図面を参照して(図示のものは、本発明の実施形態を説明することを目的としたものであって、それらの限定を目的としていない)、図1及び図2は、溶接をシミュレートするためのシステム(概して参照符号10を付す)を示す。本明細書では、該システムをシミュレータ10又はシステム10と呼ぶ。シミュレータ10は、現実世界での溶接環境と同様の溶接環境を表現し得る仮想環境15の生成が可能であり、仮想環境15は仮想現実アーク溶接(VRAW)として知られ得る。仮想環境15内で、シミュレータ10は1人以上のエンドユーザー12とのやりとりを促進させる。エンドユーザー12が現実世界での動作を行えるようにする入力装置155が含まれる。その現実世界での動作はシミュレータ10によって追跡されて、仮想動作に変換される。そのため、仮想環境15はインタラクティブな仮想溶接環境15を含む。仮想環境15及びエンドユーザー12の動作への視覚的なアクセスを提供するディスプレイ装置200が含まれる。一実施形態では、シミュレータ10は、複数のエンドユーザー12又は他の観察者が観ることのできるディスプレイ画面150を含み得る。それに加えて、シミュレータ10は、訓練生ユーザー12a又はインストラクターユーザー12bであり得る1人のエンドユーザー12が用いるように適合されたパーソナルディスプレイ140を含み得る。なお、エンドユーザー12の現実世界での動作が仮想溶接作業に変換されて、1つ以上のディスプレイ140、150上でリアルタイムに観察される。本明細書で使用の「リアルタイム」という用語は、現実世界の環境でエンドユーザー12が認識及び経験し得るものと同様な形で仮想環境を時間的に認識及び経験することを意味する。
インタラクティブな仮想溶接環境15の生成に際して、シミュレータ10は、1つ以上の溶接プロセスを様々な溶接ポジションにある複数の溶接継手のためにエミュレートするのに加えて、様々な種類の電極の効果を複数の継手構成のためにエミュレートする。特定の実施形態では、シミュレータ10は、パイプ溶接及び/又はオープンルート継手の溶接をエミュレートするインタラクティブな仮想溶接環境15を生成する。本システムは、リアルタイムの溶融金属流動性及び熱放散特性を有する溶融パドルのシミュレートが可能である。シミュレータ10は、仮想溶接作業が溶接継手に、例えば下地のベース材にどのように影響を与えるかをモデリングすることも可能である。例示として、シミュレータ10は、それぞれが現実世界でのシナリオに匹敵する特徴を持つルートパス及びホットパス並びに後続のフィラーパス及びキャップパスの溶接をエミュレートし得る。後続のパスのそれぞれは、前のパスの間に生じたベース材の変化を受けて及び/又は異なる電極が選択された結果として前のパスでの溶接と大幅に異なり得る。パドルモデリングのリアルタイムフィードバックによって、エンドユーザー12は仮想溶接プロセスをディスプレイ200上で観察し、仮想溶接を行ったときに自身のテクニックを調節又は維持することができる。観察される仮想インジケータの種類の例をいくつか挙げると、溶接パドルのフロー、溶融パドルの揺らめき、パドルが凝固する間の色の変化、パドルの凝固速度、熱放散の色のグラデーション、音、ビード形成、ウィーブパターン、スラグの形成、アンダーカット、ポロシティ、スパッタ、スラグの閉じ込め、オーバーフィル、吹き抜け及び閉塞がある。パドルの特性は、エンドユーザー12の入力装置155の操作に依存、即ち反応することが分かる。このように、表示された溶接パドルは、選択された溶接プロセス及びエンドユーザー12の溶接テクニックに基づきリアルタイムに形成された現実世界の溶接パドルを表す。さらに、「轍(wagon tracks)」とは、SMAWプロセスを用いたパイプ溶接の間にできた溶接欠陥及びルートパスの先端に残されたスラグの視覚的な跡である。パイプ溶接におけるホットパスと呼ばれる第2のパスは、最終溶接物から轍が除去されるように轍を溶融できるほどの熱さがなければならない。轍は研磨プロセスで除去することもできる。本発明の一実施形態によれば、本明細書で説明するシミュレータ10では、そのような轍及び轍の除去が適切にシミュレートされる。
図1及び図2を続けて参照し、図3a及び図3bも参照して、シミュレータ10は溶接プロセスを様々な溶接ポジションでエミュレートし、各ポジションで溶接パドルがどのように反応するかをモデル化する。より具体的には、シミュレータ10は、当該技術分野でそれぞれ5G、2G及び6G位置と呼ばれる垂直、水平及び/又は傾斜位置でパイプ溶接をエミュレートし得る。それに加えて、シミュレータ10は、パイプの回転水平位置に関する1G位置で又は隣接プレートの開先溶接に関連し得る上向き溶接に関連する4G位置で溶接をエミュレートし得る。他の溶接ポジションは、様々な構成の平らなプレートのためのオープンルート継手の溶接に関し得る。後で詳細に説明するモデル化及び分析エンジンを含むシミュレータ10は、溶接パドルにかかる重力の作用を考慮に入れる。従って、例えば5G位置にある溶接パイプと6G位置にある溶接パイプとでは溶接パドルの反応が異なる。上記の例を限定的に解釈すべきでなく、それらは説明を目的として含められている。当業者であれば、任意の溶接継手、溶接ポジション又は様々な種類のベース材を含む溶接物の種類への適用が容易に分かる。
図2及び図4を参照して、シミュレータ10はロジックプロセッサベースのサブシステム110を含む。ロジックプロセッサベースのサブシステム110は、インタラクティブな仮想溶接環境15を生成するためにコード化命令を実行するようプログラム可能且つ動作可能である。シミュレータ10は、ロジックプロセッサベースのサブシステム110に作動的に接続された空間追跡装置120を含み得るセンサ及び/又はセンサシステムをさらに含む。シミュレータ10は、ロジックプロセッサベースのサブシステム110と通信する、シミュレータ10のセットアップ及び制御のための溶接ユーザーインターフェイス130も含む。前で述べたように、ディスプレイ装置200が含まれる。ディスプレイ装置200は、それぞれがロジックプロセッサベースのサブシステム110に接続され、インタラクティブな仮想溶接環境15への視覚的アクセスを提供するフェイスマウントディスプレイ装置140及び観察者用ディスプレイ装置150を含み得る。ディスプレイ装置200のうちの1つ以上は、後で説明するようにその位置及び/又は動きに対応して装置上で見られる画像を変化させるために空間追跡装置120に接続され得る。
入力装置
図5を参照して、前で述べたように、シミュレータ10はエンドユーザー12とのやりとりを促進する入力装置155を含む。一実施形態では、入力装置155は疑似溶接工具160を含む。疑似溶接工具160は、現実世界の溶接工具、例えば手動の溶接電極ホルダー又は電極に連続的に給電する溶接ガン等の現実世界の溶接工具、即ちMIG、FCAW又はGTAW溶接工具に類似するよう形成されている。それでも、本発明の実施形態の意図する対象範囲から逸脱することなく、疑似溶接工具160の他の構成が実施され得る。説明を目的として、手動の溶接電極ホルダー156に似た疑似溶接工具160を使用する文脈で本発明の実施形態を説明する。疑似溶接工具160は、現実世界の溶接工具によく似ている。特定の実施形態では、疑似溶接工具160は現実世界の溶接工具と形状、重さ及び質感が同じであり得る。実際に、ユーザーの手のなかで工具の実際の質感を提供するために、本物の溶接工具が疑似溶接工具160として使用され得るが、シミュレータ10ではこの本物の溶接工具を使って本物のアークを実際に生成することはない。このように、訓練生ユーザー12aであり得るエンドユーザー12は、現実世界の溶接工具の取り扱いに慣れ、それにより仮想溶接経験が高められる。しかしながら、正しい判断により選択された任意の方法で疑似溶接工具160を構成してもよい。
一例として、疑似溶接工具160は、パイプ溶接のためのスティック型溶接工具(stick welding tool)をシミュレートし、ホルダー161及びそこから延びた模擬溶接棒162を含む。模擬溶接棒162は、現実世界の環境での溶接の間に起こる抵抗フィードバック(resistive feedback)をシミュレートする触覚抵抗性チップ(tacitly resistive tip)163を含み得る。エンドユーザー12が模擬溶接棒162をルートから出し過ぎると(後で詳細に説明する)、エンドユーザー12は低抵抗を感じるか又は感知することができるため、現在の溶接プロセスを調節するか又は維持するのに用いるフィードバックが得られる。スティック型溶接工具は、仮想溶接プロセスの間に模擬溶接棒162を引き戻すアクチュエータ(図示せず)を含み得ることが考えられる。即ち、エンドユーザー12が仮想溶接行為を行うのに伴って、ホルダー161と模擬溶接棒162の先端との間の距離を短くして電極の消費を模倣する。消費速度、即ち、溶接棒162の回収はロジックプロセッサベースのサブシステム110により、より具体的にはロジックプロセッサベースのサブシステム110により実行されるコード化命令により制御され得る。模擬消費速度はエンドユーザー12のテクニックにも依存し得る。なお、シミュレータ10は様々な種類の電極を用いた仮想溶接を支援するため、溶接棒162の消費速度又は減少量を、使用する溶接工程及び/又はシミュレータ10のセットアップに応じて変化させてもよいことを付言しておく。
疑似溶接工具160のアクチュエータは電動であり得る。アクチュエータを動かす電力はシミュレータ10、外部電源又は内蔵バッテリーに由来する。一実施形態では、アクチュエータは電気モータ等の電動装置であり得る。それでも、限定されないが、電磁アクチュエータ、空気圧式アクチュエータ、機械又はバネ搭載アクチュエータ、その任意の組み合せを含む任意の種類のアクチュエータ又は任意の形式の動力を用いてもよい。
前で指摘したように、疑似溶接工具160はシミュレータ10とやりとりを行うために空間追跡装置と連携し得る。具体的には、疑似溶接工具160の位置及び/又は向きが空間追跡装置120によってリアルタイムに観察及び追跡され得る。従って、係る位置及び向きを表すデータがロジックプロセッサベースのサブシステム110に伝えられ、仮想溶接環境15とのやりとりの必要に応じて用いるために変更又は変換され得る。
空間追跡装置
図8を参照して、空間追跡装置120の一例を示す。空間追跡装置120はロジックプロセッサベースのサブシステム110と連動(interface)し得る。一実施形態では、空間追跡装置120は疑似溶接工具160を磁気的に追跡し得る。即ち、空間追跡装置は、位置及び向きに加えて速度及び/又は速度の変化を求めるのに使用される磁気領域(magnetic envelope)を生成する。従って、空間追跡装置120は、磁気源121及び磁気源ケーブル、1つ以上のセンサ122、ディスク123上のホストソフトウェア、電源124、USB及びRS−232ケーブル125、プロセッサトラッキングユニット126及び他の関連するケーブルを含む。磁気源121はケーブルを通じてプロセッサトラッキングユニット126に作動的に接続可能であり、センサ122もまた同様である。電源124もケーブルを通じてプロセッサトラッキングユニット126に作動的に接続可能である。プロセッサトラッキングユニット126は、USB又はRS−232ケーブル125を通じてロジックプロセッサベースのサブシステム110に作動的に接続可能である。ディスク123上のホストソフトウェアはロジックプロセッサベースのサブシステム110に取り込み可能であり、空間追跡装置120とロジックプロセッサベースのサブシステム110との間での機能的通信を可能にする。
磁気源121は、磁気源121の周囲を取り囲み、3次元空間を規定する磁界又は磁気領域を生成する。その3次元空間内でエンドユーザー12の動作がシミュレータ10とのやりとりのために追跡され得る。磁気領域は空間参照枠(spatial frame of reference)を確立する。磁気源121によって生成される磁界を変形させることがないように、磁気領域内で用いられる物体、例えば疑似溶接工具160及びクーポンスタンド(後で説明)は非金属材料、即ち非鉄製で且つ非導電性の材料で構成され得る。センサ122は、交差する空間方向に並び、実質的に直角に並んだ複数の誘導コイルを含み得る。誘導コイルは、3つの方向のそれぞれで磁界の強度を測定して、プロセッサトラッキングユニット126に情報を提供する。一実施形態では、センサ122が疑似溶接工具160に取り付けられ、位置及び向きの双方の点で疑似溶接工具160を空間基準枠に対して追跡できる。より具体的には、誘導コイルが電極162の先端に取り付けられ得る。このように、シミュレータ10は、疑似溶接工具160が3次元領域内のどこに位置しているか特定することができる。追加のセンサ122が設けられ、1つ以上のディスプレイ装置200に作動的に取り付けられ得る。従って、シミュレータ10はセンサのデータを用いて、エンドユーザー12が見ている視界をエンドユーザー12の動きに対応して変更してもよい。そのため、シミュレータ10は、エンドユーザー12の現実世界での動作を仮想溶接環境15に変換するために捕捉及び追跡する。
本発明の代替的な実施形態によれば、センサ122はプロセッサトラッキングユニット126とワイヤレスでやりとりを行い、プロセッサトラッキングユニット126はロジックプロセッサベースのサブシステム110とワイヤレスでやりとりを行い得る。本発明の他の代替的な実施形態によれば、例えば加速度計/ジャイロスコープベースの追跡装置、光学追跡装置、赤外線追跡装置、音響追跡装置、レーザー追跡装置、無線周波数追跡装置、慣性追跡装置、能動型又は非能動型の光学追跡装置及び拡張現実ベースのトラッキングを含む他の種類の空間追跡装置120がシミュレータ10で用いられ得る。それでも、本発明の実施形態の意図する対象範囲から逸脱することなく、他の種類の追跡装置が用いられ得る。
ディスプレイ装置
図7aを参照して、フェイスマウントディスプレイ装置140の一例を説明する。フェイスマウントディスプレイ装置140は、図7cに示すように溶接ヘルメット900と一体化されるか、あるいは図7bに示すように別で取り付けられ得る。フェイスマウントディスプレイ装置140は2D及びフレームシーケンシャルビデオモードで流体フルモーション映像を提供可能な2つの高コントラストSVGA 3D OLEDマイクロディスプレイを含み得る。仮想溶接環境15からの仮想画像、例えば映像が提供され、フェイスマウントディスプレイ装置140上で表示される。本発明の一実施形態では、ロジックプロセッサベースのサブシステム110は立体映像をフェイスマウントディスプレイ装置140に提供し、ユーザーの奥行き知覚を高める。立体画像は、(後で詳細に説明するグラフィックスプロセッシングユニットであり得る)ロジックプロセッシングユニットによって生成され得る。ズーム(例えば2倍)モードを設けて、ユーザーがチータープレート(cheater plate)を模倣できるようにしてもよい。フェイスマウントディスプレイ装置140は、有線又は無線手段によりロジックプロセッサベースのサブシステム110及び空間追跡装置120に作動的に接続される。空間追跡装置120のセンサ122がフェイスマウントディスプレイ装置140に又は溶接ヘルメット900に取り付けられ、空間追跡装置120によって生成された3D空間参照枠に対してフェイスマウントディスプレイ装置140を追跡することができる。このように、3次元仮想現実環境においてエンドユーザー12が見ている画像が溶接ヘルメット900の動きに反応して変更される。
