しかし、従来の方法では、尿石の発生を抑制するために、排水管に殺菌成分や酸性成分を含有させた液体を流し込む必要があるため、結果的にこうした成分が排水管を通して外部へ流出されることを考えると、環境負荷の観点から好ましくない。
そこで、本願発明者らは、従来のように、環境負荷の要因となる殺菌成分や酸性成分を含有させた液体を排水管に流入させることなく、小便器に接続された排水管に尿石が発生することを抑制することができる全く新しい考え方に基づく尿石抑制方法を考案した。具体的には、使用者によって排出された尿が排水管に流入する前に、その尿から尿石成分イオンを除去し、排水管に流入する尿石成分イオンの量を低減させる方法である。より具体的には、静電引力により尿中から尿石成分イオンを吸着すると共に、この吸着した尿石成分イオンを保持する方法である。しかし、このように尿石成分イオンを吸着および保持する場合、継続的に尿石成分イオンの吸着および保持を行うためには、保持した尿石成分イオンを処理する必要がある。しかし、そのために、尿石成分イオン吸着手段を新しいものに交換するといった作業を伴うメンテナンスが必要になると、メンテナンスの手間が生じてしまう。
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、尿から尿石成分イオンを吸着および保持することで、環境負荷を低減しつつ排水管での尿石の発生を抑制しながらも、メンテナンスの手間を軽減させることが可能な小便器を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明に係る小便器は、排水管に接続される小便器であって、尿を受けるボウル部と、前記ボウル部の底部に開口した、前記排水管に通じる排水口と、を備え、さらに、尿石の成分となる尿石成分イオンが前記排水管に流入することを抑制できるよう、ボウル部が受けた尿が前記排水管に流入する前に該尿中に含まれる尿石成分イオンを静電引力により吸着すると共に、吸着した尿石成分イオンを保持する尿石成分イオン吸着手段と、前記尿石成分イオン吸着手段を経由して前記排水管に流入するように水を供給する給水手段と、前記尿石成分イオン吸着手段および前記給水手段を制御する制御手段と、を有し、前記制御手段は、前記尿石成分イオン吸着手段により尿から尿石成分イオンを吸着する吸着モードと、前記尿石成分イオン吸着手段が保持する尿石成分イオンを脱離させ、前記給水手段から水を供給することによって、脱離させた尿石成分イオンを前記排水管から排出する脱離モードと、を実行可能であることを特徴とする。
本発明では、尿石成分イオン吸着手段は、使用者から排出された尿が小便器に接続される排水管に流入する前に、その尿中に含まれる尿石成分イオンを静電引力により吸着すると共に、吸着した尿石成分イオンを保持する。したがって、排水管に流入する尿に含まれる尿石成分イオンの量を低減させることができる。これにより、排水管に尿が残留しても、排水管に残留する尿石成分イオンの量を低減させることができるため、尿石の発生を抑制することができる。このように、本発明では、排水管にpHの上昇を抑えるための殺菌成分や酸性成分を含有した排水管や洗浄水を排水管に流入させることなく、尿石の発生を抑制できるため、環境負荷を低減しつつ、尿石の発生を抑制することができる。
さらに、本発明では、尿石成分イオン吸着手段を制御する制御手段が、尿石成分イオン吸着手段により尿から尿石成分イオンを吸着する吸着モードと、尿石成分イオン吸着手段が保持する尿石成分イオンを脱離させ、尿石成分イオン吸着手段を経由して排水管に流入するよう給水を行う給水手段から水を供給することによって、脱離させた尿石成分イオンを排水管から排出する脱離モードを実行可能に構成されている。そのため、尿石成分イオン吸着手段が保持している尿石成分イオンの量が多量になった場合でも、脱離モードを実行することによりその保持していた尿石成分イオンを脱離すると共に排水管より排出することができ、継続的に尿石成分イオンの吸着および保持を行うことが可能となる。したがって、環境負荷を低減しつつ、尿石の発生を抑制しながらも、尿石成分イオン吸着手段を交換するといったメンテナンスの手間を軽減させることができる。
