JP6459725B2 - 多孔質アルミニウム焼結体、多孔質アルミニウム複合部材、多孔質アルミニウム焼結体の製造方法、多孔質アルミニウム複合部材の製造方法 - Google Patents
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Description
また、熱交換器の冷却通路として多孔質体を用いる場合、開気孔率が高いほど比表面積が大きくなる、すなわち熱交換面積が大きくなることから、熱交換性能が向上する。さらに、開気孔率が高いほどその内部を流れる熱媒体(流体)の圧力損失(流路抵抗)が低下するため、熱交換器の冷却通路として多孔質体を用いる場合、70〜90%程度の高開気孔率のアルミニウム多孔体を用いることが好ましい。
アルミニウム粉末が安定なAl2O3の酸化被膜で覆われているため、ゆるやかに充填された(すなわち低嵩密度の)アルミニウム粉末を原料とする多孔質成形体では、一般的な金属では融点の1/2程度の温度から始まる固相焼結がほとんど進行しない。一方で、融点付近になると固相から液相への遷移過程で生じる体積膨張により酸化被膜が破壊されると同時に、融液の粉末粒子間及び粒界への広がりに伴う液相焼結が急速に進行することで、焼結収縮とそれに伴う高密度化が一気に進んでしまうことから、高気孔率を維持したまま焼結を進行させるのは困難である。これらのことから、アルミニウム粉末を原料として多孔質アルミニウム焼結体を形成した場合、高強度と高気孔率の両立を図ることは困難であった。
さらに、粘性組成物のようにアルミニウム繊維同士の間にバインダーが多く存在していないことから、焼結時の脱バインダーによる収縮率が小さく、寸法精度に優れた多孔質アルミニウム焼結体を得ることが可能となる。
そして、前記アルミニウム繊維同士の結合部にAl−Mg−Si−Fe合金相,Mg−Si−Fe合金相のうちの1種もしくは両方の合金相が存在しているので、この合金相によって結合部が強化されることになり、多孔質アルミニウム焼結体全体の強度を向上させることができる。
さらに、多孔質アルミニウム焼結体中には、Feが0.01質量%以上3.00質量%以下含まれていることから、焼結性を向上させ、多孔質アルミニウム焼結体全体の強度を高めることが可能となる。
この構成の多孔質アルミニウム複合部材によれば、上述の気孔率が高く、強度に優れた多孔質アルミニウム焼結体が部材本体と強固に接合されていることから、表面積が大きく熱交換効率等の各種特性に優れた多孔質アルミニウム焼結体単体の特性を、多孔質アルミニウム複合部材としても発揮する。
多孔質アルミニウム焼結体と部材本体との部材結合部の内部に、Al−Mg−Si−Fe合金相,Mg−Si−Fe合金相のうちの1種もしくは両方の合金相が存在しているので、多孔質アルミニウム焼結体と部材本体との接合強度が大幅に向上することになる。
ただし、前記アルミニウム繊維中に合金成分として既にSiもしくは/およびMg成分が含有されている場合には、前記アルミニウム繊維の他に添加するSi粉およびSi合金粉のいずれか一方または両方の添加量をSi換算で0.05質量%以上13質量%以下、前記Mg粉および前記Mg合金粉のいずれか一方または両方の添加量をMg換算で0.05質量%以上13質量%以下とし、前記焼結用アルミニウム原料全体でのSiもしくは/およびMg成分が、それぞれ0.05質量%以上15.00質量%以下となるようにする。
上記のSi粉もしくは/およびSi合金粉は、純アルミニウム繊維もしくはアルミニウム合金繊維の表面に固着した状態で、加熱されることにより、繊維表層部に拡散し、固着部近傍で局所的な融点降下効果を引き起こす。これにより、純アルミニウム繊維もしくはアルミニウム合金繊維の融点より、より低温で局所的に液相を生じることによって、充填時の形状を保持したまま、焼結を促進させることが出来る。
上記のMg粉もしくは/およびMg合金粉は、純アルミニウム繊維もしくはアルミニウム合金繊維の表面に固着した状態で、加熱されることにより、Al2O3の酸化被膜の還元剤として働き、酸化被膜を破壊しやすくする作用を有し、焼結結合を促進する働きがある。また、繊維表面に固着したMgおよびSiもしくは/およびそれらの合金粉がマトリクスの純アルミニウム繊維もしくはアルミニウム合金繊維と局所的に反応する事で、固着部近傍で局所的なマトリクスの融点降下効果を引き起こし、MgおよびSi無添加時に比べて、純アルミニウム繊維もしくはアルミニウム合金繊維の融点より、より低温で局所的に液相を生じさせることによって、焼結に伴う収縮を抑制、すなわち充填時の形状を保持したまま、焼結を促進させることが出来る。その結果、気孔率の高い多孔質アルミニウム焼結体を製造することができる。
