以下、添付図面を参照して本発明に係る誘導加熱調理器の実施の形態を説明する。各実施の形態の説明において、理解を容易にするために方向を表す用語(たとえば「上下左右」および「XYZ方向」等)を適宜用いるが、これは説明のためのものであって、これらの用語は本発明を限定するものでない。また以下の添付図面において、同様の構成部品については同様の符号を用いて参照する。
実施の形態1.
図1〜図17を参照しながら、本発明に係る誘導加熱調理器の実施の形態1について以下詳細に説明する。図1は、本発明に係る誘導加熱調理器1の全体を概略的に図示する斜視図である。図1に示す誘導加熱調理器1は、概略、主に板金などで構成された筐体2と、その上側表面のほぼ全体を覆うガラスなどで形成されたトッププレート3と、左右に配置された一対の左側IH加熱部4aおよび右側IH加熱部4bと、トッププレート3の中央奥に配置された中央IH加熱部10(本明細書では、これらを総称して「IH加熱部4a,4b,10」ともいう。)と、グリル加熱部20とを有する。
また誘導加熱調理器1は、各IH加熱部4a,4b,10およびグリル加熱部20を操作するためにユーザにより用いられる操作部(操作パネル)30と、各IH加熱部4a,4b,10の「火力(加熱電力)」を調整する火力調節ダイヤル31a,31b,32と、各IH加熱部4a,4b,10およびグリル加熱部20の制御状態(火力および調理時間のユーザ設定値等)や操作ガイドなどを表示するためのLCD表示部(液晶表示装置)34と、各IH加熱部4a,4b,10およびグリル加熱部20に対してユーザにより設定された火力を表示するLED表示部(LEDレベルメータ)36とを有する。なお図1は、操作部ならびに表示部の数や配置、および形態について一例を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
また誘導加熱調理器1は、トッププレート3上の後面側に設けられた排気口5aおよび吸気口5bを有する。さらに、後述のように、誘導加熱調理器1には各IH加熱部4a,4b,10およびグリル加熱部20に高周波電流を供給する電源回路部50が加熱部ごとに設けられ、内蔵されている。図1は、排気口5aおよび吸気口5bの個数、大きさ、および配置位置等について一例を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
左側IH加熱部4a、右側IH加熱部4b、および中央IH加熱部10は、トッププレート3の下方において、たとえば絶縁被膜された任意の金属からなる導電線(リッツ線等)の巻線を渦巻状に(XY平面に平行に)捲回することにより構成された誘導加熱コイル12を有する。各IH加熱部4a,4b,10の誘導加熱コイル12の径および最大火力等は異なるが、基本的な構造は同じであってもよい。図1は、左側IH加熱部4a、右側IH加熱部4b、および中央IH加熱部10の大きさ、および配置等について一例を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
一般的に、左側IH加熱部4aおよび右側IH加熱部4bは、炒めもの料理および茹でもの料理などの大火力を必要とする調理や、温度調節を必要とする揚げもの料理などの調理に用いられる一方、中央IH加熱部10は、煮込みもの料理およびあたため料理等の比較的に小さい火力を必要とする調理に用いられ、左側IH加熱部4aおよび右側IH加熱部4bに比して使用頻度は少ない。また、グリル加熱部20は、焼き魚などの焼きもの料理に用いられることが多く、同様に左側IH加熱部4aおよび右側IH加熱部4bに比べると、使用頻度はあまり多くない。よって煮込みもの料理および焼きもの料理を同時に行う可能性はさらに小さく、中央IH加熱部10およびグリル加熱部20のそれぞれに電源を供給する個別の電源回路部(インバータ回路部70、図6)を設けることは、部品点数の増加を伴い、コスト高となる。そこで本発明は、以下説明するように、中央IH加熱部10およびグリル加熱部20の電源回路部50の一部を共用することにより、より安価な誘導加熱調理器1を提供しようとするものである。
ただし本発明は、中央IH加熱部10とグリル加熱部20が単一の電源回路部50の一部を共用する場合に限らず、左側IH加熱部4aまたは右側IH加熱部4bとグリル加熱部20が単一の電源回路部50の一部を共用する場合にも同様に適用できることは云うまでもない。
ここで本発明に係る実施の形態1の誘導加熱調理器1を構成する中央IH加熱部10、グリル加熱部20、および電源回路部50について、以下詳細に説明する。
図2は図1のXY平面に平行な平面で切断したときの誘導加熱コイル12の断面図であり、図3は図1のYZ平面に平行な平面で切断したときの中央IH加熱部10の断面図である。図2に示す誘導加熱コイル12は、所望の加熱電力を得ることができるものであれば任意の形状および被覆導線の巻回数を採用することができ、たとえば直径が0.3mmの被覆導線を76本撚り線にしたリッツ線を同心円状に約18回巻回して構成されたシングルコイルであってもよいし、半径方向に分割された内側コイル12aおよび外側コイル12bを有するものであってもよい。また図3に示す中央IH加熱部10は、誘導加熱コイル12の他、これを支持するコイルベース13と、半径方向に放射状に延びる棒状の複数の磁性体(フェライトコア)14とを有する。さらに、誘導加熱コイル12を支持するコイルベース13の周囲には、トッププレート3を介して誘導加熱コイル12上に載置された鍋Kの加熱に鎖交しない(寄与しない)不要な高周波磁束が、誘導加熱調理器1の外部に漏れるのを防ぐため、アルミニウム等からなる金属性のリング(キャンセルリング)100が装着されることが好ましい。誘導加熱コイル12は、上述のように電源回路部50(インバータ回路部70)に接続され、電源回路部50から高周波電流が供給されるように構成されている。
なお、誘導加熱コイル12を構成するリッツ線および巻回数等は、後述する誘導加熱コイル12と共振コンデンサ75aと被加熱体である鍋Kとからなる共振回路76aの共振周波数Frおよび負荷抵抗Rに影響を与えるものである。