また、本発明に係る小便器では、前記制御手段は、前記脱離モードを実行する際、前記尿石成分イオン吸着手段が保持する尿石成分イオンを脱離させながら前記給水手段から水を供給することも好ましい。
この好ましい態様では、制御手段が脱離モードを実行する際に、尿石成分イオン吸着手段が保持する尿石成分イオンを脱離させながら、給水手段から尿石成分イオン吸着手段を経由させて水を供給するため、給水した水の流れによって尿石成分イオン吸着手段からの尿石成分イオンの脱離を促進しつつ、尿石成分イオンを尿石成分イオン吸着手段近傍に停滞させることなく排水管から排出することが可能となる。
また、本発明に係る小便器では、前記制御手段は、前記脱離モードを実行する前に、前記排水管に残留する排水のpHを低下させるよう前記給水手段から水の供給を行うプレ給水を実行することも好ましい。
排水管は細菌の温床となりやすい環境であることから、排水管に残留した尿(尿混じりの洗浄水を含む)中に含まれる尿素は排水管内の細菌により分解され、アンモニアを生じやすい。このため、排水管に残留している尿を含む排水のpHは上昇しやすい。このように、pHが高い排水が残留している可能性が高い排水管に脱離モードの実行によって、尿石成分イオン吸着手段が保持していた多量の尿石成分イオンを含んだ水が流入すると、瞬時に大量の尿石が析出してしまう恐れがあるという新たな知見を見出した。そこで、本発明では、脱離モードを実行する前に、給水手段から給水を行うプレ給水を実行するよう構成した。これにより脱離した尿石イオンが排水管内に流入する前に排水管に水を流し、排水管内に残留する排水のpHを下げることができるため、脱離モードの実行により多量の尿石成分イオンを含んだ水が排水管に流入したとしても、排水管で尿石が生じることを抑制することができる。
また、本発明に係る小便器では、前記小便器は、排水横枝管に接続されるものであって、前記制御手段は、前記プレ給水よりも、前記脱離モードを実行する際に前記給水手段から供給する水の流量を小さくすることも好ましい。
排水管内に残留する排水のpHを低下させるという点からは、プレ洗浄において給水手段より供給する水の流量は大きい方が好ましい。しかし、排水横枝管に接続される小便器において、脱離モードを実行する際に、プレ洗浄と同様に給水手段から供給する水の流量を大きくしてしまうと、尿石成分イオンを多量に含む水が排水横枝管に勢い良く流入し、排水横枝管を上流側へと逆流してしまう。このように、排水横枝管への逆流が生じると、脱離モードにおける給水が完了した後に、逆流した尿石成分イオンを多量に含む水が、排水横枝管を下流側へと流れると共に、排水横枝管に残留してしまい、排水横枝管で尿石を析出させる要因となる恐れがある。そこで、本発明では、プレ給水よりも、脱離モードを実行する際に給水手段から供給する水の流量を小さくように工夫を行った。これにより、脱離モードを実行する場合であっても、脱離モード実行時に排水横枝管に尿石成分イオンを多量に含む水が勢い良く流入することを抑制できるため、多量の尿石成分イオンを含む水が排水横枝管を逆流することにより尿石が生じてしまうことを抑制することができる。
また、本発明に係る小便器では、前記制御手段は、前記脱離モードの実行によって前記排水管に流入した尿石成分イオンを含んだ水が前記排水管に残留することを抑制させるよう、前記脱離モードの終了後に、前記給水手段から水の供給を行うポスト給水を実行することも好ましい。
この好ましい態様では、脱離モードの終了後に、給水手段から水の供給を行うポスト給水を実行するよう構成した。これにより、脱離モードの終了後に、脱離モードの実行によって排水管に流入した尿石成分イオンを含んだ水が排水管に残留したとしても、ポスト給水によって給水された水によって、この残留水が下流側へと搬送されたり、残留水の尿石成分イオン濃度が薄められるため、脱離モードの終了後に、多量の尿石成分イオンを含んだ水が排水管に残留することを抑制することができる。したがって、脱離モードを実行する場合であっても、より確実に排水管での尿石の発生を抑制することができる。