Fe単体での融点降下効果は小さいが、Siと共に存在する事によりAl−Fe−Si合金相、もしくはFe−Si合金相を形成して、前述のSiの融点降下効果を強化する働きがある。また、Mgによる局所的なマトリクスの溶融が起きたときに、未溶融アルミニウム繊維と溶融部との間にFeが存在することで、未溶融アルミニウム繊維内部へのMgの拡散を阻害し、Mgのアルミニウム繊維内部への拡散速度を遅くする効果がある。これは、MgのFe中への固溶度が非常に小さいためである。これにより、焼結時において、Mgが一時的にアルミニウム繊維表面に高濃度で分布している状態となり、アルミニウム繊維の表面のみで、アルミニウムの融点降下効果が起こり、結果、固着したアルミニウム繊維同士での焼結を促進させることができる。
ただし、前記アルミニウム繊維中に合金成分として既にSiもしくは/およびMg成分が含有されている場合には、前記アルミニウム繊維の他に添加するSi粉およびSi合金粉のいずれか一方または両方の添加量をSi換算で0.05質量%以上13.00質量%以下、前記Mg粉および前記Mg合金粉のいずれか一方または両方の添加量をMg換算で0.05質量%以上13.00質量%以下とし、前記焼結用アルミニウム原料全体でのSiもしくは/およびMg成分が、それぞれ0.05質量%以上15.00質量%以下となるようにする。
図1に、本実施形態である多孔質アルミニウム焼結体10を示す。図1に示すように、本実施形態である多孔質アルミニウム焼結体10は、複数のアルミニウム繊維11が焼結されて一体化されたものである。また本実施形態では、その気孔率が50%以上90%以下の範囲内に設定されたものとされている。
見掛気孔率P(%)=(1−(m÷(V×d)))×100
なお、真密度d(g/cm3)は、精密天秤を用いて、水中法によって測定できる。
アルミニウム繊維11の直径Rが0.02mm未満の場合には、アルミニウム繊維同士の接合面積が小さく、焼結強度が不足するおそれがある。一方、アルミニウム繊維11の直径Rが1.0mmを超える場合には、アルミニウム繊維同士が接触する接点の数が不足し、やはり、焼結強度が不足するおそれがある。
以上のことから、本実施形態である多孔質アルミニウム焼結体10では、アルミニウム繊維11の直径Rを0.02mm以上1.0mm以下の範囲内とする。なお、さらなる焼結強度の向上を図る場合には、アルミニウム繊維11の直径Rを0.05mm以上とすることが好ましく、アルミニウム繊維11の直径Rを0.5mm以下とすることが好ましい。
アルミニウム繊維11の長さLと直径Rとの比L/Rが4未満の場合には、後述する多孔質アルミニウム焼結体の製造方法において、積層配置したときの嵩密度DPをアルミニウム繊維の真密度DTの50%以下とすることが難しく、気孔率の高い多孔質アルミニウム焼結体10を得ることが困難となるおそれがある。一方、アルミニウム繊維11の長さLと直径Rとの比L/Rが2500を超える場合には、アルミニウム繊維を均一に分散させることができなくなり、均一な気孔率を有する多孔質アルミニウム焼結体10を得ることが困難となるおそれがある。
以上のことから、本実施形態である多孔質アルミニウム焼結体10では、アルミニウム繊維11の長さLと直径Rとの比L/Rを4以上2500以下の範囲内とする。なお、さらなる気孔率の向上を図る場合には、アルミニウム繊維11の長さLと直径Rとの比L/Rを10以上とすることが好ましい。また、より均一な気孔率を備えた多孔質アルミニウム焼結体10を得るためには、アルミニウム繊維11の長さLと直径Rとの比L/Rを500以下とすることが好ましい。
図2に、多孔質アルミニウム焼結体10における結合部15のSEM観察及び組成分析結果を示す。
図2に示すように、多孔質アルミニウム焼結体10において、アルミニウム繊維11同士の結合部15の内部には、Al−Mg−Si−Fe合金相(図中「A相」)、Mg−Si−Fe合金相(図中「B相」)が存在している。すなわち、本実施形態では、Al−Mg−Si−Fe合金相、Mg−Si−Fe合金相が存在している部分において、アルミニウム繊維11、11同士が結合している。
なお、結合部15の表層にもAl−Mg−Si−Fe合金相、Mg−Si−Fe合金相が存在するが、このように表層に存在する合金相は、アルミニウム繊維同士の結合に直接影響を及ぼすものではない。
