として出力する。なおこの場合、エンジンECU50では、交流電圧の変化量と交流電流の変化量とから素子インピーダンスが算出される。
また、センサ制御回路30において正側端子S+の側には、センサ素子10への印加電圧を制御するための構成として、素子電圧算出部41と印加電圧制御部42とアンプ部43とスイッチ44とが設けられている。このうちスイッチ44は、センサ素子10に対する電圧印加経路(すなわち通電経路)に設けられ、例えば半導体素子よりなる。スイッチ44が開閉手段に相当する。スイッチ44を閉状態にすることにより、印加電圧制御部42を通じてセンサ素子10に所定電圧が印加され、スイッチ44を開状態にすることによりセンサ素子10に対する印加電圧が遮断される。
素子電圧算出部41は、センサ素子10に対して電圧印加した状態から電圧印加を停止した後においてセンサ素子10の電極界面容量分の電圧VCに相当する素子電圧Vxを算出する。具体的には、素子電圧算出部41は、スイッチ44がオンからオフに切り替えられた後に、電圧検出部45により検出された正側端子電圧VS+と、電圧検出部34により検出された負側端子電圧VS−とを入力し、それらVS+,VS−の差により素子電圧Vxを算出する。
印加電圧制御部42は、素子電圧Vxを目標値と比較し、その大小関係に基づいて印加電圧VPを増加又は減少させる。これにより、素子電圧Vxが目標値に一致するようにして電圧フィードバックが実施される。印加電圧制御部42から出力される印加電圧VPは基準電圧Vref(例えば2.5V)と合成されてアンプ部43に対して出力される。
センサ制御回路30において電圧印加停止、素子電圧算出、印加電圧制御の各機能はソフトウエアプログラムの実行により実現されるとよい。この場合、素子電圧算出部41や印加電圧制御部42は、CPU、各種メモリ、A/D変換器等を有する周知のマイクロコンピュータ40により構成され、例えばASICとして実現される。以下に、センサ制御回路30において実施される印加電圧制御に関してより詳細な処理内容を図8のフローチャートを用いて説明する。図8の処理は、マイクロコンピュータ40により所定周期で実施される。
図8において、ステップS11では、印加電圧VPのフィードバック処理を実施する実施条件が成立しているか否かを判定する。このとき、例えば前回のフィードバック処理からの経過時間が所定時間に達したことに基づいて実施条件が成立するとよい。所定時間は例えば1〜数msecである。フィードバック処理の実施条件が成立していればステップS12に進み、成立していなければステップS21に進む。なお、実施条件の成立に伴いフィードバック処理が実施される場合には、インピーダンス検出のための交流信号の出力が一時的に停止されるようになっている。
フィードバック処理の実施条件が成立していない場合に、ステップS21に進むと、スイッチ44をオン(閉鎖)状態とする。続くステップS22では、現時点で決定されている印加電圧VPによりセンサ素子10への電圧印加を実施する。
また、フィードバック処理の実施条件が成立している場合、ステップS12では、今現在スイッチ44がオン状態になっているか否かを判定し、オン状態になっていればステップS13に進んで、スイッチ44をオフ(開放)状態にする。
その後、ステップS14では、スイッチ44のオフ後において、素子電圧Vxを安定して算出可能な状態であるか否かを判定する。つまり、スイッチ44をオン状態からオフ状態に切り替える際には、そのオフ直後においてセンサ素子10の内部電圧が一時的に変動する。そのため、スイッチ44のオフ後において電圧変動が収まるまでの所定時間、すなわち安定待ち時間が経過したか否かにより、素子電圧Vxを安定して算出可能な状態であるか否かを判定する。そして、素子電圧Vxを安定して算出可能な状態であることを条件に、ステップS15に進んで素子電圧Vxを算出する。このとき、正側端子電圧VS+と負側端子電圧VS−との差により素子電圧Vxを算出する。
