したがって一態様では本発明は、生きている細胞を保持するのに適した内部チャンバを備える細胞カプセル化デバイスであって、内部チャンバは第1の半透層と第2の半透層の間に配置されると共にこの第1及び第2の半透層は内部チャンバの周囲を取り囲む支持フレームに取り付けられており、支持フレームは第1のフレーム要素及び第2のフレーム要素を備えると共にこの第1及び第2のフレーム要素は協働して第1及び第2の半透層をこれら層同士の間が所定の離間距離となるように位置決めしている、細胞カプセル化デバイスを提供する。
一実施形態では、第1の半透層は第1のフレーム要素に取り付けられると共に第2の半透層は第2のフレーム要素に取り付けられており、且つ第1と第2のフレーム要素は内部チャンバの周囲を囲繞するように相互接続している。
第1及び第2のフレーム要素の各々は、(a)第1又は第2の半透層が取り付けられる取付領域と、(b)スペーサ領域であって、第1と第2のフレーム要素が相互接続したときにスペーサ領域が取付領域同士の間に位置決めされると共に一体となってこれら層同士の間の所定の離間距離を規定するようにしたスペーサ領域と、を備えることが好ましい。
一実施形態では支持フレームは、物質及び/又は細胞懸濁液を内部チャンバに導入可能とするために通過させる装填(loading)ポートをさらに備える。別の実施形態ではデバイスは、第1及び/又は第2の半透層と支持フレームとの間に接着剤封止を備える。
第1と第2のフレーム要素は一体に超音波溶接されることが好ましい。別の好ましい実施形態では第1及び/又は第2の半透層はフレームに対して超音波溶接されている。
一実施形態では第1及び第2の半透層はそれぞれが、内部チャンバと接触した膜層と、内部チャンバの外部に対して膜層を覆っているメッシュ層と、を備える。膜層は、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート又はポリテトラフルオロエチレンを備えることが好ましい。メッシュ層は、メッシュ層は、ナイロン、チタン、ステンレス鋼、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン又はポリエステルを備えることが好ましい。
一実施形態では、哺乳類細胞が内部チャンバ内にカプセル化される。カプセル化される細胞はヒトの細胞であることが好ましい。カプセル化される細胞は人工多能性幹細胞(iPSC)由来とすること(例えば、カプセル化される細胞はカプセル化前にiPSCから少なくとも部分的に分化させた細胞とすること)がさらに好ましい。カプセル化される細胞は膵臓始原細胞とすることが最も好ましい。
別の実施形態では、チャンバ内にカプセル化された細胞は、治療用薬剤の産生及び/又は分泌が可能である。治療用薬剤は例えば、治療用タンパク質、ペプチド、核酸又は生物学的に活性な他の薬剤とすることができる。特定の実施形態ではその治療用薬剤を、抗体やその断片、DNA分子又はRNA分子とすることができる。細胞は、組換えDNA技法を用いて治療用薬剤を産生するように改変することができる(例えば、細胞は、外因性のポリペプチドや他の治療用薬剤を発現する組換え細胞とすることができる)。
また別の態様では本発明は、先の任意の請求項に従った細胞カプセル化デバイスを作成するための方法であって、デバイス内の内部チャンバを囲繞するために第1及び第2の半透層を支持フレームに取り付けるステップを含む方法を提供しており、ここで支持フレームは第1のフレーム要素及び第2のフレーム要素を備えると共に、この第1及び第2のフレーム要素は第1及び第2の半透層をこれらの層同士の間が所定の離間距離になるように位置決めしている。
一実施形態では本方法は、第1の半透層を第1のフレーム要素に取り付けるステップと、第2の半透層を第2のフレーム要素に取り付けるステップと、内部チャンバの周囲を囲繞するために第1と第2のフレーム要素を係合させるステップと、を含む。
また別の態様では本発明は、細胞を分化させるための方法であって、上に規定したようにデバイス内に細胞をカプセル化するステップと、このデバイスを生きている哺乳類内に移植するステップと、を含む方法を提供する。
一実施形態では、哺乳類はヒト以外であり且つカプセル化される細胞はヒトの細胞である。別の実施形態では、哺乳類がヒトであり且つカプセル化される細胞はヒトのものである。
別の実施形態では、哺乳類はヒト以外であり且つカプセル化される細胞はヒト以外の細胞である。
また別の態様では本発明は、糖尿病に対する予防又は処置をこれを必要としている対象に施すための方法であって、膵臓始原細胞を備えた上に規定したデバイスをその対象に移植するステップを含む方法を提供する。
一実施形態では膵臓始原細胞は、対象内に移植された後にグルコース応答性の機能膵島細胞に分化する。
上で規定した方法の幾つかの実施形態では、デバイスは皮下的に移植される。代替的な実施形態ではデバイスは、髄腔内、脳内又は腹腔内の部位に移植されることがある。
また別の態様では本発明は、哺乳類においてカプセル化細胞をインビボで分化させるための上で規定したようなデバイスの使用を提供する。
本発明の実施形態では、チャンバ内に細胞を包含した半透層が支持フレーム構造に取り付けられており、支持フレーム構造はこれらの層を内部チャンバの奥行きに対応する所定の離間で精密に位置決めしている。フレームは典型的には、内部チャンバの周囲において半透層のエッジを全体的に囲繞しており、これによってデバイスの外部表面上に半透層のざらついたエッジが存在することが回避されると共に、生物的適応性が向上する。支持フレームは、層同士の間の間隔を規定するように相互接続すると共にこれらを適所に保持している2つの要素だけから形成されることが有利となり得る。これによれば、層同士の間に別にスペーサを必要とせず、これによって製造方法が簡略化されると共にデバイスの滑らかな外部表面の提供に寄与する。フレームはまた組込み式の装填ポートを備えることがあり、これによってデバイスの内部チャンバへの物質の導入が容易になり、また製造プロセスを簡略化できる。
[細胞カプセル化デバイス]