また、図2に示す結合部15の内部には、Al−Mg−Si−Fe合金相、Mg−Si−Fe合金相ともに生成しているが、本発明では、Al−Mg−Si−Fe合金相、Mg−Si−Fe合金相のうちの少なくとも一方の合金相が存在していればよい。つまり、Al−Mg−Si−Fe合金相、Mg−Si−Fe合金相のうちの少なくとも一方が存在していれば、結合部15の強度の強化に作用させることができ、多孔質アルミニウム焼結体全体の強度を向上させることができる。
後に詳述するが、本実施形態に係る多孔質アルミニウム原料中には、Mgが0.05質量%以上15.00質量%以下含有されている。アルミニウム繊維にMg成分が含有されている場合、すなわちMg成分が含有されているアルミニウム合金繊維を用いる場合には、アルミニウム合金繊維に含まれるMgとは別に、原料中にMgが0.05質量%以上13.00質量%以下添加されており、アルミニウム合金繊維に含まれるMgと合わせて、最終的に得られる多孔質アルミニウム焼結体10中には、Mgが0.05質量%以上15.00質量%以下含有されている。一方、アルミニウム繊維として純アルミニウムを用いる場合は、原料中へのMgの添加量を0.05質量%以上15.00質量%以下とする。
Mgは、Al2O3の酸化被膜の還元剤として働き、酸化被膜を脆くして破壊しやすくすることで焼結結合を促進する働きがある。
また、アルミニウム繊維表面に固着したMgがマトリクスのアルミニウム繊維11(純アルミもしくはアルミ合金)と局所的に反応する事で、固着部近傍において局所的なマトリクスの融点降下効果を引き起こす。その結果、Mg無添加時(すなわちMgの固着が無い場合)に比べて、より低温で液相が生じることにより焼結が促進される。
しかしながら、Mgの含有量が0.05質量%未満だと前述の焼結改善効果が十分見られない。またMgの含有量が15.00質量%超では、液相線温度がアルミニウムの融点に対して著しく低下するため、アルミニウム繊維11を積層した際、この積層体内部で部分的な溶融が起こりやすくなり、均一な気孔率を備えた多孔質アルミニウム焼結体10を得ることが困難となるとともに、多孔質アルミニウム複合部材を製造する製造する際に部材本体との接合も困難となる。そのため、本実施形態である多孔質アルミニウム焼結体10では、Mgの含有量を0.05質量%以上15.00質量%以下とする。なお、焼結性の改善のためには、Mgの含有量を0.30質量%以上とすることが好ましい。また、気孔率が均一な多孔質アルミニウム焼結体10を得るためには、Mgの含有量を5.00質量%以下とすることが好ましい。
本実施形態に係る多孔質アルミニウム原料中には、Siが0.05質量%以上15.00質量%以下含有されている。アルミニウム繊維にSi成分が含有されている場合、すなわちSi成分が含有されているアルミニウム合金繊維を用いる場合には、アルミニウム合金繊維に含まれるSiとは別に、原料中にSiが0.05質量%以上13.00質量%以下添加されており、アルミニウム合金繊維に含まれるSiと合わせて、最終的に得られる多孔質アルミニウム焼結体10中には、Siが0.05質量%以上15.00質量%以下含有されている。一方、アルミニウム繊維として純アルミニウムを用いる場合は、原料中へのSiの添加量を0.05質量%以上15.00質量%以下とする。
Siは、565℃以上でアルミニウム繊維表面に固着したSiがマトリクスのアルミニウム繊維11(純アルミもしくはアルミ合金)と局所的に反応する事で、固着部近傍で局所的なマトリクスの融点降下効果を引き起こす。その結果、Si無添加時(すなわちSiの固着が無い場合)に比べて、純アルミニウム繊維もしくはアルミニウム合金繊維の融点より、より低温で液相が生じることによって焼結が促進される。
しかしながら、Siの含有量が0.05質量%未満だと前述の焼結改善効果が十分得られない。またSiの含有量が15.00質量%超では、液相温度がアルミニウムの融点以上に上昇し、液相焼結を阻害し焼結性を悪化させる。そのため、本実施形態である多孔質アルミニウム焼結体10では、Siの含有量を0.05質量%以上15.00質量%以下とする。なお、焼結性の改善のためには、Siの含有量を0.30質量%以上とすることが好ましい。また、気孔率が均一な多孔質焼結体を得るためには、Siの含有量を5.00質量%以下とすることが好ましい。
多孔質アルミニウム焼結体10中には、Feが0.01質量%以上3.00質量%以下含まれている。
Feは、Fe単体での融点降下効果は小さいが、MgおよびSiと共に添加される事によりAl−Mg−Si−Fe合金相を形成して、前記のMgおよびSiの効果を強化する働きがある。