また、本発明に係る小便器では、前記制御手段は、前記ポスト給水を実行する際に前記給水手段から供給する水の流量を、前記脱離モードを実行する際に供給する水の流量よりも大きくすることも好ましい。
この好ましい態様では、ポスト給水を実行する際に給水手段から供給する水の流量を、脱離モードを実行する際に供給する水の流量よりも大きくするよう構成している。これにより、ポスト給水を実行する際に、より大きな流量で水を供給することができるため、脱離モード終了後に排水管に残留している、脱離モードの実行によって排水管に流入した尿石成分イオンを含んだ水を、より確実に下流側へと搬送したり、希釈することができるため、脱離モードを実行する場合であっても、より確実に尿石の発生を抑制することができる。
また、本発明に係る小便器では、前記脱離モード実行初期の脱離量を抑制するよう、前記脱離モード実行初期の第一の期間における脱離制御が、前記第一の期間よりも後の期間で且つ前記脱離モード中の第二の期間における脱離制御よりも脱離性能を抑えた制御となるよう、前記脱離モードの途中で制御を変えることも好ましい。
この好ましい態様では、脱離する前記尿石成分イオンが多く尿石が発生する可能性が高い前記脱離モード実行初期の第一の期間における脱離制御が、前記第一の期間よりも後の期間であって、前記第一の期間で前記尿石成分イオンを脱離したことによって前記尿石成分イオンが少なく尿石が発生する可能性が低い前記脱離モード中の第二の期間における脱離制御よりも脱離性能を抑えた制御となるよう、前記脱離モードの途中で制御を変えるため、特に尿石が発生し易い脱離モード実行初期において尿石が生じることを抑制しつつ、尿石が発生し難い期間においては素早く脱離することができる。
本発明の小便器によれば、尿から尿石成分イオンを吸着および保持することで、環境負荷を低減しつつ排水管での尿石の発生を抑制しながらも、メンテナンスの手間を軽減させることができる。
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
本発明の実施形態である小便器について図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態である小便器USを示す断面図である。図1に示されるように、小便器USは、小便器本体1と、給水ユニット3と、給水管5と、スプレッダー7(給水手段)と、トラップ部TPと、制御部CR(制御手段)を備えている。小便器本体1及び給水ユニット3は、建築躯体の壁面WLに取り付けられている。
小便器本体1は、ボウル部9を備えている。ボウル部9は、小便器本体1の使用者からの尿流を受け止める部分である。使用者から放たれた尿流は、ボウル部9後方のボウル壁面11に当たって下方に流れる。下方に流れた尿流は、ボウル部9の底部に開口した排水口13からトラップ部TPへと流れる。排水口13には目皿15が配置されている。
給水ユニット3の上流側は、建築側給水管17に繋がれている。建築側給水管17は、壁面WLの裏面側に配置されており、給水源から水を供給し給水ユニット3に送り出している。一方、給水ユニット3の下流側は、給水管5に繋がれており、給水管5はさらに、スプレッダー7に接続されている。
給水ユニット3は、電磁弁19を備えている。電磁弁19は、建築側給水管17と給水管5との間に設けられている。電磁弁19が閉じられていると、建築側給水管17から供給される水は給水管5に流れないように止水される。電磁弁19が開いていると、建築側給水管17から供給される水は、電磁弁19の開度に応じた瞬間流量(電磁弁19近傍の管路を通過する際の瞬間流量(m 3 /s))で給水管5に流れる。給水管5を流れる水は、スプレッダー7より、ボウル壁面11に沿うように下方に放出される。