本発明の実施形態は生きている細胞を保持するためのカプセル化デバイスに関する。このようなデバイスは典型的には、ヒトを含む哺乳類などの動物に移植することが可能である。一実施形態では本デバイスは、任意選択において1つ又は複数の生物学的に活性な薬剤と組み合わせて細胞を内部に全体的にカプセル化することが可能な生物的適合性の免疫隔離性デバイスを備える。
細胞はデバイス内のチャンバに保持される。典型的にはチャンバは、細胞がチャンバから脱出できないように完全に囲繞されている(例えば、細胞を取り囲む連続した壁構造を備える)。
幾つかの実施形態では細胞は、ハイドロゲルなどチャンバ内の生物的適合性マトリックス材の内部に囲繞されることや、生物的適合性マトリックス材上に配置されることがある。適当なマトリックス材には、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸塩、アガロース、ゼラチン、コラーゲン、ポリエチレングリコール、フィブリン及びキトサンが含まれる。このマトリックスは、例えばゲル、ミクロビーズ又はスポンジの形態とすることがある。このマトリックスはチャンバに対してデバイスの製造中に(すなわち、チャンバに細胞が導入される前に)追加されることがあり、また別法としてこのマトリックスは細胞の装填と同時にチャンバに追加されることがある。幾つかの実施形態では細胞は先ずマトリックス(例えば、多孔性のミクロビーズ)と合成され、次いでマトリックスはチャンバ内に装填される細胞を備えることがある。
本明細書に記載したカプセル化デバイスの実施形態は、本出願の独立請求項で特に別の規定をした場合を除きある種のデバイスサイズ、形状、設計、体積容量及び/又はカプセル化デバイスの作成に使用される材料への限定を意図していない。
[細胞]
本明細書に記載したデバイスにカプセル化し得る細胞は、任意のタイプの動物細胞(好ましくは哺乳類細胞)又はヒトの細胞を含むことが可能である。典型的にはこの細胞は、移植されると対象に対して治療上の恩恵となり得るものである。適当な細胞には、同種異系及び異種細胞、自家細胞又はこれらの派生種を含む。例えば、対象から幹細胞又は体細胞を取得しこれらの細胞から治療用細胞集団を導出することが望ましいことがある。このようなプロセスは典型的には、移植される細胞に対する免疫応答のリスクを低減させる。カプセル化デバイスでの使用に適した例示的な細胞型には、多能性幹細胞又はその派生種(好ましくは人工多能性幹(iPS)細胞、さらに好ましくはヒト人工多能性幹(hiPS)細胞)からなる凝集した又は単一の細胞懸濁液を含む。特定の実施形態では細胞は、膵臓始原細胞、グルコース応答性ベータ細胞、インスリン産生細胞、胚体内胚葉細胞、膵島細胞、腫瘍細胞、又はこれらの任意の組合せを備えることがある。
人工多能性幹(iPS)細胞は、非多能性の細胞に由来する多能性幹細胞である。Zhouら(2009)のCell Stem Cell 4:381〜384、Yuら(2009)のScience 324(5928):797〜801、Epub2009年3月26日、Yuら(2007)のScience 318(5858):1917〜20、Epub2007年11月20日、Takahashiら(2007)のCell、131:861〜72、及びTakahashi K.及びYamanaka S.(2006)のCell 126:663〜76を参照されたい。非多能性細胞が採取される動物は、脊椎動物とすることや無脊椎動物とすること、哺乳類とすることや非哺乳類とすること、ヒトとすることやヒト以外とすることがあり得る。動物出所の例には、霊長類、げっ歯類、イヌ科動物、ネコ科動物、ウマ科動物、ウシ科動物及びブタ科動物(ただし、これらに限らない)が含まれる。多能性細胞は、手動継代法やバルク継代法(酵素学的や非酵素学的な継代)を含む当業者に周知の任意の方法を用いて継代培養することが可能である。
本発明の一実施形態では細胞は、膵臓細胞、肝臓細胞や他の細胞、組織及び臓器とするようにさらに分化させることが可能な細胞型とさせるようなヒト人工多能性幹細胞の分化によって作成されている。例えば胚体内胚葉はインビトロで分化させ、インスリン依存の1型及び2型糖尿病を処置するためにインビボでインスリンを産生する膵臓始原細胞にすることが可能である(例えば、米国特許第7,534,608号、米国特許第7,510,876号及び米国特許第7,695,965号を参照されたい)。カプセル化に関するまた別の適当な細胞型には、PDX1陰性前腸内胚葉細胞、前腸内胚葉細胞又は腸管内胚葉細胞;PDX1陽性背側前腸内胚葉細胞、PDX1陽性前腸内胚葉細胞、又はPDX1陽性内胚葉;膵臓始原細胞、PDX1陽性膵臓内胚葉細胞、PDX1陽性膵臓始原細胞、膵臓上皮細胞、PDX1陽性膵臓内胚葉端細胞、膵臓内分泌前駆体細胞、膵臓内分泌始原細胞、膵臓内分泌細胞、膵臓ホルモン分泌細胞、膵島ホルモン発現細胞、或いはこれらの等価物を含む。
このような細胞型は、例えば国際公開第2010/057039号パンフレットにおいて規定されるような特定の細胞表面や他のマーカの組合せを発現させることによって規定される。分子の発現を測定するための方法は当業者によく知られており、またノーザンブロット法、RT−PCR、原位置ハイブリッド形成法、ウエスタンブロット法及び免疫染色法(ただし、これらに限らない)を含む。膵島ホルモン発現細胞は、成熟とすることも未成熟とすることも可能であり、また細胞マーカの発現及び機能特性に基づいて識別することが可能である。このような細胞は多ホルモン性とすることも単一ホルモン性とすることも可能であり、例えばインスリン、グルカゴン、グレリン、ソマトスタチン及び膵臓ポリペプチド又はこれらの組合せなどの1つ又は複数の膵臓ホルモンを発現する。