フェイスマウントディスプレイ装置140は、後で説明する観察者用ディスプレイ装置150のメニューアイテムと同様のものを呼び出し、表示するようにも機能し得る。このように、エンドユーザーは疑似溶接工具160上の制御装置(例えばボタン又はスイッチ)を用いてメニューを起動させてオプションを選択することができる。これにより、ユーザーは、例えば失敗した場合に溶接を容易にリセットすること、特定のパラメータを変更すること又は溶接ビードの軌道の一部をやり直すために前に戻ることができる。
フェイスマウントディスプレイ装置140はスピーカー910をさらに含み、ユーザーは、シミュレータ10によって生成された模擬溶接関連音及び模擬環境音を聞くことができる。サウンドコンテンツ機能及び溶接音は、特定の溶接パラメータが許容値内にあるか又は許容値外にあるかによって変化する特定の種類の溶接音を提供する。音は様々な溶接プロセス及びパラメータに合わせられている。例えば、MIGスプレーアーク溶接プロセスでは、ユーザーが疑似溶接工具160を正しく配置していない場合にパチパチという音(crackling sound)が提供され、疑似溶接工具160を正しく配置している場合にはスースーという音(hissing sound)が提供される。ショートアーク溶接プロセスでは、アンダーカットが起きている場合はスースーという音が提供され得る。これらの音は、正しい溶接テクニック及び誤った溶接テクニックに対応する現実世界の音を模倣したものである。
様々な電気的及び機械的手段を用いた実際の溶接の現実世界での録音から高忠実度のサウンドコンテンツを採用してもよい。疑似溶接工具160と溶接クーポン175との間の模擬アークに対するユーザーの頭、即ちフェイスマウントディスプレイ装置140の位置、向き及び距離に応じて、知覚される音の音量及び指向性が変更される。音は、フェイスマウントディスプレイ装置140に取り付けられるか、あるいはコンソール135及び/又はスタンド170に取り付けられるスピーカー910(イヤホン型スピーカー若しくは任意の他の種類のスピーカー又は音発生装置であり得る)を通じてユーザーに提供され得る。それでも、仮想溶接作業を行っている間にエンドユーザー12に音を提供するための任意の方法を選択してもよい。なお、スピーカー910を通じて他の種類の音情報を伝達してもよい。その例としては、インストラクターユーザー12bからの口頭指示(リアルタイムの又は予め録音したメッセージによる口頭指示)が挙げられる。予め録音したメッセージは、特定の仮想溶接作業によって自動的に始まるようにしてもよい。リアルタイムの指示は現場で又は遠隔地から生成され得る。それでも、任意の種類のメッセージ又は指示をエンドユーザー12に伝えてもよい。
コンソール
図2、図6及び図7を参照して、シミュレータ10は、シミュレータ10の1つ以上の構成要素を収容するコンソール135を含み得る。一実施形態では、コンソール135は溶接電源に類似するように構成され得る。即ち、コンソール135の形状及びサイズは、現実世界の装置の形状及びサイズと合致し得る。シミュレータ10の操作は、溶接電源のつまみ、ダイアル及び/又はスイッチ133、134に類似するように形成された溶接ユニットインターフェイス130により促進され得る。シミュレータ10は、ディスプレイ装置200であり得るディスプレイをさらに含み得る。シミュレータ10にインストールされたコード化命令、即ちソフトウェアは、ディスプレイ画面200に指示及び/又はメニューオプションを表示させることにより、エンドユーザー12のシミュレータ10とのやりとりを導き得る。シミュレータ10とのやりとりは管理上のアクティビティ又はシミュレーションのセットアップ及び起動を含み得る。これには特定の溶接プロセス及び電極の種類の選択に加えて、溶接位置を含む部分セットアップが含まれ得る。溶接ユニットインターフェイス130を用いてなされた選択はディスプレイ装置200上に反映される。
図6は、コンソール135及び溶接ユーザーインターフェイス130の例示的な実施形態を示す。溶接ユニットインターフェイス130は、シミュレータ10のセットアップ及び動作の間に用いられるユーザー選択部(user selections)153に対応する一式のボタン131を含む。ボタン131は、ディスプレイ装置200に表示されるユーザー選択部153の色に対応するよう色付されている。ボタン131のうちの1つが押圧されると、ロジックプロセッサベースのサブシステム110に信号が送信されて対応する機能が作動される。溶接ユニットインターフェイス130は、ディスプレイ装置200に表示される様々なパラメータ及び選択部を選択するためにユーザーが用いることができるジョイスティック132も含み得る。溶接ユニットインターフェイス130は、例えばワイヤ送給速度/アンペア数を調節するのに用いられ得るダイアル又はつまみ133と、ボルト/トリムを調節するための別のダイアル又はつまみ134とをさらに含む。溶接ユニットインターフェイス130はアーク溶接プロセスを選択するためのダイアル又はつまみ136も含む。本発明の一実施形態によれば、フラックスコアードアーク溶接(FCAW)、ガス金属アーク溶接(GMAW)及びシールド金属アーク溶接(SMAW)を含む3つアーク溶接プロセスが選択可能である。溶接ユニットインターフェイス130は溶接の極性を選択するためのダイアル又はつまみ137をさらに含む。本発明の一実施形態によれば、交流(AC)、正の直流(DC+)及び負の直流(DC−)を含む3つのアーク溶接の極性を選択することができる。それでも、本発明の実施形態の意図する対象範囲から逸脱することなく、限定されないがTIG溶接を含む他の溶接プロセス及びセットアップ特徴がシミュレータ10に組み込まれ得る。上述の説明から、シミュレータ10のセットアップは現実世界の装置のセットアップと同等であることが容易に分かる。
グラフィカルユーザーインターフェイス機能1213(図12参照)は、ユーザーが観察者用ディスプレイ装置150を見て、物理的ユーザーインターフェイス130のジョイスティック132を使って溶接シナリオをセットアップできるようにする。溶接シナリオのセットアップは、言語の選択、エンドユーザー名の入力、練習するプレート(例えば、溶接クーポン、Tプレート、平らなプレート)の選択、溶接プロセス(例えば、FCAW、GMAW、SMAW、TIG)及び関連する軸方向噴霧、パルス若しくはショートアークモードの遷移の選択、ガスの種類及び流速の選択、溶接棒の種類(例えばE6010又はE7018)の選択並びにフラックスコアードワイヤ(例えばセルフシールド、ガスシールド)の種類の選択を含む。溶接シナリオのセットアップは、後で詳細に説明するクーポンスタンド170のセットアップも含み得る。溶接シナリオのセットアップは、環境(例えば仮想現実空間における背景環境)を選択すること、ワイヤ送給速度を設定すること、電圧レベルを設定すること、極性を選択すること及び特定の視覚キューをオン又はオフにすることをさらに含む。なお、一実施形態では、シミュレータ10に限定が組み込まれ、係る限定は、選択されたプロセスのための適切な設定が正しく入力されるまで所定の溶接シナリオの操作を防止するソフトウェア限定であり得る。このように、訓練生ユーザー12aは、仮想溶接シナリオをセットアップすることにより現実世界の溶接の設定の正確な範囲を教えられるか又は学習する。
従って、ディスプレイ装置200は、メニュー、アクション、視覚キュー、新たなクーポンのセットアップ及びスコアを含むエンドユーザーの選択部153に対応するアクティビティを反映する。これらのユーザー選択部はコンソール135のユーザーボタンに対応し得る。ユーザーがディスプレイ装置200を通じて様々な選択を行うと、選択された情報及び他のオプションをユーザーに提供するために表示特性が変更される。しかしながら、観察者用ディスプレイ装置150であり得るディスプレイ装置200は、エンドユーザー12がシミュレータ10の動作の間に、即ち仮想溶接作業を行っている間にエンドユーザーによって見られる仮想イメージを表示するという別の機能を有し得る。ディスプレイ装置200は、エンドユーザー12が見ているものと同じイメージが見られるようにセットアップされ得る。あるいは、ディスプレイ装置200は仮想溶接作業の別の視界又は別の視点を表示するように用いてもよい。
一実施形態では、ディスプレイ装置150、200は、図10に示すデータ記憶装置300に電気的に記憶された仮想溶接作業を再生するのに用いられ得る。エンドユーザー12の仮想溶接作業を表すデータは、再生及びレビューのために、目的を実現するためにダウンロードするため及び/又は遠隔地に送信してリアルタイムで視聴及び批評するために記憶され得る。仮想溶接作業を再生する際、溶接パドルの流動性、移動速度に加えて、例えば不適切な隅肉のサイズ、悪いビード配置、凹状ビード、過剰な凸性、アンダーカット、ポロシティ、不完全な融合、スラグの閉じ込め、過剰なスパッタ及び焼け落ちを含む不連続状態152等の詳細が表現され得る。アンダーカットも表示され得る。アンダーカットは許容角度から外れることに起因するものである。さらに、ポロシティも表示され得る。ポロシティは溶接物からアークを離しすぎることによって生じるものである。このように、シミュレータ10は特定の仮想溶接作業の一部又は全てを再生すること、エンドユーザーの動作に直接関連する閉塞や欠陥を含む仮想溶接シナリオの全ての側面をモデル化することができる。
図6aを参照して、シミュレータ10は仮想溶接作業の結果を分析すること及び表示することができる。結果を分析するとは、シミュレータ10が、溶接パスの間の何時、そして溶接継手沿いの何処でエンドユーザー12が溶接プロセスの許容限度から逸れたかを判断できることを意味する。得点はエンドユーザー12のパフォーマンスに起因し得る。一実施形態では、得点は、理想的な溶接パスから最低限又は許容不可な溶接作業にわたり得る許容値の範囲にわたる疑似溶接工具160の位置、向き及び速度の逸脱の関数であり得る。範囲の勾配をシミュレータ10に組み込んでエンドユーザー12のパフォーマンスの採点のために選択してもよい。得点は数字又は英数字で表示され得る。それに加えて、エンドユーザー12のパフォーマンスをグラフィカルに表示し、時間的に及び/又は溶接継手沿いの位置においてどれ位近く疑似溶接工具が溶接継手を横断できたかを示してもよい。トラベル角、作業角度、速度及び溶接継手からの距離等のパラメータは計測され得るものの例であり、採点目的のために任意のパラメータを分析してもよい。パラメータの許容値の範囲は現実世界の溶接データから採られているため、現実世界でのユーザーのパフォーマンスについての正確なフィードバックが提供される。他の実施形態では、エンドユーザー12のパフォーマンスに対応する欠陥の分析も組み込まれ、ディスプレイ装置150、200で表示され得る。この実施形態では、仮想溶接作業の間に観察した様々なパラメータの測定により、どのような種類の不連続ができたかを示すグラフが描画され得る。ディスプレイ装置200上では閉塞は見えないものの、エンドユーザー12のパフォーマンスの結果として欠陥が起きていることがあり、その結果が対応して表示され得る、即ちグラフ化され得る。
エンドユーザー12の訓練に用いられる指導情報を表示するのにディスプレイ装置200を用いてもよい。指導情報の例としては指示が挙げられ、係る指示は映像又は画像で描写されてグラフィカルに表示され得る。それに加えて、指示を文字で又は上述したようにオーディオ形式で提示してもよい。そのような情報はデータ記憶装置300で記憶及び維持され得る。一実施形態では、シミュレータ10は位置、ノズル高さ(tip to work)、溶接角度、トラベル角及び移動速度を含む様々な溶接パラメータ151を示す仮想溶接シーンを表示することができ、本明細書ではそれらを視覚キューと呼ぶ。
一実施形態では、同様の又は異なる構成の装置、即ちシミュレータで作業する現場から離れた人員、即ち遠隔地のユーザーによる仮想指示を提供するために遠隔通信が用いられることがある。仮想溶接プロセスの表現は、限定されないがインターネット、LAN及びデータ送信のための他の手段を含むネットワーク接続によって実現され得る。特定の溶接部(パフォーマンス変数を含む)を表すデータが、仮想データ及び/又は溶接データを表示可能な他のシステムに送信され得る。なお、送信されたデータは、遠隔地のユーザーが溶接工のパフォーマンスを分析できるように十分詳細なものである。遠隔地のシステムに送られたデータは仮想溶接環境を生成するのに用いられ、それにより特定の溶接プロセスが再現され得る。それでも、本発明の実施形態の意図する対象範囲から逸脱することなく、パフォーマンスデータ又は仮想溶接作業を別の装置に送るのに任意の方法が実施され得る。
溶接クーポン
図1、図9a及び図9bを参照して、シミュレータ10は、溶接継手176を形成するために並置されたパイプ部に似た溶接クーポン175を含み得る。溶接クーポン175はシミュレータ10と連携し、エンドユーザー12が仮想溶接作業を行う間にエンドユーザー12のガイドとして機能する。複数の溶接クーポン175が使用され得る。即ち、仮想溶接作業の所定のサイクルで用いるために入れ替えられる。溶接クーポンの種類をいくつか挙げると、円筒パイプ部、弓状パイプ部、平らなプレート及びTプレート溶接継手がある。一実施形態では、各溶接クーポンはオープンルート継手又は開先を含み得る。しかしながら、本発明の実施形態の意図する対象範囲から逸脱することなく、任意の構成の溶接継手が溶接クーポンに含められ得る。
溶接クーポン175の寸法は様々であり得る。円筒パイプの場合、内径の範囲は11/2インチ(内径)〜18インチ(内径)であり得る。特定の実施形態では、内径の範囲は18インチよりも大きい。他の実施形態では、弓状パイプ部は11/2インチ(内径)から18インチ(内径)までの又は18インチよりも大きい(内径)の範囲の特徴半径(characteristic radius)を有し得る。さらに、任意の内径(内径が11/2インチより小さいもの及び内径が18インチよりも大きいもの両方)の溶接クーポン175が用いられ得ることがわかる。実際には、空間追跡装置120が生成する磁気領域内に溶接クーポン175又は溶接クーポン175の一部が適合する限り、任意の大きさの溶接クーポン175を用いることができる。平らなプレートの長さは18インチまで又は18インチを越え得る。それでも、溶接クーポン175の寸法の上限は、空間追跡装置120によって生成される感知領域のサイズ及び強度並びに溶接クーポン175に対する配置可能性によってのみ制限されることが分かる。そのような変動の全ては、本発明の実施形態の対象範囲に含まれるものとみなされる。