ここで、制御部CRは、電磁弁19を所定の開度に開いたり閉じたりするための制御信号を出力する。なお、本実施形態における小便器USは、使用者の排尿行為の都度、スプレッダー7から水を供給し、ボウル部9の洗浄や、トラップ部TP内に貯まった尿を水と置換させる構成ではなく、通常、使用者の排尿行為の後にスプレッダー7から水を供給しない構成である。このような構成により、本実施形態の小便器USは節水を図っている。
トラップ部TPは、小便器本体1の排水口13に連通して封水Wsを形成するように配置されている。この封水Wsにより、排水管からの悪臭の逆流を防止している。トラップ部TPは封水Wsを形成すると共に、排水口13から流れ込む尿やスプレッダー7から供給される水を排水として器具排水管21側に送り出している。器具排水管21(排水管)は、壁面WLの裏面側に配置され、更に下流側の排水横枝管27(排水管)に接続されている。(以下、器具排水管21と排水横枝管27を併せて、「排水管HK」と称する。)したがって、器具排水管21に送り出された尿や水を含む排水は、排水横枝管27へと流れ込む。上述したように、本実施形態における小便器USは、使用者の排尿行為の後に洗浄水を供給しない構成であるため、トラップ部TP内に流入した尿は洗浄水と置換されることがなく、したがって、トラップ部TP内の封水Wsは、尿により形成される。
図2を参照しながら、トラップ部TPについて、より詳しく説明する。図2は、トラップ部TPの拡大図である。図2に示されるように、トラップ部TPは上流側から順に、上流接続部TPa(下降流路)と、下流接続部TPb(上昇流路)と、下流あふれ部TPcとを備えている。
上流接続部TPaは、ボウル部9の排水口13に繋がる部分である。上流側に排水口13が繋がっており、ボウル部9から排水口13に流れ込んだ尿や水は上流接続部TPaに流れ込む。
トラップ部TPは、排水口13に流れ込んだ尿や水を一時的に溜めるため、上流接続部TPa及び下流接続部TPbにより、U字状を成すように形成されている。上流接続部TPaから流れ込んだ水は、下流あふれ部TPcの下側内壁面よりも下側に溜まるように構成されている。したがって、封水Wsは、上流接続部TPaに溜まる上流封水Wsuと、下流接続部TPbに溜まる下流封水Wsdとによって形成される。尚、本実施形態ではU字型のトラップをトラップ部TPとして採用したけれども、例えば、ベルトラップなど、上述した機能を果たす限りその他の形態のトラップを採用することも好ましいものである。
また、トラップ部TPには、トラップ部TPに貯留されている尿から、尿石の成分となるイオン(尿石成分イオン)を吸着することで、トラップTP内の尿から尿石成分イオンを除去する機能を有する吸着手段25(尿石成分イオン吸着手段)が配置されている。尿石の成分となるイオンとは、カルシウムイオン(Ca2+)やマグネシウムイオン(Mg2+)、リン酸イオン(PO4 3-)などが挙げられる。
本実施形態における小便器USは、このような吸着手段25を配置しているため、トラップ部TPに流れ込んだ尿が排水管HKに流れ込む前に、その尿から尿石の成分となるイオンを除去できる。したがって、排水管HKに流れ込み、排水管HKに残留する尿の尿石成分イオン濃度を極めて低くできるため、排水管HKで尿石が生じることを防止することができる。
本実施形態における吸着手段25は、一対の電極25a、25bからなるものであって、これらの電極25a、25bは、トラップ部TPに貯留されている尿に浸漬配置されている。そして、電極25a、25bに電圧を継続して印加することによって、尿石成分イオンが、静電引力により反対の電荷を持つ電極に引きつけられると共に、この引きつけた状態を維持し、これにより尿から尿石成分イオンを除去する。
制御部CRは、上述したように、電磁弁19を所定の開度に開いたり閉じたりするための制御信号を出力する。また、制御部CRは、電極25a、25bに所定の電圧を印加するように制御信号を出力する。