幾つかの実施形態では、カプセル化される細胞は多能性(pluripotent)、複能性(multipotent)、寡能性(oligopotent)またさらには単能性(unipotent)とし得る。ある種の実施形態ではカプセル化される細胞は、多能性の分化可能細胞である。本デバイスにカプセル化される細胞は、少なくとも部分的に成熟した細胞までさらに分化することが可能な多能性細胞又は始原細胞であることが好ましい。本明細書で使用する場合に「部分的に成熟した細胞」には、最後まで分化させていない細胞を含み得る。例えば、部分的に成熟した細胞は、同じ臓器や組織からの成熟細胞に関する形態やタンパク質発現などの少なくとも1つの特徴的な表現型を呈することがあるが、これをさらに少なくとも1つの他の細胞型まで分化させることが可能である。例えば正常な成熟した肝細胞は典型的には、とりわけアルブミン、フィブリノーゲン、α−1−アンチトリプシン、プロトロンビン凝固因子、トランスフェリン、及びシトクロムP−450などの解毒酵素といったタンパク質を発現する。したがって本明細書で使用する場合に「部分的に成熟した肝細胞」は、アルブミンや1つ又は複数の別のタンパク質を発現することや、正常な成熟肝細胞の外観又は機能を呈し始めることがある。
また別の実施形態ではカプセル化される細胞は、胎盤組織や絨毛膜組織から採取することや、脂肪、骨髄、神経組織、***組織、肝臓組織、膵臓、上皮組織、呼吸器組織、性腺組織及び筋肉組織(ただし、これらに限らない)を含むより成熟した組織から採取することがある。具体的な実施形態では、カプセル化される細胞は成体幹細胞である。他の実施形態では、カプセル化される細胞は胎盤や絨毛膜由来の幹細胞である。
細胞は、脊椎動物や無脊椎動物、哺乳類や非哺乳類、ヒトやヒト以外など任意のタイプの動物から採取することがあり得る。動物出所の例には、霊長類、げっ歯類、イヌ科動物、ネコ科動物、ウマ科動物、ウシ科動物及びブタ科動物(ただし、これらに限らない)が含まれる。
幾つかの実施形態では多能性細胞は、デバイスにカプセル化する前に先ずインビトロで少なくとも部分的に分化させることがある。典型的には細胞は、細胞分化環境との接触を通じてインビトロで分化させることが可能である。細胞分化用の培地又は環境は、本明細書に記載した多能性細胞を部分的に、最後まで、又は可逆的に分化させるために利用されることがある。例えばこの細胞分化環境の培地は、KODMEM培地(ノックアウトダルベッコ改変イーグル培地)、DMEM、HamのF12培地、FBS(ウシ胎仔血清)、FGF2(繊維芽細胞成長因子2)、KSR又はhLIF(ヒト白血病阻害因子)を含む種々の構成成分を包含することができる。この細胞分化環境はまた、L−グルタミン、NEAA(非必須アミノ酸)、P/S(ペニシリン/ストレプトマイシン)、N2、B27及びβ−メルカプトエタノール(β−ME)などのサプリメントを包含することが可能である。この細胞分化環境に対しては追加的な因子を追加し得ることが企図され、これらの因子には、フィブロネクチン、ラミニン、ヘパリン、ヘパリン硫酸、レチノイン酸、上皮成長因子ファミリー(EGF)のメンバー、FGF2、FGF7、FGF8及び/又はFGF10を含む繊維芽細胞成長因子ファミリー(FGF)のメンバー、血小板由来成長因子ファミリー(PDGF)のメンバー、ノギン(noggin)、フォリスタチン、コーディン(chordin)、グレムリン(gremlin)、cerberus/DANファミリータンパク質、ベントロピン(ventropin)、高用量アクチビン及びamnionless(ただし、これらに限らない)を含む形質転換成長因子(TGF)/骨形成タンパク質(BMP)/成長分化因子(GDF)因子ファミリー拮抗剤、或いはこれらの変異体若しくは機能的断片(ただし、これらに限らない)が含まれる。TGF/BMP/GDF拮抗剤はまた、TGF/BMP/GDF受容体−Fcキメラの形態で追加することも可能である。追加し得る他の因子には、Notch受容体ファミリーを通じたシグナル伝達を活性化又は不活性化することが可能な、デルタ様ファミリーやJaggedファミリーのタンパク質及びNotchプロセスや卵割の阻害剤、又はこれらの変異体若しくは機能的断片(ただし、これらに限らない)を含んだ分子が含まれる。他の成長因子には、インスリン様成長因子ファミリー(IGF)のメンバー、インスリン、wingless関連(WNT)因子ファミリー及びヘッジホッグ因子ファミリー又はその変異体若しくは機能的断片が含まれ得る。追加的な因子は、中内胚葉系幹/始原細胞、内胚葉系幹/始原細胞、中胚葉系幹/始原細胞、又は胚体内胚葉系幹/始原細胞の増殖及び生存、またさらにはこれらの始原細胞の派生種の生存及び分化を促進するために追加されることがある。
好ましい一実施形態では、カプセル化される細胞は膵臓始原細胞である。このような細胞は、例えばSchulzら(2012年5月)PLoS ONE 7(5):e37004に記載されるような方法を用いると共に、カプセル化された機能ベータ細胞をインビボで産生することによる人工多能性幹細胞からのインビトロでの分化によって適宜作成されることがある。
成体の分化済みの細胞に由来する人工多能性幹(iPS)細胞は、その多能性及び自己更新可能性のために細胞治療応用において比類のない適応性をもつ。多能性幹細胞培養の分化において生じる可能性がある細胞型は極めて多様であるため、効率のよい指向性分化の実現に関する成功がヒト多能性幹細胞の治療応用にとって重要である。多能性幹細胞のインビトロ分化を膵臓系譜細胞などの中間的な細胞型に向わせる試みのために様々な成長因子、シグナル伝達因子及び小型分子が使用されることがある。
分化可能細胞から所望の細胞系譜への進行又はその未分化状態での維持は、所望の細胞系譜に特徴的なマーカ遺伝子の発現、またさらには分化可能細胞型に特徴的なマーカ遺伝子の未発現を定量化することによって監視することが可能である。このようなマーカ遺伝子の遺伝子発現を定量化する一方法は、定量的PCR(Q−PCR)の使用を通じたものである。Q−PCRを実行する方法は当技術分野でよく知られている。当技術分野で周知の別の方法もまた、マーカ遺伝子発現の定量化のために使用することが可能である。マーカ遺伝子発現は、関心対象のマーカ遺伝子に特異的な抗体を使用することによって検出することが可能である。