上述したように、溶接クーポン175は空間追跡装置120を妨げない材料で構成され得る。磁界を生成する空間追跡装置の場合、溶接クーポン175は非鉄及び非導電性の材料で構成され得る。しかしながら、選択した種類の空間追跡装置120又は他のセンサとの使用に適した任意の種類の材料を選択してもよい。
図9a及び図9bを参照して、溶接クーポン175は、空間追跡装置120に対して溶接クーポン175を一定で保持するように機能(少なくとも部分的に)するテーブル又はスタンド170に嵌合するように構成され得る。従って、溶接クーポン175は接続部177又はコネクタ177を含み得る。接続部177は、溶接クーポン175の一方側(図示のように底面側であり得る)から延びて、スタンドに含まれる機械式インターロッキング装置内で受容され得る。スタンド170に挿入する際の溶接クーポン175の向きは、仮想溶接環境15内で形成させる仮想溶接物、即ちパイプと厳密に一致するように一定、即ち、繰り返し可能である必要があり得る。このように、溶接クーポン175の位置がどのように変化したかをシミュレータ10が知っている限り、それに合わせて仮想対応物が調節され得る。例えば、セットアップの間に、エンドユーザー12は溶接を行うパイプのサイズを選択し得る。そして、エンドユーザー12は適切な溶接クーポン175をスタンド170に挿入し、それを所定位置にロックする。その後、エンドユーザー12は所望の溶接ポジションを選び、溶接ユーザーインターフェイス130により選択を行う。後で説明するように、スタンド170はその後、シミュレータ10が認識する任意の溶接ポジションに溶接クーポン175を配置するために傾斜又は調節され得る。当然ながら、溶接クーポン175の位置を調節することで空間追跡装置120の位置も調節されるため、知覚追跡フィールド内での溶接クーポン175の相対位置が維持される。
図9はスタンド170の一実施形態を示す。スタンド170は調節可能なテーブル171と、スタンドベース172と、調節可能なアーム173と、垂直ポスト174とを含み得る。テーブル171及びアーム173のそれぞれは垂直ポスト174に取り付けられている。テーブル171及びアーム173のそれぞれは垂直ポスト174の高さに沿って調節することができ、その調節には垂直ポスト174に対する上方、下方及び/又は回転動作が含まれ得る。アーム173は、本明細書で解説した方法と一致する方法で溶接クーポン175を保持するのに用いられる。テーブル171は、エンドユーザー12が使用の間に自身の腕をテーブル171にのせることができるようにすることでエンドユーザー12を支援し得る。特定の実施形態では、ユーザーがアーム173及びテーブル171がどこに位置するかを厳密に知ることができるように垂直ポスト174には位置情報の目盛りが付されている。この情報は、セットアップの間に溶接ユーザーインターフェイス130及びディスプレイ装置150によりシミュレータ10に入力してもよい。
シミュレータ10のセットアップの間になされた選択に対応してテーブル171及びアーム173の位置が自動的に調節される本発明の代替的な実施形態が考えられる。この実施形態では、溶接ユーザーインターフェイス130を通じてなされた選択がロジックプロセッサベースのサブシステム110に伝達され得る。スタンド170によって用いられるアクチュエータ及びフィードバックセンサは、アーム173又はテーブル171を物理的に動かすことなく溶接クーポン175を配置するためにロジックプロセッサベースのサブシステム110によって制御され得る。一実施形態では、アクチュエータ及びフィードバックセンサは電動サーボモータを含み得る。しかしながら、正しい工学的な判断により選択される任意の移動装置(locomotive device)を用いてスタンド170の位置を自動的に調節してもよい。このように、溶接クーポン175をセットアップする工程が自動化され、エンドユーザー12による手動調節を必要としない。
本発明の他の実施形態は、溶接クーポン175と併せて用いられる知的装置(intelligence device)の使用を含む。本明細書では知的装置を「スマート」クーポン175と呼ぶ。この実施形態では、溶接クーポン175は、スタンド170によって検知され得る係る特定の溶接クーポン175についての情報を有する装置を含む。具体的には、アーム173は、溶接クーポン175に位置する装置に又は装置内に記憶されたデータを読み出す検出器を含み得る。その例としては、センサ、例えばマイクロエレクトロニクス装置上で符号化され、検出器の近くにくるとワイヤレスに読み出され得るデジタルデータの使用が挙げられ得る。他の例としては、バーコード等の受動装置の使用が挙げられ得る。それでも、正しい工学的判断により、溶接クーポン175についての情報をロジックプロセッサベースのサブシステム110に知的に伝送する任意の方法が選択され得る。
溶接クーポン175に記憶されたデータは、シミュレータ10に対して、スタンド170に挿入された溶接クーポン175の種類を自動的に示し得る。例えば、2インチのパイプクーポンはその直径に関する情報を含み得る。あるいは、平らなクーポンは、そのクーポンに含まれる溶接継手の種類(例えば、開先継手又は突き合わせ継手)に加えてその物理的な寸法を示す情報を含み得る。このように、溶接クーポン175を選択すること及び設置することに関するシミュレータ10のセットアップを自動化するのに溶接クーポン175に関する情報が用いられ得る。
較正機能1208(図12参照)は、現実世界の空間(3D参照枠)における物理的コンポーネントを仮想溶接環境15におけるビジュアルコンポーネントと一致させる機能を提供する。様々な種類の溶接クーポン175のそれぞれは、溶接クーポン175をスタンド170のアーム173に取り付け、スタンド170に作動的に接続された較正用スタイラスで溶接クーポン175の所定の点179(例えば、溶接クーポン175上の3つの窪み179により示される)を触ることにより工場で較正される。シミュレータ10は所定の点179における磁界強度を測定してロジックプロセッサベースのサブシステム110に位置情報を提供し、ロジックプロセッサベースのサブシステム110はその位置情報を用いて較正を行う(即ち、現実世界空間から仮想現実空間への変換)。
従って、同じ種類の溶接クーポン175の任意部分が非常に厳格な許容値の範囲内で同じように繰り返し可能にスタンド170のアーム173に嵌合する。そのため、特定種類の溶接クーポン175を一度較正すれば、同様のクーポンを繰り返し較正する必要がない(即ち、特定種類の溶接クーポン175の較正が一度で済む)。別の言い方をすれば、同じ種類の溶接クーポン175は交換可能である。較正は、溶接プロセスの間にユーザーが知覚した物理的フィードバックが仮想現実空間においてユーザーに表示されているものと確実に一致させ、シミュレーションをより本物のように感じさせる。例えば、ユーザーが疑似溶接工具160の先端を実物の溶接クーポン180の角部の周りでスライドさせると、ユーザーは実際の角部の周りで先端がスライドしていると感じるときに、ユーザーは仮想溶接クーポンの角部の周りで先端がスライドしているのをディスプレイ装置200上で見る。本発明の一実施形態によれば、疑似溶接工具160は事前に配置されたジグ内に設置され、既知のジグ位置に基づいて同様に較正され得る。
本発明の別の実施形態によれば、「スマート」クーポンは、シミュレータ10が所定の較正ポイント又は「スマート」クーポンの角部を追跡できるようにするセンサを含み得る。係るセンサは、所定の較正ポイントの正確な位置で溶接クーポン175に取り付けられ得る。しかしながら、シミュレータ10に較正データを伝達する任意の方法が選択され得る。従って、シミュレータ10は現実世界の3D空間のどこに「スマート」クーポンがあるかが継続的に分かる。さらに、溶接クーポン175を「アンロック」するためにライセンスキーが提供され得る。特定の溶接クーポン175を購入した場合にライセンスキーが提供され、エンドユーザー12a、12bはそのライセンスキーをシミュレータ10に入力して、その特定の溶接クーポン175に関連するソフトウェアをアンロックすることができる。代替的な実施形態では、現実世界のCAD部品図面に基づいて特別な非標準の溶接クーポンが提供され得る。
プロセッサベースのシステム
図2、図4及び図10を参照して、前述したように、シミュレータ10はロジックプロセッサベースのサブシステム110を含む。ロジックプロセッサベースのサブシステム110は、仮想溶接環境15を生成するために用いられるコード化命令を実行するためのプログラマブル電子回路200を含み得る。プログラマブル電子回路200は、1つ以上のマイクロプロセッサ204を含み得る1つ以上のロジックプロセッサ203又はロジックプロセッサベースのシステム203を含み得る。特定の実施形態では、プログラマブル電子回路200は、後でさらに説明するように中央処理装置(CPU)及びグラフィックスプロセッシングユニット(GPU)を含み得る。例えば電子メモリ、即ちRAM、ROMに加えて、他の周辺サポート回路等の付加的な回路が含まれ得る。なお、電子メモリはCPU及びGPUの双方に含まれ得る。本明細書で説明するように、仮想溶接環境15のレンダリングの態様で使用するためにCPU及びGPUのそれぞれは別個にプログラム可能であり得る。さらに、プログラマブル電子回路200は、ハードディスク装置、光学記憶装置、フラッシュメモリ等のデータ記憶装置300を含み、それを利用し得る。それでも、シミュレータ10内の装置間で又は異なるシミュレータ10間でデータの転送を促進する他の種類の電子回路を含めてもよい。これには、例えば、1つ以上の入力装置155、例えば空間追跡装置又はセンサからデータを受信すること又はローカルエリアネットワーク(LAN)、ワイドエリアネットワーク(WAN)及び/又はインターネットであり得る1つ以上のネットワークを通じてデータを転送することが含まれ得る。なお、前述の装置及びプロセスは本質的に例示にすぎず、限定的に解釈すべきでない。実際に、正しい工学的判断により選択される任意の形のプログラマブル回路、サポート回路、通信回路及び/又はデータ記憶装置が本発明の実施形態に組み込まれ得る。
図10は、シミュレータ10のロジックプロセッサベースのサブシステム110のサブシステムブロック図の例示的な実施形態を示す。ロジックプロセッサベースのサブシステム110は中央処理装置(CPU)111及び2つのグラフィックスプロセッシングユニット(GPU)115を含み得る。2つのGPU115は、リアルタイムの溶融金属流動性並びに熱吸収及び熱放散特性を有する溶接パドルの仮想現実シミュレーションを提供するようにプログラムされ得る。
図11を参照して、グラフィックスプロセッシングユニット(GPU)115のブロック図を示す。各GPU115はデータ並列アルゴリズムの実行をサポートする。本発明の一実施形態によれば、各GPU115は2つの仮想現実の視界(view)を提供可能な2つのビデオ出力118及び119を提供する。ビデオ出力のうちの2つをフェイスマウントディスプレイ装置140に送って溶接工の視点をレンダリングし、第3のビデオ出力を観察者用ディスプレイ装置150に送って、例えば溶接工の視点又は他の視点のいずれかをレンダリングしてもよい。残りの第4のビデオ出力は、例えばプロジェクタに送られるか又は仮想溶接環境15をシミュレートするのに適した任意の他の目的のために用いられ得る。双方のGPU115は同じ溶接物理演算(welding physics computations)を行い得るが、同じ又は異なる視点から仮想現実環境15をレンダリングし得る。GPU115はCUDA(computed unified device architecture)116及びシェーダー117を含む。CUDA116はGPU115の計算エンジンであり、業界標準のプログラミング言語によりソフトウェア開発者に利用可能である。CUDA116は並列コアを含み、本明細書に記載の溶接パドルのシミュレーションの物理モデルを実行するのに用いられる。CPU111はGPU115のCUDA116にリアルタイムの溶接入力データを提供する。特定の実施形態では、シェーダー117は、シミュレーションの視覚面(visuals)の全ての描画及び適用を担う。ビード及びパドルの視覚面は、本明細書において後で説明する溶接ピクセル変位マップ(wexel displacement map)の状態により決定される。本発明の一実施形態によれば、物理モデルは毎秒約30回の頻度で実行及び更新される。
図12は、シミュレータ10の機能ブロック図の例示的な実施形態を示す。シミュレータ10の様々な機能ブロックの大部分はソフトウェア命令及びロジックプロセッサベースのサブシステム110で動作するモジュールにより実行され得る。シミュレータ10の様々な機能ブロックは、物理的インターフェイス1201、トーチ及びクランプモデル1202、環境モデル1203、サウンドコンテンツ機能1204、溶接音1205、スタンド/テーブルモデル1206、内部アーキテクチャ機能1207、較正機能1208、クーポンモデル1210、溶接物理特性1211、内部物理特性調節ツール(ツイーカー)1212、グラフィカルユーザーインターフェイス機能1213、グラフ機能1214、生徒レポート機能1215、レンダラー1216、ビードレンダリング1217、3Dテクスチャ1218、視覚キュー機能1219、スコア及び許容値機能1220、許容値エディター1221及び特殊効果1222を含む。
内部アーキテクチャ機能1207は、例えばファイルをロードすること、情報を保持すること、スレッドを管理すること、物理モデルをオンにすること及びメニューを提供することを含むシミュレータ10のプロセスの高次のソフトウェアロジスティクスを提供する。本発明の一実施形態によれば、内部アーキテクチャ機能1207はCPU111上で動作する。ロジックプロセッサベースのサブシステム110への特定のリアルタイム入力は、アークの場所、ガンの位置、フェイスマウントディスプレイ装置又はヘルメットの位置、ガンのオン/オフ状態及び接触状態(Y/N)を含む。