ここで、制御部CRは、「吸着モード」と「脱離モード」を実行可能に構成されている。「吸着モード」は、電極25a、25bに所定電圧V1を継続的に印加して、電極25a、25bに尿中の尿石成分イオンを吸着させると共に、その吸着状態を維持して、吸着した尿石成分イオンを保持することによりトラップ部TPに貯留された尿から尿石成分イオンを除去するモードである。一方、「脱離モード」は、電極25a、25bに所定電圧V2(電圧V1の逆電圧)を印加して、「吸着モード」で吸着、保持した尿石成分イオンを、スプレッダー7から供給され、電極25a、25bを経由して排水管HKに流入する洗浄水に含有させて排水管HKから排出するモードである。このように、「吸着モード」のみならず、「脱離モード」を実行可能にすることで、保持している尿石成分イオンの量が、吸着手段25によって保持可能な尿石成分イオンの最大量Nmに達した場合でも、再度、尿石成分イオンを吸着、保持可能な状態に再生させることができるため、吸着手段25を交換する必要がなく、長期間に亘り吸着手段25を使用することができる。
続いて、尿石成分イオンを吸着及び脱離する際の制御部CRの動作、および、この動作時のトラップ部TP内の様子や排水管HK内の様子について、図3〜図8を参照しながら説明する。図3は、本実施形態の小便器USの動作を示すフローチャートである。図4は、図3に示すフローチャートで小便器USを動作させた場合の、脱離モード等の実行時における電磁弁19の動きや、尿石成分イオン保持量の変化等を示すグラフとして示す図である。図5および図6はそれぞれ、吸着モード実行時におけるトラップ部TP内の様子と、排水管HK内の様子を示す概略図である。図7および図8はそれぞれ、脱離モード等の実行時における、トラップ部TP内の様子と、排水管HK内の様子を示す概略図である。なお、図5〜図8については、簡略化のため、尿石成分イオンとして、カルシウムイオン(Ca2+)とマグネシウムイオン(Mg2+)のみを示しているが、実際には、リン酸イオン(PO4 3-)等、他の尿石成分イオンの吸着、保持も行われている。
図3において、ステップS11では、「吸着モード」を実行し、尿石成分イオンの吸着、保持を開始する。具体的には、電極25a、25bに、電圧V1を継続的に印加し、尿石成分イオンをいつでも吸着、保持可能な状態にする。したがって、使用者による排尿行為があった場合には、その尿から尿石成分イオンを吸着すると共に、保持することができる。続いて、ステップS12では、電極25a、25bの尿石成分イオン保持量が、電極25a、25bが保持可能な最大量Nmに達したか否かを判定する。具体的には、本実施形態の小便器USでは、制御部CRに、電極25a、25b間を流れる電流(電極25a、25b間に電圧を印加する電源から出力される電流である。以下、「保持電流」とも称する)の値が入力されるよう構成されている。保持電流は、電極25a、25bに保持されている尿石成分イオンの量に応じて変化するため、この保持電流の値に基づき、電極25a、25bの尿石成分イオン保持量が、最大量Nmに達したか否かを判定する。より具体的には、保持電流の値と電極25a、25bの尿石成分イオン保持量の間には、図9に示すように、反比例の関係があり、さらに、保持電流が所定の下限電流値Ibに達すると、それ以上尿石成分イオン保持量を増やすことができなくなるという特性があるため、保持電流が、下限電流値Ibに達したか否かによって、電極25a、25bの尿石成分イオン保持量が、最大保持量Nmに達したか否かを判定する。したがって、ステップS12にて、尿石成分イオン保持量が最大量Nmに達したと判定されるまで、電極25a、25bは、使用者から排出される尿から、尿石成分イオンを吸着すると共に、保持する動作を繰り返すことができる。
ここで、「吸着モード」実行時における、トラップ部TP内および排水管HK内の様子について説明する。図5(A)は、「吸着モード」実行後に、数人の使用者が排尿した後の状態を示している。トラップ部TP内には、使用者が排出した尿が貯留されているが、これらの尿に含まれる尿石成分イオン(Ca2+、Mg2+)はすでに電極25aに吸着、保持されており、トラップ部TP内に貯留されている尿Urlの尿石成分イオン濃度は極めて低い状態、あるいは尿石成分イオンを含んでいない状態になっている。図5(B)に示すように、新たな使用者により排尿が行われると、使用者によって排出された尿Urpがトラップ部TPに流れ込む。