チャンバ内にカプセル化しようとする細胞は必ずしも移植後にインビボで追加の分化をさせる必要はない。例えばまた別の実施形態では細胞は、カプセル化の時点ですでに完全に分化されていることもある。細胞は、多能性ではない細胞株や細胞型を含む任意のソースに由来することがある。例えば、幾つかの実施形態ではカプセル化される細胞は、ポリペプチド(例えば、抗体、成長因子又はペプチドホルモン)やポリヌクレオチド(例えば、DNA又はRNA分子)などの治療用薬剤を産生及び/又は分泌するように改変されることがある。したがってカプセル化される細胞は、外因性のポリペプチドや他の治療用薬剤を発現する組換え細胞株に由来することがある。
[半透層]
内部チャンバは第1と第2の半透層の間に配置される。各半透層は1つ又は複数の副層から成ることがある(例えば、各半透層は層状構造を備えることがある)。幾つかの実施形態では、副層のうちの1層のみが半透性である。
一実施形態では半透層は、細胞の生存及び機能にとって重要な酸素や他の分子は半透層を通って移動できるが、細胞(例えば、カプセル化された細胞及び/又は宿主の免疫系細胞)はこの孔を透過又は横断できないような孔寸法を有する。
デバイスによって1つ又は複数の生物学的に活性な薬剤(例えば、血管新生因子、成長因子又はホルモン)がさらにカプセル化されるような実施形態では、半透層はさらにカプセル化された関心対象の生物学的に活性な物質が、宿主の組織や有機体内でデバイスの外部の標的細胞へのアクセスを提供するように当該層を通過できるようにすることが好ましい。
好ましい一実施形態では半透層は、対象内に存在する1つ又は複数の栄養素が当該層を通過してカプセル化された細胞に必須栄養素を提供することを可能としている。例えばカプセル化された細胞がインスリン産生膵臓ベータ細胞又はその前駆体であるような一実施形態では、半透層はインスリンを放出させるようにグルコース及び酸素によるインスリン産生細胞の刺激を可能にさせる一方、免疫系細胞による移植された細胞の認識及び破壊を防止することが可能である。好ましい一実施形態では半透膜は、移植された細胞がカプセル化から逃れるのを阻止する。
半透層(或いは、その1つ又は複数の副層)は生理学的条件(特に、生理学的pH及び温度)下で機能するような生物的適合性材料からなることが好ましい。半透層に使用し得る適当な材料の例には、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、異方性材料、ポリスルホン(PSF)、ナノファイバマット、ポリイミド、テトラフルオロエチレン/ポリテトラフルオロエチレン(PTFE;テフロン(Teflon)(登録商標)としても知られる)、ePTFE(延伸ポリテトラフルオロエチレン)、ポリアクリロニトリル、ポリエーテルスルホン、アクリル樹脂、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリアミド、並びにヒドロキシルプロピルメチルセルロース(HPMC)膜(ただし、これらに限らない)を含む。適当な材料は例えば、Gore(登録商標)、Phillips Scientific(登録商標)、Zeus(登録商標)、Pall(登録商標)及びDewal(登録商標)により製造されている。
半透層は、デバイス内にカプセル化された細胞及び/又は宿主組織や有機体に関して化学的に不活性又は非毒性であることが好ましい。半透層は、生物学的に活性な薬剤(カプセル化される細胞によって産生されることも、細胞と一緒にカプセル化されることもある)のデバイスにわたる分泌又は放出を可能とすることが好ましく、またマクロ分子拡散の高速運動を促進することが好ましい。また別の実施形態では半透層は、カプセル化された細胞に対する長期安定性を促進することができる。例えば半透層は、デバイスの血管新生を促進し、これによりカプセル化された細胞への栄養素や酸素のアクセスを強化することができる。
幾つかの実施形態では半透層は2層以上の副層を備える(例えば、層状構造をしている)。例えば半透層は、2層、3層又は4層の副層を備えた積層構造とすることがある。特に好ましい実施形態では半透層は、内部チャンバと接触した第1の副層と、内部チャンバの外部に対して第1の副層を覆っている第2の副層と、を備える(すなわち、第1の副層がデバイスの内部に接した位置にあり且つ第2の副層がデバイスの外部に接した位置にある)。
第1の副層は、チャンバ内部の細胞と適合性であると共に、溶質移行は許容しながらも細胞の出入りは防止するような孔寸法を有する膜を含むことが好ましい。膜の孔寸法は、脈管構造の進入を防止するために約2μm(すなわち、2マイクロメートル)未満とすることが適当である。さらに好ましくは、デバイスの内部チャンバへの細胞(マクロファージ、異物巨細胞及び繊維芽細胞を含む)のアクセスを防止するために約0.6μm(すなわち、0.6マイクロメートル)未満の孔寸法とすることが好ましい。例えば異種移植や同種移植の場合における免疫攻撃に対して特に弱いデバイスカプセル化細胞の場合には、使用する孔寸法をより小さくすべきである。同系移植(自己移植)の場合ではその孔寸法を、カプセル化された細胞がチャンバから出るのを防止するだけの十分な大きさとすべきである。「孔寸法」とは材料の最大孔寸法を意味している。孔寸法は、例えばPharmaceutical Technology(1983年5月、36〜42頁)に記載されているような従来のバブルポイント法を用いて決定され得る。
膜層は、ポリプロピレン、ポリカーボネート、PET又はPTFEを備えることが好ましい。例えば一実施形態では、厚さが約25マイクロメートルであり且つ最大孔寸法が約0.4マイクロメートルの半透PTFE膜材料が使用される。膜層に関する代替的な材料には、ポリエチレン、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエステル、ナイロン、ポリスルホン材料、セルロース、ポリビニリデンジフロライド、アクリル、シリコーン及びポリアクリロニトリルが含まれる。
第2の副層は、典型的には血管新生膜の役割をするメッシュ層を備えることが好ましい。「血管新生膜」とは、この副層によってデバイスの周りにおいて宿主組織の脈管構造の成長が促進されることを意味する。第2の副層はまた、第1の副層に対する力学的支持又は力学的保護を提供することがある。