模擬溶接シナリオの間、グラフ機能1214はユーザーのパフォーマンスパラメータを収集し、そのユーザーのパフォーマンスパラメータを(例えば観察者用ディスプレイ装置150上で)グラフィカルな形式で表示するためにグラフィカルユーザーインターフェイス1213に提供する。空間追跡装置120からの追跡情報はグラフ機能1214に供給される。グラフ機能1214は簡易分析モジュール(SAM)及びホイップ/ウィーブ(whip/weave)分析モジュール(WWAM)を含む。SAMは、溶接トラベル角、移動速度、溶接角度、位置及びノズル高さを含むユーザーの溶接パラメータをビードテーブルに格納されたデータと比較することによりユーザーの溶接パラメータを分析する。WWAMは、ビードの間隔、ホイップ時間及びパドル時間を含むユーザーのホイッピングパラメータを分析する。WWAMは、ウィーブの幅、ウィーブの間隔及びウィーブタイミングを含むユーザーのウィービングパラメータも分析する。SAM及びWWAMは生入力データ(例えば、位置及び向きデータ)をグラフ化のために機能的に使用可能なデータに変換する。SAM及びWWAMにより解析された各パラメータのために、許容値エディター1221を用いてビードテーブルに入力された最適な又は理想的な設定点の周囲のパラメータ制限値(parameter limits)により許容値ウィンドウが規定され、スコア及び許容値機能1220が行われる。
許容値エディター1221は、材料の使用量、電気使用量及び溶接時間を概算するウェルドメーター(weldometer)を含む。さらに、特定のパラメータが許容範囲を外れると溶接不連続(即ち溶接欠陥)が生じ得る。溶接不連続の状態はグラフ機能1214によって処理され、グラフィカルユーザーインターフェイス機能1213によりグラフィカルな形式で提示される。そのような溶接不連続は、隅肉のサイズ、悪いビード配置、凹状ビード、過剰な凸性、アンダーカット、ポロシティ、不完全な融合、スラグの閉じ込め及び過剰なスパッタを含む。本発明の一実施形態によれば、不連続のレベル又は量は特定のパラメータが最適又は理想の設定点からどれだけ離れているかに依存する。
例えば、溶接初心者、溶接熟練者及び見本市の来場者等の様々なタイプのユーザーのために異なるパラメータ制限値を予め規定してもよい。スコア及び許容値機能1220は、特定のパラメータについてユーザーがどれだけ最適(理想)に近いかに応じて、また溶接部が呈する不連続又は欠陥のレベルに応じて得点を提供する。スコア及び許容値機能1220からの情報及びグラフ機能1214からの情報が生徒レポート機能1215によって用いられてインストラクター及び/又は生徒のパフォーマンスレポートが作成され得る。
視覚キュー機能1219は、フェイスマウントディスプレイ装置140及び/又は観察者用ディスプレイ装置150に重ね合わせた色及びインジケータを表示することでユーザーに即時フィードバックを提供する。位置、ノズル高さ、溶接角度、トラベル角及び移動速度を含む溶接パラメータ151のそれぞれのために視覚キューが提供され、ユーザーの溶接テクニックのある点を予め規定された制限値又は許容値に基づき調節すべき場合にユーザーに視覚的に示される。例えば、ホイップ/ウィーブテクニック及び溶接ビードの「ダイム」間隔のためにも視覚キューが提供され得る。
本発明の一実施形態によれば、仮想現実空間における溶接パドル又は溶融池のシミュレーションが実現され、シミュレートされた溶接パドルはリアルタイムの溶融金属流動性及び熱放散特性を有する。溶接パドルのシミュレーションの中心になるのが溶接物理特性機能1211(物理モデルとしても知られている)であり、本発明の一実施形態によればGPU115上で実行され得る。溶接物理特性機能は、動的な流動性/粘性、固体性、熱勾配(熱吸収及び熱放散)、パドル跡(puddle wake)及びビードの形状を正確にモデル化するために二重変位層法(double displacement layer technique)を用い、該方法を図14a〜図14cに関連して本明細書でより詳細に説明する。
溶接物理特性機能1211はビードレンダリング機能1217と通信を行い、加熱溶融状態から冷却凝固状態までの全ての状態の溶接ビードをレンダリングする。ビードレンダリング機能1217は溶接物理特性機能1211からの情報(例えば、熱、流動性、変位、ダイム間隔)を用いて、仮想現実空間において溶接ビードを正確且つ本物のようにリアルタイムでレンダリングする。3Dテクスチャ機能1218は、付加的なテクスチャ(例えば、焼け焦げ、スラグ、粒子)をシミュレートした溶接ビードに重ねるためにビードレンダリング機能1217にテクスチャマップを提供する。レンダリング機能1216は、火花、スパッタ、煙、アークの光、ヒュームや、例えばアンダーカット及びポロシティ等の特定の非連続を含む特殊効果モジュール1222からの情報を用いて非パドルの様々な特定の特徴をレンダリングするのに用いられる。
内部物理特性調節ツール1212は、様々な溶接プロセスのために様々な溶接物理パラメータを規定、更新及び変更を可能にする調節ツールである。本発明の一実施形態によれば、内部物理特性調節ツール1212はCPU111上で動作し、調節又は更新されたパラメータがGPU115にダウンロードされる。内部物理特性調節ツール1212により調節され得るパラメータの種類としては、溶接クーポンに関するパラメータ、溶接クーポンをリセットすることなくプロセスの変更を可能にするプロセスパラメータ(第2のパスを行うことを可能にする)、シミュレーション全体をリセットすることなく変更可能な様々な包括的パラメータ及び他の様々なパラメータが挙げられる。
図13は、仮想現実訓練シミュレータ10を用いた訓練方法1300の実施形態のフローチャートである。ステップ1310では、溶接技術に従って、溶接クーポンに対して疑似溶接工具を動かす。ステップ1320では、仮想現実システムを用いて3次元空間における疑似溶接工具の位置及び向きを追跡する。ステップ1330では、模擬疑似溶接工具が、該模擬疑似溶接工具から放出される模擬アークの近傍に模擬溶接パドルを形成することにより模擬溶接クーポンの少なくとも1つの模擬面に模擬溶接ビード材を溶着するのに伴い、仮想現実空間における疑似溶接工具及び溶接クーポンのリアルタイム仮想現実シミュレーションを示す仮想現実溶接システムの表示を見る。ステップ1340では、模擬溶接パドルのリアルタイムの溶融金属流動性及び熱放散特性をディスプレイ上で見る。ステップ1350では、模擬溶接パドルのリアルタイムの溶融金属流動性及び熱放散特性を見たことに対応して溶接技術の少なくとも1つの側面をリアルタイムで変更する。
方法1300は、どのようにしてユーザーは仮想現実空間において溶接パドルを見て、リアルタイムの溶融金属流動性(例えば粘性)及び熱放散を含むシミュレートされた溶接パドルの様々な特性を見たことに対応してユーザーの溶接技術を変更できるかを示す。ユーザーは、リアルタイムのパドル跡及びダイム間隔を含む他の特性を見て、それらに対応してもよい。溶接パドルの特性を見ること及び反応することは、現実世界の多くの溶接作業で実際に行われている。GPU115上で動作する溶接物理特性機能1211の二重変位層モデリングは、そのようなリアルタイムの溶融金属流動性及び熱放散特性を正確にモデル化し、ユーザーに示すことを可能にする。例えば、熱放散は凝固時間を決定する(即ち、溶接要素が完全に凝固するのに要する時間)。
さらに、ユーザーは、同じ又は異なる(例えば第2の)疑似溶接工具、溶接電極及び/又は溶接プロセスを用いて溶接ビード材の上に第2のパスを形成してもよい。そのような第2のパスのシナリオでは、シミュレーションは、模擬疑似溶接工具、溶接クーポン及び元の模擬溶接ビード材を仮想現実環境において示し、模擬疑似溶接工具が、その模擬疑似溶接工具から放出される模擬アークの近傍に第2の模擬溶接パドルを形成することにより、第1の模擬溶接ビード材と合体する第2の模擬溶接ビード材を溶着する。同様に、同じ若しくは異なる溶接工具又はプロセスを用いて追加の後続のパスを作ってもよい。本発明の特定の実施形態によれば、第2の又は後続のパスでは、前の溶接ビード材、新たな溶接ビード材及び場合によってはその下のクーポン材料の任意の組み合せから新たな溶接パドルが仮想現実空間において形成されるため、前の溶接ビード材が溶着される新たな溶接ビード材と合体する。そのような後続のパスは、例えば前のパスで形成された溶接ビードを修理するために行われ得るか又はパイプ溶接で行われるようにルートパス後にヒートパス及び1つ以上の間隙閉鎖パスを含み得る。本発明の様々な実施形態によれば、溶接ビード及びベース材料は軟鋼、ステンレススチール及びアルミニウムを含むようにシミュレーションされる。
本発明の一実施形態によれば、ステンレススチール材を用いた溶接がリアルタイム仮想環境でシミュレートされる。本物のようなステンレススチールの溶接物を表現するためにベース材の外観がシミュレートされる。アークの配色に対応するために光の可視スペクトルが変更されるよう視覚効果がシミュレートされる。適切な作業距離、点火及び速度に基づいて本物のような音もシミュレートされる。アークパドルの外観及び溶着の外観が、熱影響部やトーチの動きに基づきシミュレートされる。溶接ビード全体にわたって散乱し得る酸化アルミニウム又は窒化アルミニウム膜のドロス又は破断粒子のシミュレーションが提供される。加熱及び冷却の影響を受けた領域に関する計算がステンレススチール溶接に合わせられる。ステンレススチールのGMAW溶接の外観をより厳密且つ正確にシミュレートするためにスパッタに関する不連続動作が提供される。
本発明の一実施形態によれば、アルミニウム材を用いた溶接がリアルタイム仮想環境でシミュレートされる。現実世界において見られるアルミニウム溶接の外観と厳密に合致するようにビード跡がシミュレートされる。本物のようなアルミニウムの溶接物を表現するためにベース材の外観がシミュレートされる。アークの配色に対応するために光の可視スペクトルが変更されるよう視覚効果がシミュレートされる。反射性を作るためにライティングが計算される。加熱及び冷却の影響を受けた領域に関する計算がアルミニウム溶接に合わせられる。本物のような「クリーニング作用」を作るために酸化がシミュレートされる。適切な作業距離、点火及び速度に基づいて本物のような音もシミュレートされる。アークパドルの外観及び溶着の外観が、熱影響部やトーチの動きに基づきシミュレートされる。GMAWトーチにおいてアルミニウムワイヤの外観をシミュレートして本物の様な適切な外観がもたらされる。
本発明の一実施形態によれば、GTAW溶接がリアルタイム仮想環境でシミュレートされる。これらに限定されないが、流量、パルス化周波数、パルス幅、アーク電圧制御、ACバランス及び出力周波数制御を含むGTAW溶接のための操作パラメータがシミュレートされる。パドルの「飛び散り(splash)」又はディッピング法や消耗溶接電極の溶融の視覚的表現もシミュレートされる。さらに、溶接パドルにおけるフィラー金属溶接作業によるGTAW及び自溶(フィラー金属なし)の表現が視覚的及び聴覚的にレンダリングされる。追加のフィラー金属の変化の実施がシミュレートされ得る。限定されないが、カーボンスチール、ステンレススチール、アルミニウム及びクロムモリブデンスチールを含む様々な追加のフィラー金属の実現がシミュレートされる。溶接の間の操作するために外部の足踏みペダルが選択可能に提供され得る。
モデリングのためのエンジン
図14a及び図14bは、本発明の一実施形態に係る溶接要素(溶接ピクセル)変位マップ1420の概念を示す。図14aは平らな上面1410を有する平らな溶接クーポン1400の側面図を示す。溶接クーポン1400は、現実世界では、例えば、プラスチック部品として存在し、また仮想現実空間では模擬溶接クーポンとして存在する。図14bは、溶接ピクセルマップ1420を形成する「溶接ピクセル」と呼ばれる溶接要素のグリッド又はアレイに分割された模擬溶接クーポン1400の面1410の表示を示す。各溶接ピクセル(例えば、溶接ピクセル1421)は溶接クーポンの上面1410の小さい部分を規定する。溶接ピクセルマップは表面解像度を規定する。可変チャンネルパラメータ値が各溶接ピクセルに割り当てられ、各溶接ピクセルの値を、模擬溶接プロセスの間に仮想現実溶接空間において動的にリアルタイムに変化することができる。可変チャンネルパラメータ値は、パドル(Puddle)(溶融金属の流動性/粘性変位)、熱(Heat)(熱吸収/熱放散)、変位(Displacement)(固体変位)及びエキストラ(Extra)(例えば、スラグ、粒子、焼け焦げ、新地金等の様々なエキストラ状態)というチャンネルに対応する。本明細書では、これらの可変チャンネルを、パドル、熱、エキストラ及び変位の頭文字をとってPHEDと呼ぶ。
図15は、図1及び図2のシミュレータ10でシミュレートした図14の平らな溶接クーポン1400のクーポン空間及び溶接空間の例示的な実施形態を示す。ポイントO、X、Y及びZは、ローカル3Dクーポン空間を定める。一般に、各クーポンの種類は、3Dクーポン空間から2D仮想現実溶接空間へのマッピングを定める。図14の溶接ピクセルマップ1420は、仮想現実の溶接空間にマッピングするための値の2次元のアレイである。ユーザーは、図15に示すようにポイントBからポイントEまで溶接することになる。ポイントBからポイントEへの軌跡線は、図15の3Dクーポン空間及び2D溶接空間の両方に示される。
クーポンの各種類は、溶接ピクセルマップにおける各場所の変位の方向を定める。図15の平らな溶接クーポンの場合、変位の方向は溶接ピクセルマップの全ての場所において同じである(即ちZ方向)。マッピングを明らかにするために、溶接ピクセルマップのテクスチャ座標を3Dクーポン空間及び2D溶接空間の両方でS、T(時々U、Vと呼ぶ)として示す。溶接ピクセルマップは、溶接クーポン1400の長方形面1410にマッピングされるとともに溶接クーポン1400の長方形面1410を示す。
図16は、シミュレータ10でシミュレートした角溶接クーポン1600のクーポン空間及び溶接空間の例示的な実施形態を示す。角溶接クーポン1600は3Dクーポン空間に2つの面1610及び1620を有し、それらは図16に示すように2D溶接空間にマッピングされる。この場合もまた、ポイントO、X、Y及びZはローカル3Dクーポン空間を定める。マッピングを明らかにするために、溶接ピクセルマップのテクスチャ座標を3Dクーポン空間及び2D溶接空間の双方でS、Tとして示す。ユーザーは、図16に示すようにポイントBからポイントEに溶接することになる。ポイントBからポイントEへの軌跡線は、図16の3Dクーポン空間及び2D溶接空間の両方に示される。しかしながら、変位の方向は、3Dクーポン空間に示されるように線X’−O’に向かい、反対側の角を向かう。
図17は、シミュレータ10でシミュレートしたパイプ溶接クーポン1700のクーポン空間及び溶接空間の例示的な実施形態を示す。パイプ溶接クーポン1700は3Dクーポン空間に曲面1710を有し、これは2D溶接空間にマッピングされる。この場合もまた、ポイントO、X、Y及びZは、ローカル3Dクーポン空間を定める。マッピングを明らかにするために、溶接ピクセルマップのテクスチャ座標を3Dクーポン空間及び2D溶接空間の双方でS、Tとして示す。エンドユーザー12は、図17に示すように湾曲した軌跡に沿ってポイントBからポイントEまで溶接することになる。ポイントBからポイントEへの軌跡曲線及び線を3Dクーポン空間及び2D溶接空間のそれぞれに示す。変位の方向は、線Y−Oから遠ざかる(即ち、パイプの中心から遠ざかる)方向である。図18は、図17のパイプ溶接クーポン1700の例示的な実施形態を示す。パイプ溶接クーポン1700は、非鉄、非導電性のプラスチックで作られ、一体となってルート継手1703を形成する2つのパイプピース1701及び1702をシミュレートする。スタンド170のアーム173に取り付けるためのアタッチメントピース1704も図示してある。