図4は、図1のYZ平面に平行な平面で切断したときのグリル加熱部20の断面図である。グリル加熱部20は、筐体2に内蔵された箱状の加熱庫21と、加熱庫21の内部に配置された上側ヒータ22aおよび下側ヒータ22bと、上側ヒータ22aおよび下側ヒータ22bに誘導電流を流すコイルユニット15とを有する。
加熱庫21は、上壁23a、下壁23b、開閉自在な前面扉23c、後壁23d、および一対の側壁(図示せず)を有し、直方体の箱型容器として構成されている。加熱庫21は、加熱調理時にその内部が高温になるため、上壁23a、下壁23b、および側壁は、たとえば鉄板(亜鉛めっき鋼板、炭素鋼板などの鋼板を含む)や、磁性または非磁性のステンレス鋼板などの金属板を2枚重ねて形成し、その間に空気層を挟んだ断熱壁として構成することが好ましい。上壁23a、下壁23b、および側壁の断熱性をさらに向上させるため、空気層を設ける代わりに、2枚の金属板の間に断熱材を配設してもよいし、単一層の鉄板の一部または全部に断熱材を設けてもよい。ただし前面扉23cは、ユーザが調理中の食材の様子を視認できるように透明性を有するように、耐熱ガラスなどの透光性部材を用いて断熱性を改善することが好ましい。また後壁23dは、断熱性材料からなる断熱基板17を構成するものであって、凹部24を有する。
前面扉23cは、加熱庫21に対して前後に(図4では左右方向に)移動可能なスライドレール26に固定されており、また、受け皿27と焼き網28もスライドレール26に固定され、前面扉23cとともにスライド移動するように取り付けられている。したがって、前面扉23cを開くとスライドレール26の移動にあわせて受け皿27と焼き網28が加熱庫21の前方に移動し、焼き網28の上に載せる食材の出し入れが可能になる。
図5は、後壁23dを省略したときのコイルユニット15の斜視図である。このコイルユニット15は、加熱庫21の後壁23dに平行な平面上に螺旋状に巻回されてなる平面コイル(電流供給コイル)16と、平面コイル16の少なくとも一部を包囲し、断熱基板17の凹部24を覆う開口部を有するコ字状またはU字状断面の磁性体18a,18bとを有する。コイルユニット15の平面コイル16は、リッツ線などの導体を複数回巻いて形成したものであり、たとえば直径0.2mmの被覆導線を90本撚りにした、いわゆるリッツ線を16回平面状に巻回して、その外形が略長方形または略長楕円形となるように形成したものであってもよい。なお、平面コイル16を構成するリッツ線および巻回数等は、後述する平面コイル16、共振コンデンサ75b、およびヒータ22からなる共振回路76bの共振周波数Frおよび負荷抵抗Rに影響を与えるものである。
上側ヒータ22aおよび下側ヒータ22bは、電気的に閉じた(ループ状または無端状の)導電体からなる(中空の)金属パイプまたは(中実の)金属棒であって、図4に示すように、その一部を断熱基板17の凹部24内に着脱自在に収容されるように構成されている。
平面コイル16は、磁性体18a,18bと断熱基板17との間に挟持される。この平面コイル16の一部は、同一方向に配向されているので、電源回路部50(インバータ回路部70)から高周波電流が供給されたとき、断熱基板17の凹部24に収容されたヒータ22a,22bの一部を含む磁性体18a,18bの周囲において、同一方向の高周波磁束が形成される。そしてヒータ22a,22bの周りで生じた高周波磁束がヒータ22a,22bと鎖交することにより、電気的に閉じた形状を有する導電材料からなるヒータ22a,22bに誘導電流が生じるため、ジュール熱により発熱したヒータ22a,22bが加熱庫21の内部(および食材)を加熱することができる。したがってコイルユニット15の平面コイル16は、これに高周波電流が供給されたとき、ヒータ22a,22bと鎖交する高周波磁束を形成して、ヒータ22a,22bに実質的な大電流(高周波電流)を供給するものという意味で、ヒータ22a,22bに対する「電流供給コイル」とも呼ぶことができる。このように、ヒータ22a,22bは、加熱庫21内の食材を効率的に調理することができ、調理後においては加熱庫21から容易に取り外して流水等で清掃することができる。
またコイルユニット15は、平面コイル16で発生した高周波磁束が加熱庫21または他の金属製の構成部品に漏れることにより発生する電力損失を低減するために、磁性体18a,18bを覆うアルミカバー(キャンセルカバー)19aを有する(図4)。またアルミカバー19aは、平面コイル16および磁性体18a,18bに対向する空冷ファン19bが設けられ(図4)、平面コイル16および磁性体18a,18bを効率的に空冷する冷却風を制御する風洞としても機能する。
次に、本発明に係る実施の形態1の電源回路部50について詳細に説明する。本発明に係る実施の形態1の電源回路部50は、上述のようにIH加熱部4a,4b,10のそれぞれの誘導加熱コイル12に高周波電流を独立して供給するとともに、コイルユニット15の電流供給コイル16にも高周波電流を供給するものであって、とりわけ中央IH加熱部10およびグリル加熱部20に高周波電流を供給するインバータ回路部70を共用するものである。
なお、左側IH加熱部4aおよび右側IH加熱部4bに高周波電流を供給する電源回路部については、本発明の説明が複雑になるのを避けるために省略した。
図6は、本発明に係る実施の形態1の電源回路部50の概略的な回路構成を示す回路ブロック図であり、図7は電源回路部50の詳細な回路ブロック図である。実施の形態1の電源回路部50は、概略、商用電源ACを直流電流に変換するコンバータ(例えばダイオードブリッジ)51と、コンバータ51の出力端に接続されたフィルタ回路52(平滑コンデンサ52bおよびチョークコイル52aを含む)と、インバータ回路部70(IGBT素子(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ素子)等の一対のスイッチング素子71a,71b、これに並列接続されたFWD素子72a,72b、およびスナバコンデンサ73a,73bを含む)とを有し、ハーフブリッジ回路を構成する。電源回路部50は、過電流等による故障から保護するための保護部品77(たとえばヒューズ)を有する。