宿主組織−デバイスの境界面の近くでの血管新生は、デバイス内に存在する膜材料の性質に依存する可能性がある。例えばBraukerらのNeovascularization at a membrane−tissue interface is dependent on microarchitecture(Transactions of the Fourth World Biomaterials Congress、1992年4月24〜28日、p.685)、BraukerらのNeovascularization of immunoisolation membranes:The effect of membrane architecture and encapsulated tissue(Transplantation 1:163、1992)を参照されたい。
したがって第2の副層は、平均公称孔寸法が概ね0.01〜約1mm(すなわち、0.01〜1ミリメートル)のメッシュを備えることが好ましい。膜の孔のうちの少なくとも概ね50%が概ね0.01〜約1mmの平均サイズを有することが好ましい。
メッシュ層は典型的には、繊維又はストランド又はポリマー材料から形成されている。これらのストランドは典型的には、ある寸法方向が他の2つの寸法方向よりかなり大きくなった細長い構造である。
メッシュ層又は血管新生膜に適した材料には、ナイロン、ポリエステル及びPTFEが含まれる。一実施形態ではメッシュ層は、ナイロンから製作されると共に概ね0.12mmの孔寸法を有する。適当なさらなる材料が、例えば国際公開第92/07525号パンフレット及び国際公開第96/10966号パンフレットに開示されている。
細胞のカプセル化及び移植に使用するための積層型半透構造が例えば米国特許第6,060,640号及び米国特許第5,344,454号に開示されている。例えば非透過ポリマー接着剤を十字交雑パターンで使用して、GORE−TEX(商標)膜材料(血管新生促進膜の役割をする)がBIOPORE(商標)膜材料(同種移植における免疫隔離膜の役割をする)と積層されることがある。
[支持フレーム]
デバイスは第1及び第2の半透層が取り付けられる支持フレームをさらに備える。このフレームは、半透層に対する支持を提供すると共に、これらを内部チャンバの寸法を規定するように位置決めする。支持フレームは半透層の周囲を、例えば内部チャンバの周囲において層同士の間の空間を閉ざすようにして取り囲む。
支持フレームは典型的には、化学的に不活性であると共に、デバイスに対して安定な力学的特性を提供するように機能し得る。支持フレームはまた、例えば半透層の周囲において細胞が漏れによりデバイスを出入りするのを防止することによって、デバイスの完全性を維持するように機能し得る。支持フレームは内部チャンバへの物質の追加及び/又は内部チャンバからの物質の除去を容易にするための1つ又は複数の装填ポートを備えることがある。典型的には支持フレーム(及び/又は、半透層)は滅菌することが可能である。
支持フレームは、適当な任意の生物的適合性材料から、好ましくは半透層に対する力学的支持を提供でき且つデバイスの完全性を全体として維持できるような耐久性のある材料から製作されることがある。支持フレームは例えば、ポリプロピレン又はポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの適当なポリマー材料から、或いはセラミックやチタン、チタン合金又はステンレス鋼などの金属材料から形成されることがある。
本発明の実施形態では支持フレームは、第1のフレーム要素及び第2のフレーム要素からなる。第1と第2のフレーム要素は例えば、力学的係合やインタロックをし合うこと、及び/又は支持フレームの全体構造を形成するように互いに溶接されることがあり得る。第1と第2のフレーム要素を接合及び/又は封止するためには超音波溶接を用いることが好ましい。第1と第2のフレーム要素は実質的に支持フレームの周囲全体の周りで一体に溶接されることが好ましい。
第1と第2のフレーム要素は一緒になって第1及び第2の半透層を、これら層同士の間を所定の離間距離とするように位置決めする役割をしており、これにより内部チャンバの奥行きが規定される。例えば、第1の半透層は第1のフレーム要素に取り付けられ、且つ第2の半透層は第2のフレーム要素に取り付けられることがある。第1と第2のフレーム要素が相互に接続されると、これらによって内部チャンバの周囲を囲繞することができる。このタイプの構成によれば、別のスペーサ要素が不要になり、デバイスの製造が簡略となり、且つデバイスの外部に対する半透膜のざらついたエッジの露出が防止される。したがって本発明の実施形態では、支持フレーム及びカプセル化デバイスの全体的な外部プロフィールが可能な限り滑らかとなる。これによって生物的適応性が向上し、またこれがインビボ移植に続くカプセル化された細胞の生存可能性を向上させる。
幾つかの実施形態では、第1及び/又は第2の半透層を超音波溶接によって支持フレームに取り付けられることがある。また別の実施形態では、半透層が支持フレームと接する領域に接着剤を用いることがある。この接着剤は、半透層とフレームの間の接合部を封止するために(例えば内部チャンバを出入りする流体の漏れを防止するために)使用されることがある。この接着剤はまた、半透層のフレームに対する溶接が超音波式であるか否かによらず半透層のフレームに対する固定を支援し得る。接着剤は、例えば第1及び/又は第2の半透層の周囲の一部又は全部に沿うように、及び/又は第1及び/又は第2のフレーム要素の内部の表面の一部又は全部に沿うように、内部チャンバの周囲の一部又は全部の周りに使用されることがある。適当な任意の生物的適合性接着剤を使用されることがあり得る。一実施形態では、光重合性接着剤が使用される。
支持フレームは、上に示した検討を考慮に入れて適当な任意の幾何学形状又はサイズとし得る。特定の実施形態では、支持フレームは形状を実質的に円形、楕円形又は実質的に矩形とし得る。支持フレームは実質的に楕円形から矩形までの形状とすることが好ましい。支持フレームは、具体的な用途に応じてサイズが大きく異なることがあるが、例えば長さを概ね5〜100mm、10〜50mm、20〜30mm又は約25mmとし得る。