この流れ込みにより、貯留されていた尿Urlは、図6(A)に示すように、排水管HKに排出されるが、尿Urlは尿石成分イオン濃度が極めて低いか、尿石成分イオンを含んでいないため、図6(B)に示すように、排水管HKに尿Urlが残留し、排水管HK内の細菌等の作用により残留した尿UrlのpHが高くなったとしても、尿石が析出することを抑制できる。また、図5(B)に示すように、トラップ部TPに流入した尿Urpに含まれる尿石成分イオンは、電極25aに吸着される。したがって、新たな尿Urpがトラップ部TPに流入しても、それらの尿は、図5(C)に示すように、尿石成分イオン濃度が極めて低い状態、あるいは尿石成分イオンを含んでいない状態でトラップ部TP内に貯留される。
図3に戻り、ステップS12において、保持量が最大量Nmに達したと判定された場合には、ステップS13に移行し、スプレッダー7から洗浄水の供給を開始する(プレ給水)。このとき、図4(C)に示すように、制御部CRは、電磁弁19の開度を全開にし、大流量(瞬間流量:大)で洗浄水が供給されるよう制御信号を出力する(t1)。そして、ステップS14において、洗浄水供給を開始してから所定時間Taが経過した否かを判定する。所定時間Taが経過していなければ、ステップS14が繰り返し実行され、所定時間Taが経過したと判定されると、ステップS15に移行する。
このときのトラップ部TP内および排水管HK内の様子について説明する。図7(A)は、ステップS12において、保持量が最大量Nmに達した状態を示している。このとき、図8(A)に示すように、排水管HKには、細菌等の作用によりpHが高くなった尿Urlが残留している。図7(B)はステップS13において、洗浄水供給を開始した際の様子を示している。スプレッダー7より供給される洗浄水は、トラップ部TPに流入し、この流入によりトラップ部TPに貯留されていた尿Urlは排水管HKに排出される。これにより、図7(B)に示すように、トラップ部TP内は、洗浄水Wflのみが貯留される。洗浄水の供給は所定時間Ta継続されるため、次々とトラップ部TP内に流入する洗浄水により、トラップ部TP内に一旦貯留された洗浄水が継続的に排水管HKに排出される。これにより、図8(B)に示すように、排水管HKに残留していた、pHの高い尿Urlが洗浄水Wflにより洗い流されたり、希釈されたりする。本実施形態においては、所定時間Taは、このように、排水管HKに残留しているpHの高い尿Urlを十分に洗い流すことができる時間が設定されている。なお、電極25a、25bには継続して電圧が印加され、尿石成分イオンが保持されているため、この洗浄水の供給により、吸着された尿石成分イオンが排水管HKに排出されることはない。
図3に戻り、ステップS15に移行すると、スプレッダー7から供給される洗浄水の供給流量を変更する。このとき、図4(C)に示すように、電磁弁19の開度を半開にし、小流量(瞬間流量:小)で洗浄水が供給されるよう制御信号を出力する(t2)。続いて、ステップS16に移行し、吸着モードを終了すると共に、ステップS17に移行し、尿石成分イオンの脱離処理を開始する。このとき、図4(B)に示すように、電極25a、25bに印加する電圧をV1からV2(V1の逆電圧)に変化させるよう制御信号を出力する(t2)。ステップS18では、脱離処理開始から所定時間Tbが経過したか否かを判定する。経過していなければ、ステップS18が繰り返し実行され、経過したと判定された場合は、ステップS19に移行し、脱離処理を終了する。脱離処理を終了する際には、図4(B)に示すように、電圧を印加しない状態となるよう、制御信号を出力する(t3)。そして、ステップS20に移行し、洗浄水給流量を小流量から、再び大流量(瞬間流量:大)へと変更する(ポスト給水)。このとき図4(C)に示すように、電磁弁19が全開となるよう制御信号を出力する(t3)。そして、ステップS21へ移行し、洗浄水供給流量を小流量から大流量へと変更してから所定時間Tcが経過したか否かを判定する。所定時間Tcが経過していなければ、ステップS21が繰り返し実行され、経過したと判定されると、ステップS22へ移行し、洗浄水の供給を停止する。このとき、図4(C)に示すように、電磁弁19が全閉となるよう制御信号を出力する(t4)。そして、ステップS22で洗浄水供給を終了した後は、ステップS11に戻り、再度、吸着モードを実行し、使用者から排出された新たな尿から、尿石成分イオンを吸着可能な状態にしておく。