その後、ステップS16では、素子電圧Vxが目標値Vtgよりも小さいか否か判定し、ステップS17では、素子電圧Vxが目標値Vtgよりも大きいか否か判定する。そして、Vx<Vtgであれば、ステップS18に進み、印加電圧VPを増加側に変更する。また、Vx>Vtgであれば、ステップS19に進み、印加電圧VPを減少側に変更する。このとき、例えば一定の電圧変更量を定めておき、その電圧変更量をスイッチオフ直前の印加電圧VPに対して加算又は減算することで、新たな印加電圧VPを算出する。なお、素子電圧Vxと目標値Vtgとの偏差を算出するとともに、その偏差に基づいてPフィードバック演算、又はPIフィードバック演算を実施して電圧変更量を算出する構成であってもよい。その後、ステップS20では、今回のフィードバック処理を一旦終了する旨を判定する。
ステップS16,S17が共に否定される場合には、スイッチオフ直前の印加電圧VPを変更することなくステップS20に進み、今回のフィードバック処理を一旦終了する旨を判定する。その後、ステップS21では、スイッチ44をオン状態とし、続くステップS22では、現時点で決定されている印加電圧VPによりセンサ素子10への電圧印加を実施する。
ところで、上記のようにスイッチ44を一時的にオフする場合には、センサ素子10の一対の電極15,16間の電圧差と、素子電流ILとが図9のように変化する。つまり、図9において、タイミングt1でスイッチ44がオフされ、タイミングt2でスイッチ44がオンされる場合に、一対の電極15,16間の電圧差と素子電流ILとが図示のごとく増減変化する。この場合、スイッチ44のオフからオンへの切替時に素子電流ILにテーリングの現象が生じ、これに起因する電流検出精度の低下が懸念される。そこで本実施形態では、スイッチ44のオン切替後において所定時間Tdが経過するまでは電流検出を禁止し、その所定時間Tdが経過したタイミングt3以後に電流検出を行うようにしている。
素子電流ILの検出を許可する期間と禁止する期間とは電流検出部35において管理されるとよい。この場合、マイクロコンピュータ40のソフトウエア処理として電流検出部35の機能が実現されるとよく、具体的には、図10に示す電流検出処理により素子電流ILが検出される。
図10において、ステップS31では、今現在スイッチ44がオン状態になっているか否かを判定し、続くステップS32では、スイッチ44がオフからオンに切り替えられてから所定時間が経過したか否かを判定する。そして、ステップS31,S32が共にYESであれば、素子電流ILの検出を許可する。すなわち、ステップS33において負側端子電圧VS−に基づいて素子電流ILを検出し、その後本処理を一旦終了する。また、ステップS31,S32のいずれかがNOであれば、素子電流ILを検出することなく本処理を一旦終了する。
次に、エンジン運転状態の変化等に伴い空燃比が変化する場合、及びセンサ素子10の温度が変化する場合を例示して、上記印加電圧制御の具体的内容について説明する。図11は、空燃比が例えばA/F18からA/F16に変化する場合における印加電圧制御を説明するための説明図であり、図12は、センサ素子10の温度が例えば700℃から600℃に変化する場合における印加電圧制御を説明するための説明図である。
なおここでは、フィードバック処理において印加電圧VPを所定値ずつ変更することにより素子電圧Vxを目標値Vtgに一致させる構成について例示している。黒丸印は目標値Vtgを示し、白丸印は目標値Vtgに到達する前の素子電圧Vxを示している。また、図11及び図12には、処理の順序を示すために括弧書き数字が付されている。
まず図11において、A/F18からA/F16に変化した直後は、A/F18相当の印加電圧VPが印加された状態になっており、スイッチオフ後の素子電圧Vxが目標値Vtgに対して大きい値となっている。そのため、印加電圧VPが減少側に変更される。ここまでの処理の流れが(0)→(1)→(2)→(3)である。
その後、再びスイッチオフ後の素子電圧Vxと目標値Vtgとが比較され、素子電圧Vxが目標値Vtgよりも大きいと、印加電圧VPがさらに減少側に変更される。この処理の流れが(3)→(4)→(5)である。その後、素子電圧Vxが目標値Vtgに一致するまで、(3)→(4)→(5)の処理が必要に応じて繰り返し実施される。