しかしながら、Fe含有量が0.01質量%未満では前述の効果が十分に得られず、一方、Fe含有量が3.00質量%超では、溶融部において、高融点の金属間化合物であるFe3Alを形成しやすくなり、液相焼結性を悪化させる。そのため、本実施形態である多孔質アルミニウム焼結体10では、Feの含有量を0.01質量%以上3.00質量%以下とする。なお、Si、Mgの効果をより強化するためには、Feの含有量を0.02質量%以上とすることが好ましい。また、Fe3Alの形成を抑制し、焼結性の悪化を防止するためには、Feの含有量を1.00質量%以下とすることが好ましい。
次に、本実施形態である多孔質アルミニウム焼結体10を製造する方法について、図3のフロー図等を参照して説明する。
具体的な製造工程を説明する前に、まず、多孔質アルミニウム焼結体10の原料となる焼結用アルミニウム原料20について説明する。
なお、上述したように、アルミニウム繊維として純アルミニウムを用いる場合は、原料中へのMg,Siの添加量をそれぞれ0.05質量%以上15.00質量%以下とする。
すなわち、焼結用アルミニウム原料20全体のSi,Mgの含有量がそれぞれ0.05質量%以上15.00質量%以下となるようMg粉および/またはMg合金粉、Si粉および/またはSi合金粉を添加することが重要である。
また、Si合金粉23の種類としては特に限定することなく、一般的なSi合金(例えば、Al−Si合金、Ti−Si合金、Fe−Si合金等)からなるものを用いることが可能である。
アルミニウム繊維11としてアルミニウム合金を用いる場合、例えば、JISに規定されるA3003合金(Al−0.6質量%Si−0.7質量%Fe−0.1質量%Cu−1.5質量%Mn−0.1質量%Zn合金)やA5052合金(Al−0.25質量%Si−0.40質量%Fe−0.10質量%Cu−0.10質量%Mn―2.5質量%Mg合金―0.2質量%Cr―0.1質量%Zn合金)などを例示できる。
つまり、焼結用アルミニウム原料20を作成する際、アルミニウム繊維11中のFeとは別にさらにFeを含有させるか否かは問わず、焼結用アルミニウム原料20全体として0.01質量%以上3.00質量%以下のFeが含有されていれば本発明の効果は発揮される。
なお、Feは焼結時にアルミニウム繊維中に固溶、もしくはMgによる溶融部に存在することでMgの拡散抑制効果を発揮する。さらにFeはAlへの固溶度が低く、偏析しやすいこと。つまり、アルミニウム繊維中に予め含有していたとしても、当該Feは繊維表面に偏在し、Fe粉末を繊維外表面に固着させた場合と同様の効果が得られる。かつ、Feをアルミニウム繊維中に予め含有させておくことで、Feを粉末状態で添加する場合に比べてより均一な分布状態が得られることから、Feはアルミニウム繊維中に予め合金元素として添加しておく方が望ましい。
具体的には、Mg粉末粒子、Mg合金粉末粒子、Si粉末粒子、Si合金粉末粒子、およびFe粉末粒子の平均粒径は、0.001mm〜0.5mm、かつアルミニウム繊維11直径Rに対して、0.01〜0.5の比率が望ましい。Mg粉末粒子、Mg合金粉末粒子、Si粉末粒子、Si合金粉末粒子、およびFe末粒子の平均粒径が0.001mm未満では、焼結時に酸化が進行し、必要な融点降下効果が発揮できない。一方、Mg粉末粒子、Mg合金粉末粒子、Si粉末粒子、Si合金粉末粒子、およびFe粉末粒子の平均粒径が0.5mm超では、所定の量を添加したとしても添加粒子の数が少なく、十分な混合効果が得られない。さらに、焼結時における局所的な溶融(影響)範囲が大きくなり、気孔率の制御が困難になるという問題がある。
また、アルミニウム繊維11の直径Rに対する、Si粉末粒子、Si合金粉末粒子、およびFe粉末粒子の平均粒径の比率が0.01以下だと、混合時に粉末とアルミニウム繊維が分離しやすくなる。また、当該比率が0.5以上だとアルミニウム繊維径Rに対して粒子径が大きすぎ、十分な固着効果が得られない。
まず、本実施形態である多孔質アルミニウム焼結体10の原料となる焼結用アルミニウム原料20を製造する焼結用アルミニウム原料形成工程を行う。
なお、本実施形態に係る焼結用アルミニウム原料形成工程は、図3に示すように、アルミニウム繊維11と、Mg粉末粒子およびMg合金粉末粒子の少なくともいずれか一方と、Si粉末およびSi合金粉末の少なくともいずれか一方とを、バインダーとともに混合する混合工程S01と、混合工程S01で得られた混合物を乾燥する乾燥工程S02と、を備えている
常温にて、アルミニウム繊維11と、Mg粉およびMg合金粉のいずれか一方または両方と、Si粉末およびSi合金粉末のいずれか一方または両方と、を混合する(混合工程S01)。