ここから、ステップS15以降のトラップ部TP内および排水管HK内の様子について説明する。図7(C)は、ステップS15およびステップS17において、洗浄水供給流量が低減され、脱離処理を開始した際のトラップ部TP内の様子を示している。図7(C)に示すように、脱離処理により、電極25a、25bには電圧V2(V1の逆電圧)が印加され、陽極となる電極25aは尿石成分イオン(Ca2+、Mg2+)を引き寄せる力を失ってしまうため、電極25aからは、トラップ部TPに流入する洗浄水Wflと共に大量の尿石成分イオンが下流へ流れていく。したがって、図8(C)に示すように、大量の尿石成分イオンを含んだ洗浄水Wfhが排水管HKへ排出される。このとき、排水管HKにpHが高い尿が残留していた場合、尿石成分イオン濃度が極めて高い洗浄水WfhがそのpHが高い尿と接触し、一瞬にして排水管HKに大量の尿石が析出してしまう。しかし、本実施形態においては、尿石成分イオン濃度が極めて高い洗浄水Wfhが排水管HKに排出される前に、排水管HKに洗浄水を供給することにより、排水管HK内に残留するpHが高い尿を下流側へ搬送したり、希釈してpHを低下させているため、そのように大量の尿石が析出することもない。
また、洗浄水を小流量で供給しているため、尿石成分イオン濃度が極めて高い洗浄水Wfhが排水横枝管27の分岐部27aを上流側に逆流することがないため、洗浄水Wfhが分岐部27aよりも上流側に残留することにより尿石が発生することを防止できる。
本実施形態では、脱離処理開始後、電極25aに吸着されていた尿石成分イオンが全て排水横枝管27に排出されるタイミングで、洗浄水の供給量を大流量に変更するよう、所定時間Tbは設定されている。したがって、尿石成分イオン濃度が極めて高い洗浄水Wfhが排水横枝管27へ全て排出されたタイミングで、図7(D)に示すように、再度、大流量で洗浄水がトラップ部TP内に流入する。これにより、図8(D)に示すように、排水管HKには勢い良く洗浄水Wflが流れ込み、尿石成分イオン濃度が極めて高い洗浄水Wfhが排水管HKに残留することを確実に防止することができ、洗浄水Wfhの残留により排水管HKに尿石が発生することを防止できる。なお、本実施形態では、尿石成分イオン濃度が極めて高い洗浄水Wfhが排水管HKから十分に排出されるよう、所定時間Tcは設定されている。
本実施形態は、このようにして吸着した尿石成分イオンを排水管HKから排出させることにより、排水管HKにおいて尿石が生じることを防止している。
なお、ステップS17〜S18において行う脱離処理の際、脱離する尿石成分イオンが多く尿石が発生する可能性が高い脱離モード実行初期の第一の期間における脱離制御が、第一の期間よりも後の期間であって、第一の期間で尿石成分イオンを脱離したことによって尿石成分イオンが少なく尿石が発生する可能性が低い脱離モード中の第二の期間における脱離制御よりも脱離性能を抑えた制御となるよう、脱離モードの途中で制御を変えることも好ましい。
このような態様によれば、特に尿石が発生し易い脱離モード実行初期において尿石が生じることを抑制しつつ、尿石が発生し難い期間においては素早く脱離することができる。
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、上述した実施形態では、吸着手段により吸着した尿石成分イオンを保持するために、静電引力を利用しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、分子間力や、物理的な力を利用して、吸着した尿石成分イオンを保持するようなものであっても構わない。