そして、素子電圧Vxが目標値Vtgに一致すると、印加電圧VPは変更されずその時の値のまま保持される。この処理の流れが(5)→(6)→(7)である。なお、素子電圧Vxが目標値Vtgに一致した場合には、電圧印加の停止前の電圧が、目標とすべき印加電圧であり、(7)の電圧と(5)の電圧とは一致する。以後、空燃比の変化が再び生じる都度、その空燃比の変化に追従して同様の処理が実施される。
また、図12において、素子温度が700℃の場合と600℃の場合とでは、直流抵抗Riの大きさが相違することから、限界電流域が電圧軸に沿ってシフトする。したがって、仮に素子温度が700℃の場合に限界電流域の所望の位置で印加電圧VPが設定されていても、素子温度が600℃に変化することで、印加電圧VPが限界電流域の所望の位置から外れてしまう。
かかる場合、素子温度が700℃から600℃に変化した直後は、スイッチオフ後の素子電圧Vxが目標値Vtgに対して小さい値となっている。そのため、印加電圧VPが増加側に変更される。ここまでの処理の流れが(0)→(1)→(2)→(3)である。
その後、再びスイッチオフ後の素子電圧Vxと目標値Vtgとが比較され、素子電圧Vxが目標値Vtgよりも小さいと、印加電圧VPがさらに増加側に変更される。この処理の流れが(3)→(4)→(5)である。その後、素子電圧Vxが目標値Vtgに一致するまで、(3)→(4)→(5)の処理が必要に応じて繰り返し実施される。
そして、素子電圧Vxが目標値Vtgに一致すると、印加電圧VPは変更されずその時の値のまま保持される。この処理の流れが(5)→(6)→(7)である。なお図11と同様に、(7)の電圧と(5)の電圧とは一致する。以後、素子温度の変化が再び生じる都度、その素子温度の変化に追従して同様の処理が実施される。
以上説明した実施形態によれば以下の効果を奏する。
センサ素子10において一対の電極15,16間に電圧を印加した状態から電圧印加を停止した後に、その電圧印加停止の状態における一対の電極15,16間の電圧である素子電圧Vxを算出し、その素子電圧Vxに基づいて印加電圧VPを制御する構成とした。この場合、電圧印加停止後の素子電圧Vxによれば、限界電流域での印加電圧VPのずれを好適に把握できる。また特に、直流抵抗Riの大きさに依存せずに印加電圧VPを適正化できるため、印加電圧制御のための定数の設定が不要となる。その結果、構成の簡易化を図りつつ、センサ素子10における印加電圧制御を適正に実施することができる。
例えばA/Fセンサとして複数の型式が存在し、それら各センサで出力特性が異なる場合にも、各々個別にセンサ制御回路を用意する必要がなく、さらにASIC外のハード定数について型式ごとの設定作業も不要となっている。つまり、上記構成によれば、共通の印加電圧制御により複数の型式に対応が可能となっており、設計及び製造に関してコスト低減を実現できる。
また、上記構成では、素子温度が低下しても、その温度低下に追従して適正なる印加電圧制御を継続できる。したがって、素子温度の低温化を図ることが可能となり、ヒータ電力を節約できることから省電力化の効果を期待することもできる。これにより、車両における燃費向上を図ることもできる。
電圧印加の遮断直後に検出した素子電圧Vxが目標値Vtgに一致するように印加電圧VPのフィードバック制御を実施する構成にしたため、センサ素子10に対する印加電圧VPが適正値からずれてしまっても、その印加電圧VPをいち早く適正値に戻すことができる。
センサ素子10の一方の電極に接続されるスイッチ44をオン状態かオフ状態に移行させる際には、そのオフ直後において一時的に電圧変動が生じる。この点、上記構成では、スイッチオフ直後において、所定の安定待ち時間が経過した時点で素子電圧Vxを算出する構成にしたため、スイッチオフ後の電圧変動の影響を回避しつつ適正に素子電圧Vxを算出することができる。