幾何学形状の長方形の表面領域にテクスチャマップがマッピングされ得るのと同様の方法で、溶接可能な溶接ピクセルマップが、溶接クーポンの長方形表面にマッピングされ得る。溶接可能なマップの各要素は、ピクチャの各要素をピクセル(画素の短縮)と呼ぶのと同じ意味で溶接ピクセルと呼ぶ。ピクセルは、色(例えば、赤、緑、青、他)を定める情報のチャンネルを含む。溶接ピクセルは、仮想現実空間において溶接可能な面を定める情報のチャンネル(例えば、P、H、E、D)を含む。
本発明の一実施形態によれば、溶接ピクセルのフォーマットは、4つの浮動小数点数を含むチャンネルPHED(パドル、熱、エキストラ、変位)として要約される。エキストラチャンネルは、例えば、溶接ピクセルの場所にスラグがあるかどうかといった溶接ピクセルに関する論理的情報を格納するビットのセットとして扱われる。パドルチャンネルは、溶接ピクセルの場所での任意の液状金属に関する変位値を格納する。変位チャンネルは、溶接ピクセルの場所での凝固金属に関する変位値を格納する。熱チャンネルは、溶接ピクセルの場所での熱の大きさを与える値を格納する。このように、クーポンの溶接可能な部分は、溶接されたビードに起因する変位、液体金属に起因する揺らめく表面の「パドル」、熱に起因する色等、を示すことができる。これらの効果の全ては、溶接可能な表面に適用される頂点及びピクセルシェーダーによって実現される。
本発明の一実施形態によれば、変位マップ及びパーティクルシステムが使用され、粒子は互いに相互作用し得るとともに変位マップと衝突し得る。粒子は仮想動的流体粒子であり、溶接パドルの液体挙動を提供するが、直接レンダリングされない(即ち、直接視覚的に見られない)。代わりに、変位マップに対する粒子の効果のみが視覚的に見られる。溶接ピクセルへの入熱は、近くの粒子の運動に影響を及ぼす。パドル及び変位を含む溶接パドルをシミュレートするのに関わる2つのタイプの変位がある。パドルは「一時的」であり、粒子及び熱が存在する間しか続かない。変位は「永久的」である。パドル変位は、急速に変化する(例えば、揺らめく)溶接の液体金属であり、変位の「上に」あると考えられ得る。粒子は、仮想表面変位マップ(即ち、溶接ピクセルマップ)の一部を重なる。変位は、最初のベース金属及び凝固した溶接ビードの両方を含む永久的な固体金属を表す。
本発明の一実施形態によれば、仮想現実空間での模擬溶接プロセスは次のように動く:粒子が細い円錐のエミッタ(模擬疑似溶接工具160のエミッタ)から流れる。粒子は、溶接ピクセルマップによって定められる表面である模擬溶接クーポンの表面と最初の接触をする。粒子は、互いに及び溶接ピクセルマップと相互作用し、リアルタイムで増大する。溶接ピクセルがエミッタに近いほど多くの熱が加えられる。熱は、アークポイントからの距離及びアークから入力される熱の時間の量に依存してモデル化される。いくつかのビジュアル(例えば、色等)が熱によって駆動される。溶接パドルが、十分な熱を有する溶接ピクセルに対して仮想現実空間で描画されるか又はレンダリングされる。十分熱いところはどこでも、溶接ピクセルマップが液体になり、パドル変位をこれらの溶接ピクセルの場所に対して「上げ」させる。パドル変位は、各溶接ピクセルの場所における「最高」の粒子をサンプリングすることによって決定される。エミッタが溶接軌跡に沿って動くとき、残された溶接ピクセルの場所は冷える。熱は特定の速度で溶接ピクセルの場所から除去される。冷却閾値に達すると、溶接ピクセルマップは凝固する。このように、パドル変位は、変位(即ち凝固したビード)に徐々に変換される。追加される変位は、全高が変化しないように除去されるパドルと等しい。粒子の寿命は、凝固が完了するまで存続するように微調整又は調節される。シミュレータ10でモデル化される幾つかの粒子の特性は、引力/斥力、速度(熱に関連する)、減衰(放熱に関連する)、方向(重力に関連する)を含む。
図19a〜図19cは、シミュレータ10の二重変位(変位及び粒子)パドルモデルの概念の例示的な実施形態を示す。溶接クーポンは、少なくとも1つの面を有して仮想現実空間でシミュレートされる。溶接クーポンの面は、固体変位層及びパドル変位層を含む二重変位層として仮想現実空間でシミュレートされる。パドル変位層は、固体変位層を変更することができる。
本明細書に記載の「パドル」は、パドル値が粒子の存在によって上げられている溶接ピクセルマップの領域によって定められる。サンプリングプロセスを図19a〜図19cに表す。溶接ピクセルマップの部分が、7つの隣接する溶接ピクセルを有して示される。現在の変位値は、所定の高さ(即ち、各溶接ピクセルに対する所定の変位)の陰影のない長方形の棒1910によって表される。図19aでは、粒子1920を、現在の変位レベルと衝突し積み重ねられた丸い陰影のない点として示される。図19bでは、「最も高い」粒子高さ1930が各溶接ピクセルの場所でサンプリングされる。図19cでは、陰影付き長方形1940が、どれくらいのパドルが粒子の結果として変位の上部に加えられたかを示す。溶接パドル高さは、パドルが熱に基づいて特定の液化速度で加えられるので、サンプリングされた値に即座に設定されない。図19a〜図19cに図示していないが、パドル(陰影付き長方形)が徐々に縮むとともに変位(陰影のない長方形)が正確にパドルに代わるように下から徐々に伸びるので、凝固プロセスを可視化することが可能である。このように、リアルタイムの溶融金属の流動性が正確にシミュレートされる。ユーザーが特定の溶接プロセスを練習するとき、ユーザーは仮想現実空間で溶接パドルの溶融金属の流動性及び熱放散特性をリアルタイムに観察できるとともに、この情報をユーザーの溶接技術の調節又は維持に用いることができる。
溶接クーポンの面を表す溶接ピクセルの数は固定されている。さらに、流動性をモデル化するためにシミュレーションによって生成されるパドル粒子は本明細書で説明したように一時的である。従って、シミュレータ10を用いた模擬溶接プロセスの間に初期パドルが仮想現実空間に一度生成されると、溶接ピクセル及びパドル粒子の数は比較的一定のままの傾向がある。これは、処理されている溶接ピクセルの数が固定され、パドル粒子は同様の割合で作られるとともに「破壊される」(即ち、パドル粒子は一時的である)ため溶接プロセスの間に存在するとともに処理されているパドル粒子の数は比較的一定のままの傾向があるためである。従って、ロジックプロセッサベースのサブシステム110の処理負荷は、模擬溶接セッションの間比較的一定のままである。
本発明の代替的な実施形態によれば、パドル粒子は溶接クーポンの表面内又は同表面の下で生成され得る。そのような実施形態では、変位は、未加工(即ち溶接されていない)クーポンの元の表面の変位に対して正又は負であるようにモデル化され得る。このように、パドル粒子は溶接クーポンの表面に蓄積し得るだけでなく、溶接クーポンを貫通もし得る。しかしながら、溶接ピクセルの数は依然として固定され、作られるとともに破壊されるパドル粒子は依然として比較的一定である。
本発明の代替的な実施形態によれば、粒子をモデル化する代わりに、パドルの流動性をモデル化するためにより多くのチャンネルを有する、溶接ピクセル変位マップが提供され得る。あるいは、粒子をモデル化する代わりに、高密度なボクセルマップがモデル化され得る。あるいは、溶接ピクセルマップをモデル化する代わりに、サンプリングされるとともに決して消えない粒子のみがモデル化され得る。しかしながら、そのような代替的な実施形態はシステムに対して比較的一定の処理負荷を提供しない場合がある。
さらに、本発明の一実施形態によれば、吹き抜け又はキーホールが材料を取り除くことによってシミュレートされる。例えば、ユーザーがアークを同じ場所であまりにも長い間保持すると、現実世界では材料が燃え尽きて穴ができる。このような現実世界での吹き抜けが溶接ピクセルデシメーションテクニックによってシミュレータ10でシミュレートされる。溶接ピクセルによって吸収される熱の量が高過ぎるとシミュレータ10が判断すると、その溶接ピクセルは、燃え尽きているとしてフラグが付されるか又は指定され得るとともに、そのようにレンダリングされる(例えば穴としてレンダリングされる)。しかしながら、その後に、ある溶接プロセス(例えばパイプ溶接)の場合には溶接ピクセル再構成が発生し、その場合は材料が最初に燃え尽きた後に追加されて戻される。一般に、シミュレータ10は、溶接ピクセルデシメーション(材料を取り除く)及び溶接ピクセル再構成(即ち、材料を追加して戻す)をシミュレートする。
さらに、ルートパス溶接における材料の除去がシミュレータ10において適切にシミュレートされる。例えば、現実世界では、ルートパスの研磨がその後の溶接パスの前に実行され得る。同様に、シミュレータ10は、仮想溶接継手から材料を除去する研磨パスをシミュレートし得る。除去される材料は溶接ピクセルマップの負の変位としてモデル化され得ることが理解される。即ち、研磨パスは、シミュレータ10によってモデル化される材料を除去し、変更されたビード輪郭をもたらす。研磨パスのシミュレーションは自動的であり得る。即ち、シミュレータ10は材料の所定の厚さを除去し、これはルートパス溶接ビードの表面にあり得る。代替的な実施形態では、疑似溶接工具160又は他の入力装置の作動によりオン及びオフされる実際の研磨ツール又はグラインダがシミュレートされ得る。なお、研磨ツールは現実世界のグラインダに類似するようにシミュレートされ得る。この実施形態では、ユーザーはルートパスに沿って研磨ツールを操作し、その動きに応じて材料が除去される。ユーザーは過度に材料を除去することが許容され得ることが分かる。上述したのと同様の方法で、ユーザーが過度に材料を研磨すると穴又は(上述した)他の欠陥が生じ得る。それでも、ユーザーが過度に材料を除去することを防ぐために又は過度に材料が除去されるとそのことを示すためにハードリミット又はストップが実装、即ちプログラムされ得る。
本発明の一実施形態によれば、本明細書で説明した不可視の「パドル」粒子に加えて、シミュレータ10はアーク、火炎及び火花効果を表現するために3つの他の種類の可視粒子も使用する。これらの種類の粒子はいずれの種類の他の粒子と相互に作用しないが、変位マップのみと相互に作用する。これらの粒子は模擬溶接面と衝突するが、それらは互いに相互に作用しない。本発明の一実施形態によれば、パドル粒子のみが互いに相互に作用する。火花粒子の物理特性は、火花粒子が飛び回るとともに仮想現実空間において輝く点としてレンダリングされるように設定される。
アーク粒子の物理特性は、アーク粒子が模擬クーポン又は溶接ビードの表面に当たってしばらく留まるように設定される。アーク粒子は、仮想現実空間において薄暗く青白い大きなスポットとしてレンダリングされる。任意の種類の視覚映像を形成するには多くのそのようなスポットを重ね合わせる必要がある。最終結果は、青い端部を持つ白く輝く光輪である。
火炎粒子の物理特性は上方にゆっくり上がるようにモデル化される。火炎粒子は、薄暗い黄赤色の中間サイズのスポットとしてレンダリングされる。任意の種類の視覚映像を形成するには多くのそのようなスポットを重ね合わせる必要がある。最終結果は、赤色の端部が上方に上がるとともに次第に消えるぼんやりした橙赤色の炎である。本発明の一実施形態によれば、他の種類の非パドル粒子がシミュレータ10に実装され得る。例えば、煙粒子が炎粒子と同様の方法でモデル化されるとともにシミュレートされ得る。
模擬可視化の最終ステップは、GPU115のシェーダー117によって提供される頂点及びピクセルシェーダーによって扱われる。頂点及びピクセルシェーダーは、パドル及び変位並びに熱に起因して変更される表面の色及び反射率等を適用する。本明細書で前に解説したPHED溶接ピクセルフォーマットのエキストラチャンネルは、溶接ピクセル毎に使用されるエキストラ情報の全てを含む。本発明の一実施形態によれば、エキストラ情報は非未加工ビット(真=ビード、偽=未加工スチール)、スラグビット、アンダーカット値(その溶接ピクセルにおけるアンダーカットの量であり、ゼロはアンダーカットが無いことに等しい)、ポロシティ値(その溶接ピクセルにおけるポロシティの量であり、ゼロはポロシティが無いことに等しい)及びビードが凝固する時間をエンコードするビード跡値を含む。未加工スチール、スラグ、ビード及びポロシティを含む様々なクーポン映像に関連する一連の画像マップがある。これらの画像マップはバンプマッピング及びテクスチャマッピングの両方に使用される。これらの画像マップのブレンディングの量は、本明細書で説明した様々なフラグ及び値によって制御される。
ビード跡効果は、1D画像マップ及び所定のビード片が凝固する時間をエンコードする溶接ピクセル毎のビード跡値を使用して実現される。熱いパドル溶接ピクセルの場所がもはや「パドル」と呼ぶには十分熱くなくなると、時間がその場所において保存され「ビード跡」と呼ばれる。最終結果は、シェーダーコードが1Dテクスチャマップを使ってビードが置かれた方向を表現する独特の外観をビードに与える「さざ波」を描くことができる。本発明の代替的な実施形態によれば、シミュレータ10は、シミュレートされた溶接パドルが溶接軌跡に沿って動かされることによるシミュレートされた溶接パドルのリアルタイムの流動状態から凝結への移行に起因するリアルタイム溶接ビード跡特性を有する溶接ビードを仮想現実空間でシミュレートすることができるとともに表示することができる。
本発明の代替的な実施形態によれば、シミュレータ10は、ユーザーに溶接機の故障修理法を教えることができる。例えば、システムのトラブルシューティングモードは、ユーザーが確かにシステムを正しくセットアップ(例えば、正しいガス流量、正しい電源コード接続、等)できるようにユーザーを訓練し得る。本発明の他の代替的な実施形態によれば、シミュレータ10は、溶接セッション(又は少なくとも溶接セッションの一部、例えば、Nフレーム)を記録及び再生することができる。ビデオのフレームをスクロールするためのトラックボールが設けられ、ユーザー又はインストラクターが溶接セッションを批評することができる。再生を選択可能な速度(例えば、フルスピード、半分の速度、1/4の速度)で提供することもできる。本発明の一実施形態によれば、分割スクリーン再生を提供することができ、2つの溶接セッションを、例えば観察者用ディスプレイ装置150上で並べて見ることができる。例えば、「良い」溶接セッションが、比較目的で「悪い」溶接セッションの隣で見られ得る。