なおここで、多孔質アルミニウム焼結体10の組成においてアルミニウム繊維11中のFeとは別のFeを含有させる場合は、この混合工程において、他の粉末とあわせてFe粉も混合する。Fe粉は特に限定せず、Fe−Mn等の合金粉でもよい。
次に、混合工程S01で得られた混合体を乾燥する(乾燥工程S02)。
この混合工程S01及び乾燥工程S02により、図4に示すように、アルミニウム繊維11の外表面にMg粉23a、Mg合金粉23b、Si粉22aおよびSi合金粉23b、ならびに必要に応じてFe粉(不図示)が分散されて固着されることになり、本実施形態である焼結用アルミニウム原料20が製造される。
具体的には、焼結用アルミニウム原料20を積層する焼結用アルミニウム原料積層工程S03と、バインダーを除去する脱バインダー工程S04と、積層された焼結用アルミニウム原料20を加熱して焼結する焼結工程S05を行い、多孔質アルミニウム焼結体10を製造する。
この連続焼結装置30は、焼結用アルミニウム原料20を均一に散布する原料散布機31と、原料散布機31から供給された焼結用アルミニウム原料20を保持するカーボンシート32と、このカーボンシート32を駆動する搬送ローラ33と、カーボンシート32とともに搬送される焼結用アルミニウム原料20を加熱してバインダーを除去する脱脂炉34と、バインダーが除去された焼結用アルミニウム原料20を加熱して焼結する焼成炉35と、を備えている。
まず、原料散布機31から、カーボンシート32上に向けて、焼結用アルミニウム原料20を散布し、焼結用アルミニウム原料20を積層配置する(焼結用アルミニウム原料積層工程S03)。
カーボンシート32上に積層された焼結用アルミニウム原料20は、進行方向Fに向けて移動する際に、カーボンシート32の幅方向に広がって厚さが均一化され、シート状に成形される。このとき、荷重を加えていないことから、焼結用アルミニウム原料20中のアルミニウム繊維11,11同士の間には空隙が形成される。
次に、カーボンシート32上においてシート状に成形された焼結用アルミニウム原料20は、カーボンシート32とともに脱脂炉34内に装入され、所定温度に加熱されることによってバインダーが除去される(脱バインダー工程S04)。
ここで、脱バインダー工程S04においては、大気雰囲気中で、350〜500℃の温度範囲で0.5〜5分間保持し、焼結用アルミニウム原料20中のバインダーを除去する。なお、本実施形態では、上述のように、アルミニウム繊維11の外表面にMg粉23a、Mg合金粉23b、Si粉22aおよびSi合金粉23b、ならびに必要に応じてFe粉を固着する目的でのみバインダーを用いていることから、粘性組成物に比べてバインダーの含有量が極めて少なく、短時間でバインダーを十分に除去することが可能である。
次に、バインダーが除去された焼結用アルミニウム原料20は、カーボンシート32とともに焼成炉35内に装入され、所定温度に加熱されることによって焼結される(焼結工程S05)。
この焼結工程S05においては、不活性ガス雰囲気中で、565℃〜655℃の温度範囲で0.5〜60分間保持することにより実施される。焼結用アルミニウム原料20中のMg、Siの含有量に応じて、最適な焼結温度は変動するが、高強度かつ均一な焼結を実現するため、焼結温度はAl−Mg−Siの3元共晶温度である565℃以上とし、また、生じた液相が、融液同士の結合による急速な焼結収縮の進行を防ぐため焼結温度は655℃以下とする。なお、保持時間は1分〜20分間とすることが好ましい。
また、アルミニウム繊維表面に固着したMg、Siがアルミニウム繊維11と局所的に反応する事で、固着部近傍において局所的な融点降下効果を引き起こす。その結果、Mg、Si無添加時に比べて、純アルミニウム繊維もしくはアルミニウム合金繊維の融点より、より低温で液相が生じることにより焼結が促進され強度が向上する。
また、焼結用アルミニウム原料20中のFeは、焼結時にアルミニウム繊維11中に固溶、もしくはMg添加により生成された局所溶融部に存在することでMgの拡散抑制効果を発揮する。
さらに、焼結用アルミニウム原料20中のFeは、Siと共に含有される事によりAl−Mg−Si−Fe合金相もしくはMg−Si−Fe合金相として、前記のMgおよびSiの効果を強化し、より焼結が促進され強度を向上させることができる。
さらに、多孔質アルミニウム焼結体10中には、Mg、SiとあわせてFeが0.01質量%以上3.00質量%以下含まれていることから、前述のMgおよびSi添加による作用をより強めることができ、結果、焼結性を向上させ、多孔質アルミニウム焼結体全体の強度を高めることが可能となる。