スイッチ44を一時的にオフにした後、スイッチ44をオンする際に、スイッチオン後に所定時間の経過を待って素子電流ILの検出を開始する構成にした。これにより、スイッチオン直後においてテーリングの発生による素子電流ILの誤検出を抑制できる。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。なお以下の説明では、上述の実施形態と同様の構成については同じ符号を付すとともに、重複の説明を適宜省略することとしている。
上記第1実施形態では、センサ素子10において一対の電極15,16間の印加電圧を制御することで、その一対の電極15,16間に所定の電位差を生じさせ、その状態で素子電流ILを検出する構成としたが、本実施形態では上記構成を変更し、一対の電極15,16間への電流供給量を制御することで、その一対の電極15,16間に所定の電位差を生じさせ、その状態で素子電流ILを検出する構成とする。センサ素子10の電圧制御に関しては、一対の電極15,16間への電流供給状態(通電状態)からその電流供給を停止した後に、電流供給停止の状態における一対の電極15,16間の電圧である素子電圧Vxを算出し、その素子電圧Vxに基づいて、一対の電極15,16間の電圧差を制御する。
図13は、本実施形態におけるセンサ制御回路30の構成図である。図13について図1との相違点を中心に説明する。
図13において、センサ制御回路30の負側端子S−の側には、基準電圧生成部61とアンプ部32と電流検出抵抗33とが設けられている。基準電圧生成部61は、所定の基準電圧Vrefを生成し出力する。
また、正側端子S+の側には、センサ素子10への電流供給量を制御するための構成として、素子電圧算出部41と電流制御部62と交流信号生成部63とV−I変換部64とアンプ部43とスイッチ44とが設けられている。電流制御部62は、センサ素子10への電流供給量に相当する指示電圧Vinを算出し出力する。交流信号生成部63は、インピーダンス検出用の信号として所定周波数の交流信号を出力する。そして、電流制御部62の指示電圧Vinと交流信号生成部63の交流信号とが合成されてV−I変換部64に対して出力される。V−I変換部64は、交流電圧を交流電流に変換し、変換後の交流電流がスイッチ44を介してセンサ素子10に供給される。
スイッチ44をオン(閉状態)にすることで、電流制御部62から出力される指示電圧Vin(電流供給量に相当)に基づいて、センサ素子10に対する電流供給が行われる。また、スイッチ44をオフ(開状態)にすることで、センサ素子10に対する電流供給が停止される。
素子電圧算出部41は、センサ素子10に対する電流供給が停止された後においてセンサ素子10の電極界面容量分の電圧VCに相当する素子電圧Vxを算出する。具体的には、素子電圧算出部41は、スイッチ44がオンからオフに切り替えられた後に、電圧検出部45により検出された正側端子電圧VS+と、電圧検出部34により検出された負側端子電圧VS−とを入力し、それらVS+,VS−の差により素子電圧Vxを算出する。
電流制御部62は、素子電圧Vxを目標値と比較し、その大小関係に基づいて指示電圧Vinを増加又は減少させる。これにより、素子電圧Vxが目標値に一致するようにしてフィードバック処理が実施される。
センサ制御回路30において電流供給停止、素子電圧算出、電流制御の各機能はソフトウエアプログラムの実行により実現されるとよい。この場合、素子電圧算出部41や電流制御部62は、CPU、各種メモリ、A/D変換器等を有する周知のマイクロコンピュータ60により構成され、例えばASICとして実現される。以下に、センサ制御回路30において実施される電流制御に関してより詳細な処理内容を図14のフローチャートを用いて説明する。図14の処理は、マイクロコンピュータ60により所定周期で実施される。なお、図14の処理は、図8の処理の一部を変更したものである。
図14において、ステップS41〜S45は、図8のステップS11〜S15と同様の処理であり、指示電圧Vinのフィードバック処理を実施する実施条件が成立している場合に、スイッチ44を一時的にオフ状態にし、スイッチオフ後の安定状態下でVS+とVS−との差により素子電圧Vxを算出する。