自動溶接も本発明の一態様である。自動溶接の一例は、様々な種類の材料のチューブ又はパイプを接合するためにしばしば用いられる円周溶接(orbital welding)である。例えば、自動機械システムにより溶接されるパイプの周りを周回するのにTIG(GTAW)溶接トーチが使用され得る。図20は、円周溶接環境で用いられる円周溶接システムの例示的な実施形態を示す。円周溶接システムは、パイプ又はチューブの周りを移動する溶接トラクターと、溶接電源及びコントローラと、オペレータ制御を提供するペンダント(pendant)とを含む。図21は、溶接される2つのパイプに作動的に接続された図20の円周溶接システムの溶接トラクター2010を示す。図22は、図20の円周溶接システムの電源及びコントローラ2020を示し、図23は、図20の円周溶接システムのペンダント2030を示す。
前の説明では、円周溶接を含む仮想現実シミュレーションのプロセスに主眼をおいてきたが、本発明の実施形態はその態様に限定されず、ユーザーが定めたセットアップに従ってつくられた溶接部に関連する実際のセットアップ及びパフォーマンス特性の教示及びフィードバックの態様も含む。前で説明したように、GTAW/GMAW溶接では、このプロセスの実施のために利用可能な制御をオペレータが確実に理解するように訓練する必要がある。円周溶接システムでは機械が溶接を行うため、円周溶接システムに係る自動化から訓練する必要がないという誤解がある。自動円周溶接では、溶接を確実に理解するようユーザーを訓練すること及びTIGビードを制御するための特有のセットアップ及び実施スキルが要求される。これには、誤り訂正、大径パイプの溶接、遠隔カメラの利用及び適切な誤り評価及び訂正が含まれる。良い溶接状況、悪い溶接状況及びそれぞれを行うか、それぞれに対応するか又はそれぞれを訂正するためのメカニズムについて、訓練プログラムが教える範囲は一貫していなかったり又は不十分であったりする。十分な背景知識及び/又は業界知識並びに経験を有する、この種のニッチな解法のためのインストラクターを探すのは困難である。円周溶接機のオペレータは、公認のインストラクターが教える質の高い訓練を通じてのみ今日の溶接環境で許容される厳格な評価基準を満たすのに必要な複雑なスキルを習得できる。それに加えて、溶接継手が長い円周の大きなプロジェクトでは注意及び集中力を維持することの困難性が大きな問題となる。
GTAWプロセスでは、非消耗タングステン電極とワークピースとの間で電気アークが維持される。電極はアークの熱を支え、ワークピースの金属が溶融して溶接パドルを形成する。大気中の酸素からワークピースの溶融金属及び電極を保護しなければならないため、通常アルゴン等の不活性ガスがシールドガスとして用いられる。フィラー金属を追加で用いる場合は、フィラーワイヤが溶接パドルに供給される。フィラーワイヤは電気アークが届けるエネルギーによって溶接パドルで溶融する。本発明の一実施形態によれば、仮想現実溶接システムが提供される。溶接システムは、自動溶接に関連する正確な用語及び視覚要素を用いて理解するために、(自動溶接に関するものであることから)ペンダント(実際又は仮想のペンダント)又はリモコン装置を用いてGTAW/GMAW自動溶接作業を見ることと、選択された溶接パラメータの組み合わせに基づき溶接不連続を特定することと、ユーザー画面を用いてオペレータが行ったパラメータの選択及び組み合わせを訂正することとに関する技術が組み込まれている。
仮想環境で円周GTAWの訓練を実施することにより、多くの問題が対処され得る。例えば、円周溶接の産業及び経験(industry and experience)は開発会社の知識に基づくものであり、そのため利用可能な最新の技術及び基準に一致するとともにそれらに更新され、仮想環境ではそれがソフトウェアのアップグレードによって容易に行われる。インストラクターはプログラムの促進役になり、円周GTAWの専門家である必要はない。パスを追跡するためのキュー又はビジュアルオーバーレイ等の追加の訓練補助は仮想環境における訓練の移行を改善する。時代遅れになり得る円周GTAW装置を購入する必要がない。仮想現実システムは一対一の訓練環境又は教室型の環境で使用可能である。
仮想フレームワークを用いることで、1つの訓練装置で複数のペンダントのシミュレートが可能になる。仮想現実で円周GTAWを実施する際、ペンダントを物理的装置として又は仮想ペンダントとして作ることができる。物理的装置の場合、生徒はコントロール部(controls)とやりとりを行い、制御のための「感触」を得ることができる。コントロール部がタッチスクリーン上で利用可能であり、タッチスクリーン上でコントロール部とやりとりを行う仮想ペンダントの場合、ユーザーは、様々なペンダントがカスタム化されたものか会社依存(company dependent)のものかに関わらず、それらを制御のために容易に選択することができる。仮想ペンダントでは、学習レベル又は利用可能なコントロール部に応じて、生徒は自身の(現場での作業経験を反映する)業界レベルに基づき様々な種類の制御又はレベルを用いるためにそれを有効にできる。従来の訓練とは異なり、溶接機を壊すことなく又は時間のかかるセットアップを行うことなく、より詳細で且つ完全な体験をユーザーに提供するランダムな欠陥(randomized faults)(例えばワイヤネスティング)を実施することができる。
継手、準備、材料の種類等に基づく適切な溶接パラメータの理解は、学習インタラクションの一部である。一実施形態によれば、行うべき適切な選択に関する知識をユーザーに促すために、仮想現実においてセオリー対応画面(theory enabled screen)を有効にすることができる。追加のスクリーン又はテーブルを、何を入力すべきかについての知識をユーザーに促すためだけではなく、誤った選択肢が選択された場合に、何が選択され、何故それが誤りかをハイライト表示するとともに適切な選択肢を特定するために有効にすることができる。この種の知的エージェントは、生徒が誤った操作を行い、最終結果によって不満を抱くことがないようにすることができる。ポジティブな補強及び学習がカギとなる。本発明の一実施形態では、システム又はインストラクターが生徒の知識を質問して、訓練カリキュラム及びテストを個々のユーザーの盲点に適合させるようにできる。本発明の一実施形態は人工知能(AI)及び学習管理システム(LMS)を用いて、必要な領域での指導を助け、知識を高めさせ、学習支援を提供する。
セットアップパラメータは、限定されないが不活性ガス(例えばアルゴン、ヘリウム)、アーク点火、溶接電流(例えば、パルス対非パルス)、溶接部の端部に穴が開くのを避けるための滑降(downslope)機能、トーチ回転移動速度、ワイヤ送給特性(例えばパルス波形)、ワイヤ直径の選択、アーク電圧、電極とワークピースとの距離、溶接振幅制御、遠隔制御、一般統合(generally integrated)閉ループ水冷回路の冷却特性及び溶接周期プログラム(多くの場合4軸)等を含み得る。
溶接部の検査及び評価は学習プロセスの別の側面である。生徒は溶接部を見て、何が正しく何が間違っているかを特定することができ、そして、それらの選択に基づいて、正しかったかどうかを明らかする得点が付され、業界基準(industry standard)に基づいて何が正しく何が間違っているかについての入力をさらに受け取る。これは、これらの状況をどのように正すかを明らかにすることでさらに高めることができる。例えば、アンペア数及び速度(特定)で正しければ、特定の業界基準に基づき溶接部は良い溶接部になり得る。
前述したように、仮想現実溶接で入力選択を行うための物理的ティーチペンダント又はハンドヘルド制御装置が提供され得る。あるいは、仮想現実溶接用の制御の入力選択を行うための仮想ティーチペンダントが提供され得る。生徒の学習レベル又は業界の役割に依存する(industry role dependent)ハンドヘルド装置若しくは仮想装置とのやりとりを装置上で有効にできる。学習を高めるためにユーザーに基づく制御又はやりとりの制限を設けてもよい。一実施形態によれば、目的は業界の役割のやりとりを高める。
適切なセットアップ又はエラー回復の方法についてユーザーの理解を確かなものにするために視覚的、聴覚的又は物理的な変化に基づくティーチングインタラクション又はリアクション(teaching interaction or reactions)が提供され得る。また、特定の環境又は溶接の変化に基づき必要になる制御の適切な変更についてユーザーの理解を確かなものにするために視覚的、聴覚的又は物理的な変化に基づくティーチングインタラクション又はリアクションが提供され得る。入力を可能にし、入力された値に基づく出力を提供する仮想計算機又はテーブルが有効にされ得る。正しい業界基準を促進するために、誤ったセットアップパラメータ又は選択に基づく知的エージェント対応(intelligent agent enabled)結果が提供され得る。さらに、現在の視覚的、聴覚的又は物理的なインジケータに基づき、適切な制御入力はどうあるべきであったかを特定する知的エージェント対応入力が提供され得る。一実施形態によれば、ファジー論理コントローラベースのシステムに基づくパスフォロワシステム及びパス決定システムの構築と合わせて、カメラベースのシステムのシミュレーションが提供され得る。例えば、シミュレーションの間にカメラの視野が動くように2つのカメラの視野をシミュレーションすることによりマルチレンダリングが提供され得る。一実施形態によれば、例えば、望ましいパスから逸れた場合に、ファジー論理に基づいてアラーム音が鳴るようにされ得る。TIG溶接パドルの適切な視覚化を提供するのにサイズが十分小さい画素サイズで模擬TIG溶接パドルの視覚化が提供され得る。ユーザーがより良く視覚化できるように、拡大された模擬TIG溶接パドルのシミュレーションも提供され得る。
ユーザーの技能レベル、学習ペース及び学習スタイルに合ったユーザーのためのマルチレベルの経験(LMS対応)が提供され得る。ユーザーの問題検出能力、問題を正す能力及び問題から回復する能力をテストするために、人工知能(AI)ベースの誤り誘起(fault induction)も提供され得る。危険な状態、機械のセットアップ及び材料の欠陥のシミュレーションも提供され得る。一実施形態によれば、国際市場のために訓練が調和のとれたものにすることができるように多言語対応システムも提供され得る。本発明の一実施形態は、2人以上のユーザー(複数の人)が特定の円周溶接シナリオ等において仮想溶接部をつくることができるようにする仮想シミュレーション環境を提供し得る。
向上したシミュレーションTIG溶接
一実施形態は、仮想溶接作業を促進するためのシミュレータを提供する。当該シミュレータは、仮想溶接クーポンに対する溶接作業をエミュレートする仮想現実空間内でのインタラクティブな溶接環境を生成するためにコード化命令を実行するよう動作可能なロジックプロセッサベースのサブシステムであって、前記インタラクティブな溶接環境は、仮想溶接作業の実施にリアルタイムで応答して、動的リアルタイム溶融金属流動性及び熱放散特性を有する仮想溶接パドルを前記仮想溶接クーポン上にシミュレートする、ロジックプロセッサベースのサブシステムを含む。本明細書では、「ロジックプロセッサベースのサブシステム」及び「プログラマブルプロセッサベースのサブシステム」という用語を同じ意味で使用し得る。本明細書で使用の「仮想」という用語は、シミュレータのコンピュータ命令により仮想溶接環境でシミュレートされた要素を意味し得る。本明細書で説明したように、一部の仮想要素はディスプレイ手段を通じてユーザーに表示され得る。
上記のシミュレータは、前記ロジックプロセッサベースのサブシステムと作動的に通信する足踏みペダル装置であって、ユーザーによる該足踏みペダル装置の制御に応答して、前記仮想溶接パドルの少なくとも1つの特徴に対してリアルタイムで影響を与えるように構成されている、足踏みペダル装置をさらに含む。上記のシミュレータは、前記ロジックプロセッサベースのサブシステムに作動的に接続され、前記仮想溶接クーポン上の前記仮想溶接パドルを含む前記インタラクティブな溶接環境をリアルタイムで視覚的に描写するように構成されたディスプレイ手段も含む。前記足踏みペダル装置は、有線手段又は無線手段のうちの1つにより前記ロジックプロセッサベースのサブシステムと作動的に通信し得る。前記仮想溶接パドルの前記少なくとも1つの特徴は、前記仮想溶接パドルの幅及び前記仮想溶接パドルの高さのうちの1つ以上であり得る。
前記足踏みペダル装置は現実世界の足踏みペダル装置をシミュレートする疑似足踏みペダル装置であるか又は前記足踏みペダル装置は現実世界の溶接システムに加えてシミュレータと共に使用可能な現実世界の足踏みペダル装置であり得る。前記ロジックプロセッサベースのサブシステムは、ユーザーによる前記足踏みペダル装置の制御に対応して、模擬溶接出力電流レベル又は模擬ワイヤ送給速度のうちの1つ等の溶接パラメータの変化をシミュレートすることにより、前記仮想溶接パドルの前記少なくとも1つの特徴に影響を与えるように構成され得る。上記のシミュレータは、仮想現実空間における前記仮想溶接クーポンを表す疑似溶接クーポンを含み得る。本明細書で使用の「疑似」という用語は、現実世界の要素を表すために、仮想現実空間ではなく現実世界でシミュレートされる要素を意味し得る。例えば、疑似溶接工具はプラスチック製で、1つ以上のセンサを有し、ユーザーが疑似溶接工具を持って操作したときに、現実世界の工具の見た目及び感触に近似したものをユーザーに提供するように構成され得る。
上記のシミュレータは、仮想現実空間における仮想溶接工具を表す疑似溶接工具であって、ユーザーが該疑似溶接工具を前記疑似溶接クーポンに対して操作したときに、前記仮想溶接クーポンに対して仮想溶接作業をリアルタイムで行うための疑似溶接工具も含み得る。上記のシミュレータは、前記ロジックプロセッサベースのサブシステムに作動的に接続された空間追跡サブシステムを含み得る。上記のシミュレータは、前記疑似溶接工具の時間的に変化する位置に関するデータを前記空間追跡サブシステムに伝えることにより前記疑似溶接工具の動きのリアルタイムな追跡を促進するように構成された1つ以上のセンサを含み得る。前記疑似溶接工具及び対応する前記仮想溶接工具は、例えば非消耗タングステン電極、消耗溶接棒又は消耗ワイヤ電極のうちの1つを含むようにシミュレートされ得る。前記足踏みペダル装置は、前記足踏みペダル装置の現在のペダル位置が適切な溶接のための所定の範囲外であることを示す触覚フィードバックをユーザーに提供するように構成され得る。