そして、アルミニウム繊維11同士の結合部15にAl−Mg−Si−Fe合金相,Mg−Si−Fe合金相のうちの1種もしくは両方の合金相が存在しているので、この合金相によって結合部15が強化されることになり、多孔質アルミニウム焼結体全体の強度を向上させることができる。
次に、本発明の実施形態である多孔質アルミニウム複合部材100について、添付した図面を参照して説明する。
図6に、本実施形態である多孔質アルミニウム複合部材100を示す。この多孔質アルミニウム複合部材100は、純アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板120(部材本体)と、このアルミニウム板120の表面に接合された多孔質アルミニウム焼結体110と、を備えている。
なお、本実施形態では、アルミニウム繊維には、ねじりや曲げ等の形状付与が施されている。
ここで、「部材結合部150の内部」とは、アルミニウム板120(部材本体)と多孔質アルミニウム焼結体110との間に生成された焼結ネック(不図示)の内部を示す。SiおよびMgの融点降下効果によってこの焼結ネックの内部に前述の合金相が形成され、その結果、合金相による結合強化が発揮され、強度を向上させることができる。
まず、部材本体であるアルミニウム板120を準備する(アルミニウム板配置工程S101)。
この焼結用アルミニウム原料は、Mg粉およびMg合金粉のいずれか一方または両方と、およびSi粉およびSi合金粉のいずれか一方または両方が、アルミニウム繊維の外表面に固着されてなるものである。
本実施形態に係る焼結用アルミニウム原料には、アルミニウム繊維中に含まれるSi、Mgとは別にSi、Mgが添加されており、焼結用アルミニウム原料全体での組成は純アルミニウム繊維もしくはアルミニウム合金繊維中に含まれる分も含めて、Si、Mgをそれぞれ0.05質量%以上15.00質量%以下含有した組成とされている。
なお、この焼結用アルミニウム原料は、0.01質量%以上3.00質量%以下のFeを含むが、当該Feは、アルミニウム繊維中に含まれるFeであってもよく、アルミニウム繊維中に含まれるFeとは別のFeが添加されていてもよい。
その後、焼成炉内に装入して、不活性ガス雰囲気で565℃〜655℃の温度範囲で1〜20分間保持することで、アルミニウム板120上に多孔質アルミニウム焼結体110を形成するとともに、多孔質アルミニウム焼結体110とアルミニウム板120とを接合する(焼結工程S104)。
そして、アルミニウム板120の表面のうちSi粉末、Si合金粉末、Mg粉末、Mg合金粉末が固着された部分においては、Si、Mgがアルミニウム板120と局所的に反応する事で、固着部近傍で局所的な融点降下効果を引き起こし、Si、Mg無添加時に比べて、純アルミニウム繊維もしくはアルミニウム合金繊維の融点より、より低温で液相が生じることによって、アルミニウム板120と多孔質アルミニウム焼結体110とを接合させることができる。
例えば、図5に示す連続焼結装置を用いて多孔質アルミニウム焼結体を連続的に製造するものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の製造装置によって多孔質アルミニウム焼結体を製造してもよい。
図8に示すように、焼結用アルミニウム原料20を散布する原料散布機131から、カーボン製容器132内に向けて焼結用アルミニウム原料20を散布してかさ充填し、必要に応じてプレス成形する(原料散布工程)。これを、脱脂炉134内に装入して、大気雰囲気で加熱してバインダーを除去する(脱バインダー工程)。その後、焼成炉135内に装入して、Ar雰囲気で565℃〜655℃に加熱保持することにより、バルク形状の多孔質アルミニウム焼結体10´が得られる。
本説明では、離型性の良いカーボン製容器132を用いており、かつ、焼結時に1%程度のわずかな焼結収縮が発生することから、カーボン製容器132からバルク形状の多孔質アルミニウム焼結体10´を比較的容易に取り出すことができる。
あるいは、図10に示すように、多孔質アルミニウム焼結体310の中に、部材本体としてU字状に湾曲されたアルミニウム管320が挿入された構造の多孔質アルミニウム複合部材300であってもよい。
また、図12に示すように、部材本体であるアルミニウム管520の外周面に多孔質アルミニウム焼結体510を接合した構造のアルミニウム多孔質複合部材500であってもよい。
また、図14に示すように、部材本体であるアルミニウム板720の両面に多孔質アルミニウム焼結体710を接合した構造の多孔質アルミニウム複合部材700であってもよい。