ハーフブリッジ回路の出力端74には、中央IH加熱部10のための第1の共振コンデンサ75aと誘導加熱コイル12とが直列に接続され、同様にコイルユニット15のための第2の共振コンデンサ75bと電流供給コイル16とが直列に接続されており、誘導加熱コイル12と電流供給コイル16とは並列に接続されている。図6において、第1および第2の共振コンデンサ75a,75bは、CcおよびCgで表され、誘導加熱コイル12はインダクタンスLCおよび負荷抵抗RCで表され、電流供給コイル16はインダクタンスLgおよび負荷抵抗Rgで表されている。すなわち図7において、第1の共振コンデンサ75a(Cc)および誘導加熱コイル12(LC,RC)が第1の共振回路76aを構成し、第2の共振コンデンサ75b(Cg)および電流供給コイル16(Lg,Rg)が第2の共振回路76bを構成するものである。なお、インバータ回路部70は、ハーフブリッジ回路に限定されるものではなく、フルブリッジ回路を用いて構成してもよく、本発明はインバータ回路の回路構成により限定されるものではない。
誘導加熱コイル12は、半径方向に形成された高周波磁束が、トッププレート3上に載置された鍋等の被加熱体Kと鎖交して、鍋Kの底面の金属部に渦電流を形成し、渦電流によるジュール熱により鍋Kを直接的に加熱するものである。一方、電流供給コイル16は、上記説明したように、磁性体18a,18bを含むループ状ヒータ22a,22bの周囲に形成された高周波磁束を打ち消そうとする起電力がヒータ22a,22b内に生じ、誘導電流によるジュール熱によりヒータ22a,22bを加熱し、加熱庫21の内部(および食材)を加熱するものである。すなわち誘導加熱コイル12および電流供給コイル16は、コイルである点については共通するが、被加熱体(鍋Kまたはヒータ22a,22b)の加熱原理および加熱態様が互いに異なるものである。
図7を参照すると、本発明に係る実施の形態1の電源回路部50は、たとえば商用電源の両端に流れる電源電流および電源電圧を検出する第1の負荷検出手段78a、および/または互いに並列に接続された第1および第2の共振回路76a,76bに流れる駆動電流およびこれらの両端に付加される駆動電圧を検出する第2の負荷検出手段78bを有する。また実施の形態1の電源回路部50は、第1の負荷検出手段78aで得られた電源電流および電源電圧、または第2の負荷検出手段78bで得られた駆動電流および駆動電圧から、誘導加熱コイル12および電流供給コイル16を含む共振回路の共振周波数Fr(またはインダクタンスL)および負荷抵抗Rを検知する負荷検知部80を有する。負荷検知部80は、たとえば国際特許出願公開WO 2010/137498号パンフレットに記載された1次成分抽出手段を有するものであってもよく、負荷抵抗R(またはインダクタンスL)および共振周波数Frを検知するものであれば、当業者に広く知られた任意の負荷検知部であってもよい。負荷検知部80は、前掲国際特許出願公開パンフレットにも記載されているので、詳細説明しないが、共振周波数Fr(またはインダクタンスL)と負荷抵抗Rが検知されれば、鍋Kの載置面積(鍋Kの有無を含む)またはヒータ22a,22bの本数(ヒータの有無を含む)、および鍋Kまたはヒータ22a,22b材質を知ることができる。以下、本願明細書等においては、負荷検知部80を用いて、共振周波数Fr(またはインダクタンスL)および負荷抵抗Rを検知することを、単に「負荷検知」という。
さらに実施の形態1の誘導加熱調理器1は、上述の操作部(操作パネル)30、表示部34,36(LCD表示部34およびLED表示部36)、負荷検知部80、およびインバータ回路部70に接続された制御回路部90を有する。制御回路部90は、ユーザが操作部30を用いて、中央IH加熱部10またはグリル加熱部20のいずれを選択したかを判断し、中央IH加熱部10またはグリル加熱部20で出力すべき加熱電力P、鍋Kの載置面積(鍋Kの有無を含む)またはヒータ22a,22bの本数(ヒータの有無を含む)、および鍋Kまたはヒータ22a,22bの材質に応じて、インバータ回路部70のスイッチング素子71a,71bに供給する制御信号(ゲート信号)の駆動周波数FDおよびオン期間(スイッチング素子71a,71bに制御信号Sa,Sbが印加されて駆動している期間)/オフ期間(スイッチング素子71a,71bに制御信号Sa,Sbが印加されて駆動していない期間)の比を制御することができる。
図8は、共振周波数Frを有する被加熱体にさまざまな駆動周波数を有する高周波電流を供給したときの高周波電流Iの大ききをプロットしたグラフである。図8から明らかなように、高周波電流Iは、駆動周波数FDの関数であって、共振周波数Frをピークとして増減する。すなわち高周波電流Iは、共振周波数Frに近づくほど、指数関数的に増大し、インバータ回路部70のスイッチング素子71a,71bに流れる駆動電流Iも、駆動周波数FDが共振周波数Frに近づくほど増大する。ただし駆動電流Iが、スイッチング素子71a,71bの最大許容駆動電流IMAXを超えると、スイッチング素子71a,71bが破壊されるおそれがあるので、駆動周波数FDは共振周波数Frより高い周波数(FD>Fr)を選択することが望ましい。
図9は、インバータ回路部70のスイッチング素子71a,71bを駆動周波数FDで制御する制御信号Sa,Sbのタイミングチャートである。このとき、高周波電流が高圧側スイッチング素子71aから、誘導加熱コイル12および電流供給コイル16を経由することなく、低圧側のスイッチング素子71bに直接流れることを防止するために、高圧側スイッチング素子71aにオン/オフ制御信号Sa,Sbが供給されるタイミングと、低圧側のスイッチング素子71bにオフ/オン制御信号Sa,Sbが供給されるタイミングとの間にはデッドタイムtd(駆動休止期間)を設けるように制御される。