支持フレームは、そこに取り付けた第1及び第2の半透層と一緒になって、デバイスの内部チャンバの幾何学形状を画定し得る。内部チャンバは、様々な形状又は形態を形成することがあるが、支持フレームの長さ寸法によって規定される長手方向軸に沿った形状が典型的には実質的に楕円形から矩形であり、また例えば断面(すなわち、長手方向軸と直交する横断軸方向)を実質的に矩形とすることがあり得る。
第1と第2の半透層は典型的には、これら層同士の間が比較的狭い離間となった実質的に平行な面内にある。この離間によって内部チャンバの奥行きが規定されると共に、支持フレーム上における第1及び第2の半透層の取付位置の相対的間隔によってこれを決定することができる。特定の実施形態では、第1と第2の半透層の間の離間距離(すなわち、内部チャンバの奥行き)は、例えば、0.05〜10mm、0.2〜5mm、0.3〜1mm又は0.4〜0.8mmとすることがある。
本発明の実施形態によれば第1及び第2の半透層に対する精密な離間距離での位置決めが可能となるので有利である。内部チャンバの奥行きをこの方式で制御することによって、チャンバ内の細胞の厳密な性質に従ったカプセル化された細胞の分化、成長及び維持に関する最適な条件が達成可能となる。例えば半透層の離間距離は内部チャンバ内にカプセル化された細胞への酸素や他の栄養素の利用可能性に対して影響を与える可能性がある(これらの材料を半透層を跨いで拡散させる必要があるため)。したがって速い速度での成長及び/又は代謝をしている細胞型(例えば、より高い酸素要件を有する)では、代謝要件がより低い細胞型と比較して、半透層同士の間の離間距離がより短いデバイス内にカプセル化することを要することがある。本発明の実施形態によれば、異なる細胞型について離間距離を多様とし且つテストすること、並びにカプセル化される細胞の最適な生存可能性に適したチャンバの奥行きを選択することが可能となる。
幾つかの実施形態では支持フレームは、インビボでの移植後にカプセル化デバイスを適所に保持するための固定手段(anchoring means)をさらに備えることがある。この固定手段は例えば、軟部組織内へのデバイスの位置決めに適した1つ又は複数のフック、クランプ又は他の固定要素を備えることがある。別法としてこの固定手段は、支持フレーム内にインビボでデバイスを確保するために縫合糸が通される1つ又は複数の穴又はキャビティを備えることがある。
[デバイス内への細胞のカプセル化]
所望の細胞(例えば、多能性又は部分的に分化させた細胞、組換え産物を発現するように改変された細胞及び/又は上で検討したような治療用薬剤を発現する細胞)が得られた後、この細胞をインビボでの移植のためにデバイスの内部チャンバに導入することができる。移植は典型的には、ある特定の系譜に向けて細胞の(さらなる)分化を誘導する。
デバイス内にカプセル化するために細胞は、様々なタイプの懸濁液や他の流体製剤の形に調製されることがある。一実施形態では細胞は、成長又は分化培地などの適当な流体培地内において懸濁させることがあり得る。この流体培地は、生きている細胞の成長又は維持のための生理学的に受容可能な水溶液を備えることがある。例えばこの流体培地は、インビトロ及び/又はインビボにおいて細胞が必要とするまた使用するグルコース、塩、ミネラル、緩衝剤、アミノ酸、ホルモン及び成長因子を備えることがある。適当な流体培地については例えば、米国特許第7,432,104号に記載されている。
一実施形態では細胞は、生物的適合性ポリエチレングリコール(PEG)を用いてカプセル化される。PEGベースのカプセル化については、例えば米国特許第7,427,415号、米国特許第6,911,227号及び米国特許第5,529,914号にさらに詳細に記載されている。細胞はまた、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸塩、アガロース、ゼラチン、コラーゲン及びキトサンなどの適当な任意の生物的適合性マトリックス又はハイドロゲルを用いてカプセル化されることがある。
細胞は様々な細胞密度でデバイスにカプセル化されることがある。例えばカプセル化デバイスは、約1×105又は1×106細胞/ml〜約1×1010細胞/ml以上にわたる細胞密度を備えることがある。細胞は追加の物質と一緒に、デバイス内に組み込まれ得ると共に内部チャンバへのアクセスを提供し得るような例えば装填ポートを介してデバイスに導入されることがある。幾つかの実施形態ではこの装填ポートは、カプセル化デバイス内への細胞の導入後に(例えば、プラグ、接着剤又は溶接を用いて)封止されることがある。
幾つかの場合では、細胞の生存可能性及び/又は機能を例えば移植での使用に関するその適合性を確認するためにカプセル化前に分析することが望ましいことがある。このことは、当技術分野で周知の多種多様な方法を用いて実現することが可能である。例えば細胞は、例えばトリパンブルー又は臭化エチジウム又はアクリジンオレンジなどの生体染色液を用いて染色することが可能である。好ましい実施形態では、移植に適した細胞の集団は少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約95%又は少なくとも約99%が生存可能である。他の実施形態では、移植での使用に関する細胞の適合性の尺度として細胞の形態計測的特性を決定することが可能である。
別法として細胞は、移植での使用に適するか否かを判定するために、ある種の細胞表面マーカ(例えば、膵臓始原細胞又はホルモン分泌細胞マーカ)或いは機能(例えば、インスリンや他の膵臓ホルモンの産生)の有無について分析することが可能である(例えば、米国特許第7,534,608号参照)。
[インビボでのデバイスの移植]
デバイス内に細胞をカプセル化し終わると、デバイスは例えば哺乳類(ヒトやヒト以外の哺乳類)などの生きている動物に移植することが可能である。デバイスは、皮膚の下を含む様々な部位に(例えば、皮下的に)移植されることがある。別法としてデバイスは、髄腔内、脳内、骨内、又は腹腔内の部位に移植されることがある。