なお、図15に示す多孔質アルミニウム複合部材800は、例えば、直方体状をなすカーボン製容器を準備し、このカーボン製容器の一側面から他側面に向けて貫通するようにアルミニウム多穴管820を配置し、カーボン製容器内に向けて焼結用アルミニウム原料を散布して嵩充填して、焼結することにより製造できる。
表1に示す焼結用アルミニウム原料を作製した。本表には、使用したアルミニウム繊維の詳細、具体的には、合金種類(JIS番号)、繊維径、長さ/直径比(L/R)に加え、原料中に含まれるMg、Si、Fe各成分の含有量(質量%)について、アルミニウム繊維中に含まれる分とアルミニウム繊維とは別に添加した分を分けて表記している。
得られた多孔質アルミニウム焼結体は、下記の方法により、気孔率の測定および引張強度の測定を行った。その結果を表1に、また、見掛気孔率と引張強度の関係を示したグラフを図16に示す。また、得られた多孔質アルミニウム焼結体の組成、結合部の内部における合金相の有無および形態も併せて示す。なお、表中の「A」はAl−Mg−Si−Fe合金相、「B」はMg−Si−Fe合金相、「C」はFe3Al相、「D」はMg2Si相を表している。
得られた多孔質アルミニウム焼結体の質量m(g)、体積V(cm3)、焼結用アルミニウム原料の真密度d(g/cm3)を測定し、以下の式で見掛気孔率Pを算出した。
見掛気孔率P(%)=(1−(m÷(V×d)))×100
なお、真密度d(g/cm3)は、精密天秤を用いて、水中法によって測定した。
得られた多孔質アルミニウム焼結体は、幅10mm×長さ100mm×厚さ5mmの試験片に加工した後、インストロン型引張試験機を用いて引張試験を行い、最大引張強度S(N/mm2)を測定した。最大引張強度Sは、測定された最大荷重(N)を引張り試験片の断面積(50mm2)で除した値である。この様にして得られた最大引張強度Sは、見掛気孔率P(%)により変化するため、本実施例では、以下の式により最大引張強度Sを見掛気孔率P(%)で規格化した相対引張強度Sr(N/mm2)を定義し、見掛気孔率の異なる材料間での相対的な強度比較評価を行った。
相対引張強度Sr(N/mm2)=S×100/(100−P)
アルミニウム繊維直径Rおよびアルミニウム繊維長さLは、マルバーン社製粒子解析装置「Morphologi G3」を用いて、画像解析により算出された単純平均値を用いた。
また、本発明例では、アルミニウム繊維間の結合部内部および結合部近傍にはAl−Mg−Si−Fe合金相,Mg−Si−Fe合金相が存在していることが確認できた。このことから、MgおよびSiもしくはMg、SiおよびFe固着部近傍で局所的にマトリクスの融点降下効果が起き、焼結が促進されていると考えられる。
試験No.24ではMgの量が多すぎるため、液相焼結が阻害され、強度が低い多孔質アルミニウム焼結体しか得られなかった。
試験No.25ではSiの量が多すぎるため、焼結促進効果が十分に得られず、強度が著しく低い多孔質アルミニウム焼結体しか得られなかった。
試験No.26ではFeの量が多すぎるため、Siの焼結促進効果を阻害し、焼結が十分に進行せず、強度が著しく低い弱い多孔質アルミニウム焼結体しか得られなかった。
試験No.27ではアルミニウム繊維の直径が細すぎるため、各アルミニウム繊維同士の接触面積が小さいことにより、強固な結合点を形成出来ず、強度が低い多孔質アルミニウム焼結体しか得られなかった。
試験No.28ではアルミニウム繊維の直径が大きすぎるため、焼結時に十分な数の結合点が形成出来ず、強度が著しく低い多孔質アルミニウム焼結体しか得られなかった。
試験No.29ではL/R比が小さすぎるため、充填時に高い嵩密度を得ることが出来ず、結果、気孔率の高い多孔質焼結体を得ることが出来なかった。
試験No.30ではL/R比が大きすぎるため、多孔質焼結体内部の結合が不均一となり、部分的に弱い結合部が生じるため、結果、強度が低い多孔質アルミニウム焼結体しか得られなかった。
11 アルミニウム繊維
15 結合部
20 焼結用アルミニウム原料
100 多孔質アルミニウム複合部材
120 アルミニウム板(部材本体)
150 部材結合部
Claims (8)
- 複数のアルミニウム繊維が焼結されてなる多孔質アルミニウム焼結体であって、
前記アルミニウム繊維は純アルミニウムもしくはアルミニウム合金からなり、直径Rが0.02mm以上、1.0mm以下の範囲内とされ、長さLと直径Rとの比L/Rが4以上,2500以下の範囲内とされており、
前記アルミニウム繊維同士の結合部の内部には、Al−Mg−Si−Fe合金相,Mg−Si−Fe合金相のうちの1種もしくは両方の合金相が存在し、