図24は、シミュレータ2400の第2の実施形態を例示的に表す概略ブロック図を示す。シミュレータ2400は、シミュレータ2400が足踏みペダル装置2410を含み、選択可能ガス流セレクタ2420を有する疑似溶接工具160を含む点を除いて、図4のシミュレータ100と同様である。足踏みペダル装置2410は有線手段(例えば電気ケーブル)又は無線手段(例えばBluetooth(登録商標)接続)のいずれかによりPPS110に作動的に接続されている。一実施形態によれば、足踏みペダル装置2410は、例えば模擬溶接出力電流又は模擬ワイヤ送給速度を調節するためにオペレータ(ユーザー)によって用いられ得る。例えば、模擬TIG溶接セッションの間、オペレータは足踏みペダル装置2410を踏んで、有効溶接出力電流レベルを上げるようにシミュレータに効果的に伝えることにより仮想溶接パドルのサイズを大きくし得る。同様に、オペレータは足踏みペダル装置2410を踏んで、有効溶接出力電流レベルを下げるようにシミュレータに効果的に伝えることにより仮想溶接パドルのサイズを小さくし得る。仮想溶接パドルの長さ、幅及び高さのうちの1つ以上がリアルタイムに影響を受け得る。一実施形態によれば、足踏みペダル装置は、オペレータにより所定の範囲にわたって連続的に調節され得る。他の実施形態によれば、足踏み装置は所定の範囲にわたって段階的に調節され得る。
図25は、図24のシミュレータ2400で用いられる足踏みペダル装置2410の例示的な実施形態を示す。図26は、図25の足踏みペダル装置2410を示す図24のシミュレータ2400の例示的な実施形態を示す。足踏みペダル装置2410は、シミュレータと共に用いる「本物」の足踏みペダル装置をシミュレートするよう具体的に構成された疑似足踏みペダル装置であり得る。あるいは、足踏みペダル装置2410は、「本物」の溶接システムと共に用いるように構成された「本物」の足踏みペダル装置であり得る。しかしながら、一実施形態によれば、シミュレータ2400は「本物」の足踏みペダル装置と互換性があるように構成され得る。例えば、「本物」の足踏みペダル装置は、足踏みペダル装置のペダル位置を示すデータをワイヤレスに出力するワイヤレス装置であり得る。ロジックプロセッサベースのサブシステム(PPS110)は、足踏みペダル装置の使用が本来意図されている本物の溶接システムの構成と同様に、足踏みペダル装置から出力されたデータをワイヤレスで受信するように構成され得る。
シミュレータのオペレータによる仮想溶接作業が行われている間、疑似溶接クーポン180は仮想現実空間で仮想溶接クーポンとして表される。疑似溶接工具160は仮想現実空間で仮想溶接工具として表され、疑似溶接クーポンに対してオペレータが疑似溶接工具を操作したときに仮想溶接クーポンに対してリアルタイムで仮想溶接作業を行うのに用いられる。一実施形態によれば、1つ以上のセンサ122は、疑似溶接工具の時間的に変化する位置についてのデータを空間追跡サブシステム120に伝えることにより疑似溶接工具の動きのリアルタイムな追跡を促進するように構成されている。一実施形態によれば、空間追跡装置(ST)120はロジックプロセッサベースのサブシステム110の一部であり、追跡機能を行う。本明細書では「空間追跡装置」及び「空間追跡サブシステム」という用語を同じ意味で使用し得る。あるいは、空間追跡サブシステム120はロジックプロセッサベースのサブシステム110に作動的に接続され、追跡機能を行い、ロジックプロセッサベースのサブシステム110に追跡情報を提供する。疑似溶接工具及び対応する仮想溶接工具は、例えば非消耗タングステン電極、消耗溶接棒又は消耗ワイヤ電極のうちの1つを含むようにシミュレートされ得る。
一実施形態によれば、足踏みペダル装置2410は、足踏みペダル装置の現在のペダル位置が適切な溶接のための所定の範囲外であることを示す触覚フィードバックをオペレータに提供するように構成されている。例えば、足踏みペダル装置2410は、足踏みペダル装置の現在のペダル位置が適切な溶接のための所定の範囲外にある場合に振動し得る(振動は触覚フィードバックである)。あるいは、足踏みペダル装置2410は、足踏みペダル装置の現在のペダル位置が適切な溶接のための所定の範囲内にある場合に振動し得る(振動は触覚フィードバックである)。他のフィードバックインジケータを設けてもよい。例えば、表示メッセージをオペレータに提供するか又は他の可視インジケータ(例えば点滅光)若しくは可聴インジケータ(例えばビープ音)を提供して、足踏みペダル装置の現在のペダル位置に関する範囲内又は範囲外の状態を示してもよい。
一実施形態は、仮想溶接作業を促進するためのシミュレータを提供する。当該シミュレータは、仮想現実空間内で仮想溶接クーポンによって表される疑似溶接クーポンと、仮想現実空間内で仮想溶接工具によって表される疑似溶接工具とを含む。シミュレータは、前記仮想溶接工具による仮想溶接クーポンに対する溶接作業をエミュレートする仮想現実空間内でのインタラクティブな溶接環境を生成するためにコード化命令を実行するよう動作可能なロジックプロセッサベースのサブシステムであって、前記インタラクティブな溶接環境は、仮想溶接作業の実施にリアルタイムで応答して、動的リアルタイム溶融金属流動性及び熱放散特性を有する仮想溶接パドルを前記仮想溶接クーポン上にシミュレートする、ロジックプロセッサベースのサブシステムをさらに含む。
上記のシミュレータは、前記ロジックプロセッサベースのサブシステムに作動的に接続された空間追跡サブシステムを含む。上記のシミュレータは、前記疑似溶接工具の時間的に変化する位置に関するデータを前記空間追跡サブシステムに伝えることにより前記疑似溶接工具の少なくとも先端の動きのリアルタイムな追跡を促進するように構成された1つ以上の第1のセンサを含む。前記ロジックプロセッサベースのサブシステムは、前記空間追跡サブシステムから追跡情報を受け取り、前記疑似溶接工具の先端に対応する前記仮想溶接工具の先端が仮想現実空間内の前記仮想溶接パドルの表面と仮想溶接作業の間に交わった場合にそれを判断するように構成され、前記ロジックプロセッサベースのサブシステムはさらに、ユーザーに提供される、前記交わったことに起因して前記仮想溶接工具が汚染された旨の表示を生成するように構成されている。
上記のシミュレータは、仮想現実空間内で仮想フィラーワイヤ又は仮想フィラーロッドによって表される疑似フィラーワイヤ又は疑似フィラーロッドをさらに含み得る。本明細書では、「フィラーワイヤ」及び「フィラーロッド」を同じ意味で使用し得る。上記のシミュレータは、前記疑似フィラーワイヤの時間的に変化する位置に関するデータを前記空間追跡サブシステムに伝えることにより前記疑似フィラーワイヤの少なくとも先端の動きのリアルタイムな追跡を促進するように構成された1つ以上の第2のセンサも含み得る。前記ロジックプロセッサベースのサブシステムは、前記空間追跡サブシステムから追跡情報を受け取り、前記疑似フィラーワイヤの先端に対応する前記仮想フィラーワイヤの先端が仮想現実空間内の前記仮想溶接工具に仮想溶接作業の間に接触した場合にそれを判断するように構成され得る。前記ロジックプロセッサベースのサブシステムはさらに、ユーザーに提供される、前記接触に起因して前記仮想溶接工具が汚染された旨の表示を生成するように構成され得る。
前記ロジックプロセッサベースのサブシステムはさらに、前記仮想フィラーワイヤの先端が前記仮想溶接パドルを貫通した場合にそれを判断し、該貫通に起因して前記仮想溶接パドルの少なくとも高さを変更するように構成され得る。上記のシミュレータは前記ロジックプロセッサベースのサブシステムに作動的に接続された足踏みペダル装置であって、ユーザーによる該足踏みペダル装置の制御に応答して、前記仮想溶接パドルの少なくとも1つの特徴をリアルタイムに変更するように構成されている、足踏みペダル装置も含み得る。前記仮想溶接パドルの前記少なくとも1つの特徴は、前記仮想溶接パドルの幅及び前記仮想溶接パドルの高さのうちの1つ以上であり得る。
上記のシミュレータは、前記ロジックプロセッサベースのサブシステムに作動的に接続され、前記インタラクティブな溶接環境を視覚的に描写するためのディスプレイ手段をさらに含み得る。該ディスプレイ手段は、前記仮想溶接クーポン上の前記溶接パドルをリアルタイムに描写する。前記ロジックプロセッサベースのサブシステムは、仮想溶接作業の間に前記仮想溶接パドルを仮想溶接ビードに変換するように構成され得る。前記交わったことに起因する前記仮想溶接工具が汚染された旨の表示は、前記仮想溶接ビードを1つ以上の欠陥を有るように前記ディスプレイ手段上で描写することに対応する。
前記疑似溶接工具及び対応する前記仮想溶接工具は、非消耗タングステン電極を含むようにシミュレートされ得る。前記疑似溶接工具の突出位置はユーザーにより調節可能であり得る。上記のシミュレータは、前記疑似溶接工具に取り付けられるユーザー選択可能ガス流セレクタであって、第1の位置にある場合は前記仮想溶接工具から出る模擬ガス流がオフであり、第2の位置にある場合は前記模擬ガス流がオンであることを前記ロジックプロセッサベースのサブシステムに伝えるように構成されている、ユーザー選択可能ガス流セレクタも含み得る。上記のシミュレータは、それぞれが前記疑似溶接工具に着脱可能に構成された複数の疑似ガス流カップをさらに含み得る。各前記複数の疑似ガス流カップは、前記疑似溶接工具から出るガス流の一意的な方向付け(unique directing)をシミュレートするように構成されている。
前記ロジックプロセッサベースのサブシステムは、ユーザーが前記疑似溶接工具の先端を前記疑似溶接クーポンに接触させ、前疑似溶接工具の先端を前記疑似溶接クーポンから所定の方法で持ち上げた場合に、前記仮想溶接工具の先端と前記仮想溶接クーポンとの間でアークの確立をシミュレートするように構成され得る。前記ロジックプロセッサベースのサブシステムは、ユーザーが前記疑似溶接クーポンの面にわたって前記疑似溶接工具の先端を所定の方法でドラッグした場合に、前記仮想溶接工具の先端と前記仮想溶接クーポンとの間でアークの確立をシミュレートするように構成され得る。前記ロジックプロセッサベースのサブシステムは、ユーザーが前記疑似溶接工具の先端を前記疑似溶接クーポンに接触させることなく前記疑似溶接工具の先端を所定の方法で前記疑似溶接クーポンの方に動かした場合に、前記仮想溶接工具の先端と前記仮想溶接クーポンとの間でアークの確立をシミュレートするように構成され得る。
現実世界では、非消耗タングステン電極が汚染されると、ユーザーは溶接を中断し、汚染された電極を交換するか又は汚染された電極を洗浄して再準備しなければならない。これには時間がかかるため非効率的な溶接セッションとなる。従って、本シミュレータを用いてGTAW溶接プロセスを行うための訓練をユーザーに行う場合、ユーザーが電極を汚染した場合にそれをユーザーに気付かせる。ユーザーは、電極の先端又は端部を下げて溶接パドルに入れてしまうこと、フィラーワイヤを電極に触れさせること又はフィラーワイヤで溶接パドルを押し上げることによって溶接パドルが上昇し電極の先端又は端部に触れてしまうことで電極を汚染し得る。電極を汚染しないようユーザーに教えることはGTAW溶接の重要な側面である。
図27は、仮想現実空間における仮想溶接作業の例示的な実施形態を示す。そのような仮想溶接作業は、例えばディスプレイ装置150上に表示され得る。図27に示す溶接作業は模擬GTAW溶接作業である。仮想溶接工具2710及び仮想フィラーワイヤ2720が図示され、模擬GTAW溶接プロセスの間に仮想溶接クーポン2740上に仮想溶接パドル2730を形成している。仮想溶接工具2710は、仮想現実空間において非消耗タングステン電極2711、コンタクトチューブ2712及びGTAWヘッド2713をシミュレートする。図27に示す溶接作業は、仮想現実空間における仮想電気アーク2714及び仮想シールドガス2715も示す。
図28は、模擬溶接作業の間にユーザーが疑似溶接クーポン2830に対して操作し得る疑似溶接工具2810及び疑似フィラーワイヤ2820を用いた、図27の仮想溶接作業を表す模擬溶接作業の例示的な実施形態を示す。疑似溶接工具2810、疑似フィラーワイヤ2820及び疑似溶接クーポン2830のそれぞれは、仮想現実空間では仮想溶接工具2710、仮想フィラーワイヤ2720及び仮想溶接クーポン2740により表される。図27に示す、仮想現実空間における溶接作業の表示は、疑似溶接工具2810、疑似フィラーワイヤ2820及び疑似溶接クーポン2830に対するユーザーの動作に対応する。
疑似溶接工具2810は疑似非消耗タングステン電極2811を含む。一実施形態によれば、疑似非消耗タングステン電極2811の先端は、空間追跡サブシステム120による疑似電極2811の先端の位置の追跡を促進するために1つ以上のセンサ2812を有する。同様に、疑似フィラーワイヤ2820の先端は、空間追跡サブシステム120による疑似フィラーワイヤ2820の先端の位置の追跡を促進するために1つ以上のセンサ2821を有する。一実施形態によれば、センサ2812及び2821はセンサ122と同様で、本明細書で説明したように空間追跡サブシステム120が磁気追跡サブシステムの場合は交差する空間方向に並んだ複数の誘導コイルを含み、模擬溶接作業の間にユーザーが疑似溶接工具2810及び疑似フィラーワイヤ2820を動かしたときに、疑似電極2811及び疑似フィラーワイヤ2820のそれぞれの先端を3次元空間で追跡することができる。他の追跡方法(例えば、赤外線に基づく追跡、カメラに基づく追跡、加速度計に基づく追跡)を用いる他の実施形態では、他の種類のセンサが使用され得る。
ここでも、疑似溶接工具2810は仮想現実空間では仮想溶接工具2710として表され、疑似溶接クーポン2830は仮想現実空間では仮想溶接クーポン2740として表される。ロジックプロセッサベースのサブシステム110は、仮想溶接工具2710による仮想溶接クーポン2740に対する溶接作業をエミュレートする仮想現実空間内でのインタラクティブな溶接環境を生成するためにコード化命令を実行するよう動作可能である。疑似フィラーワイヤ2820の使用は任意であるため、模擬溶接作業の間に疑似フィラーワイヤ2820を使ってもいいし使わなくてもよい。
インタラクティブな溶接環境は、仮想現実空間において仮想溶接クーポン2740上に仮想溶接パドル2730をシミュレートする。仮想溶接パドル2730は、模擬溶接作業を行っているユーザーにリアルタイムに対応して、動的リアルタイム溶融金属流動性及び熱放散特性を有するようにシミュレートされる。仮想溶接パドルをシミュレートする場合、仮想アーク2714、仮想シールドガス2715及び仮想フィラーワイヤ2720の効果の全てが考慮される。GTAW(TIG)溶接では、非消耗タングステン電極が溶接パドル又はフィラーワイヤに触れないことが重要である。さもなければ、非消耗タングステン電極が汚染され、結果として得られる溶接ビードに悪影響を及ぼし得る。例えば、汚染された電極によって、結果として得られる溶接ビードに当該技術分野で公知な様々な種類の欠陥が含まれることになる。