図10は、駆動周波数FDと、無負荷状態にある中央IH加熱部10およびグリル加熱部20の加熱電力(高周波電流Iの2乗に比例する電力値P)との関係を示すグラフである。すなわち中央IH加熱部10の誘導加熱コイル12を含む第1の共振回路76aには、無負荷状態にあるときの共振周波数Fr0cより少なくとも第1のオフセット周波数ΔFrcだけ大きく、かつ約50kHz〜約80kHzの範囲で変動する駆動周波数FD1を有する高周波電流が供給される。同様に、グリル加熱部20の電流供給コイル16を含む第2の共振回路76bには、無負荷状態にあるときの共振周波数Fr0gより少なくとも第2のオフセット周波数ΔFrgだけ大きく、かつ約20kHz〜約40kHzの範囲で変動する駆動周波数FD2を有する高周波電流が供給される。ここで、中央IH加熱部10およびグリル加熱部20に、それぞれの共振周波数Fr0c,Fr0gより少なくとも第1および2のオフセット周波数ΔFrc,ΔFrgだけ大きい駆動周波数FDを有する高周波電流を供給するのは、駆動周波数FDが共振周波数Frと一致した場合に、スイッチング素子71a,71bに過剰な電流が流れ、スイッチング素子71a,71bが破壊されるリスクを回避するためである。なお、第1および第2のオフセット周波数ΔFrc,ΔFrgは、たとえば約1kHz〜約4kHzであってもよい。また無負荷状態における共振周波数Fr0c,Fr0gの差は、可聴領域の20kHz以上に設定することが好ましい。
図11は、駆動周波数FDと、負荷が加わった状態(鍋Kが載置された場合およびヒータ22a,22bが挿入された)ときの中央IH加熱部10およびグリル加熱部20の加熱電力P1,P2との関係を示すグラフである。中央IH加熱部10のみを駆動する場合、負荷検知部80が負荷検知により共振周波数Fr0c’を検知したとき、中央IH加熱部10には、共振周波数Fr0c’より少なくとも第1のオフセット周波数ΔFrcだけ大きく、かつ約50kHz〜約80kHzの範囲で変動する駆動周波数FD1を有する高周波電流が供給される(右側の実線グラフ)。同様に、グリル加熱部20のみを駆動する場合、負荷検知部80が負荷検知により共振周波数Fr0g’を検知したとき、グリル加熱部20には、共振周波数Fr0g’より少なくとも第2のオフセット周波数ΔFrgだけ大きく、かつ約20kHz〜約40kHzの範囲で変動する駆動周波数FD2を有する高周波電流が供給される(左側の実線グラフ)。なお、図10の無負荷状態のときの中央IH加熱部10およびグリル加熱部20加熱電力P1,P2と駆動周波数FDとの関係を破線で示している。
図12は、より具体的に、中央IH加熱部10のみを駆動する場合であって、鍋Kが強磁性体、磁性体、および非磁性体の材料で構成された場合の駆動周波数FD1と加熱電力P1との関係(右側の実線グラフ)、およびグリル加熱部20のみを駆動する場合であって、下側ヒータ22bのみ、上側ヒータ22aのみ、および両方のヒータ22a,22bが装着された場合の駆動周波数FD2と加熱電力P2との関係を示すグラフである。たとえば中央IH加熱部10のみを用いて磁性材料からなる鍋Kを加熱する場合、負荷検知部80が負荷検知により共振周波数Fr0c’を検知し(右側グラフの中央実線)、中央IH加熱部10には、共振周波数Fr0c’より少なくとも第1のオフセット周波数ΔFrcだけ大きく、かつ約50kHz〜約80kHzの範囲で変動する駆動周波数FDを有する高周波電流が供給される。同様に、たとえば、グリル加熱部20のみを用いて上側ヒータ22aだけを加熱する場合、負荷検知部80が負荷検知により共振周波数Fr0g’を検知し、グリル加熱部20には、共振周波数Fr0g’より少なくとも第2のオフセット周波数ΔFrgだけ大きく、かつ約20kHz〜約40kHzの範囲で変動する駆動周波数FD2を有する高周波電流が供給される(左側グラフの中央実線)。
なお、上側ヒータ22aと下側ヒータ22bの各共振周波数Fr0g’の関係は、図12に示す関係とは逆であってもまた同じであってもよい。
図13は、実施の形態1の誘導加熱調理器1において、高周波電流Iの駆動周波数FDと、中央IH加熱部10およびグリル加熱部20の加熱電力P1,P2との関係の一例をプロットしたグラフである。図13から明らかなように、中央IH加熱部10の加熱電力P1は、駆動周波数FDが約50kHz〜約80kHzの範囲において、駆動周波数FDが増大するにつれて、やや緩慢に単調減少する一方、グリル加熱部20の加熱電力P2は、駆動周波数FDが約20kHz〜約30kHzの範囲において、駆動周波数FDが増大するにつれて、急激に減少する。実際に、中央IH加熱部10は、駆動周波数FDが約30kHz以下であるとき、加熱電力P1をほとんど得られず、逆に、グリル加熱部20は、駆動周波数FDが約50kHz以上であるとき、加熱電力P2をまったく生じない。
以上のように、本発明に係る中央IH加熱部10の誘導加熱コイル12およびグリル加熱部20の電流供給コイル16は、インバータ回路部70の出力端に並列に接続されるものであるが、その駆動周波数FD1,FD2の帯域(約50kHz〜約80kHzの範囲および約20kHz〜約40kHzの範囲)が重複せず、完全に分離されるように構成されているので、単一のインバータの回路70を用いて、中央IH加熱部10またはグリル加熱部20のいずれか一方を選択的に駆動することができる。
次に、本発明に係る実施の形態1の制御方法について説明する。図14および図15は、図1に示す操作部(操作パネル)30および表示部(LCD表示部34,LED表示部36)の拡大平面図である。図16は、中央IH加熱部10およびグリル加熱部20の両方が使用されていない状態において、ユーザが中央IH調理を選択した場合の誘導加熱調理器1の制御方法を示すフローチャートである。