そしてその後、ステップS46では、素子電圧Vxが目標値Vtgよりも小さいか否か判定し、ステップS47では、素子電圧Vxが目標値Vtgよりも大きいか否か判定する。そして、Vx<Vtgであれば、ステップS48に進み、指示電圧Vinを増加側に変更する。また、Vx>Vtgであれば、ステップS49に進み、指示電圧Vinを減少側に変更する。このとき、例えば一定の電圧変更量を定めておき、その電圧変更量をスイッチオフ直前の指示電圧Vinに対して加算又は減算することで、新たな指示電圧Vinを算出する。なお、素子電圧Vxと目標値Vtgとの偏差を算出するとともに、その偏差に基づいてPフィードバック演算、又はPIフィードバック演算を実施して電圧変更量を算出する構成であってもよい。その後、ステップS50では、今回のフィードバック処理を一旦終了する旨を判定する。
ステップS46,S47が共に否定される場合には、スイッチオフ直前の指示電圧Vinを変更することなくステップS50に進み、今回のフィードバック処理を一旦終了する旨を判定する。その後、ステップS51では、スイッチ44をオン状態とし、続くステップS52では、現時点で決定されている指示電圧Vinによりセンサ素子10への電流供給を実施する。
ところで、電流制御部62によりセンサ素子10への電流供給量を制御する構成では、スイッチ44を一時的にオフにした後に、スイッチ44をオンする際において、スイッチオン当初における電流のテーリングの発生が抑制される。つまり、図15に示すように、タイミングt11でスイッチ44がオフされ、タイミングt12でスイッチ44がオンされる場合において、スイッチオン当初から電流制御部62による電流制御が開始されるためにテーリングの発生が抑制される。この場合、電流検出部35は、スイッチ44のオン切替後において電流供給の開始当初から素子電流ILの検出を開始する。したがって、素子電流ILの検出が不可となる期間は概ね図15のt11〜t12の期間となり、空燃比の不検出期間の短縮を図ることができる。
本実施形態では、センサ素子10への電流供給量を制御する構成において、通電遮断状態での素子電圧Vxを算出し、その素子電圧Vxが目標値に一致するようにして電流制御を実施することにしたため、印加電圧を制御する構成の第1実施形態と同様に、センサ素子10において一対の電極15,16間の電圧差を適正値にすることができる。これにより、構成の簡易化を図りつつも、素子電流ILの検出、すなわち空燃比の検出を適正に実施できる。
図示による説明は省略するが、上記の電流制御によれば、エンジン運転状態の変化等に伴い空燃比が変化する場合に、素子電圧Vxを目標値にフィードバックさせることにより電流供給量の調整が行われる。これにより、空燃比の変化に追従させつつ電流供給量が適正に制御される。また、センサ素子10の温度が変化する場合においても、やはり素子電圧Vxを目標値にフィードバックさせることにより電流供給量の調整が行われる。これにより、素子温度の変化に追従させつつ電流供給量が適正に制御される。
(他の実施形態)
上記各実施形態を例えば次のように変更してもよい。
・図8のステップS18,S19において素子電圧Vxと目標値Vtgとの差に基づいて所定値ずつ印加電圧VPを変更する際に、印加電圧VPの変更量を、素子電圧Vxと目標値Vtgとの差が小さい場合にその差が大きい場合に比べて小さくする構成としてもよい。この場合、例えば図16の関係を用い、素子電圧Vxと目標値Vtgとの電圧差に基づいて電圧変更量を設定するとよい。なお、素子電圧Vxと目標値Vtgとの差が小さい場合に、その差が大きい場合に比べて印加電圧VPの変更量が小さくなるものであれば、図16の関係は任意であり、電圧差に対してより細かく電圧変更量を定めておくことも可能である。
素子電圧Vxと目標値Vtgとの差に応じて印加電圧VPの変更量を可変にすることで、素子電圧Vxと目標値Vtgとの差が比較的大きい状態にあっても、目標値Vtgへの収束を早めることができる。また、素子電圧Vxと目標値Vtgとの差が比較的小さい場合には、目標値Vtgに対して素子電圧Vxを一致させる精度を高めることができる。
なお、図14のステップS48,S49において素子電圧Vxと目標値Vtgとの差に基づいて所定値ずつ指示電圧Vinを変更する際に、指示電圧Vinの変更量を、素子電圧Vxと目標値Vtgとの差が小さい場合にその差が大きい場合に比べて小さくする構成としてもよい。