一実施形態によれば、ロジックプロセッサベースのサブシステム110は、空間追跡サブシステム120から追跡情報を受け取り、疑似溶接工具2810の模擬電極2811の先端に対応する仮想溶接工具2710の仮想電極2711の先端が仮想現実空間内の仮想溶接パドル2730の表面と仮想溶接作業の間に交わることにより電極を仮想的に汚染した場合にそれを判断する。電極は、ユーザーが電極の先端又は端部を下げて溶接パドルに入れてしまうこと又はフィラーワイヤで溶接パドルを押し上げることによって溶接パドルが上昇し電極の先端又は端部に触れてしまうことにより溶接パドルの表面と交わり得る。一実施形態によれば、ロジックプロセッサベースのサブシステム110は、仮想フィラーワイヤ2720の先端が仮想溶接パドル2730を貫通した場合にそれを判断し、例えば該貫通に起因して仮想溶接パドル2730の高さを変更する。また、一実施形態によれば、本明細書で前に説明した足踏みペダル装置2410が、仮想溶接パドル2730にリアルタイムで影響を与えるために用いられ得る。例えば、足踏みペダル装置の操作により仮想溶接パドルの高さ又は幅が変更され得る。足踏みペダル装置の操作が不適切な場合にも電極が汚染され得る。同様に、ロジックプロセッサベースのサブシステム110は、空間追跡サブシステム120から追跡情報を受け取り、疑似フィラーワイヤ2820の先端に対応する仮想フィラーワイヤ2720の先端が仮想現実空間内の仮想電極2711に仮想溶接作業の間に触れることにより電極を仮想的に汚染した場合にそれを判断する。
一実施形態によれば、ロジックプロセッサベースのサブシステム110は電極の汚染と、汚染された電極がどのように溶接パドルに、ひいては最終的に得られる溶接ビードに影響を与えるかとを考慮に入れる。また、ロジックプロセッサベースのサブシステム110は、ユーザーに提供される、仮想溶接工具の電極が仮想的に汚染された旨の表示を生成するように構成され得る。表示は可視インジケータ(例えば点滅光)及び/又は可聴インジケータ(例えばビープ音)の形態であり得る。あるいは又はそれに加えて、電極が汚染されたことを示す表示メッセージがオペレータに提供され得る。一実施形態によれば、ユーザーは、タングステン電極を洗浄したか又は交換したことをユーザーがシミュレータに示すまで模擬溶接作業を続けることができない。これは、例えばユーザーによって溶接シミュレータのユーザーインターフェイスに入力される入力シーケンスによって実現され得る。ユーザー入力シーケンスを入力させることには、電極の汚染の回避をユーザーに動機付けるのにちょうど適した不便さがあり得る。
一実施形態によれば、疑似非消耗タングステン電極2811の突出位置が調節可能である。従って、ユーザーは、例えば、対応する仮想電極2711をユーザーが仮想的に汚染するのを防止し易くするために疑似溶接工具2810の疑似電極2811の突出量を調節し得る。突出位置の調節は、例えば固定された疑似コンタクトチューブ2813との調節可能な接続を含む様々な方法のうちの任意のもので実現され得る。そのような調節は、例えば疑似電極2811を疑似コンタクトチューブ2813に対して所望の距離ねじ込むこと又は出すことにより行われ得る。様々な他の実施形態によれば、他の調節方法も可能である。
模擬溶接作業の間、仮想溶接工具2710は、例えばGTAW溶接プロセスで提供されるシールドガスをシミュレートするために仮想溶接工具2710の端部から出る模擬シールドガス2715を提供する。図24を参照して、疑似溶接工具160(又は図28の2810)は疑似溶接工具に取り付けられた選択可能疑似ガス流セレクタ2420を含み得る。疑似ガス流セレクタ2420は、第1の位置にある場合は仮想溶接工具から出る模擬ガス流が「オフ」であり、第2の位置にある場合は模擬ガス流が「オン」であることをロジックプロセッサベースのサブシステム110に(有線又は無線手段により)伝えるように構成されている。様々な実施形態によれば、疑似ガス流セレクタ2420は、例えば回転可能なつまみ又はスイッチであり得る。GTAW溶接プロセスの場合、ユーザーは溶接プロセスの間にガス流を「オン」にしてシールドガスが供給されるようにすることが重要である。シミュレーションにおいてガス流を「オン」にしないと、シミュレートされている溶接ビードに1つ以上の種類の欠陥が生じ得る。
一実施形態によれば、シミュレータは、それぞれが疑似溶接工具に着脱可能に構成された複数の疑似ガス流カップ(gas flow cups)を提供し得る。各疑似ガス流カップは、疑似溶接工具から出るガス流の一意的な方向付けをシミュレートするように構成され得る。図28に着脱可能な疑似ガス流カップ2805の一例を示す。一実施形態によれば、疑似ガス流カップ2805は疑似溶接工具2810の疑似GTAWヘッド2801に嵌め込まれる。様々な他の実施形態によれば、疑似ガス流カップを疑似溶接工具に取り付ける他の手段も可能である。疑似電極2811の先端の近くの疑似ガス流カップ2805の出力端の形状は、溶接工具から出る本物のガス流の方向を決定する本物のガス流カップの形状を模倣したものである。複数の疑似ガス流カップの各疑似ガス流カップの出力端の形状は異なっていてもよく、それらは様々な方向のガス流を提供する様々な本物のガス流カップを表す。模擬溶接環境では、ユーザーは疑似溶接工具に取り付ける疑似ガス流カップを選択し得る。
一実施形態によれば、ユーザーによって疑似ガス流カップ2805が疑似溶接工具2810に取り付けられると、ユーザーはユーザーインターフェイス130を通じて疑似ガス流カップの識別子をシミュレータに入力し得る。そのため、ロジックプロセッサベースのサブシステム110は、取り付けられた特定の疑似ガス流カップを考慮に入れ、特定された疑似ガス流カップに基づき仮想現実空間で仮想溶接工具2810から出る方向ガス流をシミュレートする。その結果、仮想溶接パドル及び結果として得られる仮想溶接ビードのシミュレーションは取り付けられた疑似ガス流カップの影響を受け得る。
他の実施形態によれば、疑似ガス流カップが疑似溶接工具に取り付けられると、有線又は無線手段により特定データがロジックプロセッサベースのサブシステム110に自動的に提供され得る。例えば、疑似ガス流カップは、シミュレータが読み取ることのできる識別コードで符号化(例えばバーコード又は無線自動識別)され得る。そのような実施形態では、スキャン装置又は読み取り装置2430(例えば、バーコードスキャン装置又は無線自動識別読み取り装置)がロジックプロセッサベースのサブシステム110に作動的に接続され、取り付けられた疑似ガス流カップの識別コードをスキャンするか又は読み取るように構成され得る。他の実施形態によれば、疑似ガス流カップの識別コードをロジックプロセッサベースのサブシステム110に自動的に伝える他の手段も可能である。
一実施形態によれば、ロジックプロセッサベースのサブシステム110は、ユーザーが疑似溶接工具2810の模擬電極2811の先端を疑似溶接クーポン2830に接触させ、その先端を疑似溶接クーポン2830から所定の方法で持ち上げた場合に、模擬溶接プロセスの開始時に仮想溶接工具2710の仮想電極2711の先端と仮想溶接クーポン2740との間でアーク2714の確立をシミュレートするように構成されている。そのような実施形態は、例えばGTAW溶接プロセスのために「持ち上げスタート(lift start)」をシミュレートする。「持ち上げスタート」での模擬アークの確立を実現するために、疑似溶接クーポンに対する疑似電極の先端の位置が本明細書で説明した追跡技術を用いてシミュレータにより追跡される。あるいは、疑似溶接電極の先端に圧力センサ(例えば圧電センサ)を取り付け、疑似溶接電極の先端が疑似クーポンに触れた場合に圧力センサが、例えば接触を示すためにロジックプロセッサベースのサブシステムに提供され得る電気信号を生成するようにしてもよい。他の代替的な実施形態によれば、疑似溶接電極の先端及び疑似溶接クーポンは、先端がクーポンに触れたことをシミュレータに示す導電性の(又は少なくとも部分的に導電性の)パスを完成するように構成され得る。
一実施形態によれば、ロジックプロセッサベースのサブシステム110は、ユーザーが疑似溶接クーポンの面にわたって疑似溶接電極の先端を所定の方法でドラッグした場合に、模擬溶接プロセスの開始時に仮想溶接工具2710の仮想電極2711の先端と仮想溶接クーポン2740との間でアーク2714の確立をシミュレートするように構成されている。そのような実施形態は、例えばGTAW溶接プロセスのための「スクラッチスタート(scratch start)」をシミュレートする。この場合も、「スクラッチスタート」での模擬アークの確立を実現するために、疑似溶接クーポンに対する疑似電極の先端の位置が本明細書で説明した追跡技術を用いてシミュレータにより追跡される。あるいは、疑似溶接電極の先端に圧力センサ(例えば圧電センサ)を取り付け、疑似溶接電極の先端が疑似クーポンにわたってドラッグされた場合に、圧力センサが、例えばドラッグされたことを示すためにロジックプロセッサベースのサブシステムに提供され得る電気信号を生成するようにしてもよい。他の代替的な実施形態によれば、疑似溶接電極の先端及び疑似溶接クーポンは、先端がクーポンに接触し、クーポンにわたってドラッグされたことをシミュレータに示す導電性の(又は少なくとも部分的に導電性の)パスを完成するように構成され得る。
一実施形態によれば、ロジックプロセッサベースのサブシステム110は、ユーザーが疑似溶接工具の先端を疑似溶接クーポンに接触させることなく疑似溶接工具の先端を所定の方法で疑似溶接クーポンの方に動かした場合に、模擬溶接プロセスの開始時に仮想溶接工具2710の仮想電極2711の先端と仮想溶接クーポン2740との間でアーク2714の確立をシミュレートするように構成されている。そのような実施形態は、例えばGTAW溶接プロセスのための「高周波スタート(high frequency start)」をシミュレートし得る。シミュレータは、模擬溶接プロセスの開始時に疑似溶接工具が疑似溶接クーポンに近づくときに高周波出力を用いてシミュレーションを行う。疑似溶接工具の電極の先端が疑似溶接クーポンの表面から所定の距離の所に達すると仮想アーク2714が確立される。一実施形態によれば、高周波モードの動作に入るか出るのに足踏みペダル装置がユーザーによって用いられ得る。
一実施形態によれば、ディスプレイ手段150は、溶接ユーザーインターフェイスとして使用可能なタッチスクリーン装置として構成され得る。タッチスクリーン装置は、現実世界の溶接機のユーザーインターフェイスをモデル化するユーザーインターフェイスをユーザーが選べるようにすることができる。ユーザーは、複数の現実世界の溶接機を表す複数のユーザーインターフェイスから選択することができ得る。その結果、ユーザーは、タッチスクリーン装置上に表示されたユーザーインターフェイスを使って、選択された溶接機の種類のための模擬溶接作業をセットアップできる。このように、ユーザーは、シミュレータを用いて様々な種類の現実世界の溶接機のユーザーインターフェイスに慣れ親しむことができる。さらに、溶接機の種類を一度選択すると、シミュレータは、例えば、溶接電源がどのように動作するか及び利用可能な溶接波形の種類の点でその特定種類の溶接機をシミュレートするよう自動的に適合される。
一実施形態によれば、シミュレータは、模擬溶接作業の間に用いるタングステン電極の種類をユーザーが選択できるようにする。選択可能なタングステン電極の種類の例としては、純タングステン、2%セリウム入り(ceriated)タングステン、1.5%ランタン入り(lanthanated)タングステン及び2%トリウム入り(thoriated)タングステンが挙げられる。様々な他の実施形態によれば、他の種類のタングステン電極も選択可能であり得る。特定の模擬溶接作業に対してユーザーが誤った種類のタングステン電極を選択すると、シミュレータは、誤った選択がなされたことをユーザーに表示し得る。このように、シミュレータは、どの種類の溶接作業にはどの種類のタングステン電極が適しているかをユーザーに教えることができる。さらに、選択したタングステン電極の種類に基づいて、タングステン電極の種類を考慮に入れるために溶接作業のシミュレーションが変更され得る。例えば、タングステン電極の種類はアークの外観に影響を与え得ることが知られているため、シミュレータは選択されたタングステン電極の種類に基づいてアークの外観を適合させ得る。
一実施形態によれば、シミュレータは、模擬パイプ溶接作業を行った後に、ユーザーが仮想パイプの内側のルートビードを観察及び検査できるよう構成され得る。シミュレータを用いて良好なルートビード(root bead)を作った後でも、連続したヒートパス(successive heat passes)が適切に行われていなければルートビードを劣化させ得る。一実施形態によれば、シミュレータは、本明細書で説明した溶接パドル及び溶接ビードのシミュレーション法を用いて連続したヒートパス溶接に基づく仮想ルートビード溶接を変更するように構成されている。シミュレータは、パイプ溶接作業を行った後に、ユーザーが例えば懐中電灯を使ってパイプの内部を見ているかのように模擬溶接パイプの内部を表示することができる。あるいは、シミュレータは、模擬パイプを効果的に反転させて、模擬パイプの内部があたかも外側に出ているかのように又はその反対に表示させることができる。
要約すれば、プログラマブルプロセッサベースのサブシステム(ロジックプロセッサベースのサブシステムとしても知られる)と、該プログラマブルプロセッサベースのサブシステムに作動的に接続された空間追跡装置と、該空間追跡装置が空間的に追跡可能な少なくとも1つの疑似溶接工具と、前記プログラマブルプロセッサベースのサブシステムに作動的に接続された少なくとも1つのディスプレイ装置とを含むリアルタイム仮想現実溶接システムが開示される。ロジックプロセッサベースのサブシステムは、溶接作業をエミュレートする仮想現実空間内でのインタラクティブな溶接環境を、仮想溶接作業の実施にリアルタイムで応答して、動的リアルタイム溶融金属流動性及び熱放散特性を有する仮想溶接パドルをシミュレートすることにより生成するよう動作可能であり得る。当該システムはさらに、模擬溶接パドルをディスプレイ装置にリアルタイムで表示することができる。当該システムは、前記ロジックプロセッサベースのサブシステムと作動的に通信する足踏みペダル装置であって、ユーザーによる該足踏みペダル装置の制御に応答して、仮想溶接パドルの特徴に対してリアルタイムで影響を与えるように構成されている、足踏みペダル装置を含み得る。当該システムは、疑似溶接工具及び疑似フィラーワイヤの動きを追跡して、溶接工具の汚染をもたらし得る、仮想現実空間内での仮想溶接パドルと対応する仮想溶接工具及び対応するフィラーワイヤとのふれあいを判定するように構成され得る。
開示した実施形態を参照しながら本発明を明細書で説明してきた。言うまでもなく、当業者であれば本明細書を読んで理解した際に、変更及び修正を考え付く。そのような変更及び修正が添付の請求項又はその同等物の範囲にある限り、それらの全てが本願に含まれる。