ステップST01において、ユーザがトッププレート3上の鍋Kを誘導加熱して鍋K内の食材を調理したい場合(以下、本明細書においては「誘導加熱モード」という。)、図14の操作部30の中央IHスイッチ(切/入)37aを押下して中央IH調理を選択すると、ステップST02において、液晶表示部34は「中央IHメニュー」で「中央IHか使用できます」と表示して、中央IH調理が可能であることを表示する。ステップST03において、ユーザが図14の矢印スイッチ37b,37cを用いて、中央IH加熱部10の加熱電力P1(たとえば「火力2」)等を選択する。このとき制御回路部90は、駆動周波数FDが共振周波数Frと一致して、スイッチング素子71a,71bに過剰な電流が流れることを回避するため、約50kHz〜約80kHzの範囲の駆動周波数FD1のうち、たとえば最大駆動周波数80kHzを有する制御信号Sa,Sbをインバータ回路部70に供給し、ステップST04において、負荷検知部80は、共振周波数Fr0cおよび負荷抵抗Rを検知する(負荷検知)。
ステップST05において、制御回路部90は、共振周波数Fr0cに少なくとも第1のオフセット周波数ΔFrcだけ大きい駆動周波数FD(FD≧Fr0c+ΔFrc)であって、たとえば図13のグラフに基づいて、矢印スイッチ37b,37cで選択された加熱電力P1が得られる駆動周波数FD1を決定する。たとえばユーザが操作部30により、中央IH調理の加熱電力P1、たとえば「火力4」=1000Wを選択したとき、ステップST05において、制御回路部90は、図13のグラフから駆動周波数FD1を約56kHzに決定する。そしてステップST06において、約56kHzの駆動周波数FD1を有する制御信号Sa,Sbをインバータ回路部70に供給すると、中央IH加熱部10の加熱電力P1は1000Wに制御され、一方、56kHz付近でのグリル加熱部20からの加熱電力P2は、上述のようにほぼゼロとなる。
なお負荷検知部80は、当初、最大駆動周波数80kHzを有する制御信号Sa,Sbをインバータ回路部70に供給して負荷検知を行い、共振周波数Fr0cを求めたが、この共振周波数Fr0cからオフセット周波数ΔFrcだけ大きい駆動周波数FD1を用いて反復して負荷検知を行い、より精度の高い共振周波数Fr1cを求めて、ユーザが所望する加熱電力P1をより正確に実現するようにしてもよい。
図17は、中央IH加熱部10およびグリル加熱部20の両方が使用されていない状態において、ユーザがグリル調理を選択した場合の誘導加熱調理器1の制御方法を示すフローチャートである。
ステップST11において、ユーザがグリル加熱部20のヒータ22a,22bを抵抗加熱することにより加熱庫21内の食材を調理したい場合(以下、本明細書においては「抵抗加熱モード」という。)、図15のグリルスイッチ(切/入)38aを押下してグリル調理を選択すると、ステップST12において、液晶表示部34は「グリル調理メニュー」を表示して、グリル調理が可能であることを表示する。ステップST13において、ユーザが図15のメニュースイッチ38bを押下して「切り身」を選択し、矢印スイッチ38c,38dを用いて、グリル加熱部20の加熱電力P2(たとえば「750W」)を選択する。このとき制御回路部90は、駆動周波数FDが共振周波数Frと一致して、スイッチング素子71a,71bに過剰な電流が流れることを回避するため、約20kHz〜約40kHzの範囲の駆動周波数FD2のうち、たとえば最大駆動周波数40kHzを有する制御信号Sa,Sbをインバータ回路部70に供給し、ステップST14において、負荷検知部80は、共振周波数Fr0gおよび負荷抵抗Rを検知する(負荷検知)。
択一的には、負荷検知を行うための駆動周波数を、デフォルト値として最大駆動周波数80kHzを設定しておいてもよい。同様に、負荷検知部80は、当初、最大駆動周波数40kHzを有する制御信号Sa,Sbをインバータ回路部70に供給して負荷検知を行い、共振周波数Fr0gを求めたが、この共振周波数Fr0gからオフセット周波数ΔFrgだけ大きい駆動周波数FD2を用いて反復して負荷検知を行い、より精度の高い共振周波数Fr1gを求めて、ユーザが所望する加熱電力P2をより確実に実現するようにしてもよい。
ステップST15において、制御回路部90は、共振周波数Fr0gに少なくとも第2のオフセット周波数ΔFrgだけ大きい駆動周波数FD(FD≧Fr0g+ΔFrg)であって、たとえば図13のグラフに基づいて、矢印スイッチ38c,38dで選択された加熱電力P2が得られる駆動周波数FD2を決定する。たとえばユーザが操作部30により、グリル調理の加熱電力P2として、たとえば750Wを選択したとき、ステップST15において、制御回路部90は、図13のグラフから駆動周波数FDを約25kHzに決定する。そしてステップST16において、約25kHzの駆動周波数FDを有する制御信号Sa,Sbをインバータ回路部70に供給すると、グリル加熱部20は750Wに制御され、一方、25kHz付近での中央IH加熱部の電力P2はほぼゼロとなり、中央IH加熱部10により鍋Kが載置されていても誘導加熱されることはない。
したがって本発明に係る実施の形態1によれば、互いに並列に接続された誘導加熱コイル12および電流供給コイル16に高周波電流Iを供給するとき、ユーザが選択した誘導加熱コイル12および電流供給コイル16(すなわち誘導加熱モードまたは抵抗加熱モード)に応じて、単一のインバータ回路から供給される高周波電流Iの駆動周波数FD1,FD2を約50kHz〜約80kHzの範囲または約20kHz〜約40kHzの範囲のうちから選択することにより、中央IH加熱部10(誘導加熱コイル12)またはグリル加熱部20(電流供給コイル16)を選択的に駆動することができる。よって、誘導加熱コイル12および電流供給コイル16を駆動するインバータ回路部70を共用することにより、部品点数を減らし、より安価な誘導加熱調理器1を提供することができる。
なお上記説明では、所定の加熱電力P1、およびP2を得る場合、図13にしたがって、所望の駆動周波数FD1,FD2を選択するようにしたが、共振周波数Frとオフセット周波数ΔFrから求めた駆動周波数FDを基本周波数として、制御信号Sa,Sbの通電率を変化させて所望の加熱電力を得てもよい。
実施の形態2.