典型的にはデバイスは、カプセル化された細胞が移植部位に維持されると共に、例えば発現され且つ分泌された治療用薬剤が移植部位から拡散できるようにして移植部位に固定される。一実施形態ではその移植部位は、処置が集中される組織又は臓器とすることや、これらのごく近傍としている。デバイスからの分泌薬剤の送達が箇所依存的でないような(例えば、治療用薬剤が体循環に有効に分泌され得るような)他の態様では、デバイスを遠隔の箇所に移植することが可能である。例えば好ましい実施形態ではカプセル化デバイスは、例えば前腕、脇腹、又は背中、或いは脚部にある皮膚の下に皮下的に移植されており、デバイスは外科的に除去されるまでここに留まる。
カプセル化された細胞は典型的には移植に続いて、有用な効果を提供するようなある特定の細胞型に向けて分化する。デバイス内に見出される分化した細胞は、新薬発見、薬物開発及び薬剤試験、毒性学、治療目的での細胞の産生、またさらには基礎科学研究(ただし、これらに限らない)を含む様々な研究開発分野における用途を有する。このような細胞型は、サイトカイン、成長因子、サイトカイン受容体、細胞外マトリックス、転写因子、分泌ポリペプチドや他の分子、及び成長因子受容体など広範な研究分野において関心対象の分子を発現することができる。
したがって一実施形態では、本明細書に記載したようなカプセル化デバイスを移植されたヒト以外の哺乳類が疾患及び/又は疾患に対する処置の研究のための動物モデルとして使用されることがある。別法としてデバイスから(例えば、移植したデバイスを動物から除去した後に)分化した細胞が抽出されると共に、これが例えばインビトロでの疾患研究などインビトロでのさらなる応用に用いられることがある。いずれの場合でも幾つかの実施形態においてカプセル化される細胞は、宿主動物と異なる種に由来することがあり得る。例えばカプセル化される細胞をヒトのものとすることがあり、且つ宿主動物をヒト以外(例えば、マウスやラットなどのげっ歯類、又は別の種の実験用哺乳類)とすることがある。
また別の実施形態では移植されたデバイスは、宿主動物の疾患の処置や予防に直接使用されることがある。別法としてデバイスを移植された第1の宿主動物から抽出した分化細胞が、第2の対象動物の疾患に対する処置について、例えば抽出した分化細胞の第2の動物への導入に続いて使用されることがある。処置しようとする動物はヒトなどの哺乳類とすることができる。
特定の実施形態ではカプセル化された細胞が代謝異常に対する処置に使用されることがある。例えば、適当なカプセル化細胞を備えたデバイスの糖尿病を患っている対象への移植後のある時間期間にわたって、糖尿病或いはその1つ又は複数の症状を改善又は緩和することが可能である。このような実施形態ではカプセル化された細胞は典型的には、膵臓始原細胞又は集団、PDX1陽性膵臓始原細胞又は集団、内分泌前駆体細胞又は集団、多ホルモン性又は単一ホルモン性の内分泌細胞、インスリン産生膵臓ベータ膵島細胞、或いはこれらの他の任意の前駆体である。
幾つかの実施形態では細胞は、移植時点又は細胞が完全に成熟するか最大の機能レベルに達した時点で(例えば、インビボで機能細胞までさらに展開又は成熟させることが必要な始原細胞の移植の場合)発現する機能の少なくとも50%、75%、95%又は99%或いはそれ以上の機能を示す機能を備えながら、移植後も少なくとも1時間、1日間、1週間、1か月間、3か月間、6か月間又は1年間或いはこれ以上にわたってカプセル化デバイス内でインビボで生存する。機能は典型的には、関心対象の生物学的薬剤の産生又は活性(例えば、膵臓ベータ膵島細胞やその前駆体の場合では、インスリンの産生やグルコースクリアランスに対する効果)に基づいて測定され得る。
ここで本発明について以下の具体的な実施形態を参照しながら単に一例としてさらに説明することにする。
[実施例1]
図1は、本発明に従ったカプセル化デバイス1の一実施形態を示している。デバイス1は、支持フレーム3によって取り囲まれた第1及び第2の半透層を備える。図1では、第1の(最上部の)半透層2だけしか見えていない。カプセル化デバイスは、楕円形から矩形の全般形状を有すると共に、物質(細胞を含む)を導入可能とするために通す装填ポート4と、組織内でデバイスをインビボで位置決めするための固定手段18と、をさらに備える。
図2は、同じカプセル化デバイス1の側面図を示している。装填ポート4及び固定手段18は支持フレーム3内に組み込まれている。第1及び第2の半透層の周囲は、支持フレーム3によって完全に囲繞されており、図2では見えていない。
図3は、図2に示した位置Fでカプセル化デバイス1を切った断面図を示している。デバイス1は、支持フレーム3を形成するために相互接続させる第1のフレーム要素5及び第2のフレーム要素6を備える。第1の半透層2及び第2の半透層7は支持フレーム3に取り付けられていた。第1の半透層2及び第2の半透層7と支持フレーム3とは一体となってデバイス内の内部チャンバ8を囲繞する。
図4は、図3に示した断面図の領域Gの拡大図である。第1のフレーム要素5及び第2のフレーム要素6は支持フレームを形成するように係合させている。第1及び第2の半透層は取付領域9において第1のフレーム要素5及び第2のフレーム要素6に取り付けられている(第1のフレーム要素5上の取付領域9にだけラベル付けしている)。第1のフレーム要素5及び第2のフレーム要素6のスペーサ領域10(第1のフレーム要素5上のスペーサ領域10にだけラベル付けしている)は、取付領域9同士の間に位置すると共に、一緒になって第1の半透層2と第2の半透層7の間の離間距離12を決定している。離間距離12によって内部チャンバ8の奥行きが規定される。第1の半透層2及び第2の半透層7と第1のフレーム要素5及び第2のフレーム要素6の各々の間の接合は特にスペーサ領域10のところで接着剤13によって封止している(第1のフレーム要素5と第1の半透層2に付けられた接着剤にだけラベル付けしている)。
図5は、第2の半透層7が取り付けられて接着剤13によって封止される第2のフレーム要素6を備えたカプセル化デバイス1の下側部分の斜視図を示している。