前記多孔質アルミニウム焼結体は、Feを0.01質量%以上3.00質量%以下含み、Mgを0.05質量%以上15.00質量%以下、Siを0.05質量%以上15.00質量%以下含み、残部が不可避不純物とされた組成を有していることを特徴とする多孔質アルミニウム焼結体。 - 見掛気孔率が50%以上、90%以下であることを特徴とする請求項1に記載の多孔質アルミニウム焼結体。
- 部材本体と、請求項1または2に記載の多孔質アルミニウム焼結体と、が接合されてなることを特徴とする多孔質アルミニウム複合部材。
- 前記部材本体のうち、前記多孔質アルミニウム焼結体との部材結合部は、アルミニウムまたはアルミニウム合金で構成され、前記部材結合部の内部には、Al−Mg−Si−Fe合金相,Mg−Si−Fe合金相のうちの1種もしくは両方の合金相が存在していることを特徴とする請求項3に記載の多孔質アルミニウム複合部材。
- 複数のアルミニウム繊維が焼結されてなる多孔質アルミニウム焼結体の製造方法であって、
前記アルミニウム繊維は、アルミニウムもしくはアルミニウム合金からなり、直径Rが0.02mm以上1.0mm以下の範囲内とされ、長さLと直径Rとの比L/Rが4以上2500以下の範囲内とされており、
複数の前記アルミニウム繊維の外表面に、Mg粉およびMg合金粉のいずれか一方または両方と、Si粉およびSi合金粉のいずれか一方または両方と、を固着させて、焼結用アルミニウム原料を形成する焼結用アルミニウム原料形成工程と、
前記焼結用アルミニウム原料を積層する焼結用アルミニウム原料積層工程と、
積層された前記焼結用アルミニウム原料を加熱して焼結する焼結工程と、を有し、
前記焼結用アルミニウム原料におけるFeの含有量が0.01質量%以上3.00質量%以下であり、
前記Si粉および前記Si合金粉のいずれか一方または両方の添加量をSi換算で0.05質量%以上15.00質量%以下、前記Mg粉および前記Mg合金粉のいずれか一方または両方の添加量をMg換算で0.05質量%以上15.00質量%以下とし、
前記焼結用アルミニウム原料積層工程では、嵩密度DPを前記アルミニウム繊維の真密度DTの50%以下となるように複数の前記焼結用アルミニウム原料を積層配置し、
前記焼結工程では、前記焼結用アルミニウム原料を不活性ガス雰囲気下において565℃〜655℃の範囲の温度で焼結をすることを特徴とする多孔質アルミニウム焼結体の製造方法。 - 前記焼結用アルミニウム原料形成工程において、複数の前記アルミニウム繊維の外表面にさらにFe粉を固着させ、
前記焼結用アルミニウム原料中の前記Fe粉の含有量が、0.01質量%以上3.00質量%以下であることを特徴とする請求項5に記載の多孔質アルミニウム焼結体の製造方法。 - 純アルミニウムもしくはアルミニウム合金からなる部材本体と、複数のアルミニウム繊維が焼結されてなる多孔質アルミニウム焼結体とが接合された多孔質アルミニウム複合部材の製造方法であって、
前記アルミニウム繊維は、純アルミニウムもしくはアルミニウム合金からなり、直径Rが0.02mm以上1.0mm以下の範囲内とされ、長さLと直径Rとの比L/Rが4以上,2500以下の範囲内とされており、
複数の前記アルミニウム繊維の外表面に、Mg粉およびMg合金粉のいずれか一方または両方と、Si粉およびSi合金粉のいずれか一方または両方と、を固着して焼結用アルミニウム原料を形成し、前記焼結用アルミニウム原料を前記部材本体と接触させ、前記焼結用アルミニウム原料及び前記部材本体を加熱して焼結することにより、前記多孔質アルミニウム焼結体を形成するとともに、前記多孔質アルミニウム焼結体と前記部材本体とを接合する方法において、
前記焼結用アルミニウム原料におけるFeの含有量が0.01質量%以上3.00質量%以下であり、
前記Si粉および前記Si合金粉のいずれか一方または両方の添加量をSi換算で0.05質量%以上15.00質量%以下、前記Mg粉および前記Mg合金粉のいずれか一方または両方の添加量をMg換算で0.05質量%以上15.00質量%以下とし、
前記焼結用アルミニウム原料及び前記部材本体を加熱して焼結する際において、不活性ガス雰囲気下において565℃〜655℃の範囲の温度で焼結をすることを特徴とする多孔質アルミニウム複合部材の製造方法。 - 前記焼結用アルミニウム原料を形成する際において、複数の前記アルミニウム繊維の外表面にさらにFe粉を固着させ、
前記焼結用アルミニウム原料中の前記Fe粉の含有量が、0.01質量%以上3.00質量%以下であることを特徴とする請求項7に記載の多孔質アルミニウム複合部材の製造方法。
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