図18および図19を参照しながら、本発明に係る誘導加熱調理器の実施の形態2について以下詳細に説明する。実施の形態2に係る誘導加熱調理器1は、中央IH加熱部10およびグリル加熱部20が、個別の操作部37,38および表示部34,36を用いて、インバータ回路部70を共用していることをユーザに意識させることなく、独立して操作できるようにした点を除き、実施の形態1に係る加熱調理器1と同様の構成を有するので、重複する内容については説明を省略する。
図18は、実施の形態1で説明したように中央IH加熱部10が使用されている状態において、ユーザがグリル加熱部20を使用したい場合の誘導加熱調理器1の制御方法を示すフローチャートである。ステップST21において、ユーザがグリル調理用操作スイッチ(切/入)38aを押下してグリル調理を選択すると、ステップST22において、液晶表示部34は「グリル調理メニュー」を表示して、グリル調理の設定または操作が可能であることを表示する。
ステップST23において、ユーザが図15のグリル調理用の操作スイッチ38a〜38dを用いて、グリル調理およびグリル加熱部20の加熱電力P2(たとえば750W)等を選択する。この加熱電力P2等の情報は、制御回路部90の図示しないメモリ内に記憶される。
ステップST24において、制御回路部90は、中央IH加熱部10が駆動されていること(中央IH調理実施中)を判断すると、中央IH調理が終了したと判断する(ステップST26)まで、中央IH加熱部10の駆動を継続する(ステップST25)。
ステップST26において、制御回路部90は、中央IH調理が終了した後、ステップST23で選択された加熱電力P2等の情報を用いて、グリル調理を開始する。換言すると、制御回路部90は、中央IH調理が終了するまで、グリル調理を待機する。
その後については、実施の形態1と同様、ステップST27において、負荷検知部80は、負荷抵抗Rおよび共振周波数Fr0gを検知し(負荷検知)、ステップST28において、制御回路部90は、共振周波数Fr0gに少なくとも第2のオフセット周波数ΔFrgだけ大きい駆動周波数FD(FD≧Fr0g+ΔFrg)であって、たとえば図13のグラフに基づいて、グリル調理用の矢印スイッチ38c,38dで選択された加熱電力P2が得られる駆動周波数FD2を決定する。さらにステップST29において、制御回路部90は、所望の加熱電力P2が得られる駆動周波数FD2を有する制御信号Sa,Sbをインバータ回路部70に供給して、グリル加熱部20を駆動する。なお図示しないが、この後、さらに中央IH調理を行うために、制御回路部90は、ユーザが液晶表示部34および操作部30を用いて加熱電力P1等を事前にプログラムできるように構成してもよい。
図19は、実施の形態1で説明したようにグリル加熱部20が使用されている状態において、ユーザが中央IH加熱部10を使用したい場合の誘導加熱調理器1の制御方法を示すフローチャートである。ステップST31において、ユーザが中央IH調理用操作スイッチ(切/入)37aを押下して中央IH調理を選択すると、ステップST32において、液晶表示部34は「中央IHメニュー」を表示して、中央IHの設定または操作が可能であることを表示する。
ステップST33において、ユーザが図14の中央IH調理用の操作スイッチ37b,37cを用いて、中央IH加熱部10の加熱電力P1(たとえば「火力2」)等を選択する。この加熱電力P1等の情報は、制御回路部の図示しないメモリ内に記憶される。
ステップST34において、制御回路部90は、グリル加熱部20が駆動されていること(グリル調理実施中)を判断すると、グリル調理が終了したと判断する(ステップST36)まで、グリル加熱部20の駆動を継続する(ステップST35)。
ステップST36において、制御回路部90は、グリル調理が終了した後、ステップST33で選択された加熱電力P1等の情報を用いて、中央IH調理を開始する。換言すると、制御回路部90は、グリル調理が終了するまで、中央IH調理を待機する。
その後については、実施の形態1と同様、ステップST37において、負荷検知部80は、負荷抵抗Rおよび共振周波数Fr0cを検知し(負荷検知)、ステップST38において、制御回路部90は、共振周波数Fr0cに少なくとも第1のオフセット周波数ΔFrcだけ大きい駆動周波数FD(FD≧Fr0c+ΔFrc)であって、たとえば図13のグラフに基づいて、中央IH調理用の操作スイッチ37b,37cで選択された加熱電力P1が得られる駆動周波数FD1を決定する。さらにステップST39において、制御回路部90は、所望の加熱電力P1が得られる駆動周波数FD1を有する制御信号Sa,Sbをインバータ回路部70に供給して、中央IH加熱部10を駆動する。なお図示しないが、この後、さらにグリル調理を行うために、制御回路部90は、ユーザが液晶表示部34および操作部30を用いて加熱電力P2等を事前にプログラムできるように構成してもよい。
なお、上記実施の形態においては、制御回路部90は、中央IH加熱部10が使用されている状態において、ユーザがグリル調理用操作スイッチ(切/入)38aを押下してグリル調理を選択し、グリル調理用の操作スイッチ38b〜38dを用いてグリル調理およびグリル加熱部20の加熱電力P2を選択した場合、中央IH調理が終了するまでグリル調理を待機するように制御するものとして説明した。ただし本発明はこれに限定されるものではなく、詳細図示しないが、制御回路部90は、ユーザがグリル調理用操作スイッチ(切/入)38aを押下してグリル調理を選択した時点(すなわち図18のステップST21とST22の間)で、中央IH調理を実行中であることを液晶表示部34等によりユーザに報知し、中央IH調理が終了するまで待機するか、中央IH調理を強制終了してグリル調理を開始するか、をユーザに選択させるようにしてもよい。