図6は、デバイスの同じ部分の側面図を示している。
図7は、図6に示した位置Dにおいてカプセル化デバイス1の下側部分を切って見た断面図を示している。
図8は、図7に示した断面図の領域Eの拡大図を示している。図8にはまた第2の半透層7を、内部チャンバ8と境界を接する膜層14と、デバイスの外部側面上で膜層14を覆っているメッシュ層15と、からなるように示している。第2の半透層7(また具体的には、そのメッシュ層15)は、第2のフレーム要素6によって提供されるレッジ17上に載っている。レッジ17は、第2の半透層7を支持すると共に、第1のフレーム要素5及び第1の半透層2の対応する構成と一緒になってこれらの層同士の間の離間距離と内部チャンバの奥行きとを規定している。
図9は、カプセル化デバイス1の組上げの概略図を示している。ステップ1では、膜材料14(例えば、PTFE)及びメッシュ材料15(例えば、ポリエステル)からなる積層シートが第2の半透層7の形状になるように切断される。ステップ2では、第2の半透層7が(例えば、ポリプロピレンから製作された)第2のフレーム要素6上に超音波式に溶接される。同様の方式で、第1の半透層2が(例えば、ポリプロピレンから製作された)第1のフレーム要素5上に超音波式に溶接される。ステップ3では、次いで第1のフレーム要素5と第2のフレーム要素6とがカプセル化デバイス1(一体の装填ポート4、一体の固定手段18及び第1の半透層2を備えたフレーム3を伴って示す)を形成するように超音波式に一体に溶接される。
膜14及びメッシュ15材料を適当な形状に切断すること、半透層2及び7を第1のフレーム要素5及び第2のフレーム要素6に溶接すること、並びに第1のフレーム要素5と第2のフレーム要素6を一体に溶接すること、を行うためには様々なツールや技法が使用され得る。例えば超音波溶接では、溶接しようとする材料がソノトロードとネストの間に位置決めされるようなソノトロード/ネスト配置を用いることがある。幾つかの実施形態ではソノトロード及び/又はネストは溶接のためにそれぞれの要素を精密に位置決めするように具体的に適合させることがある。
図10は、内部チャンバに細胞を導入するためのアクセスを提供する装填ポートを示している同様のデバイスの平面図である。幾つかの実施形態ではその装填ポートは、カプセル化デバイスへの細胞の導入後に切断され次いで(例えば、プラグ、接着剤又は溶接を用いて)封止されることがある。
[実施例2]
ヒトのベータ細胞の更新可能なソースがあれば、基礎研究と細胞治療の両方に大きな恩恵を与えることになろう。膵臓始原細胞をヒト多能性幹細胞からインビトロで分化させることが可能であり、続く膵臓始原細胞のインビボでの移植の結果として機能ベータ細胞が産生される。Schulzら(2012年5月)PLoS ONE7(5):e37004は、膵臓始原細胞を多能性幹細胞株パネルから分化させ、カプセル化した機能ベータ細胞をインビボで産生するための手順について開示している。これら新たに確立された方法を使用して、部分的に分化させた細胞を実施例1に記載したようなデバイス内にカプセル化し、iPSC由来の膵臓始原細胞のインビボでの分化を完了させた(Cellular Dynamics Inc.により提供される未分化のiPSC株)。
始原細胞は最適な細胞生存、血管新生及び機能膵島細胞分化のための最良のセットアップを評価するために幾つかの異なる膜タイプによって製造したデバイス内に装填した。細胞装填済みのデバイスを免疫不全のマウスに皮下的に移植した。カプセル化された移植片を受け取った動物は、グルコース刺激に応答してヒトCペプチドを産生する(図11)と共に、迅速なグルコース補正を示した(図12)。
要約すると、これらの結果によって、膵臓始原細胞をヒトiPSCからインビトロで分化させると共に本明細書に記載したようなデバイス内にカプセル化することが可能であることが立証された。カプセル化した細胞は、インビボでさらに分化させると共にグルコース応答性の機能膵島細胞にまで成熟させた。これらの結果によって、ゲノム対機能の関係をさらに探求するためのIPSC由来のヒト化膵臓モデルの開発が可能となる。
本明細書の上で言及した出版物はすべて参照によって本明細書に組み込まれるものとする。本発明の趣旨及び精神を逸脱しない本発明に記載の実施形態に対する様々な変更形態や変形形態は、当業者には明らかであろう。本発明を具体的な好ましい実施形態に関連して説明してきたが、本特許請求の範囲にある発明をこのような具体的な実施形態に過度に限定すべきでないことを理解すべきである。実際に、細胞生物学、生体医療工学及びバイオテクノロジー又は関連分野の当業者にとって明らかであるような本発明を実施するための記載した形態に対する様々な変更形態は添付の特許請求の範囲の趣旨域内にあるように意図したものである。
[実施例3]
治療用タンパク質をインビボで長期に送達するために遺伝的に改変された細胞株の移植を使用することが可能である。C2C12マウス筋芽細胞の細胞株は、治療用抗体を分泌するように遺伝的に改変した。細胞は低密度でデバイス内に装填した。細胞装填したデバイスを同種条件(allogeneic condition)下で成体マウスに皮下的に移植した。特異性のELISAを用いて血液サンプルから抗体血漿レベルを定量化した。移植後7週で、マウス血漿内に抗体を検出した。15週後に、概ね40μg/ml(図13参照)の抗体レベルが確立された。移植片は19週後にインビボで取り出し、インビトロで分泌レベルを測定した。デバイスによる分泌は平均して119μg/24時間(±66μg/24時間)であった。組織学的分析によって、C2C12細胞がデバイスチャンバ内部で非常に高い密度で生存していることが明らかとなった。
要約すると、これらの結果によって本発明のデバイスは大量の改変細胞の長期にわたる累進的な増殖及び生存を持続させることが可能であることが立証された。このため、治療用の抗体血漿レベルを実現することが可能である。これらの結果によって、免疫分離された遺伝的に改変された同種細胞株を治療用組換えタンパク質を送達するための代替的な方法として使用することの有効確認がなされた。