・図8のステップS11、又は図14のステップS41においてフィードバック処理の実施条件の成否を判定する際に、エンジン運転状態の変化に伴い空燃比の変化が生じる状態にある場合に実施条件が成立する旨を判定するようにしてもよい。具体的には、空燃比フィードバック制御の目標空燃比がストイキからリーン値、リッチ値のいずれかに変更された場合に、又はその逆の場合に、フィードバック処理の実施条件が成立したと判定する。
また、図8のステップS11、又は図14のステップS41においてフィードバック処理の実施条件の成否を判定する際に、エンジン運転状態の変化に伴いセンサ素子10の温度変化が生じる状態にある場合に実施条件が成立する旨を判定するようにしてもよい。具体的には、車両の加速要求に伴い排気温度が上昇する場合、又は車両減速時の燃料カットにより排気温度が低下する場合に、フィードバック処理の実施条件が成立したと判定する。
エンジン運転状態の変化に伴い空燃比が変化したりセンサ素子10の温度が変化したりすると、それに起因して、センサ素子10への印加電圧VP又は電流供給量のずれが生じる。この場合、エンジン運転状態の変化に伴う空燃比の変化が生じること、又は素子温度の変化が生じることを判定し、その判定結果に基づいてフィードバック処理を実施する構成にしたため、必要に応じて適度にフィードバック処理を実施できる。なお、フィードバック処理のために必要以上にスイッチオフが実施されると、素子電流ILの検出やインピーダンス検出の中断が増えてこれら各検出への影響が懸念されるが、フィードバック処理を適度に実施することで、素子電流ILの検出やインピーダンス検出への影響を抑制できる。
・一対の電極15,16間の電圧差を増加させる側に変更する場合に、その電圧差が所定の上限電圧に達したか否かを判定し、電圧差が上限電圧に達したと判定される場合に、電圧差の増加を停止させる構成にしてもよい。例えばセンサ素子10の温度が低下する場合には、図17に示すように、V−I特性の傾きが小さくなり、限界電流域(フラット域)が高電圧側にシフトする。この場合、素子電圧Vxが目標値に一致するまで印加電圧VPを増加させると、印加電圧VPが過剰に大きくなり、センサ素子10において黒色化等の不具合の発生が懸念される。そこで、例えば1Vを上限値として定めておき、印加電圧VPが上限値に達した時点でフィードバック処理を停止させる。
具体的には、センサ制御回路30のマイクロコンピュータ40は、図8のステップS18において印加電圧VPが上限値に達しているか否かを判定し、印加電圧VPが上限値に達している場合に、印加電圧VPの増加を停止させる。印加電圧VPが上限値に達する場合には、印加電圧VPをあらかじめ定めた規定値(例えば0.4V)に固定する構成であってもよい。
また、図14でも同様に、ステップS48において、指示電圧Vinが上限値に達しているか否かを判定し、指示電圧Vinが上限値に達している場合に、指示電圧Vinの増加を停止させるとよい。
・素子電圧Vxの目標値Vtgを空燃比ごとに設定することも可能である。この場合、空燃比と目標値Vtgとの関係を規定した関係データをあらかじめ用意しておき、その関係データを用いて空燃比ごとに目標値Vtgを設定する。
・酸素濃度を検出可能とするA/Fセンサ以外に、NOxやHCなど、他のガス濃度成分を検出可能とするガスセンサにも本発明が適用できる。例えば、固体電解質層にて形成された複数のセルを有し、そのうち第1セル(ポンプセル)では被検出ガス中の酸素を排出又はくみ出すとともに酸素濃度を検出し、第2セル(センサセル)では酸素排出後のガスから特定成分(NOx、HCなど)のガス濃度を検出するガスセンサへの適用が可能である。
・エンジンの吸気通路に設けられるガスセンサや、ガソリンエンジン以外にディーゼルエンジンなど他の形式のエンジンに用いられるガスセンサを対象とするガスセンサ制御装置としても具体化できる。また、ガスセンサは、車両以外の用途で用いられるものであってもよく、さらにはエンジンの吸気や排気以外を被検出ガスとするものであってもよい。