さらに、中央IH加熱部10が使用されている状態において、ステップST21で、ユーザがグリル調理用操作スイッチ(切/入)38aを押下してグリル調理を選択した場合、制御回路部90はステップST22に移行せず、中央IH調理を実行中であることを液晶表示部34等によりユーザに報知し、さらにグリル調理の操作を受け付けないように制御し、中央IH調理が終了した時点で、その旨をユーザに報知し、グリル調理を許可するようにしてもよい。
同様に、上記実施の形態においては、制御回路部90は、グリル加熱部20が使用されている状態において、ユーザが中央IH調理用操作スイッチ(切/入)37aを押下して中央IH調理を選択し、さらに中央IH調理用の操作スイッチ37b、37cを用いて中央IH加熱部10の加熱電力P2を選択した場合、グリル調理が終了するまで中央IH調理を待機するように制御するものとして説明した。ただし本発明はこれに限定されるものではなく、詳細図示しないが、制御回路部90は、ユーザが中央IH調理用操作スイッチ(切/入)37aを押下して中央IH調理を選択した時点(すなわち図19のステップST31とS32の間)で、グリル調理を実行中であることを液晶表示部34等によりユーザに報知し、グリル調理理が終了するまで待機するか、グリル調理を強制終了して中央IH調理を開始するか、をユーザに選択させるようにしてもよい。
さらに、グリル加熱部20が使用されている状態において、ステップST31で、ユーザが中央IH調理用操作スイッチ(切/入)37aを押下して中央IH調理を選択した場合、制御回路部90はステップST32に移行せず、グリル調理を実行中であることを液晶表示部34等によりユーザに報知し、さらに中央IH調理の操作を受け付けないように制御し、グリル調理が終了した時点で、その旨をユーザに報知し、中央IH調理を許可するようにしてもよい。
このように、中央IH加熱部10およびグリル加熱部20が単一のインバータ回路部70を共用していることをユーザに意識させることなく、択一的ではあるが、中央IH調理およびグリル調理を可能にするユーザ利便性の高い誘導加熱調理器1を実現することができる。
実施の形態3.
図20〜図22を参照しながら、本発明に係る誘導加熱調理器の実施の形態3について以下詳細に説明する。実施の形態2に係る誘導加熱調理器1は、インバータ回路部70を共用していることをユーザに意識させることなく、中央IH加熱部10およびグリル加熱部20を択一的または連続的に操作できるものであったのに対し、実施の形態3に係る誘導加熱調理器1は、中央IH加熱部10およびグリル加熱部20を同時に操作できるように構成した点を除き、実施の形態2に係る加熱調理器1と同様の構成を有するので、重複する内容については説明を省略する。
実施の形態2に係る制御回路部90は、中央IH加熱部10またはグリル加熱部20のいずれか一方にのみ、所望の電力を得るための一定で連続的な高周波電流が流れるようにインバータ回路部70を制御するものであった。図20(b)は中央IH加熱部10を駆動するためにインバータ回路部70のスイッチング素子71a,71bに供給される制御信号Sa,Sbを示す波形図であり、その駆動周波数FD1は約50kHz〜約80kHzの範囲である。一方、図20(a)はグリル加熱部20を駆動するためにインバータ回路部70のスイッチング素子71a,71bに供給される制御信号Sa,Sbを示す波形図であり、その駆動周波数FD2は約20kHz〜約40kHzの範囲である。図20(c)は、実施の形態3に係るインバータ回路部70が駆動周波数FD1を有する高周波電流を誘導加熱コイル12および電流供給コイル16に供給する期間T1と、駆動周波数FD2を有する高周波電流を誘導加熱コイル12および電流供給コイル16に供給する期間T2とを示すタイミングチャートである。
実施の形態3に係る制御回路部90は、駆動期間T1においては駆動周波数FD1を有する高周波電流I1を、駆動期間T2においては駆動周波数FD2を有する高周波電流I2を、誘導加熱コイル12および電流供給コイル16に周期的に供給するようにインバータ回路部70を制御するものである。すなわち中央IH加熱部10は、駆動期間T1において駆動周波数FD1を有する高周波電流I1により駆動されて、図13のグラフから決定される加熱電力P1の(T1/T1+T2)倍の火力を得ることができる。同様に、グリル加熱部20は、駆動期間T2において駆動周波数FD2を有する高周波電流I2により駆動されて、図13のグラフから決定される加熱電力P2の(T2/T1+T2)倍の火力を得ることができる。すなわち実施の形態3に係る制御回路部90は、駆動周波数FD1,FD2と、高周波電流I1,I2が供給される駆動期間T1,T2を適当に選択することにより、中央IH加熱部10およびグリル加熱部20で所望される任意の加熱電力P1’(=P1×(T1/T1+T2)),P2’(=P2×(T2/T1+T2))を出力させるようにインバータ回路部70を制御することができる。
このように、負荷検知部80が負荷検知により共振周波数Fr0c’,Fr0g’を検知し、中央IH加熱部10およびグリル加熱部20が所望の加熱電力P1’,P2’を出力するために、制御回路部90が適当な駆動周波数FD1,FD2および駆動期間T1,T2を設定することを、本願明細書においては単に「高周波電流I1,I2の駆動周波数/駆動期間の同時設定」といい、中央IH加熱部10を用いてトッププレート3上の鍋Kを誘導加熱して鍋K内の食材を調理すると同時に、グリル加熱部20を用いてヒータ22a,22bを抵抗加熱することにより加熱庫21内の食材を調理することを「同時加熱モード」という。
また、実施の形態2において上記説明したように、負荷検知部80が負荷検知により共振周波数Fr0c’,Fr0g’を検知し、中央IH加熱部10またはグリル加熱部20のいずれか一方に高周波電流I1,I2を連続的に供給して、択一的に所望の加熱電力P1’,P2’を出力させるために、制御回路部90が適当な駆動周波数FD1,FD2を設定することを、本願明細書においては「高周波電流I1,I2の駆動周波数の個別設定」という。
図21は、グリル加熱部20が使用されている状態において、ユーザがさらに中央IH加熱部10を使用したい場合の誘導加熱調理器1の制御方法を示すフローチャートである。図22は、中央IH加熱部10が使用されている状態から同時加熱モードに入った場合において、インバータ回路部70が駆動周波数FD1を有する高周波電流を中央IH加熱部10に供給する期間T1と、駆動周波数FD2を有する高周波電流をグリル加熱部20に供給する期間T2とを示すタイミングチャートである。図21のフローチャートのステップST41において、ユーザが操作部30によりグリル調理を実行している(図22のグリル調理中の駆動周波数FD2,加熱電力P2)。その後、ステップST42において、ユーザは操作部30により、さらに中央IH調理を実行する。このときステップST43において、制御回路部90は、グリル調理中であるか否か、すなわちグリル調理が実行中であるか否かを判断する。
グリル調理実行中の場合、ステップST44において、制御回路部90は、中央IH加熱部10およびグリル加熱部20に供給すべき高周波電流I1,I2の駆動周波数/駆動期間の同時設定を行い、操作部30で設定された中央IH加熱部10およびグリル加熱部20の加熱電力P1’,P2’を得るために適当な駆動周波数FD1,FD2および駆動期間T1,T2を決定して、中央IH加熱部10およびグリル加熱部20を同時に駆動する(図22の駆動周波数FD2’,加熱電力P2’および駆動周波数FD1,加熱電力P1)。
一方、グリル調理実行中でない場合、ステップST45において、制御回路部90は、中央IH加熱部10に供給すべき高周波電流I1の駆動周波数の個別設定を行い、操作部30で設定された中央IH加熱部10の加熱電力P1を得るために適当な駆動周波数FD1を決定して、インバータ回路部70を制御する。ステップST46において、制御回路部90は、中央IH調理中か否か、すなわち中央IH調理が実行中であるか否かを判断し、中央IH調理が停止されるまで、中央IH調理を継続する(図22のIH調理中の駆動周波数FD1’,加熱電力P1’)。
制御回路部90は、ステップST47においてグリル調理が実行中であるか否か、ステップST48において中央IH調理が実行中であるか否か、常にモニタする。ステップST47においてグリル調理実行中でないと判断された場合、ステップST45に進む。ステップST48において、制御回路部90は、グリル調理実行中ではあるが、中央IH調理実行中でないと判断された場合、ステップST49に進み、グリル加熱部20に供給すべき高周波電流I2の駆動周波数の個別設定を行い、操作部30で設定されたグリル加熱部20の加熱電力P2を得るために適当な駆動周波数FD2を決定して、インバータ回路部70を制御する。ステップST50において、制御回路部90は、グリル調理が実行中であるか否かを判断し、グリル調理が停止されるまで、グリル調理を継続する。
また、制御回路部90は、ステップST47,48において、グリル調理および中央IH調理がともに実行中であると判断したとき(同時加熱モード)、ステップST51において、中央IH加熱部10の加熱電力P1’が、操作部30を用いてユーザにより、加熱電力P1’’に変更されたか、あるいはグリル加熱部20の加熱電力P2’が加熱電力P2’’に変更されたと判断する。そして制御回路部90は、中央IH加熱部10またはグリル加熱部20の加熱電力が変更されたと判断した場合、ステップST44に戻り、再度、中央IH加熱部10およびグリル加熱部20に供給すべき高周波電流I1,I2の駆動周波数/駆動期間の同時設定を行い、新たに設定された加熱電力の組み合わせ(P1’とP2’’、P1’’とP2’、またはP1’’とP2’’)を得るために適当な駆動周波数FD1,FD2および駆動期間T1,T2を決定して、中央IH加熱部10およびグリル加熱部20を同時に駆動する(図22には図示せず)。
なお、中央IH加熱部10の加熱電力P1’またはグリル加熱部20の加熱電力P2’が、操作部30を用いてユーザにより変更されたか否かについて判断するステップST51は、ステップST47またはステップST48の後に行ってもよい。また制御回路部90は、ステップST47の後にグリル加熱部20の加熱電力P2’が変更されたか否かを判断し、ステップST48の後に中央IH加熱部10の加熱電力P1’が変更されたか否かを判断したときに、ステップST44に戻って、再度、中央IH加熱部10およびグリル加熱部20に供給すべき高周波電流I1,I2の駆動周波数/駆動期間の同時設定を行い、新たに設定された加熱電力の組み合わせ(P1’とP2’’、P1’’とP2’、またはP1’’とP2’’)を得るために適当な駆動周波数FD1,FD2および駆動期間T1,T2を決定して、中央IH加熱部10およびグリル加熱部20を同時に駆動してもよい。
以上説明したように、実施の形態3に係る誘導加熱調理器1によれば、同時加熱モードにおいて、中央IH加熱部10を用いてトッププレート3上の鍋Kを誘導加熱して鍋K内の食材を調理すると同時に、グリル加熱部20を用いてヒータ22a,22bを抵抗加熱することにより加熱庫21内の食材を調理することができ、ユーザの利便性を格段に向上させることができる。